(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-20
(45)【発行日】2025-01-06
(54)【発明の名称】メカニカルシール
(51)【国際特許分類】
F16J 15/34 20060101AFI20241223BHJP
【FI】
F16J15/34 K
(21)【出願番号】P 2022531810
(86)(22)【出願日】2021-06-14
(86)【国際出願番号】 JP2021022550
(87)【国際公開番号】W WO2021261317
(87)【国際公開日】2021-12-30
【審査請求日】2023-12-19
(31)【優先権主張番号】P 2020107548
(32)【優先日】2020-06-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000101879
【氏名又は名称】イーグル工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098729
【氏名又は名称】重信 和男
(74)【代理人】
【識別番号】100204467
【氏名又は名称】石川 好文
(74)【代理人】
【識別番号】100148161
【氏名又は名称】秋庭 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100195833
【氏名又は名称】林 道広
(74)【代理人】
【識別番号】100206911
【氏名又は名称】大久保 岳彦
(72)【発明者】
【氏名】眞角 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】高橋 晃宏
(72)【発明者】
【氏名】内山 智弘
【審査官】羽鳥 公一
(56)【参考文献】
【文献】欧州特許出願公開第1213516(EP,A1)
【文献】国際公開第2016/088659(WO,A1)
【文献】特開2002-267026(JP,A)
【文献】特開2011-074931(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/34-15/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メイティングリングと、該メイティングリングと相対回転摺動するシールリングと、前記シールリングを非回転状態かつ軸方向移動可能な状態で支持し、前記シールリングと当接して前記シールリングの前記メイティングリングに向けた飛び出しを規制する飛び出し規制部を有するケースと、前記シールリングと前記シールリングに対し軸方向に重畳する前記ケースの背面部との間に配置され前記シールリングを前記メイティングリングに向けて軸方向に付勢する付勢手段と、前記ケースと前記シールリングとの隙間を径方向に押圧されてシールする環状の二次シールと、を備えるメカニカルシールであって、
前記ケースは前記二次シールが前記メイティングリングとは軸方向反対側に移動するのを規制する規制壁を有し、
前記シールリングと前記飛び出し規制部とが当接した状態において、前記シールリングと前記規制壁との間の軸方向寸法が前記二次シールの軸方向寸法の半分以下であるメカニカルシール。
【請求項2】
前記シールリングの背面側には軸方向に延びる延出部が設けられており、前記延出部の内径側と外径側とに前記付勢手段と前記二次シールとがそれぞれ配置されている請求項1に記載のメカニカルシール。
【請求項3】
前記規制壁は、前記背面部から前記メイティングリングに向けて突出するように一体成形された段部の正面壁である請求項1または2に記載のメカニカルシール。
【請求項4】
前記付勢手段は、前記シールリングと前記ケースとに直接当接している請求項1ないし3のいずれかに記載のメカニカルシール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転機械の回転軸の軸封に用いられるメカニカルシールに関する。
【背景技術】
【0002】
メカニカルシールは、例えば自動車、一般産業機械、あるいはその他のシール分野の回転機械のハウジングと該ハウジングを貫通するように配置される回転軸との間に装着して使用されるものであり、ハウジングに固定されるシールリングの摺動面と、回転軸とともに回転するメイティングリングの摺動面とを摺接させて、回転機械の内部から外部または外部から内部への流体の漏れを防ぐものである。シールリングはスプリングによりメイティングリングに向けて軸方向に押圧されているため、シールリング及びメイティングリングの摺動面が摩耗しても摺動面同士の摺接状態を維持することができる。
【0003】
特許文献1に示されるメカニカルシールは、シールリング、ケース、スプリング、スプリングホルダ及びOリングがユニット化されており、回転機械への取り付けが容易となっている。ケースは、シールリングに挿通される筒状の内径部と、内径部の背面側端部から外径方向に延びる環状の背面部と、背面部の外径側端部からメイティングリング側に向けて軸方向に延びる筒状の外径部と、を備えている。また、シールリングの背面部とケースの背面部との間には、スプリングホルダとスプリングとが配置されており、これによりシールリングがメイティングリング側に付勢されている。
