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特許7608291磁気抵抗効果素子、磁気アレイ及び磁化回転素子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-20
(45)【発行日】2025-01-06
(54)【発明の名称】磁気抵抗効果素子、磁気アレイ及び磁化回転素子
(51)【国際特許分類】
   H10D 48/40 20250101AFI20241223BHJP
   H10N 50/10 20230101ALI20241223BHJP
   H10B 61/00 20230101ALI20241223BHJP
【FI】
H01L29/82 Z
H10N50/10 Z
H10B61/00
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021130615
(22)【出願日】2021-08-10
(65)【公開番号】P2023025398
(43)【公開日】2023-02-22
【審査請求日】2024-03-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100169694
【弁理士】
【氏名又は名称】荻野 彰広
(74)【代理人】
【識別番号】100114937
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 裕幸
(72)【発明者】
【氏名】小村 英嗣
【審査官】柴山 将隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-157111(JP,A)
【文献】特開2020-053509(JP,A)
【文献】国際公開第2019/139025(WO,A1)
【文献】特開2019-149403(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0152251(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 29/82
H10N 50/10
H10B 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1強磁性層と、第2強磁性層と、前記第1強磁性層と前記第2強磁性層との間に挟まれた非磁性層と、を備える積層体と、
前記積層体の前記第1強磁性層側に接続されたスピン軌道トルク配線と、
前記積層体と前記スピン軌道トルク配線との間に部分的に挟まれたスペーサー層と、を備え、
前記スピン軌道トルク配線に沿って書き込み電流を流すことで、前記第1強磁性層にスピンを注入し、前記第1強磁性層の磁化の配向方向を変化できるように構成され、
前記第1強磁性層の前記スピン軌道トルク配線側の第1面は、前記積層体の積層方向から見て前記スペーサー層と重なる重畳面と、前記積層方向から見て前記スペーサー層と重ならない非重畳面と、を有し、
前記重畳面と前記非重畳面とは、前記積層方向の高さが異なり、
前記重畳面の面積は、前記非重畳面の面積より広く、
前記スペーサー層の厚みは、積層体と接する部分と接しない部分とで略同一であり、
前記重畳面と前記非重畳面との間に段差がある、磁気抵抗効果素子。
【請求項2】
前記スペーサー層は、開口を有し、
前記積層体は、前記開口を覆っている、請求項1に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項3】
前記スピン軌道トルク配線が延びる第1方向及び前記積層方向に沿った断面において、前記重畳面は第1重畳領域と第2重畳領域とを有し、
前記第1重畳領域と前記第2重畳領域とは、前記第1方向において、前記積層体の前記第1方向の中点を挟む位置にある、請求項1又は2に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項4】
前記非磁性層は、前記積層方向から見て前記スペーサー層と重なる第1部分と、前記積層方向から見て前記スペーサー層と重ならない第2部分と、を有し、
前記第1部分と前記第2部分とは、前記積層方向の高さが異なる、請求項1~3のいずれか一項に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項5】
前記非磁性層は、前記積層方向から見て前記スペーサー層と重なる第1部分と、前記積層方向から見て前記スペーサー層と重ならない第2部分と、を有し、
前記非磁性層は、前記第2部分が前記第1部分より前記スピン軌道トルク配線に近くなるように湾曲している、請求項1~4のいずれか一項に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項6】
前記積層体の側面及び前記スピン軌道トルク配線を覆う絶縁層をさらに備え、
前記スペーサー層は、前記絶縁層と前記スピン軌道トルク配線との間にある、請求項1~5のいずれか一項に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項7】
前記スペーサー層の前記積層体と接する部分の厚さは、前記スペーサー層のスピン拡散長より厚い、請求項1~のいずれか一項に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項8】
前記スペーサー層の前記積層体と接する部分の厚さは、前記スペーサー層のスピン拡散長より薄い、請求項1~のいずれか一項に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項9】
前記スペーサー層は、金属である、請求項1~のいずれか一項に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項10】
前記スペーサー層は、酸化物、窒化物又は酸窒化物である、請求項1~のいずれか一項に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の磁気抵抗効果素子を複数備える、磁気アレイ。
【請求項12】
第1強磁性層と、
前記第1強磁性層に接続されたスピン軌道トルク配線と、
前記第1強磁性層と前記スピン軌道トルク配線との間に部分的に挟まれたスペーサー層と、を備え、
前記第1強磁性層の前記スピン軌道トルク配線側の第1面は、前記第1強磁性層の積層方向から見て前記スペーサー層と重なる重畳面と、前記積層方向から見て前記スペーサー層と重ならない非重畳面と、を有し、
