(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-20
(45)【発行日】2025-01-06
(54)【発明の名称】カバー部材
(51)【国際特許分類】
B60R 5/04 20060101AFI20241223BHJP
【FI】
B60R5/04 T
(21)【出願番号】P 2022530474
(86)(22)【出願日】2021-05-31
(86)【国際出願番号】 JP2021020687
(87)【国際公開番号】W WO2021251193
(87)【国際公開日】2021-12-16
【審査請求日】2024-02-14
(31)【優先権主張番号】P 2020102449
(32)【優先日】2020-06-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000251060
【氏名又は名称】林テレンプ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】河井 慎之介
【審査官】久保田 信也
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-015455(JP,A)
【文献】実開平05-010919(JP,U)
【文献】特開2008-155811(JP,A)
【文献】特開2016-060070(JP,A)
【文献】特開2001-191854(JP,A)
【文献】実開昭59-192440(JP,U)
【文献】特開2007-038854(JP,A)
【文献】特開2020-181063(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 5/04
B60R 7/08 - 7/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中央部分と、前記中央部分の外周に位置する外周部分と、を含むカバー部材であって、
互いに対向するように配置された一対のシート状の表皮材と、吸音層と遮音層の少なくとも一方を含む中間層と、前記外周部分に位置する外周保持部材と、を有し、
前記一対の表皮材は、前記外周部分では互いに重なり合った状態で前記外周保持部材によって保持され、前記中央部分では互いに間隔をおいて対向し、
前記中間層は、前記中央部分において前記一対の表皮材の間の空間内に配置されて
おり、
前記外周保持部材は、ワイヤと、前記ワイヤの少なくとも一部を包み込むとともに、一部が前記表皮材に重なり合う布部材と、を含み、
前記カバー部材の厚さ方向における、前記布部材が前記ワイヤの少なくとも一部を包み込んでいる部分の前記カバー部材全体の厚さよりも、前記中間層の最大厚さが大きいことを特徴とする、カバー部材。
【請求項2】
前記中央部分において、前記中間層と一方の前記表皮材との間に隙間が存在することを特徴とする、請求項1に記載のカバー部材。
【請求項3】
前記カバー部材は車両の荷室に配置され、
前記中間層は、前記遮音層と、前記遮音層の上方に位置する吸音層とを含むことを特徴とする、請求項1または2に記載のカバー部材。
【請求項4】
前記布部材は、前記表皮材に対して縫合されることによって固定されており、前記中央部分から前記外周部分に向かう方向における前記外周部分の中心位置よりも前記中央部分側に前記布部材の縫合部分が位置するとともに、前記中心位置よりも外側に前記表皮材の端縁部が位置することを特徴とする、請求項
1から3のいずれか1項に記載のカバー部材。
【請求項5】
前記中央部分の一部に、前記中間層が存在しないか、または前記中間層の厚さが薄い薄肉部が設けられていることを特徴とする、請求項1から
4のいずれか1項に記載のカバー部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はカバー部材に関する。
【背景技術】
【0002】
車両には、特許文献1に記載されているような、荷室の開口部を覆うトノカバー等のカバー部材や、特許文献2に記載されているような内装材が設けられている。特許文献1に記載されているトノカバーは、略矩形状に繋げられたワイヤと、ワイヤに沿ってワイヤを包む縁取り部材と、縁取り部材に取り付けられ、縁取り部材で囲まれた領域を覆うシートと、を有する。また、特許文献2に記載されている内装材は、通気性を有する意匠層と、通気性を有する緩衝材層と、意匠層と緩衝材層との間に設けられた通気接着層とを有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許6193560号公報
