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特許7608346ホウ化物を含む拡散バリア層を含むコーティングを施したコーティングされたツール
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  • 特許-ホウ化物を含む拡散バリア層を含むコーティングを施したコーティングされたツール 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-20
(45)【発行日】2025-01-06
(54)【発明の名称】ホウ化物を含む拡散バリア層を含むコーティングを施したコーティングされたツール
(51)【国際特許分類】
   B23B 27/14 20060101AFI20241223BHJP
   C23C 14/06 20060101ALI20241223BHJP
【FI】
B23B27/14 A
C23C14/06 C
C23C14/06 N
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021546248
(86)(22)【出願日】2020-02-10
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-03-24
(86)【国際出願番号】 EP2020053345
(87)【国際公開番号】W WO2020161358
(87)【国際公開日】2020-08-13
【審査請求日】2023-01-24
(31)【優先権主張番号】62/802,838
(32)【優先日】2019-02-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】516082866
【氏名又は名称】エリコン サーフェス ソリューションズ アーゲー、 プフェフィコン
【住所又は居所原語表記】Churerstrasse 120 8808 Pfeffikon SZ CH
(74)【復代理人】
【識別番号】110003487
【氏名又は名称】弁理士法人東海特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100180781
【弁理士】
【氏名又は名称】安達 友和
(72)【発明者】
【氏名】ボルヴァルディ,ハミッド
(72)【発明者】
【氏名】ラム,ジャーゲン
(72)【発明者】
【氏名】アルント,ミラジャム
【審査官】増山 慎也
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第108588655(CN,A)
【文献】特開2003-291007(JP,A)
【文献】特開平09-104966(JP,A)
【文献】特開2013-237106(JP,A)
【文献】特開昭58-126972(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104513954(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 27/14
B23B 51/00
B23C 5/16
B23P 15/28
C23C 14/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コーティングされた表面を含むコーティングされたツールであって、
前記コーティングされた表面は、コーティング(2)が堆積された表面を有する基材(1)を含み、
前記基材(1)は、コバルトを含
前記コーティング(2)は、基材表面から前記コーティングへのコバルトの拡散を阻止するための拡散バリア層である少なくとも1つのホウ素を含む層(20)を含み、前記少なくとも1つのホウ素を含む層(20)がAlを含み、この層に含まれる前記ホウ素がホウ化物として存在し、それによって前記ホウ素を含む層(20)が、前記コーティングされたツールまたは前記コーティングされた表面が600℃~1200℃の範囲の温度にさらされたときに、第1のさらなる層(21)を形成するものであって
前記コーティング(2)が、前記基材(1)と前記少なくとも1つのホウ素を含む層(20)との間に形成された前記第1のさらなる層(21)を含み、前記第1のさらなる層(21)が、Al-Coの金属間相とB-Coの金属間相とを含むことを特徴とする、
ツール。
