(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-20
(45)【発行日】2025-01-06
(54)【発明の名称】車両位置特定装置、車両位置特定方法、配光制御装置、車両用灯具システム
(51)【国際特許分類】
B60Q 1/14 20060101AFI20241223BHJP
G06T 7/00 20170101ALI20241223BHJP
【FI】
B60Q1/14 A
G06T7/00 650B
(21)【出願番号】P 2021119521
(22)【出願日】2021-07-20
【審査請求日】2024-06-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000002303
【氏名又は名称】スタンレー電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001184
【氏名又は名称】弁理士法人むつきパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】川崎 恵久
【審査官】下原 浩嗣
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-122432(JP,A)
【文献】特開2020-204820(JP,A)
【文献】特開2019-111321(JP,A)
【文献】特開2020-038200(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60Q 1/14
G06T 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コントローラを備える車両位置特定装置であって、
前記コントローラは、
各々が前方車両に関する時系列の位置データを含む複数のデータ群について、当該データ群毎に、時系列で前後する前記位置データの相互間の変化量が所定の基準値以下である状態の継続
時間を求め、
前記前方車両に関する複数の新たな位置データ
である第1位置データが発生した際に、各前記データ群
における時系列で直近の前記位置データ
である第2位置データの各々と当該複数の
第1位置データとの相関の強さを求め、
各前記データ群のうち相対的に前記継続
時間が長い
当該データ群から
優先順に、各前記
第1位置データの
うち当該継続時間が長いデータ群の前記第2位置データと前記相関が最も強い前記第1位置データを当該継続時間が長いデータ群に対して前記第2位置データとの時系列が分かるようにして追加する、
車両位置特定装置。
【請求項2】
コントローラを備える車両位置特定装置であって、
前記コントローラは、
各々が前方車両に関する時系列の位置データを含む複数のデータ群について、当該データ群毎に、時系列で前後する前記位置データ間の変化量が所定の基準値以下である状態の継続
時間を求める継続
時間算出部と、
前記前方車両に関する複数の新たな位置データ
である第1位置データが得られた際に、各前記データ群
における時系列で直近の前記位置データ
である第2位置データの各々と当該複数の
第1位置データの各々との相関の強さを求める相関算出部と、
各前記データ群のうち相対的に前記継続
時間が長い
当該データ群から
優先順に、前記相関の強さに基づいて、
各前記
第1位置データ
うち当該継続時間が長いデータ群の前記第2位置データと前記相関が最も強い前記第1位置データを当該継続時間が長いデータ群に対して前記第2位置データとの時系列が分かるようにして追加するデータ追加部と、
を含む、車両位置特定装置。
【請求項3】
前記複数の新たな位置データの各々と、各前記データ群における直近の前記位置データとの間でユークリッド距離が小さいほど前記相関が強いと定められる、
請求項1又は2に記載の車両位置特定装置。
【請求項4】
前記継続時間は、各前記データ群において時系列で前後する前記位置データ間の前記変化量が前記基準値以下である状態が継続するほど増加し、当該変化量が当該基準値を超えた場合に初期値にリセットされる、
請求項1~3の何れか1項に記載の車両位置特定装置。
【請求項5】
前記基準値は、前記前方車両の種別に応じて異なる値に設定される、
請求項1~4の何れか1項に記載の車両位置特定装置。
【請求項6】
コントローラにより実行される車両位置特定方法であって、
前記コントローラは、
各々が前方車両に関する時系列の位置データを含む複数のデータ群について、当該データ群毎に、時系列で前後する前記位置データの相互間の変化量が所定の基準値以下である状態の継続
