(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-20
(45)【発行日】2025-01-06
(54)【発明の名称】喘息を治療するための方法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/275 20060101AFI20241223BHJP
A61P 11/06 20060101ALI20241223BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20241223BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20241223BHJP
【FI】
A61K31/275
A61P11/06
A61P11/00
A61P29/00
(21)【出願番号】P 2021574818
(86)(22)【出願日】2020-06-15
(86)【国際出願番号】 US2020037696
(87)【国際公開番号】W WO2020257093
(87)【国際公開日】2020-12-24
【審査請求日】2023-06-14
(32)【優先日】2019-06-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】508285271
【氏名又は名称】オラテック セラピューティクス, インコーポレイティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100203828
【氏名又は名称】喜多村 久美
(72)【発明者】
【氏名】チャールズ エー.ディナレロ
(72)【発明者】
【氏名】カルロ マーチェッティ
【審査官】高橋 樹理
(56)【参考文献】
【文献】PNAS,2018年,Vol.115, No.7,E1530-1539
【文献】American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine,2017年,Vol.196, No.3,p.283-297
【文献】Toxicology Siences,2019年04月,Vol.170, No.2,p.462-475
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/275
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
喘息を治療するための医薬組成物であって、
前記医薬組成物が、喘息を治療するのに有効な量のダパンストリル(dapansutrile)又はその薬学的に許容される溶媒和物を含
み、かつ経口投与によって投与される、医薬組成物。
【請求項2】
気道炎症を軽減する、気道過敏症を軽減する、肺機能を改善する、及び/又は喘息の症状を軽減する、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記治療が治療的処置であり、かつ、ダパンストリルが、対象が喘息の臨床徴候及び/又は症状を示すときにその対象に投与される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記治療が予防的治療であり、かつ、ダパンストリルが、喘息の発症前に対象に投与される、請求項1に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の分野
本発明は、喘息の治療のための3-メタンスルホニルプロピオニトリル(ダパンストリル)又は薬学的に許容されるその溶媒和物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
背景
喘息は、変化及び再発する症状、可逆的な気道閉塞、気管支過敏症、及び原因となる炎症を特徴とする、よく見られる気道の慢性疾患である。喘息の急性症状としては、咳嗽、喘鳴、息切れ及び夜間覚醒が挙げられる。喘息は、少なくとも部分的に可逆的気道閉塞を伴った、気道過敏症と一緒に慢性気道炎症の状態に基づく慢性疾患と見なされる。
【0003】
