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特許7607951妊娠性糖尿病に関する代謝プロファイルスクリーニング
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-20
(45)【発行日】2025-01-06
(54)【発明の名称】妊娠性糖尿病に関する代謝プロファイルスクリーニング
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/68 20060101AFI20241223BHJP
【FI】
G01N33/68
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2022521574
(86)(22)【出願日】2020-10-09
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-12
(86)【国際出願番号】 US2020055020
(87)【国際公開番号】W WO2021072222
(87)【国際公開日】2021-04-15
【審査請求日】2023-10-06
(31)【優先権主張番号】62/914,294
(32)【優先日】2019-10-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】506115514
【氏名又は名称】ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ カリフォルニア
【氏名又は名称原語表記】The Regents of the University of California
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】クース,ブライアン ジェー.
【審査官】大瀧 真理
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-027885(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0310269(US,A1)
【文献】国際公開第2005/058142(WO,A2)
【文献】LIU, Tianhu et al.,Comprehensive analysis of serum metabolites in gestational diabetes mellitus by UPLC/Q-TOF-MS,Anal Bioanal Chem,2016年,408(4),1125-1135
【文献】PRIYADARSINI, Shrestha et al.,Complete metabolome and lipidome analysis reveals novel biomarkers in the human diabetic corneal stroma,Exp Eye Res,2016年,153,90-100
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48 - 33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象における真性糖尿病への感受性に関するスクリーニングの方法であって、
(a)対象から取得された被検尿試料中に存在する複数の代謝マーカーの量を測定すること;
(b)前記マーカーの参照レベルと前記被検尿試料中に存在する代謝マーカーの量を比較すること;
(c)前記被検尿試料中に存在する測定されたマーカーのそれぞれの量が参照レベルに対し相対的に増加されるまたは減少される場合真性糖尿病に感受性であると対象を同定すること、
を含み;
前記複数の代謝マーカーが、ジヒドロオロチン酸、フェノールグルクロニド、ニコチン酸リボヌクレオシド、およびサッカロピンのそれぞれを含かつ
前記対象が、妊娠6~40週である、方法。
【請求項2】
対象における真性糖尿病を検出する方法であって、
(a)対象から取得された被検尿試料中に存在する複数の代謝マーカーの量を測定すること;
(b)前記マーカーの参照レベルと前記被検尿試料中に存在する代謝マーカーの量を比較すること;
(c)前記被検尿試料中に存在する測定されたマーカーのそれぞれの量が参照レベルに対し相対的に増加されるまたは減少される場合真性糖尿病を有すると対象を同定すること、
を含み;
前記代謝マーカーが、ジヒドロオロチン酸、フェノールグルクロニド、ニコチン酸リボヌクレオシド、およびサッカロピンのそれぞれを含かつ
前記対象が、妊娠6~40週である、方法。
【請求項3】
前記マーカーが、ジヒドロオロチン酸、フェノールグルクロニド、およびサッカロピンにおける増加の組み合わせ、並びにニコチン酸リボヌクレオシドにおける減少である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記マーカーが、さらにアルギニン酸および7,8-ジヒドロネオプテリンを含み、前記マーカーが、ジヒドロオロチン酸における減少、並びにアルギニン酸、7,8-ジヒドロネオプテリン、およびサッカロピンにおける増加の組み合わせである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
前記マーカーが、ジヒドロオロチン酸、フェノールグルクロニド、およびニコチン酸リボヌクレオシドにおける増加の組み合わせである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項6】
前記マーカーが、さらにランチオニンを含み、前記マーカーが、ジヒドロオロチン酸、フェノールグルクロニド、ニコチン酸リボヌクレオシドにおける増加、およびランチオニンにおける減少の組み合わせである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項7】
前記真性糖尿病を有すると対象を同定することが、分類木にしたがい決定され、ここで、任意選択で前記代謝マーカーの参照レベルは浸透圧で補正され、前記分類木に示されるレベルであり、前記分類木は、
(i)ジヒドロオロチン酸の測定レベルが0.24よりも低い場合、試料のアルギニン酸についてアッセイし、
(ii)アルギニン酸の測定レベルが0.79以上である場合、試料の7,8-ジヒドロネオプテリンについてアッセイし、
(iii)7,8-ジヒドロネオプテリンの測定レベルが0.45以上である場合、試料のサッカロピンついてアッセイし、
(iv)サッカロピンの測定レベルが1.2以上である場合、前記対象を真性糖尿病の治療を必要とする対象として同定し、またはサッカロピンの測定レベルが1.2よりも低く、アルギニン酸の測定レベルが0.98よりも低い場合、前記対象を真性糖尿病の治療を必要とする対象として同定し、
(v)ジヒドロオロチン酸の測定レベルが0.24以上である場合、試料のフェノールグルクロニドについてアッセイし、
(vi)フェノールグルクロニドの測定レベルが0.22以上である場合、試料のニコチン酸リボヌクレオシドについてアッセイし、
(vii)ニコチン酸リボヌクレオシドの測定レベルが0.75よりも低く、ランチオニンが0.71よりも低い場合、前記対象を真性糖尿病の治療を必要とする対象として同定し、
(viii)ニコチン酸リボヌクレオシドが0.75以上であり、ジヒドロオロチン酸が1.5以上である場合、前記対象を真性糖尿病の治療を必要とする対象として同定する、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記真性糖尿病を有すると対象を同定することが、分類木にしたがい決定され、ここで、任意選択で前記代謝マーカーの参照レベルは浸透圧で補正され、前記分類木に示されるレベルであり、前記分類木は、
(i)サッカロピンの測定レベルが1.8以上である場合、前記対象を真性糖尿病の治療を必要とする対象として同定し、
(ii)サッカロピンの測定レベルが1.8以下である場合、試料のフェノールグルクロニドについてアッセイし、
(iii)フェノールグルクロニドの測定レベルが0.31以上である場合、試料のニコチン酸リボヌクレオシドについてアッセイし、
(iv)ニコチン酸リボヌクレオシドの測定レベルが0.76よりも低い場合、試料のフェノールグルクロニドについてアッセイし、フェノールグルクロニドの測定レベルが1.2よりも低い場合、前記対象を真性糖尿病の治療を必要とする対象として同定し、または
(v)ニコチン酸リボヌクレオシドの測定レベルが0.76以上である場合、試料のジヒドロオロチン酸についてアッセイし、ジヒドロオロチン酸の測定レベルが0.53以上1.5未満である場合、前記対象を真性糖尿病の治療を必要とする対象として同定する、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記複数の代謝マーカーが、ジヒドロオロチン酸、アルギニン酸、フェノールグルクロニド、7,8-ジヒドロネオプテリン、ニコチン酸リボヌクレオシド、サッカロピン、およびランチオニンのそれぞれを含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項10】
前記代謝マーカーが、ドーパミン、オクタノイルカルニチン(c8)、3-メチルグルタル酸/2-メチルグルタル酸、および/またはイソクエン酸ラクトンから成る群から選択される1種類以上の付加的マーカーをさらに含み;および前記付加的マーカーにおける増加が、真性糖尿病を示す、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記測定することが、クロマトグラフィーまたは分光分析を含み、
任意選択で、前記クロマトグラフィーが、ガスクロマトグラフィーまたは液体クロマトグラフィーであるか、または、
任意選択で、前記分光分析が、質量分析である、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記代謝マーカーが、浸透圧で補正される、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
多変量統計分析および/または数学的方法が、いつ前記マーカーが増加するまたは減少するかを決定するために用いられる、請求項1~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
少なくとも1つのプロセッサーを含むコンピューター・デバイスにより実行されると、少なくとも1つのプロセッサーに請求項1~13のいずれか1項に記載の方法を実行させるあるいは実行するよう指示する、少なくとも1種類のプログラムを具現化する非一時的コンピューター可読保存媒体。
【請求項15】
前記少なくとも1種類のプログラムが、前記少なくとも1つのプロセッサーに前記方法を実行させるためのアルゴリズム、命令、またはコードを含む、請求項14に記載の媒体。
【請求項16】
