IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ FSテクニカル株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-アンカーピンおよびピンニング工法 図1
  • 特許-アンカーピンおよびピンニング工法 図2
  • 特許-アンカーピンおよびピンニング工法 図3
  • 特許-アンカーピンおよびピンニング工法 図4
  • 特許-アンカーピンおよびピンニング工法 図5
  • 特許-アンカーピンおよびピンニング工法 図6
  • 特許-アンカーピンおよびピンニング工法 図7
  • 特許-アンカーピンおよびピンニング工法 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-20
(45)【発行日】2025-01-06
(54)【発明の名称】アンカーピンおよびピンニング工法
(51)【国際特許分類】
   E04G 23/02 20060101AFI20241223BHJP
【FI】
E04G23/02 B
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021065306
(22)【出願日】2021-04-07
(65)【公開番号】P2022160842
(43)【公開日】2022-10-20
【審査請求日】2024-04-01
(73)【特許権者】
【識別番号】506162828
【氏名又は名称】FSテクニカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001623
【氏名又は名称】弁理士法人真菱国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤田 正吾
【審査官】眞壁 隆一
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-204378(JP,A)
【文献】特開2005-90558(JP,A)
【文献】特開2009-121507(JP,A)
【文献】特開2020-176683(JP,A)
【文献】米国特許第4790114(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 23/00 - 23/08
E04B 1/41
E04C 1/39
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
帳壁材に仕上げ材が張り付けられた壁体を補修するピンニング工法に用いられ、前記仕上げ材を貫通し前記帳壁材に穿孔した下穴に装着されるアンカーピンであって、
尾端部に拡開部を有すると共に、先端部が前記下穴の穴底に突き当てられるアンカー本体と、
前記アンカー本体に対し前進することで、先端部に形成されたテーパー部により前記拡開部を拡開させる拡開コーンと、
前記アンカー本体と前記拡開コーンとの間に介設され、前記アンカー本体に対する前記拡開コーンの回転を前進に変換するネジ機構と、
前記仕上げ材を押える頭部を有すると共に、軸部が前記拡開コーンの尾端側に螺合する押えネジ部材と、を備えたことを特徴とするアンカーピン。
【請求項2】
前記ネジ機構は、先端側の略半部が前記アンカー本体の尾端側に螺合すると共に、尾端側の略半部が前記拡開コーンの先端側に螺合する定着ネジ部材を有し、
前記定着ネジ部材は、前記アンカー本体および前記拡開コーンのいずれか一方に対し回転不能に螺合することを特徴とする請求項1に記載のアンカーピン。
【請求項3】
前記ネジ機構は、前記拡開部を越えて前記アンカー本体の尾端側に延在し前記拡開コーンの先端側が螺合する本体雄ネジ部、および前記テーパー部を越えて前記拡開コーンの先端側に延在し前記アンカー本体の尾端側に螺合するコーン雄ネジ部、のいずれかを有していることを特徴とする請求項1に記載のアンカーピン。
【請求項4】
