(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-20
(45)【発行日】2025-01-06
(54)【発明の名称】高活性で安全性の高いカルダミン・ビオリフォリア由来のセレノプロテイン標準サンプルの製造及びその使用
(51)【国際特許分類】
C12P 21/02 20060101AFI20241223BHJP
A23L 33/185 20160101ALI20241223BHJP
A61K 36/31 20060101ALI20241223BHJP
C07K 14/415 20060101ALN20241223BHJP
C12N 9/42 20060101ALN20241223BHJP
C12N 9/76 20060101ALN20241223BHJP
C12N 9/50 20060101ALN20241223BHJP
【FI】
C12P21/02 A
A23L33/185
A61K36/31
C07K14/415
C12N9/42
C12N9/76
C12N9/50
(21)【出願番号】P 2024509147
(86)(22)【出願日】2023-08-23
(86)【国際出願番号】 CN2023114545
(87)【国際公開番号】W WO2024032812
(87)【国際公開日】2024-02-15
【審査請求日】2024-02-14
(31)【優先権主張番号】202211119536.6
(32)【優先日】2022-09-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】524059397
【氏名又は名称】恩施徳源▲セレン▼材料工程科技有限公司
【氏名又は名称原語表記】ENSHI SE-RUN MATERIAL ENGINEERING TECHNOLOGY CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】Standard Factory Building No. 3, Industrial Transfer Industrial Park, 153 Jingui Avenue Enshi, Hubei 445000, China
(74)【代理人】
【識別番号】110002262
【氏名又は名称】TRY国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】劉 海遠
(72)【発明者】
【氏名】叢 欣
(72)【発明者】
【氏名】徐 波
(72)【発明者】
【氏名】張 悦
(72)【発明者】
【氏名】李 潔
(72)【発明者】
【氏名】李 翠
(72)【発明者】
【氏名】祝 振洲
(72)【発明者】
【氏名】程 水源
【審査官】高山 敏充
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第111748046(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第104744110(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第112515032(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第105795095(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第112535233(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第110256600(CN,A)
【文献】米国特許第4486282(US,A)
【文献】中国特許出願公開第106916871(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第107815483(CN,A)
【文献】Journal of Functional Foods,2021年,79,104412
【文献】Journal of Food Science,2019年,Vol. 84, Iss 12,pp.3504-3511
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P
A23L
A61K
C07K
C12N
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
