(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-20
(45)【発行日】2025-01-06
(54)【発明の名称】流体試料を処理するピペッティング・デバイス及び方法
(51)【国際特許分類】
G01N 35/10 20060101AFI20241223BHJP
G01N 35/02 20060101ALI20241223BHJP
G01N 1/00 20060101ALI20241223BHJP
【FI】
G01N35/10 G
G01N35/02 A
G01N1/00 101K
(21)【出願番号】P 2022560876
(86)(22)【出願日】2020-04-21
(86)【国際出願番号】 EP2020061077
(87)【国際公開番号】W WO2021213635
(87)【国際公開日】2021-10-28
【審査請求日】2023-03-27
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】520083172
【氏名又は名称】ホンブレヒティコン システムズ エンジニアリング アクチェンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ティートケ、ハンス - ユルゲン
(72)【発明者】
【氏名】クインテル、ハラルド
(72)【発明者】
【氏名】ルッツェ、コンスタンティン
【審査官】森口 正治
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2007/029616(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/221040(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 35/10
G01N 35/02
G01N 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動化された実験室装置(10)を用いて流体試料(71)を処理する方法であって、
a
)自動化された実験室装置(10)を提供するステップ
であって、
前記実験室装置は、
前記流体試料(71)を受け入れるための処理チャンバ(100)と、
前記流体試料(71)に対して少なくとも1つの処理ステップを行うために前記処理チャンバ(100)内に配置されたピペッティング・デバイス(1)と、
前記処理チャンバ(100)の少なくとも1つの第1の空間方向(X)に移動可能に配置された移動デバイス(4)であって、前記移動デバイス(4)は前記ピペッティング・デバイス(1)に接続され、それにより前記ピペッティング・デバイス(1)が前記処理チャンバ(100)を通って移動され得る、移動デバイス(4)と、
前記流体試料(71)を分析するために前記処理チャンバ(100)内に配置された検出デバイス(5)と、
前記ピペッティング・デバイス(1)、前記移動デバイス(4)、及び前記検出デバイス(5)に信号接続された電子制御デバイス(3)と
を有し、
前記ピペッティング・デバイスは、
受入れ要素(11)、及び前記受入れ要素(11)に着脱可能に配置されたピペット先端部(12)と、
前記流体試料(71)を受け入れるため及び/又は排出するための流れを生成するために前記ピペット先端部(12)に流れ接続された変位要素(14)と
を有し、
前記ピペッティング・デバイス(1)は光学的に透明な延長部(13)を有し、前記延長部(13)は、前記延長部(13)が前記ピペット先端部(12)を介して前記変位要素(14)に流れ接続されるように前記ピペット先端部(12)に着脱可能に配置され、それにより前記流体試料(71)は、前記変位要素(14)によって生成可能な前記流れによって、前記延長部(13)内に受け入れられること及び/又は前記延長部(13)から排出されることができ、
前記延長部(13)は、取付け領域(131)であって、前記延長部(13)が前記取付け領域(131)を用いて前記ピペット先端部(12)上に配置される取付け領域(131)を有し、前記取付け領域(131)は前記ピペット先端部(12)の分注領域(120)に配置され、前記流体試料(71)は、前記分注領域(120)で前記ピペッティング・デバイス内に受け入れられること及び前記ピペッティング・デバイスから排出されることができる、ステップと、
b)前記流体試料(71)を前記処理チャンバ(100)内に導入するステップと、
c)前記延長部(13)を前記ピペット先端部上に配置する前に、液体を前記ピペット先端部(12)に受け入れ且つ前記ピペット先端部(12)から排出するステップと、
