(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-20
(45)【発行日】2025-01-06
(54)【発明の名称】防振装置
(51)【国際特許分類】
F16F 15/08 20060101AFI20241223BHJP
F16F 1/387 20060101ALI20241223BHJP
【FI】
F16F15/08 A
F16F15/08 K
F16F1/387 C
(21)【出願番号】P 2020214244
(22)【出願日】2020-12-23
【審査請求日】2023-10-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000534
【氏名又は名称】弁理士法人真明センチュリー
(72)【発明者】
【氏名】村上 智洋
(72)【発明者】
【氏名】山本 彦文
【審査官】杉山 豊博
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-132133(JP,A)
【文献】特開2005-163843(JP,A)
【文献】特開2013-047547(JP,A)
【文献】特開2012-097878(JP,A)
【文献】特開2012-092909(JP,A)
【文献】特開2003-090375(JP,A)
【文献】特開2010-196850(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/08
F16F 1/387
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸部材と、
前記軸部材の径方向外側に配置される筒部材と、
前記筒部材の内周面と前記軸部材の外周面とを連結し、前記軸部材の軸方向視において第1方向へ向かうにつれ前記第1方向に垂直な第2方向に互いに広がる弾性体製の一対の弾性脚部と、を備え、
前記軸部材の外周面は、一対の前記弾性脚部がそれぞれ連結されて、前記第1方向へ向かうにつれ前記第2方向の互いの間隔が狭まる一対の連結面を備え、
一対の前記弾性脚部がそれぞれ連結される位置の前記筒部材の内周面は、
軸方向視において前記第1方向と平行に延びる一対の平行面と、
一対の前記平行面からそれぞれ前記第1方向へ延びる一対の傾斜面と、を備え、
前記弾性脚部で連結される前記連結面と前記傾斜面とは、軸方向視において、互いに平行、又は、前記第1方向へ向かうにつれて互いの間隔が狭まり、
軸方向視において、前記弾性脚部の前記第1方向側の第1外形線を直線状に延長した第1仮想線と前記傾斜面との第1交点から、前記弾性脚部の前記第1方向とは反対側の第2外形線を直線状に延長した第2仮想線と前記平行面との第2交点までの直線距離を前記弾性脚部の幅としたとき、前記平行面と前記傾斜面との境界が、前記第1交点から前記弾性脚部の幅の2/3以上の位置にあり、
前記筒部材の内周面は、
前記軸部材の前記第1方向に位置するストッパ面と、
前記ストッパ面の周方向両側と一対の前記傾斜面とをそれぞれ連結して前記ストッパ面に対して前記第1方向に凹む凹面と、を備え、
前記弾性脚部の一部が前記凹面に連結され、
前記弾性脚部は、
前記第1外形線を形成する中央壁面を有して軸方向の中央に位置する中央部と、
前記中央部の軸方向の一方側から前記弾性脚部の軸方向の一端面までを形成する第1端部と、
前記中央部の軸方向の他方側から前記弾性脚部の軸方向の他端面までを形成する第2端部と、を備え、
前記第1端部は、前記中央壁面を軸方向へ延長した仮想面と、前記一端面の前記第1方向側の端縁から周方向へ延長した仮想面とが交わる稜の角を滑らかにする仮想のフィレット面に対して軸方向および周方向に凹んだ第1壁面を備え、
前記第2端部は、前記中央壁面を軸方向へ延長した仮想面と、前記他端面の前記第1方向側の端縁から周方向へ延長した仮想面とが交わる稜の角を滑らかにする仮想のフィレット面に対して軸方向および周方向に凹んだ第2壁面を備え、