【請求項2】
前記ホウ素を含む層(20)が、以下を含む、請求項1に記載のコーティングされたツール。
-AlBまたは
-AlWBまたは
-AlBおよびAlWBまたは
-TMホウ化物、ここで、TMは、次の群3d、4dおよび5d元素から選択される1つ以上の遷移金属である。
【請求項3】
前記コーティング(2)が、前記少なくとも1つのホウ素を含む層(20)の上に形成された第2のさらなる層(22)を含み、前記第2のさらなる層(22)がAl-Oを含むこと特徴とする、請求項1または2に記載のコーティングされたツール。
【請求項4】
前記基材表面が、超硬合金から作られるまたは超硬合金を含むことを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載のコーティングされたツール。
【請求項5】
前記コーティングされたツールの前記基材が、超硬合金であることを特徴とする、請求項1~のいずれか1項に記載のコーティングされたツール。
【請求項6】
請求項1~のいずれか1項に記載のコーティングされたツールをコーティングする方法であって、前記方法が、
1)前記少なくとも1つのホウ素を含む層(20)を前記Coを含む基材の前記表面に直接堆積させる工程と、
2)コーティング堆積中に前記基材表面を高温にさらすことによりまたは前記コーティングされた表面を高温にさらすことによりAl-CoおよびB-Coの金属間相を含む前記第1のさらなる層(21)を形成する工程と、を含み、前記高温は、600℃~1200℃の範囲の温度である、方法。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
例えば、高温といった幅広い産業プロセスが厳しい条件下で行われる。要求の厳しい効率改善は、この重大度を大幅に増大する。このような操作条件で産業用ツールを保護するための1つのアプローチは、ツールの表面に薄いコーティングを施すことで、過酷な環境からツールを分離することである。コーティング方法の中で、物理蒸着(PVD)技術は、学界と産業界の両方で大きな注目を集めており、大きな成功を収めている。
【0002】
それにもかかわらず、今日でも高温は、ツール表面に適用されるコーティング、およびコーティングで覆われるツール表面(すなわち、コーティングで覆われる基材表面)に影響を与え得る。
【0003】
よく知られている例は、コーティングされた超硬合金カッティングツールである。ツールの使用中、特に超硬合金で作られたまたはそれを含むツールの場合、ツール表面が高温にさらされると、コーティングへのコバルトの拡散流出をもたらすことが起こり得る。さらに、すでに堆積中に、これが高温および強力なプラズマ処理で進行する場合、基材表面へのコバルトの拡散流出が起こり得る。
【0004】
本発明により解決される問題
コーティングを使用しても、特定の用途、例えばTiを含む材料の切断では、基材、例えばカッティングツールのカッティングエッジが高温にさらされることは避けられないため、高温にさらされることに関わる操作で基材表面の損傷を回避するのに役立ち得るコーティングが必要とされている。
【0005】
本発明の文脈では、「高温」という用語は、特に600~1200℃の範囲の温度を指すために使用される。
【0006】
本発明の目的
本発明の主な目的は、コーティングされた基材表面が高温にさらされた場合に、基板表面からコーティングへの元素の拡散を抑制するのに役立つコーティングを提供することである。この問題は、通常でも起こり得る。
1.コーティングされた基材表面にコーティングを形成する際、例えば、コーティングの堆積中にイオン照射によって基材の表面が高温になることが原因。
2.コーティングされた基材の使用中、例えば、コーティングされた基材の表面が高温に直接さらされることが原因(例えば、コーティングされた基材が、高温が発生するタービンの部品に使用される部品である場合)または、コーティングされた基材が高温に間接的にさらされることが原因(例えば、機械操作中にコーティングされたツールとワークピースが摩擦により接触することで高温になる場合)。
【発明の概要】
【0007】
本発明の説明
本発明の目的は、コバルト(Co)を含む基材1と、基材の表面に堆積されたコーティング2とを含むコーティングされた基材を提供することによって達成され、該コーティングは、アルミニウムをさらに含み、ホウ素がホウ化物として存在する少なくとも1つのホウ素を含む層20を含み、少なくとも1つのホウ素を含む層20は、Coを含む基材1の表面に直接堆積される(図3a参照)。