喘息の病態生理学の中心になるのは、マスト細胞、好酸球、Tリンパ球、マクロファージ、樹状細胞及び好中球を含めた複数の細胞型の動員及び活性化によって媒介された、原因となる気道炎症の存在である。2型Tヘルパー(Th2)細胞は、炎症をもたらす免疫カスケードの活性化において中心的役割を果たすように見える。Th2誘導サイトカインとしては(好酸球分化と生き残りに必要とされる)IL-5及び(Th2細胞分化に重要であり、更に、IL-13と共に、IgE形成に重要であり、かつ、IgEの産生過剰及び好酸球増加症につながる)IL-4が挙げられる。粘膜肥満細胞のIgE駆動活性化は、ヒスタミンやシステイニルロイコトリエンなどの気管支収縮伝達物質、並びに炎症性サイトカインを放出する。好酸球は、炎症性酵素を含有しており、ロイコトリエンを産生し、及び様々な炎症誘発性サイトカインを発現する。気道上皮細胞はまた、炎症反応に向け、そして修飾するエオタキシンなどのサイトカインの放出を介した炎症プロセスにおける役割も果たす。急性及び慢性炎症は、気道内径や気流に影響する可能性だけではなく、(気管支痙攣に対する感受性を増強する)様々な刺激に対する既存の気管支過敏症もまた増強する可能性がある。
【0004】
気道炎症と増殖因子の産生の結果として、気道平滑筋細胞は、増殖、活性化、収縮、及び肥大を受ける可能性があり;そしてそれは、気道の気流制限に影響を及ぼす可能性がある事象である。喘息では、臨床的症状に至る主要な生理学的事象は、気道狭窄とその後の気流との干渉である。喘息の急性増悪において、気管支平滑筋収縮(気管支収縮)が急速に起こり、アレルゲン又は刺激物質を含めた様々な刺激への曝露に対応して気道を狭くする。アレルゲン誘発急性気管支収縮は、気道平滑筋を直接収縮させる、ヒスタミン、トリプターゼ、ロイコトリエン、及びプロスタグランジンを含めたマスト細胞からの伝達物質のIgE依存性放出からもたらされる。気道過敏症に影響を及ぼすメカニズムは複合的であり、それらには炎症、神経調節の機能不全、及び気道リモデリングが挙げられる。気道リモデリングは、例えば、基底膜下(sub-basement membrane)の肥厚、上皮下線維症、気道平滑筋の肥大及び過形成、血管の増生及び拡張などの構造的変化を伴い、これは、気流閉塞を増加させる、その後の永久的な気道の変化を有する。
【0005】
気道上皮及び内皮細胞機能もまた、大いに喘息にかかわる。疾病進行により、上皮基底膜下は、粘液過分泌と粘液栓の形成により厚くなる。内皮細胞完全性の変化は、気道の喘息性変化を定義する別の主要な病態生理である水腫に至る。これらの要因は、気流を更に制限するように働く。
【0006】
喘息は、IL-4、IL-5、IL-13応答の促進、アレルゲン特異的免疫グロブリン産生、好酸球増加、気道炎症、気管支収縮、及び気道過敏症を含めた優勢なTヘルパー2型(Th2)免疫応答を特徴とする。喘息に対する現行の標準治療は、コルチコステロイドとβ2作動薬との組み合わせ(抗炎症薬及び気管支拡張薬)である。これらの薬物は、多くの喘息患者に対して、許容可能な疾患のコントロールを提供する。しかし、このコルチコステロイドとβ2作動薬との組み合わせを用いた治療にもかかわらず、喘息患者の5~10%は、症候性の疾患を有すると見積もられている。
【0007】
喘息を効果的に治療する新しい方法を開発する必要がある。その方法は、最小限の副作用を伴い有効でなければならない。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、29日目の、最後のオボアルブミン(OVA)エアゾール抗原投与及び腹腔内ダパンストリル投薬の24時間後における、気管支肺胞洗浄液中の白血球特定細胞型群(左から右に向かって、マクロファージ、リンパ球、好中球、及び好酸球)の総数(平均±SEM)を示す。好酸球、喘息マウスと治療マウス(1群あたりn=8)との間で****p<0.0001。マウスは、腹腔内への60mg/kgのダパンストリルを用いて治療された。
【
図2】
図2は、ダパンストリルで治療されたマウスの肺組織の基底膜あたりの炎症細胞浸潤の体積を示す。喘息マウスと治療マウス(1群あたりn=8)との間で**p<0.01。マウスは、腹腔内への60mg/kgのダパンストリルを用いて治療された。
【
図3】
図3は、健常、喘息、及び治療マウス(1群あたりn=8)における杯細胞によって覆われた上皮基底膜の面積(平均±SEM)を示す。喘息マウスと治療マウスとの間で**p<0.01。マウスは、腹腔内への60mg/kgのダパンストリルを用いて治療された。
【
図4】
図4は、健常、喘息、及びダパンストリル治療マウスにおけるメチルコリンに対する平均±SEM気道抵抗を示す。喘息マウスと治療マウスとの間で****p<0.0001。MCh(アセチル-β-メチルコリンクロリド)誘発試験は、PBSと、それに続いて、0から100mg/mLまで濃度を高めたMChエアゾールを用いて開始した(1群あたりn=8)。マウスは、腹腔内への60mg/kgのダパンストリルを用いて治療された。
【
図5】
