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特許7608351混合原料を利用する微生物細胞による炭水化物の発酵生産
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-20
(45)【発行日】2025-01-06
(54)【発明の名称】混合原料を利用する微生物細胞による炭水化物の発酵生産
(51)【国際特許分類】
   C12P 19/00 20060101AFI20241223BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20241223BHJP
   C12N 15/54 20060101ALI20241223BHJP
   C12N 15/52 20060101ALI20241223BHJP
   C12N 15/31 20060101ALI20241223BHJP
【FI】
C12P19/00 ZNA
C12N1/21
C12N15/54
C12N15/52 Z
C12N15/31
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021551782
(86)(22)【出願日】2020-02-28
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-04-18
(86)【国際出願番号】 EP2020055299
(87)【国際公開番号】W WO2020178178
(87)【国際公開日】2020-09-10
【審査請求日】2023-02-27
(31)【優先権主張番号】19160379.4
(32)【優先日】2019-03-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】511149751
【氏名又は名称】クリスチャン.ハンセン・ハー・エム・オー・ゲー・エム・ベー・ハー
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】イェネバイン,シュテファン
(72)【発明者】
【氏名】ワルテンベルク,ディルク
【審査官】松井 一泰
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-509346(JP,A)
【文献】特表2013-535962(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00- 15/90
C12P 1/00- 41/00
C12N 1/00- 7/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2’-フコシルラクトースを発酵生産する方法であって、
a)2’-フコシルラクトースを産生する遺伝子組換えエシェリキア・コリを提供すること、ここで、前記E.コリは、野生型細胞と比較して、少なくとも1つの糖リン酸の向上した細胞内の量を生じるための増大した能力を有し、前記E.コリは、遺伝子型pfkA 、lacZ 、fucIK 、wcaJ 、glk 、gcd 、ptsG を示し、GDP-フコースのデノボ合成のための酵素ManB、ManC、Gmd、及びWcaG、E.コリ:O126由来の2’-フコシルトランスフェラーゼ遺伝子wbgL、エルシニア・ベルコビエリATCC43970由来の糖流出トランスポーター遺伝子yberc0001_9420、ザイモモナス・モビリス由来のグルコース促進遺伝子glf、パスツレラ・ムルトシダ由来のβ-1,4-ガラクトシルトランスフェラーゼ遺伝子galTpm1141、並びにUDP-グルコース4-エピメラーゼをコードするE.コリ遺伝子gal及びホスホグルコムターゼをコードするE.コリ遺伝子pgmを過剰発現する、
b)前記2’-フコシルラクトースの産生を可能にする培養培地中で前記遺伝子組換えE.コリを培養すること、ここで、主な炭素源は、スクロースの加水分解から得られるグルコース及びフルクトースからなる単糖混合物である、及び
c)前記2’-フコシルラクトースを回収すること
を含む、方法。
【請求項2】
2’-フコシルラクトースを産生する遺伝子組換えE.コリであって、前記E.コリは、野生型細胞と比較して、少なくとも1つの糖リン酸の向上した細胞内の量を生じるための増大した能力を有し、前記E.コリは、遺伝子型pfkA 、lacZ 、fucIK 、wcaJ 、glk 、gcd 、ptsG を示し、GDP-フコースのデノボ合成のための酵素ManB、ManC、Gmd、及びWcaG、E.コリ:O126由来の2’-フコシルトランスフェラーゼ遺伝子wbgL、エルシニア・ベルコビエリATCC43970由来の糖流出トランスポーター遺伝子yberc0001_9420、ザイモモナス・モビリス由来のグルコース促進遺伝子glf、パスツレラ・ムルトシダ由来のβ-1,4-ガラクトシルトランスフェラーゼ遺伝子galTpm1141、並びにUDP-グルコース4-エピメラーゼコードするE.コリ遺伝子gal及びホスホグルコムターゼをコードするE.コリ遺伝子pgmを過剰発現する、遺伝子組換えE.コリ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は目的の糖類の発酵生産に関する。目的の糖類を可能にする微生物細胞が開示されており、前記微生物細胞は発酵の間、主な炭素及びエネルギー源として混合単糖原料を利用する。前記微生物細胞を利用することによって目的の糖類を生産するための方法もまた、開示される。
【背景技術】
【0002】
ヒト母乳は、炭水化物、脂肪、タンパク質、ビタミン、ミネラル及び微量元素の複合混合物を含む。ヒト母乳の最も主要な画分は炭水化物からなる。ヒト母乳内の炭水化物画分は、(i)ラクトース及び(ii)オリゴ糖(ヒト母乳オリゴ糖、HMO)にさらに分けられ得る。二糖ラクトース(ガラクトース-β1,4-グルコース)が嬰児によってエネルギー源として使用されるのに対して、オリゴ糖は乳児によって代謝されない。
【0003】
オリゴ糖の画分は、最大で炭水化物画分全体の10分の1を占め、おそらく150種を超える構造的に異なるオリゴ糖からなる。これらの複合オリゴ糖の発生及び濃度はヒトに特異的であるため、酪農動物を含む他の哺乳動物の乳に大量に見ることはできない。
【0004】
最も顕著なヒト母乳オリゴ糖は、最大でHMO画分全体の1/3を一緒に構成し得る2’-フコシルラクトース(2’-FL)及び3-フコシルラクトース(3-FL)である。さらなる顕著なHMOは、ラクト-N-テトラオース(LNT)、ラクト-N-ネオテトラオース(LNnT)及びラクト-N-フコペンタオースI(LNFP-I)である。これらの中性オリゴ糖以外に、3’-シアリルラクトース(3’-SL)、6’-シアリルラクトース(6’-SL)、3-フコシル-3’-シアリルラクトース、シアリル-ラクト-N-テトラオース及びジシアリル-ラクト-N-テトラオースなどの酸性HMOもまた、ヒト母乳に見ることができる。
【0005】
特に、HMOの大部分は、それらの還元末端にガラクトース-β1,4-グルコース部分を含み、この還元末端は、N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)及び/又はフコース及び/又はガラクトース及び/又はN-アセチルノイラミン酸(NeuNAc)などの単糖部分の付加によって伸長される。HMOの構造は、上皮細胞表面複合糖質のエピトープである、ルイスx(LeX)などのルイス式血液型抗原と密接に関連している。上皮エピトープに対するHMOの構造類似性は細菌病原体に対するHMOの保護特性を説明する。
【0006】
ヒト母乳中のオリゴ糖の存在は長い間知られており、これらのオリゴ糖の生理的機能は数十年にわたって医学研究の対象であった。より豊富なヒト母乳オリゴ糖の一部については、特定の機能が既に同定されている。
【0007】
本明細書以前に示されるような腸管における局所的作用を引き起こすことに加えて、HMOはまた、乳児の体循環に入ることにより乳児における全身作用を誘発することが示されている。また、タンパク質-炭水化物相互作用、例えばセレクチン-白血球結合に対するHMOの影響により、免疫反応をモジュレートすることができ、炎症反応を低減させることができる。さらに、HMOは、乳児の微生物叢の発達のための重要な基質を表すことがますます認識されるようになってきている。
【0008】
一般的に種々の炭水化物、特にプレバイオティックオリゴ糖の十分に研究された有益な特性に起因するが、天然源からのそれらの限定されたアベイラビリティのために、単糖(例えばL-フコース、N-アセチルノイラミン酸)、二糖(例えばラクト-N-ビオース)及びオリゴ糖(例えば2’-FL、LNnT)についての効果的かつコスト効率の良い生産プロセスが非常に望ましい。
【0009】
機能的炭水化物の大規模生産を試みようとして、これらの炭水化物の一部に対する化学的経路が開発された。しかし、このような方法は、最終製品を汚染するリスクを負わせる、いくつかの有害化学物質の使用を含む。少なくとも食品用途におけるそれらの使用に十分である機能的炭水化物の大規模な量及び質は、今日まで化学合成によって提供することができない。
【0010】
ヒト母乳オリゴ糖の化学合成に関連する欠点を回避するために、それらの生産のためのいくつかの酵素的方法及び発酵アプローチが開発された。L-フコース、N-アセチルノイラミン酸、2’-フコシルラクトース、3-フコシルラクトース、ラクト-N-テトラオース、ラクト-N-ネオテトラオース、3’-シアリル-ラクトース及び6’-シアリルラクトースなどの、いくつかの炭水化物についての発酵生産プロセスが開発されている。これらの生産プロセスは典型的に、組換えエシェリキア・コリ(Escherichia coli)などの遺伝子操作された細菌細胞を使用する。
【0011】
通常、HMOを生産するための発酵生産プロセス及び生体触媒反応は、HMOを生産するための開始アクセプター基質として外部から加えられたラクトースに基づく。1つ以上の単糖がこれらのプロセスにおいてラクトースに加えられる(米国特許第7,521,212 B1号明細書;Albermannら、(2001年)Carbohydr.Res.334(2)97~103頁)。ラクトースへの単糖の添加は、適切な活性化された単糖基質を使用してグリコシルトランスフェラーゼ又はグリコシダーゼのいずれかによって触媒され得る。さらに、さらなる単糖がトランスグリコシダーゼ反応によってラクトースに添加されてもよい。
【0012】
特に、HMOの発酵生産は効果的であることが証明された。なぜなら、合成することが困難であるが、必要とされるヌクレオチドにより活性化された単糖は、利用される微生物細胞の代謝によって提供されるからである。ヌクレオチドにより活性化された単糖についての生合成経路は通常、グルコース-6-リン酸又はフルクトース-6-リン酸のレベルでの宿主細胞の一次代謝に由来する。UDP-ガラクトース(UDP-Gal)についての生合成経路はグルコース-6-リン酸に由来するのに対して、GDP-フコース、UDP-N-アセチルグルコサミン及びCMP-N-アセチルノイラミン酸の生合成はフルクトース-6-リン酸に由来する。
【0013】
微生物宿主細胞におけるヌクレオチドにより活性化された単糖の効果的な生合成、及びその結果としての発酵プロセスによる所望の炭水化物の生産は、グルコース-6-リン酸及び/又はフルクトース-6-リン酸などの糖リン酸の連続供給に明らかに依存する。
【0014】
通常、微生物宿主細胞による単純かつ安価な炭素及びエネルギー源(例えばグリセロール、グルコース、スクロース)の消費に基づく、前記発酵プロセスにおける主な問題は、前記宿主細胞におけるこのようなリン酸化/活性化糖類の限られたアベイラビリティ(例えば競合反応に起因する)であり、生産物生合成経路の炭素フラックスを大幅に損ない、それによりこれらのプロセスの生産性を大幅に損なう。
【0015】
上述の欠点を克服するために、HMOを生産するための改善された手段及び方法が開発された。例えば、国際公開第2012/007481 A2号は、糖類、活性化された糖類、ヌクレオシド、グリコシド、糖脂質及び糖タンパク質を生産することができる操作された生物を開示しており、前記操作された生物は、前記生物が、二糖、オリゴ糖、多糖又はそれらの混合物を、活性化糖類及び糖類に分割することができるように、i)炭水化物キナーゼをコードする遺伝子と組み合わせて炭水化物ヒドロラーゼをコードする遺伝子、ii)炭水化物シンターゼをコードする遺伝子、又はiii)炭水化物ホスホリラーゼをコードする遺伝子を発現し、前記生物は、前記の導入遺伝子のいずれか以外の少なくとも1つの他の遺伝子がほとんど機能しなくなる又は全く機能しなくなるように、さらに遺伝子修飾され、前記他の遺伝子は、前記活性化糖類をバイオマス及び/又は生体触媒酵素に変換する酵素をコードする。前記操作された生物は、スクロース、オリゴ糖、多糖又はそれらの混合物などの二糖を利用しながら所望の炭水化物を生成することができる。
【0016】
しかし、唯一の炭素及びエネルギー源としてスクロースを使用して前記操作された生物によって所望の化合物を生産することは、スクロースを滅菌することが困難であるという大きな欠点を有する。滅菌するための最も望ましい方法は加熱滅菌である。しかし、スクロースの加熱滅菌は、国際公開第2012/007481 A2号に記載されている方法の適用性に対抗するかなりの程度の加水分解を生じる。
【0017】
加熱滅菌の代替として、スクロース溶液の滅菌濾過が利用され得るが、滅菌濾過は、特に工業規模の発酵において、望ましくない細菌細胞の成長をもたらす汚染の高いリスクを有する。
【0018】
それにもかかわらず、スクロースは、そのアベイラビリティ及び低コストに起因して生物工学的応用のための最も魅力的な炭素源に相当する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【文献】米国特許第7,521,212号明細書
【文献】国際公開第2012/007481号
【非特許文献】
【0020】
【文献】Albermannら、(2001年) Carbohydr.Res.334(2)97~103頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
それ故、主な炭素及びエネルギー源として安価な原料の存在下で培養した場合、所望の炭水化物を生産することができる所望の炭水化物の発酵生産のための微生物細胞であって、前記原料は、細胞の代謝によって利用可能であるために微生物細胞によって加水分解される必要がない、微生物細胞、及び主な炭素及びエネルギー源としての前記原料の存在下で前記微生物細胞を培養することによる発酵によって目的の炭水化物を生産するための方法を提供することが望ましい。
【0022】
