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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-20
(45)【発行日】2025-01-06
(54)【発明の名称】測定装置
(51)【国際特許分類】
   G01R 27/26 20060101AFI20241223BHJP
   G01R 31/64 20200101ALI20241223BHJP
【FI】
G01R27/26 C
G01R31/64
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021122212
(22)【出願日】2021-07-27
(65)【公開番号】P2023018243
(43)【公開日】2023-02-08
【審査請求日】2024-03-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000227180
【氏名又は名称】日置電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(74)【代理人】
【識別番号】100194858
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 久子
(72)【発明者】
【氏名】横山 智大
(72)【発明者】
【氏名】岩井 淳一
(72)【発明者】
【氏名】米田 佑樹
(72)【発明者】
【氏名】泉 洸介
【審査官】島田 保
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-55952(JP,A)
【文献】特開平6-148245(JP,A)
【文献】特開2014-220059(JP,A)
【文献】特開2005-37690(JP,A)
【文献】特開2015-53800(JP,A)
【文献】特開昭57-210393(JP,A)
【文献】国際公開第2006/109501(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0185922(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 27/26
G01R 31/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正弦波信号を生成する正弦波信号生成部と、
前記正弦波信号に応じた交流信号電圧を生成する電圧生成部と、
前記電圧生成部で生成した交流信号電圧を被測定物に印加するとともに、該交流信号電圧の印加に応じて該被測定物から出力される電圧および電流をそれぞれ検出するための測定端子と、
前記測定端子を介して検出した電圧および電流を測定する測定部と、を備え、
前記正弦波信号は、正弦波形状に変化する電圧値の最初の立ち上がり区間の間は、所定の周波数成分が抑制されることによって、前記正弦波形状における変化よりもゆるやかに変化するように補正された補正信号によって置換されている、
測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の測定装置であって、
前記最初の立ち上がり区間は、前記正弦波信号の立ち上がりから1周期の4分の1が経過するまでの区間である、
測定装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の測定装置であって、
前記所定の周波数成分は、前記電圧生成部および前記被測定物を含む回路の共振周波数近傍の周波数成分である、
測定装置。
【請求項4】
請求項3に記載の測定装置であって、
前記補正信号は、前記正弦波信号の最初の4分の1波に、前記共振周波数近傍の周波数成分を抑制する窓関数を乗算して得られた信号である、
測定装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の測定装置であって、
測定条件の入力を受け付ける入力部と、
前記入力された測定条件に基づいて、測定条件を設定する測定条件設定部と、をさらに備え、
前記正弦波信号生成部は、前記測定条件設定部で設定した測定条件に応じた正弦波信号を生成する、
測定装置。
【請求項6】
請求項5に記載の測定装置であって、
前記測定条件設定部は、前記入力された測定条件に基づいて、リンギングが収束する時間期間が、正弦波信号の最初の4分の1周期の時間期間より短い場合は、補正信号による置換を不可と判定し、正弦波信号の最初の4分の1周期の間より長い場合は、補正信号による置換を可と判定して、判定した結果を測定条件として設定する、
