(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-20
(45)【発行日】2025-01-06
(54)【発明の名称】摺動部品
(51)【国際特許分類】
F16J 15/34 20060101AFI20241223BHJP
【FI】
F16J15/34 G
(21)【出願番号】P 2023505314
(86)(22)【出願日】2022-03-01
(86)【国際出願番号】 JP2022008486
(87)【国際公開番号】W WO2022190944
(87)【国際公開日】2022-09-15
【審査請求日】2024-02-20
(31)【優先権主張番号】P 2021039779
(32)【優先日】2021-03-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000101879
【氏名又は名称】イーグル工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098729
【氏名又は名称】重信 和男
(74)【代理人】
【識別番号】100204467
【氏名又は名称】石川 好文
(74)【代理人】
【識別番号】100148161
【氏名又は名称】秋庭 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100195833
【氏名又は名称】林 道広
(74)【代理人】
【識別番号】100206911
【氏名又は名称】大久保 岳彦
(72)【発明者】
【氏名】前谷 優貴
(72)【発明者】
【氏名】根岸 雄大
(72)【発明者】
【氏名】巻島 創
【審査官】山田 康孝
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-173956(JP,A)
【文献】特開2019-173953(JP,A)
【文献】特開2019-173955(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/34-15/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転機械の駆動時に相対回転する箇所に対向して配置される一対の環状体からなる摺動部品であって、
前記摺動部品の一対の摺動面の少なくとも一方の内径側または外径側には、
一対の前記摺動面の他方と対向する位置に、全周に亘り径方向に開口する環状凹部が形成され、一対の前記摺動面の少なくとも一方には前記環状凹部に連通されて該摺動面の径方向に延びる供給溝が形成されている摺動部品。
【請求項2】
前記供給溝に連通し、対向する前記環状体が相対回転する周方向に延設される動圧発生溝部が形成されている請求項1に記載の摺動部品。
【請求項3】
前記供給溝の終端には周方向に沿う1条の環状溝が連通している請求項1または2に記載の摺動部品。
【請求項4】
前記環状溝に連通し、対向する前記環状体が相対回転する周方向に延設される少なくとも1つ以上の負圧発生溝部が形成されている請求項3に記載の摺動部品。
【請求項5】
前記供給溝は前記摺動面の周方向に複数等配されている請求項1ないし4のいずれかに記載の摺動部品。
【請求項6】
前記環状凹部と前記供給溝とは前記回転機械の固定側に固定される環状体に形成されている請求項1ないし5のいずれかに記載の摺動部品。
【請求項7】
前記供給溝は前記環状凹部よりも深く形成されており、前記摺動部品の一対の摺動面の少なくとも一方の内径側または外径側に開口している請求項1ないし6のいずれかに記載の摺動部品。
【請求項8】
前記供給溝は前記環状凹部よりも深く形成されており、前記環状凹部の開口とは反対側に連通している請求項1ないし6のいずれかに記載の摺動部品。
【請求項9】
前記供給溝は前記環状凹部よりも浅く、かつ前記供給溝に連通し、対向する前記環状体が相対回転する周方向に延設される動圧発生溝部よりも深く形成されている請求項1,3ないし6のいずれかに記載の摺動部品。
【請求項10】
前記環状凹部と前記供給溝とは同じ深さで連通している請求項1ないし6のいずれかに記載の摺動部品。
【請求項11】
