(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-20
(45)【発行日】2025-01-06
(54)【発明の名称】エレベータシステムおよび情報提供方法
(51)【国際特許分類】
B66B 3/00 20060101AFI20241223BHJP
【FI】
B66B3/00 Z
(21)【出願番号】P 2023215174
(22)【出願日】2023-12-20
【審査請求日】2023-12-20
(73)【特許権者】
【識別番号】390025265
【氏名又は名称】東芝エレベータ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】塩崎 弘太
【審査官】板澤 敏明
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0362054(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第1919711(CN,A)
【文献】国際公開第2019/087760(WO,A1)
【文献】再公表特許第2020/136872(JP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 1/00-3/02
B66B 20/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレベータの乗場もしくはかご内に設置されるカメラの画像を解析して当該画像に映る個々のエレベータ利用者の少なくとも感情を判定する画像解析部と、
前記画像解析部の判定結果と、対応するエレベータの状態を示す各種の特徴量とを、エレベータ利用者毎に、記憶装置に記憶させる情報保管部と、
前記記憶装置にエレベータ利用者毎に記憶された前記判定結果と前記各種の特徴量との組合せに基づき、特定の感情の要因を判定する要因判定部と、
前記要因判定部の判定結果に基づき、エレベータのオペレーションの改善策を
情報端末の使用者に提示する改善提案支援部と、
を具備する、エレベータシステム。
【請求項2】
前記特定の感情は怒りもしくはネガティブな感情である、
請求項1に記載のエレベータシステム。
【請求項3】
前記画像解析部は、さらに、エレベータ利用者の画像から前記特定の感情の度合いを判定する、
請求項1に記載のエレベータシステム。
【請求項4】
前記各種の特徴量は、それぞれ、前記特定の感情の要因となり得る情報である、
請求項1に記載のエレベータシステム。
【請求項5】
前記各種の特徴量は、エレベータ利用者から割当号機までの距離、エレベータ利用者の割当号機の待ち時間、もしくは割当号機の積載荷重を含む、
請求項4に記載のエレベータシステム。
【請求項6】
前記要因判定部は、前記各種の特徴量のうち、前記特定の感情との相関度が最も大きい特徴量が、前記特定の感情の要因に該当すると判定する、
請求項1乃至5のいずれか1項に記載のエレベータシステム。
【請求項7】
前記画像解析部は、さらに、エレベータ利用者の推定年齢を判定する、
請求項1に記載のエレベータシステム。
【請求項8】
前記要因判定部は、前記推定年齢の判定結果を用いて、特定の年代に属するエレベータ利用者を対象に、前記特定の感情の要因を判定し、
前記改善提案支援部は、前記特定の年代に属するエレベータ利用者を対象に、エレベータのオペレーションの改善策を
前記情報端末の使用者に提示する、
請求項7に記載のエレベータシステム。
【請求項9】
前記画像解析部は、前記画像に映る子連れのエレベータ利用者、車椅子のエレベータ利用者、もしくは杖をもつエレベータ利用者を識別し、
前記改善提案支援部は、前記子連れのエレベータ利用者、前記車椅子のエレベータ利用者、もしくは前記杖をもつエレベータ利用者を対象に、エレベータのオペレーションの改善策を
前記情報端末の使用者に提示する、
請求項1に記載のエレベータシステム。
【請求項10】
画像解析部により、エレベータの乗場もしくはかご内に設置されるカメラの画像を解析して当該画像に映る個々のエレベータ利用者の少なくとも感情を判定することと、
情報保管部により、前記画像解析部の判定結果と、対応するエレベータの状態を示す各種の特徴量とを、エレベータ利用者毎に、記憶装置に記憶させることと、
要因判定部により、前記記憶装置にエレベータ利用者毎に記憶された前記判定結果と前記各種の特徴量との組合せに基づき、特定の感情の要因を判定することと、
