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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-20
(45)【発行日】2025-01-06
(54)【発明の名称】リネゾリド製剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/5377 20060101AFI20241223BHJP
   A61K 47/10 20170101ALI20241223BHJP
   A61K 9/06 20060101ALI20241223BHJP
   A61K 9/10 20060101ALI20241223BHJP
   A61K 49/04 20060101ALI20241223BHJP
   A61P 25/04 20060101ALI20241223BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20241223BHJP
   A61P 19/00 20060101ALI20241223BHJP
【FI】
A61K31/5377
A61K47/10
A61K9/06
A61K9/10
A61K49/04 210
A61P25/04
A61P31/04
A61P19/00
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2023040578
(22)【出願日】2023-03-15
(62)【分割の表示】P 2020526890の分割
【原出願日】2018-11-16
(65)【公開番号】P2023075287
(43)【公開日】2023-05-30
【審査請求日】2023-04-13
(31)【優先権主張番号】62/587,101
(32)【優先日】2017-11-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】519173912
【氏名又は名称】ペルシカ ファーマシューティカルズ リミテッド
【氏名又は名称原語表記】PERSICA PHARMACEUTICALS LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100152489
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 美樹
(72)【発明者】
【氏名】チャプレウスキ、ロイド
(72)【発明者】
【氏名】ゲスト、サラ
【審査官】高橋 樹理
(56)【参考文献】
【文献】特許第7251813(JP,B2)
【文献】特表2006-521177(JP,A)
【文献】特許第7101694(JP,B2)
【文献】特表2016-533354(JP,A)
【文献】特表2003-522175(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
注射用リネゾリド製剤の製造方法であって、
前記リネゾリド製剤は、
(a)リネゾリド形態II粉末と、
(b)ポロキサマー407及びイオヘキソールを含む感熱性ヒドロゲルと、
任意選択的に(c)少なくとも1種の添加剤と
を含み、
前記方法は、
(i)リネゾリド形態IIを粉砕して、確定された粉末にする工程、
(ii)工程(i)のリネゾリド粉末の単位を調製し、この調製物を滅菌する工程、
(iii)ポロキサマー407及びイオヘキソールを含む前記感熱性ヒドロゲルを調製して滅菌する工程、及び
(iv)工程(ii)の前記リネゾリド粉末を工程(iii)の前記感熱性ヒドロゲルに懸濁させる工程を含み、
リネゾリド形態IIは、
下記:
【表1】

