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特許7607955エアロゲル粉末の製造方法及びこれを用いた断熱材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-20
(45)【発行日】2025-01-06
(54)【発明の名称】エアロゲル粉末の製造方法及びこれを用いた断熱材
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/16 20060101AFI20241223BHJP
   F16L 59/02 20060101ALI20241223BHJP
【FI】
C01B33/16
F16L59/02
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2022563561
(86)(22)【出願日】2021-06-04
(86)【国際出願番号】 JP2021021300
(87)【国際公開番号】W WO2022107365
(87)【国際公開日】2022-05-27
【審査請求日】2023-03-28
(31)【優先権主張番号】P 2020193892
(32)【優先日】2020-11-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100169591
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 浩嗣
(72)【発明者】
【氏名】ウー ラダー
(72)【発明者】
【氏名】李 官益
【審査官】佐藤 慶明
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-035043(JP,A)
【文献】特開2003-042386(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第109722067(CN,A)
【文献】特公昭55-023788(JP,B2)
【文献】国際公開第2017/038646(WO,A1)
【文献】特表2005-525454(JP,A)
【文献】特表昭55-500614(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0179073(US,A1)
【文献】特開平02-255517(JP,A)
【文献】特開2015-067691(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/00 - 33/193
F16L 59/00 - 59/22
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属アルコキシドと、溶媒とを混合し、加水分解させてゾルを生成する混合工程と、
前記混合工程で得られたゾルをゲル化するゲル化工程と、
前記ゲル化工程で得られたゲルを熟成して湿潤ゲルを得る熟成工程と、
湿潤ゲルの溶媒を所定の置換用溶媒に置き換える溶媒置換工程と、
網目構造の表面を所定の有機基で修飾する修飾工程と、
前記混合工程と前記ゲル化工程と前記熟成工程と前記溶媒置換工程と前記修飾工程とを順次経ることによって得られた修飾済みの湿潤ゲルを洗浄する工程と、
洗浄された修飾済みの湿潤ゲルを乾燥させる工程と、
前記乾燥された湿潤ゲルを粉砕して、二次粒子構造を破壊して、一次粒子構造に機械的に還元する工程と、
を備える弱結合超微粒子エアロゲル粉末の製造方法。
【請求項2】
前記金属アルコキシドの金属は、ケイ素(Si)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、イットリウム(Y)、バナジウム(V)、セリウム(Ce)、ランタン(La)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、プラセオジウム(Pr)、ホルミウム(Ho)、又はモリブデン(Mo)の何れかの少なくとも1種を含む請求項1に記載の弱結合超微粒子エアロゲル粉末の製造方法。
【請求項3】
前記金属アルコキシドはケイ素アルコキシドであり、
前記ゲル化工程において、前記ケイ素アルコキシドと前記溶媒の混合液に酸触媒及び塩基触媒を添加する請求項1に記載の弱結合超微粒子エアロゲル粉末の製造方法。
【請求項4】
前記金属アルコキシドはケイ素アルコキシドであり、
前記熟成工程において、熟成温度は15以上70℃以下であり、熟成時間は0時間を超えて24時間以下である請求項1に記載の弱結合超微粒子エアロゲル粉末の製造方法。
【請求項5】
前記金属アルコキシドはケイ素アルコキシドであり、
前記修飾工程において、前記網目構造の表面を修飾する反応性基は、ハロゲン、アミノ基、イミノ基、カルボキシル基、アルコキシル基、水酸基、アルキル基、フェニル基、アルキル基のフッ化物、及びフェニル基のフッ化物の1種のみ又は2種以上を有する、請求項1に記載の弱結合超微粒子エアロゲル粉末の製造方法。
【請求項6】
前記修飾工程において、前記反応性基を有する試薬として添加する化合物は、ヘキサメチルジシラザン、ヘキサメチルジシロキサン、トリメチルクロロシラン、トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、トリエチルエトキシシラン、トリエチルメトキシシラン、ジメチルジクロロシラン、ジメチルジエトキシシラン、メチルトリクロロシラン、エチルトリクロロシラン、酢酸、蟻酸、コハク酸、メチルクロリドである、請求項5に記載の弱結合超微粒子エアロゲル粉末の製造方法。
【請求項7】
前記湿潤ゲル洗浄工程は、前記反応性基を有する試薬を前記ゲルから除去するように、洗浄液で前記修飾工程をへた湿潤ゲルを洗浄する請求項6に記載の弱結合超微粒子エアロゲル粉末の製造方法。
【請求項8】
前記金属アルコキシドはケイ素アルコキシドであり、
前記乾燥工程は、大気圧下での乾燥である請求項1に記載の弱結合超微粒子エアロゲル粉末の製造方法。
【請求項9】
前記粉砕工程は、弱結合超微粒子エアロゲルにおいて、一次粒子を骨格の単位とするエアロゲル粒子が50%以上含まれ、残余が二次粒子を骨格の単位とするエアロゲル粒子であるようにエアロゲルを粉砕する、請求項8に記載の弱結合超微粒子エアロゲル粉末の製造方法。
【請求項10】
請求項1に記載の弱結合超微粒子エアロゲル粉末の製造方法において、さらに、
前記混合工程と前記ゲル化工程との間に、前記混合工程で前記金属アルコキシドと前記溶媒の混合液に中空粒子を添加する工程を有する、
中空粒子でハイブリッド化された弱結合超微粒子エアロゲル粉末の製造方法。
【請求項11】
請求項3乃至9の何れか1項に記載の弱結合超微粒子エアロゲル粉末の製造方法において、さらに、
前記混合工程と前記ゲル化工程との間に、前記混合工程でシリカ前駆体として調製された前記ケイ素アルコキシドと前記溶媒の混合液に中空粒子を添加する工程を有する、
中空粒子でハイブリッド化された弱結合超微粒子エアロゲル粉末の製造方法。
【請求項12】
前記中空粒子は、
外径が30nm以上360nm以下、球殻の厚さが7.5nm以上65nm以下の範囲であるナノ中空粒子と、
外径が1μm以上23μm以下、球殻の厚さが0.35μm以上3μm以下の範囲であるマイクロ中空粒子の少なくとも一方を含む、
請求項10又は11に記載の中空粒子でハイブリッド化された弱結合超微粒子エアロゲル粉末の製造方法。
【請求項13】
一次粒子の集合体である二次粒子で骨格を構成された三次元網目構造を有するエアロゲルを原料とし、前記二次粒子を破壊して生成された一次粒子で骨格を構成された三次元網目構造を有する微粒子を含むことを特徴とする断熱材。