時間を求めること、
前記前方車両に関する複数の新たな位置データ
である第1位置データが発生した際に、各前記データ群
における時系列で直近の前記位置データ
である第2位置データの各々と当該複数の
第1位置データとの相関の強さを求めること、
各前記データ群のうち相対的に前記継続
時間が長い
当該データ群から
優先順に、
各前記
第1位置データ
うち当該継続時間が長いデータ群の前記第2位置データと前記相関が最も強い前記第1位置データを当該継続時間が長いデータ群に対して前記第2位置データとの時系列が分かるようにして追加すること、
を実行する、車両位置特定方法。
【請求項7】
請求項1~5の何れかに記載の車両位置特定装置により得られる各前記データ群を用いて車両用灯具の配光パターンを制御する、
配光制御装置。
【請求項8】
請求項7に記載の配光制御装置と当該配光制御装置に接続された車両用灯具とを含む、
車両用灯具システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両位置特定装置、車両位置特定方法、配光制御装置、車両用灯具システムに関する。
【背景技術】
【0002】
自車両の前方に存在する前方車両(先行車、対向車等)の位置に応じて、ハイビームの照射可能範囲内に減光範囲(ないし遮光範囲)を設定してハイビームを照射する配光制御技術が知られている(例えば特許文献1参照)。前方車両の位置は、例えばカメラにより撮影される自車両前方空間の画像に対して画像認識処理を行って光点(前照灯や尾灯の位置)を検出することにより得られる。
【0003】
ところで、前方車両の位置を時系列で追跡する際に、ノイズデータに起因して、本来存在していた前方車両が消失してこれと入れ替わりに本来存在していない新たな前方車両が発生したかのようにデータの入れ違いが発生してしまう場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示に係る具体的態様は、前方車両の位置の時系列で追跡する際の精度を向上させることを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[1]本開示に係る一態様の車両位置特定装置は、
コントローラを備える車両位置特定装置であって、
前記コントローラは、
各々が前方車両に関する時系列の位置データを含む複数のデータ群について、当該データ群毎に、時系列で前後する前記位置データの相互間の変化量が所定の基準値以下である状態の継続時間を求め、
前記前方車両に関する複数の新たな位置データである第1位置データが発生した際に、各前記データ群における時系列で直近の前記位置データである第2位置データの各々と当該複数の第1位置データとの相関の強さを求め、
各前記データ群のうち相対的に前記継続時間が長い当該データ群から優先順に、各前記第1位置データのうち当該継続時間が長いデータ群の前記第2位置データと前記相関が最も強い前記第1位置データを当該継続時間が長いデータ群に対して前記第2位置データとの時系列が分かるようにして追加する、
車両位置特定装置である。
[2]本開示に係る一態様の車両位置特定方法は、
コントローラにより実行される車両位置特定方法であって、
前記コントローラは、
各々が前方車両に関する時系列の位置データを含む複数のデータ群について、当該データ群毎に、時系列で前後する前記位置データの相互間の変化量が所定の基準値以下である状態の継続時間を求めること、
前記前方車両に関する複数の新たな位置データである第1位置データが発生した際に、各前記データ群における時系列で直近の前記位置データである第2位置データの各々と当該複数の第1位置データとの相関の強さを求めること、
各前記データ群のうち相対的に前記継続時間が長い当該データ群から優先順に、各前記第1位置データうち当該継続時間が長いデータ群の前記第2位置データと前記相関が最も強い前記第1位置データを当該継続時間が長いデータ群に対して前記第2位置データとの時系列が分かるようにして追加すること、
を実行する、車両位置特定方法である。
[3]本開示に係る一態様の配光制御装置は、
前記[1]の車両位置特定装置により得られる各前記データ群を用いて車両用灯具の配光パターンを制御する、配光制御装置である。
[4]本開示に係る一態様の車両用灯具システムは、
前記[3]の配光制御装置と当該配光制御装置に接続された車両用灯具とを含む、車両用灯具システムである。
【0007】