測定装置。
【請求項7】
請求項5または6に記載の測定装置であって、
前記測定条件に応じた、補正データと正弦波データとを予め格納したデータテーブルをさらに備え、
前記正弦波信号生成部は、測定条件に対応した補正信号に置換するように、前記測定条件に応じて、前記データテーブルに予め格納された補正データと正弦波データとを取得する、測定装置。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載の測定装置であって、
前記測定部は、測定した電圧および電流に基づいて前記被測定物のキャパシタンスを特定する、
測定装置。
【請求項9】
請求項1から7のいずれか1項に記載の測定装置であって、
前記測定部は、測定した電圧および電流に基づいて前記被測定物のインピーダンスを特定する、
測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定装置に関し、交流信号電圧を印加して、電流および電圧を測定することで被測定物の電気的特性を測定することができる測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、被測定物の電気的性質としてインピーダンスを測定する測定装置が記載されている。この測定装置では、正弦波信号である交流信号電圧を生成して被測定物に印加し、交流信号電圧印加時における、被測定物の両端間電圧と、被測定物に流れる電流とを検出して、被測定物の電気的特性としてインピーダンスを測定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-278977号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
被測定物に交流信号電圧を印加する場合、被測定物への正弦波信号の印加直後は、無入力からの急激な信号印加となることから、本来、被測定物に印加されるべき所望の信号周波数以外の周波数成分、すなわち予期せぬ周波数成分が被測定物に印加されてしまう。
【0005】
信号印加直後の予期せぬ周波数成分が、発生回路と被測定物とによって決まる共振周波数帯と重なった時に、不安定な状態となり、電圧・電流波形にはリンギングが発生する。
【0006】
測定装置において、正しい測定結果を得るためには、リンギングが収束するまで待ってから測定を開始する必要があり、タクトタイムのわずかな増加が生産性に大きな影響を与える測定装置において無視できない問題となっている。
【0007】
本発明は上記従来の問題に鑑みなされたものであって、本発明の課題は、交流信号電圧の印加直後に発生するリンギングを抑制することにより測定開始の遅延を抑制することができる測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の代表的な実施の形態に係る測定装置は、正弦波信号を生成する正弦波信号生成部と、前記正弦波信号に応じた交流信号電圧を生成する電圧生成部と、前記電圧生成部で生成した交流信号電圧を被測定物に印加するとともに、該交流信号電圧の印加に応じて該被測定物から出力される電圧および電流をそれぞれ検出するための測定端子と、前記測定端子を介して検出した電圧および電流を測定する測定部と、を備え、前記正弦波信号は、正弦波形状に変化する電圧値の最初の立ち上がり区間の間は、所定の周波数成分が抑制されることによって、前記正弦波形状における変化よりもゆるやかに変化するように補正された補正信号によって置換されている。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る測定装置によれば、交流信号電圧の印加直後に発生するリンギングを抑制することにより測定開始の遅延を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本実施形態に係る測定装置の概略構成を示す図である。
図2】従来の測定装置における交流信号電圧の波形を示す図である。
図3】本実施形態の測定装置1における交流信号電圧の波形を示す図である。
図4図2に示す交流信号電圧の周波数特性を示す図である。
図5図3に示す交流信号電圧の周波数特性を示す図である。
図6図4図5の周波数特性を重ねて表示した図である。
図7】補正信号の生成手法の一例を説明するための図である。
図8】データ格納部14の構成例を示す図である。
図9】本実施形態の測定装置1におけるキャパシタンス測定の処理流れを示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