【0004】
ケースの内径部の外周面とシールリングの内周面との間にOリングが配置されており、シールリングは流体の漏れが防止された状態で軸方向に移動可能にケースに取付けられている。また、ケースの外径部には、ケースの内径側に曲げられケースの背面側に延びるように切り起こされた切り起こし片が形成されており、切り起し片はシールリングの溝内に配置されており、シールリングの回転を規制するようになっている。さらに、ケースをハウジングに固定する前等のシールリングがスプリングホルダを介してスプリングに付勢され前方に押し出された際には、切り起こし片の背面側端部がスプリングホルダの外径側表面に当接し、シールリングがメイティングリング側に飛び出すのを規制するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】実願昭57-121412号(実開昭59-100148号)のマイクロフィルム(第3,4頁、第2図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
回転機械の小型化が進んでいることから、メカニカルシールの構造はコンパクトであることが求められている。しかしながら、特許文献1のようなメカニカルシールにあっては、スプリング及びスプリングホルダがシールリング及び二次シールの背面に配置される構成であることから、メカニカルシールの軸方向寸法が長くなってしまう虞があった。
【0007】
本発明は、このような問題点に着目してなされたもので、軸方向寸法が短く、二次シールが確実にシール可能なメカニカルシールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明のメカニカルシールは、
メイティングリングと、該メイティングリングと相対回転摺動するシールリングと、前記シールリングを非回転状態かつ軸方向移動可能な状態で支持し、前記シールリングと当接して前記シールリングの前記メイティングリングに向けた飛び出しを規制する飛び出し規制部を有するケースと、前記シールリングと前記シールリングに対し軸方向に重畳する前記ケースの背面部との間に配置され前記シールリングを前記メイティングリングに向けて軸方向に付勢する付勢手段と、前記ケースと前記シールリングとの隙間を径方向に押圧されてシールする環状の二次シールと、を備えるメカニカルシールであって、
前記ケースは前記二次シールが前記メイティングリングとは軸方向反対側に移動するのを規制する規制壁を有し、
前記シールリングと前記飛び出し規制部とが当接した状態において、前記シールリングと前記規制壁との間の軸方向寸法が前記二次シールの軸方向寸法の半分以下である。
これによれば、ケースに規制壁が設けられているため、スプリングホルダ等の部材が必要なくメカニカルシールの軸方向の寸法を短くすることができ、また、シールリングと規制壁との間の軸方向寸法が二次シールの軸方向中心から規制壁との間の軸方向寸法以下であるため、シールリングとケースとを組み立て、シールリングをケースから飛び出さない規制位置に保持する際、シールリングとケースとの間を二次シールにより確実にシールすることができる。
【0009】
前記シールリングの背面側には軸方向に延びる延出部が設けられており、前記延出部の内径側と外径側とに前記付勢手段と前記二次シールとがそれぞれ配置されていてもよい。
これによれば、延出部によって付勢手段と二次シールとが仕切られているため、付勢手段と二次シールとの互いの干渉を確実に防止し、シールリングとケースとの間を二次シールにより確実にシールすることができる。
【0010】
前記規制壁は、前記背面部から前記メイティングリングに向けて突出するように一体成形された段部の正面壁であってもよい。
これによれば、段部はケースの背面部よりもメイティングリングに向けて突出していることから、二次シールを背面部よりもメイティングリング側に配置することができる。これにより、付勢手段を配置するスペースの軸方向長さを確保しつつ、二次シールによってケースとシールリングとの間を確実にシールすることができる。また、段部がケースと一体成形されているので、規制壁を簡便に構成できる。
【0011】
前記付勢手段は、前記シールリングと前記ケースとに直接当接していてもよい。
これによれば、メカニカルシールの部品点数を減らすことができるため、メカニカルシールの軸方向寸法を短くすることができ、また部品の積算公差を小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施例1におけるメカニカルシールを示す縦断面図である。
【
図2】シールリング、ケース、スプリング及びOリングから成るシールリングユニットを示す断面図である。
【
