(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-20
(45)【発行日】2025-01-06
(54)【発明の名称】誘電体シートの製造方法、高周波プリント配線板用基板の製造方法、誘電体シート、及び高周波プリント配線板用基板
(51)【国際特許分類】
H05K 3/00 20060101AFI20241223BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20241223BHJP
B29C 48/00 20190101ALI20241223BHJP
B29C 48/08 20190101ALI20241223BHJP
B29C 55/18 20060101ALI20241223BHJP
【FI】
H05K3/00 W
H05K1/03 610H
H05K3/00 R
B29C48/00
B29C48/08
B29C55/18
H05K1/03 630D
(21)【出願番号】P 2022524401
(86)(22)【出願日】2021-05-11
(86)【国際出願番号】 JP2021017917
(87)【国際公開番号】W WO2021235276
(87)【国際公開日】2021-11-25
【審査請求日】2023-11-21
(31)【優先権主張番号】P 2020087052
(32)【優先日】2020-05-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】500400216
【氏名又は名称】住友電工プリントサーキット株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【氏名又は名称】天野 一規
(72)【発明者】
【氏名】改森 信吾
(72)【発明者】
【氏名】二宮 崇
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 元彦
(72)【発明者】
【氏名】奥田 泰弘
(72)【発明者】
【氏名】柏原 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】木谷 聡志
(72)【発明者】
【氏名】中林 誠
(72)【発明者】
【氏名】岡本 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】徳田 千明
【審査官】荒木 崇志
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/221556(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/031071(WO,A1)
【文献】特開2003-025423(JP,A)
【文献】特開2012-001591(JP,A)
【文献】特開2015-209480(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 1/00 - 1/03
H05K 3/00
B29C 48/00
B29C 48/08
B29C 55/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末状のポリテトラフルオロエチレン及び球状のシリカを含む混合物を上記ポリテトラフルオロエチレンの融点以下で押出成形する工程と、
上記押出成形する工程により得られたシート体を圧延する工程と
を備えており、
上記ポリテトラフルオロエチレンに対する上記シリカの質量比が1.3
80以上
1.750以下であり、
上記シリカの平均粒径が0.1μm以上3.0μm以下であり、
上記押出成形におけるリダクションレシオが8以下である誘電体シートの製造方法。
【請求項2】
粉末状のポリテトラフルオロエチレン及び球状のシリカを含む混合物を上記ポリテトラフルオロエチレンの融点以下で押出成形する工程と、
上記押出成形する工程により得られたシート体を圧延する工程と
を備えており、
上記ポリテトラフルオロエチレンに対する上記シリカの質量比が1.3
80以上
1.750以下であり、
上記シリカが、平均粒径が0.1μm以上0.9μm以下の第1シリカと平均粒径4.0μm以上9.0μm以下の第2シリカとを含み、
上記第1シリカの上記ポリテトラフルオロエチレンに対する質量比が0.2以上1.9以下であり、
上記押出成形におけるリダクションレシオが8以下である誘電体シートの製造方法。
【請求項3】
上記圧延する工程での圧下率が0.93以上である請求項1又は請求項2に記載の誘電体シートの製造方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の方法により誘電体シートを製造する工程と、
上記誘電体シートの表面に直接又は間接に銅箔を積層する工程と
を備えている高周波プリント配線板用基板の製造方法。
【請求項5】
上記銅箔を積層する工程において、接着剤層を介して上記誘電体シートの表面に銅箔を積層し、
上記接着剤層が熱可塑性のフッ素樹脂を主成分とする請求項4に記載の高周波プリント配線板用基板の製造方法。
【請求項6】
シリカとポリテトラフルオロエチレンとを含有し、
上記ポリテトラフルオロエチレンに対する上記シリカの質量比が1.3
80以上
1.750以下であり、
最小引張伸び率に対する最大引張伸び率の比が1.5以下であり、上記最小引張伸び率が40%以上であ
り、
シリカの平均粒径が0.3μm以上1.0μm以下であるか、又は平均粒径が4.0μm以上9.0μm以下の大径シリカ及び平均粒径が0.1μm以上0.9μm以下の小径シリカの混合である誘電体シート。
【請求項7】
シートの厚さ方向の縦断面において、上記ポリテトラフルオロエチレンを主成分とする層状の第1相と、上記シリカを主成分とする層状の第2相とを有する請求項6に記載の誘電体シート。
【請求項8】
上記第1相の厚さが0.1μm以上10.0μm以下である請求項7に記載の誘電体シート。
【請求項9】
上記シリカが表面に炭素数4以上
10以下のアルキル基を有する請求項6から請求項8のいずれか1項に記載の誘電体シート。
【請求項10】
請求項6から請求項9のいずれか1項に記載の誘電体シートと、
上記誘電体シートの表面に直接又は間接に積層される銅箔と
を備えている高周波プリント配線板用基板。
【請求項11】
上記銅箔の上記誘電体シート側の表面の最大高さ粗さRzが2μm以下である請求項10に記載の高周波プリント配線板用基板。
【請求項12】
上記銅箔がフッ素樹脂を主成分とする接着層を介して上記誘電体シートの表面に積層されている請求項10又は請求項11に記載の高周波プリント配線板用基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、誘電体シートの製造方法、高周波プリント配線板用基板の製造方法、誘電体シート、及び高周波プリント配線板用基板に関する。
【0002】
本出願は、2020年5月18日出願の日本出願第2020-087052号に基づく優先権を主張し、前記日本出願に記載された全ての記載内容を援用するものである。
【背景技術】
【0003】
近年、電子機器の小型軽量化に伴い、この電子機器に用いられるプリント配線板についても小型化の要求が高まっている。このような点から、今日ではプリント配線板のベースフィルムとして、絶縁性、柔軟性、耐熱性等に優れ、薄膜化を促進可能なるポリイミドフィルムが採用されている(特許文献1参照)。
【0004】
一方、今日では情報通信量は増大する一方であり、これに応えるため、例えばICカード、携帯通信端末等の機器においてマイクロ波、ミリ波といった高周波領域での通信が盛んになっている。このため、高周波領域で用いた際に伝送損失が小さい高周波プリント配線板が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【0006】
本開示の誘電体シートの製造方法は、粉末状のポリテトラフルオロエチレン及び球状のシリカを含む混合物を上記ポリテトラフルオロエチレンの融点以下で押出成形する工程と、上記押出成形する工程により得られたシート体を圧延する工程とを備えており、上記ポリテトラフルオロエチレンに対する上記シリカの質量比が1.3以上であり、上記シリカの平均粒径が0.1μm以上3.0μm以下であり、上記押出成形におけるリダクションレシオが8以下である。
【0007】