前記アンカー本体は、先端部に前記下穴の穴底に対し廻り止めとなる廻止め部を有していることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のアンカーピン。
【請求項5】
前記廻止め部は、前記下穴の穴底に突き当てられる先端が一文字状に形成されていることを特徴とする請求項4に記載のアンカーピン。
【請求項6】
前記帳壁材は、表裏2枚のフェイスシェル部と前記2枚のフェイスシェル部間に渡した複数のウェブ部とにより画成された中空構造を有し、
前記下穴は、前記仕上げ材および表側の前記フェイスシェル部を貫通すると共に、裏側の前記フェイスシェル部の内面を穴底とし、
前記アンカー本体は、先端を前記穴底に突き当てた状態で、前記拡開部が表側の前記フェイスシェル部の肉厚内に位置する長さを有していることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載のアンカーピン。
【請求項7】
前記仕上げ材が、石材および大型タイルのいずれかであることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載のアンカーピン。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれかに記載のアンカーピンを用い、
帳壁材に散在的に設けた張付け材を介して仕上げ材が張り付けられた壁体を補修するピンニング工法であって、
前記張付け材から外れた空隙領域に、前記仕上げ材を貫通し前記帳壁材の所定の深さまで下穴を穿孔する穿孔工程と、
先端が前記下穴の穴底に突き当てられるように、前記アンカー本体を前記下穴に装着する装着工程と、
前記下穴に挿入した前記拡開コーンにより、前記ネジ機構を介して前記アンカー本体の前記拡開部を拡開させる定着工程と、
前記仕上げ材を押さえるようにして、前記拡開コーンに前記押えネジ部材を螺合する押え工程と、を備えたことを特徴とするピンニング工法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、帳壁材に石材や大型タイル等の仕上げ材を張り付けた壁体の補修方法であるピンニング工法において、これに用いられるアンカーピンおよびピンニング工法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のピンニング工法として、いわゆる「浮き」が生じた石張り(石材)やタイル張り(大型タイル)の壁体を補修するものが知られている(特許文献1参照)。このピンニング工法では、石材等の仕上げ材が張り付けられる下地材が、中空構造を為す押出し成型セメント板で構成されており、石材が下地材にいわゆるダンゴ張りされている。
この場合のピンニング工法は、ダンゴ張りの空隙領域を狙って、石材および下地材の一部を貫通して下地材の中空部に達する挿填穴を穿孔する穿孔工程と、有底の筒状体を挿填穴に装着する装着工程と、挿填穴および筒状体の内部に接着剤を注入する注入工程と、筒状体を介して挿填穴にアンカーピンを挿填する挿填工程と、を備えている。筒状体は、周面に複数の透孔を有し、筒状体の内部に接着剤を注入すると、透孔から流出した接着剤が、筒状体の外面を覆う。
これにより、空隙領域や中空部において、透孔から流出した接着剤が硬化することで、下地材を受けとして筒状体を介してアンカーピンの引抜き耐力が増し、浮きの生じた石材を強固に定着させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-204378号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような、従来のピンニング工法では、筒状体、アンカーピンおよび接着剤の協働により、比較的脆弱な下地材(押出し成型セメント板)に対し仕上げ材(石材)を強固に定着させることが可能となっている。
