(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-20
(45)【発行日】2025-01-06
(54)【発明の名称】光学ガラス及び光学素子
(51)【国際特許分類】
C03C 3/068 20060101AFI20241223BHJP
C03C 3/064 20060101ALI20241223BHJP
C03C 3/062 20060101ALI20241223BHJP
C03C 3/155 20060101ALI20241223BHJP
G02B 1/00 20060101ALI20241223BHJP
【FI】
C03C3/068
C03C3/064
C03C3/062
C03C3/155
G02B1/00
(21)【出願番号】P 2021038023
(22)【出願日】2021-03-10
【審査請求日】2024-01-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000128784
【氏名又は名称】株式会社オハラ
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【氏名又は名称】右田 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100160864
【氏名又は名称】高橋 政治
(74)【代理人】
【識別番号】100158698
【氏名又は名称】水野 基樹
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健介
【審査官】山本 佳
(56)【参考文献】
【文献】特開昭59-008637(JP,A)
【文献】特開昭60-264342(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0106174(US,A1)
【文献】特開2017-043498(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 1/00 - 14/00
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物基準の質量%で、
Ln
2O
3成分
の含有量の和が10.0%以下(
式中、LnはLa、Y、Gd、Ybからなる群より選択される1種以上)、
ZrO
2
成分が7.0%以下、
RO成分の含有量の和が23.0%以上(式中、RはMg、Ca、Sr、Baからなる群より選択される1種以上)、
質量比TiO
2/ROが0.5以上1.5以下
、
質量和Nb
2O
5+WO
3+Bi
2O
3が
3.0%以上18.0%以下、
質量比BaO/ROが0.30以上0.95以下
であり、
比重をd、屈折率をn
dとしたときに、
d≦6.17×n
d-7.694の関係を満たす
光学ガラス。
【請求項2】
酸化物基準の質量%で、
Nb
2O
5成分 0~18.0%、
WO
3成分 0~15.0%、
La
2O
3成分 0~10.0%
である請求項1に記載の光学ガラス。
【請求項3】
請求項
1または2に記載の光学ガラスからなる光学素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学ガラス、光学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
光学ガラス、光学素子は、異なる光学領域のレンズを組み合わせてカメラや映像装置などの光学特性を向上させる用途や、光学機器中に搭載し様々な光学設計を実現する用途などに用いることができる。
特に光学ガラス、光学素子を軽量化することは、光学機器本体やモジュール等のコンパクト化や軽量化に繋がる。例えば、デジタルカメラ等の撮影機器においては複数のレンズを組み合わせることで色収差補正を図ることが可能であり、またズーム機能やオートフォーカス機能のあるカメラでは光学素子が軽量なことによってアクチュエータとレンズ間の動力の伝達がスムーズになり、パフォーマンスを高めることができる。
【0003】
他方で、屈折率が高いガラスとしては、特許文献1に記載のLa系のガラスや、特許文献2に記載のP-Nb系のガラスが知られており、特許文献3及び特許文献4には光学機器を軽量化することに着目した発明が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-035037号公報