本開示の他の誘電体シートの製造方法は、粉末状のポリテトラフルオロエチレン及び球状のシリカを含む混合物を上記ポリテトラフルオロエチレンの融点以下で押出成形する工程と、上記押出成形する工程により得られたシート体を圧延する工程とを備えており、上記ポリテトラフルオロエチレンに対する上記シリカの質量比が1.3以上であり、上記シリカが、平均粒径が0.1μm以上0.9μm以下の第1シリカと平均粒径4.0μm以上9.0μm以下の第2シリカとを含み、上記第1シリカの上記ポリテトラフルオロエチレンに対する質量比が0.2以上1.9以下であり、上記押出成形におけるリダクションレシオが8以下である。
【0008】
本開示の誘電体シートは、シリカとポリテトラフルオロエチレンとを含有し、上記ポリテトラフルオロエチレンに対する上記シリカの質量比が1.3以上であり、最小引張伸び率に対する最大引張伸び率の比が1.5以下であり、上記最小引張伸び率が40%以上である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本開示の一実施形態に係る誘電体シートの模式的断面図である。
【
図2】
図2は、走査電子顕微鏡を用いて撮影した当該誘電体シートの厚さ方向の縦断面である。
【
図3】
図3は、本開示の一実施形態に係る高周波プリント配線板用基板の模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[本開示が解決しようとする課題]
プリント配線板用基板の絶縁基材として、フッ素樹脂を主成分とするベースフィルムが知られている。フッ素樹脂は低誘電率であることから、フッ素樹脂を主成分とするベースフィルムは、高周波信号処理用のプリント配線板の絶縁基材に適している。このようなフッ素樹脂単体のフィルムは、押出成形によりテープ状に押し出し、これを圧延により薄膜シート化することで、容易に厚さのバラつき、材料組成のバラつきが小さいフィルムを得られる。
【0011】
上記プリント配線板の良好な高周波特性を確保するために、プリント配線板の絶縁基材には、温度変化に対する寸法変化が小さいこと、厚さや組成のバラつきが小さいことが求められるが、フッ素樹脂は、温度変化に対する寸法安定性が十分ではない。これに対してベースフィルムにフィラーを配合することにより、ベースフィルムの温度変化に対する寸法安定性を向上できる。しかしながら、フッ素樹脂を主成分とするベースフィルムに多量のフィラーを配合すると、極めて高圧の成形圧を要する等、汎用の装置及び製造条件で押出成形及び圧延を行うことが困難になる。そのため、ベースフィルムの製造においては、一般的に押出成形及び圧延以外の製法が採用されている。例えばポリテトラフルオロエチレンと無機フィラーの混合物を高圧かつポリテトラフルオロエチレンの融点以上の高温で押し固めた後に、シート状に削りだしを行う製法が挙げられる。この方法は、厚さのバラつきが大きく、さらに、非常に大規模な設備を必要とする。また、ポリテトラフルオロエチレンと無機フィラーの混合物とを液体中に分散させて低粘度のスラリーとし、これをキャリアフィルム上に塗工し、乾燥固化する製法が挙げられる。この方法は、無機フィラーが沈殿したりすることにより、キャリアフィルムに接触する側の表面と接触しない側の表面とで無機フィラーの分布が異なるという課題を有する。これらの方法は、「押出成形したシート体を圧延する製法」と比較して、コスト、厚さのバラつき、フィラーの分散性等の観点で劣るおそれがある。
【0012】
本開示は、上述のような事情に基づいてなされたものであり、押出成形と圧延を用いて高周波特性に優れる誘電体シートを製造できる誘電体シートの製造方法の提供を目的とする。
【0013】
[本開示の効果]
本開示の誘電体シートの製造方法は、高周波特性に優れる誘電体シートを容易かつ確実に製造できる。
【0014】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
【0015】
本開示の一態様に係る誘電体シートの製造方法は、粉末状のポリテトラフルオロエチレン及び球状のシリカを含む混合物を上記ポリテトラフルオロエチレンの融点以下で押出成形する工程と、上記押出成形する工程により得られたシート体を圧延する工程とを備えており、上記ポリテトラフルオロエチレンに対する上記シリカの質量比が1.3以上であり、上記シリカの平均粒径が0.1μm以上3.0μm以下であり、上記押出成形におけるリダクションレシオが8以下である。
【0016】
当該誘電体シートの製造方法は、高周波特性に優れる誘電体シートを確実に製造できる。その理由としては以下のように考えられる。上述のように、ポリテトラフルオロエチレンのようなフッ素樹脂は、低誘電率、低誘電正接であるため、フッ素樹脂を用いた基板から製造した高周波プリント配線板の高周波特性は良好であるが、温度変化に対する線膨張係数が大きく寸法安定性が十分ではない。高周波になると波長が短くなるため、回路の寸法変化が回路の電気特性に与える影響が大きくなる。従って、この大きな線膨張係数が回路の高周波特性を低下させるおそれがある。当該誘電体シートの製造方法は、ポリテトラフルオロエチレンに対するシリカの質量比が1.3以上であることで、誘電体シートの線膨張係数を下げられるので、ベースフィルムの温度変化に対する寸法安定性を向上できる。
【0017】
樹脂組成物に多量のフィラーを配合すると、極めて大きな押出成形圧を要する。また、フィラーの配合により凝集力が低下する。凝集力が低下すると、押出成形の流路の端部は、押出成形機の内壁との摩擦力の影響を受け易いことや、中央部より押出圧がかかりにくいということにより、端部と中央部の間に亀裂が入り中央部のみが押し出される現象や、亀裂が生じないまでも中央部の押出速度が端部より早いために中央部にしわが生じる現象が生じやすい。さらに、ポリテトラフルオロエチレンを用いた押出成形では繊維化、すなわち分子鎖が長手方向に伸長及び配向することにより押出成形圧が高くなるとともに、配向した繊維と繊維の間の凝集力が低いために亀裂が入り易い。従って安定して均一な押出成形を行うことは極めて困難となる。当該誘電体シートの製造方法は、生産効率のよい押出成形及び圧延を採用し、上記押出成形におけるリダクションレシオ(RR:Reduction Ratio)を8以下にすることで、ポリテトラフルオロエチレンの分子鎖が長手方向に配向することによる長手方向の強度の過剰な増大が抑制される。そのため、押出成形機の内壁と上記混合物との摩擦力を低減でき、低圧で押出成形を行える。
【0018】
また、従来から樹脂組成物の押出成形において、配合するフィラーの粒径が小さいほどフィラーと樹脂組成物との接触面積が大きくなるために成形粘度が高くなり、高い押出成形圧が必要となり、押出成形が困難となることが一般に知られている。これに対し、本発明者らは、ポリテトラフルオロエチレンにフィラーを配合させた場合は、上記シリカの粒径が小さいほうが低圧で押出成形ができることを知見した。これはポリテトラフルオロエチレンの粒の表面をシリカが覆うことでポリテトラフルオロエチレン同士の接触に起因する繊維化を防ぎ、それにより低圧で押出が可能となると考えられる。当該誘電体シートの製造方法においては、上記シリカの平均粒径が0.1μm以上3.0μm以下であることで、低圧での押出成形が可能となり、亀裂やしわを生じることなく、フィラーの均一性及び薄膜としての厚さの均一性を担保し、高周波特性に優れる誘電体シートを容易かつ確実に製造できる。
【0019】
また、本開示の他の一態様に係る誘電体シートの製造方法は、粉末状のポリテトラフルオロエチレン及び球状のシリカを含む混合物を上記ポリテトラフルオロエチレンの融点以下で押出成形する工程と、上記押出成形する工程により得られたシート体を圧延する工程とを備えており、上記ポリテトラフルオロエチレンに対する上記シリカの質量比が1.3以上であり、上記シリカが、平均粒径が0.1μm以上0.9μm以下の第1シリカと平均粒径4.0μm以上9.0μm以下の第2シリカとを含み、上記第1シリカの上記ポリテトラフルオロエチレンに対する質量比が0.2以上1.9以下であり、上記押出成形におけるリダクションレシオが8以下である。
【0020】
当該誘電体シートの製造方法は、高周波特性に優れる誘電体シートを確実に製造できる。その理由としては以下のように考えられる。上述のように、ポリテトラフルオロエチレンのようなフッ素樹脂は、低誘電率、低誘電正接であるため、フッ素樹脂を用いた基板から製造した高周波プリント配線板の高周波特性は良好であるが、温度変化に対する線膨張係数が大きく寸法安定性が十分ではない。高周波になると波長が短くなるため、回路の寸法変化が回路の電気特性に与える影響が大きくなる。従って、この大きな線膨張係数が回路の高周波特性を低下させるおそれがある。当該誘電体シートの製造方法は、ポリテトラフルオロエチレンに対するシリカの質量比が1.3以上であることで、誘電体シートの線膨張係数を下げられるので、ベースフィルムの温度変化に対する寸法安定性を向上できる。
