(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-23
(45)【発行日】2025-01-07
(54)【発明の名称】適否判断装置、適否判断方法、および適否判断プログラム
(51)【国際特許分類】
G01N 21/88 20060101AFI20241224BHJP
G06T 7/00 20170101ALI20241224BHJP
G06T 7/42 20170101ALI20241224BHJP
G02F 1/13 20060101ALI20241224BHJP
【FI】
G01N21/88 Z
G06T7/00 610Z
G06T7/42
G02F1/13 505
G02F1/13 101
(21)【出願番号】P 2020101876
(22)【出願日】2020-06-11
【審査請求日】2023-05-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】坂本 正則
(72)【発明者】
【氏名】大久保 航
【審査官】田中 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-200284(JP,A)
【文献】特開2016-003906(JP,A)
【文献】特開平09-068497(JP,A)
【文献】特開2001-305051(JP,A)
【文献】特開2020-035301(JP,A)
【文献】特公平05-051883(JP,B2)
【文献】米国特許第04653926(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/84-21/958
G01M 11/00-11/08
G02F 1/13
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
調光シートの状態評価において撮影対象の適否を判断する適否判断装置であって、
前記調光シートを介して撮影された前記撮影対象の画像を画像解析することによって前記調光シートによる前記画像のぼかし度合いを算出する算出部と、
前記調光シートにおける所定の光学状態を反映しているときの前記調光シートによるぼかし度合いが適正範囲であり、前記算出部が算出したぼかし度合いが前記適正範囲内であることを条件として、前記撮影対象が前記光学状態の評価に適していると判断する判断部と、を備え
、
前記算出部が算出するぼかし度合いは、第1ぼかし度合いが第2ぼかし度合いによって規格化された値であり、
前記適正範囲は、前記調光シートにおける所定の光学状態を反映しているときの前記規格化された値の範囲であり、
前記第1ぼかし度合いは、不透明である前記調光シートを介して撮影された前記撮影対象の画像における前記調光シートによるぼかし度合いであり、
前記第2ぼかし度合いは、透明である前記調光シートを介して撮影された前記撮影対象の画像における前記調光シートによるぼかし度合いである
適否判断装置。
【請求項2】
調光シートの状態評価において撮影対象の適否を判断する適否判断装置であって、
前記調光シートを介して撮影された前記撮影対象の画像を画像解析することによって前記調光シートによる前記画像のぼかし度合いを算出する算出部と、
前記調光シートにおける所定の光学状態を反映しているときの前記調光シートによるぼかし度合いが適正範囲であり、前記算出部が算出したぼかし度合いが前記適正範囲内であることを条件として、前記撮影対象が前記光学状態の評価に適していると判断する判断部と、を備え、
前記画像解析は、前記画像のフーリエ変換から得られる動径方向の分布のなかの所定周波数帯域での周波数成分の大きさを前記ぼかし度合いとして算出する
適否判断装置。
【請求項3】
前記算出部は、前記光学状態の評価に適していると前記判断部が判断した前記撮影対象が
前記所定の前記光学状態とは異なる光学状態である前記調光シートを通し
て撮影された画像である評価画像
のぼかし度合いを算出し、
前記判断部は、前記調光シートによる前記評価画像のぼかし度合いが前記適正範囲内であることを条件として、前記調光シートが正常であると判断する
請求項1
または2に記載の適否判断装置。
【請求項4】
前記算出部が算出したぼかし度合いが前記適正範囲外であることを条件として、
前記算出部が算出したぼかし度合いが前記適正範囲内になるように前記調光シートに印加する駆動電圧を変更可能にする制御部をさらに備える
請求項
1から3のいずれか一項に記載の適否判断装置。
【請求項5】
調光シートの状態評価において撮影対象の適否を判断する適否判断方法であって、
前記調光シートを介して撮影された前記撮影対象の画像を画像解析することによって前記調光シートによる前記画像のぼかし度合いを算出すること、および、
前記調光シートにおける所定の光学状態を反映しているときの前記調光シートによるぼかし度合いが適正範囲であり、前記算出されたぼかし度合いが前記適正範囲内であることを条件として、前記撮影対象が前記光学状態の評価に適していると判断すること、を含
み、
前記算出されたぼかし度合いは、第1ぼかし度合いが第2ぼかし度合いによって規格化された値であり、
前記適正範囲は、前記調光シートにおける所定の光学状態を反映しているときの前記規格化された値の範囲であり、
前記第1ぼかし度合いは、不透明である前記調光シートを介して撮影された前記撮影対象の画像における前記調光シートによるぼかし度合いであり、
前記第2ぼかし度合いは、透明である前記調光シートを介して撮影された前記撮影対象の画像における前記調光シートによるぼかし度合いである
適否判断方法。
【請求項6】
調光シートの状態評価において撮影対象の適否を判断する適否判断方法であって、
前記調光シートを介して撮影された前記撮影対象の画像を画像解析することによって前記調光シートによる前記画像のぼかし度合いを算出すること、および、
前記調光シートにおける所定の光学状態を反映しているときの前記調光シートによるぼかし度合いが適正範囲であり、前記算出されたぼかし度合いが前記適正範囲内であることを条件として、前記撮影対象が前記光学状態の評価に適していると判断すること、を含み、
前記画像解析は、前記画像のフーリエ変換から得られる動径方向の分布のなかの所定周波数帯域での周波数成分の大きさを前記ぼかし度合いとして算出する
適否判断方法。
【請求項7】
調光シートの状態評価において撮影対象の適否を判断する適否判断装置に、
前記調光シートを介して撮影された前記撮影対象の画像を画像解析することによって前記調光シートによる前記画像のぼかし度合いを算出させて、
前記調光シートにおける所定の光学状態を反映しているときの前記調光シートによるぼかし度合いが適正範囲であり、前記算出されたぼかし度合いが前記適正範囲内であることを条件として、前記撮影対象が前記光学状態の評価に適していると判断させ
、
前記算出されたぼかし度合いは、第1ぼかし度合いが第2ぼかし度合いによって規格化された値であり、
前記適正範囲は、前記調光シートにおける所定の光学状態を反映しているときの前記規格化された値の範囲であり、
前記第1ぼかし度合いは、不透明である前記調光シートを介して撮影された前記撮影対象の画像における前記調光シートによるぼかし度合いであり、
