(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-20
(45)【発行日】2025-01-06
(54)【発明の名称】計測装置、計測方法、計測プログラム、記録媒体
(51)【国際特許分類】
G01C 17/38 20060101AFI20241223BHJP
G01C 21/08 20060101ALI20241223BHJP
G01C 17/04 20060101ALI20241223BHJP
G01C 15/00 20060101ALI20241223BHJP
【FI】
G01C17/38 J
G01C21/08
G01C17/04 B
G01C15/00 104D
(21)【出願番号】P 2020196616
(22)【出願日】2020-11-27
【審査請求日】2023-07-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000231073
【氏名又は名称】日本航空電子工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121706
【氏名又は名称】中尾 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128705
【氏名又は名称】中村 幸雄
(74)【代理人】
【識別番号】100147773
【氏名又は名称】義村 宗洋
(72)【発明者】
【氏名】濱川 圭太
(72)【発明者】
【氏名】井上 雄介
(72)【発明者】
【氏名】高橋 尋之
(72)【発明者】
【氏名】山田 孝純
【審査官】池田 匡利
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/111713(WO,A1)
【文献】特開2002-303516(JP,A)
【文献】特開2007-163388(JP,A)
【文献】国際公開第2017/073532(WO,A1)
【文献】特開2014-219340(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01C 17/38
G01C 21/08
G01C 17/04
G01C 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地中掘削機の掘削部に配置された少なくとも3軸の加速度センサから出力される加速度データと少なくとも3軸の磁気センサから出力される磁界データを用いて姿勢を求めるための計測装置であって、
プロセッサを備え、
前記プロセッサは、
前記加速度データを処理して加速度データ(A
x
,A
y
,A
z
)を求め、前記磁界データを処理して磁界データ(M
x
,M
y
,M
z
)を求め、前記加速度データ
(A
x
,A
y
,A
z
)と前記磁界データ
(M
x
,M
y
,M
z
)に基づいて前記掘削部の姿勢を求める姿勢推定部と、
重力ツールフェイスと磁力ツールフェイスとのオフセットを求め、推定オフセットとする位相補正量計算部と、
を有し、
前記掘削部が静止しているときの加速度データ(A
x
,A
y
,A
z
)と磁界データ(M
x
,M
y
,M
z
)に基づいて求めた重力ツールフェイス(gTF)と磁力ツールフェイス(mTF)のオフセットを推定オフセットとし、
前記姿勢推定部は、
前記掘削部が回転しているときには、加速度データ(A
x
,A
y
,A
z
)に含まれる重力に起因する加速度データ(a
x
,a
y
,a
z
)に基づいて計測重力ツールフェイス(mgTF)を求め、磁界データ(M
x
,M
y
,M
z
)に基づいて計測磁力ツールフェイス(mmTF)を求め、
前記計測重力ツールフェイスと前記計測磁力ツールフェイスとのオフセットと前記推定オフセットとの
差を位相補正量、前記磁界データを前記位相補正量で補正したデータを補正後磁界データとし、
前記加速度データと前記補正後磁界データに基づく前記姿勢を求める
ことを特徴とする計測装置。
【請求項2】
請求項1記載の計測装置であって、
前記姿勢推定部が求める前記姿勢は、傾斜角、方位角、伏角であり、
前記位相補正量計算部は、前記掘削部が回転しているときに、前記姿勢推定部が求めた傾斜角、方位角、伏角から求めた重力ツールフェイスと磁力ツールフェイスのオフセットで、推定オフセットを更新する
ことを特徴とする計測装置。
【請求項3】
請求項2記載の計測装置であって、
(m
x,m
y,m
z)を前記補正後磁界データとし、
傾斜角Inc、方位角Azm、伏角Dipは、
【数15】
