(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-20
(45)【発行日】2025-01-06
(54)【発明の名称】原動機付き又は取り付け可能な乗物、原動機付き又は取り付け可能な乗物のメインフレームのフレームエレメント、原動機付き又は取り付け可能な乗物のフレームの製造方法、原動機付き又は取り付け可能な乗物のフレームの改良方法、および原動機付き又は取り付け可能な乗物のセッティング方法
(51)【国際特許分類】
B62K 11/04 20060101AFI20241223BHJP
【FI】
B62K11/04 A
B62K11/04 Z
B62K11/04 C
(21)【出願番号】P 2023002169
(22)【出願日】2023-01-11
【審査請求日】2023-01-11
(73)【特許権者】
【識別番号】501317962
【氏名又は名称】有限会社オートマジック
(74)【代理人】
【識別番号】100156199
【氏名又は名称】神崎 真
(74)【代理人】
【識別番号】100124497
【氏名又は名称】小倉 洋樹
(72)【発明者】
【氏名】荒木 美佐夫
【審査官】宇佐美 琴
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-136991(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0212529(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2017-0085025(KR,A)
【文献】特開2018-165069(JP,A)
【文献】特開昭61-291281(JP,A)
【文献】特開2013-129239(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0003910(US,A1)
【文献】米国特許第07546894(US,B1)
【文献】独国特許出願公開第102013114262(DE,A1)
【文献】米国特許第04909537(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62K 11/00-11/14,13/00-13/08,
15/00,19/00-19/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリング機構が取り付けられるステアリング軸管と、
前記ステアリング軸管を含むフレームにおいて、少なくとも前記ステアリング軸管と連結するフレーム部分を有するメインフレームとを備え、
前記メインフレームの少なくとも一部が、それぞれ、軸方向長さ調整可能であってフレームアライメントを変更可能な複数のフレームエレメントによって、トラス構造になっていることを特徴とする原動機付き又は取り付け可能な乗物。
【請求項2】
前記ステアリング機構が、キャスター角の変化に伴ってトレールが変化するステアリング機構であって、
前記複数のフレームエレメントのうち少なくとも1つのフレームエレメントが、前記ステアリング軸管と連結し、ホイールアライメントを変更可能であることを特徴とする請求項1に記載の乗物。
【請求項3】
前記複数のフレームエレメントが、それぞれ、端部において軸方向長さ変更可能であることを特徴とする請求項1に記載の乗物。
【請求項4】
ピボット部をさらに備え、
前記メインフレームにおいて、前記ピボット部を含むピボットベースと前記ステアリング軸管との間に中間ベースが設けられ、前記ステアリング軸管と前記中間ベースとの間に設けられる前方フレーム部分の少なくとも一部が、前記複数のフレームエレメントによってトラス構造になっていることを特徴とする請求項1に記載の乗物。
【請求項5】
ステアリング機構が取り付けられるステアリング軸管と、
前記ステアリング軸管を含むフレームにおいて、少なくとも前記ステアリング軸管と連結するフレーム部分を有するメインフレームと、
ピボット部とを備え、
前記メインフレームにおいて、前記ピボット部を含むピボットベースと前記ステアリング軸管との間に、原動機に取り付けられる又は取り付け可能な中間ベースが設けられ、前記中間ベースと前記ピボットベースとの間に設けられる後方フレーム部分において、前記中間ベースと連結し、フレームアライメントを変更可能な少なくとも1つのフレームエレメントが、設けられていることを特徴とする原動機付き又は取り付け可能な乗物。
【請求項6】
ピボット部をさらに備え、
前記メインフレームにおいて、前記ピボット部を含むピボットベースと前記ステアリング軸管との間に中間ベースが設けられ、
前記中間ベースと前記ピボットベースとの間に設けられる後方フレーム部分の少なくとも一部が、前記複数のフレームエレメントによってトラス構造になっていることを特徴とする請求項1に記載の乗物。
【請求項7】
請求項1、請求項2、請求項3、請求項4、請求項6のいずれか1項に記載された原動機付き又は取り付け可能な乗物のセッティング方法であって、
前記複数のフレーム
エレメントのうちの少なくとも1つのフレームエレメントに対するアライメント調整により、フレームアライメントを調整することを特徴とする乗物のセッティング方法。
【請求項8】
メインフレームの少なくとも一部を、それぞれ、軸方向長さ調整可能であってフレームアライメントを変更可能な複数のフレームエレメントによってトラス構造にし、
前記複数のフレームエレメントに対し、所望するフレームアライメントとなるようにアライメント調整を行った後、前記メインフレームを組み立てることを特徴とする原動機付き又は取り付け可能な乗物のフレームの製造方法。
【請求項9】
既製のメインフレームに対し、一部のフレーム部分を取り出し、
それぞれ軸方向長さ調整可能であってフレームアライメントを変更可能な複数のフレームエレメントによってトラス構造になっている部分が含まれる、フレーム構造に替えることを特徴とする原動機付き又は取り付け可能な乗物のフレームの改良方法。
【請求項10】
請求項5に記載された原動機付き又は取り付け可能な乗物のセッティング方法であって、