FSTA/AGRICOLA/BIOSIS/BIOTEHCNO/CABA/SCISEARCH/TOXCENTER(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高活性で安全性の高いカルダミン・ビオリフォリア由来のセレノプロテイン標準サンプルの製造方法であって、
カルダミン・ビオリフォリア粉末をセルラーゼで加水分解し、酵素分解完了後、酵素を不活性化し、遠心分離して上清を得るステップ1と、
アルカリプロテアーゼ、トリプシン、パパイン、プロテアーゼK、及びプロテアーゼXIVからなる複合酵素を上清に加えて酵素分解処理を継続し、電気透析を同時に行って、タンパク質が錯化する重金属を解離させ、重金属イオンと無機セレン塩イオンを電気透析で除去した後に酵素を不活性化するステップ2と、
ステップ2で得られた反応液を濃縮した後、乾燥して、セレノプロテイン標準サンプルを得るステップ3と、
を含むことを特徴とするセレノプロテイン標準サンプルの製造方法。
【請求項2】
前記ステップ1において、セルラーゼの添加量は、カルダミン・ビオリフォリア粉末の0.1~10wt%であり、セルラーゼによる酵素分解は、温度30~50℃、時間1~4hであることを特徴とする請求項1に記載のセレノプロテイン標準サンプルの製造方法。
【請求項3】
前記ステップ1において、遠心分離のパラメータは、1000~10000 r/min、5~60 minであることを特徴とする請求項1に記載のセレノプロテイン標準サンプルの製造方法。
【請求項4】
前記ステップ2において、複合酵素の添加量は、カルダミン・ビオリフォリア粉末の0.1~10wt%であり、複合酵素による酵素分解は、温度30~50℃であることを特徴とする請求項1に記載のセレノプロテイン標準サンプルの製造方法。
【請求項5】
前記ステップ2において、電気透析のパラメータは、電圧15~100V、電流10A以下、電極水流速1~100L/h、淡水と濃縮水の流速1~100L/h、淡水と濃縮水の体積比は1:1であり、電極水は0.1~10wt%の硫酸ナトリウム溶液を用いることを特徴とする請求項1に記載のセレノプロテイン標準サンプルの製造方法。
【請求項6】
前記電気透析の処理時間は0.5~8hであることを特徴とする請求項5に記載のセレノプロテイン標準サンプルの製造方法。
【請求項7】
前記ステップ2において、酵素不活性化処理の温度は85~95℃であることを特徴とする請求項1に記載のセレノプロテイン標準サンプルの製造方法。
【請求項8】
前記ステップ3において、前記乾燥方式は、噴霧乾燥又は凍結乾燥であることを特徴とする請求項1に記載のセレノプロテイン標準サンプルの製造方法。
【請求項9】
請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の製造方法により得られた高活性で安全性の高いカルダミン・ビオリフォリア由来のセレノプロテイン標準サンプルの食品または医薬品の製造における使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セレノプロテインの技術分野に属し、具体的には、生物活性が高く、安全性が高く、重金属含有量が低いカルダミン・ビオリフォリア由来のセレノプロテイン標準サンプルの製造プロセス、及び得られたカルダミン・ビオリフォリア由来のセレノプロテイン標準サンプルの食品、医薬品の製造における使用に関する。
【背景技術】
【0002】
『GB1903.28-2018食品安全国家基準食品栄養強化剤セレノプロテイン』には、セレノプロテイン標準品が開示されており、この基準では、セレノプロテインの供給源は、セレン含有量の高い大豆などの食用植物を、脱脂、水抽出、エタノール沈殿、乾燥の工程を経て精製した、セレノメチオニンを豊富に含む食品栄養強化剤であると規定されている。しかし、大豆原料のセレン含有量が一般的に低いという問題及び精製技術が不十分なため、現在の市場には、基準に適合するセレノプロテイン製品が存在しておらず、実験室用の標準サンプルの製造でさえも困難であり、産業上利用するには大きな障害が存在している。また、研究により明らかなように、セレノシステイン/セレノシスチンは、セレノメチオニンよりも安全性が高く、セレノシステインは人体の21番目の必須アミノ酸として学界ですでに定義されているため、生物活性が高く、安全性が高く、セレノシステイン/セレノシスチン含有量が高いセレノタンパクは重要な応用価値がある。
