(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-20
(45)【発行日】2025-01-06
(54)【発明の名称】樹脂積層フィルム
(51)【国際特許分類】
B32B 7/023 20190101AFI20241223BHJP
F28F 13/18 20060101ALI20241223BHJP
G02B 5/08 20060101ALI20241223BHJP
F24S 70/225 20180101ALN20241223BHJP
F24S 70/275 20180101ALN20241223BHJP
F24S 70/60 20180101ALN20241223BHJP
【FI】
B32B7/023
F28F13/18 E
G02B5/08 F
F24S70/225
F24S70/275
F24S70/60
(21)【出願番号】P 2024027725
(22)【出願日】2024-02-27
【審査請求日】2024-02-27
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】523391135
【氏名又は名称】SPACECOOL株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】大杉 亮輔
(72)【発明者】
【氏名】末光 真大
(72)【発明者】
【氏名】甲坂 朋也
(72)【発明者】
【氏名】井上 敦央
【審査官】岩本 昌大
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2023/0375290(US,A1)
【文献】特開2015-063118(JP,A)
【文献】特開2021-075031(JP,A)
【文献】特開2023-002558(JP,A)
【文献】国際公開第2018/062541(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
F24S 10/00-90/10
F28F 1/00-99/00
G02B 1/00-30/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射面から赤外光を放射する赤外放射層と、当該赤外放射層における前記放射面の存在側とは反対側に位置する光反射層とを備える樹脂積層フィルムであって、
前記光反射層は、複数の空孔を有すると共に第2樹脂から構成され、
前記赤外放射層は、吸収した太陽光エネルギーよりも大きな熱輻射エネルギーを波長8μmから波長13μmで放つ第1樹脂から構成され、
前記赤外放射層に含まれる前記空孔は、前記光反射層に含まれる前記空孔よりも少なく、
前記光反射層及び前記赤外放射層を含む積層樹脂層は、波長400nmから800nmの光反射率の波長平均である算術平均反射率が80%以上で、波長800nmから1200nmの光反射率の波長平均である算術平均反射率が70%以上であり、且つ波長8μmから13μmにおける輻射率の波長平均が43%以上であ
り、
前記第1樹脂の厚みは、10μm以上500μm以下であり、
前記第2樹脂の厚みは、10μm以上500μm以下であり、
前記第2樹脂は、ポリエチレンテレフタラート、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンナフタレート、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリメタクリル酸メチル、ポリカーボネートの少なくとも何れか一つ以上を含み、
前記第1樹脂は、ポリエチレンテレフタラート、ポリエチレンナフタレート、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリメタクリル酸メチルの少なくとも何れか一つ以上を含む樹脂積層フィルム。
【請求項2】
前記赤外放射層は、前記第1樹脂にフィラーを含む請求項1に記載の樹脂積層フィルム。
【請求項3】
前記第2樹脂が有する前記空孔は、屈折率が前記第2樹脂より小さく、
前記空孔の算術平均孔径が0.1μm以上3.0μm以下である請求項1又は2に記載の樹脂積層フィルム。
【請求項4】
前記光反射層における前記空孔の体積割合は、0.1体積%以上60体積%以下である請求項1又は2に記載の樹脂積層フィルム。
【請求項5】
前記
光反射層における前記空孔の体積割合は、1体積%以上50体積%以下である請求項1又は2に記載の樹脂積層フィルム。
【請求項6】
前記
光反射層における前記空孔の体積割合は、10体積%以上40体積%以下である請求項1又は2に記載の樹脂積層フィルム。
【請求項7】
前記積層樹脂層は、波長400nmから800nmの光反射率の波長平均である算術平均反射率が88%以上で、波長800nm~1200nmの光反射率の波長平均である算術平均反射率が80%以上である請求項1又は2に記載の樹脂積層フィルム。
【請求項8】
前記積層樹脂層は、波長400nmから800nmの光透過率の波長平均である算術平均透過率が1%以上12%以下である請求項1又は2に記載の樹脂積層フィルム。
【請求項9】
前記積層樹脂層は、波長8μmから13μmにおける輻射率の波長平均が70%以上である請求項1又は2に記載の樹脂積層フィルム。
【請求項10】
前記第2樹脂は、フィラーを含む請求項1又は2に記載の樹脂積層フィルム。
【請求項11】
前記フィラーは、酸化チタン、ガラスミクロビーズ、
二酸化ケイ素、重質炭酸カルシウム粉末、硫酸バリウム、硫酸亜鉛、ケイ酸ア
ルミニウム、重質炭酸カルシウム、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、酸化セリウム、酸化ランタン、酸化ロジウム、酸化マグネシウム、チタン酸バリウムの何れか一つ以上である請求項2に記載の樹脂積層フィルム。
【請求項12】
前記フィラーは、酸化チタン、ガラスミクロビーズ、
二酸化ケイ素、重質炭酸カルシウム粉末、硫酸バリウム、硫酸亜鉛、ケイ酸ア
ルミニウム、重質炭酸カルシウム、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、酸化セリウム、酸化ランタン、酸化ロジウム、酸化マグネシウム、チタン酸バリウムの何れか一つ以上である請求項
10に記載の樹脂積層フィルム。
【請求項13】
前記第1樹脂は、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデンの少なくとも何れか一つ以上を含む請求項1又は2に記載の樹脂積層フィルム。
【請求項14】
前記第1樹脂が、紫外線吸収剤を含み、
前記赤外放射層は、波長340nmから400nmの紫外線反射率の波長平均である算術平均反射率が50%以下である請求項1又は2に記載の樹脂積層フィルム。
【請求項15】
前記光反射層と前記赤外放射層は、接着剤、粘着剤、のりの少なくとも何れか一つ以上からなる接続層により接続され、
当該接続層は、前記積層樹脂層に含まれる請求項1又は2に記載の樹脂積層フィルム。
【請求項16】
前記接続層は、フィラー及び中空粒子の少なくとも一方を含む請求項
15に記載の樹脂積層フィルム。
【請求項17】
前記第2樹脂が有する前記空孔は、偏平形状である請求項1又は2に記載の樹脂積層フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射面から赤外光を放射する赤外放射層と、当該赤外放射層における前記放射面の存在側とは反対側に位置する光反射層とを備える樹脂積層フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
放射冷却現象を用いた複合冷却素材の従来例として、放射面から赤外光を放射する赤外放射層と、当該赤外放射層における前記放射面の存在側とは反対側に位置させる光反射層とが積層状態で設けられて構成されたものがある(例えば、特許文献1参照)。
放射冷却現象によって宇宙空間に熱を捨て、直射日光下で物体を冷やすためには、高い太陽光反射率と高い赤外線放射率の両立が重要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2018-526599号公報
【文献】特表2022-528289号公報