一方で、地下街や地下通路等におけるこの種の壁体では、常時、下地材に地下水が浸み込んでいたり、あるいは付着していることがある。かかる場合のピンニング工法では、水分が下地材と接着剤の接触を阻むため、接着剤の使用が不適切(使用できない)となる問題があった。すなわち、この種の壁体のうち、水分や湿気にさらされているものでは、ピンニング工法に接着剤を用いることが不向きとなる問題があった。
【0005】
本発明は、帳壁材に仕上げ材が張り付けられた壁体を、接着剤を用いることなく適切に補修することができるアンカーピンおよびピンニング工法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のアンカーピンは、帳壁材に仕上げ材が張り付けられた壁体を補修するピンニング工法に用いられ、仕上げ材を貫通し帳壁材に穿孔した下穴に装着されるアンカーピンであって、尾端部に拡開部を有すると共に、先端部が下穴の穴底に突き当てられるアンカー本体と、アンカー本体に対し前進することで、先端部に形成されたテーパー部により拡開部を拡開させる拡開コーンと、アンカー本体と拡開コーンとの間に介設され、アンカー本体に対する拡開コーンの回転を前進に変換するネジ機構と、仕上げ材を押える頭部を有すると共に、軸部が拡開コーンの尾端側に螺合する押えネジ部材と、を備えたことを特徴とする。
【0007】
この構成によれば、下穴の穴底に突き当てられるアンカー本体に対し、ネジ機構を介して拡開コーンを前進させると、拡開コーンのテーパー部がアンカー本体の拡開部を拡開させ、且つネジ機構を介してアンカー本体と拡開コーンとが一体化する。帳壁材は、構造材と異なり脆弱であるが、拡開した拡開部は帳壁材に十分に喰い込むこととなり、十分な引抜き耐力を有して定着される。これにより、アンカー本体および拡開コーンが、帳壁材に機械的に強固に定着(アンカーリング)される。この拡開コーンに、押えネジ部材を螺合すると、押えネジ部材の頭部が仕上げ材を押え、仕上げ材が強固に固定される。
このように、「浮き」等が生じた仕上げ材を帳壁材に機械的に固定することができ、帳壁材に仕上げ材が張り付けられた壁体を、接着剤を用いることなく適切に補修することができる。
【0008】
この場合、ネジ機構は、先端側の略半部がアンカー本体の尾端側に螺合すると共に、尾端側の略半部が拡開コーンの先端側に螺合する定着ネジ部材を有し、定着ネジ部材は、アンカー本体および拡開コーンのいずれか一方に対し回転不能に螺合することが好ましい。
【0009】
この構成によれば、アンカー本体および拡開コーンにそれぞれ雌ネジを形成しておいて、定着ネジ部材をアンカー本体に回転不能に螺合し、或いは拡開コーンに回転不能に螺合しておく。前者では、アンカー本体から突出した定着ネジ部材の尾端側の略半部に拡開コーンを螺合し、締め付けることでアンカー本体の拡開部が拡開する。後者では、拡開コーンから突出した定着ネジ部材の先端側の略半部をアンカー本体に螺合し、締め付けることでアンカー本体の拡開部が拡開する。このように、雄ネジと雌ネジの単純な組み合わせにより、アンカー本体の機械的で施工容易な拡開構造(定着構造)を構成することができる。
【0010】
同様に、ネジ機構は、拡開部を越えてアンカー本体の尾端側に延在し拡開コーンの先端側が螺合する本体雄ネジ部、およびテーパー部を越えて拡開コーンの先端側に延在しアンカー本体の尾端側に螺合するコーン雄ネジ部、のいずれかを有していることが好ましい。
【0011】
この構成によれば、アンカー本体の尾端側に延在した本体雄ネジ部に拡開コーンを螺合し、締め付けることでアンカー本体の拡開部が拡開する。或いは、拡開コーンの先端側に延在したコーン雄ネジ部をアンカー本体に螺合し、締め付けることでアンカー本体の拡開部が拡開する。このように、少ない部品点数で、アンカー本体の機械的で施工容易な拡開構造(定着構造)を構成することができる。
【0012】
また、アンカー本体は、先端部に下穴の穴底に対し廻り止めとなる廻止め部を有していることが好ましい。
【0013】
この構成によれば、ネジ機構を介してアンカー本体に拡開コーンを螺合するときに、アンカー本体が拡開コーンと共廻りすることがなく、拡開部の拡開作業を円滑且つ迅速に行うことができる。なお、拡開コーンのアンカー本体への螺合は、インパクトドライバー等を用いて行うことが好ましい。