前記重畳面と前記非重畳面とは、前記積層方向の高さが異なり、
前記重畳面の面積は、前記非重畳面の面積より広く、
前記スペーサー層の厚みは、積層体と接する部分と接しない部分とで略同一であり、
前記重畳面と前記非重畳面との間に段差がある、磁化回転素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気抵抗効果素子、磁気アレイ及び磁化回転素子に関する。
【背景技術】
【0002】
強磁性層と非磁性層の多層膜からなる巨大磁気抵抗(GMR)素子、及び、非磁性層に絶縁層(トンネルバリア層、バリア層)を用いたトンネル磁気抵抗(TMR)素子は、磁気抵抗効果素子として知られている。磁気抵抗効果素子は、磁気センサ、高周波部品、磁気ヘッド及び不揮発性ランダムアクセスメモリ(MRAM)への応用が可能である。
【0003】
MRAMは、磁気抵抗効果素子が集積された記憶素子である。MRAMは、磁気抵抗効果素子における非磁性層を挟む二つの強磁性層の互いの磁化の向きが変化すると、磁気抵抗効果素子の抵抗が変化するという特性を利用してデータを読み書きする。強磁性層の磁化の向きは、例えば、電流が生み出す磁場を利用して制御する。また例えば、強磁性層の磁化の向きは、磁気抵抗効果素子の積層方向に電流を流すことで生ずるスピントランスファートルク(STT)を利用して制御する。
【0004】
STTを利用して強磁性層の磁化の向きを書き換える場合、磁気抵抗効果素子の積層方向に電流を流す。書き込み電流は、磁気抵抗効果素子の特性劣化の原因となる。
【0005】
近年、書き込み時に磁気抵抗効果素子の積層方向に電流を流さなくてもよい方法に注目が集まっている。その一つの方法が、スピン軌道トルク(SOT)を利用した書込み方法である(例えば、特許文献1)。SOTは、スピン軌道相互作用によって生じたスピン流又は異種材料の界面におけるラシュバ効果により誘起される。磁気抵抗効果素子内にSOTを誘起するための電流は、磁気抵抗効果素子の積層方向と交差する方向に流れる。すなわち、磁気抵抗効果素子の積層方向に電流を流す必要がなく、磁気抵抗効果素子の長寿命化が期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2017-216286号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
磁気アレイは、集積された複数の磁気抵抗効果素子を有する。それぞれの磁気抵抗効果素子の反転電流密度が大きくなると、磁気アレイの消費電力が増加する。反転電流密度は、磁気抵抗効果素子の磁化を反転するのに要する電流密度であり、磁気抵抗効果素子は磁化が反転することで動作する。磁気抵抗効果素子の反転電流密度を低減し、磁気アレイの消費電力を抑制することが求められている。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、消費電力の少ない磁気抵抗効果素子、磁気アレイ及び磁化回転素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を提供する。
【0010】
(1)第1の態様にかかる磁気抵抗効果素子は、第1強磁性層と、第2強磁性層と、前記第1強磁性層と前記第2強磁性層との間に挟まれた非磁性層と、を備える積層体と、前記積層体の前記第1強磁性層側に接続された配線と、前記積層体と前記配線との間に部分的に挟まれたスペーサー層と、を備え、前記第1強磁性層の前記配線側の第1面は、前記積層体の積層方向から見て前記スペーサー層と重なる重畳面と、前記積層方向から見て前記スペーサー層と重ならない非重畳面と、を有し、前記重畳面と前記非重畳面とは、前記積層方向の高さが異なる。
【0011】
(2)上記態様にかかる磁気抵抗効果素子において、前記スペーサー層は、開口を有し、前記積層体は、前記開口を覆っていてもよい。
【0012】
(3)上記態様にかかる磁気抵抗効果素子の前記配線が延びる第1方向及び前記積層方向に沿った断面において、前記重畳面は第1重畳領域と第2重畳領域とを有してもよい。前記第1重畳領域と前記第2重畳領域とは、前記第1方向において、前記積層体の前記第1方向の中点を挟む位置にある。
【0013】
(4)上記態様にかかる磁気抵抗効果素子において、前記非磁性層は、前記積層方向から見て前記スペーサー層と重なる第1部分と、前記積層方向から見て前記スペーサー層と重ならない第2部分と、を有する。前記第1部分と前記第2部分とは、前記積層方向の高さが異なってもよい。
【0014】
(5)上記態様にかかる磁気抵抗効果素子において、前記非磁性層は、前記積層方向から見て前記スペーサー層と重なる第1部分と、前記積層方向から見て前記スペーサー層と重ならない第2部分と、を有する。前記非磁性層は、前記第2部分が前記第1部分より前記配線に近くなるように湾曲していてもよい。
【0015】
(6)上記態様にかかる磁気抵抗効果素子は、前記積層体の側面及び前記配線を覆う絶縁層をさらに備えてもよい。前記スペーサー層は、前記絶縁層と前記配線との間にあってもよい。
【0016】
(7)上記態様にかかる磁気抵抗効果素子において、前記重畳面の面積は、前記非重畳面の面積より広くてもよい。
【0017】
(8)上記態様にかかる磁気抵抗効果素子において、前記非重畳面の面積は、前記重畳面の面積より広くてもよい。
【0018】
(9)上記態様にかかる磁気抵抗効果素子において、前記スペーサー層の前記積層体と接する部分の厚さは、前記スペーサー層のスピン拡散長より厚くてもよい。
【0019】
(10)上記態様にかかる磁気抵抗効果素子において、前記スペーサー層の前記積層体と接する部分の厚さは、前記スペーサー層のスピン拡散長より薄くてもよい。
【0020】
(11)上記態様にかかる磁気抵抗効果素子において、前記スペーサー層の前記積層体と接する部分の厚さは、前記スペーサー層の前記積層体と接しない部分の厚さより薄くてもよい。
【0021】
(12)上記態様にかかる磁気抵抗効果素子において、前記スペーサー層は、金属でもよい。
【0022】
(13)上記態様にかかる磁気抵抗効果素子において、前記スペーサー層は、酸化物、窒化物又は酸窒化物でもよい。
【0023】
(14)第2の態様にかかる磁気アレイは、上記態様にかかる磁気抵抗効果素子を複数備える。
【0024】