【文献】国際公開第2018/062541号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これまでの放射冷却素材は太陽光を金属薄膜により反射することによって太陽光の高い反射率を実現してきたが、金属薄膜を用いることには、吸収率が高まる問題が存在し、直射日光下で素材温度を向上させる要因となっていた。また、金属薄膜を用いると電波透過性が低く、空間を囲うと通信機器が働きにくくなる課題も存在した。
また、金属薄膜を反射層として用いると、表面に傷がつき、金属層が露出した場合に、金属層を起点として腐食が始まり、金属層の酸化によって金属層が着色し、反射率が低下しやすいという課題もあった。
また金属薄膜を反射層に用いると、金属酸化物は微少量でも呈色しやすくなるために、樹脂からなる反射層と比較して劣化した場合の反射率の低下度合いが大きいという課題があった。
【0006】
また、多孔質そのものを放射層として活用する放射冷却素材が存在する(特許文献3を参照)。このような放射冷却素材は大気の窓領域における放射冷却能力を最大化することが難しい。多孔にできる素材としては、ポリエチレンテレフタラート、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンナフタレート等様々な種類が挙げられるが、多孔質にすると放射に寄与する物質の量が減ることから、大きな放射冷却能力を得るには厚みを増す必要がある。放射冷却素材は貼り付けた被対象物を冷却することを目的とした素材であり、樹脂層、特に多孔質の樹脂層が増えることは放射冷却素材の能力を阻害することになる。この観点から、多孔質な樹脂層そのもので放射させる設計は物体を冷やすことを阻害する。
【0007】
併せて、多孔質で放射能力を向上させる場合、多孔性による熱伝導率の悪さから、被冷却対象物の温度が最表面に位置する樹脂まで伝わらず十分に被冷却物を冷却できない問題が発生する。また、空気を内包する層がミルフィーユ状に多層に積み重なる多孔性樹脂層の場合、多層にしない場合との比較で多層にすることで放射率が低下する傾向がある。これは、光学多層膜構造となることから、フォトニックバンドギャップ構造が形成され、反射率が向上することにある。このことから、多孔性樹脂層を反射層のみならず放射層として活用することは放射冷却素材の冷却構造を向上させるうえで、好ましいとは言えない。
【0008】
本発明の目的は、直射日光下において高い冷却能力が発揮できると共に高い電波透過性を発揮し、且つ樹脂材料に空孔を設ける場合の放射冷却性能の低下を防止することができる樹脂積層フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための樹脂積層フィルムは、
放射面から赤外光を放射する赤外放射層と、当該赤外放射層における前記放射面の存在側とは反対側に位置する光反射層とを備える樹脂積層フィルムであって、
前記光反射層は、複数の空孔を有すると共に第2樹脂から構成され、
前記赤外放射層は、吸収した太陽光エネルギーよりも大きな熱輻射エネルギーを波長8μmから波長13μmで放つ第1樹脂から構成され、
前記赤外放射層に含まれる前記空孔は、前記光反射層に含まれる前記空孔よりも少なく、
前記光反射層及び前記赤外放射層を含む積層樹脂層は、波長400nmから800nmの光反射率の波長平均である算術平均反射率が80%以上で、波長800nmから1200nmの光反射率の波長平均である算術平均反射率が70%以上であり、且つ波長8μmから13μmにおける輻射率の波長平均が43%以上であり、
前記第1樹脂の厚みは、10μm以上500μm以下であり、
前記第2樹脂の厚みは、10μm以上500μm以下であり、
前記第2樹脂は、ポリエチレンテレフタラート、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンナフタレート、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリメタクリル酸メチル、ポリカーボネートの少なくとも何れか一つ以上を含み、
前記第1樹脂は、ポリエチレンテレフタラート、ポリエチレンナフタレート、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリメタクリル酸メチルの少なくとも何れか一つ以上を含む点にある。
【0010】
上記特徴構成によれば、まずもって、光反射層として金属薄膜を用いていないため、光反射層として金属薄膜を用いた構成に比して、太陽光の吸収率を抑制して樹脂積層フィルムの温度の上昇を抑制できる。更に、電波透過性を比較的高くすることができるため、上記特徴構成を有する樹脂材料フィルムが無線通信機器を囲うような状況であっても、無線通信機器による通信を良好に保つことができる。
【0011】
これに加え、赤外放射層に含まれる空孔を実質的に零とする構成とすることで、放射冷却層において放射に寄与する第1樹脂材料の体積割合を十分に確保することができ、放射冷却能力を十分に確保できる。更に、熱伝導性を向上させることができ、被冷却対象物の熱が放射面まで伝達し易くして、冷却効果の向上が期待できる。
また、赤外放射層を構成する第1樹脂層の内部にフォトニックバンドギャップ構造が、実質的に形成されない構成を実現できるため、赤外放射層の放射率を向上できる。
【0012】
これまで説明してきた構成に加え、光反射層を、複数の空孔を有する第2樹脂から構成することで、発明者らは、光反射層及び赤外放射層を合わせた積層樹脂層を、波長400nmから800nmの光反射率の波長平均である算術平均反射率が80%以上で、波長800nmから1200nmの光反射率の波長平均である算術平均反射率が70%以上であり、且つ波長8μmから13μmにおける輻射率の波長平均が43%以上とする樹脂積層フィルムを実現できることを、後述する試験により確認している。
【0013】
尚、以上の如く、波長400nmから800nmの光反射率の波長平均である算術平均反射率が80%以上で、波長800nmから1200nmの光反射率の波長平均である算術平均反射率が70%以上の積層樹脂層では、金属を備えないことも影響して、光反射層が太陽エネルギーを2%程度しか吸収しなくなる。その結果、夏場の南中時に、光反射層が吸収する太陽光エネルギーを20W/m
2程度以下とすることができ、放射冷却をより一層良好に実行できる。
更に、上記特徴構成の如く、光反射層の第2樹脂の厚みを、10μm以上とすることで、複数の空孔を有する第2樹脂からなる光反射層により、放射冷却に必要な反射率を良好に確保することができる。これに加え、500μm以下とすることで、空気等を含む空孔を有する第2樹脂による断熱効果を一定以下として、被冷却対象物の冷却性能を一定以上に確保できる。ちなみに、500μm以上になると剛性の観点から、当素材を曲部に適用する際に曲部に追従させることが難しくなったり、無理に追従させようとすると材料が破壊されたりしまうため、望ましくない。また、ロールツーロール加工の際に厚みが厚すぎると一度で生産できる素材の数量が小さくなるため、望ましくない。
即ち、複数の空孔を有する第2樹脂として適切な材料を選択すると共に、第2樹脂の厚みを10μm以上500μm以下に設定された光反射層を、赤外放射層と共に設けることで、波長400nmから800nmの光反射率の波長平均である算術平均反射率が80%以上で、波長800nmから1200nmの光反射率の波長平均である算術平均反射率が70%以上とする機能を発揮することができる。
尚、光反射層の厚みは、好ましくは50~300umであり、75~200umがさらに好ましい。
更に、第1樹脂の厚みは、10μm以上500μm以下である。
特に、本発明に係る樹脂積層フィルムによれば、赤外放射層の第1樹脂は複数の空孔を含まず、空孔を含む赤外放射層に比して、高い放射性能を発揮できるから、膜厚が500μmと比較的薄い膜層にしても、要求される放射性能を良好に確保できる。ちなみに、500μm以上になると剛性の観点から、当素材を曲部に適用する際に曲部に追従させることが難しくなったり、無理に追従させようとすると材料が破壊されたりしまうため、望ましくない。また、ロールツーロール加工の際に厚みが厚すぎると一度で生産できる素材の数量が小さくなるため、望ましくない。
また、10μm以上を確保することで、放射率を十分に確保することができる。
