(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-20
(45)【発行日】2025-01-06
(54)【発明の名称】三次元積層造形用ホットエンド
(51)【国際特許分類】
B29C 64/209 20170101AFI20241223BHJP
B29C 64/118 20170101ALI20241223BHJP
B33Y 30/00 20150101ALI20241223BHJP
B29C 64/295 20170101ALI20241223BHJP
【FI】
B29C64/209
B29C64/118
B33Y30/00
B29C64/295
(21)【出願番号】P 2021166856
(22)【出願日】2021-10-11
【審査請求日】2023-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】505142964
【氏名又は名称】株式会社クボタケミックス
(74)【代理人】
【識別番号】110001438
【氏名又は名称】弁理士法人 丸山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】谷川 伸一
(72)【発明者】
【氏名】柿田 明伸
(72)【発明者】
【氏名】氏家 光晴
(72)【発明者】
【氏名】鎗水 隆良
(72)【発明者】
【氏名】清田 和希
【審査官】羽鳥 公一
(56)【参考文献】
【文献】韓国登録特許第10-2106209(KR,B1)
【文献】国際公開第2016/011252(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0236407(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2021/0299949(US,A1)
【文献】特開2018-001505(JP,A)
【文献】特開2019-069592(JP,A)
【文献】特開2018-030326(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 64/00-64/40
B29C 67/00-67/08
B29C 67/24-69/02
B29C 73/00-73/34
B29D 1/00-29/10
B29D 33/00
B29D 99/00
B33Y 10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィラメントが送給されるガイド孔を有するガイドと、
前記ガイド孔に連通するノズル孔を有するノズルと、
前記ノズルに装着されるヒーターを具える三次元積層造形用ホットエンドであって、
前記ノズルは、
前記ノズル孔が開設され、樹脂製のノズル内筒部と、
前記ノズル内筒部の外周を包囲し、前記ヒーターが装着された金属製のノズル外筒部と、
を有
し、
前記ノズル孔内で前記フィラメントが加熱を受けて溶融するフィラメント溶融部の高さL0は、前記ノズル内筒部の高さL2よりも低い、
三次元積層造形用ホットエンド。
【請求項2】
前記ガイドは、
前記ガイド孔が開設され、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)製のノズルキャップと、
前記ノズルキャップの外周を包囲し、前記ノズル外筒部と係合されるガイド外筒部と、
を有する、
請求項
1に記載の三次元積層造形用ホットエンド。
【請求項3】
フィラメントが送給されるガイド孔を有するガイドと、
前記ガイド孔に連通するノズル孔を有するノズルと、
前記ノズルに装着されるヒーターを具える三次元積層造形用ホットエンドであって、
前記ノズルは、
前記ノズル孔が開設され、樹脂製のノズル内筒部と、
前記ノズル内筒部の外周を包囲し、前記ヒーターが装着された金属製のノズル外筒部と、
を有し、
前記ガイドは、
前記ガイド孔が開設され、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)製のノズルキャップと、
前記ノズルキャップの外周を包囲し、前記ノズル外筒部と係合されるガイド外筒部と、
を有する、
三次元積層造形用ホットエンド。
【請求項4】
前記ノズル内筒部の前記ノズル孔及び前記ノズルキャップの前記ガイド孔の直径Dと、前記フィラメントの直径dは、
0.225
mm≧(D-d)/2≧0.075
mm
である、
請求項
3に記載の三次元積層造形用ホットエンド。
【請求項5】
前記ノズル内筒部と前記ノズルキャップは、単一部品として形成されている、
請求項
3又は請求項
4に記載の三次元積層造形用ホットエンド。
