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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-20
(45)【発行日】2025-01-06
(54)【発明の名称】繊維紡糸方法、紡糸繊維及びその使用
(51)【国際特許分類】
   D01F 6/04 20060101AFI20241223BHJP
   D01D 5/092 20060101ALI20241223BHJP
【FI】
D01F6/04 B
D01D5/092 101
【請求項の数】 25
(21)【出願番号】P 2023524679
(86)(22)【出願日】2021-10-22
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-10
(86)【国際出願番号】 CN2021125724
(87)【国際公開番号】W WO2022083740
(87)【国際公開日】2022-04-28
【審査請求日】2023-06-20
(31)【優先権主張番号】202011148949.8
(32)【優先日】2020-10-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】503191287
【氏名又は名称】中国石油化工股▲ふん▼有限公司
(73)【特許権者】
【識別番号】521165264
【氏名又は名称】中石化南京化工研究院有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】孔凡敏
(72)【発明者】
【氏名】趙運生
(72)【発明者】
【氏名】于品華
(72)【発明者】
【氏名】張葉
(72)【発明者】
【氏名】徐莉
(72)【発明者】
【氏名】呉小蓮
(72)【発明者】
【氏名】蘇豪
【審査官】斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-089898(JP,A)
【文献】特表2003-528994(JP,A)
【文献】特開2007-277763(JP,A)
【文献】特開2006-342005(JP,A)
【文献】特表2019-521260(JP,A)
【文献】特開2011-208347(JP,A)
【文献】特表2015-508849(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106637435(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F1/00-6/96;9/00-9/04
D01D1/00-13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶性重合体である紡糸繊維であって、前記結晶性重合体は超高分子量ポリエチレンを含み、
繊度のムラが1.5%以下であり、示差走査熱量測定法により測定された結晶化度が60~95%、好ましくは85~90%であり、X線回折(XRD)により測定された(020)結晶面法線方向の結晶粒サイズが7.4~9.6nm、好ましくは7.8~9nmであり、(110)結晶面法線方向の結晶粒サイズが8.8~11.5nm、好ましくは8.9~10nmであり、(200)結晶面法線方向の結晶粒サイズが7.3~11nm、好ましくは7.8~10.5nmである、ことを特徴とする紡糸繊維。
【請求項2】
繊度のムラが0.9~1%であり、X線回折(XRD)により測定された結晶化度が60~95%、好ましくは80~90%である、請求項1に記載の紡糸繊維。
【請求項3】
示差走査熱量測定法により測定された融点が148~151℃、好ましくは149~151℃である、請求項1又は2に記載の紡糸繊維。
【請求項4】
繊度が6~100dtex、破断強度が40~55CN/dtex、弾性率が1800CN/dtex以上、好ましくは1850~2000CN/dtexのポリエチレン紡糸繊維である、請求項1、2又は3に記載の紡糸繊維。
【請求項5】
超高分子量ポリエチレンを含む紡糸液を押し出してスピニングし、これにより得られたフィブリルについて冷却成形、乾燥及び延伸を行うステップを含む繊維紡糸方法であって、
前記冷却成形方式には、前記フィブリルに温度-10℃以下の流体を吹き付けることが含まれ、
前記冷却成形により、得られた未延伸ゲル糸の繊度のムラが3%以下、好ましくは1.5~2%である、ことを特徴とする繊維紡糸方法。
【請求項6】
前記冷却成形により、乾燥させて得られた繊維糸半製品の繊度のムラが1.5%以下、好ましくは0.5~0.95%である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
冷却成形用の流体の温度は-50~-10℃、好ましくは-40~-10℃、より好ましくは-30~-20℃である、請求項5又は6に記載の方法。
【請求項8】
前記流体はガスであり、好ましくは、前記吹き付け方式はフィブリルを中心にして円周吹きを行うことである、請求項5~のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
吹き付け時間は0.5~0.7秒、圧力は0~100kPa、好ましくは3~10kPaである、請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
冷却成形用の流体は液体窒素、空気、不活性ガスのうちの1種又は複数種である、請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記乾燥方式は、冷却成形によるフィブリルを速度が20メートル/秒以上、好ましくは30~40メートル/秒の乾燥ガスと接触させることを含み、好ましくは、前記乾燥ガスの温度は0~140℃、好ましくは40~80℃である、請求項10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記乾燥は乾燥オーブン(6)にて行われ、前記乾燥オーブン(6)はボックスとエアナイフ(60)を含み、前記ボックス内に材料を乾燥するための乾燥室が設けられ、前記エアナイフ(60)は前記乾燥室内に設けられ、前記エアナイフ(60)は同軸にネストされた内筒(61)及び外筒(62)を含み、前記内筒(61)の一端は開口状であって前記エアナイフ(60)の吹き込み口(611)となり、前記内筒(61)の筒壁には前記吹き込み口(611)に連通している第1吹き出し口(612)が開けられ、前記外筒(62)の筒壁には第2吹き出し口(621)が開けられ、前記内筒(61)と前記外筒(62)との間には、前記第1吹き出し口(612)と前記第2吹き出し口(621)とを連通させる連通通路(63)を形成するための径方向スペースがあり、前記内筒(61)及び前記外筒(62)のうちの少なくとも一方は、前記エアナイフ(60)の径方向に沿って移動して、前記第2吹き出し口(621)の吹き出し量及び吹き出し方向を調整可能に構成され、前記エアナイフ(60)の第2吹き出し口(621)は前記材料に位置合わせて設けられ、前記ボックスには、前記乾燥室に連通している供給口、排出口、乾燥ガス入口及び乾燥ガス出口が設けられ、前記吹き込み口(611)は前記乾燥ガス入口に連通し、前記第2吹き出し口(621)は前記乾燥ガス出口に連通している、請求項11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記第1吹き出し口(612)は前記内筒(61)の軸方向に延びている長尺状であり、前記第2吹き出し口(621)は前記外筒(62)の軸方向に延びている長尺状であり、前記第1吹き出し口(612)と前記第2吹き出し口(621)は前記エアナイフ(60)の周方向において互いにずれており、及び/又は前記内筒(61)の前記吹き込み口(611)から離れた一端は閉鎖状であって、前記連通通路(63)の両端は閉鎖状であり、
前記第1吹き出し口(612)と前記第2吹き出し口(621)は前記エアナイフ(60)の周方向において反対して設けられ、及び/又は
前記第1吹き出し口(612)と前記第2吹き出し口(621)は、前記エアナイフ(60)の周方向における開口角度が0~90°、好ましくは25~40°である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記エアナイフ(60)は、前記内筒(61)及び前記外筒(62)を取り付けるための取り付けアセンブリを含み、及び/又は