【請求項14】
前記一次粒子は、金属酸化物であって、前記金属酸化物の金属は、ケイ素(Si)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、イットリウム(Y)、バナジウム(V)、セリウム(Ce)、ランタン(La)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、プラセオジウム(Pr)、ホルミウム(Ho)、又はモリブデン(Mo)の少なくとも1種の酸化物である請求項13に記載の断熱材。
【請求項15】
前記微粒子は、その粒子径分布において、粒子総数の50%以上が粒子径0.1μm以上1.0μm以下の範囲に分布し、且つ、当該粒子範囲に最頻値を有することを特徴とする請求項13に記載の断熱材。
【請求項16】
前記断熱材は、さらに中空粒子を含むことを特徴とする請求項13に記載の断熱材。
【請求項17】
前記中空粒子は、外径が30nm以上360nm以下のナノ中空粒子と、外径が1μm以上23μm以下のマイクロ中空粒子の少なくとも一方を有する請求項16に記載の断熱材。
【請求項18】
前記中空粒子は殻を有し、殻の内側の中空部分に空気よりも熱伝導率の低い気体が封入されていることを特徴とする、請求項16に記載の断熱材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアロゲルを用いた断熱材及びその製造方法に関し、特に弱結合超微粒子エアロゲル粉末の製造方法、中空粒子でハイブリッド化された弱結合超微粒子エアロゲル粉末の製造方法及びこれらを用いた断熱材する。
【背景技術】
【0002】
エアロゲルは1931年に最初に発表された材料であり(非特許文献1)、一般的に定義すれば、微小孔を有する固体からなっていて、分散相が気体であるゲルである。
【0003】
エアロゲルは非常に低密度の材料であるが、繊細、脆弱であって非常に壊れやすく、そのため多くの実用的な局面への応用が困難になっていた。そこで、これまでにないフィルターとして、例えば高断熱窓、冷蔵庫用極薄壁、建築物の高断熱材等の工学応用のために、機械的に堅牢な新たな種類のエアロゲルが求められている。
この課題を達成するため、従来から繊維やその他の有機分子で補強を行った、ハイブリッド化されたエアロゲルが研究されてきている。例えば、シリカエアロゲルの表面を有機基で修飾して、自然乾燥によって超臨界乾燥で製造したエアロゲル並みの低密度構造多孔体を製造することが提案されている。
また、特許文献1、2では、断熱性能のみならず、柔軟性も備えたエアロゲル複合体が提案されている。
【0004】
しかし、多くの実用的な局面への応用に適するエアロゲルは実現できていないのが実情である。特に、超臨界乾燥で製造したエアロゲルは高コストで、価格的要因も実用的な応用への障害となっている。
他方で、液体水素や液体ヘリウムのような、液体窒素の沸点温度(-196℃)と比較しても、低い沸点温度(液体水素で-252.8℃)の低温液体の貯蔵や運搬が重要になってきている。
そこで、液体水素や液体ヘリウムのような低温液体の貯蔵や運搬に目的に適するエアロゲルの出現が期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】WO2017/170498号公報
【文献】特許第6288382号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】S. S. Kistler, Nature 1931,127,741.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、シリカをベースにしたエアロゲルは、長年にわたって開発されてきたもので、多孔質構造を示し、世界の他の断熱材に比べて超低熱伝導率を実現している。
しかし、エアロゲル応用の最大の難点は製造コストの高さであり、エアロゲルの用途を限定しているという課題があった。
本発明の目的は、単位占有体積当たりの製造コストが低減でき、併せて断熱特性に優れた弱結合超微粒子エアロゲル粉末の製造方法、中空粒子でハイブリッド化された弱結合超微粒子エアロゲル粉末の製造方法、およびこれらのエアロゲル粉末を用いた断熱材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、非常に低密度のエアロゲルとすれば、同じ重量で占有体積が増大することで、製造コストが低減できるのではないかと着想し、本発明を想到するに至った。
[1]本発明の弱結合超微粒子エアロゲル粉末の製造方法は、例えば図1に示すように、金属アルコキシドと、溶媒とを混合し、加水分解させてゾルを生成する混合工程と、前記混合工程で得られたゾルをゲル化するゲル化工程と、前記ゲル化工程で得られたゲルを熟成して湿潤ゲルを得る熟成工程と、湿潤ゲルの溶媒を所定の置換用溶媒に置き換える溶媒置換工程と、網目構造の表面を所定の有機基で修飾する修飾工程と、前記湿潤ゲル生成工程により得られた修飾済みの湿潤ゲルを洗浄する工程と、洗浄された修飾済みの湿潤ゲルを乾燥させる工程と、前記乾燥された湿潤ゲルを粉砕する工程と、を備えるものである。
[2]本発明の弱結合超微粒子エアロゲル粉末の製造方法において、好ましくは、前記金属アルコキシドの金属は、ケイ素(Si)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、イットリウム(Y)、バナジウム(V)、セリウム(Ce)、ランタン(La)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、プラセオジウム(Pr)、ホルミウム(Ho)、又はモリブデン(Mo)の何れかの少なくとも1種を含むとよい。
[3]本発明の弱結合超微粒子エアロゲル粉末の製造方法において、好ましくは、前記金属アルコキシドはケイ素アルコキシドであるとよい。
[4]本発明の弱結合超微粒子エアロゲル粉末の製造方法[3]において、好ましくは、前記ケイ素アルコキシドとして、テトラエトキシシラン、トリメトキシシラン、テトラメトキシシラン、トリエトキシシラン、トリプロポキシシラン、テトラプロポキシシラン、トリブトキシシランの少なくとも1つを用いるとよい。
【0009】
[5]本発明の弱結合超微粒子エアロゲル粉末の製造方法[3]において、好ましくは、前記混合工程において、前記ケイ素アルコキシドと前記溶媒の比は所定範囲であるとよい。前記混合工程においては、加水分解反応を促進させるため、溶媒中に酸触媒を添加してもよい。
[6]本発明の弱結合超微粒子エアロゲル粉末の製造方法[3]において、好ましくは、前記ゲル化工程において、前記ケイ素アルコキシドと前記溶媒の混合液に酸触媒及び塩基触媒を添加するとよい。
[7]本発明の弱結合超微粒子エアロゲル粉末の製造方法[3]において、好ましくは、前記熟成工程において、熟成温度は15以上70℃以下であり、熟成時間は0時間を超えて24時間以下であるとよい。
[8]本発明の弱結合超微粒子エアロゲル粉末の製造方法[3]において、好ましくは、前記修飾工程において、前記網目構造の表面を有機基で修飾する反応性基は、ハロゲン、アミノ基、イミノ基、カルボキシル基、アルコキシル基、水酸基、アルキル基、フェニル基、アルキル基のフッ化物、及びフェニル基のフッ化物の1種のみ又は2種以上を有するとよい。
