(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-20
(45)【発行日】2025-01-06
(54)【発明の名称】支柱構造体の立設構造
(51)【国際特許分類】
E01F 7/04 20060101AFI20241223BHJP
【FI】
E01F7/04
(21)【出願番号】P 2024170602
(22)【出願日】2024-09-30
【審査請求日】2024-10-01
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】397034327
【氏名又は名称】有限会社吉田構造デザイン
(74)【代理人】
【識別番号】100201329
【氏名又は名称】山口 真二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100167601
【氏名又は名称】大島 信之
(74)【代理人】
【識別番号】100220917
【氏名又は名称】松本 忠大
(72)【発明者】
【氏名】吉田 博
【審査官】石川 信也
(56)【参考文献】
【文献】特許第7540803(JP,B1)
【文献】特開2024-061175(JP,A)
【文献】特開2014-084624(JP,A)
【文献】特開2022-105948(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01F 7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支柱本体の頭部を単数または複数の控えロープで支持された支柱構造体の立設構造であって、
鋼管製の支柱本体と、
前記支柱本体の下部に設け、支柱本体を一方向または全周方向へ向けて傾倒可能に支える傾倒継手装置とを具備し、
前記傾倒継手装置は下端を地山に接地し、支柱本体の下部を一方向または全周方向に向けて回動可能に支える鋼管製の基礎筒と、
前記支柱本体の下部に内挿して係留させた上位横梁と、
前記基礎筒の上部に内挿して係留させた下位横梁と、
前記上位横梁と下位横梁との間を縦方向に連結する連結材とを具備し、
前記上位横梁、下位横梁および連結材によるリンク機構により支柱本体と基礎筒の間を分離不能に連結しつつ、支柱本体を基礎筒で回動可能に支承したことを特徴とする、
支柱構造体の立設構造。
【請求項2】
前記支柱本体の下部と基礎筒の上部の何れか一方に、円周に直交する断面が円弧状の凸状接合面を形成し、前記支柱本体の下部と基礎筒の上部の何れか他方に前記凸状接合面と対応する凹状接合面を形成したことを特徴とする、請求項1に記載の支柱構造体の立設構造。
【請求項3】
前記上位横梁が支柱本体の下部に貫通して係留させた単数または交差させた複数の棒状の梁材からなり、前記梁材の中央に前記連結材の上部を支柱の全周方向に回動可能に連結したことを特徴とする、請求項1に記載の支柱構造体の立設構造。
【請求項4】
前記下位横梁が基礎筒の上部に貫通して係留させた単数または交差させた複数の棒状の梁材からなり、前記梁材の中央に前記連結材の下部を連結したことを特徴とする、請求項1に記載の支柱構造体の立設構造。
【請求項5】
前記傾倒継手装置が中央に開口を形成したベースプレートをさらに具備し、該ベースプレートを基礎筒の下端に一体に設けたことを特徴とする、請求項1に記載の支柱構造体の立設構造。
【請求項6】
前記支柱本体を構成する鋼管または基礎筒を構成する鋼管の端部に別途の鋼材を外装して補強増厚部を形成し、前記補強増厚部の端面に凸状接合面または凹状接合面を拡張して形成することを特徴とする、請求項1に記載の支柱構造体の立設構造。
【請求項7】
前記支柱本体が落石防護柵用の支柱、鋼管製の煙突、鋼管製の電柱の何れか一つであることを特徴とする、請求項1に記載の支柱構造体の立設構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は全周方向に向けて傾倒可能に立設した支柱構造体の立設構造に関する。
【背景技術】
【0002】
支柱構造体を構成する支柱本体は、鋼管製、コンクリート充填鋼管製またはH型鋼製の剛性材からなり、支柱本体に要求される曲げ耐力に応じて適宜使用する鋼材を使い分けしている。