【文献】特開2012-171848号公報
【文献】WO2018/235725号公報
【文献】特開2006-219365号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1で開示されたガラスでは、他の成分と比べて比重が大きい希土類酸化物を多量に含んでおり、特許文献2では高屈折率作用がある成分の中でも比重を大きくしてしまうNbの含有量が多い。
屈折率を高める作用が大きい成分としては、希土類酸化物やTiO2成分、Nb2O5成分、WO3成分、Bi2O3成分があげられる。
【0006】
屈折率の高い光学ガラスを得ようとした場合、前記成分の含有量を増やす必要があるが、前記成分は他の成分と比べた時にいずれも比重が大きい成分である。前記成分の中では、TiO2成分が最も比重の小さい成分であるが、TiO2成分は比重が小さい一方で、安定性を損ない失透を引き起こしやすい成分でもある。
【0007】
ガラスを作製するうえで、屈折率を高める成分の含有量を増やし屈折率が高まるほど、比重は大きくなりやすい傾向にある。
特許文献3で開示されたガラスは屈折率の大きさに対し、比重が大きいため光学ガラスの軽量化が十分であるとは言えなかった。さらに特許文献4で開示されたガラスは、屈折率(nd)をY、ガラス比重をXとしたとき、Y≧0.175X+1.137を満たすことで、屈折率に対し低比重なガラスを得ることを目的としている。
【0008】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、屈折率に対し低比重でありながら、安定性の高いガラスを得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決するために、鋭意試験研究を重ねた結果、希土類酸化物とNb2O5成分、WO3成分、Bi2O3成分の含有量を抑え、TiO2成分とRO成分の含有量を調整し、比重をd、屈折率をndとしたときに、d≦6.17×nd-7.694の関係とすることで、屈折率に対し低比重でありながら、安定性の高いガラスを得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。
【0010】
(1) 酸化物基準の質量%で、
Ln2O3成分が10.0%以下(LnはLa、Y、Gd、Ybからなる群より選択される1種以上)、
質量比TiO2/ROが0.5以上1.5以下(RはMg、Ca、Sr、Baからなる群より選択される1種以上)、
質量和Nb2O5+WO3+Bi2O3が18.0%以下、
質量比BaO/ROが0.30以上0.95以下、
であり、
比重をd、屈折率をndとしたときに、
d≦6.17×nd-7.694の関係を満たすガラス。
【0011】
(2) 酸化物基準の質量%で、
Nb2O5成分 0~18.0%、
WO3成分 0~15.0%、
La2O3成分 0~10.0%
である(1)に記載の光学ガラス。
【0012】
(3) RO成分の含有量の和が20.0%以上
である(1)又は(2)に記載の光学ガラス。
【0013】
(4)(1)~(3)のいずれかに記載の光学ガラスからなる光学素子。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、屈折率に対し低比重でありながら、安定性の高い光学ガラスと、光学素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本願の実施例のガラスについての比重をd、屈折率をndとしたときの、d≦6.17×n
d-7.694の関係を示す式と、特許文献4に記載されている屈折率(n
d)をY、ガラス比重をXとしたときの、Y≧0.175X+1.137の関係を示す式(以下、Y≧0.175X+1.137と記載する場合がある。)をともに記載した図である。
図1に記載されたプロットは特開2006-219365号(特許文献4)の実施例11、13、19、22である。
【0016】
【
図2】本願の実施例のガラスについての比重をd、屈折率をndとしたときの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の光学ガラスの実施形態について詳細に説明する。本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。なお、説明が重複する箇所について、適宜説明を省略する場合があるが、発明の趣旨を限定するものではない。
【0018】
[ガラス成分]