【0008】
本発明者らは、ホウ素を含む層20で構成されるホウ化物が、驚くべきことに、Coを含む基材1からコーティング2へのコバルトの拡散を抑制する性質を有することを確認した。
【0009】
この驚くべき効果は、Coを含む材料から作られたツールを使用して機械操作を行う場合に、例えば超硬合金製のツールが使用される際、基材の損傷およびコーティングの損傷を避けるために特に有効である。
【0010】
本発明者らは、拡散プロセスを抑制するメカニズムが、基材表面とコーティングの界面で働くことを確認した。
【0011】
本発明者らは、少なくとも以下の2つのケースにおいて、Al-CoおよびB-Coの金属間相を含むCoを含む層21(図3参照)が形成されることを確認した。
1.コーティング堆積中に基材表面が高温になるような方法(例えば、イオン照射により引き起こされる)でコーティングプロセスを行った場合、および
2.使用中にコーティングされた基材が高温にさらされた場合。
【0012】
このように、基材1とコーティング2の間の界面にAl-CoとB-Coの金属間相が形成されることで、Coを含むワークピースからコーティングへのコバルトの拡散を抑制することができた。
【0013】
さらに、本発明者らは、本発明のコーティングされた基材を酸素を含む雰囲気中で高温にさらしたときに、さらなる有益な効果を観察した。このさらなる効果は、ホウ素を含む層20の上に酸化アルミニウムを含む層22(Al-Oを含む層22)が形成されることであった(図3b参照)。このAl-Oを含む層22は、大気中の酸素のコーティングへの拡散を阻止し、コーティングされたツールが酸素を含む大気にさらされた場合でも、高温でのコーティングの化学的安定性を向上させる。
【0014】
ホウ化物とその優れた特性は既知である。本発明では、ホウ化物コーティング(非常に有望なコーティング材料である)を、酸素を含む大気中で高温にさらされる用途に使用することができる。これは、本発明のコーティングされたツールが、より高い熱安定性をもたらすと同時に、コーティングと基材の界面で金属間化合物を形成することによってCoの拡散を抑制することで可能となる。
【0015】
例えば、AlWB2から構成されるホウ素を含む層20を使用する場合には、以下の種類のAl-Coおよび/またはB-Coの金属間相(例えば、AlCo、Al2Co5、Co2Bおよび/またはCo3B)を含む層21が形成され得る。これらの金属間相は、基板と層20との間の界面に存在し、コーティングの残りの部分(例えば層20)が無傷のままであることを可能にする。
【0016】
さらに、ホウ化物コーティングの大きなウィークポイントは、その耐酸化性の低さにある。
【0017】
そこで、例えばAlWB2のAl-ホウ化物コーティングを施すことで、保護Al-O層が形成され得、大気からコーティングへのO2の内向き拡散を抑制し得る。
【0018】
このようにして、特にワークピースにコバルトのような高速拡散する元素が含まれている場合に、ワークピースとの接触でもコーティング材自体が拡散を抑え得ることを達成することがさらに可能であった。
【0019】
本発明のコーティングは、コバルトを含む基材を有するツールの保護に特に有益である。
【0020】
したがって、本発明の好ましい実施形態によれば、本発明のコーティングは、コバルトの拡散を抑制する特性を有するホウ化物を含む層20(以下、本発明の文脈では拡散バリア層とも呼ばれる)を堆積したものであり、ここで、拡散バリア層は基材上に直接堆積されている。
【0021】
本発明のさらなる説明
以下、いくつかの実施例と図を用いて、本発明をより詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図のキャプション:
【0023】
図1】1100℃で1時間アニールした後、基材(Coバインダーを含む超硬合金ツール)からコーティング(超硬合金基材からCoが拡散流出して形成されたCoアイランドを含むTiSiNコーティング)全体にCoが拡散流出している様子を示すSEM-EDX元素マッピング。
図2】コーティングされた超硬合金のSEM断面像であり、Coの欠乏した部分がはっきりと見られ得る。