【0021】
樹脂組成物に多量のフィラーを配合すると、極めて大きな押出成形圧を要する。また、フィラーの配合により凝集力が低下する。凝集力が低下すると、押出成形の流路の端部は、押出成形機の内壁との摩擦力の影響を受け易いことや、中央部より押出圧がかかりにくいということにより、端部と中央部の間に亀裂が入り中央部のみが押し出される現象や、亀裂が生じないまでも中央部の押出速度が端部より早いために中央部にしわが生じる現象が生じやすい。さらに、ポリテトラフルオロエチレンを用いた押出成形では繊維化、すなわち分子鎖が長手方向に伸長及び配向することにより押出成形圧が高くなるとともに、配向した繊維と繊維の間の凝集力が低いために亀裂が入り易い。従って安定して均一な押出成形を行うことは極めて困難となる。当該誘電体シートの製造方法は、生産効率のよい押出成形及び圧延を採用し、上記押出成形におけるリダクションレシオ(RR:Reduction Ratio)を8以下にすることで、ポリテトラフルオロエチレンの分子鎖が長手方向に配向することによる長手方向の強度の過剰な増大が抑制される。そのため、押出成形機の内壁と上記混合物との摩擦力を低減でき、低圧で押出成形を行える。
【0022】
また、従来から樹脂組成物の押出成形において、配合するフィラーの粒径が小さいほどフィラーと樹脂組成物との接触面積が大きくなるために成形粘度が高くなり、高い押出成形圧が必要となり、押出成形が困難となることが一般に知られている。当該誘電体シートの製造方法は、上記シリカが平均粒径0.1μm以上0.9μm以下の第1シリカと平均粒径4.0μm以上9.0μm以下の第2シリカとの組み合わせを含み、上記第1シリカの上記ポリテトラフルオロエチレンに対する質量比が上記範囲であることで、低圧での押出成形が可能となり、亀裂やしわを生じることなくフィラーの均一性及び薄膜としての厚さの均一性を担保し、高周波特性に優れる誘電体シートを容易かつ確実に製造できる。
【0023】
上記圧延する工程での圧下率が0.93以上であることが好ましい。このように、上記圧下率が0.93以上であることで、圧延する工程にてポリテトラフルオロエチレンの繊維化を進めて伸びを高めることで耐折性が良好な誘電体シートを得られる。また、押出成形で、高い圧力を要するポリテトラフルオロエチレンの繊維化を進める必要がないため、低圧での押出成形を可能にできる。
【0024】
本開示の他の一態様に係る高周波プリント配線板用基板の製造方法は、当該誘電体シートの製造方法により製造された誘電体シートの表面に直接又は間接に銅箔を積層する工程を備えている。誘電体シートの表面に間接に銅箔を積層する工程は、例えば、誘電体シートの表面処理を行った後に誘電体シートの表面に銅箔を積層する工程であるか、又は誘電体シートの表面に他の層を介して銅箔を積層する工程である。当該高周波プリント配線板用基板の製造方法は、ポリテトラフルオロエチレンに対するシリカの質量比が1.3以上であることで、誘電体シートの線膨張係数を下げられるので、ベースフィルムの温度変化に対する寸法安定性を向上できる。また、上記押出成形におけるリダクションレシオを8以下にすることで、押出成形機の内壁と上記混合物との摩擦力を低減でき、低圧で押出成形を行える。当該高周波プリント配線板用基板の製造方法は、高周波特性に優れる誘電体シートの表面に直接又は間接に銅箔を積層する工程を備えているので、高周波特性に優れる高周波プリント配線板用基板を容易かつ確実に製造できる。
【0025】
当該高周波プリント配線板用基板の製造方法は、上記銅箔を積層する工程において、接着剤層を介して上記誘電体シートの表面に銅箔を積層し、上記接着剤層が熱可塑性のフッ素樹脂を主成分とすることが好ましい。上記銅箔を積層する工程において、接着剤層を介して上記誘電体シートの表面に銅箔を積層し、上記接着剤層が熱可塑性のフッ素樹脂を主成分とすることで、フッ素樹脂に起因する良好な高周波特性を確保しつつ、低粗度の銅箔と誘電体シートを強固に接着できる。
【0026】
本開示の他の一態様に係る誘電体シートは、シリカとポリテトラフルオロエチレンとを含有し、上記ポリテトラフルオロエチレンに対する上記シリカの質量比が1.3以上であり、最小引張伸び率に対する最大引張伸び率が1.5以下であり、上記最小引張伸び率が40%以上である。
【0027】
当該誘電体シートは、ポリテトラフルオロエチレンを含有することで、高周波特性に優れる。また、ポリテトラフルオロエチレンに対するシリカの質量比が1.3以上であることで、誘電体シートの線膨張係数を下げられるので、当該誘電体シートの温度変化に対する寸法安定性を向上できる。従って、当該誘電体シートは高周波特性に優れる。また、シリカの質量比が高い場合、当該誘電体シートの特性がセラミックに近づくので、通常は伸びが少なく、耐折性が低いが、当該誘電体シートは最小引張伸び率に対する最大引張伸び率(以下、伸び異方性係数ともいう。)が1.5以下であり、上記最小引張伸び率が40%以上であることで、シリカの質量比が高いにもかかわらず、耐折性に優れる。
【0028】
当該誘電体シートは、厚さ方向の縦断面において、上記ポリテトラフルオロエチレンを主成分とする層状の第1相と、上記シリカを主成分とする層状の第2相とを有することが好ましい。当該誘電体シートが上記第1相及び第2相を有することで、繊維化による高伸び性及び高強度化というポリテトラフルオロエチレンの特性及び線膨張係数の低減というシリカの特性の各々をより発揮し易くできる。
【0029】
当該誘電体シートは、上記第1相の厚さが0.1μm以上10.0μm以下であることが好ましい。上記層状の第1相の厚さが上記下限未満であると、ポリテトラフルオロエチレンの繊維化の程度が低下し、高伸び性という特徴が得られにくくなるおそれがある。一方、上記第1相の厚さが上記上限を超えると、線膨張係数を所望の範囲に低減することが困難となるおそれがある。
【0030】
上記シリカが表面に炭素数4以上のアルキル基を有することが好ましい。上記シリカが表面に炭素数4以上のアルキル基を有することで、シリカとポリテトラフルオロエチレン間の密着力が大きくなって伸びが向上するので、当該誘電体シートは耐折性に優れる。
【0031】
本開示の他の一態様に係る高周波プリント配線板用基板は、当該誘電体シートと、上記誘電体シートの表面に直接又は間接に積層される銅箔とを備えている。
【0032】
当該高周波プリント配線板用基板は、当該誘電体シートと、上記誘電体シートの表面に直接又は間接に積層される銅箔とを備えているので、高周波プリント配線板用基板は、高周波特性及び耐折性に優れる。
【0033】
上記銅箔の上記誘電体シート側の表面の最大高さ粗さRzが2μm以下であることが好ましい。このように、上記誘電体シート側の表面の最大高さ粗さRzが上記範囲であることによって、表皮効果により高周波信号が集中する部分の凹凸が小さくなり、電流が直線的に流れやすくなるため、伝送損失をより抑制できる。従って、当該高周波プリント配線板用基板の高周波特性をより向上できる。
【0034】
上記銅箔がフッ素樹脂を主成分とする接着層を介して上記誘電体シートの表面に積層されていることが好ましい。上記銅箔がフッ素樹脂を主成分とする接着層を介して上記誘電体シートの表面に積層されていることでフッ素樹脂に起因する良好な高周波特性を確保しつつ、低粗度の銅箔と誘電体シートを強固に接着できる。
【0035】
なお、本開示において、上記シリカの「平均粒径」とは、一次粒子の粒径であって、体積粒度分布の中心径D50で表されるものを意味する。平均粒径は、粒子径分布測定装置(例えば、マイクロトラック・ベル株式会社の「MT3300II」)で測定できる。「リダクションレシオ」とは、押出成形する工程における、被押出成形物が通る流路の断面積において、最大断面積を最小断面積で割った値をいう。「最大高さ粗さRz」とは、JIS-B-0601(1982年)に準拠して測定される最大高さ粗さを指す。「主成分」とは、最も含有量の多い成分をいい、例えば含有量が50質量%以上の成分をいう。「圧下率」とは、圧延する工程前のシートの厚さをh0、圧延する工程後(2段階以上の圧下を行う場合には最終段階)のシートの厚さをh1としたとき、(h0-h1)/h0で表されるシートの厚さの変化率を意味する。圧下率の数値が大きいほど、圧延する工程によるシートの厚さの変化率が大きいことを示している。「最大引張伸び率」は、誘電体シートの、あらゆる面内方向における、IPC-TM-650 2.4.19に準拠する試験方法により測定される引張伸び率において、最大の伸び率をいい、「最小引張伸び率」は、同様に測定される引張伸び率における最小の伸び率をいう。