前記内筒(61)は、前記外筒(62)に対して前記エアナイフ(60)の径方向に沿って移動可能に構成される、請求項12又は13に記載の方法。
【請求項15】
前記取り付けアセンブリは、前記内筒(61)の両端にそれぞれ取り付けられた2つの可動フランジ(64)と、前記外筒(62)の両端にそれぞれ取り付けられた2つの固定フランジ(65)と、を含み、2つの前記可動フランジ(64)はそれぞれ、2つの前記固定フランジ(65)に接続され、対応する前記固定フランジ(65)に対して前記エアナイフ(60)の径方向に沿ってロック可能に移動できるように構成される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記可動フランジ(64)と前記固定フランジ(65)はファスナーによって接続され、前記可動フランジ(64)及び前記固定フランジ(65)のそれぞれには前記ファスナーが挿通して設置する貫通孔が設けられ、前記可動フランジ(64)の貫通孔は円形孔(641)であり、前記固定フランジ(65)の貫通孔は長円形孔(651)であり、及び/又は
前記内筒(61)において前記吹き込み口(611)が設けられた一端は前記可動フランジ(64)の外に延びている、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記供給口及び前記排出口はそれぞれ、前記ボックスの対向する両側に位置し、前記乾燥室内に複数の前記エアナイフ(60)が設けられ、複数の前記エアナイフ(60)は前記材料が搬入出する方向に垂直に延びており、前記材料の搬入出方向に沿って間隔を空けて配列される、請求項1316のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記延伸の総延伸倍率は100~1000、好ましくは200~940である、請求項17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
冷却成形工程及び乾燥工程における溶媒を回収するステップをさらに含み、前記冷却成形工程における溶媒を回収する方式はサイクロン分離方式であり、乾燥工程における溶媒を回収する方式は深冷分離と吸脱着を組み合わせた方式である、請求項18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記サイクロン分離の温度は40℃未満、好ましくは10~30℃である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記深冷分離と吸脱着を組み合わせた方式は、まず、深冷分離を行い、次に、吸脱着を行うことである、請求項19又は20に記載の方法。
【請求項22】
前記深冷分離の温度は-5℃未満、好ましくは-20~-10℃である、請求項1921のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
前記吸着方式は、乾燥工程からのガスを吸着剤と接触させることである、請求項1922のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
前記吸着剤は、活性炭、ヤシ殻炭、分子篩のうちの1種又は複数種であり、好ましくは直径3~6mmの円柱状活性炭である、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記脱着条件は、脱着温度5~25℃、圧力0.1~5MPaを含む、請求項1924のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
〔関連出願の相互参照〕
本願は、2020年10月23日に提出された中国特許出願202011148949.8の利益を主張しており、当該出願の内容は引用により本明細書に組み込まれている。
【0002】
本発明は繊維紡糸、該紡糸繊維を製造する紡糸方法及びその使用に関する。
【背景技術】
【0003】
超高分子量ポリエチレン繊維はアラミド、炭素繊維と並んで21世紀の3つの主なハイテク材料と呼ばれ、その高強度、高弾性率、高配向度、耐摩耗性、耐老化性などの優れた特性により、国防、軍需産業の防護及び民需産業の分野に広く応用されている。近年、高性能ポリエチレン繊維技術の向上及び原料の広範囲な国産化に伴い、中国における高性能ポリエチレン繊維産業の急速な発展を力強く推進した。
【0004】
CN101148783Bは、凝固浴の方式を用いて、風温を30~110℃に制御して、超高分子量ポリエチレン繊維を製造する方法を開示している。
【0005】
CN110791821Aは、0~80℃の水浴冷却を採用し、加熱延伸槽に送って溶媒回収と熱延伸を行い、一段階法により新しい超高強度・高弾性率ポリエチレン繊維を製造した。
【0006】
全体的には、上記の方法はポリエチレン繊維製品の特性向上に一定の効果を得たが、向上の余地がある。また、これらの方法では、安定性が劣るという問題もあり、ロットによって特性に大きな差が生じている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ポリエチレン繊維製品の特性をさらに向上させるために、本発明の発明者は、大量の研究を行った結果、低温乾風急冷成形によって、破断強度及び弾性率を大幅に向上させた高性能ポリエチレン繊維製品を製造できることを見出し、これによって、本発明を完成させるに至った。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1態様は、結晶性重合体である紡糸繊維であって、ムラが2%以下、好ましくは0.5~1%であり、示差走査熱量測定法により測定された結晶化度が60~95%、好ましくは85~90%であり、X線回折(XRD)により測定された(020)結晶面法線方向の結晶粒サイズが7.4~9.6nm、好ましくは7.8~9nmであり、(110)結晶面法線方向の結晶粒サイズが8.8~11.5nm、好ましくは8.9~10nmであり、(200)結晶面法線方向の結晶粒サイズが7.3nm~11nm、好ましくは7.8~10.5nmである、ことを特徴とする紡糸繊維を提供する。
【0009】
本発明の第2態様は、紡糸液を押し出してスピニングし、これにより得られたフィブリルについて冷却成形、乾燥及び延伸を順次行うことを含む繊維紡糸方法であって、前記冷却成形により、得られたフィブリルのムラが3%以下、好ましくは1.5~2%であることを特徴とする繊維紡糸方法を提供する。
【0010】
本発明による繊維紡糸方法は、新しい低温風急冷加速成形によってゲル糸の結晶配向度を向上させることで、結晶粒サイズを小さくし、ポリエチレン繊維製品の破断強度及び弾性率を大幅に向上させ、また、該方法の再現性に優れ、各ロットの製品の特性が近く、よって、ロットごとの製品特性の差が小さい。また、該方法は、低温急冷風を導入することによって、いかなる不純物ももたらさず、乾式生産プロセスにも湿式生産プロセス法にも適用することができ、特に乾式紡糸技術に適用することができる。
【0011】
本発明では、低温風急冷加速成形と特定の構造のエアナイフを有する乾燥オーブンとを組み合わせることによって、材料の乾燥効率を効果的に向上させ、繊維糸製品の効果を高めることができる。また、エアナイフ吹き出し口の吹き出し量及び吹き出し方向が調整可能であるため、エアナイフの使用がより柔軟になり、エアナイフが様々な使用のニーズに対応できる。
【0012】
本発明の方法によれば、繊度が極めて細い紡糸繊維を製造することができ、細い繊度であっても高い破断強度及び弾性率が得られ、好ましくは、本発明のポリエチレン紡糸繊維は、破断強度が40CN/dtex以上、弾性率が1800CN/dtex以上と高く、同種の製品において最高で35CN/dtexの破断強度及び最高で1300CN/dtex以下の弾性率と比べて、特性が明らかに優れており、また、製品の変動率が明らかに小さい。航空宇宙パラシュート、アンカーロープ、掘削プラットフォーム用の固定ロープ、防弾製品、民間スポーツ用品、突き刺し防止製品、医療材料、養殖魚箱用魚網などの高弾性率及び高破断強度が求められる用途において使用が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明による繊維紡糸方法の1つの特定実施形態のプロセスフローチャートである。