上記構成によれば、前方車両の位置の時系列で追跡する際の精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1(A)は、本実施形態において想定される前方車両の誤検知の状況について説明するための図である。
図1(B)は、
図1(A)で想定した状況における各オブジェクトの位置の推移を示す図である。
【
図2】
図2は、ユークリッド距離について説明するための図である。
【
図3】
図3は、一実施形態の車両用灯具システムの構成を示す図である。
【
図4】
図4は、コントローラを実現するコンピュータの構成例を示す図である。
【
図5】
図5は、位置データの生存時間について説明するための図である。
【
図6】
図6(A)は、位置データの推移例を示す図である。
図6(B)は、本実施形態のトラッキング処理を説明するための図である。
図6(C)は、比較例のトラッキング処理を説明するための図である。
【
図7】
図7は、車両用灯具システムのコントローラの動作手順を示すフローチャートである。
【
図8】
図8は、各オブジェクトに対応する位置データを用いた配光制御の一例を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1(A)は、本実施形態において想定される前方車両の誤検知の状況について説明するための図である。例えば、時刻(t-3)において、1つの前方車両が存在し、その位置(右角度、左角度)が検知される。右角度、左角度とは、例えば前方車両の左右に配置された尾灯の位置である。本実施形態では、検知される前方車両が複数存在する場合を想定し、それぞれ例えばオブジェクトA、オブジェクトBというようにラベリングして各々のオブジェクトに対応する時系列の位置データを含むデータ群を管理する。図示の例では、オブジェクトAは検知されておらず、オブジェクトBはその位置が検知されている。オブジェクトの位置データは、自車両を基準とした相対的な角度で特定される。図示の例では、オブジェクトBの位置データは、左角度が-1.2°、右角度が+0.8°である。
【0010】
次の時刻(t-2)において、1つの前方車両しか存在しないにも関わらず誤検知が生じたとすると、2つの前方車両が存在するとしてそれらの位置が検出される。このとき、各オブジェクトA、Bに対応付けてそれぞれの位置データが取得される。本来は1つである前方車両に対する誤検知であるので、オブジェクトAの位置データとオブジェクトBの位置データは非常に近い値になる。図示の例では、オブジェクトAの位置データは、左角度が-0.9°、右角度が+1.0°と特定され、オブジェクトBの位置データは、左角度が-1.2°、右角度が+0.8°と特定されている。同様の誤検知が次の時刻(t-1)においても生じたとする。図示の例では、オブジェクトAの位置は、左角度が-0.9°、右角度が+0.9°と特定され、オブジェクトBの位置は、左角度が-1.2°、右角度が+0.8°と特定されている。
【0011】
次の時刻(t)においては、誤検知が解消され、オブジェクトAは検知されておらず、オブジェクトBはその位置が検知されている。図示の例では、オブジェクトBの位置データは、右角度が-1.2°、左角度が+0.8°と特定されている。
【0012】
図1(B)は、
図1(A)で想定した状況における各オブジェクトの位置の推移を示す図である。ここでは説明を分かりやすくするために右角度の推移を示しているが左角度でも同様である。オブジェクトBの右角度のデータ群は、継続して正常検知範囲に含まれており、緩やかに推移している。これに対して、本来存在しないはずのオブジェクトAの右角度のデータ群は、正常検知範囲外(検知なし)に存在していたものが突如、時刻(t-2)で正常検知範囲に入り、次の時刻(t-1)までは正常検知範囲内に含まれる。
【0013】
ここで、図示のようにオブジェクトAに対応する位置データが突如現れたとしても、各オブジェクトに関する位置データのデータ群が連続性を保って管理されていればオブジェクトA、Bの位置データが入れ替わることはない。しかし、例えばある時刻と次の時刻の間での各オブジェクトの位置データの連続性(相関の強さ)をユークリッド距離のみに基づいて判断していたとすると、各オブジェクトA、Bに対応付けられる位置データが入れ替わる場合が生じ得る。このような入れ替わりが生じると、例えばオブジェクトの位置変化に応じた配光パターンの制御を行うようなシステムにおいて不都合を生じる。
【0014】
なお、本実施形態におけるユークリッド距離とは、
