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特許7607894回転動作運動評価方法及びシステム並びにプログラム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-20
(45)【発行日】2025-01-06
(54)【発明の名称】回転動作運動評価方法及びシステム並びにプログラム
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/11 20060101AFI20241223BHJP
【FI】
A61B5/11 120
A61B5/11 200
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2024562236
(86)(22)【出願日】2023-12-07
(86)【国際出願番号】 JP2023043821
(87)【国際公開番号】W WO2024142828
(87)【国際公開日】2024-07-04
【審査請求日】2024-10-21
(31)【優先権主張番号】P 2022212108
(32)【優先日】2022-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】523438511
【氏名又は名称】Mirai-wo合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147935
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 進介
(74)【代理人】
【識別番号】100080230
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 詔二
(72)【発明者】
【氏名】藤下 公壽
【審査官】永田 浩司
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-138742(JP,A)
【文献】特開2010-14712(JP,A)
【文献】米国特許第9367746(US,B2)
【文献】韓国登録特許第10-1703858(KR,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/11
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
9.8m/secを超える加速度の回転動作を伴う運動におけるパフォーマンス及び/又は身体負荷を推定し評価する回転動作運動評価方法であって、
実際の動作、骨格推定及びモーションキャプチャによる回転動作の群から得られる少なくとも一つの実在回転中心、及び/又は理想回転中心から、3次元座標の回転中心を定義する回転中心定義工程と、
前記定義された3次元座標の回転中心から前記回転動作でのワールド座標系の座標データである3次元のワールド座標系座標データを得る工程と、
前記ワールド座標系座標データを、前記回転動作における人体内の回転中心を原点とする回転座標系のローカル座標データである3次元の回転座標系ローカル座標データに変換する工程と、
前記回転動作での同一の動作から得られた、人体内の所定位置の前記ワールド座標系座標データ及び前記回転座標系ローカル座標データの二つのデータの値を相対比較し評価する評価工程と、
を含む、回転動作運動評価方法。
【請求項2】
前記ワールド座標系座標データが、人体内の所定位置のワールド座標を時間毎に示したワールド座標データであり、
前記回転座標系ローカル座標データが、前記回転動作における人体内の回転中心を原点とする人体内の所定位置のローカル座標を時間毎に示したローカル座標データである、請求項1記載の回転動作運動評価方法。
【請求項4】
前記評価が身体負荷の評価であり、
前記ワールド座標系座標データ及び前記回転座標系ローカル座標データの二つのデータが人体内の所定位置の時間毎に示した速度又は加速度に関するデータであり、
前記回転座標系ローカル座標データの最大速度又は最大加速度が、前記ワールド座標系座標データの最大速度又は最大加速度、に対して、近しいか又はそれ以上である場合に、身体負荷が大きいと判定する、請求項3記載の回転動作運動評価方法。
【請求項5】
前記評価が身体負荷の評価であり、
前記ワールド座標系座標データ及び前記回転座標系ローカル座標データの二つのデータが、人体内の所定位置の時間毎に示した速度のグラフの面積又は人体内の所定位置の変位に関するデータであり、
前記回転座標系ローカル座標データの人体内の所定位置の時間毎に示した速度のグラフの面積又は人体内の所定位置の変位が、
前記ワールド座標系座標データの人体内の所定位置の時間毎に示した速度のグラフの面積又は人体内の所定位置の変位、
に対して、近しいか又はそれ以上である場合に、身体負荷が大きいと判定する、請求項1記載の回転動作運動評価方法。
【請求項7】
請求項1記載の回転動作運動評価方法に用いられる、回転動作運動における座標データの変換方法であり、
9.8m/secを超える加速度の回転動作を伴う運動において、
実際の動作、骨格推定及びモーションキャプチャによる回転動作の群から得られる少なくとも一つの実在回転中心、及び/又は理想回転中心から3次元座標の回転中心を定義する回転中心定義工程と、
前記定義された3次元座標の回転中心から前記回転動作での人体内の所定位置のワールド座標を時間毎に示したワールド座標系の座標データである3次元のワールド座標系座標データを得る工程と、
前記ワールド座標系座標データの中心座標を時間毎に定義する工程と、
前記中心座標と所定の関節位置とを結ぶ線分に、直交座標系のうちの1軸を合致させて直交座標系データを得る工程と、
前記直交座標系データを、前記回転動作における人体内の回転中心を原点とする人体内の所定位置のローカル座標を時間毎に示した3次元の回転座標系ローカル座標データに変換する工程と、
を含む、回転動作運動における座標データの変換方法。
【請求項8】
9.8m/secを超える加速度の回転動作を伴う運動におけるパフォーマンス及び/又は身体負荷を推定し評価する回転動作運動評価システムであって、
実際の動作、骨格推定及びモーションキャプチャによる回転動作の群から得られる少なくとも一つの実在回転中心、及び/又は理想回転中心から回転中心を定義する回転中心定義装置と、
前記定義された回転中心から前記回転動作でのワールド座標系の座標データであるワールド座標系座標データを得るワールド座標系座標データ取得装置と、
前記ワールド座標系座標データを、前記回転動作における人体内の回転中心を原点とする回転座標系のローカル座標データである回転座標系ローカル座標データに変換する変換装置と、
前記回転動作での同一の動作から得られた、人体内の所定位置の前記ワールド座標系座標データ及び前記回転座標系ローカル座標データの二つのデータの値を相対比較する相対比較装置と、
を含む、回転動作運動評価システム。
【請求項9】
前記ワールド座標系座標データが、人体内の所定位置のワールド座標を時間毎に示したワールド座標データであり、