【0003】
セレンを豊富に含む植物、例えば、ブロッコリー、キャベツ、カルダミン・ビオリフォリア、稲などの植物は、通常、重金属汚染物も多く含有している。これらの重金属は、主にカドミウム、鉛、ヒ素などであり、その理由としては、セレンリッチ植物を栽培するセレンリッチ土壌中の重金属の含有量も通常高く、しかも、セレンとカドミウムは随伴しているため、植物は、セレンリッチであると同時に一定量の重金属も豊富に含まれており、その結果として、植物中の重金属が基準値を超えるようになり、さらに食品安全のリスクをもたらす。中でも、カルダミン・ビオリフォリアは、セレンを蓄積する能力が非常に強い植物であり、しかも、有機セレンの形態は、主にセレノシステイン(セレノシスチンで換算)を主としている。しかし、現在、カルダミン・ビオリフォリアは、そのまま食用にしたり、乾燥粉砕して食品原料にしたり、単純抽出や有機溶媒抽出したものをそのまま食品原料にしたりすることが多く、土壌の重金属バックグラウンド値が高い場合には重金属による食品汚染のリスクが高い。また、重金属は植物中でほとんど酵素の活性中心がタンパク質構造と錯体を形成し、ペプチド類と錯体を形成し、例えば、植物キレートペプチドと結合して植物の重金属に対する耐性を向上させるため、水抽出及び単純な有機溶媒抽出では、重金属とキレートペプチドとの結合を効果的に破壊することができず、重金属の効果的な除去を実現することができなかった。
【0004】
現在、植物の有機セレノプロテインの抽出は、有機溶剤、強酸や強アルカリ、エタノールなどを用いるのが一般的であり、セレノプロテインの4次構造を破壊しやすく機能成分の安定性を低下させ、程度の異なる不活性化などを引き起こすのみならず、発生する廃水や廃液が多く、環境汚染が深刻で、また、生産の安全上のリスクが存在する。一方、通常の水抽出法は、重金属や灰分などの成分の含有量が多く、食品安全のリスクが存在し、また、分離されたセレン成分の形態が不明確であり、その有効性、活性、安全性が保証されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来技術の問題に対して、本発明は、カルダミン・ビオリフォリアを原料として、重金属含有量が低く、生物活性が高く、安全性が高く、セレノシステイン/セレノシスチン含有量が高いセレノプロテイン標準サンプルを生産するプロセスを提供する。このプロセスによって製造されたセレノプロテイン標準サンプルにおいて、セレノシステイン/セレノシスチン含有量は総セレン含有量の90%以上を占めることができ、かつ総セレン含有量、重金属含有量、タンパク質含有量及び特徴的な有機セレン形態などの指標は、すべてセレノプロテインの国家基準の要求を満たし、しかも著しく上回っている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の技術的解決手段は、具体的には以下のとおりである。
【0007】
高活性で安全性の高いカルダミン・ビオリフォリア由来のセレノプロテイン標準サンプルの製造方法であって、具体的には、
カルダミン・ビオリフォリア粉末をセルラーゼで加水分解し、酵素分解完了後、酵素を不活性化し、遠心分離して上清を得るステップ1と、
アルカリプロテアーゼ、トリプシン、パパイン、プロテアーゼK、及びプロテアーゼXIVからなる複合酵素を上清に加えて酵素分解処理を継続し、電気透析を同時に行って、タンパク質が錯化する重金属を解離させ、重金属イオンと無機セレン塩イオンを電気透析で除去した後に酵素を不活性化するステップ2と、
ステップ2で得られた反応液を濃縮した後、乾燥して、セレノプロテイン標準サンプルを得るステップ3と、を含む。
【0008】
さらに、上記の技術的解決手段において、ステップ1におけるセルラーゼの添加量は、カルダミン・ビオリフォリア粉末の0.1~10wt%であり、セルラーゼによる酵素分解は、温度30~50℃、時間1~4hである。
【0009】
さらに、上記の技術的解決手段において、ステップ1における遠心分離のパラメータは、1000~10000r/min、5~60minであり、セルラーゼ分解後に残存する大粒の不溶性物質の一部を遠心分離により除去する。
【0010】
さらに、上記の技術的解決手段において、ステップ2における複合酵素の添加量は、カルダミン・ビオリフォリア粉末の0.1~10wt%であり、複合酵素による酵素分解は、温度30~50℃であり、よりさらに、複合酵素中のアルカリプロテアーゼ、トリプシン、パパイン、プロテアーゼK、及びプロテアーゼXIVの質量比は1:1:1:1:1である。