図2に示すように、ある時刻と次の時刻のそれぞれにおける右角度と左角度を2つの軸にそれぞれ対応づけて位置データをプロットした場合におけるそれらプロット点間の距離Dで表され、位置データ同士の相関の強さを表す指標である。
図1(B)に示す例では、時刻(t-2)における2つの位置データと次の時刻(t-1)における2つの位置データの間でユークリッド距離を求め、ユークリッド距離が最小となる位置データ同士を連続するものと判断すると、場合によっては上記のような位置データの入れ替わりが生じる。
【0015】
以下、位置データ間のユークリッド距離のみで相関の強さを判断して各オブジェクトのデータ群へ位置データを追加した場合に生じ得る位置データの入れ替わりを防ぐことを可能とする実施形態を説明する。
【0016】
図3は、一実施形態の車両用灯具システムの構成を示す図である。図示の車両用灯具システムは、自車両の周辺(ここでは前方)の空間に対して光照射を行うものであって、いわゆるハイビームの照射可能範囲内においては、前方車両の位置に応じた減光範囲を設定してそれ以外の範囲を光照射範囲とした選択的な光照射を行うものである。このような配光制御は、ADB(Adaptive Driving Beam)制御とも称されるものであり、自車両の周辺の視認性向上に資するものである。
【0017】
図示の車両用灯具システムは、撮像装置10、コントローラ(制御装置)20、一対の前照灯ユニット(車両用灯具)30L、30Rを含んで構成されている。撮像装置10とコントローラ20の間は所定の通信手段によって接続されている。また、コントローラ20と各前照灯ユニット30L、30Rの間は所定の配線を介して接続されている。なお、本実施形態では撮像装置10とコントローラ20が「車両位置特定装置」に対応するとともに「配光制御装置」に対応する。
【0018】
撮像装置10は、カメラ11と画像処理プロセッサ12を備えており、カメラ11によって撮影される画像に基づいて画像処理プロセッサ12で所定の画像処理を行うことにより、自車両の前方に存在する前方車両の位置を検出するものである。本実施形態では、撮像装置10は、各前方車両の位置として各前方車両の左側位置および右側位置を検出する。ここでいう左側位置及び右側位置とは、例えば前方車両が先行車両である場合には尾灯の位置に対応し、前方車両が対向車両である場合には前照灯の位置に対応する。前方車両の位置データは、自車両位置に対する相対的な角度で表される。また、複数の前方車両が存在する場合には、それぞれの前方車両ごとにラベリングデータを付して位置データ(ないし信号)がコントローラ20へ出力される。
【0019】
コントローラ20は、撮像装置10から出力される各前方車両の位置データに基づいて前方車両の位置を特定し、その特定した位置に応じて、各前方車両に対応した減光範囲と光照射範囲を含む配光パターンを設定し、この配光パターンによる光照射が行われるように前照灯ユニット30L、30Rを制御するものである。このコントローラ20は、例えばCPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等を有するコンピュータを用い、このコンピュータにおいて所定の動作プログラムを実行させることによって実現される。コントローラ20の実現する機能を理解しやすくするために機能ブロックを用いて説明する。コントローラ20は、機能ブロックとしての車両位置取得部21、生存時間算出部22、トラッキング処理部23、配光パターン設定部24、制御信号生成部25を有する。なお、生存時間算出部22が「継続時間算出部」に対応し、トラッキング処理部23が「相関算出部」及び「データ追加部」に対応する。
【0020】
車両位置取得部21は、撮像装置10から出力される前方車両の位置データ(ないし信号)を取得する。各前方車両の位置データは、所定の時間毎(例えば50ミリ秒毎)に時系列で得られる。また、位置データには前方車両の種別(先行車、対向車等)のデータが付加されている。
【0021】
生存時間算出部22は、それぞれが時系列で得られる前方車両に関する位置データを含む複数のデータ群について、時系列で前後する位置データの相互間の変化量が所定の基準値以下である状態が継続した時間である生存時間を算出する。生存時間の算出方法の詳細についは後述する。
【0022】
トラッキング処理部23は、新たに前方車両に関する複数の位置データが得られた際に、各データ群の時系列で直近の位置データとの間での相関の強さを求め、相対的に生存時間の長いデータ群から順に、この相関の強さに基づいて新たな位置データのそれぞれを何れかのデータ群に追加する処理(トラッキング処理)を行う。