前記回転座標系ローカル座標データが、前記回転動作における人体内の回転中心を原点とする人体内の所定位置のローカル座標を時間毎に示したローカル座標データである、請求項8記載の回転動作運動評価システム。
【請求項10】
前記評価が身体負荷の評価であり、
前記ワールド座標系座標データ及び前記回転座標系ローカル座標データの二つのデータが人体内の所定位置の時間毎に示した速度に関するデータであり、
前記回転座標系ローカル座標データの速度が前記ワールド座標系座標データの速度に近しいか又はそれ以上である場合に、身体負荷が大きいと判定されるようにした、請求項8記載の回転動作運動評価システム。
【請求項11】
請求項8記載の回転動作運動評価システムに用いられる、回転動作運動における座標データの変換システムであり、
9.8m/secを超える加速度の回転動作を伴う運動において、
実際の動作、骨格推定及びモーションキャプチャによる回転動作の群から得られる少なくとも一つの実在回転中心、及び/又は理想回転中心から3次元座標の回転中心を定義する回転中心定義装置と、
前記定義された3次元座標の回転中心から前記回転動作での人体内の所定位置のワールド座標を時間毎に示したワールド座標系の座標データである3次元のワールド座標系座標データを得るワールド座標系座標データ取得装置と、
前記ワールド座標系座標データの中心座標を時間毎に定義する装置と、
前記中心座標と所定の関節位置とを結ぶ線分に、直交座標系のうちの1軸を合致させて直交座標系データを得る装置と、
前記直交座標系データを、前記回転動作における人体内の回転中心を原点とする人体内の所定位置のローカル座標を時間毎に示した3次元の回転座標系ローカル座標データに変換する変換装置と、
を含む、回転動作運動における座標データの変換システム。
【請求項13】
コンピュータを、請求項11記載の回転動作運動における座標データの変換システムにおける各装置として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転動作を伴う運動の評価方法に関し、特に9.8m/sec2以上の加速度の回転動作を伴う運動の回転動作運動評価方法及びシステム並びにプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
モーションキャプチャ、骨格推定等、運動を解析・評価を行う技術や手法が幅広く活用されている。
【0003】
特に、スポーツの領域においては、パフォーマンス評価においては非常に有用なツールとなっている。
【0004】
ただし、パフォーマンス評価には有用であるが、被験者の身体負荷については明確な指標がなく、例えば、野球においては、幼少期より投球数の制限を行っているが、肩や肘の故障が減らない状況である。
【0005】
例えば、特許文献1には、身体動作解析可視化装置が開示されている。特許文献1では、段落[0010]に「3次元動作計測手段は、…3次元空間における身体等の特徴点の3次元座標値の時系列データすなわち動作データを生成する。」とあるように、人体内の複数の予め定義された特徴点における3次元座標値、即ち個々の独立した固定の複数の局所座標を使用している(特許文献1の図7参照)。そして、人体シミュレーションで各部位の最適化処理をしている。
【0006】
しかし、特許文献1のように、人体内の個々の独立した固定の複数の局所座標を使用し、人体シミュレーションで各部位の最適化処理をする場合、それら固定の複数の局所座標から見た人体の動き等のパフォーマンス評価(例えば、ボールの射出速度が最高となる投球動作になっているか否か)をする場合には優れているものの、身体の負荷という観点から評価することはできなかった。
【0007】
従来の身体動作解析では、身体動作をリジットなモデルで考えているため、身体の負荷という観点から評価することができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平10-149445
【文献】特開2022-155115
【文献】特開2010-14712
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者が鋭意研究を続けた結果、特に9.8m/sec2以上の加速度の回転動作を伴う運動において身体負荷が大きくなること、そして、かかる回転動作を回転座標系の原点(回転の中心座標という時間毎に唯一の局所座標)を基準とした運動として取り扱い、唯一の系ですべての関節の運動を自分自身の運動のワールド座標系のデータと相対比較し評価することで、身体負荷の程度を評価できることを見出し、本発明に到達した。
【0010】
即ち、本発明は、9.8m/sec2以上の加速度の回転動作を伴う運動において、自分の回転動作の回転座標系座標データと自分の回転動作のワールド座標系データとを相対比較することで、身体の関節等に生じる身体負荷やパフォーマンス等を可視化して評価できるようにした回転動作運動評価方法及びシステム並びにプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の回転動作運動評価方法は、9.8m/sec2を超える加速度の回転動作を伴う運動におけるパフォーマンス及び/又は身体負荷を推定し評価する回転動作運動評価方法であって、実際の動作、骨格推定及びモーションキャプチャによる回転動作の群から得られる少なくとも一つの実在回転中心、及び/又は理想回転中心から回転中心を定義する回転中心定義工程と、前記定義された回転中心から前記回転動作でのワールド座標系の座標データであるワールド座標系座標データを得る工程と、前記ワールド座標系座標データを、前記回転動作における人体内の回転中心を原点とする回転座標系のローカル座標データである回転座標系ローカル座標データに変換する工程と、前記回転動作での同一の動作から得られた、人体内の所定位置の前記ワールド座標系座標データ及び前記回転座標系ローカル座標データの二つのデータの値を相対比較し評価する評価工程と、を含む、回転動作運動評価方法である。
【0012】
前記ワールド座標系座標データが、人体内の所定位置のワールド座標を時間毎に示したワールド座標データであり、前記回転座標系ローカル座標データが、前記回転動作における人体内の回転中心を原点とする人体内の所定位置のローカル座標を時間毎に示したローカル座標データであるのが好適である。
【0013】
前記評価工程が、人体内の所定位置の時間毎に示した速度又は加速度で相対比較して評価する工程であるのが好適である。
【0014】
前記評価が身体負荷の評価であり、前記ワールド座標系座標データ及び前記回転座標系ローカル座標データの二つのデータが人体内の所定位置の時間毎に示した速度又は加速度に関するデータであり、前記回転座標系ローカル座標データの最大速度又は最大加速度が、前記ワールド座標系座標データの最大速度又は最大加速度、に対して、近しいか又はそれ以上である場合に、身体負荷が大きいと判定するのが好適である。
【0015】
