(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-20
(45)【発行日】2025-01-06
(54)【発明の名称】作業機械
(51)【国際特許分類】
E02F 9/20 20060101AFI20241223BHJP
F02D 29/02 20060101ALI20241223BHJP
F02D 29/04 20060101ALI20241223BHJP
F02D 29/06 20060101ALI20241223BHJP
【FI】
E02F9/20 M
E02F9/20 Z
F02D29/02 J
F02D29/04 H
F02D29/06 D
(21)【出願番号】P 2021156619
(22)【出願日】2021-09-27
【審査請求日】2024-03-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】吉村 正利
(72)【発明者】
【氏名】小林 啓之
(72)【発明者】
【氏名】金子 悟
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 徳孝
(72)【発明者】
【氏名】関野 聡
【審査官】小倉 宏之
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-098215(JP,A)
【文献】特開平05-140968(JP,A)
【文献】特開2010-150896(JP,A)
【文献】特開2014-101695(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02F 9/20
F02D 29/02
F02D 29/04
F02D 29/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体と、
前記車体に搭載されたエンジンと、
前記車体に備えられた車輪を駆動する走行駆動装置と、
前記エンジンにより駆動される油圧ポンプと、
前記油圧ポンプから吐出される作動油によって伸縮動作される油圧シリンダと、前記油圧シリンダの伸縮動作に応じて動かされる駆動対象部材とを有する作業装置と、
前記走行駆動装置及び前記作業装置の少なくともいずれかを操作する操作装置と、
前記操作装置の操作量を検出する操作量検出装置と、
前記エンジンの実回転速度を検出するエンジン回転速度センサと、
前記エンジンを制御する制御装置と、を備えた作業機械において、
前記制御装置は、
前記操作量検出装置の検出結果に基づいて、前記エンジンの目標回転速度を演算し、
演算された前記エンジンの目標回転速度と前記エンジン回転速度センサにより検出された前記エンジンの実回転速度との差の時間積分値を演算し、
演算された前記時間積分値に基づいて回転速度補正値を演算し、
演算された前記回転速度補正値と前記エンジンの目標回転速度とを加算して、前記エンジンの回転速度指令値を演算し、
演算された前記エンジンの回転速度指令値に基づいて前記エンジンを制御し、
前記操作量検出装置の検出結果に基づいて、前記操作装置が操作されている操作状態であるか、前記操作装置が操作されていない非操作状態であるかを判定し、
前記非操作状態から前記操作状態に切り替わったと判定された場合、または、前記非操作状態であると判定された場合に、前記時間積分値を予め定めた初期値に設定し前記エンジンを制御する
ことを特徴とする作業機械。
【請求項2】
請求項1に記載の作業機械において、
前記制御装置は、
前記非操作状態であると判定されている場合に、前記回転速度補正値を0に設定する
ことを特徴とする作業機械。
【請求項3】
請求項1に記載の作業機械において、
前記制御装置は、
前記操作量検出装置により検出された操作量が予め定めた第1操作量閾値以上である状態が予め定めた第1時間継続した場合に、前記操作状態であると判定し、
前記操作量検出装置により検出された操作量が予め定めた第2操作量閾値以下である状態が予め定めた第2時間継続した場合に、前記非操作状態であると判定し、
前記第2操作量閾値は、前記第1操作量閾値よりも小さい
ことを特徴とする作業機械。
【請求項4】
請求項1に記載の作業機械において、
前記制御装置は、
前記時間積分値に積分ゲインを乗じた値と、前記エンジンの目標回転速度と前記エンジンの実回転速度との差に比例ゲインを乗じた値とを加算することにより、前記回転速度補正値を演算する
ことを特徴とする作業機械。
【請求項5】
請求項1に記載の作業機械において、
前記制御装置は、
前記時間積分値に積分ゲインを乗じた値と、前記エンジンの目標回転速度と前記エンジンの実回転速度との差に比例ゲインを乗じた値と、前記エンジンの目標回転速度と前記エンジンの実回転速度との差の時間微分値に微分ゲインを乗じた値とを加算することにより、前記回転速度補正値を演算する
ことを特徴とする作業機械。
【請求項6】
請求項1に記載の作業機械において、
前記エンジンの動力により発電する発電機を備え、
前記走行駆動装置は、前記発電機によって発電された電力により駆動され前記車輪を動作させる電動モータを備える
ことを特徴とする作業機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業機械に関する。
【背景技術】
【0002】
車体を移動させるための走行駆動装置と土砂等を掘削するためのバケット及びアームを有する作業装置とを備えたホイールローダ等の作業機械が知られている。このような作業機械では、エンジンの動力によって走行装置及び作業装置を駆動する。エンジンには燃料噴射装置が備えられている。この燃料噴射装置により燃料噴射量が調整されることにより、エンジン回転速度と出力トルクが制御され、作業に用いる動力が発生する。
【0003】
エンジンは、その回転速度が高いほど発生できる動力の上限値が大きくなる。一方、エンジンの回転速度が高いほど燃費は悪化する。そのため、要求されるエンジン動力が小さい待機時には、エンジンは、その回転速度が低くなるように制御される。一方、要求されるエンジン動力が大きい作業時には、エンジンは、オペレータによる操作に応じて、その回転速度が高くなるように制御される。
【0004】
エンジンの制御装置は、オペレータの操作に応じて目標エンジン回転速度を設定し、目標エンジン回転速度と実エンジン回転速度の偏差(以下、回転速度偏差と称する)に基づいて、実エンジン回転速度が目標エンジン回転速度に近づくように、燃料噴射量を制御する。ここで、エンジン負荷が大きくなるほど、回転速度偏差が大きくなり、回転速度偏差をなくすまでに時間を要してしまう。したがって、エンジン負荷が大きい場合には、所望のエンジン動力を速やかに発生することができないことがある。
【0005】
エンジン負荷が大きい場合に所望のエンジン動力を発生させるために、回転速度偏差をなくすように燃料噴射量の積分制御を行うことが考えられる。しかしながら、作業機械では、オペレータによる操作量の変動及び作業負荷の変動が急峻となったり、それらの変動幅が大きくなったりする。このため、作業機械において、エンジン制御が不安定にならないように燃料噴射量の積分制御を行う場合には、回転速度偏差をなくすまでに時間を要してしまう。
【0006】
特許文献1には、負荷によるエンジン回転速度の補正を、作業形態やオペレータの好みに応じて設定できるようにした作業機械が開示されている。特許文献1に記載の作業機械は、油圧アクチュエータの負荷に基づいて、目標回転速度に補正を加える補正手段と、補正された目標回転速度となるようにエンジンを制御する制御手段と、補正手段による回転速度の補正特性を手動で調整する調整手段としての設定ダイアルを備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、オペレータが変わる毎にオペレータの好みに応じて補正特性を調整し直す必要がある。また、オペレータの技量が不足している場合には、補正特性を適切に調整することが難しい。このため、所望の動力が得られなかったり、必要以上の動力が発生することにより燃費が悪化したりするおそれがある。
【0009】
本発明は、このような技術課題を解決するためになされたものであって、オペレータの手間をかけることなく、かつ、無駄な燃料を消費せずに、所望のエンジン動力を速やかに得ることが可能な作業機械を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様による作業機械は、車体と、前記車体に搭載されたエンジンと、前記車体に備えられた車輪を駆動する走行駆動装置と、前記エンジンにより駆動される油圧ポンプと、前記油圧ポンプから吐出される作動油によって伸縮動作される油圧シリンダと、前記油圧シリンダの伸縮動作に応じて動かされる駆動対象部材とを有する作業装置と、前記走行駆動装置及び前記作業装置の少なくともいずれかを操作する操作装置と、前記操作装置の操作量を検出する操作量検出装置と、前記エンジンの実回転速度を検出するエンジン回転速度センサと、前記エンジンを制御する制御装置と、を備えた作業機械において、前記制御装置は、前記操作量検出装置の検出結果に基づいて、前記エンジンの目標回転速度を演算し、演算された前記エンジンの目標回転速度と前記エンジン回転速度センサにより検出された前記エンジンの実回転速度との差の時間積分値を演算し、演算された前記時間積分値に基づいて回転速度補正値を演算し、演算された前記回転速度補正値と前記エンジンの目標回転速度とを加算して、前記エンジンの回転速度指令値を演算し、演算された前記エンジンの回転速度指令値に基づいて前記エンジンを制御し、前記操作量検出装置の検出結果に基づいて、前記操作装置が操作されている操作状態であるか、前記操作装置が操作されていない非操作状態であるかを判定し、前記非操作状態から前記操作状態に切り替わったと判定された場合、または、前記非操作状態であると判定された場合に、前記時間積分値を予め定めた初期値に設定し前記エンジンを制御する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、オペレータの手間をかけることなく、かつ、無駄な燃料を消費せずに、所望のエンジン動力を速やかに得ることが可能な作業機械を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図2】
図2は、ホイールローダのシステム構成図である。
【
図3】
図3は、ホイールローダの基本的な運搬作業を説明するための図である。
【
図4】
図4は、掘削作業を説明するための図である。
【
図5】
図5は、メインコントローラの機能ブロック図である。
【
図6】
図6は、目標速度演算部による目標エンジン回転速度の演算方法について説明するブロック図である。
【
図7】
図7は、エンジン負荷と回転速度偏差との関係を示す相関マップの一例を示す図である。
【
図8A】
図8Aは、メインコントローラにより実行されるエンジン制御のフローチャートである。
【
図8B】
図8Bは、
図8Aのフローチャートに示す判定フラグの設定処理のフローチャートである。
【
図9】
図9は、第1実施形態に係るホイールローダ1の各パラメータ(アクセル操作量、作業操作量、回転速度指令値、実エンジン回転速度、エンジン動力)の時系列変化を示す図である。
【
図10】
図10は、変形例2に係るメインコントローラにより実行されるエンジン制御のフローチャートである。
【
図11】
図11は、変形例3に係るメインコントローラにより実行される判定フラグの設定処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。図面の説明において同一の要素には同一符号を付し、重複する説明は省略する。本実施形態では、作業機械が電動駆動式のホイールローダである例について説明する。なお、本実施形態では、エンジン及び発電電動機を駆動源とするハイブリッドシステムを備えたホイールローダを例に挙げて説明するが、エンジンのみを駆動源とするシステムを備えたホイールローダに本発明を適用してもよい。以下の説明では、上下、左右、前後の方向及び位置は、作業機械の通常の使用状態、すなわち走行装置が接地している状態を基準とする。