【0036】
[本開示の実施形態の詳細]
以下、本開示の実施形態に係る誘電体シートの製造方法、高周波プリント配線板用基板の製造方法、誘電体シート、及び高周波プリント配線板用基板について詳説する。
【0037】
<誘電体シートの製造方法>
当該誘電体シートの製造方法は、粉末状のポリテトラフルオロエチレン及び球状のシリカを準備する工程と、上記粉末状のポリテトラフルオロエチレン及び上記球状のシリカを含む混合物を上記ポリテトラフルオロエチレンの融点以下で押出成形する工程と、上記押出成形する工程により得られたシート体を圧延する工程とを備える。当該誘電体シートの製造方法は、押出成形する工程及び圧延する工程を採用することで、ポリテトラフルオロエチレンを含有する誘電体シートを効率よく生産できる。また、当該誘電体シートの製造方法は、材料を混合する工程及び助剤除去工程をさらに備えることが好ましい。
【0038】
[材料を混合する工程]
本工程では、粉末状のポリテトラフルオロエチレン及び球状のシリカを準備し、上記粉末状のポリテトラフルオロエチレン及び上記球状のシリカを含む混合物を製造する。また、上記混合物には、助剤(液状潤滑剤)を添加することが好ましい。以下、粉末状のポリテトラフルオロエチレンを「ポリテトラフルオロエチレン粉末」ということがあり、球状のシリカを単に「シリカ」ということがある。
【0039】
混合方法は材料を混合できる方法であれば特に限られない。混合方法には乾式法、すなわちポリテトラフルオロエチレン粉末とシリカ粉末と助剤を混合させる方法と、湿式法、すなわちポリテトラフルオロエチレンのディスパージョンとシリカを分散させた液とを混合、凝析回収したものと助剤を混合する方法が挙げられる。上記第1相及び第2相が層状となる状態を得ることが容易であるため乾式法が好ましい。上記乾式法においては、例えばポリテトラフルオロエチレン粉末とシリカと助剤を密閉型の容器にいれ、10℃以下の低温にて容器を回転させることで各材料を混合できる。
【0040】
上記ポリテトラフルオロエチレン粉末としては、押出成形に用いられるものであれば特に限られないが、ファインパウダーを好ましく用いることができる。ファインパウダーは、テトラフルオロエチレンの乳化重合により得られた平均粒径が0.1~0.5μmのポリテトラフルオロエチレンのディスパージョンを凝析、乾燥して得られる粉末である。当該粉末の平均粒径は例えば20μmから1000μmである。シリカとの均一微分散状態を容易に形成できるため、上記ポリテトラフルオロエチレン粉末の平均粒径の上限としては700μmが好ましく、500μmがより好ましく、400μmがさらに好ましい。ポリテトラフルオロエチレンの繊維化を適度に進められるという点で当該粉末の平均粒径の下限は、50μmが好ましく、100μmがより好ましく、200μmがさらに好ましい。
【0041】
上記シリカは、天産品、合成品を問わず、また結晶性か非晶性か、また乾式製法によるものか、湿式製法によるものかを問わないが、入手のし易さと、品質の観点で、乾式製法による合成シリカが好ましい。孔開け加工等の加工性が良いことから、球形であるが好ましい。一般的なシリカの製法において、シリカはその粒径分布において一つのピークを持ち、ピークの前後で漸減する分布をもつ。なお一定のサイズ以上の粒径のものをカットする結果、その粒度分布において、大きい粒径の側の裾野が切られた分布を持ち、その結果平均粒径が、そのカットがないものよりも小さいものも多く市販されている。孔開け加工等の加工性という観点では、上記シリカの平均粒径の上限としては、9.0μmが好ましく、7.0μmがより好ましく、5.0μmがさらに好ましく、3.0μm以下が特に好ましい。
【0042】
シリカ及びポリテトラフルオロエチレンの混合物の押出成形では、ポリテトラフルオロエチレン単体の場合に比べてポリテトラフルオロエチレンが繊維化、すなわち分子鎖が長手方向に伸長及び配向することにより押出成形圧が高くなる。通常の押出成形では、シリカが小粒径であるほど押出成形物は高粘度化し、高圧が必要となる。しかし、本発明者らが知見したところによれば、ポリテトラフルオロエチレンとシリカとの混合物においては、粒径が適度に小さいと繊維化が進みにくく、成形圧を抑えられる。押出成形工程では、隣接するポリテトラフルオロエチレン粉末間において、接触点を起点に繊維化が生じる。混合工程にて、ポリテトラフルオロエチレンと適度に小さいシリカを混合すると、粒径が小さいシリカがポリテトラフルオロエチレンの表層を覆うことで、その後の押出成形工程におけるポリテトラフルオロエチレン同士間の接触、ひいてはその繊維化を抑制することで押出成形圧が抑えられると考えられる。
【0043】
低圧で押出成形が可能であることから、シリカの平均粒径は、3.0μm以下が好ましく、2.0μm以下がより好ましく、1.0μm以下がさらに好ましい。上記シリカの平均粒径が上記範囲であることで、亀裂やしわを生じることなく、フィラーの均一性及び薄膜としての厚さの均一性を担保し、高周波特性に優れる誘電体シートを容易かつ確実に製造できる。また0.1μm以上であることが好ましく、0.3μm以上が好ましく、0.5μm以上がさらに好ましい。平均粒径が0.1μmより小さいシリカは、ゾルゲル法等で製造可能であるが、凝集しやすく分散しにくい。分散しても表面積が大きくなるためシリカとポリテトラフルオロエチレンとの作用が物性に大きく影響するため、押出成形圧が増加したり、成形体の伸びが低下したりするおそれがあるためである。なお上記範囲の平均粒径が異なる複数のシリカを組み合わせて使用してもよい。
【0044】
また、平均粒径が3.0μmより大きな径のシリカを使用する場合には、適度に小さい径のシリカを組み合わせることにより低圧で押出成形が可能となる。具体的には、平均粒径が4.0μm以上9.0μm以下の大径シリカと、平均粒径が0.1μm以上0.9μm以下の小径シリカを混合することが好ましい。大径シリカの平均粒径としては、より好ましくは5.0μm以上8.0μm以下、さらに好ましくは6.0μm以上7.0μm以下である。小径シリカの平均粒径としては、より好ましくは0.1μm以上0.7μm以下、さらに好ましくは0.1μm以上0.4μm以下である。小径シリカによりポリテトラフルオロエチレンの表層を覆うことで、ポリテトラフルオロエチレンの繊維化を抑えて低圧での押出成形を可能にできる。さらに、大径シリカと混合することにより、小径シリカのみの場合と比べて、ポリテトラフルオロエチレンに起因する特性、例えば高伸びや高い凝集力という特性を容易に発現させ、線膨張係数を低下させられる。小径シリカと大径シリカとを配合する場合は、ポリテトラフルオロエチレンに対する小径シリカの質量比としては0.2以上1.9以下が好ましく、0.2以上1.5以下がより好ましく、0.3以上1.0以下がさらに好ましい、0.4以上0.7以下が特に好ましい。
【0045】
上記シリカが表面に炭素数4以上のアルキル基を有することが好ましい。上記シリカが表面に炭素数4以上のアルキル基を有することで、シリカとポリテトラフルオロエチレン間の密着力が大きくなって伸びが向上する結果、耐折性に優れる誘電体シートを製造できる。シリカの表面とアルキル基との結合性の観点から、ポリテトラフルオロエチレンとの相互作用が起こり易い様に、炭素数は5以上がさらに好ましい。一方、上記炭素数の上限としては、10以下が好ましい。またアルキル基は直鎖アルキルであることが好ましい。炭素数4以上のアルキル基としては、例えばブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、へプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基が挙げられる。
【0046】
上記シリカは表面にアルキル基以外の官能基すなわちビニル基、エポキシ基、スチリル基、メタクリル基、アクリル基、アミノ基、イソシアネート基、フェニル基、イソシアヌレート基等を含まないことが好ましい。従来、シリカの表面を疎水性に処理することにより、吸水量が減少する結果として機械強度が改善されるという報告がされているが、炭素数4以上のアルキル基を有することによる伸びの向上は、主にポリテトラフルオロエチレンとシリカ間の結合効果によるものであって、疎水度が増すことによるものではない。当該誘電体シートを延伸し、裂けた断面を観察すると伸びたポリテトラフルオロエチレンの繊維の端がシリカ表面と強固に結合し、そこを起点に繊維化が生じたことが確認できる。例えば疎水性の度合いがより高い、表面にビニル基を有するシリカを使ってもこのような結合効果は小さく、よって伸びの向上による効果は小さい。
