(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-20
(45)【発行日】2025-01-06
(54)【発明の名称】線源推定装置及び線源推定方法
(51)【国際特許分類】
G01T 1/16 20060101AFI20241223BHJP
G01T 1/169 20060101ALI20241223BHJP
G01T 1/00 20060101ALI20241223BHJP
G21F 9/00 20060101ALI20241223BHJP
G21C 17/00 20060101ALI20241223BHJP
【FI】
G01T1/16 A
G01T1/169 Z
G01T1/00 D
G21F9/00 Z
G21C17/00 500
(21)【出願番号】P 2022083279
(22)【出願日】2022-05-20
【審査請求日】2024-10-28
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 1.研究集会名:第14回「放射線計測フォーラム福島」 開催日:令和3年7月14日(WEB開催) 2.研究集会名:点群データ分析・可視化ワークショップ 開催日:令和3年10月29日 3.掲載アドレス:https://confit.atlas.jp/guide/event/aesj2022s/static/programpage https://confit.atlas.jp/guide/event/aesj2022s/proceedings/list 掲載日:令和4年3月2日 4.研究集会名:日本原子力学会 2022年春の年会 開催日:令和4年3月16日(WEB開催)
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】505374783
【氏名又は名称】国立研究開発法人日本原子力研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】町田 昌彦
【審査官】右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】株式会社アサノ大成基礎エンジニアリング 他,新マーケット創出・提案型事業 物理探査結果へのスパースモデリングの適用に関する研究会 報告書,2018年03月
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01T 1/16
G01T 1/169
G01T 1/00
G21F 9/00
G21C 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象区域内の測定点における放射線量の測定値から前記対象区域における放射線源の分布を推定する線源推定装置であって、
前記対象区域を分割して得られた複数の領域のそれぞれに存在すると仮定された放射線源を示す線源ベクトルを作成する線源ベクトル作成部と、
前記測定点における前記測定値を示す線量ベクトルを作成する線量ベクトル作成部と、
前記線源ベクトルが示す前記放射線源の数と前記測定点の数とに対応する行列を計算する行列計算部と、
前記対象区域における前記放射線源の分布を推定する線源推定部と、を備え、
前記線源推定部は、前記線源ベクトルと前記行列との積を前記線量ベクトルの擬似ベクトルと見做し、前記線源ベクトルをスパースベクトルとして、前記擬似ベクトルから前記線源ベクトルを復元する逆解析を行うことにより、前記放射線源の分布を推定する
ことを特徴とする線源推定装置。
【請求項2】
前記線源推定部は、前記線量ベクトルと前記擬似ベクトルとの差のL2ノルムの二乗を含む誤差項に対して、前記線源ベクトルのL1ノルムを含む正則化項を加えた、目的関数を最小化するような前記線源ベクトルを探索するLASSOを用いて前記逆解析を行う
ことを特徴とする請求項1に記載の線源推定装置。
【請求項3】
前記線源推定部は、前記線源ベクトルが示す前記放射線源のうち、前記対象区域に存在する所定構造物に対応する前記放射線源をグループ化し、Grouped LASSOを用いて前記逆解析を行う
ことを特徴とする請求項2に記載の線源推定装置。
【請求項4】
前記対象区域における前記放射線源の分布を可視化したマップを作成する可視化部を更に備え、
前記可視化部は、前記線源推定部により推定された前記放射線源の分布を前記対象区域のCGモデル又は撮像画像に重畳してVR画像又はAR画像を作成し、作成された前記VR画像又は前記AR画像を用いて、前記マップを作成する
ことを特徴とする請求項1に記載の線源推定装置。
【請求項5】
前記対象区域に浮遊又は沈着する粉塵の風況による挙動を計算する粉塵挙動計算部を更に備え、
前記線源ベクトル作成部は、前記放射線源が前記粉塵を含むと仮定して前記線源ベクトルを作成し、
前記行列計算部は、前記粉塵から前記測定点に放射される放射線が前記測定値に寄与する度合いを示す行列を含む前記行列を計算し、
前記線源推定部は、前記粉塵を含む前記放射線源の所定時刻での分布を推定し、
前記粉塵挙動計算部は、推定された前記粉塵の前記所定時刻での分布を初期条件として、前記所定時刻から所定時間経過後の前記粉塵の位置を計算し、
前記線源推定部は、前記粉塵挙動計算部の計算結果から、前記所定時間経過後の前記放射線源の分布を推定する
ことを特徴とする請求項1に記載の線源推定装置。
【請求項6】
前記線源推定部による前記放射線源の分布の推定精度が予め定められた基準以上か否かを判定する推定精度判定部と、
前記推定精度が前記基準を下回ると判定された場合、新たな前記測定点における新たな前記測定値を追加して、前記放射線源の分布を前記線源推定部に再推定させる再推定指示部と、を更に備える
ことを特徴とする請求項1に記載の線源推定装置。
【請求項7】
対象区域内の測定点における放射線量の測定値から前記対象区域における放射線源の分布を推定する線源推定方法であって、
前記対象区域を分割して得られた複数の領域のそれぞれに存在すると仮定された放射線源を示す線源ベクトルを作成することと、
前記測定点における前記測定値を示す線量ベクトルを作成することと、