前記少なくとも1つのフレームエレメントに対するアライメント調整により、フレームアライメントを調整することを特徴とする乗物のセッティング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動二輪車などの原動機付き乗物、あるいは原動機を取り付け(搭載)可能な乗物に関し、特に、乗物のフレームの構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動二輪車、トライク(Trike)、リバーストライク(Reverse Trike)などの乗物のフレームは、エンジン、サスペンション、電装部品などが搭載、装着されるとともに、車体のサイズ、重量バランスなどを特徴付ける。また、安定した走行性能を維持するために高い剛性、強度が必要とされる一方、旋回性能など操縦性の観点から、軽量化や柔軟性も要求される。このようなフレームに対する性能、機能は、4輪バギーなどのATV(All Terrain Vehicle)や他の乗物に対しても求められる。
【0003】
自動二輪車では、様々なバリエーションのフレーム構造が用いられている。例えば、エンジンを包み込むように搭載するクレードルフレームや、クレードルフレームのダウンチューブを省き、エンジンの一部を強度部材とするダイヤモンドフレーム/バックボーンフレームが知られている。また、メインフレーム部分をトラス構造にしたトラスフレームやツインスパーフレーム、アンダーボーンフレームなども知られている。
【0004】
一方、ユーザの好みに合わせ、フレーム構造を改良する手法が知られている(特許文献1)。そこでは、既製の第1フレームの一部をカットし、それに合わせて、既製の第2フレームの一部をカットする。そして、第1、第2フレームのそれぞれ対応するカット部分を接合することによって、フレームをユニット化する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
車体の強度、柔軟性だけでなく、ユーザの嗜好する走行性能や操縦性能、あるいは原動機のバリエーションといった車体の諸条件等に対し、フレキシブルに適応可能な多様性のあるフレーム構造が求められる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の原動機付き乗物、または原動機取り付け可能な乗物は、フレーム構造及び構成(以下では、単にフレームともいう)、特にメインフレームの構造および構成(以下では、単にメインフレームともいう)によって、走行性能や操縦性能などを調整可能にし、あるいは、様々な原動機のバリエーションに適応可能なフレーム構造に対し、技術的動向が向けられている。ここで、「原動機付き乗物又は原動機取り付け可能な乗物」は、原動機による動力によって走行する乗物、あるいは、原動機を装着可能であり、人力だけでなく原動機のアシストを利用した走行可能な乗物として定義される(以下、必要に応じて簡略的に「乗物」として表記する)。例えば、2輪、3輪、あるいは4輪を備える乗物が含まれる。
【0008】
本発明のフレーム構造を適用可能な原動機付き乗物の形態としては、様々な形態が適用可能である。例えば、跨座シートと棒状ステアリング(ハンドル)による操舵を伴う乗物、あるいはどちらか一方を備える乗物に適用可能である。従来の大型、小型バイク、原動機付き自転車(原付)などの自動二輪車は、本発明の原動機付き乗物に含まれる。
【0009】
また、トライクやリーバストライクといった、車矩が所定距離間隔に定められた前輪二輪、あるいは後輪二輪を装備する三輪車も、本発明の原動機付き乗物に含まれる。この場合、方向転換するときに車体傾斜を必要とする三輪車(特定二輪車)、車体傾斜を必要としない三輪車いずれも含まれる。さらに、四輪バギーなどのATV、横並びで二人着座可能なシートを備えた乗物なども、本発明の乗物に含まれる。
【0010】
一方、原動機取り付け可能な乗物に関しても、様々な形態に対して本発明のフレーム構造を適用可能である。例えば、電動アシスト付き自転車に適用可能である。また、電動アシスト付き自転車のように、電動モータなどを着脱自在に装着可能なトライク、リーバストライクタイプの自転車(三輪車)に対しても、適用可能である。
【0011】
一方、一般的に「自動車」と呼ばれる(四輪の)乗物は、本発明には含まれない。例えば、道路交通法における大型自動車、中型自動車、準中型自動車などは含まれない。また、ロードサイクルタイプの自転車等、人力によって走行するのを前提とする乗物も、本発明には含まれない。
【0012】
原動機としては、特にその形態、動力源などに限定されることはない。例えば、空冷エンジン、水冷エンジン、水素エンジンなどの内燃機関、電動モータ、あるいは内燃機関と電動モータとを組み合わせたハイブリットなどが含まれる。
【0013】
本発明の一態様である乗物は、ステアリング機構が取り付けられるステアリング軸管と、メインフレームとを備える。ここで、「メインフレーム」は、ステアリング軸管を含めたフレームに含まれるものであり、その乗物の形態、構造などに応じて定義される車体フレームの一部であり、少なくともステアリング軸管と連結するフレーム部分を備えるものとして定義することができる。連結の仕方は様々であり、メインフレームの一部がステアリング軸管と接続する、繋がっている構成とすることができる。あるいは、メインフレームの一部が所定の部材(ただし、サスペンションまたは懸架装置あるいはそれらと連結するような関連する部材は除く)を介して連結する構成も含まれる。メインフレームは、2次元または3次元的構造とし、また、複数の部材から構成することが可能である。例えば自動二輪車、トライク、リバーストライクなどのメインフレームは、立体的、3次元的構造とすることができる。以上のようなメインフレームの構成において、本発明では、ステアリング軸管がメインフレームに含まれるように構成される(定義する)。一方で、乗物の態様に応じて、ステアリング軸管をメインフレームとは別部材として構成することもできる。
【0014】