d)前記ピペッティング・デバイス(1)によって前記流体試料(71)を前記光学的に透明な延長部(13)に受け入れるステップと、
e)前記移動デバイス(4)によって、前記処理チャンバ(100)を通して前記ピペッティング・デバイス(1)を前記検出デバイス(5)に移動させるステップと、
f)前記流体試料(71)を有する前記光学的に透明な延長部(13)を前記検出デバイス(5)に導入するステップと、
g)前記検出デバイス(5)によって前記流体試料(71)を分析するステップと
を有する方法。
【請求項2】
前記検出デバイス(5)の放射線源(52)によって前記流体試料(71)に一次放射線(81)を照射するステップと、前記流体試料(71)から生じた二次放射線(82)を前記検出デバイス(5)の検出器(51)によって受け取るステップとを有する、請求項
1に記載の方法。
【請求項3】
前記二次放射線(82)に基づいて前記流体試料(71)の濃度を決定するステップを有する、請求項
2に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、独立請求項の前提部分による、流体試料を処理するためのピペッティング・デバイス、本発明によるピペッティング・デバイス用の光学的に透明な延長部、流体試料を処理するための自動化された実験室装置(laboratory apparatus)、及び流体試料を処理する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の試料を処理するとき、複数の処理ステップを実行しなければならない。この目的のために、マイクロウェル・プレートなどの容器にピペットで試薬を正確に出し入れすることを確実にしなければならないので、通常、自動化された実験室装置が使用される。
【0003】
ここで、現状技術の自動化された実験室装置は、通常、その中で試料が容器に導入される処理チャンバと、処理ステップを行うためのピペッティング・デバイスと、処理チャンバ内でピペッティング・デバイスを移動させる移動デバイスと、ピペッティング・デバイス、及び自動化された実験室装置の処理ステップを行うための他の部分を制御し指示する電子制御デバイスとを有する。
【0004】
したがって、自動化された実験室装置を使用することによって、自動化された試料調製プロセスの効率が向上し、処理量が改善されることが確実になる。
【0005】
しかしながら、ピペッティング・デバイスは自動化された実験室装置に使用されるだけでなく、液体を投与するためにも一般的に使用される。これらの液体は、先端開口部を通じてピペッティング・デバイスのピペット先端部(tip)に受け入れられて分注される。この目的のために、ピペット先端部用の受入れ要素によってピペット先端部に流れ接続された変位要素(displacement element)、特に気体用の変位要素がピペッティング・デバイスに組み込まれている。液体がピペット先端部に吸い込まれ、ピペット先端部から排出されるように、この変位要素によってエアクッションが変位させられる。変位要素は通常、その中に変位可能なピストンを有するシリンダーである。
【0006】
ピペット先端部は、使用後に新しいピペット先端部と交換することができるように、受入れ要素に着脱可能に接続される。このようにして、それに続く投与作業での汚染を避けることができる。使い捨て用のピペット先端部は、プラスチック製で安価に入手可能である。
【0007】
受入れ要素は特に、ピペット先端部を取り付けるための突出部、好ましくは円筒形又は円錐形の突出部を有し、その突出部にピペット先端部を、ぴったりと合う挿入開口部又は受入部で固定することができる。これは、ホルダーに設けられたピペット先端部の挿入開口部に突出部を押し込むことによって、ピペット先端部に触れることなく行うことができる。
【0008】
汚染を避けるために、ピペッティング・デバイスは、駆動デバイス及び排出器を有する排出デバイスを有することが好ましい。駆動デバイスを作動させることによって、使用者が触れる必要なくピペット先端部を突出部から外すように排出器が変位させられる。この目的のために、駆動デバイスは通常、ピペット先端部を受入れ要素から外すために、ボタンによって手動で(又は、自動化された実験室装置の場合には自動的に)作動させることができる機構を有する。
【0009】
マイクロリットルやピコリットルの範囲の極めて少ない量も、ピペッティング・デバイスで処理することができる。このようなピペッティング・デバイスは、生体分子(例えば、DNA、RNA、又はタンパク質)などの生体試料を含む生化学/生物工学試料の処理に特に有用である。
【0010】
自動化された実験室装置はまた、試料を分析するための光学検出デバイスを組み込んでいることが多い。分析は通常、分光法や測光法などの光学的技法で行われる。
【0011】