この目的は、主な炭素及びエネルギー源としての混合単糖原料で培養した場合、所望の炭水化物を生産することができる、遺伝子操作された微生物細胞であって、前記混合単糖原料は、グルコースとフルクトース及びガラクトースからなる群から選択される少なくとも1種のさらなる単糖とからなり、微生物細胞は、少なくとも1種の糖リン酸の増大した細胞内アベイラビリティを有する、遺伝子操作された微生物細胞を提供することで解決され、並びに目的の炭水化物を発酵生産するための方法であって、主な炭素及びエネルギー源としての前記混合単糖原料の存在下で前記遺伝子操作された微生物細胞を培養するステップを含む、方法を提供することによって解決される。
【課題を解決するための手段】
【0023】
(要旨)
第1の態様によれば、目的の炭水化物を生産するための遺伝子操作された微生物細胞であって、前記微生物細胞は、少なくとも1種の糖リン酸の増大した細胞内アベイラビリティを有し、主な炭素及びエネルギー源としての混合単糖原料の存在下で培養される場合、目的の炭水化物を生産することができ、前記混合単糖原料は、グルコースとフルクトース及びガラクトースからなる群から選択される少なくとも1種のさらなる単糖とからなる、遺伝子操作された微生物細胞が提供される。
【0024】
第2の態様によれば、目的の炭水化物を生産するための本明細書に記載される遺伝子操作された微生物細胞の使用であって、前記微生物細胞は、グルコースとフルクトース及びガラクトースの群からの少なくとも1種のさらなる単糖とからなる単糖混合物の存在下で培養される、使用が提供される。
【0025】
第3の態様によれば、目的の炭水化物を発酵生産するための方法であって、
a)目的の炭水化物を生産することができる遺伝子操作された微生物細胞を提供するステップであって、前記微生物細胞は、少なくとも1種の糖リン酸の増大した細胞内アベイラビリティを有する、ステップ、
b)目的の前記炭水化物の生産を可能にする培養培地中で前記遺伝子操作された微生物細胞を培養するステップであって、培養培地は主な炭素及びエネルギー源としての混合単糖原料を含み、前記混合単糖原料は、グルコースとフルクトース及びガラクトースからなる群から選択される少なくとも1種のさらなる単糖とからなる、ステップ、並びに
c)目的の前記炭水化物を回収するステップ
を含む、方法が提供される。
【0026】
第4の態様では、医薬組成物及び/又は栄養組成物を製造するための、本明細書に記載される遺伝子操作された微生物細胞及び/又は方法によって生産されている目的の炭水化物の使用が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】糖リン酸のフルクトース-1-リン酸及びグルコース-6-リン酸に通じ、それらが起源になる、天然に存在する代謝経路を示す、例示的な野生型微生物細胞(例えば、E.コリ(E.coli))の概略図を示す図である。
図2】本発明の例示的な遺伝子修飾された微生物細胞の概略図を示す図であり、細胞内グルコース-6-リン酸のアベイラビリティの増大をもたらす遺伝子修飾を示す。
図3】本発明の遺伝子操作された微生物細胞の別の例示的な実施形態の概略図を示す図であり、細胞内グルコース-6-リン酸のアベイラビリティの増大をもたらす遺伝子修飾を示す。
図4】本発明の遺伝子操作された微生物細胞の別の例示的な実施形態の概略図を示す図であり、細胞内グルコース-6-リン酸のアベイラビリティの増大をもたらす遺伝子修飾を示す。
図5】本発明の遺伝子操作された微生物細胞の別の例示的な実施形態の概略図を示す図であり、細胞内グルコース-6-リン酸のアベイラビリティの増大及び細胞内フルクトース-6-リン酸のアベイラビリティの増大をもたらす遺伝子修飾を示す。
図6】本発明の遺伝子操作された微生物細胞の別の例示的な実施形態の概略図を示す図であり、細胞内グルコース-6-リン酸のアベイラビリティの増大及び細胞内フルクトース-6-リン酸のアベイラビリティの増大をもたらす遺伝子修飾を示す。
図7】本発明の遺伝子操作された微生物細胞の別の例示的な実施形態の概略図を示す図であり、細胞内グルコース-6-リン酸のアベイラビリティの増大及び細胞内フルクトース-6-リン酸のアベイラビリティの増大をもたらす遺伝子修飾を示す。
図8】本発明の遺伝子操作された微生物細胞の別の例示的な実施形態の概略図を示す図であり、細胞内グルコース-6-リン酸のアベイラビリティの増大及び細胞内フルクトース-6-リン酸のアベイラビリティの増大をもたらす遺伝子修飾を示す。
図9】本発明の遺伝子操作された微生物細胞の別の例示的な実施形態の概略図を示す図であり、細胞内グルコース-6-リン酸のアベイラビリティの増大及び細胞内フルクトース-6-リン酸のアベイラビリティの増大をもたらす遺伝子修飾を示す。
図10】本発明の遺伝子操作された微生物細胞の別の例示的な実施形態の概略図を示す図であり、グルコース、グルコース-6-リン酸及びフルクトース-6-リン酸の増大した細胞内アベイラビリティをもたらす遺伝子修飾を示す。
図11】本発明の遺伝子操作された微生物細胞の別の例示的な実施形態の概略図を示す図であり、マンノース及び/又はマンノース-6-リン酸の増大した細胞内アベイラビリティをもたらす遺伝子修飾を示す。
図12】本発明の遺伝子操作された微生物細胞の別の例示的な実施形態の概略図を示す図であり、ガラクトース-1-リン酸及びフルクトース-6-リン酸の増大した細胞内アベイラビリティをもたらす遺伝子修飾を示す。
図13】唯一の炭素及びエネルギー源としてのグルコース(A)又はグルコース及びフルクトースからなる混合単糖原料(B)での培養の間のE.コリ株の成長特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
第1の態様によれば、目的の炭水化物を生産することができる遺伝子操作された微生物細胞が提供される。追加の実施形態では、目的の炭水化物は遺伝子操作された微生物細胞の野生型祖先において天然に存在しない炭水化物である。
【0029】
微生物細胞は、対応する野生型細胞における前記少なくとも1種の糖リン酸の細胞内アベイラビリティと比較して少なくとも1種の糖リン酸の増大した細胞内アベイラビリティを有する。遺伝子操作された微生物細胞は、目的の前記炭水化物を生産することができ、微生物細胞のための主な炭素及びエネルギー源として混合単糖原料を含む培養培地中で培養される場合、目的の前記炭水化物を生産し、混合単糖原料は、グルコースとフルクトース及びガラクトースからなる群から選択される少なくとも1種のさらなる単糖とからなる。
【0030】
遺伝子操作された微生物細胞は、遺伝子操作されていることに起因して目的の炭水化物を生産することができる。それ故、遺伝子操作された微生物細胞は1つ以上の異種遺伝子を発現し、前記異種遺伝子によってコードされるポリペプチドの活性により、微生物細胞は目的の炭水化物を合成することができる。
【0031】
本明細書で使用される場合、「機能的遺伝子」という用語は、タンパク質又はポリペプチドをコードし、タンパク質又はポリペプチドをコードするヌクレオチド配列が前記機能的遺伝子を有する微生物細胞において/によって発現され得るように、前記タンパク質をコードするヌクレオチド配列に作動可能に連結された調節配列も含有するヌクレオチド配列を含む核酸分子を指す。したがって、機能的遺伝子の発現を可能にする条件で培養した場合、前記機能的遺伝子が発現され、前記機能的遺伝子を発現する微生物細胞は典型的に、機能的遺伝子のタンパク質コード領域によってコードされるタンパク質又はポリペプチドを含む。本明細書で使用される場合、「核酸」及び「ポリヌクレオチド」という用語は、一本鎖又は二本鎖形態のいずれかでデオキシリボヌクレオチド又はリボヌクレオチドポリマーを指し、他に限定されない限り、天然に存在するヌクレオチドと同様に核酸とハイブリダイズする天然ヌクレオチドの既知の類似体を包含する。他に示されない限り、特定の核酸配列はその相補的配列を含む。
【0032】
本明細書で使用される場合、「作動可能に連結された」という用語は、核酸発現制御配列(プロモーター、シグナル配列又は転写因子結合部位のアレイなど)と第2の核酸配列との間の機能的連結を意味するものとし、発現制御配列は第2の配列に対応する核酸の転写及び/又は翻訳に影響を及ぼす。したがって、「プロモーター」という用語は、通常、DNAポリマーにおいて遺伝子に「先行し」、mRNAへの転写の開始のための部位を提供するDNA配列を指す。また、「調節」DNA配列も、通常、所与のDNAポリマーにおいて遺伝子の「上流」にあり(すなわち先行し)、転写開始の頻度(又は速度)を決定するタンパク質に結合する。「プロモーター/調節」又は「制御」DNA配列と総称される、機能的DNAポリマーにおいて選択された遺伝子(又は一連の遺伝子)に先行するこれらの配列は、協同して遺伝子の転写(及び最終的な発現)が起こるか否かを決定する。DNAポリマーにおいて遺伝子に「続き」、mRNAへの転写の終結のためにシグナルをもたらすDNA配列は、転写「終結」配列と称される。
【0033】
細菌宿主細胞に関して本明細書で使用される場合、「組換え」という用語は、細菌細胞が異種核酸を複製する、又は異種核酸(すなわち、「前記細胞にとって外来性の」配列)によってコードされるペプチド若しくはタンパク質を発現することを示す。組換え細胞は、細胞のネイティブ(非組換え)形態内に見られない遺伝子を含有することができる。組換え細胞はまた、遺伝子が修飾され、人工的手段によって細胞へと再導入された、細胞のネイティブ形態に見られる遺伝子も含有することができる。この用語はまた、細胞由来の核酸を除去することなく修飾されている、細胞に対して内因性である核酸を含有する細胞も包含し、このような修飾は、遺伝子置き換え、部位特異的突然変異及び関連技法によって得られたものを含む。したがって、「組換えポリペプチド」は、組換え細胞によって生成されているものである。「異種配列」又は「異種核酸」は、本明細書で使用される場合、特定の宿主細胞に対して外来の供給源(例えば、異なる種)を起源とするか、又は同じ供給源を起源とする場合はその元の形態から修飾されているものである。したがって、プロモーターに作動可能に連結した異種核酸は、プロモーターが得られた供給源と異なる供給源に由来するか、又は同じ供給源に由来する場合はその元の形態から修飾されている。異種配列は、例えば、宿主微生物細胞のゲノムへ、トランスフェクション、形質転換、コンジュゲーション又は形質導入によって安定して導入することができ、その場合、配列が導入される宿主細胞に依存する技法を適用することができる。種々の技法が当業者に知られており、例えば、Sambrookら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、第2版、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、N.Y.(1989)に開示されている。
【0034】
したがって、「遺伝子操作された宿主細胞」又は「遺伝子操作された微生物細胞」は、形質転換若しくはトランスフェクトされている、又は外因性ポリヌクレオチド配列による形質転換若しくはトランスフェクションが可能である細菌細胞又は酵母細胞として理解される。
【0035】
したがって、本発明において使用される核酸配列は、例えば、安定して形質転換/トランスフェクトされる又はそうでなければ宿主微生物細胞に導入されるベクターに含まれていてもよい。
【0036】
本発明のポリペプチドを生産するために多種多様な発現系が使用され得る。このようなベクターには、とりわけ、染色体、エピソーム及びウイルス由来のベクター、例えば、細菌のプラスミド由来、バクテリオファージ由来、トランスポゾン由来、酵母エピソーム由来、挿入エレメント由来、酵母染色体エレメント由来、ウイルス由来のベクター、並びにコスミド及びファージミドなどのプラスミド及びバクテリオファージの遺伝エレメント由来のものなどのこれらの組合せ由来のベクターが含まれる。発現系構築物は、発現を調節及び引き起こす制御領域を含有し得る。一般的に、宿主において、ポリヌクレオチドを維持し、増やし又は発現させ、ポリペプチドを合成するのに適する任意の系又はベクターは、この点での発現に対して使用され得る。適切なDNA配列は、例えば、Sambrookら(上掲)に示されるものなどの様々な周知の及び慣例的な技法のいずれかによって、発現系に挿入され得る。
【0037】
当技術分野には、選択された宿主生物の形質転換において使用するための遺伝材料の単離、合成、精製及び増幅に関する「組換えDNA」方法論に関する特許及び文献が豊富に存在する。したがって、選択された外因性(すなわち、外来性又は「異種」)DNA配列を含む「ハイブリッド」ウイルス又は環状プラスミドDNAを有する宿主生物を形質転換することは常識である。当技術分野において知られている手順は、環状ウイルス又はプラスミドDNAを酵素的に切断して線状DNA鎖を形成することによる形質転換ベクターの生成を最初に含む。通常、所望のタンパク質生産物をコードする配列を含む、選択された外来性DNA鎖は、同じ/類似の酵素の使用によって線状形態で調製される。線状ウイルス又はプラスミドDNAは、回復プロセスに影響を及ぼすことができるライゲーション酵素の存在下で外来性DNAとインキュベートされ、ウイルス又は環状DNAプラスミドに「スプライス」された選択された外来性DNAセグメントを含む「ハイブリッド」ベクターが形成される。
【0038】
「~をコードするヌクレオチド配列」という用語は、一般的に、修飾されていないRNA若しくはDNA又は修飾されたRNA若しくはDNAであってもよい、任意のポリリボヌクレオチド又はポリデオキシリボヌクレオチドを指し、一般的に、ある特定のポリペプチド又はタンパク質をコードする遺伝子の部分を表す。この用語は、限定することなく、一本鎖及び二本鎖DNA、一本鎖及び二本鎖領域又は一本鎖、二本鎖及び三本鎖領域の混合物であるDNA、一本鎖及び二本鎖RNA並びに一本鎖及び二本鎖領域の混合物であるRNA、一本鎖若しくはより典型的には二本鎖若しくは三本鎖領域又は一本鎖及び二本鎖領域の混合物であってもよいDNA及びRNAを含むハイブリッド分子を含む。この用語はまた、コーディング配列及び/又は非コーディング配列を含有してもよいさらなる領域と一緒に、ポリペプチドをコードする単一の連続領域又は不連続領域(例えば、組み込まれたファージ又は配列の挿入若しくは編集により分断されたもの)を含むポリヌクレオチドも包含する。
【0039】