[9]本発明の弱結合超微粒子エアロゲル粉末の製造方法[8]において、好ましくは、前記修飾工程において、前記反応性基を有する試薬として添加する化合物は、ヘキサメチルジシラザン、ヘキサメチルジシロキサン、トリメチルクロロシラン、トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、トリエチルエトキシシラン、トリエチルメトキシシラン、ジメチルジクロロシラン、ジメチルジエトキシシラン、メチルトリクロロシラン、エチルトリクロロシラン、酢酸、蟻酸、コハク酸、メチルクロリドであるとよい。
[10]本発明の弱結合超微粒子エアロゲル粉末の製造方法[9]において、好ましくは、前記湿潤ゲル洗浄工程は、前記反応性基を有する試薬を前記ゲルから除去するように、洗浄液で前記修飾工程をへた湿潤ゲルを洗浄するとよい。
[11]本発明の弱結合超微粒子エアロゲル粉末の製造方法[3]において、好ましくは、前記乾燥工程は、大気圧下での乾燥であるとよい。
[12]本発明の弱結合超微粒子エアロゲル粉末の製造方法[3]において、好ましくは、前記粉砕工程は、弱結合超微粒子エアロゲルにおいて、一次粒子を骨格の単位とするエアロゲル粒子が50%以上含まれ、残余が二次粒子を骨格の単位とするエアロゲル粒子であるように[11]に記載の方法で乾燥されたエアロゲルを粉砕するとよい。
【0010】
[13]本発明の弱結合超微粒子エアロゲル粉末の製造方法[3]において、好ましくは、前記混合工程の前記溶媒は、メタノール、エタノール、n-プロパノール、2-プロパノール、n-ブタノール、2-ブタノール、t-ブタノールの少なくとも1種であるとよい。
[14]本発明の弱結合超微粒子エアロゲル粉末の製造方法[3]において、好ましくは、前記置換用溶媒は、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、アセトン、メチルエチルケトン、1,2-ジメトキシエタン、アセトニトリル、ヘキサン、トルエン、ジエチルエーテル、クロロホルム、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、塩化メチレン、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、酢酸、ギ酸の少なくとも1種である有機溶媒を単独で又は2種類以上を混合して用いるとよい。
【0011】
[15]本発明の中空粒子でハイブリッド化された弱結合超微粒子エアロゲル粉末の製造方法は、[1]又は[2]に記載の弱結合超微粒子エアロゲル粉末の製造方法において、さらに、前記混合工程と前記ゲル化工程との間に、前記混合工程で前記金属アルコキシドと前記溶媒の混合液に中空粒子を添加する工程を有するものである。
[16]本発明の中空粒子でハイブリッド化された弱結合超微粒子エアロゲル粉末の製造方法は、[3]乃至[14]の何れか1項に記載の弱結合超微粒子エアロゲル粉末の製造方法において、さらに、前記混合工程でシリカ前駆体として調製された前記ケイ素アルコキシドと前記溶媒の混合液に中空粒子を添加する工程を有するものである。
[17]本発明の中空粒子でハイブリッド化された弱結合超微粒子エアロゲル粉末の製造方法[15]又は[16]において、好ましくは、前記中空粒子は、外径が30nm以上360nm以下、球殻の厚さが7.5nm以上65nm以下の範囲であるナノ中空粒子と、外径が1μm以上23μm以下、球殻の厚さが0.35μm以上3μm以下の範囲であるマイクロ中空粒子の少なくとも一方を含むとよい。
[18]本発明の中空粒子でハイブリッド化された弱結合超微粒子エアロゲル粉末の製造方法[17]において、好ましくは、前記ナノ中空粒子の添加量は、ハイブリッド化されたエアロゲル全体に対して0.01重量%~30重量%であるとよい。
[19]本発明の中空粒子でハイブリッド化された弱結合超微粒子エアロゲル粉末の製造方法[17]において、好ましくは、前記マイクロ中空粒子の添加量は、ハイブリッド化されたエアロゲル全体に対して0.01重量%~30重量%であるとよい。
【0012】
[20]本発明の断熱材は、一次粒子の集合体であるクラスターで骨格を構成された三次元網目構造を有するエアロゲルを原料とし、前記一次粒子で骨格を構成された三次元網目構造を有する微粒子を含むことを特徴とする。ここで、一次粒子について説明する。従来のエアロゲル粉末粒子の三次元網目構造において、その骨格を構成する単位は二次粒子と呼ばれている(例えば、特許文献1の第0033段落参照)。一次粒子とは、複数個が集まってこの二次粒子を構成する、より小さな単位の粒子である。なお、同文献によれば、二次粒子の径が概ね2nm~50μmであるのに対して、一次粒子の径は0.1nm~5μmであるとされる。但し、技術常識として普遍的に、一次粒子、二次粒子の粒子径について、それぞれの絶対値に画一的な範囲が規定されているわけではない。
[21]本発明の断熱材[20]において、好ましくは、前記エアロゲルは、金属酸化物の一次粒子で骨格を構成された三次元網目構造であって、前記金属酸化物の金属は、ケイ素(Si)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、イットリウム(Y)、バナジウム(V)、セリウム(Ce)、ランタン(La)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、プラセオジウム(Pr)、ホルミウム(Ho)、又はモリブデン(Mo)の少なくとも1種の酸化物であるとよい。
[22]本発明の断熱材[20]又は[21]において、好ましくは、前記微粒子は、その総数の50%以上が粒子径について0.1μm以上1.0μm以下に最頻値をもって分散するとよい。なお、ここで言う粒子径は、レーザー回折式粒子径分布測定装置による観測値である。レーザー回折式粒子径分布測定を本明細書では、PSD(particle size distribution)測定と略す。本明細書において、粒子径についてはPSD測定を前提として説明する。ただし、PSD測定では、粒子自体の径だけではなく、粒子の凝集も粒子径として観測されるため、真の粒子径は測定値よりも小さい可能性が高い。測定法に依存した粒子径の相違があれば、粒子径を適宜に換算して、読み替えてよい。
[23]本発明の断熱材[20]乃至[22]において、好ましくは、前記断熱材は、さらに中空粒子を含むとよい。
[24]本発明の断熱材[23]において、好ましくは、前記中空粒子は、外径が30nm以上360nm以下のナノ中空粒子と、外径が1μm以上23μm以下のマイクロ中空粒子の少なくとも一方を有するとよい。
[25]本発明の断熱材[23]又は[24]において、好ましくは、前記中空粒子は殻を有し、殻の内側の中空部分に空気よりも熱伝導率の低い気体が封入されているとよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の弱結合超微粒子エアロゲル粉末の製造方法によれば、エアロゲル粉末の占有する体積を拡大した超微粒子エアロゲル粉末を提供できる。体積を拡大した超微粒子エアロゲル粉末によれば、同じ重量でより多くの体積に充填することができ、断熱材の材料費を削減することができる。
本発明の中空粒子でハイブリッド化された弱結合超微粒子エアロゲル粉末の製造方法によれば、中空粒子を含む超微粒子エアロゲル粉末を提供できる。中空粒子を含む超微粒子エアロゲル粉末によれば、同じ重量でより多くの体積に充填することができ、断熱材の材料費を削減することができる。
本発明の断熱材によれば、超微粒子エアロゲル粉末又は中空粒子でハイブリッド化された弱結合超微粒子エアロゲル粉末を用いているので、従来のエアロゲルに比べて粉体サイズが小さく、エアロゲル材料の単位占有体積を拡大することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】エアロゲルの合成過程の一例を説明する製造プロセス図であり、弱結合超微粒子エアロゲル粉末の合成過程を示している。
