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特許7608549工作機械の加工実績表示方法及び加工実績表示装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-20
(45)【発行日】2025-01-06
(54)【発明の名称】工作機械の加工実績表示方法及び加工実績表示装置
(51)【国際特許分類】
   G05B 19/4063 20060101AFI20241223BHJP
   G05B 19/418 20060101ALI20241223BHJP
   B23Q 17/00 20060101ALI20241223BHJP
【FI】
G05B19/4063 L
G05B19/418 Z
B23Q17/00 E
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2023148658
(22)【出願日】2023-09-13
【審査請求日】2023-09-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000154990
【氏名又は名称】株式会社牧野フライス製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100160705
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 健太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100227835
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 剛孝
(72)【発明者】
【氏名】市瀬 真弓
(72)【発明者】
【氏名】猪狩 真二
【審査官】小川 真
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-028640(JP,A)
【文献】特開平02-041852(JP,A)
【文献】特開2011-039708(JP,A)
【文献】特開2002-297223(JP,A)
【文献】特開平11-129147(JP,A)
【文献】特開平04-157506(JP,A)
【文献】国際公開第2019/064892(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 19/406-19/4063
G05B 19/418
B23Q 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1台又は複数台の工作機械を用い、各前記工作機械が複数の工具を順次交換して加工を行う1つ又は複数の加工工程を経てワークの加工を完了する工作機械の加工実績表示方法であって、
各前記加工工程において、前記工具毎の加工時間を計測すると共に記録し、
少なくとも1台の前記工作機械の少なくとも1つの前記加工工程において、記録した前記加工時間を前記工具毎に識別可能なグラフに時系列で累積表示すると共に、当該グラフと並べて、別の開始時刻の前記加工工程における前記加工時間を前記工具毎に識別可能に時系列で累積表示した別の前記グラフを並列で一覧表示し、
予め設定した標準加工時間を前記グラフと同一の時間軸で表示する、
ことを特徴とした工作機械の加工実績表示方法。
【請求項2】
1台又は複数台の工作機械を用い、各前記工作機械が複数の工具を順次交換して加工を行う1つ又は複数の加工工程を経てワークの加工を完了する工作機械の加工実績表示方法であって、
各前記加工工程において、前記工具毎の加工時間を計測すると共に記録し、
少なくとも1台の前記工作機械の少なくとも1つの前記加工工程において、記録した前記加工時間を前記工具毎に識別可能なグラフに時系列で累積表示すると共に、当該グラフと並べて、送り速度のオーバライドの変化の有無を時系列で累積表示した別の前記グラフを表示し、
予め設定した標準加工時間を前記グラフと同一の時間軸で表示する、
ことを特徴とした工作機械の加工実績表示方法。
【請求項3】
1台又は複数台の工作機械を用い、各前記工作機械が複数の工具を順次交換して加工を行う1つ又は複数の加工工程を経てワークの加工を完了する工作機械の加工実績表示方法であって、
各前記加工工程において、前記工具毎の加工時間を計測すると共に記録し、
少なくとも1台の前記工作機械の少なくとも1つの前記加工工程において、記録した前記加工時間を前記工具毎に識別可能なグラフに時系列で累積表示し、
加工を完了した各前記ワークについて、記録した前記工具毎の前記加工時間を累積して総加工時間を算出し、
前記総加工時間が予め設定した標準加工時間の範囲内であった第1グループと、前記総加工時間が予め設定した前記標準加工時間の範囲よりも短時間であった第2グループと、前記総加工時間が予め設定した前記標準加工時間の範囲よりも長時間であった第3グループと、に分類し、