のピークを有する粉末X線回折スペクトルを有し、
前記注射用リネゾリド製剤は、
(a)前記製剤の1~20重量%のリネゾリド形態IIと、
(b)前記製剤の9.5重量%~17重量%のポロキサマー407及び前記製剤の17重量%~30重量%のイオヘキソールを含む感熱性ヒドロゲルと、
を含む、注射用リネゾリド製剤の製造方法。
【請求項2】
ガンマ線照射により前記リネゾリド粉末を滅菌する工程をさらに含み;任意選択的に、
前記工程(iii)及び(iv)を前記工程(i)及び(ii)と比べて低い温度で実施する、請求項に記載の注射用リネゾリド製剤の製造方法。
【請求項3】
前記ポロキサマー407は、前記製剤の10.8重量%~12.8重量%で存在する、請求項1または2に記載の注射用リネゾリド製剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、慢性腰痛の処置に有用なリネゾリド製剤、方法、及び製造を提供する。本発明の一態様では、このリネゾリド製剤は、リネゾリド形態II(linezolid form II)懸濁液、イオヘキソール、及びポロキサマー407を含み、且つ注射可能である。
【背景技術】
【0002】
慢性腰痛(Chronic Low back pain)(CLBP)は、世界中の一般的集団の間でよく見られる。MRI上でのモディック変化(Modic change)(骨浮腫)と非特異的LBPとの間には、4.5の平均オッズ比の正の関連が認められている。ジェンセン(Jensen)らは、非特異的CLBPを有する患者における任意のタイプのモディック変化(例えばタイプI~III)の有病率が、一般的集団の6%に対して46%であることを概説した(非特許文献1)。
【0003】
脊椎骨での浮腫(又は炎症)により特徴付けられるモディック変化は、椎間板組織の低悪性度感染により引き起こされる可能性があり、そこで、椎間板(disc)/終板の損傷と炎症性刺激の持続とが素因的状態を作る。非化膿性の椎間板(intervertebral disc)内のプロピオニバクテリウム・アクネス(Propionibacterium acnes)(P.アクネス(P.acnes))は、モディック変化(例えばタイプI)及び非特異的腰痛を引き起こす病原体の一つであることが分かっている(非特許文献2、非特許文献3、非特許文献4、非特許文献5、及び非特許文献6)。椎間板細胞は、P.アクネス(P.acnes)感染に対して炎症反応を生じる可能性がある(非特許文献7)。モディック変化及び椎間板変性を伴う患者から単離されたP.アクネス(P.acnes)は、椎間板に接種された場合には、炎症反応、椎間板変性、及びモディック変化を誘発する可能性がある(非特許文献8、及び非特許文献9、及び非特許文献10)。動物で行なわれた研究はまた、椎間板中でのP.アクネス(P.acnes)感染は、この椎間板の変性及びモディック変化を誘発する可能性があることも示す(非特許文献11、非特許文献12、及び非特許文献13)。組織感染と関連するP.アクネス(P.acnes)の株は、椎間板変性に寄与し得るヒアルロン酸分解酵素も発現する(非特許文献14)。
【0004】
口及び皮膚からの(P.アクネス(P.acnes)のような)嫌気性細菌が椎間板に到達している可能性があるという仮説が立てられている。隣接する骨中の局所的な炎症は、サイトカイン及びプロピオン酸の産生に起因する副次的影響である可能性があり、感染は椎間板中であり、モディック変化は骨中に現れる「副作用」である(非特許文献4)。
【0005】
モディック変化を伴うCLBPの処置では、抗生物質療法が有効である可能性がある。いくつかの研究では、アモキシシリン-クラブラネート等の抗生物質の経口投与により、慢性LBPの患者での全ての評価項目において臨床的に重要であり且つ統計的に有意な(p<0.001)改善がもたらされ得ることが示されている(非特許文献15、及び非特許文献16)。この結果は、モディック変化を伴うCLBPでは細菌感染が役割を果たす可能性があるという仮説を支持する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】ジェンセン(Jensen)ら著、欧州脊椎ジャーナル(Eur.Spine J.)2008年、第17巻:p.1407~1422
【文献】スターリング(Stirling)ら著、ランセット(Lancet)、2001年、第357巻:p.2024~2025
【文献】アガルワル(Agarwal)ら著、脊椎ジャーナル(Spine J).2010年、第10巻:p.S45~S46
【文献】アルバート(Albert)ら著、欧州脊椎ジャーナル(Eur Spine J.)、2013年、第22巻(第4号):p.690~696
【文献】カプーア(Capoor)ら著、プロス・ワン(PLoS One)、2016年、第11巻(第8号):e0161676.doi:10.1371
【文献】カプーア(Capoor)ら著、プロス・ワン(PLos One)、2017年、第12巻(第4号):e0174518.doi:10.1371)
【文献】デュドゥリ(Dudli)ら著、欧州脊椎ジャーナル(Eur Spine J.)、2017年9月7日、doi:10.1007/s00586-017-5291-4
【文献】チェン(Chen)ら著、バイオメド・リサーチ・インターナショナル(Biomed Res Int.)2016年:9612437.doi:10.1155/2016/9612437.電子出版(Epub)2016年1月26日
【文献】チェン(Chen)ら著、インターナショナル・オルソペディクス(Int Orthop.)2016年、第40巻(第6号):p.1291~1298
【文献】デュドゥリ(Dudli)ら著、ジャーナル・オブ・オルソペディック・リサーチ(J Orthop Res.)2016年、第34巻(第8号):p.1447~1455
【文献】ザモラ(Zamora)ら著、オルソペディック・トゥローマトロジティ・サージィ・リサーチ(Orthop Traumatol Surg Res.)、2017年、第103巻(第5号):p.795~799
【文献】シャン(Shan)ら著、脊椎(Spine)、2017年4月10日.doi:10.1097/BRS.0000000000002192
【文献】シャン(Shan)ら著、ジャーナル・オブ・ボーン・アンド・ジョイント・アメリカ(J Bone Joint Am.)、2017年、第99巻(第6号):p.472~481)
【文献】ナジピ(Nazipi)ら著、マイクロオルガニズム(Microorganisms.)2017年9月12日;第5巻(第3号).pii:E57.doi:10.3390/microorganisms5030057
【文献】アルバート(Albert)ら著、ブリティッシュ・ジャーナル・オブ・スポーツ・メディシン(Br.J.Sports Med.)2008年、第42巻(第12号):p.969~973
【文献】アルバート(Albert)ら著、欧州脊椎ジャーナル(Eur Spine J.)2013年、第22巻(第4号):p.697~707
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
いくつかの非外科的処置アプローチ(例えば、ステロイド、抗TNF-α抗体、及びビスホスホネートの椎間板内注射)は、再現性のない臨床研究においてモディック変化及びCLBPの軽減での短期間の有効性を示しているが、これらのアプローチはいずれも成功しておらず、論争の的となる結果をもたらす。この背景から、骨、関節、靱帯、及び/又は腱の疾患、状態、又は障害(特に、モディック変化又は骨浮腫を伴うもの)と同時に認められる疼痛の処置、軽減、予防、及び/又は緩和に取り組むための治療法が当技術分野で必要とされている。本発明は、この要求を満たすためにリネゾリド製剤を提供する。リネゾリドは、他の抗生物質に対して耐性を示すグラム陽性菌により引き起こされる感染の処置に使用される抗生物質である。リネゾリドに対して耐性を示すP.アクネス(P.acnes)臨床分離株(MIC>4μg/ml)はあまり報告されていない。このリネゾリド製剤は、罹患した椎間板(disc)及び脊椎骨(vertebrae)にリネゾリドを効果的に送達し、従ってモディック変化及びCLBPの処置の有効性を向上させる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、骨、関節、靱帯、又は腱の臨床状態と同時に生じる疼痛又は表現型提示の内の1種又は複数種を処置するため、予防するため、寛解させるため、及び/又は緩和させるための、感染した脊椎部位へのリネゾリドの送達に適した注射用製剤を提供する。キット、パッケージ、並びにこれらを製造する方法及び使用する方法も提供される。
【0009】
本発明では、温かい体温に反応してインサイチュでヒドロゲルを形成する懸濁液としてリネゾリド製剤を製造する。本発明の製剤は、感熱性であり且つ注射可能である。
いくつかの実施形態では、本発明の製剤は有効量のリネゾリドを含む。いくつかの態様では、リネゾリドは、この製剤中に粒子懸濁液として調製されるリネゾリド形態IIである。最終製剤の重量又は体積で約1%~約20%、好ましくは約2.5%~約20%の懸濁液が形成されるように送達用ビヒクル(即ちヒドロゲル)にリネゾリドを担持させ得る。いくつかの例では、この懸濁液製剤は、約25mg/ml、約30mg/ml、約35mg/ml、約40mg/ml、約45mg/ml、約50mg/ml、約55mg/ml、約60mg/ml、約65mg/ml、約70mg/ml、約75mg/ml、約80mg/ml、約85mg/ml、約90mg/ml、約95mg/ml、約100mg/ml、約150mg/ml、又は約200mg/mlのリネゾリドを含み得る。
【0010】
いくつかの実施形態では、本発明のリネゾリド製剤は、温度上昇に反応してヒドロゲルを形成する送達用ビヒクルとしてポロキサマーを含む。いくつかの態様では、このポロキサマーはポロキサマー407である。本発明のリネゾリド製剤は、この製剤の約9.5重量%~約17重量%でポロキサマー407を含み得るか、又はこの製剤の約9.5重量%~約14.5重量%でポロキサマー407を含み得るか、又はこの製剤の約10.5重量%~約13.5重量%でポロキサマー407を含み得るか、又はこの製剤中の約115mg/ml~約207mg/mlの濃度でポロキサマー407を含み得るか、又はこの製剤中の約130mg/ml~約165mg/mlの濃度でポロキサマー407を含み得る。好ましくは、このリネゾリド製剤は、この製剤の約10.8重量%~約12.8重量%でポロキサマー407を含み得るか、又はこの製剤中の約130mg/ml~156mg/mlの濃度でポロキサマー407を含み得る。
【0011】
いくつかの実施形態では、本発明のリネゾリド製剤は放射線不透過性色素を含む。いくつかの態様では、この薬剤はイオヘキソールである。このリネゾリド製剤は、この製剤の約14重量%~約59重量%でイオヘキソールを含み得るか、又はこの製剤の約14重量%~約40重量%でイオヘキソールを含み得るか、又はこの製剤中の約165mg/ml~約718mg/mlの濃度でイオヘキソールを含み得るか、又はこの製剤中の約200mg/ml~約450mg/mlの濃度でイオヘキソールを含み得る。好ましくは、このリネゾリド製剤は、この製剤の約17重量%~約30重量%でイオヘキソールを含み得るか、又はこの製剤中の約206mg/ml~約364mg/mlの濃度でイオヘキソールを含み得る。
【0012】
好ましい一実施形態では、本リネゾリド製剤は、最終製剤の重量又は体積で約2.5%~約20%のリネゾリド形態IIと、この製剤の約10.8重量%~約12.8重量%のポロキサマー407及びこの製剤の約17重量%~約30重量%のイオヘキソールを含む送達用ビヒクル(別名希釈剤)とを含む。この製剤はリネゾリド懸濁液である。このリネゾリド製剤は注射可能であり、且つ約26℃~約36℃のゾル-ゲル転移温度を有する。
【0013】
腰椎の椎間板、並びに/又は隣接する脊椎、靱帯、筋肉、腱、及び関節で必要な対象に本発明の製剤を適用し得、直視下手術若しくは注射により、又は顕微鏡手術の技術若しくは経皮的な技術により、この適用を実行する。
【0014】
いくつかの実施形態では、本発明は、本リネゾリド製剤の製造方法及び使用方法を提供する。いくつかの例では、リネゾリド製剤を別個に包装し得、例えば、ある用量のリネゾリド粉末と、ポロキサマー407及びイオヘキソールを最適な濃度比で含む送達用ビヒクルの溶液とを別個に包装し得る。投与の前にリネゾリド粉末とポロキサマービヒクルとを混合することにより、この懸濁液を調製し得る。同様に本発明で提供されるものとして、本組成物、ビヒクル、並びに滅菌注射用製剤の投与用のシリンジ及び/又は針を含むキットが挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1A】微粒子化後のリネゾリド(形態II)の粒度分布を示す図。
図1B】微粒子化前後のリネゾリド形態IIの代表的な画像。
図2】隣接する椎間板中に位置する針と、注射されたイオヘキソール含有製剤0.1mlとを示す画像。この注射された製剤の位置を、x線撮像又は蛍光透視撮像を使用して観察し得る。
図3】椎間板内投与後にヒツジの椎間板から回収したリネゾリドの量を示す図。各点は、3~4枚の椎間板に基づく平均及びこの平均の標準誤差を示す。
図4】リネゾリド処置椎間板から単離された細菌を、未処置椎間板と比較して示す図。
図5】予め温めたサツマイモに通してリネゾリド懸濁液(PP353)の注射性能を示す図。
図6】PP353リネゾリド懸濁液を投与したヒツジにおけるリネゾリドの薬物動態を示す図。Y軸は血漿中リネゾリド濃度(ng/ml)を示す。Xは時間(時間)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
下記の本発明の詳細な説明がよりよく理解され得るために、上記では、本発明の特徴及び技術的利点がかなり大まかに概説されている。本発明の更なる特徴及び利点は、本発明の特許請求の範囲の主題を形成する下記で説明されるだろう。開示された概念及び特定の実施形態は、本発明の同一の目的を実行するための他の構造の変更又は設計のベースとして容易に利用され得ることを、当業者は認識すべきである。そのような等価の構成は、添付の特許請求の範囲に記載されているような本発明の趣旨及び範囲を逸脱しないことも当業者は理解すべきである。本発明の特徴であると考えられる新規の特徴は、その構成及び操作方法の両方に関して、更なる目的及び利点と共に添付の図面と関連して考慮された場合に、下記の説明からよりよく理解されるだろう。しかしながら、各図は、図示及び説明のみを目的として提供されており、本発明の限界の定義として意図されていないことを明白に理解しなければならない。
【0017】
本発明は、慢性腰痛(CLBP)がモディック変化と細菌感染が観察される椎間板ヘルニアとを伴うことが多いというヒト研究での発見に基づく。従って、モディック変化及びCLBPを引き起こす細菌感染に対する抗生物質を含む医薬組成物及び医薬製剤を開発する。この製剤及び方法を使用して、特に、細菌感染により引き起こされるモディック変化又は骨浮腫との関連が存在する場合に、骨、関節、靱帯、及び/又は腱の疾患、状態、又は障害と同時に認められる疼痛及び表現型提示の内の1種又は複数種を処置し得、予防し得、寛解させ得、及び/又は緩和させ得る。
【0018】
疼痛の種類として下記が挙げられ得るが、これらに限定されない:急性痛、亜急性痛、慢性の又は恒常的な疼痛、局所痛、根性痛、関連痛、体性痛、放散痛、神経障害性疼痛、炎症性疼痛、及び混合性又は非特異性の起源の疼痛。疼痛は身体の様々な部位に存在し得、例えば、手足、筋肉、皮膚、関節、深部組織若しくは深部器官、又は脊椎(例えば、頸椎、胸椎、腰椎、若しくは仙椎)に存在し得る。
【0019】
表現型提示(対象が認知しているか又は経験しているかにかかわらず、あらゆる外面上の徴候として定義される)として下記が挙げられ得るが、これらに限定されない:あらゆる種類の疼痛、一般的に、疼痛に起因する夜間の睡眠障害、ヴァルサルヴァ法中の疼痛、腰椎の活動的な屈曲中の疼痛、腰椎の活動的な伸展中の疼痛、陽性の頭蓋圧迫試験(positive cranial compression test)、跳躍試験(springing test)中の疼痛、寝返りを打つことの困難さ、椅子から立ち上がることの困難さ、階段を上ることの困難さ、曲げること又はひざまずくことの困難さ、及び長時間にわたり立つこと又は歩くことの困難さ。
【0020】
疼痛と同時に生じる骨、関節、靱帯、及び/又は腱の疾患、状態又は障害として下記が挙げられるが、これらに限定されない:モディック変化、骨浮腫、腰椎椎間板ヘルニア、腱炎、腱断裂、靱帯炎症、靱帯断裂、恥骨結合開離、骨盤ガードル症候群(pelvic
girdle syndrome)、及びショイエルマン病。
【0021】
疼痛又は表現型提示は、(1)疾患、状態、若しくは障害により引き起こされてもよいし、(2)疾患、状態、若しくは障害と同時に生じてもよいし、(3)疾患、状態、若しくは障害の部位に存在するか、若しくはこの部位付近に存在してもよいし、(4)上述のいずれかの組み合わせであってもよい。腰痛(LBP)を引き起こす疾患の例として、下記が挙げられる:関節炎、広汎性特発性骨増殖症(DISH又はフォレスティエ病(Forestier’s Disease))、坐骨神経痛、変性椎間板疾患、腰部脊柱管狭窄症、脊椎すべり症、椎間板ヘルニア、脊柱側弯症、神経根症、関節機能不全、尾骨痛、子宮内膜症、及び骨粗鬆症。
【0022】
本発明は、処置を必要とする疾患部位又はこの部位の近接領域に有効量のリネゾリドを局所送達するリネゾリド組成物及びリネゾリド製剤に関する。リネゾリドは、温度変化に反応して分解性ゲルを形成する感熱性ポロキサマービヒクルに製剤化されている。室温で水溶液であるこの感熱性担体は、体温にてインサイチュでゲルを形成し、担持されたリネゾリドを標的部位に放出する。この製剤のゲル化特性により、注射部位からの活性薬物の漏出が回避される可能性があり、従って、標的部位での活性薬物の量が増加する。
【0023】
I.リネゾリド製剤
本発明の医薬組成物及び医薬製剤は、疼痛を処置するために、予防するために、寛解させるために、又は緩和させるために、1種又は複数種の薬学的に許容される担体又は添加剤と組み合わせて、活性医薬成分(API)としてリネゾリドを含む。本発明のリネゾリド組成物及びリネゾリド製剤は、1種又は複数種の追加の活性物質(例えば治療的に及び/又は予防的に活性な物質)を任意選択的に含み得る。いくつかの例では、この組成物は、少なくとも別の抗炎症薬若しくは別の抗感染薬、又は同類ものを含み得る。
【0024】
具体的には、腰痛を処置し、予防し、寛解させ、又は緩和し、同時に頸椎、胸椎、腰椎、又は仙椎での細菌感染を除去するために、疾患部位に本明細書で論じられているような抗生物質組成物を投与するのに本リネゾリド製剤を使用し得る。
【0025】
薬理学の分野で既知であるか又は今後開発される任意の方法により、本明細書で説明されている製剤を調製し得る。医薬品の製剤化及び/又は製造における一般的な検討事項は、例えばレミントン(Remington):ザ・サイエンス・アンド・プラクティス・オブ・ファーマシー(The Science and Practice of Pharmacy)第21版、リッピンコット ウィリアムズ&ウィルキンス(Lippincott Williams & Wilkins)、2005年(この内容は、その全体が参照によりの本明細書に組み込まれる)で見出され得る。一般に、そのような調製方法は、活性成分を添加剤、希釈剤、及び/又は1種若しくは複数種の他の副成分と会合させ、次いで、必要に応じて及び/又は望ましい場合には、生成物を所望の単回投与単位又は複数回投与単位へと分割し、成形し、及び/又は包装する工程を含む。
【0026】
1つの単一単位用量として、及び/又は複数の単一単位用量として、本発明に従う医薬製剤をバルクで調製し得、包装し得、及び/又は販売し得る。本明細書で使用される場合、「単位用量」とは、所定量の活性成分を含む医薬組成物の個々の量のことである。この活性成分の量は一般に、対象に投与されるであろう活性成分の投与量、及び/又はそのような投与量の好都合な分数(例えば、そのような投与量の2分の1若しくは3分の1)に等しい。
【0027】
本発明のリネゾリド製剤は、感熱性ポロキサマーヒドロゲル及び非イオン性造影剤イオヘキソールを含む送達用ビヒクルに配合された治療上有効な量のリネゾリドを含み得る。このポロキサマー及びイオヘキソールを含む送達用ビヒクルは26℃未満で水溶液であり、より高い温度(例えば体温に近い温度)でゲル化する。任意選択により、この製剤には、1種又は複数種の薬学的に許容される添加剤も添加し得る。本発明に従った医薬組成物中の活性成分(即ちリネゾリド)、薬学的に許容される添加剤、及び/又は任意の追加成分の相対量は、処置される対象の同一性、サイズ、及び/又は状態に応じて変化し、さらにはこの組成物が投与される経路に応じて変化するだろう。
【0028】
この製剤は注射可能であり得る。この注射用医薬組成物は、対象の解剖学的構造に注射されるように製剤化されており、この解剖学的構造として下記が挙げられるが、これらに限定されない:椎間板(intervertebral disc)、椎間腔(intervertebral space)、関節内腔、靱帯、腱、腱と骨との接合部、関節、硬膜外腔、椎間関節、骨浮腫に隣接する部位、又は他の脊椎コンパートメント。好ましい一実施形態では、この注射用リネゾリド製剤を使用して、椎間板中に及び/又は椎間板腔中にAPIを送達し得る。この注射用製剤は、溶液を形成するが体温ではゲル化する少なくとも1種のポリマーを含む。感熱性ヒドロゲルは、担持された抗生物質を注射部位へと運び、この注射部位では抗生物質は感染に対して有効である。本発明のゲル化製剤は、抗生物質が椎間板組織中に拡散されるのに十分な長さにわたり注射された場所に留まって、この注射された領域からの抗生物質の漏出を回避し得る。この特徴は、注射針が引き抜かれた際に、椎間板からすぐに漏出する可能性がある損傷した椎間板で特に有益である。
【0029】
いくつかの実施形態では、ヒト、ヒト患者、又は非ヒト対象にリネゾリド組成物及びリネゾリド製剤を投与する。例えば、腰痛の患者又は腰痛を発症するリスクがある患者に、この製剤を投与し得る。いくつかの実施形態では、この治療用組成物が投与される対象は、骨、関節、靱帯、若しくは腱で、又はこれらの付近で、疼痛を罹患しているか、又は疼痛を発症するリスクがある。
【0030】
活性成分-リネゾリド
背景で説明したように、慢性腰痛は、腰椎椎間板ヘルニア後のモディック変化と密接に関連することが多い。腰椎椎間板ヘルニアの核組織では嫌気性細菌を観察することが多いことから、モディック変化を伴う疼痛を処置するための医薬組成物は、1種又は複数種の標的細菌を死滅させるか又は阻害する活性成分として少なくとも1種の抗生物質を含み得る。
【0031】
活性剤の選択は、モディック椎間板(Modic disc)から単離された細菌病原体に依存し得る。モディック椎間板から最も頻繁に単離される細菌病原体は、スタフィロコッカス種(Staphylococcus spp.)及びP.アクネス(P.acnes)である。抗生物質耐性は、世界中の様々な集団及び地域で異なる。頑強且つ幅広く有効な治療を行なうために、P.アクネス(P.acnes)及びスタフィロコッカス(Staphylococcus)を含むか又は最低限でP.アクネス(P.acnes)のみを含む一般的な抵抗性のカバーが好ましいだろう。好ましくは、モディックと関連する感染部位で単離された病原体の抵抗性プロファイルを考慮すると、本組成物及び本製剤の活性剤として、任意の感染部位からの現在の臨床単離株に対して有効な抗生物質を選択し得る。
【0032】
例えば、本発明の医薬製剤は、モディック椎間板から最も頻繁に単離される細菌病原体であるスタフィロコッカス種(Staphylococcus spp.)及びP.アクネス(P.acnes)の両方を処置するための活性剤を含み得る。いくつかの態様では、本発明の医薬製剤は、研究されている感染の大部分(1型モディック(Modic Type 1)患者の約38%)を引き起こすP.アクネス(P.acnes)感染の処置のために少なくとも1種の抗生物質を含み得る。P.アクネス(P.acnes)及びスタフィロコッカス種(Staphylococcus spp.)それぞれに関する多くの潜在的な抗菌療法によるこれまでの処置からの証拠から、これらの病原体の内の少なくとも1種に対して有効であるいくつかの抗生物質が同定された。本発明では、本組成物及び本製剤の活性剤として、P.アクネス(P.acnes)及びブドウ球菌(Staphylococci)の両方に対して有効な抗生物質を選択し得る。いくつかの実施形態では、P.アクネス(P.acnes)及びブドウ球菌(Staphylococci)の両方に対して有効な抗生物質の組み合わせを選択し得る。
【0033】
好ましい一実施形態では、この抗生物質はリネゾリドである。リネゾリドは、疾患を引き起こすほとんどのグラム陽性菌(例えば、連鎖球菌(streptococci)、バンコマイシン耐性腸球菌(enterococci)(VRE)、及びメチシリン耐性スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)(MRSA))に対して初めて臨床的に使用されるオキサゾリジノンである(ゴーダン(Gaudin)ら著、臨床微生物学及び感染症欧州ジャーナル(Eur J Clin Microbiol Infect Dis.)2013年、第32巻(第2号):p.195~198)。リネゾリドは、心内膜炎及び菌血症、骨髄炎、骨感染及び関節感染、並びに結核の患者の処置に成功裏に使用されており、他の治療法が失敗している場合に複雑な感染の処置に使用されることも多い(ゴーチェ(Gautier)ら著、ジェイエム.ジャーナル・オブ・バイオマテリアル・アプリケーション(JM.J Biomater Appl.)2012年、第26巻(第7号):p.811~828;ツィオリス(Tsiolis)ら著、外科感染症(ラーチモス)(Surg Infect(Larchmt).)2011年、第12巻(第2号):p.131~135)。リネゾリドの長期使用(例えば2週間超)は、深刻な副作用を引き起こす可能性がある(ファラガス(Falagas)ら著、インターナショナル・ジャーナル・オブ・アンチミクロバイアル・エイジェンツ(Int.J Antimic Agents)、2007年、第29巻(第3号):p.233~239)。リネゾリドはよく吸収され、健康なボランティでのバイオアベイラビリティは約100%である。リネゾリドは、比較的速く組織に浸透してそのMICの4mg/Lに達し得る。リネゾリドはまた、椎間板及び周囲の組織にも浸透し得る(コマツ(Komatsu)ら著、欧州脊椎ジャーナル(Eur.Spine J.)2010年、第19巻(第12号):p.2149~2155)。80~120のAUC:MIC値で、及び投与間隔全体で濃度がMICを超えたままである場合に、リネゾリドのより高い成功率が得られる場合がある(ドライデン(Dryden)著、ジャーナル・オブ・アンチミクロバイアル・ケモセラピー(J.Antimicrob.Chemother.)2011年、第66巻(増補4):p.iv7~iv15により概説されている)。
【0034】
本発明では、活性成分としてリネゾリドが選択され、必要な対象の標的部位にリネゾリドの薬学的に有効な量を送達するように製剤化される。この組成物の有効量は、標的細菌、投与手段、及び他の決定因子に少なくとも部分的に基づいて規定される。一般に、この組成物の有効量は、標的細菌の効率的な死滅又は阻害をもたらし、必要な対象において疼痛を減少させるか又は疼痛を発症するリスクを減少させる。
【0035】
いくつかの実施形態では、リネゾリドの有効な投与量レベルは、標的細菌の最小発育阻止濃度(MIC)を超える。この標的細菌は嫌気性細菌であり、例えば、P.アクネス(P.acnes)、コリネバクテリウム・プロピンクム(Corynebacterium propinquum)、又はスタフィロコッカス(Staphylococcus)属のものである。
【0036】
様々な条件下で有機溶媒を使用する再結晶化により、リネゾリドの様々な結晶変態(多形)を得ることができる。本製剤の活性成分として、リネゾリドのいくつかの多形形態を選択し得る。例えば、リネゾリドは、リネゾリド形態I(例えば米国特許第6,444,813号明細書)、又は形態II(例えば米国特許第6,559,305号明細書)、又は形態III(例えば、米国特許第7,718,799号明細書;米国特許出願公開第2007/0104785号明細書)、又は形態IV(例えば、米国特許出願公開第2008/0319191号明細書)、又は国際公開第2007/026369号、同第2006/110155号、及び同第2014/013498号、及び米国特許出願公開第2017/0008919号明細書で説明されているような他の結晶形態であり得、これらのそれぞれの内容は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。米国特許第6,559,305号明細書で詳述されているように、リネゾリド((S)-N-[[3-[3-フルオロ-4-(4-モルホリニル)フェニル]-2-オキソ-5-オキサゾリジニル]メチル]アセトアミド)形態IIは、下記のピークを有する粉末X線回折スペクトルを特徴とし得る。
【0037】
【表1】