図2】エアナイフの一実施形態の構造概略図である。
図3図2における内筒及び外筒の断面図である。
図4図2における可動フランジの構造概略図である。
図5図2における固定フランジの構造概略図である。
図6】本発明における紡糸筒の一実施形態の構造概略図である。
図7】本発明の実施例1~3及び比較例1で得られた紡糸繊維のDSC曲線である。
図8】本発明の実施例1~3及び比較例1で得られた紡糸繊維のXRD図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本明細書で開示される範囲の端点及び任意の値は、この正確な範囲又は値に限定されず、これらの範囲又は値に近い値を含むと理解されるべきである。数値範囲の場合、各範囲の端点値の間、各範囲の端点値と個々のポイント値の間、及び個々のポイント値の間は、互いに組み合わされて1つ又は複数の新しい数値範囲を得ることができ、これらの数値範囲は、本明細書で具体的に開示されるものとみなされるべきである。
【0015】
本発明において、「上、下、左、右」のような方位語は、反対の説明をしない限り、一般的に図面を参照して示される方位を意味する。「内、外」とは、各部品自体の輪郭に対する内、外を意味する。
【0016】
本発明による繊維紡糸方法では、前記冷却成形方式及び条件は、冷却成形により得られた未延伸ゲル糸のムラが3%以下、好ましくは1.5~2%であるように制御されてもよく、これによって、乾燥させて得られた繊維糸半製品のムラは1.5%以下、好ましくは0.5~1%であり、これにより、得られた延伸後の繊維糸製品はムラが小さく、破断強度及び弾性率が高く、しかも、該方法は、再現性に優れ、各ロットの製品の特性が近く、ロットごとの製品特性の差が小さい。
【0017】
好ましくは、前記冷却成形方式は、フィブリルに温度-10℃以下の流体、好ましくは温度-10℃以下のガス(低温急冷風)を吹き付けることを含む。低温急冷風を導入することによって、いかなる不純物をもたらさず、乾式生産プロセスにも湿式生産プロセス法にも適用することができ、特に乾式紡糸技術に適用することができる。
【0018】
本発明では、低温急冷方式とは、温度-10℃以下の流体を用いてスピニング孔から噴出されたフィブリルを急冷することである。現在の従来技術による方法では、乾式か湿式を問わず、0℃以上のガスを用いて冷却する。本発明の発明者は、研究した結果、0℃以上のガスがノズルから噴出される紡糸(フィブリル)の温度に対しては極めて低温で、温差が大きいが、-10℃以下の流体を使用すると、繊維製品の機械的特性及び製品の安定性がさらに向上することを見出した。その原因としては、紡糸口金に入って押し出される前の溶融体が均一な状態で、内部の折り畳み鎖構造が安定しており、押し出された後には、表面が冷却されて迅速に硬化成形し、これによって、原糸内部の安定折り畳み鎖構造が変化せず、さらに加熱されて延伸すると、内部の折り畳み鎖が徐々に延伸して安定的な結晶格子構造になるからであると考えられる。このため、原糸の急冷時間が短縮され、繊維の内部の安定構造が最大限に保護され、繊維の可紡性が向上する。
【0019】
理論的には、温度-10℃以下の流体であれば、本発明に利用できるが、総合エネルギー消費量及び繊維製品の特性を考慮して、好ましくは、冷却成形用の流体の温度は、-50~-10℃、好ましくは-40~-10℃、より好ましくは-30~-20℃である。
【0020】
低温風はゲルフィラメントの硬化を促進するために使用され、温度が低いほど、硬化成形時間が短くなり、これによって、ゲルフィラメントが風速による干渉を受けないようにし、ゲルフィラメントの内部の安定な構造を確保するとともに、ゲルフィラメントの固着を効果的に回避できる。
【0021】
前記流体は、ガスであっても、液体であってもよく、繊維糸製品と反応して繊維糸製品にマイナスの影響を与えることがない不活性流体であれば、本発明の目的に利用できる。例えば、液体アンモニア、液体窒素、空気、エチレングリコール水溶液、エタノール水溶液などのうちの1種又は複数種であってもよい。
【0022】
本発明は、好ましくは冷却成形用流体、好ましくはガスである。乾式紡糸プロセスの場合、空気ではなく、窒素ガスなどの不活性ガスが使用される。
【0023】
前記接触方式は、好ましくは吹き付けであり、好ましくは、前記吹き付け方式は、噴出したフィブリルを中心にして円周吹きを行うことである。いわゆる円周吹きとは、フィブリルを中心にして、フィブリルの周辺に冷却成形のための急冷流体を吹き付け、フィブリルを十分に冷却することである。
【0024】
本発明の1つの好ましい実施形態によれば、吹き付けの時間は0.1~1秒、好ましくは0.5~0.7秒、吹き付けの圧力は0~100kPa、好ましくは3~10kPaである。吹き付け時間とは、繊維糸が急冷流体に接触してから急冷流体から離れるまでの時間帯である。ここでの圧力とは、急冷流体が流出する圧力(ゲージ圧)である。
【0025】
本発明では、吹き付けは持続的かつ安定的な過程であり、パージ効果が紡糸ヘッドの延伸速度に関連しており、速度が速いほど、糸の単位量あたり吹き付ける時間が短くなる。紡糸ヘッドの延伸倍率が6~50倍である場合、紡糸ヘッドの押し出し速度は、好ましくは2~5m/min、より好ましくは3~3.5m/minである。
【0026】
本発明による上記の低温、乾風急冷の円周吹きによる成形方式は、従来の湿式プロセスにも、乾式プロセスにも適用することができる。好ましくは乾式プロセスに適用する。以下、上記の急冷成形方式と乾式プロセスとの組み合わせについてさらに説明する。
【0027】
本発明では、冷却成形させたフィブリルを速度20メートル/秒以上の乾燥ガスと接触させ、ホットロールにより繊維の表面を加熱し、繊維表面の軟化及び繊維内部のデカリンの析出を促進し、後続の延伸を容易にする。繊維の表面で析出されたデカリンについては、乾燥オーブン内のエアナイフの風速及び流量を調整することで、繊維の表面を迅速に風乾する。従来技術では、冷却の後の乾燥ステップは、通常、熱風を用いてパージしてベークしたり、抽出液に入れて抽出分離を行ったりすることにより溶媒を除去し、通常、パージベーク風速は10メートル/秒以下とされる。
【0028】
好ましくは、前記乾燥ガスの流速は30~40メートル/秒である。
【0029】
本発明の1つの好ましい実施形態によれば、上記の流速は、図2に示す乾燥オーブンにて乾燥を行うことにより実現され得る。乾燥オーブンの構造については後述する。
【0030】
乾燥ガスは、窒素ガス又は他の不活性ガスであってもよく、圧力は、好ましくは0~1MPa、より好ましくは0.4~0.6MPaに制御される。
【0031】
本発明では、乾燥ガスの温度は0~140℃であってもよいが、好ましくは40~80℃であり、これにより、フィブリル中の溶媒除去がさらに促進される。
【0032】
本発明では、説明の便宜上、スピニング後延伸前の繊維糸はフィブリル又はゲルフィラメントと呼ばれ、延伸後の製品は繊維糸製品と呼ばれる。
【0033】
本発明では、前記繊維は、各種プラスチック糸製品、例えばポリエチレン、アクリル繊維などのうちの1種又は複数種であってもよい。
【0034】
前記の通り、紡糸プロセスは、冷却成形用流体及び乾燥ガスに対する要求が高く、上記の流体及び溶媒の利用率を高め、環境汚染を低減させるために、好ましくは、本発明による紡糸方法は、冷却成形後の流体中の溶媒及び前記乾燥後の乾燥ガス中の溶媒を回収することをさらに含む。
【0035】
本発明の紡糸方法として低温急冷方式が使用されるため、低温段階(すなわち冷却成形段階)では溶媒の揮発度が低く、気相中に溶媒が実質的になく、混合ガスはエアロゾル形態として存在し、このガスに対しては、サイクロン分離のような簡単な分離方式によれば、冷却剤(特に冷却用ガス)と溶媒を分離することができ、これによって、冷却剤と溶媒を回収してリサイクルすることができる。一方、乾燥段階では、ガスの温度が高く、溶媒が大量で揮発するため、乾燥ガスと溶媒とを分離するには深度分離方式が必要である。このため、本発明では、様々な温度の還気を用いて段階的に処理することによって、システム内部で消費されるエネルギーは合理的に分配され、溶媒の回収率は95%以上に達する。好ましくは、前記深度分離方式としては、冷却分離-深冷分離-圧縮-冷却分離-吸脱着を統合した方式が使用され、ここでは、冷却分離温度は40℃未満、深冷分離温度は-5℃未満に制御され、このようにして、溶媒回収率を95%超過にし、ガスをリサイクルして使用し、溶媒を回収してリサイクルする。このため、本発明の1つの好ましい実施形態によれば、冷却成形後の流体中の溶媒を回収する方式はサイクロン分離方式であり、乾燥ガス中の溶媒を回収する方式は深冷分離と吸脱着とを組み合わせた方式である。
