(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-20
(45)【発行日】2025-01-06
(54)【発明の名称】アンテナ装置
(51)【国際特許分類】
H01Q 13/08 20060101AFI20241223BHJP
【FI】
H01Q13/08
(21)【出願番号】P 2024067067
(22)【出願日】2024-04-17
【審査請求日】2024-06-28
(31)【優先権主張番号】P 2023091865
(32)【優先日】2023-06-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100160691
【氏名又は名称】田邊 淳也
(74)【代理人】
【識別番号】100182718
【氏名又は名称】木崎 誠司
(72)【発明者】
【氏名】丸山 昭広
(72)【発明者】
【氏名】山下 大輔
(72)【発明者】
【氏名】岩田 宗之
【審査官】齊藤 晶
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/261332(WO,A1)
【文献】特表2021-520743(JP,A)
【文献】米国特許第09929472(US,B2)
【文献】特開2021-153278(JP,A)
【文献】Wei-Shin TUNG et al.,“A Millimeter-Wave Antenna on Low Cost FR4 Substrate”,2019 IEEE Asia-Pacific Microwave Conference (APMC),2019年12月,DOI: 10.1109/APMC46564.2019.9038532
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01Q 13/08
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体基板を用いて構成されたアンテナ装置であって、
前記誘電体基板のうちの下方に配置された第1誘電体層と、
前記誘電体基板の
うちの上方に配置され
て前記第1誘電体層に積層された
第2誘電体層
であって、前記誘電体基板の厚さ方向である第1の方向から見た平面視で
、中央に前記第1の方向に貫通するキャビティ
が形成された第2誘電体層と、
前記第1の方向において前記第1誘電体層の前記第2誘電体層が配置される面側、かつ、前記第1の方向から見た平面視で前記キャビティ内に配置される所定の導体層に形成されるパッチアンテナと、
前記第1の方向に
おいて前記所定の導体層
よりも前記第1誘電体層側に配置されるグランド導体と、
を備え
、
前記キャビティの前記第1の方向に沿った高さは、前記誘電体基板における使用周波数の波長λに対し、0.7λから0.8λの範囲内に設定されることを特徴とするアンテナ装置。
【請求項2】
前記パッチアンテナ及び前記キャビティは、それぞれ前記第1の方向から見た平面視で矩形の形状を有することを特徴とする請求項1に記載のアンテナ装置。
【請求項3】
前記パッチアンテナ及び前記キャビティは、それぞれ前記第1の方向から見た平面視で円形の形状を有することを特徴とする請求項1に記載のアンテナ装置。
【請求項4】
前記第1の方向から見た平面視で、前記キャビティの外縁部は、前記パッチアンテナの外縁部から、0.03λから0.07λの範囲内の距離だけ大きく設定されることを特徴とする請求項1に記載のアンテナ装置。
【請求項5】
前記第1の方向から見た平面視で、前記パッチアンテナ及び前記キャビティは、前記誘電体基板の中心に対し対称的に配置されることを特徴とする請求項1に記載のアンテナ装置。
【請求項6】
前記グランド導体は、前記第1の方向に延伸する複数のビア導体を介して相互に接続される複数の導体層に形成されることを特徴とする請求項1に記載のアンテナ装置。
【請求項7】
前記パッチアンテナには、水平偏波と垂直偏波の一方又は両方を給電するための給電構造が設けられることを特徴とする請求項1に記載のアンテナ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電体基板を用いて構成されたアンテナ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