米国特許第6,559,305号明細書で詳述されているように、リネゾリド((S)-N-[[3-[3-フルオロ-4-(4-モルホリニル)フェニル]-2-オキソ-5-オキサゾリジニル]メチル]アセトアミド)形態IIは、下記のピークを有する鉱物油ムル(mineral oil mull)としての赤外(IR)スペクトルをさらに特徴とし得る:3364、1748、1675、1537、1517、1445、1410、1401、1358、1329、1287、1274、1253、1237、1221、1145、1130、1123、1116、1078、1066、1049、907、852、及び758cm-1
【0038】
一実施形態では、本製剤の活性成分としてリネゾリド形態IIが選択される。リネゾリド形態IIは小粒子に粉砕されて、低温又は室温でポロキサマー溶液中に均一に分散され得る。この分散されたリネゾリド形態II粒子は、ポロキサマー溶液中の懸濁液を形成する。
【0039】
本発明では、滅菌注射用製剤を調製するためにリネゾリド粒子を滅菌し得る。当技術分野で既知の任意の方法(例えば乾熱又は蒸気)によりリネゾリドを滅菌し得る。好ましい実施形態では、ガンマ線照射によりリネゾリド粒子を滅菌し得る。
【0040】
本発明の活性成分と一緒に、コンパニオン薬(又は併用される薬物)を投与してもよい。ある特定の実施形態では、抗炎症薬も投与し、例えば、アスピリン、イブプロフェン、ケトプロフェン、ナプロキセン、セファコクシブ(cefacoxib)、ロフェコキシブ、パレコキシブ、セレコキシブ、バルデコキシブ、及びインドメタシンも投与する。ある特定の実施形態では、鎮痛薬物(pain relieving medication)も投与し、例えば、アセトアミノフェン、モルヒネ、オキシコドン、及びコデインも投与する。コンパニオン薬として、市販の鎮痛パッチ、鎮痛薬、及び/又は鎮痛軟膏も挙げられ得る。
【0041】
送達用ビヒクル-感熱性ヒドロゲル
必要な対象への投与のために、本発明の活性成分(即ちリネゾリド)を送達用ビヒクルに組み込み得る。この送達用ビヒクルは注射に適し得る。例えば、この送達用ビヒクルは、水溶液、低粘度溶液、懸濁液、又は可逆性熱ゲル(reversible thermogel)であり得る。このビヒクルは、好ましくは、生分解性担体であり且つ生体適合性の担体である。本明細書で使用される場合、用語「生体適合性」は、組織及び細胞に対して有毒ではない担体を意味する。本明細書で使用される場合、用語「生分解性」及び「生体吸収性」は互換的に使用される。本発明の文脈における生分解又は生体吸収は、生体の作用による生物学的環境下での、並びに最も顕著には生理学的なpH及び温度での、製剤化された治療上活性な成分を放出した後の送達用材料の分解(degradation)、分解(disassembly)、消化、又は消失を指す。具体的な反応として化学的分解又は酵素的分解が挙げられるが、これらに限定されない。
【0042】
本発明では、リネゾリドの送達では感熱性ヒドロゲル生体材料(特に、溶液-ゲル転移温度が生理的温度前後であるか又は生理的温度未満である注射用感熱性ヒドロゲル)が使用される。リネゾリドを含む水性懸濁液は室温で形成されるが、インビボ注射の後では、体温で非流動性/硬いゲルへと転移し得る。数時間又は数日をかけて、このゲルは分解する(即ち生分解性)。本製剤中の成分の濃度を変えることにより、特性(例えば、ゲルが生じる温度又はゲルの分解速度)の微調整が可能になり得る。
【0043】
1.ポロキサマー
感熱性ヒドロゲルは、合成ポリマー、天然ポリマー、又はこれらの組み合わせで構成され得る。ゲル化の前にインビトロで医薬品(例えばリネゾリド)及び適切な担体をポリマー溶液と混合し得、インビボ投与後に、薬物を担持するヒドロゲルがインサイチュで形成し得る。
【0044】
いくつかの実施形態では、この感熱性ヒドロゲルは合成ポリマーにより形成され得る。この合成ポリマーとして下記が挙げられ得るが、これらに限定されない:ポリ(エチレンオキシド)-ポリ(プロピレンオキシド)-ポリ(エチレンオキシド)(PEO-PPO-PPO)トリブロックコポリマー(ポロキサマー(Poloxamers)(登録商標)又はプルロニック(Pluronics)(登録商標)としても既知である)及びこの誘導体、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)ベース(PNIPAAM)のコポリマー及びこの誘導体、ポリ(オルガノホスファゼン)、並びにポリ(エチレングリコール)(PEG)/生分解性ポリエステルコポリマー。
【0045】
ポロキサマー(登録商標)又はプルロニック(登録商標)は、FDAにより承認された感熱性合成ポリマーである。ポロキサマーは、ポリオキシエチレン(ポリ(エチレンオキシド))の2本の親水性鎖に挟まれたポリオキシプロピレン(ポリ(プロピレンオキシド))の中央の疎水性鎖で構成された非イオン性トリブロックコポリマーである。生体適合性ポロキサマーは、薬物送達及び組織工学に広く使用されている。ポロキサマーベースのヒドロゲルは、PEO及びPPOの組成と、全体的な分子量及び濃度とを調整することにより、ある特定の生理学的な温度及びpHの下での可逆的なゲル化を可能にする。薬物送達に使用されているポロキサマーとして下記が挙げられるが、これらに限定されない:ポロキサマー(登録商標)188(プルロニック(登録商標)F-68、フロコール(FLOCOR)、又はレオシレックス(RheothRx))、ポロキサマー(登録商標)237(プルロニック(登録商標)F87)、ポロキサマー(登録商標)238(プルロニック(登録商標)F-88)、プルロニック(登録商標)F-98、ポロキサマー(登録商標)124(プルロニック(登録商標)L-44)、ポロキサマー(登録商標)184(L-64)、ポロキサマー(登録商標)338(プルロニック(登録商標)F-108)、ポロキサマー(登録商標)401(プルロニック(登録商標)L-121)、及びポロキサマー(登録商標)407(プルロニック(登録商標)F-127)。米国特許第5,702,717号明細書の表1に、いくつかの選択されたポロキサマーの物理化学的特徴及びゲル形成特性を見出し得、この明細書の内容は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0046】
ポロキサマー(登録商標)407(プルロニック(登録商標)F-127、コリフォル407(Kolliphor 407)、及びシンペロニックピーイー/エフ127(SynperonicPE/F 127)としても既知である)は、毒性が最も低いブロックコポリマーの内の1つであり、薬物送達システムとして広く使用されている。純粋な20%(重量/重量)の濃度では、ポロキサマー(登録商標)407は、室温(約25℃)で又は室温(約25℃)未満で水溶液中の液体であるが、体温(37℃)で軟質ゲルを形成する。ポロキサマー(登録商標)407は、トリブロックコポリマーであって、重量で約70%のPEO(ポリエチレングリコール)及び30%のPPO(ポリプロピレンオキシド)からなり、平均分子量が11500である、トリブロックコポリマーである。他のポロキサマーと同様に、ポロキサマー(登録商標)407は熱可逆的なゲル化挙動を示す。ゴングら(Gong)(カレント・メディカル・ケミストリー(Curr.Med.Chem.)2013年、第20巻、p.79~94;この内容は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる)で概説されているように、ポロキサマー(登録商標)407は、多くの薬物、タンパク質、及び遺伝子の送達に利用されている。
【0047】
いくつかの実施形態では、感熱性ヒドロゲルは、天然ポリマー(例えば、熱応答性ゲル化挙動が改善されている変性ポリマー)で形成されてもよい。感熱性ヒドロゲルを形成するために使用され得る天然ポリマーとして、キトサン及び関連の誘導体、メチルセルロース、アルギネート、ヒアルロン酸、デキストラン、及びキシログルカンが挙げられるが、これらに限定されない。
【0048】
2.非イオン性造影剤-イオヘキソール
これまでの研究は、抗生物質の制御された且つ持続的な放出に、ポロキサマーに封入された抗生物質(例えばバンコマイシン及びリネゾリド)を使用して、細菌の増殖の阻害における抗生物質の有効性を高め得ることを示す(ヴェイリーズ(Veyries)ら著、インターナショナル・ジャーナル・オブ・ファーマシューティクス(Int.J.Pharm.)、1999年、第192巻(第2号):p.183~193;ヴェイリーズ(Veyries)ら著、アンチマイクロバイアル・エージェンツ・アンド・ケモセラピー(Antimicrob Agents Chemother.)、2000年、第44巻(第4号):p.1093~1096;カロレビッチ(Kalorewicz)ら著、ポリマリィ・メディシン(Polim.Med)、2011年、第41巻(第4号)p.3~15;及びリー(Lee)ら著、ジャーナル・オブ・コントロール・リリース(J Control Release)、2004年、第96巻(第1号):p.1~7)が、これらの以前の研究はいずれも、他の医薬品の添加の効果を調べていない。例えば、放射線不透過性造影剤は、注射及び他の疼痛を伴う処置(例えば椎間板造影)の最中に、針先の位置を確認するためのガイドとして使用されることが多い。イオヘキソール(商品名:オムニパーク(Omnipaque))等の造影剤中のヨウ素含有量により、x線の透過をブロックして、蛍光透視下又はX線下で注射部位を可視化し得る。イオヘキソールは、分子量が821.1(46.3%のヨウ素含有量)である三ヨウ素化分子である。最も一般的に入手可能なイオヘキソール剤オムニパークはヨウ素濃度が異なり、例えば、オムニパーク140は、1ml当たり有機ヨウ素140mgに相当するイオヘキソール302mgを含み、オムニパーク180は、1ml当たり有機ヨウ素180mgに相当するイオヘキソール388mgを含み、オムニパーク240は、1ml当たり有機ヨウ素240mgに相当するイオヘキソール518mgを含み、オムニパーク300は、1ml当たり有機ヨウ素300mgに相当するイオヘキソール647mgを含み、オムニパーク350は、1ml当たり有機ヨウ素350mgに相当するイオヘキソール755mgを含む。
【0049】
本発明では、ポロキサマー含有ビヒクルは、標的疾患部位(例えば椎間板)への本リネゾリド製剤の適用を容易にするために、イオヘキソール等の放射線造影剤をさらに含み得る。本抗生物質製剤中の放射線造影剤の添加により、(医師のような)医療実施者が、蛍光透視法を使用して、投与する製品を確認し、投与される椎間板の状態をモニタリングすることが支援されるだろう。このリアルタイムの情報は、この実施者が、椎間板が満たされて漏出し始める際に注射を停止するタイミングを決定するのに役立ち得る。
【0050】
本発明で行なった実験は、リネゾリド製剤へのイオヘキソールの添加により、(例えば実施例2で示すように)疾患部位へのこのリネゾリド製剤の送達をモニタリングするためのこの組成物の放射線視認性(radiographic visibility)が増加することを示した。また、本感熱性ヒドロゲル製剤の溶液からゲルへの転移のための標的温度範囲を達成するためには、送達ビヒクル中のイオヘキソール及びポロキサマー407の濃度を最適化する必要があることも発見した(実施例5を参照されたい)。ヒドロゲル中のポロキサマー及びイオヘキソールの相互作用は、リネゾリド製剤の転移温度に影響を及ぼす。
【0051】
いくつかの実施形態では、本リネゾリド製剤(即ちリネゾリド懸濁液)を形成するためのリネゾリドの添加の前に、ポロキサマー407及びイオヘキソールを含む送達用ビヒクルを別の溶液として調製し得る。ポロキサマー及びイオヘキソールの濃度は、この溶液のゲル化温度が体温に又は体温付近に最適化されるように、ある特定の範囲に最適化されている。
【0052】
本発明はまた、薬物送達用の感熱性ヒドロゲルも提供する。いくつかの実施形態では、このビヒクルは、温度上昇に反応してヒドロゲルを形成する薬学的に許容される生分解性で生体適合性のポリマーとしてポロキサマーを含み得る。いくつかの態様では、この送達用ビヒクルは、この送達用ビヒクルの約10重量%~約17重量%で、又はこのビヒクルの体積で約121mg/ml~約207mg/mlの濃度で、ポロキサマー407を含む。好ましくは、この送達用ビヒクルは、このビヒクルの約11.5重量%~約13.5重量%で、又はこのビヒクル中の約140mg/ml~約165mg/mlの濃度で、ポロキサマー407を含み得る。他の実施形態では、この送達用ビヒクルは放射線不透過性色素をさらに含む。いくつかの態様では、このビヒクルは、このビヒクルの約14.5重量%~約62.5重量%で、又はこのビヒクル中の約174mg/ml~約755mg/mlの濃度で、イオヘキソールを含む。好ましくは、この送達用ビヒクルは、このビヒクルの約18重量%~約35重量%で、又はこのビヒクル中の約206mg/ml~425mg/mlの濃度で、イオヘキソールを含み得る。
【0053】
当業者は、本発明のリネゾリド懸濁液を形成することに加えて、本明細書で説明されている送達用ビヒクルを使用して任意の薬物を送達し得、例えば、ベータ-ラクタムの抗生物質クラスからの抗生物質(例えば、ペニシリン、セファロスポリン、カルバペネム、及びモノバクタム)、オキサゾリジノン、アミノグリコシド、糖ペプチド、リポペプチド、並びにグリシルサイクリンを送達し得ることを知ることができる可能性がある。
【0054】
本発明では、(1)トロメタミン及びEDTAカルシウム二ナトリウムを含む溶液(pH約8.0)にイオヘキソールを添加することにより冷イオヘキソール溶液を調製する工程と、(2)この冷イオヘキソール溶液にポロキサマー407粉末を緩やかに添加し、このポロキサマー粉末が完全に溶解するまでこの溶液を撹拌し、ここで、ポロキサマー粉末は一部ずつ添加する、工程とを含む、より低い温度でポロキサマーヒドロゲル溶液を製造し得る。このポロキサマー-イオヘキソール溶液を滅菌して別々のバイアルに充填し得る。
【0055】
他の担体及び添加剤
本発明のリネゾリド製剤は、所望される特定の投与形態に適している1種又は複数種の薬学的に許容される添加剤をさらに含み得る。医薬組成物を製剤化するための様々な添加剤及びこの組成物を調製するための技術は、当技術分野で既知である(参照により本明細書に組み込まれるレミントン(Remington)著:ザ・サイエンス・アンド・プラクティス・オブ・ファーマシー(The Science and Practice of Pharmacy)、第21版、エー.アール.ジェンナロ、リッピンコット、ウィリアムズ&ウィルキンス(A.R.Gennaro,Lippincott,Williams & Wilkins)、ボルチモア(Baltimore)、MD、2006年を参照されたい)。従来の添加剤媒体の使用は、任意の従来の添加剤媒体が、例えば、あらゆる望ましくない生物学的効果を生じることにより、又は他の方法による医薬組成物の任意の他の成分との有害な相互作用により、物質又はこの物質の誘導体と不適合であり得る限りを除いて、本開示の範囲内で企図され得る。
【0056】
いくつかの実施形態では、薬学的に許容される添加剤は、少なくとも95%純粋であり得るか、少なくとも96%純粋であり得るか、少なくとも97%純粋であり得るか、少なくとも98%純粋であり得るか、少なくとも99%純粋であり得るか、又は100%純粋であり得る。いくつかの実施形態では、添加剤は、ヒトへの使用及び獣医学的使用が承認されていてもよい。いくつかの実施形態では、添加剤は、アメリカ食品医薬品局により承認されていてもよい。いくつかの実施形態では、添加剤は医薬品グレードであってもよい。いくつかの実施形態では、添加剤は、米国薬局方(USP)、欧州薬局方(EP)、英国薬局方、及び/又は国際薬局方の基準を満たしていてもよい。
【0057】
いくつかの実施形態では、本発明の製剤は、キレート剤及び緩衝剤をさらに含み得る。例示的なキレート剤として下記が挙げられる:エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、クエン酸一水和物、エデト酸二ナトリウム、エデト酸カルシウム二ナトリウム、エデト酸二カリウム、エデト酸、フマル酸、リンゴ酸、リン酸、エデト酸ナトリウム、酒石酸、及び/又はエデト酸三ナトリウム。一例では、この薬剤はEDTAの塩であり得る。
【0058】
例示的な緩衝剤として下記が挙げられるが、これらに限定されない:クエン酸緩衝溶液、酢酸緩衝溶液、リン酸緩衝溶液、塩化アンモニウム、炭酸カルシウム、塩化カルシウム、クエン酸カルシウム、グルビオン酸カルシウム、グルセプト酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、d-グルコン酸、グリセロリン酸カルシウム、乳酸カルシウム、プロパン酸、レブリン酸カルシウム、ペンタン酸、リン酸水素カルシウム、リン酸、リン酸三カルシウム、水酸化リン酸カルシウム(calcium hydroxide phosphate)、酢酸カリウム、塩化カリウム、グルコン酸カリウム、カリウム混合物、リン酸一水素カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸カリウム混合物、酢酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、塩化ナトリウム、クエン酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、リン酸水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸ナトリウム混合物、トロメタミン、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、アルギン酸、パイロジェンフリー水、等張生理食塩水、リンゲル液、エチルアルコール等、及び/又はこれらの組み合わせ。一実施形態では、緩衝剤はトロメタミンであり得る。
【0059】
リネゾリド製剤
本発明のリネゾリド製剤は、有効量のリネゾリドが担持されている感熱性ポロキサマーヒドロゲルと、ポロキサマー溶液からゲルへの転移に適した濃度での非イオン性造影剤イオヘキソールと、任意選択的に1種又は複数種の薬学的に許容される添加剤とを含む。
【0060】
いくつかの実施形態では、ポロキサマー及びイオヘキソールを含む送達用ビヒクル中の懸濁液としてリネゾリドを調製し得る。好ましい一実施形態では、API(即ちリネゾリド)はリネゾリド形態IIであり、このリネゾリド形態IIは粉砕されて小粒子を形成しており、ガンマ線照射により滅菌されており、且つポロキサマー-イオヘキソールビヒクル中の懸濁液を形成する。
【0061】
いくつかの実施形態では、本発明の製剤は、この組成物(即ちリネゾリド懸濁液)の重量又は体積で約1%~50%の範囲の濃度にてリネゾリドを含む。いくつかの態様では、リネゾリドは、この組成物の重量又は体積で約1%~約20%、又は約2.5%~約20%、又は約2.5%~約10%、又は約3.0%~約10%にて担持され得る。一態様では、このリネゾリド製剤は、最終組成物(例えば懸濁液)の重量で約2.5%、5%、7.5%、10%、12.5%、15%、17.5%、又は20%のリネゾリドを含み得る。リネゾリドは、約10mg/ml~約200mg/ml、又は約20mg/ml~約200mg/ml、又は約50mg/ml~約200mg/mlの濃度で、この製剤中に存在し得る。具体的には、リネゾリドは、10mg/ml、25mg/ml、30mg/ml、35mg/ml、40mg/ml、45mg/ml、50mg/ml、55mg/ml、60mg/ml、65mg/ml、70mg/ml、75mg/ml、80mg/ml、85mg/ml、90mg/ml、100mg/ml、150mg/ml、又は200mg/mlの濃度で、この製剤中に存在し得る。
【0062】
いくつかの実施形態では、本発明の製剤は、温度上昇に反応してヒドロゲルを形成する薬学的に許容される生分解性で生体適合性のポリマーとしてポロキサマーを含む。いくつかの態様では、このポロキサマーはポロキサマー407である。本発明のリネゾリド製剤は、この製剤の約9.5重量%~約17重量%で、又はこの製剤の約9.5重量%~約14.5重量%で、又は約115mg/ml~約207mg/mlの濃度で、又はこの製剤中の約115mg/ml~約173mg/mlの濃度で、ポロキサマー407を含み得る。好ましくは、このリネゾリド製剤は、この製剤の約10.8重量%~約12.8重量%で、又はこの製剤中の約130mg/ml~156mg/mlの濃度で、ポロキサマー407を含み得る。
【0063】
本発明の医薬製剤は、非イオン性造影剤をさらに含む。例として、本発明に係る医薬製剤は、この製剤溶液1ミリリットル当たり約30mg~約600mgのヨウ素を含み得、好ましくは、この製剤溶液1ミリリットル当たり約50mg~約300mg又は約75mg~約200mgのヨウ素を含み得る。
【0064】
いくつかの態様では、この薬剤はイオヘキソールである。本医薬組成物は、この製剤の約14重量%~約59重量%で、又はこの製剤中の約165mg/ml~約718mg/mlの濃度で、イオヘキソールを含み得る。好ましくは、このリネゾリド製剤は、この製剤の約17重量%~約30重量%で、又はこの製剤中の約206mg/ml~364mg/mlの濃度で、イオヘキソールを含み得る。
【0065】
本発明の範囲内のいくつかの実施形態では、当業者に既知の他の界面活性剤、溶媒、又は共溶媒も使用し得る。
いくつかの実施形態では、本発明のリネゾリド製剤は、この製剤の重量で約1%~約20%のリネゾリド(重量/重量)と、この製剤の重量で約9.5%~約17%のポロキサマー407(重量/重量)と、この製剤の重量で約14%~59%のイオヘキソール(重量/重量)とを含む。好ましい一実施形態では、このリネゾリド製剤は、約5重量/重量%のリネゾリドと、約11.8重量/重量%のポロキサマーと、約27.2重量/重量%のイオヘキソールとを含む。いくつかの例では、この水性製剤は、約26℃、又は約27℃、又は約28℃、又は約30℃、又は約31℃、又は約32℃、又は約33℃、又は約34℃、又は約35℃、又は約36℃、又は約37℃でゲル化し得る。非限定的な一例では、このリネゾリド製剤は約28℃でゲル化する。リネゾリドは、硬いゲルから拡散し得る。数日をかけて、このゲルは分解する。この製剤中の成分(例えばイオヘキソール及びポロキサマー407)の濃度を変えることにより、溶液からゲルへの転移温度等のこのゲルの特性の微調整が可能になり得る。
【0066】
いくつかの実施形態では、(a)リネゾリド形態II粉末を粉砕して、小さいリネゾリド粒子を形成する工程、(b)工程(a)のリネゾリド粒子の単位を調製し、この調製物を滅菌する工程、(c)ポロキサマー407及びイオヘキソールを含む送達用ビヒクルを調製する工程、並びに(d)工程(c)の送達用ビヒクル中に工程(b)の前記リネゾリド粒子を懸濁させて、安定して均質な懸濁液を形成する工程を含む方法により、本製剤を調製し得る。
【0067】
低温で、適量の水溶液に、熱ゲルであるポロキサマーを溶解させ得、送達用ビヒクルのゲル化特性の観点でポロキサマー及びイオヘキソールの濃度を最適化する。
ドライエアジェット粉砕又は任意の他の粉砕アプローチを使用して、リネゾリド(特にリネゾリド形態II)を粉砕して小粒子を形成し得る。乾燥加熱及び/又はガンマ線照射により、得られたリネゾリド粉末をさらに滅菌し得る。
【0068】
いくつかの実施形態では、リネゾリド粒子、及びポロキサマー/イオヘキソール送達用ビヒクルを調製して、例えば2つの別々のバイアルに別々に充填し得る。投与前に、これら2種の調製物を混合してリネゾリド懸濁液を形成し得る。適用前に、リネゾリド粉末及びビヒクルを混合して均質懸濁液を形成する。この抗生物質懸濁液をシリンジ中に吸い上げ、意図された投与量で調製する。一例では、バイアル中にリネゾリド粉末、約253mgを入れて、他のバイアル中で、ポロキサマー及びイオヘキソールを含む送達用ビヒクル、約7mlを調製し得る。この送達用ビヒクルを、約3.8ml~約5.8ml又は約4.6ml~約5.0mlの体積で入れることができる。
【0069】
