(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-20
(45)【発行日】2025-01-06
(54)【発明の名称】2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール系無溶媒組成物
(51)【国際特許分類】
C09D 201/00 20060101AFI20241223BHJP
C09D 5/02 20060101ALI20241223BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20241223BHJP
C09K 3/18 20060101ALI20241223BHJP
【FI】
C09D201/00
C09D5/02
C09D7/63
C09K3/18
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021014628
(22)【出願日】2021-02-01
【審査請求日】2023-12-05
(32)【優先日】2020-02-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】519414848
【氏名又は名称】エボニック オペレーションズ ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Evonik Operations GmbH
【住所又は居所原語表記】Rellinghauser Strasse 1-11, 45128 Essen, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】弁理士法人あしたば国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ロジャー ライナルツ
(72)【発明者】
【氏名】ケネス マイケル ペック
(72)【発明者】
【氏名】ペトラ ヒンリクス
【審査官】桜田 政美
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-183548(JP,A)
【文献】特表2005-537285(JP,A)
【文献】特表2023-528007(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 201/00
C09D 5/02
C09D 7/63
C09K 3/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
- 40重量%~80重量%の2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール、
- 0.5重量%~15重量%の2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオールのエトキシレート、
- 35重量%~55重量%のポリエチレングリコール、および
- 1.0重量%~15重量%の水
を含む組成物であり、
前記各成分量は、合計で100重量%になり、かつ前記組成物に対する量であることを特徴とする組成物。
【請求項2】
前記2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオールの濃度が、前記組成物に対し、
41~70重量%であることを特徴とする、請求項
1記載の組成物。
【請求項3】
前記ポリエチレングリコールのモル質量が200g/モル~1,000g/モ
ルであることを特徴とする、請求項1
または請求項2記載の組成物。
【請求項4】
前記2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオールのエトキシレートが、1モル~10モ
ルのエチレンオキシドを含むことを特徴とする、請求項1~請求項
3のいずれか一項記載の組成物。
【請求項5】
コーティング組成物中での湿潤剤、消泡剤または分散助剤としての、請求項1~請求項
4のいずれか一項記載の組成物の使用。
【請求項6】
ラッカー、塗料、インク、ならびに、農業、建築材料、植物防疫、繊維仕上げ、疎水化と電気めっき、ラテックス浸漬法、金属加工液、およびプリント回路基板コーティングの分野における補助剤の配合における、請求項1~請求項
4のいずれか一項記載の組成物の使用。
【請求項7】
以下の工程:
a.ポリエチレングリコールを供給する工程、
b.水を添加する工程、
c.2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオールのエトキシレートを添加する工程、および
d.溶融した2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオールを添加する工程含む、請求項1~請求項
4のいずれか一項記載の組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性の溶媒含有システムの表面張力を低下させるための、2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール系無溶媒組成物、その使用、およびその製造に関する。
【背景技術】
【0002】
表面張力が低下すると基材の濡れ性の向上に影響するので、表面張力を低下させる能力は、水系配合物の適用において非常に重要である。水系組成物の例には、コーティング、インク、湿潤剤、洗浄組成物、および農業用配合物がある。水系システムの表面張力の低下は、一般に、界面活性物質を添加することによって達成され、その結果、表面の濡れ性が改善し、欠陥が少なくなり、レベリング性が向上する。システムが静止している場合は、静的表面張力を低下させることが重要である。動的表面張力は、新しく作製された表面に配向する界面活性物質の能力の尺度を提供する。
【0003】
2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオールなどのアセチレングリコール系界面活性添加剤は、その優れた静的および動的表面張力低減能力で知られており、従来の非イオン性および陰イオン性界面活性添加剤のマイナスの特徴をほとんど持たない。