【0036】
好ましくは、吸着用の吸着剤は、活性炭、ヤシ殻活性炭、炭素分子篩などのうちの1種又は複数種であってもよい。吸脱着の具体的な操作及び条件は従来技術を参照して行われ得る。
【0037】
本発明の1つの特定実施形態によれば、本発明による低温乾風急冷成形に基づく高性能ポリエチレン乾式紡糸方法は、超高分子量ポリエチレン原料を溶媒及び紡糸助剤とともに前膨潤した後、紡糸液を二軸押出機で溶解し、剪断をかけて静的ミキサーに送って均一に混合し、紡糸筒に送り、定量ポンプによってスピニングアセンブリで押し出し、低温で乾風の円周吹きを行って急冷することにより成形し、成形した未延伸ゲルフィラメントを加熱5ロールで予熱して乾燥オーブンに送り、エアナイフによって繊維表面の溶媒を迅速に揮発させ、処理したゲルフィラメントをプレ延伸システムに入れて、糸半製品を得、糸半製品を延伸システムに送って複数回延伸し、繊維完成品を形成し、溶媒回収装置によってプロセス中の溶媒を回収する。
【0038】
本発明の1つの好ましい実施形態によれば、前記紡糸液はポリエチレン、溶媒及び紡糸助剤を含有し、ポリエチレンと溶媒との重量比は1~30:100、好ましくは4~20:100、紡糸助剤とポリエチレンとの重量比は0.3~3:100、好ましくは0.5~2:100である。
【0039】
前記ポリエチレンは、紡糸に利用可能な各種のエチレン重合体製品であってもよく、好ましくは、ポリエチレンの数平均分子量が400~500万であり、チーグラー・ナッタ触媒法やメタロセン触媒法などの各種プロセスで製造されたポリエチレンであってもよい。
【0040】
前記溶媒は、ポリエチレンを十分に膨潤させ得る有機溶媒であってもよいが、好ましくは、1つ又は複数のベンゼン環を含有する芳香族溶媒、例えばデカリン、テトラリン、トルエン、キシレンなどのうちの1種又は複数種である。
【0041】
前記紡糸助剤は、紡糸に寄与する各種の物質、例えば酸化防止剤、可塑剤、改質剤、及び潤滑剤のうちの1種又は複数種であってもよい。
【0042】
本発明では、前記延伸の延伸倍率(ドラフト倍率)は1000倍以上と高くしてもよく、例えば160~1200であってもよく、繊度が細い繊維糸を得るために、好ましくは600~900である。前記延伸は1回又は複数回に分けて行われてもよく、好ましくは複数回に分けて行われる。複数回に分けて行われる場合、上記の延伸倍率とは、総延伸倍率である。
【0043】
本発明の繊維糸の強度が高いため、延伸(ドラフト)を高延伸倍率で行い、一本の糸の直径が30μm以下の細い繊維を得ることができ、これは現在の同種の製品では実現できなかったレベルである。
【0044】
延伸倍率とは、延伸後の繊維製品の長さ/冷却成形後のフィブリルの長さである。
【0045】
好ましくは、紡糸ヘッドによる延伸は6~30倍、前紡のプレ延伸倍率は1~3.5倍、後紡の延伸倍率は6~20倍である。
【0046】
好ましくは、製品を収納しやすくするために、本発明の方法は、延伸後の繊維糸製品を巻き取ることをさらに含んでもよい。
【0047】
本発明では、溶融押し出し、スピニング、延伸、及び巻き取りの具体的な操作及び条件は従来技術を参照して行うことができる。
【0048】
本発明の方法によって得られた紡糸繊維は、結晶性重合体であって、ムラが1.5%以下、好ましくは0.9~1%であり、示差走査熱量計(DSC)により測定された結晶化度が60~95%、好ましくは85~90%であり、XRDにより測定された融点が148~151℃、好ましくは149~150℃である。X線回折(XRD)により測定された結晶化度は60~95%、好ましくは80~90%であり、(020)結晶面法線方向の結晶粒サイズは7.4~9.6nm、好ましくは7.8~9nmであり、(110)結晶面法線方向の結晶粒サイズは8.8~11.5nm、好ましくは8.9~10nmであり、(200)結晶面法線方向の結晶粒サイズは7.3~11nm、好ましくは7.8~10.5nmである。
【0049】
本発明の方法によって製造されたポリエチレン紡糸繊維は、破断強度が40CN/dtex以上、弾性率が1400CN/dtex以上、好ましくは1800CN/dtexであり、これらは、従来の技術方法によって得られた同種の製品の特性よりもはるかに優れている。
【0050】
本発明の好ましい実施形態で得られたポリエチレン紡糸繊維は、伸度変動率CV及び強度変動率CVの両方が5%未満、好ましくは、それぞれ2%未満及び1.5%未満であり、それぞれは、1.5~1.9%の範囲内及び1.15~1.45%の範囲内であり、いずれも優れた製品の品質要求を満たしている。
【0051】
好ましくは、前記繊維糸の繊度は40~80dtex、好ましくは40~55dtexである。
【0052】
本発明による繊維紡糸方法は、上記の高性能紡糸繊維を得ることができ、航空宇宙パラシュート、アンカーロープ、掘削プラットフォーム用の固定ロープ、防弾製品、民間スポーツ用品、突き刺し防止製品、医療材料、養殖魚箱用魚網などの高弾性率及び高破断強度が求められる用途において使用が期待できる。
【0053】
本発明では、破断強度、弾性率、伸度変動率CV、及び強度変動率CVは、それぞれGB/T29554-2013、GB/T19975-2005方法によって測定することができる。
【0054】
本発明の1つの好ましい実施形態によれば、本発明の繊維紡糸プロセスは、図1に示す繊維紡糸システムにおいて行われ、該繊維紡糸システムは、溶融押し出しユニット、紡糸ユニット、乾燥ユニット、延伸ユニット、及び巻取ユニットを含み、溶融押し出しユニットは溶融した紡糸原料を紡糸ユニットに供給し、前記乾燥ユニットは紡糸ユニットによって紡糸されたフィブリルを乾燥して溶媒を除去し、前記延伸ユニットは乾燥ユニットによって乾燥されたフィブリルを延伸し、前記紡糸ユニットは紡糸筒、冷却流体供給装置、及び紡糸筒内に設けられるスピニング孔を含み、前記冷却流体供給装置は前記紡糸筒に冷却流体を供給し、前記紡糸筒内のスピニング孔から噴出されたフィブリルを急冷成形することを特徴とする。
【0055】
好ましくは、図2に示すように、前記乾燥ユニットは、ボックスとエアナイフ60を含む乾燥オーブン6を含み、前記ボックス内には、材料を乾燥するための乾燥室が設けられ、エアナイフ60は前記乾燥室内に設けられ、エアナイフ60の第2吹き出し口621は材料に位置合わせて設けられ、前記ボックスには前記乾燥室に連通している供給口、排出口、乾燥ガス入口及び乾燥ガス出口が設けられ、エアナイフ60の吹き込み口611は前記乾燥ガス入口に連通しており、エアナイフ60の第2吹き出し口621は前記乾燥ガス出口に連通している。
【0056】
エアナイフは主として繊維の表面で析出された溶媒を強く吹き飛ばし、ゲルフィラメントの表面を乾燥状態に保持するために配置されるものである。
【0057】
使用に際しては、エアナイフ60の吹き出し量及び吹き出し方向は必要に応じて調整することができ、前記乾燥ガス入口から前記乾燥室内に入った乾燥ガスは吹き込み口611を経てエアナイフ60内に入り、エアナイフ60から所定の吹き出し量及び吹き出し方向で乾燥ガスを集めて材料に吹き付け、材料を迅速に風乾することができる。
【0058】
ここでは、図2に示すように、前記供給口及び前記排出口はそれぞれ前記ボックスの対向する両側(図2に示す乾燥オーブン6の左右両側)に位置し、前記乾燥ガス入口及び乾燥ガス出口はそれぞれ、前記ボックスの対向する両側(図2に示す乾燥オーブン6の上下両側)に位置する。前記乾燥室内に複数のエアナイフ60が設けられてもよく、複数のエアナイフ60は材料が搬入出する方向に垂直に延びており、材料の搬入出方向(図1に示す左右方向を参照)に間隔を空けて配置されている。このようにして、乾燥効率及び効果がさらに向上する。
【0059】
前記乾燥室内に複数のエアナイフ60が設けられる場合、図1に示すように、前記ボックスには複数の前記乾燥ガス入口及び乾燥ガス出口が設けられてもよい。なお、図1に示す乾燥オーブン6の黒い矢印に対応する位置は前記乾燥ガス入口及び乾燥ガス出口である。
【0060】
エアナイフの内部構造は図2に示されている。軸受棒の位置を調整して、吹き出し速度及び方向を制御することで、ゲルフィラメントの表面で析出された溶媒を迅速に乾すことができる。