生体分子に対しては特に、生体分子の光子吸収に基づいて生成される発光が評価されるルミネセンス分光法が重要な分析方法である。
【0012】
この目的のため、蛍光標識によって大きな生体分子に蛍光化学基を付けることができ、これは、この生体分子の目印として役に立つ。
【0013】
多くのプロセスでは、流体試料(すなわち溶液中の関連分子)の濃度は、特に、さらなる処理にとって重要な役割を果たし、これは、特に、蛍光分光法によって容易に決定することができる。光学濃度(媒体を通過した後の放射線の減衰の尺度)も、濃度の決定に使用することができる。
【0014】
しかしながら、この検出デバイスでの流体試料の光学的分析は通常、非常に時間がかかり、流体試料の保存/受入れのための高価な分析機器を必要とする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
したがって、本発明の目的は、現状技術から知られているこれらの悪影響を回避する、ピペッティング・デバイス、自動化された実験室装置、及び流体試料を処理するための方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
この目的は、独立請求項の構成を有するピペッティング・デバイス、自動化された実験室装置、及び流体試料を処理するための方法によって満たされる。
【0017】
従属請求項は、本発明の特に有利な実施例に関する。
【0018】
本発明によれば、受入れ要素、及び受入れ要素に着脱可能に配置されたピペット先端部と、流体試料を受け入れる且つ/又は排出するための流れを生成するためにピペット先端部に流れ接続された変位要素とを有する、流体試料を処理するためのピペッティング・デバイスが提示される。
【0019】
ピペッティング・デバイスは、光学的に透明な延長部をさらに有し、この延長部は、延長部がピペット先端部を介して変位要素に流れ接続されるようにピペット先端部に着脱可能に配置され、その結果、変位要素によって生成することができる流れによって、流体試料を延長部に受け入れることができる且つ/又は延長部から排出することができる。
【0020】
本発明の枠組みの中では、ピペット先端部が変位要素に流れ接続されているという事実は、特に、ピペット先端部の第1の内部空間(液体又は流体試料を受け入れるのに適している)が、変位要素の作動によって、第1の内部空間を介して延長部への流れ接続を確立することができるように変位要素に接続されている(又は、ピペッティング・デバイスが延長部なしで使用されている場合、流体試料又は液体を、第1の内部空間に受け入れることができる)ことを意味すると理解することができる。本発明の枠組みの中で、延長部がピペット先端部を介して変位要素に流れ接続されているという事実は、特に、延長部の第2の内部空間(これも、液体又は流体試料を受け入れるのに適している)が、第1の内部空間を介した変位要素への流れ接続があるため、流体試料(又は液体)を変位要素の作動によって第2の内部空間に受け入れることができるように第1の内部空間に接続されていることを意味すると理解することができる。
【0021】
本発明によれば、非晶質ポリマーからなる、本発明によるピペッティング・デバイス用の光学的に透明な延長部がさらに提示される。延長部は、特にプラスチックを有することができ、特にシクロオレフィン・コポリマーからなることができる。シクロオレフィン・コポリマーは、通常、シクロオレフィンとalk-1-enesをメタロセン触媒で共重合して得られる。ポリエチレン及びポリプロピレンなどの半結晶性ポリマーとは対照的に、シクロオレフィン・コポリマーは非晶質であり、したがって光学的に透明である。複屈折が小さく、光学的に透明であることにより、シクロオレフィン・コポリマーは、(検出デバイスにおける)本発明による光学的分析のために用いることができることが特に好ましい。
【0022】
本発明によれば、流体試料を受け入れるための処理チャンバと、本発明によるピペッティング・デバイスであって、流体試料に対して少なくとも1つの処理ステップを行うために処理チャンバ内に配置されたピペッティング・デバイスと、処理チャンバの少なくとも1つの第1の空間方向に移動可能に配置された移動デバイスであって、移動デバイスによって、ピペッティング・デバイスを、処理チャンバの中を移動させることができるように、ピペッティング・デバイスに接続された移動デバイスと、流体試料を分析するために処理チャンバ内に配置された検出デバイスと、ピペッティング・デバイス、移動デバイス、及び検出デバイスに信号接続された電子制御デバイスとを有する、流体試料を処理するための自動化された実験室装置がさらに提示される。
【0023】
