(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-20
(45)【発行日】2025-01-06
(54)【発明の名称】シームレスカプセル
(51)【国際特許分類】
A61K 9/48 20060101AFI20241223BHJP
A61K 47/42 20170101ALI20241223BHJP
A61K 47/24 20060101ALI20241223BHJP
A61K 31/202 20060101ALI20241223BHJP
A61P 3/06 20060101ALI20241223BHJP
A23L 5/00 20160101ALI20241223BHJP
【FI】
A61K9/48
A61K47/42
A61K47/24
A61K31/202
A61P3/06
A23L5/00 C
(21)【出願番号】P 2020129896
(22)【出願日】2020-07-31
【審査請求日】2023-07-03
(73)【特許権者】
【識別番号】591040753
【氏名又は名称】東和薬品株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004233
【氏名又は名称】弁理士法人NSI国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100104802
【氏名又は名称】清水 尚人
(72)【発明者】
【氏名】水谷 勝史
(72)【発明者】
【氏名】今 海斗
(72)【発明者】
【氏名】真島 聡芸
【審査官】高橋 樹理
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-053356(JP,A)
【文献】特開2016-029031(JP,A)
【文献】特開2014-047138(JP,A)
【文献】国際公開第99/022719(WO,A1)
【文献】特開平08-081361(JP,A)
【文献】国際公開第2002/053154(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/69
A23L 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
油性成分を主成分として含むカプセル内容物と
、ゼラチンまたはウシ由来ゼラチンを基剤として含むカプセル皮膜組成物とを材料として製造されるシームレスカプセルであって、当該カプセル内容物にリン脂質を含有し、当該リン脂質が85重量%以上のホスファチジルコリンを含むレシチンであることを特徴とする、シームレスカプセル。
【請求項2】
前記リン脂質が、大豆レシチンまたは卵黄レシチンである、請求項1に記載のシームレスカプセル。
【請求項3】
前記
油性成分にオメガ-3脂肪酸またはそのエチルエステルを含む、請求項1
または2に記載のシームレスカプセル。
【請求項4】
前記オメガ-3脂肪酸が、エイコサペンタエン酸および/またはドコサヘキサエン酸である、請求項3に記載のシームレスカプセル。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれか一項に記載のシームレスカプセルを含む、医薬品製剤。
【請求項6】
油性成分を主成分として含むカプセル内容物と
、ゼラチンまたはウシ由来ゼラチンを基剤として含むカプセル皮膜組成物とを材料として製造されるシームレスカプセルを製造する方法であって、当該カプセル内容物にリン脂質を配合する工程
、および当該カプセル皮膜組成物にゼラチンまたはウシ由来ゼラチンを配合する工程を含み、
かつ当該リン脂質が85重量%以上のホスファチジルコリンを含むレシチンであることを特徴とする、シームレスカプセルの製造方法。
【請求項7】
前記リン脂質が、大豆レシチンまたは卵黄レシチンである、請求項
6に記載のシームレスカプセルの製造方法。
【請求項8】
前記
油性成分にオメガ-3脂肪酸またはそのエチルエステルを含む、請求項
6または7に記載のシームレスカプセルの製造方法。
【請求項9】
前記オメガ-3脂肪酸が、エイコサペンタエン酸および/またはドコサヘキサエン酸である、請求項
8に記載のシームレスカプセルの製造方法。
【請求項10】
シームレスカプセルの皮膜中に発生するアイズまたは皮膜の偏肉を軽減する方法であって、
油性成分を主成分として含むカプセル内容物と
、ゼラチンまたはウシ由来ゼラチンを基剤として含むカプセル皮膜組成物とを材料とするシームレスカプセルを製造する過程において、当該カプセル内容物にリン脂質を配合するステップ
、および当該カプセル皮膜組成物にゼラチンまたはウシ由来ゼラチンを配合するステップを含み、当該リン脂質が85重量%以上のホスファチジルコリンを含むレシチンであることを特徴とする、前記アイズまたは皮膜の偏肉を軽減する方法。
