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特許7608707近視進行抑制剤、機能性食品及び眼科用組成物
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  • 特許-近視進行抑制剤、機能性食品及び眼科用組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-23
(45)【発行日】2025-01-07
(54)【発明の名称】近視進行抑制剤、機能性食品及び眼科用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/202 20060101AFI20241224BHJP
   A61P 27/10 20060101ALI20241224BHJP
   A61K 36/55 20060101ALI20241224BHJP
   A61K 36/535 20060101ALI20241224BHJP
   A23L 33/12 20160101ALI20241224BHJP
【FI】
A61K31/202
A61P27/10
A61K36/55
A61K36/535
A23L33/12
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020029934
(22)【出願日】2020-02-25
(65)【公開番号】P2020138964
(43)【公開日】2020-09-03
【審査請求日】2023-02-24
(31)【優先権主張番号】P 2019031932
(32)【優先日】2019-02-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】513077162
【氏名又は名称】株式会社坪田ラボ
(74)【代理人】
【識別番号】100117226
【弁理士】
【氏名又は名称】吉村 俊一
(72)【発明者】
【氏名】坪田 一男
(72)【発明者】
【氏名】栗原 俊英
(72)【発明者】
【氏名】森 紀和子
(72)【発明者】
【氏名】有田 誠
【審査官】榎本 佳予子
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-523823(JP,A)
【文献】国際公開第2010/010365(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/164113(WO,A1)
【文献】特開平10-287563(JP,A)
【文献】日本臨床スポーツ医学会誌,2015年,Vol.23, No.3,p.519-527
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-33/44
A61P 1/00-43/00
A61K 36/00-36/9068
A23L 33/00-33/29
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
屈折値の低下を抑制するとともに眼軸長の伸長を抑制するための軸性近視の進行抑制剤であって、α-リノレン酸を含有する、ことを特徴とする近視進行抑制剤。
【請求項2】
前記α-リノレン酸が、亜麻仁油、エゴマ油及びシソ油から選ばれる1又は2以上の油から抽出されるものである、請求項1に記載の近視進行抑制剤。
【請求項3】
剤形が経口摂取剤である、請求項1又は2に記載の近視進行抑制剤。
【請求項4】
20歳未満の成長期の子供に用いられる、請求項1~3のいずれか1項に記載の近視進行抑制剤。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の近視進行抑制剤を含む、屈折値の低下を抑制するとともに眼軸長の伸長を抑制するための、機能性食品。
【請求項6】
屈折値の低下を抑制するとともに眼軸長の伸長を抑制するための眼科用組成物であって、α-リノレン酸を含有する、眼科用組成物。
【請求項7】