前記摺動部品は、内径側に位置する被密封流体の外周側への漏れを密封するアウトサイド型のメカニカルシールを構成する請求項1ないし10のいずれかに記載の摺動部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、相対回転する摺動部品に関し、例えば自動車、一般産業機械、あるいはその他のシール分野の回転機械の回転軸を軸封する軸封装置に用いられる摺動部品、または自動車、一般産業機械、あるいはその他の軸受分野の機械の軸受に用いられる摺動部品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、相対回転する摺動部品を構成する一対の環状体の摺動面間には潤滑剤が塗布され、低摩擦化が図られている。しかしながら、摺動面間に塗布された潤滑剤は環状体同士の相対回転によって摺動面間から押し出されて徐々に減少してしまい、長期的に潤滑性を維持できないという問題があった。
【0003】
例えば、ポンプやタービン等の回転機械の回転軸を軸封し、被密封流体の漏れを防止する軸封装置に用いられる摺動部品としては、相対的に回転し、かつ平面上の端面同士が摺動するように構成された環状体としての静止密封環と、回転密封環とを備えたメカニカルシール(例えば特許文献1参照)がある。静止密封環は、ハウジングに固定される。回転密封環は、回転軸に固定され回転軸と共に回転する。このようなメカニカルシールは、密封性を保ちながら摺動面の摩耗を防ぐために、潤滑性を長期的に維持することが特に重要である。
【0004】
メカニカルシールは、被密封流体や漏れ側の流体が油などの液体であれば、液体を摺動面間に侵入させることにより流体を潤滑に用いることができる。しかし、被密封流体が気体であり、かつ漏れ側の空間の流体も気体である場合には、環状体同士の相対回転によって摺動面間に塗布された潤滑剤は経時に伴い摺動面間から押し出されてしまい、良好な潤滑性を長期的に維持することができない。そこで、被密封流体と漏れ側の空間の流体が共に気体である場合には、潤滑剤として液体を少量ずつ滴下させることで摺動面間に液体を供給し、潤滑性を維持する試みが広く行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-53423号公報(第4頁、第1図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、摺動面の内径側と外径側のいずれか一方の縁部に滴下されるなどして供給された液体は、一対の環状体の相対回転時には摺動面間の極小の隙間から摺動面の径方向中央側に誘導され難いことに加え、一対の環状体の相対回転により潤滑剤がその内径側または外径側に弾き飛ばされやすく、供給した液体が潤滑性の向上に有効に寄与せず、長期に亘って高い潤滑性を維持することができないという問題があった。
【0007】
本発明は、このような問題点に着目してなされたもので、摺動面間に供給される液体を効率よく活用し、長期に亘って高い潤滑性を維持できる摺動部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明の摺動部品は、
回転機械の駆動時に相対回転する箇所に対向して配置される一対の環状体からなる摺動部品であって、
前記摺動部品の一対の摺動面の少なくとも一方の内径側または外径側には、全周に亘り径方向に開口する環状凹部が形成され、一対の前記摺動面の少なくとも一方には前記環状凹部に連通されて該摺動面の径方向に延びる供給溝が形成されている。
これによれば、供給溝に連通され径方向に開口する環状凹部が形成されていることから、環状凹部において液体を取り込みやすくかつ環状凹部や供給溝に多量の液体を保持し、摺動面間に効率よく液体を導入できる。このようにして、摺動面間に供給される液体を効率よく活用して長期に亘って高い潤滑性を維持することができる。
【0009】
前記供給溝に連通し、対向する前記環状体が相対回転する周方向に延設される動圧発生溝部が形成されていてもよい。
これによれば、液体は環状体の相対回転により供給溝から動圧発生溝部に誘導され、動圧発生溝部内の終端で動圧が発生し、この動圧により摺動面間が離間して液膜が形成されることで潤滑性が向上する。さらに、液体は供給溝から動圧発生溝部に誘導されることから、環状凹部から供給溝に向けて液体が引き込まれやすくなっている。
【0010】
前記供給溝の終端には周方向に沿う1条の環状溝が連通していてもよい。
これによれば、供給溝の終端から環状溝に液体が回収され、周方向に循環することで、液体の排出を抑えることができる。
【0011】
前記環状溝に連通し、対向する前記環状体が相対回転する周方向に延設される少なくとも1つ以上の負圧発生溝部が形成されていてもよい。
これによれば、環状体の相対回転により負圧発生溝部から環状溝に対して液体が戻されるため、液体の排出を抑えることができる。
【0012】