加えて、自動化された実験室装置を準備するステップと、流体試料を処理チャンバに導入するステップと、ピペッティング・デバイスによって流体試料を光学的に透明な延長部に受け入れるステップと、移動デバイスによってピペッティング・デバイスを、処理チャンバの中を検出デバイスに移動させるステップと、流体試料を有する光学的に透明な延長部を検出デバイスに導入するステップと、検出デバイスによって流体試料を分析するステップとを有する、自動化された実験室装置を用いて流体試料を処理する、本発明による方法が提示される。
【0024】
本発明の枠組みの中では、「光学的に透明」とは、延長部(少なくとも延長部の一領域)が、電磁波/放射線、特に紫外/可視の範囲及び/又は近赤外の範囲の電磁波/放射線に対して、それぞれ一次放射に対して透過性であることを意味する。
【0025】
本発明による光学的に透明な延長部により、特に、流体試料を分析するためのピペット先端部の一部が光学的に透明な材料、特に非晶質ポリマーからなる必要がなく、それによって、使い捨て用先端部のコストを削減することができるという利点が達成される。
【0026】
本願の枠組みの中では、「着脱可能」とは、ピペット先端部と延長部の両方が強固に取り付けられておらず、容易に取り外すことができ、したがって、特に使い捨て用のピペット先端部/延長部として容易に取り外して廃棄することができると理解することができる。
【0027】
本発明の枠組みの中では、「流体試料」という用語は、特に、生体分子(特に、DNA、RNA、核酸、タンパク質、細胞、及び細胞成分、モノマー)又は他の化学物質などの物質を含む流体を有する試料を意味するように理解することができる。本発明の枠組みの中では、流体は、例えば、適切な溶媒とすることができる。
【0028】
本発明によるピペッティング・デバイスでは、変位要素を、受入れ要素に組み込むことができ、特に受入れ要素の内部に配置することができる。ここで、変位要素は、受入れ要素内で変位可能なピストンとして設計することができる。
【0029】
本発明による延長部は、取付け領域と、取付け領域に配置された測定領域を有し、取付け領域を用いて延長部はピペット先端部に配置され、測定領域において流体試料の分析を行うことができる。この目的のために、測定領域は特別な形状とすることができ、特に、分注軸線に垂直な測定領域の断面形状は、矩形又は方形とすることができる。実際、分注軸線に垂直な光学的に透明な延長部の断面形状も、単に矩形又は方形とすることができる。その際、延長部は、ピペット先端部と形状係止することによって、ねじれないように固定することができる。したがって、分析前の延長部の位置合わせが不要である。
【0030】
実際、取付け領域は、ピペット先端部の(開口部の)分注領域に配置することができ、その分注領域において、流体試料をピペット先端部に受け入れることができ、ピペット先端部から排出することができる。
【0031】
本発明の実施例では、検出デバイスは、流体試料に一次放射線を照射するための放射線源と、(流体試料の分析のために)流体試料から生じる二次放射線を受け取るための検出器とを有することができる。放射線源は、したがって電磁放射線(一次放射線)を生成する。二次放射は、特に、流体試料から放射される/生じる電磁二次放射線であり、この二次放射線は、一次放射線と流体試料との相互作用により引き起こされる。
【0032】
ここで、特に190~1000nm、特に365~720nmの波長範囲の紫外/可視放射線、及び/又は近赤外放射線が、一次放射線として用いられることが特に好ましい。ダイオード、特にシリコン・フォトダイオード又は真空フォトダイオードが、検出器として特に好適である。放射線源として、レーザー、重水素ランプ、タングステン・ランプ、ハロゲン・ランプ、水銀ランプ、又はLED(Light emitting diode、発光ダイオード)を使用することができる。
【0033】
実際、検出デバイスはまた、複数の検出器及び/又は放射線源を有することができる。放射線源は、一次放射線として異なる波長又は波長範囲を放射することができる。ここでは、2つの放射線源の使用が特に好ましく、これらは、第1の波長(例えば、450~490nm)を有する第1の放射線源(好ましくは第1のLED)及び第2の波長(例えば、600~630nm)を有する第2の放射線源(好ましくは第2のLED)として設計される。複数の放射線源が存在する場合、分析は、共焦点的(コンフォーカル)に実行することができる。したがって、異なる放射線源からの一次放射線のビーム経路は、流体試料内の共通の焦点に向けられる。
【0034】
したがって、検出デバイスは、光度計、特に分光計、特に蛍光光度計であってもよい。蛍光光度計は、流体試料の蛍光のパラメータ:一次放射による励起後の(二次放射線の)発光スペクトルの強度と波長分布とを測定する。