【0003】
支柱構造体の立設構造として、特許文献1には、支柱本体の下部を地中に埋設する建込み式支柱構造体が開示され、特許文献2には、地中に建込せずに、支柱本体の下部に設けた接地板を地表に接地させる接地式支柱構造体が開示されている。
特許文献3には、支柱本体の下部をヒンジ構造とし、ヒンジ構造を介して支柱本体を谷側へ向けて傾倒可能に構成することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-227693号公報
【文献】特開2022-105948号公報(
図3,4)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の建込み式支柱構造体はつぎの課題を内包している。
<1>受撃時において、支柱本体には軸力、せん断力および曲げ力が作用する。
そのため、支柱本体がこれらの外力に対抗し得るように、高強度に製作しなければならず、支柱コストが高くなる。
<2>建込み式支柱構造体は、地中の反力を得るために、支柱本体の埋設長を長く確保する必要がある。
例えば3mの柵高の防護柵であって、支持地盤が軟弱である場合は、支柱本体の地中への埋設長を4mほど確保しなければならず、支柱本体の全長が7mと長くなる。
<3>支柱本体の全長が長くなると、支柱構造体の運搬性が悪くなるだけでなく、作業構台の設置や大型ボーリングマシンの導入が必要となって、支柱の立設作業に多くの時間とコストがかかる。
【0006】
従来の支柱本体の下部をヒンジ構造とした支柱構造体はつぎの課題を内包している。
<1>ヒンジ構造が1軸の場合、支柱本体の傾倒方向が斜面の傾斜方向(山側から谷側)に向けた方向に限定され、支軸方向以外の傾倒ができない。
<2>一軸のヒンジ構造の場合、支柱構造体の傾倒不能な方向へ外力を受けると、ヒンジ構造が破壊されて支柱機能を喪失する。
【0007】
本発明は以上の点に鑑みて成されたもので、その目的とするところは、支柱本体を効率よく低コストで立設できて、受撃時における支柱構造体への曲げモーメントをなくして支柱本体を経済的に製作できる、支柱構造体の立設構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、支柱本体の頭部を単数または複数の控えロープで支持された支柱構造体の立設構造であって、鋼管製の支柱本体と、前記支柱本体の下部に設け、支柱本体を一方向または全周方向へ向けて傾倒可能に支える傾倒継手装置とを具備し、前記傾倒継手装置は下端を地山に接地し、支柱本体の下部を一方向または全周方向に向けて回動可能に支える鋼管製の基礎筒と、前記支柱本体の下部に内挿して係留させた上位横梁と、前記基礎筒の上部に内挿して係留させた下位横梁と、前記上位横梁と下位横梁との間を縦方向に連結する連結材とを具備し、前記上位横梁、下位横梁および連結材によるリンク機構により支柱本体と基礎筒の間を分離不能に連結しつつ、支柱本体を基礎筒で回動可能に支承して構成する。
本発明の他の形態において、前記支柱本体の下部と基礎筒の上部の何れか一方に、円周に直交する断面が円弧状の凸状接合面を形成し、前記支柱本体の下部と基礎筒の上部の何れか他方に前記凸状接合面と対応する凹状接合面を形成する。
本発明の他の形態において、前記上位横梁が支柱本体の下部に貫通して係留させた単数または交差させた複数の棒状の梁材からなり、前記梁材の中央に前記連結材の上部を支柱の全周方向に回動可能に連結する。
本発明の他の形態において、前記下位横梁が基礎筒の上部に貫通して係留させた単数または交差させた複数の棒状の梁材からなり、前記梁材の中央に前記連結材の下部を連結する。
本発明の他の形態において、前記傾倒継手装置が中央に開口を形成したベースプレートをさらに具備し、該ベースプレートを基礎筒の下端に一体に設ける。
本発明の他の形態において、支柱本体を構成する鋼管または基礎筒を構成する鋼管の端部に別途の鋼材を外装して補強増厚部を形成し、前記補強増厚部の端面に凸状接合面または凹状接合面を拡張して形成する。
本発明の他の形態において、前記支柱本体が落石防護柵用の支柱、鋼管製の煙突、鋼管製の電柱の何れか一つである。