本明細書で使用される場合、「バリアント」という用語は、それぞれ、基準のポリヌクレオチド又はポリペプチドと異なるが、基準のポリヌクレオチド又はポリペプチドの本質的(酵素の)特性を保持するポリヌクレオチド又はポリペプチドを指す。ポリヌクレオチドの典型的なバリアントは、別の、基準のポリヌクレオチドとヌクレオチド配列が異なる。バリアントのヌクレオチド配列の変化は、基準のポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドのアミノ酸配列を変更してもしなくてもよい。ヌクレオチドの変化は、以下で考察するように、基準配列によってコードされるポリペプチドにおけるアミノ酸置換、付加、欠失、融合及び切断を生じる場合がある。ポリペプチドの典型的なバリアントは、別の、基準のポリペプチドとアミノ酸配列が異なる。一般的に、基準のポリペプチド及びバリアントの配列が全体として非常に類似し、多くの領域で同一であるように差異が限定される。バリアント及び基準のポリペプチドは、任意の組合せで1つ以上の置換、付加、欠失によってアミノ酸配列が異なる可能性がある。置換された又は挿入されたアミノ酸残基は、遺伝情報によってコードされたものであってもなくてもよい。ポリヌクレオチド又はポリペプチドのバリアントは、対立遺伝子バリアントなどの天然に存在するものであってもよく、又は天然に存在することが知られていないバリアントであってもよい。ポリヌクレオチド及びポリペプチドの天然に存在しないバリアントは、突然変異誘発技法によって、直接的合成によって及び当業者に公知の他の組換え方法によって作製されてもよい。
【0040】
本発明の範囲内で、野生型タンパク質によってコードされたポリペプチドに対して、好ましくは少なくとも約25、50、100、200、500、1000又はそれより多いアミノ酸の領域にわたって、約60%超のアミノ酸配列同一性、65%、70%、75%、80%、85%、90%、好ましくは91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%若しくは99%又はそれを超えるアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列を有する、核酸/ポリヌクレオチド及びポリペプチド多型バリアント、対立遺伝子、突然変異体並びに種間相同体もこれらの用語に含まれる。
【0041】
したがって、本明細書で開示される遺伝子/タンパク質のいずれかの「機能的バリアント」は、それぞれの断片が由来する遺伝子又はタンパク質と同じ又は幾分劣る活性を依然として保持している遺伝子/タンパク質の配列バリアントを示すことを意味する。
【0042】
遺伝子操作された微生物細胞は、前記微生物細胞が培養されている培養培地からその細胞質に少なくとも1種の単糖を移動させるための少なくとも1種の単糖トランスポーターを有する。前記少なくとも1種の単糖トランスポーターは、グルコース、フルクトース及びガラクトースからなる群から選択される単糖を移動させる。
【0043】
細胞膜を横切って移動した単糖は、細胞の代謝に利用可能になるようにリン酸化される必要がある。細胞膜を横切って単糖を移動させた単糖トランスポーターに応じて、単糖は、直接、すなわち細胞に移動している間に、リン酸化され、又は適切なキナーゼによって後でリン酸化される。ホスホエノールピルベート:糖ホスホトランスフェラーゼ依存性輸送(PEP-PTS)による単糖の移動は直接リン酸化をもたらすのに対して、ホスホエノールピルベート:糖ホスホトランスフェラーゼ非依存性輸送(非PEP-PTS)による単糖の移動は細胞内キナーゼによる単糖の後のリン酸化を必要とする。
【0044】
追加の及び/又は代替の実施形態では、微生物細胞は、グルコースを移動させるホスホトランスフェラーゼ系(PtsG)を含む。グルコースを移動させるホスホトランスフェラーゼ系は、細胞膜を横切って移動するのと同時に流入グルコースのリン酸化を触媒する。
【0045】
Pts系の一般的な機構は以下の通りである:ホスホエノールピルベート(PEP)由来のホスホリル基はシグナル伝達経路を介して酵素I(EI)に転移し、次にこの酵素Iはそのホスホリル基をホスホリル担体であるヒスチジンタンパク質(HPr)に転移させる。次いでホスホ-HPrは、糖を細胞に輸送する、酵素2(EII)として知られている膜結合型複合体である糖特異的パーミアーゼにホスホリル基を転移させる。EIIは、少なくとも3つの構造的に異なるドメインIIA、IIB及びIICからなる。これらは、単一のポリペプチド鎖において一緒に融合され得る、又は以前に酵素II(EII)及びIII(EIII)と呼ばれていた、2つ若しくは3つの相互作用鎖として存在し得る。
【0046】
第1のドメイン(IIA又はEIIA)は、第1のパーミアーゼ特異的リン酸化部位である、ホスホ-HPrによってリン酸化されるヒスチジンを有する。第2のドメイン(IIB又はEIIB)は、輸送される糖に応じて、システイニル又はヒスチジル残基においてホスホ-IIAによってリン酸化される。最後に、ホスホリル基は、IICドメインによって処理された糖の取り込みと同時にIIBドメインから糖基質に転移される。この第3のドメイン(IIC又はEIIC)は移動チャネル及び特異的基質結合部位を形成する。
【0047】
したがって、PtsG系は外因性グルコースを獲得し、微生物細胞においてグルコース-6-リン酸を提供する。グルコース-6-リン酸は、UDP-ガラクトース生合成経路において利用され得る及び/又はフルクトース-6-リン酸に変換され得、次にこのフルクトース-6-リン酸は、中心代謝において及び/又は例えば、GDP-フコースなどのヌクレオチドにより活性化された糖類の生合成において高エネルギー三リン酸を生成するために使用され得る。
【0048】
追加の及び/又は代替の実施形態では、遺伝子操作された微生物細胞は、培養培地から微生物細胞の細胞質にフルクトース(Frc)を移動させるためのフルクトーストランスポーターを含む。遊離フルクトースを取り込むための適切なフルクトーストランスポーターは、Kornbergら、PNAS 97:1808~1812(2000)によって記載されているアイソフォーム(PtsG-F)である。
【0049】
次いで内在化したフルクトースは、フルクトキナーゼ(FrK)によってリン酸化されてフルクトース-6-リン酸(Fru-6-P)をもたらすことができる。フルクトース-6-リン酸は、UDP-ガラクトース生合成経路において及び/又は中心代謝における高エネルギー三リン酸の生成などの他の代謝経路において及び/又は例えば、GDP-フコースなどのヌクレオチドにより活性化された糖類の生合成において利用され得る。
【0050】
追加の及び/又は代替の実施形態では、遺伝子操作された微生物細胞は、フルクトースを移動させるホスホトランスフェラーゼ系(PtsF)を含む。フルクトースを移動させるホスホトランスフェラーゼ系は、細胞膜を横切って移動するのと同時に流入フルクトースのリン酸化を触媒する。
【0051】
したがって、PtsF系は外因性フルクトースを獲得し、微生物細胞においてフルクトース-1-リン酸を提供する。PtsF系は、膜貫通タンパク質FruA、1-ホスホフルクトースキナーゼ(FruK)及びジホスホリル転移タンパク質FruBを含む。FruA及びFruBによってフルクトースは移動して細胞質においてフルクトース-1-リン酸をもたらすことができる。フルクトース-1-リン酸はホスホフルクトキナーゼ(FruK)によってさらにリン酸化されてフルクトース-1,6-ビスリン酸を生じることができ、次にこのフルクトース-1,6-ビスリン酸は、中心代謝において高エネルギー三リン酸を生成するために微生物細胞によって使用され得る。
【0052】
別の適切なPtsF系は、LevD、LevE、LevF及びLevGを含む。LevDはフルクトース特異的ホスホトランスフェラーゼ酵素IIA成分である。LevEはフルクトース特異的ホスホトランスフェラーゼ酵素IIB成分である。LevFはフルクトースパーミアーゼIIC成分であり、LevGはフルクトースパーミアーゼIID成分である。対応する遺伝子levD、levE、levF及びlevGは、例えば、バシラス・サチリス(Bacillus subtilis)(株168)から知られている。前記PtsF系は細胞内にフルクトース-1-リン酸をもたらす。
【0053】
追加の及び/又は代替の実施形態では、遺伝子操作された微生物細胞はUDP-ガラクトース(UDP-Gal)の細胞内形成のためのUDP-ガラクトース生合成経路を有する。UDP-ガラクトースはガラクトシルトランスフェラーゼに対する基質として必要とされ、前記ガラクトシルトランスフェラーゼの活性はガラクトシル化二糖又はガラクトシル化オリゴ糖の形成をもたらし得る。
【0054】
UDP-ガラクトースは、微生物細胞の自然に発生する代謝によって、すなわち、グルコース1-リン酸及びグルコース6-リン酸の相互変換を触媒するホスホグルコムターゼ、グルコース-1-リン酸及びUTPからUDP-グルコースの形成を触媒するUTP-グルコース-1-リン酸-ウリジルトランスフェラーゼ、並びにUDP-ガラクトースへのUDP-グルコースの可逆的変換を触媒するUDP-グルコース-4-エピメラーゼの活性によってもたらされ得る。
【0055】
UDP-ガラクトースの細胞内供給は、ホスホグルコムターゼ、UDP-グルコース-1-リン酸-ウリジルトランスフェラーゼ、UDP-グルコース-4-エピメラーゼ及びそれらの機能的バリアントをコードする遺伝子の1つ以上が過剰発現されるという点並びに/又はホスホグルコムターゼ、UDP-グルコース-1-リン酸-ウリジルトランスフェラーゼ、UDP-グルコース-4-エピメラーゼ及びそれらの機能的バリアントをコードする遺伝子の1つ以上をコードする遺伝子の1つ以上のうちの1つ以上のさらなるコピーが微生物細胞内で発現されるという点で遺伝子操作によって改善され得る。ホスホグルコムターゼをコードする遺伝子の例は、E.コリK-12に見られるpgm遺伝子(受託番号NP_415214)であり、UDP-グルコース-1-リン酸-ウリジルトランスフェラーゼをコードする遺伝子の例は、E.コリK-12に見られるE.コリgalU遺伝子(受託番号NP_415752)であり、UDP-グルコース-4-エピメラーゼをコードする遺伝子の例は、E.コリK-12に見られるE.コリgalE遺伝子(NP_415280)である。
【0056】
本明細書で使用される場合、「過剰発現」又は「過剰発現される」という用語は、野生型前駆細胞、すなわち、遺伝子操作された微生物細胞と同じ属種の細胞であり、遺伝子操作されていないその細胞において測定されるものより大きい酵素又はポリペプチド発現のレベルを指す。
【0057】
さらに及び/又は代替として、細胞内UDP-ガラクトース供給は、前記微生物細胞が培養される培養培地を介してガラクトースを微生物細胞に供給することによって達成又は改善され得る。外部から供給されるガラクトースは微生物細胞によって取り込まれ、その後、次にUDP-ガラクトースに変換されるガラクトース-1-リン酸にリン酸化される。このGDP-ガラクトース生合成経路では、必要とされる酵素活性を有する酵素をコードする遺伝子は文献(Groissoirdら、「Characterization,Expression,and Mutation of the Lactococcus lactis galPMKTE Genes,Involved in Galactose Utilization via the Leloir Pathway」(2003)J.Bacteriol.185(3)870~878)において知られている。galP遺伝子(受託番号NP_417418)はガラクトース-プロトン共輸送体をコードする。galM遺伝子(受託番号NP_415277)はアルドラーゼ1-エピメラーゼをコードし、galK遺伝子(受託番号NP_415278)はガラクトキナーゼをコードし、galT遺伝子(受託番号NP_415279)はガラクトース-1-リン酸ウリジルトランスフェラーゼをコードし、galE遺伝子はUDP-ガラクトース-4-エピメラーゼをコードする。
【0058】
それ故、UDP-ガラクトース生合成もまた、微生物細胞内でガラクトース-プロトン共輸送体、ガラクトースキナーゼ及びガラクトース-1-リン酸ウリジルトランスフェラーゼをコードする遺伝子の発現によって供給され得る、又は微生物細胞内でガラクトース-プロトン共輸送体、ガラクトースキナーゼ及びガラクトース-1-リン酸ウリジルトランスフェラーゼをコードする遺伝子の過剰発現によって改善され得る。
【0059】
別の実施形態では、遺伝子操作された微生物細胞はGDP-L-フコース(GDP-Fuc)の細胞内形成のためのGDP-フコース生合成経路を有する。GDP-Fucはフコシルトランスフェラーゼの基質であり、フコシルトランスフェラーゼの酵素活性はフコシル化二糖又はフコシル化オリゴ糖の形成をもたらし得る。
【0060】
追加の及び/又は代替の実施形態では、遺伝子操作された微生物細胞は、マンノース-6-リン酸イソメラーゼ、ホスホマンノムターゼ、マンノース-1-リン酸-グアニリルトランスフェラーゼ、GDP-マンノース-4,6-デヒドラターゼ及びGDP-L-フコースシンターゼを含むGDP-L-フコース生合成経路を有する。
【0061】
GDP-L-フコースの細胞内供給は、マンノース-6-リン酸イソメラーゼ、ホスホマンノムターゼ、マンノース-1-リン酸-グアニリルトランスフェラーゼ、GDP-マンノース-4,6-デヒドラターゼ若しくはGDP-L-フコースシンターゼをコードする1つ以上の遺伝子が過剰発現される及び/又はマンノース-6-リン酸イソメラーゼ、ホスホマンノムターゼ、マンノース-1-リン酸-グアニリルトランスフェラーゼ、GDP-マンノース-4,6-デヒドラターゼ及びGDP-L-フコースシンターゼ若しくはそれらの機能的バリアントをコードする遺伝子の1つ以上のさらなるコピーが微生物細胞内で発現されるという点で遺伝子操作によって改善され得る。マンノース-6-リン酸イソメラーゼをコードする遺伝子の例は、E.コリK-12に見られるE.コリmanA遺伝子(受託番号NP_416130)であり、ホスホマンノムターゼをコードする遺伝子についての例は、E.コリK-12に見られるE.コリmanB遺伝子(受託番号NP_416552)であり、マンノース-1-リン酸-グアニリルトランスフェラーゼをコードする遺伝子についての例は、E.コリK-12に見られるE.コリmanC遺伝子(受託番号NP_416553)であり、GDP-マンノース-4,6-デヒドラターゼをコードする遺伝子についての例は、E.コリK-12に見られるE.コリgmd遺伝子(受託番号NP_416557)であり、GDP-L-フコースシンターゼをコードする遺伝子の例は、E.コリK-12に見られるE.コリwcaG遺伝子(受託番号NP_416556)である。
【0062】
さらに及び/又は代替として、GDP-L-フコース供給は、前記微生物細胞が培養される培養培地を介してL-フコースを微生物細胞に供給することによって達成又は改善され得る。外部から供給されるL-フコースは微生物細胞によって取り込まれ、酵素フコースキナーゼによってフコース-1-リン酸に最初にリン酸化される。続いてフコース-1-リン酸は、酵素フコース-1-リン酸グアニリルトランスフェラーゼの酵素活性によってGDP-L-フコースに変換される。必要な酵素活性を有する酵素をコードする遺伝子は当業者に公知である。例として、バクテロイデス・フラジリス(Bacteroides fragilis)の二機能性L-フコキナーゼ/L-フコース1-リン酸グアニリルトランスフェラーゼをコードするfkp遺伝子(受託番号WP_010993080)が、遺伝子操作された宿主細胞内で過剰発現され得る。