図5は、29日目の、最後のオボアルブミン(OVA)エアゾール抗原投与及び経口ダパンストリル投薬の24時間後における、気管支肺胞洗浄液中の白血球特定細胞型群(左から右に向かって、マクロファージ、リンパ球、好中球、及び好酸球、平均±SEM)の総数を示す。好酸球、喘息マウスと治療マウス(1群あたりn=8)との間で****p<0.0001。
【
図6】
図6は、ダパンストリルで治療されたマウスの肺組織の基底膜あたりの炎症細胞浸潤の体積を示す。喘息マウスと治療マウス(1群あたりn=8)との間で*p<0.05。
【
図7】
図7は、健常、喘息、及びダパンストリル治療マウスにおけるメチルコリンに対する平均±SEM気道抵抗を示す。喘息マウスと治療マウスとの間で**p<0.01。MCh(アセチル-β-メチルコリンクロリド)誘発試験は、PBSと、それに続いて、0から100mg/mLまで濃度を高めたMChエアゾールを用いて開始した(1群あたりn=8)。マウスは、7.5g/kg食物での食餌内のダパンストリルを用いて経口的に治療された。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の詳細な説明
発明者は、局所及び全身炎症のいくつかの全動物モデルにおいて、IL-1β及びIL-6のレベルを低下させる、3-メタンスルホニルプロピオニトリルが、喘息の治療、気道炎症の軽減、気道抵抗の軽減、肺機能の改善、喘息症状の改善、及び患者のクオリティオブライフの改善に有効であることを発見した。本発明は、喘息を治療する方法に関する。該方法は、それを必要としている対象に、喘息を治療するための有効量の3-メタンスルホニルプロピオニトリル(ダパンストリル(dapansutrile))の化合物、又はその薬学的に許容される溶媒和物を投与するステップを含む。
【0010】
【0011】
本明細書で使用される場合、「溶媒和物」とは、化合物が許容できる溶媒と一定の割合で組み合わせられている付加錯体である。許容できる溶媒としては、これだけに限定されるものではないが、水、酢酸、エタノール、及び他の適切な有機溶媒が挙げられる。
【0012】
一実施形態において、本方法は、予防的治療において効果的であり、そしてそれは、喘息の発症前に発症機序に影響するようなダパンストリルの治療によって喘息の発症に対する保護プロセスである。予防的治療によって、ダパンストリルは、喘息の発症前に、それを必要としている患者に投与される。
別の実施形態において、本方法は、患者が臨床的徴候及び/又は症状を示し始めるとき、喘息の発症後の治療的処置において効果的である。
【0013】
喘息に関係する肺の主な機能的変化としては、免疫系の機能不全、主として好酸球と好中球で構成された細胞浸潤、急性及び慢性炎症、液体貯留(水腫)、過度の粘液分泌、並びに気管支上皮傷害、線維症、及び気管支収縮を引き起こす剤に対する高い感受性に至る可能性がある気管壁の変化が挙げられる。これらの特徴は、原疾患プロセスの治療を開発するために考慮される必要がある。小動物モデルは、気道炎症、気管支括約筋に対する応答性の上昇、気管壁の変化、及び肺への好酸球と好中球の遊走における変化を模倣するように設計され得る。オボアルブミン感作による喘息のマウスモデル(Lunding, 2015b)は、例えば、ダパンストリルの気管支拡張剤有効性を評価するのに使用できる。
【0014】
喘息を治療するための本方法は、この障害に伴う病態生理に寄与する以下のプロセス:炎症、過度の細胞増殖、気道及び/又は肺組織水腫、気道過敏性、及び気管支収縮、のうちの少なくとも1つを軽減するダパンストリルの特性に基づいている。
【0015】
本方法による喘息治療の有効性の証としては、計測可能な徴候、症状、及び喘息に臨床的に関連している他の変動要素、の明白な改善が挙げられる。斯かる改善としては、血中酸素飽和度の上昇、低酸素症と炭酸過剰症の軽減、酸素補給の必要性の低下、喘鳴及び/又は咳の頻度低下、努力性呼気1秒量(FEV1)の改善、努力性肺活量(FVC)又は呼吸機能に関する他の生理学的関連パラメーターの改善、人工呼吸器の必要性の低下、肺に浸潤する炎症細胞量の減少、炎症誘発性サイトカイン及びケモカインレベルの低下、肺胞流のクリアランス速度の改善、いずれかのX線撮影法又は他の検出法によって測定される、例えば、上皮内層液の量など、の肺浮腫の軽減、乾燥及び湿肺重量、肺胞液クリアランス及び/又はX線撮影視覚化法、一般的なクオリティオブライフの向上、患者によって報告されたか又は医師によって観察された徴候、例えば、呼吸の容易さなど、並びに喘鳴及び/又は咳の重症度の低下、が挙げられる。
【0016】