【請求項11】
前記リン脂質が、大豆レシチンまたは卵黄レシチンである、請求項
10に記載の方法。
【請求項12】
前記
油性成分にオメガ-3脂肪酸またはそのエチルエステルを含む、請求項
10または11に記載の方法。
【請求項13】
前記オメガ-3脂肪酸が、エイコサペンタエン酸および/またはドコサヘキサエン酸である、請求項
12に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬品、医薬部外品、機能性食品、嗜好品などにおいて有用なカプセル製剤の技術分野に属する。本発明は、かかるカプセル製剤の中でも、いわゆるシームレスカプセルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
シームレスカプセルは、ソフトカプセルの一種であって、液滴がその表面張力により丸くなる性質を利用して製造されるため真球に近く、またソフトカプセルなどと異なり継ぎ目がない。シームレスカプセルの特長としては、例えば、直径が0.5mmの微小カプセルも製造が可能など粒径を広く選択することができること、カプセル皮膜の膜厚や膜の硬度を広く選択することができること、皮膜の厚さを薄くできることから即溶解性タイプのカプセルも製造可能などカプセルの溶解時間を広く選択することができること、耐熱性のカプセルにすることができること、皮膜のヒートシールが不要なため、ゼラチン以外の皮膜基剤も使用可能なことなどが挙げられる。このような特長から、シームレスカプセルは、医薬品分野や食品分野などにおいて広く利用されている。
【0003】
上記のようにシームレスカプセルは、様々なメリットを有するものの、一般のソフトカプセルでは見られない「偏肉」や「アイズ」と言われる欠点を有する。
シームレスカプセルは、通常、二重ノズルの内側のノズルから油性のカプセル内容液を、外側のノズルからゼラチン等のカプセル皮膜液を一定速度で同時に冷却油液中へ吐出させ、この2層の流液を一定間隔で切断し、界面張力で液滴とした後、外側の皮膜がゲル化してカプセル化されることにより製造される。このようにして、シームレスカプセルは、二重ノズルを用いて当該2層の溶液を滴下し、その際に、カプセル内部に油性のカプセル内容液を入れ込むことにより製造される。この時に、内容液の粘度、比重等の性質によって、必ずしも内容液はカプセルの中心に収まらない場合がある。そうすると皮膜の薄い部分が発生し、その部分の強度が弱くなる現象が起こる。このように、皮膜の厚さが偏る現象を「偏肉」といい、部分的に強度が弱くなるので、シームレスカプセルの欠点とされている。
【0004】
また、シームレスカプセルは、二重ノズルで、皮膜液と内容液を合わせて押し出しつつ、その時の重力やノズルに与えるパルス、振動、冷却油の流速などで調整しながら、目的の大きさに均等に切断して製造される。一定の大きさに切断した瞬間に、表面張力が働いて、最も安定した形、すなわち球状になる。この時、同心円状のノズルで打ち出すために、どうしても皮膜中に空泡や内容物由来の油滴が残る。これを「アイズ」といい、上記偏肉と同様に、アイズはカプセル強度を下げる原因になるので、シームレスカプセルの欠点とされている。
【0005】
シームレスカプセルの欠点である上記「偏肉」や「アイズ」を少なくするために、例えば、界面張力調整剤やゲル化促進剤といった成分を皮膜組成物中やカプセル内容物中に配合することが行われている。一方、特許文献1では、皮膜組成物にもカプセル内容物にも界面張力調整剤やゲル化促進剤を含有しないシームレスカプセルが開示されており、界面張力調整剤やゲル化促進剤を含有しなくても、偏肉やアイズが少ないシームレスカプセルが得られるとされている。
特許文献2には、リン脂質を含有する油剤(カプセル内容物)を内包する単層皮膜のシームレスカプセルが開示されている。但し、特許文献2の発明は、リン脂質を含有する油剤を内包する単層皮膜のシームレスカプセルを製造する場合、二重ノズルから冷却油中に微量のリン脂質が混入し、このリン脂質によってカプセルが破壊されたとの知見に基づき、かかる問題を解決するために、カプセル内容物に更にHLB3以下の乳化剤を配合したものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2009/004999号
【文献】特開2015-199698号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、シームレスカプセルの一般的な欠点である「偏肉」や「アイズ」が少ない新規なシームレスカプセルを提供することを主な課題とする。また、そのようなシームレスカプセルの製造方法やシームレスカプセルにおける偏肉やアイズを軽減する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、カプセル内容物に少なくとも85重量%以上のホスファチジルコリンを含むレシチンを配合することにより上記課題を解決しうることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