本発明の光学ガラスを構成する各成分の組成範囲を以下に述べる。本明細書中で特に断りがない場合、各成分の含有量は、全て酸化物換算組成のガラス全物質量に対する質量%で表示されるものとする。ここで、「酸化物換算組成」とは、本発明のガラス構成成分の原料として使用される酸化物、複合塩、金属弗化物等が熔融時に全て分解され酸化物へ変化すると仮定した場合に、当該生成酸化物の総質量を100質量%として、ガラス中に含有される各成分を表記した組成である。
【0019】
SiO2成分は、含有量を5.0%以上にすることで、安定なガラス形成を促すことでガラスの耐失透性を高める成分である。特に、SiO2成分の含有量を35.0%以下にすることで、SiO2成分による屈折率の低下が抑えられる。従って、SiO2成分の含有量は、好ましくは35.0%以下、より好ましくは33.0%以下、さらに好ましくは30.0%以下、さらに好ましくは28.0%以下、最も好ましくは25.0%以下を上限とする。一方、SiO2成分の含有量は、好ましくは5.0%以上、より好ましくは6.0%以上、さらに好ましくは7.0%以上、最も好ましくは8.0%以上を下限とする。
【0020】
TiO2成分は、含有量を21.0%以上にすることで、ガラスの屈折率及びアッベ数を高める成分であり、本発明の必須成分である。一方、TiO2成分の含有量を40.0%以下にすることで、過剰な含有による失透を抑制することができる。従って、TiO2成分の含有量は、好ましくは40.0%以下、より好ましくは39.0%以下、最も好ましくは38.0%以下を上限とする。TiO2成分の含有量は、好ましくは21.0%以上、より好ましくは22.0%以上、さらに好ましくは23.0%以上、さらに好ましくは24.0%以上、最も好ましくは25.0%以上を下限とする。
【0021】
Nb2O5成分は、0%超含有する場合に、ガラスの屈折率及びアッベ数を高められ、TiO2成分とともに含有することで安定性を高められる任意成分である。一方、Nb2O5成分の含有量を18.0%以下にすることで、比重を小さくし、耐失透性を高めることができる。従って、Nb2O5成分の含有量は、好ましくは18.0%以下、より好ましくは15.0%以下、より好ましくは12.0%以下、より好ましくは11.0%以下、最も好ましくは10.0%以下を上限とする。他方で、Nb2O5成分の含有量は、安定性を高める観点から、好ましくは1.0%以上、より好ましくは2.0%以上、さらに好ましくは3.0%以上、さらに好ましくは4.0%以上、最も好ましくは5.0%以上を下限とするが、0%であってもよい。
【0022】
WO3成分、Bi2O3成分は、0%超含有する場合にガラスの屈折率を高める成分であるが、含有量が多いとガラスの着色を招き比重が大きくなってしまう。WO3成分、Bi2O3成分の好ましい範囲は以下の通りである。
【0023】
WO3成分の含有量は、好ましくは15.0%以下、より好ましくは10.0%以下、より好ましくは5.0%以下、より好ましくは3.0%以下、最も好ましくは1.0%以下を上限とする。
【0024】
Bi2O3成分の含有量は、好ましくは3.0%以下、より好ましくは1.0%以下、さらに好ましくは0.8%以下、さらに好ましくは0.5%以下、さらに好ましくは0.3%以下、最も好ましくは0.1%以下を上限とする。
【0025】
B2O3成分は、0%超含有する場合に、安定なガラスの形成を促すことで耐失透性を高める成分であり、任意成分である。特に、B2O3成分の含有量を20.0%以下にすることで、B2O3成分による屈折率の低下が抑えられるため、高屈折率を得易くすることができる。従って、B2O3成分の含有量は、好ましくは20.0%以下、より好ましくは17.0%以下、さらに好ましくは15.0%以下、最も好ましくは12.0%以下を上限とする。他方で、B2O3成分の含有量は、好ましくは0%超、より好ましくは0.5%以上、さらに好ましくは0.8%以上、最も好ましくは1.0%以上を下限とするが、0%であってもよい。
【0026】
BaO成分は、0%超含有する場合に、ガラスの安定性を高め、研磨・研削時の加工性を良好にする成分である。特に、BaO成分の含有量を35.0%以下にすることで、比重を小さくすることができる。従って、BaO成分の含有量は、好ましくは35.0%以下、より好ましくは33.5%以下、最も好ましくは32.0%以下を上限とする。一方、BaO成分の含有量は、好ましくは10.0%以上、より好ましくは12.0%以上、さらに好ましくは14.0%以上、最も好ましくは15.0%以上を下限とする。