例えば、細菌保持フィルタに通すろ過により、照射により、蒸気滅菌により、及び/又は使用前に滅菌水若しくは他の滅菌注射用媒体に溶解し得るか若しくは分散し得る滅菌固形組成物の形態の滅菌剤を組み込むことにより、注射用製剤を滅菌し得る。
【0070】
いくつかの実施形態では、針を使用して、本発明の感熱性ヒドロゲル製剤を疾患部位に投与し得る。室温での熱ゲルの水溶性、及び比較的低粘度の水溶液という特徴により、小口径の針の使用が可能になる。事前にゲル化を示すことなく、小さいサイズの針により、そのような注射用製剤を患者に効果的に投与し得る。
【0071】
II.投与(administration)及び投与(dosing)
治療上有効な転帰が得られる任意の経路により、本発明のリネゾリド組成物を投与し得る。好ましい一実施形態では、この製剤は注射に適している。リネゾリドの局所的な有効レベル(標的細菌のMICを超える)をもたらす注射投与は、有益な転帰(例えば鎮痛)を有する。
【0072】
注射投与により、全身性の副作用のレベルが低下し、投与計画への患者の服薬遵守が増加し、且つより少ない抗生物質投与量で作用部位での有効性が増加するだろう。利点として、比較的容易な適用、身体内での部位特異的な作用の局所送達、処置の有効性を損なうことのない投与頻度の減少、投与遵守の増加等が挙げられ得る。
【0073】
本発明に従う医薬組成物は概して、投与の容易さ及び投与量の均一性のために、投与量単位形態で製剤化されている。しかしながら、本発明の医薬組成物の投与は健全な医学的判断の範囲内で主治医により決定されることが理解されるだろう。
【0074】
本発明では、所望の治療効果を得るために椎間板に総用量5mg~450mgのリネゾリドを送達するのに十分な投与量レベルで医薬製剤を投与し得る。いくつかの実施形態では、この組成物は、所望の治療効果を得るためにリネゾリド約50mg~約200mgを送達し得る。いくつかの実施形態では、総用量は、リネゾリド約10mg~約100mgであるか、又はリネゾリド約10mg~約200mgであるか、又は約20mg~約200mgであるか、又はリネゾリド約50mg~約200mgである。いくつかの例では、この製剤は、総用量50mg、60mg、70mg、80mg、90mg、100mg、110mg、120mg、130mg、140mg、150mg、160mg、170mg、180mg、190mg、又は200mgのリネゾリドを送達し得る。いくつかの実施形態では、感染した椎間板に基づいて投与量レベルを決定する。例えば、投与量は、各感染した椎間板に関して5mg~450mgの範囲であり得、例えば、各感染した椎間板に関して5mgであり得るか、又は各感染した椎間板に関して10mgであり得るか、又は各感染した椎間板に関して15mgであり得るか、又は各感染した椎間板に関して20mgであり得るか、又は各感染した椎間板に関して50mgであり得るか、又は各感染した椎間板に関して100mgであり得るか、又は各感染した椎間板に関して150mgであり得るか、又は各感染した椎間板に関して200mgであり得るか、又は各感染した椎間板に関して250mgであり得るか、又は各感染した椎間板に関して300mgであり得るか、又は各感染した椎間板に関して350mgであり得るか、又は各感染した椎間板に関して400mgであり得るか、又は各感染した椎間板に関して各感染した椎間板に関して450mgであり得る。好ましい一実施形態では、リネゾリドの有効量は、各感染した椎間板に関して約50mg~約200mgである。
【0075】
非限定的な例として、各感染した椎間板に関してリネゾリドの期待される総用量を達成するために、本リネゾリド懸濁液を約0.1ml~約4.0mlの範囲の体積範囲で投与し得、例えば、0.1ml、又は0.3ml、又は0.5ml、又は1.0ml、又は1.2ml、又は1.5ml、又は2.0ml、又は2.5ml、又は3.0ml、又は3.5ml、又は4.0ml、又は4.5ml、又は5.0mlで投与し得る。
【0076】
いくつかの実施形態では、単回投与(例えば単回注射)を使用して、感染した椎間板へのリネゾリドの所望される投与量を送達する。他の実施形態では、複数回投与を使用して、所望の治療効果を得ることができる。非限定的な例として、前の用量(dose)の2日後、又は5日後、又は10日後、又は2週間後、又は3週間後、又は1ヶ月後に、2回目の用量、おそらく3回目の用量を投与する。
【0077】
いくつかの実施形態では、単回注射により、或いは複数箇所の部位での複数回注射により、骨、関節、靱帯、及び腱で、又はこれらの付近で、必要な対象に本発明の製剤を投与し得る。例えば、脊椎の同一側から又は脊椎の両側から複数の椎間板(vertebra
disc)に本リネゾリド製剤を注射し得る。他の例では、椎間板及び椎間板腔(vertebra disc space)に本発明の製剤及び組成物を注射し得る。
【0078】
III.キット、針、及びデバイス
本発明では、本発明のリネゾリド製剤を含むキットも提供される。いくつかの実施形態では、このキットは、リネゾリド粉末の1つ又は複数の用量単位と、ポロキサマー及びイオヘキソールを含むヒドロゲルビヒクルとを含み得、使用のために、このリネゾリド粉末及びヒドロゲルビヒクルを混合してリネゾリド懸濁液を形成し得る。
【0079】
本発明の実施形態として本明細書で開示されている方法及び組成物と共に使用するために、細胞、器官、及び組織への複数回投与のための当技術分野で既知の方法及びデバイスが企図される。これらとして、例えば、複数の針を有する方法及びデバイス、例えば管腔又はカテーテルを利用するハイブリッドデバイス、及び熱、電流、又は放射線により駆動される機構を用いるデバイスが挙げられる。
【0080】
投与用のデバイスを利用して、本明細書で教示される単回投与計画、複数回投与計画、又は分割投与計画に従って、本発明の少なくとも1種の抗生物質を含む医薬組成物を送達し得る。本発明によれば、この複数回投与用デバイスを用いて、本明細書で企図されている製剤中に担持されている単回用量の、複数回用量の、又は分割用量の抗生物質を送達し得る。
【0081】
いくつかの実施形態では、薬剤の送達用のデバイスはマッケイ(Mckay)らにより説明されており、例えば国際公開第2006/118804号で教示されており、この内容は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。マッケイ(Mckay)によれば、このデバイスには、脊椎円板(spinal disc)の椎間板内腔(interior disc space)等の組織への局所的な送達を容易にするために、各針に複数のオリフィスを有する複数本の針が組み込まれている。
【0082】
針を使用するシリンジを利用して、本発明の医薬製剤を投与し得る。場合によっては、針の先端は、脊椎注射等の特定の注射目的に特化し得る。脊椎注射用のシリンジは、脊椎中の構造中に又は空間中に入れられる針を有し得る。この針は、クインケ・バブコック(Quincke babcock)、スプロッテ(Sprotte)、ウィテカー(Whitacre)、グリーン(Greene)、ピトキン(Pitkin)、及びテューイ(Tuohy)からのあらゆるタイプの傾斜を有し得る。針の軸は直線であってもよいし湾曲していてもよく、且つ脊椎中の特定の位置に本薬物を配置するのに適した特定の長さであってもよい。例えば、このシリンジ及び針は、米国特許第5,628,734号明細書;同第6,500,153号明細書;同第7,367,961号明細書;及び同第8,112,159号明細書で開示されているように設計され得、これらの明細書のそれぞれの内容は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0083】
いくつかの実施形態では、本発明の医薬製剤の投与用のシリンジ及び針は、この医薬製剤の成分をインサイチュで混合するように構成された特別な構造を含み得る。このシリンジは、この医薬製剤の成分が別々に収納されて注射の直前に混合される1つ、2つ、又はより多くの別々のチャンバを含んでもよい。
【0084】
定義
活性医薬成分(API):本明細書で使用される場合、用語「活性医薬成分(API)」は、生物学的に活性な医薬品を指す。例えば、生物に投与された場合にこの生物に生物学的影響を及ぼす物質は、生物学的に活性であると見なされる。本発明では、APIはリネゾリドである。
【0085】
生体適合性:本明細書で使用される場合、用語「生体適合性」は、免疫系による傷害、毒性、又は拒絶のリスクをほとんどもたらさないか又はもたらさない、生きている細胞、組織、器官、又は系との適合性を意味する。
【0086】
生分解性:本明細書で使用される場合、用語「生分解性」は、生物の作用により無害な生成物へと分解され得ることを意味する。
製剤:本明細書で使用される場合、「製剤」は、少なくとも活性成分及び送達剤を含む。
【0087】
ヒドロゲル:本明細書で使用される場合、用語「ヒドロゲル」は、ポリマー鎖と、ポリマー鎖間の空隙を満たす水との非水溶性の架橋した三次元ネットワークと見なされる。架橋により非水溶性が促進され、必要な機械的強度及び物理的完全性がもたらされる。ヒドロゲルは大部分が水である(水の質量分率はポリマーの質量分率と比べてはるかに高い)。ヒドロゲルの、相当量の水を保持する能力は、ポリマー鎖が少なくとも中程度の親水性を有しなければならないことを意味する。
【0088】
患者:本明細書で使用される場合、用語「患者」は、処置を探すか若しくは必要とする可能性がある対象、処置を求めている対象、処置を受けている対象、処置を受ける予定である対象、又は特定の疾患若しくは状態に関して訓練を受けた専門家によるケアを受けている対象を指す。
【0089】
医薬組成物:本明細書で使用される場合、語句「医薬組成物」は、疾患、障害、及び/又は状態の病因を変える組成物を指す。
薬学的に許容される:本明細書で使用される場合、語句「薬学的に許容される」は、本明細書では、妥当なベネフィット/リスク比と見合っていて、過剰な毒性、刺激、アレルギー反応、又は他の問題若しくは合併症を引き起こすことなく、健全な医学的判断の範囲内でヒト及び動物の組織と接触した使用に適した化合物、物質、組成物、及び/又は剤形を指すために用いられる。
【0090】
薬学的に許容される添加剤:本明細書で使用される場合、語句「薬学的に許容される添加剤」は、本明細書で説明されている化合物以外であり、且つ患者において実質的に非毒性であり且つ非炎症性である特性を有するあらゆる成分(例えば、活性化合物を懸濁させ得るか又は溶解させ得るビヒクル)を指す。
【0091】
部位:本明細書で使用される場合、用語「部位」は、骨浮腫又はモディック変化に関して使用される場合、骨浮腫自体若しくはモディック変化自体の部位を意味するか、又は骨浮腫の全ての方向で周囲1.27~2.54cm(0.5~1インチ)を意味する。
【0092】
分割用量:本明細書で使用される場合、「分割用量」とは、単一単位用量又は総処置用量の2回以上の用量への分割のことである。
治療上有効な量:本明細書で使用される場合、用語「治療上有効な量」は、送達される薬剤(例えば、抗生物質、薬物、治療薬、診断薬、予防薬等)の量であって、疾患、障害、及び/又は状態に罹患しているか又はかかりやすい対象に投与された場合に、この疾患、障害、及び/又は状態を処置するのに、これらの症状を改善するのに、診断するのに、予防するのに、及び/又はこれらの発症を遅延させるのに十分な量を意味する。
【0093】
治療上有効な転帰:本明細書で使用される場合、「治療上有効な量」は、送達される薬剤(例えば、抗生物質、薬物、治療薬、診断薬、予防薬等)の量であって、疾患、障害、及び/又は状態に罹患しているか又はかかりやすい対象に投与された場合に、この疾患、障害、及び/又は状態を処置するのに、これらの症状を改善するのに、診断するのに、予防するのに、及び/又はこれらの発症を遅延させるのに十分な量を意味する。
【0094】
総処置用量:本明細書で使用される場合、「総処置用量」とは、処置期間中に投与されるか又は処方される量のことである。単一単位用量として総処置用量を投与してもよい。
処置する:本明細書で使用される場合、用語「処置する」は、特定の疾患、障害、及び/又は状態の1つ又は複数の症状又は特徴を部分的に又は完全に軽減させること、緩和させること、改善すること、和らげること、これらの発症を遅延させること、これらの進行を阻害すること、これらの重症度を軽減すること、及び/又はこれらの発生率を低下させることを指す。疾患、障害、及び/又は状態と関連する病理を発生するリスクを減少させる目的で、疾患、障害、及び/若しくは状態の徴候を示さない対象、並びに/又は疾患、障害、及び/若しくは状態の初期徴候のみを示す対象に、処置を施してもよい。
【0095】
ビヒクル:本明細書で使用される場合、用語「ビヒクル」及び「送達用ビヒクル」は互換的に使用され、活性成分(例えば、本発明のAPI)を担持するために且つ指定された部位にこの活性成分を送達するために使用され得るあらゆる薬剤、化合物、又はこれらの組み合わせを指す。
【0096】
等価物及び範囲
当業者は、本明細書で説明されている本発明に従う特定の実施形態に対する多くの等価物を認識するか、又は日常的な実験以上を使用することなく確認し得るだろう。本発明の範囲は上記の説明に限定されることは意図されておらず、むしろ添付の特許請求の範囲に記載された通りである。
【0097】
特許請求の範囲では、「a」、「an」、及び「the」等の冠詞は、反対の指示がない限り、又は他の方法で文脈から明らかでない限り、1つ又は複数を意味し得る。群の1つ又は複数のメンバーの間に「又は(or)」を含む特許請求の範囲又は説明は、反対の指示がない限り、又は他の方法で文脈から明らかでない限り、この群のメンバーの内の1つ、複数、又は全てが、所与の製品又はプロセスに存在するか、これらで用いられるか、又は他の方法でこれらに関連する場合に満たされると見なされる。本発明は、群の正確に1つのメンバーが、所与の製品又はプロセスに存在するか、これらで用いられるか、又は他の方法でこれらに関連している実施形態を含む。本発明は、複数のメンバー又は群全体のメンバーが、所与の製品又はプロセスに存在するか、これらで用いられるか、又は他の方法でこれらに関連している実施形態を含む。
【0098】
用語「含む」は、オープンであることが意図されており、追加の構成要素又は工程の包含を容認するが必要としないことにも留意されたい。用語「含む」が本明細書で使用される場合、用語「からなる」も包含され、且つ開示されている。
【0099】
範囲が示されている場合には、エンドポイントも含まれる。さらに、指示されていない限り、又は他の方法で文脈及び当業者の理解から明らかでない限り、範囲として表されている値は、別途文脈が明確に指示しない限り、本発明の様々な実施形態で述べられている範囲内のあらゆる特定の値又は部分範囲を、この範囲の下限の単位の10分の1まで想定し得ることを理解すべきである。
【0100】
加えて、先行技術に含まれる本発明の任意の特定の実施形態は、本請求項の内のいずれか1つ又は複数から明示的に除外され得ることを理解すべきである。そのような実施形態は、当業者に既知であると見なされることから、たとえ本明細書で除外が明示的に記載されてなくても除外され得る。本発明の組成(例えば、任意の構成物質、治療成分又は活性成分;任意の製造方法;任意の使用方法等)の任意の特定の実施形態は、先行技術の存在との関係に関わりなく、あらゆる理由のために、任意の1つ又は複数の請求項から除外され得る。
【0101】
使用されている言葉は、限定ではなく説明の言葉であること、及び本発明のより広い態様において、本発明の真の範囲及び趣旨から逸脱することなく添付の特許請求の範囲内で変更を行ない得ることを理解すべきである。
【0102】
いくつかの説明されている実施形態に関して、ある程度の長さで及びある程度の特殊性と共に本発明を説明しているが、本発明は、あらゆるそのような特殊性若しくは実施形態、又はあらゆる特定の実施形態に限定されるべきであることは意図されておらず、先行技術を考慮して、添付の特許請求の最も広い可能な解釈を提供するように、従って本発明の意図された範囲を効果的に包含するように、そのような特許請求の範囲を参照して解釈されるべきである。
【0103】
(実施例)
実施例1:S.アウレウス(S.aureus)椎間板内感染のヒツジモデル
抗生物質製剤のインビボでの有効性を試験するために、S.アウレウス(S.aureus)椎間板内感染のヒツジモデルを開発した。1986年の動物(化学的処置)法(Animals(Scientific Procedures)Act)に基づく内務省ガイドラインに従って雄のシャロレイ(Charollais)又はサフォーク(Suffolk)交雑ヒツジ(この研究の開始時に約35~40kg)を収容し、わらの寝具と水へのアクセスと共に少なくとも7日にわたり順応させた。このヒツジに、追加のまぐさ(干し草/わら)を与えつつ、抗生物質が添加されていないヒツジ用濃縮飼料を給餌した。
【0104】
1.1 スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)感染
2×10CFU/mlへの希釈により、2.5×10CFU/mlでの凍結グリセロール/リン酸緩衝生理食塩水ストックから細菌接種材料(ATCC 29213)を調製した。
【0105】
1.2 注射用製剤の調製
18G 2.54cm(1インチ)又は3.81cm(1.5インチ)の針を使用して、S.アウレウス(S.aureus)懸濁液又は試験製剤0.2mlを1mlのシリジンに吸引した。必要に応じて、このシリンジを前後に引いて気泡を除去してもよい。次いで、この針を25G 11.9cm(4.69インチ)投与針に交換し、0.05ml又は0.1mlの用量を残してプライミングした。直ちに使用しない場合には、プライミングしたシリンジを冷蔵庫に入れたが、30分以内に使用すべきである。
【0106】
治療モデルでは、各ヒツジを麻酔した。麻酔の一部として、動物に、推奨投与量にてメロキシカムの形態の鎮痛剤を投与した(筋肉内)。指定した獣医が必要と見なす場合には、この鎮痛剤を繰り返してもよい。各ヒツジに、1つの椎間板当たり1回の注射で、S.アウレウス(S.aureus)接種材料(1×10個の細胞/椎間板)の4つの0.05ml(標的量)をL1/L2、L2/L3、L3/L4、及びL4/L5に椎間板内注射した。
【0107】
最初の注射の約1時間後、又は別の選択された時間で、各ヒツジに、本リネゾリド製剤又はコントロール製剤の2回目の注射を行なった。既に細菌の注射に成功している各椎間板に、0.1ml(標的量)の椎間板内注射を行なった。抗生物質及び細菌の投与の間の時間は、数時間であってもよいし、数日であってもよいし、数週間であってもよいし、数ヶ月であってもよい。
【0108】
1.3 注射技術:治療用投与.
共局在的投与
各椎間板の髄核の端に、単一の20G 8.89cm(3.5インチ)の脊椎針を直接配置した。この針の位置決めの確認後、第1の針に、用量溶液でプライミングした第2の25G 11.9cm(4.69インチ)の針を挿入し、髄核の中央に先端を留置した。第2の針の位置決めの確認後、各椎間板に細菌を注射した。次いで、内側の針を取り出す。細菌の投与後1時間の時点の直前に、この20G 8.89cm(3.5インチ)に、用量溶液でプライミングした新たな25G 11.9cm(4.69インチ)の針を挿入し、髄核の中央に配置した。1回目の用量の1時間後に、この針を介して2回目の処置用量を投与した。
【0109】
慎重投与(Discreet dosing)
細菌感染:各椎間板の髄核の端に、単一の20G 8.89cm(3.5インチ)の脊椎針を直接配置した。この針の位置決めの確認後、第1の針に、用量溶液でプライミングした第2の25G 11.9cm(4.69インチ)の針を挿入し、髄核の中央に先端を留置した。第2の針の位置決めの確認後、各椎間板に細菌を注射した。次いで、針を取り出した。脊椎の反対側にアクセスするために、動物を再配置した。
【0110】
製剤の注射:各椎間板の第1の注射の反対側の髄核の端に、第2の30G 8.89cm(3.5インチ)の脊椎針を直接配置した。投与の時点の直前に、この20G 8.89cm(3.5インチ)に、用量溶液でプライミングした新たな25G 11.9cm(4.69インチ)の針を挿入し、髄核の中央に配置した。この針を介して2回目の処置用量を投与した。
【0111】
各注射に関して、個々の投与シリンジを秤量し、投与前及び投与後に重量を記録して、投与された実際の用量を算出した。
各製剤に関して、用量を緩やかに投与し、これには、シリンジ/針の接合部でいかなる用量溶液も漏出することなく用量を成功裏に送達するのに十分な力を使用して、送達するのに30~60秒かかるべきである。
【0112】
デジタルx線撮像システムを使用して注射を補助し、投与直前及び投与直後の画像記録を保存した。動物を継続的にモニタリングし、完全に回復した場合に、この動物のおりに戻した。
【0113】
1.4 デジタルX線撮像
各投与の直前及び直後に、各ヒツジを撮像して画像を保存した。シーケンスの詳細を記録した。投与直後に、適格者により各IVD注射の目視評価を実施した。下記のいずれかとして、注射を採点/記録する。
【0114】
漏出なしで良好:椎間板内には良好に分離した用量(dose)が見えており、椎間板外には用量が見えない。
最少の漏出:椎間板内には良好に分離した用量が見えており、椎間板外には最少の用量が見える。
【0115】
中程度の漏出:椎間板内に見える用量が減少しており、椎間板外には用量が明らかに見える。
広範な漏出:椎間板内には最少の用量が見えており、椎間板外に媒体の大部分が明らかに見える。
【0116】
この研究での科学的頑強性を確保するために、理想的には、4つの処置された椎間板/群と、最低3つ/群とが必要である。ヒツジの注射を完了した後、スコアを再検討する。「漏出なしで良好」又は「最少の漏出」と採点される椎間板の合計が理想の数未満である場合には、この群に、さらなるヒツジを最大2匹のヒツジまで追加することが検討されるだろう。
【0117】
1.5 組織サンプル
投与後の設定された時点で、ヒツジを死なせる。注射した椎間板(vertebrae
disc)を解剖し、それぞれの椎間板(disc)から髄核を取り出す。加えて、余分な未処置の椎間板をサンプリングして、コントロール組織を得る。この未処置の椎間板を、コントロールサンプルと処置サンプルとの間に汚染がないことを確実にするために注意を払いつつ、特定の動物に関する処置された椎間板の全ての後に取り出す。
【0118】
1.6 リネゾリド抽出
予め秤量した椎間板サンプルへのリン酸緩衝生理食塩水(PBS)3mlの添加により、椎間板サンプルからのリネゾリドの抽出を達成した。4℃でオムニ・プレプ・ビーズ・ラプター(Omni-Prep Bead Ruptor)を使用して、この混合物をホモジナイズした。さらにPBS 3.5mlを添加し、このサンプルを手でホモジナイズし、最後に別のPBS 3.5mlを添加して完全に混合し、総量で10mlのPBS椎間板混合物を得た。未処置椎間板からの椎間板ホモジネートで、リネゾリドを含むこの椎間板ホモジネートの代表的なアリコートを希釈して、サンプルが分析のキャリブレーション範囲内であることを確認した。ギ酸0.1mlで酸性化した、内部標準物質(50及び25ng/ml)としてトルブタミド及びラベタロールを含むアセトニトリル3体積によるタンパク質沈殿により、サンプルを抽出した。
【0119】
ボルテックス混合及び4℃での遠心分離の後、浅いウェルの96ウェルプレート中で、上清を、0.1%のギ酸で酸性化したアセトニトリル:水(1:1体積/体積)と混合した。このプレートを密封し、分析前に均一性を確保するために振盪した。一連のマトリックス適合キャリブレーション及び品質管理標準物質に対する、ウォーターズ・ティーキューエス(Waters TQS)質量分析計(下記の条件)を使用するポジティブエレクトロスプレーLC-MS/MS(positive electrospray LC-MS/MS)により、リネゾリドに関してサンプルを分析した。未処置椎間板からの希釈した椎間板ホモジネートのアリコートとリネゾリドとを混合し、上記で説明したように抽出することにより、標準物質を調製した。
【0120】
【表2-1】
【0121】
【表2-2】