【0063】
別の実施形態では、遺伝子操作された微生物細胞は、例えば、N-アセチルグルコサミニル化二糖又はオリゴ糖の形成をもたらすN-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ反応に必要とされる、UDP-N-アセチルグルコサミン(UDP-GlcNAc)の細胞内形成のためのUDP-N-アセチルグルコサミン生合成経路を有する。
【0064】
追加の及び/又は代替の実施形態では、遺伝子操作された微生物細胞は、例えば、L-グルタミン:D-フクトース-6-リン酸アミノトランスフェラーゼ、ホスホグルコサミンムターゼ及びN-アセチルグルコサミン-1-リン酸ウリジルトランスフェラーゼ/グルコサミン-1-リン酸アセチルトランスフェラーゼを含む、UDP-N-アセチルグルコサミン生合成経路を有する。
【0065】
UDP-N-アセチルグルコサミンの細胞内供給は、L-グルタミン:D-フクトース-6-リン酸アミノトランスフェラーゼ活性(例えば、E.コリK-12glmS遺伝子(受託番号NP_418185))、ホスホグルコサミンムターゼ活性(例えば、E.コリK-12glmM遺伝子(受託番号NP_417643))及びN-アセチルグルコサミン-1-リン酸ウリジルトランスフェラーゼ/グルコサミン-1-リン酸アセチルトランスフェラーゼ活性(例えば、E.コリK-12glmU遺伝子(受託番号NP_418186))を示すポリペプチド、又はそれらのバリアントをコードする遺伝子の1つ以上の発現又は過剰発現などの遺伝子修飾によって改善され得る。
【0066】
別の実施形態では、遺伝子操作された微生物細胞は、例えば、シアリル化二糖又はオリゴ糖の形成をもたらすシアリルトランスフェラーゼ反応に必要とされる、CMP-N-アセチルノイラミン酸(CMP-Neu5Ac)の細胞内形成のためのCMP-N-アセチルノイラミン酸/CMP-シアル酸生合成経路を有する。
【0067】
追加の及び/又は代替の実施形態では、遺伝子操作された微生物細胞は、例えば、L-グルタミン:D-フクトース-6-リン酸アミノトランスフェラーゼ、ホスホグルコサミンムターゼ、N-アセチルグルコサミン-1-リン酸ウリジルトランスフェラーゼ/グルコサミン-1-リン酸アセチルトランスフェラーゼ、UDP-N-アセチルグルコサミン-2-エピメラーゼ、グルコサミン-6-リン酸アセチルトランスフェラーゼ、N-アセチルグルコサミン-6-リン酸ホスファターゼ(好ましくはHAD様糖ホスファターゼ)、N-アセチル-グルコサミン2-エピメラーゼ、シアル酸シンターゼ及びCMP-シアル酸シンテターゼを含む、CMP-N-アセチルノイラミン酸生合成経路を有する。
【0068】
CMP-N-アセチルノイラミン酸の細胞内供給は、L-グルタミン:D-フクトース-6-リン酸アミノトランスフェラーゼ活性(例えば、E.コリK-12glmS遺伝子)、ホスホグルコサミンムターゼ活性(例えば、E.コリK-12glmM遺伝子)、N-アセチルグルコサミン-1-リン酸ウリジルトランスフェラーゼ/グルコサミン-1-リン酸アセチルトランスフェラーゼ活性(例えば、E.コリK-12glmU遺伝子)、UDP-N-アセチルグルコサミン-2-エピメラーゼ活性(例えば、カンピロバクター・ジェジュニ(Campylobacter jejuni)neuC遺伝子(受託番号AF305571))、グルコサミン-6-リン酸アセチルトランスフェラーゼ活性(例えば、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)gna1遺伝子(受託番号NP_116637))、N-アセチルグルコサミン-6-リン酸ホスファターゼ活性(例えば、E.コリK-12yihX遺伝子(受託番号NP_418321))、N-アセチルグルコサミン2-エピメラーゼ活性(例えば、シネコシスティス属種(Synechocystis sp.)PCC6803slr1975遺伝子(受託番号BAL35720))、シアル酸シンターゼ活性(例えば、カンピロバクター・ジェジュニneuB遺伝子(受託番号AF305571))及びCMP-シアル酸シンテターゼ活性(例えば、カンピロバクター・ジェジュニneuA遺伝子)(受託番号AF305571)を示すポリペプチド、又はそれらのバリアントをコードする遺伝子の1つ以上の発現又は過剰発現などの遺伝子修飾によって改善され得る。
【0069】
遺伝子操作された微生物細胞はグリコシルトランスフェラーゼをさらに含んでもよい。好ましい実施形態では、少なくとも1種のグリコシルトランスフェラーゼは、フコシルトランスフェラーゼ、シアリルトランスフェラーゼ、グルコサミニルトランスフェラーゼ又はガラクトシルトランスフェラーゼであり、より好ましくは、少なくとも1種のグリコシルトランスフェラーゼは、β-1,3-ガラクトシルトランスフェラーゼ活性、β-1,4-ガラクトシルトランスフェラーゼ活性、β-1,6-ガラクトシルトランスフェラーゼ活性、β-1,3-N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ活性、α-2,3-シアリルトランスフェラーゼ活性、α-2,6-シアリルトランスフェラーゼ活性、α-1,2-フコシルトランスフェラーゼ活性、α-1,3-フコシルトランスフェラーゼ活性、α-1,4-フコシルトランスフェラーゼ活性を示す。適切なグリコシルトランスフェラーゼは当業者に公知である又は文献に見出され得る。
【0070】
一般的に、及び本開示全体を通して、「グリコシルトランスフェラーゼ活性」又は「グリコシルトランスフェラーゼ」という用語は、二糖、オリゴ糖及び多糖の生合成に関与する酵素を指し、それらを包含し、それらは、活性化ヌクレオチド単糖/糖(例えば、UDP-Glc、UDP-Gal、GDP-Fuc、UDP-GlcNAc、CMP-Neu5Ac)からグリコシルアクセプター分子(例えば、単糖、二糖又はオリゴ糖)への単糖部分の転移を触媒する。
【0071】
追加の及び/又は代替の実施形態では、遺伝子操作された微生物細胞は細胞の野生型より多くのホスホエノールピルベート(PEP)を合成する。追加の及び/又は代替の実施形態では、遺伝子操作された微生物細胞は、増強されたPEP生合成経路を有するように遺伝子操作されている。例えば、遺伝子操作された微生物細胞は、例えば、E.コリK-12pckA遺伝子(受託番号NP_417862)又はその機能的バリアントを過剰発現することによって、増大したホスホエノールピルベートカルボキシキナーゼ活性を有するように遺伝子操作されている。好ましくは、例えば、ホスホエノールピルベートシンターゼをコードするE.コリK-12ppsA遺伝子(受託番号NP_416217)が過剰発現されるという点及び/又は天然に存在しない微生物がホスホエノールピルベートシンターゼ又はその機能的バリアントの発現を可能にするヌクレオチド配列の少なくとも1つのさらなるコピーを含有するという点で、遺伝子操作された宿主細胞は、増大したホスホエノールピルベートシンターゼ活性を有するように遺伝子操作されている。多くのPEPが、例えばシアル酸の生産に利用可能であるように、pckA又はppsAの過剰発現は細胞内PEP合成を増強する。
【0072】
追加の及び/又は代替の実施形態では、遺伝子操作された宿主細胞の細胞内PEPアベイラビリティは、炭素及びエネルギー源として使用されるある特定の糖(例えばグルコース)の、培養培地から細胞への移入に必要とされるホスホエノールピルベート:糖ホスホトランスフェラーゼ依存性インポーターの活性を低下及び/又は減少させることによって改善され得る。その結果として、炭素及びエネルギー源として前記ある特定の糖を使用するように遺伝子操作された宿主細胞の能力を維持するために、ホスホエノールピルベート:糖ホスホトランスフェラーゼ非依存性インポーターは、発現される又は過剰発現されることを必要とする。追加の及び/又は代替の実施形態では、前記ある特定の糖をリン酸化することを可能にするキナーゼの発現又は過剰発現は、細胞内の非リン酸化形態における前記糖の代謝又はその蓄積をそれぞれ実現するために必要とされる又は低下及び/若しくは減少する。
【0073】
発現及び/又は活性が遺伝子操作された微生物細胞(例えばE.コリK-12)において低下及び/又は減少し得る、ホスホエノールピルベート:糖ホスホトランスフェラーゼ依存性インポーター又はその成分は、グルコースPEP-PTS遺伝子ptsG(受託番号NP_415619)、malX(受託番号NP_416138)、crr(受託番号NP_416912)、bglF(受託番号NP_418178)及び/又はフルクトースPEP-PTS遺伝子fruA(受託番号_416672)、fruB(受託番号NP_416674)及び/又はマンノースPEP-PTS遺伝子manX(受託番号NP_416331)、many(受託番号NP_416332)、manZ(受託番号NP_416333)及び又はN-アセチルグルコサミンPEP-PTS遺伝子nagE(受託番号NP_415205)からなる群から選択される少なくとも1つを含む。
【0074】
単糖(グルコース及び/又はフルクトース及び/又はガラクトース及び/又はN-アセチルグルコサミン及び/又はN-アセチルノイラミン酸及び/又はフコース)を微生物細胞に移入することを可能にする、適切な非PEP-PTSトランスポーター又はそのバリアントは当業者に公知である。前記非PEP-PTSトランスポーターをコードする遺伝子の非限定的な例は、エシェリキア・コリK-12のgalP(配列番号1)、ザイモモナス・モビリス(Zymomonas mobilis)のglf(配列番号2)、エシェリキア・コリWのcscB(配列番号3)、ロイコノストック・シュードメセンテロイデス(Leuconostoc pseudomesenteroides)のfupL(配列番号4)、エシェリキア・コリK-12のlacY(配列番号5)、エシェリキア・コリK-12のfucP(配列番号6)、エシェリキア・コリK-12のnanT(配列番号7)、キサントモナス・カンペストリス(Xanthomonas campestris)のnagP(配列番号8)、ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)NCC2705のglcP(配列番号9)、バシラス・サチリスのglcP(配列番号10)、ビブリオ・パラヘモリティクス(Vibrio parahaemolyticus)のsglS(配列番号11)、エシェリキア・コリK-12のxylE(配列番号12)、バシラス・サチリス168のaraE(配列番号13)である。したがって、追加の及び/又は代替の実施形態では、遺伝子操作された宿主細胞は、上述の遺伝子又はその機能的バリアントのタンパク質コード領域を含む少なくとも1つの遺伝子を含み、発現する。
【0075】
好ましい実施形態では、適切な非PEP-PTS-グルコーストランスポーターは、糖促進拡散タンパク質(sugar facilitated diffusion protein)及び/又はグルコース移動パーミアーゼである。適切なグルコース促進融合タンパク質はザイモモナス・モビリスのglf遺伝子によってコードされる。適切なグルコース移動パーミアーゼはE.コリK-12galP遺伝子によってコードされる。グルコース移動パーミアーゼは、ガラクトース-プロトン共輸送体又はガラクトースパーミアーゼとしても知られているが、細胞膜を横切ってグルコースを取り込みもする。
【0076】
別の好ましい実施形態では、適切な非PEP-PTS-フルクトーストランスポーターは、糖促進拡散タンパク質及び/又はフルクトース担体タンパク質である。適切なフルクトース促進融合タンパク質は、ザイモモナス・モビリスのglf遺伝子によってコードされる。適切なフルクトース担体タンパク質は、ロイコノストック・シュードメセンテロイデスfupL遺伝子によってコードされる。
【0077】
一般的に、及び本開示全体を通して、「糖リン酸の増大した細胞内アベイラビリティ」又は「糖リン酸の増大した/改善された供給」という用語は、未修飾の微生物細胞と比較して、前記糖リン酸の向上した細胞内の量を生じるように遺伝子修飾された微生物細胞の増大した能力を指し、所望の炭水化物の生合成経路によって向上した炭素フラックスを可能にする。その結果として、前記遺伝子修飾された微生物細胞による前記所望の炭水化物の向上した生産は、前記糖リン酸の向上した細胞内の量の直接的な尺度である。加えて、細胞内代謝産物の定量化及び/又は細胞の炭素フラックスを目標にする方法が当業者に公知の文献に見出され得る(例えば、Lammerhofer及びWeckwerth、「Metabolomics in Practice:Successful Strategies to Generate and Analyze Metabolic Data」、Wiley-VCH、Weinheim、Germany(2013))。
【0078】
追加の及び/又は代替の実施形態では、所望の炭水化物の生合成と競合する、遺伝子及び/又はタンパク質の発現及び/又は活性は、それぞれ、遺伝子操作された宿主細胞内で低下及び/又は減少し得る。このような対抗するタンパク質(複数)/タンパク質活性の非限定的な例は、β-ガラクトシダーゼ(例えば、E.コリK-12LacZ(受託番号NP_414878))、UDP-グルコース:ウンデカプレニルリン酸グルコース-1-リン酸トランスフェラーゼ(例えば、E.コリK-12WcaJ(受託番号NP_416551))、L-フコースイソメラーゼ(例えば、E.コリK-12Fucl)、フクロキナーゼ(例えば、E.コリK-12FucK(受託番号NP_417282))、N-アセチルグルコサミン-6-リン酸デアセチラーゼ(例えば、E.コリK-12NagA(受託番号NP_415203))、グルコサミン-6-リン酸デアミナーゼ(例えば、E.コリK-12NagB(受託番号NP_415204))、N-アセチルマンノサミンキナーゼ(例えば、E.コリK-12NanK(受託番号NP_417689))、N-アセチルマンノサミン-6-リン酸エピメラーゼ(例えば、E.コリK-12NanE(受託番号NP_417690))、N-アセチルノイラミン酸アルドラーゼ(例えば、E.コリK-12NanA(受託番号NP_417692))、シアル酸パーミアーゼ(例えば、E.コリK-12NanT(受託番号NP_417691))からなる群から選択される少なくとも1つを含む。
【0079】