前記線源ベクトルが示す前記放射線源の数と前記測定点の数とに対応する行列を計算することと、
前記対象区域における前記放射線源の分布を推定することと、を備え、
前記放射線源の分布を推定することは、前記線源ベクトルと前記行列との積を前記線量ベクトルの擬似ベクトルと見做し、前記線源ベクトルをスパースベクトルとして、前記擬似ベクトルから前記線源ベクトルを復元する逆解析を行うことにより、前記放射線源の分布を推定する
ことを特徴とする線源推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象区域における放射線源の分布を推定する線源推定装置及び線源推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
放射性物質に汚染された区域において、汚染状況を把握するためには、測定器を用いて放射線量を測定し、汚染箇所である放射線源の分布を推定することが重要である。放射線源を推定する技術の1つとして、例えば、特許文献1に開示された技術が知られている。
【0003】
特許文献1には、測定した場の分布を要素とするパターンベクトルuに対して、これを最も良く近似するパターンベクトルを生じさせるエネルギー源のパターンベクトルdを探索するエネルギー源推定方法に係る技術が開示されている。特許文献1に開示された技術は、パターンベクトルuとdのパターン一致度の評価を、パターンベクトルu及びdをそれぞれ離散型ウェーブレット変換して得られるウェーブレットスペクトルベクトルU及びD上で行うことを特徴とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
放射性物質の汚染区域において、放射線源の分布を精度良く推定するためには、多くの測定点にて放射線量を測定する必要がある。この種の測定は、放射線による被曝を伴い、且つ、手間と労力が掛かる。特に、放射線量の高い放射線源が多い場合、この種の測定は被曝量の増加を招く。しかも、汚染区域が複雑構造を有する建屋内である場合、この種の測定は更に困難を極める。したがって、放射性物質の汚染区域において、多くの測定点での測定結果を取得することは現実的に難しいので、数少ない測定結果から放射線源の分布を精度良く推定する技術が求められている。特許文献1に開示された技術は、このような事情について何ら考慮されておらず、改善の余地がある。
【0006】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、数少ない測定結果から放射線源の分布を精度良く推定することが可能な線源推定装置及び線源推定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の線源推定装置は、対象区域内の測定点における放射線量の測定値から前記対象区域における放射線源の分布を推定する線源推定装置であって、前記対象区域を分割して得られた複数の領域のそれぞれに存在すると仮定された放射線源を示す線源ベクトルを作成する線源ベクトル作成部と、前記測定点における前記測定値を示す線量ベクトルを作成する線量ベクトル作成部と、前記線源ベクトルが示す前記放射線源の数と前記測定点の数とに対応する行列を計算する行列計算部と、前記対象区域における前記放射線源の分布を推定する線源推定部と、を備え、前記線源推定部は、前記線源ベクトルと前記行列との積を前記線量ベクトルの擬似ベクトルと見做し、前記線源ベクトルをスパースベクトルとして、前記擬似ベクトルから前記線源ベクトルを復元する逆解析を行うことにより、前記放射線源の分布を推定することを特徴とする。
【0008】
この構成により、線源推定装置は、放射性物質の汚染区域のような対象区域において、数少ない放射線量の測定結果から放射線源の分布を精度良く推定することができる。これにより、線源推定装置は、対象区域の放射線量の分布を精度良く推定することができ、放射性物質の汚染状況を精度良く把握することができる。特に、線源推定装置は、複雑構造を有する建屋内においても、数少ない放射線量の測定結果から放射線源の分布を精度良く推定することができる。結果的に、線源推定装置は、作業員及び測定器の被曝の理由から測定結果を取得し難い高線量区域においても有効に適用可能であり、測定の手間及び労力を低減することができると共に、放射線による被曝量を低減することができる。なお、本発明は、放射線測定の分野において、逆解析法により数少ない測定結果から放射線源の分布を推定できることを世界で初めて実現した。
【0009】
更に好ましい態様として、前記線源推定部は、前記線量ベクトルと前記擬似ベクトルとの差のL2ノルムの二乗を含む誤差項に対して、前記線源ベクトルのL1ノルムを含む正則化項を加えた、目的関数を最小化するような前記線源ベクトルを探索するLASSOを用いて前記逆解析を行う。
【0010】
対象区域における放射線源の分布は、高強度の放射線源がまばらに存在することが多い。つまり、高強度の放射線源が存在する箇所以外では、放射線量がゼロ又は一様となることが多い。このことは、対象区域における放射線源の分布がスパースな分布であるという特徴を有していることを意味する。この特徴に着目して、線源推定部は、LASSOを用いた逆解析を行うことにより、例えばL0ノルムを含む目的関数を最小化するような線源ベクトルを探索する手法よりも、計算量を大幅に低減することができ、効率良く線源ベクトルを復元することができる。よって、線源推定装置は、数少ない放射線量の測定結果から放射線源の分布を精度良く且つ効率良く推定することができる。
【0011】
更に好ましい態様として、前記線源推定部は、前記線源ベクトルが示す前記放射線源のうち、前記対象区域に存在する所定構造物に対応する前記放射線源をグループ化し、Grouped LASSOを用いて前記逆解析を行う。
【0012】
この態様より、線源推定部は、対象区域に存在する複雑な構造物が放射線源の分布に与える影響を考慮した上で、放射線源の分布を現実に即して正確に推定することができる。よって、線源推定装置は、対象区域が複雑構造を有していても、数少ない測定結果から放射線源の分布を精度良く推定することができる。
【0013】