各動物からの4つの椎間板の平均動物データ、ノンコンパートメント解析及び一様な重み付け、公称タイムポイント(nominal time point)、及び椎間板に投与されたリネゾリドの実際の量を使用するソフトウェアバージョン6.4のフェニックス・ウィンノンエル(Phoenix WinNonL)により、薬物動態分析を実施した。投与が公称未満と見なされる(例えば広範な漏出が観察される)場合には、この薬物動態分析からデータ点を除外した。
【0122】
1.7 ヒツジの椎間板からのS.アウレウス(S.aureus)の抽出及び列挙
各椎間板の核を、滅菌リン酸緩衝生理食塩水(PBS)2mLが入った7mLのプラスチック製プリセリーズ(Precellys)ビーズビーターチューブ、又は6mLのプラスチック製ステリリン・ビジュー(Sterilin bijoux)に入れた。各均質化工程の間に30秒の休息期間を置いて、45秒にわたる6500rpmで、プリセリーズ(Precellys)24BBビーズビーター中において、達成可能な程度までの各椎間板核の均質化を2回実施した。サンプル(約100μL)を取り出し、滅菌PBSで10倍に連続希釈した後、拡散法又はマイルズ・アンド・ミスラ(Miles and
Misra)法(https://en.wikipedia.org/wiki/Miles_and_Misra_method)のいずれかにより、マンニトール塩寒天(Mannitol Salt Agar)(MSA;サーモ・サイエンティフィック(Thermo Scientific)CM0085)上に蒔いた。約16時間にわたり37℃にて周囲空気中でMSAプレートインキュベートし、S.アウレウス(S.aureus)(ATCC 29213)の生存可能数を決定した。
【0123】
実施例2:製剤調製物中でのリネゾリドの安定性を評価する方法
超高速液体クロマトグラフィー(UPLC)を使用して、製剤調製物中でのリネゾリドの量及び安定性をアッセイした。マスリンクス(MassLynx)ソフトウェアを使用し、ダイオードアレイ検出器及びシングルクアッド質量分析計を備えたウォーターズ・アクイティ(Waters Acquity)システムで分析を実施した。この方法の詳細を下記のテーブル2に列挙する。
【0124】
【表3】