軸性近視の進行抑制若しくは治療又は該軸性近視が原因で発症する眼疾患を予防するための、請求項6に記載の眼科用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オメガ3脂肪酸を含有して軸性近視の進行を抑制する近視進行抑制剤、機能性食品及び眼科用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
東アジア人は欧米人に比べて近視の割合が高いといわれており、日本人では人口の少なくとも約1/3、すなわち約4000万人は近視であるといわれている。それにもかかわらず、近視の発症や進行に関する分子的機序は何ら解明されておらず、メガネやコンタクトレンズによる矯正は行われていても、根本的な治療法は存在していない。
【0003】
近視は、網膜よりも手前で焦点を結んでしまうためにはっきりと見えない状態をいう。近視には、角膜や水晶体の屈折率が強すぎることから生じる屈折性近視と、眼球の前後方向の長さである眼軸長が長すぎることにより生じる軸性近視の2つに大別される。屈折性近視は、レンズの役割を果たす水晶体の厚みの調節がうまくいかず網膜の手前でピントが合う状態をいい、眼の疲労(眼精疲労)、調節痙攣、調節緊張等により一時的に毛様体が麻痺して水晶体の動きが悪化して起こる症状(以下「調節機能障害」ともいう。)である。この調節機能障害は、従来、仮性近視、屈折性近視、調節緊張性近視とも呼ばれており、これらは一過性の調節痙攣や調節緊張に基づく機能障害であり、その症状を放置したからといって近視に移行することはなく、目を休ませて改善したり、点眼液で毛様体の痙攣を止めて水晶体の緊張をほぐす等で改善したりする。一方、軸性近視は眼軸長が長いために、水晶体を十分薄く調節しても網膜の手前でピントが合う状態をいい、不可逆的で元には戻らない。近視の患者の大部分は、軸性近視である。
【0004】
軸性近視が強くなる、すなわち強度近視といわれる状態になると眼軸の伸長の程度が大きくなる。その結果、網膜や脈絡膜が後方に引き伸ばされるため、これらに対する負荷が増強し、眼底に様々な異常をきたす原因となる。眼底に異常が生じた状態を病的近視といい、先進国における失明の上位に位置している。病的近視は失明のおそれがあるにもかかわらず、現在のところ有効な治療法がなく、治療法の確立が望まれている。
【0005】
近視の進行を抑制する手段については、アトロピン点眼、ピレンゼピン眼軟膏、オルソケラトロジー、周辺部デフォーカス型ソフトコンタクトレンズ、累進多焦点眼鏡の順で、統計的に有意な近視進行抑制効果があることが過去に報告されている。しかしながら、アトロピン点眼では副作用の問題があり、オルソケラトロジー等では費用負担の問題や手段の煩雑さがあり、眼鏡装用では効果が限定的であるとう課題があり、いずれも解決しなければならない課題が残っている。
【0006】
特許文献1には、被験者の眼内又は眼球外の筋肉組織を増強することによって遠視を改善することができる、ヒト又はヒト以外の哺乳動物の視力障害の予防又は治療方法が提出されている。この方法は、多価不飽和脂肪酸(PUFA)誘導体、特にエイコサペンタエン酸(EPA)及びドコサヘキサエン酸(DHA)のようなオメガ3脂肪酸誘導体を投与する方法であり、ヒトの男性の遠視のみについて検証されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】WO2010/010365A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、眼軸長の伸長を抑制して軸性近視の進行を抑制できる近視進行抑制剤、機能性食品及び眼科用組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、眼軸長の伸長を抑制して軸性近視の進行を抑制できる技術開発や、眼軸長を短くして軸性近視を治療する技術開発を行っている。その過程で、オメガ3脂肪酸を混入させた餌をマウスに与えて実験を行ったところ、眼軸長の伸長が抑制されていることを発見した。従来、オメガ3脂肪酸は遠視に効果があることが報告されていたが、近視、特に眼軸長の伸長で生じる軸性近視については検討されていなかった。本発明は、オメガ3脂肪酸が眼軸長の伸長抑制や軸性近視の治療に効果があることを初めて実証した技術である。