の関係を有する
ことを特徴とする計測装置。
【請求項4】
請求項2または3記載の計測装置であって、
Incを前記姿勢推定部が求めた傾斜角、Azmを前記姿勢推定部が求めた方位角、Dipを前記姿勢推定部が求めた伏角とし、
前記位相補正量計算部は、推定オフセットTFOを、
【数16】
のように求める
ことを特徴とする計測装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の計測装置であって、
pdmを前記位相補正量、(M
x,M
y,M
z)を前記磁界データ、(m
x,m
y,m
z)を前記補正後磁界データとし、
前記磁界データと前記補正後磁界データは
【数17】
の関係を有する
ことを特徴とする計測装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の計測装置であって、
前記姿勢推定部は、
前記掘削部が静止しているときに求めた姿勢を、姿勢の初期値とする
ことを特徴とする計測装置。
【請求項7】
地中掘削機の掘削部に配置された少なくとも3軸の加速度センサから出力される加速度データと少なくとも3軸の磁気センサから出力される磁界データを用いた計測方法であって、
前記加速度データを処理して加速度データ(A
x
,A
y
,A
z
)を求め、前記磁界データを処理して磁界データ(M
x
,M
y
,M
z
)を求め、前記加速度データ
(A
x
,A
y
,A
z
)と前記磁界データ
(M
x
,M
y
,M
z
)に基づいて前記掘削部の姿勢を求める姿勢推定過程と、
重力ツールフェイスと磁力ツールフェイスとのオフセットを求め、推定オフセットとする位相補正量計算過程と、
を実行し、
前記掘削部が静止しているときの加速度データ(A
x
,A
y
,A
z
)と磁界データ(M
x
,M
y
,M
z
)に基づいて求めた重力ツールフェイス(gTF)と磁力ツールフェイス(mTF)のオフセットを推定オフセットとし、
前記姿勢推定過程では、
前記掘削部が回転しているときには、加速度データ(A
x
,A
y
,A
z
)に含まれる重力に起因する加速度データ(a
x
,a
y
,a
z
)に基づいて計測重力ツールフェイス(mgTF)を求め、磁界データ(M
x
,M
y
,M
z
)に基づいて計測磁力ツールフェイス(mmTF)を求め、
前記計測重力ツールフェイスと前記計測磁力ツールフェイスとのオフセットと、前記推定オフセットとの
差を位相補正量
、前記磁界データを前記位相補正量で補正したデータを補正後磁界データとし、
前記加速度データと前記補正後磁界データに基づく前記姿勢を求める
ことを特徴とする計測方法。
【請求項8】
請求項7記載の計測方法であって、
前記姿勢推定過程が求める前記姿勢は、傾斜角、方位角、伏角であり、
前記位相補正量計算過程は、前記掘削部が回転しているときに、前記姿勢推定過程が求めた傾斜角、方位角、伏角から求めた重力ツールフェイスと磁力ツールフェイスのオフセットで、推定オフセットを更新する
ことを特徴とする計測方法。
【請求項9】
請求項8記載の計測方法であって、
(m
x,m
y,m
z)を前記補正後磁界データとし、
傾斜角Inc、方位角Azm、伏角Dipは、
【数18】
の関係を有する
ことを特徴とする計測方法。
【請求項10】
請求項8または9記載の計測方法であって、
Incを前記姿勢推定過程で求めた傾斜角、Azmを前記姿勢推定過程で求めた方位角、Dipを前記姿勢推定過程で求めた伏角とし、
前記位相補正量計算過程は、推定オフセットTFOを、
【数19】
のように求める
ことを特徴とする計測方法。
【請求項11】
請求項7から10のいずれかに記載の計測方法であって、
pdmを前記位相補正量、(M
x,M
y,M
z)を前記磁界データ、(m
x,m
y,m
z)を前記補正後磁界データとし、
前記磁界データと前記補正後磁界データは
【数20】
の関係を有する
ことを特徴とする計測方法。
【請求項12】
請求項7から11のいずれかに記載の計測方法であって、
前記姿勢推定過程は、
前記掘削部が静止しているときに求めた姿勢を、姿勢の初期値とする
ことを特徴とする計測方法。
【請求項13】
請求項7から12のいずれかに記載の計測方法を
コンピュータに実行させるための計測プログラム。
【請求項14】
請求項7から12のいずれかに記載の計測方法を