【0027】
CaO成分は、0%超含有する場合に、ガラスの比重を小さくできる成分である。特に、CaO成分の含有量を15.0%以下にすることで、耐失透性を高めることができる。従って、CaO成分の含有量は、好ましくは15.0%以下、より好ましくは14.0%以下、最も好ましくは13.0%以下を上限とする。一方、CaO成分の含有量は、好ましくは0.5%以上、より好ましくは1.0%以上、さらに好ましくは2.0%以上、最も好ましくは3.0%以上を下限とするが、0%であってもよい。
【0028】
MgO成分、SrO成分は、0%超含有する場合にガラスの耐失透性を高める成分であるが、含有量が多いと屈折率及びアッベ数の維持が難しくなる。MgO成分、SrO成分の好ましい範囲は以下の通りである。
【0029】
MgO成分の含有量は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは7.0%以下、さらに好ましくは5.0%以下、最も好ましくは3.0%以下を上限とするが、0%であってもよい。
【0030】
SrO成分の含有量は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは7.0%以下、さらに好ましくは5.0%以下、最も好ましくは3.0%以下を上限とするが、0%であってもよい。
【0031】
La2O3成分、Y2O3成分、Gd2O3成分、Yb2O3成分は、0%超含有する場合にガラスの屈折率を高め、研磨時のガラスの摩耗量を低減し、ガラスの割れや欠けや面精度の悪化を生じにくくする成分であるが、含有量が多いと安定性を損ない比重が大きくなってしまう。La2O3成分、Y2O3成分、Gd2O3成分、Yb2O3成分の好ましい範囲は以下の通りである。
【0032】
La2O3成分の含有量は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは8.0%以下、さらに好ましくは5.0%以下、さらに好ましくは3.0%以下、最も好ましくは1.0%以下を上限とする。
【0033】
Y2O3成分の含有量は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは8.0%以下、さらに好ましくは5.0%以下、さらに好ましくは3.0%以下、最も好ましくは1.0%以下を上限とする。
【0034】
Gd2O3成分の含有量は、好ましくは5.0%以下、より好ましくは3.0%以下、さらに好ましくは2.0%以下、さらに好ましくは1.0%以下、最も好ましくは0.5%以下を上限とする。
【0035】
Yb2O3成分の含有量は、好ましくは5.0%以下、より好ましくは3.0%以下、さらに好ましくは2.0%以下、さらに好ましくは1.0%以下、最も好ましくは0.5%以下を上限とする。
【0036】
ZrO2成分は、0%超含有する場合に、安定なガラス形成を促してガラスの耐失透性を高める成分であり、任意成分である。一方で、ZrO2成分の含有量を10.0%以下にすることで、研磨・研削等によるガラスの加工が行いやすくなる。従って、ZrO2成分の含有量は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは9.0%以下、さらに好ましくは8.0%以下、最も好ましくは7.0%以下を上限とする。他方で、ZrO2成分の含有量は、好ましくは0.1%以上、より好ましくは0.2%以上、さらに好ましくは0.3%以上とするが、0%であってもよい。
【0037】
Li2O成分、K2O成分、Na2O成分は、0%超含有する場合にガラスの熔解温度を下げる成分であるが、含有量が多いと安定性を損ない失透しやすくなってしまう。Li2O成分、K2O成分、Na2O成分の好ましい範囲は以下の通りである。
【0038】
Li2O成分の含有量は、好ましくは7.0%以下、より好ましくは5.0%以下、さらに好ましくは3.0%以下、最も好ましくは1.0%以下を上限とする。
【0039】
K2O成分の含有量は、好ましくは7.0%以下、より好ましくは5.0%以下、さらに好ましくは3.0%以下、最も好ましくは1.0%以下を上限とする。
【0040】
Na2O成分の含有量は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは8.0%以下、さらに好ましくは6.0%以下、最も好ましくは4.0%以下を上限とする。他方で、Na2O成分の含有量は、好ましくは0.1%以上、より好ましくは0.3%以上、最も好ましくは0.5%以上を下限とするが、0%であってもよい。