5Gや6Gなどの移動通信においては、建物の内部や屋外などの様々な環境の下で高周波帯域の電波の送受信を行うため、アンテナ装置には、多様な方向の電波を送受信し得る広い角度の放射指向性を有することが要求される。このような要求に対応するために、複数のアンテナ素子をアレイ状に並べたアレイアンテナを構成し、全体的に広角度の放射指向性を実現する手法が知られている。例えば、特許文献1には、複数のアンテナをアレイ状に配列したアレイアンテナにおいて、各アンテナに位相差を与えてビームフォーミングを行い、広角度の放射指向性を得ること可能な技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
特許第6818757号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年のアンテナ装置においては、小型軽量化の観点から誘電体基板を用いる構造が広く利用されている。例えば、誘電体基板に1つのパッチアンテナを形成すればアンテナ装置の小型化が容易であるが、広い角度の放射指向性を実現することは困難である。前述したようにアンテナ装置の広角度の放射指向性を実現するには、誘電体基板に複数のパッチアンテナ等のアンテナをアレイ状に並べてアレイアンテナを構成する必要がある。
しかし、誘電体基板を用いたアレイアンテナは、複数のアンテナを配置するためのスペースが必要であり、サイズが拡大してアンテナ装置の小型化が困難になる。また、複数のアンテナにビームフォーミングのための位相差を与える複雑な電子回路を形成する必要があり、部品コストと実装コストの両方の増加を招くことになるし、誘電体基板の製作時の寸法公差も厳しくなる。
以上のように、上記従来の手法により誘電体基板を用いたアンテナ装置を構成する場合、小型かつ低コストで広角度の放射指向性を実現することは困難であった。
【0005】
本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、誘電体基板を用いてアンテナ装置を構成する場合、1つのパッチアンテナのみを配置して広い角度の放射指向性を保ちつつ、アンテナ装置の小型化と低コスト化が可能なアンテナ装置を実現するものである。
【0006】
本発明は、上述した課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態として実現できる。誘電体基板を用いて構成されたアンテナ装置であって、前記誘電体基板のうちの下方に配置された第1誘電体層と、前記誘電体基板のうちの上方に配置されて前記第1誘電体層に積層された第2誘電体層であって、前記誘電体基板の厚さ方向である第1の方向から見た平面視で、中央に前記第1の方向に貫通するキャビティが形成された第2誘電体層と、前記第1の方向において前記第1誘電体層の前記第2誘電体層が配置される面側、かつ、前記第1の方向から見た平面視で前記キャビティ内に配置される所定の導体層に形成されるパッチアンテナと、前記第1の方向において前記所定の導体層よりも前記第1誘電体層側に配置されるグランド導体と、を備え、前記キャビティの前記第1の方向に沿った高さは、前記誘電体基板における使用周波数の波長λに対し、0.7λから0.8λの範囲内に設定されることを特徴とするアンテナ装置。そのほか、本発明は、以下の形態としても実現可能である。上記課題を解決するために、本発明のアンテナ装置(1)は、誘電体基板を用いて構成されたアンテナ装置であって、前記誘電体基板の所定の導体層に形成されるパッチアンテナ(20)と、前記誘電体基板の前記所定の導体層の上方に配置された誘電体層(11)に形成され、前記誘電体基板の厚さ方向である第1の方向(Z)から見た平面視で前記パッチアンテナを取り囲む形状を有するキャビティ(12)と、前記第1の方向に前記所定の導体層を挟んで前記誘電体層と対向して配置されるグランド導体(21、22、23)とを備えて構成される。
【0007】
本発明のアンテナ装置は、誘電体基板を用いたアンテナ装置には、所定の導体層のパッチアンテナ及び直下のグランド導体が形成されるとともに、パッチアンテナの上方に積層された誘電体層にキャビティが形成され、このキャビティが第1の方向から見た平面視でパッチアンテナを取り囲む形状を有して構成される。このような構造により、給電構造を経てパッチアンテナから放射される電波は、上方のキャビティの側面の誘電体表面の電磁界分布の影響で放射方向が拡がり、放射指向性が広角度化する。従って、複数のアンテナをアレイ状に配置するためのスペース増加やビームフォーミング時の位相制御のための複雑な電子回路が不要となり、アンテナ装置の小型化と低コスト化を容易に達成することができる。
【0008】