更に好ましい態様として、前記線源推定装置は、前記対象区域における前記放射線源の分布を可視化したマップを作成する可視化部を更に備え、前記可視化部は、前記線源推定部により推定された前記放射線源の分布を前記対象区域のCGモデル又は撮像画像に重畳してVR画像又はAR画像を作成し、作成された前記VR画像又は前記AR画像を用いて、前記マップを作成する。
【0014】
この態様により、線源推定装置は、例えば高強度の放射線源が対象区域のどこに存在するのかを、作業員が直感的に理解できるような形式で作業員に報知することができる。よって、線源推定装置は、作業現場において作業員が行う除染作業等を効果的に支援することができる。
【0015】
更に好ましい態様として、前記線源推定装置は、前記対象区域に浮遊又は沈着する粉塵の風況による挙動を計算する粉塵挙動計算部を更に備え、前記線源ベクトル作成部は、前記放射線源が前記粉塵を含むと仮定して前記線源ベクトルを作成し、前記行列計算部は、前記粉塵から前記測定点に放射される放射線が前記測定値に寄与する度合いを示す行列を含む前記行列を計算し、前記線源推定部は、前記粉塵を含む前記放射線源の所定時刻での分布を推定し、前記粉塵挙動計算部は、推定された前記粉塵の前記所定時刻での分布を初期条件として、前記所定時刻から所定時間経過後の前記粉塵の位置を計算し、前記線源推定部は、前記粉塵挙動計算部の計算結果から、前記所定時間経過後の前記放射線源の分布を推定する。
【0016】
この態様により、線源推定部は、静的線源だけでなく動的線源をも考慮して対象区域における放射線源の分布を推定することができる。したがって、線源推定部は、対象区域における放射線源の分布が時間の経過に伴ってどのように変化するのかを推定することができるので、放射線源の分布を更に正確に推定することができる。よって、線源推定装置は、数少ない測定結果から放射線源の分布を更に精度良く推定することができる。
【0017】
更に好ましい態様として、前記線源推定装置は、前記線源推定部による前記放射線源の分布の推定精度が予め定められた基準以上か否かを判定する推定精度判定部と、前記推定精度が前記基準を下回ると判定された場合、新たな前記測定点における新たな前記測定値を追加して、前記放射線源の分布を前記線源推定部に再推定させる再推定指示部と、を更に備える。
【0018】
この態様により、線源推定装置は、測定点数が乏しいことによって線源推定部の推定精度が不十分な場合であっても、測定点数の充実を図って当該推定精度を段階的に向上させることができる。よって、線源推定装置は、最小限の測定結果から放射線源の分布を精度良く推定することができる。
【0019】
また、本発明の線源推定方法は、対象区域内の測定点における放射線量の測定値から前記対象区域における放射線源の分布を推定する線源推定方法であって、前記対象区域を分割して得られた複数の領域のそれぞれに存在すると仮定された放射線源を示す線源ベクトルを作成することと、前記測定点における前記測定値を示す線量ベクトルを作成することと、前記線源ベクトルが示す前記放射線源の数と前記測定点の数とに対応する行列を計算することと、前記対象区域における前記放射線源の分布を推定することと、を備え、前記放射線源の分布を推定することは、前記線源ベクトルと前記行列との積を前記線量ベクトルの擬似ベクトルと見做し、前記線源ベクトルをスパースベクトルとして、前記擬似ベクトルから前記線源ベクトルを復元する逆解析を行うことにより、前記放射線源の分布を推定することを特徴とする。
【0020】
この構成により、線源推定方法は、放射性物質の汚染区域のような対象区域において、数少ない放射線量の測定結果から放射線源の分布を精度良く推定することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、数少ない測定結果から放射線源の分布を精度良く推定することが可能な線源推定装置及び線源推定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図2】線源推定装置による放射線源の推定手法の概略を説明する図。
【
図3】線源ベクトル、線量ベクトル及び行列の関係を示す図。
【
図4】対象区域の3次元CGモデルの一例を示す図。
【
図5】放射線源の分布を可視化したマップの一例を示す図。
【
図6】線源推定装置によって行われる処理の概略を示すフローチャート。
【
図7】線源推定装置の妥当性を検証するための前提条件を説明する図。
【
図8】
図8(a)は
図7に示すテストデータの放射線源の分布を示す図であり、
図8(b)は線源推定装置による放射線源の分布の推定結果を示す図。
【
図9】
図9(a)は
図8(a)に示すテストデータの放射線源に基づく放射線量の分布の計算結果を示す図であり、
図9(b)は
図8(b)に示す放射線源の推定結果に基づく放射線量の分布の計算結果を示す図。
【
図10】テストデータの放射線源と、線源推定装置による放射線源の推定結果とを比較したグラフ。
【
図11】テストデータの放射線源に基づく放射線量の計算結果と、線源推定装置による放射線源の推定結果に基づく放射線量の計算結果とを比較したグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。各実施形態において同一の符号を付された構成については、特に言及しない限り、各実施形態において同様の機能を有し、その説明を省略する。
【0024】
[線源推定装置の構成]
図1は、本実施形態の線源推定装置1の構成を示す図である。
図2は、線源推定装置1による放射線源の推定手法の概略を説明する図である。
図3は、線源ベクトルω、線量ベクトルy及び行列Xの関係を示す図である。
図4は、対象区域の3次元CGモデルの一例を示す図である。
図5は、放射線源の分布を可視化したマップの一例を示す図である。
【0025】
線源推定装置1は、対象区域内の測定点における放射線量の測定値から、対象区域における放射線源の分布を逆解析により推定するシステムを搭載した装置である。対象区域は、放射線源の分布を推定する対象となる区域である。対象区域は、例えば、放射性物質の漏洩事故が発生した原子力発電所及びその周辺地域のような、放射性物質の汚染区域である。本実施形態では、対象区域として、複雑構造を有する原子力発電所の建屋内を例に挙げて説明する。