本発明としては、例えば、下記を挙げることができる。
[1]カプセル内容物とカプセル皮膜組成物とを材料として製造されるシームレスカプセルであって、当該カプセル内容物にリン脂質を含有し、当該リン脂質が85重量%以上のホスファチジルコリンを含むレシチンであることを特徴とする、シームレスカプセル。
[2]前記リン脂質が、大豆レシチンまたは卵黄レシチンである、上記[1]に記載のシームレスカプセル。
[3]前記カプセル皮膜組成物の基剤としてゼラチンまたはウシ由来ゼラチンを含む、上記[1]または[2]に記載のシームレスカプセル。
[4]前記カプセル内容物にオメガ-3脂肪酸またはそのエチルエステルを含む、上記[1]~[3]のいずれか一項に記載のシームレスカプセル。
[5]前記オメガ-3脂肪酸が、エイコサペンタエン酸および/またはドコサヘキサエン酸である、上記[4]に記載のシームレスカプセル。
[6]上記[1]~[5]のいずれか一項に記載のシームレスカプセルを含む、医薬品製剤。
【0010】
[7]カプセル内容物とカプセル皮膜組成物とを材料として製造されるシームレスカプセルを製造する方法であって、当該カプセル内容物にリン脂質を配合する工程を含み、当該リン脂質が85重量%以上のホスファチジルコリンを含むレシチンであることを特徴とする、シームレスカプセルの製造方法。
[8]前記リン脂質が、大豆レシチンまたは卵黄レシチンである、上記[7]に記載のシームレスカプセルの製造方法。
[9]前記カプセル皮膜組成物の基剤としてゼラチンまたはウシ由来ゼラチンを含む、上記[7]または[8]に記載のシームレスカプセルの製造方法。
[10]前記カプセル内容物にオメガ-3脂肪酸またはそのエチルエステルを含む、上記[7]~[9]のいずれか一項に記載のシームレスカプセルの製造方法。
[11]前記オメガ-3脂肪酸が、エイコサペンタエン酸および/またはドコサヘキサエン酸である、上記[10]に記載のシームレスカプセルの製造方法。
【0011】
[12]シームレスカプセルの皮膜中に発生するアイズまたは皮膜の偏肉を軽減する方法であって、カプセル内容物とカプセル皮膜組成物とを材料とするシームレスカプセルを製造する過程において、当該カプセル内容物にリン脂質を配合するステップを含み、当該リン脂質が85重量%以上のホスファチジルコリンを含むレシチンであることを特徴とする、前記アイズまたは皮膜の偏肉を軽減する方法。
[13]前記リン脂質が、大豆レシチンまたは卵黄レシチンである、上記[12]に記載の方法。
[14]前記カプセル皮膜組成物の基剤としてゼラチンまたはウシ由来ゼラチンを含む、上記[12]または[13]に記載の方法。
[15]前記カプセル内容物にオメガ-3脂肪酸またはそのエチルエステルを含む、上記[12]~[14]のいずれか一項に記載の方法。
[16]前記オメガ-3脂肪酸が、エイコサペンタエン酸および/またはドコサヘキサエン酸である、上記[15]に記載の方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、例えば、シームレスカプセルにおける偏肉やアイズを軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】シームレスカプセルの写真(グレースケール)。
【
図2】実施例1(牛ゼラチン使用)に係るシームレスカプセルの写真(グレースケール)。
【
図3】実施例2(豚ゼラチン使用)に係るシームレスカプセルの写真(グレースケール)。
【発明を実施するための形態】
【0014】
1 本発明に係るシームレスカプセル
本発明に係るシームレスカプセル(以下、「本発明シームレスカプセル」という。)は、カプセル内容物とカプセル皮膜組成物とを材料として製造されるシームレスカプセルであって、カプセル内容物にリン脂質を含有し、当該リン脂質が85重量%以上のホスファチジルコリンを含むレシチンであることを特徴とする。好ましい当該レシチンは、90重量%以上のホスファチジルコリンを含むものである。より好ましい当該レシチンは、94重量%以上ないし95重量%以上のホスファチジルコリンを含むものである。ほぼ100重量%のホスファチジルコリンを含むレシチンであってもよい。ここで、85重量%以上のホスファチジルコリンを含むレシチンとは、レシチン中のホスファチジルコリンの含有量が85重量%以上であることをいう。
【0015】