1.実施の形態の概要
先ず、本願において開示される発明の代表的な実施の形態について概要を説明する。なお、以下の説明では、一例として、図1における発明の構成要素に対応する図面上の参照符号を、括弧を付して記載している。
【0012】
〔1〕代表的な実施の形態に係る測定装置は、正弦波信号を生成する正弦波信号生成部(13)と、前記正弦波信号に応じた交流信号電圧を生成する電圧生成部(16)と、前記電圧生成部(16)で生成した交流信号電圧を被測定物(100)に印加するとともに、該交流信号電圧の印加に応じて該被測定物から出力される電圧および電流をそれぞれ検出するための測定端子(Hp、Hc、Lp、Lc)と、前記測定端子(Hp、Hc、Lp、Lc)を介して検出した電圧および電流を測定する測定部(31,32,35)と、を備え、前記正弦波信号は、正弦波形状に変化する電圧値の最初の立ち上がり区間の間は、所定の周波数成分が抑制されることによって、前記正弦波形状における変化よりもゆるやかに変化するように補正された補正信号によって置換されている。
【0013】
この態様によれば、交流信号電圧の印加直後に発生するリンギングを抑制することにより測定開始の遅延を抑制することができる。
【0014】
〔2〕上記〔1〕に記載の測定装置において、前記最初の立ち上がり区間は、前記正弦波信号の立ち上がりから1周期の4分の1が経過するまでの区間であることとしてもよい。
【0015】
この態様によれば、正弦波信号の1周期の4分の1が経過するときは、正弦波信号の振幅の変化が最も少ないので、このタイミングで補正信号と置換される前の正弦波信号とを接続することで、接続部分における信号の変化をより少なくすることができるので、信号が乱れることなく安定した測定に寄与することができる。
【0016】
〔3〕上記〔1〕または〔2〕に記載の測定装置において、前記所定の周波数成分は、前記電圧生成部および前記被測定物を含む回路の共振周波数近傍の周波数成分であることとしてもよい。
【0017】
この態様によれば、回路の共振周波数の近傍の予期せぬ周波数成分の発生が抑制されると、その結果、交流信号電圧印加直後に発生するリンギングを抑制することができる。
【0018】
〔4〕上記〔3〕に記載の測定装置において、前記補正信号は、前記正弦波信号の最初の4分の1波に、前記共振周波数近傍の周波数成分を抑制する窓関数を乗算して得られた信号であることとしてもよい。
【0019】
この態様によれば、信号立ち上がりにおける所定の周波数成分を抑制することによって補正した信号である補正信号が生成することができる。
【0020】
〔5〕上記〔1〕から〔4〕のいずれかに記載の測定装置において、測定条件の入力を受け付ける入力部と、前記入力された測定条件に基づいて、測定条件を設定する測定条件設定部と、をさらに備え、前記正弦波信号生成部は、前記測定条件設定部で設定した測定条件に応じた正弦波信号を生成することとしてもよい。
【0021】
この態様によれば、測定条件に応じた正弦波信号を生成することで測定開始を早くすることができ、測定開始の遅延を抑制することができるので、タクトタイムの増加を回避することができる。
【0022】
〔6〕上記〔5〕に記載の測定装置において、前記測定条件設定部は、前記入力された測定条件に基づいて、リンギングが収束する時間期間が、正弦波信号の最初の4分の1周期の時間期間より短い場合は、補正信号による置換を不可と判定し、正弦波信号の最初の4分の1周期の間より長い場合は、補正信号による置換を可と判定して、判定した結果を測定条件として設定することとしてもよい。
【0023】
この態様によれば、リンギングの収束時間を考慮して生成する正弦波信号に代えて、リンギングの収束時間に応じて測定開始を早くすることができ、測定開始の遅延を抑制することができるので、タクトタイムの増加を回避することができる。
【0024】
〔7〕上記〔5〕または〔6〕に記載の測定装置において、前記測定条件に応じた、補正データと正弦波データとを予め格納したデータテーブルをさらに備え、前記正弦波信号生成部は、測定条件に対応した補正信号に置換するように、前記測定条件に応じて、前記データテーブルに予め格納された補正データと正弦波データとを取得することとしてもよい。
【0025】
この態様によれば、条件に対応したデータを格納したデータテーブルを持っているため、作業者が入力した測定条件に基づいて順次測定を開始できるため、処理(速度)が速くなる。
【0026】