【0014】
この場合、廻止め部は、下穴の穴底に突き当てられる先端が一文字状に形成されていることが好ましい。
【0015】
この構成によれば、穴底を構成する帳壁材は脆弱であるが、廻止め部は穴底にめり込むことがなく、適切に廻止め機能を奏することになる。
【0016】
一方、帳壁材は、表裏2枚のフェイスシェル部と2枚のフェイスシェル部間に渡した複数のウェブ部とにより画成された中空構造を有し、下穴は、仕上げ材および表側のフェイスシェル部を貫通すると共に、裏側のフェイスシェル部の内面を穴底とし、アンカー本体は、先端を穴底に突き当てた状態で、拡開部が表側のフェイスシェル部の肉厚内に位置する長さを有していることが好ましい。
【0017】
この構成によれば、帳壁材が中空構造であっても、下穴の穴底に突き当てたアンカー本体は、その拡開部が帳壁材の表側のフェイスシェル部の肉厚内に位置することになる。すなわち、アンカー本体は、表側のフェイスシェル部内に定着される。したがって、帳壁材が、無垢のもの(無垢の部分)であることは元より中空のものであっても、アンカー本体を確実に定着させることができ、仕上げ材を適切に固定することができる。
【0018】
また、仕上げ材が、石材および大型タイルのいずれかであることが好ましい。
【0019】
この構成によれば、いわゆるダンゴ張りやビート張りの石材や大型タイルを、帳壁材に適切に定着させることができる。
【0020】
本発明のピンニング工法は、上記したアンカーピンを用い、帳壁材に散在的に設けた張付け材を介して仕上げ材が張り付けられた壁体を補修するピンニング工法であって、張付け材から外れた空隙領域に、仕上げ材を貫通し帳壁材の所定の深さまで下穴を穿孔する穿孔工程と、先端が下穴の穴底に突き当てられるように、アンカー本体を下穴に装着する装着工程と、下穴に挿入した拡開コーンにより、ネジ機構を介してアンカー本体の拡開部を拡開させる定着工程と、仕上げ材を押さえるようにして、拡開コーンに押えネジ部材を螺合する押え工程と、を備えたことを特徴とする。
【0021】
この構成によれば、アンカー本体に対し、ネジ機構を介して拡開コーンを前進させると、アンカー本体の拡開部が拡開すると共に、アンカー本体と拡開コーンとが一体化する。帳壁材は、構造材と異なり脆弱であるが、拡開した拡開部は帳壁材に十分に喰い込むこととなり、十分な引抜き耐力を有して定着される。これにより、アンカー本体および拡開コーンが、帳壁材に機械的に強固に定着(アンカーリング)される。この拡開コーンに、押えネジ部材を螺合すると、押えネジ部材の頭部が仕上げ材を押え、仕上げ材が強固に固定される。
このように、「浮き」等が生じた仕上げ材を帳壁材に機械的に固定することができ、帳壁材に仕上げ材が張り付けられた壁体を、接着剤を用いることなく適切に補修することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】実施形態のピンニング工法を実施した壁体の正面図である。
図2】実施形態のピンニング工法を説明する断面図である。
図3】アンカーピンの分解平面図である。
図4】アンカー本体の構造を表した平面図(a)および側面図(b)である。
図5】拡開コーンを表した平面構造図(a)および打込み状態の説明図(b)である。
図6】変形例に係る拡開コーンの平面構造図である。
図7】ピンニング工法における施工手順(1)を表した断面図であって、穿孔工程の図(a)および装着工程の図(b)である。
図8】ピンニング工法における施工手順(2)を表した断面図であって、定着工程の図(c)および押え工程の図(d)である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、添付の図面を参照して、本発明の一実施形態に係るアンカーピンおよびピンニング工法について説明する。ピンニング工法(アンカーピンニング工法)は、タイルや石材等の仕上げ材に「浮き」(剥離)が生じた、外壁や吹き抜け・ホールの内壁等の壁体を補修するものである。実施形態のピンニング工法は、帳壁材に石材がダンゴ張りされた壁体を補修対象とするものであるが、この壁体は一部が地下水に晒される通路壁であり、帳壁材はブロック積みされたコンクリートブロックで構成されている。このため、実施形態のピンニング工法では、使用するアンカーピンが、いわゆる接着固定用のものではなく、機械固定用のものとなっている。