本発明の「ステアリング軸管」の構成は、乗り物の形態、構造などに応じて様々である。例えば、自動二輪車などで採用されるフロントフォーク型のステアリング機構の場合、メインフレームの一部は、ヘッドパイプと連結する。ステアリング軸管は、単一で構成することが可能であり、あるいは、アームなどを介して対のステアリング軸管を構成することも可能である。乗物の形態に応じて、様々なバリエーションのステアリング機構を採用することが可能である。
【0015】
本発明の「メインフレーム」の構成としては、その乗物(車体)の形態、乗り物の種類、車体全体のフレーム構造、法律や規則、規定、あるいは原動機の配置箇所に応じて構成する(定義する)ことができる。自動二輪車、トライク、リバーストライクなどでは、乗り物の前後方向に沿って、前輪側と後輪側に設けられるサスペンションあるいは懸架装置との間に設けられるフレーム部分の全体、またはその一部を、メインフレームとして構成することが可能であり、特に、前輪側のサスペンションや懸架装置より後輪側に位置するものとして構成することができる。ただし、「後輪側に位置する」とは、側面から見た場合の後輪との位置関係に基づいて定義することが可能であり、また、前輪と連結するパーツの連結順の観点から定義することも可能である。他の乗物に対しても、同じようにメインフレームを構成することが可能である。二輪自動車の場合、上述した様々なバリエーションのフレーム構造に合わせて、ステアリング軸管と連結するフレーム部分としてのメインフレームを構成することが可能であって、ステアリング軸管とピボット部に跨る区間を構成するフレーム部分、あるいはその区間の一部に設けられるフレーム部分として構成することができる。例えば上述した二輪自動車のフレーム構造では、着座位置部分のシートレール(サブフレーム)を除いたフレーム部分を、メインフレームとして構成することができる。スクーターのような自動二輪車の場合、原動機が後輪駆動(スイングアーム付近)に収まり、ステアリング軸管から後輪付近にまで渡ったフレーム部分をメインフレームとして構成することができる。一方で、フレームが、実質的にメインフレームで構成されるバリエーションも含まれる。実質的にフレーム二輪自動車以外の乗物に関しても、例えばスイングアームとは異なるサスペンション形式(ウィッシュボーン形式)を採用したATVの場合、サスペンション形式に合わせてメインフレームを構成することができる。一方、原動機の形態や配置箇所に応じて、メインフレームを構成する(定義する)ことも可能である。例えば、原動機全体を取り囲む構成、あるいは原動機の一部を挟みこむように構成することが可能であり、また、原動機と直接または間接的に連結するフレーム部分として構成することも可能である。この場合、原動機が、メインフレームの一部分を構成するようにすることもできる。さらに、車体全体に対する相対的位置関係からメインフレームを定義することも可能であり、例えば、車体の中心部から前方側(前輪側)または上方側(ステアリング側)に少なくとも一部が含まれるフレーム部分として構成する、もしくは前方側かつ上方側に少なくとも一部が含まれるフレーム部分として構成することが可能である。
【0016】
本発明では、フレーム構造及び構成において、フレームアライメントを変更可能にする、少なくとも1つのエレメントが、設けられている(以下では、フレームエレメントというが、フレームアライメント変更可能メインフレームエレメントと呼ぶこともできる)。例えば、1つまたは複数のフレームアライメントを変更可能にするフレームエレメントと、フレームアライメントを変更可能なように構成されていない1つまたは複数の他のフレームアライメント(非フレームアライメント変更用メインフレームエレメントと呼ぶこともできる)によって、メインフレームを構成することができる。ここで、「フレームアライメント」は、フレームジオメトリ、フレームディメンションと呼ばれることもあり、変更、再設定、再構築することが可能なメインフレームの形態、構造、ステアリング軸管など他のパーツとの連結状態、距離間隔、相対的位置関係などを表す。フレームアライメントの調整によって、車体の外観形状、重量バランス、キャスター角やトレール量などのホイールアライメント、原動機の搭載箇所、走行性能、操縦性能、乗車姿勢などを設定、変更することが可能となる。例えば、二輪自動車、あるいはトライク、リバーストライクの場合、少なくともキャスター角変更可能なように、メインフレームのフレームアライメントを変更可能である。
【0017】
本発明における(フレームアライメントを変更可能にする)フレームエレメントは、自身の長さ調整、形状や形態の変形、取り付け位置の変更、他のフレームエレメントあるいはフレーム部分との相対的な位置関係の変更などにより、自身のアライメントを変更可能な部材として構成されている。このような自身のアライメント調整機能は、メインフレームあるいはフレーム全体の構造の形状、形態、相対的部材間の位置関係を調整する機能を持たせることが可能なフレームの一部として構成される。また、長さなどの形態、特徴などが異なる複数のフレームエレメントからフレームアライメント変更などのために選択されたフレームエレメントも、フレームアライメントを変更可能にするフレームエレメントに含まれるものとする。ただし、いずれのフレームエレメントも、メインフレームを「フレーム」として機能させる一部分として構成されるものとして定義される。
【0018】
また、フレームエレメントは、フレームアライメントの再構築、再設定などが可能なように、着脱可能に設けることが可能である。ここで、「着脱可能」とは、溶接などによる一体化とは異なり、ネジやボルトなどで締め付けて固定することを意味し、他のバリエーションのフレームエレメントへの交換等を可能にするような取り付け、取り外し可能となる構成を示す。
【0019】
フレームエレメントは、キャスター角以外についても、操縦性能や走行性能、重量バランスなどが変更できるように、フレームアライメントの調整、再設定、再構築などを可能にすることができる。例えば、ステアリング軸管の位置(高さ)を調整する場合、フレームエレメントの自身の長さ調整によって、フレームアライメントを変更、調整することが可能である。また、ステアリング軸管とエンジンなどの原動機との距離間隔(例えば、二輪自動車の場合、ステアリング軸管とピボット部との距離間隔)、あるいは相対的位置関係を調整し、着座姿勢、マス集中化、重量バランスを考慮した原動機の搭載箇所の変更、調整などを可能にする。