前記評価が身体負荷の評価であり、前記ワールド座標系座標データ及び前記回転座標系ローカル座標データの二つのデータが、人体内の所定位置の時間毎に示した速度のグラフの面積又は人体内の所定位置の変位に関するデータであり、前記回転座標系ローカル座標データの人体内の所定位置の時間毎に示した速度のグラフの面積又は人体内の所定位置の変位が、前記ワールド座標系座標データの人体内の所定位置の時間毎に示した速度のグラフの面積又は人体内の所定位置の変位、に対して、近しいか又はそれ以上である場合に、身体負荷が大きいと判定するのが好適である。
【0016】
前記回転中心定義工程において、前記実在回転中心と前記理想回転中心との回転中心一致率を評価する工程と、を含むのが好適である。
【0017】
本発明の回転動作運動における座標データの変換方法は、前記回転動作運動評価方法に用いられる、回転動作運動における座標データの変換方法であり、9.8m/sec2を超える加速度の回転動作を伴う運動において、実際の動作、骨格推定及びモーションキャプチャによる回転動作の群から得られる少なくとも一つの実在回転中心、及び/又は理想回転中心から回転中心を定義する回転中心定義工程と、前記定義された回転中心から前記回転動作での人体内の所定位置のワールド座標を時間毎に示したワールド座標系の座標データであるワールド座標系座標データを得る工程と、前記ワールド座標系座標データの中心座標を時間毎に定義する工程と、前記中心座標と所定の関節位置とを結ぶ線分に、直交座標系のうちの1軸を合致させて直交座標系データを得る工程と、前記直交座標系データを、前記回転動作における人体内の回転中心を原点とする人体内の所定位置のローカル座標を時間毎に示したローカル座標データに変換する工程と、を含む、回転動作運動における座標データの変換方法である。
【0018】
本発明の回転動作運動評価システムは、9.8m/sec2を超える加速度の回転動作を伴う運動におけるパフォーマンス及び/又は身体負荷を推定し評価する回転動作運動評価システムであって、実際の動作、骨格推定及びモーションキャプチャによる回転動作の群から得られる少なくとも一つの実在回転中心、及び/又は理想回転中心から回転中心を定義する回転中心定義装置と、前記定義された回転中心から前記回転動作でのワールド座標系の座標データであるワールド座標系座標データを得るワールド座標系座標データ取得装置と、前記ワールド座標系座標データを、前記回転動作における人体内の回転中心を原点とする回転座標系のローカル座標データである回転座標系ローカル座標データに変換する変換装置と、前記回転動作での同一の動作から得られた、人体内の所定位置の前記ワールド座標系座標データ及び前記回転座標系ローカル座標データの二つのデータの値を相対比較する相対比較装置と、を含む、回転動作運動評価システムである。
【0019】
前記ワールド座標系座標データが、人体内の所定位置のワールド座標を時間毎に示したワールド座標データであり、前記回転座標系ローカル座標データが、前記回転動作における人体内の回転中心を原点とする人体内の所定位置のローカル座標を時間毎に示したローカル座標データであるのが好適である。
【0020】
前記評価が身体負荷の評価であり、前記ワールド座標系座標データ及び前記回転座標系ローカル座標データの二つのデータが人体内の所定位置の時間毎に示した速度に関するデータであり、前記回転座標系ローカル座標データの速度が前記ワールド座標系座標データの速度に近しいか又はそれ以上である場合に、身体負荷が大きいと判定されるようにするのが好適である。
【0021】
本発明の回転動作運動における座標データの変換システムは、前記回転動作運動評価システムに用いられる、回転動作運動における座標データの変換システムであり、9.8m/sec2を超える加速度の回転動作を伴う運動において、実際の動作、骨格推定及びモーションキャプチャによる回転動作の群から得られる少なくとも一つの実在回転中心、及び/又は理想回転中心から回転中心を定義する回転中心定義装置と、前記定義された回転中心から前記回転動作での人体内の所定位置のワールド座標を時間毎に示したワールド座標系の座標データであるワールド座標系座標データを得るワールド座標系座標データ取得装置と、前記ワールド座標系座標データの中心座標を時間毎に定義する装置と、前記中心座標と所定の関節位置とを結ぶ線分に、直交座標系のうちの1軸を合致させて直交座標系データを得る装置と、前記直交座標系データを、前記回転動作における人体内の回転中心を原点とする人体内の所定位置のローカル座標を時間毎に示したローカル座標データに変換する変換装置と、を含む、回転動作運動における座標データの変換システムである。
【0022】
本発明のプログラムの第一の態様は、コンピュータを、前記回転動作運動評価システムにおける各装置として機能させるためのプログラムである。
【0023】
本発明のプログラムの第二の態様は、コンピュータを、前記回転動作運動における座標データの変換システムにおける各装置として機能させるためのプログラムである。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、9.8m/sec2以上の加速度の回転動作を伴う運動において、自分の回転動作の回転座標系座標データと自分の回転動作のワールド座標系データとを相対比較することで、身体の関節等に生じる身体負荷やパフォーマンス等を可視化して評価できるようにした回転動作運動評価方法及びシステム並びにプログラムを提供することができるという著大な効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】人間の関節の模式図であり、(a)は平常状態の関節の様子、(b)は関節が圧縮される様子、(c)は関節が引っ張られる様子、をそれぞれ示す。
図2】ワールド座標系と回転座標系のそれぞれの座標系シンボルを示す。
図3】ワールド座標系の円軌道を逸脱しないモデルを示す。
図4】ワールド座標系の円軌道を逸脱するモデルを示す。
図5】回転座標系の円軌道を逸脱しないモデルを示す。
図6】回転座標系の円軌道を逸脱するモデルを示す。
図7】回転運動動作として左腕で野球のボールをこちらに向かって投球動作をしている者における回転中心算出を模式的に示す図である。
図8図7における動作のワールド座標系から回転軸座標系への変換の説明図である。
図9図7における動作のワールド座標系から回転軸座標系への変換の説明図である。
図10図7における動作のワールド座標系から回転軸座標系への変換の説明図である。
図11図7における動作のワールド座標系から回転軸座標系への変換の説明図である。
図12図7における動作のワールド座標系から回転軸座標系への変換の説明図である。
図13図7における動作のワールド座標系から回転軸座標系への変換の説明図である。
図14】理想回転中心の説明図である。
図15】本発明の回転動作運動評価システムのブロック図である。
図16】本発明の回転動作運動評価システムのフローチャートである。
図17】左投手の投球動作における肘の負荷のワールド座標系での解析事例であってlow stress(負荷が少ない)の場合を示すグラフである。
図18】左投手の投球動作における肘の負荷の回転座標系での解析事例であってlow stress(負荷が少ない)の場合を示すグラフである。
図19図17及び図18のデータから加速度を相対比較したグラフである。
図20図17及び図18のデータから変位を相対比較したグラフである。