【0024】
[実施形態]
図1は、実施形態のピンニング工法を実施した壁体の正面図であり、図2は、実施形態のピンニング工法を説明する断面図である。両図に示すように、壁体1は、コンクリートブロック2aを積み上げて構成した帳壁ブロック2(帳壁材)と、張付け材3を介して帳壁ブロック2の表面に張り付けられた石材4(仕上げ材)と、を有している。また、言うまでもないが、コンクリートブロック2aは、表裏2枚のフェイスシェル部5a,5bと、2枚のフェイスシェル部5a,5b間に渡した複数のウェブ部6と、により画成された複数の中空部7を有する中空構造を有している。
【0025】
帳壁ブロック2に形成するアンカーピン10用の下穴8は、中空部7に臨んで穿孔される場合(図2参照)とウェブ部6に臨んで穿孔される場合とが生ずるが、いずれもその穴底8aは、裏側のフェイスシェル部5bの内面の位置としている。すなわち、下穴8の穿孔寸法は、石材4の表面から裏側のフェイスシェル部5bの内面までの距離とし、表側のフェイスシェル部5a内にアンカーピン10を定着させるようにしている。
【0026】
石材4は、モルタルのダンゴ張りにより帳壁ブロック2の表面に張り付けられている。すなわち、石材4は、その裏面の5か所に散在的(島状)に張付け材3(モルタル)を盛り付け、この状態で帳壁ブロック2に張り付けられている。このため、1の石材4と帳壁ブロック2との間には、平面内において、5か所に設けた張付け材3と、張付け材3から外れた空隙領域9とが生じている。また、石材4の相互間には、目地4aが設けられている。
【0027】
そして、特に図示しないが、この実施形態では、一部の張付け材3と石材4との間、或いは一部の張付け材3と帳壁ブロック2との間に剥離(「浮き」)が生じているものとする。そこで、上記の空隙領域9を狙って、1の石材4につき4か所にピンニングを実施する。なお、石材4には、規格石(大理石や花崗岩等)、テラゾ、テラコッタ、擬石等が含まれ、張付け材3には、モルタルの他、接着剤、漆喰等が含まれる。
【0028】
図2に示すように、このピンニング工法に用いるアンカーピン10は、下穴8の奥側から順に、アンカー本体11、定着ネジ部材12、拡開コーン13および押えネジ部材14の4つの部品で構成されている。このピンニング工法では、定着ネジ部材12をねじ込んだアンカー本体11を下穴8に投入し、これに拡開コーン13をねじ込んで締め付け、アンカー本体11および拡開コーン13を帳壁ブロック2に定着させる。次に、拡開コーン13に押えネジ部材14をねじ込んで、石材4を拡開コーン13に固定する。
【0029】
[アンカーピン]
図2および図3に示すように、アンカーピン10は、尾端部に拡開部16を有するアンカー本体11と、先端部にテーパー部17を有しアンカー本体11の拡開部16を拡開させる拡開コーン13と、先端側の略半部がアンカー本体11に螺合すると共に、尾端側の略半部が拡開コーン13に螺合する定着ネジ部材12と、石材4を押える頭部18を有して拡開コーン13の尾端側に螺合する押えネジ部材14と、を備えている。そして、これらアンカー本体11、拡開コーン13、定着ネジ部材12および押えネジ部材14は、スチールやステンレススチール等で形成されている。
【0030】
図3および図4に示すように、アンカー本体11は、下穴8よりわずかに細径に形成され、先端部に形成した廻止め部21と、尾端部に形成された拡開部16と、拡開部16に連なるように尾端側に形成した固定雌ネジ部22と、を有している。廻止め部21は、先端部を両側から削ぎ落すように加工され、下穴8の穴底8a(裏側のフェイスシェル部5bの内面)に突き当てられる先端は、一文字状に形成されている(図4(a)および(b)参照)。