【請求項6】
前記ノズル内筒部は、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)製である、
請求項1
乃至請求項5の何れかに記載の三次元積層造形用ホットエンド。
【請求項7】
前記ノズル孔は、表面粗さRaが0.8μm以下である、
請求項1
乃至請求項
6の何れかに記載の三次元積層造形用ホットエンド。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7の何れかに記載の三次元積層造形用ホットエンドを具える三次元積層造形装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三次元積層造形装置、所謂三次元プリンタで立体構造物を造形する際に、焦げ付き易いためフィラメント材質として不向きとされるPVC(ポリ塩化ビニル:polyvinyl chloride)等を材質とするフィラメントの使用を可能にする技術についてのものであり、それらの技術のうちフィラメントを押し出すホットエンドに関するものである。
【背景技術】
【0002】
三次元プリンタの積層方式として、熱融解積層(FDM:Fused Deposition Modeling)方式の三次元積層造形が知られている。FDM方式の三次元積層造形装置では、平面内で移動可能なホットエンドから、溶融した熱可塑性樹脂製のフィラメントをプリントベッド上に順次積層して立体構造物を作製している。
【0003】
ホットエンドは、一般にガイド、ノズル及びヒーターを具えた構成である。ガイドは、フィラメントを案内するガイド孔を有し、フィラメント送り装置から送給されたフィラメントはガイド孔を通過してノズルに進入する。ノズルには、ガイド孔と連通するノズル孔が形成される。ヒーターの装着方法は、(1)ノズルに設けられた孔に挿入、あるいは(2)ガイド-ノズル間にヒーターブロックとして外装、の2通りがある。以下の説明は上記(1)について述べるが、本発明は上記(1)・(2)の何れの場合でも適用可能である。
【0004】
然して、フィラメント送り装置は、所定の送り込み力でフィラメントをガイド孔に送給する。ガイド孔に送給されたフィラメントは、ノズル孔に達し、ノズル孔内でヒーターによる加熱を受けて溶融する。そして、溶融フィラメントは、ノズル孔に順次送り込まれる未溶融のフィラメントの押し出し力によって、ノズル孔の先端から下方に向けて吐出される。
【0005】
たとえば、特許文献1参照では、ノズルは、熱伝達率にすぐれるアルミ合金で作製している。
【0006】
フィラメントは、ABS樹脂(acrylonitrile butadiene styrene copolymer)やPLA(ポリ乳酸:poly(lactic acid))が一般的に使用されている。また、出願人は、特許文献2において、PVCをフィラメントの材料として提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2016-107456号公報
【文献】特開2020-104374号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記したフィラメントの材料のうち、とくにPVCは、溶融すると金属表面に付着し易い。加熱溶融されたフィラメントがノズル孔内面に付着すると、摩擦抵抗が増加してフィラメントの流速が低下し、フィラメントの一部がノズル孔内で滞留を引き起こす。そして、滞留したフィラメントがノズル孔に焦げ付いて、ノズル詰まりが発生する虞がある。
【0009】
また、フィラメントの未溶融部と溶融部との境界はノズル孔内にあるが、ノズルの温度が高い、または、造形速度が遅いなどの原因で、フィラメントへのヒーターによる加熱量が多くなると、この境界が上方に移動し、ガイドに達することがある。ノズルとガイドはネジ接続されているため、接続部には空隙が存在し、ガイドに達したフィラメント溶融部の一部はこの空隙に滞留する。ガイドの大部分はヒーターによる加熱の影響を受け難いため低温であるが、ノズルとの接続部は高温となるため、空隙に滞留したフィラメントは焦付きを生じる。空隙で発生した焦付きはノズル孔内にまで広がり、ノズル詰まりを生じさせることがある。
【0010】
また、フィラメントがガイド孔を通過する間、上記のように未溶融のフィラメントには送り込み力と、溶融フィラメントを吐出させるための押し出し力に対する反力が作用する。これらによる圧縮荷重が、フィラメントの座屈許容荷重を越えると、フィラメントは波状に変形して座屈してしまう。
【0011】