【0026】
線源推定装置1は、いわゆるコンピュータシステムによって構成される。線源推定装置1は、入力装置2と、通信装置3と、記憶装置4と、表示装置5と、演算処理装置10と、を備える。入力装置2は、キーボード又はマウス等によって構成される。通信装置3は、ネットワークを介して外部装置との通信を行う通信装置によって構成される。記憶装置4は、SSD又はHDD等によって構成される。記憶装置4は、演算処理装置10の処理に用いられる各種データ等を記憶する。表示装置5は、演算処理装置10の処理結果等を表示する液晶ディスプレイ等の各種ディスプレイによって構成される。演算処理装置10は、CPU、ROM及びRAM等によって構成される。演算処理装置10は、ROMに記憶されたプログラムをCPUが実行することによって、線源推定装置1の各種機能を実現する。
【0027】
なお、線源推定装置1のハードウェア構成は、
図1に示す構成に特に限定されない。演算処理装置10の一部の機能は、コンピュータネットワークを介して通信装置3に接続された外部計算機(例えばスーパーコンピュータ)との協働によって実現されてもよい。
【0028】
演算処理装置10は、対象区域情報取得部11と、モデル作成部12と、線源ベクトル作成部13と、測定情報取得部14と、線量ベクトル作成部15と、行列計算部16と、線源推定部17と、線量計算部18と、可視化部19と、粉塵挙動計算部20と、推定精度判定部21と、再推定指示部22と、を備える。
【0029】
対象区域情報取得部11は、対象区域の構造に関する情報(以下「対象区域情報」とも称する)を取得する。対象区域情報は、例えば、対象区域の点群データ又はポリゴンデータである。対象区域情報は、対象区域を3次元スキャン又はフォトスキャンすることによって予め生成される。対象区域情報取得部11は、入力装置2又は通信装置3から対象区域情報を取得する。
【0030】
モデル作成部12は、対象区域情報取得部11により取得された対象区域情報を用いて、
図4に示すように、対象区域の構造物を表現する3次元CGモデル(以下、「構造モデル」とも称する)を作成する。モデル作成部12は、作成された構造モデルを複数の領域(メッシュ、格子又は要素とも称する)に分割して、メッシュモデルを作成する。この際、モデル作成部12は、構造モデルによって表現される建屋内の各表面(壁面、床面、地面、天井面及び屋内構造物の表面等)及び空間を複数の領域に分割して、メッシュモデルを作成する。
【0031】
線源ベクトル作成部13は、対象区域を分割して得られた複数の領域のそれぞれに存在すると仮定された放射線源を示す線源ベクトルωを作成する。具体的には、線源ベクトル作成部13は、モデル作成部12により作成されたメッシュモデルの各メッシュに放射線源が存在すると仮定して、各メッシュに放射線源を設定する。そして、線源ベクトル作成部13は、
図2の左端に示すように、各メッシュに設定された放射線源から放射される放射線の強度を要素値とし、設定された全放射線源の数mを要素数とする列ベクトルを、線源ベクトルωとして作成する。すなわち、線源ベクトルωの次元はmとなる。
【0032】
測定情報取得部14は、対象区域内の複数の測定点において放射線量を測定して得られた測定情報を取得する。測定情報は、放射線量の測定位置を示す測定点と測定値とを含む。放射線量の測定値は、例えば、空間線量率である。放射線量を測定する測定器は、サーベイメータ、スペクトロメータ又はガンマカメラ等によって構成される。測定情報取得部14は、入力装置2又は通信装置3から測定情報を取得する。
【0033】
線量ベクトル作成部15は、複数の測定点において放射線量を測定して得られた測定値を示す線量ベクトルyを作成する。具体的には、線量ベクトル作成部15は、測定情報取得部14により取得された測定情報に含まれる測定点及び測定値を参照する。線量ベクトル作成部15は、
図2に示すように、各測定点における測定値を要素値とし、測定点の数pを要素数とする列ベクトルを、線量ベクトルyとして作成する。すなわち、線量ベクトルyの次元はpとなる。
【0034】
行列計算部16は、行列Xを計算する。行列Xは、線源ベクトルωが示す放射線源から測定点に放射される放射線が、測定値に寄与する度合いを示す。このことから、行列Xは、寄与率行列とも称される。行列Xは、線源ベクトルωが示す放射線源の数mと測定点の数pとに対応する行列(p×m行列)である。行列計算部16は、線源ベクトルωと線量ベクトルyとの間における放射線輸送計算を行って、行列Xを計算する。具体的には、行列計算部16は、線源ベクトルωの1つの要素に割り当てられた1つの放射線源から放射された放射線(例えばγ線又はX線)が、線量ベクトルyの要素に割り当てられた各測定点に対してどのように輸送されるのかを各々計算し、行列Xの1つの列を作成する。続いて、行列計算部16は、線源ベクトルωの次の1つの要素に割り当てられた次の1つの放射線源から放射された放射線が、線量ベクトルyの要素に割り当てられた各測定点に対してどのように輸送されるのかを計算し、行列Xの次の1つの列を作成する。このような計算を、線源ベクトルωの次元数であるm回行うことによって、行列計算部16は、行列Xを作成することができる。
【0035】
行列計算部16が使用する放射線輸送計算コードとしては、例えば、国立研究開発法人日本原子力研究開発機構において開発されたPHITS(Particle and Heavy Ion Transport code System)が挙げられる。PHITSは、様々な放射線の挙動を、核反応モデルや核データライブラリを用いて模擬するモンテカルロ計算コードである。
【0036】
線源推定部17は、対象区域における放射線源の分布を推定する。具体的には、線源推定部17は、線源ベクトルωと行列Xとの積を線量ベクトルyの擬似ベクトルと見做し、線源ベクトルωをスパースベクトルとして、擬似ベクトルから線源ベクトルωを復元する逆解析を行うことにより、対象区域における放射線源の分布を推定する。線源推定部17は、擬似ベクトル設定部171と、逆解析部172と、を有する。
【0037】