【0010】
本発明に係る近視進行抑制剤は、眼軸長の伸長を抑制する軸性近視の進行抑制剤であって、オメガ3脂肪酸を含有することを特徴とする。
【0011】
本発明に係る近視進行抑制剤において、前記オメガ3脂肪酸が、α-リノレン酸、エイコサペンタエン酸及びドコサヘキサエン酸から選ばれる1又は2以上の不飽和脂肪酸であることが好ましい。
【0012】
本発明に係る近視進行抑制剤において、前記オメガ3脂肪酸が、亜麻仁油、エゴマ油及びシソ油から選ばれる1又は2以上の油から注出されるものであることが好ましい。
【0013】
本発明に係る近視進行抑制剤において、剤形が経口摂取剤である。
【0014】
本発明に係る機能性食品は、上記本発明に係る近視進行抑制剤を含有する。
【0015】
本発明に係る眼科用組成物は、オメガ3脂肪酸を含有することを特徴とする。この眼科用組成物は、軸性近視の進行抑制若しくは治療又は該軸性近視が原因で発症する眼疾患を予防する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、眼軸長の伸長を抑制して軸性近視の進行を抑制できる近視進行抑制剤、機能性食品及び眼科用組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明に係る近視進行抑制剤による眼軸長の変化を示すグラフである。
図2】本発明に係る近視進行抑制剤による屈折の変化を示すグラフである。
図3】実験2の概要図である。
図4】オメガ3脂肪酸とオメガ6脂肪酸についてのVolcano Plotである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に係る近視進行抑制剤、機能性食品及び眼科用組成物について、以下に詳しく説明する。本発明は、その要旨を含めば、以下の実施形態に限定されず、変形例や応用例を包含する。
【0019】
[近視進行抑制剤]
本発明に係る近視進行抑制剤は、眼軸長の伸長を抑制する軸性近視の進行抑制剤であって、オメガ3脂肪酸を含有する。この近視進行抑制剤は、オメガ3脂肪酸が眼軸長の伸長抑制に効果があることを初めて実証した結果に基づいてなされた発明である。従来、オメガ3脂肪酸は遠視に効果があることが報告されていたが、本発明者は、オメガ3脂肪酸が、眼軸長の伸長を抑制して軸性近視の進行を抑制できるという新しい効果を発見した。
【0020】
以下、近視進行抑制剤について詳しく説明する。
【0021】
(オメガ3脂肪酸)
オメガ3脂肪酸としては、α-リノレン酸(ALA、all-cis-9,12,15-オクタデカトリエン酸)、ステアリドン酸(STD、all-cis-6,9,12,15-オクタデカテトラエン酸)、エイコサトリエン酸(ETE、all-cis-11,14,17-エイコサトリエン酸)、エイコサテトラエン酸(ETA、all-cis-8,11,14,17-エイコサテトラエン酸)、エイコサペンタエン酸(EPA、all-cis-5,8,11,14,17-エイコサペンタエン酸)、ドコサペンタエン酸(DPA、all-cis-7,10,13,16,19-ドコサペンタエン酸)、ドコサヘキサエン酸(DHA、all-cis-4,7,10,13,16,19-ドコサヘキサエン酸)、テトラコサペンタエン酸(all-cis-9,12,15,18,21-テトラコサペンタエン酸)、テトラコサヘキサエン酸(ニシン酸、all-cis-6,9,12,15,18,21-テトラコサヘキサエン酸)を挙げることができる。なかでも、α-リノレン酸、エイコサペンタエン酸及びドコサヘキサエン酸から選ばれる1又は2以上の不飽和脂肪酸であることが好ましい。
【0022】