【0011】
さらに、上記の技術的解決手段において、ステップ2における電気透析のパラメータは、電圧15~100V、電流10A以下、電極水流速1~100L/h、淡水と濃縮水の流速1~100L/h、淡水と濃縮水の体積比は1:1であり、電極水は0.1~10wt%の硫酸ナトリウム溶液を用いる。
【0012】
よりさらに、ステップ2における酵素分解及び電気透析の処理時間は0.5~8hである。
【0013】
さらに、上記の技術的解決手段において、酵素不活性化処理の温度は85~95℃である。
【0014】
さらに、上記の技術的解決手段において、ステップ3における乾燥方式は、噴霧乾燥又は凍結乾燥である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の有益な効果は以下のとおりである。
1)まず、セルラーゼを用いてカルダミン・ビオリフォリア中のタンパク質と結合する繊維を分解し、有機セレンを豊富に含むタンパク質を放出し、次に、複合酵素によって高分子タンパク質を標的として切断してアミノ酸にし、また、本発明による複合酵素は、セレノシステイン/セレノシスチンを効率的かつ最大限選択的に解離することができ、複合酵素は、酵素分解と同時にタンパク質と錯化した重金属を解離させて、さらに遊離の重金属イオンにすることができ、電気透析技術と組み合わせて、高活性セレノシステイン/セレノシスチンを特徴とするセレノプロテインの安定性に影響せずに、重金属イオンと無機セレンを除去する。
2)本発明では、酵素分解条件が温和で酵素分解時間が短く、強酸や強アルカリ及び有機溶媒を使用しないため、セレノシステイン/セレノシスチンの有機セレン形態の定常状態の変換を最大限に実現して保護し、生理活性を維持することができる。
3)本発明は、電気透析により、セレノシステイン/セレノシスチンを豊富に含むセレノプロテインの効率的かつ選択的な解離が複合酵素によって促進され得ることを見出した。
4)本発明で製造されたカルダミン・ビオリフォリア由来のセレノプロテイン標準サンプルでは、セレン形態は主にセレノシステイン/セレノシスチンであり、その含有量は総セレン含有量の90%以上に達することができ、セレノシステイン/セレノシスチンは、セレノメチオニンよりも安全性が高く、本発明では、動物試験及び応用によりその高活性と高安全性もさらに検証された。
5)本発明で製造されたカルダミン・ビオリフォリ由来のセレノプロテイン標準サンプルでは、総セレン含有量は1500~5000mg/kgであり、総セレン含有量に占める有機セレン含有量の割合は99.9%以上に達することができ、有機セレン含有量は『DBS42/002-2022有機セレンリッチ食品のセレン含有量の要件』で要求される有機セレン含有量の80%以上をはるかに上回っており、そのため、無機セレン残留による安全性のリスクをほぼ排除できるので、安全性がより高くなり、セレノプロテイン中のタンパク質含有量が60%以上であり、抽出物中の重金属の鉛、ヒ素、水銀、カドミウムなどの重金属がすべて未検出であり、灰分の含有量が2%以下になっているため、その安全性も高い。以上より、本発明により得られたカルダミン・ビオリフォリ由来のセレノプロテイン標準サンプルの各パラメータは、セレノプロテインの国家基準の要求を満たし得るか、又はそれを著しく上回っている。具体的には、以下の表を参照されたい。
【0016】
上表から、本発明で製造されたカルダミン・ビオリフォリ由来のセレノプロテイン標準サンプルは、市場のセレノプロテイン標準品の不足を補うことが期待され得る。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】セレン製剤を1回投与した血清グルタチオンペルオキシダーゼの活性の変化のグラフである。
【
図2】セレン製剤を複数回投与した血清グルタチオンペルオキシダーゼの活性の変化のグラフである。
【
図3】各セレン製品のラット肝臓に対する毒性の比較図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施例を参照して、本発明の技術的解決手段を明確かつ完全に説明する。なお、本明細書に記載される具体的な実施形態は、本発明を説明し解釈するためにのみ使用され、本発明を限定するために使用されるものではない。
【0019】