【0061】
図2に示すように、エアナイフ60は、同軸にネストされた内筒61及び外筒62を含み、内筒61の一端は開口状であってエアナイフ60の吹き込み口611となり、内筒61の筒壁には、吹き込み口611に連通している第1吹き出し口612が開けられ、外筒62の筒壁には、第2吹き出し口621が開けられ(第2吹き出し口621はエアナイフ60の吹き出し口)、内筒61と外筒62との間には、第1吹き出し口612と第2吹き出し口621とを連通させる連通通路63を形成するための径方向スペースがあり、内筒61及び外筒62のうちの少なくとも一方は、エアナイフ60の径方向に沿って移動して、第2吹き出し口621の吹き出し量及び吹き出し方向を調整可能に構成される。
【0062】
なお、以上では、理解すべきことは、使用に際して、風は吹き込み口611から内筒61に入り、次に、第1吹き出し口612から連通通路63内に入り、最後に、第2吹き出し口621から排出される。第2吹き出し口621に接近していくように内筒61を移動するときに、第2吹き出し口621の吹き出し量が徐々に減少し、第2吹き出し口621から離間していくように内筒61を移動するときに、第2吹き出し口621の吹き出し量が徐々に増大する。内筒61の筒壁が第2吹き出し口621を部分的に遮断するときに、第2吹き出し口621の吹き出し方向を変えることができる。
【0063】
また、以上では、内筒61及び外筒62のうちの少なくとも一方は、エアナイフ60の径方向に沿って移動可能に設けられ、外筒62が固定されており、内筒61が外筒62に対してエアナイフ60の径方向に沿って移動可能に構成される第1形態と、内筒61が固定されており、外筒62が内筒61に対してエアナイフ60の径方向に沿って移動可能に構成される第2形態と、内筒61と外筒62がエアナイフ60の径方向に沿って互いに移動可能に構成される第3形態との3つの形態がある。
【0064】
上記の技術案を採用することにより、エアナイフ吹き出し口の吹き出し量及び吹き出し方向を調整可能にし、エアナイフ60の使用をより柔軟にし、様々な使用のニーズに応えることができ、このエアナイフ60を乾燥オーブンに用いる場合、材料の乾燥効率及び効果を効果的に高めることができる。
【0065】
本発明では、第1吹き出し口612及び第2吹き出し口621は、形状及び配置位置が任意の適切なものであってもよく、上記の機能を達成できればよい。例えば第1吹き出し口612及び第2吹き出し口621の断面は楕円形、角形などであってもよく、第1吹き出し口612及び第2吹き出し口621はエアナイフ60の軸方向及び/又は周方向に沿って間隔を空けて配置されてもよい。もちろん、第1吹き出し口612及び第2吹き出し口621はそれぞれ複数であってもよい。
【0066】
本発明の1つの好ましい実施形態によれば、図2及び図3に示すように、第1吹き出し口612及び第2吹き出し口621はそれぞれ1つであり、第1吹き出し口612は内筒61の軸方向に沿って延びている長尺状であり、第2吹き出し口621は外筒62の軸方向に沿って延びている長尺状である。このような場合、第1吹き出し口612と第2吹き出し口621はエアナイフ60の周方向において、お互いにずれて配置され、つまり、内筒61に入った風が第1吹き出し口612から排出されてから第2吹き出し口621から直接排出されないように、第1吹き出し口612と第2吹き出し口621は好ましくは位置合わせないように設けられる。
【0067】
ここで、好ましくは、図3に示すように、第1吹き出し口612と第2吹き出し口621はエアナイフ60の周方向において反対して設けられる。
【0068】
また、第1吹き出し口612及び第2吹き出し口621の断面は好ましくは長方形であり、第1吹き出し口612及び第2吹き出し口621はエアナイフ60の周方向における開口角度が0~90°、好ましくは25~40°である。
【0069】
本発明では、エアナイフ60内に入った風が内筒61及び/又は連通通路63の他のポートから排出されないように、内筒61の吹き込み口611から離れた側は閉鎖状とされ、連通通路63の両端は閉鎖状とされている。内筒61はその筒壁に一体化している端壁により閉鎖されてもよいし、取り付けアセンブリ(以下で説明する)又はエアナイフが取り付けられる他の構造(例えば以下で説明する乾燥オーブン)により閉鎖されてもよく、連通通路63は取り付けアセンブリ又はエアナイフが取り付けられる他の構造により閉鎖されてもよい。
【0070】
本発明では、内筒61と外筒62を一体化し、エアナイフ60を全体として着脱しやすくするために、エアナイフ60は、内筒61及び外筒62を取り付けるための取り付けアセンブリをさらに含んでもよい。前記取り付けアセンブリは、内筒61と外筒62を一体に統合しながら内筒61及び/又は外筒62の移動を可能にし得る任意の部材であってもよい。
【0071】
エアナイフ60の構造を簡素化させ、エアナイフ60の製造コストを下げるために、本発明の1つの好ましい実施形態によれば、外筒62が固定されており、内筒61が外筒62に対してエアナイフ60の径方向に沿って移動する場合を例にして、図2に示すように、前記取り付けアセンブリは、内筒61の両端にそれぞれ取り付けられる2つの可動フランジ64と、外筒62の両端にそれぞれ取り付けられる2つの固定フランジ65と、を含んでもよく、2つの可動フランジ64はそれぞれ、2つの固定フランジ65に接続され(すなわち、エアナイフ60の同側に位置する可動フランジ64と固定フランジ65は互いに接続される)、また、2つの可動フランジ64は、それぞれ対応する固定フランジ65に対してエアナイフ60の径方向に沿ってロック可能に移動可能に構成される。
【0072】
可動フランジ64は内筒61に密封して取り付けられ、固定フランジ65は外筒62に密封して取り付けられる。図4及び図5に示すように、可動フランジ64は内筒61が取り付けられるための取り付け孔を有し、固定フランジ65は外筒62が取り付けられるための取り付け孔を有し、内筒61の直径は外筒62の直径より小さいため、可動フランジ64の取り付け孔の孔径は固定フランジ65の取り付け孔の孔径より小さくように設けられる。
【0073】
図4に示すように、可動フランジ64は固定フランジ65の外側に位置し、内筒61の両端はそれぞれ、固定フランジ65及び可動フランジ64の取り付け孔に順次挿通して設置され、外筒62の両端はそれぞれ、固定フランジ65の取り付け孔に挿通して設置される。このような場合、連通通路63の両端はそれぞれ2つの可動フランジ64によって閉鎖され得る。
【0074】
以上では、注意すべきものとして、図2に示すように、内筒61の左側端面は左側の可動フランジ64の外に伸びてもよいし、該可動フランジ64内に位置してもよいし、該可動フランジ64の左端面と平らに揃ってもよい。内筒61の右側端面は、右側の可動フランジ64の外に伸びてもよいし、該可動フランジ64の右端面と平らに揃ってもよく、これらの2つの場合、内筒61の右端ポートはその筒壁に一体化する端壁により閉鎖されてもよいし、エアナイフ60が取り付けられる他の構造により閉鎖されてもよく、内筒61の右側端面はまた右側の可動フランジ64内に位置してもよく、このような場合、内筒61の右端ポートはその筒壁に一体化する端壁により閉鎖されてもよいし、該可動フランジ64により閉鎖されてもよく、つまり、該可動フランジ64では、内筒61が取り付けられる取り付け孔は、貫通孔ではなく、右側壁を有する半閉鎖孔である。
【0075】
さらに、図4及び図5に示すように、可動フランジ64と固定フランジ65はファスナーによって接続されてもよく、可動フランジ64及び固定フランジ65のそれぞれには、前記ファスナーが挿通するための貫通孔が設けられ、可動フランジ64の貫通孔は円形孔641であり、固定フランジ65の貫通孔は長円形孔651である。
【0076】
以上では、注意すべきものとして、円形孔641の孔径が前記ファスナーの直径に適合し、長円形孔651は小孔径と大孔径を有し、小孔径は前記ファスナーの直径に適合し、大孔径は前記ファスナーの直径よりも大きい。前記ファスナーは円形孔641の長円形孔651に沿う延び方向を長円形孔651の特定の位置にロックすることで、可動フランジ64を固定フランジ65にロックして接続する。長円形孔651の延び方向は内筒61の移動方向である。例えば図4に示すように、長円形孔651は垂直方向に延びており、このような場合、内筒61及び可動フランジ64は外筒62及び固定フランジ65に対して垂直方向に沿って上下移動可能であり、第1吹き出し口612及び第2吹き出し口621は垂直方向に位置する。