【発明の効果】
【0009】
本発明は少なくともつぎのひとつの効果を奏する。
<1>地中に建込まずに支柱構造体を立設できると共に、倒継手装置の組立て作業と支柱構造体の組立て作業を同時に行うことができる。
したがって、支柱構造体を効率よく低コストで立設することができる。
<2>支柱本体の下部に傾倒継手装置を設けて、支柱本体を全周方向へ向けて傾倒可能に支承するように構成したので、受撃時に全周方向へ向けて支柱本体の傾倒を許容することができる。
そのため、支柱構造体に対して軸力とせん断力が作用するものの、支柱本体の下部に曲げモーメントが作用しない。
したがって、支柱本体および傾倒継手装置を曲げモーメントに配慮した高強度に設計する必要がなくなり、支柱構造体を経済的に製作できる。
<3>傾倒継手装置の上位横梁、下位横梁および連結材は、間隔保持機能を具備したリンク機構として機能するため、支柱本体の下部と傾倒継手装置の接合状態が保持される。
したがって、支柱本体の下部と傾倒継手装置の良好な接合状態を保持した状態で、支柱本体を傾倒させることができる。
<4>連結材と上位横梁との間が回動自在に連結してあるので、支柱本体が傾倒しても、連結材の上部と上位横梁との連結部に曲げ力が作用しない。
したがって、支柱本体の傾倒時における、傾倒継手装置の回動抵抗が小さくなる。
<5>上位横梁または下位横梁を構成する梁材の両端部を、支柱本体または基礎筒の位置決め孔に係留させるとともに、上位横梁と連結材の上部との間を回動可能に連結することで、支柱本体の傾倒時に横梁と連結材との連結部に応力が作用することを回避しながら、支柱本体の傾倒を許容することができる。
<6>上位横梁または下位横梁を複数の梁材を交差させて使用した場合には、横梁を構成する複数の梁材を支柱本体または基礎筒の中心にセンタリングした状態で係留することができる。
したがって、連結材を支柱本体および基礎筒の軸芯に沿って配置することができる。
<7>支柱本体を構成する鋼管または基礎筒を構成する鋼管の端部に形成した補強増厚部を利用して凸状接合面または凹状接合面を補強しつつ、任意の広さ(面積)に拡張することができる。
したがって、支柱本体または基礎筒を構成する鋼管が薄厚であっても、鋼管の厚さの影響を受けずに凸状接合面または凹状接合面の面積を拡張して形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図3】傾倒継手装置を組付けた支柱本体の下部の断面図
【
図5A】傾倒継手装置の上半部の組立て方法の説明図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に図面を参照しながら本発明について詳しく説明する。
【0012】
[実施例1]
1.支柱構造体の適用対象
支柱構造体10は、例えば防護柵用の鋼管製の支柱、鋼管製の電柱、鋼管製の煙突等に適用が可能である。
本例では、支柱構造体10を防護柵に適用した形態について説明する。
【0013】
<1>防護柵
図1に例示した防護柵は、間隔を隔てて立設した複数の支柱構造体10と、隣り合う支柱構造体10の間に掛け渡した帯状の防護ネット50とを少なくとも具備する。
【0014】
<2>防護ネット
防護ネット50は落石等の荷重を受けためるための公知の捕捉用ネットであり、金属製または繊維製のロープ材51または金属製または繊維製のネット材52の何れか一方、またはこれらの両部材51,52を組み合わせて形成されている。
防護ネット50がロープ材51を含む場合、ロープ材51は隣り合う支柱構造体10間に掛け渡してあればよく、ロープ材51の配設本数や配設位置については適宜選択が可能である。
さらに、防護ネット50は、ロープ材51をループさせて複数のリング体の連鎖構造体とした形態も含む。
また防護ネット50は、ロープ材51の一部に公知の緩衝装置を介装した形態も含む。
【0015】
ネット材52は、例えば方形の網目を有する金網等の金属製ネットや繊維製ネットである。
【0016】
2.支柱構造体
支柱構造体10は、鋼管製の支柱本体20と、支柱本体20の下部に設け、支柱本体20を全周方向へ向けて傾倒可能に支える傾倒継手装置30とを具備する。