コンピュータに実行させるための計測プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地中掘削機の掘削部に配置された加速度センサと磁気センサからの出力を用いて姿勢を求めるための計測装置、計測方法、計測プログラム、記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に示された技術が従来技術として知られている。特許文献1では2つのセンサセットを用いており、測定データを校正もしくは補正することが示されている。
図1は、特許文献1の
図4に示された補正動作の処理の例である。なお、非特許文献1には、交番磁界を遮蔽する導電体に渦電流が生じることが示されている。また、特許文献1でも掘削中には地磁気の影響で掘削部内に存在する導電体に渦電流が生じることは指摘されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】米国公開特許2019/0353023号明細書
【非特許文献】
【0004】
【文献】安藤卓郎(Takuro Ando),高砂常義(Tsuneyoshi Takasuna)、「母線とその解析(Metal Enclosed Bus and Its Analysis)」,日立評論、第39巻第6号pp11~16,昭和32年(1957年)6月.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1には、センサセットのデータが改悪されている場合の様々な技術が紹介されている。しかしながら、特許文献1には、掘削中の掘削部の姿勢を正確に計測する方法は明示されていない。近年は効率化のため、掘削中も姿勢を計測することが求められているが、掘削中の測定は誤差が大きいことが問題である。本発明は、掘削中の掘削部の姿勢を正確に計測する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の計測装置は、地中掘削機の掘削部に配置された少なくとも3軸の加速度センサから出力される加速度データと少なくとも3軸の磁気センサから出力される磁界データを用いて姿勢を求める。本発明の計測装置は、プロセッサを備える。プロセッサは、姿勢推定部と位相補正量計算部を有する。姿勢推定部は、加速度データと磁界データに基づいて掘削部の姿勢を求める。位相補正量計算部は、重力ツールフェイスと磁力ツールフェイスとのオフセットを求め、推定オフセットとする。より具体的には、姿勢推定部は、加速度データに基づく重力ツールフェイスを計測重力ツールフェイス、磁界データに基づく磁力ツールフェイスを計測磁力ツールフェイス、計測重力ツールフェイスと計測磁力ツールフェイスとのオフセットと推定オフセットとの違いを位相補正量、磁界データを位相補正量で補正したデータを補正後磁界データとし、加速度データと補正後磁界データに基づく姿勢を求める。
【発明の効果】
【0007】
本発明の計測装置によれば、掘削時に掘削部を覆っている金属製のハウジングに生じる渦電流の影響などによる磁界の位相の変化に対応するための位相補正量を求め、位相補正量を用いて姿勢を求めるので、掘削中も掘削部の姿勢を正確に計測できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図2】金属製のハウジングがない掘削部の回転数を制御しながら、姿勢は固定して当該掘削部に配置された3軸の加速度センサから出力される加速度データと3軸の磁気センサから出力される磁界データを用いて求めた傾斜角を示す図。
【
図3】金属製のハウジングがない掘削部の回転数を制御しながら、姿勢は固定して当該掘削部に配置された3軸の加速度センサから出力される加速度データと3軸の磁気センサから出力される磁界データを用いて求めた方位角を示す図。
【
図4】金属製のハウジングを備えた掘削部の回転数を制御しながら、姿勢は固定して当該掘削部のハウジング内に配置された3軸の加速度センサから出力される加速度データと3軸の磁気センサから出力される磁界データを用いて求めた傾斜角を示す図。
【
図5】金属製のハウジングを備えた掘削部の回転数を制御しながら、姿勢は固定して当該掘削部のハウジング内に配置された3軸の加速度センサから出力される加速度データと3軸の磁気センサから出力される磁界データを用いて求めた方位角を示す図。
【
図6】本発明の計測システムの機能構成例を示す図。
【
図7】本発明の計測方法の処理フローの例を示す図。
【
図8】金属製のハウジングを備えた掘削部の回転数を制御しながら、姿勢は固定して当該掘削部のハウジング内に配置された3軸の加速度センサから出力される加速度データと3軸の磁気センサから出力される磁界データを用いて、本発明の計測方法で求めた傾斜角を示す図。
【