前記第1壁面および前記第2壁面は、前記軸部材から前記凹面までの前記弾性脚部に設けられていることを特徴とする防振装置。
【請求項2】
軸方向視において、前記弾性脚部で連結される前記連結面と前記傾斜面とは前記第1方向へ向かうにつれて互いの間隔が狭まり、前記弾性脚部で連結される前記連結面と前記傾斜面との角度が10°以下であることを特徴とする請求項
1記載の防振装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は防振装置に関し、特に弾性脚部の耐久性の確保と小型化とを両立できる防振装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、軸部材と、軸部材の径方向外側に配置される筒部材と、軸部材の外周面と筒部材の内周面とをV字状に連結するゴム等の弾性体からなる一対の弾性脚部と、を備える防振装置が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら上述した従来技術において、防振装置を小型化しようと筒部材の内外径を小さくするだけでは、弾性脚部の自由長が短くなって弾性脚部の耐久性が低下し易いという問題点がある。
【0005】
本発明は上述した問題点を解決するためになされたものであり、弾性脚部の耐久性の確保と小型化とを両立できる防振装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的を達成するために本発明の防振装置は、軸部材と、前記軸部材の径方向外側に配置される筒部材と、前記筒部材の内周面と前記軸部材の外周面とを連結し、前記軸部材の軸方向視において第1方向へ向かうにつれ前記第1方向に垂直な第2方向に互いに広がる弾性体製の一対の弾性脚部と、を備え、前記軸部材の外周面は、一対の前記弾性脚部がそれぞれ連結されて、前記第1方向へ向かうにつれ前記第2方向の互いの間隔が狭まる一対の連結面を備え、一対の前記弾性脚部がそれぞれ連結される位置の前記筒部材の内周面は、軸方向視において前記第1方向と平行に延びる一対の平行面と、一対の前記平行面からそれぞれ前記第1方向へ延びる一対の傾斜面と、を備え、前記弾性脚部で連結される前記連結面と前記傾斜面とは、軸方向視において、互いに平行、又は、前記第1方向へ向かうにつれて互いの間隔が狭まり、軸方向視において、前記弾性脚部の前記第1方向側の第1外形線を直線状に延長した第1仮想線と前記傾斜面との第1交点から、前記弾性脚部の前記第1方向とは反対側の第2外形線を直線状に延長した第2仮想線と前記平行面との第2交点までの直線距離を前記弾性脚部の幅としたとき、前記平行面と前記傾斜面との境界が、前記第1交点から前記弾性脚部の幅の2/3以上の位置にある。
【発明の効果】
【0007】
請求項1記載の防振装置によれば、一対の弾性脚部がそれぞれ連結される位置の筒部材の内周面は、軸方向視において第1方向と平行に延びる一対の平行面と、一対の平行面からそれぞれ第1方向へ延びる一対の傾斜面と、を備える。弾性脚部で連結される軸部材の外周面の連結面と傾斜面とは、軸方向視において、互いに平行、又は、第1方向へ向かうにつれて互いの間隔が狭まる。一対の連結面の互いの第2方向の間隔が第1方向へ向かうにつれて狭まるので、一対の傾斜面も平行面から第1方向へ離れるにつれて互いの間隔が狭まる。筒部材の強度確保のための厚さを確保すると、筒部材の第2方向の幅が筒部材の内周面の第2方向の間隔の最大値によって決まるので、筒部材の内周面に平行面を設けずに傾斜面を第1方向とは反対側へ延長する場合と比べて、平行面を設けた方が筒部材の第2方向の幅を小さくできる。即ち、平行面によって防振装置を小型化できる。
【0008】