これらのオメガ3脂肪酸は、魚介類、植物、動物性脂肪から得ることができる、例えば、亜麻仁油、エゴマ油及びシソ油から選ばれる1又は2以上の油から注出されるものであることが好ましい。特に亜麻仁油から注出されたものであることが好ましい。なお、大豆油、ごま油、ひまわり油、サラダ油、コーン油等から注出されるオメガ6脂肪酸を含油する組成物では本発明の効果を奏しない。
【0023】
(剤形等)
近視進行抑制剤の剤形は、特に限定されないが、経口摂取剤であることが好ましい。剤形としては、錠剤、カプセル等の内服薬のような剤形とすることが好ましい。一方、局所投与であってもよいが、その場合は、ドラッグデリバリーシステム(Drug Delivery System、DDS)を使用する必要がある。
【0024】
(機能性食品)
本発明に係る近視進行抑制剤は、オメガ3脂肪酸を含有する機能性食品とすることができる。機能性食品としては、健康食品、機能性表示食品、健康補助食品、栄養機能食品、特別用途食品、特定保険用食品又は通常の食品等を挙げることができる。これらの食品は、オメガ3脂肪酸を含むため、軸性近視の発症・進行が起こり易い特に成長期の小児や若年層に対して効果的である。また、これら以外であっても、眼軸伸長が原因で起こる症状・疾患に対して好ましい。
【0025】
食品の形状としては、ジュース、清涼飲料、ドリンク剤、茶等の液状、ビスケット、タブレット、顆粒粉末、粉末、カプセル等の固形、ペースト、ゼリー、スープ、調味料、ドレッシング等の半流動状等の種々の形態の食品(健康食品、栄養補助食品等)を挙げることができる。
【0026】
さらに、本発明に係る近視進行抑制剤を含有させて提供され得る食品には、サプリメント(散剤、顆粒剤、ソフトカプセル、ハードカプセル、錠剤、チュアブル錠、速崩錠、シロップ、液剤等)も含まれる。また、ペット等の動物用の餌に対して本発明の近視進行抑制剤を含有させることもできる。なお、食品には、一般的な食品等に添加される添加物を必要に応じて加えることができる。
【0027】
<眼科用組成物>
本発明に係る眼科用組成物は、医薬とすることができる。眼科用組成物を含む医薬は、眼軸長の伸長の抑制用途(軸性近視の進行抑制薬)、眼軸長を短くする軸性近視の治療用途(軸性近視の治療薬)、軸性近視が原因で発症する眼疾患の予防用途(軸性近視が原因で発症する眼疾患の予防薬)に使用される。特に軸性近視の発症・進行が起こり易い成長期の小児、若年層に対する医薬としてより好ましい。
【0028】
眼科用組成物は、薬学的に許容可能な賦形剤等を添加して医薬製剤とすることができる。医薬製剤は特に限定されないが、経口剤(錠剤、カプセル剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、チュアブル、トローチ等の固形製剤や、液剤、シロップ剤等の液体製剤)、点眼剤、注射剤等とすることができる。これらのうち、本発明の効果を奏し易いという観点から経口剤や点眼剤が好ましい。本発明に係る眼科用組成物は、それぞれの性状、用途等に合わせて各種の添加剤を含むことができる。
【0029】
経口剤としては、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤等の固形製剤や、シロップ剤、ドリンク剤等の液状製剤を挙げることができる。固形製剤には、賦形剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤等を配合することができ、必要に応じて、防腐剤、抗酸化剤、着色剤、甘味剤等の添加物を用いることもできる。液状製剤には、溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、緩衝剤、無痛化剤等を配合することができ、必要に応じて、防腐剤、抗酸化剤、着色剤、甘味剤等の添加物を用いることもできる。
【0030】
