(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-20
(45)【発行日】2025-01-06
(54)【発明の名称】水バリアコーティングで被覆された容器、コンテナ、及び表面
(51)【国際特許分類】
C23C 16/50 20060101AFI20241223BHJP
【FI】
C23C16/50
(21)【出願番号】P 2020551923
(86)(22)【出願日】2019-03-27
(86)【国際出願番号】 US2019024339
(87)【国際公開番号】W WO2019191269
(87)【国際公開日】2019-10-03
【審査請求日】2022-03-25
(32)【優先日】2018-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2018-06-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2018-06-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】512082716
【氏名又は名称】エスアイオーツー・メディカル・プロダクツ・インコーポレイテッド
【住所又は居所原語表記】2250 Riley Street,Auburn,Alabama 36832 U.S.A
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】マーティン・バルタザー
(72)【発明者】
【氏名】アダム・ブリーランド
(72)【発明者】
【氏名】トーマス・イー・フィスク
(72)【発明者】
【氏名】デビッド・ヘントン
(72)【発明者】
【氏名】ブライアン・マウラー
(72)【発明者】
【氏名】アーマッド・タハ
(72)【発明者】
【氏名】クリストファー・ヴァイカルト
【審査官】山本 晋也
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-089073(JP,A)
【文献】特開2005-132393(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0240354(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 16/
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器の内部空間を画定する壁が、前記内部空間に面する内側表面と、外側表面と、プラズマ励起化学気相成長(PECVD)コーティング群と、を有する容器において、前記PECVDコーティング群は:
水バリアコーティングであって、80~180度の水接触角を有し、分子あたり1~10の炭素原子と4~20のフッ素原子を有する飽和又は不飽和直鎖又は環状脂肪族フルオロカーボン、1~6の炭素原子を有する飽和又は不飽和炭化水素、分子あたり1~6の炭素原子を有する飽和又は不飽和ハイドロフルオロカーボン、又はこれらの何れかの組合せのうちの少なくとも1つを含む前駆体から構成される水バリアコーティングと、
厚さ2~1000nmのSiO
xガスバリアコーティング(xは1.5~2.9である)と、SiO
xC
y又はSiN
xC
yを含み、XPSを用いた測定により、xは0.5~2.4、yは0.6~3であるコーティングとを含み、xはX線光電子分光計(XPS)を用いた測定により、1.5~2.9であるガスバリアコーティング群であって、前記ガスバリアコーティングは、前記内部空間に面する内面と前記壁の前記内側表面に面する外面と、を有し、前記ガスバリアコーティングは、前記内部空間内への大気ガスの進入を減少させることができるガスバリアコーティング群と、
を含む容器。
【請求項2】
前記水バリアコーティングは、前記ガスバリアコーティング群と前記壁の前記内側表面との間にある、請求項1に記載の容器。
【請求項3】
前記SiO
xC
y又はSiN
xC
yを含むコーティングがpH保護コーティングであり、前記pH保護コーティングは、前記内部空間に面する内側表面と、前記ガスバリアコーティングの前記内側表面に面する外面を有する、請求項2に記載の容器。
【請求項4】
前記SiO
xC
y又はSiN
xC
yを含むコーティングが結合コーティングであり、前記結合コーティングは、前記ガスバリアコーティングに面する内側表面と、前記水バリアコーティングに面する外面を有する、請求項2に記載の容器。
【請求項5】
前記水バリアコーティングは前記壁の上に直接堆積され、前記ガスバリアコーティング群は前記水バリアコーティングの上に堆積され、前記ガスバリアコーティング群は、SiO
xガスバリアコーティング、pH保護コーティング、及び結合コーティングを含み、前記結合コーティングは前記水バリアコーティングと直接接触し、前記
SiO
x
ガスバリアコーティングは前記結合コーティングと前記pH保護コーティングとの間にある、請求項1に記載の容器。
【請求項6】
容器の内部空間を画定する壁が、前記内部空間に面する内側表面と、外側表面と、プラズマ励起気相化学成長(PECVD)コーティング群と、を有する容器において、前記PECVDコーティング群は、80~180度の水接触角を有し、1~6の炭素原子を有する飽和若しくは不飽和フルオロカーボン、1~6の炭素原子を有する飽和若しくは不飽和炭化水素、1~6の炭素原子を有する飽和若しくは不飽和ハイドロフルオロカーボン、又はこれらの2つ以上の組合せを含む前駆体から構成される水バリアコーティングと、厚さ2~1000nmのSiO
xガスバリアコーティング(xは1.5~2.9である)と、SiO
xC
y又はSiN
xC
yを含み、XPSを用いた測定により、xは0.5~2.4、yは0.6~3であるコーティングとを含み、xはX線光電子分光計(XPS)を用いた測定により、1.5~2.9であるガスバリアコーティング群と、を含む容器。
【請求項7】
前記水バリアコーティングは、2~6の炭素原子を有する不飽和フルオロカーボンを含む、請求項6に記載の容器。
【請求項8】
前記水バリアコーティングは、前記壁の前記内側表面と直接接触する、請求項1に記載の容器。
【請求項9】
前記水バリアコーティングは、前記壁の前記外面と直接接触する、請求項1に記載の容器。
【請求項10】
前記水バリアコーティングを含む前記容器の水蒸気透過遮蔽改善係数(BIF)は1より大きい、請求項1~9のいずれかに記載の容器。
【請求項11】
水、ジメチルスルホキシド(DMSO)、エタノール、又はこれらの2つ以上の何れかの組合せのうちの少なくとも1つに関する水蒸気透過遮蔽改善係数(BIF)は1より大きい、請求項1~10のいずれかに記載の容器。
【請求項12】
前記壁の少なくとも一部は、オレフィンポリマ、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、環状オレフィンコポリマ(COC)、環状オレフィンポリマ(COP)、ポリメチルペンテン、ポリスチレン、水添ポリスチレン、ポリシクロヘキシルエチレン(PCHE)、ヘテロ原子置換炭化水素ポリマ、ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリ塩化ビニリデン(PVdC)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリカーボネート、ポリ乳酸、エポキシ樹脂、ナイロン、ポリウレタンポリアクリロニトリル、ポリアクリロニトリル(PAN)、アイオノマ樹脂、Surlyn(登録商標)アイオノマ樹脂、又は上記物質の何れか2つ以上の何れかの組合せ、合成物、若しくはブレンドを含む、請求項1~11のいずれかに記載の容器。
【請求項13】
マイクロプレート、遠心管、ウェルプレート、マイクロウェルプレート、バイアル、ピペット、ボトル、ジャー、シリンジ、カートリッジ、フラスコ、クライオバイアル、ブリスタパッケージ、アンプル、真空採血管、試料管、クロマトグラフィバイアル、化粧品容器、医学的診断用ストロ、サンプルバイアル、アッセイチューブ、トランスファピペット、試薬容器、剛質又は柔軟管類、又はCobas(登録商標)Liat(登録商標)システム容器である、請求項1~12のいずれかに記載の容器。
【請求項14】
円筒形の内部空間を有する、請求項1~13のいずれかに記載の容器。
【請求項15】
前記内部空間は1:1~20:1の内部軸方向長さ対内径アスペクト比を有する、請求項14に記載の容器。
【請求項16】
凍結乾燥薬剤、診断試薬、又は局所的組織接着剤を収容する、請求項1~15のいずれかに記載の容器。
【請求項17】
請求項1~16のいずれかに記載の前記容器の製造方法において、前記壁の表面に隣接する領域を少なくとも部分的に真空にして、部分的に真空にされた領域を形成するステップと、
前記部分的に真空にされた領域に前記水バリアコーティングの前駆体を供給し、前記部分的に真空にされた領域内にプラズマを発生させ、前記真空にされた領域に隣接する前記壁により支持される水バリアコーティングを形成するステップと、
前記水バリアコーティングの前駆体を供給する前記ステップの前又は後で、前記ガスバリアコーティング群の第一のコーティングのための前駆体ガスを前記部分的に真空にされた領域に供給し、前記部分的に真空にされた領域内にプラズマを発生させ、前記真空にされた領域に隣接する前記壁により支持される前記ガスバリアコーティング群のうちの1つのコーティングを形成するステップと、
を含む方法。
【請求項18】
前記ガスバリアコーティング群の第一のコーティングのための前駆体ガスを供給した後に、前記ガスバリアコーティング群の第二のコーティングのための前駆体ガスを前記部分的に真空にされた領域に供給し、前記部分的に真空にされた領域内にプラズマを発生させ、前記真空にされた領域に隣接する前記壁により支持される前記ガスバリアコーティング群の第二のコーティングを形成するステップをさらに含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
少なくとも2つの前記供給するステップ間に、前記真空にされた領域内の真空が中断されない、請求項17又は18に記載の方法。
【請求項20】
少なくとも3つの前記供給するステップ間に、前記真空にされた領域内の真空が中断されない、請求項17~19のいずれかに記載の方法。
【請求項21】
請求項1~16のいずれかに記載の容器又は表面の製造プロセス。
【請求項22】
請求項1~16のいずれかに記載の容器を製造するための容器加工システム。
【請求項23】
請求項1~16のいずれかに記載の容器の、凍結乾燥薬剤、診断試薬、又は局所的組織接着剤のための容器としての使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
発行済み米国特許第7,985,188号、2014年3月11日出願の国際特許出願第PCT/US2014/023813号、2016年8月18日出願の同第PCT/US2016/047622号、及び2013年3月15日出願の米国仮特許出願第61/800,746号、2016年5月12日出願の同第62/335,506号、2017年3月20日出願の同第62/473,777号、2018年3月27日出願の同第62/648,778号、2018年6月25日出願の同第62/689,541号、2018年6月29日出願の同第62/692,038号は、その全体を参照によって本願に援用する。これらの特許/出願には、本明細書中に別段の記載がないかぎり、本発明の実行において一般的に使用できる装置、前駆体、コーティング、又は層、及び方法(特に、コーティング方法及びコーティング又は層を検査するための試験方法)が記載されている。これらにはまた、本明細書で言及されるSiOxバリアコーティング又は層及びSiOxCyコーティングについても記載されている。
【0002】
本発明は、改良された遮水特性を有するPECVDコーティングされた平坦又は非平坦表面の技術分野に関する。より詳しくは、本発明は、遮水特性を有するPECVDによるフルオロカーボン若しくは炭化水素又はハイドロフルオロカーボンコーティングで被覆された表面に関する。本発明はまた、その内側表面又若しくは外面又は両面に水バリアコーティングを有する容器にも関する。