軸方向視において、弾性脚部の第1方向側の第1外形線を直線状に延長した第1仮想線と傾斜面との第1交点から、弾性脚部の第1方向とは反対側の第2外形線を直線状に延長した第2仮想線と平行面との第2交点までの直線距離を弾性脚部の幅とする。平行面と傾斜面との境界が第1交点から弾性脚部の幅の2/3以上の位置にある。これにより、筒部材に対し軸部材が第1方向へ相対変位したときに連結面と傾斜面との間で圧縮される弾性脚部の軸方向の膨らみを、平行面側へ逃がし易くでき、弾性脚部に生じる歪みを分散できる。その結果、防振装置を小型化するための平行面によって弾性脚部の一部の自由長が短くなっても、弾性脚部の耐久性を確保できる。従って、弾性脚部の耐久性の確保と防振装置の小型化とを両立できる。
【0009】
【0010】
筒部材の内周面は、軸部材の第1方向に位置するストッパ面を備える。このストッパ面によって筒部材に対する軸部材の第1方向への相対変位が規制される。ストッパ面の周方向両側と一対の傾斜面とをそれぞれ連結してストッパ面に対して第1方向に凹む凹面に、弾性脚部の一部が連結される。これにより、弾性脚部の自由長を第1方向に長くでき、弾性脚部の耐久性を向上できる。
【0011】
弾性脚部は、軸方向の中央に位置する中央部と、中央部の軸方向の一方側から弾性脚部の軸方向の一端面までを形成する第1端部と、中央部の軸方向の他方側から弾性脚部の軸方向の他端面までを形成する第2端部と、を備える。中央部は、第1外形線を形成する中央壁面を有する。第1端部は、中央壁面を軸方向へ延長した仮想面と、前記一端面の第1方向側の端縁から周方向へ延長した仮想面とが交わる稜の角を滑らかにする仮想のフィレット面に対して軸方向および周方向に凹んだ第1壁面を備える。第2端部は、中央壁面を軸方向へ延長した仮想面と、前記他端面の第1方向側の端点から周方向へ延長した仮想面とが交わる稜の角を滑らかにする仮想のフィレット面に対して軸方向および周方向に凹んだ第2壁面を備える。これにより、軸部材に対して筒部材が第1方向へ相対変位するときに弾性脚部に生じる引張方向の歪みを、第1壁面および第2壁面によって分散できる。第1壁面および第2壁面がない場合と比較して、歪みを小さくできるので、弾性脚部の耐久性を向上できる。特に、この引張方向の歪みは凹面近傍の弾性脚部に集中することがある。しかし、第1壁面および第2壁面は、軸部材から凹面までの弾性脚部に設けられているので、引張方向の歪みを分散し易くでき、弾性脚部の耐久性をより向上できる。
請求項2記載の防振装置によれば、軸方向視において、弾性脚部で連結される連結面と傾斜面とは第1方向へ向かうにつれて互いの間隔が狭まり、その連結面と傾斜面との角度は10°以下である。これにより、筒部材に対し軸部材が第1方向へ相対変位したときの弾性脚部の軸方向の膨らみを、弾性脚部の幅方向に亘って均一化できる。その結果、請求項1の効果に加え、弾性脚部に生じる歪みを分散して弾性脚部の耐久性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】一実施形態における防振装置の平面図である。
【
図2】
図1のII-II線における防振装置の片側断面図である。
【
図3】
図1のIII-III線における防振装置の切断部端面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、好ましい実施形態について、添付図面を参照して説明する。
図1は、一実施形態における防振装置10の平面図である。
図2は、
図1のII-II線における防振装置10の片側断面図である。
図3は、
図1のIII-III線における防振装置10の切断部端面図である。
【0014】
図1に示すように、防振装置10は、エンジンからのトルクを受けることで、加速時におけるエンジンのロール方向の変位を規制するためのトルクロッドの一部である。トルクロッドは、車体側に取り付けられる第1の防振装置10と、エンジン側に取り付けられる第2の防振装置(図示せず)とを2本の連結部材18で連結したものである。なお、防振装置10をエンジン側に取り付け、第2の防振装置を車体側に取り付けても良い。
【0015】
