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特許7607924インデンテーションマッピング装置及びインデンテーションマッピング方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-20
(45)【発行日】2025-01-06
(54)【発明の名称】インデンテーションマッピング装置及びインデンテーションマッピング方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 3/40 20060101AFI20241223BHJP
   G06N 7/00 20230101ALI20241223BHJP
   G06F 17/17 20060101ALI20241223BHJP
   G06N 99/00 20190101ALI20241223BHJP
【FI】
G01N3/40 A
G06N7/00
G06F17/17
G06N99/00 180
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021090684
(22)【出願日】2021-05-28
(65)【公開番号】P2022182897
(43)【公開日】2022-12-08
【審査請求日】2024-04-10
(73)【特許権者】
【識別番号】599011687
【氏名又は名称】学校法人 中央大学
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100097238
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 治
(74)【代理人】
【識別番号】100213436
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 直俊
(72)【発明者】
【氏名】米津 明生
(72)【発明者】
【氏名】古谷 拓己
【審査官】外川 敬之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/004211(WO,A1)
【文献】特開2019-159933(JP,A)
【文献】特表2016-502667(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 3/40
G06N 7/00
G06F 17/17
G06N 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料表面に押し込まれる圧子と、
前記圧子の押し込み位置としての探索点を決定する制御部と、
前記圧子に作用する圧縮荷重及び前記圧子の押し込み深さを測定する測定部と、
前記探索点及び前記測定部が測定した測定結果を含むマッピングデータを記憶する記憶部と、を備え、
前記制御部は、前記記憶部に記憶されている前記マッピングデータに基づいてベイズ最適化を行い次回の前記探索点を決定するインデンテーションマッピング装置。
【請求項2】
前記探索点は、前記試料表面を複数の領域に分割したセル領域から選択される請求項1に記載のインデンテーションマッピング装置。
【請求項3】
前記セル領域の間隔は、前記圧子の押し込み時において前記圧子が前記試料表面に接触する部分の幅よりも大きい請求項2に記載のインデンテーションマッピング装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記マッピングデータに基づいてガウス過程による予測関数を取得し、前記予測関数の平均と分散とに基づいて獲得関数を取得し、前記獲得関数の値が最大となる仮の探索点を決定し、前記セル領域のうち既に前記圧子が押し込まれた前記セル領域を除き、前記仮の探索点と最も距離が近い前記セル領域を次回の前記探索点として決定する請求項3に記載のインデンテーションマッピング装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記マッピングデータに基づいてガウス過程による予測関数を取得し、この予測関数の平均をマッピング結果として出力する請求項1から3のいずれか1項に記載のインデンテーションマッピング装置。
【請求項6】
試料表面に圧子を押し込む圧子押し込み工程と、
前記圧子の押し込み位置としての探索点を決定する位置決定工程と、
前記圧子に作用する圧縮荷重及び前記圧子の押し込み深さを測定する測定工程と、を含み、
前記位置決定工程は、前記探索点及び前記測定工程で測定した測定結果を含むマッピングデータに基づいてベイズ最適化を行い次回の前記探索点を決定するインデンテーションマッピング方法。
【請求項7】
前記試料表面を複数のセル領域に分割する分割工程を更に含み、
前記位置決定工程は、前記セル領域から前記探索点を選択する請求項6に記載のインデンテーションマッピング方法。
【請求項8】
前記分割工程は、前記セル領域の間隔を、前記圧子の押し込み時において前記圧子が前記試料表面に接触する部分の幅よりも大きく分割する請求項7に記載のインデンテーションマッピング方法。
【請求項9】
前記位置決定工程は、前記マッピングデータに基づいてガウス過程による予測関数を取得し、前記予測関数の平均と分散とに基づいて獲得関数を取得し、前記獲得関数の値が最大となる仮の探索点を決定し、前記セル領域のうち既に前記圧子が押し込まれた前記セル領域を除き、前記仮の探索点と最も距離が近い前記セル領域を次回の前記探索点として決定する請求項8に記載のインデンテーションマッピング方法。
【請求項10】
前記マッピングデータに基づいてガウス過程による予測関数を取得し、この予測関数の平均をマッピング結果として出力する出力工程を更に含む請求項6から9のいずれか一項に記載のインデンテーションマッピング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インデンテーションマッピング装置及びインデンテーションマッピング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ある物理量を1つ以上のパラメータからなるパラメータ空間上の各点座標の条件で測定し、その物理量のパラメータ空間上での分布を得るマッピング測定を行うマッピング方法及び測定装置が記載されている。このマッピング方法及び測定装置では、マッピング測定の途中に、コンピュータを利用して、それまでに測定した点の座標と物理量とを解析してその物理量の分布を近似する応答曲面を取得した後、その応答曲面の近似精度がより高まるように以降に測定する点の座標を決めて測定を行なう。応答曲面の取得には、多項式近似、Radial Basis Function法、スプライン補間、ガウス過程回帰、Kriging法、ロジスティック回帰を用いることができる。