【0003】
本発明はさらに、コーティング表面の製作方法にも関する。本発明はまた、コーティングされた表面及び容器の使用にも関する。
【背景技術】
【0004】
サンプルを保管する、又はそれ以外にサンプルと接触するサンプルコンテナの製造において考慮すべき1つの重要な点は、収容されるサンプルが実質的な有効保存期間を有することである。多くの場合、サンプル又は内容物は、空気、酸素、水分、又はその他の環境要因の影響を受ける。この有効保存期間中、コンテナに入れられるサンプルを酸素等の環境気体及び水分から隔離することが重要である。したがって、容器の遮蔽特性は、収容されるサンプルの有効保存期間にとって決定的に重要である。
【0005】
従来のガラス製医薬品用パッケージ又はその他の容器は、高い遮蔽特性を提供する。しかしながら、これらは製造中、充填作業中、出荷時、及び使用時に壊れやすく、又はサンプルの劣化が生じやすく、これは、ガラス粒子がサンプルに混入する可能性があることを意味する。ガラス粒子の混入は、度々FDA警告状(Warning Letters)の発行と製品リコールの理由となっている。
【0006】
その結果、一部の企業はプラスチック製の医薬品用パッケージ又はその他の容器に移行しており、これはガラスより寸法公差が大きく、壊れにくい。幾つかの非ガラス(例えば、プラスチック)プレフィルドシリンジが説明されている。国際公開第2011/117878 A1号パンフレットは、ポリカーボネート製シリンジを開示している。国際公開第2009/099641 A2号パンフレットは、環状オレフィンポリマ製シリンジを開示している。しかしながら、医薬品の一次包装へのプラスチックの使用は、その気体透過性により依然として限定的であり、すなわち、プラスチックは、酸素等の小さい分子の気体や水分子を製品の内部に(又はその中から外に)透過させる。プラスチックの気体透過性は、ガラスのそれよりはるかに高い。多くの場合(酸素による影響を受けやすい、又は水分による影響を受けやすい薬品のように)、プラスチック容器の酸素及び水遮蔽特性を改善して、医薬品応用において受け入れられるようにする必要がある。
【0007】
透過性の問題には、バリアコーティング又は層をプラスチック製医薬品用パッケージの、パッケージの流体内容物が接触する場所に追加することによって対処されてきた。1つのそのようなバリア層は、後で定義するように、プラズマ励起化学気相成長法により堆積されるSiOxの非常に薄いコーティングである。しかし、PECVDによりパッケージ上に堆積された、保護されていないSiOxバリア層は、パッケージ内に収容される、特に高いpH値のサンプルにより食刻される可能性がある。これによって、パッケージの有効保存期間は、その酸素及び遮水効率が低下するため、短縮される。
【0008】
環状オレフィンコポリマ/ポリマ(COC/COP)材料は、多くの所望の特性を有する比較的新しい熱可塑性材料である。これらはアモルファスポリオレフィンであり、そのため、透明である。これらは、吸水性が低く、遮水特性が高い。ある場合には、COP/COCは薬剤の溶液に保存にとって十分良好であるかもしれない。別の場合には、要求されている遮水特性を提供しない。例えば、水分に対して過感受性を有する一部の薬剤は、保存のために凍結乾燥される。凍結乾燥は、薬剤から、それを凍結し、真空下に置いた後に水を除去するフリーズドライプロセスである。凍結乾燥薬剤の有効保存期間中、過感受性薬剤はコンテナの中に酸素/水分の浸透を容易にする大きい真空ヘッドスペースを有するコンテナ内に保存される。したがって、凍結乾燥薬剤用のコンテナは、きわめて高い酸素及び水分遮蔽特性が必要である。COP/COCだけでは、要求される酸素/水分バリアを提供できない。
【0009】
テフロン(登録商標)は、水バリア材料として使用されてきた。しかしながら、テフロンを医薬品用パッケージ、容器、及びコンテナに適用するには問題がある。テフロンは、容器の壁によく接着せず、十分な透明性を持たない。
【0010】
定義
本発明に関して、以下の定義及び略語が使用される:
【0011】
RFは無線周波数である。
【0012】
本発明に関する「少なくとも」という用語は、その用語に続く整数「と等しいか、それより多い」ことを意味する。「~を含む(comprising)」という単語は、その他の要素又はステップを排除せず、不定冠詞(a又はan)は、特に別段の指示がないかぎり、複数を排除しない。パラメータの範囲が示されている場合は常に、範囲の両端及び前記範囲内に含まれるそのパラメータのすべての値として示されるパラメータの値を開示することが意図される。
【0013】
例えば潤滑剤の堆積物、加工ステーション、又は加工装置への「第一の」及び「第二の」又はこれに類する言及は、存在する最小の数の堆積物、加工ステーション、又は加工装置を指すものであり、必ずしも堆積物、加工ステーション、及び装置の順序又は総数を表しておらず、また、明示されている数を超えた追加の堆積物、加工ステーション及び装置も要求していない。これらの用語は、加工ステーション又はそれぞれのステーションで実行される特定の加工の数を限定しない。例えば、本明細書に関する「第一の」堆積物とは、唯一の堆積物又は複数の堆積物のうちの何れか1つ、のどちらかとすることができ、また、これらに限定されない。換言すれば、「第一の」堆積の記述により、第二の又はそれ以降の堆積物も有する実施形態が許容されてもよいが、必ずしも必須ではない。
【0014】
本発明の解釈において、「誘起シリコン前駆体」とは、以下の連鎖のうちの少なくとも1つを有する化合物である:
【化1】
これは4価ケイ素原子が酸素又は窒素原子と有機炭素原子(有機炭素原子は、少なくとも1つの水素原子と結合された炭素原子である)に連結されたものである。PECVD装置に蒸気として供給可能な前駆体として定義される揮発性有機ケイ素前駆体は、任意選択的な有機ケイ素前駆体である。任意選択により、有機ケイ素前駆体は、直鎖状シロキサン、単環シロキサン、多環シロキサン、ポリシルセスキオキサン、アルキルトリメトキシシラン、直鎖シラザン、単環シラザン、多環シラザン、ポリシルセスキアザン、及びこれらの前駆体の何れか2つ以上の組合せからなる群より選択される。
【0015】
PECVD前駆体、ガス状反応物質又はプロセスガス、及び搬送ガスの供給量は、明細書及び特許請求の範囲の中で「標準状態体積」として表現されることがある。チャージ(charge)の標準状態体積又はガスのその他の一定量とは、一定量のガスが標準温度及び圧力(実際の供給温度及び圧力は考慮しない)で占める体積である。標準状態体積は異なる体積単位を使って測定でき、それも依然として本開示及び特許請求の範囲の範囲に含まれる。例えば、同じ一定量のガスは、標準状態立方センチメートルの数、標準状態立方メートルの数、又は標準状態立方フィートの数として表現できる。標準状態体積はまた、異なる標準温度及び圧力を使って定義することもでき、それも依然として本開示及び特許請求の範囲の範囲に含まれる。例えば、標準温度は0℃であってよく、標準圧力は760トール(従来通り)であってよく、又は標準温度は20℃であり得、標準圧力は1トールであり得るかもしれない。しかし、各場合にどの標準状態が使用されても、特定のパラメータを指定せずに2つ以上の異なるガスの相対量を比較する際、特に別段の指示がないかぎり、各ガスに同じ体積、標準温度、及び標準圧力の同じ体積が使用されることになる。
【0016】
PECVD前駆体、ガス状反応物質又はプロセスガス、及び搬送ガスの対応する供給速度は、本明細書中、単位時間当たりの標準状態体積で表現される。例えば、実施例において、供給速度は標準状態立方センチメートル毎分、略してsccmで表される。他のパラメータと同様に、秒又は時間等の他の時間単位も使用できるが、2つ以上のガスの流量を比較する際は、別段の指示がないかぎり、一貫したパラメータを使用するものとする。
【0017】
本発明に関する「容器」とは、少なくとも1つの開口と、内面又は内側表面を画定する壁を有するあらゆる種類の容器とすることができる。基板は、内部空間を有する容器の壁とすることができる。本発明は必ずしも特定の容積の医薬品用パッケージ又はその他の容器に限定されるわけではないが、内部空間の空隙容積が0.5~50mL、任意選択により1~10mL、任意選択により0.5~5mL、任意選択により1~3mLの医薬品用パッケージ又はその他の容器が想定される。基板表面は、少なくとも1つの開口と内面又は内側表面を有する容器の内面又は内側表面の一部又は全部とすることができる。医薬品用パッケージの幾つかの例としては、バイアル、プラスチックコートバイアル、シリンジ、プラスチックコートシリンジ、ブリスタパック、アンプル、プラスチックコートアンプル、カートリッジ、ボトル、プラスチックコートポトル、パウチ、ポンプ、スプレイヤ、ストッパ、針、プランジャ、キャップ、ステント、カテーテル、又はインプラントが含まれるが、これらに限定されない。
【0018】
本発明に関する「少なくとも」という用語は、この用語に続く整数「と等しいか、それより多い」ことを意味する。それゆえ、本発明に関する容器は、1つ又は複数の開口を有する。サンプルチューブ(1つの開口)又はシリンジバレル(2つの開口)のように1つ又は複数の開口が好ましい。容器が2つの開口を有する場合、これらは同じ又は異なるサイズとすることができる。2つ以上の開口がある場合、1つの開口は本発明によるPECVDコーティング方法のためのガス吸込み口として使用でき、他の開口はキャップが付けられるか、開放している。本発明による容器は、例えば血液若しくは尿等の生物流体を採取若しくは保管するためのサンプルチューブ、薬品若しくは医薬品組成物等の生物活性化合物若しくは組成物を保管若しくは送達するためのシリンジ(又はその一部、例えばシリンジバレル)、生体物質若しくは生体活性化合物若しくは組成物を輸送するためのカテーテル等の管、又は流体を保持するため、例えば生体物質若しくは生体活性化合物若しくは組成物を保持するためのキュベットとすることができる。
【0019】
容器は何れの形状とすることもでき、その開放端の少なくとも一方に隣接する実質的に円筒形の壁を有する容器が好ましい。一般に、容器の内壁は、例えばサンプルチューブ又はシリンジバレルのように円筒形である。サンプルチューブ及びシリンジ又はそれらの一部(例えば、シリンジバレル)が想定される。
【0020】
本発明に関する「疎水性層」とは、コーティング又は層が、そのコーティング又は層で被覆された表面のぬれ張力を、コーティングなしの同等の表面と比較して低下させることを意味する。それゆえ、疎水性は、コーティングなしの基板とコーティング又は層の両方の機能である。同じことが、「疎水性の」という用語が使用されるその他の文脈についても、適当な変更を加えたうえで適用される。「親水性」という用語はその反対、すなわち、ぬれ張力が基準サンプルと比較して増大されることを意味する。本願の疎水性層は基本的に、それらの疎水性と疎水性を提供するプロセス条件により定義される。
【0021】
w、x、y、及びzのこれらの値は、本明細書全体を通じて実験的組成物SiwOxCyHzに適用される。本明細書を通じて使用されるw、x、y、及びzの値は、分子中の原子の数又は種類に関する限定としてではなく、比又は経験式(例えば、コーティング又は層の)として理解すべきである。例えば、分子組成Si4O4C8H24を有するオクタメチルシクロテトラシロキサンは、分子式の中のw、x、y、及びzの各々を最大公約数4で割ることによって得られる次の経験式により説明できる:Si1O1C2H6。w、x、y、及びzの値はまた、整数に限定されない。例えば、分子組成Si3O2C8H24の(非環式)オクタメチルトリシロキサンは、Si1O0.67C2.67H8に換算できる。また、SiOxCyHzはSiOxCyの等価物として説明されるが、それは必ずしも、SiOxCyの存在を示すために何れかの割合での水素の存在を示すとはかぎらない。
【0022】
BIFは、コーティングなしの基板を通じたガス等加速度対コーティング基板を通じたガス等加速度の比と定義される。例えば、コーティング容器の水蒸気透過に関するBIFはWVTR(コーティングなし)/WVTR(コーティング)の比である。