【0035】
しかしながら、本発明の枠組みの中では、測定原理としては吸収測定が用いられることが特に好ましく、これによって、放射線源は、紫外/可視の範囲、及び/又は近赤外の範囲(特に、280nmなどの単一波長)の一次放射線を生成し、試料及び延長部を通過することによって減衰した光ビーム(二次放射線)は検出器によって捕捉される。吸収強度を特徴付けるために、吸光度又は光学濃度(媒体(試料及び延長部)における一次放射線の減衰のための尺度)を用いることが好ましい。
【0036】
流体試料の吸収は、放射線源と検出器との間の検出デバイスの測定点に、本発明による延長部内の流体試料を配置することによって測定されることが好ましい。
【0037】
本発明による方法の特に好ましい実施例では、光学的に透明な延長部に流体試料を受け入れる前に液体がピペット先端部に受け入れられ且つピペット先端部から排出される。したがって、この液体は、ピペッティング・デバイスによって処理チャンバを通って移動させることができ、特に、異なる容器/ウェル間で移動させることができる。その後、本発明による方法では、次いで、延長部をピペット先端部に配置することができ、分析のために流体試料を延長部に受け入れることができる。これは、(ピペット先端部を使用した後に)ピペット先端部を変えることなく、単に、延長部を取り付けるだけで流体試料を分析することができるという利点を有する。これは、例えば、ピペット先端部から液体が流体試料に導入され、次いで、延長部が取り付けられた後に流体試料が延長部に受け入れられる場合に特に有利である。ピペット先端部を変えることなく、汚染が回避され、流体試料の分析が可能になる。
【0038】
実際、この分析は、流体試料に一次放射線を検出デバイスの放射線源によって照射するステップと、流体試料から生じる二次放射線を検出デバイスの検出器によって捕捉するステップとを有することができる。分析中、流体試料の濃度はまた、二次放射線に基づいて決定することができる。
【0039】
実際、容器は通常、流体試料を受け入れるために処理チャンバ内に配置される。特に、容器はマイクロタイタ・プレートとすることができ、ここで、マイクロタイタ・プレートは、これらの流体試料(又は様々な流体試料)を受け入れるための複数のウェルを有する。
【0040】
実際、ピペッティング・デバイスは、使用者が触れる必要なくピペット先端部を受入れ要素から外すように排出器を変位させることによって、駆動デバイスを作動させることによってピペット先端部を排出するために、駆動デバイス及び排出器を有する、現状技術から知られている排出デバイスを有することができる。加えて、排出デバイスは、使用者が触れることなくピペット先端部から延長部を外すように延長部排出器を変位させることによって、駆動デバイスを作動させることによって延長部を排出するために延長部排出器を有することができる。この目的のために、延長部排出器は、ピペット先端部の周りを延長部まで移動し、延長部のみが排出されるように、ピペット先端部よりも大きな半径と延長部よりも小さな半径を有するスリーブとして設計することができる。加えて、延長部排出器は、延長部の排出中にピペット先端部を固定する把持機構を有することができる。この延長部排出器により、延長部を排出した後、さらなるステップのためにピペット先端部を使用することが可能である。
【0041】
電子制御デバイスが、ピペッティング・デバイス、移動デバイス、及び検出デバイスに信号接続されるという事実は、動作状態において、制御デバイスが、ピペッティング・デバイス、移動デバイス、及び検出デバイスに処理ステップを行うための制御信号を送信することを意味する。加えて、ピペッティング・デバイス、移動デバイス、及び検出デバイスから信号を受信することもできる。
【0042】
信号接続は、ケーブル接続によって又は無線で行うことができる。無線信号接続の場合、データ/信号の伝送は、伝送媒体として自由空間(空気又は真空)を通じて行われる。伝送は、指向性又は非指向性の電磁波によって行うことができ、使用される周波数帯の範囲は、用途及び使用される技術に応じて、数ヘルツ(低周波)から数百テラヘルツ(可視光)まで変わり得る。このためにブルートゥース(登録商標)(Bluetooth)又はWLANが使用されることが好ましい。したがって、検出デバイスを制御デバイスによって制御することができるだけでなく、流体サンプルが分析された後、測定データを制御デバイスに伝送して評価することができ、例えば、さらなる処理の前に流体試料の濃度を決定することができる。
【0043】