本方法は、(i) 症状(昼間及び夜間の症状、活動の制限、救助薬物療法の使用)の改善、(ii) 例えば、最大呼気流量(PEF)及び/又は1秒間の努力性呼気量(FEV1)などの肺機能の改善、並びに/或いは(iii) 増悪(速度及び重症度)の低減、によって喘息を治療する。本方法は、(症状、活動の制約、情緒機能、及び環境曝露に関するスコアを含む)喘息クオリティオブライフ質問票 (AQLQ)スコアを改善する。
【0017】
本発明は、ダパンストリルが気道抵抗を軽減し、気管支-肺胞洗浄液中の炎症細胞(好酸球と好中球)及び粘液過産生を低減し、並びにマウスのオボアルブミン誘発アレルギー性気道炎症において、気道炎症を軽減することを実証した。
【0018】
本発明は、1つ以上の薬学的に許容される担体及び3-メタンスルホニルプロピオニトリルの活性化合物、又はその薬学的に許容される溶媒和物を含む医薬組成物を提供する。医薬組成物中の活性化合物又はその薬学的に許容される溶媒和物は一般に、錠剤製剤に関して約1~90%、カプセル製剤に関して1~100%、局所製剤に関して約0.01~20%、又は0.05~20%、又は0.1~20%、又は0.2~15%、又は0.5~10%、又は1~5%(w/w)、注射製剤に関して約0.1~5%、パッチ製剤に関して、0.1~5%、の量である。一般に、医薬組成物に用いられる活性化合物は、少なくとも90%、好ましくは95%、又は98%、又は99%(w/w)純粋である。
【0019】
一実施形態において、医薬組成物は、錠剤、カプセル、顆粒、細粒、粉末、シロップ、坐剤、注射液、パッチなどの剤形である。
一実施形態において、医薬組成物は、(対象が吸入する)活性化合物を含む吸入粒子のエアロゾル懸濁液の形態で存在する。吸入粒子は、吸入法にて口及び喉頭を通り抜けることができるくらい十分に小さい粒子サイズの液体又は固体であり得る。一般に、約1~10ミクロン(1~10μm)、好ましくは1~5ミクロン(1~5μm)のサイズを有する粒子は、吸い込み可能であると考えられる。ダパンストリルを含む吸入粒子は、超臨界流体技術の周知技術を使用して乾燥粉末に調製され得る。このような場合には、化合物は、適切な賦形剤と混合され、そして、適切な溶剤又はアジュバントを使用して均一な塊へと製粉される。これに続いて、この塊は、超臨界流体技術を使用した混合に供され、そして、好適な粒度分布を実現する。製剤中の粒子は、その粒子が、好適な吸入法を使用して直接肺に吸入され得るか、又は人工呼吸器を介して肺に導入され得るような、所望の粒子サイズ範囲内にある必要がある。
【0020】
不活性成分である薬学的に許容される担体は、従来の基準を使用して当業者が選択することが可能である。薬学的に許容される担体は、限定されないが、非水性ベースの溶液、懸濁液、エマルション、ミセル溶液、ゲル、及び軟膏を含む。薬学的に許容される担体は、限定されないが、生理食塩水及び電解質水溶液;塩化ナトリウム、塩化カリウム、グリセロール、デキストロースなどのイオン性及び非イオン性浸透圧剤; 水酸化物、リン酸塩、クエン酸塩、酢酸塩、ホウ酸塩などのpH調整剤及び緩衝液;及びトロラミン;亜硫酸水素塩の塩、酸及び/又は塩基、亜硫酸塩、メタ重亜硫酸塩、チオ亜硫酸塩、アスコルビン酸、アセチルシステイン、システイン、グルタチオン、ブチル化ヒドロキシアニソール、ブチル化ヒドロキシトルエン、トコフェロール、及びアスコルビルパルミチン酸塩などの抗酸化剤; レシチン、限定されないがホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン及びホスファチジルイノシトールを含むリン脂質などの界面活性剤; ポロキサマー及びポロキサミン、ポリソルベート80、ポリソルベート60、ポリソルベート20などのポリソルベート、ポリエチレングリコール及びポリプロピレングリコールなどのポリエーテル; ポリビニルアルコール及びポビドンなどのポリビニル; メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース及びヒドロキシプロピルメチルセルロースなどのセルロース誘導体及びその塩;ミネラルオイル及び白色ワセリンなどの石油派生物;ラノリン、ピーナッツオイル、ダイズオイルなどの脂肪;モノ-、ジ-、及びトリグリセリド; カルボキシポリメチレンゲル、及び疎水的に修飾された架橋アクリレートポリマーなどのアクリル酸ポリマー、デキストランなどの多糖類及びヒアルロン酸ナトリウムなどのグリコサミノグリカンを含む成分も含み得る。そのような薬学的に許容される担体は、周知の防腐剤を使用して細菌汚染から保護することができ、これらは、限定されないが、塩化ベンザルコニウム、エチレンジアミン四酢酸及びその塩、塩化ベンゼトニウム、クロルヘキシジン、クロロブタノール、メチルパラベン、チメロサール、及びフェニルエチルアルコールを含み、又は単回使用又は複数回使用の何れかのために非保存性製剤としても製剤化され得る。