【0004】
添加剤である2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオールは、水溶性および揮発性が低いワックス状固体であり、例えば、商品名SURFYNOL(登録商標)104(エボニック社製)で入手可能である。したがって、当該添加剤を例えば湿潤剤として使用する前には、それを溶融し、および/または、さらに約50%の好ましい使用濃度で有機溶媒に溶かさなければならない。これらの追加工程は、塗料業界のユーザーにとって、より多くの労力とコストがかかることを意味する。
【0005】
これらの追加工程を回避するために、2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオールを適切な有機溶媒(例:2-エチルヘキサノール、2-ブトキシエタノール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコール、プロピレングリコール、または2-プロパノール)に望ましい溶液濃度50%または75%で溶かした製品がすでに市場に出回っている。既知の商品名は、Surfynol(登録商標)104AまたはSURFYNOL(登録商標)104Eなどである。
【0006】
コーティング組成物または配合物における有機溶媒の利用については、将来、著しい制限が予想される。これらは、とりわけ、コーティング材料からのVOC(揮発性有機化合物)排出の制限、ならびに揮発性および半揮発性化合物(VOCおよびSVOC)による加工業者およびユーザーへの健康リスクの低減に関する種々の国内および国際ガイドライン(欧州Decopaintガイドライン 2004/42/CE)に起因する(ドイツ建材基準(AgBB)、またはドイツサステナブル建築協会(DGNB)、または建築物環境性能総合評価システム(LEED)を参照)。
【0007】
特許文献1は、2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオールおよびアルコールアルコキシレート、またはエトキシル化2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオールおよびアルコールアルコキシレートと、エチレングリコールとを含む水溶性湿潤剤組成物の比較試験を開示している(表1)が、貯蔵安定性に関する情報はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、本発明の目的は、とりわけ、類似の組成物と比較して揮発性有機化合物を必須的に含まず、かつ貯蔵安定性である、湿潤剤および/または消泡剤としての組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
したがって、この目的を達成するためには、以下の成分:
- 2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール、
- そのエトキシレート、および
- ポリエチレングリコール
を含む無溶媒組成物であり、
前記組成物が水を含み、
前記2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオールの濃度が、前記組成物に対し、40重量%を超えることを特徴とする無溶媒組成物が提案される。
【0011】
本明細書の文脈において、無溶剤とは、欧州Decopaintガイドライン 2004/42/CEの要件に準拠する揮発性有機化合物を含む溶媒が使用されないことを意味する。
【0012】
本発明による組成物は、好ましくは、2-エチルヘキサノール、2-ブトキシエタノール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコール、プロピレングリコール、または2-プロパノールなどの有機溶媒を含まない。
【0013】
したがって、驚くべきことだが、有機溶媒の使用を省くことができるような方法で、2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオールを水に溶かすことができた。
【0014】
全く予想外であるが、本発明による組成物は、解凍後の極端な温度変動下でさえ、貯蔵安定性試験において相分離を示さない。
【0015】
貯蔵安定性試験中に形成された結晶はすべて、容易に再度組み入れることができる(すなわち、高い剪断力および/または加熱なしに再度組み入れることができる)。
【0016】
本発明による組成物は、好ましくは、2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオールの濃度が、前記組成物に対し、80重量%以下、好ましくは70重量%以下、特に好ましくは60重量%以下である。
【0017】
また、この2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオールの濃度を調整できることも全く予想外であった。配合を変更することなく、ユーザーは、本発明による無溶媒組成物を使用することができる。
【0018】
ポリエチレングリコールは、200g/モル~1,000g/モル、好ましくは300g/モル~800g/モル、特に好ましくは400g/モル~600g/モルのモル質量を有することが好ましい。
【0019】
本発明による組成物は、2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオールのエトキシレートと、1モル~10モル、好ましくは3モル~10モルのエチレンオキシドを含むことが好ましい。これらは、例えば、SURFYNOL(登録商標)465、SURFYNOL(登録商標)440、またはSURFYNOL(登録商標)420(エボニック社製)の商品名で知られている。
【0020】
2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオールのエトキシル化誘導体またはエトキシレートは、同義語として使用される。
【0021】
本発明による組成物の好ましい実施形態によれば、前記組成物は、