【0014】
<第1実施形態>
図1~
図9を参照して、本発明の第1実施形態に係るホイールローダ1について説明する。
図1は、ホイールローダ1の側面図である。
図1に示すように、ホイールローダ1は、電動式の走行駆動装置45が搭載された車体8と、車体8の前部に取り付けられた多関節型の作業装置6とを備えている。車体8は、アーティキュレート操舵式(車体屈折式)のものであり、前部車体8Aと、後部車体8Bと、前部車体8Aと後部車体8Bを連結するセンタージョイント10とを有する。
【0015】
前部車体8Aには作業装置6が取り付けられている。後部車体8Bには、運転室12及びエンジン室16が配置されている。運転室12内には、オペレータが着座する座席と、オペレータによって操作される操作装置が設けられている。エンジン室16には、エンジン20(
図2参照)、エンジン20により駆動される油圧ポンプ30A,30B,30C(
図2参照)、及びバルブ等の油圧機器が搭載されている。
【0016】
作業装置6は、前部車体8Aに上下方向に回動自在に取り付けられるリフトアーム(以下、単にアームと記す)2と、アーム2を駆動する油圧シリンダ(以下、アームシリンダとも記す)4と、アーム2の先端部分に上下方向に回動自在に取り付けられるバケット3と、バケット3を駆動する油圧シリンダ(以下、バケットシリンダとも記す)5とを有する。駆動対象部材であるアーム2は、アームシリンダ4の伸縮動作に応じて動かされる。駆動対象部材であるバケット3は、バケットシリンダ5の伸縮動作に応じて動かされる。なお、アーム2及びアームシリンダ4は、前部車体8Aの左右に1つずつ設けられる。また、本実施形態では、バケット3を作動させるためのリンク機構として、Zリンク式(ベルクランク式)のリンク機構が採用されている。
【0017】
ホイールローダ1は、車体8に備えられた車輪7を駆動する走行駆動装置45を備える。走行駆動装置45は、走行電動機43と、走行電動機43から走行駆動力が与えられる走行装置11とを含む。走行装置11は、前部車体8Aに取り付けられる車輪7である前輪7Aと、後部車体8Bに取り付けられる車輪7である後輪7Bと、走行電動機43からの動力を車輪7に伝達する動力伝達装置とを有する。動力伝達装置は、アクスル、デファレンシャル装置、プロペラシャフト等を含んで構成される。
【0018】
走行電動機43は、走行装置11の車輪7を動作させる電動モータである。走行電動機43は、エンジン20の動力によって回転する発電電動機40によって発電された電力により回転駆動される。
【0019】
ホイールローダ1は、前部車体8Aと後部車体8Bとを連結するように設けられる左右一対の油圧シリンダ(以下、ステアリングシリンダとも記す)15を有するステアリング装置22によって転舵される。
【0020】
図2は、ホイールローダ1のシステム構成図である。
図2に示すように、ホイールローダ1は、エンジン20と、エンジン20に燃料を供給する燃料噴射装置23と、エンジン20に機械的に接続される発電電動機40と、エンジン20及び発電電動機40に機械的に接続される油圧ポンプ30A,30B,30Cと、油圧ポンプ30Aから吐出される作動油によって駆動される作業装置6と、作業装置6の動作を制御するフロント制御部31と、油圧ポンプ30Bから吐出される作動油によって駆動されるブレーキ装置21と、ブレーキ装置21の動作を制御するブレーキ制御部32と、油圧ポンプ30Cから吐出される作動油によって駆動されるステアリング装置22と、ステアリング装置22を制御するステアリング制御部33と、発電電動機40によって発電された電力によって駆動される走行駆動装置45とを備える。
【0021】
作業装置6及び走行駆動装置45は、エンジン20の動力によって、互いに独立して駆動される。原動機であるエンジン20は、例えば、ディーゼルエンジン等の内燃機関により構成される。発電電動機40は、エンジン20から出力されるトルクによって回転し、発電する発電機として機能する。
【0022】
油圧ポンプ30A,30B,30Cは、エンジン20が出力するトルクによって駆動されて作動油を吐出する。なお、発電電動機40が電動機として機能する場合には、エンジン20及び発電電動機40が出力するトルクによって、油圧ポンプ30A,30B,30Cが駆動される。
【0023】
油圧シリンダ4,5,15,17,18は、エンジン20(
図2参照)が出力するトルクによって回転する油圧ポンプ30Aから吐出される作動油(圧油)によって伸縮動作される。
【0024】
フロント制御部31は、油圧ポンプ30Aからアームシリンダ4及びバケットシリンダ5へ供給される作動油の圧力、流量及び方向を制御する。これにより、アームシリンダ4及びバケットシリンダ5の伸縮動作が制御される。ブレーキ制御部32は、油圧ポンプ30Bからブレーキシリンダ17及び駐車ブレーキシリンダ18へ供給される作動油の圧力、流量及び方向を制御する。これにより、ブレーキシリンダ17及び駐車ブレーキシリンダ18の伸縮動作が制御される。ステアリング制御部33は、油圧ポンプ30Cからステアリングシリンダ15へ供給される作動油の圧力、流量及び方向を制御する。これにより、ステアリングシリンダ15の伸縮動作が制御される。
【0025】
ホイールローダ1は、車両全体の制御を行う制御装置であるメインコントローラ100と、メインコントローラ100からのエンジン回転速度指令に基づいて燃料噴射装置23を制御するエンジンコントローラ120と、エンジンコントローラ120からの燃料噴射量指令に基づいて燃料噴射量を制御する燃料噴射装置23と、メインコントローラ100から入力される発電電圧指令に基づいて発電電動機40を制御する発電電動機用のインバータ(以下、発電インバータと記す)41と、メインコントローラ100から入力される走行駆動トルク指令に基づいて走行電動機43のトルクを制御する走行電動機用のインバータ(以下、走行インバータと記す)42と、運転室12内に設けられる各種操作装置(51~57)とを備える。
【0026】
運転室12内には、車体8の前進(F)、待機(N)、及び後進(R)を切り替える前後進切替装置である前後進スイッチ51と、作業装置6のアームシリンダ4(アーム2)を操作するアーム操作装置52と、作業装置6のバケットシリンダ5(バケット3)を操作するバケット操作装置53と、走行駆動装置45を操作するアクセル操作装置56と、ブレーキシリンダ17を操作するブレーキ操作装置57と、駐車ブレーキシリンダ18を操作する駐車ブレーキ操作装置54と、左右一対のステアリングシリンダ15を操作するステアリング操作装置55とが設けられている。なお、説明の便宜上、作業装置6の操作装置52,53及び走行駆動装置45の操作装置56を総称して、操作装置50とも記す。
【0027】
アーム操作装置52は、アーム操作レバーと、アーム操作レバーの操作量(以下、アーム操作量とも記す)を検出するアーム操作量センサ52aとを備える。バケット操作装置53は、バケット操作レバーと、バケット操作レバーの操作量(以下、バケット操作量とも記す)を検出するバケット操作量センサ53aとを備える。アクセル操作装置56は、アクセルペダルと、アクセルペダルの操作量(以下、アクセル操作量とも記す)を検出するアクセル操作量センサ56aとを備える。ブレーキ操作装置57は、ブレーキペダルと、ブレーキペダルの操作量(以下、ブレーキ操作量とも記す)を検出するブレーキ操作量センサ57aとを備える。ステアリング操作装置55は、ステアリングホイールと、ステアリングホイールの操作量(以下、ステアリング操作量とも記す)を検出するステアリング操作量センサ55aとを備える。アーム操作量センサ52a、バケット操作量センサ53a、アクセル操作量センサ56a、ブレーキ操作量センサ57a、ステアリング操作量センサ55aは、例えば、操作部材(操作レバーまたはペダル)の操作位置に応じた電圧をメインコントローラ100に出力するポテンショメータである。
【0028】
メインコントローラ100は、動作回路としてのCPU(Central Processing Unit)101、記憶装置としてのROM(Read Only Memory)102及びRAM(Random Access Memory)103、入力インタフェース104、出力インタフェース105、並びに、その他の周辺回路を備えたマイクロコンピュータで構成される。なお、エンジンコントローラ120も、メインコントローラ100と同様、動作回路、記憶装置及び入出力インタフェース等を備えたマイクロコンピュータで構成される。メインコントローラ100及びエンジンコントローラ120は、それぞれ1つのマイクロコンピュータで構成してもよいし、複数のマイクロコンピュータで構成してもよい。
【0029】
メインコントローラ100のROM102は、EEPROM等の不揮発性メモリであり、各種演算が実行可能なプログラムが格納されている。すなわち、メインコントローラ100のROM102は、本実施形態の機能を実現するプログラムを読み取り可能な記憶媒体である。RAM103は揮発性メモリであり、CPU101との間で直接的にデータの入出力を行うワークメモリである。RAM103は、CPU101がプログラムを演算実行している間、必要なデータを一時的に記憶する。なお、メインコントローラ100は、フラッシュメモリ、ハードディスクドライブ等の記憶装置をさらに備えていてもよい。
【0030】
CPU101は、ROM102に記憶されたプログラムをRAM103に展開して演算実行する処理装置であって、プログラムに従って入力インタフェース104及びROM102,RAM103から取り入れた信号に対して所定の演算処理を行う。
【0031】
入力インタフェース104には、各種操作装置(51~57)からの操作信号及び各種センサからのセンサ信号が入力される。入力インタフェース104は、入力された信号をCPU101で演算可能なデータに変換する。出力インタフェース105は、CPU101での演算結果に応じた出力用の信号を生成し、その信号をフロント制御部31、ブレーキ制御部32、ステアリング制御部33、発電インバータ41、走行インバータ42、及びエンジンコントローラ120等に出力する。
【0032】
メインコントローラ100は、各種操作装置から入力される操作信号及びその他の各種センサから入力されるセンサ信号に基づいて、フロント制御部31、ブレーキ制御部32、ステアリング制御部33、発電インバータ41及び走行インバータ42、及びエンジンコントローラ120を統括的に制御する。
【0033】
メインコントローラ100に入力される操作信号としては、アクセル操作量センサ56aによって検出されるアクセル操作量、ブレーキ操作量センサ57aによって検出されるブレーキ操作量、アーム操作量センサ52aによって検出されるアーム操作量、バケット操作量センサ53aによって検出されるバケット操作量、ステアリング操作量センサ55aによって検出されるステアリング操作量、及び、前後進スイッチ51から出力される前後進スイッチ51の操作位置を表す信号がある。
【0034】
メインコントローラ100に入力されるセンサ信号としては、車体8とアーム2とを連結する連結軸に設けられるアーム相対角センサ62で検出された角度を表す信号、及び、アーム2とバケット3とを連結する連結軸に設けられるバケット相対角センサ63で検出された角度を表す信号がある。アーム相対角センサ62は、車体8に対するアーム2の相対角(傾斜角)を検出し、検出した角度を表す信号をメインコントローラ100に出力するポテンショメータである。バケット相対角センサ63は、アーム2に対するバケット3の相対角(傾斜角)を検出し、検出した角度を表す信号をメインコントローラ100に出力するポテンショメータである。地面(走行面)に対する車体8の角度は一定であるため、アーム相対角センサ62で検出される角度は、地面に対するアーム2の相対角(傾斜角)に相当するといえる。