(15)第3の態様にかかる磁化回転素子は、第1強磁性層と、前記第1強磁性層に接続された配線と、前記第1強磁性層と前記配線との間に部分的に挟まれたスペーサー層と、を備え、前記第1強磁性層の前記配線側の第1面は、前記第1強磁性層の積層方向から見て前記スペーサー層と重なる重畳面と、前記積層方向から見て前記スペーサー層と重ならない非重畳面と、を有し、前記重畳面と前記非重畳面とは、前記積層方向の高さが異なる。
【発明の効果】
【0025】
本発明にかかる磁気抵抗効果素子、磁気アレイ及び磁化回転素子は、消費電力が少ない。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】第1実施形態にかかる磁気アレイの回路図である。
図2】第1実施形態にかかる磁気アレイの特徴部分の断面図である。
図3】第1実施形態にかかる磁気抵抗効果素子の断面図である。
図4】第1実施形態にかかる磁気抵抗効果素子の平面図である。
図5】第1変形例にかかる磁気抵抗効果素子の平面図である。
図6】第2実施形態にかかる磁気抵抗効果素子の断面図である。
図7】第3実施形態にかかる磁気抵抗効果素子の断面図である。
図8】第4実施形態にかかる磁気抵抗効果素子の断面図である。
図9】第4実施形態にかかる磁気抵抗効果素子の平面図である。
図10】第5実施形態にかかる磁気抵抗効果素子の平面図である。
図11】第6実施形態にかかる磁化回転素子の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本実施形態について、図を適宜参照しながら詳細に説明する。以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などは実際とは異なっていることがある。以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、本発明の効果を奏する範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0028】
まず方向について定義する。後述する基板Sub(図2参照)の一面の一方向をx方向、x方向と直交する方向をy方向とする。x方向は、例えば、第1導電層41から第2導電層42へ向かう方向である。x方向は、第1方向の一例である。z方向は、x方向及びy方向と直交する方向である。z方向は、積層方向の一例である。以下、+z方向を「上」、-z方向を「下」と表現する場合がある。上下は、必ずしも重力が加わる方向とは一致しない。
【0029】
本明細書で「x方向に延びる」とは、例えば、x方向、y方向、及びz方向の各寸法のうち最小の寸法よりもx方向の寸法が大きいことを意味する。他の方向に延びる場合も同様である。また本明細書で「接続」とは、物理的に接続される場合に限定されない。例えば、二つの層が物理的に接している場合に限られず、二つの層の間が他の層を間に挟んで接続している場合も「接続」に含まれる。また2つの部材が電気的に接続されている場合、スイッチング素子等を介して接続している場合も「接続」に含まれる。
【0030】
「第1実施形態」
図1は、第1実施形態にかかる磁気アレイ200の構成図である。磁気アレイ200は、複数の磁気抵抗効果素子100と、複数の書き込み配線WLと、複数の共通配線CLと、複数の読出し配線RLと、複数の第1スイッチング素子Sw1と、複数の第2スイッチング素子Sw2と、複数の第3スイッチング素子Sw3とを備える。磁気アレイ200は、例えば、磁気メモリ等に利用できる。
【0031】
それぞれの書き込み配線WLは、電源と1つ以上の磁気抵抗効果素子100とを電気的に接続する。それぞれの共通配線CLは、データの書き込み時及び読み出し時の両方で用いられる配線である。それぞれの共通配線CLは、基準電位と1つ以上の磁気抵抗効果素子100とを電気的に接続する。基準電位は、例えば、グラウンドである。共通配線CLは、複数の磁気抵抗効果素子100のそれぞれに設けられてもよいし、複数の磁気抵抗効果素子100に亘って設けられてもよい。それぞれの読出し配線RLは、電源と1つ以上の磁気抵抗効果素子100とを電気的に接続する。電源は、使用時に磁気アレイ200に接続される。
【0032】
それぞれの磁気抵抗効果素子100は、第1スイッチング素子Sw1、第2スイッチング素子Sw2、第3スイッチング素子Sw3のそれぞれに接続されている。第1スイッチング素子Sw1は、磁気抵抗効果素子100と書き込み配線WLとの間に接続されている。第2スイッチング素子Sw2は、磁気抵抗効果素子100のと共通配線CLとの間に接続されている。第3スイッチング素子Sw3は、複数の磁気抵抗効果素子100に亘る読出し配線RLに接続されている。
【0033】
第1スイッチング素子Sw1及び第2スイッチング素子Sw2をONにすると、所定の磁気抵抗効果素子100に接続された書き込み配線WLと共通配線CLとの間に書き込み電流が流れる。第2スイッチング素子Sw2及び第3スイッチング素子Sw3をONにすると、所定の磁気抵抗効果素子100に接続された共通配線CLと読出し配線RLとの間に読み出し電流が流れる。
【0034】
第1スイッチング素子Sw1、第2スイッチング素子Sw2及び第3スイッチング素子Sw3は、電流の流れを制御する素子である。第1スイッチング素子Sw1、第2スイッチング素子Sw2及び第3スイッチング素子Sw3は、例えば、トランジスタ、オボニック閾値スイッチ(OTS:Ovonic Threshold Switch)のように結晶層の相変化を利用した素子、金属絶縁体転移(MIT)スイッチのようにバンド構造の変化を利用した素子、ツェナーダイオード及びアバランシェダイオードのように降伏電圧を利用した素子、原子位置の変化に伴い伝導性が変化する素子である。
【0035】
図1に示す磁気アレイ200は、同じ配線に接続された磁気抵抗効果素子100が第3スイッチング素子Sw3を共用している。第3スイッチング素子Sw3は、それぞれの磁気抵抗効果素子100に設けてもよい。すなわち、第3スイッチング素子Sw3は、磁気抵抗効果素子100と読出し配線RLとの間に接続されていてもよい。またそれぞれの磁気抵抗効果素子100に第3スイッチング素子Sw3を設け、第1スイッチング素子Sw1又は第2スイッチング素子Sw2を同じ配線に接続された磁気抵抗効果素子100で共用してもよい。
【0036】
図2は、第1実施形態に係る磁気アレイ200の特徴部分の断面図である。図2は、磁気抵抗効果素子100を後述するスピン軌道トルク配線20のy方向の幅の中心を通るxz平面で切断した断面である。
【0037】