図21】右投手の投球動作における肘の負荷のワールド座標系での解析事例であってhuge stress(負荷が大きい)の場合を示すグラフである。
図22】右投手の投球動作における肘の負荷の回転座標系での解析事例であってhuge stress(負荷が大きい)の場合を示すグラフである。
図23図21及び図22のデータから加速度を相対比較したグラフである。
図24図21及び図22のデータから変位を相対比較したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に本発明の実施の形態を説明するが、これら実施の形態は例示的に示されるもので、本発明の技術思想から逸脱しない限り種々の変形が可能なことはいうまでもない。図示において、同一部材は同一符号であらわされる。
【0027】
9.8m/sec2以上の加速度の回転動作を伴う運動の例として、野球の投手の投球動作を考えてみる。野球の投手の肩や肘の故障に対する要因には、球数だけではなく、投球時の負荷もあるため、投球時の負荷を加味する必要がある。即ち、投球回数だけではなく、運動時の負荷(投球動作の負荷)を考慮する必要がある。
【0028】
投手がたとえ一般的には故障しにくい正しいと思われるフォームで投げていても、それがその投手の腕や肩にとって、過剰な運動時の負荷がかかっているかどうかは、リジッドなモデルを想定してそのモデルがいくらお手本通りの投げ方になっているかどうかを分析しても解明できない。本発明では、人間の身体をセミリジッドなモデルと考え、回転動作を伴う運動時の関節の負荷を解明することに成功した。
【0029】
<関節について>
図1に人間の関節の模式図を示す。図1(a)に示される骨10と骨12を繋ぐ関節14は、靭帯、軟骨や筋肉等で形成されており、力学的には弾性体と理解でき、セミリジットな部位である。関節が故障(怪我)する原因は、この弾性体に過度な応力(主に張力)がかかったためと考えられる。骨と骨を繋ぐ関節を弾性体と考えると、図1(b)に示されるような関節14が圧縮される方向の場合、骨同士が干渉するので、ポアソン比の限界以上に圧縮されない限り、圧縮では問題ないと考えられる。一方、図1(c)に示されるような関節14が引っ張られる方向の場合は問題であり、特に関節の周囲を取り巻いて関節を連結している靭帯が損傷する原因については、関節に過度な引張荷重が掛かることが原因と考えられる。
【0030】
1.<力積について>
力Fを時間tで積分すると、力積となる。下記においてmは質量、aは加速度、vは速度、nは負荷の回数(投手の場合;投球数)である。
【数1】
ここで、mの変動が無い、若しくは無視できるとすると、
【数2】
【数3】
[Cは積分定数]
【0031】
2.<速度成分について>
上記より、運動中に質量mの変動が無い、もしくは変化量が無視できるとすると、時間毎の速度成分(v-t)で身体の負荷を評価することができることになる。
【0032】
3-1.<速度成分と力積の関係について>
[ワールド座標系モデル]
そして、速度成分を力積のパラメータととらえると、ワールド座標系の速度成分は、ワールド座標系(地球)に対する力積のパラメータと捉えることができると考えられる。即ち、ワールド座標系で見た地球に対する運動が、運動動作のパフォーマンスと考えられる。図2にワールド座標系と、後述するローカルの回転座標系のそれぞれの座標系シンボルを示す。
【0033】
[ワールド座標系:円軌道を逸脱しないモデル]
図3に示すように、任意の物体16が時間tからtの間に、位置Pos.1(座標:x1,y1,z1)から位置Pos.2(座標:x2,y2,z2)に、円軌道上を加速した場合、加速度a1,a2は、速度v2とv1の差分として表される。またその時の平均速度vは、
【数4】
となる。図3中、符号18は円軌道の円の中心である。
【0034】
[ワールド座標系:円軌道を逸脱するモデル]
一方、図4に示すように、別の任意の物体16が、円軌道を逸脱して加速した場合、加速度は円軌道を逸脱しないモデルと同様、速度ベクトルの差として表される。またその時の平均速度v'は、
【数5】
となる。
【0035】
このように、ワールド座標系で考えても、ワールド座標系から得られる平均速度から、その平均速度が「円軌道を逸脱したか否か」の判断を行うことはできない。なお、円軌道を逸脱しないモデルと円軌道を逸脱するモデルとが、同一の値(平均速度)を示す場合もある。
【0036】
3-2.<速度成分と力積の関係について>
[回転座標系モデル]
回転運動動作における回転軸は個人によっても異なるので、ワールド座標系で考えても、そのフォームがお手本通りかどうかしかわからない。しかし、速度成分を力積のパラメータととらえると、回転動作をする者の身体内の回転中心座標を定義した場合の回転座標系の速度成分は、回転座標系(身体;胴体)に対する力積のパラメータと捉えることができると考えられる。そして、身体に対する運動を身体負荷と考えることができる。
【0037】
[回転座標系:円軌道を逸脱しないモデル]
図5に示すように、任意の物体と関連付けられた物体(e.g. 肘に対する肩のように接続された物体)が存在し、連動して運動している場合、その関連付けられた物体と中心座標とを結ぶ線分と一つの軸を合致させることで、ローカルの回転座標系の座標に変換する。ローカルの回転座標系は、本明細書では単に「回転座標系」と呼ぶことがある。即ち、例えば、回転座標系ローカル座標データは、単に「回転座標系座標データ」と呼ぶことがある。
【0038】
ワールド座標系のデータを回転座標系のデータに変換することで、回転座標系での平均速度の算出が可能となる。円軌道上を運動する物体の回転座標系での平均速度vRは、
【数6】
となる。回転軸の回転方向と運動の回転方向が一致するため、v>vRとなる。(v>>vR
回転座標系の速度はワールド座標系に対して遅くなるため、速度の差分も小さくなり、加速度も中心に向かう向心力に近くなり、関節に掛かる力も圧縮荷重成分が多くなる。
【0039】
[回転座標系:円軌道を逸脱するモデル]
図6に回転座標系の円軌道を逸脱するモデルを示す。図5と同様に、任意の物体と関連付けられた物体(e.g. 肘に対する肩のように接続された物体)が存在し、連動して運動している場合、その関連付けられた物体と中心座標とを結ぶ線分と一つの軸を合致させることで、回転座標系の座標に変換する。
円軌道を逸脱するモデルの回転座標系での平均速度は、
【数7】
となる。
v'>vR'となる場合であっても、vR'/v'はvR/vよりも大きい値をとり、v'とvR'が近しい又はv'≦vR'となる場合は、円軌道を逸脱している可能性が大きいため、円軌道を逸脱していると判断することができる。「円軌道を逸脱している=過度な引張荷重が掛かっている」と考えられるため、回転動作における負荷の判定ができるのである。
【0040】
4. このように、同一の運動から生成された、ワールド座標系とその運動者のローカルの回転座標系の二つの(力積)データは次元(単位系)が同じとなるので、相対比較が可能となる。
【0041】