【0003】
特許文献2には、解析装置などが記載されている。解析装置は、複数のパラメータを用いて対象の事象を解析する解析モデルによって解析された解析結果を取得する取得部と、ベイズ最適化手法により、取得部により取得された解析結果に基づいて、対象の事象が解析モデルによって解析されたときの複数のパラメータの組み合わせを評価し、評価した複数のパラメータの組み合わせごとの評価結果に基づいて、
複数のパラメータの組み合わせの中から、解析モデルのパラメータの組み合わせを決定する最適化処理部と、を備える。
【0004】
特許文献3には、製品に要求される要求項目を満たすように、製品を構成する構成要素の設計値を求める製品設計装置及び製品設計方法が記載されている。例えばこの製品設計装置は複数の要求項目を満たすように、複数の構成要素における複数の設計値を、要求項目を目的変数とし構成要素を説明変数とする多点探索のベイズ最適化を用いることによって求める設計処理部と、設計処理部で求めた複数の設計値を出力する出力部とを備えている。
【0005】
特許文献2、3に記載されるように、いわゆる最適化の手法としてベイズ最適化が知られている(特許文献2、3参照)。ベイズ最適化では、その最適化の過程において逐次、ガウス過程回帰によって応答曲面を求める。特許文献1に記載されるように、ガウス過程回帰も、分布の近似方法として知られたものである。
【0006】
コンビナトリアル法は、2元系、3元系などの多元系の材料をあらゆる組成で混合し、評価した後で、所望の特性を有するものに関して組成を同定する手法である。コンビナトリアル法では、一度に多くの組成を試すことができるため、何度も組成を変えて実験を繰り返す労力を省くことができる。コンビナトリアル法では、例えば多元系の材料の組成を連続的に変えて薄膜状や層状の試料に形成し、この試料の各部の特性を評価して所望の特性を有する部分を探し出す。
【0007】
特許文献4にはコンビナトリアル法の一例が記載されている。特許文献4では、様々な化合物又は材料の組合せの物理的及び化学的性質を予測が往々にして極めて難しいことが指摘されている。特許文献4に記載されたコンビナトリアル法では、単一試料において金属、非金属、金属酸化物又は合金からなる3層以上の拡散多元体であって異種金属、非金属、金属酸化物又は合金の界面部位に複数の相互拡散領域を含む拡散多元体を形成し、拡散多元体の特性を相互拡散領域付近における組成の関数として評価する。
【0008】
素材の物理的性質、特に力学特性ないし機械的特性を評価する場合に、ナノインデンテーション法による試験(以下、インデンテーション試験と記載する場合がある)を行う場合がある。特許文献5に例示されるように、ナノインデンテーション法は圧子に荷重を加えて試料に押し込むことで試料の微小領域の力学特性ないし機械的特性(以下では単に力学特性と記載する)を評価する材料試験法である。ナノインデンテーション法は、局所的な力学特性の値が必要とされる膜などの材料を直接的に評価できる試験方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2018-138873号公報
【文献】特開2019-215750号公報
【文献】特開2020-052737号公報
【文献】特開2004-347592号公報
【文献】特開2012-047625号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
コンビナトリアル法では、面内で複数の材料組成を傾斜させ、一つの試料で多くの組成ないし材料種(以下、単に材料種と記載する)の特性を評価することを目的としてコンビナトリアル薄膜が利用される場合がある。コンビナトリアル薄膜を利用して所望の力学特性を有する材料種を探索したい場合には、コンビナトリアル薄膜の表面の各所に対してインデンテーション試験を行い、コンビナトリアル薄膜全体の力学特性をマッピングする場合がある。以下では、膜状や板状の材料(以下、単に膜等と記載する場合がある)の表面の各所に対してインデンテーション試験を行い、膜等の全体の力学特性をマッピングすることを、インデンテーションマッピングと記載する場合がある。このインデンテーションマッピングに際し、コンビナトリアル薄膜の全面を対象にインデンテーション試験を行う(いわゆる、全数試験)とすると、マッピングに要する試験時間や試験回数などの手間が大きくなる。そこで、全数試験ではなく、ハイスループットなインデンテーションマッピング装置やインデンテーションマッピング方法の提供が望まれる。
【0011】
本発明は、かかる実状に鑑みて為されたものであって、その目的は、ハイスループットなインデンテーションマッピング装置及びインデンテーションマッピング方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するための本発明に係るインデンテーションマッピング装置は、
試料表面に押し込まれる圧子と、
前記圧子の押し込み位置としての探索点を決定する制御部と、
前記圧子に作用する圧縮荷重及び前記圧子の押し込み深さを測定する測定部と、
前記探索点及び前記測定部が測定した測定結果を含むマッピングデータを記憶する記憶部と、を備え、
前記制御部は、前記記憶部に記憶されている前記マッピングデータに基づいてベイズ最適化を行い次回の前記探索点を決定する。
【0013】
本発明に係るインデンテーションマッピング装置では、更に、
前記探索点は、前記試料表面を複数の領域に分割したセル領域から選択してもよい。
【0014】
本発明に係るインデンテーションマッピング装置では、更に、
前記セル領域の間隔は、前記圧子の押し込み時において前記圧子が前記試料表面に接触する部分の幅よりも大きくてもよい。
【0015】
本発明に係るインデンテーションマッピング装置では、更に、