【0023】
配光パターン設定部24は、前方車両の位置に対応して、ハイビームの照射可能範囲のうち、各前方車両の位置を含む所定範囲を減光範囲としてそれ以外の範囲を光照射範囲とした配光パターンを設定する。
【0024】
制御信号生成部25は、配光パターン制御部24によって設定される配光パターンに応じた制御信号を生成し、これを各前照灯ユニット30L、30Rへ供給する。
【0025】
各前照灯ユニット30L、30Rは、コントローラ20から供給される制御信号に応じて動作して自車両の前方へ光を照射するものであり、それぞれADBユニット31とロービームユニット32を備えている。
【0026】
ADBユニット31は、ハイビームの照射可能範囲において前方車両の位置に応じた選択的な光照射を行うことが可能なランプユニットである。このようなADBユニット31としては、例えば光源と液晶素子を組み合わせて照射光を形成するもの、複数の発光素子(LED)を個別に点消灯することによって照射光を形成するもの、レーザ素子から発せられる光をMEMSデバイス等で走査することによって照射光を形成するもの、遮蔽板(シェード)を用いて光源の光を部分的に遮光することによって照射光を形成するものなど、公知の種々のユニットを用いることができる。
【0027】
ロービームユニット32は、ハイビームよりも相対的に自車両に近い領域に対する光照射を行うことが可能なランプユニットである。このようなロービームユニット32としては、公知の種々のユニットを用いることができる。なお、ロービームユニット32の機能とADBユニット31の機能とを併せもつ1つのユニットによってロービームが形成されてもよい。
【0028】
図4は、コントローラを実現するコンピュータの構成例を示す図である。図示のコンピュータは、相互に通信可能に接続されたCPU201、ROM202、RAM203、記憶装置204、外部インタフェース(I/F)205を含んで構成されている。CPU201は、ROM202から読み出される基本制御プログラムをベースにして動作し、記憶装置204に格納されたプログラム(アプリケーションプログラム)206を読み出してこれを実行することにより、上記したコントローラ20の機能を実現する。RAM203は、CPU201の動作時に使用させるデータを一時的に記憶する。記憶装置204は、例えばハードディスク、ソリッドステートドライブなどの不揮発性の記憶装置であり、プログラム206など種々のデータを格納する。外部インタフェース205は、CPU201と外部装置を接続するインタフェースであり、例えば撮像装置10とCPU201との接続に用いられる。
【0029】
図5は、位置データの生存時間について説明するための図である。上記した
図1(B)に示したように、誤検知によるオブジェクトAに対応するデータ群の位置データは突如現れた後すぐに検知範囲外の値(例えば一定の上限値)となるので、位置データの検知が継続する時間は短い。これに対して、オブジェクトBに対応するデータ群の位置データは連続的に検知されているので、位置データの検知が継続する時間が長い。このような特性を考慮し、本実施形態では、各オブジェクトに対応する位置データのデータ群を時系列で管理し、その検知が継続する時間である生存時間を求める。図示の上段には右角度の推移を示しているが左角度の推移も同様である。図中の下段には生存時間の推移を示している。
【0030】
図示の例のように、オブジェクトに対応するデータ群の位置データ(ここでは右角度)が時間経過に沿って大きく変動せずに一定の閾値範囲内(基準値以下)の状態で推移している場合には生存時間を順次増加させる。この生存時間が長いということは、データ群の位置データの継続性が高く、信頼性(確度)が高いといえる。誤検知ではなく正常に検知され続けた位置データを含むデータ群ではこの生存時間が長くなる。他方、図中のa点やb点のように位置データが閾値範囲外に大きく変動した場合には、生存時間がリセットされ、初期値(例えば0)から再カウントされる。この生存時間が短いということは、その位置データを含むデータ群の継続性が低く、信頼性(確度)が低いといえる。誤検知が生じた場合の位置データは急激な変化を生じるのでこの生存時間が短くなる。
【0031】