下記の実施例では、特に断らない限り、いずれも従来の方法であり、前記試薬及び材料は、特に断らない限り、いずれも市販品として入手することができる。
【0020】
実施例1
本実施例におけるカルダミン・ビオリフォリ由来のセレノプロテインの製造プロセスは、具体的には、以下の通りである。
(1)カルダミン・ビオリフォリアを乾燥して粉砕し、40メッシュの篩にかけ、カルダミン・ビオリフォリア粉末及びセルラーゼ(両者の質量比は1:0.02)を純水に加え、40℃で振とうして2h酵素分解し、その後、85℃に昇温して酵素を不活性化し、さらに遠心分離機を用いて3000r/minで15min遠心分離し、沈殿不純物を除去し、上清を得た。
(2)複合酵素の添加量とカルダミン・ビオリフォリア粉末との質量比が0.015:1となるように、上清にアルカリプロテアーゼ、トリプシン、パパイン、プロテアーゼK、及びプロテアーゼXIV(1:1:1:1:1)からなる複合酵素を添加し、複合酵素を添加した上清を、作動パラメータとして、電圧15V、電流3.3A、電極水流速12L/h、淡水及び濃縮水の流速20L/h、淡水と濃縮水の体積比1:1、電極水として2%硫酸ナトリウム溶液を用いる電気透析装置に入れて、電気透析処理を同時に行った。このプロセスにおいて、酵素分解反応液の温度を45℃に維持して、2h反応させた。反応終了後、85℃に昇温して酵素を不活性化し、濾液を収集した。
(3)濾液を真空濃縮し、次に噴霧乾燥して、目的生成物を得た。
【0021】
実施例2
本実施例におけるカルダミン・ビオリフォリ由来のセレノプロテインの製造プロセスは、具体的には、以下の通りである。
(1)カルダミン・ビオリフォリアを乾燥して粉砕し、40メッシュの篩にかけ、カルダミン・ビオリフォリア粉末及びセルラーゼ(両者の質量比は1:0.02)を純水に加え、40℃で振とうして2h酵素分解し、その後、85℃に昇温して酵素を不活性化し、さらに遠心分離機を用いて3000r/minで15min遠心分離し、沈殿不純物を除去し、上清を得た。
(2)上清にアルカリプロテアーゼ、トリプシン、パパイン、プロテアーゼK、及びプロテアーゼXIV(1:1:1:1:1)からなる複合酵素を添加した。ここで、複合酵素の添加量とカルダミン・ビオリフォリア粉末との質量比は0.015:1であり、複合酵素を添加した上清を、作動パラメータとして、電圧13V、電流3A、電極水流速15L/h、淡水及び濃縮水の流速22L/h、淡水と濃縮水の体積比1:1、電極水として2%硫酸ナトリウム溶液を用いる電気透析装置に入れて、電気透析処理を同時に行った。このプロセスにおいて、酵素分解反応液の温度を45℃に維持して、2h反応させた。反応終了後、85℃に昇温して酵素を不活性化し、濾液を収集した。
(3)濾液を真空濃縮し、次に噴霧乾燥して、目的生成物を得た。
【0022】
比較例1
本実施例におけるカルダミン・ビオリフォリ由来のセレノプロテインの製造プロセスは、具体的には、以下の通りである。
(1)カルダミン・ビオリフォリアを乾燥して粉砕し、40メッシュの篩にかけ、カルダミン・ビオリフォリア粉末及びセルラーゼ(両者の質量比は1:0.02)を純水に加え、40℃で振とうして2h酵素分解し、その後、85℃に昇温して酵素を不活性化し、さらに遠心分離機を用いて3000r/minで15min遠心分離し、沈殿不純物を除去し、上清を得た。
(2)上清にアルカリプロテアーゼ、トリプシン、パパイン、プロテアーゼK、及びプロテアーゼXIV(1:1:1:1:1)からなる複合酵素を添加した。ここで、複合酵素の添加量とカルダミン・ビオリフォリア粉末との質量比は0.015:1であり、酵素分解反応液の温度を45℃に維持して、2h反応させた。反応終了後、85℃に昇温して酵素を不活性化し、濾液を収集した。
(3)濾液を真空濃縮し、次に噴霧乾燥して、目的生成物を得た。
【0023】
比較例2
本実施例におけるカルダミン・ビオリフォリ由来のセレノプロテインの製造プロセスは、具体的には、以下の通りである。
(1)カルダミン・ビオリフォリアを乾燥して粉砕し、40メッシュの篩にかけ、カルダミン・ビオリフォリア粉末及びセルラーゼ(両者の質量比は1:0.02)を純水に加え、40℃で振とうして2h酵素分解し、その後、85℃に昇温して酵素を不活性化し、さらに遠心分離機を用いて3000r/minで15min遠心分離し、沈殿不純物を除去し、上清を得た。