図3】シールリング、ケース、スプリング及びOリングから成るシールリングユニットを示す正面図である。
【
図4】(a)はケースにスプリング及びOリングが収容された状態を示す断面図であり、(b)はシールリングをケース内に押し込んでいる状態を示す断面図であり、(c)はシールリングを時計回りに回した状態を示す断面図である。
【
図5】(a)はケースにスプリング及びOリングが収容された状態を示す正面図であり、(b)はシールリングをケース内に押し込んでいる状態を示す正面図であり、(c)はシールリングを時計回りに回した状態を示す正面図である。
【
図6】実施例1の変形例1におけるシールリング、ケース、スプリング及びOリングから成るシールリングユニットを示す断面図である。
【
図7】本発明の実施例2におけるシールリング、ケース、スプリング及びOリングから成るシールリングユニットを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係るメカニカルシールを実施するための形態を実施例に基づいて以下に説明する。
【実施例1】
【0014】
実施例1に係るメカニカルシールにつき、
図1から
図5を参照して説明する。尚、本実施例においては、シールリングの外径側を被密封流体側(高圧側)、内径側を大気側(低圧側)として説明する。さらに尚、シールリングの摺動面側を正面側として説明する。
【0015】
図1に示されるメカニカルシール1は、摺動面より内径側に内空間S1、外径側に外空間S2が形成されており、摺動面の外径側から内径側に向かって漏れようとする被密封流体Fを密封し内空間S1が大気Aに通ずるインサイド形のものである。尚、本実施例では、被密封流体Fが高圧の液体であり、大気Aが被密封流体Fよりも低圧の気体である形態を例示する。
【0016】
メカニカルシール1は円環状のメイティングリング20とシールリングユニットUと、から主に構成されている。メイティングリング20は回転軸3にスリーブ2を介して回転軸3と共に回転可能な状態で設けられている。シールリングユニットUは被取付機器のハウジング4に固定されている。
【0017】
シールリングユニットUは、ハウジング4に固定されたケース5と、ケース5に非回転状態かつ軸方向移動可能な状態で設けられたシールリング10と、ケース5とシールリング10との間に配置される付勢手段としてのスプリング6と、ケース5とシールリング10との間を密封する二次シールとしてのOリング7と、から構成されている。
【0018】
シールリング10がスプリング6によって軸方向に付勢されることにより、シールリング10の摺動面11とメイティングリング20の摺動面21とが互いに密接摺動するようになっている。
【0019】
シールリング10及びメイティングリング20は、代表的にはSiC(硬質材料)同士またはSiC(硬質材料)とカーボン(軟質材料)の組み合わせで形成されるが、これに限らず、摺動材料はメカニカルシール用摺動材料として使用されているものであれば適用可能である。尚、SiCとしては、ボロン、アルミニウム、カーボン等を焼結助剤とした焼結体をはじめ、成分、組成の異なる2種類以上の相からなる材料、例えば、黒鉛粒子の分散したSiC、SiCとSiからなる反応焼結SiC、SiC-TiC、SiC-TiN等があり、カーボンとしては、炭素質と黒鉛質の混合したカーボンをはじめ、樹脂成形カーボン、焼結カーボン等が利用できる。また、上記摺動材料以外では、金属材料、樹脂材料、表面改質材料(コーティング材料)、複合材料等も適用可能である。
【0020】
図2は、シールリングユニットUを単体で示す。シールリングユニットUは、詳細は後述するように、シールリング10、ケース5、スプリング6及びOリング7が分離せずにユニット状態を維持できるため、シールリングユニットUごと運搬することができる。
【0021】
図2に示されるように、シールリング10は、基部12と、基部12から正面側に延びる正面延出部13と、基部12から外径側に延びる外径延出部14と、基部12から背面側、すなわちメイティングリング20とは反対側に延びる延出部としての円筒状の背面延出部15とを備えている。正面延出部13の正面側には、摺動面11が設けられている。
【0022】
図2に示されるように、ケース5は、シールリング10に挿通される円筒状の内径部51と、内径部51の背面側端部から外径方向に延び、シールリングと軸方向に重畳する環状の背面部52と、背面部52の外径側端部からメイティングリング20側に向けて軸方向に延びる円筒状の外径部53と、を備えている。
【0023】
背面部52の内径端部すなわち内角部には、正面側に突出する環状の段部54が設けられており、段部54は背面部52と内径部51と一体成形されている。また、段部54の正面側には、Oリング7がメイティングリング20とは軸方向反対側に移動するのを規制する規制壁としての正面壁55が形成されている。尚、段部54は環状であると説明したが、周方向に分断されて複数箇所に配置されていてもよい。
【0024】