前記第2ぼかし度合いは、透明である前記調光シートを介して撮影された前記撮影対象の画像における前記調光シートによるぼかし度合いである
適否判断プログラム。
【請求項8】
調光シートの状態評価において撮影対象の適否を判断する適否判断装置に、
前記調光シートを介して撮影された前記撮影対象の画像を画像解析することによって前記調光シートによる前記画像のぼかし度合いを算出させて、
前記調光シートにおける所定の光学状態を反映しているときの前記調光シートによるぼかし度合いが適正範囲であり、前記算出されたぼかし度合いが前記適正範囲内であることを条件として、前記撮影対象が前記光学状態の評価に適していると判断させ、
前記画像解析は、前記画像のフーリエ変換から得られる動径方向の分布のなかの所定周波数帯域での周波数成分の大きさを前記ぼかし度合いとして算出する
適否判断プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、調光シートの光学状態の評価に撮影対象が適しているか否かを判断する適否判断装置、適否判断方法、および適否判断プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
透明電極間に液晶分子を備える調光シートを通した物体の視認性は、透明電極間の電圧変化に応じて変わる。非通電時に不透明を保つノーマル型の調光シートは、不透明であることを長時間にわたり求められるデジタルサイネージのスクリーンや店舗の外装などに適用される。非通電時に透明を保つリバース型の調光シートは、透明であることを非常時に求められるガラスパーティションや移動体の窓などに適用される。
【0003】
調光シートにおける光学状態の安定化や再現性の向上は、調光シートの用途を多方面に広げて調光シートの普及を加速させる。JIS K 7136:2000に準拠したヘイズは、調光シートが有する光学状態の評価指標に採用される。例えば、調光シートのヘイズが95%以上の所定範囲であることを不透明の管理項目に設定し、調光シートのヘイズが12%以下の所定範囲であることを透明の管理項目に設定することが提案されている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、調光シートが取り付けられるガラス板やアクリル板などの透明体は、建築物や移動体などに装置されている。建築物や移動体に装置された状態で調光シートの光学状態を評価できることは、調光シートの普及を一層に加速させ得る。しかし、積分球のような専用光学機器を配置して暗所で光量を計測するヘイズの測定は、光学状態の評価を寧ろ煩わしいものとしまうため、調光シートを使用する分野には、調光シートが装置された状態でも調光シートの光学状態を経時的に評価できる新たな技術が切望されている。
【0006】
なお、調光シートの光学状態を経時的に評価する新たな技術の要請は、調光シートの装置時に限らず、調光シートの開発時、調光シートの出荷時などの調光シートを扱う各種の場面において共通している。
【0007】
本発明は、調光シートの光学状態を新たな評価指標を用いて評価可能にした適否判断装置、適否判断方法、および適否判断プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための適否判断装置は、調光シートの状態評価において撮影対象の適否を判断する適否判断装置であって、前記調光シートを介して撮影された前記撮影対象の画像を画像解析することによって前記調光シートによる前記画像のぼかし度合いを算出する算出部と、前記調光シートにおける所定の光学状態を反映しているときの前記調光シートによるぼかし度合いが適正範囲であり、前記算出部が算出したぼかし度合いが前記適正範囲内であることを条件として、前記撮影対象が前記光学状態の評価に適していると判断する判断部と、を備える。
【0009】
上記課題を解決するための適否判断方法は、調光シートの状態評価において撮影対象の適否を判断する適否判断方法であって、前記調光シートを介して撮影された前記撮影対象の画像を画像解析することによって前記調光シートによる前記画像のぼかし度合いを算出すること、および、前記調光シートにおける所定の光学状態を反映しているときの前記調光シートによるぼかし度合いが適正範囲であり、前記算出されたぼかし度合いが前記適正範囲内であることを条件として、前記撮影対象が前記光学状態の評価に適していると判断することを含む。
【0010】
上記課題を解決するための適否判断プログラムは、調光シートの状態評価において撮影対象の適否を判断する適否判断装置に、前記調光シートを介して撮影された前記撮影対象の画像を画像解析させることによって前記調光シートによる前記画像のぼかし度合いを算出させ、前記調光シートにおける所定の光学状態を反映しているときの前記ぼかし度合いが適正範囲であり、前記算出されたぼかし度合いが前記適正範囲内であることを条件として、前記撮影対象が前記光学状態の評価に適していると判断させる。
【0011】
上記各構成によれば、調光シートを介して撮影された画像の調光シートによるぼかし度合いが、当該画像の画像解析を用いて算出される。こうした画像の撮影は、積分球のような専用光学機器ではなく、スマートフォンやタブレット端末などの汎用的な撮影機器によって実現される。こうした画像のぼかし度合いは、周波数成分解析やエッジ強度解析などの各種の画像解析を用いて算出される。調光シートによるぼかし度合いは、調光シートを通さずに撮影された画像のぼかし度合いや、調光シートを透明にして撮影された画像のぼかし度合いや、これらに相当すると推定される所定値などを基準として算出できる。そして、調光シートによるぼかし度合いは、調光シートのヘイズが大きいほど大きいという傾向を有して、調光シートのヘイズ変化に同調して変わりやすい。そのため、調光シートによる撮影対象のぼかし度合いが適正範囲であることを条件として撮影対象が適していると判断する上記構成であれば、調光シートの光学状態をぼかし度合いという新たな評価指標を用いて評価することが可能となる。
【0012】
上記適否判断装置において、前記算出部が算出するぼかし度合いは、第1ぼかし度合いが第2ぼかし度合いによって規格化された値であり、前記適正範囲は、前記調光シートにおける所定の光学状態を反映しているときの前記規格化された値の範囲であり、前記第1ぼかし度合いは、不透明である前記調光シートを介して撮影された前記撮影対象の画像における前記調光シートによるぼかし度合いであり、前記第2ぼかし度合いは、透明である前記調光シートを介して撮影された前記撮影対象の画像における前記調光シートによるぼかし度合いであってもよい。
【0013】
調光シートを通した撮影対象の撮影において、撮影対象が置かれる外光状況は、撮影の機会に応じて様々に変わり得る。撮影対象が置かれる外光状況は、照明機器の照明光や自然光などの外光における照度や照明角度を含む。この点、上記適否判断装置によれば、調光シートが透明であるときのぼかし度合いが基準となるため、ぼかし度合いの算出に及ぼす外光状況の影響が軽減される。その結果、ぼかし度合いという新たな評価指標を用いた評価の精度を高めることが可能となる。
【0014】