眼科用組成物は、水性点眼剤又は懸濁性点眼剤等の点眼剤としてもよい。点眼剤には、薬理活性成分、生理活性成分等の成分を配合することができる。このような成分としては、例えば、充血除去成分、眼筋調節薬成分、抗炎症薬成分、収斂薬成分、抗ヒスタミン薬成分、抗アレルギー薬成分、ビタミン類、アミノ酸類、抗菌薬成分、糖類、高分子化合物又はその誘導体、セルロース又はその誘導体、局所麻酔薬成分、緑内障治療成分、白内障治療成分等を挙げることができる。点眼剤には、さらに、液剤等の調製に一般的に使用される担体、香料又は清涼化剤、防腐剤、殺菌剤又は抗菌剤、pH調節剤、キレート剤、安定化剤、等張化剤、緩衝剤、粘稠化剤等の各種添加剤を配合してもよい。
【0031】
以上、本発明に係る近視進行抑制剤又は機能性食品(特定保健用食品等を含む。)は、軸性近視が発症したり軸性近視が進行したりする年代、特に成長期の子供や若年層に対して効果的である。特に、視力低下(軸性近視の発症や進行)を抑制することができ、主に、20歳未満の小児及び20歳代~30歳代の若年層、好ましくは2歳~15歳、より好ましくは6歳~12歳の成長期の子供で起こり易い眼軸長の伸長を抑える作用効果が期待できる。
【実施例
【0032】
本発明を実施例によりさらに詳しく説明する。
【0033】
[実験1]
近視モデル動物により、オメガ3脂肪酸での近視抑制実験を行った。近視モデル動物として、マウス(C57BL/6Jマウス、オス3週令)を使用した。マウスに対し、ドミトール(日本全薬工業株式会社)、ベトルファール(Meiji Seikaファルマ株式会社)及びミダゾラム(サンド株式会社)の3種混合麻酔を麻酔し、ハサミで頭蓋を露出させた。頭蓋に支柱を立設し、歯科用セメント(Super-Bond、サンメディカル株式会社)で固定した。その支柱は、調節器具をナットで固定できるようにねじ山が設けてある。
【0034】
右眼には、-30ジオプター(diopter、D)のマイナスレンズ(レインボーコンタクト、株式会社レインボーオプチカル研究所)を装着し、左眼には、コントロールとして0Dのレンズを装着した。次に、オメガ6脂肪酸餌(AIN-93、大豆油4%、オリエンタル酵母工業株式会社製)又はオメガ3脂肪酸餌(AIN-93、4%亜麻仁油、オリエンタル酵母工業株式会社製)を、3週令から8週令まで与えた。マウスは、光環境12時間、暗環境12時間とした。オメガ6脂肪酸餌及びオメガ3脂肪酸餌は、12g/kg/日量となるように与えた。測定は、3週令時と8週令時のそれぞれで、眼軸長測定と屈折測定を行った。
【0035】
この実験1では、オメガ3脂肪酸餌及びオメガ6脂肪酸餌のいずれも4%が油であり、オメガ6脂肪酸餌は餌の全ての成分のうち4%が大豆油であり、オメガ3脂肪酸餌はその大豆油4%に代えて亜麻仁油4%にしたものである。大豆油と亜麻仁油について、オメガ6脂肪酸餌とオメガ3脂肪酸餌の比率は、大豆油5:1、亜麻仁油1:3.7である。油の精製には種々の方法があり、方法によって組成割合を任意に調整できる。
【0036】
詳しくは、オメガ3脂肪酸餌(AIN-93、4%亜麻仁油、オリエンタル酵母工業株式会社製)は、カゼイン14.0%、L-シスチン0.18%、コーンスターチ46.5692%、α-コーンスターチ15.5%、シュークロース10.0%、亜麻仁油4.0%、セルロースパウダー5.0%、AIN-93Mミネラル混合3.5%、AIN-93ビタミン混合1.0%、重酒石酸コリン0.25%、第三ブチルヒドロキノン0.0008%で構成されている。一方、オメガ6脂肪酸餌(AIN-93、4%大豆油、オリエンタル酵母工業株式会社製、アマニ油:和光純薬工業株式会社一級500mL入り)は、オメガ3脂肪酸餌でのアマニ油4%を大豆油4%に変更したものであり他は同じであり、カゼイン14.0%、L-シスチン0.18%、コーンスターチ46.5692%、α-コーンスターチ15.5%、シュークロース10.0%、亜麻仁油4.0%、セルロースパウダー5.0%、AIN-93Mミネラル混合3.5%、AIN-93ビタミン混合1.0%、重酒石酸コリン0.25%、第三ブチルヒドロキノン0.0008%で構成されている。この大豆油の脂肪酸組成は、通常、リノール酸約50%、オレイン酸20%強、リノレン酸約10%であり、亜麻仁油の脂肪酸組成は、通常、リノール酸約14.3%、オレイン酸18.3%、リノレン酸約53.4%である。なお、AIN-93とは、米国国立栄養研究所(AIN)から1993年(AIN-93)に発表されたマウス・ラットを用いた栄養研究のための標準精製飼料である。この飼料は米国科学アカデミー国家研究会議(NAS-NRC)より発表されたマウス・ラットの栄養必要量を基礎にして生後1年間、成長、妊娠、授乳などを順調に行うことを指標としてAINが組成を決定した飼料である。