図9】金属製のハウジングを備えた掘削部の回転数を制御しながら、姿勢は固定して当該掘削部のハウジング内に配置された3軸の加速度センサから出力される加速度データと3軸の磁気センサから出力される磁界データを用いて、本発明の計測方法で求めた方位角を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。なお、同じ機能を有する構成部には同じ番号を付し、重複説明を省略する。
【実施例1】
【0010】
<分析>
本発明の対象である計測装置は、地中掘削機の掘削部に配置された3軸の加速度センサから出力される加速度データ(Ax,Ay,Az)と3軸の磁気センサから出力される磁界データ(Mx,My,Mz)を用いて姿勢を求める。Azは掘削方向の加速度成分である。AxとAyは掘削方向と垂直な加速度成分であって互いに直交する。Mzは掘削方向の磁力成分である。MxとMyは掘削方向と垂直な磁力成分であって互いに直交する。そこで、実際の地中掘削機の掘削部に配置された3軸の加速度センサから出力される加速度データ(Ax,Ay,Az)と3軸の磁気センサから出力される磁界データ(Mx,My,Mz)を用いて、静止時と回転時の両方で傾斜角と方位角を求めた。結果を示す図はないが、傾斜角は、静止時か回転時かによる計測値の変化はない。一方、方位角は、回転し始めると静止時の計測値から計測値が変化するという結果が得られた。つまり、掘削部の回転によって方位角には誤差が生じると予測できる。
【0011】
次に、予測を確認するために行った実験の結果を示す。金属製のハウジングがない掘削部の回転数を制御しながら、姿勢は固定して当該掘削部に配置された3軸の加速度センサから出力される加速度データ(A
x,A
y,A
z)と3軸の磁気センサから出力される磁界データ(M
x,M
y,M
z)を用いて求めた傾斜角を
図2に、方位角を
図3に示す。また、金属製のハウジングを備えた掘削部の回転数を制御しながら、姿勢は固定して当該掘削部のハウジング内に配置された3軸の加速度センサから出力される加速度データ(A
x,A
y,A
z)と3軸の磁気センサから出力される磁界データ(M
x,M
y,M
z)を用いて求めた傾斜角を
図4に、方位角を
図5に示す。
図2と
図4の左側の縦軸は傾斜角(deg)、
図3と
図5の左側の縦軸は方位角(deg)を示している。
図2~5の右側の縦軸は設定した掘削部の回転数(rpm)、横軸は測定した時刻(時:分:秒)を示している。中空の丸は、掘削部が静止しているときの加速度データ(A
x,A
y,A
z)と磁界データ(M
x,M
y,M
z)を用いて求めた結果(静止時の計測値)を示している。四角は、加速度データ(A
x,A
y,A
z)と磁界データ(M
x,M
y,M
z)を用いて定期的に継続して求めた結果を示している。なお、掘削部が回転しているときは、加速度データ(A
x,A
y,A
z)と磁界データ(M
x,M
y,M
z)には振動などに起因する様々なノイズが含まれているので、傾斜角と方位角をカルマンフィルタの状態量に含めておき、加速度データ(A
x,A
y,A
z)と磁界データ(M
x,M
y,M
z)を入力として、カルマンフィルタを用いて傾斜角と方位角を求めている。
【0012】
ここで、(a
x,a
y,a
z)は重力に起因する加速度データであり、a
zは掘削方向の重力加速度成分、a
xとa
yは掘削方向と垂直な重力加速度成分であって互いに直交するとする。このとき、傾斜角(Inc)は、以下のように定義される。
【数1】
つまり、傾斜角を求める計算では磁界データ(M
x,M
y,M
z)は用いない。
図2と
図4の結果から、加速度データだけで行う傾斜角を求める計算では、金属製のハウジングの影響を受けていないこと、および掘削部が静止しているときも回転しているときも同じ傾斜角を推定していることが分かる。一方、方位角(Azm)は以下のように定義される。
【数2】
方位角を求める計算では加速度データ(a
x,a
y,a
z)と磁界データ(M
x,M
y,M
z)の両方を用いる。
図3の結果から、金属製のハウジングがない掘削部の場合は、静止しているときも回転しているときもほぼ同じ方位角を示していることが分かる。
図5では、掘削部が100rpmで回転すると静止時と比較して0.5度程度方位角が変化し、200rpmで回転すると静止時と比較して1.0度程度方位角が変化している。
図5の結果から、金属製のハウジングの中に加速度センサと磁気センサを配置した場合は、掘削部の回転数に応じて推定値が影響を受けることが分かる。
図2~5の結果から、金属製のハウジングの回転は、内部に配置された磁気センサが計測する磁界データに影響を与えることが分かる。