【文献】特許6360420号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されたトノカバーは、荷室の内部を外から視認されないように遮光性を有しているが、制振性を有してはいない。従って、荷室内に振動や騒音が発生した場合に、その振動や騒音を遮断することはできない。仮に、特許文献2に記載されている内装材をカバー部材に応用したとしても、各層が通気性を有しており、振動や騒音を遮断することはできない。特に、近年ではカバー部材の軽量化を求められているため、さらに制振性が乏しくなっている。
そこで、本発明の目的は、遮光性を有するとともに、振動や騒音を遮断することができるカバー部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の、中央部分と、中央部分の外周に位置する外周部分と、を含むカバー部材は、互いに対向するように配置された一対のシート状の表皮材と、吸音層と遮音層の少なくとも一方を含む中間層と、外周部分に位置する外周保持部材と、を有し、一対の表皮材は、外周部分では互いに重なり合った状態で外周保持部材によって保持され、中央部分では互いに間隔をおいて対向し、中間層は、中央部分において一対の表皮材の間の空間内に配置されており、前記外周保持部材は、ワイヤと、前記ワイヤの少なくとも一部を包み込むとともに、一部が前記表皮材に重なり合う布部材と、を含み、前記カバー部材の厚さ方向における、前記布部材が前記ワイヤの少なくとも一部を包み込んでいる部分の前記カバー部材全体の厚さよりも、前記中間層の最大厚さが大きいことを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によると、遮光性を有するとともに、振動や騒音を遮断することができるカバー部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の一実施形態のカバー部材の斜視図である。
【
図3】
図1,2に示すカバー部材の中央部分の拡大断面図である。
【
図4】本実施形態のカバー部材の防音性能を、従来のトノカバーの防音性能と対比して示すグラフである。
【
図5】本発明の他の実施形態のカバー部材の要部の断面図である。
【
図6】本発明のさらに他の実施形態のカバー部材の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
図1は本発明の一実施形態のカバー部材1の斜視図である。
図2は
図1のA-A線断面図である。
図3は
図1,2に示すカバー部材1の中央部分1aの拡大断面図である。
図1に示すように、カバー部材1は、従来のカバー部材と同様に、中央部分1aと、中央部分1aの外周に位置する外周部分1bと、を含む略矩形状の外形を有している。
図2に示すように、このカバー部材1は、主に、互いに対向するように配置された一対の遮光性を有するシート状の表皮材2a,2bと、中間層3と、外周部分に位置する外周保持部材4と、を有する。外周保持部材4は、シート状の部材を挟み込んで保持可能である。一対の表皮材2a,2bは、外周部分1bでは互いに重なり合った状態で外周保持部材4によって保持されている。そして、中央部分1aでは、一対の表皮材2a,2bが互いに間隔をおいて対向している。この中央部分1aの一対の表皮材2a,2bの間の空間内に、中間層3が配置されている。中間層3は、吸音層と遮音層の少なくとも一方を含む。
【0009】
一対の表皮材2a,2bは、それぞれ異なる材料からなるものであってもよい。例えば、上側の表皮材2aは、特許文献1のシートと同様な材料からなり、例えばナイロンやポリエステル等のジャージー織布等の伸縮性部材である。下側の表皮材2bは、例えばニードルパンチからなる。ここで言う上側および下側とは、カバー部材1が車両の荷室の開口部を覆うように配置された状態で上方に位置する側と下方に位置する側とを指す。上側は車両の居室側に位置し、下側は荷室の内部を向いている。下側の表皮材2bは、通常は目に触れないため、軽量のニードルパンチであってよい。しかし、この例に限られず、下側の表皮材2bも例えばナイロンやポリエステル等のジャージー織布等の伸縮性部材であってもよい。特許文献1のトノカバーでは、ワイヤから見て一方の側にジャージー織布等からなる1枚のシートが貼り付けられているだけである。しかし、本実施形態のカバー部材1では、後述する外周保持部材4のワイヤ4aから見て上側の表皮材2aと下側の表皮材2bがそれぞれ設けられている。各表皮材2a,2bは、中央部分1aから外周部分1bの一部に至るまで延びているが、カバー部材1の最外周の端縁までは到達していない。
【0010】