前記供給溝は前記摺動面の周方向に複数等配されていてもよい。
これによれば、周方向に複数箇所で均等に摺動面に液体を誘導し、環状凹部の全周に亘って効果的に液体を保持することができる。
【0013】
前記環状凹部と前記供給溝とは前記回転機械の固定側に固定される環状体に形成されてもよい。
これによれば、回転機械の固定側に固定される環状体では遠心力の影響がないため、環状凹部と供給溝とに入り込んだ液体の排出を抑えて、長期に亘って潤滑性を維持することができる。
【0014】
前記供給溝は前記環状凹部よりも深く形成されており、前記摺動部品の一対の摺動面の少なくとも一方の内径側または外径側に開口していてもよい。
これによれば、液体の供給量が比較的多い場合であっても、供給溝から環状凹部に液体が戻りにくく、摺動面において液体を保持しやすい。
【0015】
前記供給溝は前記環状凹部よりも深く形成されており、前記環状凹部の開口とは反対側に連通していてもよい。
これによれば、供給溝が液体を取り込みやすく、かつ供給溝内に多くの液体を保持できるため、少ない液体の供給量であってもて潤滑性を維持することができる。
【0016】
前記供給溝は前記環状凹部よりも浅く、かつ前記供給溝に連通し、対向する前記環状体が相対回転する周方向に延設される動圧発生溝部よりも深く形成されていてもよい。
これによれば、比較的多い液体を深く形成された環状凹部に保持できるとともに、液体は浅く形成された供給溝内を径方向に移動しやすく、動圧発生溝部に確実に誘導させることができる。
【0017】
前記環状凹部と前記供給溝とは同じ深さで連通していてもよい。
これによれば、環状凹部から供給溝へスムーズに液体が誘導される。
【0018】
前記摺動部品は、内径側に位置する被密封流体の外周側への漏れを密封するアウトサイド型のメカニカルシールを構成していてもよい。
これによれば、環状凹部が外周側に形成されることで、液体を保持できる容量を大きく確保できる。
【0019】
尚、本発明に係る摺動部品の供給溝が径方向に延びるというのは、供給溝が少なくとも径方向の成分をもって延びていればよい。また、負圧発生溝部が相対回転する周方向に延設されるというのは、負圧発生溝部が少なくとも周方向の成分をもって延びていればよい。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の実施例1における摺動部品を備えるメカニカルシールが使用される回転機械の構造を示す断面図である。
【
図2】メカニカルシールの静止密封環を摺動面側から見た図である。
【
図3】静止密封環と回転密封環との摺接状態を示す、
図2のA-A断面図である。
【
図4】環状凹部に潤滑剤が供給された状態を示す、
図2のB-B断面図である。
【
図5】静止密封環と回転密封環との相対回転時における流体の移動を示す概念図である。
【
図6】本発明の実施例2における静止密封環と回転密封環との摺接状態を示す断面図である。
【
図7】変形例1における静止密封環を摺動面側から見た図である。
【
図8】変形例2における静止密封環を摺動面側から見た図である。
【
図9】変形例3における静止密封環を摺動面側から見た図である。
【
図10】変形例4における静止密封環を摺動面側から見た図である。
【
図11】変形例5における静止密封環を摺動面側から見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明に係る摺動部品を実施するための形態を実施例に基づいて以下に説明する。
【実施例1】
【0022】
実施例1に係る摺動部品につき、
図1から
図5を参照して説明する。
【0023】
本実施例における摺動部品は、例えば自動車、一般産業機械、あるいはその他のシール分野の回転機械の回転軸を軸封する軸封装置であるメカニカルシールを構成する回転密封環3と静止密封環6である。回転密封環3と静止密封環6はそれぞれ本発明の環状体であり、両者により本発明の摺動部品を構成また、説明の便宜上、図面において、摺動面に形成される溝等にドットを付している。
【0024】
図1に示されるように、メカニカルシールは、回転密封環3と、静止密封環6と、から主に構成されている。回転密封環3は、円環状をなし、回転軸1にスリーブ2を介して回転軸1と共に回転可能な状態で設けられている。静止密封環6は円環状をなし、回転機械のハウジング4に固定されたシールカバー5に非回転状態かつ軸方向に移動可能な状態で設けられている。付勢手段7によって、静止密封環6が軸方向に付勢されることにより、静止密封環6の摺動面S6と回転密封環3の摺動面3Sとが互いに密接摺動するようになっている。