少なくとも1つのプロセッサーを含むコンピューター・デバイスによって実行されると、少なくとも1つのプロセッサーに請求項1~13のいずれか1項に記載の方法を実行させるあるいは実行するよう指示する、コンピューター可読アルゴリズム、命令、またはコードを格納する非一時的コンピューター可読保存媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2019年10月11日に出願された米国仮特許出願第62/714,294号の関連出願であり、この仮出願に基づく優先権を主張する。なお、その内容全体が本出願に参照として組み入れられる。
【背景技術】
【0002】
妊娠は女性の約6~14%において高血糖を誘導する。この妊娠性真性糖尿病(GDM)は、母親において高血圧と帝王切開分娩のリスクを増加させ;胎児において巨人症および出産時外傷のリスクを増加させ;新生児において代謝異常のリスクを増加させ;また、その後の生涯において真性糖尿病、肥満および高血圧のリスクを増加させる。食生活およびライフスタイルの変化ならびに血糖降下剤は、有害な結果を顕著に減少させることができる。
【0003】
妊娠は母体のインスリン耐性を増加させ、それは成長中の胎児への基質移動を促進する。この代謝撹乱は妊娠14週(0.37期)以内に出現し、34週(0.8期)までに約2倍上昇する。その結果、インスリン感受性が最低で50%まで低下し、膵β細胞によるインスリン分泌は最大250%まで増加する(Kautzky-Willer、1997;Catalano、Tyzbir、1991;Catalano、Huston、1991;Catalano、Huston、1999;1972)。グルコースに対する最大β細胞分泌応答は、妊娠第3期に起こる(Catalano、Tyzbir 1993)。妊娠女性の約5~14%は、妊娠5ヶ月または6ヶ月までに不充分なインスリン感受性および/または正常血糖を維持するための不充分な膵β細胞の予備を有する(Powe、2016;Ozougwu、2013;Lambie、1926)。このGDMは、妊娠高血圧腎症および帝王切開分娩の母体リスクをおおよそ2倍にし(Yovev 2004; Ehrenberg 2004)、ならびに2型糖尿病および心臓血管障害を将来発症する大きなリスクを与える(Kim、2002;Gunderson、2014;Shostrom、2017)。特段の関心は、母体高血糖が子供に与える有害効果である。このような有害効果は、胎児巨人症、肩甲娩出困難、出産時外傷、新生児低血糖、およびその後の生涯において肥満、2型DM、メタボリック症候群、および心臓血管障害に罹患し易い素因となる後成的変化(epigenetic alteration)のリスク増大を含む(Boney、2005;Dabelea、2000;Damm、2016;El Hajj、2013、Clausen、2009;Monteiro、2016;Zhao、2016)。
【0004】
食生活、運動、および血糖降下剤により母体血糖を下げることは、母体の周産期GDM罹病率を減少し得る(Landon、2009;Poolsup、2014)。したがって、このような妊娠の代謝コントロールは依然として、出産前ケアの重要な要素である。米国においては、GDMスクリーニングは、リスク要因を有する妊娠を標的とすること(Wilkerson、1957;Carr、1998)から、1時間50gの経口ブドウ糖負荷試験(glucose challenge test;GCT)による普遍的な監視(Hoet、1954;Moyer、2014;O’Sullivanら、1973;Wilkerson、1957;Carr、1998;ACOG)へと進展している。診断は、経口ブドウ糖負荷試験(glucose tolerance test;GTT)により妊娠第3期の始め(0.75期)までに、通常成される。このGCTおよびGTTは、50年を超える間依然として出産前ケアの中心的部分であるが、特定のプロトコルおよび診断基準については意見が分かれたままである(CarpenterとCoustan、1982;世界保健機関1998;ADA、2017;IADPSG、2010;Carr、1998)。この方略は、静脈穿刺の不快感、不便、時間的拘束、および後期の妊娠診断を含む、患者にとって主な不利益を有する。誰がGDMを発症するかの妊娠第1期での正確な同定は、妊娠第2期および3期を通して母体代謝環境を正常化する治療的介入を可能にするであろう。より早期の母体血糖のコントロールは、母体と周産期の転帰を最適化しかつ2型DMおよび他の障害の子供のリスクを低減する可能性を有する(McCabeとPerng、2017;Brink、2016)。
【0005】
受胎前に、GDMを発症する女性は、インスリン耐性の特徴を示し(Catalanoら、1991)、妊娠第1期に推定インスリンメディエーターのより高い尿中排泄を示す(Murphyら、2016)。妊娠14週より前に、各種血漿マーカーはGDMに関連するが、本障害の発症を予測するには限定的な値である(Correa、2019;Powe、2017;Sacks、2003;Nevalainen、2016;Alunni、2015;Brink、2016;Georgiou、2008;Bao、2015;Ozgu-Erdinc、2015;Rodrigo、2018;Donovan、2018)。これらの研究は、GDMを確実に予測する、妊娠早期に検出可能な指標の継続的な探索を支持する。
【0006】
GDMを正確に予測して、母親、胎児、および子供の短期のおよび長期の健康を改善するための早期治療介入を可能にする、妊娠第1期における母体代謝プロファイルに対する必要性が、依然としてある。
【発明の概要】
【0007】
糖尿病(真性糖尿病および妊娠性真性糖尿病(GDM)を含む)のスクリーニング、検出、および治療における使用のための方法、材料、キット、デバイス、およびアッセイが、本明細書で記載される。いくつかの実施態様において、対象における糖尿病に対する感受性に関するスクリーニングの方法を記載する。いくつかの実施態様において、方法は、対象から取得した被検試料中に存在する複数の代謝マーカーの量を測定すること;被検試料中に存在する代謝マーカーの量を、マーカーの参照レベルと比較すること;および被検試料中に存在する、測定されたマーカーのそれぞれの量が、参照レベルに対して相対的に増加または減少される場合、対象を糖尿病に対し感受性であると同定すること、を含む。いくつかの実施態様において、対象において糖尿病を検出する方法を、提供する。いくつかの実施態様において、方法は、対象から取得した被検試料中に存在する複数の代謝マーカーの量を測定すること;被検試料中に存在する代謝マーカーの量を、マーカーの参照レベルと比較すること;および被検試料中に存在する測定されたマーカーのそれぞれの量が、参照レベルに対し相対的に増加または減少される場合、対象が糖尿病を有すると同定すること、を含む。また、対象において糖尿病を治療する方法も提供される。いくつかの実施態様において、方法は、対象から取得した被検試料中に存在する複数の代謝マーカーの量を測定すること;被検試料中に存在する代謝マーカーの量を、マーカーの参照レベルと比較すること;および被検試料中に存在する測定されたマーカーのそれぞれの量が、参照レベルに対し相対的に増加または減少される場合、糖尿病について対象を治療すること、を含む。
【0008】
上記の方法についてのいくつかの実施態様において、代謝マーカーは、ジヒドロオロチン酸であり、以下の1種類以上である:アルギニン酸、フェノールグルクロニド、7,8-ジヒドロネオプテリン、ニコチン酸リボヌクレオシド、サッカロピン;およびランチオニン。いくつかの実施態様において、マーカーは、ジヒドロオロチン酸の減少、ならびにアルギニン酸、7,8-ジヒドロネオプテリン、およびサッカロピンの増加の組み合わせである。いくつかの実施態様において、マーカーは、ジヒドロオロチン酸、フェノールグルクロニド、およびニコチン酸リボヌクレオシドの増加の組み合わせである。いくつかの実施態様においては、マーカーは、ジヒドロオロチン酸、フェノールグルクロニド、ニコチン酸リボヌクレオシドの増加、ならびにランチオニンの減少の組み合わせである。いくつかの実施態様において、複数の代謝マーカーは、ジヒドロオロチン酸、アルギニン酸、フェノールグルクロニド、7,8-ジヒドロネオプテリン、ニコチン酸リボヌクレオシド、サッカロピン;およびランチオニンのそれぞれを含む。いくつかの実施態様において、対象が糖尿病を有すると同定することは、図2に示す分類木にしたがって決定される。いくつかの実施態様において、参照レベルは、図2の分類木に示される値に関して決定される。
【0009】
いくつかの実施態様において、複数の代謝マーカーは、ジヒドロオロチン酸、フェノールグルクロニド、ニコチン酸リボヌクレオシド、およびサッカロピンのそれぞれを含む。いくつかの実施態様において、複数の代謝マーカーは、ヒドロオロチン酸、フェノールグルクロニド、およびサッカロピンの増加;ならびにニコチン酸リボヌクレオシドの減少を含む。いくつかの実施態様において、対象が糖尿病を有すると同定することは、図4に示す分類木にしたがって決定される。いくつかの実施態様においては、参照レベルは、図4の分類木に示される値に関して決定される。
【0010】
いくつかの実施態様において、代謝マーカーは、ドーパミン、オクタノイルカルニチン(c8)、3-メチルグルタル酸/2-メチルグルタル酸、および/またはイソクエン酸ラクトンから成る群から選択される1種類以上の付加的マーカーをさらに含み;および、ここで付加的マーカーの増加は、糖尿病での指標である。
【0011】
上記の方法に関するいくつかの実施態様において、複数の代謝マーカーは、3-ヒドロキシ酪酸、1、5-アンヒドログルシトール、ホモカルノシン、および3-ヒドロキシドデカンジオアートを含む。いくつかの実施態様において、マーカーは、1、5-アンヒドログルシトールおよび/またはホモカルノシンの減少、ならびに3-ヒドロキシ酪酸、および/または3-ヒドロキシドデカンジオアートの増加の組み合わせである。いくつかの実施態様において、複数の代謝マーカーは、3-ヒドロキシ酪酸、1、5-アンヒドログルシトール、ホモカルノシン、および3-ヒドロキシドデカンジオアートのそれぞれを含む。いくつかの実施態様において、対象が糖尿病を有すると同定することは、図3に示す分類木にしたがって決定される。いくつかの実施態様においては、参照レベルは、図3の分類木に示される値に関して決定される。
【0012】
いくつかの実施態様において、治療することは、栄養補助食品、経口血糖降下剤投与、またはインスリン療法を含む食生活の変更を含む。いくつかの実施態様において、治療することは、食生活、運動、および血糖監視(例えば、毎日のモニタリングまでの、血糖値の頻繁な検査)を含む。
【0013】
いくつかの実施態様において、測定することは、クロマトグラフィーまたは分光分析を含む。いくつかの実施態様において、クロマトグラフィーは、ガスクロマトグラフィーまたは液体クロマトグラフィーである。いくつかの実施態様において、分光分析は、質量分析である。いくつかの実施態様において、対象は、妊娠6~40週である。いくつかの実施態様において、対象は、妊娠6~24週である。いくつかの実施態様において、対象は、妊娠6~20週である。いくつかの実施態様において、対象は、妊娠20~40週である。いくつかの実施態様において、対象は、分娩後である。いくつかの実施態様において、対象は、妊娠していない。いくつかの実施態様において、糖尿病は、真性糖尿病である。いくつかの実施態様において、被検試料は、尿である。いくつかの実施態様において、代謝マーカーは、浸透圧で補正される。いくつかの実施態様において、分類木は、糖尿病と正常とを区別するために、マーカーがいつ増加または減少されるのかを調べる最終的アルゴリズムを提供する。