前記制御部は、前記マッピングデータに基づいてガウス過程による予測関数を取得し、前記予測関数の平均と分散とに基づいて獲得関数を取得し、前記獲得関数の値が最大となる仮の探索点を決定し、前記セル領域のうち既に前記圧子が押し込まれた前記セル領域を除き、前記仮の探索点と最も距離が近い前記セル領域を次回の前記探索点として決定してもよい。
【0016】
本発明に係るインデンテーションマッピング装置では、更に、
前記制御部は、前記マッピングデータに基づいてガウス過程による予測関数を取得し、この予測関数の平均をマッピング結果として出力してもよい。
【0017】
上記目的を達成するための本発明に係るインデンテーションマッピング方法は、
試料表面に圧子を押し込む圧子押し込み工程と、
前記圧子の探索点を決定する位置決定工程と、
前記圧子に作用する圧縮荷重及び前記圧子の押し込み深さを測定する測定工程と、を含み、
前記位置決定工程は、前記探索点及び前記測定工程で測定した測定結果を含むマッピングデータに基づいてベイズ最適化を行い次回の前記探索点を決定する。
【0018】
本発明に係るインデンテーションマッピング方法では、更に、
前記試料表面を複数のセル領域に分割する分割工程を更に含み、
前記位置決定工程は、前記セル領域から前記探索点を選択してもよい。
【0019】
本発明に係るインデンテーションマッピング方法では、更に、
前記分割工程は、前記セル領域の間隔を、前記圧子の押し込み時において前記圧子が前記試料表面に接触する部分の幅よりも大きく分割してもよい。
【0020】
本発明に係るインデンテーションマッピング方法では、更に、
前記位置決定工程は、前記マッピングデータに基づいてガウス過程による予測関数を取得し、前記予測関数の平均と分散とに基づいて獲得関数を取得し、前記獲得関数の値が最大となる仮の探索点を決定し、前記セル領域のうち既に前記圧子が押し込まれた前記セル領域を除き、前記仮の探索点と最も距離が近い前記セル領域を次回の前記探索点として決定してもよい。
【0021】
本発明に係るインデンテーションマッピング方法では、更に、
前記マッピングデータに基づいてガウス過程による予測関数を取得し、この予測関数の平均をマッピング結果として出力する出力工程を更に含んでもよい。
【発明の効果】
【0022】
ハイスループットなインデンテーションマッピング装置及びインデンテーションマッピング方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】マッピング装置の構成の説明図である。
図2】マッピング装置の制御を説明するブロック図である。
図3】試料の表面のセル領域へ分割する態様及び探索点についての説明図である。
図4】インデンテーション試験の手順の説明図である。
図5】プロファイルの一例を示す図である。
図6】圧子と隣接するセル領域の間隔との関係を説明する図である。
図7】インデンテーションマッピングのフロー図である。
図8】初期探索点のインデンテーション試験のフロー図である。
図9】マッピングデータに基づいた予測関数の取得のフロー図である。
図10】獲得関数に基づいた次の探索点の決定のフロー図である。
図11】次の探索点のインデンテーション試験のフロー図である。
図12】実施例1の試料の説明図である。
図13】実施例1におけるインデンテーション試験及びインデンテーションマッピングの進行状況を説明する図である。
図14】実施例1における探査の履歴を説明する図である。
図15】実施例1のマッピング結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図面に基づいて、本発明の実施形態に係るインデンテーションマッピング装置及びインデンテーションマッピング方法について説明する。
【0025】
(全体構成の説明)
図1に示すように、本実施形態に係るインデンテーションマッピング装置100(以下、マッピング装置100と記載する)は、本実施形態に係るインデンテーションマッピング方法(以下、マッピング方法と記載する)を実現するものである。
【0026】
マッピング装置100は、試料9の表面に押し込まれる圧子2と、試料9の表面における圧子2の押し込み位置としての探索点を決定する制御部10と、圧子2に作用する圧縮荷重及び圧子2の押し込み深さを測定する測定部11と、探索点及び測定部11が測定した測定結果を含むマッピングデータを記憶する記憶部19と、を備えている。制御部10は、記憶部19に記憶されているマッピングデータに基づいてベイズ最適化を行い次回の探索点を決定する。
【0027】
ステージ3には、板状の試験片である試料9が、その板面の裏面をステージ3の表面に沿わせて載置される。
【0028】
本実施形態に係るマッピング方法は、試料9の表面に圧子2を押し込む圧子押し込み工程と、試料9の表面における圧子2の押し込み位置としての探索点を決定する位置決定工程と、圧子2に作用する圧縮荷重及び圧子の押し込み深さを測定する測定工程と、を含む。位置決定工程は、探索点及び測定工程で測定した測定結果を含むマッピングデータに基づいてベイズ最適化を行い次回の探索点を決定する。
【0029】
(詳細説明)
本実施形態において、インデンテーション法とは、圧子2に荷重を加えて試料9の所定の探索点に押し込むことで試料9の微小領域の力学特性ないし機械的特性(以下、単に力学特性等と記載する)を評価する材料試験法である。以下では、インデンテーション法による材料試験を、単にインデンテーション試験と記載する。本実施形態において、インデンテーションマッピングとは、試料9の表面のインデンテーション試験を行い、この結果に基づいて試料9の表面全体の力学特性等をマップ状に取得することをいう。
【0030】
(試料)
試料9は、力学特性の評価対象となる試験片である。試料9は、例えば平板状ないし薄膜状に形成される。試料9の一例は、コンビナトリアル薄膜である。
【0031】
(マッピング装置)
マッピング装置100は、一例として、台座4、台座4に支持された支柱5、台座4に支持されたステージ3、支柱5に支持された圧子支持部21、圧子支持部21に支持され、先端をステージ3に対向させて垂下する圧子2、及び、パーソナルコンピュータなどの制御装置1を備えている。
【0032】