【0035】
また、メインコントローラ100に入力されるセンサ信号としては、車速センサ61によって検出される車速(車両の走行速度)を表す信号がある。車速センサ61は、ホイールローダ1の車速を検出し、検出した車速を表す信号をメインコントローラ100に出力する。さらに、メインコントローラ100に入力されるセンサ信号としては、複数の回転速度センサによって検出されたエンジン20、発電電動機40、油圧ポンプ30A,30B,30C、及び走行電動機43の回転速度を表す信号、第1、第2、第3吐出圧センサ71,72,73によって検出された油圧ポンプ30A,30B,30Cの吐出圧、シリンダ圧センサ(不図示)によって検出された油圧シリンダの圧力(負荷圧)等を表す信号がある。
【0036】
複数の回転速度センサには、エンジン20の実回転速度(以下、実エンジン回転速度NE_Aとも記す)を検出するエンジン回転速度センサ64と、走行電動機43の回転速度(以下、モータ速度とも記す)を検出するレゾルバ等のモータ速度センサ58とが含まれる。エンジン回転速度センサ64は、例えば、エンジン20の出力軸に設けられるロータリーエンコーダであり、検出した実エンジン回転速度NE_Aを表す信号をエンジンコントローラ120に出力する。なお、エンジン回転速度センサ64は、エンジン20の出力軸に限らず、動力伝達装置を構成するいずれかの軸の回転速度を検出するものであってもよい。この場合、メインコントローラ100が、エンジン回転速度センサ64の検出結果に基づいて、実エンジン回転速度NE_Aを演算する。
【0037】
なお、図示する例では、エンジン回転速度センサ64は、メインコントローラ100に接続されているが、エンジンコントローラ120に接続してもよい。この場合、メインコントローラ100は、エンジン回転速度センサ64により検出された実エンジン回転速度NE_Aを、エンジンコントローラ120を介して取得する。
【0038】
メインコントローラ100は、後述するように、アクセル操作量、アーム操作量及びバケット操作量等に基づいて、エンジン20の目標回転速度(以下、目標エンジン回転速度とも記す)NE_Tを演算する。メインコントローラ100は、エンジン20の目標回転速度NE_Tに基づいて、回転速度指令値NE_Cを演算し、エンジンコントローラ120に出力する。また、メインコントローラ100は、エンジン回転速度センサ64によって検出された実エンジン回転速度NE_Aをエンジンコントローラ120に出力する。
【0039】
エンジンコントローラ120は、メインコントローラ100から取得した回転速度指令値NE_Cと、エンジン回転速度センサ64によって検出された実エンジン回転速度NE_Aとを比較して、実エンジン回転速度NE_Aが回転速度指令値NE_Cとなるように燃料噴射装置23を制御する。燃料噴射装置23は、エンジンコントローラ120から出力される燃料噴射指令に基づいて、燃料噴射量を制御し、エンジン20を動作させる。例えば、本実施形態では、エンジンコントローラ120は、実エンジン回転速度NE_Aに比べて回転速度指令値NE_Cが大きい場合、実エンジン回転速度NE_Aと回転速度指令値NE_Cとの差が小さくなるまで燃料噴射量を徐々に増加させる積分制御を実行する。
【0040】
このように、メインコントローラ100、エンジンコントローラ120及び燃料噴射装置23は、協働してエンジン20の動作を制御する制御装置を構成している。エンジン20の制御の詳細については、後述する。
【0041】
メインコントローラ100は、アーム操作装置52及びバケット操作装置53の操作方向及び操作量に基づいて、フロント制御指令を出力する。フロント制御部31は、メインコントローラ100からのフロント制御指令に基づき、油圧ポンプ30Aから吐出される作動油の圧力、流量及び方向を調整し、アームシリンダ4及びバケットシリンダ5を動作させる。フロント制御部31は、油圧ポンプ30Aから吐出される作動油の流れを制御する方向制御弁、及び、この方向制御弁のパイロット室に入力されるパイロット圧を生成する電磁弁等を有する。
【0042】
メインコントローラ100は、ブレーキ操作装置57の操作量、及び駐車ブレーキ操作装置54の操作スイッチの操作位置に基づいて、ブレーキ制御指令を出力する。ブレーキ制御部32は、メインコントローラ100からのブレーキ制御指令に基づき、油圧ポンプ30Bから吐出される作動油の圧力、流量及び方向を調整し、ブレーキシリンダ17及び駐車ブレーキシリンダ18を動作させる。ブレーキ制御部32は、油圧ポンプ30Bから吐出される作動油の流れを制御する方向制御弁、及び、この方向制御弁のパイロット室に入力されるパイロット圧を生成する電磁弁等を有する。
【0043】
メインコントローラ100は、ステアリング操作装置55のステアリングホイールの操作方向及び操作量に基づいて、ステアリング制御指令を出力する。ステアリング制御部33は、メインコントローラ100からのステアリング制御指令に基づき、油圧ポンプ30Cから吐出される作動油の圧力、流量及び方向を調整し、ステアリングシリンダ15を動作させる。ステアリング制御部33は、油圧ポンプ30Cから吐出される作動油の流れを制御する方向制御弁、及び、この方向制御弁のパイロット室に入力されるパイロット圧を生成する電磁弁等を有する。
【0044】
発電インバータ41及び走行インバータ42は、直流部(直流母線)44によって接続されている。なお、本実施形態に係るホイールローダ1は、直流部44に接続される蓄電装置を備えていない。発電インバータ41は、メインコントローラ100からの発電電圧指令に基づき、発電電動機40から供給される電力を利用して直流部44のバス電圧を制御する。走行インバータ42は、メインコントローラ100の走行駆動トルク指令に基づき、直流部44の電力を利用して走行電動機43を駆動させる。
【0045】
本実施形態では、エンジン20が出力するトルクによって油圧ポンプ30A,30B,30Cが駆動され、油圧ポンプ30A,30B,30Cから吐出される作動油によって、作業装置6、ブレーキ装置21及びステアリング装置22が駆動される。また、本実施形態では、エンジン20が出力するトルクによって発電電動機40が駆動され、発電電動機40で発生する電力によって走行電動機43が駆動される。
【0046】
アーム操作装置52のアーム操作レバーが操作されると、アームシリンダ4の伸縮動作によりアーム2が上下方向に回動(俯仰動)する。バケット操作装置53のバケット操作レバーが操作されると、バケットシリンダ5の伸縮動作によりバケット3が上下方向に回動(チルト動作またはダンプ動作)する。
【0047】
ステアリング操作装置55のステアリングホイールが操作されると、ステアリングシリンダ15の伸縮動作に伴って後部車体8Bに対し前部車体8Aがセンタージョイント10を中心にして左右に屈折(転舵)する。アクセル操作装置56のアクセルペダルが操作されると、走行電動機43の駆動により車輪7が回転し、ホイールローダ1が走行する。
【0048】
前後進スイッチ51が前進(F)に操作されている状態で、アクセル操作装置56のアクセルペダルが踏み込まれると、車輪7が前進方向に回転し、車体8が前進走行する。前後進スイッチ51が後進(R)に操作されている状態で、アクセル操作装置56のアクセルペダルが踏み込まれると、車輪7が後進方向に回転し、車体8が後進走行する。なお、前後進スイッチ51が待機(N)に操作されている状態では、アクセル操作装置56のアクセルペダルが踏み込まれても、車輪7は回転せず、車体8は走行しない。
【0049】
次に、
図3及び
図4を参照して、ホイールローダ1の作業について説明する。
図3は、ホイールローダ1の基本的な運搬作業を説明するための図であり、
図4は、掘削作業を説明するための図である。運搬作業では、ホイールローダ1は、土砂や鉱物等の掘削対象91を掘削する掘削作業をした後、掘削物を運搬し、ダンプトラック等の積込対象92へ積み込む積込作業を行う。
図3は、この運搬作業を行う際の方法の1つであるVシェイプローディングを示す。
【0050】
図3の矢印X1及び
図4(a)に示すように、オペレータは、アクセル操作装置56を操作して、ホイールローダ1を地山等の掘削対象91に向かって前進させ、
図4(b)に示すように、掘削対象91にバケット3を貫入させる。オペレータは、アーム操作装置52及びバケット操作装置53を操作してアーム2を上昇させつつバケット3に土砂や鉱物等を入れる。その後、オペレータは、バケット操作装置53を操作して、
図4(c)に示すように、バケット3をチルト動作させる。このとき、オペレータは、バケット3に入った土砂や鉱物等の運搬物をこぼさないように、バケット操作装置53を操作して、バケット3を手前に掬い上げる。これによって、掘削作業が完了する。
【0051】
掘削作業完了後、オペレータは、
図3の矢印X2で示すように、ホイールローダ1を後進させて元の位置に戻る。その後、オペレータは、
図3の矢印Y1で示すように、ダンプトラック等の積込対象92に向かってホイールローダ1を前進させつつ、アーム2を上昇させる。オペレータは、積込対象92の手前でホイールローダ1を停止させる。なお、
図3では、積込対象92の手前で停止している状態のホイールローダ1を破線で示している。その後、オペレータは、バケット操作装置53を操作して、バケット3をダンプ動作させることにより、バケット3内の運搬物を積込対象92の荷台に放土する。これにより、バケット3内の運搬物が積込対象92の荷台に積み込まれ、積込作業が完了する。積込作業完了後、オペレータは、
図3の矢印Y2で示すように、ホイールローダ1を後進させて、元の位置に戻る。
【0052】
このような掘削作業と積込作業を含む一連の作業は、V字軌跡を描きながら行われるため「Vシェイプローディング」と呼ばれ、繰り返し行われる。Vシェイプローディングは、ホイールローダ1の全作業時間の大多数を占める。このため、ホイールローダ1の作業効率を向上させるためには、Vシェイプローディングにおいて、エンジン負荷に関わらず所望のエンジン動力を発生させることが有効である。ここで、作業効率(t/h)とは、所定の時間(h)当たりに、積込対象92に積み込んだ運搬物の重量(t)を意味する。
【0053】
エンジン動力の大きさは、基本的にエンジン20の実エンジン回転速度NE_Aが高いほど及び燃料噴射量が多いほど大きくなる。ただし、実エンジン回転速度NE_Aが高いほどエンジン負荷が高くなる。このため、メインコントローラ100は、非作業時は回転速度指令値NE_Cを低くして燃費を向上させる。一方、メインコントローラ100は、作業時は、オペレータによるアクセル操作装置56、アーム操作装置52、及びバケット操作装置53の操作量等に基づいて、作業に必要なエンジン動力(すなわち、所望のエンジン動力)が得られる回転速度指令値NE_Cをエンジンコントローラ120に出力する。エンジンコントローラ120は、この回転速度指令値NE_Cに実エンジン回転速度NE_Aが一致するように燃料噴射装置23による燃料噴射量を調節し、所望のエンジン動力を発生させる。
【0054】
実エンジン回転速度NE_Aが回転速度指令値NE_Cを下回っており、要求されるエンジン動力が発生していない状態では、燃費は向上するが、作業効率が悪くなる。実エンジン回転速度NE_Aが回転速度指令値NE_Cを超え、必要以上のエンジン動力が発生している状態では、作業効率は変わらないが燃費が悪くなる。したがって、作業効率及び燃費を向上するためには、実エンジン回転速度NE_Aを回転速度指令値NE_Cに速やかに一致させることが重要となる。
【0055】