5. そして、同一の運動から生成した、その運動者のローカルの回転座標系の速度がワールド座標系の速度以上又は近しい場合は円軌道を逸脱した運動をしていると判定できるのである。その他にも、ワールド座標系とその運動者のローカルの回転座標系の二つの(力積)データを相対比較することで、色々な評価が可能となる。
【0042】
[回転中心の算出]
回転座標系モデルにおける回転中心の算出の仕方を次に説明する。回転運動動作として左腕で野球のボールをこちらに向かって投球動作をしている者の背骨を直線NWとし、回転運動動作をしている者の左腕の肩LS及び右腕の肩RSを結ぶ直線、即ち左肩及び右肩を結ぶそれぞれの直線R1及び直線L1を、直線LS・RSとした図を図7に示す。
図7に示す直線NW上で、かつ直線LS・RSとの最短距離となる回転中心座標点C(x,y,z)を求める。
【0043】
直線LS・RSの単位ベクトル
【数8】

【数9】
【数10】
【数11】
【数12】
【数13】
【数14】
【数15】
【数16】
【数17】
【数18】
【0044】
このようにして、回転運動動作をしている者の背骨を直線NWとし、回転運動動作をしている者の左肩及び右肩を直線LS・RSとした場合の回転中心の点Cの座標が求まる。この背骨、左肩及び右肩の各部位の位置決め(すなわち上記の例であれば、直線NW、直線LS・RSの位置決め)にあたっては、実際の回転動作を撮影したものから位置決めをしてもよいし、回転動作を骨格推定やモーションキャプチャによる回転動作に置き換えたものを使用してもよい。骨格推定の例としては特許文献2に示すものがあり、モーションキャプチャの例としては特許文献3に示すものがあり、こういった技術を利用して背骨、左腕及び右腕といった回転動作の回転軸に関わる各部位の位置決めをすることができる。
【0045】
[ワールド座標系から回転軸座標系への変換]
次に、ワールド座標系から回転軸座標系への変換の仕方を次に説明する。回転運動動作として、左腕で野球のボールをこちらに向かって投球動作をしている者の背骨を直線NWとし、回転運動動作をしている者の左腕を直線LA、及び右肩をRSとした図を図8に示す。また、図8において、左腕の肩をLS(座標xL,yL,zL)、左腕の肘をLE(座標xE,yE,zE)とする。また、上述のようにして求めた左肩LSと右肩RSを結ぶ直線と最短距離をなす背骨上の点C座標(xC,yC,zC)を回転中心とする。この段階では座標はワールド座標系である。
【0046】
次に、図9に示すように、回転軸座標系の座標原点を回転中心座標点Cに移動させ、左腕の肩LS及び左腕の肘LEの各部位の座標を変換する。
【数19】
【0047】
次に、回転中心座標点Cから左肩LSに向かうY軸回転用の単位ベクトルを求める(図10参照)。そして、単位ベクトルのオイラー角から変換行列式の三角関数を求める。
【数20】
とおくと、Y軸回転変換の
【数21】
となる。
【0048】
次に、Y軸を中心に求めた変換行列により回転させ、左腕の肩LS及び左腕の肘LEの各部位の座標を変換する(図11参照)。
【数22】
【0049】
次に、回転中心座標点Cから左肩LSに向かうZ軸回転用の単位ベクトルを求める(図12参照)。そして、単位ベクトルのオイラー角から変換行列式の三角関数を求める。
【数23】
とおくと、Z軸回転変換の
【数24】
となり、
【数25】
となり、回転中心を原点とし、身体内で軸を固定した座標軸への変換が完了する。全ての記録を同一定義で変換することにより、回転座標系座標として取り扱うことが可能となる。
【0050】
Z軸を中心に求めた変換行列により回転させ、左腕の肩LS及び左腕の肘LEの各部位の座標を変換する。回転運動の中心座標と点LSを結ぶ直線とX軸が合致する(図13参照)。各部位毎に各時間ごとに上記変換を行い、測定データを回転座標系の座標群に変換する。
【0051】
投球動作の例で言えば、首、腰、右肩、左肩、右肘、左肘のそれぞれの部位について、各時間ごとに上記変換を行い、測定データを回転座標系の座標群に変換する。
【0052】
そして、回転座標系の座標群における各時間ごとの速度vを下記式に基づいて算出する。
【数26】
[nは自然数]
【0053】
上記では、実際の動作を撮影した動画データや、実際の動作に基づく骨格推定又は実際の動作に基づくモーションキャプチャなどの回転動作の場合についての回転中心の定義からの変換について説明した。上記説明での回転中心の定義は実際の回転動作に存在するいわば実在する回転中心である。
【0054】
上記は、実際の回転動作に基づく実在する回転中心の説明をしたが、例えば、実際の動作に基づくモーションキャプチャの場合であっても、前記モーションキャプチャの種類によっては、回転動作をしている者の背骨の情報が出ないものがある。背骨の情報がないと、上記した背骨、左腕及び右腕の各部位の位置決めができない。
【0055】
[理想回転中心]
このような背骨の情報がない場合であっても、理想回転中心を考えることで、回転中心を定義することが可能である。
【0056】
図14に示す理想回転中心座標点Ciを、
【数27】
と定義する。
【0057】
回転座標系モデルにおける回転中心の算出にあたっては、上記理想回転中心を使用することもできる。
【0058】
なお、最大速度近傍の理想回転中心と実際の回転中心の一致率を評価して、この時点でパフォーマンスの評価をすることもできる。
【0059】
[回転中心一致率]
図14に示すワールド座標系原点Oから回転中心座標点Cまでの距離を、
【数28】
図14に示すワールド座標系原点Oから理想回転中心座標点Ciまでの距離を、
【数29】
とすると、
回転中心座標点Cと理想回転中心座標点Ciとの中心座標一致率は、
【数30】
となる。
【0060】
回転中心一致率(1)
[最大速度発生時の回転中心と回転動作の時間毎の回転中心からみた回転中心一致率]
最大速度発生時の回転中心と回転動作の時間毎の回転中心からみた回転中心一致率は、回転動作(例えば野球の投球動作)のパフォーマンス評価に使うことができる。この回転中心一致率を見ることで、回転動作の最終加速時(例えばボールリリース時)に身体がぶれていないかを判断する為に使うことができる。回転中心がぶれていると、並進運動にもエネルギーが使われており効率が落ちると考えられるからである。この場合は、例えば野球の投球動作の場合であれば、肘もしくは手首の最大速度発生時(ボールリリース時)の回転中心を基準にして評価する。もし、実在回転中心の背骨のデータが無い場合は、各時間の中心座標に理想回転中心を代用することで、最大速度発生時の回転中心と回転動作における時間毎の回転中心からみた回転中心一致率をみることができる。即ち、最大速度発生時の回転中心と回転動作の時間毎の回転中心からみた回転中心一致率をみることで、実際の動作の効率の評価をすることができる。
【0061】
回転中心一致率(2)
[理想回転中心と実在回転中心との回転中心一致率]