【0041】
Al2O3成分は、0%超含有する場合に、ガラスの化学的耐久性を向上しつつ、ガラス熔融時の粘度を高める成分であり、任意成分である。特に、Al2O3成分の含有量を5.0%以下にすることで、ガラスの熔融性を高めつつ、ガラスの失透傾向を弱めることができる。従って、Al2O3成分の含有量は、好ましくは5.0%以下、より好ましくは3.0%以下、最も好ましくは1.0%以下を上限とするが、0%であってもよい。
【0042】
ZnO成分は、0%超含有する場合に、ガラスの液相温度を下げ、且つガラスの耐失透性を高める成分であり、任意成分である。特に、ZnO成分の含有量を5.0%以下にすることで、高屈折率及び低分散を得易くすることができる。従って、ZnO成分の含有量は、好ましくは5.0%以下、より好ましくは3.0%以下、最も好ましくは1.0%以下を上限とするが、0%であってもよい。
【0043】
Ta2O5成分は、0%超含有することで、ガラスの屈折率を高められ、且つガラスの耐失透性を高める成分であり、任意成分である。一方で、Ta2O5成分の含有量を5.0%以下にすることで、希少鉱物資源であるTa2O5成分の使用量が減り、且つガラスがより低温で熔解し易くなるため、ガラスの生産コストを低減できる。また、これによりTa2O5成分の過剰な含有によるガラスの失透を低減できる。従って、Ta2O5成分の含有量は、好ましくは5.0%以下、より好ましくは3.0%以下、さらに好ましくは1.0%以下を上限とするが、0%であってもよい。
【0044】
P2O5成分の含有量は、好ましくは5.0%以下、より好ましくは3.0%以下、より好ましくは1.0%以下、さらに好ましくは0.5%以下を上限とするが、0%としてもよい。
【0045】
F成分の含有量は、好ましくは5.0%以下、より好ましくは3.0%以下、より好ましくは1.0%以下、さらに好ましくは0.5%以下、さらに好ましくは0.3%以下を上限とするが、0%としてもよい。
【0046】
TeO2成分の含有量は、好ましくは3.0%以下、より好ましくは2.0%以下、より好ましくは1.0%以下、さらに好ましくは0.5%以下を上限とするが、0%としてもよい。
【0047】
GeO2成分の含有量は、好ましくは3.0%以下、より好ましくは2.0%以下、より好ましくは1.0%以下、さらに好ましくは0.5%以下を上限とするが、0%としてもよい。
【0048】
CeO2成分の含有量は、好ましくは3.0%以下、より好ましくは2.0%以下、より好ましくは1.0%以下、さらに好ましくは0.5%以下を上限とするが、0%としてもよい。
【0049】
Er2O3成分、Pr2O3成分の含有量は、好ましくは1.0%以下、より好ましくは0.5%以下、より好ましくは0.1%以下、最も好ましくは実質的に含有しない。
【0050】
SnO2成分の含有量は、好ましくは2.0%以下、より好ましくは1.0%以下、さらに好ましくは0.5%以下を上限とするが、0%としてもよい。
【0051】
Sb2O3成分は、ガラスを熔融する際に清澄や脱泡を促す成分であり、任意成分である。ここで、Sb2O3成分の含有量を0.1%以下にすることで、特に高屈折率ガラスにおける着色を抑えることが可能となる。また、0.1%以下とすることにより、ガラス熔融時における過度の発泡が生じ難くなるため、Sb2O3成分を熔解設備(特にPt等の貴金属)と合金化し難くすることができる。従って、Sb2O3成分の含有量は、好ましくは0.1%以下、より好ましくは0.08%以下、さらに好ましくは0.05%以下を上限とするが、0%としてもよい。
【0052】
なお、ガラスを清澄し脱泡する成分は、上記のSb2O3成分に限定されるものではなく、ガラス製造の分野における公知の清澄剤、脱泡剤或いはそれらの組み合わせを用いることができる。
【0053】
Ln2O3成分(式中、LnはLa、Y、Gd、Ybからなる群より選択される1種以上)は、含有量の和(質量和)を10.0%以下とすることで、過剰な含有による失透を抑え比重を低減できる。従って、好ましくは10.0%以下、より好ましくは9.0%以下、さらに好ましくは6.0%以下、さらに好ましくは4.0%以下、さらに好ましくは2.0%以下を上限とする。
【0054】