エンジンコントローラ120は、回転速度指令値NE_Cと実エンジン回転速度NE_Aの差に基づいて燃料噴射装置23による燃料噴射量を決定する。ここで、メインコントローラ100が、操作装置50の操作量に応じて演算した目標エンジン回転速度NE_Tを補正することなく、そのまま回転速度指令値NE_Cとして出力する場合について説明する。この場合、エンジン負荷が大きいほど(すなわち、燃料噴射量が多く必要なほど)、実エンジン回転速度NE_Aが回転速度指令値NE_C(=目標エンジン回転速度NE_T)に対して低い状態で安定する。このため、作業効率が悪化してしまうおそれがある。これを防ぐために、エンジンコントローラ120は、燃料噴射量を徐々に増加させる積分制御を実行し、回転速度指令値NE_Cと実エンジン回転速度NE_Aの差を小さくする。しかしながら、上述した運搬作業では、オペレータによる操作装置50の操作量の変動、及びエンジン負荷の変動が急峻な上に非常に大きい。このため、燃料噴射量の積分制御だけでは、回転速度指令値NE_C(=目標エンジン回転速度NE_T)と実エンジン回転速度NE_Aの差を速やかに低減することができず、改善の余地がある。
【0056】
ここで、作業時における目標エンジン回転速度NE_Tと実エンジン回転速度NE_Aの差を予め想定し、目標エンジン回転速度NE_Tと実エンジン回転速度NE_Aの差が発生しないように、回転速度指令値NE_Cを予め高くしておく方法が考えられる。しかしながら、実際のエンジン負荷が想定より低い場合は、必要以上に実エンジン回転速度NE_Aが高くなって燃費が悪化してしまう。また、実際のエンジン負荷が想定より高い場合は、目標エンジン回転速度NE_Tよりも実エンジン回転速度NE_Aが低くなって作業効率が悪化してしまう。
【0057】
他にも、エンジンコントローラ120による燃料噴射量の積分制御のゲインを増加させ、回転速度指令値NE_Cに対する実エンジン回転速度NE_Aの応答速度を高める方法も考えられる。しかしながら、この方法では、作業負荷が小さいほど、実エンジン回転速度NE_Aのオーバーシュートが増大するため、エンジン制御が不安定になってしまうおそれがある。
【0058】
そこで、本願発明者は、鋭意研究を重ねた結果、オペレータによる操作が開始されることにより目標エンジン回転速度NE_Tが増加する際、エンジン負荷に起因して生じる目標エンジン回転速度NE_Tと実エンジン回転速度NE_Aの差を速やかになくすことができるように、目標エンジン回転速度NE_Tと実エンジン回転速度NE_Aの差の時間積分値に基づいて目標エンジン回転速度NE_Tの補正を行うことにより、燃費を悪化させずに作業効率を向上できることを見出した。以下、メインコントローラ100により実行される回転速度指令値NE_Cの演算処理の内容について、詳しく説明する。
【0059】
図5は、メインコントローラ100の機能ブロック図である。
図5に示すように、メインコントローラ100は、ROM102に記憶されているプログラムを実行することにより、目標速度演算部110、偏差演算部111、操作状態判定部112、補正値演算部113、及び指令値演算部114として機能する。
【0060】
目標速度演算部110は、少なくとも操作量検出装置150の検出結果に基づいて、目標エンジン回転速度NE_Tを演算する。本実施形態において、目標速度演算部110は、操作量検出装置150の検出結果、モータ速度センサ58の検出結果、及び、吐出圧検出装置151の検出結果に基づいて、目標エンジン回転速度NE_Tを演算する。操作量検出装置150は、上述したアーム操作量センサ52a、バケット操作量センサ53a、アクセル操作量センサ56a、ブレーキ操作量センサ57a、及びステアリング操作量センサ55aを含む。吐出圧検出装置151は、上述した第1吐出圧センサ71、第2吐出圧センサ72及び第3吐出圧センサ73を含む。
【0061】
図6を参照して、目標エンジン回転速度N
E_Tの演算方法の一例について説明する。
図6は、目標速度演算部110による目標エンジン回転速度N
E_Tの演算方法について説明するブロック図である。
図6に示すように、目標速度演算部110は、走行要求動力演算部121と、第1ポンプ要求動力演算部122と、第2ポンプ要求動力演算部123と、第3ポンプ要求動力演算部124と、最大値選択部125と、加算部126と、目標速度算出部127とを有する。
【0062】
走行要求動力演算部121は、モータ速度センサ58により検出された走行電動機43の回転速度、及び、アクセル操作量センサ56aにより検出されたアクセル操作量に基づいて、走行要求動力を演算する。メインコントローラ100のROM102には、走行要求動力の演算に用いられる走行要求動力テーブルが記憶されている。走行要求動力テーブルは、アクセル操作量の増減に応じて走行電動機43の動力が増減するように、アクセル操作量に応じた動力カーブが複数記憶されている。走行要求動力テーブルは、アクセル操作量が大きくなるほど走行要求動力が大きくなり、走行電動機43の回転速度が速くなるほど走行要求動力が小さくなるように設定されている。
【0063】
走行要求動力演算部121は、アクセル操作量の大きさに対応する動力カーブを選択し、走行電動機43の回転速度に基づいて走行要求動力を算出する。例えば、走行要求動力演算部121は、アクセル操作装置56がフル操作されたときには、実線の動力カーブを選択し、選択した動力カーブを参照し、走行電動機43の回転速度に基づいて走行要求動力を算出する。
【0064】
第1ポンプ要求動力演算部122は、ポンプ要求流量演算部122aと乗算部122bとを有する。ポンプ要求流量演算部122aは、操作量検出装置150のアーム操作量センサ52a及びバケット操作量センサ53aによって検出されるアーム操作量及びバケット操作量、並びに、吐出圧検出装置151の第1吐出圧センサ71によって検出される油圧ポンプ30Aの吐出圧に基づいて、油圧ポンプ30Aのポンプ要求流量を算出する。アーム操作量及びバケット操作量は、総称してレバー操作量とも記す。
【0065】
メインコントローラ100のROM102には、油圧ポンプ30Aのポンプ要求流量の演算に用いられる要求流量テーブルが記憶されている。要求流量テーブルは、ポンプ要求流量が最小吐出流量からレバー操作量の増加に応じて増加するように設定されている。
【0066】
ポンプ要求流量演算部122aは、要求流量テーブルを参照し、レバー操作量に基づいて、ポンプ要求流量を演算する。なお、ポンプ要求流量テーブルは、アーム操作量に基づくテーブルと、バケット操作量に基づくテーブルとがあり、それぞれのテーブルで決定された流量のうち、大きい方がポンプ要求流量として決定される。
【0067】
乗算部122bは、ポンプ要求流量演算部122aによって演算された油圧ポンプ30Aのポンプ要求流量と、吐出圧検出装置151の第1吐出圧センサ71によって検出された油圧ポンプ30Aの吐出圧と、単位換算用の係数とを乗算して、油圧ポンプ30Aの要求動力を算出する。
【0068】
第2ポンプ要求動力演算部123は、図示しないが、第1ポンプ要求動力演算部122と同様の機能を有し、操作量検出装置150のブレーキ操作量センサ57aによって検出されたブレーキ操作量と、吐出圧検出装置151の第2吐出圧センサ72によって検出された油圧ポンプ30Bの吐出圧とに基づいて、油圧ポンプ30Bの要求動力を演算する。
【0069】
第3ポンプ要求動力演算部124は、図示しないが、第1ポンプ要求動力演算部122と同様の機能を有し、操作量検出装置150のステアリング操作量センサ55aによって検出されたステアリング操作量と、吐出圧検出装置151の第3吐出圧センサ73によって検出された油圧ポンプ30Cの吐出圧とに基づいて、油圧ポンプ30Cの要求動力を演算する。
【0070】
最大値選択部125は、第1ポンプ要求動力演算部122によって演算された油圧ポンプ30Aの要求動力、第2ポンプ要求動力演算部123によって演算された油圧ポンプ30Bの要求動力、及び、第3ポンプ要求動力演算部124によって演算された油圧ポンプ30Cの要求動力のうちで最大のものを選択し、選択した要求動力を作業要求動力として決定する。
【0071】
加算部126は、走行要求動力演算部121によって演算された走行要求動力と、最大値選択部125で選択された作業要求動力とを加算することにより、エンジン要求動力を算出する。
【0072】
目標速度算出部127は、加算部126によって算出されたエンジン要求動力に基づいて、目標エンジン回転速度NE_Tを算出する。メインコントローラ100のROM102には、目標エンジン回転速度NE_Tの算出に用いられる速度テーブルが記憶されている。速度テーブルは、目標エンジン回転速度NE_Tが最小回転速度NE_T_minからエンジン要求動力の増加に応じて増加するように設定されている。目標速度算出部127は、速度テーブルを参照し、エンジン要求動力に基づいて、目標エンジン回転速度NE_Tを算出する。
【0073】
このように、目標速度演算部110は、走行要求動力及び作業要求動力を合計した値を可能な限り満たすエンジン動力が発生するように、目標エンジン回転速度NE_Tを決定する。
【0074】
図5に示すように、偏差演算部111は、以下の式(1)により、目標エンジン回転速度N
E_Tと実エンジン回転速度N
E_Aとの偏差である回転速度偏差N
Δを演算する。
N
Δ=N
E_T-N
E_A ・・・(1)
目標エンジン回転速度N
E_Tは、目標速度演算部110によって演算され、実エンジン回転速度N
E_Aは、エンジン回転速度センサ64によって検出される。
【0075】
操作状態判定部112は、操作量検出装置150の検出結果に基づいて、操作装置50が操作されている操作状態であるか、操作装置50が操作されていない非操作状態であるかを判定する。操作状態判定部112は、操作装置50の操作量に基づいて、判定フラグFLをオンまたはオフに設定し、判定フラグFLの設定状態に基づいて操作状態(作業状態)であるか否かを判定する。操作状態判定部112は、判定フラグFLがオンに設定されている場合には操作状態であると判定し、判定フラグFLがオフに設定されている場合には非操作状態であると判定する。
【0076】
操作状態判定部112は、判定フラグFLがオフに設定されている場合に、操作量検出装置150によって検出された操作量が第1操作量閾値R1以上になったとき、判定フラグFLをオフからオンに切り替える(F=1)。第1操作量閾値R1は、作業が開始されたときの操作量に相当し、予めROM102に記憶されている。第1操作量閾値R1は、例えば、最大操作量を100%としたときの10%程度の操作量に相当する。なお、本実施形態では、操作装置50として、アクセル操作装置56、アーム操作装置52及びバケット操作装置53がある。このため、操作状態判定部112は、操作量検出装置150によって検出されたアクセル操作量、アーム操作量及びバケット操作量のいずれかが第1操作量閾値R1以上になった場合に、判定フラグFLをオンに設定する。
【0077】
操作状態判定部112は、判定フラグFLがオンの設定されている場合に、操作量検出装置150によって検出された操作量が第2操作量閾値R2以下になったとき、判定フラグFLをオンからオフに切り替える(F=0)。第2操作量閾値R2は、作業が終了したときの操作量に相当し、予めROM102に記憶されている。第2操作量閾値R2は、第1操作量閾値R1よりも小さい値であり、例えば、最大操作量を100%としたときの5%程度の操作量に相当する。なお、本実施形態では、操作装置50として、アクセル操作装置56、アーム操作装置52及びバケット操作装置53がある。このため、操作状態判定部112は、操作量検出装置150によって検出されたアクセル操作量、アーム操作量及びバケット操作量のいずれもが第2操作量閾値R2以下になった場合に、判定フラグFLをオフに設定する。
【0078】
補正値演算部113は、回転速度偏差NΔに基づいて、以下の式(2)により、回転速度補正値NCを演算する。
NC=KI×∫NΔ×dt ・・・(2)