また、例えば投球動作などの回転動作における胴体の回転を考えた場合、右肩と左肩を結んだ線の中点に回転中心があることが理想と考えられる。最大速度近傍の理想回転中心と実際の回転中心である実在回転中心の一致率を評価して、100%でなければ、まだその運動者(例えば投手)は、かかる回転運動の効率を向上できる余地があることになる。即ち、理想回転中心と実在回転中心との回転中心一致率をみることで、回転運動メカニクスの効率の評価をすることができる。統合すると、最大速度近傍の回転中心が理想回転中心であった場合、その投手の胴体の運動メカニクスは回転運動のベストな状態であると評価できる。なお、背骨の情報データのない運動を解析せざるを得ない場合は、上記した理想回転中心と実在回転中心との回転中心一致率をみてメカニクスの効率の評価はできない。各データの中心座標に理想回転座標を代用するためである。
【0062】
次に、本発明の回転動作運動評価システムの一つの実施の形態を説明する。本発明の回転動作運動評価システムの一つの実施の形態のブロック図を図15に示す。
【0063】
図15に示す一つの実施の形態の回転動作運動評価システム20は、サーバ30、端末装置32、通信ネットワーク34を含む構成とされている。記憶部22及び制御部26はサーバ30に格納されており、端末装置32とインターネットや社内LAN(Local Area Network)などの通信ネットワーク34で接続されている。
【0064】
端末装置32には、情報入力操作部24及び表示部28が備わっている。さらにまた、端末装置32には、入力部36、通信インターフェース38、RAM/ROM40、CPU(制御装置・演算装置)42、メモリ(主記憶装置)44、表示インターフェース46が備わっている。情報入力操作部24としては、キーボードやタッチパネルを適用でき、表示部28としては、例えば液晶ディスプレイを適用できる。端末装置32は、種々のコンピュータを使用することができるし、スマートフォンやタブレットといったモバイル端末型のコンピュータも使用することができる。
【0065】
情報入力としては、実際の動作、骨格推定及びモーションキャプチャによる回転動作の群から得られる少なくとも一つの実在回転中心を入力するか、又は理想回転中心を入力する。或いは、実際の動作、骨格推定及びモーションキャプチャによる回転動作の群から得られる少なくとも一つの実在回転中心と理想回転中心を両方入力して回転中心を定義するようにしてもよい。前記実際の動作とは、実際の動作を動画撮影したものや、実際の動作を記録媒体に記録したもの、ライブビュー映像など、種々の実際の動作が含まれる。ここで、前記実際の動作の入力とは、例えば、実際の動作の撮影画像の入力である。実際の動作の撮影画像には、静止画も動画も含まれる。骨格推定による回転動作の入力としては、例えば実際の動作の撮影画像から骨格推定を行うアプリケーションを用いて、前記回転動作中の骨格推定の情報を入力できる。また、モーションキャプチャによる回転動作としては、例えば実際の動作の撮影画像からモーションキャプチャを行うアプリケーションを用いて、前記回転動作中のモーションキャプチャの情報を入力できる。これらは、実際の動作、骨格推定及びモーションキャプチャによる回転動作の群から実在回転中心を得ればよいもので、実在回転中心を得るにあたっては、それらの群の少なくとも一つから計算で算出することもできるし、或いはそれらの群の少なくとも一つから自動で検出したりすることもできる。なお、実在回転中心を得るにあたっては、それらの群のいずれか、例えば、実際の撮影画像や骨格推定を組み合わせて実在回転中心を得るようにしてもよい。かかる情報の入力は、情報入力操作部24から入力する。
【0066】
入力された情報に基づいて、表示部28からは回転動作運動評価が出力される。これら入力から出力まで全てプログラムで行うことが可能である。プログラムを用いて全てシステム上で行う場合、ユーザ情報の入力はID等(名前、身長、登録番号等)の入力のみで、
回転動作の撮影 → ワールド座標系データ群出力 → 回転中心検出 →回転座標系変換 → 検証
まで、全て自動で行うことができる。また、回転動作が野球のボールを投げる運動の場合、ボールを投げる方向等を検知して、左投げや右投げの定義なども自動で行うことも可能である。これらは、例えば、情報入力操作部24にカメラを設定しておけば、情報入力操作部24からユーザ情報を入力し、情報入力操作部24から画像を入力することで、入力から、評価の出力まで全てシステム上で、自動で行うことができる。
さらに、図示の例では、回転動作運動評価システム20の例を示したが、同様の構成で、プログラムを変更するだけで、回転動作運動における座標データの変換までを行う回転動作運動における座標データの変換システムとすることもできる。
【0067】
本発明のプログラムの第一の態様は、コンピュータを、回転動作運動評価システム20における各装置として機能させるためのプログラムである。即ち、本発明のプログラムの第一の態様は、コンピュータを、実際の動作、骨格推定及びモーションキャプチャによる回転動作の群から得られる少なくとも一つの実在回転中心、及び/又は理想回転中心から回転中心を定義する回転中心定義装置と、前記定義された回転中心から前記回転動作でのワールド座標系の座標データであるワールド座標系座標データを得るワールド座標系座標データ取得装置と、前記ワールド座標系座標データを、前記回転動作における人体内の回転中心を原点とする回転座標系のローカル座標データである回転座標系ローカル座標データに変換する変換装置と、前記回転動作での同一の動作から得られた、前記ワールド座標系座標データ及び前記回転座標系ローカル座標データの二つのデータの値を相対比較する相対比較装置と、を含む回転動作運動評価システムの各装置とそれぞれ機能させる。
【0068】
また、本発明のプログラムの第二の態様は、コンピュータを、座標データの変換システムにおける各装置として機能させるためのプログラムである。即ち、本発明のプログラムの第二の態様は、コンピュータを、実際の動作、骨格推定及びモーションキャプチャによる回転動作の群から得られる少なくとも一つの実在回転中心、及び/又は理想回転中心から回転中心を定義する回転中心定義装置と、前記定義された回転中心から前記回転動作での人体内の所定位置のワールド座標を時間毎に示したワールド座標系の座標データであるワールド座標系座標データを得るワールド座標系座標データ取得装置と、前記ワールド座標系座標データの中心座標を時間毎に定義する装置と、前記中心座標と所定の関節位置とを結ぶ線分に、直交座標系のうちの1軸を合致させて直交座標系データを得る装置と、前記直交座標系データを、前記回転動作における人体内の回転中心を原点とする人体内の所定位置のローカル座標を時間毎に示したローカル座標データに変換する変換装置と、を含む、回転動作運動における座標データの変換システムの各装置とそれぞれ機能させる。
【0069】
なお、図示例では、端末装置32とサーバ30とを通信ネットワーク34で接続した例を示したが、通信ネットワーク34を使用せずに、端末装置32に全てのプログラムを入力しておき、オフラインで、端末装置32を回転動作運動評価システムとして機能させたり、或いは、オフラインで、端末装置32を座標データの変換システムとして機能させたり、することも可能である。
【0070】