防振装置10は、軸線Cに沿って延びる軸部材11と、軸部材11の径方向外側に配置される筒状の筒部材20と、軸部材11の外周面と筒部材20の内周面22とを連結するようにV字状に配置された一対の弾性脚部13と、一対の弾性脚部13の間における筒部材20の内周面22に設けられた第1ストッパ14と、第1ストッパ14とは反対側の軸部材11の外周面に設けられた第2ストッパ15と、を備える。弾性脚部13、第1ストッパ14及び第2ストッパ15は、ゴムや熱可塑性エラストマ等の弾性体によって一体成形されている。
【0016】
本明細書では、軸部材11の軸線C方向を単に軸方向、軸線Cに垂直な方向を径方向、軸線Cまわりの周方向を単に周方向と省略して説明する。また、径方向のうち、V字状に配置された一対の弾性脚部13が広がる方向を第1方向Aとし、第1方向Aに垂直な方向を第2方向Bとする。防振装置10は、筒部材20の内周面22よりも内側が、軸線Cに関し第2方向Bの両側で略対称に形成されている。さらに以下の説明では、「軸方向視において」を「軸線Cに垂直な断面において」に置き換えても同様のことが言える。
【0017】
軸部材11は、軸方向視において略台形状に形成される部材であり、アルミニウム合金などの金属からなる。軸部材11の内周面11bは、軸方向視において軸線Cを中心とした円形状に形成されている。軸部材11の外周面は、一対の弾性脚部13がそれぞれ加硫接着により連結される一対の連結面11aと、第2ストッパ15が設けられるストッパ凹面11cと、を備える。
【0018】
軸部材11の外周面には、一対の弾性脚部13同士を連結する弾性膜、弾性脚部13と第2ストッパ15とを連結する弾性膜が加硫接着されている。これにより、軸部材11の外周面から弾性脚部13及び第2ストッパ15を剥がれ難くできる。
【0019】
一対の連結面11aは、軸部材11の第2方向Bの両側にそれぞれ設けられる部位であって、第1方向Aへ向かうにつれて第2方向Bの互いの間隔が狭まる。本実施形態では連結面11aは、軸方向視において略直線状に形成されている。なお、弾性脚部13が連結される位置の軸部材11の外周面に、軸方向視において直線状の部位が複数ある場合には、弾性脚部13の幅方向(軸部材11の周方向)の中央部が連結される位置の直線状の部位を連結面11aとする。
【0020】
ストッパ凹面11cは、軸部材11の外周面のうち第1方向Aとは反対側に設けられる部位であり、第1方向Aへ向かって凹む。これにより、ストッパ凹面11cに設けられる第2ストッパ15の第1方向Aの自由長を確保できる。
【0021】
第2ストッパ15は、軸部材11に対する筒部材20の第1方向Aへの過大な相対変位を規制する部材である。第2ストッパ15は、ストッパ凹面11cに加硫接着されている。第2ストッパ15は、筒部材20の内周面22と第1方向Aに隙間を空けて対向する。その対向する内周面22へ向かうにつれて第2ストッパ15の幅(第2方向Bの寸法)が小さくなる。これにより、第2ストッパ15と内周面22との接触の初期段階における第2ストッパ15のばね定数を小さくできると共に、軸部材11に対する筒部材20の第1方向Aへの相対変位量に応じた第2ストッパ15のばね定数の増加を急峻にできる。よって、第2ストッパ15と内周面22との接触時の異音を抑制できると共に、第2ストッパ15による変位規制効果を向上できる。
【0022】
筒部材20は、アルミニウム合金などの金属からなる部材である。筒部材20から第1方向Aとは反対側に2本の連結部材18が延び、筒部材20と連結部材18とが一体成形されている。筒部材20の外周面21は、第2方向Bの両側にそれぞれ設けられる一対の外平行面21aを備える。一対の外平行面21aは、軸方向視において第1方向Aと平行に延びる部位である。
【0023】
筒部材20の内周面22から外周面21までの厚さは、筒部材20を構成する素材と、筒部材20に必要な強度とに応じて決まる。アルミニウム合金で筒部材20を構成する場合には、筒部材20を比較的厚く形成する必要がある。厚い筒部材20を鋳造する場合には、鋳巣などの欠陥が生じ易くなる。鋳巣対策や軽量化のために、筒部材20には、軸方向端面の両側に複数の肉抜き溝24を設けている。また、肉抜き溝24に雨水などを溜まり難くするため、肉抜き溝24の底面同士を軸方向に貫通する貫通孔25が筒部材20に形成されている。