Rn2O成分(式中、RnはLi、Na、Kからなる群より選択される1種以上)の含有量の和は、10.0%以下とすることで、リヒートプレス成形性の悪化を抑制できる。従って、Rn2O成分の含有量の和は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは9.0%以下、最も好ましくは8.0%以下を上限とする。一方で、Rn2O成分の含有量の和は、熔融性を良好にするために、好ましくは0.5%以上、より好ましくは0.8%以上、さらに好ましくは1.0%以上を下限とするが、0%であってもよい。
【0055】
RO成分(式中、RはMg、Ca、Sr、Baからなる群より選択される1種以上)の含有量の和は、0%超とする場合に、ガラスの安定性を向上させることができる。特に、RO成分はTiO2成分による失透を抑制する働きがある。RO成分の含有量の和は、好ましくは20.0%以上、より好ましくは21.5%以上、さらに好ましくは23.0%以上、最も好ましくは25.0%以上とする。一方、RO成分の含有量の和は屈折率の低下を抑えるために、好ましくは40.0%以下、より好ましくは39.0%以下、より好ましくは38.0%以下、さらに好ましくは37.0%以下、最も好ましくは36.0%以下を上限とする。
【0056】
RO成分に対するTiO2成分の比率である質量比TiO2/ROは、0.50以上1.50以下とすることで、TiO2成分による失透を抑制しながら安定性の高いガラスを作ることができる。安定性の高いガラスを作ることは、量産性の向上に繋がるため有用である。従って、質量比TiO2/ROは、好ましくは0.50以上、より好ましくは0.55以上、さらに好ましく0.60以上、さらに好ましくは0.65以上、最も好ましくは0.70以上を下限とする。他方で、質量比TiO2/ROは、好ましくは1.50以下、より好ましくは1.45以下、さらに好ましくは1.40以下、さらに好ましくは1.35以下、最も好ましくは1.30以下を上限とする。
【0057】
Nb2O5成分、WO3成分、Bi2O3成分の合計量である質量和Nb2O5+WO3+Bi2O3は、18.0%以下とすることで比重の上昇を抑えることができる。高屈折率寄与成分は他の成分に比べて比重が大きいものが多く、高屈折率寄与成分であるNb2O5成分、WO3成分、Bi2O3成分の含有量を抑えることで比重の上昇が抑えられ、光学機器の小型化や軽量化につながる。従って、質量和Nb2O5+WO3+Bi2O3は、好ましくは18.0%以下、より好ましくは15.0%以下、より好ましくは13.0%以下、さらに好ましくは11.0%以下、さらに好ましくは10.0%以下を上限とする。他方で、屈折率及び分散を高める観点から、質量和Nb2O5+WO3+Bi2O3は、1.0%以上としてもよい。従って、質量和Nb2O5+WO3+Bi2O3は、好ましくは1.0%以上、2.0%以上、3.0%以上、4.0%以上、5.0%以上、6.0%以上であってもよい。
【0058】
RO成分に対するBaO成分の比率である質量比BaO/ROは、0.30以上0.95以下とすることで、安定性の高いガラスを得ることができる。特に本発明においてBaO成分はRO成分の中で最も安定性を高めてくれる成分である。また、研磨等の加工時のガラスの割れ・欠けや面精度の悪化を防止することができる。従って、質量比BaO/ROは、好ましくは0.30以上、より好ましくは0.40以上、さらに好ましくは0.50以上、さらに好ましくは0.55以上を下限とする。他方で、質量比BaO/ROは、好ましくは0.95以下、より好ましくは0.93以下、さらに好ましくは0.90以下を上限とする。
【0059】
TiO2成分に対するNb2O5成分の比率である質量比Nb2O5/TiO2は、0.50以下とすることで屈折率を高めながら比重を小さくすることができる。質量比Nb2O5/TiO2は、好ましくは0.50以下、より好ましくは0.48以下、さらに好ましくは0.45以下、さらに好ましくは0.42以下、最も好ましくは0.40以下を上限とする。他方で、TiO2由来の失透を抑え安定性の高いガラスを得る観点から、質量比Nb2O5/TiO2は、0.05以上としてもよい。従って、質量比Nb2O5/TiO2は、好ましくは0.05以上、より好ましくは0.08以上、さらに好ましくは0.10以上、最も好ましくは0.13以上を下限とする。
【0060】
TiO2成分とNb2O5成分の合計含有量に対するZrO2成分の比率である質量比ZrO2/(TiO2+Nb2O5)は0.25以下とすることで耐失透性を高めるうえで有効である。TiO2成分とNb2O5成分の合計含有量に対し、ZrO2成分の含有量が多すぎると失透を引き起こす原因となる。質量比ZrO2/(TiO2+Nb2O5)は、好ましくは0.25以下、より好ましくは0.20以下、さらに好ましくは0.19以下を上限とする。