【0047】
上記ポリテトラフルオロエチレンに対するシリカの質量比の下限としては、1.3であり、1.5が好ましく、1.6がさらに好ましい。一方、上記シリカの質量比の上限としては、2.0が好ましく、1.9がより好ましい。ポリテトラフルオロエチレンに対するシリカの質量比が1.3以上であることで、誘電体シートの線膨張係数を下げられるので、誘電体シートの温度変化に対する寸法安定性を向上できる。一方、上記シリカの質量比が上記上限を超えると、誘電体シートが脆くなり、ハンドリング性や耐折性が低下するおそれがある。なお線膨張係数を下げるという観点においては、線膨張係数の小さいシリカ以外のフィラーを配合する場合は、シリカの量を低減できる。
【0048】
本配合においては、必要に応じて、所望する特性に悪影響を及ぼさない範囲で、シリカ以外の無機フィラー、例えば酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、タルク、硫酸バリウム、窒化ホウ素、酸化亜鉛、チタン酸カリウム、ガラス、酸化チタン、マイカを含有しても構わない。無機フィラーは一般に線膨張係数が小さいため、シリカ以外の無機フィラーを配合する場合は、その配合量に応じて、シリカの配合を減量できる。酸化チタンは、シリカ等とは誘電率の温度変化特性が逆になり、誘電率の温度安定性を改善できるため配合することが好ましい。
【0049】
上記助剤としては、ポリテトラフルオロエチレンを湿潤させて、塑性変形を容易にし、圧延工程後の加熱で容易に除去できるものであれば特に限られない。例えば、ソルベント・ナフサ、ホワイトオイルなどの石油系溶剤、ウンデカン等の炭化水素油、トルオール、キシロールなどの芳香族炭化水素類、アルコール類、ケトン類、エステル類、シリコーンオイル、フルオロクロロカーボンオイル、これらの溶剤にポリイソブチレン、ポリイソプレンなどのポリマーを溶かした溶液、これらの2つ以上の混合物、表面活性剤を含む水または水溶液などが挙げられる。混合物よりも単一成分の方が均一混合できるため、好ましい。助剤の量は、ポリテトラフルオロエチレンを湿潤できる量であれば特に限られないが、ポリテトラフルオロエチレンに対する質量比が0.1以上0.8以下とすることが好ましく、0.2以上0.7以下がさらに好ましく、0.3以上0.6以下がさらに好ましい。
【0050】
[押出成形する工程]
本工程では、ポリテトラフルオロエチレン粉末及び球状のシリカを含む混合物を上記ポリテトラフルオロエチレンの融点以下で押出成形する。
【0051】
押出成形する温度としては、上記ポリテトラフルオロエチレンの融点以下である。具体的には、押出成形する温度の上限としては、100℃が好ましい。また、押出成形する温度としては、上記ポリテトラフルオロエチレンが室温付近に有する転移温度以上が好ましい。具体的には、押出成形する温度の下限としては、40℃が好ましい。押出成形する温度を上記範囲とすることで、押出成形を安定して行える。
【0052】
本工程で得られる押出成形される混合物の、押出成形方向に垂直な平面での切断面の形状は、長方形や楕円等の扁平状であることが好ましい。次工程の圧延工程で圧延ロールに投入しやすく、圧延後のシートの均一性に優れるためである。上記切断面の形状としては、特に長方形であることが好ましい。例えば切断面の形状が円となる様に、すなわち円柱状に押し出する場合は、圧延工程にて、上下の圧延ロール間に噛みこませることが困難になるため、圧延することが困難となる。加圧して無理やりに圧延ロール間に押し込むと、成型体が粉砕され、ボイドを含む不均一な状態で圧延ロール間に入るため、圧延物の厚みはバラつき、ボイドが入ったシートとなるため好ましくない。扁平状の当該断面を内部に含み、当該断面の外郭と数か所で接触する最小の長方形を考えた場合において、短辺の長さに対する長辺の長さの比が大きいほど圧延ロールに投入しやすく、圧延後のシートの均一性に優れるため好ましい。一方、短辺の長さに対する長辺の長さの比が大きいほど端部(短辺と長辺の端部で形成される端部)に押出圧力が伝わりにくく、端部と中央部(長辺の真ん中付近に接する部分)間で裂けて中央部のみ押出される現象が生じ易い。従って、短辺の長さに対する長辺の長さの比としては、6以上25以下が好ましく、8以上20以下がより好ましく、10以上15以下がさらに好ましい。
【0053】
一般に、ポリテトラフルオロエチレンの押出成形で使われるリダクションレシオとしては、10以上1000以下が好適とされる。本工程におけるリダクションレシオの上限としては、8以下であり、6以下が好ましく、5以下がさらに好ましく、4以下がさらに好ましい。上記押出成形する工程におけるリダクションレシオの上限を上記範囲にすることで、ポリテトラフルオロエチレンの分子鎖が長手方向に配向することによる長手方向の強度の過剰な増大が抑制されるので、押出成形機の内壁と上記混合物との摩擦力を低減でき、割れや端部の詰まりを生じることなく低圧で押出成形を行える。また低圧で押出成形をすることで、押出成形方向のポリテトラフルオロエチレンの繊維の配向を弱められ、その結果、圧延工程において繊維化の異方性の調整余地を広げることが可能となる。一方、リダクションレシオの下限としては、2以上が好ましく、3以上が更に好ましい。上記押出成形する工程におけるリダクションレシオの下限をこの範囲にすることで、押し固められた、内部に空気の噛み込みのない少ない成形物となるため、容易に圧延でき、厚みや内部組成の均一性に優れた圧延物が得られる。
【0054】
[圧延する工程]
本工程では、上記押出成形する工程により得られたシート体を圧延する。
【0055】
上記圧延する工程での圧下率の下限としては、0.93が好ましく、0.95がより好ましく、0.97がさらに好ましい。上記圧下率の下限が上記範囲であることで、圧延する工程にてポリテトラフルオロエチレンの繊維化を進めて伸びを向上するので、耐折性が良好な誘電体シートが得られる。また、押出成形で、高い圧力を要するポリテトラフルオロエチレンの繊維化を進める必要がないため、低圧での押出成形を可能にできる。一方、上記圧下率の上限としては、0.99が好ましく、0.98がさらに好ましい。上記圧下率の上限が上記範囲であることで、圧延工程での加工度合いを抑えることになり、過度な加工による厚さや機械強度についての特性のバラつきを抑えられる。
【0056】
圧延する工程においては、圧力制御ではなく、ロール間のGAP値を制御する方法で圧延することが好ましい。圧延工程前の厚さから、一回の圧延にて最終厚さまで圧延してもよいが、一回の圧延での圧下率が大きすぎるとシートの厚さバラつきが大きくなったり、シートが裂けたりするおそれがある。従って、複数回の圧延にて最終厚さまで圧延することが好ましい。
【0057】
押出成形及び圧延の工程にてポリテトラフルオロエチレンの繊維化、配列が生じる結果、誘電体シートの機械強度、特に伸びについて異方性が生じるおそれがある。機械強度の異方性は線膨張係数の異方性をも引き起こすおそれがある。この異方性を抑制するため、圧延工程において、複数回圧延する場合は少なくとも1回は、押出成形の押出方向とは異なる方向、好ましくは垂直方向に圧延することが好ましい。
【0058】
本工程における圧延温度としては、30℃以上100℃以下が好ましい。圧延温度を、ポリテトラフルオロエチレンが室温付近に有する転移温度よりも高い、30℃以上とすることで容易に均一な圧延ができる。また助剤の気化の程度が小さい100℃以下とすることで容易に均一な圧延ができる。
【0059】
[助剤除去工程]
本工程では、上記圧延工程にて形成されたシート体を乾燥し、助剤(液状潤滑剤)を除去する。助剤を除去する方法は、乾燥が簡便で好ましい。乾燥温度・時間は、ポリテトラフルオロエチレンの融点より低い温度域で、助剤の特性に応じて適宜決めればよい。
【0060】
当該誘電体シートの製造方法によれば、フィラーの均一性及び薄膜としての厚さの均一性を担保し、高周波特性に優れる誘電体シートを容易かつ確実に製造できる。
【0061】
<高周波プリント配線板用基板の製造方法>
