(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-20
(45)【発行日】2025-01-06
(54)【発明の名称】粒子ベースの放射線治療計画作成のための方法、コンピュータプログラム製品、及びコンピュータシステム
(51)【国際特許分類】
A61N 5/10 20060101AFI20241223BHJP
【FI】
A61N5/10 P
(21)【出願番号】P 2021571984
(86)(22)【出願日】2020-06-02
(86)【国際出願番号】 EP2020065169
(87)【国際公開番号】W WO2020249418
(87)【国際公開日】2020-12-17
【審査請求日】2023-04-26
(32)【優先日】2019-06-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】522454806
【氏名又は名称】レイサーチ ラボラトリーズ エービー
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】アンダーソン,ブジョーン
(72)【発明者】
【氏名】バッティネルリ,セシリア
(72)【発明者】
【氏名】ボクランツ,ラスムス
【審査官】木村 立人
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0217135(US,A1)
【文献】特表2019-507658(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
いくつかの異なる方向から荷電粒子の形態の放射線を送達するように構成された装置を使用して少なくとも1つの粒子ベースのアークを患者に送達する計画を作成する放射線治療計画作成装置の作動方法であって、
a.前記放射線治療計画作成装置が、それぞれ特定のビーム角での特定のエネルギーレベルを含む候補エネルギー層の初期セットを決定するステップ(S11、S21)と、
b.前記放射線治療計画作成装置が、前記初期セットで線量計
算を行うステップと、
c.前記放射線治療計画作成装置が、前記
ステップbの結果に基づいて、拡張候補層セットを生成するべく、以前にどのエネルギー層でも使用されていなかったエネルギーレベルを含む少なくとも1つの追加エネルギー層を決定するステップ(S13、S23)と、
d.前記放射線治療計画作成装置が、拡張候補エネルギー層セットを生成するべく、前記少なくとも1つの追加エネルギー層を前記初期セットに追加するステップ(S14、S24)と、
e.前記放射線治療計画作成装置が、前記拡張候補層セットに基づいて放射線治療計画を最適化するステップ(S16、S26)であって、前記最適化は適切な線量分布をもたらすように設計された最適化問題の定式化に基づいて行われる、ステップと、
を含む作動方法。
【請求項2】
前記少なくとも1つの追加エネルギー層の決定は
、ブラッグピーク密度が低い領域を特定する線量計算の結果に基づいており、前記追加エネルギー層は、前記領域にブラッグピークを生じるように決定される、請求項1に記載の作動方法。
【請求項3】
前記少なくとも1つの追加エネルギー層の決定は、結果として得られる治療計画に基づいている、請求項1に記載の作動方法。
【請求項4】
前記最適化(S22、S26)は、計画がビーム角のセット及びエネルギー層のセットからのそれぞれビーム角のサブセット及び/又はエネルギー層のサブセットのみを用いるような様態で行われる、請求項1に記載の作動方法。
【請求項5】
エネルギー層の潜在的セットが提供され、前記最適化は、前記潜在的セット全体に基づく第1の最適化手順と、スポットウェイト及び/又は勾配に基づいて前記潜在的セットからエネルギー層の一部を破棄して削減潜在的セットを作成し、前記削減潜在的セットに基づいて第2の最適化手順を行う後続のステップ(S26)を含む、請求項4に記載の作動方法。
【請求項6】
エネルギー層の潜在的セットが提供され、前記最適化は、前記潜在的セットの第1のサブセットに基づく第1の最適化手順と、拡張サブセットを作成するための最適化目標に関する勾配又はスポットウェイトの計算に基づいて前記第1のサブセットに含まれていない前記潜在的セットからのエネルギー層の一部を前記第1のサブセットに追加し、前記拡張サブセットに基づいて第2の最適化手順を行う後続のステップを含む、請求項4に記載の作動方法。
【請求項7】
前記最適化は、エネルギー層の数を制限するように設計される、請求項4に記載の作動方法。
【請求項8】
前記エネルギー層の制限は、最適化に用いられる目的関数における制約又は項として実装されるペナルティによって達成される、請求項7に記載の作動方法。
【請求項9】
前記エネルギー層の制限は、エネルギー層の数又はエネルギー層の変更の数で表されるペナルティによって達成される、請求項8に記載の作動方法。