更に、光反射層の第2樹脂は、ポリエチレンテレフタラート、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンナフタレート、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリメタクリル酸メチル、ポリカーボネートの少なくとも何れか一つ以上を含み、赤外放射層を形成する第1樹脂は、ポリエチレンテレフタラート、ポリエチレンナフタレート、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリメタクリル酸メチルの少なくとも何れか一つ以上を含む。
尚、詳細については後述するが、図2に示すように、炭素-フッ素結合(C-F)を有する樹脂は、CHFおよびCF
2
に起因する吸収係数が大気の窓である波長8μmから13μmにかけた広帯域に大きく広がっており、特に8.6μmで吸収係数が大きい。併せて、太陽光の波長帯域に関しては、エネルギー強度が大きな0.3μmから2.5μmの波長で目立った吸収係数がない。
また、炭素-塩素結合(C-Cl)を有する樹脂は、C-Cl伸縮振動による吸収係数が波長12μmを中心に半値幅1μm以上の広帯域に現れる。また、塩化ビニル樹脂の場合、塩素の電子吸引の影響で、主鎖に含まれるアルケンのC-Hの変角振動に由来する吸収係数が波長10μmあたりに現れる。
発明者らは、これらの吸収に係る特徴も考慮して、上述の第1樹脂の材料を選定している。
更に、第1樹脂は、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデンの少なくとも何れか一つ以上を含むことがより好ましい。
特に、炭素-フッ素結合(C-F)をもった樹脂材料の紫外から可視域に吸収係数が生じる波長に関し、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)を代表としての基本構造部のC-C結合、C-H結合、C-F結合の結合エネルギーを求めると、4.50eV、4.46eV、5.05eVとなる。それぞれ、波長0.275μm、波長0.278μm、波長0.246μmに対応し、これら波長の光を吸収する。
このため、赤外放射層の第1樹脂において紫外線を吸収し、光反射層を透過する紫外線の量を低減する観点からは、第1樹脂として、ポリフッ化ビニルやポリフッ化ビニリデンを採用することが好ましい。
【0014】
以上より、直射日光下において高い冷却能力が発揮できると共に高い電波透過性を発揮し、且つ樹脂材料に空孔を設ける場合の放射冷却性能の低下を防止することができる樹脂積層フィルムを実現できる。
【0015】
樹脂積層フィルムの更なる特徴構成は、
前記赤外放射層は、前記第1樹脂にフィラーを含む点にある。
【0016】
これまで説明してきたように、通常放射面が大気側に向けて設置される赤外放射層は、空孔を有さない第1樹脂層から構成して、防汚性の向上、放射冷却能力の向上、放射面に交差する方向での熱伝達性の向上等を図っているが、上記特徴構成の如く、第1樹脂にフィラーを含むことで、当該赤外放射層においても、第1樹脂層とフィラーとの屈折率の差により、一定以上の光反射性能を発揮させることができる。
これにより、光反射層での日射反射に加え、赤外放射層でも日射反射を賄うことができ、素材全体での反射率を高く維持することができる。
【0020】
樹脂積層フィルムの更なる特徴構成は、
前記第2樹脂が有する前記空孔は、屈折率が前記第2樹脂より小さく、
前記空孔の算術平均孔径が0.1μm以上3.0μm以下である点にある。
【0021】
上記特徴構成の如く、光反射層の第2樹脂が有する空孔は、屈折率が前記第2樹脂より小さく、空孔の算術平均孔径が0.1μm以上3.0μm以下であることが好適である。
発明者らは、空孔の算術平均孔径が0.1μm以上3.0μm以下の範囲の複数の算術平均孔径に設定したときに、波長400nmから800nm、及び波長800nmから1200nmで良好な光反射率を実現できることを確認している。
尚、本発明において、空孔の算術平均孔径とは、空孔の最短内径を算術平均したものであるものとする。また、形状については球形だけでなく、短辺と長辺を有する扁平構造、多面体構造等であってもよい。
【0022】
樹脂積層フィルムの更なる特徴構成は、
前記光反射層における前記空孔の体積割合は、0.1体積%以上60体積%以下である点にある。
【0023】
発明者らは、上述の如く、光反射層における空孔の体積割合を設定することで、光反射層による反射率を上述の算術平均反射率にできることを確認している。
尚、より好ましくは、前記光反射層における前記空孔の体積割合は、1体積%以上50体積%以下であり、前記光反射層における前記空孔の体積割合は、10体積%以上40体積%以下である。
60体積%以上の空孔を有すると、熱伝導率が低下するため、内部に熱源のある系の場合において、蓄熱してしまい、放熱性の観点で望ましくない。また、60体積%以上の空孔を有すると、強度が低下するという問題も生じる。
また、空孔の体積割合は、0.1体積%以下では、空孔の平均粒径やその配置を工夫しても十分に反射率を向上させることが難しい。
【0024】
更に、前記積層樹脂層は、波長400nmから800nmの光反射率の波長平均である算術平均反射率が84%以上で、波長800nm~1200nmの光反射率の波長平均である算術平均反射率が75%以上であることが好ましく、より好ましくは、積層樹脂層の算術平均反射率は、波長400nmから800nmで88%以上、波長800nmから1200nmで80%以上である。
【0025】
樹脂積層フィルムの更なる特徴構成は、
前記積層樹脂層は、波長400nmから800nmの光透過率の波長平均である算術平均透過率が1%以上12%以下である点にある。
【0026】
本発明によれば、波長400nmから800nmの光透過率の波長平均である算術平均透過率が1%以上12%以下としているから、赤外放射層の第1樹脂と光反射層の第2樹脂との双方に、波長400nmから800nmの光を良好に透過させ、光反射層の第2樹脂と空孔との境界で光を反射させる形態として、積層樹脂層における反射率を良好に向上できる。
換言すれば、積層樹脂層における吸収率を低減することができる。また、光透過率を1%以上有することにより、屋外で使用した際に採光性も確保できる点がよい。
【0027】
更に、前記積層樹脂層は、波長8μmから13μmにおける輻射率の波長平均が70%以上であることが好ましく、より好ましくは、積層樹脂層は、波長8μmから13μmにおける輻射率の波長平均が85%以上である。
【0028】
樹脂積層フィルムの更なる特徴構成は、
前記第2樹脂は、フィラーを含む点にある。
【0029】
上記特徴構成のように、光反射層を形成する第2樹脂は、これまで説明してきた複数の空孔に加え、フィラーを含ませる構成とすることで、第2樹脂と空孔との境界のみならず、第2樹脂とフィラーの境界でも光を反射させることができるから、例えば、一定以上の熱伝導性を確保するべく、第2樹脂に対する空孔の体積割合を比較的低くしたり、厚みを薄く抑えたりしても、算術平均反射率を高く維持し得る。
【0030】
樹脂積層フィルムの更なる特徴構成は、
前記フィラーは、酸化チタン、ガラスミクロビーズ、二酸化ケイ素、重質炭酸カルシウム粉末、硫酸バリウム、硫酸亜鉛、ケイ酸アルミニウム、重質炭酸カルシウム、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、酸化セリウム、酸化ランタン、酸化ロジウム、酸化マグネシウム、チタン酸バリウムの何れか一つ以上である点にある。また、それらが多孔質であってもよい。
【0031】
上述のフィラーを、赤外放射層を形成する第1樹脂又は光反射層を形成する第2樹脂に含ませることで、積層樹脂層全体として良好な光反射率を実現できる。
尚、発明者らは、特に、フィラーとして、酸化チタン、ガラスミクロビーズ、二酸化ケイ素、重質炭酸カルシウム粉末、硫酸バリウム、硫酸亜鉛、ケイ酸アルミニウム、重質炭酸カルシウム、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、酸化セリウム、酸化ランタン、酸化ロジウム、酸化マグネシウム、チタン酸バリウムの何れか一つ以上を採用した場合、積層樹脂層として、波長400nmから800nmの光反射率の波長平均である算術平均反射率、波長800nmから1200nmの光反射率の波長平均である算術平均反射率を、放射冷却機能を適切に発揮できる程度に高い反射率を発揮できることを確認している。
【0037】
樹脂積層フィルムの更なる特徴構成は、
前記第1樹脂が、紫外線吸収剤を含み、
前記赤外放射層は、波長340nmから400nmの紫外線反射率の波長平均である算術平均反射率が50%以下である点にある。