本発明の回転動作運動評価システム20における回転動作運動評価方法の一つの実施の形態を示すフローチャートを図16に示す。図16では、骨格推定を使って実在回転中心から回転中心を定義するパターンを示している。そして、図16に示す例では、大きく分けて、回転動作運動評価システム20で骨格推定を行うパート、回転動作運動評価システム20で解析を行う解析パート、回転動作運動評価システム20で回転動作の評価を示す表示パート、というコンピュータ処理の3つのパートに分かれている。
【0071】
図16のフローチャートにおける各ステップは下記の通りである。なお、図16のフローチャートはあくまでも一つの実施の形態であり、各ステップの順序やステップの削除や追加といった変更等はプログラムを変更することで可能であることは勿論である。
【0072】
[図16に記載のステップ(S)]
S100:<動画撮影ステップ> 実際の回転動作、例えば野球の投球動作の動画撮影が行われる。
S102:<骨格推定ステップ> S100で撮影した撮影データから骨格推定技術による骨格推定が行われる。骨格推定としては例えば、特許文献2に示されるような骨格推定技術の他、公知の種々の骨格推定技術を適用できる。
S104:<3次元座標検出ステップ> 回転動作における骨格推定から3次元座標を検出する。
S106:<3次元座標データ抽出ステップ> 検出された3次元座標データを抽出する。
S108a:<骨格イメージ挿入ステップ> 骨格イメージを挿入する。この時、S107でデータベースの骨格定義ファイルを参照する(S107:骨格定義ファイル参照ステップ)。
S110:<骨格推定動画ステップ> 骨格推定動画を表示する。ここでは、相対比較して評価するのではなく、骨格推定動画を表示して参考にする。
【0073】
次からのステップでは、本発明の特徴的なステップであるワールド座標系から回転座標系への座標データの変換ステップを含む。
S108b:<3次元座標-時間データ取得ステップ[ワールド座標系]> ワールド座標系の3次元座標の時間毎データを取得する。
S112:<回転中心座標算出ステップ> S108bの3次元座標データから回転中心座標を算出する。この時、S111でデータベースの回転中心座標算出対象骨格定義ファイルを参照する(S111:回転中心座標算出対象骨格定義ファイル参照ステップ)。
S114:<3次元座標・回転中心座標-時間データ取得ステップ[ワールド座標系]>
ワールド座標系の3次元座標データの時間毎のデータを取得する。
S116a:<単位ベクトル算出ステップ(回転中-ターゲット関節)> 回転動作中の評価ターゲットとなる関節の単位ベクトルを算出する。
S118:<単位ベクトル及びオイラー角算出ステップ> 単位ベクトル及びオイラー角を算出する。
S120:<座標変換ステップ> 座標軸をワールド座標系から回転座標系へ変換する。
S122:<3次元座標-時間データ取得ステップ[回転座標系]> 時間毎の回転座標系の3次元座標データを取得する。
S124:<関節部位速度算出ステップ[回転座標系]> 関節部位の回転座標系での速度を算出する。
S125:<関節相対位置(直線一致率)評価ステップ[回転座標系]> 評価ターゲットとなる関節部位の回転座標系での関節相対位置(直線一致率)を評価して表示する。このステップは必要に応じて設けることができる。例えば、投球の回転動作でいえば、図7に示される背骨から右肩にかけての線R1と背骨から左肩にかけての線L1との直線一致率を評価したり、背骨から右肩にかけての線R1と背骨から左腕の線LAとの直線一致率を評価したり、することができる。これら直線一致率が高い方が、より理想に近い回転動作をしていると評価することができる。
S126:<速度-時間グラフ描画ステップ[回転座標系]> 評価ターゲットとなる関節部位の回転座標系での速度を時間毎に示したグラフを描画して表示する。
S127:<加速度-時間グラフ描画ステップ[回転座標系]> 評価ターゲットとなる関節部位の回転座標系での加速度を時間毎に示したグラフを描画して表示する。
【0074】
一方、回転座標系のローカル座標データと相対比較するためのワールド座標系データも次のステップのように取得しておく。
S116b:<関節部位速度算出ステップ[ワールド座標系]> 関節部位のワールド座標系での速度を算出する。
S128:<ターゲット関節のピーク速度(Vmax)算出ステップ[ワールド座標系]> 評価ターゲットとなる関節部位のワールド座標系でのピーク速度(Vmax)を算出する。
S130:<理想回転中心算出[ワールド座標系]> 必要に応じて、理想回転中心座標を算出する。
S131:<回転中心座標一致率[ワールド座標系]> 評価ターゲットとなる関節部位のワールド座標系での回転中心座標と理想回転中心座標との一致率を評価して表示する。このステップは必要に応じて設けるようにすればよい。
S132:<速度-時間グラフ描画ステップ[ワールド座標系]> 評価ターゲットとなる関節部位のワールド座標系での速度を時間毎に示したグラフを描画して表示する。
S133:<加速度-時間グラフ描画ステップ[ワールド座標系]> 評価ターゲットとなる関節部位のワールド座標系での加速度を時間毎に示したグラフを描画して表示する。
【0075】
次に、得られた回転座標系のローカル座標データとワールド座標系の座標データを相対比較し評価する。
S135:<相対比較評価ステップ> 得られた回転座標系のローカル座標データとワールド座標系の座標データを相対比較し評価する。この相対比較では、例えば、S126の評価ターゲットとなる人体内の所定位置、例えば関節部位の回転座標系での速度を時間毎に示したグラフと、S132の評価ターゲットとなる関節部位のワールド座標系での速度を時間毎に示したグラフとを相対比較し評価する。
【0076】
回転座標系とワールド座標系の速度同士を相対比較して評価する基準としては、前記回転座標系ローカル座標データの最大速度が、前記ワールド座標系座標データの最大速度に対して、近しいか又はそれ以上である場合に、身体負荷が大きいと判定することができる。より具体的には、例えば、次のようなものである。
<評価:負荷が少ない>
評価ターゲットとなる関節部位のワールド座標系での最大速度を100%とすると、評価ターゲットとなる関節部位の回転座標系での最大速度が60%以下。
当該関節部位への負担は少なく、かかる投球動作を続けても故障しにくい投球動作である。
<評価:負荷が中程度>
評価ターゲットとなる関節部位のワールド座標系での最大速度を100%とすると、評価ターゲットとなる関節部位の回転座標系での最大速度が60%を超え80%以下。
当該関節部位への負担は相当程度発生していると考えられ、かかる投球動作を続けると注意が必要な投球動作である。
<評価:負荷大きい>
評価ターゲットとなる関節部位のワールド座標系での最大速度を100%とすると、評価ターゲットとなる関節部位の回転座標系での最大速度が80%を超えている。
当該関節部位への負担が大きく、かかる投球動作を続けると故障する可能性が大きい投球動作である。
【0077】