【0017】
<1>支柱本体
支柱本体20は断面形状が円形等を呈する筒体である鋼管(例えば直径240~300mm)であり、防護ネット50を支持可能な強度を有する。
【0018】
支柱本体20は一本ものに限定されず、複数の分割支柱本体で構成してもよい。
支柱本体20を複数の分割支柱本体で構成する場合、各分割支柱本体の端部にフランジを設け、突き合わせたフランジ間をボルトで締結して接合する。
支柱本体20を複数の分割支柱本体で構成すると、支柱本体20の断面径が大径である場合や、支柱本体20の全長が長い場合でも効率よく支柱本体20を現場へ搬送して施工することができる。
【0019】
支柱本体20の外周には、防護ネット50や控えロープ等を取り付けるためのフック要素やブラケット要素が設けてある。
【0020】
支柱本体20の下部には先細状の凸状接合面21を形成している。凸状接合面21の詳細については後述する。
【0021】
<2>傾倒継手装置
図2,3を参照して説明する。
傾倒継手装置30は、支柱本体20の下部を回動自在に支える基礎筒31と、基礎筒31の下端に一体に設けたベースプレート33と、支柱本体20の下部に内挿して係留させた上位横梁36と、基礎筒31の上部に内挿して係留させた下位横梁37と、両横梁36,37の間を縦方向に貫通して連結する連結材38と、連結材38の上下端部に螺着するナット要素39a,39bとを具備する。
【0022】
支柱本体20の下部に傾倒継手装置30を介装したのは、支柱本体20の下部に軸力とせん断力のみを作用させ、支柱本体20の下部に曲げモーメントを作用させないようにするためである。
【0023】
<2.1>基礎筒
基礎筒31はベースプレート33と共同して支柱本体20を支持するための軸長の短い鋼管(直径が例えば240~300mmで、全長が例えば200~400mm)である。
基礎筒31の上部には凹状接合面31が形成してある。凹状接合面31の詳細については後述する。
【0024】
<2.2>ベースプレート
ベースプレート33は地面に接地して、支柱本体20および基礎筒31を支えるための長方形を呈する板体であり、その大きさは基礎筒31より大きい。
ベースプレート33の上面には、基礎筒31の下端が載置されて溶接等により一体に固着してある。
【0025】
ベースプレート33の中央部には、基礎筒31内に手を差し込んで、支柱本体20と基礎筒31との間の連結作業をし得るように円形の開口33aが開設してある。
ベースプレート33の周縁部には、複数の孔を開設してアンカーピン等で固定し得るようになっている。
【0026】
<3>支柱本体と基礎筒の接合面
支柱本体20の下部と基礎筒31の上部の接合には、円弧状に湾曲した凸状接合面と、凸状接合面と対応する円弧状に湾曲した凹状接合面を形成している。
本例では、支柱本体20側に凸状接合面21を設け、基礎筒31側に凹状接合面31を設けた形態について説明するが、凸状接合面21と凹状接合面31を設ける対象を逆の組み合わせにしてもよい。
【0027】
<3.1>凸状接合面
支柱本体20の下部には、円周に直交する断面が円弧状の凸状接合面21を形成する。
凸状接合面21は環状を呈する先細状の球面であり、外方にはらみ出した湾曲面として形成されている。
換言すると凸状接合面21は、内周面が外周面より軸方向に向けて長く延出しており、内外の周面間に湾曲して形成されている。
【0028】
<3.2>凹状接合面
鋼管製の基礎筒31の上端部には凹状接合面31を形成する。
凹状接合面31は、環状を呈する球面であり、内方に窪んだ湾曲面として形成されている。
換言すると凹状接合面31は、外周面が内周面より軸方向に向けて長く延出していて、内外の周面間に内側に窪んだ曲面として形成されている。
【0029】
<3.3>接合面の曲率半径の関係
図3を参照して説明する。
本例では、凸状接合面21と凹状接合面31の曲率半径rが互いに等しい関係にある形態について説明する。
より詳細には、湾曲した両接合面21,32の中心Oと曲率半径rが共通する。
両接合面21,32の曲率半径rは適宜選択が可能であるが、支柱本体20または基礎筒32を構成する鋼管の径より大きい寸法関係にしておく。
【0030】