分類した前記第1グループ、前記第2グループ及び前記第3グループをそれぞれ表す第1の記号、第2の記号及び第3の記号を、前記ワークのワーク分類番号に対応させて表示し、
予め設定した前記標準加工時間を前記グラフと同一の時間軸で表示する、
ことを特徴とした工作機械の加工実績表示方法。
【請求項4】
1台又は複数台の工作機械を用い、各前記工作機械が複数の工具を順次交換して加工を行う1つ又は複数の加工工程を経てワークの加工を完了する工作機械の加工実績表示方法であって、
各前記加工工程において、前記工具毎の加工時間のうち切削時間と非切削時間とを別個に計測すると共に記録し、
少なくとも1台の前記工作機械の少なくとも1つの前記加工工程において、記録した前記切削時間及び前記非切削時間を前記工具毎に識別可能なグラフに時系列で累積表示すると共に、前記切削時間だけの累積時間及び前記非切削時間だけの累積時間に分解したグラフを並べて表示し、
予め設定した標準加工時間を前記グラフと同一の時間軸で表示する、
ことを特徴とした工作機械の加工実績表示方法。
【請求項5】
1台又は複数台の工作機械を用い、各前記工作機械が複数の工具を順次交換して加工を行う1つ又は複数の加工工程を経てワークの加工を完了する工作機械の加工実績表示装置であって、
各前記加工工程において、前記工具毎の加工時間を計測すると共に記録する計測記録部と、
少なくとも1台の前記工作機械の少なくとも1つの前記加工工程において、記録した前記加工時間を前記工具毎に識別可能なグラフに時系列で累積表示し、当該グラフと並べて、別の開始時刻の前記加工工程における前記加工時間を前記工具毎に識別可能に時系列で累積表示した別の前記グラフを並列で一覧表示すると共に、予め設定した標準加工時間を前記グラフと同一の時間軸で表示する表示部と、
を備える工作機械の加工実績表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械の加工実績表示方法及び加工実績表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械の生産性の因子の一つである加工時間は様々な条件で変化する、すなわち、加工時間が進む又は遅れる。例えば、1つの加工プログラムで同じワークを何十個、何百個と加工する場合、加工プログラムを初めて実行する加工サイクルの初期段階では、加工プログラムの要所ごとにオペレータコール指令を書き込んでおき、オペレータが、その度に加工を中断させて、加工状態や加工寸法を確認したり、加工プログラムを部分的に修正したりすることがある。また、ワークを一定数加工することによって加工サイクルが安定期に入ったとしても、例えば、突発的に過負荷や異常振動のアラームによって工作機械が停止し、オペレータが介在して運転モードを手動に切り換えて復旧させる場合もある。アラームがない場合であっても、工作機械の自動機能で送り速度や主軸回転速度にオーバライドが掛かり、減速して問題を解決させることもある。このため、計画している標準加工時間と実際の加工時間との間に差が生じる場合がある。
【0003】
これに関して、特許文献1には、工具毎の時間を測定することに着目し、工具毎のサイクルタイム、工具毎の切削時間を把握して作業改善のための自動運転時間の検証をする工作機械の制御装置が開示されている。これによって、工作機械が正常の範囲で稼動しているか、どの工具のサイクルタイムが基準値より長くなっているか、どの工具の切削時間に問題があるのか、等を一覧して把握することができる。しかしながら、工作機械の生産性をより定量的に評価及び分析するためには、加工工程毎に標準的な加工時間と実際の加工時間とを対比できることが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第4312047号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記事情に鑑み、加工工程毎又は加工工程の工具毎の加工時間実績と、標準加工時間とを一覧表示して、オペレータが加工の遅れ又は進みの要因を容易に分析することができる工作機械の加工実績表示方法及び加工実績表示装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一の態様によれば、1台又は複数台の工作機械を用い、各工作機械が複数の工具を順次交換して加工を行う1つ又は複数の加工工程を経てワークの加工を完了する工作機械の加工実績表示方法であって、各加工工程において、工具毎の加工時間を計測すると共に記録し、少なくとも1台の工作機械の少なくとも1つの加工工程において、記録した加工時間を工具毎に識別可能なグラフに時系列で累積表示し、予め設定した標準加工時間をグラフと同一の時間軸で表示する、工作機械の加工実績表示方法が提供される。