【0020】
フレームエレメントは、例えば、棒状の部材(以下、棒状フレームエレメントという)として構成することが可能である。この場合、棒状のフレームエレメントは、直状だけでなく、一部あるいは全体的に湾曲状、折れ線状の部材も含まれる。また、フレームエレメントを、Y字型、X字、H字型、T字型など、複数の連結部分が中央部から方々に延びる部材(以下、分岐状フレームエレメントという)として構成することも可能である。これらの棒状あるいは分岐状フレームエレメントは、アライメント機能として、軸方向長さ、連結部分の長さ、連結位置(取り付け位置)の変更、他のフレーム部材との相対的位置関係を変更可能な構成であればよい。
【0021】
例えば、棒状フレームエレメントの場合、棒状フレームエレメントの両端部付近または中央部付近、あるいは中央部と両端部との間において軸方向長さを調整し、全体的あるいは一部について軸方向長さが調整可能であればよい。分岐状フレームエレメントの場合、突出して延びる連結部分の軸方向長さを調整可能であればよい。あるいは、棒状、分岐状フレームエレメントに対し、その連結位置(取り付け位置)を調整可能な構成にすることも可能である。
【0022】
例えば、棒状フレームエレメントは、両端部に球面滑り軸受け部分(ピロボールともいわれる)が取り付けられた連結ロッドとして構成することが可能である。また、棒状フレームエレメントは、中空状(パイプ状)の部材または中実部材として構成することが可能であり、軸方向長さを調整する機構を設けるようにすればよい。軸方向長さ調整の機構としては、ネジ回しのような無段階式、所定ピッチで複数の穴を設けた段階式いずれも適用することが可能である。また、蝶番のような軸回転可能な連結構造を適用することもできる。
【0023】
メインフレームに含まれるフレームエレメントの数やその占める割合は様々である。例えば、棒状フレームエレメントあるいは分岐状フレームエレメントを1つ設け、蝶番などとの組み合わせによってメインフレームを構成することが可能である。あるいは、車体の中央ラインに関して対称的な位置関係にある1対、2対、あるいは3対の棒状フレームエレメントを設ける構成にすることも可能である。
【0024】
フレームアライメントの変更、再構築などを可能にするフレームエレメントの配置箇所は、様々である。例えば、キャスター角を規定するステアリング軸に近い(ヘッドパイプなどの)ステアリング軸管に対して連結するように、少なくとも1つのフレームエレメントを設ける構成にすることが可能である。例えば、少なくとも1対の棒状フレームエレメント、または少なくとも1つの分岐状フレームエレメントを、ステアリング軸管の少なくとも一方の端部で連結するように構成することができる。2対の棒状フレームエレメントあるいは2つの分岐状フレームエレメントを、ステアリング軸管の両端部でそれぞれ連結することが可能である。
【0025】
メインフレームの構造としては、複数の棒状フレームエレメントを互いに連結するためのベース部分(ここで、中間ベースという)を設けることが可能である。エンジンの一部を強度部材(フレームの一部)として構成する場合、中間ベースに対してエンジンなどをマウントさせることが可能である。ベース部分は、例えばブラケット形状にすることができる。
【0026】
例えば、二輪自動車などのメインフレームでは、ピボット部を含むピボットベースとステアリング軸管との間に中間ベースが設けられ、ステアリング軸管と中間ベースとの間に設けられる前方フレーム部分を、複数の棒状フレームエレメントによって構成することが可能である。この場合、中間ベースとピボット部との間の後方フレーム部分を、溶接などによる一体的フレーム構造とすることができる。あるいは、メインフレームにおいて、ピボット部を含むピボットベースとステアリング軸管との間に中間ベースが設けられ、中間ベースとピボットベースとの間に設けられる後方フレーム部分を、複数の棒状フレームエレメントによって構成することが可能である。この場合、前方フレーム部分を溶接などによる一体的フレーム構造とすることができる。さらに、前方、後方フレーム部分両方を、複数の棒状フレームエレメントによって構成してもよい。
【0027】
メインフレームの強度、剛性の維持などを考慮すれば、メインフレームの少なくとも一部を、複数の棒状フレームエレメントによってトラス構造にすることができる。特に、3次元的、立体的なトラス構造にすることができる。例えば、前方フレーム部分を複数の棒状フレームエレメントで構成する場合、前方フレーム部分を全体的にトラス構造にしてもよい。
【0028】
以上のような乗物のセッティング方法を、本発明の他の一態様として提供することが可能である。すなわち、少なくとも1つのフレームエレメントに対するアライメント調整により、フレームアライメントを調整するセッティング方法を提供することができる。ここでの「セッティング」には、上述したように、上述した走行性能、操縦性能、車体の重量バランスなどの調整、変更を可能にするフレームアライメントの再設定、再構築などが含まれる。また、フレームエレメントの追加や代替、変更なども含まれる。例えば、キャスター角、ステアリング軸管の位置のうち、少なくともいずれか一方を変更するアライメント調整を行うことができる。また、二輪自動車などの場合、ステアリング軸管とピボット部との距離間隔、あるいは互いの相対的位置関係を変更するアライメント調整が可能である。この場合、上述したような自身のアライメント変更可能なフレームエレメントに対するアライメント調整を行えばよい。あるいは、複数のフレームエレメントの中から、所望するアライメントに応じたフレームエレメントを選択、取り付けることによって、フレームアライメントを変更するセッティングも可能である。また、複数の長さなどが異なるフレームエレメントの中から所望のフレームエレメントを選択してフレームアライメントを再設定、変更等する方法についても、本発明のセッティング方法に含まれるものとする。
【0029】