当該高周波プリント配線板用基板の製造方法は、粉末状のポリテトラフルオロエチレン及び球状のシリカを準備する工程と、上記粉末状のポリテトラフルオロエチレン及び上記球状のシリカを含む混合物を上記ポリテトラフルオロエチレンの融点以下で押出成形する工程と、上記押出成形する工程により得られたシート体を圧延する工程と、上記圧延する工程後に形成された誘電体シートの表面に直接又は間接に銅箔を積層する工程とを備える。また、上記ポリテトラフルオロエチレンに対するシリカの質量比が1.3以上であり、上記押出成形におけるリダクションレシオが8以下である。当該高周波プリント配線板用基板の製造方法は、ポリテトラフルオロエチレンに対するシリカの質量比が1.3以上であることで、誘電体シートの線膨張係数を下げられるので、ベースフィルムの温度変化に対する寸法安定性を向上できる。また、上記押出成形におけるリダクションレシオを8以下にすることで、押出成形機の内壁と上記混合物との摩擦力を低減でき、低圧で押出成形を行える。当該高周波プリント配線板用基板の製造方法は、高周波特性に優れる誘電体シートの表面に直接又は間接に銅箔を積層する工程を備えているので、高周波特性に優れる高周波プリント配線板用基板を容易かつ確実に製造できる。
【0062】
上記シリカの平均粒径の好ましい範囲については上述した通りである。
【0063】
当該高周波プリント配線板用基板の製造方法における銅箔を積層する工程以外の内容については、当該誘電体シートの製造方法と同様であるので説明を省略する。
【0064】
[銅箔を積層する工程]
本工程では、上記圧延する工程後に形成された誘電体シートの表面に直接又は間接に銅箔を積層する。銅箔を積層する方法としては、例えば誘電体シートと銅箔とを熱圧着する方法が挙げられる。しかし、誘電体シートと銅箔を何の処理もなく熱圧着すると両者の接着力が低いことが懸念される。そのため、誘電体シートまたは銅箔の表面にコロナ処理やプラズマ処理、シランカップリング処理等の表面処理を行った後に熱圧着する方法や、誘電体シートまたは銅箔の表面に接着剤組成物からなる薄膜を形成する、又は接着剤組成物から形成したフィルムを誘電体シートと銅箔との間に積層することにより、接着剤組成物を介して熱圧着する方法等が好ましい。このように、誘電体シートの表面に間接に銅箔を積層してもよい。
【0065】
上記熱圧着の温度の下限としては、320℃が好ましく、330℃がより好ましい。上記熱圧着の温度の上限としては、390℃が好ましく、380℃がより好ましい。上記熱圧着の温度が上記下限未満の場合、ポリテトラフルオロエチレンの変形が困難となり、良好な機械強度が得られないおそれがある。上記熱圧着の温度が上記上限を超える場合、ポリテトラフルオロエチレンの分解により微量の腐食性ガスが生じるおそれがある。
【0066】
上記熱圧着の圧力は、特に限定されず、例えば4MPa以上30MPa以下に設定される。
【0067】
当該高周波プリント配線板用基板の製造方法は、上記銅箔を積層する工程において、接着剤層を介して上記誘電体シートの表面に銅箔を積層し、上記接着剤層が熱可塑性のフッ素樹脂を主成分とすることが好ましい。上記銅箔を積層する工程において、接着剤層を介して上記誘電体シートの表面に銅箔を積層し、上記接着剤層が熱可塑性のフッ素樹脂を主成分とすることで、フッ素樹脂に起因する良好な高周波特性を確保しつつ、低粗度の銅箔と誘電体シートを強固に接着できる。
【0068】
上記接着剤層は、上記銅箔を積層する工程前に、誘電体シートの表面に接着層を積層することにより形成してもよく、また、銅箔の表面に接着層を積層することにより形成してもよい。
【0069】
上記熱可塑性のフッ素樹脂としては、良好な接着性を得る観点から、熱軟化温度が320℃以下のフッ素樹脂が好ましく、例えばパーフルオロアルコキシアルカン(PFA)及びパーフルオロエチレンプロペンコポリマー(FEP)等が挙げられる。
【0070】
上記接着層の厚さの下限としては、0.1μmが好ましく、0.5μmがより好ましい。上記接着層の厚さの上限としては、5.0μmが好ましく、2.0μmがより好ましい。上記接着層の厚さが上記範囲であることで、基板全体の線膨張係数を低く抑えつつ、銅箔と誘電シートを強く接着できる。
【0071】
当該高周波プリント配線板用基板の製造方法によれば、高周波特性に優れる高周波プリント配線板用基板を容易かつ確実に製造できる。
【0072】
<誘電体シート>
図1は、当該誘電体シートの模式的断面図である。当該誘電体シート1は、シリカとポリテトラフルオロエチレンとを含有する。ポリテトラフルオロエチレンは低誘電率であることから、当該誘電体シート1は、高周波信号処理用のプリント配線板用基板の絶縁基材に好適である。当該誘電体シートは、上記当該誘電体シートの製造方法により製造できる。
【0073】
上記ポリテトラフルオロエチレンに対するシリカの質量比の下限としては、1.3であり、1.5が好ましく、1.6がさらに好ましい。一方、上記シリカの質量比の上限としては、2.0が好ましく、1.9がより好ましい。ポリテトラフルオロエチレンに対するシリカの質量比が1.3以上であることで、誘電体シートの線膨張係数を下げられるので、誘電体シートの温度変化に対する寸法安定性を向上できる。一方、上記シリカの質量比が上記上限を超えると、誘電体シートが脆くなり、ハンドリング性や耐折性が低下するおそれがある。
【0074】
上記シリカの構成については、上述の通りであるので説明を省略する。
【0075】
上記伸び異方性係数の上限としては、1.5であり、1.2が好ましい。上記伸び異方性係数の下限としては、1.0が好ましい。伸び異方性係数が上記範囲を外れる場合、ポリテトラフルオロエチレンの繊維化及び配列の異方性が生じており、誘電体シートの機械強度ついて異方性が生じる結果、一定の方向に誘電体シートが裂け易くなったり、機械強度の異方性のみならず線膨張係数の異方性をも引き起こしたりするおそれがある。
【0076】
当該誘電体シートの上記最小引張伸び率の下限としては、40%以上が好ましく、80%がより好ましく、100%以上がさらに好ましく、150%以上がさらに好ましい。当該誘電体シートは上記最小引張伸び率が上記範囲であることで、シリカの質量比が高いにもかかわらず、耐折性に優れる。これは、高伸び性であるほど耐折性に優れるためである。伸びは、主にポリテトラフルオロエチレンの繊維化に起因するため、弾性率等や破断強度と比較して、上記製造方法における押出成形のリダクションレシオや圧下率の影響を大きくうける。引張伸び率の測定には、当該誘電体シートを熱プレスに挟み、厚さ方向に4MPaの圧力で圧縮しながら、350℃で40分間加熱したサンプルを用いる。測定準拠法はIPC-TM-650 2.4.19である。
【0077】
上記シリカは、上述の通り、表面に炭素数4以上のアルキル基を有することが好ましく、炭素数5以上のアルキル基を有することがさらに好ましい。一方、上記炭素数の上限としては、10以下が好ましい。上記シリカが表面に炭素数4以上のアルキル基を有することで、シリカとポリテトラフルオロエチレン間の密着力が大きくなって伸びが向上するので、当該誘電体シートは耐折性に優れる。またアルキル基は直鎖アルキルであることが好ましく、炭素数4以上のアルキル基としては、例えばブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、へプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基が挙げられる。
【0078】
当該誘電体シートは、シリカ以外の無機フィラー、例えば酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、タルク、硫酸バリウム、窒化ホウ素、酸化亜鉛、チタン酸カリウム、ガラス、酸化チタン、マイカを含んでいてもよい。無機フィラーは一般に線膨張係数が小さいため、シリカ以外の無機フィラーを配合する場合は、その配合量に応じて、シリカの配合を減量できる。上記無機フィラーとしては、酸化チタンが好ましい。酸化チタンを適量含むことで、誘電体の温度変化を調整できる。誘電体シートの加工性の観点から、酸化チタンの粒径は0.1μm以上、5.0μm以下が好ましい。また、酸化チタンの配合量としては、誘電体の温度変化の調整のしやすさ及び低誘電率付与の観点から、シリカに対する質量比を0.01以上0.30以下、より好ましくは0.02以上0.10以下とすることが好ましい。
【0079】
誘電体シート1は、ポリテトラフルオロエチレン以外のその他のフッ素樹脂を含有してもよい。この場合、誘電体シート1中のその他のフッ素樹脂の含有量の上限としては、10質量%が好ましく、5質量%がより好ましい。