改善提案支援部により、前記要因判定部の判定結果に基づき、エレベータのオペレーションの改善策を
情報端末の使用者に提示することと、
を含む、情報提供方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、エレベータシステムおよび情報提供方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エレベータの運行については、様々な観点から改善の試みが行われている。例えば、サービス性能の目標と交通需要を鑑みて最適なエレベータ仕様を提案するものや、エレベータの運行効率の低下に対する適切な改善策を提案するものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平03-288777号公報
【文献】特開2021-070564号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、エレベータ利用者の感情に配慮した運行の改善を提案するものに関しては、十分と言えるものが無く、検討の余地がある。
【0005】
発明が解決しようとする課題は、エレベータ利用者の感情に配慮した運行の改善策を提示することのできるエレベータシステムおよび情報提供方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態のエレベータシステムは、エレベータの乗場もしくはかご内に設置されるカメラの画像を解析して当該画像に映る個々のエレベータ利用者の少なくとも感情を判定する画像解析部と、前記画像解析部の判定結果と、対応するエレベータの状態を示す各種の特徴量とを、エレベータ利用者毎に、記憶装置に記憶させる情報保管部と、前記記憶装置にエレベータ利用者毎に記憶された前記判定結果と前記各種の特徴量との組合せに基づき、特定の感情の要因を判定する要因判定部と、前記要因判定部の判定結果に基づき、エレベータのオペレーションの改善策を情報端末の使用者に提示する改善提案支援部と、を具備する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、実施形態に係るエレベータシステムの構成の一例を示す図である。
【
図3】
図3は、エレベータ利用者毎の利用者情報と各種の特徴量との組合せの中から、利用者情報の中の感情が「怒」を示している情報の組合せを抽出した例を示す図である。
【
図4】
図4は、「怒」の感情値(=1)に対する「割当号機までの距離」、「待ち時間」、「積載荷重」のそれぞれ相関係数の値の例を示す図である。
【
図5】
図5は、相関係数の演算式の例を示す図である。
【
図6】
図6は、改善提案支援部により提示された改善策を含む情報を表示する画面の一例を示す図である。
【
図7】
図7は、利用者情報管理装置による動作の一例を示すフローチャート(その1)である。
【
図8】
図8は、利用者情報管理装置による動作の一例を示すフローチャート(その2)である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照して、実施の形態について説明する。
【0009】
<エレベータシステムの構成>
図1は、実施形態に係るエレベータシステムの構成の一例を示す図である。
【0010】
図1に示されるエレベータシステムは、エレベータの群管理を行うシステムであって、エレベータの群管理制御装置20、複数台のエレベータを構成するエレベータ制御装置11a~11cおよび乗りかご12a~12c、ならびに各階の乗場(エレベータホール)14に設置される乗場呼び登録装置15およびカメラ(撮像装置)16a~16cを含む。
【0011】
ここでは、A~C号機からなる3台のエレベータが群管理される例が示されている。A~C号機のエレベータには、3つのエレベータ制御装置11a~11c、3つの乗りかご12a~12c、3つのカメラ16a~16cがそれぞれ対応するものとなっている。
【0012】
エレベータ制御装置11a~11cは、各号機の乗りかご12a~12c毎に設けられ、それぞれに対応した乗りかごの運転制御を行う。具体的には、エレベータ制御装置11a~11cは、それぞれに乗りかご12a~12cを昇降動作させるための図示せぬモータ(巻上機)の制御やドアの開閉制御などを行う。これらのエレベータ制御装置11a~11cは、コンピュータを用いて構成される。