擬似ベクトル設定部171は、線源ベクトル作成部13により作成された線源ベクトルωと、行列計算部16により計算された行列Xとの積Xωを算出する。擬似ベクトル設定部171は、算出された積Xωを、線量ベクトル作成部15により作成された線量ベクトルyを擬似的に示した擬似ベクトルとして、逆解析部172に設定する。
【0038】
逆解析部172は、擬似ベクトル設定部171により設定された擬似ベクトルから線源ベクトルωを復元する逆解析を行う。具体的には、逆解析部172は、線源ベクトルω、行列X及び線量ベクトルyには、
図3に示すように、下記の式(1)のような関係が成り立つとする。
【0039】
【0040】
更に、逆解析部172は、線源ベクトルωをスパースベクトルとする。線源ベクトルωは、要素値がゼロである要素の数が十分に多いとする。この場合、線源ベクトルωにおいて、要素値がゼロでない要素の数sは、線源ベクトルωの次元mに比べて十分に小さくなる(s<<m)。
【0041】
そして、逆解析部172は、下記の式(2)に示す目的関数Dを最小化するような線源ベクトルωを探索するLASSO(Least Absolute Shrinkage and Selection Operator)を用いて、逆解析を行う。すなわち、逆解析部172は、線量ベクトルyと擬似ベクトルとの差のL2ノルムの二乗を含む誤差項に対して、線源ベクトルωのL1ノルムを含む正則化項を加えた、目的関数Dを最小化するような線源ベクトルωを探索するLASSOを用いて、逆解析を行う。
【0042】
【0043】
上記の式(2)において、右辺第1項が誤差項であり、右辺第2項が正則化項である。λは、ハイパーパラメータであり、予め設定される。λが大きいほど線源ベクトルωがスパースになる。対象区域における放射線源の分布は、高強度の放射線源がまばらに存在することが多い。つまり、高強度の放射線源が存在する箇所以外では、放射線量がゼロ又は一様となることが多い。このことは、対象区域における放射線源の分布がスパースな分布であるという特徴を有していることを意味する。したがって、逆解析部172が線源ベクトルωをスパースベクトルとすることは、理に適っている。
【0044】
なお、逆解析部172は、線源ベクトルωが示す放射線源のうち、対象区域に存在する所定構造物に対応する放射線源をグループ化し、Grouped LASSOを用いて、上記の逆解析を行うことができる。すなわち、逆解析部172は、グループ化された放射線源を線源ベクトルωの1つの要素と見做し、上記の目的関数Dを最小化するような線源ベクトルωを探索する処理を行うことによって、線源ベクトルωを復元する。
【0045】
例えば、対象区域に存在する所定構造物として、配管と配管付近の壁とを考える。配管が複数のメッシュで表現され、当該複数のメッシュのそれぞれに放射線源が設定されているとする。配管を表現する複数のメッシュのそれぞれに設定された放射線源は、線源ベクトルωの配管に対応する複数の要素のそれぞれに割り当てられる。配管付近の壁も同様に、当該壁を表現する複数のメッシュのそれぞれに設定された放射線源は、線源ベクトルωの当該壁に対応する複数の要素のそれぞれに割り当てられる。この場合、逆解析部172は、線源ベクトルωの配管に対応する複数の要素を1つのグループに設定し、線源ベクトルωの当該壁に対応する複数の要素を1つのグループに設定する。そして、逆解析部172は、Grouped LASSOを用いて、上記の逆解析を行う。すると、逆解析部172は、線源ベクトルωの配管に対応する複数の要素を1つの要素と見做し、線源ベクトルωの当該壁に対応する複数の要素を1つの要素と見做して、上記の目的関数Dを最小化するような線源ベクトルωを探索する処理を行う。この結果、逆解析部172は、通常、配管に対応する要素群と、当該壁に対応する要素群との両方に放射線源が存在すると推定するのではなく、何れか一方の要素群に放射線源が存在すると推定することができる。
【0046】
複雑構造を有する建屋内においては、放射線源の分布を把握するのは、その構造上、容易ではない。例えば、ガンマカメラで放射線量を測定する際、測定方向手前側に配管があった場合には、当該配管上に放射線源があるのか、当該配管の後側の壁に放射線源があるのかを判定することが困難な場合がある。線源推定部17は、対象区域に存在する所定構造物に対応する放射線源をグループ化し、Grouped LASSOを用いて、上記の逆解析を行うことができる。これにより、線源推定部17は、対象区域に存在する複雑な構造物が放射線源の分布に与える影響を考慮した上で、放射線源の分布を現実に即して正確に推定することができる。よって、線源推定装置1は、対象区域が複雑構造を有していても、数少ない測定結果から放射線源の分布を精度良く推定することができる。
【0047】
線量計算部18は、線源推定部17により推定された放射線源の分布に基づいて、対象区域における放射線量の分布を計算する。線量計算部18は、線源推定部17により推定された放射線源から放射された放射線が、対象区域においてどのように輸送されるのかを計算する。線量計算部18は、行列計算部16と同様にPHITS等の放射線輸送計算コードを使用して、対象区域における放射線量の分布を計算する。
【0048】
可視化部19は、
図5に示すように、対象区域における放射線源の分布を可視化したマップを作成する。具体的には、可視化部19は、線源推定部17により推定された放射線源の分布を、対象区域のCGモデル又は撮像画像に重畳して、VR(仮想現実)画像又はAR(拡張現実)画像を作成する。可視化部19は、作成されたVR画像又はAR画像を用いて、当該マップを作成する。このVR画像又はAR画像は、静止画像であってもよいし、動画像であってもよい。このVR画像又はAR画像は、3次元画像であってもよいし、2次元画像であってもよい。
【0049】