圧子2は、ステージ3に載置された試料9に対してインデンテーション試験を行うためのチップ状の部材である。圧子2は、上述のごとく、試料9の表面の所定の探索点に押し込まれる。インデンテーション試験については後述する。
【0033】
圧子2は、一例として、一端に向けて窄む錐状に形成される。以下では、圧子2の窄む側を、単に先端と記載する。圧子2の先端は角張った(例えば尖った)形状であってもよいし、丸みを帯びた(例えば下に凸の曲面状)の形状であってもよい。圧子2の形状は、インデンテーション試験の目的に応じて任意に設定してよい。圧子2は、先端側をステージ3に対向させて、後述する圧子支持部21に装着される。すなわち、圧子2の先端とは、圧子支持部21に装着された状態における下端のことである。
【0034】
圧子支持部21は、圧子2を取り付け、圧子2を昇降させるための取付座である。圧子支持部21は、例えば厚みのある板状に形成される。圧子支持部21は、下面側に圧子2を固定する。圧子支持部21は、一端を後述する昇降装置51に支持されている。圧子支持部21は、昇降装置51により昇降駆動される。
【0035】
ステージ3は、試料9を載置するための支持座である。ステージ3の上面には平面状に形成された領域が形成されており、試料9は、板面をステージ3の上面に沿わせて載置可能とされている。ステージ3は、例えば上面全体が平面状かつ水平に形成される。ステージ3は、後述するスライド機構41により、水平方向に移動可能とされている。本実施形態では、スライド機構41上にステージ3が載置されている。
【0036】
台座4は、マッピング装置100の座部である。台座4は、上面部にスライド機構41を有する。スライド機構41は、例えば、それぞれ交差(一例として直交)する一対のスクリュと、それぞれのスクリュを回転駆動させる一対のモータとを備えてよい。スライド機構41は、モータによりそれぞれのスクリュを任意に回転させてステージ3をそれぞれのスクリュの軸方向において進退させることで、ステージ3の水平方向の移動を実現する。
【0037】
支柱5は、圧子2を昇降可能に支持する支持部材である。本実施形態では、支柱5は、下端部を台座4に支持されている。支柱5は、油圧シリンダなどの昇降機構52と位置センサ53と荷重センサ54とを有する昇降装置51を備え(図2参照)、昇降装置51に接続された圧子支持部21を上下方向(本実施形態では鉛直方向と同じ)に昇降させることにより、圧子2を昇降させる。
【0038】
図2に示すように、位置センサ53は、圧子2(図1参照)の押し込み深さを検出するセンサである。位置センサ53は、例えば圧子支持部21(図1参照)の高さ位置を検出することにより、圧子2の押し込み深さを検出してよい。位置センサ53としては、例えば光学式のセンサを用いてよい。
【0039】
荷重センサ54は、圧子2(図1参照)に作用する圧縮荷重を検出するセンサである。荷重センサ54は、例えば昇降機構52が圧子支持部21(図1参照)を下方に押し付ける力を検出することで、圧子2に作用する圧縮荷重を検出してよい。荷重センサ54としては、例えば圧電素子を備えた圧力センサを用いてよい。
【0040】
制御装置1は、制御部10と測定部11と記憶部19とを備える。制御装置1は、スライド機構41及び昇降装置51と通信して、これらの動作を制御し、且つ、これらから情報を取得する。制御装置1としては、CPUやMPUなどのプロセッサ及びメモリ装置を有するパーソナルコンピュータやPLCなどを用いてよい。
【0041】
記憶部19は、ハードディスクやフラッシュメモリなどの記憶媒体である。後述するように、制御部10と測定部11とは、記憶部19に記憶されたマッピング方法を実現するプログラムの実行によりこれらの機能を実現させてよい。
【0042】
測定部11は、圧子2(図1参照)に作用する圧縮荷重及び圧子の押し込み深さを測定する測定工程を実行する機能部である。測定部11は、記憶部19に記憶されたマッピング方法を実現するプログラムの実行によりその機能を実現されてよい。測定部11は、インデンテーション試験において、昇降装置51と通信し、その位置センサ53と荷重センサ54とから、圧子2に作用する圧縮荷重及び圧子2の押し込み深さを測定する。本実施形態においては、一例として、測定部11は、圧子2の押し込み深さの変化及びこれに伴う圧子2に作用する圧縮荷重の変化を測定する。以下では、インデンテーション試験における圧子2の押し込み深さの変化及びこれに伴う圧子2に作用する圧縮荷重の変化を、単にプロファイルと記載する場合がある。また、インデンテーション試験において圧子2の押し込み深さの変化及びこれに伴う圧子2に作用する圧縮荷重の変化を測定することを、単にプロファイルの測定と記載する場合がある。プロファイルの測定についての詳細は後述する。
【0043】
測定部11は、プロファイルを測定すると、測定結果をマッピングデータとして記憶部19に記憶する。以下の説明では、測定部11は、プロファイルを測定すると、その測定結果をマッピングデータとして記憶部19に必ず記憶する場合を仮定して説明し、各説明における記憶部19への記憶に関する説明は適宜省略する。
【0044】
制御部10は、圧子押し込み工程、位置決定工程、試料9の表面を複数のセル領域91(図3参照)に分割する分割工程、圧子押し込み工程及びマッピング結果を出力する出力工程を実行する機能部である。制御部10は、記憶部19に記憶されたマッピング方法を実現するプログラムの実行によりその機能を実現されてよい。
【0045】
制御部10は、圧子押し込み工程の実行にあたり、昇降装置51及びスライド機構41を制御して圧子2(図1参照)によるインデンテーション試験を実現する。
【0046】
制御部10は、位置決定工程の実行にあたり、記憶部19にマッピングデータが記憶されていなければ(インデンテーション試験の開始時においては)、ランダムに、又は、あらかじめ定められた探索点を初回の探索点として決定する。制御部10は、位置決定工程の実行にあたり、記憶部19に記憶されているマッピングデータに基づいてベイズ最適化を行い次回の探索点を決定する。制御部10は、出力工程の実行にあたり、記憶部19に記憶されているマッピングデータに基づいてマッピング結果の作成及びマッピング結果の出力を行う。
【0047】