図2に示す第1スイッチング素子Sw1及び第2スイッチング素子Sw2は、トランジスタTrである。第3スイッチング素子Sw3は、読出し配線RLと電気的に接続され、例えば、図2の‐x方向に位置する。トランジスタTrは、例えば電界効果型のトランジスタであり、ゲート電極Gとゲート絶縁膜GIと基板Subに形成されたソースS及びドレインDとを有する。基板Subは、例えば、半導体基板である。
【0038】
トランジスタTrと磁気抵抗効果素子100とは、ビア配線V、第1導電層41及び第2導電層42を介して、電気的に接続されている。またトランジスタTrと書き込み配線WL又は共通配線CLとは、ビア配線Vで接続されている。ビア配線V、第1導電層41及び第2導電層42は、導電性を有する材料を含む。ビア配線Vは、例えば、z方向に延びる。
【0039】
磁気抵抗効果素子100及びトランジスタTrの周囲は、絶縁層90で覆われている。絶縁層90は、多層配線の配線間や素子間を絶縁する絶縁層である。絶縁層90は、例えば、酸化シリコン(SiO)、窒化シリコン(SiN)、炭化シリコン(SiC)、窒化クロム、炭窒化シリコン(SiCN)、酸窒化シリコン(SiON)、酸化アルミニウム(Al)、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化マグネシウム(MgO)、窒化アルミニウム(AlN)等である。
【0040】
図3は、磁気抵抗効果素子100の断面図である。図3は、スピン軌道トルク配線20のy方向の幅の中心を通るxz平面で磁気抵抗効果素子100を切断した断面である。図4は、磁気抵抗効果素子100の平面図である。
【0041】
磁気抵抗効果素子100は、例えば、積層体10とスピン軌道トルク配線20とスペーサー層30とを備える。スピン軌道トルク配線20は、第1導電層41、第2導電層42に接続されている。第1導電層41と第2導電層42とは、z方向から見て、積層体10を挟む位置にある。積層体10は、電極43に接続されている。
【0042】
磁気抵抗効果素子100の周囲は、絶縁層91、92、93で被覆されている。絶縁層91、92、93は、図2の絶縁層90の一部である。絶縁層91は、第1導電層41及び第2導電層42と同じレイヤーにある。絶縁層92は、スピン軌道トルク配線20及びスペーサー層30と同じレイヤーにある。絶縁層93は、積層体10及び電極43と同じレイヤーにある。絶縁層93は、積層体10の側面を覆う。
【0043】
磁気抵抗効果素子100にデータを書き込む際は、第1導電層41と第2導電層42との間に、スピン軌道トルク配線20に沿って流す。磁気抵抗効果素子100からデータを読み出すは、第1導電層41又は第2導電層42と電極43の間に、積層体10の積層方向に沿って流す。磁気抵抗効果素子100は、スピン軌道トルク(SOT)を利用した磁性素子であり、スピン軌道トルク型磁気抵抗効果素子、スピン注入型磁気抵抗効果素子、スピン流磁気抵抗効果素子と言われる場合がある。
【0044】
スピン軌道トルク配線20は、配線の一例である。スピン軌道トルク配線20は、例えば、z方向から見てx方向の長さがy方向より長く、x方向に延びる。書き込み電流は、スピン軌道トルク配線20のx方向に流れる。スピン軌道トルク配線20は、積層体10の第1強磁性層1側に接続されている。
【0045】
スピン軌道トルク配線20は、書き込み電流が流れる際のスピンホール効果によってスピン流を発生させ、第1強磁性層1にスピンを注入する。スピン軌道トルク配線20は、例えば、第1強磁性層1の磁化を反転できるだけのスピン軌道トルク(SOT)を第1強磁性層1の磁化に与える。スピンホール効果は、電流を流した場合にスピン軌道相互作用に基づき、電流の流れる方向と直交する方向にスピン流が誘起される現象である。スピンホール効果は、運動(移動)する電荷(電子)が運動(移動)方向を曲げられる点で、通常のホール効果と共通する。通常のホール効果は、磁場中で運動する荷電粒子の運動方向がローレンツ力によって曲げられる。これに対し、スピンホール効果は磁場が存在しなくても、電子が移動するだけ(電流が流れるだけ)でスピンの移動方向が曲げられる。
【0046】
例えば、スピン軌道トルク配線20に電流が流れると、一方向に配向した第1スピンと、第1スピンと反対方向に配向した第2スピンとが、それぞれ書き込み電流の流れる方向と直交する方向にスピンホール効果によって曲げられる。例えば、-y方向に配向した第1スピンが+z方向に曲げられ、+y方向に配向した第2スピンが-z方向に曲げられる。
【0047】
非磁性体(強磁性体ではない材料)は、スピンホール効果により生じる第1スピンの電子数と第2スピンの電子数とが等しい。すなわち、+z方向に向かう第1スピンの電子数と-z方向に向かう第2スピンの電子数とは等しい。第1スピンと第2スピンは、スピンの偏在を解消する方向に流れる。第1スピン及び第2スピンのz方向への移動において、電荷の流れは互いに相殺されるため、電流量はゼロとなる。電流を伴わないスピン流は特に純スピン流と呼ばれる。
【0048】
第1スピンの電子の流れをJ、第2スピンの電子の流れをJ、スピン流をJと表すと、J=J-Jで定義される。スピン流Jは、z方向に生じる。第1スピンは、スピン軌道トルク配線20から第1強磁性層1に注入される。
【0049】
スピン軌道トルク配線20は、書き込み電流が流れる際のスピンホール効果によってスピン流を発生させる機能を有する金属、合金、金属間化合物、金属硼化物、金属炭化物、金属珪化物、金属燐化物のいずれかを含む。
【0050】
スピン軌道トルク配線20は、例えば、主成分として非磁性の重金属を含む。重金属は、イットリウム(Y)以上の比重を有する金属を意味する。非磁性の重金属は、例えば、最外殻にd電子又はf電子を有する原子番号39以上の原子番号が大きい非磁性金属である。スピン軌道トルク配線20は、例えば、Hf、Ta、Wからなる。非磁性の重金属は、その他の金属よりスピン軌道相互作用が強く生じる。スピンホール効果はスピン軌道相互作用により生じ、スピン軌道トルク配線20内にスピンが偏在しやすく、スピン流Jが発生しやすくなる。
【0051】
スピン軌道トルク配線20は、例えば、Ta、W、Pt、Au、Nb、Mo、Ru、Os、Rh、Ir、Pd、Agからなる群から選択される少なくとも一つを含む。スピン軌道トルク配線20は、例えば、これらの元素の単体金属からなる。これらの元素は、熱伝導性に優れ、磁気抵抗効果素子100の放熱性が向上する。
【0052】
