(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-20
(45)【発行日】2025-01-06
(54)【発明の名称】油性インク用填剤及び油性インク用顔料組成物
(51)【国際特許分類】
C09D 11/037 20140101AFI20241223BHJP
C09C 1/30 20060101ALI20241223BHJP
C09C 1/36 20060101ALI20241223BHJP
C09C 1/04 20060101ALI20241223BHJP
【FI】
C09D11/037
C09C1/30
C09C1/36
C09C1/04
(21)【出願番号】P 2020177530
(22)【出願日】2020-10-22
【審査請求日】2023-07-20
(31)【優先権主張番号】P 2019194531
(32)【優先日】2019-10-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000193601
【氏名又は名称】水澤化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003524
【氏名又は名称】弁理士法人愛宕綜合特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(72)【発明者】
【氏名】片桐 理甫
(72)【発明者】
【氏名】山内 理光
【審査官】川嶋 宏毅
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-229302(JP,A)
【文献】特開平07-081930(JP,A)
【文献】特開平07-232911(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-201/10
C09C 1/00-3/12
C01B 33/00-33/193
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ回折散乱法で測定した体積基準平均粒径(D
50)が0.8~4.0μmであり、BET比表面積が5~300m
2/gの範囲にあり、4%以上の強熱減量(1050℃、1hr)を有し、鉄シリンダー法による嵩密度(JIS K 6220-1 7.8.2:2015)が0.16~0.36g/cm
3である、沈降法非晶質シリカからなる油性インク用填剤であ
ることを特徴とする油性インク用填剤。
【請求項2】
前記BET比表面積が5~200m
2/gである請求項1に記載の油性インク用填剤。
【請求項3】
塩素含有量が200~3000ppmの範囲にある請求項1または2記載の油性インク用填剤。
【請求項4】
請求項1~3の何れかに記載の油性インク用填剤と白色顔料とを含む油性インク用顔料組成物。
【請求項5】
前記白色顔料100質量部当り5~200質量部の量で、前記沈降法非晶質シリカが配合されている請求項4に記載の油性インク用顔料組成物。
【請求項6】
前記白色顔料が、酸化チタンまたは酸化亜鉛である請求項4または5に記載の油性インク用顔料組成物。
【請求項7】
スクリーン印刷に使用される油性インクに配合される請求項4~6の何れかに記載の油性インク用顔料組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は沈降法非晶質シリカからなる油性インク用填剤に関するものであり、さらには、該油性インク用填剤が配合された油性インク用顔料組成物にも関する。
【背景技術】
【0002】
シリカ粒子のインク用填剤への配合は従来行われていたが、艶消し調や梨地調を付与する目的での配合に過ぎなかった(特許文献1参照)。
【0003】
一方、インクが透明な記録媒体又は着色された記録媒体に印刷される場合、透明記録媒体の透過性を低減したり、着色記録媒体の色を隠蔽したりして印刷する必要がある。このような隠蔽性が求められる場合、酸化チタン等の顔料が用いられる。
【0004】
インクの隠蔽性を高めたい場合、顔料の配合量を増やすことで対応可能であるが、酸化チタン等の顔料は沈降性が高いため、多量の配合は避けたいのが実情である。例えば、特許文献2には、酸化チタン及び/または酸化亜鉛粒子を含む隠蔽性複合粒子が、粒径が0.008~0.05μmの超微細な無機微粒子(例えばヒュームドシリカ)が分散されている溶液に配合されている隠蔽性インキ組成物が開示されている。