【0023】
本明細書に関する「水蒸気バリアコーティング又は層(WVBC)」とは、コーティング基板の水蒸気透過速度(WVTR)をコーティングなしの基板と比較して低下させるコーティングを意味する。
【0024】
「水蒸気バリアコーティング又は層(WVBC)」は、「水バリアコーティング又は層(WBC)」とも呼ばれることがある。本明細書において、WVBCはWBCと互換可能である。
【0025】
「ぬれ張力」とは、表面の疎水性又は親水性の特定量である。本発明に関する任意選択によるぬれ張力測定方法は、ASTM D 2578又は、ASTM D 2578に記載されている方法の変更型である。この方法は、標準的ぬれ張力試験液(ダイン溶液と呼ばれる)を使って、プラスチックフィルム表面を正確に2秒間ぬらすのに最も近い溶液を特定するものである。これは、そのフィルムのぬれ張力である。採用される手順は、基板が平坦なプラスチックフィルムではなく、「PET管体形成に関するプロトコル」に従って製作され、「管体内部を疎水性コーティング又は層で被覆することに関するプロトコル」(欧州特許第2251671A2号明細書の実施例9を参照)に従って被覆された管体であるという点で、ASTM D 2578とは異なる。
【0026】
原子比率は、XPSにより特定できる。それゆえ、XPSでは測定されないH原子を考慮すると、コーティング又は層は、1つの態様において、例えばSiwOxCyHz(またそれと等価のSiOxCy)を有していてよく、wは1、xは約0.5~約2.4、yは約0.6~約3、zは約2~約9である。典型的に、このようなコーティング又は層は、したがって、炭素プラス酸素プラスケイ素100%に正規化される36%~41%の炭素を含む。
【0027】
「シリンジ」という用語は、カートリッジ、注射「ペン」、及び、機能的シリンジを提供するために1つ又は複数のその他の構成部品と組み立てられるようになされたその他の種類のバレル又は容器を含むと広く定義される。「シリンジ」もまた、内容物を吐出するための機構を提供するオートインジェクタ等の関連製品を含むと広く定義される。
【0028】
「三重コーティング又は層」とは、結合層、SiOxバリアコーティング、及びpH保護層を含むコーティング群を指す。
【0029】
コーティング若しくは層又は処理は、それが表面のぬれ張力を、コーティングなし又は処理されていない同等の表面と比較して低下させる場合、「疎水性」と定義される。疎水性はそれゆえ、処理されていない基板と処理の両方の機能である。
【0030】
「~を含む(comprising)」という単語は、他の要素又はステップを排除しない。
【0031】
不定冠詞(a又はan)は、複数を排除しない。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0032】
本発明の態様は、少なくとも部分的に壁により画定される内部空間を有する容器である。壁は、内部空間に面する内側表面と、外面と、壁により支持されるプラズマ励起化学気相成長(PECVD)コーティング群と、を有する。PECVDコーティング群は、水バリアコーティングとガスバリアコーティングを含む。
【0033】
水バリアコーティング又は層の水接触角は80~180度である。これは、1~6の炭素原子を有する飽和若しくは不飽和フルオロカーボン前駆体、1~6の炭素原子を有する飽和若しくは不飽和炭化水素、又は1~6の炭素原子を有する飽和若しくは不飽和ハイドロフルオロカーボンを含む水バリアコーティング又は層の前駆体を使って堆積される。任意選択により、前駆体は2つ以上のこれらの前駆体を含むことができる。
【0034】
ガスバリアコーティング群は、厚さ2~1000nmのSiOxガスバリアコーティング又は層を含み、xはX線光電子分光計(XPS)を用いた測定により、1.5~2.9である。ガスバリアコーティング又は層は、内部空間に面する内側表面と壁の内側表面に面する外面と、を有する。ガスバリアコーティング又は層は、内部空間内への大気ガスの進入を減少させるために、このバリアコーティング又は層を持たない容器と比較して、効果的である。
【0035】
本発明の他の態様は、少なくとも部分的に壁により画定される内部空間を有する容器である。壁は、内部空間に面する内側表面と、外面と、壁により支持されるプラズマ励起化学気相成長(PECVD)コーティング群と、を有する。PECVDコーティング群は、水バリアコーティングを含む。
【0036】
水バリアコーティング又は層の水接触角は80~180度である。これは、1~6の炭素原子を有する飽和若しくは不飽和フルオロカーボン前駆体、1~6の炭素原子を有する飽和若しくは不飽和炭化水素、又は1~6の炭素原子を有する飽和若しくは不飽和ハイドロフルオロカーボンを含む水バリアコーティング又は層の前駆体を使って堆積される。任意選択により、前駆体は2つ以上のこれらの前駆体を含むことができる。
【0037】
本発明のまた別の態様は、上述の何れかのタイプの容器の製造方法である。方法は、真空にする、及び供給するステップを含む。真空にするステップは、壁の表面に隣接する領域を少なくとも部分的に真空にし、部分的に真空にされた領域を形成することによって実行される。水バリア前駆体を供給するステップは、水バリアコーティング又は層の前駆体を部分的に真空にされた領域に供給することによって行われる。部分的に真空にされた領域の中にプラズマが生成され、真空にされた領域に隣接する壁により支持される水バリアコーティング又は層が形成される。
【0038】
水バリアコーティング又は層の前駆体を供給するステップの前又は後で、他のステップは、ガスバリアコーティング群の第一のコーティング又は層のための前駆体ガスを部分的に真空にされた領域に供給し、部分的に真空にされた領域内にプラズマを発生させ、真空にされた領域に隣接する壁により支持されるガスバリアコーティング群のうちの1つのコーティング又は層を形成するステップである。
【0039】
本発明の他の態様は、以下の説明及び特許請求の範囲から明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【
図1】容器又はその他の基板上にプラズマ励起化学気相成長(PECVD)コーティングを施すコーティングシステムの概略図である。
【
図2】本発明の何れかの実施形態のPECVDコーティング容器の概略図である。
【
図2A】
図2の容器の1つの代替的な詳細図である。
【
図3】接触角について評価される2つの異なる表面上の水滴の2つの異なる水滴接触角の図である。
【
図4】それぞれコーティングを持たない、C
4H
8前駆体を用いたPECVDコーティングを有する、及びC
3F
6前駆体を用いたPECVDコーティングを有するポリプロピレン管体に関する波数対透過率のフーリエ変換赤外線分光測色法(FTIR:Fourier-Transform infrared spectrophotometry)によるグラフである。
【
図5】10mL COPの内側表面上に、C4F8前駆体とArとの混合を用いて堆積されたPECVD水蒸気バリアコーティングに関する、FTIRピーク値及び750cm-1~1800cm-1の割当てを、任意の吸収率単位で示されるピーク強度と共に示すグラフである。
【
図6】幾つかの異なるPECVDコーティング容器に関する水蒸気透過速度の値を示す、実施例4に対応するデータのグラフである。
【
図7】SiO
x PECVDコーティングにおいて予想されるケイ素と酸素の典型的な原子配列の概略図であり、xは約2である。
【
図8】SiOxCyHz PECVDコーティングに関する
図7と同様の図であり、xは約1、yは約1、zは約3である。
【
図9】xが約1.5のCF
wコーティングに関する
図7と同様の図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
下記の参照符号が本明細書と図面で使用される。
【0042】
【0043】
図面に関して、
図1は、
図2、2A、及び2Bにより概略的に示されているもの等の容器を加工するための容器コーティング機101の概略図である。コーティング機101は、例えば、
図7、8、及び9により概略的に示されているPECVDコーティングを施すために使用される。PECVDコーティング装置及びプロセスはまた、米国特許第7,985,188号明細書、国際特許出願第PCT/US2014/023813号パンフレット、又は国際特許出願第PCT/US2016/047622号パンフレットのPECVDプロトコルに概して記されているものとすることもできる。米国特許第7,985,188号明細書、国際特許出願第PCT/US2014/023813号パンフレット、又は国際特許出願第PCT/US2016/047622号パンフレットの全文及び図面を参照によって本願に援用する。
【0044】
容器コーティング機101は、使用される、例えば前駆体、反応ガス、又は搬送ガスであってよい何れかのプロセスガスのための103、105、107、及び109等のガス源を含む。
図1の具体的なガスの表示は代表的なものであり、すなわち、これら特定のガスのすべてが存在しなければならないわけではなく、具体的に図示されていないその他のガスを使用することもできる。典型的に、各ガス源は、PECVDに使用されることになる各ガスの量を制御するための111、113、115、及び117等の測定器を有する。
【0045】
使用されるガスは、ガス混合室119の中で混合され、その後、反応室入口弁121を介して反応室内へと運ばれる。容器の外側にコーティングしようとする場合、反応室123は別のチャンバとすることができ、その中にコーティングされる加工物が設置される。容器の内側にコーティングしようとする場合、反応室123はコーティングされる容器の内部空間とすることができ、ガス吸込み口及びガス排出口が設けられて、ガスが内部空間の中へ、及びそこから外に運ばれる。容器の内側表面をコーティングするための代表的な装置は、例えば米国特許第7,985,188号明細書の中、例えば同特許の
図2及びそれに関連する説明文に記載されている。反応室には、PECVDのために使用される反応圧力を保持するための圧力制御装置125を設けることができる。
【0046】
反応室123の中では、コーティングプロセスの結果として排ガスが生成される。排ガスは、反応器出口弁127を介して反応室123から排出される。任意選択により、排ガスの1つ又は複数の成分を捕集する場合、真空ライン弁129が閉じられて、コールドトラップ弁131が開けられる。これは排ガスをコールドトラップ133又は、排ガスの1つ又は複数の成分を捕集するためのその他の捕集装置へと分流され、その後、コールドトラップ133から出た成分はすべて真空ポンプ135を通じて排出物137へと送られる。代替的に、排ガスが真空ポンプ135を通じて直接送られ、排ガス成分の分流及び捕集が行われない場合、コールドトラップ弁131を閉じて、真空ライン弁129を開くことにより、排ガスが反応室123から直接、真空ポンプ135を通り、その後、排出物137へと送られるようにすることができる。
【0047】
PECVDでは、エネルギー源がプラズマを生成する必要があり、これは図の装置において、電磁エネルギー源139により提供される。図のように、エネルギー源139は無線周波数発生器であり、PECVD用に承認されている周波数である、例えば13.56MHzのRFエネルギーを発生させる。エネルギー源139はまた、又はその代わりに、マイクロ波発生器とすることもでき、この場合、マイクロ波エネルギーは従来、導波路によって反応室123へと案内される。エネルギー源139からのエネルギーは、この実施形態では、電極141を通じて反応室123の中に、反応室143の中の、又はその壁を形成する適当なアプリケータへと運ばれる。代替的に、米国特許第7,985,188号明細書の中の例えば
図2において示されているように、接地された中空の内部電極は中空の管体であり、それがプロセスガスを反応室123へと運び、通電極が反応室123を取り囲む、又はそれに隣接する外部アプリケータに接続される。
【0048】
PECVDを実行するための多くの異なる種類の装置が当業者の間で知られている。本開示は、本明細書の特定の態様の中で明確に別段の指示がなされないかぎり、何れの特定の装置又は方法にも限定されない。