【請求項10】
ストレージ手段を備えるキャリア上に格納され、前記放射線治療計画作成装置のプロセッサで動作するときに前記装置に請求項1~請求項9のいずれか一項に記載の作動方法を実行させるコンピュータ可読コード手段を備える、前記放射線治療計画作成装置を制御するためのコンピュータプログラム製品。
【請求項11】
プロセッサ(23)と、前記放射線治療計画作成装置を制御するべく前記プロセッサで動作するように構成された請求項10に記載のコンピュータプログラム製品を保持するプログラムメモリ(26)とを備える、前記放射線治療計画作成装置(10)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子ベースの放射線治療計画作成及び送達のためのシステム及び方法、特にアーク治療計画作成に関する。
【背景技術】
【0002】
粒子ベースの放射線治療では、患者に陽子などの荷電粒子が照射される。粒子は、標的全体をカバーするように、それらのエネルギーのほとんどを患者内の特定の深さに蓄積するように制御される。それと同時に、標的への経路に沿って一部のエネルギーが蓄積される。各粒子は、そのエネルギーのほとんどを、ブラッグピークとして知られているその経路の停止点に向けて蓄積する。患者内のブラッグピークの深さは、粒子の運動エネルギーを調整することで制御することができる。ブラッグピークの横方向の位置は、電磁石を用いて集束ビームを偏向させることで制御することができる。これにより、患者内の適切に制御された位置に、高度に局在化した線量を送達することができる。ビームの運動エネルギーと横方向の偏向との特定の組み合わせから送達される線量は、スポットと呼ばれる。スポットに送達される粒子の数は、一般に、スポットウェイトと呼ばれる。三次元空間内の多くの異なる位置にスポットを提供することにより、標的体積を所望の線量分布で十分にカバーすることができる。この手技は、アクティブスキャニングイオンビーム療法と呼ばれ、ペンシルビームスキャニングとしても知られている。
【0003】
スポットの運動エネルギーは、必ずしもそうとは限らないが多くの場合、いくつかの個別のエネルギーで分布する。運動エネルギーは同じであるが横方向の偏向が異なるスポットのグループは、しばしばエネルギー層と呼ばれる。患者内の所望の体積をカバーするために、特定のエネルギー層の粒子がそれらのエネルギーを患者内の特定の深さに蓄積するように、異なるエネルギー層が定義される。エネルギー層は、治療する体積全体にブラッグピークが分布するように選択される。
【0004】
すべてのエネルギー層のスポットウェイトは、治療計画作成システムで最適化を通じて決定され、スポットウェイトは、線量レベル又は他の関連する量に関係した所望の目的又は制約を達成するために反復的に変化させられる。スポットウェイトをビームにわたって自由に変化させることが可能なケースは、強度変調陽子線治療(IMPT)と呼ばれる。
【0005】
陽子アーク療法は、様々な角度、例えば10以上、50以上、又は100以上の角度からの、それぞれいくつかのエネルギー層、例えば最高20のエネルギー層を有する、一連の多数のビームの照射に関係する。各エネルギー層及び各角度の調整には時間がかかる。アークは、複数の個別のビームとして又は連続的に移動するアークを通じて送達することができる。後者のケースでは、光子アーク療法から公知のように、ビームは制御点として役立つ。以下、ビーム、ビーム方向、又はビーム角という用語は、アークが連続する場合に、制御点という用語で等価に置き換えることができる。本明細書でのエネルギー層という用語は、特定のビームの特定のエネルギーレベルを指す。2つのビームで同じエネルギーレベルが用いられる場合、これは2つの別個のエネルギー層をなすと考えられる。
【0006】
アーク全体でのビーム角の選択を含むエネルギー層の選択は、高品質の計画を達成するのに重要である。エネルギー層の数が多いと、多くの場合、より高い計画品質が可能になるが、患者への送達時間も増加し、これにより、フラクション内での患者の移動、治療中の患者の不快感のリスクだけでなく、臨床効率と経済的な考慮事項の観点から、結果として得られる計画のコストも増加する。患者の効果的な治療を保証する高品質の計画を依然として維持しながら、送達時間を短縮する要望は常にある。したがって、治療計画は、限られたエネルギー層のセットで高品質の計画を可能にするエネルギー層を選択しようとするものであるべきである。
【0007】