もちろん、検出デバイスを自動化された実験室装置全体に柔軟に移動させることができるように、移動デバイスはまた、第1の空間方向と直交する処理チャンバの第2の空間方向、並びに、第1の空間方向及び第2の空間方向と直交する処理チャンバの第3の空間方向に移動させることができることが好ましい。移動デバイスは、サーボ・モータなどの電気モータによって駆動されることが好ましく、例えば、自由に移動可能なアームとして、又はレールを介して移動することができる。
【0044】
本発明による方法では(又は動作状態では)、ピペッティング・デバイスは、したがって、移動デバイスによって処理チャンバの中をすべての空間方向(本願の枠組みの中では第1、第2、及び第3の空間方向)に移動させることができる。
【0045】
本発明によるピペッティング・デバイスの利点は、特に、既に存在するピペッティング・デバイスを本発明によるピペッティング・デバイスに置き換えることができるので、既知の自動化された実験室装置を本発明による自動化された実験室装置に容易に改造することができることである。
【0046】
以下、図面を参照して本発明を実施例に基づいてより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【
図1】本発明による自動化された実験室装置の概略図である。
【
図2】本発明による自動化された実験室装置のさらなる実施例の概略図である。
【
図3A】本発明によるピペッティング・デバイスの使用法の概略図である。
【
図3B】本発明によるピペッティング・デバイスの使用法の概略図である。
【
図3C】本発明によるピペッティング・デバイスの使用法の概略図である。
【
図3D】本発明によるピペッティング・デバイスの使用法の概略図である。
【
図3E】本発明によるピペッティング・デバイスの使用法の概略図である。
【
図3F】本発明によるピペッティング・デバイスの使用法の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0048】
図1は、本発明による自動化された実験室装置10の概略図である。
【0049】
流体試料71を処理するための自動化された実験室装置10は、流体試料を受け入れるための処理チャンバ100と、流体試料71に対して少なくとも1つの処理ステップを行うために処理チャンバ100に配置された、本発明によるピペッティング・デバイス1とを有する。
【0050】
流体試料71を処理するためのピペッティング・デバイス1は、受入れ要素11、及び受入れ要素11に着脱可能に配置されたピペット先端部12と、流体試料71を受け入れる且つ/又は排出するための流れを生成するためにピペット先端部12に流れ接続された変位要素(これは受入れ要素11に組み込まれている)とを有する。
【0051】
さらに、ピペッティング・デバイス1は、光学的に透明な延長部13を有し、この延長部13は、延長部13がピペット先端部12を介して変位要素に流れ接続されるようにピペット先端部12に着脱可能に配置され、その結果、変位要素によって生成することができる流れによって、流体試料71を延長部13に受け入れることができる且つ/又は延長部13から排出することができる。
【0052】
加えて、自動化された実験室装置10は、処理チャンバ100の少なくとも1つの第1の空間方向Xに移動可能に配置された移動デバイス4を有する。この移動デバイス4は、ピペッティング・デバイス1を、移動デバイス4によって処理チャンバ100の中を移動させることができるように、ピペッティング・デバイスに接続される。さらに、検出デバイス5が、流体試料71を分析するために処理チャンバ100内に配置されるとともに、ピペッティング・デバイス1、移動デバイス4、及び検出デバイス5に信号接続された電子制御デバイス3も配置される。加えて、流体試料71を受け入れるための複数のウェル70を有する容器7が、処理チャンバ100内に配置される。
【0053】
延長部13が光学的に透明であることは重要なことである。なぜならば、これは、検出デバイス5において流体試料71の分析を行うための唯一の方法であるからである。
【0054】
流体試料71を処理/分析する(方法)ためのステップは、ピペッティング・デバイス1、移動デバイス4、及び検出デバイス5に信号接続された電子制御デバイス3によって制御される。したがって、流体試料71が、変位機構を作動させることによって延長部13に受け入れられ、そして、分析のために延長部13とともに検出デバイス5に導入されることは電子制御デバイス3によって予め決められており、その結果、流体試料71は、延長部13で分析することができる。
【0055】
動作状態では、制御デバイス3は、したがって、様々な処理ステップを行うために、ピペッティング・デバイス1、移動デバイス4、及び検出デバイス5に制御信号を送信することができる。もちろん、制御デバイス3は、ピペッティング・デバイス1、移動デバイス4、及び検出デバイス5から信号を受信することもできる。信号の接続は、破線で示されている。