【0080】
また、誘電体シート1は、任意成分として、例えば難燃剤、難燃助剤、顔料、酸化防止剤、反射付与剤、隠蔽剤、滑剤、加工安定剤、可塑剤、発泡剤等を含むことができる。この場合、誘電体シート1中の任意成分の含有量の上限としては、25質量%が好ましく、10質量%がより好ましい。
【0081】
上記難燃剤としては、公知の種々のものを使用でき、例えば臭素系難燃剤、塩素系難燃剤等のハロゲン系難燃剤などを挙げられる。
【0082】
上記難燃助剤としては、公知の種々のものを使用でき、例えば三酸化アンチモン等を挙げられる。
【0083】
上記顔料としては、公知の種々のものを使用でき、例えば酸化チタン等を挙げられる。
【0084】
上記酸化防止剤としては、公知の種々のものを使用でき、例えばフェノール系酸化防止剤等を挙げられる。
【0085】
上記反射付与剤としては、公知の種々のものを使用でき、例えば酸化チタン等を挙げられる。
【0086】
当該誘電体シートは、厚さ方向の縦断面において、上記ポリテトラフルオロエチレンを主成分とする層状の第1相と、上記シリカを主成分とする層状の第2相とを有することが好ましい。当該誘電体シートが層状の第1相及び層状の第2相を有することで、ポリテトラフルオロエチレンとシリカの各々の特徴、例えばポリテトラフルオロエチレンの繊維化による高伸び性及び高強度化という特徴をより発揮し易くできる。
【0087】
上記第1相の厚さとしては、0.1μm以上10.0μm以下であることが好ましく、0.1μm以上5.0μm以下であることがさらに好ましく、0.1μm以上3.0μm以下であることがさらに好ましい。上記第1相の層の厚さが小さすぎる場合では、ポリテトラフルオロエチレンの繊維化による高伸び性及び高強度化という特徴が発揮されがたく、大きすぎる場合は、線膨張係数の低下が困難になる、シリカが高密度の凝集する結果、その部分が脆くなり、誘電体シートの伸びが低下するという問題を生じるためである。上記第1相の層の厚さは、ポリテトラフルオロエチレンの粒径、シリカの粒径、ポリテトラフルオロエチレンとシリカの攪拌状態、押出成形及び圧延条件により調整が可能である。
【0088】
上記第1相及び第2層は、具体的には、誘電体シートの断面試料をクロスセクションポリッシャ法で作成し、走査電子顕微鏡にて3000倍の倍率でシートの面内方向の長さ42μm、厚さ方向の長さ30μmを観察した際に観察される。
図2に、上記走査電子顕微鏡を用いて当該誘電体シートの厚さ方向の縦断面を撮影した画像を示す。
図2に記載の誘電体シートは、ポリテトラフルオロエチレンの平均粒径が500μm、シリカの平均粒径が0.5μm、ポリテトラフルオロエチレンに対するシリカの質量比が1.9、押出成形におけるリダクションレシオが4.4、圧延する工程での圧下率が0.98の条件で製造した。濃い線状の層がポリテトラフルオロエチレンを主成分とする第1相11である。球状のシリカを主成分とする領域が第2相12である。
【0089】
当該誘電体シートは、厚さ方向の縦断面において、シリカの分布が均一であることが好ましい。上記縦断面において誘電体シートの表面から10μm以内の距離にあるエリアにあるシリカの断面積の総和に対する上記縦断面において誘電体シートの裏面から10μm以内の距離にあるシリカの断面積の総和の比としては、1.00以上1.20以下であることが好ましく、1.00以上1.10以下であることがより好ましく、1.00以上1.05以下であることが更に好ましい。上記シリカの断面積の総和の比率が上記範囲を外れると、誘電体シートの表面上に設けられた電気回路と、誘電体シートの裏面上に設けられた電気回路との高周波特性が異なり、電気回路及び電気部品の設計が困難になるためである。上記シリカの断面積の総和の比率の計測において、誘電体シートの表面に対応する線の長さと、誘電体シートの裏面に対応する線の長さは共に500μmとする。
【0090】
誘電体シート1の平均厚さの下限としては、30μmが好ましく、50μmがより好ましく、100μmがさらに好ましい。一方、誘電体シート1の平均厚さの上限としては、1000μmが好ましく、500μmがより好ましく、300μmがさらに好ましい。上記平均厚さが上記下限未満であると、機械的強度が不十分となるおそれがある。また、寸法の誤差が電気回路の高周波特性に与える影響が大きくなるため、回路設計及び回路部品の製造が困難となるおそれがある。一方、上記平均厚さが上記上限を超えると、高周波プリント配線板用基板の厚さが大きくなりすぎるおそれがあると共に、誘電体シート1に可撓性が求められる場合には可撓性が不十分となるおそれがある。ここで、「平均厚さ」とは、対象物の厚さ方向に切断した断面における測定長さ内の表面側の界面の平均線と、裏面側の界面の平均線との間の距離を指す。「平均線」とは、界面に沿って引かれる仮想線であって、界面とこの仮想線とによって区画される山の総面積(仮想線よりも上側の総面積)と谷の総面積(仮想線よりも下側の総面積)とが等しくなるような線を指す。誘電体シートの厚みの最大値と最小値との差異の上限は、誘電体シート1m2において、±10μm以下であることが好ましく、±5μm以下であることが更に好ましく、±2μm以下であることが更に好ましい。上記差異の上限が、上記範囲を外れると回路設計及び回路部品の製造が困難になるおそれがあるためである。
【0091】
当該誘電体シートによれば、高周波特性及び耐折性に優れる。当該誘電体シートは、高周波プリント配線板基板のベースフィルムに好適である。
【0092】
<高周波プリント配線板用基板>
図3は、当該高周波プリント配線板用基板の模式的断面図である。
図3に示すように、当該高周波プリント配線板用基板3は、当該誘電体シート1と、上記誘電体シート1の表面に直接又は間接に積層される銅箔2とを備えている。すなわち、当該高周波プリント配線板用基板3は、銅張積層板(CCL:Copper Clad Laminate)を備える。このように、当該高周波プリント配線板用基板3が当該誘電体シート1を備えることで、当該高周波プリント配線板用基板は高周波特性及び耐折性に優れる。
【0093】
誘電体シートの構成の詳細は、上述した通りである。
【0094】
[銅箔]
銅箔2は、エッチング等されることで高周波プリント配線板の導体パターンを構成するものである。
【0095】
銅箔2は、導電層として用いられるものであり、プリント配線板を製造する際に、例えばエッチングにより種々のパターンに加工される。
【0096】
銅箔2としては、プリント配線板に適用可能な銅箔であれば特に限定されず、要求特性等に応じて適宜選択すればよい。銅箔2の銅の純度の下限としては、99.5質量%が好ましく、99.8質量%がより好ましい。また、上記純度の上限としては、99.999質量%が好ましい。上記純度を上記下限以上とすることで、銅箔2の抵抗を下げられるため、伝送損失をより抑制できる。一方、上記純度が上記上限を超えると、コスト増加につながるおそれがある。また銅箔の表面には、プリント配線板用銅箔の表面処理として一般的になされる処理、すなわち防錆を目的とした処理や、密着性向上を目的としてなされる処理がされていることが好ましい。それらの処理は、Zn、Ni、Cr、Si等からなる層を銅箔の表層に形成することによりなされる。
【0097】
銅箔2の平均厚さの下限としては、5μmが好ましく、10μmがより好ましい。一方、上記平均厚さの上限としては、100μmが好ましく、75μmがより好ましい。銅箔が厚いと、流せる電流の容量が大きく、また熱伝導性が良いという利点がある。しかし高周波プリント配線板の多層化、薄型化の要請を重視するならば、上記平均厚さの上限としては20μmが好ましく、15μmがより好ましい。
【0098】
上記銅箔の上記誘電体シート側の表面の最大高さ粗さRzの上限としては、2μmが好ましく、1μmがより好ましい。上記誘電体シート側の表面の最大高さ粗さRzが上記範囲であることで、表皮効果により高周波信号が集中する部分の凹凸が小さくなり、電流が直線的に流れやすくなるため、伝送損失をより抑制できる。従って、当該高周波プリント配線板用基板の高周波特性をより向上できる。
【0099】
当該高周波プリント配線板用基板3は、誘電体シート1及び銅箔2以外のその他の層を備えていてもよい。
【0100】
当該高周波プリント配線板用基板3の上記銅箔2は、上記誘電体シート1の少なくとも一方の面の表面に公知の接着剤層のような中間層を介して積層されていてもよい。例えば接着剤層は、誘電体シートに積層され、この誘電体シート1に銅箔2を接着するものである。