上記適否判断装置において、前記撮影対象は、前記調光シートの設置場所から見られる光景であってもよい。この構成によれば、各種施設の外装や内装として透明体に取り付けられる調光シートの装置時や監視時において調光シートの光学状態を評価することが可能となる。
【0015】
上記適否判断装置において、前記画像解析は、前記画像のフーリエ変換から得られる動径方向の分布のなかの所定周波数帯域での周波数成分の大きさを前記ぼかし度合いとして算出してもよい。
【0016】
画像のなかの短周期での繰り返しの鮮明さは、高い周波数帯域における周波数成分の大きさとして検出される。一方で、画像のなかの長周期での繰り返しの鮮明さは、低い周波数帯域における周波数成分の大きさとして検出される。この点、上記適否判断装置であれば、画像の周波数解析を通じてぼかし度合いが算出されるため、調光シートの光学状態をぼかし度合いによって詳細に表すことが可能ともなる。
【0017】
また、動径方向の分布における周波数成分の大きさがぼかし度合いとして算出されるため、空間周波数成分が一次元方向に現れる場合であれ、空間周波数成分が二次元方向に現れる場合であれ、調光シートが有する光学状態に準じた大きさの周波数成分を算出できる。すなわち、空間異方性に関わる制約が撮影対象において軽減される。したがって、適否判断装置が適用される場面を多方面に広げること、ひいては、適否判断装置の汎用性を高めることが可能となる。
【0018】
上記適否判断装置において、前記算出部は、前記光学状態の評価に適していると前記判断部が判断した前記撮影対象が前記調光シートを通して判断後に撮影された画像である評価画像の画像解析を用いて前記調光シートによる前記評価画像のぼかし度合いを算出し、前記判断部は、前記調光シートによる前記評価画像のぼかし度合いが前記適正範囲内であることを条件として、前記調光シートが正常であると判断してもよい。
【0019】
上記適否判断装置によれば、調光シートの光学状態が正常であることを検知することが可能ともなる。
上記適否判断装置において、前記調光シートによる前記評価画像のぼかし度合いが前記適正範囲外であることを条件として、前記評価画像のぼかし度合いが前記適正範囲内になるように前記調光シートに印加する駆動電圧を変更可能にする制御部をさらに備えてもよい。
【0020】
上記適否判断装置によれば、調光シートによるぼかし度合いが適正範囲外であることを条件として、調光シートの光学状態が正常であるように駆動電圧を変更可能となる。結果として、光学状態が正常であるように調光シートを駆動することが可能ともなる。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る適否判断装置、適否判断方法、および適否判断プログラムは、調光シートの光学状態を新たな評価指標を用いて評価可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】適否判断装置の構成を調光シートと共に示すブロック図。
【
図2】指標算出部の構成を機能的に示すブロック図。
【
図3】評価指標を算出するための標本群の抽出例を示すパワースペクトル図。
【
図4】評価指標算出方法における工程の流れを示すフローチャート。
【
図9】試験例1のFFT変換画像から得た動径方向分布を示すグラフ。
【
図10】試験例2のFFT変換画像から得た動径方向分布を示すグラフ。
【
図11】試験例3のFFT変換画像から得た動径方向分布を示すグラフ。
【
図12】各試験例の動径方向分布から得た標本積算値の規格値と駆動電圧との関係をヘイズと共に示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1から
図12を参照して、適否判断装置、適否判断方法、および適否判断プログラムを説明する。まず、評価対象となる調光シートの構成を説明し、次いで、適否判断装置、適否判断方法、および適否判断プログラムを説明する。
【0024】
[調光シート10]
調光シート10は、光透過率を変更可能に構成されている。調光シート10が有する光透過率の変更は、調光シート10に印加される駆動電圧の変更によって行われる。調光シート10の種類は、液晶調光シートの他に、エレクトロクロミックシートを含む。液晶調光シートは、駆動電圧Vの印加による液晶分子の配向制御によって透過率が制御される。エレクトロクロミックシートは、駆動電圧Vの印加によるエレクトロクロミック材料の電荷制御によって透過率が制御される。
【0025】
調光シート10は、商業施設や公共施設などの各種の建築物が備える窓、オフィス内や医療施設内などに設置されるパーティション、展示施設や文化施設に設置されるショーウインドウ、映像を投影するスクリーンの基材、車両や航空機などの移動体が備える窓などの各種の透明体11に取り付けられる。調光シート10の取り付けは、窓ガラスなどの透明体11の表面に対する貼り付けや、合わせガラスなどの2つの透明体の間への挟み込みなどである。
【0026】
調光シート10の形状は、透明体11の外形に追従した平面状の他に、円筒状や楕円筒状などの二次元の曲面状、球面状や楕円体状などの三次元的な曲面状、および幾何学形状以外の不定形状などを含む。高透過率を有した状態での調光シート10の色は、無色透明、あるいは有色透明である。低透過率を有した状態での調光シート10の色は、無彩色、あるいは有彩色である。
【0027】
調光シート10の型式は、ノーマル型、あるいはリバース型である。ノーマル型の調光シートは、調光シート10の通電時に、相対的に高い光透過率を有する一方で、調光シート10の非通電時に、相対的に低い光透過率を有する。リバース型の調光シートは、調光シート10の通電時に、相対的に低い光透過率を有する一方で、調光シート10の非通電時に、相対的に高い光透過率を有する。
【0028】
調光シート10は、調光シート10の面方向に広がる第1透明電極、第2透明電極、および調光層を備える。調光シート10では、第1透明電極、調光層、第2透明電極の順に積層されており、調光層は、第1透明電極と第2透明電極とに挟まれている。第1透明電極と第2透明電極とは、調光制御装置30に電気的に接続されている。
【0029】
第1透明電極と第2透明電極とは、可視光を透過する光透過性を有する。第1透明電極の光透過性は、調光シート10を通した物体の視覚認識を可能にする。第2透明電極の光透過性もまた、調光シート10を通した物体の視覚認識を可能にする。各透明電極を構成する材料は、例えば、酸化インジウムスズ、フッ素ドープ酸化スズ、酸化スズ、酸化亜鉛、カーボンナノチューブ、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)からなる群から選択されるいずれか一種である。
【0030】
液晶調光シートが備える調光層は、液晶組成物を含む。液晶組成物に含まれる液晶分子の一例は、シッフ塩基系、アゾ系、アゾキシ系、ビフェニル系、ターフェニル系、安息香酸エステル系、トラン系、ピリミジン系、シクロヘキサンカルボン酸エステル系、フェニルシクロヘキサン系、ジオキサン系からなる群から選択される少なくとも一種である。液晶組成物の保持型式は、高分子分散型やカプセル型などである。高分子分散型は、高分子層のなかに分散している多数の空隙のなかに液晶組成物を保持する。高分子分散型は、3次元の網目状を有した高分子ネットワークを備える高分子ネットワーク型を含む。高分子ネットワーク型は、網目状の空隙のなかに液晶組成物を保持する。カプセル型は、カプセル状を有した液晶組成物を高分子層のなかに保持する。