本発明シームレスカプセルは、カプセル内容物とカプセル皮膜組成物とを含む。本発明シームレスカプセルは、通常、カプセル内容物からなる油滴表面を単層のカプセル皮膜組成物が被覆する構造を有する。
【0016】
1.1 カプセル内容物
本発明に係るカプセル内容物には、目的に応じて上記リン脂質以外に、例えば、生理活性成分、食品、香料、(以下、これらを「主成分」という。)が含まれる。主成分が油性成分の場合には、当該カプセル内容物は、上記リン脂質と主成分とのみからなるものでもよい。主成分が油性成分でない場合には、当該カプセル内容物は、更に医薬上または食品製造上許容される油性成分を含むことができる。また、いずれにおいても当該カプセル内容物には、更に医薬上または食品製造上許容される添加剤を適量含むことができる。
【0017】
ここで「油性成分」とは、常温または加温することで液状化する、基本的に水と相溶性のない疎水性物質をいう。本発明においては、そのような疎水性物質であれば特に制限されない。
【0018】
本発明において、主成分が油性の生理活性成分であるもの(以下、「油性活性成分」ともいう。)としては、例えば、ω3-脂肪酸やそのエステル(例、C1-6アルキルエステル;好ましくはエチルエステル)を挙げることができる。かかる「ω3-脂肪酸」としては、例えば、C18-22ω3-脂肪酸(例、オクタデカトリエン酸、オクタデカテトラエン酸、エイコサテトラエン酸、エイコサペンタエン酸、ヘンエイコサペンタエン酸、ドコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸)が挙げられる。
【0019】
ω3-脂肪酸エチルエステルの具体例としては、オクタデカトリエン酸エチルエステル、オクタデカテトラエン酸エチルエステル、エイコサテトラエン酸エチルエステル、エイコサペンタエン酸(EPA)エチルエステル、ヘンエイコサペンタエン酸エチルエステル、ドコサペンタエン酸エチルエステル、ドコサヘキサエン酸(DHA)エチルエステルならびに、これらの2以上の混合物(例えば、高脂血症(例、高コレステロール血症、高LDLコレステロール血症、低HDLコレステロール血症、高トリグリセリド(TG)血症)などの治療、心血管イベントの防止などに有用な、欧州薬局方名OMEGA-3-ACID ETHYL ESTERS 90)が挙げられる。
上記のような主成分が生理活性を有する油性の油性活性成分(例えば、ω3-脂肪酸類)は、1種または2種以上を併用することができる。
【0020】
シームレスカプセルに油性活性成分を内封する場合、当該油性活性成分は、そのもの自体として、または油性活性成分と医薬上または食品製造上許容される添加剤との混合物としてシームレスカプセルに内包される。このような添加剤としては、後述するものが挙げられるが、なかでも、安定化剤(好ましくは、α-トコフェロール)が好ましい。安定化剤を含む場合、油性活性成分と医薬上または食品製造上許容される添加剤との混合物中におけるその含量は、0.3~0.5重量%の範囲内が適当である。
【0021】
油性活性成分と医薬上または食品製造上許容される添加剤との上記混合物は、例えば、溶液、エマルション、サスペンジョン、その他の液剤の形で本発明シームレスカプセルの製造に提供することができる。油性活性成分自体が液状の場合には、そのまま本発明シームレスカプセルの製造に提供することもできる。
【0022】
主成分が油性成分でない場合のカプセル内容物に含有される油性成分としては、例えば、油脂類、ロウ類、炭化水素類、高級脂肪酸類、高級アルコール類、エステル類、精油類、シリコーン油類を挙げることができる。具体的には、油脂類としては、例えば大豆油、ヌカ油、ホホバ油、アボカド油、アーモンド油、オリーブ油、カカオ脂、ゴマ油、パーシック油、ヒマシ油、ヤシ油、ミンク油、牛脂、豚脂等の天然油脂、またはこれらの天然油脂を水素添加して得られる硬化油及びミリスチン酸グリセリド、2-エチルヘキサン酸グリセリド等の合成トリグリセリド等が挙げられる。ロウ類としては、例えばカルナウバロウ、鯨ロウ、ミツロウ、ラノリン等が挙げられる。炭化水素類としては、例えば流動パラフィン、ワセリン、パラフィンマイクロクリスタリンワックス、セレシン、スクワラン、プリスタン等が挙げられる。高級脂肪酸類としては、例えばラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、ラノリン酸、イソステアリン酸等が挙げられる。高級アルコール類としては、例えばラウリルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、オレイルアルコール、ラノリンアルコール、コレステロール、2-ヘキシルデカノール等が挙げられる。