(2)作動パラメータとして、電圧15V、電流3.3A、電極水流速12L/h、淡水及び濃縮水の流速20L/h、淡水と濃縮水の体積比1:1、電極水として2%硫酸ナトリウム溶液を用いる電気透析装置に上清を入れて、電気透析処理を行った。このプロセスにおいて、反応液の温度を45℃に維持して、2h反応させた。反応終了後、濾液を収集した。
(3)濾液を真空濃縮し、次に噴霧乾燥して、目的生成物を得た。
【0024】
比較例3
本実施例におけるカルダミン・ビオリフォリ由来のセレノプロテインの製造プロセスは、具体的には、以下の通りである。
(1)カルダミン・ビオリフォリアを乾燥して粉砕し、40メッシュの篩にかけ、カルダミン・ビオリフォリア粉末を純水に加え、40℃で振とうして2h抽出し、さらに遠心分離機を用いて3000r/minで15min遠心分離し、沈殿不純物を除去し、上清を得た。
(2)作動パラメータとして、電圧15V、電流3.3A、電極水流速12L/h、淡水及び濃縮水の流速20L/h、淡水と濃縮水の体積比1:1、電極水として2%硫酸ナトリウム溶液を用いる電気透析装置に上清を入れて、電気透析処理を行った。このプロセスにおいて、反応液の温度を45℃に維持して、2h反応させた。反応終了後、濾液を収集した。
(3)濾液を真空濃縮し、次に噴霧乾燥して、目的生成物を得た。
【0025】
比較例4
本実施例におけるカルダミン・ビオリフォリ由来のセレノプロテインの製造プロセスは、具体的には、以下の通りである。
(1)カルダミン・ビオリフォリアを乾燥して粉砕し、40メッシュの篩にかけ、カルダミン・ビオリフォリア粉末及びセルラーゼ(両者の質量比は1:0.02)を純水に加え、40℃で振とうして2h酵素分解し、その後、85℃に昇温して酵素を不活性化し、さらに遠心分離機を用いて3000r/minで15min遠心分離し、沈殿不純物を除去し、上清を得た。
(2)上清にアルカリプロテアーゼ、トリプシン、パパイン、プロテアーゼK、及びプロテアーゼXIV(1:1:1:1:1)からなる複合酵素を添加した。ここで、複合酵素の添加量とカルダミン・ビオリフォリア粉末との質量比は0.015:1であり、酵素分解反応液の温度を45℃に維持して、2h反応させた。反応終了後、85℃に昇温して酵素を不活性化し、濾液を収集した。
(3)前のステップの濾液を電気透析で処理し、電気透析装置の作動パラメータとして、電圧15V、電流3.3A、電極水流速12L/h、淡水及び濃縮水の流速20L/h、淡水と濃縮水の体積比1:1、電極水として2%硫酸ナトリウム溶液を用いた。このプロセスにおいて、反応液の温度を45℃に維持して、2h反応させた。反応終了後、濾液を収集した。
(4)濾液を真空濃縮し、次に噴霧乾燥して、目的生成物を得た。
【0026】
比較例5
本実施例におけるカルダミン・ビオリフォリ由来のセレノプロテインの製造プロセスは、具体的には、以下の通りである。
(1)カルダミン・ビオリフォリアを乾燥して粉砕し、40メッシュの篩にかけ、カルダミン・ビオリフォリア粉末及びセルラーゼ(両者の質量比は1:0.02)を純水に加え、40℃で振とうして2h酵素分解し、その後、85℃に昇温して酵素を不活性化し、さらに遠心分離機を用いて3000r/minで15min遠心分離し、沈殿不純物を除去し、上清を得た。
(2)上清にアルカリプロテアーゼ、トリプシン、プロテアーゼE、中性プロテアーゼ和プロテアーゼK(1:1:1:1:1)からなる複合酵素を添加した。ここで、複合酵素の添加量とカルダミン・ビオリフォリア粉末との質量比は0.015:1であり、複合酵素を添加した上清を、作動パラメータとして、電圧15V、電流3.3A、電極水流速12L/h、淡水及び濃縮水の流速20L/h、淡水と濃縮水の体積比1:1、電極水として2%硫酸ナトリウム溶液を用いる電気透析装置に入れて、電気透析処理を同時に行った。このプロセスにおいて、酵素分解反応液の温度を45℃に維持して、2h反応させた。反応終了後、85℃に昇温して酵素を不活性化し、濾液を収集した。
(3)濾液を真空濃縮し、次に噴霧乾燥して、目的生成物を得た。
【0027】
実施例1~2及び比較例1~5で製造されたカルダミン・ビオリフォリア由来のセレノプロテインについて、以下の2つの部分を含む検出を行った。
【0028】
(1)成分分析