米国特許出願公開第2019/0091488号は、各反復において、制御点の再サンプリング、エネルギー層の再分配、エネルギー層のフィルタリング、及びエネルギー層の再サンプリングを含む、陽子アーク療法のための反復法を提案している。各制御点はビーム角に対応する。それぞれいくつかのエネルギー層を有する少数の制御点が定義され、計画が最適化される。最適化後に、1つの制御点がランダムに選択され、分割され、例えばオリジナルの制御点の両側に5度の位置に存在する一対の隣接するサブ制御点に置き換えられる。オリジナルの制御点のエネルギー層は、再び計画を最適化する前に、両方のサブ制御点にコピーされるか、又はサブ制御点間で分割される。サブ制御点はオリジナルの制御点から小さな角度で存在するため、同じエネルギーレベルが用いられるべきであると想定される。これは何度も繰り返され、ゆえに、サブ制御点も分割され、同じエネルギー層のすべて又はサブセットを有する2つの隣接する制御点に置き換えられる。その後、低いウェイトを有するスポット及び/又はエネルギー層は、従来のスポット又はエネルギー層フィルタリング法によって除外される。
【0008】
同時係属の欧州特許出願第18165472.4号は、エネルギー層のセットから始まる、粒子ベースのアーク治療のための治療計画作成方法を開示しており、計画に含まれるエネルギー層の数は、エネルギー層の数を制限するように設計されたペナルティを最適化問題に含めることによって、最適化ステップの一部として減らすことができる。これにより、治療計画の最適化と同じ動作で、エネルギー層の数及びそれらの位置の最適化が可能となる。この方法は、既にセットにあるエネルギー層を選択するだけであり、エネルギー層の追加を予見するものではない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、必要な計算労力を最小にしながら高品質の治療計画を提供する、アーク放射線治療計画作成の基礎となるエネルギー層のセットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的は、本発明によれば、いくつかの異なる方向から荷電粒子の形態の放射線を送達するように構成された装置を使用して少なくとも1つの粒子ベースのアークを患者に送達する計画を作成するための放射線治療計画作成方法であって、
a.それぞれ特定のビーム角での特定のエネルギーレベルを含む候補エネルギー層の初期セットを決定するステップと、
b.初期セットで計算を行うステップと、
c.前記計算の結果に基づいて、拡張候補層セットを生成するべく、以前にどのエネルギー層でも使用されていなかったエネルギーレベルを含む少なくとも1つの追加エネルギー層を決定するステップと、
d.拡張候補エネルギー層セットを生成するべく、少なくとも1つの追加エネルギー層を初期セットに追加するステップと、
e.拡張候補層セットに基づいて放射線治療計画を最適化するステップと、
を含む方法によって達成される。
【0011】
したがって、本発明によれば、エネルギー層の候補セットは、結果として得られる計画に大きく寄与するエネルギー層を追加することによって拡張され得る。追加するエネルギー層は、計画の最適化又は線量計算の結果に基づいて決定される。例えば、エネルギー層は、別のエネルギー層が有用であると思われる、多くのエネルギーが蓄積される領域に追加することができる。代替的に又は加えて、エネルギー層は、カバレッジを改善するべく、カバレッジが不足している領域にスポットを生成するために追加することができる。重要なことに、以前にどのエネルギー層でも使用されていなかったエネルギーレベルが使用され得るため、追加されるエネルギー層のうちの1つ以上は、以前にどのエネルギー層でも使用されていなかったエネルギーレベルを有することになる。以前に使用されていなかったエネルギーレベルを有するエネルギー層は、既存のビーム角に又は新たに追加されるビーム角で追加され得る。
【0012】
一実施形態では、計算は線量計算を含み、少なくとも1つの追加エネルギー層の決定は、例えばブラッグピーク密度が低い領域を特定する線量計算の結果に基づいており、追加エネルギー層は、前記領域にブラッグピークを生じるように決定される。これは、限られた計算作業を伴い、特に、最初に最適化を実行することなく新しいエネルギー層の追加を可能にする。
【0013】
好ましい実施形態において、計算は、最適化問題に基づく治療計画の最適化を含み、少なくとも1つの追加エネルギー層の決定は、結果として得られる治療計画に基づいている。最適化はより多くの計算能力を必要とするが、可能な限り最良の様態で新しいエネルギー層を決定するためのより良好な基礎も生み出す。
【0014】