【0038】
上記特徴構成によれば、赤外放射層を形成する第1樹脂が、紫外線吸収剤を含み、赤外放射層の波長340nmから400nmの紫外線反射率の波長平均である算術平均反射率が50%以下であるから、紫外線を紫外線吸収剤にて好適に吸収できる共に、紫外線を反射し難くでき、赤外放射層を形成する第1樹脂や光反射層を形成する第2樹脂を透過する紫外線量を低減して、第1樹脂層及び第2樹脂層の紫外線による劣化を良好に抑制できる。
【0039】
樹脂積層フィルムの更なる特徴構成は、
前記光反射層と前記赤外放射層は、接着剤、粘着剤、のりの少なくとも何れか一つ以上からなる接続層により接続されており、当該接続層は、前記積層樹脂層に含まれ、
前記接続層は、フィラー及び中空粒子の少なくとも一方を含む点にある。
【0040】
特に、上述の如く、接続層に、例えば、算術平均粒径が0.1μm以上5um以下程度のフィラーや中空粒子を含ませることで、紫外~可視領域の光の反射率を向上させることができ、所望の反射率を得るための積層樹脂層(特に、光反射層)の厚みの低減を図ることができる。
【0041】
樹脂積層フィルムの更なる特徴構成は、
前記第2樹脂が有する前記空孔は、偏平形状である点にある。
【0042】
上記特徴構成によれば、屈折率の異なる層を多層に備えることができるようになるため、同じ厚みで空孔が非扁平構造である場合と比較して光反射を起こしやすく、同じ厚みであっても反射率を高めやすいというメリットを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【
図1】樹脂積層フィルムの実施形態を説明する図である。
【
図2】樹脂積層フィルムの別実施形態を説明する図である。
【
図3】樹脂材料の吸収係数と波長帯域との関係を示す図である。
【
図4】樹脂材料の光吸収率と波長との関係を示す図である。
【
図5】塩化ビニル樹脂の輻射率スペクトルを示す図である。
【
図6】塩化ビニリデン樹脂の輻射率スペクトルを示す図である。
【
図7】エチレンテレフタラート樹脂の輻射率スペクトルを示す図である。
【
図8】放射面の温度と光反射層の温度との関係を示す図である。
【
図9】エチレンテレフタラート樹脂の光吸収率スペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
〔樹脂積層フィルムの基本構成〕
図1に示すように、樹脂積層フィルムCPは、放射面Hから赤外光IRを放射する赤外放射層Jと、当該赤外放射層Jにおける放射面Hの存在側とは反対側に位置させる光反射層Bとを積層状態に備え、且つ、フィルム状に形成されている。
つまり、樹脂積層フィルムCPが、放射冷却フィルムとして構成されている。
【0045】
光反射層Bは、複数の空孔Kを有すると共に第2樹脂から構成され、赤外放射層Jは、吸収した太陽光エネルギーよりも大きな熱輻射エネルギーを波長8μmから波長13μmで放つ第1樹脂から構成され、赤外放射層Jに含まれる空孔Kは、光反射層Bに含まれる空孔Kよりも少なく、赤外放射層Jは空孔Kを実質的に含まない層である。
【0046】
更に、光反射層B及び赤外放射層Jを合わせた積層樹脂層Mは、波長400nmから800nmの光反射率の波長平均である算術平均反射率が80%以上で、波長800nmから1200nmの光反射率の波長平均である算術平均反射率が70%以上であり、且つ波長8μmから13μmにおける輻射率の波長平均が43%以上となるように構成されている。
尚、当該明細書において、積層樹脂層Mは、光反射層Bと赤外放射層Jとを接続する接続層Sも含む概念である。
【0047】
より好ましくは、積層樹脂層Mは、波長400nmから800nmの光反射率の波長平均である算術平均反射率が84%以上で、波長800nm~1200nmの光反射率の波長平均である算術平均反射率が75%以上で、積層樹脂層Mは、波長400nmから800nmの光反射率の波長平均である算術平均反射率が88%以上で、波長800nm~1200nmの光反射率の波長平均である算術平均反射率が80%以上である。
また、積層樹脂層Mは、波長8μmから13μmにおける輻射率の波長平均が70%以上であることがより好ましく、更に好ましくは、輻射率の波長平均が85%以上である。
因みに、赤外放射層J、接続層S、光反射層Bの夫々を、互いに屈折率差が大きくなるような材料を選定することで、反射率を向上することができ、一例として、赤外放射層にはTiO2を含有したポリ塩化ビニリデンを用い、接続層Sにはアクリル系接着剤を用い、光反射層Bについては複数の空孔を含有したPETを使用することができる。
【0048】
当該特徴を有することにより、積層樹脂層Mが、吸収する太陽光エネルギーを2%以下に抑えることができ、日本の夏場の南中時に吸収する太陽光エネルギーを20W/m2程度とすることができる。
【0049】
尚、本実施形態において、光Lとは、紫外光、可視光、赤外光を含むものであり、これらを電磁波としての光の波長で述べると、その波長が10nmから20000nm(0.01μmから20μmの電磁波)の電磁波を含む。
太陽光スペクトルは、波長300nmから4000nmにかけて存在し、波長400nmから大きくなるにつれ強度が大きくなり、特に波長500nmから波長1800nmにかけての強度が大きい。
【0050】
また、当該実施形態では、積層樹脂層Mは、波長400nmから800nmの光透過率の波長平均である算術平均透過率が1%以上12%以下となるように構成されている。
【0051】
従って、樹脂積層フィルムCPは、樹脂積層フィルムCPに入射した光Lのうちの一部の光を、赤外放射層Jの放射面Hにて反射し、樹脂積層フィルムCPに入射した光Lのうちで赤外放射層Jを透過した光(太陽光等)を、光反射層Bにて反射して、放射面Hから外部へ逃がすように構成されている。
【0052】
そして、光反射層Bにおける赤外放射層Jの存在側とは反対側に位置する冷却対象物(図示せず)からの樹脂積層フィルムCPへの入熱(例えば、冷却対象物からの熱伝導による入熱)を、赤外放射層Jによって赤外光IRに変換して放射することにより、冷却対象物を冷却するように構成されている。
【0053】
つまり、樹脂積層フィルムCPは、当該樹脂積層フィルムCPへ照射される光Lを反射し、また、当該樹脂積層フィルムCPへの伝熱(例えば、大気からの伝熱や冷却対象物からの伝熱)を赤外光IRとして外部に放射するように構成されている。
また、赤外放射層J及び光反射層Bが柔軟性を備えることによって、樹脂積層フィルムCP(放射冷却フィルム)が柔軟性を備えるように構成されている。
【0054】
尚、光反射層Bと赤外放射層Jは、接着剤、粘着剤、のりの少なくとも何れか一つ以上からなる接続層Sにより接続されている。当該接続層Sは、図示は省略するが、フィラー及び中空粒子の少なくとも一方を含むことで、紫外~可視領域の光の反射率を向上させることができ、所望の反射率を得るための積層樹脂層M(特に、光反射層)の厚みの低減を図ることができる。ここで、フィラーや中空粒子は、フィラー及び中空粒子の算術平均粒子径が、0.1μm以上5μm以下程度のものを好適に用いることができ、フィラーとしては、酸化チタン、ガラスミクロビーズ、二酸化ケイ素、重質炭酸カルシウム粉末、硫酸バリウム、硫酸亜鉛、ケイ酸アルミニウム、重質炭酸カルシウム、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、酸化セリウム、酸化ランタン、酸化ロジウム、酸化マグネシウム、チタン酸バリウムの何れか一つ以上を粒状にしたものを好適に用いることができる。
これにより、紫外~可視領域の光の反射率を向上させ、所望の反射率を得るための積層樹脂層M(特に、光反射層B)の厚みの低減を図ることができる。
【0055】
加えて、樹脂積層フィルムCPは、赤外光IRを赤外放射層Jの光反射層Bと接する面とは反対側の放射面Hから放射する放射冷却方法を実施するために用いられることになり、具体的には、放射面Hを空に向け、当該空に向けた放射面Hから赤外光IR放射する放射冷却方法を実施することになる。
【0056】
〔赤外放射層〕