例えば、可視化部19は、モデル作成部12により作成された3次元CGモデルである構造モデルに対して、線源推定部17により推定された放射線源の分布を重畳して、推定された放射線源が付与されたVR画像を作成する。或いは、可視化部19は、対象区域で作業する作業員の携帯端末等によってリアルタイムに取得された対象区域の撮像画像に対して、線源推定部17により推定された放射線源の分布を重畳して、推定された放射線源が付与されたAR画像を作成する。そして、可視化部19は、作成されたVR画像又はAR画像を、液晶ディスプレイ等の表示装置5に表示させたり、通信装置3を介して外部装置に送信して外部装置に表示させたりする。なお、可視化部19は、線源推定部17により推定された放射線源の分布だけでなく、線量計算部18により計算された放射線量を、対象区域のCGモデル又は撮像画像に重畳して、VR画像又はAR画像を作成することができる。
【0050】
可視化部19は、VR画像を作成することにより、対象区域を再現した仮想空間上において、構造物の表面に放射線源が存在するように見せることができる。可視化部19は、AR画像を作成することにより、対象区域の作業現場において構造物の表面に放射線源が存在するように見せることができる。これにより、線源推定装置1は、例えば高強度の放射線源が対象区域のどこに存在するのかを、作業員が直感的に理解できるような形式で作業員に報知することができる。よって、線源推定装置1は、作業現場において作業員が行う除染作業等を効果的に支援することができる。
【0051】
粉塵挙動計算部20は、対象区域に浮遊又は沈着する粉塵の風況による挙動を計算する。放射線源としては、対象区域の構造物の表面等に付着して時間が経過してもその場に留まる放射線源(以下「静的線源」とも称する)だけでなく、対象区域に浮遊又は沈着する粉塵に付着して時間の経過と共に移動する放射線源(以下「動的線源」とも称する)も存在し得る。線源推定装置1は、対象区域に浮遊又は沈着する粉塵の風況による挙動を計算することによって、対象区域における静的線源の分布だけでなく動的線源の分布も推定することができる。動的線源の分布は、時間の経過に伴って放射線源の位置が変化し得る。
【0052】
動的線源を考慮して対象区域における放射線源の分布を推定する場合、線源ベクトル作成部13は、放射線源が粉塵を含むと仮定して線源ベクトルωを作成する。すなわち、線源ベクトル作成部13は、対象区域の構造物を表現するメッシュに放射線源を設定するだけでなく、対象区域に浮遊又は沈着する粉塵を表現するメッシュに放射線源を設定して、線源ベクトルωを作成する。粉塵を含む線源ベクトルω(動的線源をも考慮した線源ベクトルω)の次元は、粉塵を含まない線源ベクトルω(静的線源のみの線源ベクトルω)よりも大きくなる。行列計算部16は、粉塵から測定点に放射される放射線が測定値に寄与する度合いを示す行列を含む行列Xを計算する。粉塵を含む行列Xにおける各行の要素数は、粉塵を含まない行列Xよりも多くなる。
【0053】
線源推定部17は、粉塵を含む放射線源の所定時刻での分布を推定する。粉塵挙動計算部20は、線源推定部17により推定された粉塵の所定時刻での分布を初期条件として、所定時刻から所定時間経過後の粉塵の位置を計算する。粉塵挙動計算部20は、例えば、CFD風況解析計算コードを用いて、粉塵の移流拡散現象を計算することによって、所定時間経過後の粉塵の位置を計算する。そして、線源推定部17は、粉塵挙動計算部20の計算結果から、所定時間経過後の放射線源の分布を推定する。更に、線量計算部18は、推定された所定時間経過後の放射線源の分布から、放射線量の分布を計算することができる。
【0054】
これにより、線源推定部17は、静的線源だけでなく動的線源をも考慮して対象区域における放射線源の分布を推定することができる。したがって、線源推定部17は、対象区域における放射線源の分布が時間の経過に伴ってどのように変化するのかを推定することができるので、放射線源の分布を更に正確に推定することができる。よって、線源推定装置1は、数少ない測定結果から放射線源の分布を更に精度良く推定することができる。
【0055】
推定精度判定部21は、線源推定部17による放射線源の分布の推定精度(以下「線源推定部17の推定精度」とも称する)が予め定められた基準以上か否かを判定する。例えば、推定精度判定部21は、線源推定部17により推定された各放射線源付近の放射線量と、当該各放射線源にそれぞれ最も近い各測定点における測定値との差異が、予め定められた許容範囲以内であるか否かを判定する。これにより、推定精度判定部21は、線源推定部17の推定精度が予め定められた基準以上か否かを判定する。推定精度の基準及び許容範囲は、実験又はシミュレーション等によって予め定めることができる。
【0056】
推定精度判定部21は、上記の差異が許容範囲以内である場合、線源推定部17の推定精度が基準以上であると判定する。この場合、推定精度判定部21は、線源推定部17の推定精度が十分に高いと判定し、線源推定部17の推定結果を妥当と判定する。推定精度判定部21は、上記の差異が許容範囲外である場合、線源推定部17の推定精度が基準を下回ると判定する。この場合、推定精度判定部21は、線源推定部17の推定精度が不十分であると判定し、その旨を再推定指示部22に通知する。
【0057】
再推定指示部22は、線源推定部17の推定精度が上記の基準を下回ると判定された場合、新たな測定点における新たな放射線量の測定値を追加して、対象区域における放射線源の分布を線源推定部17に再推定させる。
【0058】
具体的には、再推定指示部22は、新たな測定点における新たな放射線量の測定値を追加するよう、測定情報取得部14に対して測定情報の再取得を指示する。この際、再推定指示部22は、線源推定部17により復元された線源ベクトルωを初期に与えられる事前確率として、事前確率分布P(ωI)を設定する。そして、再推定指示部22は、下記の式(3)に示すベイズ推定を用いて、新たな測定点における新たな放射線量の測定値を特定し、測定情報の再取得を指示する。なお、ベイズ推定を用いることで、事前の測定情報を活用することが可能となると共に、確からしい測定情報の再取得が可能となるので、線源推定装置1は、より高い推定精度で放射線源の分布を推定することができる。
【0059】
【0060】
上記の式(3)の左辺において、P(ωI|ω)は事後分布確率を示す。上記の式(3)の右辺において、P(ωI)は事前確率分布を示し、P(ω|ωI)は或る状況(ωI)においてそのデータ(ω)が得られる確率分布を示し、P(ω)は平均してそのデータ(ω)が得られる確率分布を示す。