生存時間のカウント方法について具体的に説明する。各データ群において、ある時刻の右角度をθa、その直前の時刻の右角度をθbとし、それらの差分の絶対値(変化量)である|θa-θb|が所定の閾値N以下であるか否かで場合分けする。ここで、閾値Nは、前方車両の種別によらず1つの値としてもよいし、種別に応じて個別に設定することも好ましい。本実施形態では、前方車両の種別により個別に設定する。一例として、種別が先行車の場合の閾値N1を0.7°、対向車の場合の閾値N2を1.5°、種別が先行車/対向車以外の場合の閾値N3を1.0°と設定する。左角度についても同様に閾値以下であるか否かで場合分けする。そして、右角度、左角度のいずれも差分の絶対値が閾値以下である場合に生存時間を一定値だけ増加させる。例えば、生存時間を+1だけ増加させる。他方、右角度と左角度のいずれか一方でも差分の絶対値が閾値を超える場合には、変化量が大きすぎて継続性が低いため、生存時間を初期値にリセットする。これにより、上記したオブジェクトBのデータ群はその生存時間が長くなり、オブジェクトAのデータ群はその生存時間が短くなる。このように求められる生存時間と、上記した位置データ間のユークリッド距離とを組み合わせて用いることで、以下に説明するように位置データの入れ替わりを防ぐことができる。
【0032】
図6(A)は、位置データの推移例を示す図である。なお、この図は上記した
図1(B)に示す位置データの推移例と対応している。ここでも理解を容易にするために位置データとして右角度を示すが左角度についても同様であるとする。また、ユークリッド距離は上記のように右角度と左角度を二軸に対応付けて求められるものとする。図示のように、オブジェクトBのデータ群に対応する位置データ(図中、黒丸で示す)が時刻(t-2)以前から継続して検知されている状況において、時刻(t-2)、時刻(t-1)で誤検知によりオブジェクトAのデータ群に対応する位置データ(図中、黒三角で示す)が生じた場合と考える。このとき、時刻(t)における位置データ(黒丸)について、1つ以前の時刻(t-1)での各位置データとの間でユークリッド距離を求めるとそれぞれx1、x2となり、これらの関係がx2<x1であるとする。また、オブジェクトBに対応するデータ群のほうがオブジェクトAのデータ群よりも生存時間が長いものとする。
【0033】
このとき、本実施形態では、まず生存時間の長いデータ群から順に次の時刻の位置データとの間でユークリッド距離に基づく位置データの関連付け(すなわちデータ群への追加)が行われる。具体的には、
図6(B)に示すように、直近の時刻である時刻(t-1)におけるオブジェクトBのデータ群の位置データ(黒丸)と、次の時刻(t)における位置データとの間の距離が求められる。なお、図の描画範囲外に他の位置データがあるものとする(
図1(B)参照)。求められるユークリッド距離x1、x3を比較するとx1のほうが短いので、このユークリッド距離がx1の位置データがオブジェクトBのデータ群のトラッキング先として関連付けられる。
【0034】
次いで、生存時間の短いデータ群であるオブジェクトAのデータ群(黒三角)と、次の時刻(t)における位置データとの間の距離が求められる。この場合、ユークリッド距離x2、x4を比較するとx2のほうが短いが、すでにこのユークリッド距離がx2に対応する位置データはオブジェクトBのデータ群のトラッキング先として関連付けられているので、図の描画範囲外にある他の位置データがオブジェクトAのデータ群のトラッキング先として関連付けられる。
【0035】
このように、まず生存時間の長い位置データから優先してユークリッド距離に基づく関連付け(データ群への追加)を行うようにすることで、オブジェクトBのデータ群における位置データの連続性が保たれ、位置データの入れ違いが防止される。これに対して、
図6(C)に比較例を示すように、生存時間という概念を用いず、単純に時刻(t-1)と時刻(t)における各位置データ間のユークリッド距離に基づいて関連付けを行った場合には、トラッキング先の入れ違いが生じる。具体的には、時刻(t-1)の後にオブジェクトBは消失(非検知)し、時刻(t)においてはオブジェクトAのみが存在(検知)されている状態となる。
【0036】
図7は、車両用灯具システムのコントローラの動作手順を示すフローチャートである。ここに示す動作手順は、一定期間ごと(例えば50ms毎)に繰り返し行われるものとする。なお、情報処理の結果に矛盾や不整合を生じない限りにおいて図示の各処理ブロックの順序を入れ替えてもよいし、図示しない他の処理ブロックが追加されてもよく、そのような実施態様も排除されない。
【0037】