凸状接合面21と凹状接合面31の曲率半径の関係は、凹状接合面31の曲率半径を凸状接合面21より大きい関係に形成してもよい。
【0031】
各接合面21,31の曲率半径を上記した関係にするのは、凸状接合面21と凹状接合面31との間に密着面を確保しながら回動させるためである。
【0032】
<3.4>張出曲面と受曲面の形成方法
凸状接合面21と凹状接合面31の曲面加工は、切削加工または研磨加工等により簡易に行うことができる。
凸状接合面21および凹状接合面31を構成する鋼管に対して、直接、加工して形成できるので、分離独立した接合面要素を鋼管の端部に後付けする手間が省ける。
したがって、鋼管製の支柱本体20と基礎筒31の接合部に対して、接合面を低コストで形成することができる。
【0033】
<3.5>支柱本体と基礎筒の断面径と肉厚の関係
支柱本体20を構成する鋼管と、基礎筒31を構成する鋼管の断面径と鋼管厚は適宜選択が可能である。
本例では、支柱本体20を構成する鋼管と、基礎筒31を構成する鋼管の断面径と鋼管厚が共に等しい関係にある形態について説明するが、上下の鋼管の断面径は異なる径の組み合わせであってもよい。
要は支柱本体20と基礎筒31の接合部において、支柱本体20の回動を可能とするだけの湾曲した凹凸状の接合面が形成してあればよい。
【0034】
<4>間隔保持機能を具備したリンク機構
上位横梁36、下位横梁37および連結材38により間隔保持機能を具備したリンク機構を構成する。
リンク機構は、基礎筒31で支柱本体20を回動可能に支承しながら、凸状接合面21と凹状接合面31との接合させた保持支柱本体20と基礎筒31との接合部を分離不能に連結する。
【0035】
<4.1>上位横梁
上位横梁36は支柱本体20に係留して反力を得るための内部反力部材である。
上位横梁36は、支柱本体20を横断可能な全長を有する単数または複数の交差させた棒状の梁材からなる。
上位横梁36を構成する梁材には、例えば鋼棒等の棒材または鋼管等の筒体を使用できる。
上位横梁36を複数の梁材で構成する場合、梁材は同径の組み合わせでもよいし、異径の組み合わせでもよい。
【0036】
<4.1.1>上位横梁の配置形態
本例では、2本の梁材を十字形に交差させて上位横梁36を構成する形態について説明する。
複数の梁材を交差させて上位横梁36を構成する場合、上下に隣り合う梁材の間で荷重を伝達し得るように、上下に隣り合う梁材の外周面が互いに接面して節点となるように設置する。
【0037】
<4.1.2>上位横梁の係留構造
支柱本体20の下部周面には、直径方向へ向けて複数対の位置決め孔20aを開設しておき、これら一対の位置決め孔20a,20aに上位横梁36を構成する2本の梁材を挿通して取り付ける。
上位横梁36を構成する梁材の両端部は、支柱本体20の位置決め孔20aに係留してあるだけである。
上位横梁36を構成する梁材の両端部を支柱本体20の位置決め孔20aに剛結(固定)しないのは、支柱本体20の傾倒時に上位横梁36と連結材38の連結部に応力を作用させないためである。
【0038】
<4.1.3>上位横梁の貫通孔
上位横梁36を構成する梁材の中央には貫通孔36aが開設してある。
上位横梁36を構成する上位の梁材の貫通孔36aは均一径に形成するが、上位横梁36を構成する下位の梁材の貫通孔36bは連結材38の揺動を許容するようにテーパ孔(円錐台形の孔)として形成する。
【0039】
<4.1.4>上位横梁の半球穴
さらに上位に位置する梁材の貫通孔36aの上部には、すり鉢状の半球穴36cが開設してある。
上位横梁36を構成する最上位の梁材に半球穴36cを設けたのは、後述する半球状のナット要素39aを回動自在に収容して、上位横梁36と連結材38の上部との連結部における回動を許容し易くするためである。
なお、両横梁36,37の貫通孔36a,37aの口径は、連結材38の回動を許容するように、連結材38の径に対して余裕を持たせた寸法にしておく。
【0040】
<4.2>下位横梁
下位横梁37は基礎筒31に係留して反力を得るための内部反力部材である。
下位横梁37は基礎筒31を横断可能な全長を有する単数または複数の交差させた棒状の梁材からなる。