他にも、S135の相対比較評価ステップでは、例えば、S127の評価ターゲットとなる関節部位の回転座標系での加速度を時間毎に示したグラフの最大加速度と、S133の評価ターゲットとなる人体内の所定位置、例えば関節のワールド座標系での加速度を時間毎に示したグラフの最大加速度とを相対比較し、前記回転座標系の最大加速度が、前記ワールド座標系の最大加速度に対して、近しいか又はそれ以上である場合に、当該関節部位への負荷が大きいと判定することができる。その他にも、回転座標系とワールド座標系の人体内の所定位置の時間毎に示した速度のグラフの面積を相対比較して、前記回転座標系の時間毎に示した速度のグラフの面積が、前記ワールド座標系の時間毎に示した速度のグラフの面積に対して、近しいか又はそれ以上である場合に、当該人体内の所定位置、例えば関節部位への負荷が大きいと判定することができる。
また、回転座標系とワールド座標系の人体内の所定位置の変位を相対比較して、前記回転座標系の変位が、前記ワールド座標系の変位に対して、近しいか又はそれ以上である場合に、当該人体内の所定位置、例えば関節部位への負荷が大きいと判定することもできる。
【0078】
本発明では、他人のデータと比べるのではなく、自分自身のデータと比べる点に特徴がある。このため、回転動作による関節の負荷などの身体負荷は個人差があるが、自分自身のデータと比べるため、いままでは、成しえなかった身体負荷を可視化、即ち数値化して、評価することが可能となったのである。また、本発明の回転動作運動評価システム及び回転動作運動評価方法は、回転動作による関節の負荷などの身体負荷の評価以外にも、前記回転座標系のデータと前記ワールド座標系のデータとを相対比較して、回転動作によるパフォーマンスを評価することもできる。
【実施例
【0079】
次に実施例を説明する。本発明では、回転中心は、実際の動作、骨格推定及びモーションキャプチャによる回転動作の群から得られる少なくとも一つの実在回転中心を使用してもよいし、及び/又は理想回転中心を使用しても良い。
【0080】
(実施例1)
左投げの投手Aに、実際に左腕で野球のボールを投げてもらい、前記左腕で投球動作をする者を撮影した。かかる撮影動画から骨格推定に基づいて、回転中心を算出した。そして、左腕の投球動作における肘について、ワールド座標系とローカルの回転座標系のそれぞれ時間毎の速度を算出した。図17にワールド座標系の結果のグラフを示す。ワールド座標系の最大速度Vmaxは16.19m/secであった。図18に回転座標系の時間毎の速度の結果のグラフを示す。相対比較すると、回転座標系の時間毎の速度は、最大速度Vmaxでも前記ワールド座標系の最大速度Vmaxの16.19m/secよりもずっと遅い速度である8.67m/secであり(ワールド座標系での最大速度を100%とした場合、53.55%)、左腕の投球動作における肘への負荷は少ないと判断できる。かかる投球動作を続けても故障する可能性は少ない。
また、図19に、前記左腕の投球動作における肘について、ワールド座標系とローカルの回転座標系のそれぞれ時間毎の加速度を算出し、相対比較した結果を示す。前記回転座標系の最大加速度が、前記ワールド座標系の最大加速度に対して、近しくなっておらず、超えてもいないので、当該関節部位である肘への負荷は少ないと判断できる。
また、図20に、前記左腕の投球動作における肘について、ワールド座標系とローカルの回転座標系の肘に対する変位を算出し、相対比較した結果を示す。前記回転座標系の肘に対する変位が、前記ワールド座標系の肘に対する変位に対して、近しくなっておらず、超えてもいないので、当該関節部位である肘への負荷は少ないと判断できる。
【0081】
(実施例2)
次に、右投げの投手Bが、右腕で野球のボールを投げている録画映像から、骨格推定に基づいて、回転中心を算出した。そして、右腕の投球動作における肘について、ワールド座標系とローカルの回転座標系のそれぞれ時間毎の速度を算出した。図21にワールド座標系の結果のグラフを示す。ワールド座標系の最大速度Vmaxは16.21m/secであった。図22に回転座標系の時間毎の速度の結果のグラフを示す。相対比較すると、回転座標系の時間毎の速度の最大速度Vmaxは上記ワールド座標系のVmax 16.21m/secに近しい値に達しており、16.03m/secであった(ワールド座標系での最大速度を100%とした場合、98.89%)。このことから、かかる投球動作は肘への負荷が大きい投球動作であると判断できる。
また、図23に、前記右腕の投球動作における肘について、ワールド座標系とローカルの回転座標系のそれぞれ時間毎の加速度を算出し、相対比較した結果を示す。前記回転座標系の最大加速度が、前記ワールド座標系の最大加速度を超えており、当該関節部位である肘への負荷が大きい投球動作であると判断できる。
また、図24に、前記右腕の投球動作における肘について、ワールド座標系とローカルの回転座標系の肘に対する変位を算出し、相対比較した結果を示す。前記回転座標系の肘に対する変位が、前記ワールド座標系の肘に対する変位に対して超えており、当該関節部位である肘への負荷が大きい投球動作であると判断できる。
【0082】
上記実施例では野球の投球の例を示した。本発明で言う9.8m/sec2を超える加速度の回転動作を伴う運動とは、ワールド座標系での9.8m/sec2を超える加速度の回転動作を伴う運動を指す。本発明における9.8m/sec2を超える加速度の回転動作を伴う運動には、9.8m/sec2を超える加速度の回転動作を伴う運動であればいずれも含まれる。例えば、野球、ソフトボール、サッカー、テニス、ゴルフ、バレーボール、バスケットボール、クリケット、ホッケー、ラグビー、アメリカンフットボール、ハンドボール、水球、ボウリング、ラクロス、卓球、スカッシュ、バドミントン、アイスホッケー等の飛翔体又は滑走体を扱うスポーツにおける回転動作を伴う運動等のほか、ダンスやフィギュアスケートといった回転動作を含む運動等のいずれも含まれる。また、陸上競技、水泳や飛び込み等の競技、体操競技、曲芸、エクササイズ等であっても9.8m/sec2を超える加速度の回転動作を伴う運動であれば、本発明の回転動作を伴う運動に含まれる。これら列記した運動以外にも、回転動作を伴う運動であればいずれも含まれるのは勿論である。
【0083】
野球の投球の場合には、運動における身体の回転中心は、背骨上のいずれかの場所になるが、他のスポーツにおける回転運動、例えばサッカーにおけるボールを蹴る動作では、股関節等に回転中心が来ることとなる。このように、本発明での回転動作を伴う運動における人体内の回転中心は、運動の種類によって、それぞれ異なったりするが、運動の種類に応じて、人体内の回転中心を定義すればよい。
【0084】
本発明によれば、上述したような様々な9.8m/sec2以上の加速度の回転動作を伴う運動において、自分の回転動作の回転座標系座標データと自分の回転動作のワールド座標系データとを相対比較することで、身体の関節等に生じる身体負荷やパフォーマンス等を可視化して評価できるのである。
【符号の説明】
【0085】
10,12:骨、14:関節、16:任意の物体、18:中心、20:回転動作運動評価システム、22:記憶部、24:情報入力操作部、26:制御部、28:表示部、30:サーバ、32:端末装置、34:通信ネットワーク、36:入力部、38:通信インターフェース、40:RAM/ROM、42:CPU、44:メモリ、46:表示インターフェース。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24