【0031】
詳細は後述するが、定着ネジ部材12を介してアンカー本体11に拡開コーン13を螺合してゆくときに、この廻止め部21が下穴8の穴底8aに突き当たって、アンカー本体11の共廻りを阻止する。廻止め部21の一文字状の先端は、マイナスドライバの形態を有し、下穴8の穴底8aとの間の回転抵抗により廻止めとして機能する。なお、廻止め部21は、その先端の中心部が軸方向に逆「V」字状や逆「U」字状に窪んでいるものであってもよい。また、図4(b)において二点鎖線で示すように、廻止め部21は、両側を「V」字状に削ぎ落すように加工されたものであってもよい。
【0032】
拡開部16は、筒状に形成されたアンカー本体11の尾端部に十字状の深い切込みを入れることで、形成されている(図4(a)参照)。詳細は後述するが、拡開部16は、定着ネジ部材12を介して拡開コーン13のテーパー部17が強く押し込まれることで、十字状に切り込まれた4片が径方向の外方に拡開する。そして、拡開した拡開部16は、帳壁ブロック2(表側のフェイスシェル部5a)に喰い込むようにして、これに定着される。
【0033】
固定雌ネジ部22は、拡開部16に連なるアンカー本体11の尾端側に形成され、定着ネジ部材12の略半部が螺合する深さを有している。詳細は後述するが、固定雌ネジ部22には、定着ネジ部材12の先端側の略半部が深くねじ込まれる。具体的には、定着ネジ部材12の先端が固定雌ネジ部22の底に突き当たり、回転不能となる状態までねじ込まれる。すなわち、定着ネジ部材12は、アンカー本体11に螺合固定され、この螺合固定された定着ネジ部材12に拡開コーン13を螺合するようになっている。
【0034】
定着ネジ部材12は、いわゆる全ネジであり、固定雌ネジ部22の長さに拡開コーン13の長さの略半分を加えた全長を有している。実施形態の定着ネジ部材12は、呼び径がM4の雄ネジであり、M4の雌ネジ(固定雌ネジ部22)を形成したアンカー本体11および拡開コーン13は、その外径が6mmに形成されている。
【0035】
図3および図5に示すように、拡開コーン13は、全体として円筒状を為し、アンカー本体11と同径に形成されている。また、拡開コーン13は、表側のフェイスシェル部5aの厚みの半分に、空隙領域9の奥行寸法を加算した程度の長さに形成されている。これにより、拡開コーン13は、定着ネジ部材12の長さとの関連において、空隙領域9の奥行寸法や石材4の厚みのばらつきに対応可能となっている。
【0036】
拡開コーン13は、先端部に形成したテーパー部17と、尾端部に形成した治具掛け部24と、内側において軸方向に連続して形成した連続雌ネジ部25と、を有している。テーパー部17は、アンカー本体11の拡開部16を押し広げるべく、先細りのテーパー形状に形成されている。詳細は後述するが、下穴8内において、定着ネジ部材12を介して拡開コーン13を前進させてゆくと、テーパー部17が拡開部16に嵌合し、これを径方向外方に押し広げる。
【0037】
治具掛け部24は、筒状に形成された拡開コーン13の尾端部に一文字状の浅い切込みを入れることで、形成されている(図5(a)参照)。一方、先端部がこの治具掛け部24に係合する打込み治具26は、この治具掛け部24に係合する治具ヘッド28と治具ヘッド28に連なるにシャフト29と、を有している(図5(b)および図8(c)参照)。治具ヘッド28は、円柱部28aと一対の突起部28bから成り、円柱部28aが拡開コーン13の尾端小口部分に嵌合し、一対の突起部が28bが一文字状の浅い切込み部分に係合する。詳細は後述するが、打込み治具26を電動ドリルにセットし、治具掛け部24に治具ヘッド28を係合させて回転させることで、拡開コーン13をアンカー本体11に向かって前進させ、拡開部16を拡開させる。
【0038】