式(2)において、KIは積分ゲイン、dtはメインコントローラ100の制御周期である。回転速度偏差NΔは、偏差演算部111によって演算される。このように、補正値演算部113は、回転速度偏差NΔの時間積分値(∫NΔ×dt)を演算し、演算した時間積分値(∫NΔ×dt)に積分ゲインKIを乗じることによって回転速度補正値NCを演算する。積分ゲインKIは、予めROM102に記憶されている。
【0079】
図7は、エンジン負荷と回転速度偏差N
Δとの関係を示す相関マップの一例を示す図である。
図7に示すように、この相関マップで示されるホイールローダ1の特性は、予め計算もしくは実験によって決定される。相関マップに示されるように、ホイールローダ1では、アイドリング時には、エンジン負荷が最小負荷、回転速度偏差N
Δが最小偏差N
Δminとなり、エンジン負荷が増加するほど回転速度偏差N
Δが増加する。
【0080】
図7に示す相関マップで示される特性では、その傾きが大きいほど、あるエンジン負荷における回転速度偏差N
Δが大きくなる。従って、この傾きの大きさが大きい特性であるほど、式(2)の積分ゲインK
Iを大きく設定しておくことで、回転速度補正値N
Cを速やかに大きくすることができる。その結果、ホイールローダ1の作業開始後(操作開始後)、速やかに回転速度偏差N
Δを減らし、速やかに所望のエンジン動力を得ることができる。積分ゲインK
Iの値は、予め計算もしくは実験に基づいて決定される。
【0081】
図5に示す補正値演算部113は、判定フラグFLがオンに設定されている場合、すなわち、操作状態判定部112によって操作状態であると判定されている場合、上述の式(2)で演算された値を回転速度補正値N
Cとして決定する。補正値演算部113は、判定フラグFLがオフに設定されている場合、すなわち、操作状態判定部112によって非操作状態であると判定されている場合、式(2)の時間積分値(∫N
Δ×dt)を初期値(本実施形態では、0)に設定することにより、回転速度補正値N
Cを所定値(本実施形態では、0)に設定する。つまり、補正値演算部113は、判定フラグFLがオフからオンに切り替わってからの回転速度偏差N
Δの時間積分値(∫N
Δ×dt)に基づいて回転速度補正値N
Cを演算する。
【0082】
図5に示すように、指令値演算部114は、目標エンジン回転速度N
E_Tと回転速度補正値N
Cを用いて、以下の式(3)により、回転速度指令値N
E_Cを演算する。
N
E_C=N
E_T+N
C ・・・(3)
目標エンジン回転速度N
E_Tは、目標速度演算部110により演算され、回転速度補正値N
Cは、補正値演算部113により演算される。このように、指令値演算部114は、補正値演算部113により演算された回転速度補正値N
Cにより目標エンジン回転速度N
E_Tを補正する。補正後の目標エンジン回転速度である回転速度指令値N
E_Cは、エンジン速度指令としてエンジンコントローラ120に出力される。エンジンコントローラ120は、入力された回転速度指令値N
E_Cに基づいてエンジン20を制御する。
【0083】
なお、判定フラグFLがオフに設定されている場合、すなわち操作状態判定部112によって非操作状態であると判定されている場合、補正値演算部113は、回転速度補正値NCを0に設定する。つまり、指令値演算部114は、非操作状態であると判定されている場合には、回転速度補正値NCによる目標エンジン回転速度NE_Tの補正を行わない。
【0084】
以下、
図8A及び
図8Bを参照してメインコントローラ100により実行されるエンジン制御について説明する。
図8Aは、メインコントローラ100により実行されるエンジン制御のフローチャートである。
図8Bは、
図8Aのフローチャートに示す判定フラグFLの設定処理のフローチャートである。
図8Aのフローチャートに示す処理は、例えばイグニッションスイッチ(エンジンキースイッチ)がオンされることにより開始され、図示しない初期設定が行われた後、所定の制御周期で繰り返し実行される。なお、初期設定において、判定フラグFLはオフに設定される。
【0085】
ステップS110において、目標速度演算部110は、操作量検出装置150、吐出圧検出装置151及びモータ速度センサ58の検出結果に基づいて、目標エンジン回転速度NE_Tを演算し、ステップS115へ進む。
【0086】
ステップS115において、偏差演算部111は、ステップS110で演算された目標エンジン回転速度NE_Tとエンジン回転速度センサ64によって検出された実エンジン回転速度NE_Aに基づいて、回転速度偏差NΔを演算し(式(1)参照)、ステップS120へ進む。
【0087】
ステップS120において、操作状態判定部112は、判定フラグFLの設定処理を実行する。操作状態判定部112は、操作量検出装置150によって検出された操作量に基づいて、判定フラグFLをオンまたはオフに設定する。
図8Bを参照して、判定フラグFLの設定処理について詳しく説明する。
【0088】
図8Bに示すように、ステップS121において、操作状態判定部112は、現在設定されている判定フラグFLがオンであるか否かを判定する。現在設定されている判定フラグFLがオフである場合には処理がステップS123へ進み、現在設定されている判定フラグFLがオンである場合には処理がステップS127へ進む。
【0089】
ステップS123において、操作状態判定部112は、複数の操作装置50の操作量のいずれかが第1操作量閾値R1以上であるか否かを判定する。ステップS123において、複数の操作装置50の操作量のいずれかが第1操作量閾値R1以上であると判定されると、処理がステップS125へ進む。ステップS123において、複数の操作装置50の操作量のいずれもが第1操作量閾値R1未満であると判定されると、処理が
図8AのステップS130へ進む。
【0090】
ステップS127において、操作状態判定部112は、複数の操作装置50の操作量のいずれもが第2操作量閾値R2以下であるか否かを判定する。ステップS127において、複数の操作装置50の操作量のいずれもが第2操作量閾値R2以下であると判定されると、処理がステップS129へ進む。ステップS127において、複数の操作装置50の操作量のいずれかが第2操作量閾値R2よりも大きいと判定されると、処理が
図8AのステップS130へ進む。
【0091】
図8Aに示すように、ステップS130において、操作状態判定部112は、ステップS120で設定された判定フラグFLに基づいて、操作状態であるか非操作状態であるかを判定する。操作状態判定部112は、判定フラグFLがオンに設定されている場合、操作状態であると判定し、ステップS140へ進む。操作状態判定部112は、判定フラグFLがオフに設定されている場合、非操作状態であると判定し、ステップS150へ進む。
【0092】
ステップS140において、補正値演算部113は、ステップS115で演算された回転速度偏差NΔの時間積分値を演算し、演算した時間積分値に基づいて回転速度補正値NCを演算して(式(2)参照)、ステップS160へ進む。
【0093】
ステップS150において、補正値演算部113は、回転速度補正値NCのリセット処理を行う。このリセット処理では、回転速度偏差NΔの時間積分値が初期値(本実施形態では、0)に設定されるので、回転速度補正値NCが所定値(本実施形態では、0)に設定される。リセット処理(ステップS150)が完了すると、処理がステップS160へ進む。
【0094】
ステップS160において、指令値演算部114は、ステップS110で演算された目標エンジン回転速度NE_TにステップS140またはステップS150で演算された回転速度補正値NCを加算することにより、回転速度指令値NE_Cを演算する(式(3)参照)。
【0095】
ステップS160の処理が完了すると、本制御周期における
図8Aに示すフローチャートの処理を終了し、次の制御周期において、ステップS110の処理からステップS160までの処理を再び実行する。
【0096】
以下、
図9を参照して、本実施形態に係るホイールローダ1の主な動作と作用効果について説明する。
図9は、本実施形態に係るホイールローダ1の各パラメータ(アクセル操作量R
A、作業操作量R
I、回転速度指令値N
E_C、実エンジン回転速度N
E_A、エンジン動力P
E)の時系列変化を示す図である。以下では、掘削作業を行う場合のホイールローダ1の動作の一例について説明する。また、本実施形態の作用効果を明確にするため、式(2)で算出される回転速度補正値N
Cによって目標エンジン回転速度N
E_Tを補正しない比較例と比べながら説明する。なお、本実施形態に係るホイールローダ1と本実施形態の比較例に係るホイールローダとでは、各種操作装置に対するオペレータの操作手順及び操作量は同じであるものとする。
【0097】
図9において、本実施形態の各パラメータの時系列変化は実線で示し、比較例の各パラメータの時系列変化は破線で示す。
図9(a)~(e)の横軸は、時刻(経過時間)を示す。
図9(a)の縦軸はアクセル操作量センサ56aによって検出されたアクセル操作量R
Aを示し、
図9(b)の縦軸は操作量センサ52a,53aで検出されたアーム操作量及びバケット操作量のうちの大きい方である作業操作量R
Iを示し、
図9(c)の縦軸は指令値演算部114により演算された回転速度指令値N
E_Cを示し、
図9(d)の縦軸はエンジン回転速度センサ64により検出された実エンジン回転速度N
E_Aを示し、
図9(e)の縦軸はエンジン20が出力する動力であるエンジン動力P
Eを示す。
【0098】
図9において、時刻t
0は、オペレータがアクセル操作装置56を操作し、車体8が前進し始めた時刻である。すなわち、時刻t
0は判定フラグFLがオフからオンに切り替えられた時刻である。時刻t
1は、オペレータが作業操作装置(アーム操作装置52及びバケット操作装置53)を操作し、車体8を前進させつつ、アーム2とバケット3によって土砂を掬う動作をし始めた時刻である。時刻t
2は、オペレータが土砂の掬い込みを終了するためにアクセル操作装置56及び作業操作装置(アーム操作装置52及びバケット操作装置53)の操作を終了し、車体8、アーム2、及びバケット3が停止し始めた時刻である。
【0099】
図9(a)に示すように、アクセル操作量R
Aは時刻t
0までは小さい。これは、時刻t
0までは、オペレータがアクセル操作装置56を操作しておらず、ホイールローダ1が停止しているためである。時刻t
0で車体8の前進走行が開始され、アクセル操作量R
Aが急増する。なお、掘削中もバケット3を掘削対象91に貫入し続ける必要があるため、時刻t
1を過ぎてもアクセル操作量R
Aは大きいままである。その後、時刻t
2で掘削作業が終了するため、アクセル操作量R
Aが急減する。
【0100】
図9(b)に示すように、作業操作量R
Iは時刻t
1までは小さい。時刻t
1までは、ホイールローダ1が掘削対象91に貫入していない。時刻t
1からアーム2を上昇させつつバケット3に土砂を掬い込むための作業操作装置(アーム操作装置52及びバケット操作装置53)の操作が開始され、作業操作量R
Iが急増する。その後、時刻t
2で掘削作業が終了するため、作業操作量R
Iが急減する。
【0101】
図9(c)に示すように、比較例の場合、時刻t
0からのアクセル操作量R
Aの急増に応じて、回転速度指令値N
E_Cが低回転速度N
Lから中回転速度N
Mまで増加している。その後、時刻t
1からの作業操作量R
Iの急増に応じて、回転速度指令値N
E_Cが中回転速度N
Mから高回転速度N
Hまで増加している。
【0102】
これに対して、本実施形態の場合、時刻t0からのアクセル操作量RAの急増に応じて、回転速度指令値NE_Cが低回転速度NLから中回転速度NMより少し高い値まで増加し、その後、中回転速度NMに向かって徐々に低下している。これは、時刻t0で判定フラグFLがオフからオンに切り替わり、0(ゼロ)から速やかに増加した回転速度補正値NCが目標エンジン回転速度NE_Tに加算されることにより回転速度指令値NE_Cが演算されるためである。そして、時刻t1からの作業操作量RIの急増に応じて、回転速度指令値NE_Cが中回転速度NMから高回転速度NHより少し高い値まで増加し、その後、高回転速度NHに向かって徐々に低下している。これも、判定フラグFLがオンのままであり、回転速度補正値NCが目標エンジン回転速度NE_Tに加算されることにより回転速度指令値NE_Cが演算されるためである。