【0031】
リバース型の液晶調光シートは、調光層と第1透明電極との間、および調光層と第2透明電極との間に配向膜をさらに備える。配向膜を構成する材料は、例えば、ポリイミド、ポリアミド、ポリビニルアルコール、シアン化化合物等の有機化合物、シリコーン、シリコン酸化物、酸化ジルコニウムなどの無機化合物、または、これらの混合物である。
【0032】
配向膜は、例えば、垂直配向膜、あるいは水平配向膜である。垂直配向膜は、第1透明電極と接する面とは反対側の面、および、第2透明電極と接する面とは反対側の面に対して垂直になるように、液晶分子の長軸方向を配向させる。水平配向膜は、第1透明電極と接する面とは反対側の面、および、第2透明電極と接する面とは反対側の面に対してほぼ平行となるように、液晶分子の長軸方向を配向させる。
【0033】
エレクトロクロミックシートが備える調光層は、エレクトロクロミック材料と電解質とを含む。エレクトロクロミック材料の一例は、ポリアニリン誘導体、ビオロゲン、金属フタロシアニン、フェナントロリン錯体などの有機化合物、三酸化タングステンや二酸化インジウムなどの無機化合物から選択される一種である。電解質の一例は、リチウム塩やカリウム塩などの液体電解質、あるいは、高分子固体電解質である。
【0034】
[調光システム]
図1が示すように、調光システムは、調光シート10、撮影部12、適否判断装置の一例である指標算出装置20、および、調光制御装置30を備える。
【0035】
調光制御装置30は、指標算出装置20から駆動指令NSを受けて、あるいは、操作部の入力信号MCを受けて、評価指標Qeの算出用に調光シート10を駆動する。撮影部12は、調光シート10を介して撮影対象13を撮影して、撮影対象13の評価画像PEを生成する。撮影部12は、撮影部12が生成した評価画像PEを指標算出装置20に送信する。指標算出装置20は、評価画像PEの画像解析を用いて、調光シート10による評価画像PEのぼかし度合いを算出する。
【0036】
指標算出装置20が算出するぼかし度合いは、調光シート10の評価指標Qeである。調光シート10によるぼかし度合いは、経時的に安定した光学状態を調光シート10が有するか否かを繰り返し評価するための値であり、評価項目である光学状態を調光シート10が有するか否かを示す値である。評価項目である光学状態は、例えば、所定値以上のヘイズを有することや、所定値以下のクラリティを有することなどである。
【0037】
例えば、調光シート10によるぼかし度合いは、調光シート10を通して物体の存否が視覚で認識されない程度の高いヘイズを調光シート10が有するか否かを示す値である。反対に、調光シート10によるぼかし度合いは、調光シート10を通して物体の存否が視覚で認識される程度の低いヘイズを調光シート10が有するか否かを示す値である。
【0038】
例えば、調光シート10によるぼかし度合いは、調光シート10を通して物体の輪郭が視覚で認識されない程度の高いヘイズを調光シート10が有するか否かを示す値である。反対に、調光シート10によるぼかし度合いは、調光シート10を通して物体の輪郭が視覚で認識される程度の低いヘイズを調光シート10が有するか否かを示す値である。
【0039】
例えば、調光シート10によるぼかし度合いは、調光シート10を通して物体の種類が視覚で認識されない程度の低いクラリティを調光シート10が有するか否かを示す値である。反対に、調光シート10によるぼかし度合いは、調光シート10を通して物体の細部が視覚で認識される程度の高いクラリティを調光シート10が有するか否かを示す値である。
【0040】
指標算出装置20は、例えば、調光シート10の製造時、あるいは施工時において、指標算出装置20が算出した評価指標Qeと、調光シート10の光学状態の評価に撮影対象13が適しているときの評価指標である指標閾値Qmとを比較する。指標算出装置20は、評価指標Qeと指標閾値Qmとの比較に基づいて、調光シート10の光学状態の評価に撮影対象13が適しているか否かを判断する。評価指標Qeが指標閾値Qm以上であることは、調光シート10による画像のぼかし度合いが適正範囲であることである。
【0041】
撮影部12と指標算出装置20とは、有線通信、あるいは無線通信を通じて、撮影部12による評価画像PEの送信と、指標算出装置20による評価画像PEの受信とを可能に構成されている。指標算出装置20は、例えば、撮影部12とネットワークを介さずに通信可能に接続されたメンテナンス用機器、撮影部12とネットワークを介して通信可能に接続されたサーバー装置、あるいは、撮影部12を搭載した利用者端末に内蔵される装置などである。指標算出装置20は、例えば、撮影部12を搭載した利用者端末から撮影対象13の適否判断申請を受け付けて、調光シート10を介して撮影された評価画像PEを利用者端末から受信するサーバー装置である。
【0042】
指標算出装置20と調光制御装置30とは、例えば、有線通信、あるいは無線通信を通じて、指標算出装置20による駆動指令NSの送信と、調光制御装置30による駆動指令NSの受信とを可能に構成されている。指標算出装置20は、例えば、調光制御装置30とネットワークを介さずに通信可能に接続されたメンテナンス用機器、調光制御装置30とネットワークを介して通信可能に接続されたサーバー装置、あるいは、調光制御装置30の一部と共通するハードウェアを備えた電子機器である。
【0043】
撮影部12は、CCD(Charged coupled devices)、あるいは、CMOS(Complementary metal oxide semiconductor)などの撮影素子を二次元に配置した二次元イメージセンサーと、撮影対象13から発せられた光をイメージセンサーの受光面に結像させる撮影光学系とを備える。撮影部12は、撮影対象13から発せられた光をイメージセンサーの受光面に結像させて、調光シート10を通した撮影対象13の静止画を画像データである評価画像PEとして記録する。撮影部12は、例えば、スマートフォンやタブレット端末に搭載されるカメラや、商業施設や公共施設などの各種施設に設置される監視カメラや、デジタルカメラなどの一般的なカメラである。
【0044】
撮影部12は、評価画像PEを生成する。評価画像PEは、所定環境中の撮影対象13が調光シート10を介して撮影された画像である。撮影対象13の撮影は、撮影部12と撮影対象13とが所定環境中におかれた状態で調光シート10を通して行われる。
【0045】
評価画像PEを撮影するための所定環境は、撮影部12の設定環境、撮影部12に対する照明環境、および、撮影対象13に対する照明環境である。撮影部12の設定環境は、例えば、撮影時のマニュアルフォーカス距離を所定値に設定すること、絞り値やシャッタースピードを所定値にすることである。撮影部12に対する照明環境は、例えば、撮影部12が置かれた場所で照明が点灯されているや、撮影部12が置かれた場所での日射量が所定量であると推定されることである。撮影対象13に対する照明環境は、例えば、撮影対象13が置かれた場所で照明が点灯されているや、撮影対象13が置かれた場所での日射量が所定量であると推定されることである。日射量が所定量であると推定されることは、例えば、撮影日時が所定日時であること、撮影時における天候の種類が快晴であることなどである。このように、評価画像PEの撮影は、積分球のような専用光学機器ではなく、スマートフォンやタブレット端末などの汎用的な撮影機器によって実現される。