好ましい実施形態において、エネルギー層を拡張する方法は、エネルギー層を破棄するための方法ステップと組み合わされる。1つのこのような方法は、計画がビーム角のセット及びエネルギー層のセットからのそれぞれビーム角及びエネルギー層のサブセットのみを用いるような様態で、適切な線量分布をもたらすように設計された最適化問題の定式化を用いて計画を最適化することを含む。これは、貪欲法又はリバース貪欲法を用いて行うことができ、どちらもエネルギー層の候補セットから始まる。リバース貪欲法では、フル候補セットが最初から含まれており、層は、それらのスポットウェイト及び/又はそれらの勾配に基づくスコアに従って破棄される。最初の最適化後に、破棄される層が決定される。例えば、最低スコアを有するn個の層が破棄され、nは整数であり、例えば候補セットの10%である。代替的に、閾値を下回るスコアを有するすべての層が破棄され得る。次いで、最適化が繰り返され、スポットウェイトの合計が最小のm個の層が破棄され、mはtに等しいか又はnとは異なる整数である。これは、特定の数のエネルギー層が残るまで再び繰り返され得る。最初に貪欲法を使用してサブセットを生成し、次いで、リバース貪欲法を使用してサブセットを洗練することによる、貪欲手法とリバース貪欲手法との組み合わせが用いられ得る。
【0015】
貪欲法では、最初の最適化は、候補セットのサブセットに基づいている。勾配ベースのポイントに基づくスコアが決定される。スコアに基づいて、サブセットに含まれていない候補セットの層がサブセットに追加され、新しい最適化が行われ得る。例えば、固定数の層を追加することができ、又は特定の閾値を上回るスコアを有するすべての層を追加することができる。これはエネルギー層が特定の数に達するまで繰り返すことができる。貪欲法とリバース貪欲法との両方において、最適化は、例えば、所定の数のエネルギー層又は候補セットの特定のフラクションが残るまで、或いはすべての残りのエネルギー層が閾値を上回るスポットウェイト合計を有するまで繰り返すことができる。リバース貪欲法でのエネルギー層を破棄するステップと、貪欲法でのエネルギー層を含めるステップは、アーク全体に、又はそれぞれ1つ以上のビームを含むアークの1つ以上のサブセットに作用するように定義される。
【0016】
好ましい実施形態において、最適化には、エネルギー層の数を制限するように設計されたペナルティが課される。これにより、最良のエネルギー層、すなわち、線量に最も効果的に寄与するエネルギー層が確実に保持され、低線量をもたらすエネルギー層が確実に破棄される。
【0017】
ペナルティは、最適化に用いられる目的関数の1つ以上の制約又は項、或いはこの2つの組み合わせとして定義され得る。
【0018】
ペナルティは、エネルギー層の数で表すことができる。異なるエネルギーへの変更には時間がかかるため、使用するエネルギー層の数を最小にすることで計画の送達時間が短縮される。代替的に、ペナルティは、隣接する角度間のエネルギー層の変更の数で表すことができる。これは、例えば、ビーム角を変更するときにエネルギー層を保持することを可能にし、したがって、時間を節約するであろう。ペナルティは、エネルギー層の数とエネルギー層の変更の数との両方で表すことも可能である。
【0019】
ペナルティは、アーク全体に、又はそれぞれ1つ以上のビームを含むアークの1つ以上のサブセットに作用するように定義され得る。
【0020】
本発明はまた、好ましくは一時的でないストレージ手段などのキャリア上に格納され、放射線治療計画作成装置のプロセッサで動作するときに装置に前述の方法を実行させるコンピュータ可読コード手段を備える、放射線治療計画作成装置を制御するためのコンピュータプログラム製品に関する。
【0021】
本発明はまた、プロセッサと、放射線治療計画作成装置を制御するべくプロセッサで動作するように構成された上記に係るコンピュータプログラム製品を保持するプログラムメモリとを備える、放射線治療計画作成装置に関する。
図面の簡単な説明
【0022】
本発明を例として添付図を参照して以下により詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明に係る方法の第1の実施形態の流れ図である。
【
図2】本発明に係る方法の第2の実施形態の流れ図である。
【
図3】本発明が実装され得るシステムを概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明に係る方法は、特定の基準に従って拡張することができるエネルギー層の候補セットに基づいている。
【0025】
最も単純な形態では、方法は
図1に示すとおりである。最初のステップS11において、エネルギー層の初期セットが得られる。前述のように、エネルギー層は、特定のビーム角に関連したエネルギーレベルである。この実施形態では、初期セットは、好ましくは、最初の線量計算又は最適化を妥当な時間枠内で行うことができるのに十分なだけ小さいものであるべきである。セットは、例えば、1つのビーム角、又はそれぞれいくつかのエネルギー層を有するいくつかのビーム角からなり得る。次に、ステップS12において、初期セットに基づいて、計算、例えば、治療計画の最適化が行われる。ステップS13において、計算の結果が、新しいビーム角又は初期セットに既に含まれているビーム角での少なくとも1つの追加エネルギー層を決定するのに用いられる。次いで、ステップS14において、ステップS13からの1つ又は複数のエネルギー層を追加することによってエネルギー層の初期セットが拡張され、拡張セットが生成される。エネルギー層は、既存のビーム角で追加することができ、及び/又は1つ以上の新しいビーム角を選択することができる。これは、拡張セットを再び拡張される初期セットとして扱い、ステップS11に戻ることによって、1回又は複数回繰り返され得る。