【0103】
図9(d)に示すように、比較例において、実エンジン回転速度N
E_Aは、時刻t
0からの回転速度指令値N
E_Cの増加に追随して増加する。実エンジン回転速度N
E_Aは、低回転速度N
Lから中回転速度N
Mより少し低い値までは速やかに増加するが、その後、中回転速度N
Mに向かって徐々に増加する。これは、上述のように、回転速度指令値N
E_C(=目標エンジン回転速度N
E_T)の増加に伴って回転速度偏差N
Δが増大したことにより燃料噴射量が増加し、実エンジン回転速度N
E_Aが中回転速度N
Mより少し低い値でエンジン負荷と釣り合ったためである。
【0104】
エンジンコントローラ120は、燃料噴射量の積分制御を実行する。このため、燃料噴射量が徐々に増加するのに伴って、実エンジン回転速度NE_Aが中回転速度NMに向かって徐々に増加する。時刻t1から時刻t2にかけても、上述の理由によって、回転速度指令値NE_Cの増加に対して実エンジン回転速度NE_Aが同様の挙動を示している。
【0105】
これに対して、
図9(d)に示すように、本実施形態の場合、実エンジン回転速度N
E_Aは、時刻t
0からの回転速度指令値N
E_Cの増加に追随して、中回転速度N
Mまで速やかに増加する。これは、回転速度指令値N
E_Cが中回転速度N
Mより少し高い値まで増加したことにより、実エンジン回転速度N
E_Aが増加した直後の回転速度偏差分を吸収しているためである。そして、エンジンコントローラ120が、燃料噴射量の積分制御によって燃料噴射量を徐々に増加させるのに伴って、メインコントローラ100は、回転速度補正値N
Cの積分制御によって回転速度補正値N
Cを減少させる。これにより、実エンジン回転速度N
E_Aは、中回転速度N
Mの状態のまま維持される。時刻t
1から時刻t
2にかけても、上述の理由によって、回転速度指令値N
E_Cの増加に対して実エンジン回転速度N
E_Aが同様の挙動を示している。
【0106】
図9(e)に示すように、比較例において、エンジン動力P
Eは、時刻t
0から実エンジン回転速度N
E_Aの増加に応じて、低動力P
Lから増加している。ここで、比較例の場合、実エンジン回転速度N
E_Aが中回転速度N
Mより低いため、エンジン動力P
Eが所望の動力である中動力P
Mまで増加していない。その後、実エンジン回転速度N
E_Aが中回転速度N
Mに向かって増加するのに伴って、エンジン動力P
Eが中動力P
Mに向かって徐々に増加しているが、次の操作タイミングである時刻t
1までに回転速度偏差N
Δがなくなっていない。その結果、比較例では、時刻t
2までに所望のエンジン動力が得られていない。時刻t
1から時刻t
2にかけても、上述の理由によって、エンジン動力P
Eが同様の挙動を示しており、所望のエンジン動力を得ることができていない。
【0107】
これに対して、
図9(e)に示すように、本実施形態の場合、時刻t
0からの実エンジン回転速度N
E_Aの増加に応じて、エンジン動力P
Eが低動力P
Lから所望の動力である中動力P
Mまで速やかに増加している。これは、時刻t
0から実エンジン回転速度N
E_Aが速やかに中回転速度N
Mまで増加しているためである。その後、時刻t
1から時刻t
2にかけても、上述の理由によって、エンジン動力P
Eが同様の挙動を示しており、所望のエンジン動力を得ることができている。
【0108】
以上のように、車体8の前進走行と作業装置6の動作が行われる掘削作業の場合、比較例では、実エンジン回転速度NE_Aが回転速度指令値NE_Cよりも低い状態が長く続くため、エンジン動力PEは作業に必要なエンジン動力(すなわち、所望の動力)に満たず、作業効率が低下してしまう。
【0109】
これに対して、本実施形態では、メインコントローラ100が回転速度偏差NΔを相殺するように回転速度補正値NCを目標エンジン回転速度NE_Tに加算した回転速度指令値NE_Cをエンジンコントローラ120に出力する。これにより、作業を行うための操作開始後、エンジン動力PEが作業に必要なエンジン動力(すなわち、所望の動力)まで速やかに上昇する。その結果、本実施形態では、比較例よりもホイールローダ1による作業の効率を向上することができる。
【0110】
以上のように構成された本発明の実施形態の構成、作用、及び効果をまとめると、以下のとおりである。
【0111】
(1)本実施形態に係るホイールローダ(作業機械)1は、車体8と、車体8に搭載されたエンジン20と、車体8に備えられた車輪7を駆動する走行駆動装置45と、エンジン20により駆動される油圧ポンプ30Aと、油圧ポンプ30Aから吐出される作動油によって伸縮動作される油圧シリンダ(アームシリンダ4及びバケットシリンダ5)と、油圧シリンダ(アームシリンダ4及びバケットシリンダ5)の伸縮動作に応じて動かされる駆動対象部材(アーム2及びバケット3)とを有する作業装置6と、走行駆動装置45及び作業装置6の少なくともいずれかを操作する操作装置50と、操作装置50の操作量を検出する操作量検出装置150と、エンジン20の実回転速度NE_Aを検出するエンジン回転速度センサ64と、エンジン20を制御する制御装置(メインコントローラ100及びエンジンコントローラ120)と、を備えている。
【0112】
メインコントローラ100は、操作量検出装置150の検出結果に基づいて、エンジン20の目標回転速度NE_Tを演算する。メインコントローラ100は、演算されたエンジン20の目標回転速度NE_Tとエンジン回転速度センサ64により検出されたエンジン20の実回転速度NE_Aとの差である回転速度偏差NΔの時間積分値(∫NΔ×dt)を演算する。メインコントローラ100は、演算された時間積分値(∫NΔ×dt)に基づいて回転速度補正値NCを演算する。メインコントローラ100は、演算された回転速度補正値NCとエンジン20の目標回転速度NE_Tとを加算して、エンジン20の回転速度指令値NE_Cを演算する。メインコントローラ100は、演算されたエンジン20の回転速度指令値NE_Cに基づいてエンジン20を制御する。メインコントローラ100は、操作量検出装置150の検出結果に基づいて、操作装置50(アクセル操作装置56、アーム操作装置52及びバケット操作装置53のいずれか)が操作されている操作状態であるか、操作装置50(アクセル操作装置56、アーム操作装置52及びバケット操作装置53の全て)が操作されていない非操作状態であるかを判定する。メインコントローラ100は、非操作状態であると判定された場合には、時間積分値(∫NΔ×dt)を予め定めた初期値(本実施形態では、0)に設定し、エンジン20を制御する。すなわち、メインコントローラ100は、時間積分値(∫NΔ×dt)を初期化し、回転速度補正値NCを所定値(本実施形態では、0)に設定してエンジン20を制御する。
【0113】
したがって、例えば、オペレータが作業を行うための操作を開始すると、その時点からの回転速度偏差NΔの時間積分値(∫NΔ×dt)が演算され、演算された時間積分値(∫NΔ×dt)に基づいて回転速度補正値NCが演算され、回転速度補正値NCによってエンジン20の目標回転速度NE_Tが補正される。
【0114】
この補正により、メインコントローラ100は、回転速度偏差NΔを相殺するように回転速度指令値NE_Cをエンジンコントローラ120に出力することになる。これにより、作業を行うための操作開始後、エンジン動力PEが作業に必要なエンジン動力(すなわち、所望の動力)まで速やかに上昇する。このように、本実施形態では、オペレータによる補正特性の調整作業等などが不要であり、オペレータの手間をかけることなく、かつ、無駄な燃料を消費せずに、所望のエンジン動力を速やかに得ることができる。
【0115】
(2)また、エンジンコントローラ120は、燃料噴射量が徐々に増加するように、燃料噴射量の積分制御を実行する。エンジンコントローラ120が、燃料噴射量の積分制御によって燃料噴射量を徐々に増加させるのに伴って、メインコントローラ100は、回転速度補正値NCの積分制御によって回転速度補正値NCを減少させる。これにより、実エンジン回転速度NE_Aが目標エンジン回転速度NE_Tを超えないように制御することができる。その結果、不必要なエンジン動力の発生と過大なエンジン負荷の増大を防ぐことができるので、無駄な燃料の消費を防止することができる。
【0116】
(3)ホイールローダ1は、エンジン20の動力により発電する発電電動機(発電機)40を備える。走行駆動装置45は、発電電動機40によって発電された電力により駆動され車輪7を動作させる走行電動機(電動モータ)43を備える。
【0117】
本実施形態では、エンジン20の実回転速度NE_Aと走行電動機43の回転速度とはリンクしておらず、個別に制御される。このような構成では、エンジン20が発生した動力PEから作業装置6と走行装置11に供給した動力を差し引いた動力がエンジン20の軸で消費されて実エンジン回転速度NE_Aが変動する。したがって、上述した比較例では、所望のエンジン動力に満たない場合、実エンジン回転速度NE_Aの維持や増加に消費されるはずのエンジン動力が不足し、実エンジン回転速度NE_Aが低下して作業効率の低下を招いてしまう。これに対して、本実施形態では、回転速度偏差NΔの時間積分値に基づいて回転速度補正値NCを演算し、回転速度補正値NCによりエンジン20の目標回転速度NE_Tを補正する。このため、エンジン20の実回転速度NE_Aと、走行装置11を駆動する走行電動機43の回転速度とがそれぞれ独立して制御される構成において、エンジン動力の不足を防止することにより、作業効率の低下を効果的に抑制することができる。
【0118】
(4)メインコントローラ100は、非操作状態であると判定されている場合に、回転速度補正値N
Cを0に設定する(
図8AのS130でNo→S150)。これにより、アイドリング中など作業を行っていない場合には、回転速度偏差NΔ(最小偏差NΔmin)に基づく目標エンジン回転速度N
E_Tの補正は行われない。その結果、無駄な燃料の消費を防止することができる。
【0119】
<第2実施形態>
第2実施形態に係るホイールローダ1について説明する。なお、第1実施形態と同一もしくは相当部分には同一の参照番号を付し、相違点を主に説明する。第2実施形態では、
図5に示す補正値演算部113による回転速度補正値N
Cの演算方法が、第1実施形態と異なっている。
【0120】
具体的には、補正値演算部113は、偏差演算部111によって演算された回転速度偏差NΔに基づいて、以下の式(4)を用いて回転速度補正値NCを演算する。
NC=KP×NΔ+KI×∫NΔ×dt ・・・(4)
ここで、KPは比例ゲインであり、KIは積分ゲインであり、dtはメインコントローラ100の制御周期である。
【0121】
第2実施形態に係るメインコントローラ100は、エンジン20の目標回転速度NE_Tとエンジン20の実回転速度NE_Aとの差である回転速度偏差NΔの時間積分値(∫NΔ×dt)に積分ゲインKIを乗じた値(KI×∫NΔ×dt)と、エンジン20の目標回転速度NE_Tとエンジン20の実回転速度NE_Aとの差である回転速度偏差NΔに比例ゲインKPを乗じた値(KP×NΔ)とを加算することにより、回転速度補正値NCを演算する。比例ゲインKP及び積分ゲインKIは、予めROM102に記憶されている。
【0122】
このように、本実施形態では、メインコントローラ100が、PI制御(比例・積分制御)により、回転速度補正値NCを演算する。これにより、実エンジン回転速度NE_Aよりも大きい目標エンジン回転速度NE_Tが設定された場合に、より速やかに実エンジン回転速度NE_Aを目標エンジン回転速度NE_Tまで上昇させ回転速度偏差NΔを低減することができる。