実施例3:製剤調製物中のイオヘキソールの量を分析する方法
HPLCを使用して、製剤調製物中のイオヘキソールの純度及び量を推定した。使用した方法の詳細を下記のテーブル3に列挙する。
【0125】
【表4】

実施例4:リネゾリド懸濁液の調製
4.1.リネゾリド形態II及び形態IIIのエアジェット粉砕
リネゾリド担持量が50及び200mg/mLのリネゾリド懸濁液を開発する能力を評価するために、製剤の短期的な物理的安定性(例えば、粒径、多分散性、及び均一性)を評価した。次いで、様々な濃度のポロキサマー407を添加し、ゾル-ゲル転移温度及び懸濁液の注射性/シリンジ通過性(syringeability)を評価した。
【0126】
様々な結晶形態のリネゾリドを選択し、その懸濁液の実現可能性に関して試験した。リネゾリドの2種の結晶変態(多形):形態II(FII)及び形態III(FIII)を、シメド・ラブス社(Symed labs Ltd)(インド)から得た。噴射ライン圧6.91atm(7バール)及びグラインドライン3.95atm(4バール)でラボミルジェットミラー(LaboMill jet miller)(エフ.ピー.エス.フード・アンド・ファルマ・システムズ・エス.アール.エル(F.P.S.Food and Pharma Systems s.r.l)、イタリア)を使用して、FII及びFIIIのそれぞれ約1gをジェット粉砕した。レーザー回折(シンパテック社(Sympatec GmbH)、へロス・ディスパーセ(Helos Disperse))により、原料及びエアジェット粉砕物の粒度分布を分析した。乾燥粉末分散機(ロドス/エム((RODOS/M))に各サンプル5mgを入れた。基準測定を行なった後、2%の光学濃度で5秒にわたり各サンプルを実行した。レンズ、R1(0.18~0.35μm)、及びR2(0.25/0.45~87.5μm)を使用して、2.96atm(3バール)の圧力で結果を得た(テーブル4)。へロス(HELOS)センサーを使用してデータを収集し、ウィンドックス5(Windox5)ソフトウェアを使用して分析した。
【0127】
【表5】

粉砕後のX90粒度分布は、リネゾリドの両方の形態で類似していた。
【0128】
4.2.粉砕されたリネゾリド形態II及び形態IIIの懸濁液
各形態50mgを秤量し、ポロキサマービヒクル1mLを添加した。1分にわたり手で振盪して粒子を再懸濁させた。形態IIのエアジェット粉砕された粒子は一様に分散した。形態III粒子は塊を形成し、一様に分散しなかった。この観察は、リネゾリド形態IIが、その改善された懸濁特性のために形態IIIよりも好ましたかったことを示す。
【0129】
4.3.リネゾリド形態IIのスケールアップ粉砕及び粒度分布
リネゾリド形態II(シメド(Symed)、インド)を0.5kgスケールでエアジェット粉砕し、製剤開発用の微粒子化リネゾリド形態IIを得た。テーブル5に示す下記の方法を使用して微粒子化を達成した。
【0130】
【表6】

粒径を、図1に示すように分析した。
【0131】
4.4.API(活性医薬成分):リネゾリド形態IIの滅菌
乾熱滅菌又はガンマ線照射により、粉砕粉末の滅菌を達成し得る。粉砕されたリネゾリド形態II 200mgを含むガラスバイアルを使用して、滅菌実現可能性研究を実施した。
【0132】
乾熱
テーブル6に示すように、2~50時間にわたり120℃~160℃で、微粒子化リネゾリド200mg又はスポアデックス・ディスク(spordex disc)(AF0558:ステリス・ライフ・サイエンス(Steris Life Sciences)、英国)を含むバイアルをインキュベートした。各温度の時点で、リネゾリド形態II粉末の外観及び化学的安定性(実施例2の方法)を評価した。胞子(spore)ディスクを30~35℃で7日にわたり培養し、増殖を記録した。
【0133】
【表7】

2~8℃で保存したスポアデックス・ディスクは、1日のインキュベーション後に観察される細菌増殖の陽性コントロールとして機能した。
【0134】
試験した全ての乾熱条件で胞子ディスクが滅菌され、このことは、バイオ負荷の>10の減少が達成されたことを示す。140℃、8時間の処理を除いて、120℃超のリネゾリド粉末の加熱により、粉末から粘性のある黄色液体への物理的変化と、存在するリネゾリドの割合の有意な減少とが引き起こされた。130℃以上の温度での不安定性は、120℃前後での乾熱滅菌が実現可能であり得るが、小さい温度変動が温度上昇及び不安定性につながり得ることから、拡大されたプロセスでは技術的に困難であることを示唆する。長時間にわたり比較的低温を使用する滅菌は広範な検証が必要であり、乾熱滅菌に関する標準的な薬局方の推奨から外れる。
【0135】
ガンマ線照射
空気中で又は窒素下で、微粒子化リネゾリド200mgが入ったバイアルを充填し、周囲温度での又は氷で包むことによる低温での15KGy又は25KGyのガンマ線照射に供した。照射からゼロタイムで外観及び化学的安定性(実施例2の方法)を評価し、25℃又は40℃での28日間の保存後でも、より長期の安定性を評価した(テーブル7)。
【0136】
【表8】

いずれの条件においても、照射後に粉末の物理的外観又は色において肉眼的変化を観察しなかった。照射後28日目の化学的安定性は良好であり、予想内であった。窒素下で粉末をバイアルに入れなければならない(vial)、又は照射中はサンプルを冷却しなければならないということは示されなかった。
【0137】
ガンマ線照射は、薬局方ガイドライン内である頑強な滅菌方法を提供するように思われた。このデータはまた、ガンマ線照射がリネゾリドの安定性に影響を及ぼさないことも示唆する。ガンマ線照射は、バイアルに入っている粉砕されたリネゾリド形態II粉末の滅菌に好ましい方法である。
【0138】
実施例5:送達用ビヒクルの最適化:ポロキサマーベースのゲルビヒクル
5.1 ポロキサマーヒドロゲルの調製
一般的な手順に従って、リネゾリド注射用のポロキサマービヒクルを調製する。当技術分野で説明されている方法(シュモルカ(Schmolka)著、ジャーナル・オブ・バイオメディカル・マテリアルズ・リサーチ(Journal of Biomedical Materials Research)、1972年、第6巻(第6号):p.571~582)を改変した低温方法を用いて、ポロキサマーヒドロゲルを形成する。最初に、水中でトロメタミンpH緩衝液、キレート剤EDTAカルシウム二ナトリウム、及び放射線不透過性イオヘキソールを構成し、次いでポロキサマー407を添加する。ポロキサマーが水和して透明な溶液になるまで、この混合物を低温で放置する。この注射用ビヒクルは、重量対重量基準(weight by weight basis)で構成されている。適切な製剤が確定されるまで、この手順を反復して条件を最適化する。重量及び体積を使用して、最終の注射用リネゾリド懸濁液中におけるトロメタミン、EDTA、及びイオヘキソールの目標の濃度及び範囲を設定する。
【0139】
5.2.イオヘキソールの添加によるポロキサマーヒドロゲルのゾル-ゲル温度
1つの研究において、イオヘキソール:V150、V170、及びV190によりもたらされる様々な濃度のヨウ素、並びに同一濃度のトロメタミン及びCaNaEDTAで始めて、3種のビヒクルを調製した。各ビヒクルを2つに分け、それぞれ12重量/重量%(%w/w)又は12.5重量/重量%の濃度でポロキサマー407を添加した。12重量/重量%のポロキサマービヒクル及び12.5重量/重量%のポロキサマービヒクルの体積、従ってそれらの密度は、わずかに異なった。ヨウ素(イオヘキソール)濃度及びポロキサマー濃度の効果を評価する6つの製剤のゾルゲルを評価した。室温から40℃まで2℃間隔でサンプルを温め、バイアルを反転させて、重量方向で迅速に移動する場合には液体(L)、重力方向で緩やかに下降する場合には粘性のある液体(VL)及びVVL、並びにバイアルの底に残る場合にはゲル(G)と評価するレオロジー特性に従って、サンプルを分類した。後者をゾル-ゲル転移温度に分類した(テーブル8)。
【0140】
【表9】

イオヘキソール及びポロキサマーの含有量の増加に伴い容積オスモル濃度(Osmolarity)が上昇する。同様に、イオヘキソール濃度の上昇に伴い密度が増加した。しかしながら、同一ビヒクルに関する12重量/重量%のポロキサマー及び12.5重量/重量%のポロキサマーの密度は類似している(テーブル8)。
【0141】
150mg I/ml又は170mg I/mlの開始濃度により、12.5重量/重量%のポロキサマー407は、ビヒクルに関して32~34℃の目標溶液ゲル化温度を達成した。しかしながら、190mg I/mlでは、ビヒクルは、12.0重量/重量%のポロキサマー407により36℃でゲル化し、12.5重量/重量%のポロキサマー407により28℃でゲル化し、このことは、最適なポロキサマー407濃度は、190mg I/mlのビヒクルでは12.0重量/重量%と12.5重量/重量%との間にあるだろうということを示唆する。
【0142】
5.3 リネゾリドポロキサマー製剤の開発
投与の直前に、実施例4で説明したように調製したリネゾリド微粒子化粉末をポロキサマー溶液と混合した。注射時のリネゾリドの目標最終濃度を50mg/mlに設定する。リネゾリド粉末 約200mgをポロキサマービヒクル約3.8mlに再懸濁させて約4.0mlの最終量を得ることにより、50mg/mlのリネゾリド濃度を達成し得る。他の量のリネゾリド及びポロキサマービヒクル(例えば、リネゾリド100mg及びポロキサマービヒクル1.9ml)は同一濃度を達成し得た。
【0143】
5.4 製剤調製の手順
ポロキサマービヒクルへのAPI(リネゾリド)の添加を試験するために、別の研究を実施した。下記に記載する製造方法に従って、ポロキサマービヒクル300g(テーブル9)を調製した。
【0144】
【表10】