赤外放射層Jを形成する第1樹脂は、紫外線吸収剤を含み、赤外放射層Jが、波長340nmから400nmの紫外線反射率の波長平均である算術平均反射率が50%以下であることが好ましい。ここで、紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤やトリアジン系紫外線吸収剤やヒンダードアミン系安定剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤、サリシレート系紫外線吸収剤、オキザニリド系紫外線吸収剤等を好適に用いることができ、特にベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤やトリアジン系紫外線吸収剤やヒンダードアミン系安定剤が紫外線の長波長側まで吸収出来ることから特に好ましい。
尚、第1樹脂は、ポリエチレンテレフタラート、ポリエチレンナフタレート、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリメタクリル酸メチルの少なくとも何れか一つ以上を含むことが好ましく、より好ましくは、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデンの少なくとも何れか一つ以上を含む。
【0057】
赤外放射層Jを形成する第1樹脂には、炭素-フッ素結合(C-F)、炭素-塩素結合(C-Cl)、炭素-酸素結合(C-O)、エステル結合(R-COO-R)、エーテル結合(C-O-C結合)、ベンゼン環を含む無色の樹脂材料を用いることができる。
それぞれの樹脂材料(炭素-酸素結合を除く)について、大気の窓の波長帯域における吸収係数を持つ波長域を
図3に示す。
【0058】
キルヒホッフの法則により、輻射率(ε)と光吸収率(A)は等しい。光吸収率は吸収係数(α)からA=1-exp(-αt)の関係式(以下、光吸収率関係式と呼ぶ)で求めることができる。尚、tは膜厚である。
つまり、赤外放射層Jの膜厚を調整すると、吸収係数の大きな波長帯域で大きな熱輻射が得られる。屋外で放射冷却する場合、大気の窓の波長帯域である波長8μmから13μmにおいて吸収係数の大きな材料を用いるとよい。
また、太陽光の吸収を抑制するために波長0.3μmから4μm、特に0.4μmから2.5μmの範囲で吸収係数を持たない、或いは小さな材料を用いるとよい。吸収係数と吸収率の関係式からわかるように、光吸収率(輻射率)は樹脂材料の膜厚によって変化する。
【0059】
日射環境下での放射冷却によって周囲の大気より温度を下げるためには、大気の窓の波長帯域において大きな吸収係数をもち、太陽光の波長帯域では吸収係数を殆ど持たない材料を選ぶと、膜厚の調整によって太陽光は殆ど吸収しないが、大気の窓の熱輻射を多く出す、つまりは太陽光の入力よりも放射冷却による出力の方が大きな状態を作り出すことができる。
【0060】
炭素-フッ素結合(C-F)に関しては、CHFおよびCF2に起因する吸収係数が大気の窓である波長8μmから13μmにかけた広帯域に大きく広がっており、特に8.6μmで吸収係数が大きい。併せて、太陽光の波長帯域に関しては、エネルギー強度が大きな0.3μmから2.5μmの波長で目立った吸収係数がない。
【0061】
炭素-フッ素結合(C-F)を有する樹脂材料としては、
部分フッ素化樹脂であるポリフッ化ビニリデン(PVDF)が挙げられる。
尚、以後、ポリフッ化ビニリデンをフッ化ビニリデン樹脂と記載している場合があるが、両者は同一の材料を指すものとして用いている。他の樹脂についても同様である。
【0062】
炭素-塩素結合(C-Cl)に関しては、C-Cl伸縮振動による吸収係数が波長12μmを中心に半値幅1μm以上の広帯域に現れる。
また、樹脂材料としてはポリ塩化ビニル(PVC)、塩化ビニリデン樹脂(PVDC)が挙げられるが、塩化ビニル樹脂の場合、塩素の電子吸引の影響で、主鎖に含まれるアルケンのC-Hの変角振動に由来する吸収係数が波長10μmあたりに現れる。
【0063】
エステル結合(R-COO-R)、エーテル結合(C-O-C結合)に関しては、波長7.8μmから9.9μmにかけて吸収係数を持つ。また、エステル結合、エーテル結合に含まれる炭素-酸素結合に関しては、波長8μmから10μmの波長帯域にかけて強い吸収係数が現れる。
ベンゼン環を炭化水素樹脂の側鎖に導入すると、ベンゼン環自身の振動や、ベンゼン環の影響による周りの元素の振動によって、波長8.1μmから18μmにかけて広く吸収が現れるようになる。
【0064】
これらの結合をもつ樹脂としては、エチレンテレフタラート樹脂、エチレンナフタレート樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂がある。
【0065】
〔光吸収の考察〕
上記した結合および官能基を持つ樹脂材料の紫外-可視領域における光吸収、つまり、太陽光吸収について考察する。紫外線から可視光の吸収の起源は結合に寄与する電子の遷移である。この波長域の吸収は、結合エネルギーを計算するとわかる。
先ずは、炭素-フッ素結合(C-F)をもった樹脂材料の紫外から可視域に吸収係数が生じる波長について考える。ポリフッ化ビニリデン(PVDF)を代表としての基本構造部のC-C結合、C-H結合、C-F結合の結合エネルギーを求めると、4.50eV、4.46eV、5.05eVとなる。それぞれ、波長0.275μm、波長0.278μm、波長0.246μmに対応し、これら波長の光を吸収する。
【0066】
太陽光スペクトルは波長0.300μmより長波しか存在しないため、フッ素樹脂を用いた場合、太陽光の紫外線、可視光線、近赤外線をほとんど吸収しない。なお、紫外線の定義は波長0.400μmよりも短波長側、可視光線の定義は波長0.400μmから0.800μm、近赤外線は波長0.800μmから3μmの範囲とし、中赤外線は3μmから8μmの範囲とし、遠赤外線は波長8μmよりも長波とする。
【0067】
炭素-塩素結合(C-Cl)に関して、アルケンの炭素と塩素の結合エネルギーは3.28eVであり、その波長は0.378μmであるので、太陽光の内紫外線を多く吸収するが、可視域については吸収をほとんど持たない。
厚さ100μmの塩化ビニル樹脂の紫外から可視域の吸収率スペクトルを
図4に示すが、波長0.38μmよりも短波長側で光吸収が大きくなる。
厚さ100μmの塩化ビニリデン樹脂の紫外から可視域の吸収率スペクトルを
図4に示すが、波長0.4μmよりも短波長側で若干の吸収率スペクトルの増加がみられる。
【0068】
エステル結合(R-COO-R)、エーテル結合(C-O-C結合)、ベンゼン環をもつ樹脂としては、メタクリル酸メチル樹脂、エチレンテレフタラート樹脂、エチレンナフタレート樹脂がある。例えばアクリルのC-C結合の結合エネルギーは3.93eVであり、波長0.315μmより短波長の太陽光を吸収するが、可視域については吸収をほとんど持たない。
【0069】
これら結合および官能基を持つ樹脂材の一例として、厚さ5mmのメタクリル酸メチル樹脂の紫外から可視域の吸収率スペクトルを
図4に示す。尚、例示するメタクリル酸メチル樹脂は、一般的に市販されているものであって、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤が混入している。
5mmと厚板であるために、吸収係数の小さな波長も大きくなり、波長0.315よりも長波の0.38μmよりも短波側で光吸収が大きくなる。
【0070】
これら結合および官能基を持つ樹脂材の一例として厚さ40μmのエチレンテレフタラート樹脂の紫外から可視域の吸収率スペクトルを
図4に示す。
図示のように、波長0.315μmに近づくほどに吸収率が大きくなり、波長0.315μmで急激に吸収率が大きくなる。なお、エチレンテレフタラート樹脂も、厚みを増していくと、波長0.315μmより少し長波側において、C-C結合由来の吸収端による吸収率が大きくなり、メタクリル酸メチル樹脂同様に紫外線における吸収率が増大する。
【0071】
赤外放射層Jは、前述の輻射率(光放射率)、光吸収率の特性を有する樹脂材料を用いるものであれば、一種類の樹脂材料の単層膜、複数種類の樹脂材料の多層膜、複数種類の樹脂材料がブレンドされた樹脂材料の単層膜、複数種類の樹脂材料がブレンドされた樹脂材料の多層膜でも構わない。
なお、ブレンドには、交互共重合体、ランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体といった共重合体や側鎖を置換した変性品も含まれる。
【0072】
〔塩化ビニル樹脂及び塩化ビニリデン樹脂の輻射率〕
図5に、炭素-塩素結合をもつ樹脂の代表例として、塩化ビニル樹脂(PVC)の大気の窓における輻射率を示す。また、
図6に、塩化ビニリデン樹脂(PVDC)の大気の窓における輻射率を示す。