【0061】
TiO2成分、Nb2O5成分、WO3成分の合計含有量に対するNb2O5成分とWO3成分の合計含有量の比率である質量比(Nb2O5+WO3)/(TiO2+Nb2O5+WO3)はNb2O5とWO3による比重の上昇を抑えるために0.50以下とするのが好ましい。質量比(Nb2O5+WO3)/(TiO2+Nb2O5+WO3)は、好ましくは0.50以下、より好ましくは0.40以下、さらに好ましくは0.30以下、さらに好ましくは0.28以下とする。他方で、屈折率及び分散を高める観点から質量比(Nb2O5+WO3)/(TiO2+Nb2O5+WO3)は、0.05以上としてもよい。質量比(Nb2O5+WO3)/(TiO2+Nb2O5+WO3)は、好ましくは0.05以上、より好ましくは0.07以上、さらに好ましくは0.08以上、さらに好ましくは0.10以上を下限としてもよい。
【0062】
<含有すべきでない成分について>
次に、本発明の光学ガラスに含有すべきでない成分、及び含有することが好ましくない
成分について説明する。
【0063】
他の成分を本願発明のガラスの特性を損なわない範囲で必要に応じ、添加することができる。ただし、Ti、Zr、Nb、W、La、Gd、Y、Yb、Luを除く、Nd、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Ag及びMo等の各遷移金属成分は、それぞれを単独又は複合して少量含有した場合でもガラスが着色し、可視域の特定の波長に吸収を生じる性質があるため、特に可視領域の波長を使用する光学ガラスにおいては、実質的に含まないことが好ましい。
【0064】
また、PbO等の鉛化合物及びAs2O3等の砒素化合物は、環境負荷が高い成分であるため、実質的に含有しないこと、すなわち、不可避な混入を除いて一切含有しないことが望ましい。
【0065】
さらに、Th、Cd、Tl、Os、Be、及びSeの各成分は、近年有害な化学物質として使用を控える傾向にあり、ガラスの製造工程のみならず、加工工程、及び製品化後の処分に至るまで環境対策上の措置が必要とされる。従って、環境上の影響を重視する場合には、これらを実質的に含有しないことが好ましい。
【0066】
[物性]
本発明の光学ガラスの屈折率(nd)は、1.80500以上、1.81000以上、1.82000以上、1.83000以上、1.84000以上、1.85000以上、1.86000以上、1.87000以上、1.88000以上、1.89000以上、1.90000以上の順に好ましい。他方で、この屈折率(nd)は、2.00000以下、1.99000以下、1.98000以下、1.97000以下、1.96000以下としてもよい。本発明のアッベ数(νd)は、17.00以上、18.00以上、19.00以上、20.00以上、21.00以上の順に好ましい。他方で、このアッベ数(νd)は、30.00以下、28.00以下、27.00以下、26.00以下の順に好ましい。
【0067】
本発明の光学ガラスの比重(d)は、4.43以下、4.30以下、4.20以下、4.10以下、4.05以下の順に好ましい。
上記に加え、本発明の光学ガラスの比重(d)は、屈折率(n
d)に対しd≦6.17×n
d-7.694の関係を満たすことが好ましい。ガラスを作製するうえで、屈折率を高める成分は他の成分に加え比重が大きいため、屈折率を高める成分の含有量を増やし屈折率が高まるほど、比重は大きくなりやすい傾向にある。本発明者はd≦6.17×n
d-7.694の関係を満たすことで、屈折率に対し比重が小さく光学設計上有用になることを見出した。比重(d)は、屈折率(n
d)に対し、好ましくはd≦6.17×n
d-7.694の関係を満たすこと、より好ましくはd≦6.17×n
d-7.800の関係を満たすこと、さらに好ましくはd≦6.17×n
d-7.914を満たすことである。
図1の通り、特許文献4に記載のY≧0.175X+1.137と比べたときに、本発明のd≦6.17×n
d-7.694の関係を満たすことは、屈折率に対しより低比重のガラスを表す式であることが明らかである。
【0068】
[製造方法]