フィラメントの座屈を抑えるには、フィラメントを直線状に保っておく必要があるが、ガイド孔の直径Dは、一般的に直径4mm程度であり、一般的なフィラメントの直径d(1.75mm)に比べて大きい。すなわち、フィラメントとガイド孔とのクリアランスは1.125mmと大きいため、フィラメントを直線状に維持することは困難であった。
【0012】
本発明の目的は、PVCのように焦げ付き易い材料をフィラメントとして用いても、ノズル詰まりを低減できる三次元積層造形用ホットエンドを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の三次元積層造形用ホットエンドは、
フィラメントが送給されるガイド孔を有するガイドと、
前記ガイド孔に連通するノズル孔を有するノズルと、
前記ノズルに装着されるヒーターを具える三次元積層造形用ホットエンドであって、
前記ノズルは、
前記ノズル孔が開設され、樹脂製のノズル内筒部と、
前記ノズル内筒部の外周を包囲し、前記ヒーターが装着された金属製のノズル外筒部と、
を有する。
【0014】
前記ノズル内筒部は、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)製とすることが望ましい。
【0015】
前記ノズル孔は、表面粗さRaが0.8μm以下にすることが望ましい。
【0016】
前記ノズル孔内で前記フィラメントが加熱を受けて溶融するフィラメント溶融部の高さL0は、前記ノズル内筒部の高さL2よりも低くすることが望ましい。
【0017】
前記ガイドは、
前記ガイド孔が開設され、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)製のノズルキャップと、
前記ノズルキャップの外周を包囲し、前記ノズル外筒部と係合されるガイド外筒部と、
を有する構成とすることができる。
【0018】
前記ノズル内筒部の前記ノズル孔及び前記ノズルキャップの前記ガイド孔の直径Dと、前記フィラメントの直径dは、
0.225mm≧(D-d)/2≧0.075mm
とすることが望ましい。
【0019】
前記ノズル内筒部と前記ノズルキャップは、単一部品として形成することができる。
【0020】
また、本発明の三次元積層造形装置は、上記三次元積層造形用ホットエンドを具える。
【発明の効果】
【0021】
本発明の三次元積層造形用ホットエンドによれば、ノズルを樹脂製のノズル内筒部と金属製のノズル外筒部から形成している。ノズル内筒部を樹脂製としたことで、ノズル孔への溶融フィラメントの付着を低減できる。一方、ヒーターが装着されたノズル外筒部は熱伝導率のよい金属製としているため、熱伝導を好適に維持でき、フィラメントを溶融させることができる。
【0022】
また、本発明の三次元積層造形用ホットエンドは、ノズル孔及びガイド孔の直径Dを、フィラメントの直径dに対して上記のように設定することで、これらのクリアランスを小さくし、フィラメントを直線状に維持できる。これにより、フィラメントの座屈を低減できる。
【0023】
本発明の三次元積層造形装置は、上記三次元積層造形用ホットエンドを用いたことで、ノズル孔への溶融フィラメントの付着を低減、フィラメントの座屈を低減できるから、長時間の造形が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る熱融解積層方式の三次元積層造形装置の概略図である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施形態に係るホットエンドの側面図である。
【
図4】
図4は、ホットエンドの各部品の分解断面図である。
【
図5】
図5は、フィラメントを供給及び溶融させた作動状態のホットエンドの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明のホットエンド20について、図面を参照しながら説明を行なう。
【0026】
<三次元積層造形装置10>
図1は、FDM方式の三次元積層造形装置10の一実施形態を示している。三次元積層造形装置10は、フィラメント80をホットエンド20に供給し、加熱により溶融した溶融フィラメント81をプリントベッド11の上に順次積層71,72することで、立体構造物70を作製する。
【0027】
フィラメント80は、PVC(塩化ビニル)やABS樹脂、PLA(ポリ乳酸)を例示できる。PVCは、汎用性が高く安定性にすぐれ、ABS樹脂やPLAに比べて安価であり、製造コストの低減に有効である。フィラメント80には、所望の特性を得るために、所謂フィラー(充填剤)や安定剤、可塑剤、着色剤の添加剤を配合することもできる。添加剤として鉛系安定剤、錫系安定剤を例示できる。
【0028】