下位横梁37を構成する梁材には、例えば鋼棒等の棒材または鋼管等の筒体を使用できる。
下位横梁37を複数の梁材で構成する場合、梁材は同径の組み合わせでもよいし、異径の組み合わせでもよい。
【0041】
<4.2.1>下位横梁の配置形態
本例では、2本の梁材を十字形に交差させて下位横梁37を構成する形態について説明する。
複数の梁材を交差させて下位横梁37を構成する場合、上下に隣り合う梁材の間で荷重を伝達し得るように、上下に隣り合う梁材の外周面が互いに接面して節点となるように設置する。
【0042】
<4.2.2>下位横梁の係留構造
基礎筒31の上部周面には、直径方向へ向けて複数対の位置決め孔31aを開設しておき、これら一対の位置決め孔31a,31aに下位横梁37を構成する2本の梁材を挿通して取り付ける。
下位横梁37を構成する梁材の両端部は、基礎筒31の位置決め孔31aに係留してあるだけである。
下位横梁37を構成する梁材の両端部を礎筒31の位置決め孔31aに剛結(固定)しないのは、支柱本体20の傾倒時に下位横梁37と連結材38の連結部に応力を作用させないためである。
【0043】
<4.2.3>下位横梁の貫通孔
下位横梁37を構成する梁材の中央には貫通孔37aが開設してある。
【0044】
<4.3>連結材
連結材38は上位横梁36と下位横梁37との間を、荷重を伝達可能に連結するための連結部材である。
【0045】
<4.3.1>連結材の例示
本例では、連結材38を両ネジボルトで構成する形態について説明するが、連結材38は公知の他の荷重伝達部材を含む。
【0046】
<4.3.2>ナット要素
両横梁36,37の貫通孔36a,36b,37aを貫通させた連結材38の両端部には、ナット要素39a,39bを螺着する。
上位のナット要素39aはナットと半球状の座金を別体または一体に形成したもの、または外形が球体状のナットを使用する。
下位のナット要素39bは公知の六角ナットを使用できる。
【0047】
<5>控えロープ
控えロープ(図示を省略)は、支柱本体20の起立状態を保持するための単数または複数のロープ材であり、支柱本体20の頭部と山側斜面に設けたアンカーとの間に張設してある。
控えロープの一部に緩衝装置を介装して、支柱本体20の傾倒時に運動エネルギーを吸収するように構成してもよい。
【0048】
[傾倒継手装置の組立て方法]
つぎに傾倒継手装置30の組立て方法について説明する。
【0049】
<1>上位横梁の組付け(
図5A)
支柱本体20の下部周面に開設した位置決め孔20aに上位横梁36を構成する2本の梁材をそれぞれ外部から差し込んで十字形状に配置する。
上位横梁36を設置する際、上位横梁36を構成する2本の梁材の中央に開設した貫通孔36aを同一線上に揃えておく。
【0050】
<2>連結材の上部の組付け(
図5A)
つぎに、支柱本体20の下方から連結材38を上向きに差し込み、上位横梁36の交差部に形成した貫通孔36aに連結材38の上部を挿通させる。
十字形に交差する上位横梁36の交差部に連結材38を挿通することで、上位横梁36を構成する2本の梁材が支柱本体20の中心にセンタリングされた状態で係留される。
【0051】
上位横梁36を構成する2本の梁材の交差部に連結材38を挿通させた後、上位横梁36の上方に露出した連結材38の上部に半球状のナット要素39aを螺着して、連結材38の上端を上位横梁36に連結する。
【0052】
支柱本体20の内部に作業者の手が差し入れ可能なように、支柱本体20の底面が開放されているため、支柱本体20の底部開口を通じて上位横梁36や連結材38のセット作業を簡単に行える。
【0053】
<3>下位横梁の組付け(
図5B)
基礎筒31の周面に開設した位置決め孔31aに下位横梁37を構成する2本の梁材をそれぞれ外部から差し込んで十字形状に設置する。
下位横梁37を設置する際、下位横梁37を構成する2本の梁材の中央に開設した貫通孔37aを同一線上に揃えておく。
【0054】
<4>接合面の接合
支柱本体20の下部と基礎筒31の上部を突き合わせて、凸状接合面21と凹状接合面31とを接面させる。
【0055】
<5>連結材の組付け(
図3)