【0049】
ここで、
図2、2A、及び2Bを参照すると、PECVDコーティング容器210が示され、これは少なくとも部分的に壁214により画定される内部空間212を有する。壁214は、内部空間212に面する内側表面278と、外面216と、壁214により支持されるプラズマ励起化学気相成長(PECVD)コーティング群302と、を有する。任意選択により、容器210は、
図2において262として概略的に示される開閉手段を有することができる。開閉手段262は任意選択により、1つ又は複数のコーティング、例えばコーティング群285を含むことができ、これは本明細書において提供されるコーティング群又は個別のコーティングの何れとすることもできる。
【0050】
PECVDコーティング群302は、水接触角80~180度、任意選択により80度超~180度未満、任意選択により90度~160度、任意選択により100度~150度、任意選択により110度~150度の水バリアコーティング又は層300を含む。水バリアコーティング又は層300は、例えば、1~6の炭素原子を有する飽和又は不飽和フルオロカーボン前駆体、1~6の炭素原子を有する飽和又は不飽和炭化水素、及び1~6の炭素原子を有する飽和又は不飽和ハイドロフルオロカーボンのうちの少なくとも1つを含む水バリアコーティング又は層300の前駆体を使って堆積できる。
【0051】
ガスバリアコーティング群298は任意選択により、厚さ2~1000nmのSiOxガスバリアコーティング又は層288を含み、xはX線光電子分光計(XPS)を用いた測定により1.5~2.9であり、ガスバリアコーティング又は層288は、内部空間212に面する内側表面220と、壁214の内側表面278に面する外面222を有し、ガスバリアコーティング又は層288は、内部空間212の中への大気ガスの進入を減らすことにおいて、ガスバリアコーティング又は層288を持たない容器210と比較して有効である。
【0052】
任意選択により、何れかの実施形態において、それぞれのコーティング及び層は様々な順序とすることができる。例えば、
図2Bに示されるように、水バリアコーティング又は層300は、ガスバリアコーティング群298と壁214の内側表面278との間に位置付けることができる。
【0053】
任意選択により、何れかの実施形態において、ガスバリアコーティング群298は、存在するかもしれない水素は測定しないX線光電子分光計(XPS)を用いた測定によりSiOxCy又はSiNxCyを含むpH保護コーティング又は層286をさらに含み、XPSを用いた測定により、xは約0.5~約2.4、yは約0.6~約3である。pH保護コーティング又は層286は、任意選択により内部空間212に面する内側表面224と、任意選択によりガスバリアコーティング又は層288の内側表面220に面する外面226を有する。
【0054】
任意選択により、何れかの実施形態において、ガスバリアコーティング群298は、SiOxCy又はSiNxCyを含む結合コーティング又は層289をさらに含み、XPSを用いた測定により、xは約0.5~約2.4、yは約0.6~約3である。任意選択により、何れかの実施形態において、結合コーティング又は層289は、ガスバリアコーティング又は層288に面する内側表面291と、水バリアコーティング又は層300に面する外面293を有することができる。
【0055】
任意選択により、幾つかの実施形態において、結合コーティング又は層289は壁214と直接接触し、バリアコーティング又は層288は結合コーティング又は層289とpH保護コーティング又は層286との間にあり、水バリアコーティング又は層300は、pH保護コーティング又は層286の内側表面224に堆積される。
【0056】
任意選択により、幾つかの実施形態において、容器210の水蒸気透過速度(WVTR)は、ガスバリアコーティング群298を持たない同等の容器210のそれより低い。
【0057】
任意選択により、何れかの実施形態において、容器210の水蒸気透過速度(WVTR)は、水バリアコーティング又は層300を持たない同等の容器210より低い。
【0058】
任意選択により、何れかの実施形態において、コーティング表面の水接触角は、水バリアコーティング又は層300しか持たない、又はガスバリアコーティング群298しか持たない同じ容器210のそれより大きい。
【0059】
任意選択により、何れかの実施形態において、水バリアコーティング300は、壁214に直接堆積され、ガスバリアコーティング群298は水バリアコーティング300の上に堆積され、ガスバリアコーティング群298は、SiOxガスバリアコーティング又は層288、pH保護コーティング又は層286、及び結合コーティング又は層289を含み、結合コーティング又は層289は水バリアコーティング300と直接接触し、バリアコーティング又は層288は結合コーティング又は層289とpH保護コーティング又は層286との間にある。
【0060】
任意選択により、何れかの実施形態において、水バリアコーティング又は層300は容器壁214の外面216の上にあり、ガスバリアコーティング群298は容器壁214の内側表面278の上にある。
【0061】
任意選択により、何れかの実施形態において、プラズマ励起化学気相成長(PECVD)コーティング群302は、水接触角が80~180度、任意選択により80度超~180度未満、任意選択により90度~160度、任意選択により100度~150度、任意選択により110度~150度の水バリアコーティング又は層300を含む。
【0062】
容器
容器は、様々な形態で実施でき、本明細書に示す実施形態に限定されないと解釈すべきである。むしろ、これらの実施形態は、特許請求の範囲の文言により示される最大範囲を有する本発明の例である。
【0063】
任意選択により、何れかの実施形態において、容器210は例えば、マイクロプレート、遠心管、ウェルプレート、マイクロウェルプレート、バイアル、ピペット、ボトル、ジャー、シリンジ、カートリッジ、フラスコ、クライオバイアル、ブリスタパッケージ、アンプル、真空採血管、試料管、クロマトグラフィバイアル、化粧品容器、医学的診断用ストロ、サンプルバイアル、アッセイチューブ、トランスファピペット、試薬容器、剛質又は柔軟管類、Cobas(登録商標)Liat(登録商標)システム容器210、又は本明細書若しくはその他の特許請求項で定義される何れの容器210とすることもできる。任意選択により、何れかの実施形態において、容器210は概して円筒形の内部空間212を有することができる。任意選択により、何れかの実施形態において、内部空間212は内径、内部軸方向長さ、1:1~20:1、任意選択により1:1~15:1、任意選択により1:1~10:1、任意選択により1:1~5:1、任意選択により1:1~3:1、任意選択により1:1~2:1、任意選択により2:1~20:1、任意選択により2:1~15:1、任意選択により2:1~10:1、任意選択により2:1~5:1、任意選択により2:1~3:1、任意選択により3:1~20:1、任意選択により3:1~15:1、任意選択により3:1~10:1、任意選択により3:1~5:1、任意選択により5:1~20:1、任意選択により5:1~15:1、任意選択により5:1~10:1、任意選択により10:1~20:1、任意選択により10:1~15:1、任意選択により15:1~20:1の内部軸方向長さ対内径アスペクト比を有することができる。
【0064】
任意選択により、何れかの実施形態において、壁214の少なくとも一部はオレフィンポリマ、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、環状オレフィンコポリマ(COC)、環状オレフィンポリマ(COP)、ポリメチルペンテン、ポリスチレン、水添ポリスチレン、ポリシクロヘキシルエチレン(PCHE)、ヘテロ原子置換炭化水素ポリマ、ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリ塩化ビニリデン(PVdC)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリカーボネート、ポリ乳酸、エポキシ樹脂、ナイロン、ポリウレタンポリアクリロニトリル、ポリアクリロニトリル(PAN)、アイオノマ樹脂、Surlyn(登録商標)アイオノマ樹脂、又は上記物質の何れか2つ以上の何れかの組合せ、合成物、若しくはブレンドを含み、任意選択によりPET、COP、又はPPを含み、任意選択によりCOPを含む。
【0065】
少なくとも1つの実施形態において、容器の壁は熱可塑性ポリマ材料、例えばポリエステル、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリオレフィン、環状オレフィンポリマ(COP)、環状オレフィンコポリマ(COC)、ポリプロピレン(PP)、又はポリカーボネートで製作される。壁は、環状オレフィンポリマ(COP)又は環状オレフィンコポリマ(COC)樹脂とそれらの間に挟まれたその他の樹脂の多層で製作されてもよい。挟まれる樹脂としては、EVOH、EVA、PET、ナイロン、若しくはサラン、又はそれらの何れかの組合せが含まれていてよい。任意選択により、何れの実施形態において、壁214は、ポリエチレンテレフタレート(PET)と壁214により支持される水バリアコーティング300を含む。
【0066】
任意選択により、何れかの実施形態において、容器210は水分により影響を受けやすい材料、任意選択により凍結乾燥薬剤、診断試薬、又は局所的組織接着剤を収容することができる。
【0067】
任意選択により、何れかの実施形態において、容器壁214の外面216はPECVDコーティングを持たない。代替的に、外側コーティング群301を提供でき、これは内部層の何れか又は全部を含むことができ、任意選択により、図のように、水バリアコーティング又は層とすることができ、
図2A及び2Bに示される内部水バリアコーティング又は層300と共に、又はその代わりに提供される。
【0068】
水バリアコーティング又は層
任意選択により、何れかの実施形態において、水バリアコーティング又は層300は、1nm~500nmの厚さ、代替的に1nm~400nmの厚さ、代替的に1nm~300nmの厚さ、代替的に1nm~200nmの厚さ、代替的に1nm~100nmの厚さ、代替的に1nm~80nmの厚さ、代替的に1nm~60nmの厚さ、代替的に1nm~50nmの厚さ、代替的に1nm~40nmの厚さ、代替的に1nm~30nmの厚さ、代替的に1nm~20nmの厚さ、代替的に1nm~10nmの厚さ、代替的に1nm~5nmの厚さ、代替的に10nm~500nmの厚さ、代替的に10nm~400nmの厚さ、代替的に10nm~300nmの厚さ、代替的に10nm~200nmの厚さ、代替的に10nm~100nmの厚さ、代替的に10nm~80nmの厚さ、代替的に10nm~60nmの厚さ、代替的に10nm~50nmの厚さ、代替的に10nm~40nmの厚さ、代替的に10nm~30nmの厚さ、代替的に10nm~20nmの厚さ、代替的に1nm~10nmの厚さ、代替的に1nm~5nmの厚さ、代替的に50nm~500nmの厚さ、代替的に50nm~400nmの厚さ、代替的に50nm~300nmの厚さ、代替的に50nm~200nmの厚さ、代替的に50nm~100nmの厚さ、代替的に50nm~80nmの厚さ、代替的に50nm~60nmの厚さ、代替的に100nm~500nmの厚さ、代替的に100nm~400nmの厚さ、代替的に100nm~300nmの厚さ、代替的に100nm~200nmの厚さである。
【0069】
任意選択により、何れかの実施形態において、水バリアコーティング又は層300は壁214と直接接触する。
【0070】
任意選択により、何れかの実施形態において、水バリアコーティング又は層300は壁214の内側表面278は直接接触する。
【0071】
任意選択により、何れかの実施形態において、水バリアコーティング又は層300は壁214の外面216と直接接触する。
【0072】