各セレノプロテインサンプル中のタンパク質の含有量をGB5009.5による方法、灰分の含有量をGB5009.4による方法、総セレン含有量をGB5009.93による方法、有機セレンの含有量をDSB42/002による方法、セレノシステイン(セレノシスチン換算、遊離のセレノシステインは極めて不安定なため、2分子のセレノシステインが結合して1分子のセレノシスチンになる)の割合をT/CHC1001による方法、鉛の含有量をGB5009.75による方法、ヒ素の含有量をGB5009.76による方法、カドミウムの含有量をGB5009.12による方法、水銀の含有量をGB5009.17による方法で検出した。結果を次の表に示す。
【0029】
実施例及び比較例のデータから、電気透析は、各種の重金属、無機セレンや灰分の含有量を効果的に低下させることにより、サンプル中のタンパク質の含有量を増加させることができ、また、複合酵素による分解と電気透析処理とを同時に行うことにより、セレノシスチンの含有量を大幅に増加させることができることが分かる。その理由としては、以下のことが考えられる。まず、酵素分解の組み合わせを用いて、カルダミン・ビオリフォリアの成分をより十分に酵素分解することで、タンパク質と錯化した重金属を十分に解離させることができ、酵素分解の過程で、金属イオンの析出は徐々に発生するので、重金属成分を十分に除去するのに十分な時間をかけて電気透析を行うことができ、酵素分解+電気透析の同時プロセスに伴って解離した重金属成分を迅速に除去し、それによって、重金属環境におけるセレノシスチンなどの生物活性成分の構造変化を軽減し、セレノシスチンの安定性及び生物活性を最大限に保持する。次に、本願で設計された酵素分解の組み合わせは、カルダミン・ビオリフォリア由来のタンパク質をカルダミン・ビオリフォリア植物の組織からより十分に露出又は分離することができ、また、酵素分解の組み合わせによってカルダミン・ビオリフォリア由来のタンパク質をより十分に各種のペプチド又はアミノ酸の断片に酵素分解することにより、セレノシスチンを最大限に解離し、かつこの酵素分解システムで最も安定した状態を維持することができる。また、ヒトセレノプロテインの活性中心がセレノシステインであるため、セレノシステインを活性中心とするセレノプロテイン/セレン酵素の活性を維持することは、ヒトの抗酸化バランスの調整に重要であるが、重金属の存在によりプロテアーゼの4次構造が変化してタンパク質活性が低下することが多いため、上記の方法によって、セレノシステイン/セレノシスチンを特徴とするセレノプロテイン活性に対する重金属の影響をさらに低減することができ、安全性を確保した上で生理活性をさらに向上させることができる。
【0030】
本発明を用いて製造されたセレノプロテイン標準サンプルの総セレンの含有量は1500~5000mg/kgと高く、有機セレンの含有量は99%以上と高く、セレノシスチンの割合は90%以上であり、タンパク質の含有量は60%以上と高く、灰分の含有量は2%以下に抑えることができ、鉛、ヒ素、水銀、カドミウムなどの重金属はいずれも未検出であり、以上の指標(有機セレン形態がセレノシスチンであることを除く)その他の指標は『GB1903.28-2018食品安全国家基準食品栄養強化剤セレノプロテイン』の要件に完全に準拠している。
【0031】
(2)抗酸化活性の動物実験
本発明で製造されたカルダミン・ビオリフォリア由来のセレノプロテイン標準サンプルの酵素活性を検証するために、具体的には、実施例1及び比較例1で製造されたカルダミン・ビオリフォリア由来のセレノプロテインを用いて、以下のプロトコルで抗酸化性の動物試験を行った。
試験は4つの被検サンプル用量群と1つの対照群からなり、4つの用量群は、それぞれ、比較例1低用量群、比較例1高用量群、実施例1低用量群、実施例1高用量群であり、用量(セレン換算)は、それぞれ、0.03mgSe/kg、0.3mgSe/kg、0.02mgSe/kg、0.2mgSe/kgであった。
【0032】
被検物を溶液に調製して飼料に配合し、経口投与し、いずれの動物も1分以内に経口摂取を完了した。対照群には、等体積の蒸留水を与えた。被検物の各群の動物数はいずれも4匹で、対照群は2匹であった。被検物の投与は2つの投与周期に分けられ、連続7日間を1つの投与周期とし、投与頻度は1日1回とした。2つの投与期間の間に溶出期間を設け、比較例1群では、8日間、実施例1群では、10日間とした。
【0033】
動物体内の薬物暴露レベルを観察するために、前大静脈採血法により約5mLの全血を採取し、K2EDTAを抗凝固剤としたラベルを貼付した採血管に加えた。検出指標はセレン製剤を1回及び複数回投与した血清グルタチオンペルオキシダーゼ(GPX)の活性である(キットガイドラインに従って肝臓ホモジネートを製造し、南京建成生物社のキットを用いて検出した)。