【0021】
例えば、活性化合物の錠剤製剤又はカプセル製剤は、生物活性が無くかつ、活性化合物との反応を示さない他の賦形剤を含み得る。錠剤の賦形剤は、充填剤、結合剤、潤滑剤及び滑剤、崩壊剤、湿潤剤、及び放出速度調整剤が含まれ得る。結合剤は、製剤の粒子の付着を促進し、錠剤製剤にとって重要である。結合剤の例は、限定されないが、カルボキシメチルセルロース、セルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、カラヤガム、デンプン、デンプン、及びトラガカントガム、ポリ(アクリル酸)、及びポリビニルピロリドンを含む。
【0022】
活性化合物のパッチ製剤は、1,3-ブチレングリコール、ジヒドロキシアルミニウムアミノアセテート、エデト酸二ナトリウム、D-ソルビトール、ゼラチン、カオリン、メチルパラベン、ポリソルベート80、ポビドン(ポリビニルピロリドン)、プロピレングリコール、プロピルパラベン、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、ポリアクリル酸ナトリウム、酒石酸、二酸化チタン、及び精製水などのいくつかの不活性成分を含み得る。パッチ製剤はまた、乳酸エステル(例えば、乳酸ラウリル)又はジエチレングリコールモノエチルエーテルなどの皮膚透過性増強剤を含み得る。
【0023】
活性化合物を含む局所製剤は、ゲル、クリーム、ローション、液体、乳濁液、軟膏、スプレー、溶液、及び懸濁液の形態であり得る。局所製剤中の不活性成分は、限定されないが、例えば、乳酸ラウリル(皮膚軟化剤/浸透促進剤)、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(軟化剤/浸透促進剤)、DMSO(溶解度促進剤)、シリコーンエラストマー(レオロジー/テクスチャー改変剤)、カプリル酸/カプリン酸トリグリセリド(軟化剤)、オクチサレート(軟化剤/UVフィルター)、シリコーン油(軟化剤/希釈剤)、スクアレン(軟化剤)、ヒマワリ油(軟化剤)、及び二酸化ケイ素(増粘剤)を含む。
【0024】
投与方法
本発明は、喘息を治療する方法に関する。当該方法は、最初に、喘息に罹患している又は喘息を発症する傾向がある対象を特定し、喘息を治療するのに有効な量で、活性化合物ダパンストリルを対象に投与するステップを含む。本明細書で使用される「有効量」は、病的状態を緩和するか、気道炎症を軽減するか、気道過敏症を軽減するか、肺の機能を改善するか、及び/又は喘息の症状を軽減することによって、喘息を治療するために有効な量である。
【0025】
局所投与及び全身投与を含めた、肺の組織に化合物を送達するためのあらゆる方法が、本発明のために好適である。
本発明の医薬組成物は、全身投与又は局所投与により適用され得る。全身投与は、経口、非経口(静脈内、筋肉内、皮下又は直腸等)、吸入、及び他の全身投与経路を含む。全身投与において、活性化合物は、最初に、血漿に到達し、次に標的組織に分散する。
【0026】
一実施形態において、活性化合物は、肺への局所投与によって送達される。局所投与としては、吸入法及び標的薬物送達が挙げられる。吸入の方法としては、液体点滴、計量式吸入器若しくは同等物による高圧流体調製物としての点滴、ネブライザーによる煙霧化された溶液の吸入、乾燥粉末の吸入、及び人工呼吸中の気流内への可溶性若しくは乾燥物質の誘導、が挙げられる。
【0027】
一実施形態において、医薬組成物は、活性化合物を含む吸入粒子のエアロゾル懸濁液の吸入によって対象に投与される。吸入粒子は、液体又は個体(例えば、乾燥粉末)であり得、呼吸時に口及び咽頭を通過するために十分に小さい粒子サイズを有する。一般的に、約1~10ミクロン(1~10μm)の範囲にわたるが、より好ましくは1~5ミクロン(1~5μm)のサイズに及ぶ粒子が、呼吸に適すると考えられる。吸入によって送達される活性化合物の表面濃度は、化合物によって異なる可能性があるが;一般的に1×10-10~1×10-4モル/リットル、好ましくは1×10-8~1×10-5モル/リットルである。
【0028】