【0005】
しかしながら、特許文献2の隠蔽性インキ組成物において、超微細な無機微粒子は、粒径の大きな隠蔽性複合粒子の沈降を防止するために使用されているものであり、かかる無機微粒子の使用により、隠蔽性複合粒子をインク中に均一に分散でき、安定した隠蔽力を発揮できるとしても、隠蔽性複合粒子の使用量を低減させて高い隠蔽性を発現させることはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平1-174574号公報
【文献】特開2006-316193号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って本発明の目的は、高い隠蔽性を示す油性インク用填剤を提供することにある。
本発明の他の目的は、白色顔料と組み合わせで使用されたとき、高価な白色顔料の使用量を低減させながら高い隠蔽力を確保することが可能な油性インク用填剤を提供することにある。
本発明のさらに他の目的は、上記油性インク用填剤と白色顔料とを含む油性インク用顔料組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、レーザ回折散乱法で測定した体積基準平均粒径(D50)が0.8~4.0μmであり、BET比表面積が5~300m2/gの範囲にある、沈降法非晶質シリカからなる油性インク用填剤が提供される。
【0009】
本発明の油性インク用填剤においては、
(1)前記BET比表面積が5~200m2/gであること、
(2)塩素含有量が200~3000ppmの範囲にあること、
(3)前記沈降法非晶質シリカは、4%以上の強熱減量(1050℃、1hr)を有していること、
が好ましい。
【0010】
本発明によれば、また、上記の油性インク用填剤と白色顔料とを含む油性インク用顔料組成物が提供される。
【0011】
上記の油性インク用組成物においては、
(1)前記白色顔料100質量部当り5~200質量部の量で、前記沈降法非晶質シリカが配合されていること、
(2)前記白色顔料が、酸化チタンまたは酸化亜鉛であること、
(3)スクリーン印刷に使用される油性インクに配合されること、
が好適である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の油性インク用填剤(沈降法非晶質シリカ)は、高い隠蔽性を示し、特に白色顔料と組み合わせで使用されたとき、高価な白色顔料の使用量を低減させながら高い隠蔽力を確保することができる。このような高い隠蔽力は、多くの実験により現象として見出されたものであり、その理由を正確に解明するには至っていないが、本発明者等は次のように推定している。
【0013】
即ち、本発明において、油性インク用填剤として使用される非晶質シリカは、沈降法で得られるものであることから、乾式法で得られる超微細シリカ(ヒュームドシリカ)等と比較して体積基準の平均粒子径は大きく、0.8~4.0μmの範囲にあり、このような大きさの粒子の集合体は、光が粒子内部に入射しやすく、ひいては光が粒子内部で散乱しやすくなり、この結果として、高い隠蔽力が発揮されるものと推定される。
【0014】
また、この沈降法非晶質シリカは、上記のような平均粒径に関連して、BET比表面積が比較的大きく、5~300m2/g、特に5~200m2/gの範囲にある。即ち、表面に多くのSiOH基が分布していることに関連して、その高い濡れ性を示し、この結果、酸化チタンや酸化亜鉛等の白色顔料との親和性が向上し、これらの白色顔料が該非晶質シリカ表面に分布し、白色顔料が嵩増しされ、白色顔料の配合量を低減させながら、高い隠蔽力が確保されるのではないかと思われる。
【0015】
従って、本発明の油性インク用填剤は、白色顔料と混合して油性インクに配合されることにより、その特性を最大限に発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】酸化チタン30部が配合された塗料について、ダインペン(35mN/m及び32mN/mのペン)での塗膜の濡れ性試験(5秒後)の結果を示す図。
【
図2】酸化チタン30部が配合された塗料について、ダインペン(35mN/m及び32mN/mのペン)での塗膜の濡れ性試験(60秒後)の結果を示す図。