本発明において、パッチアンテナ及びキャビティは、それぞれ第1の方向から見た平面視で多様な形状とすることができる。例えば、第1の方向から見た平面視で、矩形の形状を有するパッチアンテナ及びキャビティや、円形の形状を有するパッチアンテナ及びキャビティを採用することができる。また、キャビティの第1の方向に沿った高さは、誘電体基板における使用周波数の波長λに対し、0.7λから0.8λの範囲内に設定することが望ましい。また、第1の方向から見た平面視で、キャビティの外縁部は、パッチアンテナの外縁部から、0.03λから0.07λの範囲内の距離だけ大きく設定することが望ましい。
【0009】
本発明において、第1の方向から見た平面視で、パッチアンテナ及びキャビティは、誘電体基板の中心に対し対称的に配置することができる。これにより、アンテナ装置には、基板平面内の略中央から各方向への対称的な放射指向性を得ることができる。
【0010】
本発明において、グランド導体は、第1の方向に延伸する複数のビア導体を介して相互に接続される複数の導体層に形成することができる。これにより、グランド導体の面積を拡大してグランドを強化し、アンテナ特性の向上が可能となる。
【0011】
本発明において、パッチアンテナには、水平偏波と垂直偏波の一方又は両方を給電するための給電構造を設けることができる。これにより、1つのパッチアンテナにより少なくとも水平偏波の電波と垂直偏波の電波の両方を送受信可能とし、それぞれを利用状況に応じて適宜に使い分けることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、誘電体基板に単体のパッチアンテナを配置し、その上方にキャビティを配置したので、アンテナ装置をアレイ化することに伴う大型化や高コスト化を回避しつつ、放射指向性の広角度化により使い勝手に優れたアンテナ装置を実現可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本実施形態のアンテナ装置1を斜め上方から見た斜視図である。
【
図2】
図1のアンテナ装置1のA-A断面における断面構造図である。
【
図3】本実施形態のアンテナ装置1を上方から見た平面図である。
【
図4】本実施形態他のアンテナ装置1の下部の導体構造を説明する図である。
【
図5】本実施形態のアンテナ装置1と比較例のアンテナ装置とに関し、XZ面内の放射指向性を対比して示した図である。
【
図6】本実施形態のアンテナ装置1と比較例のアンテナ装置とに関し、YZ面内の放射指向性を対比して示した図である。
【
図7】本実施形態のアンテナ装置1と比較例のアンテナ装置とに関し、反射特性を対比して示した図である。
【
図8】本発明を適用した一変形例に係るアンテナ装置1を斜め上方から見た斜視図である。
【
図9】本変形例のアンテナ装置1を上方から見た平面図である。
【
図10】本変形例のアンテナ装置1と比較例のアンテナ装置とに関し、XZ面内の放射指向性を対比して示した図である。
【
図11】本変形例のアンテナ装置1と比較例のアンテナ装置とに関し、YZ面内の放射指向性を対比して示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好適な実施形態について、
図1~
図11を参照しながら説明する。本実施形態では、本発明を具体化したアンテナ装置について説明を行う。ただし、以下に述べる実施形態は本発明を適用した形態の一例であって、本発明が本実施形態の内容により限定されることはない。
【0015】
本実施形態の一実施例であるアンテナ装置1の構造について
図1~
図4を用いて説明する。
図1は、アンテナ装置1を斜め上方から見た斜視図である。
図2は、
図1のアンテナ装置1のA-A断面における断面構造図である。
図3は、アンテナ装置1を上方から見た平面図である。
図4は、アンテナ装置1の下部の導体構造を説明する図である。なお、
図1~
図4では、説明の便宜のため、互いに直交するX方向、Y方向、Z方向(本発明の第1の方向)をそれぞれ矢印にて示している。
【0016】
本実施形態のアンテナ装置1は、誘電体材料からなる誘電体基板を用いて構成され、誘電体基板は下部の誘電体層10と上部の誘電体層11とを積層した構造を有する。下部の誘電体層10の表面中央にはパッチアンテナ20が形成され、上部の誘電体層11の中央にはキャビティ12が形成されている。すなわち、誘電体層11において中央の誘電体材料が矩形状に除去された空洞の部分がキャビティ12となっている。また、下部の誘電体層10には、パッチアンテナ20に対向する下部に3層構造のグランド導体21、22、23が配置されている。
【0017】
図2及び
図3に示すように、Z方向から見た平面視で、上下の誘電体層10、11はいずれも同じサイズの矩形の平面形状を有し、パッチアンテナ20は誘電体層11より十分にサイズが小さい矩形の平面形状を有し、キャビティ12はパッチアンテナ20より僅かに大きい矩形の平面形状を有する。すなわち、平面視でキャビティ12がパッチアンテナ20を取り囲む配置となっているので、パッチアンテナ20は直上でキャビティ12の内部の空気に面しており、パッチアンテナ20が外部に露出した構造になっている。