【0061】
再推定指示部22は、測定情報の再取得の指示を、表示装置5に表示させたり、通信装置3を介して外部装置に送信して外部装置に表示させたりする。測定情報取得部14は、新たな測定点における新たな放射線量の測定値が追加された測定情報が、入力装置2又は通信装置3から取得可能になると、当該測定情報を再取得する。線量ベクトル作成部15は、再取得された測定情報に基づいて、線量ベクトルyを再作成する。再作成された線量ベクトルyの要素は、再作成前よりも一列追加される。行列計算部16は、再作成された線量ベクトルyを用いて、行列Xを再作成する。再作成された行列Xの要素は、再作成前よりも一行又は複数行追加される。この複数行の追加とは、測定点が複数追加されることを意味する。線源推定部17は、再作成された行列X及び線量ベクトルyに基づいて、対象区域における放射線源の分布を再推定する。線源推定装置1は、線源推定部17の推定精度が基準以上になる迄、上記のような測定値の追加及び線源推定部17の再推定を繰り返す。
【0062】
これにより、線源推定装置1は、測定点数が乏しいことによって線源推定部17の推定精度が不十分な場合であっても、測定点数の充実を図って当該推定精度を段階的に向上させることができる。よって、線源推定装置1は、最小限の測定結果から放射線源の分布を精度良く推定することができる。
【0063】
図6は、線源推定装置1によって行われる処理の概略を示すフローチャートである。
【0064】
線源推定装置1は、対象区域の点群データ等である対象区域情報を取得し(ステップS1)、取得された対象区域情報を用いて対象区域の構造モデルを作成する(ステップS2)。そして、線源推定装置1は、作成された構造モデルに基づいて線源ベクトルωを作成する(ステップS3)。
【0065】
また、線源推定装置1は、対象区域内の放射線量の測定値と測定点とを含む測定情報を取得し(ステップS4)、取得された測定情報に基づいて、線量ベクトルyを作成する(ステップS5)。そして、線源推定装置1は、線源ベクトルωと線量ベクトルyとの間における放射線輸送計算を行って(ステップS6)、行列Xを作成する(ステップS7)。
【0066】
そして、線源推定装置1は、線源ベクトルωと行列Xとの積を線量ベクトルyの擬似ベクトルと見做し、線源ベクトルωをスパースベクトルとして、擬似ベクトルから線源ベクトルωを復元する逆解析を行う。これにより、線源推定装置1は、対象区域における放射線源の分布を推定することができる(ステップS8)。
【0067】
そして、線源推定装置1は、放射線源の推定精度が基準以上か否かを判定する(ステップS9)。放射線源の推定精度が基準以上である場合、線源推定装置1は、推定された放射線源の分布が妥当であると判定し(ステップS9:Yes)、
図9に示す処理を終了する。放射線源の推定精度が基準を下回る場合、線源推定装置1は、推定された放射線源の分布が妥当でないと判定する(ステップS9:No)。そして、線源推定装置1は、新たな測定点における新たな放射線量の測定値が追加された測定情報を再取得するよう指示する(ステップS10)。そして、線源推定装置1は、放射線源の推定精度が基準以上になるまで、測定情報の再取得(ステップS4)から放射線源の推定精度の判定(ステップS9)までの処理を繰り返す。
【0068】
[線源推定装置の検証]
図7は、線源推定装置1の妥当性を検証するための前提条件を説明する図である。
図8(a)は、
図7に示すテストデータの放射線源の分布を示す図である。
図8(b)は線源推定装置1による放射線源の分布の推定結果を示す図である。
図9(a)は、
図8(a)に示すテストデータの放射線源に基づく放射線量の分布の計算結果を示す図である。
図9(b)は、
図8(b)に示す放射線源の推定結果に基づく放射線量の分布の計算結果を示す図である。
図10は、テストデータの放射線源と、線源推定装置1による放射線源の推定結果とを比較したグラフである。
図11は、テストデータの放射線源に基づく放射線量の計算結果と、線源推定装置による放射線源の推定結果に基づく放射線量の計算結果とを比較したグラフである。
【0069】
本実施形態では、
図4に示す対象区域の構造モデルを用いて、線源推定装置1の妥当性を検証する。
図7には、
図4に示す対象区域である建屋内を上面から視た図が示されている。対象区域である建屋内には、
図7に示すように、No.1~No.9の複数の測定点のそれぞれが、建屋内の高さ100cmの位置と高さ200cmの位置とに測定点を有し、合計18点の測定点が設けられている。検証用のテストデータの放射線源は、壁A1~A5及び屋内構造物B1のそれぞれの表面に設けられている。本実施形態では、線源推定装置1による放射線源の推定結果が、検証用のテストデータの放射線源を再現できているかを検証することによって、線源推定装置1の妥当性を検証する。
【0070】
図8(a)に示すテストデータの放射線源の分布は、
図8(b)に示す放射線源の推定結果の正解値を意味する。
図8(a)及び
図8(b)共に、壁A1~A5及び屋内構造物B1のそれぞれに放射線源が存在していることを示している。
図8(b)を
図8(a)と比較すると、線源推定装置1による放射線源の推定結果は、テストデータの放射線源の位置及び放射線の強度を、略再現できていることが分かる。
【0071】
更に、
図10には、テストデータの放射線源と、線源推定装置1による放射線源の推定結果とを比較したグラフが示されている。
図10の縦軸は、各放射線源から放射される放射線の強度(相対値)を示す。
図10の横軸は、放射線源のインデックス(識別番号)を示す。インデックス=1、3、6、11、13、17の放射線源が、それぞれ、
図7に示すテストデータの放射線源である、壁A3、壁A2、壁A5、壁A4、屋内構造物B1、壁A1に設けられた放射線源に対応する。
図10において、四角印はテストデータの放射線源を示し、三角印は線源推定装置1により推定された放射線源を示す。
図10を参照すると、線源推定装置1による放射線源の推定結果は、テストデータの放射線源の位置及び放射線の強度を略再現できていることが分かる。
【0072】
また、