スピン軌道トルク配線20は、この他に、磁性金属を含んでもよく、トポロジカル絶縁体を含んでもよい。トポロジカル絶縁体は、物質内部が絶縁体又は高抵抗体であるが、その表面にスピン偏極した金属状態が生じている物質である。
【0053】
スペーサー層30は、積層体10とスピン軌道トルク配線20との間に部分的に挟まれている。スペーサー層30は、例えば、スピン軌道トルク配線20上に積層されている。スペーサー層30は、開口31を有する。開口31は、積層体10で覆われている。
【0054】
スペーサー層30は、例えば、スピン軌道トルク配線20と絶縁層93との間にもある。スペーサー層30は、例えば、絶縁層93より放熱性に優れる。放熱性に優れるスペーサー層30が絶縁層93とスピン軌道トルク配線20の間まで延びると、磁気抵抗効果素子100の放熱性が向上する。
【0055】
スペーサー層30は、例えば、金属である。金属のスペーサー層30は、例えば、Ru、Ta、Irである。スペーサー層30は、酸化物、窒化物又は酸窒化物でもよい。酸化物、窒化物又は酸窒化物のスペーサー層30は、例えば、MgO、Al、Si、SiON等である。
【0056】
スペーサー層30の厚さは、積層体10と接する部分と接しない部分とで、略同一でも異なっていてもよい。図3に示す例は、積層体10と接する部分と接しない部分のスペーサー層30の厚みが略同一の場合である。図6に示す例は、積層体10と接する部分と接しない部分のスペーサー層30の厚みが異なる場合である。
【0057】
スペーサー層30の積層体10と接する部分の厚さは、例えば、スペーサー層30のスピン拡散長より薄い。スピン拡散長は、スピンの情報を保存したまま電子が移動できる距離である。スペーサー層30の該当部分の厚みがスペーサー層30のスピン拡散長以下であると、スピン軌道トルク配線20から第1強磁性層1に、スペーサー層30を挟む位置でもスピンを効率的に注入できる。
【0058】
スペーサー層30の積層体10と接する部分の厚さは、例えば、スペーサー層30のスピン拡散長より厚くてもよい。絶縁層93より熱伝導性に優れるスペーサー層30の厚みが厚いと、磁気抵抗効果素子100の放熱性が向上する。
【0059】
積層体10は、z方向に、スピン軌道トルク配線20と電極43とに挟まれる。積層体10は、柱状体である。積層体10のz方向からの平面視形状は、例えば、円形、楕円形、四角形である。
【0060】
積層体10は、例えば、第1強磁性層1と第2強磁性層2と非磁性層3とを備える。第1強磁性層1は、スピン軌道トルク配線20に近い側にある。第1強磁性層1は、例えば、スピン軌道トルク配線20と接し、スピン軌道トルク配線20上に積層されている。第1強磁性層1にはスピン軌道トルク配線20からスピンが注入される。第1強磁性層1の磁化は、注入されたスピンによりスピン軌道トルク(SOT)を受け、配向方向が変化する。第2強磁性層2は、第1強磁性層1のz方向にある。第1強磁性層1と第2強磁性層2は、z方向に非磁性層3を挟む。
【0061】
第1強磁性層1及び第2強磁性層2は、それぞれ磁化を有する。第2強磁性層2の磁化は、所定の外力が印加された際に第1強磁性層1の磁化よりも配向方向が変化しにくい。第1強磁性層1は磁化自由層と言われ、第2強磁性層2は磁化固定層、磁化参照層と言われることがある。積層体10は、非磁性層3を挟む第1強磁性層1と第2強磁性層2との磁化の相対角の違いに応じて抵抗値が変化する。
【0062】
第1強磁性層1及び第2強磁性層2の磁化容易軸は、xy平面のいずれかの方向でも、z方向でもよい。磁化容易軸がxy平面のいずれかの方向にある強磁性層は面内磁化膜と呼ばれ、磁化容易軸がz方向である強磁性体を垂直磁化膜と呼ばれる。
【0063】
第1強磁性層1は、強磁性体を含む。強磁性体は、例えば、Cr、Mn、Co、Fe及びNiからなる群から選択される金属、これらの金属を1種以上含む合金、これらの金属とB、C、及びNの少なくとも1種以上の元素とが含まれる合金等である。強磁性体は、例えば、Co-Fe、Co-Fe-B、Ni-Fe、Co-Ho合金、Sm-Fe合金、Fe-Pt合金、Co-Pt合金、CoCrPt合金である。
【0064】
第1強磁性層1は、ホイスラー合金を含んでもよい。ホイスラー合金は、XYZまたはXYZの化学組成をもつ金属間化合物を含む。Xは周期表上でCo、Fe、Ni、あるいはCu族の遷移金属元素または貴金属元素であり、YはMn、V、CrあるいはTi族の遷移金属又はXの元素種であり、ZはIII族からV族の典型元素である。ホイスラー合金は、例えば、CoFeSi、CoFeGe、CoFeGa、CoMnSi、CoMn1-aFeAlSi1-b、CoFeGe1-cGa等である。ホイスラー合金は高いスピン分極率を有する。
【0065】
第1強磁性層1の第1面50は、重畳面51と非重畳面52とを有する。第1面50は、第1強磁性層1のスピン軌道トルク配線20側の面である。重畳面51と非重畳面52とは、z方向の高さが異なる。重畳面51と非重畳面52との間には、例えば、段差がある。重畳面51と非重畳面52との間は、スロープでもよい。
【0066】
重畳面51は、第1面50のうちz方向から見てスペーサー層30と重なる部分である。図3に示す断面において、重畳面51は第1重畳領域511と第2重畳領域512とを有する。磁気抵抗効果素子100において、第1重畳領域511と第2重畳領域512とは、同じスペーサー層30内の異なる領域である。第1重畳領域511と第2重畳領域512とは、x方向に、積層体10のx方向の中点を挟む。
【0067】
非重畳面52は、第1面50のうちz方向から見てスペーサー層30と重ならない部分である。非重畳面52は、開口31とz方向に重なる部分である。
【0068】
非重畳面52の面積は、例えば、重畳面51の面積より広い。非重畳面52の面積が広いと、第1強磁性層1の磁化の熱安定性が高まる。この逆に、図5に示す磁気抵抗効果素子100Aのように、重畳面51の面積は、非重畳面52の面積より広くてもよい。非重畳面52の面積が狭いと、第1強磁性層1の磁化の熱安定性が低下し、磁化反転が容易になる。
【0069】
第1強磁性層1の第2面55は、重畳面56と非重畳面57とを有する。重畳面56は、重畳面51と対向する。非重畳面57は、非重畳面52と対向する。第2面55は、第1面50と対向する面であり、第1面50の形状を反映している。重畳面56と非重畳面57とは、z方向の高さが異なる。重畳面56と非重畳面57との間には、例えば、段差がある。重畳面56と非重畳面57との間は、スロープでもよい。