図3】本発明のコーティングされた基材の高温暴露前(図3a)と高温暴露後(図3b)の実施形態。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下の説明と実施例は、本発明の限定として理解されるべきではない。
【0025】
図1は、1100℃で60分間アニールした後のコーティングされた超硬合金基材の断面で実現したコバルト(Co)の元素マッピングをSEM/EDXで示したものである。この分析には、走査型電子顕微鏡(SEM)を使用した。元素マッピングは、SEMのエネルギー分散型X線分光器(EDX)検出器を用いて行われた。超硬合金基材(ここではカッティングツール)中のCoバインダーと、TiSiNコーティング中に分散したCoアイランドが観察され得る。TiSiNコーティング内のCoアイランドは、アニール前には存在しなかった。したがって、本発明者らは、TiSiNコーティング内のCoアイランドは、アニール中にコーティング全体にCoが拡散した結果として形成されたと結論付けている。
【0026】
このアニール実験で描かれた拡散流出の様子は、上で説明したように、コーティングされた基材の使用中だけでなく、堆積中にも進行し得る拡散プロセスを示す。Coの拡散は、コーティングの化学組成とその特性を変化させる。その結果、Coが拡散流出してしまうと、コーティングとツールの界面が弱くなり、コーティングの特性に影響を与え、コーティングされたツールの寿命が短くなってしまう。
【0027】
図2は、このような界面の例をSEM断面像で示したものである。この写真は、Coの拡散流出により開始された基材表面とコーティングの間の界面にボイドが形成されていることを示す。さらに、コーティングの最初の部分にCoの蓄積が見られる。したがって、機械特性の低下は明らかである。
【0028】
上述したように、拡散プロセスは、堆積プロセス中およびコーティングされた基材の操作中に発生または開始され得る。堆積中、PVDプロセスにおける一般的な基材温度は300℃~600℃の間であり、すなわち、拡散に関連すると定義されている600℃~1200℃の温度範囲よりも低い。しかし、堆積プロセスでは、表面に中性元素が凝縮するだけでなく、高エネルギーのイオンが同時に照射されることも特徴である。これにより、基材の最上部の表面の「温度」が非常に高くなり、拡散のためのCo原子の移動度が高くなる。他のケースでは、コーティングされた基材の操作中に、ワークピースと接触するコーティングされたツールの表面(例えば、カッティングツールのカッティングエッジ)が非常に高温になることがあり、例えば、Ti合金の機械加工では1000℃を超えることがある。このような条件では、Coの拡散も始まる。
【0029】
本発明の第1の目的は、高温時のCoの基材材料からコーティングへの拡散を抑制するコーティングを提供することである。
【0030】
本発明の別の目的は、室温でも高温でも、硬度とヤング率に関してより優れた機械特性を持つコーティングを提供することである。
【0031】
二元系および三元系のAl-B化合物は、50GPaを超える高硬度などの非常に魅力的な特性を示し、過酷な環境下でカッティングツールおよび部品を保護するための耐摩耗性コーティングの有望な候補となっている。
【0032】
PVDによるAl-B系コーティングの組成は、スパッタリングまたはカソードアーク蒸発に使用されるターゲットの組成によって多かれ少なかれ決定される。
【0033】
本発明の好ましい実施形態によれば、コーティングまたはコーティングの少なくとも一部は、PVD(物理的気相成長)スパッタリング技術、好ましくは非反応性PVDスパッタリング技術、すなわちプロセスガスとして非反応性ガス、例えばアルゴンのみを使用して製造される。
【0034】
本発明のさらに好ましい実施形態によれば、(本発明のコーティングされたツールを製造するための)コーティングまたはコーティングの少なくとも一部は、PVD(物理的気相成長)カソードアーク蒸発技術、好ましくは非反応性PVDカソードアーク蒸発技術を用いて堆積され、すなわち、プロセスガスがないかまたは非反応性ガス、例えばアルゴンのみがプロセスガスとして使用される。
【0035】
これらのプロセスにおけるパラメータ(ターゲットの組成と製造、蒸発プロセス、反応性ガスおよび希ガスのバックグラウンド雰囲気、基材のバイアスなど)に応じて、Al-B系コーティングは、元素成分に加えて、対応する相図に従った異なるAl-B相を含み得る。
【0036】