【
図3】実施例1の非晶質シリカA10質量部と酸化チタン20質量部とが配合された塗料について、ダインペン(35mN/m及び32mN/mのペン)での塗膜の濡れ性試験(5秒後)の結果を示す図。
【
図4】実施例1の非晶質シリカA10質量部と酸化チタン20質量部とが配合された塗料について、ダインペン(35mN/m及び32mN/mのペン)での塗膜の濡れ性試験(60秒後)の結果を示す図。
【
図5】比較例1の非晶質シリカB2.5質量部と酸化チタン27.5質量部とが配合された塗料について、ダインペン(35mN/m及び32mN/mのペン)での塗膜の濡れ性試験(5秒後)の結果を示す図。
【
図6】比較例1の非晶質シリカB2.5質量部と酸化チタン27.5質量部とが配合された塗料について、ダインペン(35mN/m及び32mN/mのペン)での塗膜の濡れ性試験(60秒後)の結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[沈降法非晶質シリカ]
本発明において油性インク用填剤として用いられる沈降法非晶質シリカは、BET比表面積が5~300m2/g、好ましくは5~200m2/g、特に好ましくは50~100m2/gの範囲にある。また、BET比表面積から算出される一次粒子径が8~300nm、好ましくは8~30nm、特に好ましくは15~30nmの範囲にある。
また、前記沈降法非晶質シリカは、レーザ回折散乱法で測定した体積基準での平均粒径(D50)が0.8~4.0μm、好ましくは0.8~3.1μmの範囲にある。
【0018】
例えば、上記の平均粒径が上記範囲よりも小さく或いはBET比表面積が上記の範囲を上回ると、光が入射しづらくなり、ひいては光が粒子内部で散乱しづらくなり、隠蔽力が低下する。一方、平均粒径が上記範囲よりも大きい場合には、白色顔料や油性インクに対する分散性が損なわれ、安定した隠蔽力を発揮することが困難となる。また、BET比表面積が上記の範囲を下回ったとしても格別の利点はなく、経済的に不利になるに過ぎない。
【0019】
また、本発明において、上記の沈降法非晶質シリカは、その製法に由来して、食塩等の塩化物が使用される場合が多く、その場合、塩素含有量が200~3000ppmの範囲にある。即ち、沈降法で得られる非晶質シリカであっても、塩化物を使用せずに得られるものは、塩素含有量は、用いる原料(例えばケイ酸アルカリなど)に含まれる不可避的不純物に由来するものであるため、その塩素含有量は、上記範囲よりも低い。
【0020】
沈降法は、ケイ酸アルカリを主原料としての所謂湿式法であるため、得られる非晶質シリカは、特許文献2等に記載されている乾式法の超微細シリカとは異なり、強熱減量が4%以上、特に5%以上と大きい(1050℃、1hr)。このような大きな強熱減量は、高い濡れ性をもたらす要因の一つではないかと思われる。
さらに、従来使用されている沈降法では、一旦生成したシリカのゾル粒子の表面シラノール基にケイ酸イオンが結合してゆっくり生長するものであり、そのためこの非晶質シリカは強熱減量が3%以下となる。これに対して、本発明の非晶質シリカ系填剤では、濃い電解質塩溶液中にケイ酸アルカリと鉱酸とを同時注加する。生成する低分子量のケイ酸イオン種が鉱酸イオンと電解質塩による強力な塩析作用によって、急激な脱水縮合を起こして重合し、シリカのゾル粒子を経由することなく、シリカの微粒子ゲルである高分子ケイ酸へと生長する。これによりシラノール基数が増え、得られる本発明の非晶質シリカは、強熱減量が4%以上、特に5%以上と大きくなる(1050℃、1hr)。このような大きな強熱減量は、高い濡れ性をもたらす要因の一つではないかと思われる。
【0021】
この沈降法非晶質シリカは、その製法に由来して比較的嵩密度が小さく、例えば、鉄シリンダー法による嵩密度(JIS K 6220-1 7.8.2:2015)が0.16~0.36g/cm3、好ましくは0.16~0.22g/cm3、特に好ましくは0.18~0.22g/cm3の範囲にある。このような嵩密度は、光の散乱をもたらし、大きな隠蔽力発現の要因の一つとなっていると考えられる。
【0022】
前記沈降法非晶質シリカは、吸油量(JIS K 5101-13-1:2004)が180ml/100g以下、好ましくは150ml/100g以下、特に好ましくは100ml/100g以下である。この吸油量が高いと、インク溶液に添加したとき、溶液が増粘し、塗工性が低下してしまう。