【0070】
第1面50と第2面55との間の距離は、例えば、重畳面51と重畳面56の間と、非重畳面52と非重畳面57の間とで、略一定である。すなわち、第1強磁性層1の膜厚は略一定である。略一定とは、距離の差が平均距離の10%以下であることを意味する。
【0071】
非磁性層3は、非磁性体を含む。非磁性層3が絶縁体の場合(トンネルバリア層である場合)、その材料としては、例えば、Al、SiO、MgO、及び、MgAl等を用いることができる。また、これらの他にも、Al、Si、Mgの一部が、Zn、Be等に置換された材料等も用いることができる。これらの中でも、MgOやMgAlはコヒーレントトンネルが実現できる材料であるため、スピンを効率よく注入できる。非磁性層3が金属の場合、その材料としては、Cu、Au、Ag等を用いることができる。さらに、非磁性層3が半導体の場合、その材料としては、Si、Ge、CuInSe、CuGaSe、Cu(In,Ga)Se等を用いることができる。
【0072】
非磁性層3は、第1部分6と第2部分7とを有する。第1部分6は、z方向から見てスペーサー層30と重なる部分である。第2部分7は、z方向から見てスペーサー層30と重ならない部分である。第1部分6と第2部分7とは、z方向の高さが異なる。第1部分6と第2部分7との間には、例えば、段差がある。第1部分6と第2部分7との間は、スロープでもよい。
【0073】
第2強磁性層2は、第1強磁性層1と同様の材料を含む。第2強磁性層2に適用可能な材料種は第1強磁性層1と同様であっても、第1強磁性層1と第2強磁性層2とを構成する材料が異なっていてもよい。
【0074】
第2強磁性層2の第1面60は、重畳面61と非重畳面62とを有する。第1面60は、第2強磁性層2のスピン軌道トルク配線20側の面である。重畳面61と非重畳面62とは、z方向の高さが異なる。重畳面61と非重畳面62との間には、例えば、段差がある。重畳面61と非重畳面62との間は、スロープでもよい。
【0075】
重畳面61は、第1面60のうちz方向から見てスペーサー層30と重なる部分である。非重畳面62は、第1面60のうちz方向から見てスペーサー層30と重ならない部分である。非重畳面62は、開口31とz方向に重なる部分である。
【0076】
第2強磁性層2の第2面65は、重畳面66と非重畳面67と、を有する。重畳面66は、重畳面61と対向する。非重畳面67は、非重畳面62と対向する。第2面65は、第1面60と対向する面であり、第1面60の形状を反映している。重畳面66と非重畳面67とは、z方向の高さが異なる。重畳面66と非重畳面67との間には、例えば、段差がある。重畳面66と非重畳面67との間は、スロープでもよい。
【0077】
第2面65は、電極43と接する面である。第2面65がz方向の位置の異なる重畳面66と非重畳面67とを有すると、第2強磁性層2と電極43との接触面積が広くなる。その結果、第2強磁性層2と電極43との間の密着性及び熱伝導性が向上する。
【0078】
第1面60と第2面65との間の距離は、例えば、重畳面61と重畳面66の間と、非重畳面62と非重畳面67の間とで、略一定である。すなわち、第2強磁性層2の膜厚は略一定である。
【0079】
積層体10は、第2強磁性層2の非磁性層3と反対側の面に、スペーサー層を介して反強磁性層を有してもよい。第2強磁性層2、スペーサー層、反強磁性層は、シンセティック反強磁性構造(SAF構造)となる。シンセティック反強磁性構造は、非磁性層を挟む二つの磁性層からなる。第2強磁性層2と反強磁性層とが反強磁性カップリングすることで、反強磁性層を有さない場合より第2強磁性層2の保磁力が大きくなる。反強磁性層は、例えば、IrMn,PtMn等である。スペーサー層は、例えば、Ru、Ir、Rhからなる群から選択される少なくとも一つを含む。
【0080】
積層体10は、第1強磁性層1、第2強磁性層2及び非磁性層3以外の層を有してもよい。例えば、スピン軌道トルク配線20と積層体10との間に下地層を有してもよい。下地層は、積層体10を構成する各層の結晶性を高める。
【0081】
次いで、本実施形態に係る磁気抵抗効果素子100の製造方法の一例について説明する。磁気抵抗効果素子100は、各層の積層工程と、各層の一部を所定の形状に加工する加工工程により形成される。各層の積層は、スパッタリング法、化学気相成長(CVD)法、電子ビーム蒸着法(EB蒸着法)、原子レーザデポジッション法等を用いることができる。各層の加工は、フォトリソグラフィー等を用いて行うことができる。
【0082】
まず基板Subの所定の位置に、不純物をドープしソースS、ドレインDを形成する。次いで、ソースSとドレインDとの間に、ゲート絶縁膜GI、ゲート電極Gを形成する。ソースS、ドレインD、ゲート絶縁膜GI及びゲート電極GがトランジスタTrとなる。基板Subは、トランジスタTrが形成された市販品を購入してもよい。
【0083】
次いで、トランジスタTrを覆うように絶縁層90を形成する。また絶縁層90に開口部を形成し、開口部内に導電体を充填することでビア配線V、第1導電層41及び第2導電層42が形成される。書き込み配線WL、共通配線CLは、絶縁層90を所定の厚みまで積層した後、絶縁層90に溝を形成し、溝に導電体を充填することで形成される。
【0084】
次いで、絶縁層90、第1導電層41及び第2導電層42の上面に、配線層を積層する。配線層の所定の位置にレジストを形成し、その上から非磁性層を成膜する。配線層及び非磁性層を所定の形状に加工し、レジストをリフトオフする。配線層はスピン軌道トルク配線20となり、非磁性層はスペーサー層30となる。スピン軌道トルク配線20及びスペーサー層30の周囲は、絶縁層92で被覆される。
【0085】
次いで、強磁性層、非磁性層、強磁性層、ハードマスク層を順に積層する。ハードマスク層を介して、強磁性層、非磁性層、強磁性層を一度に所定の形状に加工することで、積層体10が得られる。そして、積層体の周囲を絶縁層93で埋め、電極43を形成することで、磁気抵抗効果素子100が得られる。
【0086】
次いで、第1実施形態に係る磁気抵抗効果素子100の動作について説明する。磁気抵抗効果素子100は、データの書き込み動作とデータの読み出し動作がある。
【0087】