一方、本発明では、メインフレーム(メインフレームの定義は上述した通り)を構成する上述したフレームエレメントを提供することができる。すなわち、本発明の他の一態様であるフレームエレメントは、両端部に連結部分を設け(例えば、球面滑り軸受け部)、両端部付近または両端部付近中央部においてアライメント可能である。アライメントとしては、例えば棒状あるいは分岐状のフレームエレメントの場合、ねじ回しのような無段階で長さ調整可能な構成、あるいは、ピッチ穴の組合せで段階的に長さ調整可能な構成にすることができる。
【0030】
さらに本発明では、フレームエレメントを用いて、乗物のフレームの製造方法を提供することが可能である。すなわち、本発明の他の一態様であるフレームの製造方法(組み立て方法)は、メインフレームの少なくとも一部を、フレームアライメントを変更可能にする少なくとも1つのフレームエレメントによって構成し、少なくとも1つのフレームエレメントに対し、所望するフレームアライメントとなるようにアライメント調整を行った後、メインフレームを組み立てる。例えば、軸方向長さ調整可能な棒状フレームエレメント、あるいは、分岐状フレームエレメントを設置することが可能である。また、上述したように着脱自在なフレームエレメントを適用する場合、例えば、軸方向長さの異なる複数の棒状フレームエレメントの中から、所望する軸方向長さを有する棒状フレームエレメントを選択し、取り付けることも、本発明の製造方法に含まれる。
【0031】
同様に本発明では、フレームエレメントを用いて、乗物のフレームの改良方法を提供することが可能である。すなわち、本発明の他の一態様であるフレームの改良方法は、既製のメインフレームに対し、一部のフレーム部分を切断などによって取り出し、所望するフレームアライメントとなるように、フレームアライメントを変更可能にする少なくとも1つのフレームエレメントに替える。例えば、軸方向長さ調整可能な棒状フレームエレメント、あるいは、分岐状フレームエレメントを代替設置することが可能である。また、上述した着脱自在なフレームエレメントを適用することが可能である。例えば、軸方向長さの異なる複数の棒状フレームエレメントの中から、所望する軸方向長さを有する棒状フレームエレメントを選択し、取り出した部分の代わりに取り付けることが可能である。本発明のフレームの改良方法には、既存フレームに対して(フレームアライメントを変更可能にする)フレームエレメントを含めることにより、乗り物の種類や形態などを変更する改良方法が含まれる。例えば、通常の自動二輪車を、後輪二輪または前輪二輪のトライクまたはリバーストライクに変更する改良方法も含まれる。
【0032】
上述した本発明の構成は、メーカーの部品供給終了や排ガス規制などの政治的、行政的判断によって乗車できなくなる乗物、あるいは、市場において不採算などの理由により不要となった乗物を、フレームの再構築による再利用を可能にし、あるいは新たな価値ある乗物の提供を可能にし、乗物に対する持続可能な取り組みを実現させる方向へ導くものとなり得る。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、ユーザの嗜好する走行性能や操縦性能、あるいは原動機のバリエーションといった車体の諸条件等に対し、フレキシブルに適応可能な多様性のあるフレーム構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】第1の実施形態である自動二輪車の概略的側面図である。
【
図3】第2の実施形態である自動二輪車のフレームの模式的斜視図である。
【
図4】第3の実施形態である自動二輪車のフレームを一側面方向から見た模式的平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下では、図面を参照して、本実施形態である自動二輪車について説明する。
【0036】
図1は、第1の実施形態である自動二輪車の概略的側面図である。自動二輪車100には、前輪110、後輪120間の車体骨格を構成付けるフレーム10が設けられ、メインフレーム20と、サブフレームであるシートレール60を備える。フレーム10のピボット部70には、後輪120を支持し、懸架装置として機能するスイングアーム80が取り付けられている。
【0037】
ステアリング機構130は、ここではフロントフォーク式のステアリング機構が適用されている。ステムシャフト(ステアリング回転軸)がヘッドパイプ140に挿入され、ステアリング150に対する操作に応じて、前輪110が転舵する。
【0038】
図2は、フレーム10の模式的斜視図である。
図2に示すように、ここでのフレーム10は、ダウンチューブを設けないフレーム構造であって、上述したように、メインフレーム20と、シートレール60とを備える。図示しないエンジンは、ピボット部70を設けたベース部分(以下、ピボットベースという)50のエンジンマウント55にマウントされる。
【0039】
メインフレーム20では、ヘッドパイプ140からピボット部70付近まで渡って複数の棒状の部材(以下では、棒状のフレームエレメントあるいは単にフレームエレメントという)が互いに連結、あるいは接合している。ヘッドパイプ140とピボットベース50との中間付近には、棒状のフレームエレメント同士を連結可能にするブラケット形状のベース部分(以下、中間ベースという)80が、対になって設けられている。メインフレーム20は、ここでは、ヘッドパイプ140を含み、また、中間ベース80からヘッドパイプ140側の前方フレーム部分30、中間ベース80からピボットベース50側の後方フレーム部分40とを備える。
【0040】
前方フレーム部分30は、複数のフレームエレメントを連結させたトラス構造になっている。具体的には、ステアリング軸Cから前輪110から後輪120に沿ったライン(中央ライン)に対して略対称的な位置関係にある棒状のフレームエレメント32A、32B、フレームエレメント34A、34B、フレームエレメント36A、36Bが、それぞれ対になって設けられている。また、対になっている中間ベース80には、互いに交差するように、一対のフレームエレメント38A、38Bが連結されている。
【0041】