【0018】
図2においては、下部の誘電体層10のZ方向の高さZ1と、上部の誘電体層11のZ方向の高さZ2(キャビティ12の高さZ2)を示している。Z1に比べZ2の方が大きく設定されていることがわかる。また、
図3においては、上下の誘電体層10、11のX方向の長さX1及びY方向の長さY1と、キャビティ12のX方向の長さX2及びY方向の長さY2をそれぞれ示し、既に述べたように、X2、Y2に比べX1、Y1が大きく設定されている。また、パッチアンテナ20のサイズは、X2、Y2より若干小さいサイズに設定されている。
図1~
図4においては、誘電体層10、11及びキャビティ12がいずれも正方形の平面形状であって、X1=Y1、X2=Y2に設定される場合を例示している。
【0019】
本実施形態において、前述のX1、X2、Y1、Y2、Z1、Z2などの具体的な寸法条件は、使用周波数帯域やアンテナ特性等に応じて適切に決定する必要がある。例えば、28GHzの使用周波数を想定すると、寸法条件の一設定例としては、誘電体層10、11に関し、X1=Y1=7.6mm、Z1=0.6mm、Z2=3.3mmで、キャビティ12に関し、X2=Y2=2.35mmを挙げることができる。なお、キャビティ12の高さはZ2に一致し、パッチアンテナ20のサイズはX2、Y2より若干小さく2mm程度となる。一般に、使用周波数帯域が低くなるほど寸法パラメータを大きく設定する必要があり、使用周波数帯域が高くなるほど寸法パラメータを小さく設定する必要がある。
【0020】
次に、アンテナ装置1の導体構造について
図4を用いて説明する。
図4においては、上部の誘電体層11を除去した状態で、下部の誘電体層10の領域のみを示し、パッチアンテナ20とグランド導体21、22、23に加えて、誘電体層10を積層方向に延伸する複数のビア導体30、31、32を示している。まず、3層のグランド導体21、22、23は、下層側からグランド導体21、グランド導体22、グランド導体23の順に配置されている。グランド導体21、22、23の各々は、誘電体層10の矩形領域のほぼ全体に拡がって形成されている。3層のグランド導体21、22、23は、互いに複数のビア導体30を介して電気的に接続されている。このように面積の大きいグランド導体21、22、23と上方のパッチアンテナ20とが対向して配置されるので、アンテナ装置1のグランドが強化されてアンテナ特性の向上に有効である。
【0021】
また。
図4に示すように、パッチアンテナ20には、給電線路として機能する2本のビア導体31、32が接続されている。一方のビア導体31には水平偏波の高周波信号が給電され、他方のビア導体32には垂直偏波の高周波信号が給電される。
図3のパッチアンテナ20には、水平偏波用のビア導体31の上端部31aと垂直偏波用のビア導体32の上端部32aとが示され、パッチアンテナ20の中央からそれぞれ水平方向と垂直方向に偏移した位置にて接続されている。それぞれのビア導体31、32の下端は、誘電体層10の底面の1対のパッド(不図示)に接続され、1対の給電線路に外部から給電可能な構造となっている。このような構造により、アンテナ装置1は、給電構造を介して水平偏波と垂直偏波のいずれか一方又は両方を放射可能となる。
【0022】
本実施形態のアンテナ装置1に外部から高周波信号を給電すると、基本的にはZ方向の上方に向けて電波が放射される。この場合、従来の一般的な構造によれば、
図4に示すような構造の誘電体層10の表面のパッチアンテナ20の上方は全て空気であるのに対し、本実施形態では、パッチアンテナ20の上方にキャビティ12が存在する点で異なる。本実施形態において、キャビティ12の役割は、アンテナ装置1の放射指向性を広角にすることにある。従来は1つのパッチアンテナ20を設けるだけでは広い角度の放射指向性を実現することは困難であった。本実施形態のアンテナ装置1によれば、主にキャビティ12を設けた効果により、広い角度の放射指向性を得ることが可能となるが、この点の検証結果については後述する。
【0023】
以下、
図5~
図7を用いて、本実施形態のアンテナ装置1に関するアンテナ特性の検証結果について説明する。ここでは、本実施形態のアンテナ装置1との対比のため、上部の誘電体層10及びキャビティ12が存在しない構造のアンテナ装置を比較例として、アンテナ特性の比較を行った。この比較例は、
図4のような構造を有しており、パッチアンテナ20が誘電体層10の最上部に配置されている。なお、比較例の寸法パラメータは本実施形態のアンテナ装置1の該当部分と概ね共通である。