- 40重量%~80重量%、好ましくは41重量%~70重量%、特に好ましくは42重量%~60重量%の2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール、
- 0.5重量%~15重量%、好ましくは1.0重量%~10.0重量%、特に好ましくは2.0重量%~8.0重量%の2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオールのエトキシレート、
- 35重量%~55重量%、好ましくは38重量%~50重量%、特に好ましくは40重量%~45重量%のポリエチレングリコール、および
- 1.0重量%~15重量%、好ましくは2.0重量%~12.0重量%、特に好ましくは3.0重量%~10.0重量%の水
を含み、
前記各成分量は、合計で100重量%になり、かつ前記組成物に対する量である。
【0022】
本発明はさらに、好ましくは、本発明による組成物の、コーティング組成物中の湿潤剤、消泡剤または分散助剤としての使用に関する。
【0023】
コーティング組成物は、ラッカー、塗料およびインクの分野で使用されることができる。
【0024】
本発明による組成物は、農業、建築材料、植物防疫、繊維仕上げ、疎水化と電気めっき、ラテックス浸漬法、金属加工液、およびプリント回路基板コーティングの分野における補助剤の配合に使用されることが好ましい。
【0025】
本発明はまた、以下の工程:
a.ポリエチレングリコールを供給する工程、
b.水を添加する工程、
c.2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオールのエトキシレートを添加する工程、および
d.溶融した2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオールを添加する工程
含む、組成物の製造方法にも関する。
【0026】
これらの工程に従うことにより、2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオールが、例えばそれが容器に接着することによって、本発明による組成物中の濃度が低下することを恐れることなく、よりよく組み入れられることを確立することができた。本発明による組成物の工業生産における、2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオールの減少は、実験室規模よりもはるかに深刻である。
【0027】
したがって、本発明による組成物は多くの利点を提供する。それは、貯蔵安定性があり、かつ水性配合物や水に容易に組み入れることができる。それから作製されるシステムは、表面張力が低く、発泡挙動が少ない。
【0028】
揮発性有機化合物を含む溶媒を含まないことに関して、本発明による組成物は、VOC低減および/または準VOCフリー組成物を意味する。
【0029】
以下の実施例は、単に本発明を当業者に説明するために提示されたものであり、特許請求の範囲に記載された主題事項や特許請求の範囲に記載された方法を何ら制限するものではない。
【実施例】
【0030】
器具
-Binder社製循環空気オーブン
-VMA Getzmann社製溶解機/歯車ディスク、CA20M1型
【0031】
1.組成物の調製
まず、SURFYNOL(登録商標)104(Evonik社)を60℃で循環空気オーブンで溶解した。PEG 400(Dow社)を、最初に180mL容量プラスチックビーカーに入れた。毎分500回転(rpm)で攪拌しながら水をゆっくりと加え、歯車ディスク(φ4cm)で攪拌し、さらに5分間攪拌した。続いて、SURFYNOL(登録商標)440(Evonik社)を攪拌しながら加え、最後に、事前に溶融したSURFYNOL(登録商標)104を加えた。次に、当該組成物を500rpmでさらに15分間攪拌した。
成分の重量%は、表1で明らかにされている。
【0032】
2.貯蔵安定性実験
本発明による組成物の貯蔵安定性を試験するために、多様な実験を行った。この目的のために、組成物の貯蔵に有効と見込まれるさまざまな条件をシミュレートした。
2a)室温
室温で1日および1週間貯蔵した後における、調製した組成物の目視評価を行った。目視の結果を表1に示す。
- 本発明の組成物Z1およびZ2は、1日後および1週間後、透明で液体であった。
- 比較組成物VZ1およびVZ2は、SURFYNOL(登録商標)104の水への低い溶解度を示し、これは、先行技術から知られている。
- 比較組成物VZ3~VZ6は、SURFYNOL(登録商標)104が40重量%を超える濃度でPEG 400に不溶性であることを示している。
- 比較組成物VZ7およびVZ8は、水の使用により液体状態に変化させることができた。ただし、VZ8は相分離を示し、1週間後部分的に固体になった。VZ7は、SURFYNOL(登録商標)440を添加しなくても、貯蔵安定性があるように見えたが、さらなる実験によって反証された(以下を参照)。
2b)-5℃で1~4日間、その後5時間解凍
作製した組成物を-5℃で貯蔵し、いずれの場合も1日後に目視で評価し、次いで、4日後に5時間解凍し、最後に評価した。結果を表2に示す。
この実験では、2a)で説明したように、「穏やかな」条件下に適すると見なされたため、VZ1、VZ2、VZ7およびZ1、Z2のみが選択された。他の比較組成物については、貯蔵安定性がなかったので、考慮しなかった。
VZ7が、-5℃の温度で短期間(4日間)安定しなかったことが示された。
本発明の組成物Z1およびZ2ならびにVZ1は、これらの条件下で安定していた。
2c)極端な条件下
作製した組成物を、-20℃で16時間のサイクルで4日間貯蔵し、次いで、室温(RT)で8時間解凍した。各工程の後、それらを目視で検査した。結果を表3に示す。
この実験では、2b)と同じ組成を選択した。
本発明の組成物Z1およびZ2は、これらの極端な条件下でさえ安定していることが実証された。VZ1の場合、ユーザーは組成物を解凍する必要があった。本発明の組成物の場合、解凍を待つ時間は必要ない。したがって、ユーザーは時間とコストを節約できる。
【表1】
【表2】
【表3】