【0013】
上述したように、非特許文献1には交番磁界を遮蔽する導電体に渦電流が生じることが示されている。本件の場合は、地磁気は一定だが、金属製のハウジングが回転する。この回転によって、ハウジングには交番磁界を遮蔽する場合と同じように渦電流が生じると考えられる。なお、非特許文献1には、Dを円筒の直径、dを円筒の厚さ、ρを金属の比抵抗、fを磁界の周波数、μ
0を空気の導磁率、jを虚数単位とするときの、円筒内部の磁界の強さH
iと円筒がないときの磁界の強さH
oとの関係が以下のように示されている。
【数3】
右辺の分母に虚数部が存在するので、磁界の位相が変化することが分かる。実際の地中掘削機の掘削部は、金属製のハウジングで覆われている。そのため、回転している掘削部内で計測した加速度データと磁界データを用いて、磁界の位相の変化を考慮しないで方位角を求めると、方位角に多くの誤差が含まれてしまう。よって、地中掘削機の掘削部に配置された3軸の加速度センサから出力される加速度データ(A
x,A
y,A
z)と3軸の磁気センサから出力される磁界データ(M
x,M
y,M
z)を用いて姿勢(傾斜角、方位角、伏角など)を求める際は、掘削部が回転しているときは磁界の位相が変化していることを考慮する必要がある。
【0014】
<実施例>
図6に本発明の計測システムの機能構成例を示す。
図7に本発明の計測方法の処理フローの例を示す。本発明の計測システム10は、計測装置100、少なくとも3軸の加速度センサ310、少なくとも3軸の磁気センサ320を有する。少なくとも3軸の加速度センサ310と少なくとも3軸の磁気センサ320は、地中掘削機の掘削部内に配置される。掘削部は金属製のハウジングで覆われており、少なくとも3軸の加速度センサ310と少なくとも3軸の磁気センサ320は、金属製のハウジング内に収容されている。理論的には、3軸の加速度センサ310と3軸の磁気センサ320からのデータがあれば、以下で説明する計測システムは機能する。ただし、精度向上などの目的で1軸に対して複数の加速度センサもしくは磁気センサを備えてもよいし、4軸または5軸などの加速度センサ、磁気センサを備えてもよい。そこで、上記の説明では「少なくとも3軸」と表現している。以下では、3軸の加速度センサ310と3軸の磁気センサ320を備える場合を説明する。
【0015】
計測装置100は、地中掘削機の掘削部に配置された3軸の加速度センサ310から出力される加速度データ(Ax,Ay,Az)と3軸の磁気センサ320から出力される磁界データ(Mx,My,Mz)を用いて姿勢を求める。なお、加速度データ(Ax,Ay,Az)と磁界データ(Mx,My,Mz)には、3軸の加速度センサ310と3軸の磁気センサ320が直接出力するデータではなく、フィルタリング処理、温度補正などの処理を行った後のデータを用いる。計測装置100は、プログラムによって制御され、情報を処理するプロセッサ105を備える。プロセッサ105は、姿勢推定部110と位相補正量計算部170とメモリ190を有する。姿勢推定部110は、加速度データと磁界データに基づいて掘削部の姿勢を求める。なお、「姿勢」は、傾斜角(Inc)と方位角(Azm)、伏角(Dip)含む。また、Azは掘削方向の加速度成分である。AxとAyは掘削方向と垂直な加速度成分であって互いに直交する。Mzは掘削方向の磁力成分である。MxとMyは掘削方向と垂直な磁力成分であって互いに直交する。なお、掘削部が回転しているときは、加速度データ(Ax,Ay,Az)と磁界データ(Mx,My,Mz)には振動などに起因する様々なノイズが含まれている。姿勢推定部110は、カルマンフィルタなどの従来技術を利用してノイズ成分を除去し、重力に起因する加速度データ(ax,ay,az)と磁界データ(Mx,My,Mz)に基づいて傾斜角(Inc)、方位角(Azm)、伏角(Dip)、重力ツールフェイス(gTF),磁力ツールフェイス(mTF)を求める。
【0016】
姿勢推定部110は、掘削部が静止しているときの加速度データ(A
x,A
y,A
z)と磁界データ(M
x,M
y,M
z)を入力とし、姿勢などの初期値を求める(S101)。具体的には、初期値である傾斜角(Inc
0)、方位角(Azm
0)、伏角(Dip
0)、重力ツールフェイス(gTF
0)、磁力ツールフェイス(mTF
0)を、
【数4】
【数5】
【数6】
【数7】
のように求めればよい。
【0017】