【0026】
一実施形態において、ステップS12での計算は、治療計画の最適化を含む。その場合、結果として得られる治療計画からの情報は、ステップS13で追加エネルギー層を決定するのに用いることができる。他の実施形態では、ステップS12は、代わりに、初期セットの各エネルギー層の線量計算などのより単純な計算を含む。後者のケースのステップS13では、各エネルギー層について計算された結果の線量に基づいて1つ又は複数の追加エネルギー層が決定される。これは、治療計画の最適化よりも少ない情報を提供するが、追加エネルギー層を決定するのに用いることができるブラッグピーク位置などの情報を提供することになる。例えば、ブラッグピークの密度が低い領域を特定することができ、これらの領域に新しいブラッグピークが生じて標的でのブラッグピーク密度が確実に適切となるように追加エネルギー層を決定することができる。
【0027】
ステップS15は、エネルギー層のセットの別の拡張を行うべきであるかどうかを判定するための判定ステップである。Yesの場合、ステップS12に戻り、拡張セットでステップS12の計算を行う。Noの場合、ステップS16で、アーク治療計画を得るべく拡張セットに基づいて最適化を行う。ステップS17は、低いスポットウェイトを有するスポットをフィルタリングする随意的なステップである。スポットのフィルタリングは、治療効率を高めるだけでなく、マシンは送達できるスポットウェイトの小ささの物理的限界を有しているために行われる。通常、スポットもソートされる、すなわち、要する時間を最小にするべく、スポットが照射される順序が決定される。スポットのフィルタリングとスポットのソーティングは既知の手順であり、手順の任意の適切な時点で行われ得る。
【0028】
すべての実施形態において、ステップS13及び以下のステップS23での選択は、計画において有用であり得るエネルギー層、すなわち、総線量に大きく寄与するエネルギー層を追加するような様態で行われるべきである。実際には、これを達成するためにいくつかの異なる基準を適用することができる。
【0029】
例えば、新しいエネルギー層をいくつかのエネルギー層の近くに追加し、結果として得られる治療計画において高いスポットウェイトを生じさせることができる。代替的に又は加えて、ブラッグピークの密度が低い領域に新しいブラッグピークを生じる新しいエネルギー層が追加されるように、ブラッグピーク位置の幾何学的形状を考慮することができる。さらなる基準は、1つのビーム角又は隣接するビーム角のグループからの大量の放射線が存在する場合に、それらのビーム角の近くに、好ましくはそれぞれいくつかのエネルギー層を有する新しいビーム角の形態で、新しいエネルギーレベルを追加するというものであり得る。ビーム内のエネルギーレベル密度を高めるために、同じビームにおいて高いウェイトを有するエネルギー層の近くに、新しいエネルギー層を追加することができる。ビーム角及びエネルギー層は、元は使用されていなかった新しいエネルギーレベルを使用できることで新しいエネルギー層を適切に正確に追加することができるという意味で、既存のエネルギー層のビーム角及びエネルギーレベルに関係なく、総線量に最も有用な寄与をするものに基づいて選択される。これは、既存のビーム角の場合、このビーム又は他のビームの既存のエネルギー層に関係なく、有用であるとみなされる場所に、1つ以上のエネルギー層を追加できることを意味する。新しいビーム角の場合、エネルギー層は、既存のビーム角のエネルギー層に関係なく、この新しいビーム角に最適なエネルギー層として選択される。
【0030】
所望の回数の繰返し後に、結果として得られる拡張セットは、治療計画作成のための最適化ステップで用いられる。
【0031】
エネルギー層の初期セットに追加するために選択できる可能なビーム角を含む可能なエネルギー層の事前定義された候補セットが存在してよく、又は、新しいビーム角及び関連するエネルギー層を自由に定義することができてもよい。
【0032】
好ましくは、方法はまた、計画にとって重要ではないエネルギー層が確実に破棄されるようにエネルギー層の数を減らす方法を含む。これは通常、全線量にほとんど寄与しないエネルギー層を削除することを意味し、これにより、計画品質への影響が最小の状態で計算労力を低減することができる。これは、エネルギー層のフィルタリングなどの単純な方法によって行うこともでき、その場合、層のスポットウェイトの合計が小さいエネルギー層がフィルタリングにより除去される。好ましい実施形態によれば、これは、エネルギー層の数を減らすように設計されたペナルティを含む最適化問題によって達成される。