〔8〕上記〔1〕から〔7〕のいずれかに記載の測定装置において、前記測定部は、測定した電圧および電流に基づいて前記被測定物のキャパシタンスを特定することとしてもよい。
【0027】
この態様によれば、被測定物のキャパシタンス測定をすることができる。
【0028】
〔9〕上記〔1〕から〔7〕のいずれかに記載の測定装置において、前記測定部は、測定した電圧および電流に基づいて前記被測定物のインピーダンスを特定することとしてもよい。
【0029】
この態様によれば、被測定物のインピーダンス測定をすることができる。
【0030】
2.実施の形態の具体例
以下、本発明の実施の形態の具体例について図を参照して説明する。なお、以下の説明において、各実施の形態において共通する構成要素には同一の参照符号を付し、繰り返しの説明を省略する。また、図面は模式的なものであり、各要素の寸法の関係、各要素の比率などは、現実と異なる場合があることに留意する必要がある。図面の相互間においても、互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている場合がある。
【0031】
(実施形態)
図1は、本実施形態に係る測定装置の概略構成を示す図である。
【0032】
本実施形態の測定装置1は、被測定物(以下、DUT:Device Under Testともいう)100に対して、交流信号電圧を印加したときに被測定物100における電圧および電流を測定することにより、被測定物100のキャパシタンスを特定するキャパシタンス測定を実行する測定装置として構成することができる。被測定物100は例えばコンデンサとすることができる。
【0033】
本実施形態の測定装置1では、測定に際して、正弦波信号に応じた電圧を交流信号電圧として生成する。ここで、本実施形態の測定装置1において生成される正弦波信号と交流信号電圧について従来の測定装置におけるものと比較して説明する。
【0034】
図2は、従来の測定装置における交流信号電圧の波形を示す図である。図3は、本実施形態の測定装置1における交流信号電圧の波形を示す図である。図4は、図2に示す交流信号電圧の周波数特性を示す図である。図5は、図3に示す交流信号電圧の周波数特性を示す図である。図6図4図5の周波数特性を重ねて表示した図である。
【0035】
従来の測定装置における交流信号電圧は、図2に示すように、正弦波形状の波形となっている。一方、図3に示すように、本実施形態における交流信号電圧の波形は、基本的には従来と同様に正弦波形状であるが、最初の立ち上がり区間の間は、正弦波形状とは異なる波形形状となっている。図3からも明らかなように、最初の立ち上がり区間の間は、正弦波形状における変化よりもゆるやかに変化するように補正された波形形状となっている。これは、交流信号電圧を生成するために用いられた正弦波信号の最初の立ち上がり区間が、補正信号に置換されていることによる。補正信号は、信号立ち上がりにおける所定の周波数成分を抑制することによって補正した信号である。
【0036】
補正信号によって置換される正弦波信号の最初の立ち上がり区間は、例えば置換される正弦波信号の1周期の4分の1が経過するまでの区間とされる。正弦波信号の1周期の4分の1が経過するときは、正弦波信号の振幅の変化が最も少ないので、このタイミングで補正信号と置換される前の正弦波信号とを接続することで、接続部分における信号の変化をより少なくすることができる。接続部分における信号の変化を少なくすることで、信号が乱れることなく安定した測定に寄与する。補正信号と置換される前の正弦波信号とを接続する箇所は、正弦波信号の1周期の4分の1が経過する箇所に限らず正弦波信号の振幅の変化が少ない箇所であればよい。
【0037】
ここで補正信号の生成手法について説明する。
【0038】
図7は補正信号の生成手法の一例を説明するための図である。この例では、窓関数を用いた生成手法を例に挙げて説明するが用いる関数は特に限定されない。
【0039】
図7に示すように、正弦波信号の4分の1波と同じ時間期間において0から1まで次第に増加する窓関数を、正弦波信号の元波形の4分の1波よりも長い期間となるように、所定の期間まで引き延ばしたものを用いる。引き延ばした窓関数において、最初の時間期間の部分を除去して正弦波信号の4分の1波と同じ時間期間となったものを対応する正弦波信号に乗算する。このような処理をした窓関数を正弦波信号の最初の4分の1波の部分に作用させることにより、信号立ち上がりにおける所定の周波数成分を抑制することによって補正した信号である補正信号が生成できる。
【0040】