エステル類としては、例えばオクタン酸セチル、乳酸ミリスチル、乳酸セチル、ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸ミリスチル、パルミチン酸イソプロピル、アジピン酸イソプロピル、ステアリン酸ブチル、オレイン酸デシル等が挙げられる。精油類としては、例えばハッカ油、ジャスミン油、ショウ脳油、ヒノキ油、トウヒ油、リュウ油、テレピン油、ケイ皮油、ベルガモット油、ミカン油、ショウブ油、パイン油、ラベンダー油、ベイ油、クローブ油、ヒバ油、バラ油、ユーカリ油、レモン油、ペパーミント油、ローズ油、セージ油、メントール、シネオール、オイゲノール、シトラール、シトロネラール、ボルネオール、リナロール、ゲラーオール、カンファー、チモール、スピラントール、ピネン、リモネン、テルペル系化合物等が挙げられる。シリコーン油類としては、例えばジメチルポリシロキサン等が例示されるが、これらに限定されるものではない。
上記油性成分は、1種または2種以上を併用することができる。
【0023】
当該カプセル内容物に含有しうる添加剤としては、シームレスカプセルにおいて使用できるものであれば特に制限されないが、例えば、着色剤(例、黄色色素5号、赤色色素2号、青色色素2号などの食用色素;βカロチン;食用レーキ色素;三二酸化鉄、黄色三二酸化鉄)、単糖類(例、アラビノース、キシロース、リボース、2-デオキシリボース等の五炭糖類;ブドウ糖、果糖、ガラクトース、マンノース、ソルボース、ラムノース、フコース等の六炭糖類)、二糖類(例、麦芽糖、セロビオース、α,α-トレハロース、乳糖、ショ糖)、セルロース類(例、結晶セルロース(微結晶セルロースを含む))、無機物(例、無水リン酸カルシウム、沈降炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム)、希釈剤ないし溶解補助剤(例、中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)オイル、オリーブ油、大豆油、コーン油、水、エタノール、またはこれらの混合物)、pH調整剤(例、クエン酸塩、リン酸塩、炭酸塩、酒石酸塩、フマル酸塩、酢酸塩、アミノ酸塩)、安定化剤(例、α-トコフェロール、エデト酸四ナトリウム、ニコチン酸アミド、シクロデキストリン類)、酸味料(例、アスコルビン酸、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸)、香料(例、メントール、ハッカ油、レモン油、バニリン、ブルーベリーフレーバー)、流動化剤(例、軽質無水ケイ酸、含水二酸化ケイ素、タルク)などを挙げることができる。
上記添加剤は、1種または2種以上を併用することができる。
【0024】
本発明に係るカプセル内容物はリン脂質を含み、かかるリン脂質は85重量%以上のホスファチジルコリンを含むレシチンである。好ましくは、当該リン脂質は、90重量%以上のホスファチジルコリンを含むレシチンである。より好ましくは94重量%以上ないし95重量%以上のホスファチジルコリンを含むレシチンである。
【0025】
ホスファチジルコリンは、当業者において周知の化合物であり、下記一般式(I)で示される化合物である。式中、R1およびR2は同一または異なって、C12-22炭化水素基を表す。ホスファチジルコリンは、通常、R1とR2の種類や組み合わせが異なるホスファチジルコリンの混合物として提供される。
【0026】
【0027】
本発明に係るホスファチジルコリンとしては、R1およびR2の両方が水添されたものでもよいが、R1、R2の少なくとも一方が不飽和炭化水素基である不飽和ホスファチジルコリンが好ましい。R1およびR2の具体例として、パルミトイル基(16:1)、オレイル基(18:1)、リノレイル基(18:2)、リノレニル基(18:3)等の不飽和炭化水素基、パルミチル基(16:0)、ステアリル基(18:0)等の飽和炭化水素基を挙げることができる。本発明においては、不飽和ホスファチジルコリンは、オレイル基、リノレイル基、リノレニル基等の炭素数18である不飽和炭化水素基の含有率が30%以上であるものが好ましく、さらに好ましくは40%以上、特に好ましくは50%以上である。
【0028】
本発明に係るリン脂質として、ホスファチジルコリンを85重量%以上含むよう高度に精製された、大豆レシチン、卵黄レシチン、ライスレシチン、等の天然由来のレシチンを用いる。中でも、ホスファチジルコリンを85重量%以上含むよう高度に精製された大豆レシチンが好ましく用いられる。
本発明に係るリン脂質ないしレシチンは、その種類や主成分等の他の成分の種類・量、所望の粒子径などによって異なるが、カプセル内容物中において、例えば、リン脂質ないしレシチンとして、0.01~0.5重量%の範囲内で含有することができる。好ましくは0.02~0.1重量%の範囲内である。
【0029】
1.2 カプセル皮膜組成物