【0033】
図2は、エネルギー層のセットの一連の拡張及び削減が反復的に行われる、このような実施形態を例示している。
【0034】
最初のステップS21において、エネルギー層の潜在的セットが定義される。ペンシルビームスキャニング治療法の場合、各層のスポットのセットも定義される。これは、アーク軌道を取得し、アークのいくつかのビーム角及び各ビーム角に関連したエネルギー層を指定することを含み得る。
【0035】
次のステップS22において、最適化が行われ、この場合、ステップS21で定義されたエネルギー層の潜在的セットに基づいて治療計画が最適化される。最適化問題では、エネルギー層の数、及び/又はエネルギー層の変更の数、及び/又はビームの数に対して、1つ以上のペナルティが設定される。以下では、単数形の「ペナルティ」が用いられるが、いくつかのペナルティが一緒に適用され得ることを理解されたい。このステップのさらなる詳細は以下で提供する。この最適化によりエネルギー層の削減セットが得られ、これは、
図1の方法でエネルギー層の初期セットとして用いるか、又は以下で説明するように拡張セットを作成するために用いることができる。
【0036】
以下のステップでは、ステップS22からのエネルギー層の削減セットが拡張され、拡張セットが生成される。ステップS23において、ステップS22での治療計画の最適化の結果が、新しいビーム角又は初期セットに既に含まれているビーム角での少なくとも1つの追加エネルギー層を決定するのに用いられる。次いで、ステップS24において、ステップS23からの1つ又は複数のエネルギー層を追加することによってエネルギー層の初期セットが拡張され、拡張セットが生成される。エネルギー層は、既存のビーム角に対して追加することができ、及び/又は1つ以上の新しいビーム角を選択することができる。
【0037】
ステップS25は、エネルギー層のセットの別の拡張を行うべきであるかどうかを判定するための判定ステップである。Yesの場合、ステップS22に戻り、拡張セットを新しい潜在的セットとして使用してステップS22の最適化を行う。Noの場合、ステップS26で、ステップS22について説明したのと同じタイプの最適化問題を使用して、拡張セットに基づいて最適化を行い、アーク治療計画を得る。ステップS27は、低いスポットウェイトを有するエネルギー層を従来の方法でフィルタリングにより除去する随意的なステップである。
図1の手順と同様に、スポットのフィルタリングとスポットのソーティングは、手順の任意の適切な時点で行われ得る。
【0038】
ステップS22及びS26において、エネルギー層の数を減らすように設計されたペナルティを含む最適化問題を用いて最適化が行われる。ペナルティは、絶対制限を設定する制約として、又はエネルギー層の数をできる限り制限する要望を反映する目的関数の項として定義され得る。ペナルティは、エネルギー層の数を制限すること、治療中のエネルギー層の変更の数を制限すること、又は最適化アルゴリズムが治療送達中のエネルギー層の変更に費やされる時間を体系的に減らすことを保証する任意の他の適切な方法で定義され得る。ステップS22において、最適化は、ビーム角とエネルギー層のフル初期セットで始めることができ、ゆえに、最適化プロセスは、計画への寄与が最も小さいものを削除することによってビーム角及びエネルギー層の数を減らすことになる。エネルギー層が削除されるとき、その層のスポットウェイトは、層の削除によって生じるソリューションへの外乱を最小にするために残りのエネルギー層に分配される。これを行う方法は当該技術分野では公知であり、残りの層のブラッグピークの三次元ドロネー三角形分割を構築し、三角形分割でのその位置に従って削除する各スポットのウェイトを分配することを含み得る。代替的に、最適化は、ビーム角及びエネルギー層なしで始めることができ、最適化プロセスは、計画に最も有用な寄与をするものを追加することに進む。両方のケースにおいて、考えられるビーム角及びエネルギー層は、ステップS21で定義されたセットからのものである。両方のタイプの最適化方法のいくつかのより具体的な例は後述する。
【0039】
ペナルティは、アーク全体に作用し、アークあたりのエネルギー層の数を最大値に制限するように設定することができる。代替的に、ペナルティは、各角度に個別に作用し、ビームあたりのエネルギー層の最大数を設定するように設定することができる。第3のオプションとして、それぞれアークのサブセットを含むサブアークを定義することもでき、ペナルティは、各サブアークのエネルギー層の数を制限するように設定することができる。ペナルティが目的関数の項で設定される場合に同じことが当てはまる。サブアークは、任意の適切な数の、例えば3又は5つの、連続するビームを含むこともできるが、サブアークはまた、1つだけのビームを含むこともできる。特に、ペナルティがエネルギー層の変更の数を制限するために指定される場合、ペナルティは、アーク全体に、又は1つよりも多い角度を含むサブアークに設定するのが適切であろう。これは、この場合このようなペナルティが、1つのビームの最後のエネルギー層を次のビームの最初のエネルギー層として用いることによって2つのビーム間のエネルギー層の変更を回避できるためである。