フィラメント80は、図示しないフィラメント供給装置から、ガイドチューブ12を通り、送りローラー13により引き出されて、押出手段となるホットエンド20に供給される。ホットエンド20は、ホルダー14を介して、ホットエンド20の移動手段(図示せず)に連繋されており、水平方向に移動可能となっている。なお、三次元積層造形装置10の形態は、これに限定されるものではない。
【0029】
ホットエンド20には、加熱手段としてヒーター56や(
図3参照)、温度センサー(図示せず)として熱電対が装着されており、
図1に示すように、これらの配線15,16が配設されている。
【0030】
そして、ホットエンド20をプリントベッド11に対して平行な面内で移動させつつ、フィラメント80を供給する。これにより、先端のノズル22から溶融フィラメント81が吐出され、プリントベッド11に立体構造物70の第1層71が形成される。第1層71が形成された後、プリントベッド11を降下させて第2層72、第3層…が順次形成されて、立体構造物70が作製される。
【0031】
<ホットエンド20の全体構成>
図2は、本発明の一実施形態に係るホットエンド20の側面図、
図3は断面図である。ホットエンド20は、
図2に示すようにガイド21の先端にノズル22を装着して構成される。
【0032】
図3は、
図2のホットエンド20の軸心に沿う断面図、
図4は、分解断面図である。図示の実施形態では、ホットエンド20を構成するガイド21とノズル22を夫々、2つの部材30,40と、50,60から作製している。
【0033】
ガイド21は、ホルダー14(
図1参照)を装着可能なガイド外筒部30と、ガイド外筒部30に嵌まるノズルキャップ40を具える。ノズルキャップ40には、フィラメント80が挿通するガイド孔41が形成されている。
【0034】
また、ノズル22は、下端側にヒーター56や温度センサー(図示せず)が装着されたノズル外筒部50と、ノズル外筒部50に嵌まるノズル内筒部60を具える。ノズル内筒部60には、先端が縮径したノズル孔61が形成されている。そして、ヒーター56によるノズル外筒部50の加熱を受け、ノズル内筒部60が加熱されて、ノズル孔61内でフィラメント80を溶融させて、先端の縮径部から溶融フィラメント81を吐出する。
【0035】
以下、各部材の詳細な構成、材料について説明する。
【0036】
<ガイド21:ガイド外筒部30>
ガイド外筒部30は、筒状であり、上端にフィラメント導入孔32、その下方にノズルキャップ挿入孔33、先端となる下端にノズル取付孔35が形成されている。
【0037】
より詳細には、フィラメント導入孔32とノズルキャップ挿入孔33の境界部分は、位置決め段部34が内向きに突出している。また、ノズル取付孔35は、ノズルキャップ挿入孔33よりも拡径した孔であり、内面にはノズル取付ネジ36が切られており、ノズル22が取り付けられる。
【0038】
上記ガイド外筒部30は、ヒーター56により加熱されるノズル外筒部50と直接接する構成であるため、耐熱性が要求される。このため、ポリイミドなどの耐熱樹脂、または、ステンレスなど熱伝導率が小さい金属から作製することができる。
【0039】
<ガイド21:ノズルキャップ40>
ノズルキャップ40は、ガイド外筒部30のノズルキャップ挿入孔33に装着される筒状の部材である。ノズルキャップ40には、フィラメント80が挿通されるガイド孔41が中央に開設されている。ガイド孔41の直径Dは、フィラメント80の直径d(
図5参照)によって設定することができる。ガイド孔41は、フィラメント80の座屈を抑えて直線状のまま案内できるようにするために、0.225
mm≧(D-d)/2≧0.075
mm、望ましくは、0.175
mm≧(D-d)/2≧0.125
mmを満たすように設定することが好適である。(D-d)/2は、ガイド孔41とフィラメント80のクリアランスを意味し、この上限と下限を上記のとおり設定することで、フィラメント80は、ガイド孔41内で波打つことなく直線状に案内され、座屈を抑えることができる。
【0040】
ノズルキャップ40の先端は、後述するノズル内筒部60が嵌まる嵌合凹部42が形成されている。
【0041】
ノズルキャップ40には、フィラメント80を低摩擦でノズル22まで案内するため、摩擦係数の小さい材料で作製することが望まれる。一方で、ノズルキャップ40が温度上昇すると、フィラメント80がガイド孔41内で溶融し、フィラメント80の軟化を招く。このため、ノズルキャップ40は、断熱効果の高い材料から作製することが望まれる。この種の材料として、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)を例示できる。PTFEは、動摩擦係数が0.03~0.08(測定方法:JIS K 6935)と極めて小さい材料であり、熱伝達率も0.23W/m・K(測定方法:JIS A 1412)と低いため、ノズルキャップ40の材料として好適である。