【0046】
撮影対象13は、適否を判断される対象であり、評価指標Qeの算出に用いられる撮影の対象である。撮影対象13は、調光シート10を通して視認される建築物や建造物などの人工物、調光シート10を通して視認される自然風景、調光シート10の光学状態を評価するための候補として準備された印刷物などのテストパターンである。上述した人工物や自然風景などは、調光シート10の設置場所から見られる光景の一例である。
【0047】
テストパターンは、例えば、コントラスト、解像度、ノイズなどの物理性能を白および黒の分離度合いによって評価することに用いられる印刷物である。テストパターンは、例えば、白および黒の細線が交互に平行に並べられたパターン、白および黒の細線が放射状に並べられたパターン、相互に異なる線幅を有した白および黒の細線が交互に平行に並べられたパターン、相互に異なる線密度を有した白および黒の細線が配置されたパターンなどである。テストパターンは、例えば、相互に異なる大きさを有した文字や英数字である。また、テストパターンは、例えば、デジタルカメラの解像度測定に用いられる文字や英数字などのテキストを含むテストチャート、ISO12233-2000に準拠した解像度チャート、バーコードリーダーの性能評価に用いられるJIS X 0527に準拠したバーコードテストチャートなどである。
【0048】
[指標算出装置20]
指標算出装置20は、各種の処理を全てソフトウェアで処理するものに限らない。例えば、指標算出装置20は、各種の処理のうちの少なくとも一部の処理を実行する特定用途向け集積回路(Graphics Processing Unit:GPU、Application Specific Integrated Circuit:ASIC)などの専用のハードウェアを備えてもよい。指標算出装置20は、ASICなどの1つ以上の専用のハードウェア回路、コンピュータプログラムに従って動作する1つ以上のプロセッサ、あるいは、これらの組み合わせ、を含む回路としても構成される。なお、以下では、指標算出装置20が、読み取り可能な可読媒体に評価指標算出プログラムを記憶し、可読媒体が記憶する評価指標算出プログラムを読み出して実行し、各種の処理を行う例を説明する。
【0049】
指標算出装置20は、制御部21、画像解析部22、記憶部23、および通信部24を備える。
記憶部23は、評価指標を算出するための評価指標算出プログラム23A、および、評価指標算出プログラムの実行に用いられる指標算出情報23Bを記憶している。評価指標算出プログラム23Aは、適否判断プログラムの一例である。指標算出情報23Bは、評価電圧V0や標本抽出条件を含む。評価電圧V0は、調光シート10に印加される駆動電圧Vであって、評価指標Qeの算出用に印加される初期値として用いられる。標本抽出条件は、評価指標Qeの算出に用いられる標本群を特徴ベクトルの分布のなかから抽出するための条件である。標本抽出条件は、予め実施される試験の結果などに基づいて、評価に適した標本群が抽出されるように定められる。
【0050】
例えば、調光シート10を通して物体の存否が視覚で認識されない程度の高いヘイズを有することが光学状態の評価項目である場合、当該高いヘイズを有するか否かを評価することに適した標本群を特徴ベクトルの分布のなかから抽出するための条件が、標本抽出条件として記憶される。反対に、調光シート10を通して物体の存否が視覚で認識される程度の低いヘイズを調光シート10が有することが評価項目である場合、当該低いヘイズを有するか否かを評価することに適した標本群を特徴ベクトルの分布のなかから抽出するための条件が、標本抽出条件として記憶される。
【0051】
例えば、調光シート10を通して物体の輪郭が視覚で認識されない程度の高いヘイズを有することが光学状態の評価項目である場合、当該高いヘイズを有するか否かを評価することに適した標本群を特徴ベクトルの分布のなかから抽出するための条件が、標本抽出条件として記憶される。反対に、調光シート10を通して物体の細部が視覚で認識される程度の低いヘイズを調光シート10が有することが評価項目である場合、当該低いヘイズを有するか否かを評価することに適した標本群を特徴ベクトルの分布のなかから抽出するための条件が、標本抽出条件として記憶される。
【0052】
例えば、調光シート10を通して物体の輪郭が視覚で認識されない程度の低いクラリティを有することが評価項目である場合、当該低いクラリティを有するか否かを評価することに適した標本群を特徴ベクトルの分布のなかから抽出するための条件が、標本抽出条件として記憶される。反対に、調光シート10を通して物体の細部が視覚で認識される程度の高いクラリティを調光シート10が有することが評価項目である場合、当該高いクラリティを有するか否かを評価することに適した標本群を特徴ベクトルの分布のなかから抽出するための条件が、標本抽出条件として記憶される。
【0053】
なお、指標算出情報23Bは、指標閾値Qm、上限電圧Vmax、ステップ電圧Vsなどのように、適否判断の処理に要するデータを含んでもよい。指標閾値Qmは、評価項目を満たしている調光シート10を通じて得られる評価指標Qeの閾値である。指標閾値Qmは、光学状態の評価に適した撮影対象を用いて予め得られた評価指標Qeの閾値である。上限電圧Vmaxは、調光制御装置30が調光シート10に印加する駆動電圧の最大値である。ステップ電圧Vsは、適否判断において評価指標Qeを算出する機会ごとに変えられる駆動電圧Vの変更量である。
【0054】
制御部21は、記憶部23から評価指標算出プログラム23Aを読み出し、評価指標算出プログラム23Aを解釈して、画像解析部22、記憶部23、および通信部24に、各種の処理を実行させる。例えば、制御部21は、通信部24に撮影部12から評価画像PEを取得させて、通信部24が取得した評価画像PEを用いて画像解析部22に画像解析を実行させる。制御部21は、画像解析部22による画像解析の結果を用いて画像解析部22に評価指標Qeを算出させる。制御部21は、判断部の一例であり、算出された評価指標Qeと指標閾値Qmとの比較に基づいて、撮影対象13の適否を判断する。
【0055】
[画像解析部22]
画像解析部22は、評価画像PEの画像解析を実行して、調光シート10による評価画像PEのぼかし度合いを評価指標Qeとして算出する。画像解析部22は、算出部の一例である。
【0056】
図2が示すように、画像解析部22は、グレースケール処理22A、FFT処理部22B、および周波数解析部22Cとして機能する。グレースケール処理22Aは、評価画像PEの(i)グレースケール化を行う。FFT処理部22Bは、グレースケール化された画像データを用いて(ii)二次元の高速フーリエ変換を行う。周波数解析部22Cは、FFT処理部22Bの処理結果を用いて(iii)フーリエ変換画像の周波数解析を実行する。