【0024】
筒部材20の内周面22は、軸方向視において第1方向Aと平行に延びる一対の平行面22aと、一対の平行面22aからそれぞれ第1方向Aへ延びて互いの第2方向Bの間隔が狭まる一対の傾斜面22bと、軸部材11の第1方向Aに位置するストッパ面22cと、ストッパ面22cの周方向両側と一対の傾斜面22bとをそれぞれ連結する凹面22dと、を備える。
【0025】
一対の平行面22aは、軸方向視において、互いに平行に形成される部位であり、外平行面21aと平行に形成されている。平行面22aには、弾性脚部13のうち第1方向Aとは反対側の一部が加硫接着により連結される。平行面22aは、内周面22のうち第2方向Bの最も外側に位置する。即ち、一対の平行面22aの間隔が内周面22の第2方向Bの間隔の最大値となる。
【0026】
傾斜面22bは、弾性脚部13のうち第1方向A側の一部が加硫接着により連結される部位である。本実施形態における傾斜面22bは、平行面22a及び凹面22dに滑らかに繋がる周方向両端部を除いた周方向中央部が、軸方向視において略直線状に形成されている。
【0027】
筒部材20の強度確保のための厚さを確保すると、筒部材20の第2方向Bの幅が筒部材20の内周面22の第2方向Bの間隔の最大値によって決まる。筒部材20の内周面22に平行面22aを設けずに、傾斜面22bを第1方向Aとは反対側へ延長する場合と比べて、平行面22aを設けた方が筒部材20の第2方向Bの幅を小さくできる。即ち、平行面22aによって防振装置10を小型化できる。
【0028】
軸方向視において、弾性脚部13で連結される傾斜面22bと連結面11aとは、第1方向Aに向かうにつれて互いの間隔が狭まる。これにより、筒部材20に対して軸部材11が第1方向Aへ相対変位するときに、連結面11aと傾斜面22bとの間で弾性脚部13が圧縮され、弾性脚部13が軸方向に膨らむ。この弾性脚部13の膨らみ方が幅方向(軸部材11の周方向)で不均一であると、弾性脚部13の一部に歪みが集中して弾性脚部13の耐久性が低下するおそれがある。
【0029】
しかし、本実施形態では、軸方向視において、弾性脚部13で連結される傾斜面22bの周方向中央部と連結面11aとの角度θが、0°よりも大きく10°以下である。これにより、筒部材20に対し軸部材11が第1方向Aへ相対変位したときの弾性脚部13の軸方向の膨らみを、弾性脚部13の幅方向に亘って均一化できる。その結果、弾性脚部13に生じる歪みを分散して弾性脚部13の耐久性を向上できる。
【0030】
なお、角度θが約5°のときに弾性脚部13に生じる歪みを最も分散できる。そのため、角度θを2~8°とすることがより好ましい。この場合には、弾性脚部13に生じる歪みをより分散し易くでき、弾性脚部13の耐久性をより向上できる。
【0031】
ストッパ面22cは、第1ストッパ14が設けられる部位であり、内周面22のうち第2方向Bの中央に設けられる。ストッパ面22c及び第1ストッパ14は、筒部材20に対する軸部材11の第1方向Aへの過大な相対変位を規制するための部位である。ストッパ面22cの第1方向Aの位置は、筒部材20に対する軸部材11の第1方向Aへの最大の変位量の設定値に応じて決まる。
【0032】
第1ストッパ14は、ストッパ面22cに加硫接着されている。第1ストッパ14には、軸部材11及び一対の弾性脚部13に向けて計3つの突起が設けられている。これらの突起の先端と、軸部材11の内周面に設けた弾性膜および一対の弾性脚部13とは隙間を空けて対向する。さらに、第1ストッパ14の3つの突起は、先端へ向かうにつれて先細り形状になっている。これにより、第2ストッパ15と同様に、第1ストッパ14が軸部材11側および一対の弾性脚部13に接触したときの異音を抑制できると共に、第1ストッパ14による変位規制効果を向上できる。