炭素-塩素結合に関しては、C-Cl伸縮振動による吸収係数が波長12μmを中心に半値幅1μm以上の広帯域に現れる。
また、塩化ビニル樹脂の場合、塩素の電子吸引の影響で、主鎖に含まれるアルケンのC-Hの変角振動に由来する吸収係数が波長10μmあたりに現れる。塩化ビニリデン樹脂についても同様である。
これらの影響で、厚さ10μmの輻射率の波長平均は、波長8μmから13μmにおいて43%であり、波長平均43%以上という規定の中に入る。図示の通り、膜厚が厚くなると大気の窓領域における輻射率は増大する。
【0073】
〔エチレンテレフタラート樹脂の輻射率〕
図7に、エステル結合やベンゼン環をもつ樹脂の代表例として、エチレンテレフタラート樹脂の大気の窓における輻射率を示す。
エステル結合に関しては、波長7.8μmから9.9μmにかけて吸収係数を持つ。また、エステル結合に含まれる炭素-酸素結合に関しては、波長8μmから10μmの波長帯域にかけて強い吸収係数が現れる。ベンゼン環を炭化水素樹脂の側鎖に導入すると、ベンゼン環自身の振動や、ベンゼン環の影響による周りの元素の振動によって、波長8.1μmから18μmにかけて広く吸収が現れる。
これらの影響で、厚さ10μmの輻射率の波長平均は、波長8μmから13μmにおいて71%であり、波長平均40%以上という規定の中に入る。図示の通り、膜厚が厚くなると大気の窓領域における輻射率は増大する。
【0074】
〔光反射層および赤外放射層の表面の温度〕
赤外放射層Jの大気の窓の熱輻射は樹脂材料の表面近傍で発生する。
図5より、塩化ビニル樹脂の場合は100μmより厚くなっても大気の窓領域における熱輻射の増大は殆どなくなる。つまり、塩化ビニル樹脂の場合、大気の窓における熱輻射は表面から深さ約100μm以内の部分で生じており、より深い部分の輻射は外に出てこない。
図6より、塩化ビニリデン樹脂は、塩化ビニル樹脂と同様であることが分かる。
【0075】
図7より、エチレンテレフタラート樹脂の場合は125μmより厚くなっても大気の窓領域における熱輻射の増大は殆どなくなる。つまり、エチレンテレフタラート樹脂の場合、大気の窓における熱輻射は表面から深さ約100μmの部分で生じており、より深い部分の輻射は外に出てこない。
【0076】
以上のように、樹脂材料表面から発生する大気の窓領域の熱輻射は、表面からの深さが概ね100μm以内の部分で生じており、それ以上に樹脂の厚みが増していくと、熱輻射に寄与しない樹脂材料によって、樹脂積層フィルムの放射冷却した冷熱が断熱される。
理想的に、赤外放射層Jを太陽光を全く吸収しない第1樹脂にて構成すると共に、当該赤外放射層Jを光反射層Bの上に作製することを考える。この場合、太陽光は樹脂積層フィルムCPの光反射層Bでのみ吸収される。
樹脂材料の熱伝導率はおしなべて0.2W/m/K程度であり、この熱伝導性を考慮して計算すると、赤外放射層Jの厚みが20mmを超えると、冷却面(光反射層Bにおける赤外放射層Jの存在側とは反対側の面)の温度が上昇する。
【0077】
太陽光をまったく吸収しない理想的な樹脂材料が存在したとしても、赤外放射層Jの第1樹脂の熱伝導率はおしなべて0.2W/m/K程度であるので、
図8のように20mmを超えると光反射層Bが日射を受けて加熱されてしまい、光反射層B側に設置された冷却対象物は加熱される。つまり、赤外放射層Jの第1樹脂の厚みは20mm以下にする必要がある。
【0078】
尚、
図8は、夏の西日本の良く晴れた日の南中を想定して計算した樹脂積層フィルム(放射冷却フィルム)の放射面Hの表面温度と光反射層Bの温度のプロットである。太陽光はAM1.5とし、夏場の日中の日射強度の平均的な値として350W/m
2のエネルギー密度としている。外気温は30℃であり、放射エネルギーは温度によって変わるが30℃において100Wである。赤外放射層Jで太陽光の吸収はないものとしての計算である。無風状態を仮定し、対流熱伝達率は5W/m
2/Kとしている。
【0079】
〔炭化水素系樹脂の光吸収について〕
樹脂材料(第1樹脂、第2樹脂)が、炭素-塩素結合、炭素-酸素結合、エステル結合、エーテル結合、ベンゼン環を1つ以上有する炭化水素を主鎖とする樹脂であった場合、先述の共有結合電子による紫外線吸収以外に、近赤外域に結合の変角や伸縮などの振動に基づく吸収が観測される。
【0080】
具体的には、CH3、CH2、CHの第一励起状態への遷移の基準音による吸収がそれぞれ波長1.6μmから1.7μm、波長1.65μmから1.75μm、波長1.7μmに現れる。さらに、CH3、CH2、CHの結合音の基準音による吸収がそれぞれ波長1.35μm、波長1.38μm、波長1.43μmに現れる。さらに、CH2、CHの第二励起状態への遷移の倍音がそれぞれ波長1.24μmあたりに現れる。C-H結合の変角や伸縮の基準音は波長2μmから2.5μmにかけて広帯域に分布している。
【0081】
また、エステル結合(R-COO-R)、エーテル結合(C-O-C)を有する場合、波長1.9μmあたりに大きな光吸収が存在する。
これらに起因する光吸収率は、上述の光吸収率関係式より、樹脂材料の膜厚が薄いと小さくなり目立たなくなるが、膜厚が厚いと大きくなる。
【0082】
図9には、エステル結合とベンゼン環を持つエチレンテレフタラート樹脂の膜厚を変化させた場合における光吸収率と太陽光のスペクトルとの関係を記す。
図示の如く、膜厚が25μm、125μm、500μmと大きくなるごとに、それぞれの振動に起因する波長1.5μmよりも長波域の光吸収が増加する。
また、長波長側だけでなく、紫外線領域から可視領域にかけての光吸収も増加する。これは、化学結合に起因する光の吸収端に広がりがあることに起因している。
【0083】
膜厚が薄い時は最も大きな吸収係数を持つ波長で光吸収率が大きくなるが、膜厚が厚くなると、上述の光吸収率関係式より、広がりを持った吸収端の弱い吸収係数が吸収率となり出現する。このことにより、膜厚が厚くなると紫外線領域から可視領域にかけての光吸収が増加する。
反射率について、波長400nmから800nmの光反射率の波長平均である算術平均反射率が80%以上で、波長800nmから1200nmの光反射率の波長平均である算術平均反射率が43%以上であると、太陽光の吸収エネルギーが且つ波長8μmから13μmにおける輻射率の波長平均が43%以上であれば、太陽光エネルギー350W/m2に対して、吸収を85W/m2程度に抑制することができる。そのうえで放射率が43%以上あれば、大気の状態の良い日で200W/m2程度の放射に対し、85W/m2のエネルギーを放射できるため、放射冷却機能を発現することができる。換言すると、前記光反射層及び前記赤外放射層を含む積層樹脂層は、波長400nmから800nmの光反射率の波長平均である算術平均反射率が80%以上で、波長800nmから1200nmの光反射率の波長平均である算術平均反射率が70%以上であり、且つ波長8μmから13μmにおける輻射率の波長平均が43%以上であることが好ましい。
【0084】
光反射層Bが、波長400nmから800nmにかけて反射率80%以上の反射特性を示し、波長800nmから1200nmの反射率が70%以上の反射特性を示すことにより、放射冷却装置(放射冷却フィルム)が光反射層Bで吸収する太陽光エネルギーを25%以下に抑えることができ、すなわち夏場の南中時に吸収する太陽光エネルギーを85W 程度とすることができる。また、湿度などが高い場合には大気の窓が狭くなるが、例えば125W/m2程度に放射が低下した場合でも、放射率が70%以上あれば、太陽光エネルギーよりも大きなエネルギーを放出することができるため望ましい。
【0085】
日本の低地の夏場における、大気の窓の波長帯域の赤外放射の最大値は先述の通り30℃において大気の状態の良い日で160W程度、通常は125W程度である。
赤外放射層Jを形成する第1樹脂と光反射層Bを形成する第2樹脂との双方を、炭化水素系樹脂のエチレンテレフタラート樹脂とすると、夫々の膜厚が500μmである場合、積層樹脂層M(赤外放射層J及び光反射層Bの両者)の太陽光吸収の和が176W/m2となる。
以上より、赤外放射層Jを形成する第1樹脂と光反射層Bを形成する第2樹脂との双方を、炭化水素系樹脂のエチレンテレフタラート樹脂とする場合、赤外放射層J及び光反射層Bの夫々の膜厚を500μm以上とする、即ち、積層樹脂層Mの膜厚が1000μm以上では、放射冷却性能を発揮しなくなる。