まずデータを磁気抵抗効果素子100に記録する動作について説明する。まず、データを記録したい磁気抵抗効果素子100に繋がる第1スイッチング素子Sw1及び第2スイッチング素子Sw2をONにする。第1スイッチング素子Sw1及び第2スイッチング素子120をSw2にすると、スピン軌道トルク配線20に書き込み電流が流れる。スピン軌道トルク配線20に書き込み電流が流れるとスピンホール効果が生じ、スピンが第1強磁性層1に注入される。第1強磁性層1に注入されたスピンは、第1強磁性層1の磁化にスピン軌道トルク(SOT)を加え、第1強磁性層1の磁化の配向方向を変える。電流の流れ方向を反対にすると、第1強磁性層1に注入されるスピンの向きが反対になるため、磁化の配向方向は自由に制御できる。
【0088】
積層体10の積層方向の抵抗値は、第1強磁性層1の磁化と第2強磁性層2の磁化とが平行の場合に小さく、第1強磁性層1の磁化と第2強磁性層2の磁化とが反平行の場合に大きくなる。積層体10の積層方向の抵抗値として、磁気抵抗効果素子100にデータが記録される。
【0089】
次いで、データを磁気抵抗効果素子100から読み出す動作について説明する。まず、データを記録したい磁気抵抗効果素子100に繋がる第2スイッチング素子Sw2と第3スイッチング素子Sw3とをONにする。各スイッチング素子をこのように設定すると、積層体10の積層方向に読み出し電流が流れる。オームの法則により積層体10の積層方向の抵抗値が異なると、出力される電圧が異なる。そのため、例えば積層体10の積層方向の電圧を読み出すことで、磁気抵抗効果素子100に記録されたデータを読み出すことができる。
【0090】
第1実施形態に係る磁気抵抗効果素子100は、第1強磁性層1がスペーサー層30と接する重畳面51と非重畳面52とを有する。第1強磁性層1の磁化の安定性は、成膜される下地層の構成、結晶構造、第1強磁性層1の膜厚等の影響を受ける。また重畳面51と非重畳面52との間の段差近傍では、磁化の配向方向が乱れる傾向にある。磁化の配向方向が乱れた部分は、他の部分と比較して、磁化反転しやすい。そのため、第1実施形態に係る磁気抵抗効果素子100は、磁化反転しやすい部分がきっかけとなって磁化反転が進行するため、反転電流密度を下げることができる。それぞれの磁気抵抗効果素子100の反転電流密度が小さくなると、磁気アレイ200全体の消費電力が下がる。
【0091】
「第2実施形態」
図6は、第2実施形態に係る磁気抵抗効果素子101の断面図である。第2実施形態に係る磁気抵抗効果素子101において、第1実施形態に係る磁気抵抗効果素子100と同様の構成については、同様の符号を付し、説明を省く。
【0092】
磁気抵抗効果素子101は、積層体10Aとスピン軌道トルク配線20とスペーサー層30Aとを備える。
【0093】
スペーサー層30Aは、スピン軌道トルク配線20上にある。スペーサー層30Aは、スピン軌道トルク配線20と積層体10又は絶縁層93の間にある。スペーサー層30Aは、第1部分30A1と第2部分30A2とを有する。第1部分30A1は、z方向に積層体10と重なる部分である。第2部分30A2は、z方向に積層体10と重ならない部分である。スペーサー層30Aは、開口31Aを有する。開口31Aは、積層体10Aで覆われている。
【0094】
第1部分30A1の厚さは、第1部分30A1と第2部分30A2との境界から離れるに従い薄くなっている。第1部分30A1の平均厚みは、第2部分30A2の平均厚みより薄い。
【0095】
積層体10Aは、第1強磁性層1Aと第2強磁性層2Aと非磁性層3Aとを備える。第1強磁性層1A、第2強磁性層2A及び非磁性層3Aを構成する材料のそれぞれは、第1強磁性層1、第2強磁性層2及び非磁性層3のそれぞれと同様である。
【0096】
第1強磁性層1Aの第1面50Aは、重畳面51Aと非重畳面52Aを有する。重畳面51Aは、z方向から見て、スペーサー層30Aと重畳する。非重畳面52Aは、z方向から見て、スペーサー層30Aと重畳しない。第1面50Aは、非重畳面52Aが重畳面51Aよりスピン軌道トルク配線20の近くに位置するように、湾曲している。第1強磁性層1Aの第2面55Aも、第1面50Aと同じ方向に湾曲している。
【0097】
非磁性層3Aは、第1部分6Aと第2部分7Aとを有する。第1部分6Aは、z方向から見てスペーサー層30と重なる部分である。第2部分7Aは、z方向から見てスペーサー層30と重ならない部分である。非磁性層3Aは、第2部分7Aが第1部分6Aよりスピン軌道トルク配線20の近くに位置するように、湾曲している。
【0098】
第2強磁性層2Aの第1面60A及び第2面65Aは、第1強磁性層1Aの第1面50Aと同じ方向に湾曲している。
【0099】
第2実施形態に係る磁気抵抗効果素子101は、第1実施形態に係る磁気抵抗効果素子100と同様の効果が得られる。またスペーサー層30Aの第1部分30A1の上面が傾斜することで、重畳面51A近傍の磁化の配向方向が第1強磁性層1の磁化容易軸方向から乱れ、反転電流密度をより下げることができる。
【0100】
「第3実施形態」
図7は、第3実施形態に係る磁気抵抗効果素子102の断面図である。第3実施形態に係る磁気抵抗効果素子102において、第1実施形態に係る磁気抵抗効果素子100と同様の構成については、同様の符号を付し、説明を省く。
【0101】
磁気抵抗効果素子101は、積層体10Bとスピン軌道トルク配線20とスペーサー層30とを備える。
【0102】
積層体10Bは、第1強磁性層1Bと第2強磁性層2Bと非磁性層3Bとを備える。第1強磁性層1B、第2強磁性層2B及び非磁性層3Bを構成する材料のそれぞれは、第1強磁性層1、第2強磁性層2及び非磁性層3のそれぞれと同様である。
【0103】
第1強磁性層1Bの第2面55Bは、第1面50の形状を反映していない。第2面55Bは、略平坦面である。重畳面51と第2面55Bとの間の距離と、非重畳面52と第2面55Bとの距離とは異なる。すなわち、第1強磁性層1Bの厚さは、スペーサー層30と重なる位置と重ならない位置とで異なる。
【0104】
非磁性層3Bは、第1強磁性層1Bの第2面55Bの形状を反映し、xy方向に広がる平坦面である。また第2強磁性層2Bも、第1強磁性層1Bの第2面55Bの形状を反映し、xy方向に広がる平坦面である。
【0105】
第3実施形態に係る磁気抵抗効果素子102は、第1実施形態に係る磁気抵抗効果素子100と同様の効果が得られる。また磁化の配向方向は、磁性体の膜厚によって変化する。例えば、CoFeBは膜厚によって垂直磁化膜になる場合と面内磁化膜になる場合がある。第1強磁性層1Bの膜厚が場所によって異なることで、磁化の安定性がx方向の場所によって異なる。そのため、第3実施形態に係る磁気抵抗効果素子102は、より反転電流密度を小さくできる。