【0042】
ノズルキャップ40は、
図4に示すように、ガイド外筒部30に下方から挿入される構成であり、ノズルキャップ40の上面が、位置決め段部34と当接してガイド21を構成する。
【0043】
<ノズル22:ノズル外筒部50>
上記ガイド21の先端に装着されるノズル22は、ノズル外筒部50とノズル内筒部60の二重構造としている。
【0044】
ノズル外筒部50は、先端が円錐状に縮径した円柱状の胴部51と、胴部51の上端から円筒状の軸部52が突設された形状である。なお、胴部51の形状は、六角柱状など、ガイド21とノズル22のネジ接合を行い易いものとすることが可能である。
【0045】
ノズル外筒部50は、胴部51及び軸部52を貫通するノズル内筒挿入孔53が中央に開設されている。ノズル内筒挿入孔53は、先端近傍で段差をもって縮径した位置決め孔54を有し、ノズル内筒挿入孔53と位置決め孔54との段部でノズル内筒部60が位置決め可能となっている。
【0046】
胴部51には、ノズル内筒挿入孔53の外側にヒーター挿入孔が設けられ、ヒーター56はその孔に挿入して装着されると共に、図示しない温度センサー(たとえば、熱電対)が配置される。ヒーター56及び温度センサーには、配線15,16(
図1参照)が接続される。
【0047】
なお、装着するヒーター56の個数は1個でよいが、ノズル孔61内のフィラメントが均一に加熱されるようにするため、装着する個数を2個、すなわち、ヒーター挿入孔をノズル孔61を挟むように2か所に設け、夫々にヒーター56を挿入して装着することが望ましい。
【0048】
軸部52には、外周に取付ネジ55が切られており、ガイド外筒部30のノズル取付ネジ36に螺合可能となっている。
【0049】
ノズル外筒部50は、ヒーター56を装着して加熱されるため、耐熱性を有し、かつ熱伝導率のよい材料から構成する。たとえば、アルミ合金や真鍮を例示できる。
【0050】
<ノズル22:ノズル内筒部60>
ノズル外筒部50に装着されるノズル内筒部60は、
図3、
図4に示すように筒状の形態とすることができる。ノズル内筒部60は、中央にフィラメント80が挿通すると共に、内部でフィラメント80を溶融させて吐出するノズル孔61が形成されている。
【0051】
ノズル孔61は、上記したノズルキャップ40のガイド孔41と連通して、フィラメント80の供給を受ける孔であり、先端が縮径している。ノズル孔61の直径については、後述する。
【0052】
ノズル内筒部60は、上端にノズルキャップ40の嵌合凹部42に嵌まる嵌合凸部62が形成されている。また、ノズル内筒部60の下端は、外面が縮径しており、ノズル外筒部50の位置決め孔54に嵌まる先端縮径部63を有する。
【0053】
ノズル孔61内は、未溶融のフィラメント80が進入する領域となるフィラメント未溶融部64と、溶融したフィラメント81が溜まる領域となるフィラメント溶融部65が存在する。フィラメント未溶融部64は、ノズル孔61の上方領域であり、フィラメント溶融部65は、ノズル孔61の下方領域である。
【0054】
フィラメント未溶融部64について、フィラメント80を抵抗なく導入し、直線状のままフィラメント溶融部65までスムーズに案内することが望まれる。また、フィラメント溶融部65では、溶融フィラメント81をガイド孔41の内面に付着や滞留させることなく、ノズル孔61の先端から吐出させる必要がある。そこで、ノズル孔61及びこれを構成するノズル内筒部60は、以下のとおり規定する。
【0055】
まず、ノズル孔61の直径は、ガイド孔41と略同一の直径Dに設定することが望ましい。ノズル孔61とガイド孔41の直径を略同一にすることで、ノズル孔61とガイド孔41を段差なく接続することができ、フィラメント80をスムーズに挿通させることができる。
【0056】
また、ノズル孔61は、フィラメント未溶融部64でフィラメント80を抵抗なく導入し、フィラメント溶融部65で溶融フィラメント81の付着や滞留を抑制するため、ノズル孔61の内面、すなわち、ノズル内筒部60は、低摩擦の材料で構成することが望まれる。一方で、ノズル内筒部60は、ノズル外筒部50のヒーター56による加熱を受け、ノズル孔61内のフィラメント80を溶融させるため、耐熱性が求められる。
【0057】