コントローラ20の車両位置取得部21は、撮像装置10から前方車両の位置データ(右角度、左角度)を取得する(ステップS11)。なお、複数の前方車両が存在する場合に、撮像装置10から出力される位置データには各前方車両を区別するラベルデータが付加されている場合もあるが、本実施形態ではラベルデータによらずコントローラ20側で各位置データと対応する前方車両(オブジェクト)を管理する。撮像装置10によって付加されるラベルデータは必ずしも各前方車両と一意に対応しておらず、各時刻において対応関係が変動し得るからである。
【0038】
コントローラ20の生存時間算出部22は、各データ群の生存時間を算出し、それらの生存時間を各オブジェクトのデータ群に対応付けてメモリに記憶させる(ステップS12)。なお、初回処理時には前回の位置データが存在しないが、その場合には、例えば予め定めた初期値を使って生存時間を算出するか、一律に生存時間を0とする等の対応を採ることができる。
【0039】
次にコントローラ20のトラッキング処理部23は、前回までの処理機会で得られた各オブジェクトのデータ群の生存時間に基づき、生存時間が長い順に、ステップS11で取得された新たな位置データのトラッキング処理を行う(ステップS13)。例えば、オブジェクトBのデータ群の生存時間が相対的に長い場合には、このオブジェクトBに対応する前回の位置データ(直近の位置データ)から先にユークリッド距離に基づく対応付け処理、すなわちトラッキング処理を行い、その後に他のオブジェクトAに対応する前回の位置データについてユークリッド距離に基づくトラッキング処理を行う。
【0040】
トラッキング処理が完了すると、トラッキング処理部23は、オブジェクト毎に新たな位置データを追加したデータ群をメモリに記憶させる(ステップS14)。位置データは、前回以前のものとの時系列が分かるようにし、かつ生存時間と紐づけしてメモリに記憶される。
【0041】
各オブジェクトに対応する位置データが確定すると、各オブジェクトに対応する位置データを用いて配光パターン設定部24により配光パターンが設定され(ステップS15)、この設定された配光パターンに対応する制御信号が制御信号生成部25によって生成され、各車両用灯具30L、30Rに出力される。その後、ステップS11に戻る。
【0042】
図8は、各オブジェクトに対応する位置データを用いた配光制御の一例を模式的に示す図である。図示の例では、先行車である前方車両100が存在しており、いわゆるハイビームの照射範囲内において前方車両100を含む一定範囲を減光範囲(ないし非照射範囲)110aとし、それ以外を光照射範囲110bとした配光パターンによる光照射が行われる。このとき、前方車両100が図中右方向へ車線変化をしており、その移動方向に対応する光照射範囲110bの一部範囲100c(前方車両100に近い一部範囲)の明るさを予め相対的に低下させる制御が行われる。この制御は、例えば前方車両100の急激な移動に伴って光照射範囲110bから減光範囲110aに切り替える制御に遅延が生じるような場合にも前方車両100へグレアを与えることを防ぐ目的で行われる。このような制御の際、前方車両100に対応する位置データの推移が必要となる。前方車両100に対応するオブジェクトの入れ替わりが防止されて連続性のある位置データが得られることで、このような配光制御を精度よく行うことが可能となる。
【0043】
以上のような実施形態によれば、前方車両の位置の時系列で追跡する際の精度を向上させることができる。
【0044】
なお、本開示は上記した実施形態の内容に限定されるものではなく、本開示の要旨の範囲内において種々に変形して実施をすることが可能である。例えば、上記した実施形態ではコントローラ20にて前方車両の位置データが2つ発生する場合について例示していたが、3つ以上の位置データが発生してもよい。この場合でも、各位置データを個別にオブジェクトと関連付けてそれらの生存時間を求め、それらの生存時間とユークリッド距離に基づいて、次の時刻における各位置データのトラッキング先を決定すればよい。
【0045】
また、上記した実施形態では各オブジェクトに対応付けた位置データを利用した配光制御の一例として前方車両の移動方向を予測してその移動方向に応じて光照射範囲の一部範囲の明るさを低下させる制御を挙げていたが配光制御の内容はこれに限定されない。
【符号の説明】
【0046】
10:撮像装置、11:カメラ、12:画像処理プロセッサ、20:コントローラ、21:車両位置取得部、22:生存時間算出部、23:トラッキング処理部、24:配光パターン設定部、25:制御信号生成部、30L、30R:車両用灯具、31:ADBユニット、32:ロービームユニット