【0040】
エネルギー層選択ペナルティは、スポットウェイトのベクトルx∈R
m(すべてのエネルギー層及び角度にわたって定義される)を写像する関数y:R
m→R
nを各角度で各エネルギー層がどれだけ用いられるかの特定の尺度に導入することによって数学的に定式化することができる。成分関数y
1,…,y
nは、好ましくは、添字iでのエネルギー層及び角度の組み合わせが正の重みをもつスポットを有する場合はy
i(x)が正であり、それ以外の場合はゼロであるように定義され得る。成分関数y
iの1つの可能な定式化は、特定のエネルギー層及び角度と関連付けられるサブベクトルx
iのノルム
【数1】
としてである。アークあたりのエネルギー層の最大数に対するペナルティは、この表記でcard(y)≦bとして表すことができ、ここで、基数演算子card(・)は、ベクトルの非ゼロのエントリの数を表す。サブアーク又は個々の角度に対する制約が、yのサブベクトルに関して同様に定式化される。ペナルティは、以下、基数ペナルティと呼ばれる。最適化関数でのペナルティ項は、連続近似法に基づいている。
【0041】
このような方法は、ビームとエネルギー層の完全なセットから始まり、最適化中に一部を削除することになる。基数演算子は、ここでは連続関数によって近似され、これにより、問題の組み合わせの態様が削除される。結果として生じる近似問題は、内点法又は逐次二次計画法などの、連続最適化のためのいくつかの方法によって解くことができる。基数ペナルティを有する問題の連続問題への1つの可能な再定式化は、基数演算子をcard(y)=Σis(yi)による階段関数sの和として表すことであり、ここで、sは、正でない数の場合はゼロと求められ、それ以外の場合は1と求められ、次いで、完全一致の関数sを、連続であるが近似の階段関数に置き換える。sを近似するのに用いることができる関数の例は、ロジスティック関数又は誤差関数、又は単純に正成分関数である。この方法は、いくつかのステップで適用することもでき、ゆえに、複数の最適化が実行され、基数ペナルティを考慮して結果が容認できるまで階段関数の近似の正確さが最適化間で高められる。基数ペナルティが制約として定式化される場合、これは、制約が満たされることを意味する。基数ペナルティが目的関数の項として定式化される場合、項は最小にされる。
【0042】
最適化問題での目的関数及び制約は、様々な量、最も重要にはLET及び線量荷重LETなどの線量及びLET関連の量に対して最適化できるべきである。(最適化で考慮される場合、LET(線エネルギー付与)は、普通のIMPTよりも陽子アークを用いて標的内部により効率よく焦点を合わせることができる。)
【0043】
ステップS17及びS27によって示されるように、最適化手順の任意の時点で、通常は最後に、低いウェイトが割り当てられているスポットをフィルタリングにより除去するために、スポットのフィルタリングが適用される。好ましくは、これらのフィルタリングにより除去されたスポットのウェイトは、計画において保持されている他のスポットに再割り当てされる。これを行ういくつかの方法が当該技術分野では公知であり、それらについてはここで詳細に説明しない。
【0044】
エネルギー層の初期セットのスポットの数が多すぎてすべてのスポットの線量を計算及び保存することが不可能な場合、本発明に係る手順を開始する前に、エネルギーレベルのうちのいくつかを削除するべく前処理することが可能である。これは任意の適切な方法で行うことができる。例えば、同じ又は同様のエネルギーレベルを有する2つの隣接するビーム角について、一方から削除されたものが他方で保持されるような様態で又はその逆の様態で、いくつかのエネルギーレベルを各ビーム角から削除することもできる。前処理法は、候補セットが数値計算を行うのに十分なだけ小さくなるまで、エネルギー層を一様に削除することができる。これはまた、近位の層よりも遠位の層を優先するなどの特定のルールに基づくことができる。前処理はまた、スポット位置とエネルギーからブラッグピーク位置を計算するための近似的な安価な技術が利用できる場合に、ブラッグピーク位置に基づくこともできる。このような方法の場合、前処理は、標的体積全体にブラッグピークの均一な広がりを維持しようとする様態で、エネルギー層を削除することができる。
【0045】