【0057】
なお、画像解析部22が実行する画像解析は、画像のぼかし度合いとして、評価画像PEの明確さを示す度合い、すなわち、評価画像PEの輝度などの光学濃度と、背景画像の輝度などの光学濃度の差を算出することであってもよい。あるいは、画像解析部22が実行する画像解析は、画像のぼかし度合いとして、評価画像PEの輪郭におけるエッジ強度に対応する画素値が有する画素の光学濃度を算出することであってのよい。例えば、評価画像の輪郭に対応する各画素について画素の輝度値に基づいてエッジ検出処理によって求められたエッジ強度の平均値を用いて定めることも可能である。
【0058】
(i)グレースケール化は、RGB空間の画像データをYUV空間の画像データに変更する。グレースケール化は、RGB値を用いた中間値を結果として出力する中間値法や、各別の係数によって重み付けされたRGB値の平均値を結果として出力する加重平均法などを行う処理である。また、グレースケール化は、各別の係数によって重み付けされたRGB値の加重平均値にガンマ補正が施された値を結果として出力する加重平均法と補正とを組み合わせた処理でもよい。さらに、グレースケール化は、RGB値の単純平均値を結果として出力する単純平均法や、RGB値のなかの中央値を結果として出力する中央値法などを行う処理でもよい。
【0059】
(ii)二次元の高速フーリエ変換は、グレースケール化後の画像データを用いて行われると共に、二次元のフーリエ変換画像における特徴ベクトルの分布を算出する。特徴ベクトルは、動径方向ベクトル、および角度方向ベクトルの少なくとも1つである。動径方向分布p(r)は、周波数成分の一例であり、二次元フーリエ変換画像の中心から距離rに存在する同心円領域上のパワースペクトルの和である。角度方向分布q(θ)は、水平軸に対する角度θの線形領域上のパワースペクトルの和である。特徴ベクトルの分布は、グレースケール化後の画像データにおいて、どのような空間周波数を有した波が強く含まれるか、またどのような方向に強い波が含まれるか、すなわち、動径方向や角度方向における画像での濃淡の周期性を示す。
【0060】
(iii)周波数解析は、標本抽出条件を満たす標本群を特徴ベクトルの分布のなかから抽出する。周波数解析は、抽出された標本群の特徴ベクトルから評価指標Qeを算出する。上述したように、標本抽出条件は、評価指標の算出に用いられる標本群を特徴ベクトルの分布のなかから抽出するための条件である。周波数解析は、例えば、標本抽出条件を満たす全ての標本の特徴ベクトルの総和を標本積算値SumVとして算出する。周波数解析は、算出した標本積算値SumVと、標本積算値SumVを規格化するための基準値と、を用いて、評価指標Qeを算出する。
【0061】
[標本抽出]
次に、上記周波数解析における標本群の抽出例を以下に説明する。
図3は、フーリエ変換画像のパワースペクトルにおいて抽出される標本群にドットを付して示す。
【0062】
図3が示すように、例えば、特徴ベクトルの分布が動径方向の分布である場合、標本抽出条件の一例は、距離rが所定範囲内であること、すなわち、周波数が所定周波数帯域であることである。物体の輪郭が視覚で認識されない程度の高いヘイズを有することが評価項目である場合、標本抽出条件の一例は、距離rが標本閾値rx以上であることである。標本閾値rxの一例は、動径方向の分布において、下記条件1、および条件2を満たす。
【0063】
(条件1)
標本閾値rx>抽出基準距離rs
(条件2)
標本閾値エネルギーp(rx)<抽出基準エネルギーp(rs)×10%
ここで、抽出基準エネルギー(rs)は、例えば、動径方向分布p(r)のなかで最も大きいエネルギーを示す最大値p(r)maxである。抽出基準距離rsは、最大値p(r)maxを与える距離rである。
【0064】
グレースケール化後の画像のなかで最大値p(r)maxに相当する濃淡の波は、物体の存否を示す波である可能性が高い。一方、グレースケール化後の画像のなかで最大値p(r)maxよりも小さいエネルギーに相当する濃淡の波は、物体の輪郭などを示す波である可能性が高い。そして、上記条件1、および条件2に基づく標本群の抽出は、物体の存否を示す可能性が高い波を標本群から除外して、物体の輪郭が視覚で認識されない程度であることの評価に適した標本群を抽出し得る。
【0065】
このように、上記条件1、および条件2の設定は、抽出基準エネルギー(rs)を特定の特徴ベクトルに設定することによって、当該特徴ベクトルに相当する濃淡の波以下の低い周波数の波を除外し、高い周波数の波が視覚で認識されるか否かの評価に適した標本群を抽出可能にする。すなわち、標本抽出条件の設定は、所定周波数帯域における周波数成分の大きさを算出可能にする条件である。周波数解析は、こうした標本抽出条件に基づいて抽出された全ての標本の特徴ベクトルの総和を標本積算値SumVとして算出する(
図3においてドットを付した領域)。そして、周波数解析は、標本積算値SumVを基準値によって除算し、基準値によって規格化された評価指標Qeを算出する。なお、標本積算値SumVは、第1ぼかし度合いであり、基準値は、第2ぼかし度合いである。
【0066】
なお、物体の輪郭が視覚で認識されない程度の高いヘイズを有することが評価項目である場合、基準値は、調光シート10を通さずに所定環境下で撮影された評価画像PEの標本積算値SumVや、調光シート10を透明にして撮影された評価画像PEの標本積算値SumVや、これらに相当すると推定される所定値である。
【0067】
反対に、物体の輪郭が視覚で認識される程度の低いヘイズを有することが評価項目である場合、基準値は、物体の輪郭が視覚で認識されない程度の調光シート10を通して所定環境下で撮影された評価画像PEの標本積算値SumVや、これに相当すると推定される所定値である。この場合においても、基準値は、指標算出装置20によって別途算出されてもよいし、指標算出装置20において予め記憶されてもよい。
【0068】
また、調光シート10に駆動電圧Vが印加されているときの光学状態が評価項目である場合、基準値は、例えば、調光シート10に駆動電圧Vが印加されていないときの標本積算値SumVや、これに相当すると推定される所定値である。
【0069】
反対に、調光シート10に駆動電圧Vが印加されていないときの光学状態が評価項目である場合、基準値は、例えば、調光シート10に駆動電圧Vが印加されているときの標本積算値SumVや、これに相当すると推定される所定値である。
【0070】
なお、いずれの場合においても、基準値は、指標算出装置20によって別途算出されてもよいし、指標算出装置20において予め記憶されてもよい。
また、特徴ベクトルの分布が角度方向分布q(θ)である場合、角度θが所定範囲内であることが標本抽出条件である。また、特徴ベクトルの分布が角度方向分布q(θ)である場合、基準値もまた、調光シート10を通さずに所定環境下で撮影された評価画像PEの角度方向分布q(θ)から得た標本積算値である。また、特徴ベクトルの分布が角度方向分布q(θ)である場合、基準値は、調光シート10を透明にして撮影された評価画像PEの角度方向分布q(θ)から得た標本積算値や、これらに相当すると推定される所定値などである。
【0071】