外径部53の正面端には、内径方向に延びる飛び出し規制部56が設けられている。また、
図3に示されるように、飛び出し規制部56は、ケース5の外径部53の正面において円周上等分に3箇所設けられており、シールリング10の切欠17よりも一回り小さい略半円状を成している。尚、便宜上、
図3等の正面図において、ケース5の外径部53とシールリング10の摺動面11の動圧発生溝11aとにドットを付して表す。
【0025】
図2に示されるように、スプリング6は、シールリング10の背面延出部15よりも外径側で、シールリング10の外径延出部14の背面14aとケース5の背面部52の内表面52aとに当接し軸方向に圧縮された状態でこれら背面14aと背面部52の間に配置されている。尚、スプリング6の種類・形状は特に問わない。
【0026】
また、
図2に示されるように、Oリング7は、断面円形状の弾性部材から構成されており、シールリング10の背面延出部15の内周面18とケース5の内径部51の外周面51aとに当接し径方向に圧接された状態でこれら内周面18と外周面51aの間に配置されている。
【0027】
図3に示されるように、摺動面11の内径側には複数の動圧発生溝11aが形成されている。尚、動圧発生溝11aは円弧状に限らず、例えばレイリーステップやディンプル等異なる形態であってもよいし、また摺動面11に動圧発生溝11aが形成されていなくてもよい。
【0028】
図3に示されるように、外径延出部14の外縁14bには周方向に3等配された回り止め溝16と切欠17が形成されている。
【0029】
切欠17は、回り止め溝16の時計回り方向に隣接する位置で軸方向に貫通するように円弧状に切り欠かれた形状に形成されている。
【0030】
詳細には、回り止め溝16は底面16aと回り止め壁16bとを備えている。底面16aは外径延出部14の外径側表面14cよりも一段凹み周方向に所定寸法延びている。回り止め壁16bは、底面16aの反時計回り側端縁から外径側表面14cに向けて垂直に延びている。
【0031】
また、スプリング6はOリング7よりも外径に位置し、かつOリング7に径方向に一部重畳するように配置されている。また、Oリング7は、ケース5の段部54の正面壁55に当接している。
【0032】
図2に示されるように、単体のシールリングユニットUは、後述の通りシールリング10の外径延出部14の回り止め溝16の底面16aが、ケース5の外径部53の飛び出し規制部56の背面56aと当接した状態(以下、自然状態という)である。
【0033】
シールリングユニットUが自然状態である場合、背面延出部15の背面15aから段部54の正面壁55までの軸方向離間寸法Xは、Oリング7の軸方向寸法の半分としての半径Yよりも小さい(X<Y)。そのため、シールリング10の背面延出部15の内周面18とケース5の内径部51の外周面51aとの間を二次シールであるOリング7により確実にシールすることができる。
【0034】
言い換えると、シールリング10の背面延出部15の背面15aからケース5の背面部52の内表面52aまでの軸方向離間寸法L1は、Oリング7の軸方向中心、すなわちOリング7のシール性能を発揮する軸方向中央位置からケース5の背面部52の内表面52aまでの軸方向離間寸法L2よりも短くなっている(L1<L2)。
【0035】
シールリングユニットUが自然状態である場合、シールリング10が軸方向の可動域の内、最も正面側に位置する状態であり、すなわちL1が最大となる状態である。当該状態においてOリング7がシールリング10の背面延出部15の内周面18と当接していることから、自然状態のシールリングユニットUは、ユニット化された状態が安定する。そのためシールリングユニットUを運搬しやすい。
【0036】
また、後述の通りメカニカルシール1を回転軸3及びハウジング4に組み付けた状態では、Oリング7によってケース5とシールリング10との間を確実にシールすることができる。
【0037】
次にシールリングユニットUの組み立てについて説明する。
図4(a),
図5(a)に示されるように、まずケース5内にスプリング6及びOリング7を径方向に所定寸法離間させた状態で配置する。Oリング7はケース5の段部54の正面壁55に当接させた状態でケース5の内径部51に外嵌さしている。
【0038】
次いで
図4(b),
図5(b)に示されるように、シールリング10をケース5内に挿入する。
【0039】
詳細には、
図5(b)に示されるように、シールリング10の外径延出部14の切欠17がケース5の外径部53の飛び出し規制部56に重合するように、シールリング10の周方向位置を調整してからシールリング10を背面側へ移動させる。
【0040】
その後、シールリング10の外径延出部14の背面14aにスプリング6の正面側端部が当接した状態で、スプリング6の圧縮による軸方向の付勢力に抗してシールリング10をさらに背面側へ移動させ、シールリング10の外径延出部14の回り止め溝16の底面16aがケース5の飛び出し規制部56の背面56aよりも背面側になるまで移動させる(