最適な窓関数は、測定条件と回路による共振周波数成分を落とすものが選定される。例えば、窓関数を引き延ばす所定の期間を大きくすることにより、抑制する周波数成分がより高い周波数成分となる。したがって、回路の共振周波数に応じて用いる窓関数を引き延ばす所定の期間を調整すればよい。
【0041】
このように、補正信号は、正弦波信号の最初の立ち上がり区間である元波形の4分の1波に、信号立ち上がりにおける所定の周波数成分を抑制する関数を作用させることにより生成することができる。
【0042】
図2に示す交流信号電圧の周波数特性は、図4に示すように、正弦波信号の周波数をピークに、連続的な周波数成分を有している。正弦波信号の周波数成分は、被測定物に印加すべき交流信号電圧の周波数成分である。被測定物に印加すべき交流信号電圧の周波数成分以外の周波数成分は、測定装置も含む測定対象の回路において無印加の状態から交流信号電圧を印加したことによる系の乱れによるものであって、予期せぬ周波数成分であると考えられる。
【0043】
一方で、図3に示す交流信号電圧の周波数特性は、図5に示す周波数特性となっている。図6から明らかなように、正弦波信号の周波数にピークを有している点は図4の周波数特性と共通しているが、図5のものは所定の周波数成分が抑制されている点が異なる。具体的には、図5に示す周波数特性は5500Hz近傍の部分を中心に急激に成分が落ちている箇所がある。
【0044】
本実施形態の測定装置1では、この抑制された所定の周波数成分が測定装置も含む測定対象の回路の共振周波数の近傍となっている。回路の共振周波数の近傍の予期せぬ周波数成分の発生が抑制されると、その結果、交流信号電圧印加直後に発生するリンギングを抑制することができる。リンギングは交流信号電圧印加直後に発生する予期せぬ周波数成分によって、回路の共振が生ずることによって発生すると考えられるからである。したがって、測定対象の回路の共振周波数の近傍の周波数成分を抑制した補正信号によって最初の立ち上がり区間の正弦波信号を置換した正弦波信号に応じて生成した交流信号電圧によれば、交流信号電圧印加直後に発生するリンギングを抑えることができる。
【0045】
なお、補正信号は、測定用の交流信号電圧とは異なる信号であるため、補正信号に応じて生成された電圧は、測定に用いることはできない。したがって、最初の4分の1周期の間は測定を開始しない。
【0046】
このように、本実施形態の測定装置1では、最初の立ち上がり区間の間は補正信号に置換された正弦波信号を生成し、置換済みの正弦波信号に応じた交流信号電圧信号を生成することにより、交流信号電圧印加直後に発生するリンギングを抑制している。
【0047】
本実施形態の測定装置1は、図1に示すように、入出力インタフェース10と、入力部11と、測定条件設定部12と、正弦波信号生成部13と、データ格納部14と、D/A変換回路15と、電圧生成回路16と、電圧測定回路31と、電流測定回路32と、A/D変換回路33と、A/D変換回路34と、演算部35と、出力部36と、を備えて構成されている。
【0048】
入出力インタフェース10は、測定条件などの情報をユーザが入力したり、測定結果を確認するために使用されるインタフェース装置である。入出力インタフェース10は、例えば入力された情報、測定結果、測定装置1の状態などを表示する表示画面や、ダイヤル、ボタンなどの操作部などによって構成される。
【0049】
図1の測定装置1において、入力部11と測定条件設定部12と正弦波信号生成部13とデータ格納部14と演算部35と出力部36とは、例えば、CPU等のプロセッサ、ROMやRAM等の各種メモリ、タイマ(カウンタ)、A/D変換回路、入出力I/F回路、およびクロック生成回路等のハードウェア要素を有し、各構成要素がバスや専用線を介して互いに接続されたマイクロプロセッサ(MPU)20によって構成することができる。
【0050】
MPU20は、正弦波信号を生成して被測定物100のキャパシタンスを測定する機能部として、入力部11と測定条件設定部12と正弦波信号生成部13とデータ格納部14と演算部35と出力部36とを有している。これらの各機能部は、例えば、MPU20のプロセッサがメモリ等に記憶されたプログラムに従って各種演算を行うとともにA/D変換回路および入出力I/F回路等の周辺回路を制御することによって実現することができる。
【0051】
入力部11は、入出力インタフェース10を介して入力された測定条件などの情報を受け付ける。
【0052】