前方フレーム部分30の各フレームエレメントは、軸方向長さが調整可能な連結棒によって構成されている。ここでは、ロッドエンドに球面滑り軸受け(ピロボールとも呼ばれる)が取り付けられ、軸方向長さが調整可能な連結ロッドによって構成されている。軸方向長さを調整する機構としては、様々な周知技術を採用することが可能であり、ここでは、連結ロッドの両端部付近で互いにネジ切り方向の異なる螺合部が形成され、いずれか一方の螺合部に対してねじ回しをすることによって、軸方向長さを調整可能である。また、各フレームエレメントは、両端部の球面滑り軸受けに形成された開口部(例えば144P参照)に図示しないネジを螺合し、反対側からナットで締め付けることにより、ヘッドパイプ140および中間ベース80に取り付けられる。
【0042】
一対のフレームエレメント32A、32Bは、ヘッドパイプ140の上端部付近に設けられたブラケット142A、142Bに取り付けられている。一方、一対のフレームエレメント34A、34Bは、ヘッドパイプ140の下端部付近に設けられたブラケット144A、144Bに取り付けられている。
【0043】
それぞれ対になっているフレームエレメント32A、32B、フレームエレメント34A、34B、フレームエレメント36A、36Bは、いずれもヘッドパイプ140から中間ベース80に向けてその挟角が広がる方向(八の字型)に延び、他端が中間ベース80に取り付けられている。
【0044】
フレームエレメント32A、フレームエレメント34Aは、互いに向かい合うように、略同じ方向に沿って延び、中間ベース80の上端部80A、下端部80Cに連結している。フレームエレメント32B、フレームエレメント34Bも同様に、互いに向かい合うように略同じ方向に沿って延び、中間ベース80の上端部80B、下端部80Dに連結している。
【0045】
一方、一対のフレームエレメント36A、36Bは、中間ベース80の上端部80A、80Bに連結している。したがって、前方フレーム部分30では、フレームエレメント32A、34A、36Aおよびフレームエレメント32B、34B、36Bとの間が三角形状の連結構造となり、また、フレームエレメント34A、38B、36Bおよびフレームエレメント36A、38A、34Bとの間で三角形状の連結構造となり、全体的に3次元トラス構造となっている。すなわち、ロードサイクルなどの自転車のように、車輪に沿った平面で三角形トラス構造を形成するのではなく、複数の三角形状による立体的なトラス構造になっている。
【0046】
後方フレーム部分40は、複数の棒状フレームエレメントが互いに溶接などによって接合し、一体的構造になっている。シートレール60は、前方フレーム部分30と同様、軸方向長さ調整可能なフレームエレメント62A、62Bを備え、後方フレーム部分40およびピボットベース50と連結している。
【0047】
本実施形態では、前方フレーム部分30を構成する各フレームエレメントが、軸方向長さ調整可能であり、長さ調整によってメインフレーム20のフレームアライメントを変更可能である。そして、フレームアライメント変更によって、キャスター角αを変更することができる。キャスター角αは、トレール量を変えることに繋がり、走行安定性、操縦性能に影響を与える。
【0048】
具体的には、キャスター角αが小さくなるとステアリング150を操作したときに方向転換しやすくなる。逆に、キャスター角αが大きくなると、直進安定性が増す一方で、ステアリング150の操作に対する抵抗が大きくなり、素早い方向転換がしにくくなる。このように、キャスター角αの違いは、自動二輪車10の走行性能、操縦性に影響を与える。
【0049】
そして、メインフレーム20の前方フレーム部分30を構成する各フレームエレメントを、それぞれ軸方向長さ調整可能な構成にすることによって、キャスター角αを、走行条件やユーザの好みなどに応じて細かく変更、調整することが可能となる。例えば、サーキット走行に合わせてキャスター角αを小さくするセッティングを行う。あるいは、長距離移動(ツアラー)のためにキャスター角αを大きくし、直進安定性を高めるセッティングをすることができる。
【0050】
キャスター角αの調整方法としては、各フレームエレメントの両端部に取り付けられていたネジ、ナットを外す。そして、一対のフレームエレメント32A、32Bに対し、例えばヘッドパイプ140に近い端部側において軸方向長さを長くするように長さ調整を行う。それに応じて、一対のフレームエレメント34A、34Bの軸方向長さを短くし、一対のフレームエレメント36A、36Bの長さについても微調整する。そして、再びネジとナットで固定することよって、各フレームエレメントをヘッドパイプ140および中間ベース80との間で連結させる。これにより、キャスター角αが小さくなる。他のフレームエレメントの軸方向長さ調整を行うことによっても、キャスター角αを小さく変更することが可能である。また、キャスター角を大きくするように変更することも可能である。
【0051】
上述したように、各フレームエレメントは、摺動可能な両端部で連結させている。そのため、軸方向長さ調整に伴うヘッドパイプ140,中間ベース80との間の位置関係のずれ、オフセットなどがあっても容易に連結させることが可能であり、長さ調整に伴って中間ベース80の位置調整問題などが生じるのを防ぐことができる。そして、ヘッドパイプ140と連結するフレームエレメントに対して長さ調整するため、キャスター角αを微調整することが煩雑にならず、容易となる。一方で、2対のフレームエレメント34A、34Bおよびフレームエレメント36A、36Bによってキャスター角αを調整するため、重心位置、車体バランスなどが機種ごとに異なる自動二輪車10に対しても、適切にキャスター角αを調整することが容易となる。
【0052】
一方、各フレームエレメントの軸方向長さ調整機構は、各フレームエレメントは、テンションをかける補強部材として機能する。そして、前方フレーム部分30がトラス構造であるため、十分なフレーム強度、剛性を維持することができる。一方、メインフレーム30の後方フレーム部分40では、複数の棒状のフレームエレメントが、溶接などによって一体的に接合されている。エンジン搭載箇所に近い後方フレーム部分40のフレーム強度、剛性が十分維持されることにより、キャスター角αを変更することによって、車体バランスの変化に対しても剛性、強度を維持することができる。なお、本実施形態では、各フレームエレメントの太さが略同じであるが、一対のフレームエレメント32A、32Bおよびフレームエレメント34A、34Bのロッドサイズ(太さ)を、一対のフレームエレメント36A、36Bよりも大きくし、より剛性を上げるようにしてもよい。