任意選択により、何れかの実施形態において、水バリアコーティング又は層300は壁214の外面216と直接接触し、他の同じ、又は異なる前記水バリアコーティング又は層300は、壁214の内面と直接接触する。
【0073】
任意選択により、何れかの実施形態において、水バリアコーティング又は層300を含む容器210の水蒸気透過遮蔽改善係数(BIF)は、水バリアコーティング又は層300を持たない同等の容器210と比較して、1より大きく、任意選択により2~8、任意選択により4~8、任意選択により6~8である。
【0074】
任意選択により、何れかの実施形態において、容器210の水蒸気透過速度(WVTR)は、水バリアコーティング又は層300を持たない同等の容器210のそれより低い。
【0075】
任意選択により、何れかの実施形態において、水、ジメチルスルホキシド(DMSO)、エタノール、又はこれらの2つ以上の何れかの組合せのうちの少なくとも1つに関する水蒸気透過遮蔽改善係数(BIF)は、水バリアコーティング又は層300を持たない同等の容器210と比較して、1より大きく、任意選択により2~20、任意選択により4~20、任意選択により6~20、任意選択により8~20、任意選択により2~10、任意選択により4~10、任意選択により6~10、任意選択により8~10、任意選択により2~5、任意選択により4~5、任意選択により1.5~10、任意選択により1.5~8、任意選択により1.5~6、任意選択により1.5~4、任意選択により1.5~2である。
【0076】
本発明の水バリアコーティング又は層は、コーティング機を使ってPECVDにより堆積され、これは
図1に関して前述したコーティング機とすることができる。
【0077】
コーティング前駆体は、フルオロカーボン、炭化水素、又はハイドロフルオロカーボンを含む。フルオロカーボンはフッ化化合物とすることができ、例えば分子あたり1~10、任意選択により1~6、任意選択により2~6の炭素原子と4~20のフッ素原子を有する飽和又は不飽和直鎖又は環状脂肪族フルオロカーボン前駆体とすることができる。適当なフッ化化合物の幾つかの具体的な例には、フッ化ガス、例えばヘキサフルオロプロピレン(C3F6)、オクタフルオロシクロブタン(C4F8)、テトラフルオロエチレン(C2F4)、若しくはヘキサフルオロエタン(C2F6)、任意選択によりヘキサフルオロプロピレン(C3F6)若しくはオクタフルオロシクロブタン(C4F8)、又はフッ化液体、例えばパーフルオロ-2-メチル-2-ペンテン(C6F12)又はパーフルオロヘキサン(C6F14)、又はこれらの何れかの組合せが含まれる。炭化水素は、1~4の炭化原子を有する低級アルカン、2~4の炭素原子を有するアルケン又はアルキン、例えばアセチレン(C2H2)又はメタン(CH4)、任意選択によりアセチレン(C2H2)とすることができる。ハイドロフルオロカーボンは、飽和又は不飽和、分子あたり1~6の炭素原子、少なくとも1つの水素原子、及び少なくとも1つのフッ素原子を有し、又は上記材料の何れか2つ以上の何れかの組合せ、合成物、又はブレンドとすることができる。
【0078】
本発明の水バリアコーティング又は層は、任意選択により
図1に関連して前述したコーティング機とすることのできるコーティング機を使ってPECVDにより堆積される。
【0079】
フルオロカーボンを前駆体として使用して堆積される水バリアコーティングに関して、典型的なコーティングプロセス条件は以下のとおりである:
〇 電源周波数:13.56MHz
〇 前駆体:ヘキサフルオロプロピレン(C3F6)又はオクタフルオロシクロブタン(C4F8)
〇 ガス流量:5~10sccm
〇 搬送ガス流量:2~10sccm
〇 基準圧力:20~300mトール
〇 コーティング圧力:80~900mトール
〇 コーティング時間:5~30秒
【0080】
炭化水素を前駆体として使用して堆積される水バリアコーティングに関して、典型的なコーティングプロセス条件は以下のとおりである:
〇 電源周波数:13.56MHz
〇 前駆体:アセチレン(C2H2)
〇 ガス流量:1~10sccm
〇 搬送ガス流量:2~5sccm
〇 基準圧力:20~300mトール
〇 コーティング圧力:80~900mトール
〇 コーティング時間:5~30秒
【0081】
任意選択により、プロセス中、入口は静止又は移動式とすることができる。
【0082】
水バリアコーティングは、FT-IR、水接触角、及びXPSにより特徴付けることができる。
【0083】
結合コーティング又は層
結合コーティング又は層289には少なくとも2つの機能がある。結合コーティング又は層289の1つの機能は、バリアコーティング又は層288の基板、特に熱可塑性基板への接着性を改善することであるが、結合層はガラス基板又はその他のコーティング若しくは層への接着性を改善するために使用できる。例えば、結合コーティング又は層は、接着層又はコーティングとも呼ばれ、基板上に堆積させることができ、バリア層は接着層に堆積させて、バリア層又はコーティングの基板への接着性を改善できる。
【0084】
結合コーティング又は層289の他の機能が発見されており、すなわち、バリアコーティング又は層288の下に堆積される結合コーティング又は層289は、バリアコーティング又は層288上に堆積されるpH保護コーティング又は層286の機能を改善できる。
【0085】
結合コーティング又は層289は、SiOxCyで構成される、それを含む、又は基本的にそれからなるものとすることができ、xは0.5~2.4、yは0.6~3である。代替的に、原子比は化学式SiwOxCyとして表現できる。結合コーティング又は層289のSi、O、及びCの原子比は、幾つかの選択肢として以下のとおりである:
Si 100:O 50~150:C 90~200(すなわち、w=1、x=0.5~1.5、y=0.9~2)、
Si 100:O 70~130:C 90~200(すなわち、w=1、x=0.7~1.3、y=0.9~2)、
Si 100:O 80~120:C 90~150(すなわち、w=1、x=0.8~1.2、y=0.9~1.5)、
Si 100:O 90~120:C 90~140(すなわち、w=1、x=0.9~1.2、y=0.9~1.4)、又は
Si 100:O 92~107:C 116~133(すなわち、w=1、x=0.92~1.07、y=1.16~1.33)、
【0086】
原子比はXPSにより特定できる。それゆえ、XPSにより測定されないH原子を考慮に入れると、結合コーティング又は層289は、1つの態様において、化学式SiwOxCyHz(又はそれと等価のSiOxCy)を有していてよく、例えばwは1、xは約0.5~約2.4、yは約0.6~約3、zは約2~約9である。典型的に、結合コーティング又は層289はしたがって、炭素プラス酸素プラスケイ素100%に正規化される36%~41%の炭素を含む。
【0087】
任意選択により、結合コーティング又は層は、本明細書の別の箇所に記載されているpH保護コーティング又は層286と組成の点で同様又は同じとすることができるが、これは要求事項ではない。
【0088】
結合コーティング又は層289は、何れかの実施形態において、特に化学気相成長法により堆積される場合、概して5nm~100nmの厚さ、好ましくは5~20nmの厚さであることが想定される。これらの厚さは重要ではない。一般的に、ただし必ずしもそうとはかぎらないが、結合コーティング又は層289は比較的薄く、これは、その機能が基板の表面特性を変化させることであるからである。
【0089】
バリア層
バリアコーティング又は層288は任意選択により、プラズマ励起化学気相成長法(PECVD)又はその他の化学気相成長プロセスによって、医薬品用パッケージ、特に熱可塑性パッケージの容器に堆積させて、酸素、二酸化炭素、又はその他のガスが容器に入るのを防止し、及び/又は医薬品材料がパッケージの壁の中に、又はそれを通って浸出するのを防止できる。
【0090】
本明細書において定義される何れかの実施形態のためのバリアコーティング又は層は(特定の例において別段の明示がないかぎり)、任意選択により、米国特許第7,985,188号明細書、国際特許出願第PCT/US2014/023813号パンフレット、又は国際特許出願第PCT/US16/47622号パンフレットにおいて示されているようなPECVDにより堆積されるコーティング又は層である。バリア層は任意選択により、「SiOx」コーティングとして特徴付けることができ、ケイ素、酸素、及び任意選択によりその他の元素を含み、x、すなわちケイ素原子に対する酸素原子の比は約1.5~約2.9、又は1.5~約2.6、又は約2である。xのこれらの代替的な定義は、本明細書におけるSiOxの用語の何れの使用にも当てはまる。バリアコーティング又は層は、例えば医薬品用パッケージ又はその他の容器、例えば細胞培養フラスコ、細胞培養三角フラスコ、細胞培養容器、ローラボトル、リブ付きローラボトル、サンプル採取管、シリンジバレル、バイアル、又はその他の種類の容器の内部に堆積される。
【0091】
バリアコーティング288は、xが1.5~2.9のSiOxを含むか、基本的にそれからなり、厚さ2~1000nmであり、SiOxのバリアコーティング288は内部空間212に面する内側表面と、壁214製品表面254に面する外面222を有し、バリアコーティング288は大気ガスが内部空間212に進入するのを減少させることにおいて、コーティングなしの容器250と比較して有効である。1つの適当なバリア組成物は、例えばxが2.3のそれである。例えば、何れかの実施形態の288等のバリアコーティング又は層は、少なくとも2nm、又は少なくとも4nm、又は少なくとも7nm、又は少なくとも10nm、又は少なくとも20nm、又は少なくとも30nm、又は少なくとも40nm、又は少なくとも50nm、又は少なくとも100nm、又は少なくとも150nm、又は少なくとも200nm、又は少なくとも300nm、又は少なくとも400nm、又は少なくとも500nm、又は少なくとも600nm、又は少なくとも700nm、又は少なくとも800nm、又は少なくとも900nmの厚さに堆積させることができる。バリアコーティング又は層は、1000nmまで、又は最大で900nm、又は最大で800nm、又は最大で700nm、又は最大で600nm、又は最大で500nm、又は最大で400nm、又は最大で300nm、又は最大で200nm、又は最大で100nm、又は最大で90nm、又は最大で80nm、又は最大で70nm、又は最大で60nm、又は最大で50nm、又は最大で40nm、又は最大で30nm、又は最大で20nm、又は最大で10nm、又は最大で5nmの厚さとすることができる。20~200nm、任意選択により20~30nmの範囲が想定される。上述の最小厚さの何れか1つプラス上述の最大厚さのうちの1つ以上で構成される具体的な厚さ範囲が明示的に想定される。
【0092】
SiOx又はその他のバリアコーティング又は層の厚さは、例えば、透過型電子顕微鏡検査法(TEM)により測定可能であり、その組成はX線光電子分光法(XPS)により測定可能である。本明細書に記載のプライマコーティング又は層は、様々な医薬品用パッケージ又は例えばプラスチック若しくはガラス製のその他の容器に、例えばプラスチック管体、バイアル、及びシリンジに堆積させることができる。
【0093】
xが1.5~2.9のSiOxのバリアコーティング又は層288は、プラズマ励起化学気相成長法(PECVD)によって熱可塑性の壁214に直接又は間接に(例えば、結合コーティング又は層289をそれらの間に介在させることができる)堆積され、それによって充満状態の医薬品用パッケージ又はその他の容器210の中で、バリアコーティング又は層288は熱可塑性の壁214の内面又は内側表面と内部空間内に収容される流体との間に位置付けられる。
【0094】
SiOxのバリアコーティング又は層288は、熱可塑性の壁214により支持される。本明細書の他の箇所に、又は米国特許第7,985,188号明細書、国際特許出願第PCT/US2014/023813号パンフレット、若しくは国際特許出願第PCT/US16/47622号パンフレットに記載のバリアコーティング又は層288は、何れの実施形態においても使用できる。
【0095】