本発明に係るカプセル皮膜組成物は、低温でゲル化してカプセル内容物の表面に皮膜を形成しうる皮膜形成基剤とかかる皮膜の硬度や強さなどを調整しうる可塑剤とから主としてなる。ここで「主としてなる」とは、本発明の効果を損なわない限り、他の成分を含みうることを意味し、具体的には、当該カプセル皮膜組成物中、例えば、皮膜形成基剤と可塑剤とを50重量%以上、好ましくは80重量%以上、より好ましくは90重量%以上含むことをいう。当該カプセル皮膜組成物は、皮膜形成基剤および可塑剤のみで構成されていてもよい。
【0030】
本発明に係る皮膜形成基剤としては、シームレスカプセルの皮膜形成基剤として使用でき、医薬上または食品製造上許容される親水性高分子であれば特に制限されず、例えば、ゼラチン、カゼイン、ゼイン、ペクチンおよびそれらの誘導体、アルギン酸またはその塩(例、ナトリウム塩、カリウム塩)、寒天、トラガントガム、グアーガム、ローカストビーンガム、アラビアガム、キサンタンガム、ジェランガム、グルコマンナン、カラギーナン、タマリンド、マンナン、ヘミロース、デンプン、キトサン、コラーゲンタンパク、ファーセレラン、ペクチン、プルラン、デンプン等の天然親水性高分子;カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、酢酸フタル酸セルロース、アルギン酸プロピレングリコールエステル、酸化澱粉、エステル化澱粉、エーテル化澱粉、カチオン澱粉等の半合成親水性高分子;およびポリアクリル酸ソーダ、ポリエチレンイミン、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルピロリドン等の合成親水性高分子を挙げることができる。この中、ゼラチンが好ましく、ウシ由来またはブタ由来のゼラチンがより好ましい。
【0031】
また、場合により、皮膜形成基剤のゲル化形成を促進するために、カリウムイオン、ナトリウムイオンなどを生成するアルカリ金属塩;カルシウムイオン、マグネシウムイオンなどを生成するアルカリ土類金属塩;アンモニウムイオンを生成するアンモニウム塩を適量配合することができる。
【0032】
上記皮膜形成基剤は、1種または2種以上併用することができる。
当該皮膜形成基剤は、その種類や主成分等の他の成分の種類・量、所望の粒子径などによって異なるが、カプセル皮膜組成物中において、例えば、1~90重量%の範囲内で含有することができる。好ましくは20~90重量%の範囲内であり、より好ましくは50~85重量%の範囲内である。
【0033】
本発明に係る可塑剤としては、例えば、ソルビトール、マンニトール、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、グルコース、フルクトース、ガラクトース、アラビノース、マンノース、ラムノース、マルトース、ラフィノース、スクロース、エリスリトール、マルチトール、トレハロース、ラクトース、キシロースなどの水溶性多価アルコールを挙げることができる。この中、ソルビトール、グリセリンが好ましい。
【0034】
上記可塑剤は、1種または2種以上併用することができる。
当該可塑剤は、その種類や主成分等の他の成分の種類・量、所望の粒子径などによって異なるが、カプセル皮膜組成物中において、例えば、10~40重量%の範囲内で含有することができる。好ましくは10~25重量%の範囲内であり、より好ましくは10~20重量%の範囲内である。
【0035】
本発明に係るカプセル皮膜組成物には、所望により、例えば、着色剤、酸味料、香料を適量配合することができる。当該着色剤としては、例えば、黄色色素5号、赤色色素2号、青色色素2号などの食用色素;βカロチン;食用レーキ色素;三二酸化鉄、黄色三二酸化鉄を挙げることができる。当該酸味料としては、例えば、アスコルビン酸、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸を挙げることができる。当該香料としては、例えば、メントール、ハッカ油、レモン油、バニリン、ブルーベリーフレーバーを挙げることができる。
【0036】
1.3 その他
本発明シームレスカプセルの粒径は、製造方法等により適宜調整することができるが、通常、0.5mm~10mmの範囲内である。製造後の本発明シームレスカプセルは、その用途により、未乾燥でカプセル中の水分を残存させたまま使用することができ、あるいは常圧または真空乾燥法により乾燥させてから使用することもできる。
【0037】
本発明シームレスカプセルの粒径は、例えば、光学顕微鏡(測定顕微鏡、デジタルマイクロスコープ等)、画像解析装置(画像測定機、投影機等)、測定工具(ノギス、スケール等)を用いて測定することができる。
本発明シームレスカプセルは、継ぎ目がなく、サイズや皮膜の厚みが均一である。かかる皮膜の厚みは、通常、100μm程度から500μm程度である。製造方法等により適宜調整することができる。