【0053】
一方で、シートレール60のフレームエレメント62A、62Bが軸方向に沿って長さ調整可能であるため、キャスター角αの変更後、フレームエレメント62A、62Bの長さ調整を行い、変更前の着座姿勢が変化しないようにすることも可能である。
【0054】
次に、
図3を用いて第2の実施形態である自動二輪車について説明する。第2の実施形態では、後方フレーム部分が、長さ調整可能なフレームエレメントによって構成されている。
【0055】
図3は、第2の実施形態である自動二輪車のフレームの模式的斜視図である。メインフレーム20’の後方フレーム部分40’では、車体両側面に沿って、一対のフレームエレメント42A、42Bと、一対のフレームエレメント44A、44Bが、中間ベース80とピボットベース50との間で延びている。フレームエレメント42A、44A、フレームエレメント42B、44Bは、それぞれ互いに向かい合うように延びている。
【0056】
一対のフレームエレメント46A、46Bは、中間ベース80’の下端部80’B、80’Dからピボットベース50の連結部分における上端部50A、50Cを連結する。また、一対のフレームエレメント48A、48Bは、互いに交差するように、中間ベース80’とピボットベース50の連結部分を連結する。そして、フレームエレメント49が、対になっている中間ベース80’の間を連結している。中間ベース80’は、ここではエンジンマウント部材としても機能するように構成されている。
【0057】
このような後方フレーム部分40’のフレーム構造によって、前方フレーム部分30だけでなく、後方フレーム部分40’においても、一部またはすべてのフレームエレメントの軸方向長さを調整することによって、メインフレーム20のフレームアライメントを変更し、キャスター角αを変更することが可能になる。一方で、後方フレーム部分40’が3次元トラス構造であるため、十分なフレーム強度、剛性を維持することができる。
【0058】
また、中間ベース80’がエンジンマウント部材として構成されているため、エンジンマウント位置を後方フレーム部分40’で調整しながら、キャスター角αを変更することが可能となる。これは、キャスター角αを変更しながら、重心位置、車体バランスをキャスター角変更前の状態を維持することを可能にする。なお、第1実施形態においても、中間ベース80をエンジンマウントする部材として構成することも可能である。
【0059】
次に、
図4を用いて第3の実施形態である自動二輪車について説明する。第3の実施形態では、1つのフレームエレメントによってキャスター角を調整する。
【0060】
図4は、第3の実施形態である自動二輪車のフレームの一側面方向から見た模式的平面図である。メインフレーム20”は、第1,第2の実施形態のように前方フレーム部分、後方フレーム部分として構成されず、図示しないエンジンの大部分をフレームの一部(強度部材)として構成している。ピボット部70”は、エンジンの後方側部分に設けられている。
【0061】
メインフレーム20”は、車輪110、120に沿った中央ラインに関して対称的なフレーム構造であり、ヘッドパイプ140の上端部には、中央ラインに沿って延び、湾曲フレームエレメント123と連結する棒状のフレームエレメント122が設けられている。フレームエレメント122は、第1、第2実施形態と同様、軸方向長さ調整可能な連結ロッドで構成されている。
【0062】
ヘッドパイプ140の下端部に取り付けられたフレームエレメント124は、途中で2つに分岐したフォーク形状(Y字型)になっている(
図4では一方の分岐した部分のみ図示されている)。また、湾曲フレームエレメント123は、フレームエレメント122との連結部分から連結部分126に向けて途中から2つに分岐し、その端部がフレームエレメント124と連結し(
図4では一方の分岐した部分のみ図示)、中央ラインに関して対称的形状となっている。分岐状のフレームエレメント124と湾曲フレームエレメント123との連結部分126は、軸回転可能な蝶番構造となっており、メインフレーム20”の一部と接続する。また、分岐状のフレームエレメント124と湾曲フレームエレメント123の一端は、エンジンなどの原動機本体と連結している。
【0063】
このような(ヘッドパイプ140を含めた)メインフレーム20”の構成によって、フレームアライメントを変更、調整し、キャスター角αを変更することが可能である。また、ヘッドパイプ140に対する連結構造が、軸受けロッドエンドと、溶接による連結の両方を用いた連結構造であるため、エンジンに対してメインフレーム20”のフレームサイズが小さくても、強度、剛性を十分に維持しながら、キャスター角αを変更することができる。さらに、ヘッドパイプ140の高さHを調整することも可能となり、また、ピボット部70”とヘッドパイプ140との距離間隔、すなわち互いの相対的位置関係を変更することも可能である。分岐状のフレームエレメント124とヘッドパイプ140との連結部分を軸回転可能にすることで、キャスター角を維持したままヘッドパイプ140の高さ(位置)を調整することも可能である。したがって、キャスター角、ヘッドパイプの位置、ヘッドパイプとピボット部との距離間隔(相対的位置関係)いずれかを調整するように、セッティングをすることができる。
【0064】
メインフレーム20”は、エンジンの大部分を強度部材として構成することを前提としていることから、次世代型の自動二輪車に対して適用することができる。すなわち、気候変動やSDGsの目標達成のため、従来の内燃機関からモータなどの電動機へ原動機をシフトすることは、自動二輪車にも喫緊の問題となっている。仮に、原動機からモータなどへシフトする場合でも、マウント部分を調整するだけで、既存の内燃機関をモータへそのまま交換することが容易であり、電動機用に新たな専用フレームを別途製造、改良する必要がない。すなわち、原動機のバリエーションに関係なく原動機をマウントさせ、ユーザ嗜好の走行性能、操縦性能を実現させながら、汎用性、柔軟性のあるプラットフォーム機能をもつフレーム構造にすることができる。