工程A:イオヘキソール300g含有溶液を製造する方法:
1.500mLのビーカーの風袋重量を記録し、このビーカーに水150gを入れる;
2.このビーカーに、必要質量のトロメタミン、EDTAカルシウム二ナトリウム、及びイオヘキソール(テーブル9)を分注し、添加した各成分の質量を記録する;
3.全ての固体が完全に溶解するまでこの混合物を混合し、固体を溶解させるのに十分な水がない場合には、任意選択的にさらなる水を添加して溶解を補助する;
4.ビーカーを秤量し、次いで5MのHClを使用してpHを8.0に調整する。pHが既にpH8.0に近い場合には、濃度がより低いHCl溶液を調製する必要があるかもしれない。
【0145】
5.ビーカーの重量を記録することにより、pHを調製するのに使用した酸の量を記録する;
6.生成物の総重量が300gになるように、残りの水を添加する;
7.外観を記録し、密度を2回測定する;
並びに
8.添加剤の実際の値(重量/重量%)に密度値(g/mL)を乗算することにより、ゲル製剤の重量/体積%を算出する。
【0146】
このビヒクル300gを3分割し、ポロキサマーゲルを製造する方法に従って、テーブル10に示すようにポロキサマー407を添加した。
【0147】
【表11】

工程B:ポロキサマー-イオヘキソール溶液を製造する方法:
1.150mlのビーカーに各ゲルに必要な(工程Aの)ビヒクルの質量を秤量し(テーブル10)、少なくとも1時間にわたり、これら3個のビーカーを冷蔵庫に入れて冷却する;
2.混合物が均質になるまでオーバーヘッドスターラーを使用して、この冷却されたビヒクルに、室温で必要な量のポロキサマー407を緩やかに添加し、外観を記録する;
3.これらのビーカーを一晩冷蔵庫に入れる;
4.翌日、透明な溶液が形成されていることを確認し、ヘラ又は類似のものを使用して注意深く混合して、この溶液が均質であることを確実する;
5.アルミニウム製比重瓶を使用して密度を測定し、外観を記録し、試験に必要となるまで全サンプルを冷蔵庫に保管する;
及び
6.添加剤の実際の値(重量/重量%)に密度値(g/mL)を乗算することにより、ゲル製剤の重量/体積%を算出する。
【0148】
最初に、各ゲル1、ゲル2、及びゲル3の2×5mlサンプルを使用して、ゾル-ゲル転移試験を実施した。ゾル-ゲル温度が30~34℃の目標温度の間である場合には、エアジェット粉砕したGMPリネゾリド粉末を添加して、50mg/mlのリネゾリドを含む溶液を生成し、下記のように再びゾル-ゲル温度を試験した。
【0149】
1.粉砕したリネゾリド200mgを、風袋重量を測定した2つの透明な8mLのバイアルに分注する;
2.各バイアルに、上記で調製したゲル1、ゲル2、又はゲル3 3.8mLを入れる;
及び
3.これらのバイアルを激しく振盪させてAPI(リネゾリド)を懸濁させ、外観を記録する。
【0150】
【表12】

32.743%(重量/重量)のイオヘキソールを含む溶液で作られた12.5重量/重量%のポロキサマーゲルは、50mg/mlのリネゾリド懸濁液に関する目標ゾル-ゲル温度(34℃)を示した。
【0151】
実施例6:ポロキサマー送達用ビヒクルの調製物
製剤の寛容性及び長期安定性を試験するために、(実施例5で試験したような)12.5重量/重量%のポロキサマー407及び32.7重量/重量%のイオヘキソールを含む送達用ビヒクルを、中間スケールで調製し、次いでより大きいスケールで調製した。これらの追加のバッチは、再現性の証拠を提供する。
【0152】
【表13】

注射用のポロキサマービヒクル400gの製造方法は、下記を含む:
1.600mLのビーカーの風袋重量を記録し、このビーカーに水200gを入れる工程;
2.このビーカーに、必要質量のトロメタミン、EDTAカルシウム二ナトリウム、及びイオヘキソール(テーブル12)を分注し、添加した各成分の質量を記録する工程;
3.全ての固体が完全に溶解するまでこの混合物を混合し、必要な場合には、さらなる水を添加して溶解を補助する工程;
4.ビーカーを秤量し、次いで5MのHClを使用してpHを8.0に調整する工程;
5.生成物の総重量が400gになるように、残りの水を添加する工程;
6.外観を記録し、密度を2回測定する工程;
7.添加剤の実際の値(重量/重量%)を乗算することにより、ゲル製剤の重量/体積%を算出する工程;
8.イオヘキソール溶液(上記工程6)175gを250mLのビーカーに秤量し、このビーカーを少なくとも1時間にわたり冷蔵庫に入れて冷却する工程;
9.混合物が均質になるまでオーバーヘッドスターラーを使用して、この冷却したイオヘキソール溶液に、室温で、ポロキサマー407(ビーエーエスエフ・コリホル407(BASF Kolliphor 407):バッチ番号WPNK538B(R/003191))25gを緩やかに添加する工程;
10.ビーカーを一晩冷蔵庫に入れ、翌日、透明な溶液が形成されていることを確認し、ヘラ又は類似のものを使用して注意深く混合して、この溶液が均質であることを確実にする工程、
11.サンプル30mLを、アルミニウム製比重瓶を使用して密度を測定し、外観を記録し、試験に必要となるまで全サンプルを冷蔵庫に保管する工程;
12.添加剤の実際の値(重量/重量%)に密度値(g/mL)を乗算することにより、ゲル製剤の重量/体積%を算出する工程。
【0153】
ワトソン・マーロウ(Watson-Marlow)蠕動ポンプを使用するろ過により、このポロキサマー溶液を滅菌した。サルトポア(Sartopore)2、0.4μmフィルタ(品番5441307H4G)に通して、このポロキサマー溶液をろ過した。ろ過の前後に、ポロキサマー及びイオヘキソールの量とゲルのゾル-ゲル温度とを評価し、イオヘキソールがフィルタに保持されるかどうか、又はゲルの性能がろ過により変更されているかどうかを確認した(テーブル13)。
【0154】
【表14】

ろ過前後の結果は、蠕動ポンプを使用してゲルをろ過し得ること、及びろ過によりゲルの組成及び性能が変更されないことを示した。ろ過前後のアッセイ結果での差異は、このアッセイの許容範囲内であり且つ仕様内である。ろ過は、ゲルの滅菌の好ましい方法である。
【0155】
次いで、このゲルにリネゾリドを担持させ、ゾル-ゲル温度に関して試験した。結果をテーブル14に示し、中間スケールで調製された懸濁液が、必要なゾル-ゲル温度を保持することを示す。
【0156】
【表15】

実施例7:リネゾリド製剤のインビボでの薬物動態及び有効性
予備研究を実施して、本明細書で説明されている製造方法に従って調製したリネゾリド懸濁液のインビボでの薬物動態及び有効性を試験した。
【0157】
実施例2~5で説明されている製造方法に従って、50mg/mlのリネゾリド懸濁液を含む、16.6%(重量/重量)のポロキサマーを含む送達用ビヒクルを調製した。実施例1で説明したように、このリネゾリド懸濁液0.1mlをヒツジの椎間板に注射した。図2に示すように、この製剤中のイオヘキソールの使用により、注射するこの製剤の可視化が可能になり得る。椎間板内投与後のリネゾリドの薬物動態を測定した。図3は、1つの椎間板当たり5mgの用量のリネゾリドでの注射後にヒツジの椎間板から回収したリネゾリドの量を示す。
【0158】
図4に示すように、試験したリネゾリド懸濁液の有効性は、リネゾリド懸濁液の投与により、椎間板1枚当たりの平均細菌負荷が>3log減少した(P=0.009)ことを示す。試験群の椎間板の60%超が滅菌されていた。細菌が残余するものは、負荷が有意に減少している。
【0159】
実施例8:リネゾリド製剤の注射性
懸濁液が針を塞ぐか又は粘性が高くてシリンジを通過しないことがないことを確実にするために、ヒト投与に必要と予想される(11.9cm(4.69インチ))よりも長い微細な25ゲージの針を使用して、懸濁液の注射性を評価する。ヒドロゲルのみ又はリネゾリド懸濁液を作り、この製剤で1mlのルアーロックシリンジをプライミングする。針を位置決めし、この針を通してゲル又は懸濁液を注射する。結果を下記のように記録する:1=注射不能;流れなし;又は2=注射可能;液滴状の流れ;又は3=注射:適度;連続した流れ。スコアが2又は3であるゲル及び懸濁液が仕様内である。
【0160】
実施例9:リネゾリド懸濁液製剤のスケールアップ調製
さらに、より大きなスケールで、且つ現行優良製造規範(current Good Manufacturing Practice)(cGMP)標準の下で、本明細書で最適化されているポロキサマー-イオヘキソール送達用溶液中のリネゾリド懸濁液を製造する。この製剤を滅菌し、臨床的使用の準備をする。
【0161】
9.1 リネゾリド形態II(API)の微粒子化及びバイアル化
リネゾリド形態IIが製剤中で懸濁液を形成し、且つ投与針を通過するように、リネゾリド形態IIのサイズを小さくするために、エアジェット粉砕によりリネゾリド形態IIを微粒子化した。ラボミルジェットミラー(LaboMill jet miller)(エフ.ピー.エス.フード・アンド・ファルマ・システムズ・エス.アール.エル(F.P.S.Food and Pharma Systems s.r.l)、イタリア)を使用して、窒素下で、リネゾリド形態IIの大きい結晶(約1~2キログラム)を微粒子化し、供給速度は60g/分~160g/分であり、ミル圧は1.97~3.95atm(2~4バール)であり、ベンチュリ圧は1.97~3.95atm(2~4バール)であった。原料及びエアジェット粉砕物の粒度分布を、レーザー回折(シンパテック社(Sympatec GmbH)、へロス・ディスパーセ(Helos Disperse))により分析した。非粉砕粉末(R1)及び粉砕粉末(R4)の粒度分布のデータを収集して分析した。エアジェット粉砕により、粒径が、D10 4~6μm(D10、サンプルの質量の10%が、この範囲未満の直径の粒子で構成されている)及びD90 40~50μm(D90、サンプルの質量の90%が、この範囲未満の直径の粒子で構成されている)の粒度分布からD10 0.4~0.50μm及びD90 4~5μmへと減少した。微粒子化リネゾリド形態IIに関する仕様を、D10 0.2~1.0μm、D90 3~10μmに設定した。1kg~1.5kgスケールで、微粒子化により、仕様のリネゾリド形II粉末の収率は87%~89%であった。
【0162】
1本のバイアル当たり253mg±2mgにて、微粒子化されたリネゾリド形態II粉末を、10mlのショットタイプI(Schott Type I)チューブ状の透明ガラス製バイアルに手で充填し、生成物接触面上にフルロテック(FluroTec)(登録商標)コーティングされているウェスト4023/50グレー(West 4023/50 grey)ブロモブチルエラストマー製ストッパで閉じて、アルミニウム製シールでキャップした。約2400本のバイアルに、微粒子化されたリネゾリド形態II約608gを充填した(中間医薬品:PP353-A)。
【0163】
9.2 リネゾリド(FII)の滅菌
周囲温度にて、約23.5±10%kGyでコバルト60線源を使用するガンマ線照射により、約2400本のバイアルを滅菌した。照射されたリネゾリド形態IIのバイアルをPP353-Aと標識した。医薬品の滅菌性要件(EP2.6.1)に従って、照射されたリネゾリド形態II粉末の滅菌性を試験した。
【0164】
生成物が溶解するまで、振盪させつつ(±200rpm)35~39℃でインキュベートすることにより、滅菌水2500mlに20本のバイアルの内容物(リネゾリド 20×253mg)を溶解させた。流体D(Fluid D)(動物組織のペプシン消化物1.0g、ポリソルベート80 1ml、精製水1000mlを含む、pH:7.1±0.2)で予め湿らせたデュラポア・ステリテスト(Durapore Steritest)装置に通して、リネゾリド溶液200mlをろ過した。流体D 100mlで各膜を5回洗浄した。1つのキャニスタに、TSB+1%Tween+0.07%レシチン(カゼインの膵臓消化物17.0g、ダイズのパパイン消化物3.0g、塩化ナトリウム5.0g、リン酸水素二カリウム2.5g、グルコース一水和物2.5g、ポリソルベート80
10ml、レシチン0.7g、精製水1000mlを含む、pH7.3±0.2)100mlを充填し、14日にわたり20~25℃でインキュベートした。他のキャニスタに、FTM(流体チオグリコレート)+1%Tween+0.07%レシチン(l-シスチン0.5g、顆粒状寒天0.75g、塩化ナトリウム2.5g、グルコース一水和物/無水物5.5g/5.0g、酵母抽出物5.0g、カゼインの膵臓消化物15.0g、チオグリコール酸ナトリウム0.5g又はチオグリコール酸0.3ml、新たに調製したレサズリンナトリウム溶液1.0ml、ポリソルベート80 10ml、レシチン0.7g、精製水1000mlを含む、pH7.1±0.2)100mlを充填し、14日にわたり30~35℃でインキュベートした。有効なプロセスを使用して、全ての溶液を滅菌した。14日間のインキュベーション後、サンプルには増殖がなく、このことは、PP353-Aサンプルが滅菌されたことを示す。
【0165】
9.3 希釈剤(送達用ビヒクル)のスケールアップ調製
18.4L(約22kg)スケールで送達用溶液(ポロキサマー407-イオヘキソール溶液)の製剤化を実施し、続いて、目標充填重量8.40g(公称充填量7mLに相当)での10mLのショットタイプI(Schott Type I)の透明ガラス製バイアルへの無菌充填により滅菌した。最大2400本のバイアルの調製サイズを製造し、中間医薬品PP353-Bと称した。
【0166】
【表16】