【0013】
乗りかご12a~12cは、モータの駆動により昇降路内を昇降動作する。乗りかご12a~12cには、それぞれにかご内の積載荷重を検知するための荷重センサ13a~13cが設置されている。荷重センサ13a~13cによって検知された荷重データは、エレベータ制御装置11a~11cを介して群管理制御装置20に伝送される。
【0014】
また、乗りかご12a~12cには、それぞれカメラ(撮像装置)18a~18cが設置されている。カメラ18a~18cは、かご内のエレベータ利用者を撮影する。撮影により得られた画像(撮影画像)は、エレベータ制御装置11a~11cを通じて、群管理制御装置20内の利用者情報管理装置22へ伝送される。
【0015】
群管理制御装置20は、複数台の乗りかご12a~12cの運転を群管理制御するための装置であり、エレベータ制御装置11a~11cと同様にコンピュータを用いて構成される。この群管理制御装置20には、呼び記憶部21、利用者情報管理装置22、運転制御部23が備えられている。なお、ここでは利用者情報管理装置22が群管理制御装置20の内側に設けられる場合の例を示すが、利用者情報管理装置22の機能の一部又は全部は、サーバ30に設けられてもよい。
【0016】
呼び記憶部21は、乗場呼び登録装置15の操作によって登録された乗場呼びを記憶する。
【0017】
利用者情報管理装置22は、エレベータ利用者の感情に配慮したエレベータ運行の提案を提示する装置である。利用者情報管理装置22は、情報端末10Aやサーバ30との通信を行えるように構成されている。
【0018】
サーバ30は、利用者情報管理装置22が生成した情報を所定の記憶装置に記憶したり、記憶装置に記憶した情報の一部または全部を情報端末10Aに提供したりする。サーバ30内には、利用者情報管理装置22の機能の一部又は全部が設けられてもよい。
【0019】
情報端末10Aは、利用者情報管理装置22もしくはサーバ30から提供されるアプリケーションや各種の情報を使用して、エレベータのオペレーションの改善提案を完成させ、完成した改善提案を、当該エレベータの設置されたビルのオーナーや管理者等の情報端末10Bもしくは指定されたサーバ等へ提供する。
【0020】
利用者情報管理装置22は、1つ又は複数のコンピュータを用いて構成され、利用者情報管理装置22が備える各種の機能は、1つ又は複数のコンピュータが実行するプログラムとして実現される。利用者情報管理装置22が備える各種の機能については、後で詳しく述べる。
【0021】
運転制御部23は、エレベータ制御装置11a~11cを通じて、複数のエレベータの運行を制御する。運転制御部23は利用者情報管理装置22からの指示が無ければ、一般的な群管理制御を行うが、利用者情報管理装置22からある制御の実施を指示されれば、その制御の実施を優先して行う。
【0022】
運転制御部23は、新たな乗場呼びが登録された場合、乗りかご12a~12cの中から当該乗場呼びを割当てる乗りかごを選出し、該当する乗場14に応答させる(乗りかごを乗場呼びが登録された階の乗場14に向かわせる)。
【0023】
図2は、乗場14の構成の一例を示す図である。但し、この例は一例であって、この例に限定されるものではない。
【0024】
各階の乗場(エレベータホール)14には、乗場呼びを登録するための乗場呼び登録装置15が設置されている。
図2の例では、便宜的に任意の階に設置された乗場呼び登録装置15が示されているが、実際には各階毎に少なくとも1つの乗場呼び登録装置15が設置されている。乗場呼び登録装置15は、図示せぬ伝送ケーブルを介して群管理制御装置20に接続されている。乗場呼び登録装置15は、エレベータ利用者が行先方向(上方向/下方向)を指定するための方向ボタン(「乗場呼びボタン」とも称す)を備えている。
【0025】
ここで、「乗場呼び」とは、乗場で方向ボタンの操作により登録される呼びの信号のことであり、登録階と行先方向の情報を含む。これに対し、「かご呼び」とは、乗りかご内で行先階ボタンの操作により登録される呼びの信号のことであり、乗りかごと行先階の情報を含む。
【0026】
また、各階の乗場(エレベータホール)14には、カメラ16a~16cが号機ごとに設置されている。カメラ16a~16cは、それぞれ、乗場ドア17a~17cの近傍に設置され、乗りかご12a~12cの到着口前で待機している複数のエレベータ利用者の顔を含む範囲を撮影する。撮影により得られた画像は、群管理制御装置20内の利用者情報管理装置22へ伝送される。