本明細書において定義されるようなSiOx等の特定のバリアコーティング又は層288は、本明細書の他の箇所に記載されているようにコーティング容器の比較的高いpHの内容物による攻撃の結果として、特にバリアコーティング又は層が内容物と直接接触する場合、6カ月未満で遮蔽改善係数が測定できる程度に減少するという特徴を有することが分かった。この問題には、本明細書で論じられているpH保護コーティング又は層を使って対処できる。
【0096】
SiOxのバリアコーティング又は層288はまた、本明細書の他の箇所で論じられているように、プライマコーティング又は層として機能できる。
【0097】
pH保護コーティング又は層
本発明者らは、SiOxのバリア層又はコーティングはある流体、例えばpHが約5より高い水性組成物により腐食又は溶解することを発見した。気相化学成長法により堆積されるコーティングは非常に薄く、数十~数百ナノメートルの厚さであり得るため、比較的低速の腐食であっても、製品パッケージの所望の有効保存期限より前にバリア層の有効性が消失するか、又は低下する可能性がある。これは特に流体の医薬品組成物にとって問題であるが、これは、それらのうちの多くのpHが、血液及びその他の人間又は動物の体液のpHと同様に、ほぼ7、より広くは5~9の範囲であるからである。医薬品調製物のpHが高いほど、より急速にSiOxコーティングを腐食又は溶解させる。任意選択により、この問題には、バリアコーティング若しくは層288、又はその他のpHの影響を受けやすい材料をpH保護コーティング又は層286で保護することによって対処できる。
【0098】
任意選択により、pH保護コーティング又は層286は、各々、先に定義したSiwOxCyHz(若しくはそれと等価のSiOxCy)又はSiwNxCyHz若しくはそれと等価のSi(NH)xCy)で構成され、それを含み、又は基本的にそれからなることができる。Si:O:C又はSi:N:Cの原子比は、XPS(X線光電子分光計)により特定できる。それゆえ、H原子を考慮すると、pH保護コーティング又は層は、1つの態様において、SiwOxCyHzの化学式、例えばそれと等価のSiOxCyを有していてよく、xは1、xは約0.5~約2.4、yは約~約3、zは約2~約9である。
【0099】
典型的に、化学式SiwOxCyとして表現されるSi、O、及びCの原子比は、幾つかの選択肢として以下のとおりである:
・ Si 100:O 50~150:C 90~200(すなわち、w=1、x=0.5~1.5、y=0.9~2)、
・ Si 100:O 70~130:C 90~200(すなわち、w=1、x=0.7~1.3、y=0.9~2)、
・ Si 100:O 80~120:C 90~150(すなわち、w=1、x=0.8~1.2、y=0.9~1.5)、
・ Si 100:O 90~120:C 90~140(すなわち、w=1、x=0.9~1.2、y=0.9~1.4)、
・ Si 100:O 92~107:C 116~133(すなわち、w=1、x=0.92~1.07、y=1.16~1.33)、又は
・ Si 100: 80~130:C 90~150
【0100】
代替的に、pH保護コーティング又は層は、X線光電子分光計(XPS)により特定される、炭素、酸素、及びケイ素100%に正規化される炭素50%未満及びケイ素25%超の原子濃度を有することができる。代替的に、原子濃度は炭素25~45%、ケイ素25~65%、酸素10~35%である。
【0101】
代替的に、原子濃度は、炭素30~40%、ケイ素32~52%、及び酸素20~27%である。代替的に、原子濃度は、炭素33~37%、ケイ素37~47%、及び酸素22~26%である。
【0102】
pH保護コーティング又は層の厚さは例えば、以下とすることができる:
・ 10nm~1000nm、
・ 代替的に10nm~1000nm、
・ 代替的に10nm~900nm、
・ 代替的に10nm~800nm、
・ 代替的に10nm~700nm、
・ 代替的に10nm~600nm、
・ 代替的に10nm~500nm、
・ 代替的に10nm~400nm、
・ 代替的に10nm~300nm、
・ 代替的に10nm~200nm、
・ 代替的に10nm~100nm、
・ 代替的に10nm~50nm、
・ 代替的に20nm~1000nm、
・ 代替的に50nm~1000nm、
・ 代替的に10nm~1000nm、
・ 代替的に50nm~800nm、
・ 代替的に100nm~700nm、
・ 代替的に300nm~600nm。
【0103】
任意選択により、保護層の、X線光電子分光法(XPS)を用いた特定による、炭素、酸素、及びケイ素100%に正規化される炭素の原子濃度は、有機ケイ素前駆体の原子式の中の炭素の原子濃度より大きくすることができる。例えば、炭素の原子濃度が1~80原子パーセント、代替的に10~70原子パーセント、代替的に20~60原子パーセント、代替的に30~50原子パーセント、代替的に35~45原子パーセント、代替的に37~41原子パーセントだけ増大している実施形態が想定される。
【0104】
任意選択により、pH保護コーティング又は層の炭素対酸素の原子比は、有機ケイ素前駆体と比較して増大させることができ、及び/又は酸素対ケイ素の原子比は有機ケイ素前駆体と比較して減少させることができる。
【0105】
任意選択により、pH保護コーティング又は層の、X線光電子分光法(XPS)を用いた特定による、炭素、酸素、及びケイ素100%に正規化されるケイ素の原子濃度は、供給ガスのための原子式の中のケイ素の原子濃度より低くすることができる。例えば、ケイ素の原子濃度が1~80原子パーセント、代替的に10~70原子パーセント、代替的に20~60原子パーセント、代替的に30~55原子パーセント、代替的に40~50原子パーセント、代替的に42~46原子パーセントだけ減少している実施形態が想定される。
【0106】
他の選択肢として、何れかの実施形態において、有機ケイ素前駆体の和公式と比較して、原子比C:Oを増大させることができ、及び/又はSi:Oの原子比を減少させることのできる和公式により特徴付けられるpH保護コーティング又は層が想定される。
【0107】
pH保護コーティング又は層286は一般に、バリアコーティング又は層288と完成品の中の流体との間に位置付けられる。pH保護コーティング又は層286は、熱可塑性の壁214により支持される。
【0108】
pH保護コーティング又は層286は、任意選択により、バリアコーティング又は層288が、流体218による攻撃の結果として少なくとも実質的に溶解されない状態に少なくとも6カ月間保つことにおいて有効である。
【0109】
pH保護コーティング又は層の濃度は、X線反射率法(XRR)を用いた特定により、1.25~1.65g/cm3、代替的に1.35~1.55g/cm3、代替的に1.4~1.5g/cm3、代替的に1.4~1.5g/cm3、代替的に1.44~1.48g/cm3、とすることができる。任意選択により、有機ケイ素化合物はオクタメチルシクロテトラシロキサンとすることができ、pH保護コーティング又は層は、同じPECVD反応条件下で有機ケイ素化合物としてHMDSOから製作されたpH保護コーティング又は層の濃度より高くすることができる濃度を有することができる。
【0110】
pH保護コーティング又は層は任意選択により、前駆体としてHMDSOを使用するコーティングなしの表面及び/又はバリアコーティング表面と比較して、pH保護コーティング又は層と接触する組成物の化合物又は成分の沈殿を防止又は軽減させることができ、特に、インシュリンの沈殿又は血液凝固を防止又は軽減させることができる。
【0111】
pH保護コーティング又は層の(AFMにより測定される)RMS表面粗さの値は、任意選択により、約5~約9、任意選択により約6~約8、任意選択により約6.4~約7.8とすることができる。pH保護コーティング又は層の、AFMにより測定されるRa表面粗さの値は、約4~約6、任意選択により約4.6~約5.8とすることができる。pH保護コーティング又は層の、AFMにより測定されるRmax表面粗さの値は、約70~約160、任意選択により約84~約142、任意選択により約90~約130とすることができる。
【0112】
pH保護の内側表面の(蒸留水との)接触角は、ASTM D7334-08“Standard Practice for Surface Wettability of Coatings,Substrates and Pigments by Advancing Contact Angle Measurement”に準じたpH保護表面上の水滴のゴニオメータ角度測定を用いた測定により、任意選択により、90°~110°、任意選択により80°~120°、任意選択により70°~130°とすることができる。
【0113】
パシベーション層又はpH保護コーティング又は層286は、任意選択により、以下のように測定される、0.4未満の減衰全反射(ATR)で測定されるOパラメータを示す:
【数1】
【0114】
Oパラメータは、米国特許第8,067,070号明細書の中で定義されており、同特許は最も広い0.4~0.9のOパラメータ値を特許請求している。これは
図6に示されるように、FTIR振幅対波数のグラフの物理的分析から測定して、上記表現の分子と分母を求めことができ、同図は米国特許第8,067,070号明細書の
図5と同じであるが、例外として、1253cm-1での吸光度0.0424及び1000~1100cm-1での最大吸光度0.08に到達するための波数及び吸光度スケールの補間を示す注釈が付けられており、その結果、Oパラメータ0.53が算出される。Oパラメータはまた、デジタル波数対吸光度データからも測定できる。
【0115】
米国特許第8,067,070号明細書は、特許請求されているOパラメータの範囲が優れたpH保護コーティング又は層を提供すると、どちらも非環状シロキサンであるHMDSO及びHMDSNのみを用いた実験に基づいて主張している。驚くべきことに、本発明者らにより、PECVD前駆体が環状シロキサン、例えばOMCTSであると、米国特許第8,067,070号明細書において特許請求されている範囲の外のOパラメータは、OMCTSの使用により、米国特許第8,067,070号明細書においてHMDSOで得られたものよりはるかによい結果が得られることに気付いた。
【0116】
代替的に、この実施形態では、Oパラメータの値は0.1~0.39、又は0.15~0.37、又は0.17~0.35である。
【0117】
本発明のまた別の態様は、上述の合成材料であり、パシベーション層は以下のように測定される、0.7未満の減衰全反射(ATR)でのNパラメータを示す:
【数2】
【0118】
Nパラメータもまた米国特許第8,067,070号明細書に記載されており、Oパラメータと同様に測定されるが、例外として、2つの具体的な波数での強度が使用され、これらの波数の何れも範囲ではない。米国特許第8,078,070号明細書は、0.7~1.6のNパラメータを有するパシベーション層を特許請求している。再び、本発明者らは、前述のように、Nパラメータが0.7より低いpH保護コーティング又は層286を使ってよりよいコーティングを製作した。代替的に、Nパラメータの値は少なくとも0.3、又は0.4~0.6、又は少なくとも0.53である。
【0119】
流体218と直接接触する場合のpH保護コーティング又は層286の腐食、溶解、又は浸出(関係する概念の異なる名称)の速度は、流体218と直接接触する場合のバリアコーティング又は層288の腐食速度より遅い。
【0120】
何れかの実施形態において、50~500nmのpH保護コーティング又は層の厚さが想定され、好ましい範囲は100~200nmである。
【0121】
pH保護コーティング又は層286は、医薬品用パッケージ又はその他の容器210の有効保存期間中にバリアコーティングがバリアとして機能できるのに十分な時間にわたり、バリアコーティング又は層288から流体218を隔離するのに有効である。
【0122】