【0014】
また、本明細書において、少なくとも1つのプロセッサーを含むコンピューター・デバイスによって実行されると、本明細書中に記載の方法をコンピューター・デバイスに実行させる、少なくとも1種類のプログラムを具現化する非一時的コンピューター可読媒体を記載する。いくつかの実施態様において、少なくとも1種類のプログラムは、少なくとも1つのプロセッサーに方法を実行させるアルゴリズム、命令、またはコードを含む。
【0015】
また、少なくとも1つのプロセッサーを含むコンピューター・デバイスによって実行されると、本明細書中に記載の方法、または方法中の工程を少なくとも1つのプロセッサーに実行させる、あるいは実行を指示する、コンピューター可読アルゴリズム、命令、またはコードを格納する非一時的コンピューター可読保存媒体を記載する。
【0016】
さらに、コンピューター実行システムを記載する。一実施態様において、システムは、個体によって提供される試料を受け取るための試料レシーバー;実行可能な命令を実行するように構成されたオペレーティング・システムおよびメモリーを含むデジタル処理装置;および試料に基づいてヘルスケア提供者に処置を提供するためのデジタル処理装置により実行可能な命令を含むコンピューター・プログラム、を含む。いくつかの実施態様において、コンピューター・プログラムは、(i)ジヒドロオロチン酸および、アルギニン酸、フェノールグルクロニド、7,8-ジヒドロネオプテリン、ニコチン酸リボヌクレオシド、サッカロピン;およびランチオニンの1種類以上;ならびに表2に示される代謝産物のいずれかを含む少なくとも1種類の代謝産物について試料中の代謝産物レベルを決定するように構成された代謝産物分析モジュール;(ii)代謝マーカーのレベルに基づいて状況および/または処置を決定するように構成された検出および/または処置決定モジュール;および(iii)ヘルスケア提供者に状況および/または処置を提供するように構成された表示モジュール、を含む。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】コンセンサス代謝産物選択。本フローチャートは、ランダムフォレスト予測精度、ランダムフォレストGINI指標悪化、または勾配ブーストモデルによってCONからGDMを判別する候補代謝産物の選択プロセスを示す。最終モデルの候補代謝産物は、全3種類の基準のコンセンサスに由来する9種類の代謝産物とさらにはランダムフォレストで非常に高位に位置付けされた付加的な2種類の代謝産物を含んだ。
図2】最終分類木モデル。これは、GDM対CONの最良分離が得られた7種類の代謝産物の分類木分析を示す。緑色は、大部分が対照であり対照と予測されたノードを示す。金色は、大部分がGDMでありGDMと予測されたノードを示す。木のノードにおいて所与の条件(「アルギニン酸<0.79」など)に関しては、条件が真(「yes」)であれば木を左に移動し、条件が偽(「no」)であれば木を右に移動する。各ノードに示されている数字は、各中央値に対し縮尺され元のスケールでの浸透圧を参照した代謝産物レベルを表し、糖尿状況を評価するために浸透圧で補正された対象からの尿代謝産物測定値を用いる方法の一実施態様の実施を導き得る分類木を例示する。
図3】浸透圧で補正された尿代謝産物測定値を用いる、妊娠第2期および第3期の対象に関する分類木を示す。Yes=左の枝、No=右の枝。
図4】妊娠第1期の試験で見出された代謝産物を用いる、妊娠第2期の対象に関する分類木を示す(n=46対、浸透圧で補正された尿代謝産物測定値)。代謝産物:X854、サッカロピン;X782、フェノールグルクロニド;X756、ニコチン酸リボヌクレオシド;X400、ジヒドロオロチン酸。
【発明を実施するための形態】
【0018】
妊娠性糖尿病の発症を正確に予測する母体尿の代謝プロファイルの検出のための方法を、本明細書中に開示する。この方法は、患者に課するブドウ糖負荷試験(glucose tolerance試験)の負担を除き、かつ妊娠性糖尿病を発症するであろう女性を早期の妊娠第1期に同定する。したがって、治療介入の実施を妊娠早期に開始でき、それによって母体、胎児、および新生児の転帰を改善し、かつ思春期および成人期における肥満および真性糖尿病のリスクを低減する。
【0019】
定義
本願で用いる科学用語および技術用語はいずれも、他で特定しない限り、当該技術分野において通常用いられる意味を有する。本願において用いられる以下の用語または表現は、特定された意味を有する。
【0020】
本明細書中で使用される「対照」試料または「参照」試料は、それぞれのマーカーの通常の測定値の代表的である試料(標準の、健康な対照の対象から得られるなど)、または比較のために用いられるマーカーのベースライン量を意味する。典型的には、ベースラインは、同じ対象または患者から取得される測定値である。試料は、検査に用いられる実際の試料、あるいは対応するマーカーの既知の通常の測定値に基づく参照レベルまたは参照範囲の試料であり得る。本明細書中に記載のマーカーは、同義で「代謝産物」および「代謝マーカー」と称される。
【0021】
本明細書中で使用される「有意差」は、当業者によって信頼性があると見なされる方法で検出できる差異(統計的有意差、またはそのような条件下で、合理的な信頼度で検出できる充分な程度の差異など)を意味する。一例において、参照試料に対し相対的な10%の増加または減少は、有意な差である。別の例において、参照試料に対し相対的な20%、30%、40%、または50%の増加または減少は、有意な差と見なされる。さらに別の例において、参照試料に対し相対的な2倍の増加は、有意と見なされる。
【0022】
本明細書中で使用される用語「対象」は、ヒトまたは非ヒト動物を含む。用語「非ヒト動物」は、全脊椎動物、例えば、哺乳動物および非哺乳動物(非ヒト霊長類、ウマ、ヒツジ、イヌ、ウシ、ブタ、ニワトリ、および他の獣医学的対象など)を含む。典型的な実施態様において、対象は、ヒトである。
【0023】
本明細書中で使用される「a(不定冠詞)」または「an(不定冠詞)」は、他で特段に明示しない限り、少なくとも1つを意味する。
【0024】
本明細書中で使用される「予測精度」は、モデル(ランダムフォレスト、ブースティングまたは他のモデル)によって正しく予測される観察結果または対象の割合を意味する。例えば、GDMであると予測されるGDM観察結果の割合、および対照であると予測される対照観察結果の割合。
【0025】
本明細書中で使用される「GINI基準」または「GINI指標」は、精度/適合の代替尺度を指す。GDMまたは対照などのバイナリー結果に関して、GINI基準は、観察結果がモデルによってどの程度均一に分類されるのかを測る。GINI=1-Pg2-Pc2、ここでPgはGDMと分類されるGDM観察結果の割合であり、Pcは対照と分類される対照の割合である。全GDM観察結果がGDM(GDMについてPg=1、対照についてPg=0)と分類され、および/または全対照観察結果が対照(GDMについてPg=0、対照についてPc=1)と分類される場合、最良値は、GINI=0である。GDMがGDMまたは対照として分類され、あるいは対照がGDMまたは対照として分類されることの可能性が等しい場合、最も悪いGINI値は、GINI=0.50である。モデルから予測因子としての変数(代謝産物)を1つ省略することがGINI指標を(例えば)0.40単位悪化するならば、その代謝産物は重要である。1種類の代謝産物を省略することがGINI指数を(例えば)0.0003単位悪化するだけであるならば、それは、GINIによる重要代謝産物ではない。
【0026】
本明細書中で使用される「ランダムフォレストモデル」は、多くの分類木から成る多変量モデルを指す。データのランダムサブセットおよび変数(代謝産物)のランダムサブセットを選択し、分類木を作成して転帰(GDMであるか対照であるか)を予測する。木を作成するために選択されないデータを、この木に関する試料の「アウトオブバッグ(out of bag)」(OOB)部分とよぶ。この処理を多数回繰り返し(典型的には、500回以上)て多くの木を作る。GBMまたは対照の最終予測が、木全体にわたる「投票(vote)」によって得られる。精度を、全OOB試料にわたり評価する。
【0027】
本明細書中で使用される「ブースト(ロジスティク)回帰」は、バイナリー結果に関するものであり、最も単純なブースティングの形式(すなわち、LogitBoost)を意味し、全観察結果が最初に1/nの同じ重みで与えられる。2本の枝を有する1本の木(木の「切り株(stump)」)は、「劣った学習者(weak learner)」ともよばれ、GDMを対照から最も良好に区別する変数(代謝産物)[最も高精度の変数]の値のところで分割されることにより生成される。観察結果を次いで、再重み付けし、ここで、劣った学習者により不正確に分類された観察結果に、第1の劣った学習者により正確に分類されたものよりも大きな重みを与える。観察結果を再度重み付けすると、第2の劣った学習者が生成され、これは異なる変数または同じ変数を利用し、より大きい重みを有する観察結果についてより良好な予測を与える。この処理を繰り返し、それぞれ新しい劣った学習者が、以前の劣った学習者に付け加えられる。ロジスティクス回帰および木と同様に、最終予測はしたがって、全ての劣った学習者の加重線形関数の関数である。このブースティング法は、各代謝産物に対し相対的な影響値を与える。所定の変数(代謝産物)の影響は、何回この特定の変数が選択されるかに基づく。
【0028】
本明細書中で使用される「コンセンサス変数」は、複数のモデルにより重要であると選択された変数(代謝産物)を意味する。例を後述の実施例1に示す。
【0029】
方法
本発明は、真性糖尿病および妊娠性真性糖尿病(GDM)を含む糖尿病のスクリーニング、検出、および治療のための方法を提供する。いくつかの実施態様において、対象における糖尿病に対する感受性についてのスクリーニングの方法を記載する。いくつかの実施態様において、方法は、対象から取得した被検試料中に存在する複数の代謝マーカーの量を測定すること;被検試料中に存在する代謝マーカーの量をマーカーの参照レベルと比較すること;および被検試料中に存在する測定されたマーカーのそれぞれの量が参照レベルに対し相対的に増加または減少される場合、糖尿病に対し感受性であると対象を同定すること、を含む。いくつかの実施態様において、対象における糖尿病を検出する方法を提供する。いくつかの実施態様において、方法は、対象から取得した被検試料中に存在する複数の代謝マーカーの量を測定すること;被検試料中に存在する代謝マーカーの量をマーカーの参照レベルと比較すること;被検試料中に存在する代謝マーカーの量をマーカーの参照レベルと比較すること;および被検試料中に存在する測定されたマーカーのそれぞれの量が参照レベルに対し相対的に増加または減少している場合、糖尿病を有すると対象を同定すること、を含む。対象において糖尿病を治療する方法もまた、提供する。いくつかの実施態様において、方法は、対象から取得した被検試料中に存在する複数の代謝マーカーの量を測定すること;被検試料中に存在する代謝マーカーの量をマーカーの参照レベルと比較すること;被検試料中に存在する代謝マーカーの量をマーカーの参照レベルと比較すること;および被検試料中に存在する測定されたマーカーのそれぞれの量が参照レベルに対し相対的に増加または減少される場合、糖尿病について対象を治療すること、を含む。