【0027】
<利用者情報管理装置22の機能構成>
図1に示される群管理制御装置20内の利用者情報管理装置22は、各種の機能として、画像解析部22a、情報収集部22b、状況判定部22c、情報保管部22d、要因判定部22e、および改善提案支援部22fを有する。以降、これらの機能について順次説明する。
【0028】
・画像解析部22a
画像解析部22aは、各階の乗場で号機毎に設置されたカメラ16a~16cによりそれぞれ撮影された画像を区別して収集するとともに、乗りかご毎にカメラ18a~18cによりそれぞれ撮影されたが画像を区別して収集し、収集したそれぞれの画像を解析することにより、当該画像に映る個々のエレベータ利用者を検出するとともに、個々のエレベータ利用者の少なくとも感情を判定する処理を周期的に繰り返す。
【0029】
具体的には、画像解析部22aは、エレベータ利用者の顔または体全体の画像を解析することにより、エレベータ利用者の感情の種類(例えば、喜怒哀楽の種別、もしくはポジティブな感情とネガティブな感情との区別)を判定することに加え、感情の種類ごとの度合い(感情値)を判定し、さらに、エレベータ利用者の推定年齢をも判定する。そのほか、性別を判定してもよい。
【0030】
また、画像解析部22aは、ある乗場のカメラの画像からエレベータ利用者の感情を判定した後に、続けてそのエレベータ利用者が乗りかごに乗車してから降車するまでの感情の変化を、該当するかご内のカメラの画像から追跡して把握することができる。感情の変化があった場合、当該感情の変化は、後述する記憶装置に記憶される情報に反映されるようにしてもよい。
【0031】
画像解析部22aで行う画像解析には、AI(Artificial Intelligence)を適用してもよい。その場合、様々な顔の特徴と、感情の種類・度合いや推定年齢等との関係を、AIに学習させることにより、任意の顔の特徴から、感情の種類・度合い、推定年齢、性別等を高精度に判定させることが可能となる。
【0032】
・情報収集部22b
情報収集部22bは、エレベータの運行状況を示す各種の情報(各号機の位置、走行状態、積載荷重、乗場呼びの有無、乗場呼びのあった階床、乗場呼びに応答した割当号機を示す情報など)を収集する。
【0033】
・状況判定部22c
状況判定部22cは、各乗場のいずれかからの呼びに対してエレベータ(割当号機)が応答したか否かを判定し、該当する場合に、その割当号機の状態を示す各種の特徴量(例えば、画像解析部22aにより検出されたエレベータ利用者から割当号機までの距離、当該エレベータ利用者の割当号機の待ち時間(当該エレベータ利用者が乗場に現われてから割当号機がその乗場に到着するまでの待ち時間)、および割当号機の積載荷重)を判定する。こうした各種の特徴量は、それぞれ、「怒」の要因となり得る情報(候補)であるといえる。
【0034】
・情報保管部22d
情報保管部22dは、状況判定部22cの判定結果とこれに対応する画像解析部22aの判定結果との組合せを、エレベータ利用者毎に、記憶装置に記憶させる。
【0035】
具体的には、情報保管部22dは、上述した各種の特徴量(例えば、エレベータ利用者から割当号機までの距離、当該エレベータ利用者の割当号機の待ち時間、および割当号機の積載荷重)と、当該エレベータ利用者の感情の種類とその度合いを示す情報および推定年齢を示す情報(以下、「利用者情報」と称す。)との組合せを、エレベータ利用者毎に、所定の記憶装置に記憶させる。この場合の記憶装置は、群管理制御装置20の内部にあってもよいし、群管理制御装置20の外部(例えばサーバ30内)にあってもよいが、本例では、当該記憶装置がサーバ30内にあるものとする。
【0036】
すなわち、情報保管部22dは、エレベータ利用者毎の利用者情報と各種の特徴量との組合せを、サーバ30の記憶装置にアップロードして記憶させる。サーバ30の記憶装置に記憶される情報の少なくとも一部は、利用者情報管理装置22または情報端末10Aがダウンロードして使用することができる。
【0037】
・要因判定部22e
要因判定部22eは、サーバ30の記憶装置にエレベータ利用者毎に記憶されている利用者情報と各種の特徴量との組合せに基づき、特定の感情(例えば喜怒哀楽のうちの「怒」(怒り)の感情、もしくはポジティブな感情とネガティブな感情のうちの「ネガティブ」な感情)の要因を判定する。「怒」の感情もしくは「ネガティブ」な感情は、エレベータ利用者のエレベータの運行に対する不満の表れとみることができる。