図2】高速破砕工程のシーケンス説明図である。
図3】一般的なエアロゲルの構造及びこれを粉砕して作られるエアロゲル粉末を模式的に示す説明図である。
図4】本発明のエアロゲル及びこれを粉砕して作られる超微粒子エアロゲル粉末を模式的に示す説明図である。
図5】市販エアロゲルと弱結合超微粒子エアロゲル粉末のSEM像を示す図である。
図6】市販エアロゲルと弱結合超微粒子エアロゲル粉末の粒度分布を示す図である。
図7】本発明の一実施形態である弱結合超微粒子エアロゲル粉末の外観図である。
図8】市販エアロゲルと弱結合超微粒子エアロゲル粉末の熱伝導率を示す図である。
図9】異なる粉砕機構におけるエアロゲル粉末の密度の差異を示す図である。
図10】本発明の一実施形態である弱結合超微粒子エアロゲル粉末の粒度分布データの数値データを示している。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<定義> 本明細書において、「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。本明細書に段階的に記載されている数値範囲において、ある段階の数値範囲の上限値又は下限値は、他の段階の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。本明細書に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。「A又はB」とは、A及びBのどちらか一方を含んでいればよく、両方とも含んでいてもよい。本明細書に例示する材料は、特に断らない限り、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。本明細書において、組成物中の各成分の含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する複数の物質の合計量を意味する。
【0016】
<エアロゲル> 狭義には、湿潤ゲルに対して超臨界乾燥法を用いて得られた乾燥ゲルをエアロゲル、大気圧下での乾燥により得られた乾燥ゲルをキセロゲル、凍結乾燥により得られた乾燥ゲルをクライオゲルと称するが、本実施形態においては、湿潤ゲルのこれらの乾燥手法によらず、得られた低密度の乾燥ゲルをエアロゲルと称する。すなわち、本実施形態においてエアロゲルとは、広義のエアロゲルである「Gel comprised of a microporous solid in which the dispersed phase is a gas(分散相が気体である微多孔性固体から構成されるゲル)」を意味するものである。
<エアロゲル粉末> エアロゲル粉末は、エアロゲルを粉砕した粉末である。
【0017】
以下、本実施形態の弱結合超微粒子エアロゲル粉末の製造方法の各工程について説明する。
図1はエアロゲルの合成過程の一例を説明する製造プロセス図であり、弱結合超微粒子エアロゲル粉末の合成過程を示している。弱結合超微粒子エアロゲル粉末の合成過程は、混合工程、ゲル化工程、熟成工程、溶媒置換工程、修飾工程、洗浄工程、粉砕工程を有している。ここで、シリカエアロゲルは、ゾルゲル化学による湿潤ゲルの形成と湿潤ゲルの乾燥という2つの主要な工程を経て製造される。湿潤ゲルは、シリカ前駆体分子の加水分解と縮合から形成されたシリカのナノ構造による三次元網目骨格と液体溶媒から構成されている。
熟成工程と粉砕工程のパラメータを制御することで、エアロゲル粉末の体積を拡大することができる。
【0018】
(混合工程)
混合工程は、金属アルコキシド(例えばケイ素アルコキシド)と、溶媒とを混合し、加水分解させてゾルを生成する工程である。混合工程においては、加水分解反応を促進させるため、溶媒中に酸触媒を添加してもよい。なお、中空粒子でハイブリッド化された弱結合超微粒子エアロゲル粉末の製造方法の場合は、金属アルコキシド(例えばケイ素アルコキシド)と、中空粒子を含む溶媒とを混合し、加水分解させてゾルを生成する工程をいう。
【0019】
金属アルコキシドとしては、金属元素として、ケイ素(Si)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、イットリウム(Y)、バナジウム(V)、セリウム(Ce)、ランタン(La)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、プラセオジウム(Pr)、ホルミウム(Ho)、又はモリブデン(Mo)の少なくとも1種を含むとよい。
ケイ素アルコキシドとしては、加水分解性の官能基及び縮合性の官能基の少なくとも一方を有していればよく、加水分解性の官能基及び縮合性の官能基の双方を有していてもよい。ケイ素アルコキシドとして、例えば、テトラエトキシシラン、トリメトキシシラン、テトラメトキシシラン、トリエトキシシラン、トリプロポキシシラン、テトラプロポキシシラン、トリブトキシシランの少なくとも1つを用いるとよい。
【0020】
加水分解性の官能基としては、例えば、アルコキシ基が挙げられる。縮合性の官能基(加水分解性の官能基に該当する官能基を除く)としては、例えば、水酸基、シラノール基、カルボキシル基及びフェノール性水酸基が挙げられる。水酸基は、ヒドロキシアルキル基等の水酸基含有基に含まれていてもよい。加水分解性の官能基及び縮合性の官能基のそれぞれは、単独で又は2種類以上を混合して用いてもよい。
【0021】
溶媒としては、例えば、水、又は、水及びアルコール類の混合液を用いることができる。アルコール類としては、メタノール、エタノール、n-プロパノール、2-プロパノール、n-ブタノール、2-ブタノール、t-ブタノール等が挙げられる。これらの中でも、ゲル壁との界面張力を低減させる点で、表面張力が低くかつ沸点の低いアルコールとしては、メタノール、エタノール、2-プロパノール等が挙げられる。これらは単独で又は2種類以上を混合して用いてもよい。
ケイ素アルコキシドに対する溶媒の重量比は、例えば1~1.5倍であるとよい。
【0022】
塩基触媒としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム等のアルカリ金属水酸化物;水酸化アンモニウムなどが挙げられる。これらの中でも、水酸化アンモニウム(アンモニア水)は、揮発性が高く、乾燥後のエアロゲル中に残存し難いため耐水性を損ないづらいという点、更には経済性の点で優れている。上記の塩基触媒は単独で又は2種類以上を混合して用いてもよい。
【0023】
酸触媒としては、フッ酸、塩酸、硝酸、硫酸、亜硫酸、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、臭素酸、塩素酸、亜塩素酸、次亜塩素酸等の無機酸類;酸性リン酸アルミニウム、酸性リン酸マグネシウム、酸性リン酸亜鉛等の酸性リン酸塩類;酢酸、ギ酸、プロピオン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、クエン酸、リンゴ酸、アジピン酸、アゼライン酸等の有機カルボン酸類などが挙げられる。これらの中でも、得られるエアロゲル複合体の耐水性をより向上する酸触媒としては有機カルボン酸類が挙げられる。当該有機カルボン酸類としては酢酸が挙げられるが、ギ酸、プロピオン酸、シュウ酸、マロン酸等であってもよい。これらは単独で、又は2種類以上を混合して用いてもよい。
なお、中空粒子でハイブリッド化された弱結合超微粒子エアロゲル粉末の製造方法の場合は、後で詳細に説明する。