【0030】
上記の方法に関するいくつかの実施態様において、代謝マーカーは、ジヒドロオロチン酸および、アルギニン酸、フェノールグルクロニド、7,8-ジヒドロネオプテリン、ニコチン酸リボヌクレオシド、サッカロピン;およびランチオニンの1種類以上である。いくつかの実施態様において、マーカーは、ジヒドロオロチン酸の減少、ならびにアルギニン酸、7,8-ジヒドロネオプテリン、およびサッカロピンの増加の組み合わせである。いくつかの実施態様において、マーカーは、ジヒドロオロチン酸、フェノールグルクロニド、およびニコチン酸リボヌクレオシドの増加の組み合わせである。いくつかの実施態様において、マーカーは、ジヒドロオロチン酸、フェノールグルクロニド、ニコチン酸リボヌクレオシドの増加、ならびにランチオニンの減少の組み合わせである。いくつかの実施態様において、複数の代謝マーカーは、ジヒドロオロチン酸、アルギニン酸、フェノールグルクロニド、7,8-ジヒドロネオプテリン、ニコチン酸リボヌクレオシド、サッカロピン;およびランチオニンのそれぞれを含む。いくつかの実施態様において、糖尿病を有すると対象を同定することは、図2に示す分類木にしたがって決定される。いくつかの実施態様において、参照レベルは、図2の分類木に示されるものである。いくつかの実施態様において、代謝マーカーは、ドーパミン、オクタノイルカルニチン(c8)、3-メチルグルタル酸/2-メチルグルタル酸、および/またはイソクエン酸ラクトンから成る群から選択される1種類以上の付加的マーカーをさらに含み;および付加的マーカーの増加は、糖尿病を示す。
【0031】
代表的な例において、図2に示す分類木を用いて被検試料中に存在する代謝マーカーの量をマーカーの参照レベルと比較することを、下記のように進める。試料、例えば、対象から採取した尿試料、をジヒドロオロチン酸についてアッセイする。ジヒドロオロチン酸の測定レベルが0.24の参照値(浸透圧で補正したもの)よりも低い場合、試料を、アルギニン酸についてアッセイする。アルギニン酸の測定レベルが0.79の参照レベルよりも高い場合、試料を、7,8-ジヒドロネオプテリンについてアッセイする。7,8-ジヒドロネオプテリンの測定レベルが0.45の参照レベルよりも高い場合、試料を、サッカロピンについてアッセイする。サッカロピンの測定レベルが1.2の参照レベルよりも高い場合、対象を、真性糖尿病の治療を必要とする対象であると同定する。分析のこの流れのさらなる例を、下記に示す。
【0032】
いくつかの実施態様において、複数の代謝マーカーは、ジヒドロオロチン酸、フェノールグルクロニド、ニコチン酸リボヌクレオシド、およびサッカロピンのそれぞれを含む。いくつかの実施態様において、複数の代謝マーカーは、ジヒドロオロチン酸、フェノールグルクロニド、およびサッカロピンの増加;ならびにニコチン酸リボヌクレオシドの減少を含む。いくつかの実施態様において、糖尿病を有すると対象を同定することは、図4に示す分類木にしたがって決定される(後述の実施例4を参照のこと)。いくつかの実施態様においては、参照レベルは、図4の分類木に示されるものである。
【0033】
上記の方法に関するいくつかの実施態様において、複数の代謝マーカーは、3-ヒドロキシ酪酸、1、5-アンヒドログルシトール、ホモカルノシン、および3-ヒドロキシドデカンジオアートを含む。いくつかの実施態様において、マーカーは、1、5-アンヒドログルシトールおよび/またはホモカルノシンの減少、ならびに3-ヒドロキシ酪酸、および/または3-ヒドロキシドデカンジオアートの増加の組み合わせである。いくつかの実施態様において、複数の代謝マーカーは、3-ヒドロキシ酪酸、1、5-アンヒドログルシトール、ホモカルノシン、および3-ヒドロキシドデカンジオアートのそれぞれを含む。いくつかの実施態様において、糖尿病を有すると対象が同定することは、図3に示す分類木にしたがって決定される。いくつかの実施態様において、参照レベルは、図3の分類木に示されるものである。
【0034】
いくつかの実施態様において、治療することは、血糖監視(頻回、母体グルコースレベルの毎日の測定まで)、食生活の変更、抗酸化サプリメント、運動、および/または経口血糖降下剤の投与またはインスリン療法を含む。食物抗酸化剤は、母体/胎児ミトコンドリア機能を増強でき、それは代謝環境を改善し潜在的に血糖降下剤の必要性を低下させることができる。妊娠第1期におけるそのような介入は、胎児および母体の罹患率を低下させ、子供が成人したの後の深刻な医学的障害リスクを低減できる。
【0035】
いくつかの実施態様において、測定することは、クロマトグラフィーまたは分光分析を含む。いくつかの実施態様において、クロマトグラフィーは、ガスクロマトグラフィーまたは液体クロマトグラフィーである。いくつかの実施態様において、分光分析は、質量分析である。いくつかの実施態様において、対象は、妊娠6~40週である。いくつかの実施態様において、対象は、妊娠6~24週である。いくつかの実施態様においては、対象は、妊娠6~20週である。いくつかの実施態様において、対象は、妊娠20~40週である。いくつかの実施態様において、対象は、分娩後である。いくつかの実施態様において、糖尿病は、真性糖尿病である。いくつかの実施態様において、被検試料は、尿である。いくつかの実施態様において、代謝マーカーは、浸透圧で補正される。いくつかの実施態様において、多変量法により同定される代謝産物の分類木は、マーカーがいつ増加または減少されるかを決定するためのアルゴリズムを提供する。
【0036】
いくつかの実施態様において、対象から取得した尿試料を、図2で同定された7種類の代謝マーカー(表2の上位7つの代謝産物)のレベルについてアッセイする。典型的には、対象は、妊娠6週~20週である。いくつかの実施態様において、対象は、妊娠20週よりも後期である。測定量は、尿の浸透圧に対し補正される。いくつかの実施態様において、分析は、図2の分類木に示す第1レベル(ジヒドロオロチン酸)で始まる。ジヒドロオロチン酸のレベルがジヒドロオロチン酸の参照レベル(例えば、浸透圧で補正済みの0.24単位)よりも低い場合、分析を、分類木の左側を辿ってアルギニン酸に進める。アルギニン酸がこのマーカーの参照レベルよりも低い場合、対象は妊娠性真性糖尿病を有しない。アルギニン酸が参照レベルよりも高い場合、分析を、7,8-ジヒドロネオプテリンに進める。7,8-ジヒドロネオプテリンがその参照レベル(例えば、0.45)より低い場合、対象はGDMを有しない。7,8-ジヒドロネオプテリンがその参照レベルより高い場合、分析を、サッカロピンに進める。アルギニン酸が0.98以上であることと組み合わせて、その参照レベル(1.2)より低いサッカロピンは、対象がGDMを有しないことを示唆する。その参照レベルより高いサッカロピン(ジヒドロオロチン酸、アルギニン酸および7,8-ジヒドロネオプテリンがその参照レベルよりも高いことと組み合わせて)は、GDMを示唆する。
【0037】
ジヒドロオロチン酸がその参照レベル(0.24)よりも高い場合、分析を、フェノールグルクロニドに進める。フェノールグルクロニドがその参照レベル(例えば、0.22)より低い場合、対象はGDMを有しない。フェノールグルクロニドがその参照レベルより高い場合、分析を、ニコチン酸リボヌクレオシドに進める。ニコチン酸リボヌクレオシドがその参照レベル(0.75)より低く、ランチオニンがその参照レベル(0.71)以上である場合、対象はGDMを有しない。ニコチン酸リボヌクレオシドがその参照レベルより低く、かつランチオニンがその参照レベルより低い場合、対象はGDMを有する。ニコチン酸リボヌクレオシドはその参照レベルより高いが、ジヒドロオロチン酸が1.5未満である場合、対象はGDMを有しない。ニコチン酸リボヌクレオシドがその参照レベルより高く、かつジヒドロオロチン酸が1.5よりも高い場合、対象はGDMを有する。
【0038】
本明細書中に記載の方法に用いる試料の代表的な例としては、血液、血漿または血清、唾液、尿、脳脊髄液、乳汁、頸管分泌物、精液、組織、細胞培養、およびその他の体液または組織試料が挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施態様において、試料は、尿である。
【0039】
代謝産物を測定する方法としては、核磁気共鳴(NMR)分光法、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、ガスクロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー、電気化学分析、質量分析、屈折率分光法、紫外分光法、蛍光分析、放射化学分析、近赤外分光法、ガスクロマトグラフィー、および光散乱分析が挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施態様において、測定は、ガスクロマトグラフィーまたは液体クロマトグラフィーを含む。いくつかの実施態様において、測定は、質量分析を含む。
【0040】
キットおよびアッセイ標準値
本発明は、本明細書中に記載の方法における使用に好適な一揃えの試薬、および任意選択で本発明の試薬を含む1種類以上の好適な容器、を含むキットを提供する。試薬は、本発明の1種類以上のマーカーを特異的に結合および/または増幅および/または検出する分子を含む。そのような分子は、本明細書中に記載のアッセイでの使用のためのマイクロアレイまたは他の製品の形態で提供され得る。
【0041】
本発明のキットは任意選択的に、他の試薬とは別個に、あるいは他の試薬と一緒のいずれかで、アッセイ標準またはアッセイ標準セットを含む。アッセイ標準は、健康な個体の代表である所定のマーカーの通常の発現の参照レベルを提供することにより、標準の対照として働き得る。
【0042】
デバイス
本発明は、本明細書中に記載の方法での使用に好適なデバイスを提供する。デバイスは、本発明の1種類以上の代謝マーカーを検出および測定できる。デバイスは任意選択的に、本明細書中に記載の方法にしたがい代謝マーカーの測定値の分析を実行するようにプログラムされたプロセッサーを含む。いくつかの実施態様において、分析は、図2に示す分類木の実行を含む。いくつかの実施態様において、分析は、図3に示す分類木の実行を含む。いくつかの実施態様において、分析は、図4に示す分類木の実行を含む。
【0043】
コンピューターの実装