連続雌ネジ部25は、その先端側の略半部が定着ネジ部材12の螺合する領域となり、尾端側の略半部が押えネジ部材14の螺合する領域となっている(図2参照)。そして、連続雌ネジ部25は、固定雌ネジ部22と同様にM4の雌ネジで構成され、押えネジ部材14は、定着ネジ部材12と同様にM4の雄ネジで構成されている。なお、定着ネジ部材12と、アンカー本体11の固定雌ネジ部22と、拡開コーン13の連続雌ネジ部25と、により請求項に言う「ネジ機構」が構成されている。
【0039】
また、定着ネジ部材12を、アンカー本体11の固定雌ネジ部22ではなく、拡開コーン13の連続雌ネジ部25に螺合固定する構造あってもよい、かかる場合には、連続雌ネジ部25を軸方向の中間部で不連続とした構造とし、下穴8の穴底8aに突き当てたアンカー本体11に、定着ネジ部材12付きの拡開コーン13を螺合するようにする。
【0040】
図2および図3に示すように、押えネジ部材14は、皿状の頭部18と、拡開コーン13(連続雌ネジ部25)の尾端側に螺合する軸部31とを有し、いわゆる皿ネジの基本形態を有している。頭部18の表面は、ドライバー用の溝(工具溝)の無い平坦面となっており、石材4の表面と同色に着色されている。詳細は後述するが、下穴8の開口部8bは、皿状の頭部18に合わせて面取りされており、押えネジ部材14を拡開コーン13にねじ込んでゆくと、頭部18が開口部8bに嵌合し、頭部18の表面と石材4の表面とが面一となる(図2参照)。これにより、押えネジ部材14の頭部18は、石材4と同化し極めて目立ち難いものとなる。
【0041】
この場合、押えネジ部材14をねじ込む螺合治具35は、表面に工具溝の無いこの種のネジ専用のものであり、電動ドリルに装着される出力ロッド部36と、出力ロッド部36の先端に取り付けた接触ヘッド部37と、出力ロッド部36を回転自在に支持するハンドリング部38と、を有している(図8(d)参照)。接触ヘッド部37を、押えネジ部材14の頭部18に押し付けて出力ロッド部36を回転させることで、押えネジ部材14が拡開コーン13にねじ込まれる。
【0042】
[変形例]
ここで、図6を参照して、変形例に係る拡開コーン体について説明する。この変形例の拡開コーン体40は、上記の拡開コーン13と定着ネジ部材12とが一体化した形態を有している。すなわち、拡開コーン体40は、拡開コーン13と、テーパー部17を越えて拡開コーン13の先端側に延在しアンカー本体11の尾端側に螺合するコーン雄ネジ部41と、で一体に形成されている。下穴8の穴底8aに突き当てたアンカー本体11(の固定雌ネジ部22)に対し、拡開コーン体40を螺合してゆくと、アンカー本体11の拡開部16に拡開コーン13のテーパー部17が当接し、拡開部16を拡開させる。
【0043】
なお、この場合には、拡開コーン体40のコーン雄ネジ部41と、アンカー本体11の固定雌ネジ部22と、により請求項に言う「ネジ機構」が構成されている。また、特に図示しないが、拡開コーン体40に代えて、アンカー本体11に、拡開部16を越えてアンカー本体11の尾端側に延在し拡開コーン13の先端側が螺合する本体雄ネジ部を一体に形成したものであってもよい。
【0044】
[ピンニング工法]
次に、図7および図8を参照して、上記のアンカーピン10を用いたピンニング工法について説明する。このピンニング工法は、張付け材3から外れた空隙領域9に、石材4を貫通し帳壁ブロック2の所定の深さまで下穴8を穿孔する穿孔工程(図7(a))と、予め定着ネジ部材12が螺合固定されたアンカー本体11を、下穴8の穴底8aに突き当てるように装着する装着工程(図7(b))と、下穴8に挿入した拡開コーン13を定着ネジ部材12に螺合し締め付けて、アンカー本体11の拡開部16を拡開させる定着工程(図8(c))と、石材4を押さえるようにして、拡開コーン13に押えネジ部材14を螺合する押え工程(図8(d))と、を備えている。
【0045】
穿孔工程では、穿孔装置45を用いて下穴8を穿孔する(図7(a)参照)。穿孔装置45は、例えば電動ドリル(図示省略)にダイヤモンドビット46を装着して構成されている。ダイヤモンドビット46を石材4のマーキング箇所に宛がい、電動ドリルによりダイヤモンドビット46を回転させて穿孔を行う。穿孔は、石材4を貫通し、帳壁ブロック2の裏側のフェイスシェル部5bの内面に達するように行う。図示のように、下穴8が帳壁ブロック2の中空部7に達する場合の穿孔では、石材4を貫通すると共に表側のフェイスシェル部5aを貫通するものとなる。