【0101】
当該高周波プリント配線板用基板は、当該誘電体シートを有するので、高周波特性及び耐折性に優れる。高周波プリント配線板用基板3は、例えばサブトラクティブ法用のプリント配線板用基板として使用できる。高周波プリント配線板用基板3をサブトラクティブ法に適用する場合は、銅箔2にレジストパターン等のマスキングを施してエッチングすることにより、銅箔2がパターニングされて銅配線等が形成される。当該高周波プリント配線板用基板は、高周波を用いた通信機器等に好適に用いられる。
【0102】
[その他の実施形態]
今回開示された実施の形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は、上記実施形態の構成に限定されるものではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変さらが含まれることが意図される。
【0103】
当該高周波プリント配線板用基板は、上記実施形態のように誘電体シートの一方の面に銅箔が積層されていてもよく、誘電体シートの両面に銅箔が積層されていてもよい。
【0104】
当該高周波プリント配線板用基板は、必ずしもフレキシブルプリント配線板の基板として用いられる必要はなく、リジッドプリント配線板の基板として用いられてもよい。
【実施例】
【0105】
以下、本開示を実施例に基づいて具体的に説明するが、本開示は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0106】
[誘電体シートNo.1~No.16(試験例No.1~No.16)]
(1)材料を混合する工程
平均粒径が500μmのポリテトラフルオロエチレンと、表1に記載の平均粒径のシリカと、平均粒径が0.2μmの酸化チタンと、助剤としてナフサを、表1に記載の分量で容器に取った。ナフサの配合量は、他材料の合計の17質量%に相当する。容器を10℃下で、5rpmの速度で100分回転させて材料を混合した。No15においてはシランカップリング処理により表面にビニル基を付与したシリカを、No16においてはシランカップリング処理により表面にヘキシル基を付与したシリカを用いた。その他においては表面処理を行わなかった。表面にビニル基を付与したシリカの疎水度は0.08、表面にヘキシル基を付与したシリカの疎水度は0.10である。
【0107】
(2)押出成形する工程
次に、材料を混合する工程で得られた混合物を、金型を用いて押出成形を行った。押出成形型の温度は45℃である。成形圧力は、通常の装置では高圧まで計測できないため、小型の押出成形装置とみなせるキャピラリーレオメーター(東洋精機 CAPIROGRAPH 1C)にて行った。成形圧力を表1に示す。押上成形温度は60℃である。キャピラリーの穴径を変更することでリダクションレシオを調整した。キャピラリーの径はシリンダと接続する太い部分から、先端の穴の部分まで漸減し、キャピラリーの対称軸を含む断面図においてキャピラリーの内壁に相当する二本の線の成す角度は90度である。
【0108】
(3)圧延する工程
2枚のキャリアフィルム(125μm厚のポリエチレンテレフタレート(PET))で4mm厚みの押出成形品を挟み、二本の200mmφ、幅300mmの圧延ロール間を通過させた。そして、125μmの厚みまで圧延を行うことにより誘電体シートを得た。圧延ロールの温度は55℃である。圧延速度は1m/分である。圧延の方向は、押出成形品の押出方向と、押出方向に直交する幅方向とで行い、伸び異方性係数を調整した。具体的には4mmから125μmへの圧延の約9割は幅方向に行った。次に、キャリアフィルムから上記誘電体シートを剥離し100℃で2日乾燥した。そして、No.1~No.11誘電体シートを熱プレスに挟み、厚み方向に4MPaの圧力で圧縮しながら、350℃で40分間加熱した。
【0109】
[評価]
上記No.1~No.11の誘電体シートについて、下記の評価を実施した。
【0110】
(線膨張係数)
「線膨張係数」とは、JIS-K7244-4(1999)に記載の動的機械特性の試験方法に準拠して測定される線膨張率である。
【0111】
初めに、No.1~No.11の誘電体シートを切り出し、TMA(日立ハイテクサイエンスSS7100)を用いて、サンプル長:10mm、引張荷重5gfの条件で測定を行った。5℃/分の速度で-30℃から200℃の間を昇温後に、同速度で降温する際の120℃から20℃の寸法変化から線膨張係数を算出し、3段階で評価した。表1において、この値が40ppm/℃以上の場合は寸法変化が大きいとしてC(不良)、30ppm/℃以上40ppm/℃未満の場合はB(可)、30ppm/℃未満の場合をA(良好)と判定した。
【0112】
(引張伸び率)
IPC-TM-650 2.4.19に準拠して、オートグラフ(島津製作所製AGS-X)を用いて25℃で測定を行い、最大引張伸び率、最小引張伸び率及び伸び異方性係数を求めた。
【0113】
(成形圧力)
成形圧力の結果に基づいて、下記の3段階の基準に基づいて押出性能を評価した。Aが良好、Bが可、Cが不良である。
【0114】
A:70MPa未満
B:70MPa以上90MPa未満
C:成形圧力が90MPa以上
成形圧力が90MPa以上の場合、通常の押出成形装置を用いて押出せず、さらに、押出成形方向の繊維化が進みすぎる結果、伸び異方性係数が小さい誘電体シートを得ることが困難になるためCと判定した。
【0115】
(押出外観)
押出成型後の外観について、下記の3段階の基準に基づいて評価した。Aが良好、B及びB´が可、Cが不良である。
【0116】
A :外観の問題なく、良好である
B :わずかに中央部の波打ちの痕跡が見られる
B´:わずかに端部の詰まりが見られる
C :外観性状が劣る
【0117】
(疎水度)
シリカをマイクロトラップ・ベル株式会社製のBelprep vac-IIを用いて100℃で真空加熱を行い、液体窒素温度下における窒素ガス吸着法による吸着等温線を測定しBET法にて窒素吸着でのBET比表面積を求めた。次に同様にシリカをマイクロトラップ・ベル株式会社製のBelprep vac-IIを用いて100℃で真空加熱を行い、25℃にて吸着等温線を測定しBET法にて水蒸気吸着でのBET比表面積を求めた。この水蒸気吸着でのBET比表面積の値を窒素吸着でのBET比表面積の値で割ることにより疎水度を計算した。この値が低いほど疎水的である。
【0118】
No.1~No.16の誘電体シートの評価結果を表1に示す。なお、「-」は、該当する成分を含まないことを表す。
【0119】
【0120】
表1の結果より、ポリテトラフルオロエチレンに対する上記シリカの質量比が1.3以上、上記シリカの平均粒径が0.1μm以上3.0μm以下、かつリダクションレシオが8以下である試験例No.3、No.5~No.8及びNo.15、No.16並びにポリテトラフルオロエチレンに対する上記シリカの質量比が1.3以上であり、平均粒径が0.1μm以上0.9μm以下の第1シリカと平均粒径4μm以上9μm以下の第2シリカとを含み、上記第1シリカの上記ポリテトラフルオロエチレンに対する質量比が0.2以上1.9以下であり、リダクションレシオが8以下である試験例No.12~No.14は、線膨張係数及び成形圧力において良好な結果が得られた。
【0121】
一方、シリカを含有していない試験例No.1及びポリテトラフルオロエチレンに対する上記シリカの質量比が1.3未満である試験例2は、線膨張係数が高くなった。さらに、リダクションレシオが8を超える試験例No.4、並びにシリカの平均粒径が3μmを超える試験例No.9、No.10及びNo.11は、成形圧力が高くなった。
【0122】
また、表面処理としてビニル基を処した試験例No.15、ヘキシル基を処した試験例No.16、及び未処理の試験例No.8とを比較すると、ヘキシル基を処した試験例No.16の方が疎水性の度合いが高いビニル基を処した試験例No.15よりも最小引張伸び率が大きく向上した。このことから、シリカ表面の疎水度を高くするよりも、シリカが表面に炭素数4以上のアルキル基を有することで、シリカとポリテトラフルオロエチレン間の密着力を高くするほうが耐折性の向上効果に優れることがわかる。
【0123】
以上の結果、当該誘電体シートの製造方法は、高周波特性に優れる誘電体シートを低圧下での押出成形により確実に製造できることが示された。
【符号の説明】
【0124】
1 誘電体シート
2 銅箔
3 高周波プリント配線板用基板
11 第1相
12 第2相