本明細書は、特定の局面において、本明細書中に記載の方法(スクリーニングの方法、検出の方法、治療の方法、代謝プロファイリングの方法、および処置を推奨する方法など)での使用のためのコンピューター実施システムを提供する。いくつかの実施態様において、本明細書のコンピューター実施システムは:(a)個体によって提供される試料を受け取る試料レシーバー;(b)実行可能な命令を実行するように構成されたオペレーティング・システムおよびメモリーを含むデジタル処理装置;および(c)試料に基づきヘルスケア提供者に処置を提供するための、デジタル処理装置により実行可能な命令を含むコンピューター・プログラム、を含む。いくつかの実施態様において、コンピューター・プログラムは、(i)アルギニン酸、フェノールグルクロニド、7,8-ジヒドロネオプテリン、ニコチン酸リボヌクレオシド、サッカロピン;およびランチオニンならびに表2に示される代謝産物の任意の組み合わせを含む少なくとも1種類の代謝産物について、試料中の代謝産物レベルを決定するように構成される代謝産物分析モジュール;(ii)参照レベルに相対的な代謝産物の発現レベルに基づき処置を決定するように構成される治療決定モジュール;および(iii)ヘルスケア提供者に結果および/または処置を提供するように構成される表示モジュール、を含む。
【0044】
本発明は、明細書中に記載の方法を実施するためのコンピューターが実施可能な命令が書き込まれている非一時的コンピューター可読媒体を提供する。別の一実施態様において、本発明は、少なくとも1つのプロセッサーを含むコンピューター・デバイスにより実行されると、コンピューター・デバイスに本明細書中に記載の1種類以上の方法を実行させる、少なくとも1種類のプログラムを具現化する非一時的コンピューター可読媒体を提供する。いくつかの実施態様において、少なくとも1種類のプログラムは、少なくとも1つのプロセッサーに方法を実行させる、アルゴリズム、命令、またはコードを含む。同様に、本発明は、少なくとも1つのプロセッサーを含むコンピューター・デバイスにより実行されると、少なくとも1つのプロセッサーに本明細書中に記載の方法を実行させる、あるいは実行を指示する、コンピューター可読アルゴリズム、命令、またはコードを格納する非一時的コンピューター可読保存媒体を提供する。
【0045】
当業者であれば、代謝プロファイルの分析、分類木、およびGDM状態の決定を含む、本明細書中に記載の方法の各種実施態様は、例えば、電子機器、コンピューター・ソフトウエアまたはそれら両方の組み合わせ(例えば、ファームウェア)によって実装可能であることを理解するであろう。本方法がハードウェアおよび/またはソフトウエアに実装されるか否かは、例えば、特定のアプリケーションおよびシステム全体の設計上の制限に依存する。当業者であれば、例えば、特定のアプリケーションおよび設計上の制限に依存する各種の方法で本方法を実行できるが、そのような実行の決定は本開示の範囲を逸脱するものではない。
【0046】
本方法を実施するコンピューター・プログラム/アルゴリズムを、例えば、本明細書中に記載の関数または工程を実行するように設計された汎用プロセッサー、デジタル信号プロセッサー(DSP)、特定用途向け集積回路(ASIC)、フィールドプログラマブル論理アレイ(FPGA)、またはその他のプログラム可能論理装置、個別ゲートまたはトランジスタ論理、個別ハードウェア要素、またはそれらの任意の組み合わせで実装できる。汎用プロセッサーはマイクロプロセッサーであってよいが、プロセッサーはあるいは、任意の従来型プロセッサー、コントローラー、マイクロコントローラーまたは状態機械であってもよい。プロセッサーは、コンピューター・デバイスの組み合わせ、例えば、DSPとマイクロプロセッサーの組み合わせ、複数のマイクロプロセッサー、DSPコアと併用する1種類以上のマイクロプロセッサー、または他の同様な機器構成、として実装されてもよい。
【0047】
本方法の工程、もしくは方法を実行するコンピューター・プログラム/アルゴリズムは、ハードウェアで直接、プロセッサーによって実行されるソフトウエアモジュールで、またはハードウェアとソフトウエア(例えば、ファームウェア)の組み合わせで具現化できる。ソフトウエアモジュールは、例えば、RAMメモリー、フラッシュメモリー、ROMメモリー、EPROMメモリー、EEPROMメモリー、レジスタ、バードドライブ、半導体ドライブ、リムーバブル・ディスク(diskまたはdisc)、CD-ROM、または当該技術分野において公知の他の形態のものに存在してよい。例示の保存媒体をプロセッサーに接続し、それによりプロセッサーが保存媒体から情報を読み出せるように、また情報を保存媒体に書き込めるようにする。あるいは、保存媒体をプロセッサーに組み込むこともできる。プロセッサーおよび保存媒体は、例えば、特定用途向け集積回路(ASIC)に存在してよく、これは今度は、例えば、ユーザー端末に存在してよい。あるいは、プロセッサーおよび保存媒体は、例えば、ユーザー端末に個別要素として存在してよい。
【0048】
1種類以上の例示的な設計において、本明細書中に記載の方法を実行する関数を、ハードウェア、ソフトウエア、ファームウェアまたはそれらの任意の組み合わせに実装できる。ソフトウエアに実装される場合、関数を、命令またはコードとしてコンピューター可読媒体に保存または転送できる。コンピューター可読媒体としては、コンピューター保存媒体および通信媒体(ある場所から別の場所へのコンピューター・プログラム/アルゴリズムの転送を容易にする任意の媒体を含む)が挙げられるが、これらに限定されない。保存媒体は、汎用または特殊用途のコンピューターまたはプロセッサーによってアクセス可能な、任意の利用可能な媒体であってよい。非限定的例として、コンピューター可読媒体は、RAM、ROM、EEPROM、CD-ROMまたは他の光ディスク保存装置、磁気ディスク記憶装置または他の磁気保存装置、あるいは命令/コードおよび/またはデータ構造の形態でコンピューター・プログラム/アルゴリズムを保持または保存するために利用でき、また汎用または特殊用途のコンピューターまたはプロセッサーによってアクセス可能である任意の他の媒体を含み得る。さらに、任意の通信が、コンピューター可読媒体であると見なされる。例えば、ソフトウエアが、同軸ケーブル、光ファイバー・ケーブル、ツイストペア線、デジタル加入者回線(DSL)、またはワイヤレス技術(赤外、電波またはマイクロ波など)を利用して、ウェブサイト、サーバーまたは他の遠隔ソースから送信される場合、その同軸ケーブル、光ファイバー・ケーブル、ツイストペア線、DSL、またはワイヤレス技術(赤外、電波またはマイクロ波など)は、コンピューター可読媒体である。ディスク(discおよびdisk)としては、コンパクトディスク(CD)、レーザーディスク、光ディスク、デジタル多用途ディスク(DVD)、ブルーレイディスク、ハードディスクおよびフロッピーディスクが挙げられるが、これらに限定されない;ここで、ディスク(disc)は通常、レーザーを用いて光学的にデータを再現するが、一方ディスク(disk)は通常、磁気的にデータを再現する。上記の組み合わせもまた、コンピューター可読媒体の範囲に含まれる。
【0049】
本明細書中に記載の方法は、自動化できる。したがって、いくつかの実施態様において、方法は、少なくとも1つのプロセッサーを含むコンピューター・システム(例えば、サーバー、デスクトップコンピューター、ラップトップ、ダブレットまたはスマートフォン)で実行される。コンピューター・システムは、少なくとも1つのプロセッサーによって実行可能な方法を実行するためのアルゴリズム、命令またはコードで構成または提供できる。コンピューター・システムは、方法に関連するいずれかの局面または全局面に関する情報(対象に由来する生体試料の分析結果を含む)を含む記録を作成できる。本開示はさらに、本方法を実行するための、コンピューター実行可能な命令でコードされた非一時的コンピューター可読媒体を提供する。
【0050】
実施態様の例
例示的な実施態様1は、対象における糖尿病への感受性に関するスクリーニングの方法であり、
方法は:
(a)対象から取得した被検試料中に存在する複数の代謝マーカーの量を測定すること;
(b)被検試料中に存在する代謝マーカーの量を、マーカーの参照レベルと比較すること;
(c)被検試料中に存在する測定されたマーカーのそれぞれの量が、参照レベルに対し相対的に増加または減少される場合、糖尿病に対し感受性であると対象を同定すること、
を含み;
ここで、複数の代謝マーカーは、ジヒドロオロチン酸と、アルギニン酸、フェノールグルクロニド、7,8-ジヒドロネオプテリン、ニコチン酸リボヌクレオシド、サッカロピン;およびランチオニンの1種類以上を含む。
【0051】
実施態様2は、対象において糖尿病を検出する方法であり、方法は:
(a)対象から取得した被検試料中に存在する複数の代謝マーカーの量を測定すること;
(b)被検試料中に存在する代謝マーカーの量を、マーカーの参照レベルと比較すること;
(c)被検試料中に存在する測定されたマーカーのそれぞれの量が、参照レベルに対し相対的に増加または減少される場合、糖尿病を有すると対象を同定すること、
を含み;
ここで、代謝マーカーは、ジヒドロオロチン酸と、アルギニン酸、フェノールグルクロニド、7,8-ジヒドロネオプテリン、ニコチン酸リボヌクレオシド、サッカロピン;およびランチオニンの1種類以上を含む。
【0052】
実施態様3は、対象において糖尿病を治療する方法であって、方法は:
(a)対象から取得した被検試料中に存在する複数の代謝マーカーの量を測定すること;
(b)被検試料中に存在する代謝マーカーの量を、マーカーの参照レベルと比較すること;
(c)被検試料中に存在する測定されたマーカーのそれぞれの量が、参照レベルに対し相対的に増加または減少される場合、糖尿病について対象を治療すること、
を含み;
ここで、代謝マーカーは、ジヒドロオロチン酸と、アルギニン酸、フェノールグルクロニド、7,8-ジヒドロネオプテリン、ニコチン酸リボヌクレオシド、サッカロピン;およびランチオニンの1種類以上を含む。
【0053】
実施態様4:上記実施態様のいずれかに記載の方法であって、マーカーが、ジヒドロオロチン酸の減少と、アルギニン酸、7,8-ジヒドロネオプテリン、およびサッカロピンの増加の組み合わせである、方法。
【0054】
実施態様5:上記実施態様のいずれかに記載の方法であって、マーカーが、ジヒドロオロチン酸、フェノールグルクロニド、およびニコチン酸リボヌクレオシドの増加の組み合わせである、方法。
【0055】
実施態様6:上記実施態様のいずれかに記載の方法であって、マーカーが、ジヒドロオロチン酸、フェノールグルクロニド、ニコチン酸リボヌクレオシドの増加とランチオニンの減少の組み合わせである、方法。
【0056】
実施態様7:実施態様4の方法であって、複数の代謝マーカーが、ジヒドロオロチン酸、アルギニン酸、フェノールグルクロニド、7,8-ジヒドロネオプテリン、ニコチン酸リボヌクレオシド、サッカロピン;およびランチオニンのそれぞれを含む、方法。
【0057】