【0106】
また第2強磁性層2Bの膜厚が略一定であると、第2強磁性層2Bの磁化の安定性が高まる。第2強磁性層2Bの磁化安定性が高まると、磁気抵抗効果素子102の磁気抵抗変化率(MR比)が向上する。
【0107】
「第4実施形態」
図8は、第4実施形態に係る磁気抵抗効果素子103の断面図である。図9は、第4実施形態に係る磁気抵抗効果素子103の平面図である。第4実施形態に係る磁気抵抗効果素子103において、第1実施形態に係る磁気抵抗効果素子100と同様の構成については、同様の符号を付し、説明を省く。
【0108】
磁気抵抗効果素子103は、積層体10Cとスピン軌道トルク配線20とスペーサー層30Cとを備える。
【0109】
スペーサー層30Cは、x方向において、積層体10Cの中心より第1導電層41側のみにある。
【0110】
積層体10Cは、第1強磁性層1Cと第2強磁性層2Cと非磁性層3Cとを備える。第1強磁性層1C、第2強磁性層2C及び非磁性層3Cを構成する材料のそれぞれは、第1強磁性層1、第2強磁性層2及び非磁性層3のそれぞれと同様である。
【0111】
第1強磁性層1Cの第1面50Cは、重畳面51Cと非重畳面52Cを有する。重畳面51Cは、z方向から見て、スペーサー層30Cと重畳する。非重畳面52Cは、z方向から見て、スペーサー層30Cと重畳しない。重畳面51Cと非重畳面52Cとはz方向の位置が異なる。重畳面51Cと非重畳面52Cとの間には段差又はスロープがある。第1強磁性層1Cの膜厚は略一定である。
【0112】
非磁性層3Cは、第1部分6Cと第2部分7Cとを有する。第1部分6Cは、z方向から見てスペーサー層30Cと重なる部分である。第2部分7Cは、z方向から見てスペーサー層30Cと重ならない部分である。第1部分6Cと第2部分7Cとは、z方向の高さが異なる。第1部分6Cと第2部分7Cとの間には、例えば、段差がある。第1部分6Cと第2部分7Cとの間は、スロープでもよい。
【0113】
第2強磁性層2Cは、第1面60Cと第2面65Cとを有する。第1面60C及び第2面65Cの形状は、第1強磁性層1Cの第1面50Cの形状を反映している。第1面60Cは、重畳面61Cと非重畳面62Cとを有し、これらのz方向の高さ位置は異なる。第2面65Cは、重畳面66Cと非重畳面67Cとを有し、これらのz方向の高さ位置は異なる。
【0114】
第4実施形態に係る磁気抵抗効果素子103は、第1実施形態に係る磁気抵抗効果素子100と同様の効果が得られる。
【0115】
「第5実施形態」
図10は、第5実施形態に係る磁気抵抗効果素子104の平面図である。第5実施形態に係る磁気抵抗効果素子104において、第1実施形態に係る磁気抵抗効果素子100と同様の構成については、同様の符号を付し、説明を省く。
【0116】
磁気抵抗効果素子104は、積層体10Dとスピン軌道トルク配線20とスペーサー層30D,30Eとを備える。磁気抵抗効果素子104の断面形状は、図3と略同一である。
【0117】
スペーサー層30Dは、x方向において、積層体10Dの中心より第1導電層41側のみにある。スペーサー層30Eは、x方向において、積層体10Dの中心より第2導電層42側のみにある。
【0118】
積層体10Dの第1強磁性層の第1面は、重畳面51D、51Eと非重畳面52Dを有する。重畳面51Dは、z方向から見て、スペーサー層30Dと重畳する。重畳面51Eは、z方向から見て、スペーサー層30Eと重畳する。非重畳面52Dは、z方向から見て、スペーサー層30D、30Eと重畳しない。重畳面51D及び重畳面51Eと非重畳面52Eとはz方向の位置が異なる。重畳面51Dは第1重畳領域511に対応し、重畳面51Eは第2重畳領域512に対応する。重畳面51Dと重畳面51Eとは、x方向に、積層体10のx方向の中点を挟む。
【0119】
第5実施形態に係る磁気抵抗効果素子104は、第1実施形態に係る磁気抵抗効果素子100と同様の効果が得られる。
【0120】
「第6実施形態」
図11は、第6実施形態に係る磁化回転素子110の断面図である。磁化回転素子110は、非磁性層3及び第2強磁性層2がない点が、第1実施形態に係る磁気抵抗効果素子100と異なる。第6実施形態に係る磁化回転素子110において、第1実施形態に係る磁気抵抗効果素子100と同様の構成については、同様の符号を付し、説明を省く。
【0121】
磁化回転素子110は、例えば、第1強磁性層1に対して光を入射し、第1強磁性層1で反射した光を評価する。磁気カー効果により磁化の配向方向が変化すると、反射した光の偏向状態が変わる。磁化回転素子110は、例えば、光の偏向状態の違いを利用した例えば映像表示装置等の光学素子として用いることができる。
【0122】
この他、磁化回転素子110は、単独で、異方性磁気センサ、磁気ファラデー効果を利用した光学素子等としても利用できる。
【0123】
磁化回転素子110は、スピン軌道トルク配線20と第1強磁性層1とスペーサー層30とを有する。
【0124】
第6実施形態に係る磁化回転素子110は、第1強磁性層1がスペーサー層30と接する重畳面51と非重畳面52とを有する。したがって、第1実施形態に係る磁気抵抗効果素子100と同様に、磁化反転しやすい部分がきっかけとなって磁化反転が進行するため、磁化回転に要する電流を小さくできる。
【0125】
ここまで、第1実施形態から第6実施形態を基に、本発明の好ましい態様を例示したが、本発明はこれらの実施形態に限られるものではない。例えば、それぞれの実施形態における特徴的な構成を他の実施形態に適用してもよい。
【符号の説明】
【0126】
1,1A,1B,1C…第1強磁性層
2,2A,2B,2C…第2強磁性層
3,3A,3B,3C…非磁性層
6,6A,6C…第1部分
7,7A,7C…第2部分
10,10A,10B,10C,10D…積層体
20…スピン軌道トルク配線
30,30A,30C,30D,30E…スペーサー層
31,31A…開口
50,50A,50C…第1面
51,51A,51C,51D,51E…重畳面
52,52A,52C,52D,52E…非重畳面
93…絶縁層
100,100A,101,102,103,104…磁気抵抗効果素子
110…磁化回転素子
200…磁気アレイ
511…第1重畳領域
512…第2重畳領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11