本発明の光学ガラスは、例えば以下のように作製される。すなわち、上記原料を各成分が所定の含有量の範囲内になるように均一に混合し、作製した混合物を白金坩堝に投入し、ガラス原料の熔解難易度に応じて電気炉で1100~1500℃の温度範囲で2~5時間熔解させて攪拌均質化した後、適当な温度に下げてから金型に鋳込み、徐冷することにより作製される。
【0069】
[ガラスの成形]
本発明のガラスは、公知の方法によって、熔解成形することが可能である。なお、ガラス熔融体を成形する手段は限定されない。
【0070】
[光学素子]
作製された光学ガラスから、例えば研磨加工の手段、又は、リヒートプレス成形や精密プレス成形等のモールドプレス成形の手段を用いて、ガラス成形体を作製することができる。すなわち、光学ガラスに対して研削及び研磨等の機械加工を行ってガラス成形体を作製することができる。なお、ガラス成形体を作製する手段は、これらの手段に限定されない。
【0071】
このように、本発明の光学ガラスは、様々な光学素子及び光学設計に有用である。その中でも特に、レンズやプリズム等の光学素子を作製することが好ましい。これにより、光学素子の軽量化に加え、カメラやプロジェクタ等の光学機器に用いたときに高精細で高精度な結像特性及び投影特性を実現できる。
【実施例】
【0072】
本発明のガラスの実施例及び比較例の組成、並びに、これらのガラスの屈折率(nd)、アッベ数(νd)、比重(d)、また6.17×nd-7.694、6.17×nd-7.800、6.17×nd-7.914の値を表1、表2に示す。比較例BはWO2018/235725の実施例13である。
【0073】
本発明の実施例及び比較例のガラスは、いずれも各成分の原料として各々相当する酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、弗化物、メタ燐酸化合物等の通常の光学ガラスに使用される高純度原料を選定し、表に示した各実施例の組成の割合になるように秤量して、均一に混合した後、白金坩堝に投入し、ガラス原料の熔解難易度に応じて電気炉で1100~1400℃の温度範囲で2~5時間熔解させた後、攪拌均質化してから金型等に鋳込み、徐冷して作製した。
【0074】
実施例及び比較例のガラスの屈折率(nd)、アッベ数(νd)は、JIS B 7071-2:2018に規定されるVブロック法に準じて測定した。ここで、屈折率(nd)は、ヘリウムランプのd線(587.56nm)に対する測定値で示した。また、アッベ数(νd)は、ヘリウムランプのd線に対する屈折率(nd)と、水素ランプのF線(486.13nm)に対する屈折率(nF)、C線(656.27nm)に対する屈折率(nC)の値を用いて、アッベ数(νd)=[(nd-1)/(nF-nC)]の式から算出した。これらの屈折率(nd)、アッベ数(νd)は、徐冷降温速度を-25℃/hrにして得られたガラスについて測定を行うことで求めた。
【0075】
実施例のガラス中の比重は、JISZ8807:2012の液中ひょう量法による密度及び比重の測定方法に基づいて行った。
【0076】
【0077】
【0078】
表に表されるように、本発明の実施例のガラスは、いずれも屈折率(nd)が1.80500以上、より詳細には1.85000以上であるとともに、この屈折率(nd)は2.00000以下、より詳細には1.97000以下であり、所望の範囲内であった。
【0079】
本発明の実施例のガラスは、いずれもアッベ数(νd)が17.00以上、より詳細には21.00以上であるとともに、このアッベ数(νd)は30.00以下、より詳細には26.00以下であり、所望の範囲内であった。
【0080】
本発明の実施例のガラスは、いずれも、失透を生じず安定性の高いガラスであった。一方で、質量比TiO2/ROが1.50を超える比較例Aは失透し、ガラス化しなかった。
【0081】
本発明の実施例のガラスは、いずれもd≦6.17×n
d-7.694の関係、より詳細にはd≦6.17×n
d-7.800を満たしていた。一方で、
図1の通り特開2006-219365号の実施例11、13、19、22のガラス、
図2の通り比較例Bのガラスはd≦6.17×n
d-7.694の関係を満たしておらず、製品重量の軽量化の観点で劣るものであった。
【0082】
従って、本発明の実施例の光学ガラスは、屈折率に対し低比重でありながら、安定性の高いガラスであることが明らかになった。
【0083】
以上、本発明を例示の目的で詳細に説明したが、本実施例はあくまで例示の目的のみであって、本発明の思想及び範囲を逸脱することなく多くの改変を当業者により成し得ることが理解されよう。