実施態様8:上記実施態様のいずれかに記載の方法であって、糖尿病を有すると対象を同定することが、図2に示す分類木にしたがって決定される、方法。
【0058】
実施態様9:実施態様8の方法であって、参照レベルが、図2の分類木に示されるものである、方法。
【0059】
実施態様10:実施態様4~9のいずれかの方法であって、代謝マーカーが、ドーパミン、オクタノイルカルニチン(c8)、3-メチルグルタル酸/2-メチルグルタル酸、および/またはイソクエン酸ラクトンから成る群から選択される1種類以上の付加的マーカーをさらに含み;および付加的マーカーの増加が、糖尿病を示す、方法。
【0060】
実施態様11:実施態様3の方法であって、治療することが、食生活の変更、経口血糖降下剤の投与、またはインスリン療法を含む、方法。
【0061】
実施態様12:上記実施態様のいずれかの方法であって、測定することが、クロマトグラフィーまたは分光分析を含む、方法。
【0062】
実施態様13:実施態様12の方法であって、クロマトグラフィーが、ガスクロマトグラフィーまたは液体クロマトグラフィーである、方法。
【0063】
実施態様14:実施態様12の方法であって、分光分析が、質量分析である、方法。
【0064】
実施態様15:実施態様1~14のいずれかに記載の方法であって、対象が、妊娠6~40週である、方法。
【0065】
実施態様16:実施態様1~14のいずれかに記載の方法であって、対象が、分娩後である、方法。
【0066】
実施態様17:上記実施態様のいずれかに記載の方法であって、糖尿病が、真性糖尿病である、方法。
【0067】
実施態様18:上記実施態様のいずれかに記載の方法であって、被検試料が、尿である、方法。
【0068】
実施態様19:実施態様18の方法であって、代謝マーカーが、浸透圧で補正される、方法。
【0069】
実施態様20:上記実施態様のいずれかに記載の方法であって、多変量統計分析および/または数学的方法が、マーカーがいつ増加または減少されるかを決定するために用いられる、方法。
【0070】
実施態様21は、対象における糖尿病への感受性に関するスクリーニングの方法であり、方法は:
(a)対象から取得した被検試料中に存在する複数の代謝マーカーの量を測定すること;
(b)被検試料中に存在する代謝マーカーの量を、マーカーの参照レベルと比較すること;
(c)被検試料中に存在する測定されたマーカーのそれぞれの量が、参照レベルに対し相対的に増加または減少される場合、糖尿病に対し感受性であると対象を同定すること、
を含み;
ここで、複数の代謝マーカーは、3-ヒドロキシ酪酸、1、5-アンヒドログルシトール、ホモカルノシン、および3-ヒドロキシドデカンジオアートを含む。
【0071】
実施態様22は、対象において糖尿病を検出する方法であり、方法は:
(a)対象から取得した被検試料中に存在する複数の代謝マーカーの量を測定すること;
(b)被検試料中に存在する代謝マーカーの量を、マーカーの参照レベルと比較すること;
(c)被検試料中に存在する測定されたマーカーのそれぞれの量が、参照レベルに対し相対的に増加または減少される場合、糖尿病を有すると対象を同定すること、
を含み;
ここで代謝マーカーは、3-ヒドロキシ酪酸、1、5-アンヒドログルシトール、ホモカルノシン、および3-ヒドロキシドデカンジオアートを含む。
【0072】
実施態様23は、対象において糖尿病を治療する方法であり、方法は:
(a)対象から取得した被検試料中に存在する複数の代謝マーカーの量を測定すること;
(b)被検試料中に存在する代謝マーカーの量を、マーカーの参照レベルと比較すること;
(c)被検試料中に存在する測定されたマーカーのそれぞれの量が、参照レベルに対し相対的に増加または減少される場合、糖尿病について対象を治療すること、
を含み;
ここで、複数の代謝マーカーは、3-ヒドロキシ酪酸、1、5-アンヒドログルシトール、ホモカルノシン、および3-ヒドロキシドデカンジオアートを含む。
【0073】
実施態様24:実施態様21~23のいずれかの方法であって、マーカーが、1、5-アンヒドログルシトールおよび/またはホモカルノシンの減少、ならびに3-ヒドロキシ酪酸、および/または3-ヒドロキシドデカンジオアートの増加の組み合わせである、方法。
【0074】
実施態様25:実施態様24の方法であって、複数の代謝マーカーが、3-ヒドロキシ酪酸、1、5-アンヒドログルシトール、ホモカルノシン、および3-ヒドロキシドデカンジオアートのそれぞれを含む、方法。
【0075】
実施態様26:上記実施態様のいずれかに記載の方法であって、糖尿病を有すると対象を同定することが、図3に示される分類木にしたがって決定される、方法。
【0076】
実施態様27:実施態様26の方法であって、参照レベルが、図3の分類木に示されるものである、方法。
【0077】
実施態様28:実施態様23の方法であって、治療することが、食生活の変更、経口血糖降下剤の投与、またはインスリン療法を含む、方法。
【0078】
実施態様29:実施態様21~28のいずれかに記載の方法であって、測定することが、クロマトグラフィーまたは分光分析を含む、方法。
【0079】
実施態様30:実施態様29の方法であって、クロマトグラフィーが、ガスクロマトグラフィーまたは液体クロマトグラフィーである、方法。
【0080】
実施態様31:実施態様29の方法であって、分光分析が、質量分析である、方法。
【0081】
実施態様32:実施態様21の方法であって、対象が、妊娠6~40週である、方法。
【0082】
実施態様33:実施態様21の方法であって、対象が、分娩後である、方法。
【0083】
実施態様34:実施態様21~33のいずれかに記載の方法であって、糖尿病が、真性糖尿病である、方法。
【0084】
実施態様35:実施態様21~34のいずれかに記載の方法であって、被検試料が、尿である、方法。
【0085】
実施態様36:実施態様35の方法であって、代謝マーカーが、浸透圧で補正される、方法。
【0086】
実施態様37:実施態様21~36のいずれかに記載の方法であって、多変量統計分析および/または数学的方法が、マーカーがいつ増加または減少されるかを決定するために用いられる、方法。
【0087】
実施態様38は、少なくとも1つのプロセッサーを含むコンピューター・デバイスにより実行されると、コンピューター・デバイスに実施態様1~37のいずれかに記載の方法を実行させる、少なくとも1種類のプログラムを具現化する非一時的コンピューター可読媒体である。
【0088】
実施態様39:実施態様38の媒体であって、少なくとも1種類のプログラムが、少なくとも1つのプロセッサーに方法を実行させるためのアルゴリズム、命令、またはコードを含む、媒体。
【0089】
実施態様40は、少なくとも1つのプロセッサーを含むコンピューター・デバイスにより実行されると、少なくとも1つのプロセッサーに実施態様1~39のいずれか1つに記載の方法を実行させる、あるいは実行するように指示する、コンピューター可読アルゴリズム、命令、またはコードを格納する非一時的コンピューター可読保存媒体である。
【0090】
実施例
以下に実施例を記載するが、それらを提示する目的は本発明を具体的に説明すること、および本発明の製造および使用を行う当業者を支援することにある。実施例は本発明の範囲を限定する意図で提示されるものでは全くない。
【0091】
実施例1:妊娠早期代謝産物は妊娠性真性糖尿病を予測する
本実施例は、母体代謝プロファイルが早ければ最初の出産前来院時にGDMを正確に同定できることを示す。高度な分析法を用いて、妊娠早期に妊娠性糖尿病(GDM)を的確に予測する尿代謝産物モデルを作成した。7種類の妊娠早期尿代謝産物を含むモデルは、高精度(96.7%)でGDMを予測した。このモデルの精度は、母体年齢、肥満度指数、および採尿の時点には依存しなかった。本実施例は、妊娠早期の代謝プロファイルを利用するアルゴリズムはGDMを的確に同定できるという概念の初めての証拠を報告する。
【0092】
主要な妊娠順応は、インスリン耐性であり、それは妊娠14週(0.37期)までに出現し妊娠後期までに最大で2倍上昇する。北米の妊娠女性の約5~12%は、不充分なインスリン感受性を有し、および/または正常血糖を維持するための不充分な膵β細胞の予備を有する。この妊娠性糖尿病(GDM)は、母親(妊娠高血圧腎症、帝王切開分娩)および胎児(巨人症、出産時外傷)の短期的罹患リスクを増加させる。60年以上にわたって、通常妊娠後期に実施される、ブドウ糖負荷試験(glucose challenge/tolerance test)が、GDMの診断基準であった。母体血糖の正常化は短期的罹患率を減少させることができるが、この面倒な診断法にはかなりの欠点があり、そのような欠点としては、時間の関与、および妊娠期の最後4分の1の時期まで治療が遅れることが挙げられる。
【0093】
妊娠早期にGDMを治療することのさらなる論理的根拠は、妊娠性糖尿病は有害な子宮内プログラムを介して、その後の生涯において肥満、2型糖尿病、および心臓血管疾患を発症し易くする素因を胎児に与えるという、増え続ける証拠である5,6,7,8,9,10,11,12,13,14,15。妊娠早期に母体代謝環境を正常化することは、機能障害をもたらし得る内科的疾患に母親および小児をかかり易くさせる、インスリン感受性および膵β細胞機能をおそらく損なう、酸化ストレスおよび炎症を減少させ得る5,6,7。80%未満の精度を有し、妊娠第1期バイオマーカーは、GDM診断に充分な感度と特異性を欠いていた16,17,18,19,20。本メタボロミクス研究の目的は、代謝産物の大規模で広範なアレイおよび高度な統計的方法が、妊娠早期にGDMを的確に予測する尿代謝プロファイルを特定できるか否かを決定することであった。そのような発見は、以下を可能にする:(1)妊娠14週以前の非侵襲的GDM診断、および(2)早期治療介入がどの程度、周産期罹病率および肥満、2型糖尿病および心臓血管疾患の世代間伝達を低下させるのかを決定するための将来の研究。
【0094】
材料と方法
コホート内観察的症例対照試験は、ブドウ糖負荷試験(GCTおよびGTT)により正常な単胎妊娠[対照(CON)]からの尿代謝プロファイル対GDM発症者のものを決定した。GTCの結果は、血漿グルコースレベルが200mg/dl以上であるか、あるいはリスク要因を有する一部の患者ではそれより少し低い値で罹患と見なされた。95mg/dl超(GCT不耐性について)である空腹時血糖または妊娠第1期HbAc(5.7%以上)も、GDMを同定するために、利用した。GDMを、年齢、妊娠前肥満度指数(BMI)、および採尿時における妊娠期間によりCON対象と対にした。未熟児と死産を防ぐためのグローバルアライアンス(シアトル、ワシントン)[Global Alliance to Prevent Prematurity and Stillbirth (Seattle、WA)]のリポジトリから、非特定化尿試料の提供を受けた。全ての参加する妊婦は、ワシントン大学メディカルセンター、スウェーデン医療センターシアトル、ヤキモーバレー記念病院、およびシアトル子ども病院(Seattle Children’s Hospital)の施設内倫理委員会により承認されたプロトコルの下で、書面のインフォームド・コンセントの記入用紙に署名した。