図4(b)参照)。
【0041】
このとき、シールリング10の背面延出部15の内周面18はOリング7と摺動し、背面延出部15はスプリング6とOリング7との径方向の間に挿入される。
【0042】
次いで
図4(c),
図5(c)に示されるように、シールリング10の背面側への押し込み量を維持したままシールリング10を時計回りに回す。この回動により、シールリング10の回り止め溝16内をケース5の飛び出し規制部56が移動し、飛び出し規制部56の背面56aが回り止め溝16の底面16aと対向する状態にする。尚、飛び出し規制部56の過度な回転は、回り止め溝16の回り止め壁16bによって防止できる。
【0043】
その後、シールリング10の背面側への押し込み状態を解除することで、シールリング10はスプリング6の付勢力によって正面側に押し戻されるが、シールリング10の回り止め溝16の底面16aがケース5の飛び出し規制部56の背面56aに当接することで、シールリング10がケース5から飛び出すのを規制される(
図2,3参照)。このとき、シールリングユニットUは自然状態となる。
【0044】
次いで、メカニカルシール1の回転軸3及びハウジング4への組み付けについて説明する。
図1を参照して、まず、メイティングリング20を回転軸3にスリーブ2を用いて固定する。次いで、シールリングユニットUのケース5をハウジング4の所定の位置に固定する。
【0045】
その後、回転軸3をシールリングユニットUの内径孔に挿通させ、回転軸3に固定されたメイティングリング20をシールリング10に当接させ、更にスプリング6の付勢力に抗して回転軸3を背面側に押し込んだ状態となるように回転軸3の軸方向位置を調整して固定する。
【0046】
このとき、シールリング10の外径延出部14の回り止め溝16の底面16aは、ケース5の外径部53の飛び出し規制部56の背面56aから背面側に離間し、シールリング10はスプリング6によりメイティングリング20に向けて軸方向に押圧される。そのため、シールリング10及びメイティングリング20の摺動面11,21が摩耗しても摺動面11,21同士の摺接状態を維持することができる。尚、メカニカルシール1の組み付けの手順は、これに限らない。
【0047】
これによれば、シールリングユニットUを分解することなくメカニカルシール1を回転軸3及びハウジング4に組み付け可能なので、メカニカルシール1の組み付けを簡素化できる。
【0048】
また、
図3を参照して、メイティングリング20の回転時にシールリング10がメイティングリング20の回転方向、すなわち時計回りに共回りする場合、シールリング10の回り止め溝16の回り止め壁16bがケース5の飛び出し規制部56に当接するようになっているため、シールリング10の共回りを防止できる。
【0049】
実施例1の変形例1について説明する。尚、前記実施例に示される構成部分と同一のものについては、同一符号を付して重複する説明を省略する。
図6に示されるように、シールリングユニットU’を構成するケース105は、内径部151と、背面部152と、外径部53とを備えている。ケース105には、内径部151から外径側に延び背面部152と対向する環状の規制壁155が設けられている。
【0050】
このように、ケース105には、Oリング7が背面側へ移動するのを規制する規制壁155が設けられているため、Oリング7によってケース105とシールリング10との間を確実にシールすることができる。また、Oリング7のケース5に対する位置決めが容易となる。
【0051】
以上説明したように、ケース5に正面壁55が設けられているため、スプリングホルダ等の部材が必要なくメカニカルシール1の軸方向の寸法を短くすることができ、また、シールリング10と飛び出し規制部56とが当接した状態において、シールリング10と正面壁55との間の軸方向寸法XがOリング7の半径Y以下であるため、シールリング10とケース5とを組み立て、シールリング10をケース5から飛び出さない規制位置に保持する際、シールリング10とケース5との間をOリング7により確実にシールすることができる。
【0052】
また、スプリング6は、Oリング7と径方向に異なる位置かつ径方向に一部重畳するように配置されているため、スプリング6とOリング7とを互いに干渉しない。これにより、メカニカルシール1のシールリングユニットUの軸方向寸法を短くすることができる。
【0053】
また、シールリング10の背面側には軸方向に延びる背面延出部15が設けられている。背面延出部15によって内径側にOリング7、外径側にスプリング6がそれぞれ配置されるように仕切られている。これにより、スプリング6とOリング7との互いの干渉を確実に防止し、シールリング10とケース5との間をOリング7により確実にシールすることができる。
【0054】