掘削部が回転している間は、位相補正量計算部170は、姿勢推定部110が求めた姿勢に基づき、重力ツールフェイスと磁力ツールフェイスとのオフセットを求め、推定オフセット(TFO)としてメモリ190に記録する(S170)。例えば、掘削部が回転している間は、直近に求めた傾斜角(Inc)、方位角(Azm)、伏角(Dip)から求めたオフセットを、新しい推定オフセット(TFO)として更新すればよい。具体的な計算方法などは後述する。
図7に示すステップS101では、姿勢推定部110は、掘削部が静止しているときの加速度データ(A
x,A
y,A
z)と磁界データ(M
x,M
y,M
z)に基づいて求めた重力ツールフェイス(gTF)と磁力ツールフェイス(mTF)から求めたオフセットを、推定オフセット(TFO)とし、メモリ190に記録する。具体的には、重力ツールフェイス(gTF),磁力ツールフェイス(mTF),推定オフセット(TFO)を
TFO=mTF-gTF
のように求めればよい。
【0018】
計測装置100は、地中掘削機の掘削部に配置された3軸の加速度センサ310から出力される加速度データ(A
x,A
y,A
z)と3軸の磁気センサ320から出力される磁界データ(M
x,M
y,M
z)を取得する(S300)。姿勢推定部110は、加速度データ(A
x,A
y,A
z)と磁界データ(M
x,M
y,M
z)を入力とし、カルマンフィルタなどの従来技術を利用してノイズ成分を除去し、姿勢である傾斜角(Inc)、方位角(Azm)、伏角(Dip)、重力ツールフェイス(gTF)、磁力ツールフェイス(mTF)を求める(S110)。ノイズ成分を除去できるのであれば、カルマンフィルタ以外の従来技術でもよい。カルマンフィルタを用いる場合は、例えば、傾斜角(Inc)、方位角(Azm)、伏角(Dip)、重力ツールフェイス(gTF)をカルマンフィルタの状態量に含めておき、加速度データ(A
x,A
y,A
z)と磁界データ(M
x,M
y,M
z)を入力としてカルマンフィルタを用いて状態量である傾斜角(Inc)、方位角(Azm)、伏角(Dip)、重力ツールフェイス(gTF)を求めればよい。カルマンフィルタの状態量には、他の状態量も含めてもよい。例えば、重力ツールフェイス(gTF)の回転速度も状態量にしてもよい。ここで、(a
x,a
y,a
z)を、加速度データ(A
x,A
y,A
z)に含まれる重力成分の加速度データ(a
x,a
y,a
z)とする。計測重力ツールフェイス(mgTF)、計測磁力ツールフェイス(mmTF)、加速度データ(a
x,a
y,a
z)、磁界データ(M
x,M
y,M
z)との関係は以下のとおりである。
【数8】
【0019】
分析で説明したように、回転時には金属製のハウジングに生じる渦電流の影響などによって磁力ツールフェイスの位相が変化する。そこで、計測重力ツールフェイス(mgTF)と計測磁力ツールフェイス(mmTF)とのオフセットと、推定オフセット(TFO)との違いを、位相補正量(pdm)とし、以下のように定義する。
pdm=mmTF-mgTF-TFO
なお、推定オフセット(TFO)はメモリ190に記録されているデータである。つまり、
図7に示した処理のループの1回目はステップS101で求めた推定オフセット(TFO)であり、処理のループの2回目以降においては1回前のループのステップS170で求めた推定オフセット(TFO)である。
【0020】
磁界データ(M
x,M
y,M
z)を位相補正量で補正した補正後磁界データ(m
x,m
y,m
z)は、次式のような関係を有する。
【数9】
磁力ツールフェイス(mTF)は、掘削部の回転による影響(渦電流の影響、磁気センサ自体の位相遅れなど)は受けるが、他の原因によるノイズの影響を受けにくいので、ステップS110では姿勢推定部110は、
【数10】
のように補正後磁界データ(m
x,m
y,m
z)を用いて求めればよい。
【0021】
加速度データ(a
x,a
y,a
z)と補正後磁界データ(m
x,m
y,m
z)に基づいて傾斜角(Inc)、方位角(Azm)、伏角(Dip)は、以下のような関係を有する。
【数11】
【数12】
【数13】
【0022】
位相補正量計算部170は、姿勢推定部110が求めた傾斜角(Inc)、方位角(Azm)、伏角(Dip)から、推定オフセットTFOを、
【数14】
のように求め、メモリ190に記録されている推定オフセットTFOを更新する(S170)。そして、ステップS300に戻る。ステップS170によって推定オフセット(TFO)を更新すれば、掘削部が回転している間に変化した重力ツールフェイスと磁力ツールフェイスとのオフセットにも追従できるので、正確に姿勢を求めることができる。
【0023】
<実験>