【0038】
情報端末10Aの使用者は、情報端末10Aを操作することにより、各種の感情のうち、要因判定の対象となる特定の感情を指定することができる。利用者情報管理装置22もしくはサーバ30は、要因の判定結果を情報端末10Aの画面に表示したり、要因判定の対象となる特定の感情の画面での指定をしたりすることが可能なUI(User Interface)を実現するアプリケーションを情報端末10Aに提供する。なお、特定の感情を指定する操作は、必ずしも必要とされるものではない。要因判定の対象となる特定の感情は、利用者情報管理装置22側であらかじめ設定されていてもよい。
【0039】
以下では、特定の感情が「怒」であるものとして説明する。要因判定部22eは、要因判定の対象となる特定の感情が「怒」に指定されている場合、「怒」の要因を判定する。
【0040】
具体的には、要因判定部22eは、サーバ30の記憶装置に記憶されているエレベータ利用者毎の利用者情報と各種の特徴量との組合せの中から、利用者情報の中の感情が「怒」を示している情報の組合せを抽出して、抽出した情報の組合せに基づき、各種の特徴量のうち、「怒」との相関度が最も大きい特徴量(例えば、「エレベータ利用者から割当号機までの距離」、「エレベータ利用者の割当号機の待ち時間」、および「割当号機の積載荷重」のいずれか)が「怒」の要因に該当すると判定する。相関度の求め方については、後で説明する。
【0041】
図3に、エレベータ利用者毎の利用者情報と各種の特徴量との組合せの中から、利用者情報の中の感情が「怒」を示している情報の組合せを抽出した例を示す。
図3に示される情報は、情報端末10Aの画面に表示することができる。
【0042】
図3の表には、各種の項目として、「番号」、日時を示す「日付」及び「時間」、利用者情報に相当する「推定年齢」、「感情」、及び「感情値(%)」、各種の特徴量に相当する「割当号機までの距離(m)」、「待ち時間(秒)」、「積載荷重(%)」が示されている。
【0043】
「番号」は、エレベータ利用者ごとの情報であることを表している。「日付」及び「時間」は、乗場のカメラ16a~16cのいずれかの画像からエレベータ利用者が検出されたに日時を表している。「推定年齢」は、当該エレベータ利用者の推定年齢を表している。「感情」は、当該エレベータ利用者の感情の判定結果(本例では「怒」)を表している。「感情値(%)」は、感情の度合い(本例では、「怒」の度合い)を表している。「感情値(%)」は、0~100(%)の範囲内の値で表現され、値が大きいほど、その感情の度合いが大きいことを意味する。「割当号機までの距離(m)」は、当該エレベータ利用者から割当号機までの距離を表している。「待ち時間(秒)」は、当該エレベータ利用者が乗場に現われてから割当号機がその乗場に到着するまでの待ち時間を表している。「積載荷重(%)」は、割当号機の積載荷重を表している。
【0044】
例えば、「割当号機までの距離(m)」、「待ち時間(秒)」、「積載荷重(%)」のうち、「怒」との相関度が最も大きい特徴量が「エレベータ利用者から割当号機までの距離」である場合、要因判定部22eは、「エレベータ利用者から割当号機までの距離」が「怒」の要因に該当すると判定する。
【0045】
「怒」の要因は、年代(世代)によって異なることもあり得る。例えば、若者ほどの体力が無い年配者にとっては、「割当号機までの距離」が長いことが、「怒」の要因となることがあり得る。また、若者にとっては、「積載荷重」が大きい(すなわち多くの人が乗っており混雑している)ことが「怒」の要因となることもあり得る。
【0046】
情報端末10Aの使用者は、情報端末10Aを操作することにより、特定の年代への絞り込みを行い、特定の年代の「怒」の要因の判定結果を得ることができる。例えば、「50代」及び「60代」を指定すると、要因判定部22eは、「50代」及び「60代」に属するエレベータ利用者を対象に(例えば、
図3の表の中の「推定年齢」が“60”、“55”、“65”、及び“50”の情報のみを対象に)、「怒」の要因を判定する。
【0047】
特定の感情「怒」と、
図3の表の中の「割当号機までの距離」、「待ち時間」、「積載荷重」との相関度は、「相関係数」という指標を用いて判定することができる。
【0048】