また、規制壁は、ケース5の背面部52から正面側に向けて延びるように一体成形された段部54の正面壁55である。Oリング7は、正面壁55に当接した状態で背面部52よりも正面側に配置される。これにより、スプリング6を配置するスペースの軸方向長さを確保しつつ、Oリング7によってケース5とシールリング10との間を確実にシールすることができる。また、段部54がケース5と一体成形されているので、規制壁を簡便に構成できる。
【0055】
また、シールリング10の背面延出部15がケース5の背面部52に接近した際、背面延出部15及び背面部52がOリング7を噛み込むことを確実に防止できる。
【0056】
また、スプリング6は、シールリング10とケース5とに直接当接していることから、メカニカルシール1のシールリングユニットUの部品点数を減らすことができる。これにより、シールリングユニットUの軸方向寸法を短くすることができ、また部品の積算公差を小さくすることができる。
【実施例2】
【0057】
次に、実施例2に係るメカニカルシールにつき、
図7を参照して説明する。尚、前記実施例と同一構成で重複する構成の説明を省略する。
【0058】
図7に示されるように、シールリングユニットU’’を構成するシールリング210は、基部12と、正面延出部13と、外径延出部14と、延出部としての背面延出部215とを備えている。背面延出部215の背面215aと内周面218とは角部219を成している。
【0059】
また、シールリングユニットU’’を構成するケース205は、内径部251と、背面部252と、外径部53とを備えている。背面部252の内径側には正面側に僅かに延びる段部254が設けられており、段部254の正面には規制壁としての正面壁255が形成されている。段部254は、径方向において、背面部252の内径端からシールリング210の背面延出部215の外径端に亘って設けられている。
【0060】
シールリングユニットU’’が自然状態である場合、背面延出部215の背面215aから段部254の正面壁255までの軸方向離間寸法X’は、Oリング7の軸方向寸法の半分としての半径Y’と同寸法である(X’=Y’)。そのため、シールリング210の背面延出部215の内周面218とケース205の内径部251の外周面251aとの間を二次シールであるOリング7により確実にシールすることができる。尚、実施例1の軸方向離間寸法L1,L2に相当するL1’,L2’は、それぞれ軸方向離間寸法X’,半径Y’と一致する(L1’=X’,L2’=Y’)。
【0061】
シールリングユニットU’’が自然状態である場合、シールリング210が軸方向の可動域の内、最も正面側に位置する状態であり、すなわちL1’が最大となる状態である。当該状態においてOリング7の軸方向中心がシールリング210の角部219と確実に当接している。このことから、シールリングユニットU’’をハウジング4に組み付けた状態、すなわち背面215aが正面壁255に近づいた状態、つまり、Oリング7の軸方向中心が背面215aよりも正面側に配置された状態では、Oリング7によってケース205とシールリング210との間を確実にシールすることができる。
【0062】
以上、本発明の実施例を図面により説明してきたが、具体的な構成はこれら実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。
【0063】
例えば、前記実施例1,2では、摺動面の外径側から内径側に向かって漏れようとする被密封流体Fを密封するインサイド形のものである形態を例示したが、摺動面の内径側から外径側に向かって漏れようとする被密封流体Fを密封するアウトサイド形のものであってもよい。
【0064】
また、回り止め溝及び切欠と飛び出し規制部とは、円周上等分に3箇所形成されると説明したが、これに限らず円周上等分に複数箇所形成されていればよく、また回り止め溝及び切欠と飛び出し規制部とがそれぞれ円周上で対応していれば円周上不等分に形成されていてもよい。
【0065】
また、切欠及び飛び出し規制部は円弧状を成していると説明したが、これに限らず、例えば矩形状を成していてもよい。
【0066】
また、被密封流体は高圧の液体と説明したが、これに限らず気体または低圧の液体であってもよいし、液体と気体が混合したミスト状であってもよい。
【0067】
また、段部及び規制壁は、ケースと別体であってもよい。
【0068】
また、背面延出部は、シールリングと別体であってもよい。
【符号の説明】
【0069】
1 メカニカルシール
3 回転軸
5 ケース
6 スプリング(付勢手段)
7 Oリング(二次シール)
10 シールリング
15 背面延出部(延出部)
20 メイティングリング
52 背面部
54 段部
55 正面壁(規制壁)
105 ケース
152 背面部
155 規制壁
205 ケース
210 シールリング
215 背面延出部(延出部)
252 背面部
254 段部
255 正面壁(規制壁)
A 大気
F 被密封流体
L1,L2 軸方向離間寸法
L1’,L2’ 軸方向離間寸法
S1 内空間
S2 外空間
U,U’,U’’ シールリングユニット
X,X’ 軸方向離間寸法
Y,Y’ Oリングの半径(二次シールの軸方向寸法の半分)