図3は、異なる方向から患者に放射線を提供するように適合された、放射線治療イメージング及び/又は計画作成のためのシステムの概要である。理解されるように、このようなシステムは、任意の適切な様態に設計されてよく、
図3に示された設計は単なる例である。患者11は、治療カウチ13上に配置される。システムは、カウチ13上に配置された患者に向けて放射線を放出するためのガントリ17にマウントされた放射線源15を有する治療ユニット10を備える。通常は、カウチ13とガントリ17は、患者に可能な限り柔軟且つ正確に放射線を提供するべく、互いに対していくつかの次元に移動可能である。特に、ガントリは、特定の角度間又は全360°回転のいずれかでカウチの周りを回転することができる。代替的に、ガントリを固定し、患者を支えるカウチが代わりに回転することができる。別の代替案は、患者を椅子に座った状態にすることである。この場合のアーク治療は、ビームの方向を変化させること又は椅子を回転させることによって行うことができる。これらのことは当業者にはよく知られている。システムはまた、放射線治療計画作成のため及び/又は放射線治療の制御のために用いられ得るコンピュータ21を備える。理解されるように、コンピュータ21は、イメージングユニットに接続されない別個のユニットであり得る。
【0046】
コンピュータ21は、プロセッサ23、データメモリ24、及びプログラムメモリ26を備える。好ましくは、キーボード、マウス、ジョイスティック、音声認識手段、又は任意の他の利用可能なユーザ入力手段の形態の、1つ以上のユーザ入力手段28、29も存在する。ユーザ入力手段はまた、外部メモリユニットからデータを受信するように構成され得る。
【0047】
データメモリ24は、計画作成に用いられる臨床目標のセットを含む、治療計画を得るのに用いられる臨床データ及び/又は他の情報を備える。データメモリ24はまた、本発明の実施形態に係る治療計画作成に用いられる1人以上の患者のための1つ以上の線量マップを備える。プログラムメモリ26は、治療計画の最適化のために構成された、それ自体が公知のコンピュータプログラムを保持する。プログラムメモリ26はまた、本発明に係る患者の治療をコンピュータに制御させるように構成されたコンピュータプログラムを保持する。
【0048】
理解されるように、データメモリ24とプログラムメモリ26は、概略的にのみ図示され説明されている。それぞれ1つ以上の異なるタイプのデータを保持するいくつかのデータメモリユニット、又はすべてのデータを適切に構造化された様態で保持する1つのデータメモリが存在してよく、同じことがプログラムメモリにも当てはまる。1つ以上のメモリはまた、他のコンピュータ上に格納されてよい。例えば、コンピュータは、方法のうちの1つだけを実行するように構成され、最適化を実行するための別のコンピュータが存在してよい。
【0049】
周囲組織への損傷をさらに低減するために、説明した最適化方法は、計画が異なる日に送達される異なる治療フラクションで送達される同様のアークで構成される手法と組み合わせることもできる。異なるアークは異なるビーム角を含み、ゆえに、標的は同じようにカバーされるが、患者から腫瘍までの道のりは異なるフラクションによって異なる。
【0050】
陽子などの荷電粒子を用いる放射線治療は、非常に正確な計画の最適化を可能にする。これは次に、例えばセットアップの小さい誤差が、送達される線量に大きな影響を与える可能性があることを意味する。したがって、本発明に従って用いられる最適化方法は、好ましくは、堅牢な最適化方法であるべきである。これはエネルギー層の数が減らされるときにより一層重要となる。方法は、送達に不確実性(例えば、範囲及びセットアップの不確実性)が存在するときであっても計画の品質が確実に保たれるように、様々な不確実性に対して堅牢であるべきである。堅牢な最適化方法の代替案として、各角度(例えば通常のアクティブスキャニング計画最適化でのSFUD(Single Field Uniform Dose))又は角度の各セット(各サブアーク)で均一線量を生じることを目的とした方法が適切であろう。角度あたりのエネルギー層の数を少なくすることが望まれる場合、最も実行可能な解決策は、各サブアークで均一線量を目指すことである。
【0051】
説明した方法は、スポットスキャニング、ラスタスキャニング、及びラインスキャニングを含む、すべてのタイプのアクティブスキャニングのために採用することもできる。陽子アーク療法と併せたラインスキャニングの実装は、送達時間の観点から有益であろう。これらの方法は、ヒトの治療を計画するのに適しているが、前臨床試験のためにマウスなどの小動物にも適している。説明した方法は、最適化プロセスに含まれる生物学的(RBE)モデルにおいて様々なイオンタイプの様々な生物学的影響が考慮に入れられる限り、ヘリウム、炭素、及び酸素などの陽子以外の軽イオンに対しても同様に良好に機能する。