図4に、「怒」の感情値(=1)に対する「割当号機までの距離」、「待ち時間」、「積載荷重」のそれぞれ相関係数の値の例を示す。相関係数は、-1から+1までの範囲内のいずれかの値を示す。相関係数の値が0の場合は、双方の間に相関が全く無いことを意味する。相関係数の値が1の場合は、比例の関係にあることを意味する。相関係数の値が-1の場合は、反比例の関係にあることを意味する。正の値が大きいほど、正の方向への相関度が大きいことを意味する。負の値が大きいほど、負の方向への相関度が大きいことを意味する。
【0049】
図4の例では、「割当号機までの距離」が、「怒」の感情値との相関係数の値の値が最も大きい(すなわち、エレベータ利用者から割当号機までの距離が長くなるほど、「怒」の度合いが大きくなる傾向がある)。この場合、「割当号機までの距離」が、「怒」の要因であると判定することができる。
【0050】
【0051】
図5に示される演算式の左辺のrxyは、xとyとの相関係数を表す。この場合、xは、
図3の表の中の「怒」の感情値に相当し、yは、
図3の表の中の「割当号機までの距離」、「待ち時間」、または「積載荷重」に相当するものとする。すなわち、当該演算式より、「怒」の感情値と「割当号機までの距離」との相関度を表す相関係数、「怒」の感情値と「待ち時間」との相関度を表す相関係数、および、「怒」の感情値と「積載荷重」との相関度を表す相関係数を、それぞれ求めることができるものとなっている。
【0052】
図5に示される演算式の右辺のうち、分母は、「xの個々の値の標準偏差」と「yの個々の値の標準偏差」との積を示し、分子は、「xの個々の値とyの個々の値との共分散」を示す。nは、対象となるエレベータ利用者の数を示す。xi,yiは、それぞれ、i番目のエレベータ利用者のデータを示す。バー付きのx,yは、それぞれ、xの平均、yの平均を示す。
【0053】
・改善提案支援部22f
改善提案支援部22fは、要因判定部22eの要因判定の結果に基づき、エレベータのオペレーションの改善策を情報端末10Aの使用者に提示する。情報端末10Aの使用者は、情報端末10Aを操作することにより、画面を通じて、改善提案支援部22fにより提示された改善策の情報を、必要に応じて編集することで、顧客向けの改善提案を完成させることができる。利用者情報管理装置22もしくはサーバ30は、改善提案支援部22fにより提示された改善策の情報を情報端末10Aの画面に表示したり、その改善策の情報を画面で編集したりすることが可能なUIを実現するアプリケーションを情報端末10Aに提供する。
【0054】
また、改善提案支援部22fは、顧客からの承認を得た改善提案に基づく運行の実施を、運転制御部23に指示することができる。
【0055】
図6に、改善提案支援部22fにより提示された改善策を含む情報を表示する画面の一例を示す。
【0056】
図6の画面の例では、ビル名、検証期間、および2つの改善策の情報が表示されている。2つの改善策の情報は、それぞれ、「検出した利用者不満現象」、「要因」、「改善策」といった項目とそれぞれに対応する具体的な内容を含む。
【0057】
1つ目の改善策の情報では、「検出した利用者不満現象」の内容は、「50代から60代の方から不満を検出」と記載されている。「要因」の内容は、「割当号機までの距離が長いことにより不満を頂いていると推定」と記載されている。この「要因」の内容は、要因判定部22eにより「推定年齢」が50代から60代に属するエレベータ利用者を対象に「怒」の要因判定を行った結果に基づくものであり、前述した
図3中の「割当号機までの距離」が最も高い相関係数を示したことを意味する。ここでは、単に「割当号機までの距離が長い」と表示されるようにしてもよい。その場合、情報端末10Aの使用者は、必要に応じて言葉を補足するなどの編集を行ってもよい。
【0058】
「改善策」の内容は、「50代~60代の方にエレベータを配車する際は、○○オペレーションにより、指定された年代の人に対して、その利用者から近い号機を優先して配車するようにする」と記載されている。この「改善策」の内容の少なくとも主要な部分「利用者から近い号機を優先して配車する」と、上記した「要因」の内容の少なくとも主要な部分「割当号機までの距離が長い」と、前述した
図3中の「割当号機までの距離」とは、あらかじめ対応付けられた情報として、サーバ30の記憶装置にデータベースとして記憶されている。そのため、改善提案支援部22fは、このデータベースの情報に基づいて、上記した「要因」及び「改善策」のそれぞれの内容を提示することができるようになっている。