【0065】
なお、第1の実施形態で示したフレームエレメント32A、32Bのようにフレームエレメント122を対にして構成し、湾曲フレーム123を、対となる湾曲フレームとして構成し、それぞれ連結させるように構成してもよい。また、湾曲フレーム123のロッドエンドの取付部分の長さ調整を可能にすることによって湾曲フレーム123の軸方向長さを調整することも可能であり、蝶番構造を設けない構成にすることも可能である。さらに、第1,第2の実施形態と同様、リアシート(サブフレーム)側にピボットベースを設け、後方フレーム部分と分岐状のフレームエレメント124と湾曲フレームエレメント123の一端とを連結させる構成にしてもよい。また、分岐状のフレームエレメント124と湾曲フレームエレメント123を、第1、第2の実施形態と同様、ブラケット形状の中間ベースと連結させる構造にしてもよく、あるいは、X字型、H字型、T字型などの分岐状フレームエレメントと連結するフレーム構造にすることも可能である。棒状、分岐状のフレームエレメントは、パイプ状(中空状)に限定されず、中実部材で構成することも可能である。フレームエレメントの両端部の連結部分については、球面滑り軸受け部分にネジ穴を設ける連結構造に限らず、例えば雄ネジ部分を形成した連結部分を設けてもよい。
【0066】
以上、第1~第3の実施形態で示すフレームを備えた自動二輪車について説明したが、既存の自動二輪車に対し、第1~第3の実施形態で示すフレーム構造に改良することも可能である。
【0067】
例えば、第3の実施形態のようなフレーム構造に対し、フレームエレメント124のようにヘッドパイプ140と接合してフレーム部分を切断し、第3の実施形態のようなフレーム構造にすることが可能である。あるいは、第1の実施形態と同様のフレーム構造であって、後方フレーム部分と同様に溶接などによって一体化された前方フレーム部分を、第1の実施形態のように、軸方長さ調整可能なフレームエレメントを複数連結させる構成に改良することが可能である。
【0068】
また、第1~第3の実施形態で示したフレームを製造する(組み立てる)ことも可能である。例えば、第2の実施形態で示したように、複数の軸方向長さ調整可能なフレームエレメント(連結ロッド)を用意し、中間ベース、ピボットベースに対してフレームエレメントを連結し、上述したネジ、ナットによって固定することによって、所望するキャスター角となるメインフレームを製造することができる。なお、複数の軸方向長さ調整可能な連結ロッドを用意する代わりに、それぞれ長さの異なる複数の軸方向長さ調整可能なフレームエレメント(連結ロッド)をあらかじめ用意し、定められたキャスター角に合わせて適切なフレームエレメントを選択し、連結固定するようにしてもよい。連結構造に関しては、ねじ回しのように無段階で連続的に軸方向長さを調整可能な構造に限定されない。あるいは、所定間隔で並ぶ多数のピン(穴)を連結部分に設け、選択的にピンを固定する段階的な長さ調整可能な棒状または分岐状のフレームエレメントを構成することが可能である。また、第1~第3の実施形態では、メインフレームが単一のヘッドパイプ140と連結する構成であったが、ロッドやアームなどを介して一対のヘッドパイプを設けることも可能である。これは、第1~第3の実施形態で示した自動二輪車をリバーストライク形式の車両へ変更することを可能にする。具体的には、ロッドやアームなどを介して、メインフレームを一対のステアリングハブに対して連結させるフレーム構造にし、前二輪構造にすることができる。この場合、上述したフレームエレメントを適用することによって、上述したセッティングが可能となる。
【0069】
第1~第3の実施形態では自動二輪車のフレーム構造について説明したが、リバーストライクなどの三輪車、四輪バギーなどのATVに対しても、メインフレームに対して上述したフレームエレメントを適用することが可能であり、セッティング、製造(組み立て)、改良を行うことも可能である。すなわち、キャスター角、トレール量などのホイールアライメント、原動機の配置箇所を含めた車体の重量バランス、走行性能、操縦性能、乗車姿勢などを変更、調整するため、ヘッドパイプあるいはそれに準じるステアリング軸管と連結するメインフレームの一部を、上述したフレームエレメントによって構成し、セッティング、組み立てを行うことができる。
【0070】
この場合、所望するアライメントに合わせて、自身のアライメント調整可能なフレームアライメントを設置する、あるいは、複数のフレームエレメントの中から、(例えば軸方向長さが適合する)所定のフレームエレメントを選択してセッティング、あるいは組み立てることが可能である。さらに、既製のメインフレームの一部をカットし、上述したフレームエレメントを代替設置することも可能である。フレームエレメントは、着脱可能な部材として構成することにより、自身のアライメント調整あるいはフレームエレメント選択及び設置を可能にする。ただし、フレームアライメント調整可能な範囲で、フレームエレメントの一部を溶接などでメインフレームに対し一体的に構成してもよい。
【0071】
このようなセッティング、組み立て、改良は、乗り物の特性に応じて行えばよい。ピボット部を含まない乗物(ウィッシュボーン形式のATVなど)、中間ベースを備えていない二輪自動車等、乗り物の形態の特徴に合わせたフレームアライメントの調整が可能出る。例えば、エンジン、電動モータ、それ以外の原動機の配置箇所を基準として、フレームアライメントを調整し、走行性能、操縦性能、乗車姿勢、車両の重量バランスなどを変更することが可能である。あるいは、乗車姿勢を基準として、フレームアライメントを調整することも可能である。上述したフレームエレメントは、フレームアライメントの調整、再設定、再構築を可能にし、また、強度補強なども可能にする部材として構成することができる。
【符号の説明】
【0072】
10 フレーム
20 メインフレーム
30 前方フレーム部分
32A、32B フレームエレメント(連結ロッド)
40 後方フレーム部分
60 シートレール(サブフレーム)
100 自動二輪車
140 ヘッドパイプ(ステアリング軸管)
150 ステアリング