【0007】
さらに、本発明の一の態様によれば、1台又は複数台の工作機械を用い、各工作機械が複数の工具を順次交換して加工を行う1つ又は複数の加工工程を経てワークの加工を完了する工作機械の加工実績表示方法であって、各加工工程において、工具毎の加工時間のうち切削時間と非切削時間とを別個に計測すると共に記録し、少なくとも1台の工作機械の少なくとも1つの加工工程において、記録した切削時間及び非切削時間を工具毎に識別可能なグラフに時系列で累積表示すると共に、切削時間だけの累積時間及び非切削時間だけの累積時間に分解したグラフを並べて表示し、予め設定した標準加工時間をグラフと同一の時間軸で表示する、工作機械の加工実績表示方法が提供される。
【0008】
また、本発明の一の態様によれば、1台又は複数台の工作機械を用い、各工作機械が複数の工具を順次交換して加工を行う1つ又は複数の加工工程を経てワークの加工を完了する工作機械の加工実績表示装置であって、各加工工程において、工具毎の加工時間を計測すると共に記録する計測記録部と、少なくとも1台の工作機械の少なくとも1つの加工工程において、記録した加工時間を工具毎に識別可能なグラフに時系列で累積表示すると共に、予め設定した標準加工時間をグラフと同一の時間軸で表示する表示部と、を備える工作機械の加工実績表示装置が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一の態様に係る工作機械の加工実績表示方法によると、1台又は複数台の工作機械を用い、各工作機械が複数の工具を順次交換して加工を行う1つ又は複数の加工工程において、工具毎の加工時間を計測すると共に記録する。さらに、少なくとも1台の工作機械の少なくとも1つの加工工程において、記録した加工時間を工具毎に識別可能なグラフに時系列で累積表示し、予め設定した標準加工時間をグラフと同一の時間軸で表示することができる。このため、加工工程毎又は加工工程の工具毎の加工時間実績と、標準加工時間とを一覧表示することができる。これによって、オペレータが加工の遅れ又は進みの要因を容易に分析することができる。
【0010】
本発明の一の態様に係る工作機械の加工実績表示方法によると、1台又は複数台の工作機械を用い、各工作機械が複数の工具を順次交換して加工を行う1つ又は複数の加工工程において、工具毎の加工時間のうち切削時間と非切削時間とを別個に計測すると共に記録する。さらに、少なくとも1台の工作機械の少なくとも1つの加工工程において、記録した切削時間及び非切削時間を工具毎に識別可能なグラフに時系列で累積表示すると共に、切削時間だけの累積時間及び非切削時間だけの累積時間に分解したグラフを並べて表示し、予め設定した標準加工時間をグラフと同一の時間軸で表示することができる。このため、1つのワークの加工における工具毎の切削時間及び非切削時間を一覧表示することができる。これによって、オペレータが加工の遅れ又は進みの要因を容易に分析することができる。
【0011】
本発明の一の態様に係る工作機械の加工実績表示装置によると、工具毎の加工時間を計測すると共に記録する計測記録部と、少なくとも1台の工作機械の少なくとも1つの加工工程において、記録した加工時間を工具毎に識別可能なグラフに時系列で累積表示すると共に、予め設定した標準加工時間をグラフと同一の時間軸で表示する表示部と、を備える。このため、1台又は複数台の工作機械を用い、各工作機械が複数の工具を順次交換して加工を行う1つ又は複数の加工工程において、記録した加工時間を工具毎に識別可能なグラフに時系列で累積表示し、予め設定した標準加工時間をグラフと同一の時間軸で表示することができる。これによって、加工工程毎又は加工工程の工具毎の加工時間実績と、標準加工時間とを一覧表示し、オペレータが加工の遅れ又は進みの要因を容易に分析することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、実施形態に係る生産システムの平面図を示す。
図2図2は、実施形態に係るパレットストッカの側面図を示す。
図3図3は、実施形態に係る加工実績分析装置のブロック図を示す。
図4図4は、工具毎の加工時間のガントチャートを示す。
図5図5は、加工時間及びオーバライドの有無のガントチャートを示す。
図6図6は、切削時間及び非切削時間のガントチャートを示す。
図7図7は、開始時刻の異なる同じ加工についての加工時間の一覧表示を示す。
図8図8は、開始時刻の異なる同じ加工についての工具毎の加工時間及び切削時間のガントチャートを示す。
図9図9は、ワークの種類毎の加工時間の表示例を示す。