【0077】
接続を強固にするために、図4及び図5に示すように、可動フランジ64には複数の円形孔641が設けられてもよく、したがって、固定フランジ65には複数の長円形孔651が設けられてもよく、複数の長円形孔651の延び方向が一致する。
【0078】
使用に際しては、前記ファスナーを緩めて、内筒61及び可動フランジ64を所望の位置に移動した後、前記ファスナーを締め付け、可動フランジ64を固定フランジ65にロックすることができる。
【0079】
注意すべきものとして、本発明では、前記ファスナーは、可動フランジ64を固定フランジ65に接続し得る任意の部品であってもよい。例えば前記ファスナーはボルトであり、この場合、円形孔641及び長円形孔651はネジ穴であってもよい。
【0080】
以上では、乾燥オーブン6内に設けられたエアナイフ60はフィブリルの表面で析出された溶媒を強く吹き飛ばし、フィブリルの表面の乾燥状態を確保することができる。エアナイフ60に使用される乾燥ガスは窒素ガス又は他の不活性ガスであってもよく、圧力は、好ましくは0~1MPa、より好ましくは0.4~0.6MPaに制御されてもよい。乾燥ガスの温度は0~140℃、好ましくは40~80℃であってもよい。エアナイフ60から排出された乾燥ガスは、好ましくは20メートル/秒(以上好ましくは30~40メートル/秒)の速度でフィブリルと接触する。これにより、フィブリル中の溶媒除去がさらに促進される。
【0081】
さらに、図1に示すように、前記乾燥ユニットは、乾燥オーブン6の前後にそれぞれ設けられた加熱ロール型延伸装置5及び非加熱ロール型延伸装置7をさらに含む。加熱ロール型延伸装置5及び非加熱ロール型延伸装置7の両方は好ましくは5本ロール延伸装置である。注意すべきものとして、前記乾燥ユニットのロール型延伸装置は主として乾燥機能を果たし、大きな延伸力を印加して延伸を行うものではないため、それによる延伸作用が無視されてもよい。
【0082】
本発明では、図6に示すように、前記溶融押し出しユニットは、二軸押出機1、ブースターポンプ2及び静的ミキサー3を含んでもよく、前記紡糸ユニットは冷却流体供給装置と紡糸筒4を含んでもよく、前記延伸ユニットは延伸オーブン8と延伸装置9を含んでもよく、前記巻取ユニットは巻取機11を含んでもよい。
【0083】
二軸押出機1は紡糸液を溶融して押し出し、安定的な溶融体を形成することに用いられ、ブースターポンプ2は溶融体を安定的に排出するために溶融体に安定的な圧力を与えることに用いられ、静的ミキサー3は安定的かつ均一な溶融体を形成することに用いられ、前記冷却流体供給装置は紡糸筒4に冷却流体を供給して、紡糸筒4内のスピニング孔(以下で説明する)から噴出されたフィブリルを急冷成形することに用いられ、紡糸筒4は溶融体をゲル弾性流体に転化するとともに、乾風急冷を行い、固体ゲル糸(すなわちフィブリル)を形成することに用いられ、延伸オーブン8及び延伸装置9は乾燥後のフィブリルを延伸することに用いられ、ここで、延伸オーブン8は熱延伸を行い、熱延伸とともに溶媒を揮発させることに用いられ、巻取機11は延伸後のフィブリルを巻き取ることに用いられる。
【0084】
また、前記繊維紡糸システムは、巻取機11の前に配置されて、フィブリルの表面へ給油処理を行うための給油装置10を含んでもよい。
【0085】
注意すべきものとして、図1に示す繊維紡糸システムの実施形態では、黒い矢印はガスの流れ方向を表す。
【0086】
本発明に係る紡糸筒4の1つの好ましい実施形態では、図6に示すように、紡糸筒4は、モータ41、定量ポンプ42、紡糸筒筐体43、スピニングアセンブリ44、保温オイルジャケット45、円周吹き部品46及びゴデットローラ47を含む。モータ41及び定量ポンプ42は紡糸筒筐体43に設けられ、スピニングアセンブリ44、保温オイルジャケット45、円周吹き部品46及びゴデットローラ47はすべて紡糸筒筐体43内に設けられる。
【0087】
ここで、スピニングアセンブリ44はスピニング孔を含み、紡糸液はスピニング孔から噴出されて、フィブリルを形成する。円周吹き部品46は紡糸筒筐体43の周方向に延設された環状配管を含み、前記環状配管は中心に向かっている開口を有し、前記冷却流体供給装置は前記環状配管に温度-10℃以下の流体を供給し、スピニング孔への冷却流体の円周吹きを行う。
【0088】
ここで、定量ポンプ42は材料を計量するデバイスであり、モータ41は定量ポンプ42を駆動して計量して押し出すことに用いられる。紡糸筒筐体43は恒温槽を供給し得るボックスである。スピニングアセンブリ44は上から下へ順次設けられたプレスプレート、濾過マット及び紡糸口金を含み、プレスプレートと紡糸口金はボルトにより固定され、紡糸口金にはスピニング孔が設けられ、紡糸液はスピニング孔から噴出されてフィブリルを形成する。保温オイルジャケット45は溶媒の揮発に必要な熱を供給し、紡糸口金表面を所定の温度に維持し、溶融体を安定的な流動状態にすることで、紡糸口金表面が急冷風による影響を受けて表面にある溶融体に詰まりや糸切れが生じることを回避する。円周吹き部品46は安定的な円周吹き風を提供し、トウの周囲での風量のバランスを取る。円周吹き部品46は紡糸筒筐体43の周方向に延設された環状配管を含み、前記環状配管は中心に向かっている開口を有し、前記冷却流体供給装置は、前記環状配管に温度-10℃以下の流体を供給して、スピニング孔への冷却流体の円周吹きを行う。ゴデットローラ47はフィブリルの移動方向を変えるものである。
【0089】
好ましくは、前記環状配管は、開口率が30~35%で、開口サイズと紡糸筒筐体43の内径との比が1:4~10である。開口サイズと紡糸筒筐体43との比が小さすぎると、筐体の内部で溶媒を円周吹き風で効果的に排出することができない、紡糸筒筐体内に溶媒が蓄積し、回収効率が大幅に低下するとともに、繊維の表面に大量の溶媒液滴が付着し、後続の延伸乾燥に不利である。開口サイズと紡糸筒筐体との比が大きすぎると、風速は大幅に増加し、繊維の落下時に振れをもたらし、フィブリルの品質に悪影響を与える。
【0090】
前記環状配管は保温オイルジャケット45とゴデットローラ47との間に設けられ、前記環状配管の直径は80cm以上であり、好ましくは環状配管の直径と紡糸筒筐体43の内径との比は1:5~10である。
【0091】
本発明の1つの好ましい実施形態によれば、本発明の繊維紡糸システムは、紡糸プロセス全体に亘って溶媒を回収し、冷却ガスと乾燥ガス及び紡糸溶媒をリサイクルし、環境汚染を低減させるために、溶媒回収ユニットをさらに含む。
【0092】
前記の通り、低温段階では、ガス中の溶媒含有量が低く、単なるサイクロン分離により溶媒を除去することができ、高温段階では、深度分離方式を採用することを見出した。このため、好ましくは、前記溶媒回収ユニットは、紡糸ユニットからの溶媒を回収するためのサイクロン分離装置と、前記乾燥ユニットからの溶媒を回収するための複合分離装置と、を含み、前記複合分離装置は、深冷分離と吸脱着とを組み合わせた形態を取る。
【0093】
前記複合分離装置は、順次接続された冷却器、深冷器、気液分離器、及び吸脱着器を含み、冷却分離-深冷分離-圧縮-冷却分離-吸脱着を統合した操作を行い、深度分離の目的を実現する。ここで、冷却分離の温度は40℃未満、深冷分離の温度は-5℃未満に制御され、このようにして、95%を超える溶媒回収率を実現し、ガスをリサイクルし、溶媒を回収してリサイクルすることができる。
【0094】
好ましくは、吸着用吸着剤は、活性炭、ヤシ殻活性炭、炭素分子篩のうちの1種又は複数種である。吸脱着の具体的な操作及び条件は従来技術を参照すればよい。
【0095】
上記の繊維紡糸システムを用いて低温乾風急冷成形に基づく高性能ポリエチレン紡糸を行う乾式紡糸生産プロセスは、ポリエチレン原料、溶媒、助剤を所定の割合で用いて紡糸溶液とし、混合して前膨潤し、前膨潤後の溶液を冷却釜に入れて撹拌し、二軸押出機に送って溶解して、剪断をかけて、ブースターポンプによって静的ミキサーを介して定量ポンプに送って、計量後、紡糸筒からゲルフィラメントを押し出し、保温ジャケットで糸条の溶媒揮発及び紡糸口金表面の温度を確保し、落下中に低温風の円周吹きにより急冷成形し、成形後のゲルフィラメントを加熱5本ロールで予熱して乾燥オーブンに送り、エアナイフで繊維表面の溶媒を迅速に揮発し、処理後のゲルフィラメントをプレ延伸システムに入れて、延伸システムで複数回延伸して、繊維完成品を形成し、溶媒回収システムによって冷却成形及び乾燥時に発生した溶媒を回収するステップを含む。