【0033】
凹面22dは、ストッパ面22cに対して第1方向Aへ凹む部位である。この凹面22dにも弾性脚部13の一部が加硫接着によって連結される。ストッパ面22cの周方向両側が傾斜面22bに直接連なり凹面22dがない場合と比べて、凹面22dによって弾性脚部13の自由長を第1方向Aに長くできる。よって、弾性脚部13の耐久性を向上できる。
【0034】
一対の弾性脚部13は、軸方向視において、軸部材11から第1方向Aへ向かうにつれ第2方向Bに広がるようにV字状に配置された部材である。弾性脚部13は、径方向内側の端部が軸部材11の外周面(連結面11a)に加硫接着され、径方向外側の端部が筒部材20の内周面22(平行面22a、傾斜面22b及び凹面22d)に加硫接着されている。
【0035】
弾性脚部13の径方向外側の端部から第1方向Aとは反対側へ弾性膜16が延び、弾性膜16も加硫接着により内周面22に連結されている。この弾性膜16により、弾性脚部13の変形に伴って内周面22から弾性脚部13を剥がれ難くできる。また、弾性脚部13の径方向外側の端部が第1ストッパ14に連なっているので、同様に、弾性脚部13の変形に伴って内周面22から弾性脚部13を剥がれ難くできる。
【0036】
なお、弾性脚部13と第1ストッパ14との境界(凹面22d)近傍のうち軸方向端部には、弾性脚部13や第1ストッパ14の変形時に歪みが生じ難い。そのため、弾性脚部13と第1ストッパ14との境界近傍の軸方向端部を省略し筒部材20の一部を露出させても、その露出部分に起因した弾性脚部13や第1ストッパ14の耐久性の低下を抑制できる。これにより、凹面22d近傍の露出部分を、弾性脚部13及び第1ストッパ14の加硫成形時に成形型に当たる位置決め部とすることができる。
【0037】
図2に示すように、軸部材11の軸方向寸法は、筒部材20の軸方向寸法より大きく設定されている。軸部材11及び筒部材20に加硫接着される弾性脚部13は、軸部材11側(径方向内側)の軸方向寸法が、筒部材20側(径方向外側)の軸方向寸法より大きい。これにより、防振装置10のばねは、軸方向寸法が小さい筒部材20側の弾性脚部13の制約を受ける。また、筒部材20に対して軸方向の一方側C1よりも他方側C2に大きく軸部材11が延びている。そのため、筒部材20に対して弾性脚部13が一方側C1よりも他方側C2に大きく延びている。
【0038】
また、弾性脚部13の径方向外側の端部の軸方向両側に膨出部17が設けられている。膨出部17は、筒部材20の軸方向端面の両側にそれぞれ加硫接着されている。さらに、膨出部17は、弾性脚部13だけでなく弾性膜16及び第1ストッパ14にも設けられている。この膨出部17によって、弾性脚部13や弾性膜16、第1ストッパ14を筒部材20の内周面22から剥がれ難くできる。
【0039】
図1に戻って説明する。軸方向視において、弾性脚部13の第1方向A側の外形線を第1外形線31とし、第1外形線31を直線状に延長した第1仮想線34と筒部材20の内周面22(傾斜面22b)との交点を第1交点27とする。同様に軸方向視において、弾性脚部13の第1方向Aとは反対側の外形線を第2外形線35とし、第2外形線35を直線状に延長した第2仮想線36と内周面22(平行面22a)との交点を第2交点28とする。なお、弾性脚部13の第1外形線31及び第2外形線35は、弾性膜16及び第1ストッパ14に滑らかに繋げるため大きく曲げた弾性脚部13の径方向外側の端部を除いた部位の外形線とする。
【0040】
軸方向視において、第1交点27から第2交点28までの直線距離を弾性脚部13の幅Lとする。軸方向視において、筒部材20の平行面22aと傾斜面22bとの境界26は、第1交点27から弾性脚部13の幅Lの2/3以上の位置にある。より具体的には、軸方向視において、第1交点27と第2交点28とを結ぶ線分に垂直な仮想の直線を、その線分の第1交点27から2L/3の位置に引いた時、その仮想の直線上、又は、仮想の直線よりも第2交点28側に境界26がある。