図10図10は、ワーク毎の加工時間の表示例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して、実施形態に係る工作機械の加工実績表示装置としての加工実績分析装置100を説明する。同様な又は対応する要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。理解を容易にするために、図の縮尺を変更して説明する場合がある。
【0014】
図1に、多種の被加工物を生産加工するための生産システム10の概略的な平面図を示す。また、図2には、パレットストッカ(保管棚)12の概略的な側面図を示す。生産システム10は、ワークWを取付けたパレットP及びパレットP単体を保管するための保管棚として構成されたパレットストッカ12を備える。図2に示すように、パレットストッカ12は、パレットPを保管するための異なる高さの複数のストックエリアSを有し、各ストックエリアSは、パレットPを支持するための一対の脚部材Saを有する。パレットストッカ12は、加工工程を管理及び制御するための生産システム制御装置110と電気的に接続されており、パレットストッカ12に保管されているワークWの種類及び個数等の情報を生産システム制御装置110と通信できるように構成されている。
【0015】
図1に示すように、生産システム10には、ワークWの加工を行うため、1つ又は複数(図1では2つ)の工作機械としてのマシニングセンタ26A、26Bが配置されている。また、生産システム10は、オペレータが、ワークWのパレットPへの取り付け又はパレットPからの取外しを行うためのパレット段取装置34A、34B(以下、「段取装置34A、34B」と称する。)を備える。段取装置34A、34Bは、生産システム制御装置110と電気的に接続されており、段取装置34A、34BにおいてパレットPに段取りされたワークWの種類及び個数等の情報を生産システム制御装置110と通信できるように構成されている。
【0016】
生産システム10は、パレットストッカ12、マシニングセンタ26A、26B及び1つ又は複数の段取装置34A、34Bの間でワークWの受け渡しができるように、ワークWが取り付けられたパレットPを搬送するための搬送システム14を備える。
【0017】
搬送システム14は、搬送装置18を備え、搬送装置18は、パレットPを水平移動するための台車16と、パレットPを上下移動するための昇降装置20及び荷台22と、パレットPを荷台22へ移動させるためのスライド装置24とを有する。台車16は、パレットストッカ12、マシニングセンタ26A、26B及び段取装置34A、34Bとの間でワークWを移動させるために、水平方向に沿って設置されたレールR上を走行可能に構成されている。昇降装置20は、サーボモータ等のモータMによって上下動可能に構成され、昇降装置20に連結した荷台22を上下方向に移動することができる。ここでは、台車16が移動する方向に対して平行な軸方向をX軸方向と定義する。また、水平方向のうち、X軸方向に対して垂直な方向をZ軸方向と定義する。さらに、昇降装置20が上下する鉛直方向に対して平行な方向をY軸方向と定義する。
【0018】
スライド装置24は、荷台22上に配置され、荷台22に対してZ軸方向に移動する1つ又は複数のスライド部材及びパレットPと係合可能なフォーク(いずれも図示省略)を有する。このため、スライド装置24は、ワークWが取り付けられたパレットPを受け渡しするために、スライド部材を介してマシニングセンタ26A、26B、パレットストッカ12及び段取装置34A、34Bにアクセスすることができる。
【0019】
搬送システム14は、生産システム制御装置110と電気的に接続されており、生産システム制御装置110からの指令に応じて、パレットストッカ12、マシニングセンタ26A、26B及び1つ又は複数の段取装置34A、34Bの間でワークWの受け渡しをするように構成されている。
【0020】
図1に示すように、マシニングセンタ26A、26Bは、工作機械本体32と、加工前のワークWが取り付けられたパレットPと加工後のワークWが取り付けられたパレットPとを交換可能に構成されたパレットチェンジャPCを有するパレット待機ステーション36と、を備える。ワークWが取り付けられたパレットPは、搬送システム14のスライド装置24によって自動でパレット待機ステーション36へ移載され、又は、パレット待機ステーション36から搬送システム14へ移載される。さらに、マシニングセンタ26A、26Bは、NC加工を制御するためのNC装置28及び工作機械本体32の主軸33に取り付ける工具TLを収納するための工具マガジン30を備える。
【0021】
図3に示すように、加工実績分析装置100は、NC装置28における加工プログラムの実行時間を含む実行状況、すなわち、マシニングセンタ26A、26Bによる加工時間及びトラブルの有無に関する情報を取得し、これを表示部としての加工プログラム実行時情報表示部102(以下、「実行時情報表示部102」と称する)に表示可能に構成されている。また、加工実績分析装置100は、オペレータが実行時情報表示部102に表示された加工時間を含む加工実績を解析し、加工プログラムを修正することができるように構成されている。