制御部10は、探索点を決定し、昇降装置51及びスライド機構41を制御してこの探索点に対してインデンテーション試験を行い、測定部11にプロファイルを取得させる測定サイクルを所定回数くり返す。これにより、マッピング結果の精度が向上する。マッピング結果の精度向上については後述する。以下では、制御部10による探索点の決定、インデンテーション試験及び測定部11によるプロファイルの取得のサイクルを、単に測定サイクルと記載する場合がある。
【0048】
制御部10は、図3に示すように、探索点として、試料9の表面を複数の領域に分割したセル領域91のうちから一つを選択する。そして、制御部10は、試料9における圧子2の探索点を、セル領域91から選択する。これにより、各インデンテーション試験における、各探索点の間隔を確保することができる。
【0049】
制御部10による、試料9の表面のセル領域91への分割、探索点の決定、インデンテーション試験、測定部11によるプロファイルの取得、マッピング結果の作成及びマッピング結果の出力についての詳細は後述する。
【0050】
(インデンテーション試験)
インデンテーション試験について詳述する。図4には、インデンテーション試験の手順について状態(a)から(c)を示している。本実施形態におけるインデンテーション試験とは、圧子2に荷重を加えて試料9の所定のセル領域92に押し込むことで試料9の微小領域の力学特性等を評価する試験である。
【0051】
インデンテーション試験では、まず、ステージ3上に試料9を載置する(図4(a)参照)。
【0052】
そして、制御部10(図1参照)が決定した探索点に圧子を押し込む(図4(b)参照)。圧子2の押し込みは、圧子2に作用する圧縮荷重(以下、単に荷重と記載する)が所定値になるまで、又は、圧子2が所定の押し込み深さ(あらかじめ定めた押し込み深さ)に押し込まれるまで行う。図4(b)では、圧子2が深さhまで押し込まれている状態を例示している。
【0053】
圧子2に作用する荷重が所定値になると、又は、圧子2が所定の押し込み深さに押し込まれると、圧子2を引き戻す(図4(c)参照)。圧子2を押し込んで引き戻すと、圧子2が押し込まれていた試料9の表面部分には圧痕Pが形成される。
【0054】
図5には、インデンテーション試験における、試料9の表面への圧子2の押し込みと引き戻しに伴う圧子2に作用する荷重の変化、すなわち、プロファイルの一例を示している。図4に示すような圧子2の押し込みから引き戻しの過程(図4の(a)から(c))においては、図5に示すように、圧子2の押し込み深さの変化に伴って圧子2に作用する圧縮荷重が変化していく。図5では、所定の押し込み深さを20μmとしている場合を示している。圧子2が20μmの押し込み深さまで押し込まれるにしたがって、圧子2に作用する荷重は増大していく。圧子2が20μm(図4(b)で深さh=20μmの場合)まで押し込まれた時点では、圧子2に20(N)の荷重が加わっている。圧子2が20μmまで押し込まれた後、圧子2を引き戻す(図4(c)参照)と、圧子2に作用する荷重が減少していく。図5の例では、圧子2の押し込み深さを19μmまで引き戻した時点で圧子2に作用する荷重がゼロになっている。これは、塑性変形により試料9の表面に圧痕Pが形成されているためである(図4(c)参照)。
【0055】
(インデンテーションマッピング)
インデンテーションマッピングについて詳述する。本実施形態におけるインデンテーションマッピングとは、試料9の表面の一部にインデンテーション試験を行い、試料9の表面の一部のプロファイルを所定個数取得して、これらプロファイルに基づいて、試料9の表面全体の力学特性等をマップ状に取得することをいう。
【0056】
インデンテーションマッピングを行うにあたり、制御部10は、図3に示すように、試料9の表面を、仮想的に複数のセル領域91に分割する。
【0057】
制御部10による試料9の表面のセル領域91への仮想的な分割は、一例として以下のように行われる。制御部10は、試料9の表面の中央部分に、測定対象領域90を設定する。測定対象領域90は、一例として正方形の領域として設定してよい。以下では、測定対象領域90が正方形の領域である場合を仮定して説明する。次に、測定対象領域90をx方向及びy方向において、格子状にn等分する(ただし、nは2以上の整数)。これにより、n個のセル領域91が設定される。x方向において隣接するセル領域91,91の間隔d1とy方向において隣接するセル領域91,91の間隔d2とは等しくなる。各セル領域91には、必要に応じて座標(xi,yi)を割り当ててよい。なお、iは、1以上n以下の整数である。
【0058】
図6に示すように、隣接するセル領域91,91の間隔dは、圧子2の押し込み時において圧子2が試料9の表面に接触する部分の最大の幅rよりも大きくするとよい。幅rは、圧子2の形状と、圧子2の押し込み深さhとに基づいて算出してよい。これにより、既にインデンテーション試験を実施したセル領域91であるセル領域91aに隣接する別のセル領域91b(次のインデンテーション試験を行う対象のセル領域91)にインデンテーション試験を行う場合において、セル領域91aの圧痕Pの影響を受けずにインデンテーション試験を行える。なお、圧痕Pの影響を受ける、とは、あるセル領域91bに対してインデンテーション試験を行うにあたり、既にインデンテーション試験を実施したセル領域91aの圧痕Pの領域と重複する領域及びそのごく近傍の領域に圧子2が押し込まれ、あるセル領域91bのインデンテーション試験の結果に影響がでることをいう。間隔dは、例えば幅rの5倍以上確保するとよい。これにより、圧痕Pの外側近傍にも既に行われたインデンテーション試験の影響が残存している場合があるが、この影響を回避することができる。
【0059】
インデンテーションマッピングは、それぞれのセル領域91に対し、インデンテーション試験を行ってプロファイルを取得することによって行う。ここで、全てのセル領域91のプロファイルを取得してインデンテーションマッピングを行うこともできるが、このような全数試験を行うと、マッピングに要する試験時間や試験回数などの手間が大きくなる。そこで、マッピング装置100の制御部10は、全てのセル領域91のプロファイルを取得してインデンテーションマッピングを行うのではなく、一部のセル領域91のプロファイルを取得して、これらプロファイルに基づいてガウス過程による回帰計算(ガウス過程回帰、Gaussian Processor)を行いマッピング結果を作成して出力する。