【0024】
(ゲル化工程)
ゲル化工程は、混合工程で得られたゾルをゲル化し、その後熟成して湿潤ゲルを得る工程である。本工程では、ゲル化を促進させるため塩基触媒を用いることができる。
塩基触媒としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム等のアルカリ金属水酸化物;水酸化アンモニウムなどが挙げられる。これらの中でも、水酸化アンモニウム(アンモニア水)は、揮発性が高く、乾燥後のエアロゲル中に残存し難い点、更には経済性の点で優れている。上記の塩基触媒は単独で又は2種類以上を混合して用いてもよい。
【0025】
塩基触媒を用いることで、ゾル中の金属アルコキシドの脱水縮合反応又は脱アルコール縮合反応を促進することができ、ゾルのゲル化をより短時間で行うことができる。特に、塩基触媒としてアンモニアを用いることで、容易に弱結合超微粒子エアロゲルを得ることができる。
【0026】
(熟成工程)
熟成工程は、溶媒及び塩基触媒が揮発しないように密閉容器内で行ってもよい。熟成により、湿潤ゲルを構成する成分の結合が強くなり、その結果、乾燥時の収縮を抑制するのに十分な強度の高い湿潤ゲルを得ることができる。
表1は本発明の一実施形態である弱結合超微粒子エアロゲルの製造プロセスの条件を示すもので、熟成工程での変数範囲を定めている。
表1に示すように、熟成温度は、例えば、15以上70℃以下とすることができるが、好ましくは20~70℃であり、さらに好ましくは25~60℃であってもよい。熟成温度を15℃以上とすることにより、強度のより高い湿潤ゲルを得ることができ、熟成温度を70℃以下にすることにより、溶媒(特にアルコール類)の揮発を抑制し易くなるため、体積収縮を抑えながら熟成することができる。
【表1】
【0027】
熟成時間は、熟成温度により異なる。なお、中空粒子でハイブリッド化された弱結合超微粒子エアロゲル粉末の製造方法の場合は、ゾル中に中空粒子が含まれていることから、従来のエアロゲルの製造方法と比較して特に熟成時間を短縮することができる。
熟成時間は、例えば、1秒間~24時間とすることができるが、好ましくは1秒間~12時間であり、さらに好ましくは1~3時間であってもよい。熟成時間を1秒間~3時間とすると、弱結合の湿潤ゲルを得易くなり、3~24時間とすることにより結合がより強い湿潤ゲルを得易くなる。
【0028】
熟成工程では、得られるエアロゲルの密度を上げたり、結合の強さを大きくするために、熟成温度を上記範囲内で高めたり、熟成時間を上記範囲内で長くしてもよい。また、得られるエアロゲル複合体の密度を下げたり、結合の強さを小さくするために、熟成温度を上記範囲内で低くしたり、熟成時間を上記範囲内で短くしてもよい。
【0029】
(溶媒置換工程)
溶媒置換工程は、湿潤ゲルの溶媒を所定の置換用溶媒に置き換える工程である。この際、加温することにより置換効率を向上させることができる。置換用溶媒としては、具体的には、乾燥工程において、乾燥に用いられる溶媒の臨界点未満の温度にて、大気圧下で乾燥する場合は、低表面張力の溶媒が挙げられる。
【0030】
溶媒置換工程では、低表面張力の溶媒を用いることができる。低表面張力の溶媒は、一般的に水との相互溶解度が極めて低い。そのため、溶媒置換工程において低表面張力の溶媒を用いる場合、有機溶媒としては、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、アセトン、メチルエチルケトン、1,2-ジメトキシエタン、アセトニトリル、ヘキサン、トルエン、ジエチルエーテル、クロロホルム、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、塩化メチレン、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、酢酸、ギ酸等の各種の有機溶媒を使用することができる。上記の有機溶媒は単独で又は2種類以上を混合して用いてもよい。
また、水及び低表面張力の溶媒の双方に対して高い相互溶解性を有する親水性有機溶媒でもよい。親水性有機溶媒としては、メタノール、エタノール、2-プロパノール、アセトン、メチルエチルケトン等が挙げられる。経済性の点から、メタノール、エタノール又はメチルエチルケトンを用いてもよい。
【0031】
(修飾工程)
修飾工程とは、網目構造の表面を有機基で修飾して、乾燥後の有機基間の反発力を利用して低密度多孔質とするものである。修飾工程で用いられる有機化合物としてTMCS(Trimethylchlorosilane)があげられる。修飾工程の詳細は、例えば田尻耕治『シリカエアロゲル及びその修飾体の作製と構造及び熱的・機械的物性評価に関する研究』(名古屋工業大学 博士論文(2002)、p.56~p.73)に記載されている。
【0032】
網目構造の表面を有機基で修飾する反応性基としては、加水分解性の官能基及び縮合性の官能基に該当するものが好ましいが、これに限定されるものではなく、加水分解性の官能基及び縮合性の官能基とは異なる反応性基(加水分解性の官能基及び縮合性の官能基に該当しない官能基)を更に有する、加水分解性の官能基又は縮合性の官能基を有するケイ素アルコキシドにおける反応性基でもよい。例えば、エポキシ基、メルカプト基、グリシドキシ基、ビニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基及びアミノ基が挙げられる。エポキシ基は、グリシドキシ基等のエポキシ基含有基に含まれていてもよい。
【0033】
網目構造の表面を有機基で修飾する反応性基として、例えば、ハロゲン、アミノ基、イミノ基、カルボキシル基、アルコキシル基、水酸基、アルキル基、フェニル基、アルキル基のフッ化物、及びフェニル基のフッ化物があり、これら反応性基の1種のみを有してもよいし、2種以上を有してもよい。
具体的には、ヘキサメチルジシラザン、ヘキサメチルジシロキサン、トリメチルクロロシラン、トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、トリエチルエトキシシラン、トリエチルメトキシシラン、ジメチルジクロロシラン、ジメチルジエトキシシラン、メチルトリクロロシラン、エチルトリクロロシラン等の有機シラン化合物が挙げられ、これ以外にも、酢酸、蟻酸、コハク酸等のカルボン酸や、メチルクロリド等のハロゲン化アルキル等の有機化合物を用いることができる。
【0034】
(洗浄工程)
洗浄工程では、上記湿潤ゲル生成工程で得られた湿潤ゲルを洗浄する。当該洗浄は、例えば水又は有機溶媒を用いて繰り返し行うことができる。この際、加温することにより洗浄効率を向上させることができる。
【0035】
有機溶媒としては、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、アセトン、メチルエチルケトン、1,2-ジメトキシエタン、アセトニトリル、ヘキサン、トルエン、ジエチルエーテル、クロロホルム、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、塩化メチレン、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、酢酸、ギ酸等の各種の有機溶媒を使用することができる。上記の有機溶媒は単独で又は2種類以上を混合して用いてもよい。
【0036】
洗浄工程に使用される水又は有機溶媒の量としては、湿潤ゲル中の溶媒を十分に置換し、洗浄できる量とすることができる。
洗浄工程における温度環境は、洗浄に用いる溶媒の沸点以下の温度とすることができ、例えば、ヘキサンを用いる場合は、30~60℃程度の加温とすることができる。