【0023】
[沈降法非晶質シリカの製法]
油性インク用填剤として使用される本発明の非晶質シリカは、既に述べたように、沈降法で得られる。
概説すると、この方法は、ケイ酸アルカリと酸とを中和してシリカ粒子を析出させるというものであるが、例えば、ケイ酸アルカリと鉱酸とを水もしくは電解質水溶液に攪拌下に注加し、中和反応を行うことにより行われる。
【0024】
ケイ酸アルカリとしては、例えば、下記式(1);
M2O・nSiO2 (1)
式中、Mは、Na、K等のアルカリ金属であり、
nは1~3.8の数である、
で表されるモル組成のケイ酸アルカリの水溶液を用いる。経済的見地からは、nの数が3.0~3.4の範囲にある所謂3号ケイ酸ソーダを用いることが好ましい。
反応に用いるケイ酸アルカリ水溶液の濃度は特に制限はないが、一般に5~35質量%の濃度で用いるのがよい。
【0025】
また、鉱酸としては、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸等の水溶液が使用されるが、一般的には塩酸や硫酸水溶液が使用されるが、本発明では、表面のSiOH基の濃度を高めるという観点から塩酸が最適である。酸水溶液の酸濃度は、通常、5~20質量%程度である。
【0026】
さらに、上記のケイ酸アルカリ及び鉱酸が注加される電解質水溶液としては、特に制限されるものではないが、燐酸ナトリウム、硫酸アンモニウム、塩化ナトリウムや硫酸ナトリウム、塩化リチウム、硫酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムなどの電解質塩の水溶液が使用され、好適には、塩化ナトリウムが使用される。このような電解質の使用により、シリカ粒子の凝集成長が促進され、目的とする物性の非晶質シリカを得ることができる。
かかる電解質塩水溶液の濃度は、通常、中和反応開始時点で、1質量%以上、特に5~15質量%程度の濃度であればよい。
【0027】
中和反応に際してのケイ酸アルカリと鉱酸の注加順序は、ケイ酸アルカリ水溶液と酸水溶液とを同時注加する方法が好適であるが、ケイ酸アルカリ水溶液の注加後、酸水溶液を注加することもできる。この反応段階でpHを制御することが好ましい。例えば、同時注加の間中pHを、6乃至10、好ましくは8乃至9.5の範囲に維持するのがよい。かかる範囲よりもpHが高いと、複分解反応が進行せず、核となるシリカ粒子の生成が困難となる。一方、上記範囲よりもpHが低いと、反応が一挙に進行し、シリカ粒子が一挙に析出し、目的とする特性の非晶質シリカを得ることができなくなるおそれがある。また、この工程での反応温度は、通常、40乃至90℃の範囲が好適である。
【0028】
上記の反応終了後、熟成を行い、非晶質シリカの粒子を析出させる。この熟成時のpHは、一般に、4乃至10、特に5乃至8の範囲とするのがよい。このときのpHが上記範囲をはずれると、析出が有効に進行せず、目的とする特性のシリカ粒子を得ることが困難となるおそれがある。尚、この段階でのpH調整は、例えばケイ酸アルカリの注加停止後、所定量の鉱酸をそのまま注加することによっても容易に行われる。また、この熟成は、ケイ酸アルカリの使用量等によっても異なるが、一般には、50乃至100℃の温度で約30分乃至60分間程度である。
【0029】
熟成後、次いで、生成したシリカを含むシリカスラリー(通常、SiO2濃度が1~10質量%)を、脱アルカリ、ろ過、水洗、乾燥及び粉砕の工程に付することにより、目的とする非晶質シリカを得ることができる。
脱アルカリ、ろ過及び水洗は、副生するアルカリ塩、或いは電解質塩等を除去するものであり、定法にしたがって行われる。例えば脱アルカリは、鉱酸の添加によりpHを2乃至4程度の領域に調整することにより行うことができる。
【0030】
なお、前述した金属塩として塩化ナトリウムを使用し、中和の為の酸として塩酸を使用した場合、得られる非晶質シリカは、塩素含有量が多くなり、例えば、最大で3000ppmにも達することがある。この塩素含有量を低下させるには、水洗を徹底的に行えばよい。水洗を徹底的に行うことにより、塩素含有量を200ppm程度にまで低下せることができる。また、このような徹底的な水洗により比表面積が若干増大する傾向があり、例えば、200m2/g程度のBET比表面積が300m2/g程度に増大する。