【0095】
無作為尿試料を、妊娠6~19週で採取し、メタボロン社(ダーラム、ノースカロライナ)による分析まで-80℃で保存した。尿試料を、陽イオンモードのエレクトロスプレーイオン化による超高パフォーマンス液体クロマトグラフィー/質量分析-縦列質量分光法(UPLC-MS/MS)、陰イオンモードのエレクトロスプレーイオン化によるUPLC-MS/MS、およびガスクロマトグラフィー/質量分析を用いて、951種類の低分子量(1000未満)生化学物質について分析した21。上記プラットフォームは、精製標準標品からの質量スペクトルとの比較により代謝産物を同定した。総プロセス変動は10%であった。品質管理試料は、工程管理を提供した。各代謝産物のピーク面積を、液体摂取に関し補正するために中央値および浸透圧に対する縮尺で表した。
【0096】
二変量解析
正規分布にしたがう連続型変数を比較するためのp値を、t検定で算出した。いずれのスケールでも正規分布にしたがわない時間非依存性連続型変数についてのp値を、ウィルコクソンの順位和検定を用いて算出した。人種/民族性などの分類型変数を比較するp値を、正確な並べ替えカイ二乗検定またはフィッシャーの正確検定を用いて算出した。平均±標準誤差を報告した。差異は、p<0.05で有意であった。
【0097】
代謝産物の統計分析は、生体異物および部分的に特徴付けられた化合物を除外した。626種類の内在性化合物の残りのサブセットは、ペプチド、アミノ酸、炭水化物、脂肪酸、ヌクレオチド、酵素補助因子、およびビタミンを含んだ。代謝産物の平均値を、GDM対CONの間のログスケールで比較し、ログスケールデータを、平均値および標準誤差(SE)と共にまとめた。差異は、p<0.05で、名目上有意であった。差の分散を、標準偏差(SD)単位で表される平均差(GDM-CON、ログスケール)として示した。
【0098】
多変量解析
ランダムフォレスト予測精度、ランダムフォレストGINI指標悪化、および勾配ブーストロジスティック回帰(勾配ブーストモデル)を、多変量解析に用いた。これらの3種類の基準の2種類以上による上位代謝産物のコンセンサスランキングを用いて、GDM対CONに同時に関連する化合物を選択した。最終予測モデルに検討されるより小さな生化学的サブセットを、全ての3種類の基準による上位代謝産物のコンセンサスランキング、または所与の方法により同定された最重要代謝産物により選択した。
【0099】
同定された化合物を用いて、分類木は予測アルゴリズムを導き出した。感度、特異性、精度(感受性および特異性の重みなし平均)、および受信者動作特性(ROC)面積を、最終モデルについて報告した。計算を、ランダムフォレストおよび勾配ブーストモデル(統計計算のためのRプロジェクト、www.r-project.org)用のSASバージョン9.4(SAS社、ケーリー、ノースカロライナ)およびRバージョン3.5.2を用いて実施した。
【0100】
結果
46例のGDMの約3分の2が、妊娠第3期において診断され、残りは妊娠第1期と妊娠第2期にほぼ同等に分布した(表1)。200mg/dl以上のGCTレベル、またはGTT(1基準での1症例を除き、全てで2基準以上)を用いて、症例の60.9%を同定した。180±1.4mg/dl(範囲:171~187mg/dl)のGCT値を用いて32.6%を選択した。空腹時血糖(GCT不耐性)または妊娠第1期HbAcにより、無視できるほど少数しか選択されなかった。46例のGDMのうち、母体血糖は、23例(50.0%)において食生活により管理され、19例(41.3%)において経口血糖降下剤により管理され、4例(8.7%)においてインスリンにより管理された。より低いOCT閾値(>170mg/dl)により診断された15症例のうち、6例(40%)が、食生活で管理され、9例(60%)が、経口剤で治療された。空腹時血糖により同定された1例およびHbAにより同定された2例は、それぞれ、インスリンおよび経口剤を必要とした。CON群においては、GTC妊娠期間は、27±0.7週間(GDMに対しp=0.067)であり;1時間の血漿グルコース値は、108±2.9mg/dl(GDMに対しp<0.0001)であった。
【0101】
【表1】
【0102】
GDM-CON対は、母体年齢(GDM:32.2±0.7歳;CON:31.8±0.6歳;p=0.56)、BMI(GDM:31.5±1.0kg/m;CON:30.0±1.0kg/m;p=0.18)、および採尿時の妊娠期間(GDM:11.7±0.4週間;CON:12.0±0.4週間;p=0.46)に関してのよく一致した。有意差は、経産回数の不均等性(GDM:2.5±0.3、CON:1.9±0.3;p=0.31)および人種/民族性(白人:GDM 27、CON 37;ヒスパニック系:GDM:9、CON 2;アジア系:GDM 5、CON 2;混合:GDM 5、CON 5;p=0.063)に関してなかった。
【0103】
代謝産物ランキングに対するランダムフォレスト精度、ランダムフォレストGINI指標、または勾配ブーストモデル(相対的重要性)値のスクリープロットは、上位30代謝産物より下位では横ばい(「分断点」)を示した。626種類の代謝産物のうち、54種類が、CONからGDMを独立に区別する3基準の少なくとも1つにより上位30に入っており、54化合物のうちの26種類が、少なくとも2つの基準により上位であった(図1)。9種類の化合物を、全ての3基準により、重要であると同定した(図1、表2)。最終的な11モデル候補は、ランダムフォレストによる非常に高位の代謝産物をさらに2種類含んだ(表3)。GDMにおいては、11代謝産物のうちの6種類が、分散から分かるように、CONとは有意に異なっていた(名目上のp<0.05)。
【0104】
【表2】
【0105】
【表3】
【0106】
最終分類木モデル(図2)においては、11種類の代謝産物のうち7種類が同時に、高精度で妊娠性糖尿病を予測した。モデルの名目上の予測精度は、木のレベル数にしたがって増加した(表3)。精度は、単一の代謝産物を利用する1レベルの木の71.7%から、7種類の代謝産物を全て組み込んだ最終木の96.7%へと次第に増加した。最終木は、97.8%(45/46)の名目上の感度、95.7%(44/46)の特異性、および0.993のROC面積を有した。
【0107】
主な知見
モデルの高い予測精度(96.7%)は、妊娠早期の大規模でかつ広範な尿生化学物質パネルの高度な統計分析が、GDMに関する高度に選択的な代謝産物プロファイルを同定し得るという概念の証拠を提供する。さらに、この精度の高さは母体年齢、BMI、および採尿時点に依存しなかった(これらの全ては臨床利用を容易にする)。
【0108】
結果
妊娠早期にGDMを識別する11種類の代謝産物は、ジヒドロオロチン酸、フェノールグルクロニド、7,8-ジヒドロネオプテリン、ニコチン酸リボヌクレオシド、ランチオニン、およびドーパミンを含む、以前には報告されていない化合物を含んだ18,19,20,22,23,24。本研究はまた、それがバリン、トリプトファン、プリンまたはステロイド代謝産物を選択されなかったということにおいても異なった17,19,20。以前の報告に示されるように、GDMは、アルギニン、リジン、クエン酸、および脂肪酸の代謝に関連する生化学物質を撹乱する17,18,22,23,24
【0109】
選択された11種類の化合物候補のうち6種類(54.5%)は、アミノ酸異化作用(n=3)、グルコース酸化(n=1)、および脂肪酸酸化(n=2)に関連する。他の3種類の化合物は、抗酸化経路に関与し、高血糖関連酸化ストレスおよび炎症を反映している可能性がある7,25,26,27。総合してこれらの知見は、早ければ妊娠第1期でのインスリン耐性の代謝的破壊および糖尿病と一致する。興味深いことに、小規模で縦断的なGDM研究は、受胎前のインスリン刺激性糖処理におけるいくらかの低下を報告している28
【0110】
以前のメタボロミクス研究は、妊娠約16週に採取した血清中における17種類の代謝産物の予測値を報告した17。脂肪酸、糖類、およびアミノ酸を含み、このパネルは、0.8485のROC面積、78%の感度、75%の特異性、および76.5%の精度でGDMを予測した。妊娠約12週に採取した血清中で、PAPP-A、グリシン、アルギニン、イソバレリルカルニチン、および母体リスク要因は、0.83のROC面積を有した。感受性は72%、特異性は80%、および精度は76%であった18。別のメタボロミクス研究は、トリプトファンまたはプリンの単一尿代謝産物について0.641~0.858の範囲のROC面積を報告した19
【0111】
本研究では、分類木が、GDMを同定するための7種類の代謝産物のサブセットを選択した。このアルゴリズムの高い予測精度(96.7%)は、母体リスク要因の追加があっても、1種類以上の妊娠第1期生化学物質について以前に報告されたものよりも実質的に高かった16,17,18
【0112】
臨床上の意義
結果は、これらの高度な分析法がおそらく、GDMの妊娠第1期診断のために充分に正確な代謝産物モデルを作成できるという確実性を強調する。2型糖尿病でのように29、ミトコンドリア機能不全は、GDMの病因に重要な役割を果たしている可能性がある5,6,7,25。ミトコンドリア機能を安定化すること、および反応性酸素種および炎症性メディエーターの生成を低下させることは、インスリン感受性を増強しかつ母体および胎児の転帰を改善するかもしれない。
【0113】
研究上の意義
変数および未検証のスクリーニング法に基づいて、GDMの15~70%を、妊娠24週より前に検出できる30。13コホート試験のメタ分析では、周産期死亡率、新生児低血糖、およびインスリン要求度は、後期発症GDMに比べて早期発症で高かった30。しかし、普遍的な妊娠第1期のスクリーニングは依然として、意見の分かれるところであり、その理由は、早期GDMスクリーニング/診断に関する検証済みの方法がないこと、現在の介入と治療標的の有益性に疑問があること、および無作為研究が存在しないことである30,31。したがって、早期介入の有益性が、長期にわたる血糖モニタリングのコスト、費用、および患者の不便に比べて高いか否かは明確ではない。
【0114】
後期に診断されたGDM(妊娠24週以降)が妊娠早期に多くの特徴的な代謝撹乱を示すことは、早期の診断および介入ついて有力な論拠を示す。第1に、撹乱代謝産物は、インスリン感受性および代謝への直接的および間接的影響を通じてインスリン耐性を低下させる32。第2に、破壊された代謝シグナル伝達経路は、転写因子、クロマチン、小型のRNA、およびDNAメチル化を含む後成的制御機構を変化させ得る33。その結果起こる後成的撹乱は、代謝的な経路、心臓血管の経路、および神経内分泌経路を調節不全にする14。この機構は、遺伝する遺伝的感受性に加えて、重大な代謝障害および心臓血管障害についての将来のリスクを増大させる、有害な胎児プログラミングに起因するとされてきた。GDMに関して自然に起こる疑問は:
(1)どのような機構が、インスリン耐性機能不全およびβ細胞のインスリン放出欠損を引き起こすのか?