換言すると、赤外放射層Jの第1樹脂の厚み及び光反射層Bの第2樹脂の厚みの夫々は、500μm以下とすることが好ましい。尚、赤外放射層Jの第1樹脂の厚み及び光反射層Bの第2樹脂の厚みは、10μm以上とすることが好ましく、当該膜厚の下限については、赤外放射率及び光反射率の確保の観点から決定される。
【0086】
〔ブレンド樹脂の光吸収について〕
樹脂材料(第1樹脂、第2樹脂)が、炭素-フッ素結合を主鎖とする樹脂と、炭化水素を主鎖とする樹脂とをブレンドした樹脂材料である場合には、ブレンドされた炭化水素を主鎖とする樹脂の割合に応じてCH、CH2、CH3などに起因する近赤外域の光吸収が現れる。
炭素-フッ素結合が主成分の場合、炭化水素に起因する近赤外域の光吸収は小さくなるので、熱伝導性の観点での上限の20mmまで厚くすることができる。しかし、ブレンドされる炭化水素樹脂が主成分となる場合、第1樹脂及び第2樹脂の夫々の厚みを500μm以下にする必要がある。
【0087】
フッ素樹脂と炭化水素とのブレンドには、フッ素樹脂を炭化水素に置換したものや、フッ素モノマーと炭化水素モノマーの交互共重合体、ランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体も含まれる。
【0088】
置換する炭化水素側鎖の分子量および割合に応じてCH、CH2、CH3などに起因する近赤外域の光吸収が現れる。側鎖や共重合として導入されるモノマーが低分子であるとき、あるいは、導入されるモノマーの密度が小さいときには、炭化水素に起因する近赤外域の光吸収は小さくなるので、熱伝導性の観点での限界の20mmまで厚くすることができる。
フッ素樹脂の側鎖や共重合されるモノマーとして高分子の炭化水素を導入する場合、第1樹脂及び第2樹脂の夫々の厚みを500μm以下にする必要がある。
【0089】
〔赤外放射層の厚みについて〕
樹脂積層フィルムCPの実用の観点では、赤外放射層Jの厚みは薄い方がよい。樹脂材料の熱伝導率は、金属やガラスなどよりも一般に低い。冷却対象物を効果的に冷却するには、赤外放射層Jの膜厚は必要最低限であるのがよい。赤外放射層Jの膜厚を厚くするほどに大気の窓の熱輻射は大きくなり、ある膜厚を超えると大気の窓における熱輻射エネルギーは飽和する。
【0090】
飽和する膜厚は樹脂材料にもよるが、フッ素樹脂の場合は概ね300μmもあれば十分に飽和する。したがって、熱伝導度の観点で500μmよりも300μm以下に膜厚を抑えるのが望ましい。さらに、熱輻射は飽和していないが、厚みが100μm程度であっても大気の窓領域において十分な熱輻射を得ることができる。厚さが薄い方が、熱貫流率が高まり被冷却物の温度をより効果的に下げられるので、フッ素樹脂の場合、100μm程度以下の厚さにするのがよい。
【0091】
C-F結合に起因する吸収係数よりも炭素-ケイ素結合、炭素-塩素結合、炭素-酸素結合、エステル結合、エーテル結合に由来する吸収係数の方が大きい。当然、熱伝導度の観点で500μmよりも300μm以下に膜厚を抑えるのが望ましいが、更に膜厚を薄くして熱伝導性を上げるとさらに大きな放射冷却効果が期待できる。
炭素-塩素結合、炭素-酸素結合、エステル結合、エーテル結合、ベンゼン環を含む樹脂の場合、厚みが100μmであっても飽和しており、厚さ50μmでも大気の窓領域において十分な熱輻射が得られる。樹脂材料の厚さが薄い方が、熱貫流率が高まり被冷却物の温度をより効果的に下げられるので、炭素-塩素結合、炭素-酸素結合、エステル結合、エーテル結合、ベンゼン環を含む樹脂の場合、50μm以下の厚さにすると断熱性が小さくなり冷却対象物を効果的に冷却することができる。炭素-塩素結合の場合には、100μm以下の厚さであれば、冷却対象物を効果的に冷却することができる。
【0092】
薄くする効用は断熱性を下げて冷熱を伝えやすくすること以外にもある。それは、炭素-塩素結合、炭素-酸素結合、エステル結合、エーテル結合を含む樹脂が呈する、近赤外域でのCH、CH2、CH3由来の近赤外域の光吸収の抑制である。薄くすると、これらによる太陽光吸収を小さくすることができるので、樹脂積層フィルムCPの冷却能力が高まることになる。
以上の観点から、炭素-塩素結合、炭素-酸素結合、エステル結合、エーテル結合、ベンゼン環を含む樹脂の場合、50μm以下の厚さにするとより効果的に日照下において放射冷却効果を出すことができる。
【0093】
炭素-ケイ素結合の場合、厚さ50μmでも大気の窓領域において熱輻射が飽和しきっており、厚さ10μmでも大気の窓領域において十分な熱輻射が得られる。赤外放射層Jの厚さが薄い方が、熱貫流率が高まり冷却対象物の温度をより効果的に下げられるので、炭素-ケイ素結合を含む樹脂の場合、10μm以下の厚さにすると断熱性が小さくなり冷却対象物を効果的に冷却することができる。薄くすると、太陽光吸収を小さくすることができるので、樹脂積層フィルムCPの冷却能力が高まる。
以上の観点から、炭素-ケイ素結合を含む樹脂の場合、10μm以下の厚さにするとより効果的に日照下において放射冷却効果を出すことができる。
【0094】
尚、後述するように、当該実施形態に係る樹脂積層フィルムCPでは、光反射層Bとしても樹脂を用いる。当該光反射層Bは以下に一定の体積割合で空孔Kを含むものの、一定の熱輻射を期待できる。この点を考慮すると、上述した赤外放射層Jの厚みは、更に薄くすることが好ましい。
【0095】
〔光反射層の詳細〕
光反射層Bは、当該光反射層を形成する第2樹脂の屈折率と、当該第2樹脂に含まれる複数の空孔Kの内部の材料の屈折率とを異ならせて、上述の反射特性(積層樹脂層Mとしての反射特性)を持たせている。
具体的には、光反射層Bの第2樹脂は、ポリエチレンテレフタラート、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンナフタレート、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリメタクリル酸メチル、ポリカーボネートの少なくとも何れか一つ以上を含むことが好ましい。逆に、ポリイミドやベークライトは樹脂そのものが着色しやすく、反射率が低くなりやすいために、光反射層Bの第2樹脂として望ましくない。
【0096】
更に、光反射層Bの第2樹脂が有する空孔Kの内部には、種々の気体や流体を含ませることができるが、好適には、空気が内包される。空孔K(より詳細には空孔Kに含まれる気体や流体)の屈折率が第2樹脂より小さい。
っまた、空孔Kの算術平均孔径が0.1μm以上3.0μm以下であることが好ましい。尚、当該実施形態において、当該算術平均孔径は、空孔Kの最短内径の算術平均を意味するものとする。
当該空孔Kの形状は、球形や楕円形等の種々の形状のものをとることができるが、光反射率を向上させる観点から、偏平形状であることが好ましく、より好ましくは、空孔Kの長軸が、樹脂積層フィルムCPのフィルム面(放射面H)に沿う方向に沿っていることが好ましい。
更に、光反射層Bにおける空孔Kの体積割合は、0.1体積%以上60体積%以下であることが好ましく、より好ましくは、1体積%以上50体積%以下であり、より好ましくは、10体積%以上40体積%以下である。
【0097】
また、発明者が、鋭意検討した結果、光反射層Bの第2樹脂の厚みは、10μm以上500μM以下が好ましい。光反射層Bの第2樹脂の厚みを、10μm以上とすることで、複数の空孔Kを有する第2樹脂からなる光反射層Bにより、放射冷却に必要な反射率を良好に確保することができる。これに加え、500μm以下とすることで、空気等を含む空孔Kを有する第2樹脂による断熱効果を一定以下として、被冷却対象物の冷却性能を一定以上に確保できる。尚、光反射層Bの第2樹脂の厚みは、好ましくは50~300umであり、75~200umがさらに好ましい。厚みが500μM以上になると、厚み方向の熱伝導率が低下し、断熱性が強くなるため、内部に熱源があるような筐体などに適用した場合に、筐体内の蓄熱性が高まり、熱放射の観点で好ましくない。
【0098】
尚、樹脂積層フィルムCPとしては、
図2に示すように、赤外放射層Jを形成する第1樹脂及び光反射層Bを形成する第2樹脂に、フィラーF(F1、F2)を含んでいても構わない。当該フィラーF(F1、F2)は、赤外放射層Jを形成する第1樹脂及び光反射層Bを形成する第2樹脂の少なくとも何れか一方に含まれている構成としても良い。