【0037】
(測定装置)
眼軸長の測定は、スペクトラルドメイン光コヒーレンストモグラフィー(Envisu R4310、Leica社製)を用いた。屈折値の測定は、マウス用赤外線フォトリフレクター(Infrared photorefractor for mice)を用いた。
【0038】
(試験試薬)
測定時瞳孔を安定させるためにミドリンP(登録商標、参天製薬株式会社)を使用した。また、麻酔は、三種混合麻酔(塩酸メデトミジン(ドミトール/登録商標、日本全薬工業株式会社)、ミタゾラム(ドルミカム/登録商標、アステラス製薬株式会社)、酒石酸ブトルファノール(ベトルファール/登録商標、Meiji Seika株式会社)を用いた。麻酔覚醒時には塩酸アチパメゾール(アンチセダン/登録商標、日本全薬工業株式会社)を使用した。
【0039】
(結果)
図1及び図2の結果より、屈折は、オメガ6脂肪酸餌群では-30Dを装着すると有意に近視になるのに対し、オメガ3脂肪酸餌では-30Dを装着しても近視は有意に抑制されていた。また、眼軸長も、オメガ6脂肪酸餌群では-30Dで有意に長くなるのに対し、オメガ3脂肪酸餌群では-30Dを装着しても有意に抑制されていた。これらの結果より、オメガ3脂肪酸による近視抑制に効果があることが確認された。なお、有意差については、welch-t検定を実施し、*はp<0.05(有意差あり)、**はp<0.01(高度に有意差あり)であることを示している。
【0040】
[実験2]
実験1のように、オメガ3脂肪酸リッチの餌を食べたマウスは、近視誘導眼(-30D)の近視が抑制された。そのため、実験2では、オメガ3脂肪酸を含有する餌が眼球内でどのような働きをしているかを調べるため、眼球を摘出し、脂質分子種を包括的に捉えることのできる液体クロマトグラフィータンデム型質量分析(LC-MS/MS)を行った。
【0041】
図3は、実験2の概要図である。サンプルは、実験1と同じオメガ3脂肪酸餌とオメガ6脂肪酸餌を用い、オメガ3脂肪酸餌:0D・3眼、オメガ3脂肪酸餌:-30D・3眼、オメガ6脂肪酸餌:0D・3眼、オメガ6脂肪酸餌:-30D・3眼、とした。マウスにそれぞれの餌を食べさせ、5週後(8週令)に安楽死させ、眼球を液体窒素に凍結させ、-80℃で保存した。保存した眼球から脂質を抽出し、抽出液の上澄みをガラスバイアルに移し、LC-MS/MS分析した。
【0042】
図4は、LC-MS/MSにより得られた340種の脂質をオメガ3脂肪酸餌群の-30Dで近視誘導した眼球を、オメガ6脂肪酸餌群の近視誘導眼で比較したVolcano Plotである。このグラフでは、右上に10種の脂質(EPA,DPA含有脂肪酸)、左上に3種の脂質(AA,DTA含有脂肪酸)を記載している。右上の10種の脂質は、近視進行抑制効果に伴い増加したことを示しており、左上の3種の脂質は、近視進行抑制効果に伴い減少したことを示している。
【0043】
この実験2により、近視誘導で眼軸伸長及び屈折低下が抑制されたオメガ3脂肪酸餌群では、抑制されなかったオメガ6脂肪酸餌群に比べ、EPA,DPA含有リン脂質が増加し、AA,DTA含有リン脂質が減少した。これらのことにより、オメガ3脂肪酸の中でもEPAによる近視抑制効果が示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0044】
今まで有効な治療薬がなかった軸性近視に対して、オメガ3脂肪酸が軸性近視の進行を抑制することが明らかとなった。本発明に係る近視進行抑制剤は、軸性近視の進行抑制とともに、眼軸長を短くする軸性近視治療薬としても期待できる。



図1
図2
図3
図4