【0037】
(乾燥工程)
乾燥工程では、上記の通り洗浄及び(必要に応じ)溶媒置換した湿潤ゲルを乾燥させる。これにより、弱結合エアロゲルを得ることができる。
乾燥の手法としては特に制限されず、公知の常圧乾燥、超臨界乾燥又は凍結乾燥を用いることができる。これらの中で、低密度の弱結合エアロゲルを製造し易いという観点からは、常圧乾燥又は超臨界乾燥を用いることができる。また、低コストで生産可能という観点からは、常圧乾燥を用いることができる。なお、本実施形態において、常圧とは0.1MPa(大気圧)を意味する。
【0038】
本実施形態のエアロゲルは、溶媒置換し洗浄した湿潤ゲルを、乾燥に用いられる溶媒の臨界点未満の温度にて、大気圧下で乾燥することにより得ることができる。乾燥温度は、置換された溶媒の種類により異なる。特に高温での乾燥が溶媒の蒸発速度を速め、ゲルに大きな亀裂を生じさせる場合があるという点に鑑み、乾燥温度は、40~150℃まで段階的に高めることができ、40~120℃であってもよい。また、乾燥時間は、湿潤ゲルの容量及び乾燥温度により異なるが、4~36時間とすることができる。なお、本実施形態において、生産性を阻害しない範囲内において臨界点未満の圧力をかけて乾燥を早めることも、常圧乾燥に包含されるものとする。
【0039】
(粉砕工程)
粉砕工程は、乾燥したエアロゲルを粉砕して、二次粒子構造を破壊して、一次粒子構造に機械的に還元するもので、粉砕機を用いるとよい。
粉砕機は、固体の物質を小片に粉砕するための単位操作を行うもので、多くの種類の粉砕機がある。粉砕機としては、粉砕ミル、粉砕機などがある。
粉砕機は、回転する刃によって、粒子を粉砕するもので、回転数によって高速回転と低速回転がある。高速回転により、粒子をより径の小さな小片に粉砕できる。他方、低速回転によれば、堅固な結合の粒子を粉砕するのに適している。乾燥したエアロゲルは、熱の伝導性が低いので、粉砕に伴って発生する熱により高温化する蓋然性が高いため、粉砕機に水冷式の冷却機構を設けるとよい。
【0040】
粉砕ミルには、ビーズミル、ボールミル、ロッドミルがある。
ビーズミルは、ビーズを使って粉体をナノ分散・微粉砕する媒体撹拌粉砕機である。粉砕室(ベッセル)中にスラリーとビーズ(メディア)を入れ、撹拌機構で高速回転して遠心力によってビーズにエネルギーを付与し、砕料粒子をずり応力、せん断応力、摩擦力、衝撃力によって粉砕する。100~150μm程度の粉体を1~数μmに粉砕でき、マイクロビーズを用いることで数nmまでの微粒子化が実現可能である。
ボールミルは、細粒を得るための粉砕機として代表的なものである。ボールミルでは、少し傾いて、または水平に回転するシリンダーの中に、通常は砂か金属でできたボールが詰まっており、ボールとの衝突や摩擦によって粉砕が行われる。シリンダーの一方から粉砕したい物体を入れ、もう一方から粉砕されたものが排出される。
ロッドミルは、粉砕媒体としてボールではなくロッド(金属製の円柱)を使用する。回転するドラム(胴体)によって、粉砕物にロッドの衝撃が与えられることで粉砕されるものであり、ボールミルに比べて過粉砕されにくく、比較的均一な粒度の製品が得られる。
【0041】
表2は本発明の一実施形態である弱結合超微粒子エアロゲルの製造プロセスの条件の一例を示すもので、ここでは微粉砕機として大阪ケミカル株式会社製ワンダークラッシャーWC-3を用いる場合の、粉砕工程での変数範囲を定めている。
表2に示すように、粉砕工程での変数範囲として、粉砕装置の粉砕羽根回転速度は、好ましくは10000~28000rpmであり、さらに好ましくは10000~25000rpmであり、最も好ましくは11000~22000rpmである。粉砕時間は、好ましくは1~120分間であり、さらに好ましくは3~60分間であり、最も好ましくは5~45分間である。
【表2】
【実施例
【0042】
〔実施形態1〕
<弱結合超微粒子エアロゲル粉末>
再び、図1に示す製造プロセス図を参照して、本実施例を説明する。
シリカエアロゲルは、主に以下の2ステップにより製作される。ゾルゲル法による湿潤ゲルを形成するステップと、その湿潤ゲルを乾燥するステップである。湿潤ゲルはナノ構造の固体シリカの網目と液体の溶媒からなり、シリカ前駆体分子を加水分解、縮合して製作される。このシリカ前駆体は、TEOS(Tetraethoxysilane)とメタノールを混合することによって製作される(混合工程)。
さらにこの混合液に、合計6.3gのシュウ酸(0.01M)が添加され、最後に1.5gの水酸化アンモニウム(NHOH 0.5M)が加えられ、アルコゾルとなる。このアルコゾルは室温で放置されるとゲル化する(ゲル化工程)。
ゲル化に続けて、アルコゲルは60℃のメタノール中でそれぞれ3時間、6時間、12時間の熟成を行った(熟成工程)。熟成工程でメタノールが全部蒸発するのを防止するため、過剰な量のメタノールをゲルに加えるとよい。この過剰な量のメタノールの添加量は、熟成工程でのメタノールの蒸発量や熟成温度と熟成時間を考慮して定めるとよい。
【0043】
溶媒置換工程では、表面修飾の逆反応を避けるために、アルコゲルは60℃のヘキサンに10時間浸され、表面を修飾するために、ヘキサンのみの溶媒はヘキサンとTMCS(Trimethylchlorosilane)の混合液に代替された。ここでヘキサンとTMCSの体積比は一定値である4に保たれた。修飾工程において、アルコゲルはヘキサンとTMCSの60℃の混合液に24時間浸された(修飾工程)。アルコゲルの乾燥の前に、試料は60℃の純ヘキサンに6時間浸されて、過剰なTMCSが除去された(洗浄工程)。
【0044】
エアロゲルを作成する最後のステップは乾燥である(乾燥工程)。乾燥工程は、以下の表3に示すように、第1から第3のステップと冷却ステップからなる。第1ステップでは40℃で4時間、第2ステップでは80℃で2時間、第3ステップでは120℃で1時間保持されたのち、加熱炉全体とともに冷却された。

【表3】
【0045】
乾燥工程の後、エアロゲル試料に対して、高速粉砕が施された(粉砕工程)。微粉砕機に相当する大阪ケミカル株式会社製ワンダークラッシャーWC-3を用いて、図2に示すように、11200rpm~21000rpmの高速で約5分間のプログラムを3回実施した。
【0046】
なお、ゲル化と熟成を完璧に峻別することは事実上困難であり、ゲル化と同時に微細な粒子の凝集が進行して、熟成と同様な反応が進行することに注意されたい。なお、ここでは熟成を促進するため、アルコゾルの温度を室温から60℃に上昇させているが、微細な粒子が好ましい用途では、アルコゾルの温度を室温に保持したままでもよく、また熟成工程は1秒から1分程度の短い時間であって、ゲル化工程と明確に区別出来ない態様でもよい。
【0047】
次に本発明の高速破砕後の弱結合超微粒子エアロゲル粉末について説明する。
本発明の個々の超微粒子エアロゲル粉末は、三次元網目構造を持っている。従来のエアロゲル粉末粒子も三次元網目構造を持っているが、本発明の超微粒子エアロゲル粉末は、その骨格を構成する単位が異なる。即ち、特許文献1の第0033段落に「エアロゲル粒子1は、複数の一次粒子から構成される二次粒子の態様を取っていると考えられており」とされるように、従来のエアロゲル粉末粒子の三次元網目構造は、二次粒子を単位として構成されるのに対して、本発明の超微粒子エアロゲル粉末は、その骨格を構成する単位が一次粒子である点に特徴がある。
【0048】