【0025】
すなわち、このメカニカルシールは、回転密封環3と静止密封環6との互いの摺動面S3,S6において、摺動面S3,S6の被密封流体側としての内周側の被密封流体が漏れ側としての外周側へ流出するのを防止するアウトサイド形式のものである。尚、本実施例において、被密封流体はドライガス等の気体の高圧流体であり、外周側には大気やドライガス等の気体の低圧流体が存在する。また、外周側には潤滑油などの液体である潤滑剤Luの供給元があり、潤滑剤Luが回転密封環3と静止密封環6との互いの摺動面S3,S6の外縁に少量ずつ供給される。尚、潤滑剤Luの供給方法は例えば滴下である。
【0026】
回転密封環3及び静止密封環6は、代表的にはSiC(硬質材料)同士またはSiC(硬質材料)とカーボン(軟質材料)の組み合わせで形成されるが、摺動材料にはメカニカルシール用摺動材料として使用されているものは適用可能である。SiCとしては、ボロン、アルミニウム、カーボンなどを焼結助剤とした焼結体をはじめ、成分、組成の異なる2種類以上の相からなる材料、例えば、黒鉛粒子の分散したSiC、SiCとSiからなる反応焼結SiC、SiC-TiC、SiC-TiNなどがあり、カーボンとしては、炭素質と黒鉛質の混合したカーボンをはじめ、樹脂成形カーボン、焼結カーボン、などが利用できる。また、上記摺動材料以外では、金属材料、樹脂材料、表面改質材料(コーティング材料)、複合材料なども適用できる。
【0027】
図2と
図3に示されるように、静止密封環6の摺動面S6には、環状凹部10、供給溝11、環状溝12、レイリーステップ13、スパイラル溝14が形成されている。これらは、摺動面S6に、レーザ加工やサンドブラスト等による微細加工を施すことにより形成することができる。
【0028】
図2に示されるように、静止密封環6の摺動面S6には、その外径縁部に静止密封環6と同心状に周方向に延びる環状凹部10が形成されている。環状凹部10は、全周に亘り外径方向に開口し、内径方向に同幅かつ径方向・周方向に同じ深さに形成されている。
【0029】
具体的には、環状凹部10は、摺動面S6の円周方向に沿うとともに摺動面S6に直交する方向に延びる内径側の壁10aと、摺動面S6に平行な底面10eとで画成され、対向する回転密封環3の摺動面S3方向と外周方向とに開口している。環状凹部10は、静止密封環6の摺動面S6の外径縁部に形成された環状の面取り部6a(
図3参照。)に交差するように形成されている。
【0030】
静止密封環6の摺動面S6には、周方向に分離されて配置された複数の供給溝11が形成されている。供給溝11は環状凹部10の外径側に始端11aが連通され、内径側にて後述する環状溝12に終端11dが連通されている。また、供給溝11は周方向に同じ離間幅で並んで形成され、回転方向に傾斜して周方向に延びる成分と径方向に延びる成分とからなる湾曲形状に形成されている。また、供給溝11は、上面視相手面の回転方向に傾斜して凹む方向に湾曲するとともに摺動面S6に直交する方向に延びる壁11b,11cと、摺動面S6に平行な底面11e(
図4参照)によって画成されている。供給溝11は環状凹部10と同じ深さで連通している。
【0031】
静止密封環6の摺動面S6の内周側には、供給溝11の終端11dが連通する静止密封環6と同心状に周方向に延びる環状溝12が1条形成されている。環状溝12は、供給溝11と同じ深さで連通している。環状溝12は、摺動面S6の円周方向に沿うとともに摺動面S6に直交する方向に延びる外径側の壁12bと内径側の壁12a、底面とで画成されている。
【0032】
図2に示されるように、環状凹部10を画成する壁10a、供給溝11を画成する壁11b,壁11c、環状溝12を画成する壁12bにより四方が囲まれて径方向と周方向とに分離されたランド部15が周方向に所定間隔で離間して複数構成されている。
【0033】
ランド部15には、静止密封環6と同心状に周方向に延びる動圧発生溝部としてのレイリーステップ13が形成されている。レイリーステップ13は、回転密封環3の回転方向に終端13dを備え、環状凹部10及び環状溝12と平行にそれぞれ延びる壁13b,壁13cと終端13dとで閉塞されて画成され、始端13aが供給溝11に連通している。なお、壁13b,壁13cは環状凹部10及び環状溝12と平行でなくともよく、例えば終端13dに向けて漸次近接する先細り形状等であってもよい。
【0034】