【0022】
具体的には、NC装置28において加工プログラムが実行されると、NC装置28から計測記録部としての加工プログラム実行時情報取得部112へ加工プログラムの実行時情報が送信される(図中、F10)。加工プログラム実行時情報取得部112において取得(受信)した加工プログラムの実行時情報は、計測記録部としての加工プログラム実行時情報記録部114に記録される(図中、F20)。ここでいう、加工プログラムの実行時情報とは、工作機械識別子、工具TL毎の加工の開始及び終了時刻(加工時間)、実行中の加工プログラム番号、送りオーバライド値、プログラムストップON(実行中)/OFF(未実行)信号、主軸に装着された工具番号(T番号)、(発生している場合の)アラーム番号、切削送りON(切削送り中)/OFF(非切削送り中)信号、NC装置運転モード(メモリ運転モード、MDIモード、編集モード等)、工程識別子を含む。
【0023】
加工プログラムの実行時情報は、実行時情報表示部102へと送信され(図中、F30)、オペレータが加工の遅れ又は進みの要因を容易に分析できるように工具毎の加工時間を区別して後述するガントチャートの形式で表示される。なお、以下の説明では、実行時情報表示部102は、加工実績分析装置100に組み込まれた表示装置として説明するが、これに限らず、オペレータが持っている携帯端末の表示画面、マシニングセンタ26A、26Bの操作盤の画面、及び、工程管理に用いるコンピュータの画面であってもよい。
【0024】
また、実行時情報表示部102には、加工プログラム実行工程情報記録部116に記録された加工において実行工程の情報(加工プログラム実行工程情報)が表示される(図中、F40)。ここでは、加工プログラム実行工程情報とは、工程の識別情報(識別子,名称等)、ワークWの識別情報(識別子,名称等)、実行可能なマシニングセンタ26A、26BのID、各マシニングセンタ26A、26Bにおける工程実行時の加工プログラム番号、加工プログラムの標準実行時間(標準加工時間EMT)を含む。
【0025】
実行時情報表示部102に表示された加工実績を確認したオペレータは、加工プログラム実行時情報と加工プログラム実行工程情報を比較し、分析する。具体的には、例えば、実際の実行時間と標準実行時間の差を比較する。また、加工プログラム実行時情報に対してマシニングセンタ26A、26B識別子及び加工プログラム番号から加工プログラム実行工程情報を参照する。ここで、加工プログラム名やプログラム中のコメント等を用いて、加工プログラム実行時情報に工程を識別する情報を含めてもよい。分析した結果は、例えば,画面出力,レポートファイル出力といったオペレータが理解可能な形式で出力される。なお、これに限らず、分析結果は、コンピュータが処理可能な形式で出力されてもよい。このようにして出力される分析結果には、加工プログラム実行工程情報や修正対象となる加工プログラムの情報(修正した加工プログラムの全体及び/又は修正箇所)を含む。
【0026】
オペレータによる分析結果は加工プログラム修正部120へ送信され(図中、F50)、これに基づいて加工プログラムが修正される。修正された加工プログラムは、マシニングセンタ26A、26BのNC装置28へ送信され、加工プログラムが修正される、又は、書き換えられる(図中、F60)。ここで、加工プログラムの修正は、オペレータの手動で行われてもよく、又は、コンピュータによって自動修正されてもよい。
【0027】
オペレータによる分析結果は加工プログラム実行工程情報修正部118にも送信される(図中、F50)。加工プログラム実行工程情報修正部118は、分析結果に基づいて、加工プログラム実行工程情報を修正し、修正した加工プログラム実行工程情報を加工プログラム実行工程情報記録部116に記録する(図中、F70)。具体的には、例えば、標準実行時間EMTが修正される。ここで、加工プログラム実行工程情報の修正は、オペレータの手動で行われてもよく、又は、コンピュータによって自動修正されてもよい。
【0028】
なお、ここでは、加工プログラム実行時情報取得部112、加工プログラム実行時情報記録部114、加工プログラム実行工程情報記録部116、加工プログラム実行工程情報修正部118及び加工プログラム修正部120は、生産システム制御装置110に組み込まれているものとして説明するが、これに限らず、これらは、マシニングセンタのNC装置に組み込まれてもよく、マシニングセンタから独立したコンピュータ等に別個に構成されてもよい。
【0029】
図4から図10に示す実行時情報表示部102の表示例の説明を通じて、本実施形態に係る加工実績分析装置100及び加工実績表示方法の作用効果を以下に説明する。
【0030】