【0059】
2つ目の改善策の情報では、「検出した利用者不満現象」の内容は、「10代から20代の方から不満を検出」と記載されている。「要因」の内容は、「割当号機内が混雑していることによると推定」と記載されている。この「要因」の内容は、要因判定部22eにより「推定年齢」が10代から20代に属するエレベータ利用者を対象に「怒」の要因判定を行った結果に基づくものであり、前述した
図3中の「積載荷重」が最も高い相関係数を示したことを意味する。ここでは、単に「割当号機内が混雑している」と表示されるようにしてもよい。その場合、情報端末10Aの使用者は、必要に応じて言葉を補足するなどの編集を行ってもよい。
【0060】
「改善策」の内容は、「10代~20代の方にエレベータを配車する際は、○○オペレーションにより、指定された年代の人に対して、かご内荷重値が少ない号機を優先して配車するようにする」と記載されている。この「改善策」の内容の少なくとも主要な部分「かご内荷重値が少ない号機を優先して配車する」と、上記した「要因」の内容の少なくとも主要な部分「割当号機内が混雑している」と、前述した
図3中の「積載荷重」とは、あらかじめ対応付けられた情報として、サーバ30の記憶装置にデータベースとして記憶されている。そのため、改善提案支援部22fは、このデータベースの情報に基づいて、上記した「要因」及び「改善策」のそれぞれの内容を提示することができるようになっている。
【0061】
情報端末10Aの使用者は、
図6の画面に示されるような情報を用いて、エレベータのオペレーションの改善提案を完成させると、その改善提案のデータを、情報端末10Aから、当該エレベータの設置されたビルのオーナーや管理者等の情報端末10Bもしくは指定されたサーバ等へ送信する。
【0062】
<動作例>
図7及び
図8のフローチャートを参照して、利用者情報管理装置22による動作の一例を説明する。
【0063】
まず、
図7のステップS11において、利用者情報管理装置22は、各乗場に設置されるカメラの画像に基づき、その画像に映るエレベータ利用者の待ち時間(当該エレベータ利用者が乗場に現われてからの経過時間)、当該エレベータ利用者の感情(感情の種類とその度合い)、推定年齢、当該エレベータ利用者から割当号機までの距離などを、一定の周期で判定する。
【0064】
次に、ステップS12において、利用者情報管理装置22は、各乗場のいずれかからの呼びに対してエレベータ(割当号機)が応答したか否かを判定する。該当しない場合(ステップS12のNO)は、ステップS11からの処理を繰り返す。該当する場合(ステップS12のYES)は、ステップS13へ進む。
【0065】
次に、ステップS13において、利用者情報管理装置22は、上記割当号機が応答した時におけるエレベータに関する情報(各種の特徴量)、例えば「エレベータ利用者から割当号機までの距離」、「エレベータ利用者の割当号機の待ち時間(当該エレベータ利用者が乗場に現われてから割当号機がその乗場に到着するまでの待ち時間)」、および「割当号機の積載荷重」の情報を取得し、これらを日付・時刻の情報と共に記憶装置に保存する。
【0066】
また、ステップS14において、利用者情報管理装置22は、上記割当号機が応答した時における対応するエレベータ利用者に関する情報(利用者情報)、例えば、当該エレベータ利用者の感情(例えば「怒」の感情値など)、推定年齢などの情報を取得し、これらを日付・時刻の情報と共に記憶装置に保存する。この利用者情報は、エレベータ利用者ごとに、対応する各種の特徴量と組み合わせた状態で保存される。
【0067】
このようなステップS11~S14の処理は、繰り返し行われる。
【0068】
図8のステップS21において、利用者情報管理装置22は、改善提案の作成を要する時にもしくは適時に、上記した記憶装置に保存されている一定期間の利用者情報と各種の特徴量との組合せを取得する。
【0069】
次に、ステップS22において、利用者情報管理装置22は、利用者情報と各種の特徴量との組合せの中から、利用者情報の中の感情判定が「怒」となっている情報の組合せを抽出する。
【0070】
次に、ステップS23において、利用者情報管理装置22は、抽出した情報の組合せに基づき、各種の特徴量のうち、「怒」との相関度が最も大きい特徴量(例えば、「エレベータ利用者から割当号機までの距離」、「エレベータ利用者の割当号機の待ち時間」、および「割当号機の積載荷重」のいずれか)が「怒」の要因に該当すると判定する。