【0031】
乾燥は、100乃至300℃程度の熱処理により行われ、洗浄乾燥後の非晶質シリカは、所定の粒度にまで粉砕し分級することにより製品とされる。このような粉砕は、ジェット粉砕機、衝撃式粉砕機、振動式粉砕機などが使用され、また分級は、重力式風力分級機、慣性式風力分級機、遠心式風力分級機、機械式風力分級機などが使用される。
【0032】
[油性インク]
インクに隠蔽性が求められる場合、顔料としては、通常、白色顔料が用いられる。ゆえに、本発明の填剤は、白色顔料と併用されることが好ましい。
例えば、白色顔料100質量部当り、5~200質量部、特に20~100質量部の量割合で白色顔料と混合して顔料組成物を調製し、これを油性インク溶液に配合することが好適である。これにより、高価な白色顔料の使用量を低減させながら、高い隠蔽性を確保することができる。
【0033】
白色顔料としては、金属酸化物、硫酸バリウム、炭酸カルシウム等の金属化合物が挙げられる。また、金属酸化物としては、酸化チタン、酸化亜鉛、アルミナ、酸化マグネシウム等が挙げられる。隠蔽性の高さ等の観点から、本発明の填剤と併用される白色顔料は、酸化チタン、酸化亜鉛が好ましく、酸化チタンが最適である。
【0034】
本発明の填剤、例えば本発明の填剤を含む顔料組成物が配合される油性インクは、特に制限されず、光硬化型、熱硬化型、紫外線硬化型等の公知の油性インクに適用することができる。
また、本発明の填剤が配合されたインクにより塗膜を形成する方法としては、特に限定されず、通常の塗工方式を適用することができる。具体的には、スクリーン印刷等の孔版印刷、グラビア印刷等の凹版印刷、又はロールコーティング等の各種コーティング法を適用することができる。
【0035】
本発明の填剤が配合されたインクの用途は特に限定されないが、例えば、優れた隠蔽性を活かして、モバイルデバイス用のディスプレイの額縁の塗膜に利用することができる。
通常、このようなディスプレイの基材はガラス製であり、遮光性を満足するためには何層もの重ね塗りが必要であるが、本発明の填剤が配合されたインクは遮光性に優れるため、重ね塗りの回数を低減させることができる。
【実施例】
【0036】
本発明の優れた効果を、次の実験例により説明する。
なお、以下の実験において、各種測定は、以下の方法により行った。
【0037】
(1)体積基準平均粒径(D50)
Malvern社製Mastersizer 3000を用いてレーザ回折散乱法により測定した。
【0038】
(2)BET比表面積及び一次粒子径
(株)島津製作所製トライスターII 3020を用いて窒素吸着法により測定を行ない、BET法により比表面積を測定した。尚、前処理は減圧条件下にて150℃で2時間行った。
また、BET比表面積から、下記式により、一次粒子径dを算出した。
d=6/ρS
ρ:シリカの密度
S:BET比表面積
【0039】
(3)嵩密度(見かけ比重):鉄シリンダー法
JIS K 6220-1 7.8.2:2015に準拠して測定した。
【0040】
(4)強熱減量
強熱減量は、110℃で2時間乾燥した試料を1050℃で1時間強熱後、放冷した後に残量から定量した。
【0041】
(5)吸油量
JIS K 5101-13-1:2004に準拠して測定した。
【0042】
(6)塩素有含量の測定
試料3gを90gの水に分散させて1時間煮沸し、液を遠心分離した後に上澄みを濾過後、(株)島津製作所製高速液体クロマトグラフProminenceを用いて濾液の塩素含有量を定量した。
【0043】
(7)隠蔽性
JIS K 5101-4(顔料試験方法―第4部)に準拠して、粉末試料をクリアウレタン塗料に分散させ、隠蔽率試験紙に塗布し、日本電色工業(株)製分光白色時計・色差計カラーメーターPF-7000を用いて試験紙の白色部と黒色部の三刺激値のY値から隠蔽率を算出した。
【0044】
(8)濡れ性
JIS K 6768:1999(プラスチックフィルム及びシート-ぬれ張力試験方法)に準拠して、ダインレベル(表面エネルギー値)が32mN/m、35mN/mであるダインペンを用いて評価した。
具体的には、ダインレベルが32mN/m、35mN/mのペンを使用して,同時に塗膜に線を引き、5秒後及び60秒後において、引いた線の状態を観察し、次の三段階で評価した。
〇:引いた線が水滴にならずに安定に保持されている。