下記に従って、送達用溶液(PP353-B)の22kg調製物を調製した:
1.20Lの容器中の予め冷却した(5℃)WFI 11,500gに、トロメタミン22.257gを添加し、トロメタミンが溶解するまで撹拌する工程;
2.EDTAカルシウム二ナトリウム1.839gを添加して溶解するまで撹拌し、続いてイオヘキソール6,303gを添加して溶解するまで撹拌する工程;
3.(任意選択)1Mの塩酸で、溶液のpHを約pH8.0(許容範囲pH7.80~pH8.20)に調整する工程;
4.追加の予め冷却したWFIを、18,750gの正味重量まで添加する工程;
5.撹拌しつつ、ポロキサマー407 2,750gを約100gずつ緩やかに添加し、さらなる添加の前に、凝集したポロキサマーを砕いて分散させる工程、
及び
6.追加の予め冷却したWFIを、公称18.4Lに相当する22,000gの最終目標重量まで添加し、ポロキサマーが溶解するまで撹拌する工程。
【0167】
ポロキサマーは、より低温で、より速く溶解し且つ粘度がより低いことから、この製剤を冷却した。最終PP353-Bポロキサマー溶液は、15℃で密度が1.196g/mLである。
【0168】
二重ろ過により、冷却したPP353-B生成物を滅菌した。蠕動ポンプを使用して、この溶液(PP353-B)を、最初にサルトポア2エックスエルジー・ミディキャップ(Sartopore 2 XLG Midicap)フィルタに通して8グローブの汎用ろ過アイソレータに流し、次いで、2番目のインラインのサルトポア2エックスエルジー・ミディキャップ(Sartopore 2 XLG Midicap)フィルタに通して流した。この溶液を冷却して、このポンプ及びフィルタを介する粘度を下げた。このアイソレータ内の10Lの容器中で、滅菌PP353-Bを15℃で保持した。バイアルの密度及び重量充填を確定するために、この温度制御を設定した。マスターフレックス(Masterflex)ポンプを使用して、1本のバイアル当たり滅菌溶液7.0mL(8.4g)で、10mlのショットタイプI(Schott Type I)チューブ状の透明ガラス製バイアルに、この滅菌溶液を詰め込み、生成物接触面上にフルロテック(FluroTec)(登録商標)コーティングされているウェスト4023/50グレー(West 4023/50 grey)ブロモブチルエラストマー製ストッパで閉じて、アルミニウム製シールでキャップした。溶液(PP353-B)22kgを約2400本のバイアルに充填した。
【0169】
EP2.6.1で述べられている要件に従って、PP353-Bの滅菌性を試験した。PP353-Bの20本のバイアルを、2つのステリテスト(Steritest)キャニスタに分配してろ過した。流体A(Fluid A)(0.1%のペプトン水)約300mlで各キャニスタを洗浄した。ステリテスト(Steritest)キャニスタに、TSB培地又はFTM培地100mlを充填し、14日にわたりインキュベートした。培養物中での増殖の非存在は、PP353-Bの滅菌性を示す。
【0170】
9.4 希釈剤のレオロジー特性
下記で説明されるゾル-ゲル法に従って、PP353-B溶液の転移温度を3回評価した:
1.脱イオン水が入ったジャケット付容器を用意し、この容器を再循環水浴に接続する;
2.この水浴の温度を22℃に設定し、校正された温度計又はサーモプローブを使用して、このジャケット付容器中の温度を測定する;
3.このジャケット付容器中の水が22℃であり且つ安定している(少なくとも5分にわたり±0.5℃)である場合には、このジャケット付容器にサンプルを入れる;
4.サンプルを15~20分で22℃に平衡化させる;
5.このジャケット付容器からバイアルを取り出し、直ちに反転させて液体-ゲル挙動を評価し;下記の目視によるレオロジー特性に従ってサンプルを直ちに分類する:1).重力方向で迅速に動く場合には液体;2).重力方向で緩やかに下降する場合には粘性のある液体、及び3).バイアルの底に残る場合にはゲル;
6.(任意選択)サンプルがゲル化していない場合には、可能な限り速くサンプルを再懸濁させてジャケット付容器に戻し、水浴の温度を2℃ずつ上昇させる;
7.液体-ゲル挙動を記録する;
8.ジャケット付容器中の水の温度が5分にわたり安定した(±0.5℃)時点で、サンプルをさらに15分で同一温度に平衡化させる;
並びに
9.温度が40℃に達するまで、上記の工程(5)、(6)、(7)、及び(8)を繰り返す。
【0171】
PP353-B溶液の3種全ての試験したバイアルのゾル-ゲル転移温度は28℃であった。
9.5 リネゾリド形態II懸濁液製剤の調製
上記(9.1及び9.2)で説明した工程に従って調製した、微粒子化された滅菌リネゾリド粉末(API)(即ちPP353-A)が入ったバイアルを使用して、リネゾリド懸濁液を調製した。各バイアルにはAPI 253mgが入っている。希釈剤として、上記(9.3及び9.4)で説明した方法に従って調製した滅菌溶液(即ちPP353-B)が入ったバイアルを使用した。各バイアルにはPP353-B希釈剤7mLが入っている。
【0172】
リネゾリド懸濁液を作るために、PP353-B溶液 約4.8mLをPP353-Aのバイアルに移した。固体粉末が観測されなくなるまで振盪してバイアルを混合した(約1~1.5分)。このプロセスを注意深く実行して、バイアル温度の上昇を避けた。1つの再構成バイアルの最終量は約5mLである。この希釈剤中の最終リネゾリド懸濁液を医薬品PP353と標識する。
【0173】
第9.4節で説明されているゾル-ゲル法に従って、PP353懸濁液のゾル-ゲル転移温度を3回評価した。
3種全ての試験したバイアル(PP353)のゾル-ゲル転移は28℃であった。ポロキサマーヒドロゲル及びリネゾリド懸濁液製剤のより小規模な非GMP生成物は、32℃~36℃のより高いゾル-ゲル転移温度を有するが(実施例5及び6)、大規模なGMP生成物で調製されゲル及びリネゾリド懸濁液は、28℃のより低いゾルゲル転移温度を有することに気付いた。これらの結果は、ポロキサマーベースのヒドロゲル溶液及びリネゾリド懸濁液が、少なくとも約28℃~約36℃という広範囲なゾル-ゲル転移温度を有することを示す。
【0174】
実施例10.リネゾリド製剤懸濁液(PP353)の注射性
投与を可能とするために注射針を通過するように製剤にアクセスするための注射性に関して、このGMPスケールの調製物から作製したリネゾリド懸濁液(PP353)をさらに試験した。この研究では、二重針技術と、患者の肉の代わりとしての温めたサツマイモとを使用して、懸濁液(PP353)の注射性を試験した。
【0175】
水浴中でサツマイモを37℃に温めた。このサツマイモに、127mm(5インチ)の18フランスゲージ針を通した。この針は、注射される椎間板に針先が隣接するように、蛍光透視を使用する画像誘導の下で患者内に位置決めされるであろうガイド針を表す。次いで、先端が127mm(5インチ)のガイド針から突出するまで、このガイド針に通して、別の178mm(7インチ)の22フランスゲージ針を挿入した。この針は、注射される椎間板に挿入されるであろう投与針を表す。これら2本の針を、サツマイモ中で37℃まで温めた。この投与針に、室温であるリネゾリド懸濁液(PP353由来)が充填された1mLのシリンジを取り付けた。次いで、温かい針を介して懸濁液を注射し、この懸濁液が、液滴状の液体ではなくゲルとして針から押し出されることを観察した(図5)。この実験は、温かい投与針を介して、ゾル-ゲル転移温度がより低いリネゾリド懸濁液(即ち28℃のPP353)を注射し得、このプロセスの最中に、このリネゾリド懸濁液は針の内側で液体からゲルへと変形することを実証した。
【0176】
この観察は、臨床的に、予め形成されたヒドロゲルの注射は、投与部位に投与の局在化する可能性があり、且つ注射部位(例えば患者の脊椎円板)からのいかなる溢出も最小化する可能性があることを示す。
【0177】
実施例11.PP353リネゾリド懸濁液の全身薬理学的プロファイル
PP353生成物の全身薬理学的プロファイルを測定するために、ヒツジ(n=27、各実験群に関して3匹)に、実施例1の第1.3節で説明されている注射手順に従う椎間板内椎間板注射により、リネゾリド懸濁液(PP353)を投与した。注射手順を補助するために及び成功裏な投与の尺度として標的の椎間円板(vertebral disc)を識別すべく、注射手順全体を通してX線画像を取得した。ヒツジの2つの椎間板にPP353リネゾリド製剤(リネゾリド5mgを含む懸濁液0.1ml)を注射した。コントロール群のヒツジに、同量のポロキサマー-イオヘキソール送達用ビヒクル(即ちPP353-B)(0.1ml)を投与した。0分(試験物質の投与前)に、並びに投与の15分後、30分後、1時間後、2時間後、4時間後、8時間後、16時間後、30時間後、及び48時間後に、血液サンプルを採取した。
【0178】
全ての血液サンプルを処理し、GLP(非臨床的実験室研究に関する優良実験室規範(Good Laboratory Practice for nonclinical
laboratory studies))規制に従ってLC-MS/MSを使用して、血漿抽出物中のリネゾリドの濃度を測定して決定した。図6に示すように、血漿中のリネゾリドの濃度は、実験製剤生成物(例えば実施例4~7)で既に観察されているのと同様のパターンを示す。ヒツジの椎間板への懸濁液の少量(例えば0.1ml)の注射は、潜在的なデポ効果を最小化する可能性がある。
【0179】
要約すると、これらの観察は、比較的低いゲル化温度(例えば28℃)の製剤のインビボでの注射性と、周囲の組織及び血液へのこの製剤からのリネゾリドの放出とに関する証拠を提供する。
(付記)
上記実施形態及び変更例から把握できる技術的思想について記載する。
[項目1]
(a)有効量のリネゾリドと、
(b)ポロキサマー及びイオヘキソールを含む感熱性ヒドロゲルと、
任意選択的に(c)少なくとも1種の薬学的に許容される添加剤と
を含み、
リネゾリドは、前記感熱性ヒドロゲル中の懸濁液を形成する、注射用医薬製剤。
[項目2]
リネゾリドはリネゾリド形態IIである、項目1に記載の注射用医薬製剤。
[項目3]
前記ポロキサマーはポロキサマー407であり、前記ポロキサマー407は前記製剤の約9.5重量%~約17重量%で存在する、項目2に記載の注射用医薬製剤。
[項目4]
前記ポロキサマー407は前記製剤の約10.8重量%~約12.8重量%で存在する、項目3に記載の注射用医薬製剤。
[項目5]
イオヘキソールは前記製剤の約14重量%~約59重量%で存在する、項目1~4のいずれか一項に記載の注射用医薬製剤。
[項目6]
イオヘキソールは前記製剤の約17重量%~約30重量%で存在する、項目5に記載の注射用医薬製剤。
[項目7]
前記懸濁液は約26℃~約38℃の温度でゲル化する、項目1~6のいずれか一項に記載の注射用医薬製剤。
[項目8]
前記懸濁液は約32℃~約36℃の温度でゲル化する、項目7に記載の注射用医薬製剤。
[項目9]
前記懸濁液は約26℃~約32℃の温度でゲル化する、項目7に記載の注射用医薬製剤。
[項目10]
リネゾリドの濃度は前記製剤の約1重量%~約20重量%である、項目1~9のいずれか一項に記載の注射用医薬製剤。
[項目11]
注射用医薬製剤であって、前記製剤の約2.5~20重量%のリネゾリド形態II、約17重量%~30重量%のイオヘキソール、及び約10.8重量%~12.8重量%のポロキサマーを含む注射用医薬製剤。
[項目12]
前記注射用医薬製剤は、椎間板、椎間腔、関節内腔、骨浮腫に隣接する部位、靱帯、骨、関節、腱、又は、腱と骨との接合部への投与用に調製されている、項目1~11のいずれか一項に記載の注射用医薬製剤。
[項目13]
前記骨、関節、靱帯、又は腱は、脊椎と結合している骨、関節、靱帯、又は腱である、項目12に記載の注射用医薬組成物。
[項目14]
前記脊椎と結合している前記骨、関節、靱帯、又は腱は、頸椎、胸椎、腰椎、又は仙椎と結合している、項目13に記載の注射用医薬組成物。
[項目15]
注射用リネゾリド製剤であって、
(a)リネゾリド形態II粉末と、
(b)ポロキサマー407及びイオヘキソールを含む感熱性ヒドロゲルと、
任意選択的に(c)少なくとも1種の添加剤と
を含み、
前記リネゾリド製剤は、
(i)リネゾリド形態IIを粉砕して、確定された粉末にすること、
(ii)工程(i)のリネゾリド粉末の単位を調製し、この調製物を滅菌すること、
(iii)ポロキサマー407及びイオヘキソールを含む前記感熱性ヒドロゲルを調製して滅菌すること、及び
(iv)工程(ii)の前記リネゾリド粉末を工程(iii)の前記感熱性ヒドロゲルに懸濁させること
を含む方法により調製されている、注射用リネゾリド製剤。
[項目16]
ガンマ線照射により前記リネゾリド粉末を滅菌する、項目15に記載の注射用リネゾリド製剤。
[項目17]
前記工程(iii)及び(iv)を前記工程(i)及び(ii)と比べて低い温度で実施する、項目16に記載の注射用リネゾリド製剤。
[項目18]
医薬品での使用のための項目1~17のいずれか一項に記載の注射用医薬組成物。
[項目19]
対象の腰痛を処置するか又は予防する方法での使用のための項目1~17のいずれか一項に記載の注射用医薬組成物であって、前記方法は、前記注射用医薬組成物の投与を含む、使用のための注射用医薬組成物。
[項目20]
前記痛は、急性痛、亜急性痛、慢性痛、局所痛、根性痛、関連痛、腰痛、又は頸痛である、項目19に記載の使用のための注射用医薬組成物。
[項目21]
前記痛は、モディック変化又は骨浮腫と関連している腰痛又は頸痛である、項目20に記載の使用のための注射用医薬組成物。
[項目22]
前記対象は、細菌感染の疑いがあるか、又は細菌感染している、項目21に記載の使用のための注射用医薬組成物。
[項目23]
前記注射用医薬組成物を、椎間板、椎間腔、関節内腔、靱帯、腱、腱と骨との接合部、又は、骨浮腫に隣接する部位に注射する、項目20に記載の使用のための注射用医薬組成物。
[項目24]
前記注射用医薬組成物を、モディック変化若しくは骨浮腫の部位に隣接して注射するか、又はモディック変化若しくは骨浮腫の部位に注射する、項目23に記載の使用のための注射用医薬組成物。
[項目25]
対象の疼痛を和らげるか又は寛解させ、同時に前記対象の頸椎、胸椎、腰椎、又は仙椎での細菌感染を除去する方法での使用のための項目1~17のいずれか一項に記載の注射用医薬組成物であって、前記方法は、感染した脊椎骨中の領域、前記感染した脊椎骨付近の領域、又は前記感染した脊椎骨周囲の領域への注射による前記注射用医薬組成物の投与を含む、使用のための注射用医薬組成物。
[項目26]
(a)リネゾリド形態II粉末と、
(b)ポロキサマー407及びイオヘキソールを含む感熱性ヒドロゲルと
を含むキット。
[項目27]
注射用のシリンジ及び針をさらに含む項目26に記載のキット。
[項目28]
薬物送達用の感熱性ヒドロゲルであって、
(a)前記ヒドロゲルの約10重量%~約17重量%の濃度で前記ヒドロゲル中に存在するポロキサマー407と、
(b)前記ヒドロゲルの約14.5重量%~約62.5重量%の濃度で前記ヒドロゲル中に存在するイオヘキソールと
を含み、
前記ヒドロゲルは26℃~36℃の温度でゲルを形成する、感熱性ヒドロゲル。
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5
図6