【0123】
<第3実施形態>
第3実施形態に係るホイールローダ1について説明する。なお、第1実施形態と同一もしくは相当部分には同一の参照番号を付し、相違点を主に説明する。第3実施形態では、
図5に示す補正値演算部113による回転速度補正値N
Cの演算方法が、第1実施形態と異なっている。
【0124】
具体的には、補正値演算部113は、偏差演算部111によって演算された回転速度偏差NΔに基づいて、以下の式(5)を用いて回転速度補正値NCを演算する。
NC=KP×NΔ+KI×∫NΔ×dt+KD×dNΔ/dt ・・・(5)
ここで、KPは比例ゲインであり、KIは積分ゲインであり、KDは微分ゲインであり、dtはメインコントローラ100の制御周期である。
【0125】
第3実施形態に係るメインコントローラ100は、エンジン20の目標回転速度NE_Tとエンジン20の実回転速度NE_Aとの差である回転速度偏差NΔの時間積分値(∫NΔ×dt)に積分ゲインKIを乗じた値(KI×∫NΔ×dt)と、エンジン20の目標回転速度NE_Tとエンジン20の実回転速度NE_Aとの差である回転速度偏差NΔに比例ゲインKPを乗じた値(KP×NΔ)と、エンジン20の目標回転速度NE_Tとエンジン20の実回転速度NE_Aとの差である回転速度偏差NΔの時間微分値(dNΔ/dt)に微分ゲインKDを乗じた値(KD×dNΔ/dt)とを加算することにより、回転速度補正値NCを演算する。比例ゲインKP、積分ゲインKI及び微分ゲインKDは、予めROM102に記憶されている。
【0126】
このように、本実施形態では、メインコントローラ100が、PID制御(比例・積分・微分制御)により、回転速度補正値NCを演算する。これにより、実エンジン回転速度NE_Aよりも大きい目標エンジン回転速度NE_Tが設定された場合に、より速やかに実エンジン回転速度NE_Aを目標エンジン回転速度NE_Tまで上昇させ回転速度偏差NΔを低減することができる。なお、本第3実施形態は、第2実施形態のPI制御にD制御を付加した制御であるため、回転速度偏差NΔの発生から定常状態(実エンジン回転速度NE_Aが目標エンジン回転速度NE_Tに一致している状態)に至るまでの過渡応答特性を第2実施形態に比べて改善することができる。その結果、本第3実施形態によれば、第1実施形態及び第2実施形態に対して、より速やかに所望のエンジン動力PEを得ることができる。
【0127】
以上のとおり、第1実施形態から第3実施形態に係るホイールローダ1について説明したが、次のような変形例も本発明の範囲内である。
【0128】
<変形例1>
第1実施形態では、メインコントローラ100がI制御(積分制御)により回転速度補正値NCを演算する例について説明し、第2実施形態では、メインコントローラ100がPI制御(比例・積分制御)により回転速度補正値NCを演算し、第3実施形態では、メインコントローラ100がPID制御(比例・積分・微分制御)により回転速度補正値NCを演算する例について説明したが、本発明はこれに限定されない。メインコントローラ100は、ID制御(積分・微分制御)により回転速度補正値NCを演算してもよい。
【0129】
この場合、
図5に示す補正値演算部113は、偏差演算部111によって演算された回転速度偏差N
Δに基づいて、以下の式(6)を用いて回転速度補正値N
Cを演算する。
N
C=K
I×∫N
Δ×dt+K
D×dN
Δ/dt ・・・(6)
ここで、K
Iは積分ゲインであり、K
Dは微分ゲインであり、dtはメインコントローラ100の制御周期である。
【0130】
本変形例1に係るメインコントローラ100は、エンジン20の目標回転速度NE_Tとエンジン20の実回転速度NE_Aとの差である回転速度偏差NΔの時間積分値(∫NΔ×dt)に積分ゲインKIを乗じた値(KI×∫NΔ×dt)と、エンジン20の目標回転速度NE_Tとエンジン20の実回転速度NE_Aとの差である回転速度偏差NΔの時間微分値(dNΔ/dt)に微分ゲインKDを乗じた値(KD×dNΔ/dt)とを加算することにより、回転速度補正値NCを演算する。
【0131】
このように、本実施形態では、メインコントローラ100が、ID制御により、回転速度補正値NCを演算する。これにより、実エンジン回転速度NE_Aよりも大きい目標エンジン回転速度NE_Tが設定された場合に、第1実施形態に比べて、より速やかに実エンジン回転速度NE_Aを目標エンジン回転速度NE_Tまで上昇させ回転速度偏差NΔを低減することができる。
【0132】
<変形例2>
上記実施形態では、メインコントローラ100が、操作量検出装置150の検出結果に基づいて、操作状態であるか非操作状態であるかを判定し、非操作状態であると判定された場合に、回転速度偏差NΔの時間積分値を初期値に設定する例について説明したが、本発明はこれに限定されない。
【0133】
メインコントローラ100は、操作量検出装置150の検出結果に基づいて、非操作状態から操作状態に切り替わったか否かを判定し、非操作状態から操作状態に切り替わったと判定された場合に、回転速度偏差NΔの時間積分値を初期値に設定しエンジン20を制御してもよい。
【0134】
図10を参照して、本変形例に係るメインコントローラ100により実行されるエンジン制御について説明する。
図10は、
図8Aと同様の図であり、メインコントローラ100により実行されるエンジン制御のフローチャートである。本変形例に係るメインコントローラ100は、
図8AのフローチャートのステップS130の処理に代えて、ステップS230の処理を実行する。また、メインコントローラ100は、
図8AのフローチャートのステップS160の処理に代えて、ステップS245,S260,S265の処理を実行する。なお、
図8Aのフローチャートに示す処理と同じ処理には同じ符号を付し、以下では、
図8Aのフローチャートに示す処理と異なる部分を主に説明する。
【0135】
図10に示すように、メインコントローラ100は、判定フラグの設定処理(ステップS120)を完了すると、ステップS230へ進み、非操作状態から操作状態に切り替わったか否かを判定する。例えば、メインコントローラ100は、一つ前の制御周期のステップS120において設定された判定フラグFLがオフであり、今回の制御周期のステップS120において設定された判定フラグFLがオンである場合に、非操作状態から操作状態に切り替わったと判定し、ステップS150へ進む。それ以外の場合、メインコントローラ100は、非操作状態から操作状態に切り替わっていないと判定し、ステップS140へ進む。
【0136】
ステップS150において、メインコントローラ100は、上記実施形態と同様の処理を実行した後、ステップS140へ進む。ステップS140において、メインコントローラ100は、上記実施形態と同様の処理を実行した後、ステップS245へ進む。ステップS245において、メインコントローラ100は、上記実施形態で説明したステップS130と同様の処理を実行する。ステップS245において、メインコントローラ100は、ステップS120で設定された判定フラグFLに基づいて、操作状態であるか非操作状態であるかを判定する。メインコントローラ100は、判定フラグFLがオンに設定されている場合、操作状態であると判定し、ステップS260へ進む。メインコントローラ100は、判定フラグFLがオフに設定されている場合、非操作状態であると判定し、ステップS265へ進む。
【0137】
ステップS260において、メインコントローラ100は、ステップS110で演算された目標エンジン回転速度N
E_TをステップS140で演算された回転速度補正値N
Cによって補正する。具体的には、指令値演算部114は、目標エンジン回転速度N
E_Tに回転速度補正値N
Cを加算することにより、補正後の目標エンジン回転速度である回転速度指令値N
E_Cを演算する。ステップS260の処理が完了すると、本制御周期における
図10に示すフローチャートの処理を終了する。
【0138】
ステップS265において、メインコントローラ100は、ステップS110で演算された目標エンジン回転速度N
E_Tを補正することなく、そのまま回転速度指令値N
E_Cとして演算する。ステップS265の処理が完了すると、本制御周期における
図10に示すフローチャートの処理を終了する。
【0139】
このような変形例によれば、上記実施形態と同様の作用効果を奏する。なお、メインコントローラ100は、判定フラグFLがオフからオンに切り替わった時、回転速度偏差NΔの時間積分値を初期値に設定し、回転速度補正値NCを所定値にリセットする。これにより、判定フラグFLがオフからオンに切り替わった直後に、積分項が蓄積されていることによって回転速度補正値NCが急増し、実エンジン回転速度NE_Aの挙動が不安定になることを防ぐことができる。
【0140】
<変形例3>
上記実施形態では、操作量検出装置150により検出された操作量が第1操作量閾値R1以上になったときに、判定フラグFLがオンに設定され、操作量検出装置150により検出された操作量が第2操作量閾値R2以下になったときに、判定フラグFLがオフに設定される例について説明したが、本発明はこれに限定されない。
【0141】
メインコントローラ100は、操作量検出装置150により検出された操作量が予め定めた第1操作量閾値R1以上である状態が予め定めた第1時間T1継続した場合に、操作状態であると判定し、操作量検出装置150により検出された操作量が予め定めた第2操作量閾値R2以下である状態が予め定めた第2時間T2継続した場合に、非操作状態であると判定してもよい。なお、上述したように、第2操作量閾値R2は、第1操作量閾値R1よりも小さい。
【0142】
図11を参照して、本変形例に係るメインコントローラ100による判定フラグFLの設定処理について説明する。
図11は、
図8Bと同様の図であり、本変形例に係るメインコントローラ100により実行される判定フラグの設定処理のフローチャートである。本変形例に係るメインコントローラ100は、
図11に示すように、判定フラグの設定処理(
図8AのステップS120)において、まず、ステップS121の処理を実行する。ステップS121において、メインコントローラ100は、現在設定されている判定フラグFLがオンであるか否かを判定する。現在設定されている判定フラグFLがオフである場合には処理がステップS323へ進み、現在設定されている判定フラグFLがオンである場合には処理がステップS327へ進む。
【0143】
ステップS323において、メインコントローラ100は、操作量検出装置150によって検出されたアクセル操作量、アーム操作量及びバケット操作量のいずれかが、第1操作量閾値R1以上になると、その時点からの時間の計測を開始する。メインコントローラ100は、操作量検出装置150によって検出されたアクセル操作量、アーム操作量及びバケット操作量のいずれかが、第1操作量閾値R1以上である状態が第1時間T1継続したか否かを判定する。ステップS323において、複数の操作装置50の操作量のいずれかが第1操作量閾値R1以上である状態が第1時間T1継続したと判定された場合、処理がステップS125へ進み、それ以外の場合には、処理が
図8AのステップS130へ進む。第1時間T1は、予めROM102に記憶されている。
【0144】
ステップS327において、メインコントローラ100は、操作量検出装置150によって検出されたアクセル操作量、アーム操作量及びバケット操作量のいずれもが、第2操作量閾値R2以下になると、その時点からの時間の計測を開始する。メインコントローラ100は、操作量検出装置150によって検出されたアクセル操作量、アーム操作量及びバケット操作量のいずれもが、第2操作量閾値R2以下である状態が第2時間T2継続したか否かを判定する。ステップS327において、複数の操作装置50の操作量のいずれもが第2操作量閾値R2以下である状態が第2時間T2継続したと判定された場合、処理がステップS129へ進み、それ以外の場合には、処理が