追加の及び/又は代替の実施形態では、遺伝子操作された微生物細胞は、スクロースを代謝することができるので、(i)異種PTS依存性スクロース利用輸送系(例えば、スクロースポーリン(scrY)、PTSスクロース特異的トランスポーターサブユニットII(scrA)及びスクロース-6-リン酸ヒドロラーゼ(scrB)からなるクレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)scrYAB遺伝子(配列番号14)又はサルモネラ・ティフムリウム(Salmonella typhimurium)scrYAB遺伝子(配列番号15)並びに/又は(ii)スクロースリン酸シンターゼ遺伝子(例えば、アナベナ属種(Anabaena sp.)PCC7120spsA遺伝子(受託番号AJ302071))と組み合わせた異種PTS依存性スクロース輸送系(例えば、クレブシエラ・ニューモニエscrYA遺伝子又はサルモネラ・ティフムリウムscrYA遺伝子)並びに/又は(iii)異種PTS非依存性スクロース利用系(例えば、フルクトキナーゼ(cscK)、スクロースヒドロラーゼ(cscA)及びスクロースパーミアーゼ(cscB)からなるE.コリWcscBKA遺伝子(配列番号16)並びに/又は(iv)スクロースホスホリラーゼ遺伝子(例えば、ビフィドバクテリウム・アドレセンティスbasP遺伝子(受託番号WP_011742626))又はスクロースシンターゼ遺伝子(例えば、アナベナ属種susA遺伝子(受託番号CAA09297))と組み合わせたスクロースパーミアーゼ遺伝子(例えば、E.コリW cscB)からなる異種スクロース利用系をコードする1つ以上の遺伝子を含む。
【0080】
追加の及び/又は代替の実施形態では、微生物細胞は、目的の炭水化物を細胞から排出するエクスポータータンパク質又はパーミアーゼ、好ましくは糖流出トランスポーターを含む。
【0081】
追加の及び/又は代替の実施形態では、宿主細胞は、微生物細胞、好ましくは、エシェリキア、ラクトバシラス(Lactobacillus)、コリネバクテリウム(Corynebacterium)、バシラス、ストレプトコッカス(Streptococcus)、エンテロコッカス(Enterococcus)、ラクトコッカス(Lactococcus)及びクロストリジウム(Clostridium)の属の細菌からなる群から選択される細菌細胞、好ましくは、エシェリキア・コリ、コリネバクテリウム・グルタミクム(Corynebacterium glutamicum)、クロストリジウム・セルロリティカム(Clostridium cellulolyticum)、クロストリジウム・リュングダリイ(Clostridium ljungdahlii)、クロストリジウム・オートエタノゲナム(Clostridium autoethanogenum)、クロストリジウム・アセトブチリクム(Clostridium acetobutylicum)、バシラス・サチリス、バシラス・メガテリウム(Bacillus megaterium)、ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)、ラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)、ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)、ラクトバチルス・デルブルエッキイー(Lactobacillus delbrueckii)及びラクトコッカス・ラクチス(Lactococcus lactis)からなる細菌属種の群から選択される細菌細胞である。別の実施形態では、微生物細胞はエシェリキア・コリである。当業者は、本開示を読んでさらなる細菌株を想起するであろう。
【0082】
第2の態様によれば、所望の炭水化物を生産するための本明細書に記載される遺伝子操作された宿主細胞の使用であって、前記宿主細胞は、グルコースとフルクトース及びガラクトースの群の少なくとも第2の単糖とからなる単糖混合物の存在下で培養される、使用が提供される。前記細胞は、所望の炭水化物の生産に関与する少なくとも1種の糖リン酸の増大した細胞内アベイラビリティを示すように遺伝子操作される。前記糖リン酸は、ホスホエノールピルベート(PEP)、ジヒドロキシアセトンリン酸、フルクトース-6-リン酸、フルクトース-1-リン酸、フルクトース-1,6-ビスリン酸、グルコース-6-リン酸、グルコース-1-リン酸、ガラクトース-1-リン酸、マンノース-1-リン酸、マンノース-6-リン酸、グルコサミン-6-リン酸、グルコサミン-1-リン酸、N-アセチルグルコサミン-6-リン酸、N-アセチルグルコサミン-1-リン酸、N-アセチルマンノサミン-6-リン酸、UDP-グルコース、UDP-ガラクトース、CMP-N-アセチルノイラミン酸、GDP-マンノース、GDP-フコース及びUDP-N-アセチルグルコサミンからなる群から選択され得る。
【0083】
第3の態様によれば、所望の炭水化物を発酵生産するための方法であって、
a)所望の炭水化物を生産することができる遺伝子操作された微生物を提供するステップであって、前記微生物は、前記操作された微生物内の前記細胞内糖リン酸の消費をもたらす少なくとも1種のタンパク質の低下及び/又は減少した発現及び/又は活性に起因して少なくとも1種の糖リン酸の増大した細胞内アベイラビリティを示す、ステップ、
b)前記所望の炭水化物の生産を可能にする培養培地中で前記遺伝子操作された微生物を培養するステップであって、主な炭素源は、グルコースとフルクトース及びガラクトースの群の少なくとも第2の単糖とからなる単糖混合物である、ステップ、
c)前記所望の糖類を培養ブロスから回収するステップ
を含む、方法が提供される。
【0084】
追加の及び/又は代替の実施形態では、目的の炭水化物はヒト母乳オリゴ糖又はその構成単位である。本明細書に記載される遺伝子修飾された微生物細胞及び/又は方法を使用することによって生産され得る目的の炭水化物のリストは表1に開示される。好ましくは、所望の炭水化物は、2’-フコシルラクトース、3-フコシルラクトース、2’,3-ジフコシルラクトース、3’-シアリルラクトース、6’-シアリルラクトース、3-フコシル-3’-シアリルラクトース、ラクト-N-テトラオース、ラクト-N-ネオテトラオース、ラクト-N-フコペンタオースI、ラクト-N-フコペンタオースII、ラクト-N-フコペンタオースIII、ラクト-N-フコペンタオースV、ラクト-N-ジフコシルヘキソースI、ラクト-N-ジフコシルヘキサオースII、ラクト-N-シアリルペンタオースLSTa、LSTb、LSTcからなる群から選択される。
【0085】
好ましくは、グルコース及び少なくとも1種のさらなる単糖の混合物は、好ましくは、スクロースの加水分解によって得られる、グルコース及びフルクトースの混合原料である。
【0086】
追加の及び/又は代替の実施形態では、スクロース加水分解は、十分な量のスクロースが原料に残存するように不完全である。したがって、加水分解及び/又は加熱滅菌された原料中のスクロースの量は、5%超、10%超、15%超、20%超、25%超、30%超、35%超、40%超、45%超、50%超、55%超、60%超、65%超、70%超、75%超又は80%超である。
【0087】
追加の及び/又は代替の実施形態では、微生物細胞は、特に目的のオリゴ糖を生産するために培養される場合、アクセプター基質、例えば、N-アセチルグルコサミン又はラクトースを外部から供給されずに培養される。
【0088】
本発明は、特定の実施形態に関して、また図面を参照して記載されるが、本発明はこれらに限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。さらに、詳細な説明及び特許請求の範囲における、第1の、第2のなどという用語は、類似の要素の間を区別するために使用され、時間的な、空間的な、ランクにおける又はあらゆる他の様式における順序の記載を必ずしも必要としているわけではない。このように使用されている用語は適切な状況下で交換可能であること、及び本明細書に記載される発明の実施形態が本明細書に記載又は図示される以外の順序で操作され得ることを理解されたい。
【0089】
特許請求の範囲において使用される「含む(comprising)」という用語は、その後に列挙される手段に制限されるものと解釈されるべきではないことに留意されたい。この用語は、他の要素又はステップを排除しない。したがって、この用語は、言及された特徴、整数、ステップ又は構成要素が述べられた通りに存在することを特定していると解釈されるが、1つ以上の他の特徴、整数、ステップ、若しくは構成要素又はこれらの群の存在又は追加を排除するものではない。したがって、「手段A及びBを含むデバイス」という表現の範囲は、構成要素A及びBのみからなるデバイスに限定されてはならない。この表現は、本発明に関して、デバイスの唯一の関連する構成要素がA及びBであることを意味する。
【0090】
本明細書の全体を通して、「一実施形態(one embodiment)」又は「実施形態(an embodiment)」への参照は、実施形態に関連して記載されている特定の特徴、構造又は特性が、本発明の少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。したがって、本明細書の全体を通しての様々な箇所における、「一実施形態において(in one embodiment)」又は「実施形態において(in an embodient)」という表現の存在は、必ずしもこれらの全てが同一の実施形態を参照しているわけではないが、同一の実施形態を参照していてもよい。さらに、本開示から当業者には明らかであろうが、特定の特徴、構造又は特性は、1つ以上の実施形態において、あらゆる適切な様式で組み合わされ得る。
【0091】
同様に、本発明の代表的な実施形態の記載において、本発明の様々な特徴は、時として、本開示を合理化し、様々な本発明の態様のうちの1つ以上の理解を容易にすることを目的として、単一の実施形態、図面又はその説明にまとめてグループ化されることを理解されたい。しかし、この開示方法は、特許請求の範囲に記載の発明が、各請求項において明示的に言及されているものよりも多くの特徴を要するという意図を反映するものと解釈されるべきではない。むしろ、以下の特許請求の範囲が反映するように、本発明の態様は、単一の前述の開示された実施形態の特徴の全てにあるわけではない。したがって、詳細な説明に従った特許請求の範囲は、ここで、この詳細な説明に明示的に組み込まれ、各請求項は、本発明の別個の実施形態として、それのみで有効である。
【0092】
さらに、本明細書に記載される一部の実施形態は、他の実施形態に含まれる一部の特徴を含むが、他の実施形態に含まれる他の特徴は含まず、当業者に理解されるであろうように、異なる実施形態の特徴の組合せは、本発明の範囲内にあり、異なる実施形態を形成することを意図する。例えば、以下の特許請求の範囲において、特許請求の範囲に記載の実施形態のいずれも、任意の組合せで使用され得る。
【0093】
さらに、実施形態の一部は、コンピュータシステムのプロセッサによって、又は機能を実行する他の手段によって実装され得る方法として、又は方法の要素の組合せとして、本明細書に記載されている。したがって、このような方法又は方法の要素を実行するための必要な指示を備えたプロセッサは、この方法又は方法の要素を実行するための手段を形成する。さらに、設備の実施形態の、本明細書に記載される要素は、本発明を実行する目的で要素によって行われる機能を実行するための手段の例である。
【0094】
本明細書に提供される詳細な説明及び図面において、多くの具体的な詳細が示されている。しかし、本発明の実施形態がこれらの具体的な詳細を伴わずに実施され得ることが理解される。他の場合において、この記載の理解を曖昧にしないようにするために、周知の方法、構造及び技術は、詳細に示されていない。
【0095】
【表1】
【0096】
本発明をここで、本発明のいくつかの実施形態を詳細に記載することによって記載する。本発明の他の実施形態が、本発明の真の趣旨又は技術的教示から逸脱することなく、当業者の知識に従って構成され得ることは明らかであり、本発明は、添付の特許請求の範囲の記載によってのみ限定される。
【0097】
一実施形態では、遺伝子型nagABE、manXYZを有するE.コリ株は、主な炭素及びエネルギー源として混合単糖原料(例えば、加水分解スクロース)を使用してN-アセチルグルコサミン(GlcNAc)の効果的な生産者として代謝的に操作される。したがって、アセチル-CoAからグルコサミン-6-リン酸にアセテートを転移させ、それによってN-アセチルグルコサミン-6-リン酸を生成することを可能にするグルコサミン-6-リン酸アセチルトランスフェラーゼをコードする遺伝子の異種発現が必要である。好ましい実施形態では、この生産株は、ホスホフルクトキナーゼ遺伝子pfkA及び/若しくはpfkB並びに/又はグルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子zwfの発現を低下及び/又は減少させることによってさらに遺伝子操作される。このさらなる遺伝子修飾により、株の代謝を妨げることを阻止するが、N-アセチルグルコサミン生産のための前駆体供給(フルクトース-6-リン酸)を増大させながら、主な炭素及びエネルギー源としての混合単糖原料(例えば加水分解スクロース)での操作された生産株の培養が可能となる。追加の実施形態では、N-アセチルグルコサミン-6-リン酸をN-アセチルグルコサミンに脱リン酸化することを可能にする、グルタミン-フルクトース-6-リン酸アミノトランスフェラーゼをコードする遺伝子(例えば、E.コリGlmS)及び/又はHAD様糖リン酸をコードする遺伝子(例えば、E.コリYihX、EコリYqaB)が、GlcNAcの合成を促進するために発現/過剰発現される。
【0098】
別の実施形態では、遺伝子型lacY、lacZ、fuc、wcaJを有するE.コリ株は、主な炭素及びエネルギー源として混合単糖原料(例えば、加水分解スクロース)並びにアクセプター基質としてラクトースを使用してL-フコースの効果的な生産者として代謝的に操作される。したがって、E.コリ遺伝子manA、manC、manB、gmd及びwcaGのうちの少なくとも1つの過剰発現並びにGDP-フコースからラクトースにフコースを転移させ、それによって2’-フコシルラクトースを生成することを可能にする異種α-1,2-フコシルトランスフェラーゼ、及び2’-フコシルラクトースから遊離L-フコースを放出することを可能にするα-1,2-フコシダーゼの発現が必要である。好ましい実施形態では、この生産株は、ホスホフルクトキナーゼ遺伝子pfkA及び/若しくはpfkB並びに/又はグルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子zwfの発現を低下及び/又は減少させることによってさらに操作される。このさらなる遺伝子修飾により、株の代謝を妨げることを阻止するが、L-フコース生産のための前駆体供給(フルクトース-6-リン酸)を増大させながら、主な炭素及びエネルギー源としての混合単糖原料(例えば、加水分解スクロース)での操作された生産株の培養が可能となる。