金属製のハウジングを備えた掘削部の回転数を制御しながら、姿勢は固定して当該掘削部のハウジング内に配置された3軸の加速度センサから出力される加速度データ(A
x,A
y,A
z)と3軸の磁気センサから出力される磁界データ(M
x,M
y,M
z)を用いて、実施例で説明したステップS170も含む本発明の計測方法で求めた傾斜角を
図8に、方位角を
図9に示す。
図8の左側の縦軸は傾斜角(deg)、
図9の左側の縦軸は方位角(deg)を示している。
図8と
図9の右側の縦軸は設定した掘削部の回転数(rpm)、横軸は測定した時刻(時:分:秒)を示している。中空の丸は、掘削部が静止しているときの加速度データ(A
x,A
y,A
z)と磁界データ(M
x,M
y,M
z)を用いて求めた結果(静止時の計測値)を示している。四角は、加速度データ(A
x,A
y,A
z)と磁界データ(M
x,M
y,M
z)を用いて定期的に継続して求めた結果を示している。なお、傾斜角と方位角をカルマンフィルタの状態量に含めておき、加速度データ(A
x,A
y,A
z)と磁界データ(M
x,M
y,M
z)を入力として、カルマンフィルタを用いて傾斜角と方位角を求めている。
図8と
図9から、掘削部の回転時も金属製のハウジングの影響を受けることなく傾斜角と方位角を推定できていることが分かる。したがって、回転時に金属製のハウジングに生じる渦電流の影響を十分に低減できていることが分かる。
【0024】
本発明の計測装置によれば、掘削時に掘削部を覆っている金属製のハウジングに生じる渦電流の影響による磁界の位相の変化、回転に起因した磁気センサ自体の位相遅れなどに対応するための位相補正量を求め、位相補正量を用いて姿勢を求めるので、掘削部の回転によって生じる影響を軽減できる。よって、掘削中も掘削部の姿勢を正確に計測できる。
【0025】
[プログラム、記録媒体]
上述の各種の処理は、
図10に示すコンピュータ2000の記録部2020に、上記方法の各ステップを実行させるプログラムを読み込ませ、制御部2010、入力部2030、出力部2040、表示部2050などに動作させることで実施できる。
【0026】
この処理内容を記述したプログラムは、コンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録しておくことができる。コンピュータで読み取り可能な記録媒体としては、例えば、磁気記録装置、光ディスク、光磁気記録媒体、半導体メモリ等どのようなものでもよい。
【0027】
また、このプログラムの流通は、例えば、そのプログラムを記録したDVD、CD-ROM等の可搬型記録媒体を販売、譲渡、貸与等することによって行う。さらに、このプログラムをサーバコンピュータの記憶装置に格納しておき、ネットワークを介して、サーバコンピュータから他のコンピュータにそのプログラムを転送することにより、このプログラムを流通させる構成としてもよい。
【0028】
このようなプログラムを実行するコンピュータは、例えば、まず、可搬型記録媒体に記録されたプログラムもしくはサーバコンピュータから転送されたプログラムを、一旦、自己の記憶装置に格納する。そして、処理の実行時、このコンピュータは、自己の記録媒体に格納されたプログラムを読み取り、読み取ったプログラムに従った処理を実行する。また、このプログラムの別の実行形態として、コンピュータが可搬型記録媒体から直接プログラムを読み取り、そのプログラムに従った処理を実行することとしてもよく、さらに、このコンピュータにサーバコンピュータからプログラムが転送されるたびに、逐次、受け取ったプログラムに従った処理を実行することとしてもよい。また、サーバコンピュータから、このコンピュータへのプログラムの転送は行わず、その実行指示と結果取得のみによって処理機能を実現する、いわゆるASP(Application Service Provider)型のサービスによって、上述の処理を実行する構成としてもよい。なお、本形態におけるプログラムには、電子計算機による処理の用に供する情報であってプログラムに準ずるもの(コンピュータに対する直接の指令ではないがコンピュータの処理を規定する性質を有するデータ等)を含むものとする。
【0029】
また、この形態では、コンピュータ上で所定のプログラムを実行させることにより、本装置を構成することとしたが、これらの処理内容の少なくとも一部をハードウェア的に実現することとしてもよい。
【符号の説明】
【0030】
100 計測装置
105 プロセッサ
110 姿勢推定部
170 推定オフセット計算部
190 メモリ
310 加速度センサ
320 磁気センサ