本発明の重要な貢献は、さらに、コーティングを介してCoの拡散流出を開始する基材/コーティングの界面に向かうおよび基材に向かう酸素拡散を防止することである。Al-B系のコーティングは本質的に酸素と反応するAlを含んでいるため、コーティングの表面および酸素が拡散バリアとして機能するAl-Oに拡散し得る領域でそれが形成する。
【0037】
一方、酸素がないためにこのメカニズムが存在しない領域でも、Coの拡散は減少する。ここでは、高温により、元素Coの拡散を抑制するAl-CoおよびB-Coの金属間相の形成が開始される。
【0038】
本発明は、具体的には、少なくとも1つの拡散バリア層を含むコーティングシステムに関し、ここで、少なくとも1つの拡散遷移層は、
-AlBの層もしくはAlBを含む層、または
-AlWBの層もしくはAlWBを含む層、または
-AlBおよびAlWBの層もしくはAlBおよびAlWBを含む層、または
-AlNおよびAlBの層もしくはAlNおよびAlBを含む層、または
-AlNおよびAlWBの層もしくはAlNおよびAlWBを含む層、または
-遷移金属ホウ化物(TMホウ化物)の層もしくはTMホウ化物を含む層、ここで、TMは以下から選択される1以上の遷移金属である。3d、4dおよび5d元素、この層はさらにAlを含む。
【0039】
コバルトを含む基材とホウ化物を含む層の間の遷移領域には、AlおよびWを含むグラディエント層が追加されて、密着性を向上させ、堆積プロセス中の基材表面へのコバルトの拡散流出を抑制することができる。
【0040】
本発明のコーティングは、上述の拡散バリア層の1以上を含むモノリシックまたは層状のコーティングアーキテクチャを示すように堆積され得る。
【0041】
本発明のコーティングは、コーティングされたツールが高温にさらされる様々な用途、Ti-Al化合物のカッティングなどにおいて、超硬合金ツールをコーティングするために使用され得る。
【0042】
本発明のコーティングは、コーティングされたツールが高温にさらされる様々な用途において、超硬合金ツールをコーティングするために使用され得、そのような用途は好ましくは、Ni系、Co系またはNi-Co系超合金のカッティングである。
【0043】
これらの層におけるAlの存在は、AlがコーティングへのCoの拡散流出の抑制を達成するために重要であり得るので、好ましい。これらの層にホウ化物化合物が存在するのは、ホウ化物化合物が優れた硬度、特に35GPa超の硬度などの優れた特性を提供するために決定的な役割を果たすことができるからであり、これは様々な作業、例えば様々なカッティングツールの用途において非常に重要な特性である。
【0044】
コーティングへのCoの拡散流出を防ぐことで、高温での使用時にも本発明のコーティングのユニークな特性を維持することを保証する。
【0045】
本発明の文脈における二元系ホウ化物および三元系ホウ化物は、例えば、単にArをプロセスガスとして使用する非反応性の物理的気相成長(PVD)スパッタリング技術によって合成され得る。二元系ホウ化物を合成するために、二元系ホウ化物ターゲットをAr雰囲気中でスパッタリングし、2つの二元系ホウ化物ターゲット、例えばWBとAlBを同時にスパッタリングすると、広い範囲の化学組成にわたる三元系ホウ化物、この場合はWAlBを合成する。後者のようなコンビナトリアル合成では、各二元系ホウ化物ターゲットに印加する電力とそのスパッタリングレートの変化に基づいて、合成されたコーティングの化学組成が調整され得る。安定したプロセスを得るために必要なプロセスガス圧の範囲は0.3~0.9Paである。プロセスガスの圧力を上記の範囲に調整することで、プロセスの安定性を確保し得る。基材温度は400~600℃で、浮遊電圧から50Vまでの低バイアス電圧値が使用される場合、必要な移動度を確保している。この設定では、良好な結晶構造が得られると同時に、ホウ化物コーティングの残留応力レベルがコーティングの剥離を引き起こさない。
【0046】
基材表面とホウ化物の間に中間層/グラディエント層を堆積するためには、好ましくは20at.%超のWを含むAl-Wターゲットが利用される。
【0047】
上記の実施例では、スパッタリングによる堆積を説明した。もちろん、カソードアーク蒸発でもAl-B系コーティングを堆積することも可能である。このプロセスでは、ターゲットAl-BまたはAl-B-Wを含むターゲットがカソードとして利用される。
【0048】