【0071】
次に、ステップS24において、利用者情報管理装置22は、要因判定の結果に基づき、情報端末10Aの使用者に対して、「怒」の要因を踏まえた改善提案の作成を支援する。例えば、
図6に示されるようなエレベータのオペレーションの改善策を含む情報を情報端末10Aの画面に表示する。情報端末10Aの使用者は、改善策の情報を、必要に応じて編集することで、顧客向けの改善提案を完成させる。
【0072】
最後に、ステップS25において、情報端末10Aは、使用者の操作に応じて、改善提案の情報を出力する。例えば、情報端末10Aから、ビルのオーナーや管理者等の情報端末10Bもしくは指定されたサーバ等へ送信する。
【0073】
このように、実施形態によれば、エレベータ利用者の感情に配慮した運行の改善策を提示することができる。
【0074】
<変形例>
以下に、上述した実施形態のいくつかの変形例について説明する。
【0075】
・子連れ、車椅子、杖をもつエレベータ利用者への対応
画像解析部22aは、画像に映る子連れのエレベータ利用者、車椅子のエレベータ利用者、杖をもつエレベータ利用者をそれぞれ識別できるように構成してもよい。その場合、改善提案支援部22fは、子連れのエレベータ利用者、車椅子のエレベータ利用者、杖をもつエレベータ利用者を対象に、エレベータのオペレーションの改善策(例えば、「子連れの方、車椅子の方、もしくは杖をもつ方にエレベータを配車する際は、○○オペレーションにより、所定の優先者向けの号機を優先して配車するようにする」)といった運行の改善策をさらに提示できるように構成してもよい。
【0076】
このように構成することで、子連れのエレベータ利用者、車椅子のエレベータ利用者、杖をもつエレベータ利用者の感情に配慮した運行の改善策を提示することができる。
【0077】
・乗場に現れた時点で怒っているエレベータ利用者への対応
乗場に現れた時点ですでに「怒」の度合いが所定値以上の高い値を示すエレベータ利用者は、エレベータの運行が要因で怒っているわけではないため、そのようなエレベータ利用者情報は処理の対象から外すものとする。
【0078】
このように構成することで、要因判定の精度を高めることができ、提示される改善策への信頼性を高めることができる。
【0079】
・喜びの感情を示すエレベータ利用者への対応
ある乗場で「喜」(喜び)の感情を示すエレベータ利用者が検出されたとき、例えば別の階床の乗場では「怒」の感情を示すエレベータ利用者が検出されているのであれば、「喜」の感情を示すエレベータ利用者への配車の優先度を下げる一方で、その分、「怒」の感情を示すエレベータ利用者への配車の優先度を上げる、といった運行の改善策を提示してもよい。また、「怒」の感情を示すエレベータ利用者が乗った号機に、「喜」の感情を示すエレベータ利用者が乗るように配車する、といった運行の改善策を提示してもよい。
【0080】
このように構成することで、「怒」の感情を示すエレベータ利用者の怒りをより低減させたり、気持ちを和ませたりすることができる。
【符号の説明】
【0081】
10A,10B…情報端末、11a~11c…エレベータ制御装置、12a~12c…乗りかご、14…乗場(エレベータホール)、15…乗場呼び登録装置、16a~16c…カメラ(撮像装置)、17a~17c…乗場ドア、18a~18c…カメラ(撮像装置)、20…群管理制御装置、21…呼び記憶部、22…利用者情報管理装置、22a…画像解析部、22b…情報収集部、22c…状況判定部、22d…情報保管部、22e…要因判定部、22f…改善提案支援部、23…運転制御部、30…サーバ。
【要約】
【課題】 エレベータ利用者の感情に配慮した運行の改善策を提示できるようにすること。
【解決手段】 実施形態のエレベータシステムは、エレベータの乗場もしくはかご内に設置されるカメラの画像を解析して当該画像に映る個々のエレベータ利用者の少なくとも感情を判定する画像解析部と、前記画像解析部の判定結果と、対応するエレベータの状態を示す各種の特徴量とを、エレベータ利用者毎に、記憶装置に記憶させる情報保管部と、前記記憶装置にエレベータ利用者毎に記憶された前記判定結果と前記各種の特徴量との組合せに基づき、特定の感情の要因を判定する要因判定部と、前記要因判定部の判定結果に基づき、エレベータのオペレーションの改善策を提示する改善提案支援部と、を具備する。
【選択図】
図1