両接合面21,31の接面作業を行う際、連結材35の下部を下位横梁37の交差部に差し込み、下位横梁37の下側に突出した連結材35の露出部にナット要素39bを螺着する。
下位のナット要素39bを締め付けて、連結材35の両端部に係留した上位横梁36と下位横梁37の間に連結材35を張設する。
傾倒継手装置30は、上位横梁36、下位横梁37および連結材38による間隔保持機能を具備したリンク機構により、凸状接合面21と凹状接合面31との接合状態を保持する。
【0056】
本発明では、上位横梁36、下位横梁37および連結材30を介して、支柱本体20と基礎筒31との間を連結するだけの簡単な作業を行うことで、傾倒継手装置30の組立て作業と、支柱構造体10の組立て作業を同時に完了することができる。
したがって、支柱構造体10を効率よく組立てることができる。
【0057】
支柱構造体10を設置する際は、傾倒継手装置30のベースプレート33を地表に接地して立設する。
【0058】
<6>傾倒継手装置の固定
傾倒継手装置30は、地中に打設したアンカーピン(図示省略)等によりベースプレート33を固定するか、または基礎筒31の一部に斜面山側アンカーおよび斜面谷側アンカーに接続した上下一対の位置決めロープを連結して位置決めする。
【0059】
傾倒継手装置30を所定位置に固定して支柱構造体10の立設作業を完了したら、隣り合う各支柱10間に防護ネット50を取付けて防護柵を完成する。
【0060】
[支柱の傾倒作用]
つぎに
図3と
図5Cを参照しながら、受撃時における支柱構造体10の傾倒作用について説明する。
【0061】
<1>防護ネットの受撃
防護ネット50に落石等の崩落物が衝突すると、防護ネット50が斜面谷側へ向けて変形する。
【0062】
<2>支柱へ伝達した傾倒力
防護ネット50が斜面谷側へ向けて変形することで、支柱構造体10に傾倒力が伝わり、傾倒力は支柱本体20の傾倒力として作用する。
【0063】
<3>支柱本体の傾倒
支柱本体20は傾倒継手装置30を介装して全周方向(全方向)の傾倒を許容する状態で立設されているので、支柱本体20に傾倒力が作用すると、支柱本体20は
図3の起立状態から
図5Cに示すように傾倒継手装置30の接合面21,31の中心Oを起点として傾倒する。
支柱本体20が傾倒する際、基礎筒31は変位しない。
【0064】
<3.1>支柱本体の回転軸
図5Cを参照しながら傾倒継手装置30による傾倒作用について詳しく説明する。
傾倒継手装置30は、支柱本体20の下部の凸状接合面21と、基礎筒31の上部の凹状接合面32とが湾曲面を通じて密着して接面した構造になっている。
そのため、支柱本体20に傾倒力が作用すると、支柱本体20は、凸状接合面21と凹状接合面32とが接面する円弧面の中心Oを回転軸として回動する。
このように本発明では、支柱本体20の下部に傾倒継手装置30を組み付けるだけの簡単に作業で以て、全周方向へ向けて支柱本体20の傾倒を許容できる。
【0065】
<3.2>支柱構造体に作用する傾倒力
防護ネット50を通じて支柱構造体10に傾倒力が伝達される。
支柱本体20の下部にピボット構造の傾倒継手装置30を設けたことで、受撃時において、支柱本体20に対して軸力とせん断力が作用するものの、支柱本体20の下部に曲げモーメントが作用することがない。
そのため、支柱本体20および傾倒継手装置30を曲げモーメントに配慮した高強度に設計する必要がなくなる。
【0066】
<3.3>接合面の保持作用
傾倒継手装置30に対して支柱本体20が傾倒する際、傾倒継手装置30の接合面21,31が離間して接面状態が解消されるおそれがあるが、傾倒継手装置30は、上位横梁36、下位横梁37および連結材38による間隔保持機能を具備したリンク機構により、傾倒継手装置30の接合面21,31の接合状態が保持される。
【0067】
以降に傾倒継手装置30の接合面21,31の保持作用について詳しく説明する。
支柱本体20の下部に設けた上位横梁36と、基礎筒31の上部に設けた下位横梁37との間が連結材38によって一定の間隔を保持して連結されている。
そのため、連結材38に張力が作用しても、連結材38の強度が張力に卓越するため、傾倒継手装置30の接合面21,31の接面状態を保持したまま、支柱本体20の回動を許容する。