図3は、一般的なエアロゲル及びそれを粉砕して作られるエアロゲル粉末の構造を模式的に示す説明図で、(A)は一般的なエアロゲル30の構造及びそれを粉砕するときの切断面40を、(B)はその三次元網目構造の骨格を構成する二次粒子20を、(C)は(A)のエアロゲル30を粉砕して作られるエアロゲル粉末50を、それぞれ模式的に示す。
図3(A)に示すように一般的なエアロゲル30では、乾燥される前のゲルに含まれていたコロイドが二次粒子20となって、二次粒子20を骨格の単位とする三次元網目構造30が形成されている。このようにして作成されたエアロゲルでは、三次元網目構造の体積の約10%で骨格が形成され、他の約90%が空孔によって形成されている。その空孔の大きさが空気など空孔を満たす気体の平均自由工程よりも小さいときには、気体分子の衝突による熱伝導がほとんど発生しない。このため、エアロゲルは熱絶縁材料として用いられている。
【0049】
図3(C)には、一般的なエアロゲルを粉砕したときのエアロゲル粉末50の構造が模式的に示されている。図3(A)に示した一般的なエアロゲルを粉砕するとき、粉砕機による切断面40は、二次粒子20そのものではなく、二次粒子が連結している箇所となる。これは、図3(B)に示すように、二次粒子は一次粒子が密に凝集しているので結合が強く、二次粒子相互の結合の方がはるかに弱いためであると考えられる。その結果、一般的なエアロゲルを粉砕したときのエアロゲル粉末50は、二次粒子20によって骨格が形成された三次元網目構造をもつこととなる(図3(C))。
【0050】
図4は、本発明のエアロゲル31及びそれを粉砕して作られる超微粒子エアロゲル粉末51の構造を模式的に示す説明図で、(A)は本発明の超微粒子エアロゲル粉末51を作成する過程で、熟成工程後に生成されるエアロゲル31の三次元網目構造を、(B)は(A)に示したエアロゲルの三次元網目構造の骨格を構成する二次粒子21を、(C)は(A)に示したエアロゲル31を粉砕するときの切断面40を、(D)は本発明の超微粒子エアロゲル粉末51を、それぞれ模式的に示す。
【0051】
本発明では、一般的な工程よりも熟成を抑えてエアロゲルを生成する。このため生成されるエアロゲル31三次元網目構造は、一次粒子11が従来よりも疎に密集する二次粒子21(図4(B))を骨格として構成されることとなる(図4(A))。このような三次元網目構造31(図4(A))をもつエアロゲルに超高速粉砕を施すと、骨格を構成する二次粒子21相互の結合部分だけではなく、図4(C)に示されるように二次粒子21そのものにも粉砕機による切断面40が存在して、二次粒子21そのものが粉砕されるものと考えられる。その結果、本発明の超微粒子エアロゲル粉末51は、図4(D)に示されるように一次粒子11によって骨格が形成された三次元網目構造をもつこととなる。なお、二次粒子21は、図4(B)に示されるように一次粒子11が疎に凝集して形成されているため、実際の二次粒子21の外縁は不明確となっているが、図4(C)には理解を助けるために外縁に相当する部分が破線の円で示されている。
【0052】
図5(A)は市販エアロゲルのSEM像であり、図5(B)は本発明の一実施形態である弱結合超微粒子エアロゲル粉末のSEM像を示している。
【0053】
図6は、高速粉砕工程の後の粒子サイズの分布を示す分布図である。図10は、図6に示す、本発明の一実施形態である弱結合超微粒子エアロゲル粉末の粒度分布データの数値データを示している。熟成時間が3時間、6時間、12時間の試料それぞれについて、高速粉砕工程の後の粒子径をログスケールで横軸に取り、相対粒子量の頻度(左の縦軸)と累積値(右の縦軸)が示されている。比較のために従来の(市販の)エアロゲル粉末のデータを合わせて示す。ここで、粒子径はPSD測定によって観測した。より具体的には図6は、株式会社島津製作所製レーザー回折式粒子径分布測定装置SALD-2300を用いて測定した結果である。なお、PSD測定では、粒子自体の径だけではなく、粒子の凝集も粒子径として観測されるため、測定値は正方向に偏っている(真の値よりも大きな値が測定される誤差が多い)ことに注意する必要がある。しかし、以下のように、本発明の弱結合超微粒子エアロゲル粉末の特徴を説明するには、十分な情報が得られている。
【0054】
従来のエアロゲル粉末では、約300μmの粒子径を平均値として相対粒子量は1つのピークのみをもつ。これに対して、本実施形態の弱結合超微粒子エアロゲル粉末では、熟成時間が3時間、6時間、12時間の試料について、高速粉砕工程の後の相対粒子量の頻度がそれぞれ双峰性のピークを持つ。熟成3時間の試料では、第1ピークは平均0.32μm、標準偏差0.10、第2ピークは平均21.14μm、標準偏差0.14、熟成6時間の試料では、第1ピークは平均0.66μm、標準偏差0.15、第2ピークは平均31.89μm、標準偏差0.40、熟成12時間の試料では、第1ピークは平均0.96μm、標準偏差0.13、第2ピークは平均38.52μm、標準偏差0.21である。
【0055】
このように双峰性のピークに分かれることは、それぞれのピークを構成する粒子に本質的な違いがあることを強く推認させる。仮に本質的な変化がなく、熟成条件によって生成される粒子の径が変化するだけであれば、ピークの位置がそれに伴って変化することがあっても2つのピークが現れることは考えにくいからである。したがって、粒子径の大きい第2ピークを構成する粒子は、従来通り二次粒子を骨格の単位とする三次元網目構造を持つのに対して、粒子径の小さい第1ピークを構成する粒子は、一次粒子を骨格の単位とする三次元網目構造を持つと考えるのが自然である。即ち、図3及び図4を参照した上述の説明を裏付ける結果となっている。
【0056】
また、熟成の条件を変化させることによって、高速粉砕された後に生成される粒子の性質、即ち、二次粒子を骨格の構成単位とするか一次粒子を骨格の構成単位とするかを、顕著に変化させること、即ち制御することができることがわかる。粒子径が大きい方の分散の最頻値は10μm以上であり、粒子径が小さい方の分散の最頻値は1μm以下である。熟成時間が6時間と12時間でその後高速粉砕された試料では、相対粒子量の累積値が50%を超えるのが、粒子径が大きい方のピーク側にある。相対粒子量の累積値が50%を超えるのは、熟成時間が6時間でその後高速粉砕された試料では粒子径が約20μm、熟成時間が12時間でその後高速粉砕された試料では粒子径が約40μmであり、いずれも第2ピーク側である。一方、熟成時間が3時間でその後高速粉砕された試料では、相対粒子量の累積値が50%を超えるのが、粒子径が約0.3μmであって粒子径が小さい方のピーク(第1ピーク)側にある。
別の観点から表現すれば、熟成時間が6時間と12時間でその後高速粉砕された試料では、60%~70%の粒子が10μm以上の径をもつ粒子であって、その大きさから二次粒子を骨格の構成単位とする粒子が主であるのに対して、熟成時間が3時間である本実施形態の弱結合超微粒子エアロゲル粉末の試料では、約80%の粒子が0.1μmから1.0μmの範囲の径を持つ粒子、即ち、その大きさから一次粒子を骨格の構成単位とする粒子が主であることがわかる。
【0057】
図7は、本実施形態の弱結合超微粒子エアロゲル粉末の嵩を説明する画像で、重量5gのエアロゲルを容量200cc又は500ccのビーカーに収容する場合を示している。左から、市販のエアロゲル、熟成時間が12時間、6時間、3時間の超微粒子エアロゲル粉末の試料を示している。超微粒子エアロゲル粉末の試料は、図6で説明したものである。熟成時間が3時間と短い場合には、超微粒子エアロゲル粉末の嵩は、市販のエアロゲルの10倍以上に増大する。
【0058】
図8は市販エアロゲルと弱結合超微粒子エアロゲル粉末の熱伝導率を比較する図である。市販エアロゲルの顆粒は熱伝導率が20[mW/mK]となっている。これに対して、本発明の一実施形態である弱結合超微粒子エアロゲルは熱伝導率が23[mW/mK]となっている。