当該フィラーF(F1、F2)は、酸化チタン、ガラスミクロビーズ、二酸化ケイ素、重質炭酸カルシウム粉末、硫酸バリウム、硫酸亜鉛、ケイ酸アルミニウム、重質炭酸カルシウム、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、酸化セリウム、酸化ランタン、酸化ロジウム、酸化マグネシウム、チタン酸バリウムの何れか一つ以上とすることができ、第1樹脂に含まれるフィラーF1と、第2樹脂に含まれるフィラーF2は異なる材料であっても構わない。
【0099】
〔実験結果〕
これまで説明してきた積層樹脂フィルムの実施例及び比較例について、防汚性、紫外線反射率、波長400nmから800nmの反射率、波長800nmから1200nmの反射率、波長400nmから800nmの透過率、赤外放射率、熱伝導性、キセノン耐候性、電磁波透過性に係る各種試験を実施した結果を、以下の〔表1〕~〔表4〕に示す。表に示す試験結果において、下線を付した部分は、各種試験の条件を満たしていないことを示すものである。
ちなみに、〔表1〕~〔表4〕には、実施例及び比較例を構成するフィルムの各種条件についても示している。
【0100】
防汚性は、大阪市での1か月の屋外暴露試験を行い、前後での色差ΔEを用いて評価し、ΔE<2.0となるものを防汚性が高い(よい)と定義した。尚、色差ΔEは、JIS Z8781に基づく「CIEDE2000色差」を意味するものとする。
【0101】
紫外線反射率は、紫外-可視光分光計UV-2600(島津製作所製)で測定された、波長340nmから400nmの反射率の算術平均を用いて評価した。当該反射率が50%以下のものを、当該条件を満たす(紫外線反射率が低い)ものと定義した。
【0102】
波長400nmから800nmの反射率は、紫外-可視光分光計UV-2600(島津製作所製)で測定された、波長400nmから800nmの反射率の算術平均を用いて評価した。当該反射率が80%以上のものを、当該条件を満たす(波長400nmから800nmの反射率が高い)ものと定義した。
【0103】
波長800nmから1200nmの反射率は、紫外-可視光分光計UV-2600(島津製作所製)で測定された、波長800nmから1200nmの反射率の算術平均を用いて評価した。当該反射率が70%以上のものを、当該条件を満たす(波長800nmから1200nmの反射率が高い)ものと定義した。
【0104】
波長400nmから800nmの透過率は、紫外-可視光分光計UV-2600(島津製作所製)で測定された、波長400nmから800nmの透過率の算術平均を用いて評価した。当該透過率が1%以上のものを、当該条件を満たす(波長400nmから800nmの透過率が高い)ものと定義した。
【0105】
赤外放射率は、FT-IR IRTracer-100(島津製作所製)で測定された、波長8μmから13μmの放射率の算術平均を用いて評価した。当該放射率が70%以上のものを、当該条件を満たす(波長400nmから800nmの反射率が高い)ものと定義した。
【0106】
熱伝導性は、JIS R1611に定義されるレーザーフラッシュ法を用いて測定し、0.3W/m・K以上の熱伝導率を有するものを熱伝導性が高い(よい)と定義した。
【0107】
キセノン耐候性は、JIS K5600に定義されるキセノン耐候性試験において、ブラックパネル温度(BPT)が63℃の環境で、紫外線の強度が180W/m2の紫外線に3000時間暴露させ、当該試験の前後でのサンプルの色差ΔEを測定し、ΔE<2.0となるものを耐候性が高い(よい)と定義した。
【0108】
電波透過性は、一般社団法人KEC関西電子工業振興センターにおけるKEC法を用いて、800MHzでの電波透過性を測定した。減衰度合いが10dB以下となるものを電波透過性が高い(よい)と定義した。
【0109】
尚、表において、PETはポリエチレンテレフタレート、PENはポリエチレンナフタレート、PVCはポリ塩化ビニル、PVDCはポリ塩化ビニリデン、PVDFはポリビニリデンフルオライド(ポリフッ化ビニリデン)、PPはポリプロピレンを意味するものである。
【0110】
実施例1のサンプルの作成については、TiO2を含む塩ビ樹脂をカレンダー製法で薄く成膜し、TiO2を含むPETフィルムとドライラミネート法で貼り合わせて作成した。
【0111】
【0112】
【0113】
【0114】
【0115】
以上の実験結果に示すように、本発明の実施例1~16に係る樹脂積層フィルムCPでは、防汚性、紫外線反射率、波長400nmから800nmの反射率、波長800nmから1200nmの反射率、波長400nmから800nmの透過率、赤外放射率、熱伝導性、キセノン耐候性、電磁波透過性について、定めた条件を満足する結果が得られている。
【0116】
一方、比較例1~4では、表面層としての赤外放射層Jに比較的多くの空孔Kが形成されていることから、防汚性の条件を満足しておらず、汚れが付着し易くなっている。
比較例1、5では、光反射層Bとしての第2樹脂を設けていないため、波長400nmから800nmの反射率及び波長800nmから1200nmの反射率に関する条件を満足しておらず、反射率が低くなっている。
比較例6では、光反射層Bとして金属である銀を蒸着したPETを用いているため、波長400nmから800nmの透過率の条件を満たしておらず、採光性が悪くなっており、また、電波透過性の条件も満たしていない。
また、比較例1、5では、光反射層Bとしての第2樹脂が設けられていないため、赤外放射率が条件を満たしていないと考えられ、光反射層Bとしての第2樹脂が、赤外放射率に一定程度寄与していることが推察される。比較例2、4については、比較的薄い100μmの赤外放射層Jに複数の空孔Kを設けていることで赤外放射率の条件を満たしていないと推察される。
比較例3、4では、空孔Kを有する樹脂層が厚く素材全体としての熱伝導率が低くなるのため、熱伝導性の条件を満たしておらず、比較例1~5では、PETの紫外線に対する耐候性が不十分であり、キセノン耐候性を評価すると黄変が生じてしまうため、キセノン対候性の条件を満たしていない。
【0117】
〔別実施形態〕
(1)上記赤外放射層Jの放射面Hが、保護層(図示せず)にて保護される構成を採用しても構わない。当該保護層は、フッ素、アクリルフッ素等の材料を好適に用いることができ、その厚みは、0.1μm以上100μm以下程度とすることが好ましい。当該材料としては、大気の窓における輻射率が低いポリエチレン、ポリプロピレンを用いてもよい。
当該保護層は、防汚機能や、防傷機能、犠牲層としての役割を有する。
【0118】
(2)反射層Bの赤外放射層Jの側とは反対側に、接続用樹脂層を設けても良い。当該接続用樹脂層は、一例として、ポリ塩化ビニルを材料とする接続層とすることができ、これにより、塩化ビニル製の膜材料、ターポリン、鋼板と、好適に接続することができる。
【0119】
尚、上記実施形態(別実施形態を含む、以下同じ)で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することが可能であり、また、本明細書において開示された実施形態は例示であって、本発明の実施形態はこれに限定されず、本発明の目的を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0120】
本発明の樹脂積層フィルムは、直射日光下において高い冷却能力が発揮できると共に高い電波透過性を発揮し、且つ樹脂材料に空孔を設ける場合の放射冷却性能の低下を防止することができる樹脂積層フィルムとして、有効に利用可能である。
【符号の説明】
【0121】
B :光反射層
CP :樹脂積層フィルム
F :フィラー
H :放射面
IR :赤外光
J :赤外放射層
K :空孔
M :積層樹脂層
S :接続層
【要約】
【課題】直射日光下において高い冷却能力が発揮できると共に高い電波透過性を発揮し、且つ樹脂材料に空孔を設ける場合の放射冷却性能の低下及び空孔の汚れによる冷却性能の低下を防止する。
【解決手段】光反射層Bは、複数の空孔Kを有すると共に第2樹脂から構成され、赤外放射層Jは、吸収した太陽光エネルギーよりも大きな熱輻射エネルギーを波長8μmから波長13μmで放つ第1樹脂から構成され、赤外放射層Jに含まれる空孔は、光反射層Bに含まれる空孔よりも少なく、光反射層B及び赤外放射層Jを含む積層樹脂層Mは、波長400nmから800nmの光反射率の波長平均である算術平均反射率が80%以上で、波長800nmから1200nmの光反射率の波長平均である算術平均反射率が70%以上であり、且つ波長8μmから13μmにおける輻射率の波長平均が43%以上である
【選択図】
図1