通信部24は、制御部21からの指令に応じて、撮影部12から評価画像PEを取得することを実行する。なお、通信部24は、例えば、制御部21からの指令に応じて、評価指標Qeの算出に要する駆動指令NSを調光制御装置30に送信することや、撮影対象13に対する適否判断の結果を表示部などの出力部に送信することなどを実行可能とする。また、通信部24は、制御部21からの指令に応じて、撮影対象13に対する適否判断の結果を利用者端末に送信してもよい。
【0072】
[調光制御装置30]
図1に戻り、調光制御装置30は、各種の処理を全てソフトウェアで処理するものに限らない。例えば、調光制御装置30は、各種の処理のうちの少なくとも一部の処理を実行する特定用途向け集積回路(ASIC)などの専用のハードウェアを備えてもよい。調光制御装置30は、ASICなどの1つ以上の専用のハードウェア回路、コンピュータプログラムに従って動作する1つ以上のプロセッサ、あるいは、これらの組み合わせ、を含む回路としても構成される。なお、以下では、調光制御装置30が、読み取り可能な可読媒体に駆動プログラムを記憶し、可読媒体が記憶する駆動プログラムを読み出して実行し、各種の処理を行う例を説明する。
【0073】
調光制御装置30は、制御部31、記憶部32、および駆動部33を備える。記憶部32は、調光シート10を駆動するための駆動プログラム、および駆動プログラムの実行に用いられる各種のデータを記憶している。制御部31は、記憶部32から駆動プログラムを読み出し、駆動プログラムを解釈して、駆動電圧Vを生成することを駆動部33に実行させる。
【0074】
例えば、制御部31は、指標算出装置20から駆動指令NSを受けて、あるいは、操作部の入力信号MCを受けて、評価指標Qeを算出するための駆動電圧Vを駆動部33に生成させる。駆動部33は、生成された駆動電圧Vを調光シート10に印加する。
【0075】
例えば、制御部31は、適否判断時に補正された駆動電圧Vを記憶部32に記憶させる。制御部31は、指標算出装置20から駆動指令NSを受けて、あるいは、操作部の入力信号MCを受けて、補正後の駆動電圧Vを記憶部32から読み出し、補正後の駆動電圧Vを駆動部33に生成させる。駆動部33は、適否判断後に実行される次回の評価指標Qeの算出時に、生成された補正後の駆動電圧Vを調光シート10に印加する。
【0076】
[適否判断]
次に、指標算出装置20が実行する適否判断方法を説明する。なお、以下では、リバース型の液晶調光シートを用い、調光シート10を通して物体の輪郭が視覚で認識されない程度の高いヘイズを調光シート10が有するか否かを評価項目とした例を示す。
【0077】
図4が示すように、指標算出装置20は、まず、駆動電圧Vとして評価電圧V0を生成するための駆動指令NSを調光制御装置30に送信する。調光制御装置30は、駆動指令NSに応じて評価電圧V0を生成し、調光シート10を不透明にするための評価電圧V0を印加する。これにより、調光シート10は、撮影対象13の適否を判断するための光学状態に変わる(ステップS11)。
【0078】
なお、指標算出装置20は、評価項目ごとに別々の評価電圧V0を記憶する構成であってもよい。例えば、評価電圧V0は、利用者が選択した評価項目に応じて、当該評価項目に対応する評価電圧V0が指標算出装置20で選択される。例えば、調光シート10を通して物体の存否が視覚で認識されない程度の高いヘイズを有すること、および、調光シート10を通して物体の輪郭が視覚で認識されない程度の高いヘイズを有することが評価項目である場合、利用者はいずれかの評価項目を選択する。指標算出装置20は、利用者によって選択された評価項目に対応する評価電圧V0を読み出して、当該評価電圧V0を駆動電圧Vにするための駆動指令NSを調光制御装置30に送信する。
【0079】
次いで、撮影部12は、評価電圧V0を印加された調光シート10を介して撮影対象13の評価画像PEを撮影する。指標算出装置20は、調光シート10を介して撮影された撮影対象13の評価画像PEを撮影部12から取得する(ステップS12)。
【0080】
次いで、指標算出装置20は、取得された評価画像PEの画像解析を実行して、調光シート10による評価画像PEのぼかし度合いを評価指標Qeとして算出する。指標算出装置20が実行する画像解析は、調光シート10による評価画像PEのぼかし度合いを算出することであり、上述したように、例えば、グレースケール化、二次元の高速フーリエ変換、および周波数解析の順に行われる(ステップS13)。
【0081】
次いで、指標算出装置20は、算出された評価指標Qeが指標閾値Qm以上であるか否かを判断する。この際、指標閾値Qmは、適正な光学状態を有する調光シート10を通じて、適正な撮影対象を撮影した画像から得られた評価指標Qeの下限値である。適正な光学状態を有する調光シート10は、当該調光シート10を通して物体の輪郭が視覚で認識されない程度の高いヘイズを有する(ステップS14)。
【0082】
指標算出装置20は、評価指標Qeが指標閾値Qm以上であると判断すると(ステップS14でYES)、当該評価指標Qeを初期指標Q0として記憶する(ステップS15)。そして、指標算出装置20は、調光シート10における光学状態の経時的な評価に先駆けて、評価指標Qeを算出するための被写体として撮影対象13が適切であることを外部に通知する(適否判断:ステップS16)。
【0083】
一方で、指標算出装置20は、評価指標Qeが指標閾値Qmに満たないと判断すると(ステップS14でNO)、今回の駆動電圧Vが上限電圧Vmaxであるか否かを判断する(ステップS17)。次いで、指標算出装置20は、今回の駆動電圧Vが上限電圧Vmaxでないと判断すると(ステップS17でNO)、評価電圧V0にステップ電圧Vsを加えた新たな駆動電圧Vが生成されるように、駆動指令NSを調光制御装置30に送信する。
【0084】
調光制御装置30は、駆動指令NSに応じて新たな駆動電圧Vを生成し、生成された駆動電圧を調光シート10に印加する。これにより、調光シート10の光透過率がさらに低められる。そして、ステップS12からステップS18までの処理が繰り返されることによって、指標算出装置20は、評価指標Qeが指標閾値Qm以上となるときの駆動電圧Vを把握する。
【0085】
なお、指標算出装置20は、評価指標Qeが指標閾値Qm以上であるときの駆動電圧Vを調光制御装置30に通知する。調光制御装置30は、評価項目を満たす駆動電圧V、すなわち、光学状態の経時的な評価において撮影対象13が使用できる駆動電圧Vとして、当該通知された駆動電圧Vを記憶し、以降に実施される経時的な光学状態の評価に際しては、当該記憶した駆動電圧Vを用いる。
【0086】
他方で、指標算出装置20は、今回の駆動電圧Vが上限電圧Vmaxであると判断すると(ステップS17でYES)、調光シート10における光学状態の経時的な評価に先駆けて、評価指標Qeを算出するための被写体として撮影対象13が不適切であることを外部に通知する(ステップS19)。
【0087】
[試験例]
次に、調光シート10の光学状態が画像解析によって評価可能であること、および評価指標Qeを算出するため被写体として撮影対象13が適切か否かを示す試験例を、
図5から