【0096】
前記保温ジャケットは主としてゲルフィラメント表面の溶媒が揮発するのに十分な熱を与え、紡糸口金表面の温度をその下方の低温円周吹き風による影響から保護し、ゲルフィラメントの押し出し安定性を確保する役割を果たす。
【0097】
紡糸口金の押し出し速度は好ましくは1~10m/minである。
【0098】
本発明は以下の顕著な特徴を有する。従来の高性能ポリエチレン繊維紡糸プロセスと比べて、このように生産されるゲルフィラメントについてプレ延伸と延伸を行った結果、毛羽や糸切れがなく、繊維の特性指標が明らかに向上し、繊維の破断強度が45CN/dtexを超え、弾性率が1800CN/dtexを超え、糸ムラが1%未満であり、繊維の歩留まりが98%以上に達し、溶媒回収率が95%を超える。
【0099】
以下、実施例によって本発明についてさらに説明する。以下の実施例では、別途断らない限り、原料はすべて市販品である。
【0100】
DSC結晶化度は以下の式1に従って算出される。
【0101】
【数1】
【0102】
式1中、Xは結晶化度、ΔHは繊維サンプルの溶融エンタルピー、ΔHは完全に結晶化したポリエチレン溶融エンタルピーであって、293J/gである。
【0103】
XRD結晶化度は以下の式2に従って算出され、結晶粒サイズLはScherrer式(式3)に従って算出される。
【0104】
【数2】
【0105】
式2中、Xは結晶化度、Iは非晶質ピークの相対強度、Iは結晶領域の相対強度であり、式3中、Lhklは結晶粒サイズ(単位nm)、λはX線の波長、kはScherrer定数、Hはhkl回折ピークの半値幅、θはhkl回折のブラッグ角である。
【0106】
破断強度、破断伸度、弾性率、伸度変動率CV%、及び強度変動率CV%はそれぞれGB/T19975-2005方法によって測定される。
【0107】
繊度は市販繊度測定機を用いて測定され、具体的な測定方法においては、繊度測定機を100周回転させた後、繊維の重量を量って換算したものを製品の繊度値とする。5回連続して測定して、これらの平均値を当該ロットの製品の繊度値とする。平均値との差が最も大きい繊度値と平均値との差の絶対値と、平均値との比をムラとする。該方法は各段階(冷却成形、乾燥及び延伸)における繊維糸の繊度値やムラのテストに適している。
【0108】
以下の実施例で使用される図1に示す繊維紡糸システムは、順次接続された二軸押出機、紡糸筒、ホット5本ロール延伸装置、乾燥オーブン、5本ロール延伸装置1、延伸オーブン、5本ロール延伸装置2、及び巻取機を含む。紡糸筒筐体内には、風の円周吹きのための、開口率35%、開口サイズ5mmの環状配管が設けられ、紡糸筒筐体の内径が1000×1200mmであり、乾燥オーブンは、ボックスと、ボックスの軸方向(材料の搬入出方向)に沿って均等に設けられた複数のエアナイフと、を含み、隣接する2つのエアナイフの間に所定の距離があり、前記ボックス内には、材料を乾燥するための乾燥室が設けられ、前記エアナイフは前記乾燥室内に設けられ、前記エアナイフの第2吹き出し口は前記材料に位置合わせて設けられ、前記ボックスには、前記乾燥室に連通している供給口、排出口、乾燥ガス入口及び乾燥ガス出口が開けられ、前記吹き込み口は前記乾燥ガスの入口に連通しており、前記第2吹き出し口は前記乾燥ガス出口に連通しており、前記供給口及び前記排出口はそれぞれ、前記ボックスの対向する両側に位置し、前記エアナイフは、同軸にネストされた内筒及び外筒を含み、前記内筒の一端は開口状であって前記エアナイフの吹き込み口となり、前記内筒の筒壁には、前記吹き込み口に連通している第1吹き出し口が開けられ、前記第1吹き出し口は前記内筒の軸方向に沿って延びている長尺状であり、前記外筒の筒壁には、前記外筒の軸方向に沿って延びている長尺状の第2吹き出し口が開けられ、前記内筒と前記外筒との間には、前記第1吹き出し口と前記第2吹き出し口とを連通させる連通通路を形成するための径方向スペースがあり、前記第1吹き出し口及び前記第2吹き出し口は前記エアナイフの周方向において、お互いにずれて配置される。前記第1吹き出し口及び前記第2吹き出し口は前記エアナイフの周方向における開口角度が40°であり、前記内筒及び前記外筒は、いずれも、前記エアナイフの径方向に沿って移動して前記第2吹き出し口の吹き出し量及び吹き出し方向を調整可能に構成される。
【0109】
まず、溶媒、ポリエチレン粉末及び紡糸助剤を混合し、超高分子量ポリエチレン粉末を前膨潤したものを、二軸押出機に入れて十分に溶解し、剪断を掛けた後、ブースターポンプによって静的ミキサーに送り、安定化後の溶液を定量ポンプに送り、紡糸筒を用いて押し出し速度1~10m/minで押し出し、押し出したゲルストランドを保温オイルジャケット(200℃)に通して、溶媒の揮発温度及び紡糸口金の安定的な温度を確保する。保温オイルジャケットを通ったゲルストランドに乾風の円周吹きを行って急冷して高速成形し、円周吹き風の圧力を0~50kPa、温度を-50℃~-10℃とし、急冷後の糸条を迅速に硬化成形し、未延伸ゲル糸を得て、この未延伸ゲル糸をゴデットローラを通過させてホット5本ロールに入れ、ホット5本ロールによって、温度30~100℃で加熱し、繊維表面の溶媒を揮発させ、糸条を乾燥オーブンに送って、乾燥オーブンの内部にあるエアナイフで繊維表面の溶媒を素早く揮発させ、エアナイフからの乾燥熱風は熱窒素ガスである。延伸オーブン内部の温度を40~150℃に制御し、次に、プレ延伸を行い、糸半製品を得て、糸半製品について延伸成形を行って巻き取り、全延伸倍率を160~1200倍(紡糸ヘッドによる延伸を含む)にした。溶媒回収には異なる温度で段階的に回収する方式が採用されており、低温領域にはサイクロン分離器、高温領域には冷却分離-深冷分離-冷却分離-吸脱着を統合した形態が採用されており、サイクロン分離及び冷却分離の温度は40℃未満であり、深冷分離の温度は-5℃未満である。
【0110】
実施例1
原料(数平均分子量487万のポリエチレン)と溶媒(デカリン)の質量/体積比は8%であり、助剤は酸化防止剤とステアリン酸カルシウムを含み、使用量はそれぞれ、原料の質量換算で0.7%及び0.3%であり、膨潤温度は98℃であり、押し出し速度は3m/minであり、保温オイルジャケットは200℃である。急冷温度-25℃の空気の円周吹きを風圧0.4MPaで0.5s行った。ホットロールの温度は40℃であり、乾燥オーブンの温度は40℃(エアナイフは風温40℃、風速30メートル/秒、風圧0.4MPa)であり、延伸オーブンの温度は125℃であり、プレ延伸倍率は3倍であり、多段延伸オーブンの温度は140~145℃であり、総延伸倍率は220倍である。溶媒回収には異なる温度で段階的に回収する方式が採用されており、低温領域にはサイクロン分離器、高温領域には冷却分離-深冷分離-冷却分離-吸脱着を統合した形態が採用されており、サイクロン分離及び冷却分離の温度は40℃未満であり、深冷分離の温度は-5℃未満であり、吸着剤は活性炭である。紡糸繊維のDSC曲線及びXRD図はそれぞれ図7及び図8のサンプル2に示される通りであり、特性検出指標は以下の表1に示される。溶媒回収率は97.35%であった。
【0111】
【表1】
【0112】
実施例2
原料(数平均分子量487万のポリエチレン)と溶媒(デカリン)の質量/体積比は8%であり、助剤は酸化防止剤とステアリン酸カルシウムを含み、使用量はそれぞれ原料の質量換算で0.7%及び0.3%であり、膨潤温度は98℃であり、押し出し速度は3.25m/minであり、保温オイルジャケットは200℃である。急冷温度-20℃の空気の円周吹きを風圧10kPaで0.7s行った。ホットロール温度は50℃であり、乾燥オーブンの温度は50℃(エアナイフは風温50℃、風速30メートル/秒、風圧0.4MPa)であり、延伸オーブン温度は125℃であり、プレ延伸倍率は3倍であり、多段延伸オーブンの温度は140~145℃であり、総延伸倍率は220倍である。溶媒回収には異なる温度で段階的に回収する方式が採用されており、低温領域にはサイクロン分離器、高温領域には冷却分離-深冷分離-冷却分離-吸脱着を統合した形態が採用されており、サイクロン分離及び冷却分離の温度は40℃未満であり、深冷分離の温度は-5℃未満であり、吸着剤は活性炭である。紡糸繊維のDSC曲線及びXRD図はそれぞれ図7及び図8のサンプル2に示される通りであり、特性検出指標は以下の表2に示される。溶媒回収率は97.19%である。