図8AのステップS130へ進む。第2時間T2は、予めROM102に記憶されている。
【0145】
図11のステップS125,S129は、
図8BのステップS125,S129と同様の処理であるため、説明を省略する。
【0146】
本変形例では、操作量検出装置150によって検出された操作量が操作量閾値以上、あるいは操作量閾値以下になって直ぐに判定フラグFLを切り替えるのではなく、操作量が操作量閾値以上、あるいは操作量閾値以下になった後、その状態が所定時間継続した場合に判定フラグFLを切り替える。これにより、非作業中に、アクセル操作装置56のアクセルペダル、あるいはアーム操作装置52及びバケット操作装置53の操作レバーを少しの間だけ操作したり、作業中に、アクセル操作装置56のアクセルペダル、あるいはアーム操作装置52及びバケット操作装置53の操作レバーの操作を少しの間だけ中断したりした場合には、判定フラグFLは現状の状態を維持する。このため、本変形例によれば、ホイールローダ1を安定して動作させることができる。
【0147】
<変形例4>
上記実施形態では、走行装置11に動力を供給する単一の走行電動機43が、ホイールローダ1に搭載される例について説明したが、本発明はこれに限定されない。複数の走行電動機43を備えたホイールローダ1に本発明を適用してもよい。本発明は、例えば、左側の前輪7Aを駆動する走行電動機43と、右側の前輪7Aを駆動する走行電動機43とを備えたホイールローダ1に適用することができる。また、本発明は、例えば、左右一対の前輪7A及び左右一対の後輪7Bのそれぞれを駆動する4つの走行電動機43を備えたホイールローダ1に適用することもできる。なお、走行電動機43は、変速機を介して車輪7と接続されていてもよいし、車輪7に一体化する構成としてもよい。
【0148】
<変形例5>
上記実施形態では、作業機械が電動駆動式のホイールローダである例について説明したが、本発明はこれに限定されない。本発明は、例えば、トルクコンバータ駆動式のホイールローダ、エンジン20の動力を油圧に変換して車輪7に伝達するHST(Hydraulic Static Transmission)駆動式のホイールローダに適用してもよい。なお、トルクコンバータ駆動式のホイールローダでは、エンジン20の実回転速度に応じて車輪7が駆動されるため、エンジン20の実回転速度の低下という事象が起こりにくい。これに対して、HST駆動式のホイールローダは、エンジン20の実回転速度と、油圧モータの回転速度とがそれぞれ独立して制御される構成である。このため、上記実施形態で説明した電動駆動式ホイールローダと同様、エンジン20の負荷上昇に起因したエンジン20の実回転速度の低下が起こりやすい。このため、本発明を適用することにより、上記実施形態と同様、特に高い効果が得られる。
【0149】
<変形例6>
目標エンジン回転速度NE_Tの演算方法は、上記実施形態で説明した方法に限定されない。
【0150】
<変形例6―1>
例えば、最大値選択部125に代えて、油圧ポンプ30Aの要求動力、油圧ポンプ30Bの要求動力、及び、油圧ポンプ30Cの要求動力の総和を演算する演算部を設けてもよい。
【0151】
<変形例6―2>
メインコントローラ100は、アーム操作装置52、バケット操作装置53及びアクセル操作装置56の操作量のそれぞれと、目標エンジン回転速度NE_Tとの関係を定めたテーブルに基づいて、操作量に応じた目標エンジン回転速度NE_Tを演算してもよい。この場合、メインコントローラ100は、アーム操作量と目標エンジン回転速度NE_Tとの関係を定めたテーブルを参照し、アーム操作装置52の操作量に基づいて第1目標エンジン回転速度を演算する。また、メインコントローラ100は、バケット操作量と目標エンジン回転速度NE_Tとの関係を定めたテーブルを参照し、バケット操作装置53の操作量に基づいて第2目標エンジン回転速度を演算する。さらに、メインコントローラ100は、アクセル操作量と目標エンジン回転速度NE_Tとの関係を定めたテーブルを参照し、アクセル操作装置56の操作量に基づいて第3目標エンジン回転速度を演算する。メインコントローラ100は、第1~第3目標エンジン回転速度のうち最大のものを選択し、選択した目標エンジン回転速度NE_Tを回転速度補正値NCによって補正してエンジンコントローラ120に回転速度指令として出力する。
【0152】
<変形例6―3>
メインコントローラ100は、アーム操作装置52の操作量、バケット操作装置53の操作量及びアクセル操作装置56の操作量の総和と、エンジン20の目標回転速度NE_Tとの関係を定めたテーブルに基づいて、操作量の総和に応じた目標エンジン回転速度NE_Tを演算してもよい。
【0153】
<変形例7>
上記実施形態では、アーム操作量センサ52a及びバケット操作量センサ53aがポテンショメータである例について説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、アーム操作量センサ52aは、フロント制御部31を構成するアームシリンダ4の制御用の方向制御弁のパイロット室に入力されるパイロット圧を検出する圧力センサであってもよい。同様に、バケット操作量センサ53aは、フロント制御部31を構成するバケットシリンダ5の制御用の方向制御弁のパイロット室に入力されるパイロット圧を検出する圧力センサであってもよい。
【0154】
また、操作量検出装置として、アーム相対角センサ62及びバケット相対角センサ63を採用してもよい。例えば、メインコントローラ100は、アーム相対角センサ62により検出されたアーム相対角の時間変化率が予め定めた閾値以上である場合には、操作状態であると判定する。また、メインコントローラ100は、バケット相対角センサ63によって検出されたバケット相対角の時間変化率が予め定めた閾値以上である場合には、操作状態であると判定する。
【0155】
さらに、操作量検出装置として、カメラ等の撮影装置を採用してもよい。例えば、メインコントローラ100は、運転室12内を撮影する撮影装置により、オペレータの動きを監視し、オペレータの動きに基づいて、操作状態であるか非操作状態であるかを判定してもよい。また、メインコントローラ100は、ホイールローダ1の前方を撮影する撮影装置により、作業装置6及び車輪7の動きを監視し、作業装置6及び車輪7の動きに基づいて、操作状態であるか非操作状態であるかを判定してもよい。
【0156】
操作量検出装置として、赤外線センサを採用してもよい。例えば、メインコントローラ100は、ホイールローダ1の前方を監視する赤外線センサによって検出された情報に基づいて、操作状態であるか非操作状態であるかを判定してもよい。この場合、メインコントローラ100は、赤外線センサにより認識された物体とホイールローダ1との距離が変化しているときには操作状態であると判定し、赤外線センサにより認識された物体とホイールローダ1との距離が変化していないときには非操作状態であると判定する。
【0157】
<変形例8>
上記実施形態において、メインコントローラ100は、外乱及びノイズの影響を避けるため、各種判定及び計算に用いる値に対して移動平均処理またはローパスフィルタ処理を施してもよい。また、回転速度補正値NCに移動平均処理またはローパスフィルタ処理をすることで、目標エンジン回転速度NE_Tの増加直後において、回転速度補正値NCの急激な変動を抑制することができる。その結果、エンジン制御の安定性及び操作性の向上を図ることができる。
【0158】
<変形例9>
上記実施形態において、時間積分値の初期値が0(ゼロ)である例について説明したが、本発明はこれに限定されない。時間積分値の初期値は、0(ゼロ)ではない任意の数値であってもよい。つまり、リセット処理(
図8AのステップS150)において、回転速度補正値N
Cは、0(ゼロ)に設定される場合に限定されることなく、0(ゼロ)ではない所定値に設定されてもよい。
【0159】
<変形例10>
上記実施形態で説明したメインコントローラ100の機能は、それらの一部または全部をハードウェア(例えば各機能を実行するロジックを集積回路で設計する等)で実現してもよい。
【0160】
<変形例11>
上記実施形態で説明したメインコントローラ100の機能の一部または全部をエンジンコントローラ120が有していてもよいし、上記実施形態で説明したエンジンコントローラ120の機能の一部または全部をメインコントローラ100が有していてもよい。
【0161】
<変形例12>
上記実施形態では、操作量検出装置150によって検出されたアクセル操作量、アーム操作量及びバケット操作量に基づいて、判定フラグFLのオンオフの設定処理を実行する例について説明したが、本発明はこれに限定されない。操作量検出装置150によって検出されたアクセル操作量、アーム操作量及びバケット操作量のうちの一つのみに基づいて、判定フラグFLのオンオフの設定処理を実行してもよい。
【0162】
<変形例13>
上記実施形態では、作業機械が、ホイールローダ1である例について説明したが、本発明はこれに限定されない。フォークリフト、ショベル、リフトトラック等、エンジン動力によって走行装置もしくは作業装置が駆動される種々の作業機械に本発明を適用することができる。例えば、ショベルによる掘削作業、積込作業、フォークリフトによるリフトを上昇させながらの前進走行において、目標エンジン回転速度NE_Tと実エンジン回転速度NE_Aの差の時間積分値に基づく、目標エンジン回転速度NE_Tの補正を行ってもよい。
【0163】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。上述した実施形態及び変形例は本発明を理解し易く説明するために例示したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されない。また、ある実施形態、変形例の構成の一部を他の実施形態、変形例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態、変形例の構成に他の実施形態、変形例の構成を加えることも可能である。なお、図中に示した制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上で必要な全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際にはほとんど全ての構成が相互に接続されていると考えてもよい。
【符号の説明】
【0164】
1…ホイールローダ(作業機械)、2…アーム(駆動対象部材)、3…バケット(駆動対象部材)、4…アームシリンダ(油圧シリンダ)、5…バケットシリンダ(油圧シリンダ)、6…作業装置、7…車輪、8…車体、11…走行装置、12…運転室、20…エンジン、23…燃料噴射装置、30A,30B,30C…油圧ポンプ、40…発電電動機(発電機)、43…走行電動機(電動モータ)、45…走行駆動装置、50…操作装置、52…アーム操作装置、52a…アーム操作量センサ、53…バケット操作装置、53a…バケット操作量センサ、56…アクセル操作装置、56a…アクセル操作量センサ、58…モータ速度センサ、62…アーム相対角センサ、63…バケット相対角センサ、64…エンジン回転速度センサ、71…第1吐出圧センサ、72…第2吐出圧センサ、73…第3吐出圧センサ、100…メインコントローラ(制御装置)、110…目標速度演算部、111…偏差演算部、112…操作状態判定部、113…補正値演算部、114…指令値演算部、120…エンジンコントローラ、150…操作量検出装置、151…吐出圧検出装置、NC…回転速度補正値、NE_A…実エンジン回転速度(エンジンの実回転速度)、NE_C…回転速度指令値、NE_T…目標エンジン回転速度(エンジンの目標回転速度)、NΔ…回転速度偏差、PE…エンジン動力、R1…第1操作量閾値、R2…第2操作量閾値、T1…第1時間、T2…第2時間