本実施形態の外周保持部材4は、ワイヤ4aと、ワイヤ4aの少なくとも一部を包み込む布部材4bと、を含む。
図2に示すように、本実施形態のワイヤ4aは断面が円形であり、布部材4bは、ワイヤ4aの外周側からワイヤ4aの断面の輪郭の半分程度に接してから、ワイヤ4aの上側と下側とにおいて中央部分1aに向かって延びて、上側と下側の表皮材2a,2bにそれぞれ重なり合う。ただし、ワイヤ4aの断面は円形に限らず長方形や台形等であってもよい。上側の布部材4bは、表皮材2aに重なり合う部分において、下側に向かって折り返されて上側の表皮材2aに接している。下側の布部材4bは、表皮材2bに重なり合う部分において、上側に向かって折り返されて下側の表皮材2bに接している。表皮材2a,2bは、ワイヤ4aに当接する位置またはその直前まで外周側に延びている。従って、ワイヤ4aは表皮材2a,2bの外周側に位置して、このワイヤ4aを外周側から覆う布部材4bが、ワイヤ4aよりも中央部分1a側において表皮材2a,2bに重なり合う。表皮材2a,2bが互いに直接重なり合う部分を、折り返されて2重になった布部材4bが上下から挟み込む。そして、布部材4bが表皮材2a,2bに対して縫合されて、外周保持部材4が表皮材2a,2bに固定される。表皮材2a,2bは、外周側の端部が実質的に全周に亘って外周保持部材4に挟み込まれて保持され、中央部分1aに存在する空間は外周側において封止される。
【0011】
図3に示すように、一対の表皮材2a,2bの間の空間に中間層3が配置されている。本実施形態の中間層3は、下側の表皮材2bから上側の表皮材2aに向かって、例えばポリエチレンからなる遮音層3aとフェルトからなる吸音層3bとが、この順番に積層された2層構造である。従って、中央部分1aでは、カバー部材1の厚さ方向において、下側の表皮材2b、遮音層3a、吸音層3b、上側の表皮材2aの順に並んでいる。本実施形態のカバー部材1は遮光性を有しており、例えば車両の荷室を覆うトノカバーとして用いられる場合に、荷室の内部の物品等を外部から見られないようにすることができる。さらに、中間層3が遮音層3aと吸音層3bの少なくとも1つを含んでいるため、荷室側から居室内に騒音が伝わることが抑えられる。
【0012】
従来のトノカバーは、特許文献1に記載されているように、1枚のジャージー織布等からなるシート(表皮材)によって遮光性を有しているものの、遮音性や吸音性には乏しかった。従って、荷室内で何らかの音が発生した場合や、車体の下部で発生した音が荷室内に侵入した場合に、それらの音はトノカバーを通して居室内に伝わり、乗員に対する騒音になっていた。それに対し、本実施形態のカバー部材1は、一対の表皮材2a,2bと、遮音層3aと吸音層3bの少なくとも1つを含む中間層3とを有しているため、遮光性を発揮するとともに、荷室内で発生した音や車体の下部から荷室内に侵入した音を、カバー部材1が遮断して、居室内に音が伝わることを抑えられる。従って、乗員に対する騒音を低減できる。
図4のグラフには、本実施形態による防音性能を、従来のトノカバーの防音性能と対比して示している。このグラフは、様々な周波数の音に対する防音性能を示すものであり、一般的な車両用内装材であるパッケージトレイの防音性能を基準(0dB)とした相対値で表している。このグラフから明らかなように、本実施形態のカバー部材1は、従来のトノカバーよりもはるかに高い防音性能を発揮する。また、一般的なパッケージトレイよりも全体的に防音性能が高い。本実施形態のカバー部材1は、乗員にとって特に耳障りである約1100Hz以上、特に1600Hz以上の高周波数の音に対して高い防音性能を発揮でき、実用上の効果が大きい。このように、本実施形態のカバー部材1によると、比較的軽量かつ安価な3つの層(例えば、ニードルパンチからなる下側の表皮材2bとポリエチレンからなる遮音層3aとフェルトからなる吸音層3b)を従来のカバー部材に追加するだけで、重量および製造コストをあまり高くすることなく、中間層3の制振性に基づく高い防音性能が実現できる。
【0013】
以上説明した本実質形態のカバー部材1の各層の、厚さの相対値と目付量の例について以下に記載する。
図3に示す例では、下側の表皮材2bの厚さは1.5tで目付量は150g/m
2、遮音層3aの厚さは0.5tで目付量は150g/m
2、吸音層3bの厚さは12tで目付量は400g/m
2、上側の表皮材2aの厚さは1tで目付量は200g/m
2~300g/m
2である。各層の厚さは、上側の表皮材2aの厚さを1tとした時の相対値で表している。特許文献1のトノカバーのように例えばジャージー織布からなる1層のシートのみを有する構成に比べて、