そこで、ノズル内筒部60は、摩耗係数が低く、且つ、耐熱性を具備する樹脂材料の採用が求められる。その種の材料として、PTFEを例示できる。PTFEは、動摩擦係数が0.03~0.08と極めて小さく、また、融点が327℃と極めて高い材料であり、ノズル内筒部60の材料として好適である。
【0058】
ノズル孔61の低摩擦化を促進するため、ガイド孔41の内面は、表面粗さRaが0.8μm以下となるように研磨等を行なって表面を平滑化することが望ましい。ノズル孔61の表面粗さRaを調整することで、フィラメント未溶融部64でフィラメント80を抵抗なく導入し、また、フィラメント溶融部65で溶融フィラメント81の付着や滞留を抑制することができる。なお、ドリル加工によりノズル孔を開け、研磨やコーティングを施すことで、ノズル孔の表面粗さRaが0.8μm以下となる金属製ノズルを作製することは可能であるが、このような金属製ノズルをノズル内筒部60として使用しても、PTFE等の樹脂製ノズルに比べると、溶融フィラメント81の付着や滞留が発生しやすいため、ノズル内筒部60を金属製とすることは困難である。
【0059】
ノズル孔61内では、上記のとおり、フィラメント溶融部65でフィラメント80が溶融する。ガイド孔41とノズル孔61は、略同一の直径Dとして、ほとんど段差なく接続しているが、実際には微小ではあるが継ぎ目66に段差が生じる。この段差が、フィラメント溶融部65に存在すると、継ぎ目66に溶融フィラメント81が滞留し、分解や焦げ付きを生じさせる虞がある。このため、フィラメント溶融部65は、ノズル孔61内にフィラメント溶融部65が収まるように設定する。具体的には、
図5に示すように、ノズル内筒部60の先端からフィラメント溶融部65の上端までの長さL0に対し、ノズル孔61の長さL2は、L0<L2を満たすように設定する。
【0060】
なお、フィラメント溶融部65の高さは、造形条件により上下する。ノズルの温度が高い、または、造形速度が遅いなどの原因で、フィラメントへのヒーター56による加熱量が多くなると、ノズル外筒部50よりも高い位置までフィラメント溶融部65が到達することがある。このため、ノズル外筒部50の高さを
図5に示すようにL1としたときに、L2>L1となるように設定する必要がある。たとえば、ヒーター温度220℃、ノズル吐出径0.5mm、フィラメント平均送り速度20~40mm/分の場合、L2≧L1+5mmとすれば、L0<L2を満たすことができる。
【0061】
<ホットエンド20の組立>
ガイド外筒部30、ノズルキャップ40、ノズル外筒部50、ノズル内筒部60を準備し、ホットエンド20を組み立てる。
【0062】
詳細には、
図4に示すように、まず、ノズルキャップ40をガイド外筒部30のノズル取付孔35から差し込んで、ノズルキャップ挿入孔33に挿入し、ガイド21を構成する。また、ノズル22は、ノズル内筒部60をノズル外筒部50のノズル内筒挿入孔53から挿入し、先端縮径部63を位置決め孔54に嵌める。そして、ノズル外筒部50の取付ネジ55をガイド21の取付ネジ36に螺合する。
【0063】
これにより、
図3に示すように、ノズル外筒部50は、ガイド外筒部30に固定される。また、ノズル内筒部60は、先端縮径部63がノズル外筒部50の位置決め孔54に嵌まって位置決めされる。ノズルキャップ40は、上端がガイド外筒部30の位置決め段部34により位置決めされる。そして、ノズル内筒部60の上端は、嵌合凸部62がノズルキャップ40の嵌合凹部42に嵌まり、ガイド孔41とノズル孔61が連通される。
【0064】
ノズルキャップ40とノズル内筒部60は、ガイド孔41とノズル孔61の継ぎ目66に隙間が生じないように密着させる必要がある。このため、ガイド外筒部30とノズル外筒部50は、取付ネジ55を締め付けたときに、軸部52の上端とノズル取付孔35の上端の間、及び、ガイド外筒部30の下端とノズル外筒部50の胴部51との間に、
図3に示すように空隙Sが生じる寸法とすることが望ましい。これにより、取付ネジ55を締め付けることで、ガイド外筒部30とノズル外筒部50は、ノズルキャップ40とノズル内筒部60を押し込んで、継ぎ目66を密着できる。
【0065】
<三次元積層造形装置10の動作>
然して、上記したホットエンド20は、
図1に示すように、配線15,16を接続し、ホルダー14を介して三次元積層造形装置10に取り付けられる。ホットエンド20は、ヒーター56を作動させることで、ノズル外筒部50が加熱され、これによりノズル内筒部60も加熱される。
【0066】
この状態で、送りローラー13を回転させることで、フィラメント80がホットエンド20に供給される。
【0067】