【0059】
図9は、異なる粉砕機構におけるエアロゲル粉末の密度の差異を示す図で、本発明の一実施形態である高速粉砕機(High-speed crushing)と粉砕機(Ball milling)、比較例である低速粉砕機(Low-speed crushing)を示している。
図9に示すように、高速粉砕機での密度は0.0179g/cmと測定された。粉砕機(Ball milling)での密度は0.0548g/cmと測定された。比較例である低速粉砕機での密度は0.0790g/cmと測定された。即ち、高速粉砕機を用いて粉砕することで、超微粒子エアロゲル粉末の嵩密度を低くすることができる。
〔実施形態2〕
【0060】
<中空粒子を添加した弱結合超微粒子エアロゲル粉末>
上記実施形態1の超微粒子エアロゲル粉末において、さらに中空粒子を添加してもよい。これにより、断熱材の熱伝導率を下げることができる。
断熱材としてエアロゲルを用いることにより、エアロゲルの空孔の大きさが空気の平均自由行程よりも小さいために、気体分子の衝突によるまたは対流による気体を介した熱伝導が抑えられ、空孔が真空である場合に近い熱絶縁性能が期待される。しかし現実には真空の性能には及ばない。その原因を本発明者が探求した結果、エアロゲル粉体を充填された断熱材には、微細な連通孔が残存しており、その連通孔を通して上述のような熱伝導が生じていることがわかった。そこで本発明者らはエアロゲルに中空粒子を添加してハイブリッド化することにより、熱伝導率を低下させる技術を創作した(特願2020-120921として特許出願済み)。添加した中空粒子が上述のような微細な連通孔を塞いで、僅かに生じていた気体による熱伝導を抑えるため、熱伝導率を低下させることができるのである。
【0061】
また、中空粒子を構成している球殻は機密性が高いので、球殻内に空気よりも熱伝導率の低い気体を封入することにより、断熱材の熱伝導率をさらに下げることができる。
添加する中空粒子は、特に限定されないが、ナノ中空粒子、マイクロ中空粒子、またはその両方とすることができる。ナノ中空粒子は、好ましくは、外径が30nm以上360nm以下、球殻の厚さが7.5nm以上65nm以下の範囲に調製される。外径については常温常圧の空気の平均自由行程の約1/2~約5倍の範囲に相当する。このように、ナノ中空粒子は、中空の大きさが空気の平均自由行程と同じオーダーに調製されているため、エアロゲルに添加された場合には、断熱効果への寄与が大きい。マイクロ中空粒子は、好ましくは、外径が1μm以上23μm以下、球殻の厚さが0.35μm以上3μm以下の範囲に調製される。外径については常温常圧の空気の平均自由行程の15倍よりも大きく、断熱効果への寄与に加えて、網目の構造的強度を高める効果がある。エアロゲルには、上述したような微細な連通孔が残存しているが、添加された中空粒子はこの連通孔を塞ぎ、連通孔によって生じていた対流などの気体を介した熱伝導を抑えるため、断熱効果を高める。
【0062】
ナノ中空粒子は、例えば、ソフトテンプレート法によって製造することができる。即ち、エタノール中で高分子電解質の表面をアンモニアで修飾し、シリカ(SiO)でコーティングすることにより、中核と球殻からなる粒子が生成される。これを洗浄または焼成することによって中核に封じ込められていた媒質を取り除き、中空粒子が生成される。
マイクロ中空粒子の製造には、例えば二重エマルジョン法が好適である。界面活性剤を含む油相と前駆体及び界面活性剤からなる水相のような非混和性液体からなる分散多相システムから、乳化によって油相を連続相とし、水相を中心とする液滴を含むエマルジョンが生成され、これに水相を加えることによって水相の連続相にゲルを中心とする液滴を含むエマルジョンに変わる。これを洗浄/濾過または焼成することによって、マイクロ中空粒子が製造される。
【0063】
本発明の超微粒子エアロゲル粉末を製造する方法において、中空粒子は、図1に示される製造プロセス図のゲル化工程の前に、シリカ前駆体として調製(混合工程)されたTEOSとメタノールの混合液に添加されるとよい。また、添加後、混合液を超音波振動によって十分に撹拌し、添加された中空粒子を均一に分散させるとよい。中空粒子の添加量は、ハイブリッド化されたエアロゲル全体に対して、例えば以下の組成となるように調製される。
【0064】
ナノ中空粒子は、好ましくは0.01重量%~30重量%、さらに好ましくは0.10重量%~15重量%、最も好ましくは1.00重量%~10重量%である。またマイクロ中空粒子の場合も同様に、好ましくは0.01重量%~30重量%、さらに好ましくは0.10重量%~15重量%、最も好ましくは1.00重量%~10重量%である。
【0065】
実施形態2に示すように、超微粒子エアロゲル粉末に中空粒子を添加することにより、断熱材の熱伝導率を下げることができる。
【0066】
なお、本発明の弱結合超微粒子エアロゲル粉末の製造方法又は中空粒子でハイブリッド化された弱結合超微粒子エアロゲル粉末の製造方法の実施形態においては、シリカエアロゲル粉末を製造する場合を示したが、本発明は金属エアロゲルとしてケイ素エアロゲルを用いる場合に限定されるものではなく、種々の金属元素、即ちケイ素(Si)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、イットリウム(Y)、バナジウム(V)、セリウム(Ce)、ランタン(La)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、プラセオジウム(Pr)、ホルミウム(Ho)、又はモリブデン(Mo)の何れかの少なくとも1種を含む金属酸化物エアロゲルを用いてもよい。
また、本発明の断熱材の実施形態においてはシリカエアロゲル粉末を用いる場合を示したが、本発明は金属酸化物エアロゲルとしてケイ素エアロゲルを用いる場合に限定されるものではなく、種々の金属元素、即ちアルミニウム(Al)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、イットリウム(Y)、バナジウム(V)、セリウム(Ce)、ランタン(La)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、プラセオジウム(Pr)、ホルミウム(Ho)、又はモリブデン(Mo)の何れかの少なくとも1種を含む金属酸化物を用いてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の弱結合超微粒子エアロゲル粉末の製造方法は、弱結合超微粒子エアロゲル粉末の製造に用いて好適である。また、本発明の中空粒子でハイブリッド化された弱結合超微粒子エアロゲル粉末の製造方法は、中空粒子でハイブリッド化された弱結合超微粒子エアロゲル粉末の製造に用いて好適である。
本発明の弱結合超微粒子エアロゲル粉末の製造方法は、断熱材に用いて好適である。また、本発明の中空粒子を添加した弱結合超微粒子エアロゲル粉末も、断熱材に用いて好適である。
【符号の説明】
【0068】
11 一次粒子
20 二次粒子
21 一次粒子が疎に密集する二次粒子
30 二次粒子を単位とする骨格で形成された三次元網目構造
31 一次粒子が疎に密集する二次粒子を単位とする骨格で形成された三次元網目構造
40 粉砕機による切断面
50 一般的なエアロゲル粉末
51 本発明の超微粒子エアロゲル粉末


図1
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