一実施形態において、医薬組成物は、対象に経口投与される。経口投与の投与量は、一般に少なくとも0.1mg/kg/日であり、100mg/kg/日又は200mg/kg/日未満である。例えば、経口投与の投与量は、ヒト対象に対して1~100、5~50、又は10~50mg/kg/日である。例えば、経口投与の投与量は、ヒト対象に対して100~10,000mg/日、好ましくは、500~2000、500~4000、500~4000、1000~5000、2000~5000、2000~6000、又は2000~8000mg/日である。薬物は、1日に1回、2回、3回、又は4回経口的に摂取され得る。
【0029】
一実施形態において、医薬組成物は、対象に静脈内投与される。静脈内ボーラス注射又は静脈内注入の投与量は、一般に、0.03~20、好ましくは0.03~10mg/kg/日である。
一実施形態において、医薬組成物は、対象に皮下投与される。皮下投与の投与量は、通常、0.3~20、好ましくは、0.3~3mg/kg/日である。
【0030】
当業者は、多種多様な送達機構もまた本発明に適切であることを認識するだろう。
本発明は、ヒト、ウマ、及びイヌなどの哺乳動物対象の治療に有用である。本発明は、ヒトの治療に特に有用である。
以下の実施例は、本発明をさらに説明するものである。これらの実施例は、単に本発明を例示することを意図しており、限定するものとして解釈されるべきではない。
【実施例】
【0031】
実施例1. ダパンストリル処置(腹腔内)は、マウスにおいてアレルギー性気道炎症及び粘液産生を軽減した
十分に確立された実験的なアレルギー性喘息のマウスモデル(Sel 2008, Wegmann 2005, Wegmann 2007, Lunding 2015a)を使用して、アレルギー性気管支喘息における治療オプションとしてのダパンストリルを評価し、そして、ダパンストリルが気道炎症及び気道過敏症(AHR)の発症に影響を与えるかどうか判断した。このモデルにおける炎症は、このモデルがヒト気管支喘息の主要な病理生理学的に顕著な特徴に類似するように、好酸球並びにTH2細胞の浸潤と、それに続くAHR及び粘液過産生を特徴としている。
【0032】
方法と材料
C57BL/6jマウスを、1、14、及び21日目に、150mgの水酸化アルミニウムに吸着させた10μgのOVAの3回の腹腔内(i.p.)注射によってOVA(オボアルブミン)に対して感作した。この感作は、OVA特異的TH2細胞を伴ったOVAに対する養子免疫応答と、サブクラスIgE及びIgG4のOVA特異的抗体の産生をもたらす。
【0033】
急性アレルギー性気道炎症を誘発するために、マウスを、26、27、及び28日目にOVAエアゾール(PBS中1% w/v)に3回晒した。
健常対照動物(健常群)は、PBSに対して偽感作し、それ続いてPBSエアゾールを用いて抗原投与した。非薬物処置動物(喘息群)及び薬物処置動物(処置群)を、OVAエアゾールによって感作し、それに続いてOVAエアゾールを用いて抗原投与した。処置群を、25、26、27、及び28日目に腹腔内(i.p.)注射によって60mg/kgのダパンストリルで処置し、その一方で、健常群及び喘息群を、25、26、27、及び28日目に腹腔内注射によって生理的食塩水を投与した。
【0034】
1群あたり8匹の動物を使用した。すべての動物を29日目に屠殺した。以下の測定値をLunding, 2015bに従って計測した。
・気管支肺胞管腔内への炎症細胞の全体的な浸潤
・気管支肺胞洗浄(BAL)細胞の組織学的鑑別による好酸球、好中球、及びリンパ球の特異的浸潤の測定
・気道の顕微鏡画像の撮影を含めたCASTシステム(Computer Assisted Stereological Toolbox)によるゴブレット細胞過形成
・気道過敏症を測定するためのメタコリンに対応した気道抵抗
【0035】
特に、気管支肺胞管腔に浸潤する炎症細胞亜集団(好酸球、マクロファージ、好中球、リンパ球)を、気管支肺胞洗浄液(BALF)から、サイト-スピンド及びクイック-ディフ染色細胞を使用して定量化した。さらに、炎症細胞浸潤を、ヘマトキシリン及びエオジン(HE) 染色した肺/気道横断切片から記録した。AHRを、Buxco FinePoint RCユニットによって機械的に換気したマウスにおけるメタコリン(MCh)誘発試験中の気道抵抗を記録することによって評価した。粘液過産生を、一貫した、一定の無作為サンプリングと、その後の気道内の粘液量及び気道粘膜内の粘液産生杯細胞の立体的解析を受けた、PAS(過ヨウ素酸-シフ)染色した気道横断切片で定量化した。
【0036】
結果
アレルギー性気道炎症と粘液過産生を29日目の最後のOVAエアゾール抗原投与及びダパンストリル投薬の24時間後に評価した。
図1は、29日目の白血球特定細胞型群(左から右に向かって、マクロファージ、リンパ球、好中球、及び好酸球)の総数を示す。
【0037】