【0099】
別の実施形態では、遺伝子型nanKETA、nagABを有するE.コリ株は、主な炭素及びエネルギー源として混合単糖原料(例えば、加水分解スクロース)を使用してN-アセチルノイラミン酸(Neu5Ac)の効果的な生産者として代謝的に操作される。したがって、(i)グルコサミン-6-リン酸アセチルトランスフェラーゼ及びN-アセチルグルコサミン-2エピメラーゼ及びN-アセチルノイラミン酸シンテターゼ、又は(ii)UDP-N-アセチルグルコサミン2-エピメラーゼ及びN-アセチルノイラミン酸シンテターゼのいずれかをコードする遺伝子のうちの少なくとも1つの過剰発現が必要である。N-アセチルノイラミン酸合成はホスホエノールピルベート(PEP)依存性プロセスであるので、PEP消費をもたらす競合反応が好ましくは回避される。したがって、好ましい実施形態では、この生産株は、ホスホエノールピルベート:糖ホスホトランスフェラーゼ依存性機構を介する前記炭素及びエネルギー源の取り込みを低下及び/又は減少させることによって、例えば、グルコースPEPパーミアーゼ遺伝子ptsG及び/又はフルクトースPEPパーミアーゼ遺伝子fruA及び/又はマンノースPEPパーミアーゼ遺伝子manXYZの発現を低下及び/又は減少させることによってさらに操作される。操作された細胞への単糖の移入を可能にするホスホエノールピルベート:糖ホスホトランスフェラーゼ非依存性(非PEP-PTS)トランスポーター、並びにフルクトースをフルクトース-6-リン酸に活性化し、グルコースをグルコース-6-リン酸に活性化することをそれぞれ可能にする、フルクトースキナーゼ(例えば、E.コリWcscK遺伝子)及びグルコースキナーゼ(例えば、E.コリK-12glk遺伝子)をコードする少なくとも1つの遺伝子の発現/過剰発現と共に、このさらなる遺伝子修飾により、株の代謝を妨げることを阻止するが、N-アセチルノイラミン酸生産のための前駆体供給(フルクトース-6-リン酸、ホスホエノールピルベート)を増大させながら、主な炭素及びエネルギー源としての混合単糖原料(例えば、加水分解スクロース)での操作された生産株の培養が可能となる。
【0100】
別の実施形態では、遺伝子型nagABE、manXYZ、lacZを有するE.コリ株は、主な炭素及びエネルギー源として混合単糖原料(例えば、加水分解スクロース)並びにアクセプター基質としてGlcNAcを使用してN-アセチルラクトサミン(LacNAc)の効果的な生産者として代謝的に操作される。したがって、グルコサミン-6-リン酸アセチルトランスフェラーゼ、N-アセチル-グルコサミンを細胞に移入することを可能にするホスホエノールピルベート:糖ホスホトランスフェラーゼ非依存性トランスポーター、及びUDP-Galから遊離N-アセチルグルコサミンにガラクトースを転移させ、それによってN-アセチル-ラクトサミンを生成することを可能にするβ-1,4-ガラクトシルトランスフェラーゼをコードする遺伝子の発現/過剰発現が必要である。好ましい実施形態では、この生産株は、ホスホフルクトキナーゼ遺伝子pfkA及び/若しくはpfkB並びに/又はグルコース-6-リン酸イソメラーゼ遺伝子pgi及び/若しくはグルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子zwfの発現を低下及び/又は減少させることによってさらに遺伝子操作される。このさらなる遺伝子修飾により、株の代謝を妨げることを阻止するが、N-アセチルラクトサミン生産のための前駆体供給(グルコース-6-リン酸)を増大させながら、主な炭素及びエネルギー源としての混合単糖原料(例えば、加水分解スクロース)での操作された生産株の培養が可能となる。追加の実施形態では、E.コリ遺伝子pgm、galU及びgalEのうちの少なくとも1つが、UDP-Galの合成を促進するように過剰発現される。
【0101】
別の実施形態では、遺伝子型nagABを有するE.コリ株は、主な炭素及びエネルギー源として混合単糖原料(例えば、加水分解スクロース)を使用した全発酵によってラクト-N-ビオース(LNB)の効果的な生産者として代謝的に操作される。したがって、アセチル-CoAからグルコサミン-6-リン酸にアセテートを転移させ、それによってN-アセチルグルコサミン-6-リン酸を生成することを可能にするグルコサミン-6-リン酸アセチルトランスフェラーゼ、N-アセチルグルコサミン-6-リン酸を脱リン酸化し、それによってN-アセチルグルコサミンを生成することを可能にするHAD様糖リン酸、及びUDP-Galから遊離N-アセチルグルコサミンにガラクトースを転移させ、それによってラクト-N-ビオースを生成することを可能にするβ-1,3-ガラクトシルトランスフェラーゼをコードする遺伝子の発現/過剰発現が必要である。好ましい実施形態では、この生産株は、ホスホフルクトキナーゼ遺伝子pfkA及び/若しくはpfkB並びに/又はグルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子zwfの発現を低下及び/又は減少させることによってさらに遺伝子操作される。このさらなる遺伝子修飾により、株の代謝を妨げることを阻止するが、ラクト-N-ビオース生産のための前駆体供給(フルクトース-6-リン酸及びグルコース-6-リン酸)を増大させながら、主な炭素及びエネルギー源としての混合単糖原料(例えば、加水分解スクロース)での操作された生産株の培養が可能となる。追加の実施形態では、E.コリ遺伝子glmS、pgm、galU、galEのうちの少なくとも1つが、GlcNAc及び/又はUDP-Galの合成を促進するように過剰発現される。
【0102】
別の実施形態では、遺伝子型lacY、lacZ、nanKETA、nagABを有するE.コリ株は、主な炭素及びエネルギー源として混合単糖原料(例えば、加水分解スクロース)並びにアクセプター基質としてラクトースを使用して3’-シアリルラクトースの効果的な生産者として代謝的に操作される。したがって、記載されるN-アセチルノイラミン酸生産株は、異種CMP-N-アセチルノイラミン酸シンテターゼ、N-アセチルノイラミン酸シンターゼ及びCMP-Neu5AcからラクトースにN-アセチルノイラミン酸を転移させ、それによって3’-シアリルラクトースを生成することを可能にするα-2,3-シアリルトランスフェラーゼの発現によって遺伝子操作される。N-アセチルノイラミン酸の合成に関して、3’-SL生産はホスホエノールピルベート(PEP)依存性プロセスである。したがって、好ましい実施形態では、前記3’-SL生産株は、ホスホエノールピルベート:糖ホスホトランスフェラーゼ依存性機構を介する前記炭素及びエネルギー源の取り込みを低下及び/又は減少させることによって、例えば、グルコースPEPパーミアーゼ遺伝子ptsG及び/又はフルクトースPEPパーミアーゼ遺伝子fruA及び/又はマンノースPEPパーミアーゼ遺伝子manXYZの発現を低下及び/又は減少させることによってさらに操作される。操作された細胞への単糖の移入を可能にするホスホエノールピルベート:糖ホスホトランスフェラーゼ非依存性(非PEP-PTS)トランスポーター、並びにフルクトースをフルクトース-6-リン酸に活性化し、グルコースをグルコース-6-リン酸に活性化することをそれぞれ可能にする、フルクトースキナーゼ(例えば、E.コリWcscK遺伝子)及びグルコースキナーゼ(例えば、EコリK-12glk遺伝子)をコードする少なくとも1つの遺伝子の発現/過剰発現と共に、このさらなる遺伝子修飾により、株の代謝を妨げることを阻止するが、3’-シアリルラクトース生産のための前駆体供給(フルクトース-6-リン酸、ホスホエノールピルベート)を増大させながら、主な炭素及びエネルギー源としての混合単糖原料(例えば、加水分解スクロース)での操作された生産株の培養が可能となる。
【0103】
別の実施形態では、遺伝子型lacY、lacZ、fuc、wcaJを有するE.コリ株は、主な炭素及びエネルギー源として混合単糖原料(例えば加水分解スクロース)並びにアクセプター基質としてラクトースを使用して3-フコシルラクトースの効果的な生産者として代謝的に操作される。したがって、E.コリ遺伝子manA、manC、manB、gmd及びwcaGのうちの少なくとも1つの過剰発現並びにGDP-フコースからラクトースへフコースを転移させ、それによって3-フコシルラクトースを生成することを可能にする異種α-1,3-フコシルトランスフェラーゼの発現が必要である。好ましい実施形態では、この生産株は、ホスホフルクトキナーゼ遺伝子pfkA及び/若しくはpfkB並びに/又はグルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子zwfの発現を低下及び/又は減少させることによってさらに遺伝子操作される。このさらなる遺伝子修飾により、株の代謝を妨げることを阻止するが、3-フコシルラクトース生産のための前駆体供給(フルクトース-6-リン酸)を増大させながら、主な炭素及びエネルギー源としての混合単糖原料(例えば、加水分解スクロース)での操作された生産株の培養が可能となる。
【0104】
一実施形態では、遺伝子型lacY、lacZ、nagB、wcaJを有するE.コリ株は、主な炭素及びエネルギー源として混合単糖原料(例えば、加水分解スクロース)並びにアクセプター基質としてラクトースを使用してラクト-N-トリオースII(LNT-II)を効果的に生産するように代謝的に操作される。したがって、UDP-GlcNAcからラクトースにN-アセチルグルコサミンを転移させ、それによってラクト-N-トリオースIIを生成することを可能にする異種β-1,3-N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼの発現が必要である。好ましい実施形態では、この生産株は、ホスホフルクトキナーゼ遺伝子pfkA及び/若しくはpfkB並びに/又はグルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子zwfの発現を低下及び/又は減少させることによってさらに遺伝子操作される。このさらなる遺伝子修飾により、株の代謝を妨げることを阻止するが、ラクト-N-トリオースII生産のための前駆体供給(フルクトース-6-リン酸)を増大させながら、主な炭素及びエネルギー源としての混合単糖原料(例えば、加水分解スクロース)での操作された生産株の培養が可能となる。追加の実施形態では、E.コリ遺伝子glmS、glmU及びglmMのうちの少なくとも1つが、UDP-GlcNAc合成を促進するように過剰発現される。
【0105】
別の実施形態では、遺伝子型lacY、lacZ、nagB、wcaJを有するE.コリ株は、主な炭素及びエネルギー源として混合単糖原料(例えば、加水分解スクロース)並びにアクセプター基質としてラクトースを使用してラクト-N-テトラオース(LNT)の効果的な生産者として代謝的に操作される。したがって、UDP-GlcNAcからラクトースにN-アセチルグルコサミンを転移させることを可能にする異種β-1,3-N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ、及びUDP-ガラクトースからラクト-N-トリオースIIにガラクトースを転移させ、それによってラクト-N-テトラオースを生成することを可能にするβ-1,3-ガラクトシルトランスフェラーゼの発現が必要である。好ましい実施形態では、この生産株は、ホスホフルクトキナーゼ遺伝子pfkA及び/若しくはpfkB並びに/又はグルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子zwf並びに/又はグルコース-6-リン酸イソメラーゼ遺伝子pgiの発現を低下及び/又は減少させることによってさらに遺伝子操作される。このさらなる遺伝子修飾により、株の代謝を妨げることを阻止するが、ラクト-N-テトラオース生産のための前駆体供給(フルクトース-6-リン酸及びグルコース-6-リン酸)を増大させながら、主な炭素及びエネルギー源としての混合単糖原料(例えば、加水分解スクロース)での操作された生産株の培養が可能となる。追加の実施形態では、E.コリ遺伝子glmS、glmU、glmM、pgm、galU及びgalEのうちの少なくとも1つが、UDP-GlcNAc及び/又はUDP-Galの合成を促進するように過剰発現される。
【0106】
別の実施形態では、遺伝子型lacY、lacZ、nagB、wcaJを有するE.コリ株は、主な炭素及びエネルギー源として混合単糖原料(例えば、加水分解スクロース)を使用した全発酵によってラクト-N-ネオテトラオース(LNnT)を効果的に生産するように代謝的に操作される。したがって、LNnT生産株は、操作された細胞へのグルコースの移入を可能にするホスホエノールピルベート:糖ホスホトランスフェラーゼ非依存性(非PEP-PTS)トランスポーターをコードする少なくとも1つの遺伝子を発現しながら、ホスホエノールピルベート:糖ホスホトランスフェラーゼ依存性機構を介するグルコースの取り込みを低下及び/又は減少させることによって、例えば、グルコースPEPパーミアーゼ遺伝子ptsGの発現を低下及び/又は減少させることによって遺伝子操作される。さらに、グルコキナーゼ遺伝子glk及び/又はグルコースデヒドロゲナーゼ遺伝子gcdの発現は低下及び/又は消滅する。本質的に、UDP-ガラクトースからグルコースにガラクトースを転移させ、それによってラクトースを生成することを可能にするβ-1,4-ガラクトシルトランスフェラーゼ、及びUDP-GlcNAcからラクトースにN-アセチルグルコサミンを転移させ、それによってラクト-N-トリオースIIを生成することを可能にするβ-1,3-N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ、及びUDP-ガラクトースからラクト-N-トリオースIIにガラクトースを転移させ、それによってラクト-N-ネオテトラオースを生成することを可能にするβ-1,4-ガラクトシルトランスフェラーゼの異種発現が必要である。好ましい実施形態では、この生産株は、ホスホフルクトキナーゼ遺伝子pfkA及び/若しくはpfkB並びに/又はグルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子zwf並びに/又はグルコース-6-リン酸イソメラーゼ遺伝子pgiの発現を低下及び/又は減少させることによってさらに操作される。このさらなる遺伝子修飾により、株の代謝を妨げることを阻止するが、全発酵によるラクト-N-ネオテトラオース生産のための前駆体供給(グルコース及びフルクトース-6-リン酸及びグルコース-6-リン酸)を増大させながら、主な炭素及びエネルギー源としての混合単糖原料(例えば、加水分解スクロース)での操作された生産株の培養が可能となる。追加の実施形態では、E.コリ遺伝子glmS、glmU、glmM、pgm、galU及びgalEのうちの少なくとも1つが、UDP-GlcNAc及び/又はUDP-Galの合成を促進するように過剰発現される。