本発明者らはさらに、pH保護コーティング又は層が実質的な有機成分を有する、ポリシロキサン前駆体から形成されるSiOxCy又はSi(NH)xCyの特定のpH保護コーティング又は層が、流体にさらされたときに急速に腐食せず、実際に、流体が5~9の範囲内でより高いpHを有するときに、よりゆっくりと腐食又は溶解することに気付いた。例えば、pH 8で、オクタメチルシクロテトラシロキサン、すなわちOMCTSで製作されたpH保護コーティング又は層の溶解速度は非常に遅い。したがって、これらのSiOxCy又はSi(NH)xCyのpH保護コーティング又は層は、SiOxのバリア層を覆うために使用でき、医薬品用パッケージの中の流体からそれを保護することにより、バリア層の利点を保持する。保護層は、SiOx層の少なくとも一部に堆積されて、SiOx層を容器内に保管される内容物から保護するが、それがなければ内容物はSiOx層と接触する。
【0123】
SiOxCy又はSi(NH)xCyコーティングはまた、直鎖シロキサン又は直鎖シラザン前駆体、例えばヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)又はテトラメチルジシロキサン(TMDSO)からも堆積させることができる。
【0124】
任意選択により、何れかの実施形態のpH保護コーティング又は層286のFTIR吸光スペクトルでは、通常は約1000~1040cm-1間にあるSi-O-Si対称伸縮ピークの最大振幅と、通常は約1060~約1100cm-1間にあるSi-O-Si非対象伸縮ピークの最大振幅との間の比が0.75より大きい。代替的に、何れかの実施形態において、この比は少なくとも0.8、又は少なくとも0.9、又は少なくとも1.0、又は少なくとも1.1、又は少なくとも1.2とすることができる。代替的に、何れかの実施形態において、この比は最大で1.7、又は最大で1.6、又は最大で1.5、又は最大で1.4、又は最大で1.3とすることができる。
図1~7の本発明の代替的実施形態のように、ここに明記される最小比は何れも、ここに明記される何れの最大比と組み合わせることもできる。
【0125】
任意選択により、何れかの実施形態において、pH保護コーティング又は層286は、薬剤がないと、非油質の外観を有する。この外観は、幾つかの例において、有効なpH保護コーティング又は層を、場合によっては油質の(すなわち、光沢のある)外観を有するように観察されている潤滑層から区別することが観察されている。
【0126】
任意選択により、何れかの実施形態におけるpH保護コーティング又は層286に関して、pH保護コーティング又は層及びバリアコーティングのケイ素の総含有量は、容器からpH 8の試験組成物中に溶解したときに、66ppm未満、又は60ppm未満、又は50ppm未満、又は40ppm未満、又は30ppm未満、又は20ppm未満である。
【0127】
同一装置の中でコーティングされる複数の層を含む場合のプロトコル
任意選択により、何れかの実施形態において、結合又は接着コーティング又は層、任意選択によりバリアコーティング又は層、任意選択によりpH保護層、任意選択により水バリアコーティングは、同一の装置の中で、2以上のコーティングステップ間、例えば接着コーティング又は層とバリアコーティング又は層の堆積間又は、任意選択によりバリアコーティング又は層とpH保護コーティング又は層との間、任意選択によりpH保護コーティングと水バリアコーティングとの間で、真空を中断せずに堆積される。プロセス中、内部空間が部分真空に引かれる。内部空間内の部分真空が中断されないままにして、SiOxCyの結合コーティング又は層が結合PECVDコーティングプロセスによって堆積される。結合PECVDコーティングプロセスは、内部空間内にプラズマを発生させるのに十分な電力を印加しながら、コーティングの形成に適したガスを供給することによって行われる。ガス供給には、直鎖シロキサン前駆体、任意選択により酸素及び、任意選択により不活性ガス希釈剤が含まれる。x及びyの値は、X線光電子分光法(XPS)により特定される。すると、内部空間内の部分真空を中断しないまま、プラズマを消沈させる。その結果、xが約0.5~約2.4、yが約0.6~約3のSiOxCyの結合コーティング又は層が内側表面上に生成される。
【0128】
プロセスの後の段階で、内部空間内の部分真空を中断しないまま、バリアコーティング又は層がバリアPECVDコーティングプロセスにより堆積される。バリアPECVDコーティングプロセスは、内部空間内にプラズマを発生させるのに十分な電力を印加しながら、ガスを供給することによって行われる。ガス供給には、直鎖シロキサン前駆体及び酸素が含まれる。その結果、XPSを用いた特定によりxが1.5~2.9のSiOxのバリアコーティング又は層が結合コーティング又は層と内部空間との間に生成される。
【0129】
その後、任意選択により、内部空間内の部分真空が中断されないままにしながら、プラズマが消沈される。
【0130】
後に、また別の選択肢として、SiOxCyのpH保護コーティング又は層を堆積できる。この化学式でも、xは約0.5~約2.4、yは約0.6~約3であり、各々、XPSにより特定される。pH保護コーティング又は層は任意選択により、バリアコーティング又は層と内部空間との間にpH保護PECVDコーティングプロセスによって堆積される。このプロセスは、内部空間内にプラズマを発生させるのに十分な電力を印加しながら、直鎖シロキサン前駆体、任意選択により酸素、及び任意選択により不活性ガス希釈剤を含むガスを供給することを含む。
【0131】
プロセス中の後の段階で、部分真空を中断しないまま、水バリアコーティング又は層が水バリアコーティングPECVDプロセスによって堆積される。水バリアPECVDコーティングプロセスは、プラズマを発生させるのに十分な電力を印加しながら、ガスを供給することによって行われる。ガス供給には、フルオロカーボン及び/又は炭化水素前駆体が含まれる。その結果、水バリアコーティング又は層がpH保護コーティングの上に生成される。
【0132】
任意選択により、何れかの実施形態において、結合コーティング又は層、バリアコーティング又は層、又はpH保護コーティング又は層、又は水バリアコーティング、又はこれらの2つ以上の何れかの組合せを堆積させるPECVDプロセスは、パルス状電力(代替的に、同じ概念は本明細書において「エネルギー」と呼ばれる)を印加して、内部空間内にプラズマを発生させることによって行われる。
【0133】
代替的に、結合PECVDコーティングプロセス、又はバリアPECVDコーティングプロセス、又はpH保護PECVDコーティングプロセス、又は水バリアコーティング、又はこれらの2つ以上の何れかの組合せは、連続的電力を印加して内部空間内にプラズマを発生させることによって実行できる。
【0134】
任意選択により、例えば堆積ステップ全体を通じて、磁場を容器の付近に印加しながら、他方で電磁エネルギーを印加することができる。磁場は、概して円筒形の内面上のガスバリアコーティングの平均厚さの標準偏差を縮小するのに有効な条件下で印加される。磁場の印加は、コーティングの均一性を改善するかもしれない。関係する装置及び方法は、国際公開第2014085348A2号パンフレット、国際公開第2014085348A2号パンフレットに見られ、これらの全体を参照によって本願に援用する。
【0135】
三層コーティングパラメータ
1mLの容器及び5mLのバイアルにこれまで使用されてきた具体的なコーティングパラメータの例は、PECVD三層プロセス固有パラメータ表2(1mLバイアル)及び3(5mLバイアル)に示されている。
【0136】
【0137】
【0138】
上述の1mL容器に堆積されるpH保護コーティング又は層に関するOパラメータ及びNパラメータは、それぞれ0.34及び0.55である。
【0139】
5mL容器に堆積されるpH保護コーティング又は層に関するOパラメータ及びNパラメータは、それぞれ0.24及び0.63である。
【0140】
プロセスを実行するために、基本的に熱可塑性ポリマ材料からなり、内部空間212を画定する壁214を含む容器210が提供される。任意選択により、何れかの実施形態において、壁はポリエステル、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリオレフィン、環状オレフィンポリマ(COP)、環状オレフィンコポリマ(COC)、ポリプロピレン(PP)、又はポリカーボネート、好ましくはCOPを含む。任意選択により、何れかの実施形態において、容器内部空間の容量は2~12mL、任意選択により3~5mL、任意選択により8~10mLである。
【0141】
壁214は、内部空間に面する内側表面、外側表面を有する。
【0142】
内部空間が部分真空に引かれる。内部空間内で部分真空が中断されないままにしながら、SiOxCyの結合コーティング又は層289が結合PECVDプロセスによって堆積され、これは、内部空間内にプラズマを発生させるのに十分な電力(代替的に、本明細書において同じ概念は「エネルギー」と呼ばれる)を印加しながら、直鎖シロキサン前駆体、任意選択により酸素及び、任意選択により不活性ガス希釈剤を含むガスを供給することを含む。x及びyの値は、X線光電子分光法(XPS)により特定される。
【0143】
すると、内部空間内の部分真空を中断しないまま、プラズマが消沈され、これにはSiOxCyの結合コーティング又は層の堆積を停止する効果がある。任意選択により、何れかの実施形態において、結合PECVDコーティングプロセスで使用されるプラズマが消沈された後、且つ、バリアPECVDコーティングプロセスが開始される前に、結合PECVDコーティングプロセスで採用されたガスの供給を停止できる。その結果、xが約0.5~約2.4、yが約0.6~約3のSiOxCyの結合コーティング又は層が内側表面上に生成される。
【0144】
プロセスの後の段階で、内部空間内の部分真空を中断しないまま、バリアコーティング又は層288がバリアPECVDコーティングプロセスにより堆積され、これは、内部空間内にプラズマを発生させるのに十分な電力(代替的に、本明細書において同じ概念は「エネルギー」と呼ばれる)を印加しながら、直鎖シロキサン前駆体及び酸素を含むガスを供給することを含む。
【0145】
任意選択により、何れかの実施形態において、1-Upコーティング機の中でバリアコーティング又は層を堆積させるために内部空間内にプラズマを発生させるべく提供される電力は30~80ワット、任意選択により40~80ワット、任意選択により50~80ワット、任意選択により55~65ワットであり、4-Upコーティング機においては任意選択により175~200ワット、任意選択により180~190ワットである。
【0146】
任意選択により、何れかの実施形態において、バリアコーティング又は層を堆積させるために発生されるプラズマは、12~20秒間、任意選択により15~20秒間印加される。
【0147】
任意選択により、何れかの実施形態において、バリアコーティング又は層は、0.5~2sccm、任意選択により0.7~1.3sccmの、任意選択によりHMDSOのシロキサン前駆体供給量を用いて堆積される。
【0148】
任意選択により、何れかの実施形態において、バリアコーティング又は層は、0.5~3.5トール、任意選択により1~2.5トールの圧力を用いて堆積される。
【0149】
任意選択により、バリアコーティング又は層を堆積させた後、内部空間内で部分真空を中断しないまま、プラズマが消沈され、これにはバリアコーティング又は層の堆積を停止する効果がある。任意選択により、何れかの実施形態において、バリアPECVDコーティングプロセスで使用されるプラズマが消沈された後、且つ、任意選択によるpH保護PECVDコーティングプロセスが使用される場合はそれが開始される前に、バリアPECVDコーティングプロセスで採用されたガスの供給を停止できる。バリアコーティングの結果として、結合コーティング又は層と内部空間との間に、XPSを用いた特定により、xが1.5~2.9のSiOxのバリアコーティング又は層が生成される。
【0150】