本発明の最も重要な態様は、以下のように要約され得る。
-コーティングされた表面を有するコーティングされたツールであって、該コーティングされた表面は、コーティングされたツールの一部である基材表面と、前記基材表面上に堆積されたコーティングとを含み、基材表面は、コバルトおよび/またはニッケルを含む材料から作られ、コーティングは、少なくとも1つのホウ化物を含む層を有し、前記少なくとも1つのホウ化物を含む層は、ホウ化物から作られるまたはホウ化物を含む材料から作られ、前記少なくとも1つのホウ化物を含む層は、コーティングされたツールまたはコーティングされた表面が約600~1200℃の範囲の温度にさらされたときに、コバルトおよび/またはニッケルの基材表面からコーティングへの拡散を止める拡散バリア層である、ツール。
【0049】
上記拡散バリア層は、好ましくは以下を含むものから作られる。
-AlBまたは
-AlWBまたは
-AlBおよびAlWBまたは
-TMホウ化物、ここで、TMは、次の群3d、4dおよび5d元素から選択される1つ以上の遷移金属であり、この層はさらにAlを含む。
【0050】
-本発明の特に好ましい実施形態では、上記の拡散バリア層は、AlWB層である。
【0051】
-本発明のさらに好ましい実施形態では、基材表面は超硬合金から作られるまたは超硬合金を含むまたはコバルトを含む任意の他の材料から作られる。
【0052】
-本発明の1つのより好ましい実施形態では、基材表面は、ニッケル合金から作られるまたはニッケルを含む材料の炭化物から作られるまたはニッケルを含む任意の他の材料から作られる。
【0053】
-本発明の1つのより好ましい実施形態では、コーティングは、拡散バリア層に加えて、AlおよびWを含むが、それは好ましくはホウ化物層ではない層を含む。
【0054】
-本発明の1つのより好ましい実施形態では、AlおよびWを含むが、それは好ましくはホウ化物層ではない上記の層は、基材と拡散バリア層との間の中間層(または中間膜)として堆積された金属層Al-W層である。
【0055】
-本発明の1つのより好ましい実施形態では、上記中間層はグラディエント層である。
【0056】
本発明はさらに、上述のいずれかの実施形態またはそれらの組み合わせによるコーティングされたツールの使用に関し、コーティングされたツールまたはコーティングされた表面が約600~1200℃の範囲の温度にさらされる。
【0057】
本発明はさらに、上述のいずれかの実施形態またはそれらの組み合わせによるコーティングされたツールの使用に関し、コーティングされたツールの基材が超硬合金であり、拡散バリア層の上にダイヤモンド層が堆積される。このような場合、超硬合金基材は、ダイヤモンド層の堆積の前に、コバルトを除去するための前処理を受ける必要はない。
【0058】
本発明はさらに、PVD、特に非反応性のPVS(物理的気相成長)を用いてコーティングをスパッタリングすることを特徴とする、請求項1~7のいずれか1項に記載のコーティングされたツールをコーティングする方法に関する。
【0059】
-上述の方法における本発明の1つのより好まし実施形態では、プロセスガスとしてArが使用される。
【0060】
-上述の方法における本発明の1つのより好ましい実施形態では、少なくとも1つの二元系ホウ化物ターゲットが、特に二元系ホウ化物の合成のために、好ましくは2つの二元系ホウ化物ターゲット、例えばWBおよびAlBを同時にスパッタリングするために、スパッタリングされる。
【0061】
-上述の方法における本発明の1つのより好ましい実施形態では、スパッタリング中に0.3~0.9Paの圧力範囲が使用される。
【0062】
-上述の方法における本発明の1つのより好ましい実施形態では、スパッタリング中に400~600℃の温度範囲が使用される。
【0063】
-上述の方法における本発明の1つのより好ましい実施形態では、スパッタリング中に50V未満のバイアス値が使用される。
【0064】
-上述の中間層Al-Wの堆積方法における本発明の1つのより好ましい実施形態では、Wが20at%超のターゲットが使用される。
【0065】
本発明によるコーティングされたツールの上述のすべての実施形態は、超合金材料の機械加工に使用され得る。
【0066】
本発明の文脈における拡散ホウ化物層は、コバルトおよびニッケルとは異なる他の元素の拡散を阻止するための拡散バリア層としても使用され得る。
図1
図2
図3