毎日3回のOVAエアゾール抗原投与の前及びそれと同時に1日4回のi.p.注射として投与したダパンストリル(60mg/kg)は、BALF中の好酸球の有意な減少につながった(
図1)。喘息マウスと比較して、ダパンストリルでの処置は、BALF中の好酸球における約60%の減少(21.96×10
4細胞/mlから7.30×10
4細胞/mlへ;****p<0.0001)、好中球における70%の減少(2.41×10
4細胞/mlから0.70×10
4細胞/mlへ;p<0.01)、及びリンパ球における32%の減少(0.80×10
4細胞/mlから0.55×10
4細胞/mlへ)をもたらした。マクロファージ数は有意な減少を示さなかった(
図1)。
【0038】
図2は、肺組織内の炎症細胞数がダパンストリル処置マウスに対して喘息マウスにおいて有意に低かった(**p<0.01)ことを示す。Y軸上の標識は、「基底膜面積あたりの炎症細胞浸潤の体積(μm
3/μm
2)」を示す。炎症細胞を、コンピューター支援立体解析ツールボックス(CAST)システムを備えた顕微鏡を使用して、気道の周りの特定の距離の中でカウントした。これらのカウントは、各顕微鏡スライドの中の正規化のために基底膜に対する比を設定して、スライド依存性の差を回避した。
【0039】
図3は、健常、喘息、及び処置マウスにおける、杯細胞で覆われた上皮基底膜の面積を示す。喘息マウスと比較して、ダパンストリル-処置動物は、PAS染色気道横断切片の立体解析によって定量化した場合、杯細胞で覆われた気道粘膜の有意な減少(22.74%が17.67%まで減少した、p<0.01)を示した。
【0040】
図1~3の結果は、OVA誘発アレルギー性気道炎症モデルにおけるダパンストリル処置が、アレルギー性気道炎症及び粘液産生の有意な減少をもたらしたことを示す。
気道過敏症を、100mg/mLのメタコリンに対応する29日目の気道抵抗を計測することによって判断した。結果を
図4に示す。
【0041】
メタコリンに対応した気道抵抗は、喘息マウスにおいて5.61cm H2O・秒・ml-1及びダパンストリル処置マウスにおいて3.93cm H2O・秒・ml-1であった。ダパンストリル処置は、喘息マウスと比較したとき、気道抵抗を約60%軽減した。喘息マウスと処置マウスとの間で****p<0.0001。健常動物のベースライン気道抵抗は、2.83cm H2O・秒・ml-1であった。
【0042】
実施例2. BALF中のサイトカイン
サイトメトリックビーズアレイを、実施例1のBALF中のサイトカイン(IFN-γ、TNFα、IL-1β、IL-4、IL-5、IL-6、IL-10、IL-13、及びIL17A)の濃度を評価する方法として使用した。このアレイ内のビーズを、いくつかの関連する、NLRP3シグナル伝達によって影響を受けることが知られている、様々なサイトカインに対する特異的な抗体で被覆した。計測したすべてのサイトカインの濃度が、喘息マウスとダパンストリル処置マウスとの間でいくらかの低下を示した。IL-1β及びIL-6濃度の両方が、喘息マウスとダパンストリル処置マウスとの間で統計的に有意な低下を示した(それぞれp<0.001とp<0.05)。
【0043】
実施例3. ダパンストリル処置(経口)は、マウスにおいてアレルギー性気道炎症及び気道抵抗を軽減した
マウスモデルの実験プロトコルは、ダパンストリルを食物によって経口的に投与したことを除いて、実施例1に記載のものと同じであった。
【0044】
既に感作したマウスに、22日目に開始する、1週間にわたる7.5g/kgのダパンストリルを含有する食物ペレットを用いて自由摂取で給餌し;最初のエアゾール抗原投与は26日目であった。マウスは典型的には、1日あたりの約4gの食物を食べ、対照群に関して0mg/kg/日及び処置群に関して1,000mg/kg/日の大まかな日用量をもたらした。マウスの食餌におけるこの食物ペレット濃度(食物中7.5g/kgのダパンストリル)は、1000mg/日の用量でダパンストリルを用いて経口的に処置したヒトのものとほとんど同じ血中濃度をもたらした(40μg/mLの血中濃度;Marchetti 2018b)。
【0045】
偽感作、OVA抗原投与マウスを、健常対照者(健常)として使用した。OVA感作、OVA抗原投与喘息対照(喘息)には、ダパンストリルを含まない対照食物ペレットを給餌した。
【0046】
喘息マウスと比較して、ダパンストリル(食物)での処置は、BALF中の好酸球における約75%の減少(15.93×10
4細胞/mlから3.77×10
4細胞/mlへ;p<0.0001)、好中球における約75%の減少(1.74×10