すると、任意選択により、内部空間内の部分真空が中断されないまま、SiOxCyのpH保護コーティング又は層286が後でpH保護PECVDプロセスによって堆積される。この化学式で、xは約0.5~約2.4、yは約0.6~約3であり、各々、XPSにより特定される。pH保護コーティング又は層は任意選択により、バリアコーティング又は層と内部空間との間にpH保護PECVDコーティングプロセスによって堆積される。pH保護PECVDコーティングプロセスは、内部空間内にプラズマを発生させるのに十分な電力(代替的に、本明細書において同じ概念は「エネルギー」と呼ばれる)を印加しながら、直鎖シロキサン前駆体、任意選択により酸素、及び任意選択により不活性ガス希釈剤を含むガスを供給することを含む。
【0151】
驚くべきことに、この加工の結果として、このプロセスにより製作されたコーティング容器210は、同じプロセスであるが、例外として結合コーティング又は層の堆積とバリアコーティング又は層の堆積との間で内部空間内の部分真空を中断させて製作された同等の容器210より、内部空間へのガス透過速度定数が低い。
【0152】
驚くべきことに、この加工の結果として、このプロセスにより製作されたコーティング容器210は、同じプロセスであるが、例外として結合コーティング又は層の堆積とバリアコーティング又は層の堆積との間で内部空間内の部分真空を中断させて製作された同等の容器210より、内部空間へのガス透過速度定数が低い。
【0153】
代替的に、任意選択的ステップを含むこのプロセスにより製作されたコーティング容器は、同じプロセスであるが、例外として結合コーティング又は層の堆積とバリアコーティング又は層の堆積との間で内部空間内の部分真空を中断させ、またバリアコーティング又は層及びpH保護コーティング又は層の堆積間で内部空間内の部分真空を中断させて製作された同等の容器より、内部空間へのガス透過速度定数が低い。任意選択により、何れかの実施形態において、コーティング容器210の酸素透過速度定数(OPRC)は0.002~0.1、任意選択により0.01~0.1、任意選択により0.14~0.05、任意選択により0.002~0.02、任意選択により0.003~0.12μモル/日/cm2/atmである。
【0154】
このプロセスの他の例は、6mLのCOPバイアルをコーティングすることである。本発明のこの実施形態に記載したような三層コーティングは、各層間で単独の有機ケイ素モノマ(例えば、HMDSO)と酸素の流れを調整し、また、PECVD生成電力を変化させることによって(何れの2つの層間でも真空を中断することなく)適用される。
【0155】
6mL COPバイアルが容器ホルダにセットされ、密閉され、容器が真空に引かれる。バイアルは、保管を容易にし、他方で流体を後述のように収容するために使用される。血液サンプル採取管が使用される場合、比例的な結果が想定される。真空に引いた後、前駆体、酸素、及びアルゴンのガス供給が導入され、その後、「プラズマ遅延」の終了時に、13.56MHzの連続(すなわち、パルス状でない)RF電源がオンにされて、結合コーティング又は層が形成される。その後、電源がオフにされ、ガス流量が調整され、プラズマ遅延の後、第二の層、すなわちSiOxバリアコーティング又は層のために電源がオンにされる。その後、これが第三の層についても繰り返され、その後、ガスが切断され、真空シールが開封されて、容器が容器ホルダから取り出される。層は、結合層、その後バリア層、その後pH保護層の順序で堆積される。プロセス設定の例は下表に示されるとおりである。
【0156】
【0157】
多くの用途において、コンテナの熱可塑性の壁は、水蒸気と、酸素/窒素ガスを含む大気ガスの両方に対するバリアとなる必要がある。しかしながら、ポリマ基板上の水蒸気のためのバリアを作ることは、酸素又は窒素のためのバリアを作ることとは異なる。
【0158】
フルオロカーボン/炭化水素前駆体を使って製作される本発明の水蒸気バリアコーティングは、主としてO2/N2バリアであるSiOx及びSiOxCyのコーティングとは異なるが、水蒸気バリアとしてははるかに効果が低い。O2ガスバリアコーティングには、SiOxがより頻繁に使用される。
【0159】
水分子は極性分子であり、他方で、酸素及び窒素分子等の大気ガス浸透物は非極性である。水分子等の極性分子は、双極子-双極子相互作用、特に水素結合を通じて他の極性分子を引き付ける。水分子とSiOx/SiOxCyコーティング内の酸素含有種との間の水素結合によって、これらのコーティングへの水分子の浸透がより容易になる。酸素及び窒素分子は非極性分子であり、これらの種類のコーティングとは相互作用しない。これは、SiOx/SiOxCyコーティングがO2にとって良好なバリアであるが、水蒸気にとっては有効でない理由となり得る。
【0160】
理論に限定されることなく、本発明の水蒸気バリアコーティングは、コーティングを通じて水分子の浸透を容易にする水分子との強力な水素結合を形成する酸素原子を含まない。水蒸気バリアコーティング内の非極性の高い化学基は、その浸透能力を制限する疎水性相互作用により水分子をはじく。したがって、SiOx/SiOxCyコーティングと比較して、水蒸気バリアコーティングは高い水蒸気遮蔽特性を示す。
【0161】
本発明は、遮水表面を有する製品と、遮水及び酸素遮蔽特性の両方を同時に有する製品を提供する。例えば、PETは優れたO2遮蔽特性を示すが、水蒸気遮蔽特性は弱い。本発明の水蒸気バリアコーティングで被覆されたPET製採血管は、高い水蒸気遮蔽特性を示す。
【0162】
水蒸気透過速度の試験プロトコル
本明細書に記載の手順は、密閉可能なあらゆる容器又はパッケージに関する水分進入を評価するために使用される。
・ ツールと設備
〇 乾燥剤(又は評価対象物質)
〇 クリンパ/アルミニウムクリンプ/プランジャ/ストッパ
〇 環境室
〇 バイアル又はシリンジ
〇 化学天秤
〇 ニトリルグローブ
・ 手順
〇 シャーピ油性ペンを使って、コンテナに直接表示する
〇 乾燥剤又は評価対象物質を各コンテナに入れる
〇 コンテナを密閉する
〇 少なくとも4位天秤でコンテナを計量し、時間0としてその重量を記録する
〇 計量したコンテナを適当な環境室に置く
〇 試験手順書/プロトコル/DBに明示されたタイミングでコンテナを環境室から取り出す
〇 プロトコル/DB/試験手順書に別段の明示がないかぎり、コンテナを少なくとも10分間、室温で平衡化させる
〇 コンテナを計量し、時系列で重量を記録する
〇 コンテナを環境室に戻す
〇 コンテナの初期重量から最終重量を差し引き、ミリグラムに変換することにより、コンテナ内の水の量を計算する
〇 重量を環境室に入れていた日数で割ったものとして、水分進入速度を計算する
【実施例】
【0163】
実施例1.水バリアコーティングで被覆したポリプロピレン表面の接触角
この実験は、本願の水バリアコーティングがポリマ表面の水接触角にどのように影響を与えるかを評価するために行った。8つのポリプロピレン平坦シートサンプルを提供した。すべてのサンプルを、本明細書に記載のプロトコルに従って水バリアコーティングで被覆した。コーティング前駆体はC4F8であり、Arガスと混合した。
【0164】
コーティングが完了した後、各サンプル表面について、ASTM D7334-08“Standard Practice for Surface Wettability of Coatings,Substrates and Pigments by Advancing Contact Angle Measurement”に準じたサンプル表面上の水滴のゴニオメータ角度測定により水接触角の値を得た。結果を下表に示し、画像を
図3に表示する。結果は、水バリアコーティング表面がコーティングなしの表面より一貫して大きい水接触角を有することを示している。
【0165】
この例では、コーティングなしのポリマ表面の接触角は<90度であり、したがって、水は表面をぬらし、その上で広がる。水バリアコーティングの水バリアコーティングは、表面の接触角を>90度の角度まで増大させ、したがって、水はコーティング表面上にビードとしてとどまり、表面上で広がらない。これは、容器の水蒸気透過速度を低下させるのに役立ち得る。
【0166】
【0167】
実施例2.ポリプロピレン管体のコーティングなしの、及び水バリアコーティングで被覆された外面のFTIRスペクトルの比較
ポリプロピレン管体Aをその外面において、「水バリアコーティング」の項に記載した方法に従って本発明の水バリアコーティングで被覆し、使用した前駆体はC4F8であった。他のポリプロピレン管体Bをその外面において、「水バリアコーティング」の項に記載した方法に従って本発明の水バリアコーティングで被覆し、使用した前駆体はC3F6であった。コーティングが完了した後、コーティングなしのポリプロピレン管体(C)、前駆体としてC4F8を使用して水バリアコーティングで被覆されたポリプロピレン管体(A)、及び前駆体としてC3F6を使用して水バリアコーティングで被覆されたポリプロピレン管体(B)の外面のFTIRスペクトルを撮影した。3つのFTIRを
図4に表示する。FTIRスペクトルは、コーティングなしの表面と本発明の水バリアコーティングで被覆した表面がはっきりと異なることを明確に示している。
【0168】
実施例3.10mL COPバイアルの内側表面の水バリアコーティングのFTIRスペクトル
10mL COPバイアルをその内側表面において、本明細書に記載の方法に従って本発明の水バリアコーティングで被覆し、使用した前駆体はC4F8であった。コーティングパラメータは以下のとおりであった:
〇 電源周波数13.56MHz
〇 前駆体:オクタフルオロシクロブタン(C4F8)
〇 ガス流量:5sccm
〇 搬送ガス流量:10sccm
〇 基準圧力:20mトール
〇 コーティング圧力:90mトール
〇 コーティング時間:5秒
【0169】
コーティングが完了した後、コーティング表面についてFTIRスペクトルを得た。FTIRスペクトルを
図4に示し、ピーク値及び割当てを
図5に示す。
【0170】
実施例4.水蒸気バリアコーティング(WVBC)の水蒸気透過速度(WVTR)の調査及び水蒸気バリアコーティングと三層コーティングの相加作用
この実験は、水蒸気バリアコーティング及び三層コーティングの水蒸気透過速度及び累積的効果を評価するために行った。
【0171】
各々が200のCOPバイアルを含む3つの集合の容器を提供した。第一の集合のバイアルは、その内側表面上において、本明細書に記載の方法に従って水蒸気バリアコーティングのみで被覆し、使用した前駆体はC4F8であった。コーティングパラメータは以下のとおりであった:
〇 電源周波数13.56MHz
〇 前駆体:オクタフルオロシクロブタン(C4F8)
〇 ガス流量:5sccm
〇 搬送ガス流量:10sccm
〇 基準圧力:20mトール
〇 コーティング圧力:90mトール
〇 コーティング時間:5秒
【0172】
第二の集合のバイアルは被覆しなかった。第三の集合のバイアルは、その内側表面において、本明細書において水蒸気バリアコーティング及び三層コーティングについて記載されたものと同じ方法を用いて、水蒸気バリアコーティング及び、その後、水蒸気バリアコーティングの上の三層コーティングで被覆した。
【0173】
コーティングが完了した後、各バイアルについてWVTRを測定した。USP Physical Tests、具体的にはUSP総則<671>「容器-性能試験法」及び、より具体的には「包装システムのための水蒸気透過試験方法」の項に従って、バイアルの試験は製品全体として、ストッパを取付けて行った。各バイアル集合のWVTR及びBIFの平均値を計算した。算出された平均WVTR及びBIFの結果を下表及び
図6に示す。結果は、1)本発明の水蒸気バリアコーティングで被覆した容器は、コーティングなしの容器よりWVTRが低いこと、2)水蒸気バリアコーティング及び三層コーティングで被覆され、三層コーティングが水蒸気バリアコーティングの上にある容器は、水蒸気バリアコーティングのみで被覆された容器よりWVTRが低いことを実証している。水蒸気バリアコーティングと三層コーティングの両方で被覆された容器のBIFは、水蒸気バリアコーティングのみで被覆された容器より良好である。水蒸気バリアコーティングと三層コーティングとの間の相加効果は驚くべき発見であり、それは、典型的に三層コーティングはWVTRにほとんど影響を与えないからである。
【0174】