【0068】
<3.4>傾倒継手装置の回動抵抗
支柱本体20の傾倒に伴い、連結材38の上部と上位横梁36との連結部に曲げ力が作用する。
傾倒継手装置30は、連結材38と上位横梁36との間が回動自在に連結してあるので、支柱本体20が傾倒しても支柱本体20の回動中心は変位しない。
仮に連結材38が傾倒しようとしても、連結材38の上部と上位横梁36との連結部が回動するため、連結材38の上部と上位横梁36との連結部に曲げ力が作用しない。
したがって、支柱本体20の傾倒時における、傾倒継手装置30の回動抵抗が小さくなる。
【0069】
なお、支柱本体20の傾倒時に連結材38の上部と上位横梁36との連結部に過大な負荷が作用することが想定される。
本発明では、連結材38の上部と上位横梁36との間が回動自在に連結してあるので、支柱本体20が傾倒しても、連結材38と上位横梁36の連結部に過大な負荷がかからない。
したがって、連結材38はほぼ鉛直状態を保ったまま、支柱本体20の傾倒を許容することができる。
【0070】
[実施例2]
以降に他の実施例について説明するが、その説明に際し、前記した実施例1と同一の部位は同一の符号を付してその詳しい説明を省略する。
【0071】
<1>接合面の拡張手段
図6を参照して両接合面21,31の増厚手段について説明する。
凸状接合面21と凹状接合面31との面積を拡張する場合は、支柱本体20および基礎筒31を構成する鋼管の端部に別途の鋼材(鋼板または鋼管)を外装し、外装した鋼材を鋼管本体に溶接する等して一体に固着して所望の厚さの補強増厚部31b,20bを形成する。
【0072】
増厚した各補強増厚部31b,20bを含めた鋼管の端部に、湾曲加工を施こすことで、凸状接合面21または凹状接合面31を形成する。
【0073】
本例では、支柱本体20用の鋼管および基礎筒31用の鋼管の両鋼管の端部を増厚して凸状接合面21と凹状接合面31を拡張した形態について説明するが、何れか一方の鋼管のみを増厚して、凸状接合面21または凹状接合面31の一方の面積を拡張する場合もある。
【0074】
<2>本例の効果
本例にあっては、支柱本体20および基礎筒31を構成する鋼管が薄厚であっても、鋼管の端部の管厚を増厚して、所望の広さの凸状接合面21または凹状接合面31を任意の広さに拡張して形成できる。
全長に亘って厚さの厚い鋼管を使用する場合と比べて、凸状接合面21と凹状接合面31を経済的に拡張することができる。
さらに、支柱本体20および基礎筒31を構成する鋼管の端部を厚肉に形成して補強されるので、傾倒継手装置の耐久性がさらに向上する。
【符号の説明】
【0075】
10・・・・支柱構造体
20・・・・支柱本体
20a・・・位置決め孔
21・・・・凸状接合面
30・・・・傾倒継手装置
31・・・・基礎筒
31a・・・位置決め孔
31b・・・
32・・・・凹状接合面
33・・・・ベースプレート
33a・・・開口
36・・・・上位横梁
36a・・・上位横梁の貫通孔
36b・・・上位横梁のテーパ状の貫通孔
36c・・・上位横梁の半球穴
37・・・・下位横梁
37a・・・下位横梁の貫通孔
38・・・・連結材
39a・・・上位のナット要素
39b・・・下位のナット要素
50・・・・防護ネット
51・・・・防護ネットを構成するロープ材
52・・・・防護ネットを構成するネット材
【要約】
【課題】支柱を効率よく低コストで立設できて、受撃時における支柱への曲げモーメントをなくして支柱を経済的に製作できる、支柱の立設構造を提供すること。
【解決手段】支柱本体20と、支柱本体20を全周方向へ向けて傾倒可能に支える傾倒継手装置30とを具備し、傾倒継手装置30は、支柱本体20の下部を全周方向に向けて回動可能に支える基礎筒31と、支柱本体20の下部に内挿して係留させた上位横梁36と、基礎筒31の上部に内挿して係留させた下位横梁37と、上位横梁36と下位横梁37との間を縦方向に連結する連結材38とを具備し、上位横梁36、下位横梁37および連結材38によるリンク機構により支柱本体20と基礎筒31の間を分離不能に連結しつつ、支柱本体20を基礎筒31で回動可能に支承して構成する。
【選択図】
図3