【0060】
すなわち制御部10は、マッピング結果の出力として、取得したセル領域91のプロファイルに基づいてガウス過程による予測関数(以下では、単に予測関数と記載する場合がある)を取得(算出)し、この予測関数の平均をマッピング結果として出力する。制御部10は、マッピング結果の出力として、この予測関数を記憶部19に記憶してよい。
【0061】
マッピング結果の精度向上について詳述する。上述のごとく、制御部10は、予測関数の精度を高めるために、ベイズ最適化を行い次回の探索点を決定する位置決定工程を含む測定サイクルを繰り返す。
【0062】
本実施形態におけるベイズ最適化では、予測関数を取得と、獲得関数(acquisition function、以下、acq)の作成と、獲得関数の値が最大となる測定対象領域90(図3参照)中の座標の算出(探索)とを行う。予測関数を取得には、既に取得されたマッピングデータを用いる。
【0063】
制御部10による予測関数の取得には、インデンテーションマッピングの目的や試料9(図1参照)の特性に応じて種々のカーネルを利用できる。本実施形態では、一例として、数式1に示すMatern kernel(v=2.5)を用いてよい。なお、次式(1)において、Γ(ν)はガンマ関数であり、ν=2.5である。また、d(xi,yi)はユークリッド距離である。また、Kνは第2種変形ベッセル関数である。
【0064】
【数1】
【0065】
制御部10に作成される獲得関数の一例を数式2に示す。数式2における平均とは、予測関数における平均値である。また、分散とは、予測関数における分散である。また、定数Kは、ベイズ最適化における活用と探索の重みづけのための定数であり、インデンテーションマッピングの目的や試料9(図1参照)の特性に応じて任意に設定してよい。
【0066】
【数2】
【0067】
すなわち、制御部10は、取得した予測関数に基づいて、予測関数の平均と分散とを取得し、これら平均と分散を数式2に代入して獲得関数を作成する。なお、数式2は、本実施形態における獲得関数が、試料9(図1参照)から最も機械的強度が高い箇所を効率よく探し出し、且つ、最も機械的強度が高い箇所のマッピング結果の精度を高めることに適した獲得関数、すなわちUpper Confidence Boundである場合を例示している。一例として、最も機械的強度が高い箇所と予測される個所を少ないサイクル回数で探索したい場合(活用を優先する場合)は、定数Kの値を小さく設定すればよい。また、マッピング結果の精度を高めたい場合(探索を優先する場合)には定数Kの値を大きく設定すればよい。なお、最も機械的強度が低い箇所を効率よく探し出したい場合は、Upper Confidence Boundの獲得関数に代えて、lower confidence boundの獲得関数を用いればよい。
【0068】
上記獲得関数の値が最大となる座標の算出(探査)は、例えば公知のL-BFGS4-B法を用いて算出してよい。制御部10は、獲得関数の値が最大となる座標を次回の仮の探索点として定める。
【0069】
そして、制御部10は、仮の探索点に隣接するセル領域91(以下、隣接セルと記載する)から、既にインデンテーション試験を行ったセル領域91を除き、残り隣接セルの中から、仮の探索点と最も距離が近いセル領域91を選択し、このセル領域91を、次回の探索点として決定する。
【0070】
(インデンテーションマッピングの流れ)
以下では、図1から図3を適宜参照しつつ、図7から図11に示すフローチャートに基づいて、マッピング装置100が実現するマッピング方法における、インデンテーションマッピングの一連の流れの一例を説明する。
【0071】
まず、図7のフローチャートに基づいてインデンテーションマッピングの全体的な流れ(ステップS1からS7)を説明する。インデンテーションマッピングが開始されると、制御部10は、図3に示すように、測定対象領域90を設定し、更に測定対象領域90を複数のセル領域91に分割する(ステップS1)。
【0072】
次に、制御部10は、複数のセル領域91の中から初期探索点を3点決定し、これら初期探索点に対し、インデンテーション試験を行う(ステップS2)。インデンテーション試験の実施により、測定部11は、各探索点のプロファイルの測定結果をマッピングデータとして記憶部19に記憶する。
【0073】
次に、制御部10は、記憶部19に記憶されたマッピングデータに基づいて、予測関数を取得する(ステップS3)。
【0074】
次に、制御部10は、所定個数のプロファイルが取得されているか否かを判定する(ステップS4)。制御部10は、所定個数(例えば、所定個数として30点)のプロファイルが取得されていれば(ステップS4のYES)、ステップS7へ移行する。制御部10は、所定個数のプロファイルが取得されていなければ(ステップS4のNo)、ステップS5へ移行する。なお、所定個数はあらかじめ定めた個数でもよいし、測定対象領域90を分割した格子の全数に対する割合に対応する個数(例えば、30%に対応する個数)として定めてもよい。
【0075】
ステップS4からステップS5へ移行した場合(ステップS4のNo)、制御部10は、予測関数及び予測関数に基づいて取得した獲得関数に基づいて、次回の探索点を決定する(ステップS5)。
【0076】
図3の図示を例に説明すると、3個の初期探索点Q,Q,Qのプロファイルのみがマッピングデータとして記憶部19に記憶されている場合、制御部10は、4個目の探索点Qとして、探索点Qを決定する。つまり、探索点QからQm-1のプロファイルがマッピングデータとして記憶部19に記憶されている場合、次回の探索点Q、すなわち、m個目の探索点Qとして、探索点Qを決定する(ただし、mは4以上の整数)。
【0077】
次に、次の探索点として決定されたセル領域91に対してインデンテーション試験を行い、プロファイルの測定結果をマッピングデータとして記憶部19に記憶する(ステップS6)。ステップS6を終了すると、ステップS3に戻る。
【0078】
上述のごとく、ステップS4において、所定個数のプロファイルが取得されていれば(ステップS4のYES)、ステップS4からステップS7へ移行する。そして、制御部10は、予測関数をマッピング結果として出力し(ステップS7)、インデンテーションマッピングを終了する。制御部10は、マッピング結果の出力として、例えば記憶部19に予測関数を記憶する。