4細胞/mlから0.43×10
4細胞/mlへ;p<0.05)、及びリンパ球における約75%の減少(1.00×10
4細胞/mlから0.26×10
4細胞/mlへ;p<0.05)をもたらした。マクロファージ数は有意な減少を示さなかった(
図5)。
【0047】
図6は、肺組織内の炎症細胞数がダパンストリル処置マウスに対して喘息マウスにおいて有意に低かった(p<0.05)ことを示す。Y軸上の標識は、「基底膜面積あたりの炎症細胞浸潤の体積(μm
3/μm
2)」を示す。炎症細胞を、コンピューター支援立体解析ツールボックス(CAST)システムを備えた顕微鏡を使用して、気道の周りの特定の距離の中でカウントした。これらのカウントは、各顕微鏡スライドの中の正規化のために基底膜に対する比を設定して、スライド依存性の差を回避した。
【0048】
喘息マウスと比較して、ダパンストリル-処置マウスはまた、PAS染色気道横断切片の立体解析によって定量化した場合、杯細胞で覆われた気道粘膜の顕著な減少(-29%;15.75%が11.16%まで減少)も示した(データ未掲載)。
【0049】
MChに対応したダパンストリル処置動物の気道抵抗は、有意に低下し、偽処置喘息対照と比較した場合、100mg/mLのMChにて約60%の低下を示した(4.57cm H2O.s/mLが3.38cm H2O.s/mLまで低下した)(図7)。喘息マウスと処置マウスとの間で**p<0.01。健常動物のベースライン気道抵抗は、100mg/mLのMChにて2.58cm H2O.s/mLであった。
【0050】
その結果は、食物摂取によるダパンストリル処置が、アレルギー性気道炎症の有意な軽減をもたらしたことを示す。
【0051】
参照文献:
Lunding L, Webering S, Vock C, et al. IL-37 requires IL-18Ra and SIGIRR/IL-1R8 to diminish allergic airway inflammation in mice. Allergy 2015a Apr;70(4):366-73.
Lunding LP, Webering S, Vock C, et al. Poly(inosinic-cytidylic) acid-triggered exacerbation of experimental asthma depends on IL-17A produced by NK cells. J Immunol 2015b;194:5615-5625 .
Marchetti C, Swartzwelter B, Koenders MI, et al. The NLRP3 Inflammasome Inhibitor OLT1177TM Suppresses Joint Inflammation in Murine Models of Acute Arthritis. Arthritis Research and Therapy 2018b;20:169.
Sel S, Wegmann M, Dicke T, et al. Effective prevention and therapy of experimental allergic asthma using a GATA-3-specific DNAzyme. J Allergy Clin Immunol 2008;121:910-916.e5.
Wegmann M, Fehrenbach H, Held T, et al. Involvement of distal airways in a chronic model of experimental asthma. Clin Exp Allergy 2005 Oct;35(10):1263-71.
Wegmann M, Goggel R, Sel S, et al. Effects of a low-molecular-weight CCR-3 antagonist on chronic experimental asthma. Am J Respir Cell Molec Bio 2007;36(1):61-7.
【0052】
本発明、並びに本発明を作成及び使用する様式及びプロセスは、関係する何れかの当業者がそれを作成及び使用できるように、完全で、明確で、簡潔かつ、正確な用語で説明される。前述の内容は、本発明の好ましい実施形態を説明しており、特許請求の範囲に記載されている本発明の範囲から逸脱することなく、変更を加えることができることを理解されたい。発明と見なされる主題を明確に示し、明確に主張するために、以下の特許請求の範囲をもって本明細書を終了することとする。