静止密封環6には、環状溝12の内径側によってランド部15と隔絶されて環状のランド部16が構成されている。環状のランド部16には、周方向に沿って配置され互いに周方向に分離された複数の負圧発生溝部としてのスパイラル溝14が形成されている。ランド部15と環状のランド部16はその上面が略同一平面となっている。環状のランド部16は実質的な密封箇所となっている。
【0035】
スパイラル溝14は周方向に同じ離間幅で並んで形成され、回転密封環3の回転反対方向に傾斜して周方向に延びる成分と径方向に延びる成分とからなる湾曲形状に形成されている。スパイラル溝14は、上面視回転反対方向に傾斜して湾曲するとともに摺動面S6に直交する方向に延びる壁14b,14cと始端14aと、底面とで閉塞されて画成され、終端14dが環状溝12に連通している。
【0036】
続いて、
図4と
図5を用いて回転機械の駆動時において供給される潤滑剤の流れを説明する。尚、
図5における白矢印は、相手の摺動部品である静止密封環6の相対的な回転方向を指す。
【0037】
回転密封環3と静止密封環6の摺動面S3,S6の外縁に少量の潤滑剤Luが滴下されると、潤滑剤Luは
図4に示されるように、静止密封環6の摺動面S6の外周側に開口する環状凹部10内に導入される。環状凹部10は摺動面S6の周方向に連続して形成されているため、回転密封環3と静止密封環6との相対回転により潤滑剤Luは環状凹部10内を移動し、表面張力により環状凹部10を画成する壁10aと底面10e特にこれら壁10aと底面10eの交差する箇所に付着し、環状凹部10内に保持されて漏れ側つまり潤滑剤Luの供給側に排出されにくい。また、潤滑剤Luは自身の粘性、表面張力により輪郭が凸曲形状となって液塊が大きくなり、壁10aと底面10eの交差する箇所に多くの潤滑剤Luを付着させて保持できる。
【0038】
環状凹部10内に保持された潤滑剤Luは、回転密封環3と静止密封環6との相対回転時に、環状凹部10内を周方向に追随移動し、その一部は摺動面S3,S6の間に内径方向に入り込む。また、その他の多くは、環状凹部10に始端11aが連通する供給溝11に導入される。
【0039】
図2に示されるように、供給溝11は、回転密封環3の回転方向に延びる成分と、径方向に延びる成分とを備えて、半径方向に傾斜して形成されており、かつ緩やかな湾曲形状を成している。供給溝11の径方向の中央部の潤滑剤Luは、大部分がレイリーステップ13に導入される。
【0040】
レイリーステップ13に導入された潤滑剤Luは、対向する回転密封環3の相対回転によりレイリーステップ13内の終端13d側で動圧が発生し、この動圧により摺動面S間を若干離間する。これにより潤滑剤Luの摺動面S3,S6への侵入が促され、液膜が摺動面S3,S6の間に形成され、回転密封環3の摺動面S3と静止密封環6の摺動面S6との潤滑性が向上する。
【0041】
また、供給溝11内を内径方向に導入された潤滑剤Luは、終端11dにて連通する環状溝12に導入される。環状溝12に導入された潤滑剤Luは、回転密封環3と静止密封環6との相対回転に追随移動しつつ、一部は径方向内外に移動し、摺動面S3,S6間に、具体的にはランド部15と回転密封環3の摺動面S3の対向箇所の間及び環状のランド部16と回転密封環3の摺動面S3の対向箇所の間に供給される。
【0042】
上述したように、環状のランド部16には回転密封環3と静止密封環6との相対回転時に負圧が発生する方向に延びるスパイラル溝14が形成されている。そのため、ランド部16の摺動面S6に供給された潤滑剤Luは、回転密封環3と静止密封環6との相対回転時に環状のランド部16に形成されたスパイラル溝14の終端14d側に生じる負圧によって環状溝12に一部返される。また、スパイラル溝14に入り込んだ潤滑剤Luについてもスパイラル溝14の終端14d側に生じる負圧で環状溝12に押し戻される。
【0043】
上述したように、回転密封環3の摺動面S3と静止密封環6の摺動面S6の外径側には、全周に亘り径方向に開口する環状凹部10が形成され、かつ環状凹部10に始端11aが連通されて摺動面S3,S6の径方向に延びる供給溝11が形成されている。環状凹部10は径方向に全周に亘り開口しているため、供給される潤滑剤Luを取り込みやすい。また、環状凹部10と環状凹部10に連通する供給溝11に多量の潤滑剤Luを保持し、摺動面S3,S6間に効率よく潤滑剤Luを導入できるため、長期に亘って高い潤滑性を維持することができる。
【0044】