図4には、例えば、1つのマシニングセンタ26Aが、複数の工具TL1、TL2、TL3...を順次交換してワークWの加工を完了する1工程(1つの加工プログラムが対応)の加工実績表示の表示例を示す。図中には、工具TL1と工具TL2との間に、ごく短時間の加工を行う別の工具があるが、説明の便宜上省略している。具体的には、実行時情報表示部102は、加工工程において、計測した工具TL1、TL2、TL3毎の加工時間TM1、TM2、TM3を、工具TL毎の識別が可能なガントチャートに時系列で累積表示する。また、実行時情報表示部102は、同じワークWについて、開始時刻の異なる複数の加工実績を並列で一覧表示することができる。さらに、ガントチャートには、予め設定され、加工プログラム実行工程情報記録部116に記録された当該ワークWの標準加工時間EMTを加工実績と同一の時間軸で表示することができる。
【0031】
図4に示す例では、図中下段(開始時刻:2023/4/17 11:00)に示す加工実績は、他の加工実績(図中上段及び中段)と比べて、工具TL2、TL3の加工時間TM2、TM3が同程度になる一方で、別の工具TL1では他の加工実績と比べて加工時間TM1が長くなることなどがわかる。また、図中中段(開始時刻:2023/4/20 12:12)の総加工時間は、他の加工実績(図中上段及び下段)と比べて長く、標準加工時間EMTを超えていることがわかる。
【0032】
図5には、図4に示す工具TL1、TL2、TL3毎のガントチャートに加えて、送り速度のオーバライドODの変化の有無を時系列(ガントチャート)で表示することができる。図5に示す例では、図中中段(開始時刻:2023/4/20 12:12)の加工では、送り速度のオーバライドODが発生したため、総加工時間に影響を及ぼしていることが把握できる。このように、加工実績を時系列(ガントチャート)で表示することによって、標準加工時間EMTに比べて総加工時間が長くなる又は短くなるのは、どのようなイレギュラー要因に起因するのかを把握することができる。ここでいうイレギュラー要因とは、例えば、アラームの有無、オーバライドOD変更の有無、運転モード切替の有無及びオペレータコールなどの有無等を指す。このように実行時情報表示部102に加工実績を表示することによって、加工実績に影響を及ぼす要因を容易に分析することができ、生産性を改善することができる。
【0033】
さらに、図6には、加工毎に計測した工具毎の切削時間G01及び非切削時間STをガントチャートに累積表示した表示例を示す。ここでは、総加工時間に占める切削時間G01及び非切削時間STの対比を明確にするために、切削時間G01だけの累積時間と非切削時間STだけの累積時間とに分解したグラフを並べて表示することができる。ここで、G01は、加工プログラムで切削送りを表わすコード番号であり、非切削時間STをコード番号で表すと、G00である。
【0034】
図4図5及び図6の上段、中段、下段の各ガントチャートは、それぞれ関連しており、下段の工具TL1の加工時間TM1が長い原因を分析することができる。工具TL1は、加工工程の開始に当たって、ワークWの基準点決めを行うための測定工具であり、ワークWが鋳物で形状寸法のばらつきが大きいため、測定のアプローチ開始点から切削送りG01で測定プローブをワークWに接近させるものの、たまたまワークWの測定点までの距離が長く、アプローチ時間が長くなったことがわかる。それにもかかわらず、総加工時間が、上段や中段よりも短くなっている原因も分析することができる。上段及び中段の加工工程最後の工具TLが、下段にはないことがわかる。最後の工具も測定工具であり、加工したワークWの寸法が、許容範囲に収まっているか否かをサンプリング調査している。上段及び中段は、たまたまサンプリング調査のタイミングに当たったガントチャートであり、下段はサンプリング調査から外れたタイミングであったことがわかる。
【0035】
また、図7には、開始時刻の異なる同じ加工についての総加工時間を比較するための一覧表示の表示例を示す。図中上段(開始時刻:2023/6/14 03:08)に示す総加工時間は、他の加工実績(図中中段及び下段)と比較して、かなり長く、標準加工時間EMTを大幅に超えていることが分かる。本実施形態に係る加工実績分析装置100によれば、詳細な分析を行うために、図8に示すように表示を切り替えることができるように構成されている。図8には、加工実績毎に、上から、オーバライドOD変更の有無、工具毎の加工時間、工具毎の切削時間G01及び非切削時間ST、並びに、切削時間G01の累積時間及び非切削時間STの累積時間のガントチャートをそれぞれ示す。図8に示す例では、図中上段(開始時刻:2023/6/14 03:08)の加工実績において、長時間の加工待ち時間WTが発生していることが分かる。このため、オペレータが不在の深夜時間帯の加工において、加工対象となるワークWが枯渇している、マシニングセンタ26A、26Bに不具合が発生しているといった要因を分析することができ、例えば、深夜時間帯の加工に十分な個数のワークWの準備等の適切な対策を立てることができる。