図3に示す構成では、3つの層(下側の表皮材2b、遮音層3a、吸音層3b)が追加されている。この追加の3層は互いに結合されていてもよく、例えば特許文献2の車両内装材と同様の構成を採用して、縫合構成等に比べて製造コストを低減することができる。ただし、この追加の3層を互いに結合されていない構成にすることもできる。本実施形態において、この追加の3層のトータルの目付量は700g/m
2である。特に、中間層3の目付量は100g/m
2~600g/m
2であると、軽量でありながら音の伝達を抑える効果が大きい。また、この中間層3の目付量を変更することにより、防音性能を調整することが可能である。例えば、中間層3の目付量を調整することによって、特に防音効果の大きい周波数帯を調整して、用途に応じたより適切な防音効果を得ることができる。
【0014】
本実施形態のカバー部材が、例えば車両の荷室に配置される場合に、中間層3の吸音層3bが遮音層3aの上方に位置することが好ましい。このような構成にすることによって、荷室からの音が居室内に伝わらないように遮音しつつ、居室内の音がカバー部材で反射して乗員に伝わることを抑えることができる。また、カバー部材1の上面側に柔らかい吸音層3bと上側の表皮材2aが位置しているため、カバー部材1の上面が柔軟で物品を乗せた時に安定する構成になる。
【0015】
前述したように中間層3は遮音層3aと吸音層3bとを有することが好ましい。しかし、図示しないが、中間層3が吸音層3bのみを有する構成や遮音層3aのみを有する構成でも、前述した本発明の効果を奏することができるため、本発明に含まれる。そのような構成の場合、コストの低減という点で効果的である。また、遮音層3aや吸音層3bが複数層設けられている構成にすることもできる。本発明のカバー部材は、通気性を持たない構成であると、音の伝達を抑制する効果がより大きいため好ましい。
【0016】
図2に示すように、カバー部材1の厚さ方向における、外周保持部材4の布部材4bがワイヤ4aの一部を包み込んでいる部分のカバー部材全体の厚さL1よりも、中間層3の最大厚さL2が大きいことが好ましい。このような構成によると、制振効果がより大きく、さらに、カバー部材1の上に物品を載せた場合の安定性が良い。中間層3がない構成や中間層3が薄い構成では、中央部分1aが薄く撓み易いために物品を載せた時の安定性に乏しいが、前述したように中間層3が厚い構成であると、安定して物品を保持することができる。
【0017】
前述したように、外周保持部材4の布部材4bが表皮材2a,2bに縫合される場合、
図2に示すように、中央部分1aから外周部分1bに向かう方向Bにおける、外周部分1bの中心位置Cよりも中央部分1a側に、布部材4bの縫合部分Sが位置するとともに、中心位置Cよりも外側に表皮材2a,2bの端縁部Eが位置することが好ましい。このような構成によると、中央部分1a内に発生または侵入した音が、表皮材2a,2bの端部から漏れても、外周保持部材4の布部材4bに遮られて、カバー部材1の外部に漏れることが抑えられる信頼性が高い。また、このような構成によると、外周保持部材4と表皮材2a,2bとが簡単かつ強固に接合される。
【0018】
図5に示す本発明のカバー部材の他の実施形態では、中央部分1aにおいて、中間層3と一方の表皮材、例えば上側の表皮材2aとが接触せず、中間層3と上側の表皮材2aとの間に隙間5が存在する。このような構成によると、隙間5による吸音効果によって、音の伝達を抑制する効果がさらに向上する。仮に、中間層3を安定して保持することが可能であれば、中間層3と下側の表皮材2bとが接触せず、中間層3と下側の表皮材2bとの間に隙間5が存在する構成にすることもできる。ただし、中間層3と両方の表皮材2a,2bとが接触しない構成にすると、中間層3自体が振動する可能性が高いため、好ましくない。
【0019】
図6に示す本発明のカバー部材のさらに他の実施形態では、中央部分1aの一部に、中間層3の厚さが薄い薄肉部6が設けられている。この構成によると、前述したように特に中間層3に起因して中央部分1aが厚い構成であっても、薄肉部6において折り畳むことが容易にできる。従って、中間層3を有し中央部分1aが厚いことにより前述した効果を奏しつつ、特許文献1のトノカバーと同様に折り畳んで収納しやすいというさらなる効果を得ることができる。なお、中央部分1aの一部において、中間層3が存在しない部分を設けることにより薄肉部6を形成することもできる。
【符号の説明】
【0020】
1 カバー部材
1a 中央部分
1b 外周部分
2a 上側の表皮材
2b 下側の表皮材
3 中間層
3a 遮音層
3b 吸音層
4 外周保持部材
4a ワイヤ
4b 布部材
5 隙間
6 薄肉部