【0041】
これにより、筒部材20に対し軸部材11が第1方向Aへ相対変位したときに連結面11aと傾斜面22bとの間で圧縮される弾性脚部13の軸方向の膨らみを、平行面22a側へ逃がし易くでき、弾性脚部13に生じる歪みを分散できる。これにより、防振装置10を小型化するための平行面22aによって弾性脚部13の一部の自由長が短くなっても、弾性脚部13の耐久性を確保できる。従って、弾性脚部13の耐久性の確保と防振装置10の小型化とを両立できる。
【0042】
図3に示すように、弾性脚部13は、軸方向の中央に位置する中央部30と、中央部30の軸方向の一方側C1に設けられる第1端部40と、中央部30の軸方向の他方側C2に設けられる第2端部50と、を備える。これら中央部30,第1端部40及び第2端部50は、弾性体により一体成形され、それぞれ径方向に亘って設けられている。なお、
図3には、中央部30と第1端部40との境界線B1を二点鎖線で示し、中央部30と第2端部50との境界線B2を二点鎖線で示している。
【0043】
中央部30は、第1方向A側に中央壁面30aを備える。軸方向視において、この中央壁面30aが第1外形線31を形成する。また、中央部30は、第1方向Aとは反対側の壁面によって第2外形線35を形成する。第1端部40は、中央部30から弾性脚部13の軸方向の一端面41(一方側C1の端面)までを形成する部位である。第2端部50は、中央部30から弾性脚部13の軸方向の他端面51(他方側C2の端面)までを形成する部位である。
【0044】
第1端部40は、中央壁面30aに連なる第1壁面43を備える。第1壁面43は、中央壁面30aの一方側C1の端縁32から中央壁面30aを延長した仮想面と、一端面41の第1方向A側の端縁42から周方向(第1方向A)へ延長した仮想面とが交わる稜の角を滑らかにする仮想のフィレット面F1に対して、軸方向の他方側C2及び周方向(第1方向Aとは反対側)に凹んだ窪み面である。
【0045】
第1壁面43は、端縁32,42それぞれに連なる2つの凸状面と、2つの凸状面を連結する凹状面44とを備える。そのため、
図3に示す断面(周方向断面)における第1壁面43の曲線の凹凸の向きが変わる。この凹状面44が無い場合と比較して、凹状面44が有る方が、第1壁面43を仮想のフィレット面F1に対して深く凹ませることできる。
【0046】
図3に示すように、第2端部50は、中央壁面30aに連なる第2壁面53を備える。第2壁面53は、中央壁面30aの他方側C2の端縁33から中央壁面30aを延長した仮想面と、他端面51の第1方向A側の端縁52から周方向へ延長した仮想面とが交わる稜の角を滑らかにする仮想のフィレット面F2に対して、軸方向の一方側C1及び周方向(第1方向Aとは反対側)に凹んだ窪み面である。
【0047】
第2壁面53は、端縁33,52それぞれに連なる2つの凸状面と、2つの凸状面を連結する凹状面54とを備える。そのため、
図3に示す断面における第2壁面53の曲線の凹凸の向きが変わる。この凹状面54が無い場合と比較して、凹状面54が有る方が、第2壁面53を仮想のフィレット面F2に対して深く凹ませることできる。
【0048】
このように、弾性脚部13に第1壁面43及び第2壁面53を設けることで、弾性脚部13に生じる引張方向の歪みを分散できる。歪みを分散させることで、第1壁面43及び第2壁面53がない場合(仮想のフィレット面F1,F2の場合)と比較して最大歪みを小さくできるので、弾性脚部13の耐久性を向上できる。
【0049】
仮想のフィレット面F1に対する第1壁面43の軸方向の凹みよりも、仮想のフィレット面F2に対する第2壁面53の凹みが大きく設定されている。これにより、筒部材20に対して一方側C1よりも他方側C2に大きく延びた弾性脚部13が(