【0038】
本発明シームレスカプセルの偏肉およびアイズは、いずれも軽減されているが、例えば、下記の程度である。
偏肉については、カプセル化直後に顕微鏡で観察する時、乾燥前の皮膜の厚みの最小/最大比が0.6以上、より好ましくは0.8以上、さらに好ましくは0.9以上である。厚みの測定は、一般的な画像解析法により実施することができる。皮膜の厚みの最小/最大比が0.6未満であると偏肉が大きく、乾燥時および乾燥後の保管時に皮膜にひび割れを生じ、カプセル内容物が漏れ出すおそれがある。
【0039】
アイズについては、アイズが存在しないか、または存在しても、そのアイズは極めて小さいものである。アイズが存在する場合においては、カプセル化直後、乾燥前に顕微鏡で観察する時、アイズ径が乾燥前皮膜の平均厚み((最大+最小)/2)の1/2以下、より好ましくは1/4以下、さらに好ましくは1/8以下である。アイズ径が、皮膜の平均厚み((最大+最小)/2)の1/2を超える場合は、乾燥時および乾燥後の保管時に皮膜にひび割れを生じ、カプセル内容物が漏れ出すおそれがある。
【0040】
ここで、アイズとは、皮膜に生じた球形状の空泡状の欠陥を指し、空泡内にはカプセル内容物を含んでいてもよい。アイズは、通常、歪みの少ない球状であるが、歪んだ球状であり得る。ここに真球でないアイズにおける「アイズ径」は、最大方向の径のことを指す。アイズは、シームレスカプセル中に複数個生じていてもよいが、それぞれの径は上記範囲内である。厚みおよびアイズ径の測定は、偏肉と同様、一般的な画像解析法により実施することができる。
【0041】
本発明シームレスカプセルは、医薬品、医薬部外品、機能性食品、嗜好品などの分野において用いることができる。医薬上の生理活性成分をカプセル内容物に含む本発明シームレスカプセルは、医薬品製剤として提供することができる。また、食品としての生体調節機能等を有する生理活性成分をカプセル内容物に含む本発明シームレスカプセルは、特定保健用食品(特別用途食品)や機能性表示食品などの機能性食品として提供することができる。提供される医薬品製剤や機能性食品の形態は特に制限されない。例えば、瓶詰めないし容器詰め、ビニール袋やポリ袋などの樹脂袋詰め、PTPの形態で提供することができる。輸送・運搬に耐えうる形態であることが好ましい。必要に応じて2次包装や3次包装などを施すことができる。また、カプセル内容物中の成分によっては遮光を施すことができる。
【0042】
2 本発明に係る製造方法
本発明に係る製造方法(以下、「本発明製法」という。)は、カプセル内容物とカプセル皮膜組成物とを材料として製造されるシームレスカプセルを製造する方法であって、当該カプセル内容物にリン脂質を配合する工程を含み、当該リン脂質の85重量%以上がホスファチジルコリンであることを特徴とする。本発明シームレスカプセルは、本発明製法により製造することができる。
【0043】
なお、本発明製法に係る、カプセル内容物、カプセル皮膜組成物、リン脂質、ホスファチジルコリンなどの用語の意義は前記と同義である。本発明製法は、カプセル内容物にオメガ-3脂肪酸(例、エイコサペンタエン酸および/またはドコサヘキサエン酸)またはそのエチルエステルを含むシームレスカプセルを製造する上で特に好ましい。
【0044】
本発明製法は、当該カプセル内容物に上記リン脂質を配合する工程を含むことを除いては、シームレスカプセルの製造における従来法(例えば、液中滴下法)と同様に実施することができる。具体的には、単層皮膜の本発明シームレスカプセルを液中滴下法により製造する場合、例えば、最内側から第1ノズルおよび第2ノズルを有する同心二重ノズルを備えるカプセル製造装置を用いて、該第1ノズルから、主成分(例えば、ω3-脂肪酸などの油性活性成分)と85重量%以上がホスファチジルコリンからなるリン脂質(例えば、精製大豆レシチン:Phospholipon(登録商標)90G、Phospholipon(登録商標)85Gなど)とを含む液状のカプセル内容物を、そして該第2ノズルから皮膜形成基剤と可塑剤とを含む液状のカプセル皮膜組成物を同時に、キャリア液中に押出す工程を包含する方法により実施することができる。
【0045】
「キャリア液」は、液中滴下法によるシームレスカプセルの製造で使用されるものであれば特に制限されず、例えば、中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)オイル、オリーブ油、大豆油、コーン油などの油性基材を挙げることができる。
カプセル内容物は、製造時において、例えば、0~40℃の温度範囲に制御される。カプセル皮膜組成物は、製造時において、例えば、50~80℃の温度範囲に制御される。キャリア液は、製造時において、1~15℃の温度範囲に制御される。