【0036】
本実施形態に係る加工実績分析装置100によれば、工具TL1、TL2、TL3毎の加工時間TM1、TM2、TM3を計測すると共に記録する加工プログラム実行時情報取得部112及び加工プログラム実行時情報記録部114を備える。また、加工実績分析装置100は、マシニングセンタ26A、26Bの少なくとも1つの加工工程において、記録した加工時間TM1、TM2、TM3を工具TL1、TL2、TL3毎に識別可能なガントチャートに時系列で累積表示すると共に、予め設定した標準加工時間EMTをガントチャートと同一の時間軸で表示する実行時情報表示部102を備える。このため、記録した工具TL1、TL2、TL3毎の加工時間TM1、TM2、TM3をガントチャートに累積表示し、予め設定した標準加工時間EMTと加工実績(総加工時間)と比較することができる。これによって、加工工程毎又は加工工程の工具TL1、TL2、TL3毎の加工実績と、標準加工時間とを一覧表示し、オペレータが加工の遅れ又は進みの要因を容易に分析することができる。
【0037】
また、本実施形態に係る加工実績分析装置100によれば、各マシニングセンタ26A、26Bが複数の工具TL1、TL2、TL3を順次交換して加工を行う1つ又は複数の加工工程において、切削時間G01及び非切削時間STを工具TL1、TL2、TL3毎に識別可能なガントチャートに時系列で累積表示すると共に、切削時間G01だけの累積時間及び非切削時間STだけの累積時間に分解したガントチャートに表示し、予め設定した標準加工時間EMTと対比することができる。このため、1つのワークWの加工における切削時間G01及び非切削時間STを一覧表示することができる。これによって、オペレータが加工の遅れ又は進みの要因を容易に分析することができる。
【0038】
さらに、本実施形態に係る加工実績分析装置100によれば、図9に示すように、加工を完了した同じ種類のワークW毎に、加工時間を累積して総加工時間を算出し、総加工時間が予め設定した標準加工時間EMTとの対比でグループ分けした結果を表示することができる。具体的には、同じ種類のワークW毎(図中、「PART-A」から「PART-D」)に、総加工時間(図中、平均値「Average」で表示)が標準加工時間EMT(図中、「Expected」)の範囲内であった第1グループを表す第1の記号M1を表示する。また、総加工時間が標準加工時間EMTの範囲よりも短時間であった第2グループを表す第2の記号M2、及び、総加工時間が標準加工時間EMTの範囲よりも長時間であった第3グループを表す第3の記号M3を表示する。図9の表示例では、図中の「PART-C」の加工の場合、第1グループ、第2グループ及び第3グループに該当する部品個数が423個、2個及び2個であることを直ちに確認することができる。
【0039】
「PART-C」の表示の下段では、2023/05/08の13:45から同日の14:46の期間に、ワークWが2個加工されたことを表している。その際、標準加工時間EMTは、00:10:20と設定されており、2個の平均加工時間は、00:14:19であったことを表している。その期間に加工された2個は、標準加工時間EMTを00:10:22として加工されたものとしてグループ化(分類)される。標準加工時間EMTが00:10:22であるのに対し、平均加工時間が00:14:19であったため、記号M3によって平均加工時間が標準加工時間EMTの許容範囲より長くなっていることが示されている。
【0040】
また、「PART-C」の表示の中段を見ると、2023/05/08の14:46の時点で、オペレータの判断又はコンピュータの判断によって、標準加工時間EMTが00:15:27に更新されている。そして、同日の14:46から15:28の期間にワークWが2個加工されたことを表している。その際、標準加工時間EMTは00:15:27と設定されており、平均加工時間は、00:12:30であったことを表している。その期間に加工された2個は、標準加工時間EMTを00:15:27として加工されたものとしてグループ化(分類)される。標準加工時間EMTが00:15:27であるのに対し、平均加工時間が00:12:30であったため、記号M2によって平均加工時間が標準加工時間EMTの許容範囲より短くなっていることが示されている。
【0041】