測定条件設定部12は、入力部11を介して入力された測定条件の情報に基づいて、測定条件を設定する。例えば、測定対象となるコンデンサ等の容量値の範囲と被測定物に入力する交流信号電圧信号の周波数である測定周波数とが入力部11を介して入力されると、測定条件設定部12は、これらの情報に基づいて補正信号による置換をするか否かを決定する。測定条件設定部12は、入力された測定条件である容量値の範囲および測定周波数と決定した補正信号による置換可否の情報を測定条件として設定する。
【0053】
ここで測定条件の設定について説明する。本実施形態の測定装置1では、補正信号は、測定用の交流信号電圧に対応する正弦波信号とは異なる信号であるため、補正信号に応じて生成された電圧は被測定物100のキャパシタンス測定には用いない。すなわち、補正信号で置換された正弦波信号を用いる場合は、最初の4分の1周期の間は被測定物100のキャパシタンス測定を開始しない。一方、補正信号で置換しない正弦波信号を用いる場合は、リンギングが発生するため、リンギングが収束するまで被測定物100のキャパシタンス測定を開始できない。したがって、本実施形態の測定装置1では、測定条件設定部12は、リンギングが収束する時間期間が、正弦波信号の最初の4分の1周期の時間期間より短い場合は、補正信号による置換を不可と判定し、正弦波信号の最初の4分の1周期の間より長い場合は、補正信号による置換を可と判定している。この構成により、測定開始の遅延を抑制することができるので、タクトタイムの増加を回避することができる。
【0054】
測定条件設定部12は、設定した測定条件を、正弦波信号生成部13と演算部35とに出力する。
【0055】
正弦波信号生成部13は、測定条件に基づいて、正弦波信号を生成する。正弦波信号生成部13は、測定条件に応じた正弦波データおよび補正データをデータ格納部14から取得して、D/A変換回路15に出力する。
【0056】
データ格納部14は、測定条件ごとの正弦波データおよび補正データを予め格納している。
【0057】
図8は、データ格納部14の構成例を示す図である。図8に示すように、データ格納部14には、補正信号によって置換された測定周波数ごとの補正データ(補正信号の値)と補正信号によって置換されていない測定周波数ごとの正弦波データ(正弦波信号の値)とがそれぞれ格納されている。すなわち、データ格納部14は、測定条件(測定周波数や補正信号による置換の可否)ごとの補正データと正弦波データを格納するデータテーブルである。
【0058】
正弦波信号生成部13は、測定条件のうちの測定周波数と補正信号による置換の可否とに応じた正弦波データまたは補正データをデータ格納部14から取得し、正弦波信号を生成する。
【0059】
D/A変換回路15は、入力されたデジタルの正弦波信号をアナログの正弦波信号に変換し、電圧生成回路16に出力する。
【0060】
電圧生成回路16は、入力されたアナログの正弦波信号に応じた電圧を交流信号電圧として生成して、Hc端子を介して、被測定物100に測定用電流を入力する。電圧測定回路31は、例えば、ゲインアンプによって構成することができるが、これらの構成に限定されない。
【0061】
電圧測定回路31は、Hp端子とLp端子を介して、被測定物100の両端電圧を測定する。電圧測定回路31は、例えば、差動増幅回路とフィルタ回路とゲインアンプとによって構成することができるが、これらの構成に限定されない。
【0062】
電流測定回路32は、Lc端子から入力される電流、すなわち、被測定物100を流れた電流を測定する。電流測定回路32は、I-V変換回路とフィルタ回路とゲインアンプとによって構成することができるが、これらの構成に限定されない。
【0063】
A/D変換回路33は、電圧測定回路31で測定された電圧をデジタル信号に変換して演算部35に出力する。
【0064】
A/D変換回路34は、電流測定回路32で測定された電流をデジタル信号に変換して演算部35に出力する。
【0065】
演算部35は、電圧測定回路31で測定した電圧と電流測定回路32で測定した電流とに基づいて被測定物100の容量値を測定するキャパシタンス測定を実行する。演算部35は、測定条件設定部12が設定した測定条件に基づいてキャパシタンス測定を実行する。演算部35は、設定された測定条件が、補正信号を使用することを指定している場合は、測定開始から正弦波信号の4分の1周期が経過するまで待ってキャパシタンス測定を開始する。演算部35は、設定された測定条件が、補正信号を使用しないことを指定している場合は、リンギングが収束するまで待ってキャパシタンス測定を開始する。
【0066】
出力部36は、キャパシタンス測定により特定したキャパシタンスを入出力インタフェース10に出力する。
【0067】