また、供給溝11は、回転密封環3と静止密封環6の相対回転方向に傾斜して延びており、供給溝11の底面11eと壁11cが交差する箇所で2方向に潤滑剤Luが接するとともに、相対回転により潤滑剤Luが壁11cに押し付けられ、潤滑剤Luをこれら底面11eと壁11cとの交差箇所に保持しやすい。
【0045】
また、供給溝11によって環状凹部10に供給された潤滑剤Luを回転密封環3の摺動面S3と静止密封環6の摺動面S6の径方向中央に導き、効率よく潤滑性を高めることができる。
【0046】
また、全周に亘り開口する環状凹部10の内部空間に多量の潤滑剤Luを保持でき、供給溝11は、回転密封環3と静止密封環6の相対回転方向に傾斜して延びており、供給溝11内に導入された潤滑剤Luが回転密封環3と静止密封環6との相対回転により相対回転方向に追随し、環状凹部10に供給された潤滑剤Luを摺動面S3,S6の径方向中央に導きやすい。また、そのため、摺動面S3,S6間に供給される潤滑剤を効率よく活用して長期に亘って高い潤滑性を維持することができる。言い換えると、頻繁に潤滑剤Luを供給する必要がなく、使用環境によって潤滑剤Luを多量に用いることができない場合に特に有効である。
【0047】
また、供給溝11は摺動面S6の周方向に複数等配されているため、環状凹部10の全周に亘って効果的に潤滑剤Luを保持することができる。
【0048】
また、環状凹部10と供給溝11とはいずれも同一の環状体である静止密封環6に形成されている。これによれば、環状凹部10と供給溝11が一体に連続することで、環状凹部10から供給溝11へ潤滑剤Luが移動する際における始端11a付近に生じる乱流が少なく、環状凹部10から供給溝11の終端11d方向に向かって潤滑剤Luがスムーズに移動する。
【0049】
また、環状凹部10と供給溝11とはいずれも静止密封環6に形成されている。これによれば、回転機械の固定側に固定される静止密封環6では遠心力の影響がないため、環状凹部10と供給溝11とに入り込んだ潤滑剤Luの排出を抑えて、長期に亘って潤滑性を維持することができる。
【0050】
また、環状凹部10と供給溝11とは同じ深さで連通しているため、環状凹部10から供給溝11へスムーズに潤滑剤Luを誘導でき、効率よく摺動面S3,S6の内径方向側に向けて潤滑剤Luを誘導して潤滑性を向上できる。
【0051】
また、摺動面S6には供給溝11に連通し、対向する回転密封環3が相対回転する周方向に延設されるレイリーステップ13が形成されているため、潤滑剤Luは相対回転により供給溝11からレイリーステップ13に誘導され、レイリーステップ13内の終端13dで動圧が発生し、この動圧により摺動面S3,S6間が離間して液膜が形成され、非接触潤滑となることで潤滑性が向上する。また、この動圧による誘導力を効果的に利用し環状凹部10に潤滑剤Luを保持可能である他、効率よく摺動面Sの内径方向側に向けて潤滑剤Luを誘導して潤滑性を向上できる。
【0052】
また、供給溝11の終端11dには周方向に沿う1条の環状溝12が連通しており、供給溝11の終端11dから潤滑剤Luが回収され、環状溝12の周方向に循環することで、潤滑剤Luの排出を抑制することができる。
【0053】
また、本実施例の摺動部品は、内径側に位置する被密封流体の外周側への漏れを密封するアウトサイド型のメカニカルシールを構成しており、環状凹部10は潤滑剤Luの供給側である静止密封環6の外径側に開口して形成されている。そのため、環状凹部をインサイド型のメカニカルシールに形成する場合に比べて環状凹部の内部容量を大きく確保することができる。
【0054】
なお、前記実施例では、環状凹部10と供給溝11とはいずれも静止密封環6に形成されるものとして説明したが、これに限らず、回転密封環3の摺動面S3に形成されてもよく、回転密封環3の摺動面S3と静止密封環6の摺動面S6の両方に形成されてもよい。
【0055】
なお、環状凹部10と供給溝11とを、それぞれ別の環状体にそれぞれ分けて形成してもよい。例えば、回転密封環3に環状凹部を形成し、静止密封環に供給溝11を形成してもよい。
【0056】
なお、供給溝11は湾曲形状に限らず、例えば周方向と径方向に向けて傾斜する直線形状であってもよいし、直線が屈曲した形状でもよい。
【0057】
なお、前記実施例における摺動部品はメカニカルシールを構成する場合を例に説明したが、これに限らず、例えばスラスト軸受に用いることができる。
【0058】