【0113】
【表2】
【0114】
実施例3
原料(数平均分子量425万のポリエチレン)と溶媒(デカリン)の質量/体積比は8%であり、助剤は酸化防止剤とステアリン酸カルシウムを含み、使用量はそれぞれ、原料の質量換算で0.7%及び0.3%であり、膨潤温度は98℃であり、押し出し速度は3.25m/minであり、保温オイルジャケットは200℃である。急冷温度-15℃の空気の円周吹きを風圧4kPaで0.54s行った。ホットロールの温度は40℃であり、乾燥オーブンの温度は40℃(エアナイフは風温40℃、風速30メートル/秒、風圧0.4MPa)であり、延伸オーブンの温度は125℃であり、プレ延伸倍率は3倍であり、多段延伸オーブンの温度は140~145℃であり、総延伸倍率は240倍である。溶媒回収には異なる温度で段階的に回収する方式が採用されており、低温領域にはサイクロン分離器、高温領域には冷却分離-深冷分離-冷却分離-吸脱着を統合した形態が採用されており、サイクロン分離及び冷却分離の温度は40℃未満であり、深冷分離の温度は-5℃未満であり、吸着剤は活性炭である。紡糸繊維のDSC曲線及びXRD図はそれぞれ図7及び図8のサンプル3に示される通りであり、特性検出指標は以下の表3に示される。溶媒回収率は97.22%である。
【0115】
【表3】
【0116】
実施例4
原料(数平均分子量425万のポリエチレン)と溶媒(デカリン)の質量/体積比は8%であり、助剤(酸化防止剤とステアリン酸カルシウムとの重量比7:3)と原料の比は0.8質量%であり、膨潤温度は98℃であり、押し出し速度は3m/minであり、保温オイルジャケットは200℃である。急冷温度-10℃の空気の円周吹きを風圧5kPaで0.64s行った。ホットロールの温度は40℃であり、乾燥オーブンの温度は40℃(エアナイフは風温40℃、風速30メートル/秒、風圧0.4MPa)であり、延伸オーブンの温度は125℃であり、プレ延伸倍率は3倍であり、多段延伸オーブンの温度は140~145℃であり、総延伸倍率は200倍である。溶媒回収には異なる温度で段階的に回収する方式が採用されており、低温領域にはサイクロン分離器、高温領域には冷却分離-深冷分離-冷却分離-吸脱着を統合した形態が採用されており、サイクロン分離及び冷却分離の温度は40℃未満であり、深冷分離の温度は-5℃未満であり、吸着剤は活性炭である。同じロットから4つの筒の繊維をランダムに取り出してテストを行った結果、紡糸繊維製品のDSC曲線及びXRD図はそれぞれ図7及び図8と類似しており、特性検出指標は以下の表4に示される。溶媒回収率は97.17%である。
【0117】
【表4】
【0118】
実施例5
原料(数平均分子量487万のポリエチレン)と溶媒(テトラリン)の質量/体積比は6.5%であり、助剤は酸化防止剤とステアリン酸カルシウムを含み、使用量はそれぞれ、原料の質量換算で0.7%及び0.3%であり、膨潤温度は98℃であり、押し出し速度は3.25m/minであり、保温オイルジャケットは200℃である。急冷温度-20℃の窒素ガスの円周吹きを風圧5kPaで0.6s行った。ホットロールの温度は40℃であり、乾燥オーブンの温度は80℃(エアナイフは風温80℃、風速40メートル/秒、風圧0.4MPa)であり、延伸オーブンの温度は125℃であり、プレ延伸倍率は3倍であり、多段延伸オーブンの温度は140~145℃であり、総延伸倍率は220倍である。溶媒回収には異なる温度で段階的に回収する方式が採用されており、低温領域にはサイクロン分離器、高温領域には冷却分離-深冷分離-冷却分離-吸脱着を統合した形態が採用されており、サイクロン分離及び冷却分離の温度は40℃未満であり、深冷分離の温度は-5℃未満であり、吸着剤はヤシ殻活性炭である。紡糸繊維のDSC曲線及びXRD図はそれぞれ図7及び図8と類似しており、特性検出指標は以下の表5に示される。溶媒回収率は98.0%である。
【0119】
【表5】
【0120】
実施例6
原料(数平均分子量487万のポリエチレン)と溶媒(トルエン)の質量/体積比は6.5%であり、助剤は酸化防止剤とステアリン酸カルシウムを含み、使用量はそれぞれ、原料の質量換算で0.7%及び0.3%であり、膨潤温度は98℃であり、押し出し速度は3.25m/minであり、保温オイルジャケットは200℃である。急冷温度-10℃の空気の円周吹きを風圧5kPaで0.6s行った。ホットロールの温度は40℃であり、乾燥オーブンの温度は60℃(エアナイフは風温60℃、風速50メートル/秒、風圧0.4MPa)であり、延伸オーブンの温度は125℃であり、プレ延伸倍率は3倍であり、多段延伸オーブンの温度は140~145℃であり、総延伸倍率は300倍である。溶媒回収には異なる温度で段階的に回収する方式が採用されており、低温領域にはサイクロン分離器、高温領域には冷却分離-深冷分離-冷却分離-吸脱着を統合した形態が採用されており、サイクロン分離及び冷却分離の温度は40℃未満であり、深冷分離の温度は-5℃未満であり、吸着剤は分子篩である。溶媒回収率は98.5%である。紡糸繊維のDSC曲線及びXRD図はそれぞれ図7及び図8と類似しており、繊維の特性検出指標は以下の表6に示される。
【0121】
【表6】
【0122】
実施例7
通常の乾燥オーブン、すなわち乾燥オーブン内にエアナイフ構造が設けられていないものを用いた以外、実施例4の方法に従って紡糸し、紡糸繊維のDSC曲線及びXRD図はそれぞれ図7及び図8と類似しており、特性検出指標は以下の表7に示される。溶媒回収率は84%である。
【0123】
【表7】
【0124】
実施例8
乾燥オーブン内のエアナイフが直通式構造であった以外、実施例4の方法に従って紡糸した。各ロットの紡糸繊維のDSC曲線及びXRD図はそれぞれ図7及び図8と類似しており、特性検出指標は以下の表8に示される。溶媒回収率は95%である。
【0125】
【表8】
【0126】
比較例1
円周吹き方式をCN106544741Bに記載の横吹き方式に変更して、温度10℃の空気を横吹きしたこと、乾燥オーブンにはエアナイフ構造が設けられていないこと以外、実施例4の方法に従って繊維糸を製造した。紡糸繊維のDSC曲線及びXRD図はそれぞれ図7及び図8のサンプル1に示されるとおりであり、各ロットで得られた繊維の特性指標は以下の表9に示される。
【0127】
【表9】
【0128】
比較例2
円周吹き風は温度10℃の空気であった以外、実施例4の方法に従って繊維糸を製造した。得られた繊維の特性指標は以下の表10に示される。
【0129】
【表10】
【0130】
ムラ検出
以下の表に示すように紡糸ヘッドによる延伸の倍率及びプレ延伸倍率を調整した以外、比較例1及び実施例1の方法に従って紡糸した。冷却成形により得られた未延伸ゲル糸、及び乾燥により溶媒を除去して得られた糸半製品の繊度及びムラは、それぞれ、以下の表11及び12に示される。
【0131】
【表11】
【0132】
【表12】
【0133】
表11と表12を比較した結果、未延伸ゲル糸は、溶媒が除去されていないため、繊度を測定するときに、繊度の波動幅が大きく、糸半製品は、溶媒が除去されているため、繊度を測定するときに、繊度が比較的均一で、繊度の波動幅が小さい。ただし、未延伸ゲル糸か糸半製品に関わらず、本発明の方法を採用すると、ムラが大幅に低下する。
【0134】
上記の糸半製品を延伸して得た繊維糸製品は、すべて、ムラが0.9~1%の間であり、一方、比較例1における横吹きプロセスにより得られた繊維糸製品は、すべて、ムラが3%を超える。
【0135】
上記の表に記載のデータから明らかに、本発明による方法を用いて生産された繊維は、破断強度及び弾性率が高く、ムラが低い。
【0136】
以上は本発明の好ましい実施形態を詳細に説明したが、本発明はこれらに限定されない。本発明の技術構想の範囲内で、各技術的特徴が任意の適切な方式で組み合わせられることを含め、本発明の技術案について様々な簡単な変形を行うことができ、これらの簡単な変形及び組み合わせも本発明で開示された内容とみなすべきであり、すべて本発明の特許範囲に属する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8