【0056】
検出デバイス5は、延長部13の導入後に流体試料71の分析が行われるように、制御デバイス3によって制御される。流体試料71の分析後、測定されたデータは、評価のために検出デバイス5から制御デバイス3へ伝送される。
【0057】
図2は、
図1による自動化された実験室装置10と同等の構造を有する、本発明による自動化された実験室装置10のさらなる実施例の概略図である。
【0058】
しかしながら、移動デバイス4は、これに加えて、第1の空間方向Xと直交する処理チャンバの第2の空間方向Yと、第1の空間方向X及び第2の空間方向Yと直交する処理チャンバの第3の空間方向Zに移動させることができ、その結果、検出デバイス5は、マイクロタイタ・プレートとして設計された容器7の様々なウェル70、及び検出デバイス5に柔軟に移動させることができる。
【0059】
動作状態では、ピペッティング・デバイス1は、したがって、移動デバイス4によって、処理チャンバ100の中を全ての空間方向X、Y、Zに移動させることができる。このようにして、特に、ピペット先端部12の受入れ要素11への取付け、延長部13のピペット先端部12への取付け(且つ、ピペット先端部12/延長部13のそれぞれ取外し)も行うことができる。
【0060】
図3A~
図3Fは、本発明によるピペッティング・デバイス1の使用法の概略図である。
【0061】
図3A~
図3Fによるピペッティング・デバイス1は、受入れ要素11と、受入れ要素11に着脱可能に配置されたピペット先端部12とを有する。流体試料71を受け入れる且つ/又は排出するための流れを生成するための変位要素14は、受入れ要素11に組み込まれ、したがって、ピペット先端部12に流れ接続される。変位要素14は、変位可能なピストンとして設計され、分注軸線Aに沿って移動することによって、エアクッション変位の形態で流れを生成する。
【0062】
図3A及び
図3Bにおいて、延長部13は、ピペット先端部12に取り付けられる。この目的のために、延長部13は、ピペット先端部が挿入される取付け領域131を有し、それによって、延長部13は、保存部6からピペッティング・デバイス1によって受け入れられる。
【0063】
加えて、延長部13は、取付け領域131に配置され、後で流体試料71の分析が行われる測定領域130を有する。
【0064】
より良い分析のために、光学的に透明な延長部13は、シクロオレフィン・コポリマーなどの非晶質プラスチックからなっており、分注軸線Aに垂直な測定領域130の断面形状は矩形である。
【0065】
これに続いて、
図3Cのピペッティング・デバイス1は、流体試料71を有する容器7に移動させられ、変位機構14を延長部13内に移動させることによって流体試料71を受け入れる。
【0066】
図3Dにおいて、流体試料71を有する延長部13は、検出デバイス5へ移動させられ、
図3Eにおいて、検出デバイス5内に導入される。
【0067】
検出デバイス5は、流体試料71に一次放射線81を照射するための放射線源52と、流体試料71から生じる二次放射線82を受け取るための検出器51とを有する。
【0068】
したがって、流体試料71は、放射線源52によって一次放射線81を照射され、検出器は、流体試料71から生じる二次放射線82を受け取る。
【0069】
放射線源52は、紫外/可視の範囲、特に190~1000nm、特に365~720nmの波長範囲の電磁放射線として一次放射線81を生成することが好ましい。二次放射線82は、特に、流体試料から生じる電磁二次放射線82であり、この二次放射線82は、一次放射線81と流体試料との相互作用により引き起こされる。測定原理としては吸収測定が用いられ、試料71及び延長部71を通過することによって減衰した光ビーム82(二次放射線)が検出器51によって捕捉される。
【0070】
加えて、液体をピペット先端部12に受け入れることができ、光学的に透明な延長部13に流体試料71を受け入れる前にピペット先端部12から排出することができ、次いで、延長部13をピペット先端部12に配置することができる。したがって、この液体は、処理チャンバ100内でピペッティング・デバイス1によって移動させることができ、特に、異なる容器/ウェル間で移動させることができる。その後、本発明による方法では、次いで、延長部13をピペット先端部12に配置して、分析のために流体試料71を延長部に受け入れることができる。これは、(ピペット先端部12を使用した後に)ピペット先端部12を変えることなく、単に、延長部13を取り付けるだけで流体試料71を分析することができるという利点を有する。ピペット先端部12を変えることなく、両方の汚染が回避され、流体試料の分析が可能になる。