【0107】
別の実施形態では、遺伝子型lacY、lacZ、fuc、wcaJを有するE.コリ株は、主な炭素及びエネルギー源として混合単糖原料(例えば、加水分解スクロース)を使用した全発酵によって2’-フコシルラクトースを効果的に生産するように代謝的に操作される。したがって、グルコキナーゼ遺伝子glk及び/又はグルコースデヒドロゲナーゼ遺伝子gcdの発現並びにホスホエノールピルベート:グルコースホスホトランスフェラーゼ依存性機構の活性は低下及び/又は消滅する。さらに、ホスホエノールピルベート:糖ホスホトランスフェラーゼ非依存性(非PEP-PTS)トランスポーター遺伝子は前記E.コリ株において発現又は過剰発現される。さらに、E.コリ遺伝子manA、manC、manB、gmd、wcaG、pgm、galU及びgalEのうちの少なくとも1つ並びにUDP-ガラクトースからグルコースにガラクトースを転移させ、それによってラクトースを生成することを可能にする異種β-1,4-ガラクトシルトランスフェラーゼ、及びGDP-フコースからラクトースにフコースを転移させ、それによって2’-フコシルラクトースを生成することを可能にするα-1,2-フコシルトランスフェラーゼが発現/過剰発現される。好ましい実施形態では、この生産株は、ホスホフルクトキナーゼ遺伝子pfkA及び/若しくはpfkB並びに/又はグルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子zwf並びに/又はグルコース-6-リン酸イソメラーゼ遺伝子pgiの発現を低下及び/又は減少させることによってさらに操作される。このさらなる遺伝子修飾により、株の代謝を妨げることを阻止するが、全発酵によって2’-フコシルラクトース生産のための前駆体供給(グルコース及びフルクトース-6-リン酸及びグルコース-6-リン酸)を増大させながら、主な炭素及びエネルギー源としての混合単糖原料(例えば、加水分解スクロース)での操作された生産株の培養が可能となる。
【0108】
別の実施形態では、遺伝子型lacY、lacZ、fuc、wcaJ、manAを有するE.コリ株は、主な炭素及びエネルギー源として混合単糖原料(例えば、加水分解スクロース)並びにアクセプター基質としてラクトースを使用して2’,3-ジ-フコシルラクトースの効果的な生産者として代謝的に操作される。したがって、フルクトキナーゼ活性を示す遺伝子(例えば、E.コリK-12mak遺伝子)の発現及びホスホエノールピルベート:フルクトースホスホトランスフェラーゼ依存性機構の活性は低下及び/又は消滅する。この細胞は、操作された細胞へのフルクトースの移入を可能にするホスホエノールピルベート:フルクトースホスホトランスフェラーゼ非依存性(非PEP-PTS)トランスポーター、フルクトースからマンノースへの転換を可能にするマンノースイソメラーゼ(例えば、E.コリBL21yihS、アグロバクテリウム・ラジオバクター(Agrobacterium radiobacter)M-1 manI)、マンノースをマンノース-6-リン酸に活性化することを可能にするマンノキナーゼ(例えば、プレボテラ・ブリアンティー(Prevotella bryantii)B4 manK、アルスロバクター属種(Arthrobacter sp.)株KM manK)、並びにGDP-フコースからラクトース及び/又は2’-フコシルラクトース及び/又は3-フコシルラクトースにフコースを転移させ、それによって2’3-ジフコシル-ラクトースを生成することを可能にするα-1,2-及び/又はα-1,3-フコシル-トランスフェラーゼ活性を示す少なくとも1つの異種フコシルトランスフェラーゼをコードする少なくとも1つの遺伝子の発現/過剰発現によってさらに遺伝子操作される。これらのさらなる遺伝子修飾により、株の代謝を妨げることを阻止するが、2’3-ジフコシルラクトース生産のための前駆体供給(マンノース/マンノース-6-リン酸)を増大させながら、主な炭素及びエネルギー源としての混合単糖原料(例えば、加水分解スクロース)での操作された生産株の培養が可能となる。追加の実施形態では、E.コリ遺伝子manC、manB、gmd及びwcaGのうちの少なくとも1つの過剰発現が、GDP-Fucの合成を促進するように過剰発現される。
【0109】
マンノースイソメラーゼ(ManI)活性又はマンノキナーゼ(ManK)活性を示す適切なタンパク質についての非限定的な例は文献(Hiroseら、Biosci Biotechnol Biochem.2001 Mar;65(3):658~61.;Hiroseら、Biotechnol Lett.2003 Feb;25(4):349~52.;Patelら、Appl Environ Microbiol.2011 May;77(10):3343~50.;Huら、Int J Biol Macromol.2016 Aug;89:328~35.;Huangら、Appl Microbiol Biotechnol.2018 Mar;102(5):2051~2062.;Mukaiら、Appl Environ Microbiol.2003 Jul;69(7):3849~57.;Fields及びRussel、Microbiology.2001 Apr;147(Pt 4):1035~43.;Kroschewskiら、Mol Biochem Parasitol.2000 Jan 5;105(1):71~80.)に見出され得る。
【0110】
別の実施形態では、遺伝子型nagAB、fuc、wcaJを有するE.コリ株は、主な炭素及びエネルギー源として混合単糖原料(例えば、加水分解スクロース及び加水分解ラクトースの混合物)を使用した全発酵によってH抗原I型(HA-TI)の効果的な生産者として代謝的に操作される。したがって、生産株は、操作された細胞へのグルコース及び/又はガラクトースの移入並びにこれらの単糖からリン酸化形態への活性化をそれぞれ可能にする、非PEP-PTSトランスポーター並びに単糖キナーゼをコードする少なくとも1つの遺伝子を発現/過剰発現させながら、ホスホエノールピルベート:糖ホスホトランスフェラーゼ依存性機構を介してグルコースの取り込みを低下及び/又は減少させることによって遺伝子操作される。さらに、アセチル-CoAからグルコサミン-6-リン酸にアセテートを転移させ、それによってN-アセチルグルコサミン-6-リン酸を生成することを可能にするグルコサミン-6-リン酸アセチルトランスフェラーゼ、N-アセチルグルコサミン-6-リン酸を脱リン酸化し、それによってN-アセチルグルコサミンを生成することを可能にするHAD様糖リン酸、UDP-ガラクトースからN-アセチルグルコサミンにガラクトースを転移させ、それによってラクト-N-ビオースを生成することを可能にする異種β-1,3-ガラクトシルトランスフェラーゼ、及びGDP-フコースからラクト-N-ビオースにフコースを転移させ、それによってH抗原I型を生成することを可能にするα-1,2-フコシルトランスフェラーゼをコードする少なくとも1つの遺伝子が発現/過剰発現される。好ましい実施形態では、この生産株は、ホスホフルクトキナーゼ遺伝子pfkA及び/又はpfkBの発現を低下及び/又は減少させることによってさらに遺伝子操作される。これらの遺伝子修飾により、株の代謝を妨げることを阻止するが、H抗原I型生産のための前駆体供給(N-アセチルグルコサミン、フルクトース-6-リン酸及びガラクトース-1-リン酸)を増大させながら、主な炭素及びエネルギー源としての混合単糖原料(例えば、加水分解スクロース及び加水分解ラクトースの混合物)での操作された生産株の培養が可能となる。追加の実施形態では、E.コリ遺伝子glmS、galT、galE、manC、manB、gmd及びwcaGのうちの少なくとも1つが、GlcNAc及び/又はUDP-Gal及び/又はGDP-Fucの合成を促進するように過剰発現される。
【0111】
図1は、例示的な天然の微生物細胞を概略的に示す。前記微生物細胞は、グルコース及びフルクトースからなる混合原料を消費し、グルコース-6-リン酸及びフルクトース-6-リン酸のわずかな細胞内プールをもたらすことができる。微生物細胞は、細胞へのグルコース及びフルクトース(PTS)の取り込みのためのホスホエノールピルベート:糖ホスホトランスフェラーゼ系をコードするポリヌクレオチドを発現する。反応生成物は主に解糖系に入る。
【0112】
図2は、グルコース及びフルクトースからなる混合原料で培養された場合、グルコース-6-リン酸を高度に供給することができる本発明の例示的な微生物細胞を概略的に示す。グルコース-6-リン酸イソメラーゼPgi及び/又はグルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼZwfの発現は、pgi及び/又はzwf遺伝子の欠失、機能的不活性化又はサイレンシングによって低下又は減少しているため、細胞へのグルコースの取り込みによって生成されたあらゆるグルコース-6-リン酸は、UDP-Glc及び/又はUDP-Galを生成するために微生物細胞によって利用され得る。微生物細胞のバリアントにおいて(図3)、フルクトースについての細胞のホスホエノールピルベート:糖ホスホトランスフェラーゼ系が、例えばfruA遺伝子の欠失によって無効になっている。代わりに、フルクトースは、ホスホエノールピルベート:糖ホスホトランスフェラーゼ非依存性(非PEP-PTS)トランスポーターを介して細胞に入り、フルクトースキナーゼ(例えば、E.コリWCscK)によって活性化されてフルクトース-6-リン酸になっている。微生物細胞のバリアントにおいて(図4)、グルコースについての細胞のホスホエノールピルベート:糖ホスホトランスフェラーゼ系もまた、例えばptsG遺伝子の欠失によって無効になっている。代わりに、グルコースは、ホスホエノールピルベート:糖ホスホトランスフェラーゼ非依存性(非PEP-PTS)トランスポーターを介して細胞に入り、グルコースキナーゼ(例えば、E.コリK-12Glk)によって活性化されてグルコース-6-リン酸になっている。
【0113】
図5は、グルコース及びフルクトースからなる混合原料で培養された場合、グルコース-6-リン酸及びフルクトース-6-リン酸をより高度に供給することができる本発明の例示的な微生物細胞を概略的に示す。フルクトースについての細胞のホスホエノールピルベート:糖ホスホトランスフェラーゼ系は、例えばfruA遺伝子の欠失によって無効になっている。代わりに、フルクトースは、ホスホエノールピルベート:糖ホスホトランスフェラーゼ非依存性(非PEP-PTS)トランスポーターを介して細胞に入り、フルクトースキナーゼ(例えば、E.コリWCscK)によって活性化されてフルクトース-6-リン酸になっている。微生物細胞のバリアントにおいて(図6)、ホスホフルクトキナーゼPfk及び/又はグルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼZwfの発現は、pfkA及び/又はpfkB及び/又はzwf遺伝子の欠失、機能的不活性化又はサイレンシングによって低下又は減少し、グルコース-6-リン酸及びフルクトース-6-リン酸の増大したアベイラビリティを生じ、このグルコース-6-リン酸及びフルクトース-6-リン酸は、UDP-Gal及び/又はGDP-Fuc及び/又はUDP-GlcNAc及び/又はCMP-Neu5Acを生成するために微生物細胞によって利用され得る。微生物細胞のバリアントにおいて(図7)、細胞は、細胞へのグルコース及びフルクトース(PTS)の取り込みのためにホスホエノールピルベート:糖ホスホトランスフェラーゼ系をコードするポリヌクレオチドを発現する。ホスホフルクトキナーゼPfk及び/又はグルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼZwfの発現は、pfkA及び/又はpfkB及び/又はzwf遺伝子の欠失、機能的不活性化又はサイレンシングによって低下又は減少し、グルコース-6-リン酸及びフルクトース-6-リン酸の増大したアベイラビリティを生じる。
【0114】
図8は、グルコース及びフルクトースからなる混合原料で培養された場合、グルコース-6-リン酸及びフルクトース-6-リン酸をより高度に供給することができる本発明の例示的な微生物細胞を概略的に示す。細胞は、細胞へのグルコース及びフルクトース(PTS)の取り込みのためにホスホエノールピルベート:糖ホスホトランスフェラーゼ系をコードするポリヌクレオチドを発現する。ホスホフルクトキナーゼPfk及び/又はグルコース-6-リン酸イソメラーゼPgi及び/又はグルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼZwfの発現は、pfkA及び/又はpfkB及び/又はpgi及び/又はzwf遺伝子の欠失、機能的不活性化又はサイレンシングによって低下又は減少している。フルクトース-1,6-ビスリン酸(例えば、glpX、fbp)の過剰発現と共に、グルコース-6-リン酸及びフルクトース-6-リン酸の増大したアベイラビリティが生じ、UDP-Gal及び/又はGDP-Fuc及び/又はUDP-GlcNAc及び/又はCMP-Neu5Acを生成するために微生物細胞によって利用され得る。
【0115】
図9は、グルコース及びフルクトースからなる混合原料で培養された場合、グルコース-6-リン酸及びフルクトース-6-リン酸及びホスホエノールピルベートの高いアベイラビリティを生じることができる本発明の例示的な微生物細胞を概略的に示す。グルコース及びフルクトースについての細胞のホスホエノールピルベート:糖ホスホトランスフェラーゼ系は、それぞれ、例えばptsG及びfruA遺伝子の欠失によって無効になっている。代わりに、フルクトース及びグルコースは、ホスホエノールピルベート:糖ホスホトランスフェラーゼ非依存性(非PEP-PTS)トランスポーターを介して細胞に入り、フルクトースキナーゼ(例えば、E.コリWCscK)及びグルコースキナーゼ(例えば、E.コリK-12Glk)によって活性化されて、それぞれフルクトース-6-リン酸及びグルコース-6-リン酸になっている。さらに、ホスホエノールピルベート:糖ホスホトランスフェラーゼ系によるPEP消費は回避される。pfkA及び/又はpfkB及び/又はzwf遺伝子の欠失、機能的不活性化又はサイレンシングによって実現される、ホスホフルクトキナーゼPfk及び/又はグルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼZwfの低下及び/又は減少した発現と共に、グルコース-6-リン酸及びフルクトース-6-リン酸及びホスホエノールピルベートの増大したアベイラビリティが達成される。これは、UDP-Gal及び/又はGDP-Fuc及び/又はUDP-GlcNAc及び/又はCMP-Neu5Acを生成するために微生物細胞によって利用され得る。