および
(2)どのような治療介入が、妊娠による障害の進行を遅らせ、かつ胎児の後成的調節不全を軽減するのか?
である。
【0115】
本研究は、妊娠早期の尿代謝表現型が、妊娠早期または後期にその後診断されるGDMを正確に同定でき、短期的および長期的周産期罹病率を標的とする無作為化された、革新的な介入(食生活によるミトコンドリア機能の改善を含む29)を可能にすることを、示す。検証メタボロミクス研究は、GCTおよびGTTの代替となり得るこの有望なモデルの高い診断精度をさらに裏付けるであろう。検証はまた、モデル代謝産物に限定される尿測定を可能にし、コストを削減するであろう。この成果は、妊娠早期から母体代謝環境を制御することが、GDMの有病率、周産期罹病率、および肥満、2型糖尿病、および心臓血管疾患の長期リスクを低減するか否かについての縦断的研究を可能にする。
【0116】
長所と限界
本試験の主要な長所は、バイオマーカーを同定するための強力なツールである非標的化メタボロミクスによる分析である。さらに、この拡張型分析プラットフォームは、広範な代謝産物を測定し、GDMと個々に関連する代謝産物の発見を容易にした。
【0117】
もう一つの際立つ利点は、GDMのメタボロミクス研究でこれまで利用されなかった高度な多変量法の利用である。多くの変数(本研究では、626種類の代謝産物)およびいくつかの観察結果(本研究では、2種類)がある場合、従来のロジスティクス回帰または判別分析は、候補プールから重要な変数を探すために用いられるときに、過剰適合および高い誤差率に悩まされる。観察結果と比較して非常に多数の代謝産物に対し、従来の回帰は実行すらできない。したがって、ランダムフォレスト予測精度、ランダムフォレストGINI指標悪化、および勾配ブーストモデルを、多変量解析に用いた。2種類のモデル(ランダムフォレスト、勾配ブーストモデル)のコンセンサスを、線形性および加算性について異なる仮定で用いること、および両方の方法で強力な予測因子と同定されたそれらの代謝産物のみを選択することは、偽陽性をさらに防ぎ17、予測アルゴリズムで考慮する代謝産物のより小さいサブセットをもたらした。このコンセンサス分析は、偽陰性の増加の可能性にもかかわらず、真の陽性の同定における信頼性を高めた。
【0118】
46対の症例と対照では、試験サイズは、個別の学習と検証を提供するには不充分であった。試験の比較的小さい規模、および民族の均一でない代表もまた、一般的利用のへの応用を制限する。したがって、本試験は、より大規模で民族的に多様な集団における検証を必要とする。標準化された診断基準の欠如は、準最適であったが、これは地域社会での実施を反映した。このような不整合性は診断精度を有意に低下させず、なぜなら経口血糖降下治療が、非従来型基準(より低いGTC閾値、HbAc)によりGDMと同定された個体の65%(11/17)で必要とされたからである。
【0119】
結論
高度な分析法は、妊娠早期および後期の両方で診断されるGDMを正確に予測した、早ければ妊娠第1期での母体代謝産物プロファイルを初めて同定した。より大規模な試験によるこのモデルの検証は、(1)GDM診断のためのGCTおよびGTTの代替としての尿代謝表現型、および(2)妊娠第1期において母体代謝をどの程度正常化することが、GDMの有病率、周産期罹病率、および肥満、2型糖尿病、および心臓血管疾患の増加する進行に寄与する胎児後成的失調を低減するのかを決定するための臨床試験、を支援するであろう。
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【0120】
実施例2:妊娠20週よりも後期の尿代謝産物は妊娠性真性糖尿病を予測する
本試験を、(1)GDの妊娠後期の尿代謝産物の相対レベルが正常妊娠(NG)のものと異なるか否かを評価するため、および(2)無作為に採取した尿中の提示された特徴的な代謝産物が、妊娠期後半のGDの同定に有用であるか否かを決定するため、に行った。
【0121】
方法:このコホート内観察的症例対照試験は、母体年齢、妊娠前BMIおよび採尿時の妊娠期間に関して一致した46人のGDおよび46人のNGを含んだ。除外基準は、多胎妊娠、代謝障害または心臓血管障害を含んだ。未熟児と死産を防ぐためのグローバルアライアンスから尿試料および人口統計データの提供を受けた。3か所の異なる医療センターの医師が、地域の基準にしたがいブドウ糖負荷試験(glucose challenge試験とglucose tolerance試験)によりGDを診断した。尿中の626種類の非標的化内在性代謝産物(1,000ダルトン未満)の浸透圧で補正したレベルを、メタボロミクスプラットフォーム(Metabolon社)で分析した。多変量法(相対的重要性を高めるランダムフォレスト精度およびGINI指標)により、NGからGDを同時に区別する代謝産物についてスクリーニングした。分類木は、NGに対してGDを予測する最終アルゴリズムを与えた。
【0122】
結果:症例群および対照群は、母体年齢(MA)、妊娠前肥満度指数(BMI)、および採尿時の妊娠期間(GA)(平均、(SD))に関して類似した。これらの特徴を、表4にまとめる。
【0123】
【表4】
【0124】
3種類の多変量基準は同時に、GDとNGを区別する8種類の代謝産物を同定した。これら代謝産物の4種類(3-ヒドロキシ酪酸、1、5-アンヒドログルシトール、ホモカルノシン、3-ヒドロキシドデカンジオアート)を組み込む5レベルの分類木は、89%の加重なし精度(感度および特異性の平均)でGDMを予測した。この分類木を図3に示す。
【0125】
本実施例は、妊娠期後半のランダムな尿試料の代謝プロファイルが、NGとGDの判別において高精度であったことを明らかにした。数字は、浸透圧で補正した濃度単位を指す。
【0126】
実施例3:妊娠性糖尿病は妊娠早期においてエネルギー代謝を撹乱した
妊娠性糖尿病(GD)は、受胎する以前にインスリン感受性を損なった。本実施例の目的は、妊娠早期の母体尿代謝産物が、変化した代謝経路を示すか否かを決定することであった。
方法:このコホート内観察的症例対照試験は、未熟児と死産を防ぐためのグローバルアライアンス(シアトル、ワシントン)からの無作為的に採集された、非特定化尿試料から成った。施設内基準により、GDをブドウ糖負荷試験(glucose challenge試験とglucose tolerance試験)で診断した。本試験は、母体年齢、肥満度指数(BMI)、および採尿時の妊娠期間(GA)が一致した単胎妊娠の46人のGDおよび46人の対照(NG)から成った。除外された妊婦は、重大な代謝障害または心臓血管障害を有した。偏りのないメタボロミクスプラットフォーム(Metabolon社)で、626種類の尿内在性化合物(1000ダルトン未満)の浸透圧補正濃度を分析した。多変量法(相対的重要性を高めるランダムフォレスト、ブースティング)は、NGからGDを同時に差異化する代謝産物を同定した。
【0127】
結果:症例群および対照群は、採尿時に類似の平均母体年齢[GD:32±0.7(SE);NG:32±0.6歳]、平均妊娠前肥満度指数(GM:31.5±1.0;NG30.0±1.0kg/m)、および平均妊娠期間(GD:11.7±0.4;NG:12.0±0.4週間)を有した。多変量基準により、同時にGDと対照を区別する26種類の化合物を同定した。経路分析は、GDが窒素バランス(n=7)、酸化還元(n=8)、および酸化的リン酸化(n=5)の経路を変化させたことを示した。微生物叢由来代謝産物(n=7)における変化は、胆汁酸(3)、リジン(2)、およびフェニルアラニン(2)の関連物質を含んだ。
【0128】
GDは、代謝経路の妊娠早期撹乱を示し、これは酸化ストレスの増加、エネルギー代謝の不全、およびインスリン耐性の不全と符合する。
【0129】
実施例4:妊娠早期に同定された尿代謝産物は、妊娠後期尿(妊娠20週より後)中のGDMも予測する
本試験を、(1)GDの妊娠後期尿代謝産物の相対レベルが正常妊娠(NG)のものと異なるか否かを評価するため、および(2)無作為に採集した尿中の提示された特徴的な代謝産物が、妊娠期後半のGD同定に有用であるか否かを決定するため、に行った。データの検証を図4に提示し、これは妊娠20週より後(実施例2と同一の患者)についての7種類の代謝産物(妊娠20週未満について上記実施例1において用いた)の精度を示す。その7種類の代謝産物についての分類木を下に示し、そのうちの4種類のみがGDM検出精度を最適化することが分かった。本試験は、46対の対象を含み、代謝産物測定値を、浸透圧で補正した。代謝産物を表5に示す;打ち消し線は、使用しなかった代謝産物、アルギニン酸(X304)、7,8-ジヒドロネオプテリン(X257)、およびランチオニン(X622)、を示す。
【0130】
【表5】
【0131】
【表6】
【0132】
表6に示される分類表は、84.5%のGDM感度を示し; NG特異性は87%であり、および名目上の精度は86%であった。曲線下面積 (AUC)は0.0.879であった。
【0133】
本願はその全体を通じてさまざまな公表文献を参照している。本発明が関連する当該技術分野の状況をより詳細に説明するために、これら公表文献の開示内容はその全体が、参照として本明細書に組み入れられる。
【0134】
前述の説明に開示される概念および特定の実施態様を、本発明と同一の目的で実施する他の実施態様を改変または設計するための基礎として容易に利用し得ることは、当業者であれば理解するであろう。そのような同等の実施態様が、本明細書に付属する特許請求項に示される本発明の趣旨と範囲から逸脱するものではないこともまた、当業者であれば理解するであろう。
図1
図2
図3
図4