ホットエンド20に送り込まれたフィラメント80は、ガイド孔41を通ってノズル孔61に到達する。ガイド孔41は、直径Dが、フィラメント80の直径dに対して、0.225mm≧(D-d)/2≧0.075mmとなるように設定することで、フィラメント80とガイド孔41のクリアランスを小さくすることができ、フィラメント80を波状に変形することなく、直線状に保つことができる。このため、フィラメント80の送り込み力と、フィラメント未溶融部64からの反力が、ガイド孔41内のフィラメント80に作用しても、フィラメント80が座屈してしまうことを防止できる。
【0068】
ガイド孔41とノズル孔61は共に、略同一直径Dとしている。従って、ガイド孔41とノズル孔61の継ぎ目66には殆んど段差は生じない。従って、ガイド孔41を通過したフィラメント80はノズル孔61内にスムーズに案内される。なお、上記のとおり、フィラメント溶融部65は、継ぎ目66よりも低い位置(L0<L2)としているから、継ぎ目66に溶融フィラメント81が到達することはない。
【0069】
ノズル内筒部60は、低摩擦係数のPTFEから作製している。また、ノズル孔61は表面粗さRaが0.8μm以下となるように調整されている。従って、ノズル孔61内に進入したフィラメント80は、フィラメント未溶融部64では、摩擦抵抗を略受けずに進行する。また、フィラメント溶融部65では、ヒーター56からの加熱を受けて溶融し、溶融フィラメント81は、ノズル孔61の内面に付着や滞留することはない。
【0070】
そして、フィラメント溶融部65内の溶融フィラメント81は、順次ノズル孔61に送り込まれる未溶融フィラメント80の押し出し力によって、ノズル孔61の先端から下方に向けて、流速低下が抑えられたまま吐出することができる。従って、溶融フィラメント81を吐出させるための押し出し力も小さくて済み、その反力により未溶融フィラメント80が座屈することも防止できる。
【0071】
ノズル孔61の先端から吐出された溶融フィラメント80は、
図1に示すように、プリントベッド11に立体構造物70の第1層71、第2層72、第3層…が順次形成されて、立体構造物70が作製される。
【実施例】
【0072】
PVCのフィラメント80(直径1.75mm)を使用し、本発明のホットエンド20を用いた三次元積層造形装置10を用いて立体構造物70を作製した。
【0073】
ホットエンド20は、ガイド21について、ガイド外筒部30をポリイミド製、ノズルキャップ40はPTFE製、また、ノズル22は、ノズル外筒部50をアルミ合金製、ノズル内筒部60をPTFE製とした。ガイド孔41及びノズル孔61の直径Dは2mm、ノズル孔61の先端吐出径を0.5mmとした。ノズル孔61の表面粗さRaは0.8以下に仕上げた。また、ヒーター56によりノズル外筒部50を220℃に加熱した。フィラメント80の平均送り速度は20~40mm/分である。
【0074】
PVCは、溶融すると付着して焦げ付き易い材料であるから、三次元積層造形には不向きな材料であるが、本発明のホットエンド20を用いたところ、10時間以上の長時間造形を行なうことができた。これは、本発明のホットエンド20を用いたことで、ノズル孔への溶融フィラメントの付着を低減、フィラメントの座屈を低減でき、フィラメント80の焦付きも抑えることができたためである。
【0075】
比較用に、ノズル外筒部とノズル内筒部を金属の単一部品から作製したホットエンドを用いて、同様に造形を行なった。ただし、ノズル孔は、ドリル加工によって開設し、研磨等は施していない。
【0076】
結果、比較例の金属製のホットエンドでは、溶融したPVCがノズル孔に焦げ付き、造形は1時間未満しか行なうことができなかった。
【0077】
上記実施例の説明は、本発明を説明するためのものであって、特許請求の範囲に記載の発明を限定し、或は範囲を減縮する様に解すべきではない。又、本発明の各部構成は上記実施例に限らず、特許請求の範囲に記載の技術的範囲内で種々の変形が可能であることは勿論である。
【0078】
たとえば、上記実施形態では、ノズルキャップ40とノズル内筒部60を別部材から構成しているが、これらを一体化して継ぎ目なしの単一部品としても構わない。
【0079】
また、
図5に示すように、ノズルキャップ40とノズル内筒部60を加えた長さL3は、ガイド外筒部30のフィラメント導入孔32の近くまで長く採ることが望ましい。L3を長く採ることで、フィラメント80のぶれを抑えて、ガイド孔41内の早い段階でフィラメント80を安定して直線状に保持できる。
【符号の説明】
【0080】
10 三次元積層造形装置
20 ホットエンド
21 ガイド
22 ノズル
30 ガイド外筒部
40 ノズルキャップ
41 ガイド孔
50 ノズル外筒部
60 ノズル内筒部
61 ノズル孔