さらに、「PART-C」の表示の上段を見ると、2023/05/09の11:21の時点で、オペレータの判断又はコンピュータの判断によって、標準加工時間EMTが00:12:47に更新されている。そして、2023/05/09の11:21から2023/05/12の21:00の期間にワークWが423個加工されたことを示している。その際、標準加工時間EMTは00:12:47と設定されており、平均加工時間は、00:12:48であったことを表している。その期間に加工された423個は、標準加工時間EMTを00:12:47として加工されたものとしてグループ化(分類)される。標準加工時間EMTが00:12:47であるのに対し、平均加工時間が00:12:48であったため、記号M1によって平均加工時間が標準加工時間EMTに対する許容範囲内(例えば、±10%以内)であったことが示されている。
【0042】
「PART-C」の下段の画面の標準加工時間EMTの初期値は、通常自動プログラミング装置によって自動算出された値が用いられる。しかしながら、初期段階のプログラムの実行は、オペレータがオーバライドをかけて慎重に加工する場合が多く、一般的に記号M3が表示されることが多い。オペレータはこの表示を見て、標準加工時間EMTを長めに設定し直す作業をする。この際、標準加工時間EMTと総加工時間(平均加工時間)との組合せをグループ化して記号を示すと、オペレータは容易に標準加工時間EMTを長めに設定しなければならないことを理解し、迅速に標準加工時間EMTの設定が行える。「PART-A」及び「PART-D」においても、当初は記号M1が表示され、標準加工時間EMTを長めに設定しなければならないことがわかる。「PART-C」では記号M2が表示されると、同様に標準加工時間EMTを短めに設定しなければならないことがわかる。
【0043】
「PART-A」、「PART-B」、「PART-C」及び「PART-D」において、記号M1が表示されると、オペレータは計画通り加工が進捗していると理解し、各ワークWの加工終了時刻を確度高く推定できる。このように、連続して期間に同じ標準加工時間EMTのもとで加工されたワークWがグループ化され、その時の標準加工時間EMTと総加工時間(平均加工時間)とを比較し、差異がどのようであったかを記号M1、M2、M3で表示すると、オペレータは一目瞭然で加工の進捗状態を把握でき、生産性向上に寄与する。
【0044】
また、本実施形態に係る加工実績分析装置100によれば、図10に示すように、同じ種類のワークWの個別の加工実績(総加工時間)についても把握することができる。図10中の下段にあるように、ワークW毎の総加工時間(図中、「Actual 1」及び「Actual 2」)を表示することができ、加工時間の平均値(図中では、「Average」)及び標準加工時間EMT(図中、「Expected」)と比較することができる。これによって、加工時間に大きな変動があったワークWを特定し、オペレータが加工の遅れ又は進みの要因を容易に分析することができる。
【0045】
以上の説明のとおり、本実施形態に係る加工実績分析装置100及び加工実績表示方法は、加工工程毎又は加工工程の工具TL1、TL2、TL3毎の加工時間実績と、標準加工時間EMTとを一覧表示して、オペレータが加工の遅れ又は進みの要因を容易に分析することができる。
【0046】
以上、加工実績分析装置100及び加工実績表示方法の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されない。上記のほか、当業者であれば、上記の実施形態の様々な変形が可能であることを理解できると考えられる。
【符号の説明】
【0047】
26A マシニングセンタ(工作機械)
26B マシニングセンタ(工作機械)
100 加工実績分析装置(加工実績表示装置)
102 加工プログラム実行時情報表示部(表示部、実行時情報表示部)
110 生産システム制御装置
112 加工プログラム実行時情報取得部(計測記録部)
114 加工プログラム実行時情報記録部(計測記録部)
M1 第1の記号
M2 第2の記号
M3 第3の記号
TL 工具
TL1 工具
TL2 工具
TL3 工具
TM1 加工時間
TM2 加工時間
TM3 加工時間
【要約】
【課題】加工工程毎又は加工工程の工具毎の加工時間実績と、標準加工時間とを一覧表示して、オペレータが加工の遅れ又は進みの要因を容易に分析することができる工作機械の加工実績表示方法及び加工実績表示装置を提供する。
【解決手段】1台又は複数台のマシニングセンタ26A、26Bを用い、各工作機械が複数の工具TLを順次交換して加工を行う1つ又は複数の加工工程を経てワークWの加工を完了する工作機械の加工実績表示方法は、各加工工程において、工具TL毎の加工時間TM1、TM2、TM3を計測すると共に記録し、少なくとも1台の工作機械の少なくとも1つの加工工程において、記録した加工時間TM1、TM2、TM3を工具TL毎に識別可能なグラフに時系列で累積表示し、予め設定した標準加工時間EMTをグラフと同一の時間軸で表示する、ことを特徴とする。
【選択図】図4
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10