図9(a)に示すテストデータの放射線源に基づく放射線量の分布は、
図9(b)に示す放射線量の計算結果の正解値を意味する。
図9(b)を
図9(a)と比較すると、線源推定装置1による放射線量の分布の計算結果は、テストデータの放射線源に基づく放射線量の分布を、略再現できていることが分かる。
【0073】
更に、
図11には、テストデータの放射線源に基づく放射線量と、線源推定装置1による放射線源の推定結果に基づく放射線量の計算結果とを比較したグラフが示されている。
図11の縦軸は、各評価点での放射線量を示す。
図11の横軸は、放射線量の評価点のインデックス(識別番号)を示す。
図11において、四角印はテストデータの放射線源に基づく放射線量を示し、三角印は線源推定装置1の推定結果に基づく放射線量を示す。
図11を参照すると、線源推定装置1による放射線源の推定結果に基づいて計算された放射線量は、テストデータの放射線源に基づいて計算された放射線量を略再現できていることが分かる。
【0074】
このように、線源推定装置1による放射線源の推定結果は、テストデータの放射線源を略再現できている。線源推定装置1による放射線源の推定結果に基づく放射線量の計算結果は、テストデータの放射線源に基づく放射線量の計算結果を略再現できている。よって、線源推定装置1は妥当であるといえる。
【0075】
以上のように、本実施形態の線源推定装置1は、対象区域内の測定点における放射線量の測定値から対象区域における放射線源の分布を推定する線源推定装置である。線源推定装置1は、対象区域を分割して得られた複数の領域のそれぞれに存在すると仮定された放射線源を示す線源ベクトルωを作成する線源ベクトル作成部13と、測定点における測定値を示す線量ベクトルyを作成する線量ベクトル作成部15と、を備える。線源推定装置1は、線源ベクトルωが示す放射線源の数と測定点の数とに対応する行列Xを計算する行列計算部16と、対象区域における放射線源の分布を推定する線源推定部17と、を備える。線源推定部17は、線源ベクトルωと行列Xとの積を線量ベクトルyの擬似ベクトルと見做し、線源ベクトルωをスパースベクトルとして、擬似ベクトルから線源ベクトルωを復元する逆解析を行うことにより、放射線源の分布を推定する。
【0076】
この構成により、本実施形態の線源推定装置1は、放射性物質の汚染区域のような対象区域において、数少ない放射線量の測定結果から放射線源の分布を精度良く推定することができる。これにより、線源推定装置1は、対象区域の放射線量の分布を精度良く推定することができ、放射性物質の汚染状況を精度良く把握することができる。特に、線源推定装置1は、複雑構造を有する建屋内においても、数少ない放射線量の測定結果から放射線源の分布を精度良く推定することができる。結果的に、線源推定装置1は、作業員及び測定器の被曝の理由から測定結果を取得し難い高線量区域においても有効に適用可能であり、測定の手間及び労力を低減することができると共に、放射線による被曝量を低減することができる。
【0077】
更に、線源推定部17は、線量ベクトルyと擬似ベクトルとの差のL2ノルムの二乗を含む誤差項に対して、線源ベクトルωのL1ノルムを含む正則化項を加えた、目的関数Dを最小化するような線源ベクトルωを探索するLASSOを用いて逆解析を行う。
【0078】
対象区域における放射線源の分布は、高強度の放射線源がまばらに存在することが多い。つまり、高強度の放射線源が存在する箇所以外では、放射線量がゼロ又は一様となることが多い。このことは、対象区域における放射線源の分布がスパースな分布であるという特徴を有していることを意味する。この特徴に着目して、線源推定部17は、LASSOを用いた逆解析を行うことにより、例えばL0ノルムを含む目的関数を最小化するような線源ベクトルωを探索する手法よりも、計算量を大幅に低減することができ、効率良く線源ベクトルωを復元することができる。よって、線源推定装置1は、数少ない放射線量の測定結果から放射線源の分布を精度良く且つ効率良く推定することができる。
【0079】
本実施形態の線源推定方法は、線源推定装置1が
図6に示す処理を行うことによって実現され得る。
【0080】
すなわち、本実施形態の線源推定方法は、対象区域内の測定点における放射線量の測定値から対象区域における放射線源の分布を推定する方法である。線源推定方法は、対象区域を分割して得られた複数の領域のそれぞれに存在すると仮定された放射線源を示す線源ベクトルωを作成すること(ステップS3)と、測定点における測定値を示す線量ベクトルyを作成すること(ステップS5)と、を備える。線源推定方法は、線源ベクトルωが示す放射線源の数と測定点の数とに対応する行列Xを計算すること(ステップS7)と、対象区域における放射線源の分布を推定すること(ステップS8)と、を備える。放射線源の分布を推定すること(ステップS8)は、線源ベクトルωと行列Xとの積を線量ベクトルyの擬似ベクトルと見做し、線源ベクトルωをスパースベクトルとして、擬似ベクトルから線源ベクトルωを復元する逆解析を行うことにより、放射線源の分布を推定する。
【0081】
これにより、本実施形態の線源推定方法は、放射性物質の汚染区域のような対象区域において、数少ない放射線量の測定結果から放射線源の分布を精度良く推定することができる。
【0082】
以上、本発明の実施形態について詳述したが、本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の精神を逸脱しない範囲で、種々の変更を行うことができる。本発明は、或る実施形態の構成を他の実施形態の構成に追加したり、或る実施形態の構成を他の実施形態と置換したり、或る実施形態の構成の一部を削除したりすることができる。
【符号の説明】
【0083】
1…線源推定装置、2…入力装置、3…通信装置、4…記憶装置、5…表示装置、10…演算処理装置、11…対象区域情報取得部、12…モデル作成部、13…線源ベクトル作成部、14…測定情報取得部、15…線量ベクトル作成部、16…行列計算部、17…線源推定部、171…擬似ベクトル設定部、172…逆解析部、18…線量計算部、19…可視化部、20…粉塵挙動計算部、21…推定精度判定部、22…再推定指示部