【0116】
図10は、グルコース及びフルクトースからなる混合原料で培養された場合、遊離グルコース及びグルコース-6-リン酸及びフルクトース-6-リン酸の増大したアベイラビリティを生じることができる本発明の別の例示的な微生物細胞を概略的に示す。グルコース及びフルクトースについての細胞のホスホエノールピルベート:糖ホスホトランスフェラーゼ系は、それぞれ、例えばptsG及びfruA遺伝子の欠失によって無効になっている。代わりに、フルクトース及びグルコースは、ホスホエノールピルベート:糖ホスホトランスフェラーゼ非依存性(非PEP-PTS)トランスポーターを介して細胞に入る。glk遺伝子の欠失と共に、遊離グルコースモノマーが細胞内で利用可能になるように微生物細胞は遺伝子操作されている。代わりに、フルクトースはフルクトースキナーゼ(例えば、E.コリWCscK)によって活性化されてフルクトース-6-リン酸になっている。ホスホフルクトキナーゼPfk及び/又はグルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼZwfの発現は、pfkA及び/又はpfkB及び/又はzwf遺伝子の欠失、機能的不活性化又はサイレンシングによって低下又は減少している。全体として、これにより、遊離グルコース及びグルコース-6-リン酸及びフルクトース-6-リン酸の改善された細胞内供給が生じる。グルコースは種々のグリコシル化反応のための基質として利用可能になるのに対して、グルコース-6-リン酸及びフルクトース-6-リン酸は、UDP-Gal及び/又はGDP-Fuc及び/又はUDP-GlcNAc及び/又はCMP-Neu5Acを生成するために微生物細胞によって利用され得る。
【0117】
さらに、ホスホエノールピルベート:糖ホスホトランスフェラーゼ系によるPEP消費が回避される。
【0118】
図11は、グルコース及びフルクトースからなる混合原料で培養した場合、遊離マンノース及び/又はマンノース-6-リン酸の増大した細胞内アベイラビリティを達成することができる本発明の別の例示的な微生物細胞を概略的に示す。フルクトースについての細胞のホスホエノールピルベート:糖ホスホトランスフェラーゼ系は、例えばfruA遺伝子及び/又はmanXYZ遺伝子の欠失によって無効になっている。代わりに、フルクトースは糖パーミアーゼ及び/又はチャネルを介して細胞に入る。フルクトースキナーゼ活性(例えば、mak)及び/又はマンノース-6-リン酸イソメラーゼ活性(例えば、manA)を示す遺伝子の欠失並びに適切なマンノースイソメラーゼ(ManI)及びマンノキナーゼ(ManK)の発現/過剰発現と共に、微生物細胞は、マンノース-6-リン酸が細胞内で利用可能になるように遺伝子操作されている。これは、GDP-Man及び/又はGDP-Fucを生成するために微生物細胞によって利用され得る。
【0119】
図12は、グルコースとフルクトース及びガラクトースからなる混合原料で培養した場合、遊離フルクトース-6-リン酸及び/又はガラクトース-1-リン酸のより高い細胞内アベイラビリティを生じることができる本発明の別の例示的な微生物細胞を概略的に示す。グルコースについての細胞のホスホエノールピルベート:糖ホスホトランスフェラーゼ系は、例えばptsG遺伝子の欠失によって無効になっている。代わりに、グルコースはホスホエノールピルベート:糖ホスホトランスフェラーゼ非依存性(非PEP-PTS)トランスポーターを介して細胞に入る。ホスホフルクトキナーゼPfkの発現は、pfkA及び/又はpfkB遺伝子の欠失、機能的不活性化又はサイレンシングによって低下又は減少している。操作された細胞へのガラクトースの移入並びにガラクトースからガラクトース-1-リン酸への活性化をそれぞれ可能にする、適切な非PEP-PTSトランスポーター及び単糖キナーゼの発現/過剰発現と共に、微生物細胞は、フルクトース-6-リン酸及びガラクトース-1-リン酸が細胞内で利用可能になるように遺伝子操作されている。これらは、GlcNAc及び/又はGDP-Fuc及び/又はUDP-Gal及び/又はCMP-Neu5Acを生成するために微生物細胞によって利用され得る。
【0120】
第4の態様によれば、医薬組成物及び/又は栄養組成物における所望の炭水化物の使用であって、目的の炭水化物が、好ましくは、本発明による方法又は遺伝子操作された宿主細胞によって生産される、使用が提供される。
【実施例
【0121】
[実施例1] 混合単糖原料の調製
50%(w/v)スクロース溶液を、500gのスクロースを水中に溶解することによって調製した。溶液の最終容量は1リットルであった。30℃~35℃の温度で、96%(v/v)硫酸を使用することによってpHを調整した。その後、溶液を、121℃にて45分間、垂直オートクレーブ(Systec VX-65、Linden、ドイツ)において滅菌した。試料を加熱滅菌の前後に採取し、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)による分析まで凍結保存した。HPLCを、RID-10A屈折率検出器(Shimadzu、ドイツ)及びShimadzu HPLCシステムに接続したWaters XBridge Amide Column 3.5μm(250×4.6mm)(Eschborn、ドイツ)を使用して実行した。30%溶媒A(二重蒸留水中の50%(v/v)アセトニトリル、0.1%(v/v)NH4OH)及び70%溶媒B(二重蒸留水中の80%(v/v)アセトニトリル、0.1%(v/v)NH4OH)を用いて35℃及び流速1.4mL/分で定組成溶離を実行した。イオン交換マトリクス(Strata ABW、Phenomenex)上で固相抽出により試料を洗浄した。10マイクロリットルの試料(1:5の希釈)をカラムに適用した。最後に、検出された糖の相対量を決定した。表2に示すように、単糖グルコース及びフルクトースへのスクロース変換は、加熱処理前の溶液のpH値の低下と共に増大した。硫酸で酸性化を実行した場合、完全なスクロース切断をpH値≦3.50で観察することができた。
【0122】
【表2】
【0123】
[実施例2] 種々の遺伝子欠失株の原料依存性成長
E.コリBL21(DE3)株(野生型)並びに突然変異株E.コリpfkA(ΔpfkA)、E.コリpfkB(ΔpfkB)、E.コリpfkA pfkB(ΔpfkA ΔpfkA)の成長挙動を比較した。Datsenko及びWannerの方法(Proc.Natl.Acad.Sci.USA 97:6640~6645(2000))に従ってゲノム欠失を実施した。全ての株は、1mL/Lの微量元素溶液(54.4g/Lのクエン酸第二鉄アンモニウム、9.8g/LのMnCl・4HO、1.6g/LのCoCl・6HO、1g/LのCuCl・2HO、1.9g/LのHBO、9g/LのZnSO・7HO、1.1g/LのNaMoO・2HO、1.5g/LのNaSeO、1.5g/LのNiSO・6HO)を補充した、7g/LのNHPO、7g/LのKHPO、2g/LのKOH、0.3g/Lのクエン酸、2g/LのMgSO・7HO及び0.015g/LのCaCl・6HOを含有し、炭素源として2%(m/v)グルコース(A)又は1%(w/v)グルコース/1%(w/v)フルクトース(B)のいずれかを含有する20mLの無機塩培地を満たした100ml振盪フラスコ中に30℃で培養した。培養物をOD0.1まで接種し、成長発達をOD600測定によって26時間にわたってモニターした。図2に示すように、E.コリpfkA pfkBは、グルコースを唯一の炭素及びエネルギー源として提供した場合、ほとんど成長を示さなかったが、その成長は、混合単糖原料が利用可能であった場合の野生型株及び単一欠失変異体と区別できなかった。
【0124】
[実施例3] 操作されたE.コリ株による2’-フコシルラクトースの生産
遺伝子型lacY、lacZ、fuc、wcaJ、pfkAを示すE.コリBL21(DE3)株を、GDP-フコース(ManB、ManC、Gmd、WcaG)、E.コリ:O126由来の2’-フコシルトランスフェラーゼ遺伝子wbgL、エルシニア・ベルコビエリ(Yersinia bercovieri)ATCC 43970由来の糖流出トランスポーターyberc0001_9420、及びスクロースパーミアーゼ、フルクトキナーゼ、スクロースヒドロラーゼについての遺伝子を含むE.コリWのcsc遺伝子クラスター(受託番号CP002185.1)並びに転写リプレッサー(それぞれ、遺伝子cscB、cscK、cscA及びcscR)のデノボ合成のための酵素を過剰発現することによってさらに遺伝子操作し、株が唯一の炭素源としてスクロースで成長することを可能にした。Datsenko及びWannerの方法(Proc.Natl.Acad.Sci.USA 97:6640~6645(2000))に従ってゲノム欠失を実施した。異種遺伝子のゲノム組み込みは転位によって実施した。EZ-Tn5TMトランスポザーゼ(Epicentre、USA)を使用して線状DNA断片を組み込んだ又はマリナートランスポザーゼHimar1の高活性なC9突然変異体(Proc.Natl.Acad.Sci.1999、USA 96:11428~11433)を転位のために利用した。遺伝子をE.コリでの発現のためにコドン最適化し、GenScriptの協力によって合成して調製した。得られた株を、1mL/Lの微量元素溶液(54.4g/Lのクエン酸第二鉄アンモニウム、9.8g/LのMnCl×4HO、1.6g/LのCoCl×6HO、1g/LのCuCl×2HO、1.9g/LのHBO、9g/LのZnSO×7HO、1.1g/LのNaMoO 2HO、1.5g/LのNaSeO、1.5g/LのNiSO×6HO)と共に3g/LのKHPO、12g/LのKHPO、5g/Lの(NHSO、0.3g/Lのクエン酸、2g/LのMgSO×7HO、0.1g/LのNaCl及び0.015g/LのCaCl×6HOを含有し、炭素源として2%(v/v)グリセロール、2%(m/v)滅菌濾過スクロース又は2%スクロース加水分解物を含有する、20mLの無機塩培地を満たした100mL振盪フラスコ中に30℃で培養した。さらに、15mMラクトースを加え、2’-フコシルラクトース生産のためのアクセプター基質として得た。培養物をOD0.1まで接種し、培養を26時間後に中止した。培養ブロス中の2’-FLを定量するために、屈折率検出器(RID-10A)(Shimadzu、ドイツ)及びHPLCシステム(Shimadzu、ドイツ)に接続したWaters XBridge Amide Column3.5μm(250×4.6mm)(Eschborn、ドイツ)を使用してHPLC分析を実施した。溶離を、溶離液としてddHO中の30%A:50%(v/v)ACN、0.1%(v/v)NHOH及びddHO中の70%B:80%(v/v)ACN、0.1%(v/v)NHOH(v/v)を用いて、35℃及び1.4ml/分の流速で、均一濃度で実施した。培養上清を滅菌濾過し(0.22μm孔径)、イオン交換マトリクス(Strata ABW、Phenomenex)上での固相抽出によって洗浄した。10μlの試料をカラムに適用し、2’-フコシルラクトース濃度を標準曲線に従って計算した。グリセロールでの成長の間の操作した株の生産性を100%に設定した。表3に示すように、スクロース加水分解物を炭素及びエネルギー源として提供した場合、2’-FL生産が最も高かった。
【0125】
【表3】
【0126】
[実施例4] 混合単糖原料での成長の間の操作されたE.コリ株による2’-フコシルラクトースの全発酵
遺伝子型pfkA、lacZ、fuc、wcaJ、glk、gcd、ptsGを示すE.コリBL21(DE3)株を、GDP-フコース(ManB、ManC、Gmd、WcaG)、E.コリ:O126由来の2’-フコシルトランスフェラーゼ遺伝子wbgL、エルシニア・ベルコビエリATCC 43970由来の糖流出トランスポーター遺伝子yberc0001_9420、ザイモモナス・モビリス由来のグルコース促進遺伝子glf、パスツレラ・ムルトシダ(Pasteurella multocida)(GenBank:AEC04686)由来のβ-1,4-ガラクトシルトランスフェラーゼ遺伝子galTpm1141並びにUDP-グルコース4-エピメラーゼ及びホスホグルコムターゼをそれぞれコードするE.コリ遺伝子galE及びpgmのデノボ合成のための酵素を過剰発現することによってさらに遺伝子操作した。Datsenko及びWannerの方法(Proc.Natl.Acad.Sci.USA 97:6640~6645(2000))に従ってゲノム欠失を実施した。異種遺伝子のゲノム組み込みは転位によって実施した。EZ-Tn5TMトランスポザーゼ(Epicentre、USA)を使用して線状DNA断片を組み込んだ又はマリナートランスポザーゼHimar1の高活性なC9突然変異体(Proc.Natl.Acad.Sci.1999、USA 96:11428~11433)を転位のために利用した。遺伝子をE.コリでの発現のためにコドン最適化し、GenScriptの協力によって合成して調製した。
【0127】
得られたE.コリ株を、1mL/Lの微量元素溶液(54.4g/Lのクエン酸第二鉄アンモニウム、9.8g/LのMnCl×4・HO、1.6g/LのCoCl×6・HO、1g/LのCuCl×2・HO、1.9g/LのHBO、9g/LのZnSO×7・HO、1.1g/LのNaMoO×2・HO、1.5g/LのNaSeO、1.5g/LのNiSO×6・HO)を補充した、7g/LのNHPO、7g/LのKHPO、2g/LのKOH、0.3g/Lのクエン酸、2g/LのMgSO×7・HO及び0.015g/LのCaCl×6・HOを含有し、炭素源として2%(m/v)加水分解スクロースを含有する1000mLの無機塩培地から開始して3L発酵槽(New Brunswick、Edison、USA)中で30℃にて培養した。同じ培地中で成長させたプレ培養物からの2.5%(v/v)接種材料の添加から培養を開始した。バッチ相の終わりを、溶存酸素レベルの上昇によって特徴付けた。2g/LのMgSO×7・HO、0.015g/LのCaCl×6・HO及び1mL/Lの微量元素溶液を補充した、完全に加水分解したスクロースからなる炭素供給を、バッチ相を離れた直後に適用した。開始容量を参照して、12.0~15.0mL/L/時の供給速度を適用した。通気を3L/分で維持した。溶存酸素を、撹拌速度を制御することによって20~30%の飽和で維持した。pHを、25%アンモニア溶液を添加することによって6.7で維持した。培養を86時間継続し、培養上清中に十分な量の2’-FLを得た。
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【配列表】
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