次に、本実施形態の測定装置1におけるキャパシタンス測定の処理流れについて説明する。
【0068】
図9は、本実施形態の測定装置1におけるキャパシタンス測定の処理流れを示すフロー図である。
【0069】
まず、入出力インタフェース10を介して、入力部11において測定条件を受け付ける(ステップS1)と、測定条件設定部12は、測定条件が収束条件を満たしているか否かを判定する(ステップS2)。例えば、測定条件に応じた回路で測定条件に基づいて生成される交流信号電圧におけるリンギングが収束する時間期間が、正弦波信号の最初の4分の1周期の時間期間より短い場合に収束条件を満たしていると判定する。
【0070】
ステップS2において、収束条件を満たさないと判定された場合(ステップS2:NO)は、正弦波信号生成部13は、測定条件の測定周波数であって、補正信号によって置換された正弦波データをデータ格納部14から取得して、補正信号によって置換された正弦波信号を生成する(ステップS3)。
【0071】
一方、ステップS2において、収束条件を満たすと判定された場合(ステップS2:YES)は、正弦波信号生成部13は、測定条件の測定周波数であって、補正信号によって置換されていない通常の正弦波データをデータ格納部14から取得して、補正信号によって置換されていない正弦波信号を生成する(ステップS5)。
【0072】
正弦波信号生成部13は、正弦波信号の生成開始から正弦波信号の4分の1周期の時間期間が経過したか否かを判定し(ステップS4)、経過したと判定した場合は(ステップS4:YES)、測定条件の測定周波数であって、補正信号によって置換されていない通常の正弦波データをデータ格納部14から取得して、補正信号によって置換されていない正弦波信号を生成する(ステップS5)。
【0073】
正弦波信号生成部13は、正弦波信号の生成開始から正弦波信号の4分の1周期の時間期間が経過していないと判定すると(ステップS4:NO)、補正信号によって置換された正弦波データをデータ格納部14から取得して、補正信号によって置換された正弦波信号を生成する(ステップS3)。
【0074】
正弦波信号生成部13は、正弦波信号の生成終了と判定するまでステップS5の処理を繰り返す(ステップS6)。
【0075】
このように、本実施形態の測定装置1によれば、最初の立ち上がり区間の間は補正信号に置換された正弦波信号を生成し、置換済みの正弦波信号に応じた交流信号電圧信号を生成することにより、交流信号電圧印加直後に発生するリンギングを抑制することができる。さらに、収束条件を満たさない場合に、補正信号によって置換された正弦波信号を用いることによって、タクトタイムの増加を回避することができる。
【0076】
(実施形態の変形例)
以上の実施形態の測定装置について具体的な例を挙げて説明したが、これに限定されず、様々な変形形態を採用することができる。例えば、測定装置1の構成は、図1に示した構成に限定されない。例えば、入力側の構成(入力部11、測定条件設定部12、正弦波信号生成部13、データ格納部14)と出力側の構成(演算部35、出力部36)とを別個のMPU20で構成してもよい。
【0077】
例えば、データ格納部14の構成も、最初の一波のみ補正信号によって置換された正弦波信号と通常の正弦波信号とを測定周波数ごとに格納する構成であってもよい。
【0078】
また例えば、キャパシタンス測定の処理流れを示すフロー図も図9の構成に限定されない。収束条件を満たさない場合(ステップS2:NO)に、補正データを取得し(ステップS3)、正弦波信号の4分の1周期の時間期間が経過したか否かを判定する(ステップS4)構成に代えて、最初の一波のみ補正信号によって置換された正弦波信号をデータ格納部14から取得する構成としてもよい。
【0079】
以上の実施形態では、測定装置1は、被測定物100のキャパシタンス測定を行う、いわゆるキャパシタンスメータである場合を例に挙げて説明したが、これに限定されない。測定装置1は、例えば、被測定物100のインピーダンス測定を行うLCRメータやリアクタンス測定を行うリアクタンスメータであってもよい。
【符号の説明】
【0080】
1 測定装置、10 入出力インタフェース、11 入力部、12 測定条件設定部、13 正弦波信号生成部、14 データ格納部、15 D/A変換回路、16 電圧生成回路、20 MPU、31 電圧測定回路、32 電流測定回路、33 A/D変換回路、34 A/D変換回路、35 演算部、36 出力部、100 被測定物(DUT)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9