【0046】
液状のカプセル内容物を同心二重ノズルにおける内側の第1ノズルから、そして液状のカプセル皮膜組成物を外側の第2ノズルからそれぞれ同時に一定速度で、定常速度で流下するキャリア液中に押出す(射出する)と、当該キャリア液とカプセル皮膜組成物との間に作用する界面張力によって、2層構造のジェットが形成される。かかるジェットは、その後、球状の液滴となる。得られるシームレスカプセルのサイズの均一性を高めるために、このジェット流に振動を加えてもよい。
次いで、液滴の表面に皮膜を形成させるために、キャリア液中の液滴を冷却すると、液滴表面に皮膜が形成される。そして、必要に応じて、脱油工程や乾燥工程を経ることにより、本発明シームレスカプセルを製造することができる。
【0047】
3 本発明に係る方法
本発明に係る方法(以下、「本発明方法」という。)は、シームレスカプセルの皮膜中に発生するアイズまたは皮膜の偏肉を軽減する方法であって、カプセル内容物とカプセル皮膜組成物とを材料とするシームレスカプセルを製造する過程において、当該カプセル内容物にリン脂質を配合するステップを含み、当該リン脂質の85重量%以上がホスファチジルコリンであることを特徴とする。
【0048】
なお、本発明方法に係る、カプセル内容物、カプセル皮膜組成物、リン脂質、ホスファチジルコリンなどの用語の意義は前記と同義である。本発明方法は、カプセル内容物にオメガ-3脂肪酸(例、エイコサペンタエン酸および/またはドコサヘキサエン酸)またはそのエチルエステルを含むシームレスカプセルを製造する場合において、皮膜中に発生するアイズまたは皮膜の偏肉を軽減する上で特に好ましい。
【実施例】
【0049】
以下に試験例や実施例などを掲げて本発明を説明するが、本発明はこれら実施例等により何ら限定されるものではない。
【0050】
[試験例1]スクリーニング試験
いくつかの界面張力調整剤について、調製されたシームレスカプセルの製剤性(アイズと編肉)を評価した。各シームレスカプセルの製造は、次のようにして行った。
中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT;ココナードMT、花王社製)を油性成分として、これに界面張力調整剤を0.5重量%添加し、混合溶解してカプセル内容物を調製した。また別途、表1に示すカプセル皮膜組成物を調製した。これら調製したカプセル内容物およびカプセル皮膜組成物を用い、SPX-LABOシームレスカプセル充填機(フロイント産業社製)にて、液中滴下法で常法により粒径4mmの単層シームレスカプセルを製造した。
なお、レシチンCL(J-オイルミルズ社製)は、ホスファチジルコリンを約18重量%含有する。
【0051】
ノズル付近のカプセル内容物の温度は15~30℃、カプセル皮膜組成物の温度は50~70℃に制御し、キャリア液にはMCTオイルを用い、その温度は5~10℃に制御し、秒速25~35個の速度でカプセル化した。
得られた各シームレスカプセルは、冷蔵庫で冷却し、乾燥機で乾燥した。製造した各シームレスカプセルの顕微鏡写真を
図1に示す。また、それらの製剤性の評価結果を、表1下段に示す。表1中、「○」は、顕微鏡で観察した結果、内容液界面が均一でシームレスカプセルの形成状態が良好であったことを示し、「×」は内容液界面が十分に均一でなくシームレスカプセルの形成状態が不良であったことを示す。
【0052】
【0053】
表1に示す通り、グリセリン脂肪酸エステルを界面張力調整剤とした場合、シームレスカプセルの製剤性に問題が発生するおそれが懸念された。
【0054】
[実施例]
下記表2に示す処方で液中滴下法(SPX-LABOシームレスカプセル充填機、フロイント産業社製)により粒径4mmの本発明シームレスカプセルを製造した。なお、大豆レシチンは、Lipoid社製の精製大豆レシチン(Phospholipon(登録商標)90G;ホスファチジルコリン含量94重量%以上)を用いた。レシチンの濃度は、カプセル内容物中において0.05重量%である。
【0055】
ノズル付近のカプセル内容物の温度は15~30℃、カプセル皮膜組成物の温度は50~70℃に制御し、キャリア液にはMCTオイルを用い、その温度は5~10℃に制御し、秒速25~35個の速度でカプセル化した。
得られた本発明シームレスカプセルは、冷蔵庫で冷却し、乾燥機で乾燥した。
【0056】
【0057】
得られた本発明シームレスカプセルの顕微鏡写真を
図2および3に示す。いずれの本発明シームレスカプセルについても偏肉やアイズは特に見られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明シームレスカプセルは、例えば、医薬品、医薬部外品、機能性食品、嗜好品などの分野において有用である。