△:引いた線がわずかに水滴になっていることが観察されるが、線としての形態は保持されている。
×:引いた線が水滴になっていることが明確に観察され、線が細くなり、一部は欠けてしまっている。
ダインレベルが高い程,接着性(濡れ性)が高くなる。
【0045】
<実施例1>
以下の方法により沈降法非晶質シリカAを製造した。
80乃至90℃に加熱した15質量%塩化ナトリウム溶液中に、ケイ酸ソーダ溶液(Na2O 7質量%、SiO2 22質量%)と14質量%塩酸を反応液のpHを4乃至6に保持しながら6時間同時注加した。次いで塩酸にて反応液のpHを3乃至5に調整し、熟成した後、濾過をし50℃の温水で洗浄して得られたケーキを120℃乃至140℃で乾燥した後、粉砕し沈降法非晶質シリカAを得た。
【0046】
<比較例1>
以下の方法により沈降法非晶質シリカBを製造した。
70乃至80℃に加熱した水中に、ケイ酸ソーダ溶液(Na2O 7質量%、SiO2 22質量%)と14質量%硫酸を反応液のpHを7乃至9に保持しながら9時間同時注加した。次いで硫酸にて反応液のpHを2乃至4に調整し、熟成した後、濾過をし50℃の温水で洗浄して得られたケーキを120℃乃至140℃で乾燥した後、粉砕し沈降法非晶質シリカBを得た。
【0047】
上記で製造された非晶質シリカAおよび非晶質シリカBについて、各種物性を測定し、その結果を表1に示した。
【0048】
【0049】
<隠蔽率評価試験>
実施例1で製造された非晶質シリカA及び比較例1で製造された非晶質シリカBについて、隠蔽率の評価試験を行った。
具体的には、試料の非晶質シリカA或いはBを、塗料100質量部に対してそれぞれ、20質量部、30質量部をクリアウレタン塗料に分散させて隠蔽率を測定し、その結果を表2、表3に示した。
なお、20質量部配合の時は、450μmアプリケータを使用し、30質量部配合の時は、250μmアプリケータを使用した。
また、非晶質シリカB(比較例1で製造された非晶質シリカ)を30質量部配合したときは、塗料が著しく増粘してしまい、塗布することができず、隠蔽率を測定することができなかった。
【0050】
【0051】
【0052】
また、白色顔料である酸化チタン30質量部をクリアウレタン塗料に配合したときの塗膜の60°グロス及び隠蔽率を測定し、さらに、酸化チタンの一部を60°グロスが同等となるように、非晶質シリカA(実施例1)、非晶質シリカB(比較例1)でそれぞれ置き換え、そのときの60°グロス及び隠蔽率を表4に示した。
【0053】
【0054】
表4に示されているように、同等グロス値となる場合においては,実施例1の非晶質シリカAは、酸化チタンの3分の1(10質量部)を置き換えても96%という高い隠蔽率を示したのに対し,比較例1の非晶質シリカBは、30質量部のうち2.5質量部置き換えただけで実施例1の隠蔽率を下回った。
【0055】
<濡れ性評価試験>
表4に示されているグロス測定に用いた塗料のそれぞれについて、32mN/m、35mN/mのダインペンでの塗膜の5秒後及び60秒後の濡れ性を評価した。その結果を以下に示す。
また、5秒後、60秒後での各塗膜の写真を
図1~
図6に示した。
【0056】
酸化チタン30質量部配合のウレタン塗料;
35mN/mのペンでの塗膜
5秒後評価:×
60秒後評価:×
32mN/mのペンでの塗膜
5秒後評価:〇
60秒後評価:〇
【0057】
酸化チタン20質量部と非晶質シリカA(実施例1)10質量部を混合した顔料組成物を配合したウレタン塗料;
35mN/mのペンでの塗膜
5秒後評価:〇
60秒後評価:〇
32mN/mのペンでの塗膜
5秒後評価:〇
60秒後評価:〇
【0058】
酸化チタン27.5質量部と非晶質シリカB(比較例1)2.5質量部を混合した顔料組成物を配合したウレタン塗料;
35mN/mのペンでの塗膜
5秒後評価:△
60秒後評価:×
32mN/mのペンでの塗膜
5秒後評価:〇
60秒後評価:〇
【0059】
上記の結果から、濡れ性は、酸化チタン<比較例1<実施例1の順で高くなっており、経時によって、この差はより顕著になっていることが判る。即ち、本発明の非晶質シリカおよび白色顔料を含む油性インク用組成物は、隠蔽率が高いだけではなく、濡れ性も高い。
また、比較例1においては非晶質シリカBの添加量を増やせば濡れ性の向上が期待できるが、この場合には、隠蔽率の低下や粘度上昇などの問題が生じてしまう。