【0079】
図8のフローチャートに基づいて、図7のステップS2について詳述する。既にステップS2の説明で述べた内容は、以下の説明では省略する場合がある。
【0080】
ステップS2では、まず、制御部10は、複数のセル領域91の中から初期探索点を3点決定する(ステップS21)。初期探索点は、制御部10がランダムに選択したセル領域91を初期探索点として決定してもいいし、あらかじめ指定されたセル領域91を初期探索点として決定してもいい。図3では、初期探索点として初期探索点Q,Q,Qが選択されている場合を例示している。なお、初期探査点は3点である場合に限られず、4点以上選択されてもよい。
【0081】
次に、初期探索点の一つに対応するセル領域91の中心が圧子2の真下に位置するように、制御部10がスライド機構41にステージを移動させる(ステップS22)。そして、制御部10は昇降装置51の昇降機構52を制御して、圧子2を昇降させてインデンテーション試験を実施する(ステップS23)。
【0082】
次に、制御部10は、全ての初期探索点のインデンテーション試験を終了したか否かを判定(ステップS24)し、全ての初期探索点のインデンテーション試験を終了していなければ、ステップS22に戻る(ステップS24のNo)。制御部10は、全ての初期探索点のインデンテーション試験を終了すると、ステップS2を終了する(ステップS24のYes)。
【0083】
図9のフローチャートに基づいて、図7のステップS3について詳述する。既にステップS3の説明で述べた内容は、以下の説明では省略する場合がある。
【0084】
ステップS3では、制御部10は、記憶部19からマッピングデータを読み出して取得する(ステップS31)。次に、読みだしたマッピングデータに基づいて、ガウス過程回帰により予測関数を算出して取得し(ステップS32)、ステップS3を終了する。本実施形態では、制御部10は、取得した予測関数を記憶部19に記憶してステップS3を終了することができる。
【0085】
ステップS32について、図3の図示を例に更に説明する。3個の初期探索点Q,Q,Qのプロファイルのみがマッピングデータとして記憶部19に記憶されている場合、制御部10は、初期探索点Q,Q,Qのプロファイルに対応するマッピングデータに基づいて予測関数を取得する。探索点QからQm-1のプロファイルがマッピングデータとして記憶部19に記憶されている場合、制御部10は、探索点QからQm-1のプロファイルに対応するマッピングデータに基づいて予測関数を取得する。
【0086】
図10のフローチャートに基づいて、図7のステップS5について詳述する。既にステップS5の説明で述べた内容は、以下の説明では省略する場合がある。
【0087】
ステップS5では、まず、制御部10がステップS32で取得した予測関数の平均と分散を取得する(ステップS51)。次に、制御部10が予測関数の平均と分散に基づいて獲得関数を作成する(ステップS52)。
【0088】
次に、制御部10は、獲得関数が最大となる座標を算出する(ステップS53)。予測関数は測定対象領域90内に対応する区間において連続性を有する関数であるから、獲得関数が最大となる座標は必ずしも各セル領域の中心と一致するとは限らない。そこで、制御部10は、既にインデンテーション試験を行ったセル領域91を除く隣接セルの中から最も獲得関数の値が最大となる座標に距離が近いセル領域91を選択し、このセル領域91を、次回の探索点として決定し(ステップS54)、ステップS5を終了する。本実施形態では、制御部10は、次回の探索点として決定したセル領域91の座標を記憶部19に記憶してステップS5を終了することができる。
【0089】
図11のフローチャートに基づいて、図7のステップ6について詳述する。既にステップ6の説明で述べた内容は、以下の説明では省略する場合がある。
【0090】
ステップS6では、まず、制御部10がステップS3で次回の探索点として決定したセル領域91の座標を取得する(ステップS61)。次に、次回の探索点として決定したセル領域91の中心が圧子2の真下に位置するように、制御部10がスライド機構41にステージを移動させる(ステップS62)。そして、制御部10は昇降装置51の昇降機構52を制御して、圧子2を昇降させてインデンテーション試験を実施し(ステップS63)、ステップ6を終了する。
【0091】
(実施例の説明)
本実施例に係るマッピング方法を知いて行ったインデンテーションマッピングの一例を説明する。
【0092】
(実施例1)
図12には、実施例1の試料9を示している。試料9は、ショットピーニング加工によって、外周部に比べて中央部分が硬くなっていくように、基板の面内において硬さにグラデーションが生じるように加工された基板である。
【0093】
試料9は、ステンレス(SUS316L)の平板を基材としている。試料9は、前処理として、表面を鏡面状に研磨し、更に所定の熱処理をされている。そして、中央部分にはショットピーニングが行われ、部分的に硬化されて機械的強度が高い硬化部Sが形成されている。なお、試料9は、縦横の長さが約34mmの正方形の基材であり、厚さは約3mmである。ショットピーニングは、粒子径70μmの銅微粒子50gを、ノズル径6mmの吸引式ノズルを用い、投射圧力0.5MPa、ノズル距離10mmで、30秒かけて試料9の基盤の中央付近に向けて投射する条件で行った。
【0094】
インデンテーション試験及びインデンテーションマッピングは以下の条件で行った。インデンテーション試験は、試料9の中央部分の縦横30mmの正方形の測定対象領域90に、先端が球面状で曲率半径が400μmの圧子2(図1参照)を用い、所定の押し込み深さを21.9μmと定めて行った。測定対象領域90は、縦横を50等分して格子状のセル領域に分割した。インデンテーションマッピングは、初期探索点をランダムな3点とし、探索点の総数が200点(所定個数の一例)になるまで行った。
【0095】
図13には、インデンテーション試験及びインデンテーションマッピングの進行状況(状況(a)から(f))を示している。図13では、内部が黒で塗りつぶされた丸印が初期探索点を示し、内部が白抜きの丸印がその後に決定された探索点を示している。図13(a)から図13(f)にかけて、順次、探索点が増加している。なお、図13(a)は、三つの初期探索点を示し、図13(b)から図13(f)にかけて、探索点の総数が、34点、67点、100点、134点、200点に増加している様子を示している。