【0024】
図5及び
図6は、本実施形態のアンテナ装置1と比較例のアンテナ装置とに関し、放射指向性を対比して示した図である。
図5はXZ面内の指向性を示し、
図6がYZ面内の指向性を示している。いずれも周波数28GHzの信号を入力し、パッチアンテナ20から放射される電波の指向性をシミュレーションにより検証した結果である。
図5及び
図6では、本実施形態の放射指向性(実線)と比較例の放射指向性(破線)とを重ねて表している。
【0025】
図5及び
図6に示すように、放射指向性は放射方向がZ方向の上方を向くとき利得がピークになり、XZ面内及びYZ面内で放射方向がZ方向から偏移するとともに利得が低下していく。このとき、
図5及び
図6において、利得がピークから半分の値になる角度の範囲を半値幅として求めると、比較例の場合は半値幅が90°程度になっているのに対し、本実施形態の場合(実線)は半値幅が180°を超えており、比較例の2倍以上となっている。従って、
図5及び
図6の結果から、本実施形態のアンテナ装置1によれば、広い角度の放射指向性を得られることが検証された。
【0026】
また、
図7は、本実施形態のアンテナ装置1と比較例のアンテナ装置とに関し、反射特性を対比して示した図である。反射特性は周波数に応じて入力信号と反射信号の関係を表すVSWR(Voltage Standing Wave Ratio)をシミュレーションにより求めることで得られる。
図7では、本実施形態のVSWR(実線)と比較例のVSWR(破線)とを重ねて表している。
【0027】
図7に示すように、反射特性は、周波数28GHzの近傍でVSWRが最小値となり、そこから低域側と高域側になるほどVSWRが劣化する。そして、本実施形態では、VSWRが良好な周波数範囲は比較的広くなるのに対し、比較例の場合はVSWRが良好な周波数範囲は相対的に狭くなっている。具体的には、本実施形態ではVSWRが2以下となる周波数範囲が比較例に比べて4倍以上となっている。従って、
図7の結果から、本実施形態のアンテナ装置1は、広い周波数範囲で良好な反射特性を得られることが検証された。
【0028】
次に、本発明を適用した一変形例に係るアンテナ装置1について、
図8及び
図9を用いて説明する。上述の実施形態では、パッチアンテナ20及びキャビティ12がZ方向から見た平面視で矩形の平面形状を有するアンテナ装置1を説明したが、本変形例のアンテナ装置1は、パッチアンテナ20a及びキャビティ12aの形状を変更したものである。
図8は、本変形例のアンテナ装置1を斜め上方から見た斜視図であり、
図9は、
図8のアンテナ装置1を上方から見た平面図である。ここで、
図8及び
図9は、
図1及び
図3に対応している。なお、
図2及び
図4については、本変形例に関しても概ね共通であるため省略する。
【0029】
図8及び
図9に示すように、本変形例のアンテナ装置1において、
図1及び
図3の構造と異なるのは、パッチアンテナ20a及びキャビティ12aがいずれもZ方向から見た平面視で円形の平面形状を有する点である。すなわち、キャビティ12aは、上部の誘電体層11において中央の誘電体材料を円形状に除去することで形成され、パッチアンテナ20aは、下部の誘電体層10の表面中央に円形状に形成されている。なお、
図8及び
図9において、上下の誘電体層10、11は、
図1及び
図3と同様、いずれも矩形の平面形状を有している。また、
図2と同様、下部の誘電体層10には3層構造のグランド導体21、22、23が配置されている。同様に、
図4に示す給電構造と、水平偏波用及び垂直偏波用の各ビア導体31、32の上端部31a及び下端部32a(
図9)の配置についても上記実施形態と同様である。
【0030】
図9に示すように、Z方向から見た平面視で、円形のキャビティ12aは直径Dに設定されるとともに、円形のパッチアンテナ20aは直径Dより若干小さい直径に設定されている。すなわち、平面視でキャビティ12aがパッチアンテナ20aを取り囲む配置であることは
図3の場合と同様である。なお、本変形例の寸法条件のうち、誘電体層10、11のそれぞれZ方向の高さZ1、Z2(
図2)と、上下の誘電体層10、11のX方向の長さX1及びY方向の長さY1は、上記実施形態と共通である。
図9の直径Dについても、他の寸法条件と同様、使用周波数帯域やアンテナ特性等に応じて適切に決定する必要がある。
【0031】
図10及び
図11は、本変形例のアンテナ装置1に関し、
図5及び
図6と同様の放射指向性を示す図である。いずれも周波数28GHzの信号を入力し、パッチアンテナ20aから放射される電波の指向性をシミュレーションにより検証した結果である。