【0034】
検出の結果は
図1及び
図2に示す。具体的には、比較例1で製造されたカルダミン・ビオリフォリア由来のセレノプロテインを1回又は複数回投与した場合、血漿GPX活性に有意な影響はなく、実施例1で製造されたカルダミン・ビオリフォリア由来のセレノプロテイン0.14mgSe/kgを1回投与すると、血漿GPX活性を有意に増加させることができ、実施例1で製造されたカルダミン・ビオリフォリア由来のセレノプロテイン0.03mgSe/kg及び0.14mgSe/kgを複数回投与した場合、血漿GPX活性を大幅に増加させることができる。従って、実施例1で製造されたカルダミン・ビオリフォリア由来のセレノプロテインは、血漿GPX活性を大幅に向上させることができ、比較例1で製造されたカルダミン・ビオリフォリア由来のセレノプロテインは、血漿GPX活性に有意な影響はなかった。
【0035】
(3)安全性動物試験
本試験では、雄ラットを用いて3ヶ月間経口投与を繰り返し、本発明で製造されたカルダミン・ビオリフォリア由来のセレノプロテイン(具体的には、実施例1で製造されたもの)、亜セレン酸ナトリウム、セレンリッチ酵母、及び比較例3で製造されたセレノプロテインサンプルの潜在的な毒性を観察・調査した(成人のセレンの1日の安全限界は400μg/人であり、本実験の安全用量は人の場合96μgSe/kg BWに相当し、セレン換算では、すなわち、成人体重60kg換算で5760μg/日に相当し、成人の1日の安全限界の15倍近くである)。
【0036】
3ヶ月投与後、各実験群のラットの肝臓病変は、
図3に示すとおりである。Aはブランク群、Bは亜セレン酸ナトリウム群、Cはセレンリッチ酵母群、Dは比較例3で製造されたセレノプロテイン群、Eは実施例1で製造されたカルダミン・ビオリフォリア由来のセレノプロテイン群である。明らかなように、亜セレン酸ナトリウム群は肝臓の病変を引き起こし、セレンリッチ酵母群と比較例3で製造されたセレノプロテインにも、程度が異なるが、病変が認められ、本発明で製造されたカルダミン・ビオリフォリア由来のセレノプロテイン群は、ブランク対照群と一致しており、肝臓に毒性作用が現れず、本発明で製造されたカルダミン・ビオリフォリア由来のセレノプロテインは、上記の用量では、毒性がないことが証明された。
【0037】
比較例3で製造されたセレノプロテインサンプルも、ある程度の病変をもたらし、その理由は、製造方法と関係があり、製造方法によって、得られたセレノプロテインサンプルは、一定の重金属を含有し、灰分の含有量が高すぎ、その結果、肝臓に損傷を与えた。
【0038】
セレンリッチ酵母中のセレン形態は、主に、肝臓に様々な程度の病変をもたらすセレノメチオニンであるが、本発明で製造されたセレノプロテイン中のセレン形態の約80%は、肝臓に対して毒性作用がないセレノシステイン/セレノシスチンであり、セレノシステイン/セレノシスチンを特徴的な成分とするカルダミン・ビオリフォリア由来のセレノプロテインの安全性は、セレノメチオニンを主成分とするセレンリッチ酵母よりも高く、また、無機セレン(亜セレン酸ナトリウム)よりもはるかに高いことがさらに証明された。
【0039】
さらに異なる用量のカルダミン・ビオリフォリア由来のセレノプロテイン標準サンプル(実施例1で製造されたもの)をラットに与え、用量は、セレン含有量換算で、それぞれ0.15、0.30、0.60mgSe/kgであり、各用量群の精子総数と運動率は次の表に示す。
【0040】
上記の表から分かるように、各用量では、精子総数と運動率に有意な変化が見られなかったことから、本発明で製造されたカルダミン・ビオリフォリア由来のセレノプロテインが高い安全性を有することが証明される。
【0041】
以上のことから、本発明で製造されたカルダミン・ビオリフォリア由来のセレノプロテイン標準サンプルは、各技術指標がセレノプロテインの国家標準の要求を完全に満たすか、または、それを著しく上回っており、また、血漿中のグルタチオンペルオキシダーゼ(GPX)の生物活性を大幅に向上させることができ、さらに抗酸化能力を向上させることができ、安全性に優れているため、市場のセレノプロテイン標準品のギャップを埋めることが期待されている。
【0042】
上記は本発明の好ましい実施形態であり、本発明の権利の範囲を限定するものではなく、なお、当業者にとって、本発明の精神及び原理の範囲内で行われるあらゆる修正、同等の置換及び改良等は、本発明の保護の範囲内に含まれるべきである。