図2参照)、ねじれ変形する場合など、弾性脚部13に生じる引張方向の歪みを一方側C1と他方側C2とで均一に近づけ易くできる。その結果、弾性脚部13に生じる最大歪みをより小さくでき、弾性脚部13の耐久性をより向上できる。
【0050】
図1に示すように軸方向視において、第1壁面43は、第1外形線31から第2外形線35側へ凹み、軸部材11から凹面22dまでの弾性脚部13の略全長に亘って設けられている。図示しないが同様に、軸方向視において、第2壁面53は、第1外形線31から第2外形線35側へ凹み、軸部材11から凹面22dまでの弾性脚部13の略全長に亘って設けられている。
【0051】
弾性脚部13の引張方向の歪みは、凹面22d近傍の弾性脚部13に集中することがある。上述した通り、第1壁面43及び第2壁面53が凹面22dの弾性脚部13まで設けられているので、弾性脚部13の引張方向の歪みを凹面22d近傍に集中させ難くできる。よって、第1壁面43及び第2壁面53を凹面22d近傍まで設けることで、弾性脚部13の引張方向の歪みを分散し易くでき、弾性脚部13の耐久性をより向上できる。
【0052】
さらに、凹状面44は、軸方向視において、径方向外側の端部が凹面22d側へ伸長する。図示しないが同様に、凹状面54は、軸方向視において、径方向外側の端部が凹面22d側へ伸長する。これにより、弾性脚部13の引張方向の歪みを凹面22d近傍にさらに集中させ難くできるので、弾性脚部13の耐久性をより向上できる。
【0053】
以上、実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。軸部材11や筒部材20、連結部材18、弾性脚部13、第1ストッパ14、第2ストッパ15等の各部の形状や寸法などを適宜変更しても良い。
【0054】
また、防振装置10がトルクロッドの一部である場合に限らず、連結部材18を省略して防振装置10をいわゆるブッシュとしても良い。防振装置10がエンジンを弾性支持するエンジンマウントである場合に限らず、ボディマウント、デフマウント等、任意の振動体の振動を抑制する防振装置に上記形態の防振装置10を適用しても良い。
【0055】
上記形態では、軸部材11及び筒部材20がアルミニウム合金などの金属からなる場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。例えば、アルミニウム合金以外に、鉄鋼などの金属によって軸部材11や筒部材20を形成しても良い。また、軸部材11や筒部材20を合成樹脂によって形成しても良い。
【0056】
上記形態では、軸方向視において、弾性脚部13で連結される傾斜面22bと連結面11aとは、第1方向Aに向かうにつれて互いの間隔が狭まる場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。軸方向視において、弾性脚部13で連結される傾斜面22bと連結面11aとを互いに平行にしても良い。
【0057】
上記形態では、第1壁面43及び第2壁面53が2つの凸状面と凹状面44,54とを備える場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。凹状面44,54を省略して第1壁面43及び第2壁面53を1つの凸状面によって形成しても良く、凹状面44,54のみによって第1壁面43及び第2壁面53を形成しても良い。また、周方向断面における第1壁面43及び第2壁面53を直線状に形成しても良い。
【符号の説明】
【0058】
10 防振装置
11 軸部材
11a 連結面
13 弾性脚部
20 筒部材
22 内周面
22a 平行面
22b 傾斜面
22c ストッパ面
22d 凹面
26 境界
27 第1交点
28 第2交点
30 中央部
30a 中央壁面
31 第1外形線
34 第1仮想線
35 第2外形線
36 第2仮想線
40 第1端部
41 一端面
42,52 端縁
43 第1壁面
50 第2端部
51 他端面
53 第2壁面
A 第1方向
B 第2方向
F1,F2 仮想のフィレット面