【0046】
このようにして、下穴8を穿孔したら、続いて球形の研削ヒット(図示省略)を用いて、下穴8の開口部8bを面取りする(図7(b)参照)。この面取りにより、後に押えネジ部材14をねじ込んだときに、その頭部18の表面が石材4の表面と面一となり、きわめて目立ち難いものとなる。
【0047】
装着工程では、予め定着ネジ部材12をアンカー本体11にねじ込んでおき(螺合固定)、定着ネジ部材12付きのアンカー本体11を下穴8に装着する。この場合、アンカー本体11の先端を、帳壁ブロック2の裏側のフェイスシェル部5bの内面(下穴8の穴底8a)に突き当てるようにする(図7(b))。もっとも、続く定着工程において、拡開コーン13を下穴8に挿入するときに、先に挿入しておいたアンカー本体11を押し込むようにして突き当ててもよい。
【0048】
定着工程では、下穴8の穴底8aに突き当てたアンカー本体11に、拡開コーン13を軽く螺合しておいてから、電動ドリルにセットした打込み治具26を回転させて、拡開コーン13を絞め込む(図8(c))。この場合、アンカー本体11の拡開部16が確実に拡開するトルク値で、拡開コーン13を絞め込むようにする。これにより、拡開コーン13のテーパー部17が、アンカー本体11の拡開部16を径方向外方に押し開き、拡開部16が帳壁ブロック2(フェイスシェル部5a)に喰い込む。この結果、アンカー本体11および拡開コーン13が、帳壁ブロック2に定着された状態となる。
【0049】
押え工程では、帳壁ブロック2に定着された拡開コーン13に対し、石材4を貫通して押えネジ部材14をねじ込んでゆく。この場合も、電動ドリルにセットした螺合治具35を所定のトルクで回転させて、押えネジ部材14を絞め付ける(図8(d))。これにより、押えネジ部材14の頭部18が開口部8bに嵌合し、頭部18の表面と石材4の表面とが面一となる。また、一方で、押えネジ部材14の頭部18により、石材4が押えネジ部材14および拡開コーン13を介して、帳壁ブロック2に固定(定着)された状態となる。
【0050】
以上のように、本実施形態によれば、定着ネジ部材12を介して、アンカー本体11に拡開コーン13をねじ込むと、拡開コーン13のテーパー部17がアンカー本体11の拡開部16を拡開させ、アンカー本体11および拡開コーン13が十分な引抜き耐力をもって帳壁ブロック2に定着される。続いて、拡開コーン13に押えネジ部材14を螺合すると、押えネジ部材14の頭部18が石材4を押え、石材4が拡開コーン13に強固に固定される。このように、「浮き」等が生じた石材4を、アンカーピン10を介して帳壁ブロック2に機械的に固定することができる。すなわち、帳壁ブロック2に石材4が張り付けられた壁体1を、接着剤を用いることなく適切に補修することができる。
【0051】
また、アンカー本体11の拡開部16を、帳壁ブロック2のフェイスシェル部5aの肉厚内で拡開させるようにしているため、帳壁ブロック2が中空構造であっても、石材4を帳壁ブロック2に適切に定着させることができる。
【0052】
なお、本実施形態では、帳壁材としてコンクリートブロック(帳壁ブロック2)を例に説明したが、本発明は、押出し成型セメント板、ケイ酸カルシウム板、ALC板等の帳壁材を下地とする壁体にも適用可能である。
【符号の説明】
【0053】
1…壁体、2…帳壁ブロック、3…張付け材、4…石材、5a,5b…フェイスシェル部、8…下穴、8a…穴底、9…空隙領域、10…アンカーピン、11…アンカー本体、12…定着ネジ部材、13…拡開コーン、14…押えネジ部材、16…拡開部、17…テーパー部、18…頭部、21…廻止め部、22…固定雌ネジ部、25…連続雌ネジ部、31…軸部、40…拡開コーン体、41…コーン雄ネジ部

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8