【0096】
本実施形態では獲得関数をUpper Confidence Boundとしている。そのため、図13に示されるように、インデンテーションマッピングの過程においては、圧子2に加わる荷重が大きくなる位置、すなわち、機械的強度が高い硬化部Sの領域が重点的に探査されつつも、全体としては測定対象領域90全体にばらついて探索点が設定されている。これにより、本実施形態に係るマッピング方法では、試料9のように表面中の領域内で力学特性が異なる材料に対して、自動的に効率よく最高点(もしくは最低点)を見つけることができる。
【0097】
図14には、200点の探索点の探査が終了するまでの間において、各インデンテーション試験が行われた探索点と硬化部Sの中心との距離の関係、すなわち探査の履歴を示している。なお、硬化部Sの中心とは、マッピング結果において、最も機械的強度が高いと評価された位置である。図14に示されるように、本実施例における探査の履歴においては、機械的強度が高い硬化部Sの領域が最も重点的に探査されており、次いで硬化部S外側近傍の領域が重点的に探査されている。しかし、その他の部分についても、適度の探査が行われており、探査漏れが生じにくいように探索点がばらついて選択(決定)されていることがわかる。
【0098】
図15には、実施例1のマッピング結果を可視化して示している。このマッピング結果は、200点のインデンテーション試験で取得した各探索点のプロファイルに基づいて取得した予測関数を濃淡表示により可視化したものである。図15に示されるように、硬化部S(図13参照)に対応する領域Saが機械的強度の高い領域として評価されている。硬化部Sの外側近傍の領域は、硬化部Sに近づくにつれて機械的強度が上昇していく領域として評価されている。そして、その他の領域は、おおよそ均一な機械的強度の領域として評価されている。すなわち、実施例1のマッピング結果は、試料9の表面の全面に対してインデンテーション試験を行ったものではないが、試料9の機械的強度を正しく反映した結果となっている。このように本実施形態では、全数試験を行うことなく、ハイスループットで正確なマッピング結果の取得を実現するのである。
【0099】
実施例1では、ショットピーニング加工によって基板の面内において硬さにグラデーションが生じるように加工された試料9のマッピング結果の作成事例を説明した。このようなマッピング結果の作成は、ショットピーニング加工された基板以外にも、面内で複数の材料組成を傾斜させ、一つの試料で多くの材料種の特性を評価するためのコンビナトリアル薄膜に対してももちろん行えるし、マッピング結果の作成によってより優れた材料種のスクリーニングが効率よく行えると考えられる。
【0100】
以上のようにして、ハイスループットなインデンテーションマッピング装置及びインデンテーションマッピング方法を提供することができる。
【0101】
〔別実施形態〕
(1)上記実施形態では、マッピング装置100が、試料9の表面への圧子2の押し込みと引き戻しに伴う圧子2に作用する荷重の変化であるプロファイルを取得するにあたり、
圧子2が所定の押し込み深さに押し込まれる場合を例示して説明した。しかし、プロファイルの取得は、圧子2に作用する荷重が所定の大きさになるまで押し込まれる場合においても行える。
【0102】
(2)上記実施形態では、試料9としてショットピーニング加工された基板やコンビナトリアル薄膜である場合を例示して説明したが、本実施形態に係るマッピング方法及びマッピング装置100でマッピング結果を取得できる試料9はこれらに限られず、目的に応じて任意の試料9を選択してよい。
【0103】
(3)上記実施形態では、測定対象領域90が正方形の領域である場合を仮定して説明したが、測定対象領域90は矩形状であってもよい。なお、測定対象領域90は矩形状である場合であっても、x方向において隣接するセル領域91,91の間隔d1とy方向において隣接するセル領域91,91の間隔d2とはできるだけ等しくなるように測定対象領域90を格子状に分割することが好ましい。
【0104】
(4)上記実施形態では、x方向において隣接するセル領域91,91の間隔d1とy方向において隣接するセル領域91,91の間隔d2とは等しくなる場合を説明した。しかし、間隔1dと間隔d2とはある程度等しければよく、同じ間隔であることは必須ではない。例えば間隔d1と間隔d2との間隔の違いは、プラスマイナス30%程度の相違は十分に許容される。間隔d1と間隔d2とは、圧痕Pの影響を避けられるように設定すればよい。また、マッピング結果の精度が低くならない程度に広く設定してよい。マッピング結果の精度をできるだけ高めたければ狭く設定すればよい。
【0105】
なお、上記実施形態(別実施形態を含む、以下同じ)で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することが可能であり、また、本明細書において開示された実施形態は例示であって、本発明の実施形態はこれに限定されず、本発明の目的を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明は、インデンテーションマッピング装置及びインデンテーションマッピング方法に適用できる。
【符号の説明】
【0107】
1 :制御装置
2 :圧子
3 :ステージ
4 :台座
5 :支柱
6 :ステップ
9 :試料
10 :制御部
11 :測定部
19 :記憶部
21 :圧子支持部
41 :スライド機構
51 :昇降装置
52 :昇降機構
53 :位置センサ
54 :荷重センサ
90 :測定対象領域
91 :セル領域
91a :セル領域
91b :セル領域
92 :セル領域
100 :マッピング装置(インデンテーションマッピング装置)
K :定数
P :圧痕
Q :探索点
:初期探索点(探索点)
:初期探索点(探索点)
:初期探索点(探索点)
:探索点
:探索点
m-1 :探索点
S :硬化部
Sa :領域
h :深さ
d :間隔
d1 :間隔
d2 :間隔
r :幅
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15