なお、前記実施例において摺動部品は、摺動面S3,S6の被密封流体側としての内周側の被密封流体が漏れ側としての外周側へ流出するのを防止するアウトサイド形式のメカニカルシールで説明したが、これに限らず、摺動面S3,S6の被密封流体側としての外周側の被密封流体が漏れ側としての内周側へ流出するのを防止するインサイド形式のメカニカルシールであってもよい。そして、潤滑剤Luは、摺動面S3,S6の内周側と外周側のいずれから供給される構成であってもよく、その供給側に環状凹部10が全周に亘り開口するように形成されていればよい。
【実施例2】
【0059】
次に、実施例2に係る摺動部品につき、
図6を参照して説明する。尚、前記実施例に示される構成部分と同一構成部分については同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0060】
図6に示されるように、環状凹部20は、開口に近づくにつれて対向する回転密封環3の摺動面S3に漸次近接するように形成されたテーパ部20aを有している。これによれば、開口に近づくにつれてその開口断面積が漸次狭まるため、環状凹部20の内部から供給側への潤滑剤Luの放出を抑制しやすい。
【0061】
以上、本発明の実施例を図面により説明してきたが、具体的な構成はこれら実施例に限られるものではない。
【0062】
例えば、供給溝11は周方向に複数等配される構成に限らず、例えばそれぞれ異なる離間間隔で形成されていてもよいし、周方向に一つ形成される構成でもよい。
【0063】
また、周方向に複数形成された供給溝11は、全てが終端11dで環状溝12と連通する構成に限らず、一部の供給溝11は終端11dが閉塞されていてもよい。
【0064】
また、環状凹部10は、開口に近づくにつれて対向する回転密封環3の摺動面S3から漸次離間するように形成されたテーパ面で構成されていてもよい。これによれば、開口に近づくにつれてその開口断面積が漸次拡大するため、環状凹部10の内部に潤滑剤Luを取り込みやすい。
【0065】
また、
図7の変形例1に示されるように、スパイラル溝14は省略してもよい。
【0066】
さらに、
図8の変形例2に示されるように、スパイラル溝14に加えて環状溝12も省略してもよい。この場合、隣接する供給溝11同士の周方向の間と、供給溝11の閉塞された終端11dの内径側、すなわち被密封流体側と、が連続するランド部25となり、密閉性能を担う実質的な摺動領域を大きく確保することができる。
【0067】
また、環状凹部10と供給溝11とは異なる深さに形成されていてもよく、例えば
図9の変形例3に示されるように、環状凹部10よりも深い供給溝11が静止密封環6の外径側に開口して形成されていてもよい。これによれば、供給溝11が潤滑剤Luを取り込みやすく、かつ供給溝11内に多くの潤滑剤Luを保持できるため、少ない潤滑剤Luの供給量であっても潤滑性を維持することができる。
【0068】
また、例えば
図10の変形例4に示されるように、供給溝11は環状凹部10よりも深く形成されており、環状凹部10の内径側すなわち、環状凹部10の開口とは径方向反対側に連通していてもよい。これによれば、供給溝11の容量を大きくできるとともに、供給溝11と環状凹部10との連通箇所で流路断面積が急激に減少するため、供給溝11から環状凹部10に潤滑剤Luが戻りにくく、摺動面S3,S6間において潤滑剤Luを保持しやすい。
【0069】
また、例えば
図11の変形例5に示されるように、供給溝11は環状凹部10よりも浅く、かつ供給溝11はレイリーステップ13よりも深く形成されていてもよい。これによれば、環状凹部10の容量を大きくでき、多くの潤滑剤Luを保持できる。加えて、少ない潤滑剤Luの供給量であっても、供給溝11が浅いため、潤滑剤Luが供給溝11内を径方向に移動しやすく、レイリーステップ13に確実に誘導させることができる。
【0070】
また、潤滑剤の供給元は、液体を供給可能であればその構造は問わず、例えば漏れ側の機構に用いられる油がケース上方に滴状に溜まったから不定期に雫となって落下するものであってもよい。
【符号の説明】
【0071】
1 回転軸
2 スリーブ
3 回転密封環(環状体,摺動部品)
4 ハウジング
5 シールカバー
6 静止密封環(環状体,摺動部品)
10 環状凹部
10a 壁
10e 底面
11 供給溝
11a 始端
11b,11c 壁
11d 終端
12 環状溝
12a,b 壁
13 レイリーステップ(動圧発生溝部)
13a 始端
13b,c 壁
13d 終端
14 スパイラル溝(負圧発生溝部)
14a 始端
14b,14c 壁
14d 終端
15 ランド部
16 環状のランド部
20 環状凹部
20a テーパ部
25 ランド部
Lu 潤滑剤(液体)
S3,S6 摺動面