図10及び
図11では、本変形例の放射指向性(実線)に重ねて、
図5及び
図5と同様の比較例の放射指向性(破線)とを表している。
図10及び
図11の放射指向性は、
図5及び
図6と概ね共通であり、本変形例の構造を採用した場合であっても、広い角度の放射指向性を得られる効果を有することが検証された。なお、図示は省略するが、本変形例の反射特性についても、概ね
図7と共通の結果が得られる。
【0032】
以上説明したように、本発明を適用したアンテナ装置1の構造を採用することにより、広角度の放射指向性を含めて良好なアンテナ特性を実現可能である。すなわち、従来のように誘電体層10の表面にパッチアンテナ20を配置した構造では比較的狭い角度の放射指向性となるのに対し、上記変形例を含む実施形態(以下、本実施形態という)では誘電体層10の上部に積層した誘電体層11にキャビティ12を設けた効果により放射指向性の広角度化が可能となった。パッチアンテナ20からZ方向の上方に向けて放射される電波は、キャビティ12の4つの側面を構成する誘電体表面に電磁界分布を生じさせ、それがZ方向に沿ってキャビティ12の上部の開口部まで伝搬すると多様な方向に拡がって放射指向性が広角度化すると想定される。
【0033】
従来の構成によれば広い角度の放射指向性を実現するには、複数のアンテナをアレイ状に配置したアレイアンテナを構成し、ビームフォーミングにより各々のアンテナの位相を制御する手法が必要であった。これに対し、本実施形態のアンテナ装置1の場合、アレイアンテナを構成することなく1つのパッチアンテナ20のみで広い角度の放射指向性が得られるので、複数のアンテナを配置するためのスペースが不要となり、各々のアンテナに位相差を与える複雑な電子回路も不要となる。従って、本実施形態のアンテナ装置1は前述のアンテナ性能の優位性に加え、従来の構成によりアレイ化する場合に比べて、誘電体基板を縮小してアンテナ装置1の小型化に適しており、それに伴い誘電体基板の製作時の寸法公差も緩和でき、部品コスト及び実装コストを低減して低コスト化が可能である。
【0034】
なお、本実施形態においては、広角度の放射指向性を含む良好なアンテナ特性を実現するに際し、前述したように寸法パラメータの適切な設定が重要である。すなわち、アンテナ装置1の寸法パラメータは
図1~
図4の構造には限られないが、誘電体基板における使用周波数に対応する波長λに適合した設定とすることが望ましい。この波長λは、誘電体基板における波長短縮効果を考慮した波長である。具体的には、キャビティ12のZ方向に沿った高さは、誘電体基板における使用周波数の波長λに対し、上部の誘電体層11の高さ(キャビティ12の高さ)Z2を、0.7λから0.8λの範囲内に設定することが望ましい。また、キャビティ12のX方向及びY方向の長さX2、Y2を、パッチアンテナ20の矩形のX方向及びY方向の長さから0.03λから0.07λの範囲内の距離だけ大きく設定することが望ましい。このような寸法パラメータの条件は、アンテナ装置1における広角度の放射指向性と良好な反射特性などの所望のアンテナ特性を確保するために望ましい設定である。
【0035】
また、本実施形態においては、
図3に示すように、パッチアンテナ20及びキャビティ12はZ方向から見た平面視で矩形及び円形の平面形状を有する場合を説明したが、矩形や円形に限らず異なる平面形状としてもよい。例えば、パッチアンテナ20及びキャビティ12が矩形以外の多角形の平面形状を有していても本発明の適用が可能である。この場合であっても、本発明を適用したアンテナ装置1による作用効果を得ることができる。さらに、本実施形態においては、パッチアンテナ20及びキャビティ12が、Z方向から見た平面視で誘電体基板10、11の中心に対し対称的な配置である場合を説明したが、中心に対して非対称な配置であったとしても本発明の適用が可能である。
【0036】
以上、本実施形態に基づき本発明の内容を具体的に説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で変更を施すことができる。すなわち、
図1~
図4を用いて説明したアンテナ装置1の基本構造は、本発明の作用効果を得られる限り、他の構造や形状を適用した多様なアンテナ装置1に対して広く本発明を適用することができる。例えば、パッチアンテナ20の形状、給電方法、サイズなどについては、本発明の作用効果を得られる限り、多様な変更を施すことができる。
【符号の説明】
【0037】
1…アンテナ装置
10、11…誘電体層
12、12a…キャビティ
20、20a…パッチアンテナ
21、22、23…グランド導体
33、31、32…ビア導体