図12を参照して説明する。なお、以下では、調光シート10として、ノーマル型として駆動される高分子ネットワーク型の液晶調光シートを用いた例を示す。
【0088】
まず、評価画像PEを撮影するための撮影装置について説明する。
図5が示すように、撮影装置が備える暗室51は、面光源として機能する底部51Bを備える。暗室51の底部51Bは、暗室51の頂部に向けて光を照射するLEDテーブルである。暗室51の底部は、暗室51の内部において撮影対象13を支持する。暗室51の頂部51Tは、撮影対象13の直上において暗室51の内部を撮影可能にスマートフォンなどの撮影部12を搭載する。暗室51の内面は、撮影部12に外光が照射されること、および撮影部12に映り込みが生じることを抑えるように、黒色を呈している。
【0089】
暗室51の内部は、撮影部12と撮影対象13との間に調光シート10を載置するための載置部を備える。載置部は、撮影対象13が配置される空間と、それ以外の空間とを仕切る平板状の仕切板である。載置部のなかで撮影対象13と対向する位置には、矩形孔状の貫通孔が形成されている。載置部に形成された貫通孔を塞ぐように、調光シート10が載置される。撮影部12は、調光シート10、載置部の貫通孔を通して、撮影対象13を撮影する。
【0090】
調光シート10は、無色透明のガラス板に貼り付けられた状態で、載置部に載置される。調光シート10は、矩形シート状を有し、短辺が100mmであり、長辺が112mmである。調光シート10を貼り付けられたガラス板は、これもまた矩形板状を有し、短辺が105mmであり、長辺が126mmである。駆動電圧Vが0Vであるとき、調光シート10が最も低い透過率を有し、駆動電圧Vが上限電圧Vmaxであるとき、調光シート10が最も高い透過率を有する。
【0091】
暗室51の内部は、撮影対象13に光Lを照射する対象用LED54R,54Lを備える。対象用LED54R,54Lは、暗室51の内部において、載置部の下面から底部51Bの全体に光Lを照射する。対象用LED54R,54Lは、互いに同一色の昼光を照射する。対象用LED54R,54Lによる撮影対象13での照度は、2690lxである。
【0092】
暗室51の内部は、調光シート10に光Lを照射するシート用LED53R,53Lを備える。シート用LED53R,53Lは、暗室51の内部において、暗室51の頂部51Tから載置部の全体に光Lを照射する。シート用LED53R,53Lは、互いに同一色の昼光を照射する。シート用LED53R,53Lによる調光シート10での照度は、532lxである。
【0093】
撮影部12と撮影対象13との間の鉛直方向における距離H1は、350mmである。撮影対象13と載置部との間の鉛直方向における距離H2は、100mmである。すなわち、撮影対象13と調光シート10との間の鉛直方向における距離は、100mmであり、調光シート10と撮影部12との間の鉛直方向における距離は、200mmである。
【0094】
図6は、試験例1の評価画像PEであって、撮影対象13として自然風景写真を用いた例を示す。
図6が示すように、試験例1の評価画像PEにおける半分以上の領域に、ほぼ単色の「空」が位置し、「空」以外の領域に、単一の樹木が位置している。
【0095】
図7は、試験例2の評価画像PEであって、撮影対象13として建築物などを含む風景写真を用いた例を示す。
図7が示すように、試験例2の評価画像PEにおける半分以上の領域に、多数の大きい建築物と、多数の小さい建築物とが並ぶ「街並み」が位置し、「街並み」以外の領域に、複数の「雲」が浮かぶ「空」が位置する。
【0096】
図8は、試験例3の評価画像PEであって、撮影対象13としてテストパターンを用いた例を示す。
図8が示すように、試験例3の評価画像PEには、白および黒の細線が交互に平行に並べられたパターン、黒の細線が放射状に並べられたパターン、相互に異なる線幅を有した白および黒の細線が交互に平行に並べられたパターン、相互に異なる線密度を有した白および黒の細線が配置されたパターンなどが位置する。
【0097】
なお、
図6から
図8は、いずれも駆動電圧Vを30Vに設定したときの評価画像PEである。また、評価画像PEは、いずれも以下の処理によって得られた画像である。すなわち、撮影部12が撮影した画像のなかから、調光シート10を介して撮影された部分を縦横サイズが600cps×600cpsとなるようにトリミングした後に、トリミング後の画像を縦横サイズが256cps×256cpsとなるように圧縮したものである。
【0098】
図9は、動径方向分布p(r)における駆動電圧Vの依存性を示すグラフであって、試験例1の評価画像PEのFFT変換画像から得られる試験例1の動径方向分布p(r)を示す。
図10は、動径方向分布p(r)における駆動電圧Vの依存性を示すグラフであって、試験例2の評価画像PEのFFT変換画像から得られる試験例2の動径方向分布p(r)を示す。
図11は、動径方向分布p(r)における駆動電圧Vの依存性を示すグラフであって、試験例3の評価画像PEのFFT変換画像から得られる試験例3の動径方向分布p(r)を示す。
【0099】
なお、
図9から
図11では、いずれも動径方向分布p(r)を最大値p(r)maxで規格化した値を、駆動電圧Vごとに示す。また、各FFT(i)グレースケール化としてITU-R Rec BT.601の規格に準じた処理を用い、グレースケール化後の画像データを用いて、(ii)二次元の高速フーリエ変換、および(iii)周波数解析を順に行った。
【0100】
図9が示すように、試験例1の周波数解析結果において、駆動電圧Vが0Vであるとき、すなわち、調光シート10の光透過率が最も低いとき、距離rが8以下の範囲に、1つの大きい動径方向分布p(r)が存在し、それ以外の範囲には動径方向分布p(r)が認められない。駆動電圧が30Vであるとき、すなわち、調光シート10の光透過率が最も高いとき、距離rが16以下の範囲に、2つの大きい動径方向分布p(r)が存在し、距離rが16以上64以下の範囲に、4つの小さい動径方向分布p(r)が認められる。
【0101】
図10が示すように、試験例2の周波数解析結果において、駆動電圧Vが0Vであるとき、すなわち、調光シート10の光透過率が最も低いとき、距離rが8以下の範囲に、1つの大きい動径方向分布p(r)と、1つの小さい動径方向分布p(r)とが存在し、それ以外の範囲には動径方向分布p(r)が認められない。
【0102】
一方、試験例2の周波数解析結果において、駆動電圧が30Vであるとき、すなわち、調光シート10の光透過率が最も高いとき、距離rが8以上16以下の範囲に、3つの大きい動径方向分布p(r)が存在する。さらに、距離rが16以上96以下の広い範囲にわたり、試験例1と比べて十分に多い、多数の小さい動径方向分布p(r)が認められる。
【0103】
図11が示すように、試験例3の周波数解析結果において、駆動電圧Vが0Vであるとき、すなわち、調光シート10の光透過率が最も低いとき、距離rが16以下の範囲に、2つの大きい動径方向分布p(r)が存在し、距離rが16以上40以下の範囲に、3つの小さい動径方向分布p(r)が認められる。
【0104】
一方、試験例3の周波数解析結果において、駆動電圧が30Vであるとき、すなわち、調光シート10の光透過率が最も高いとき、距離rが128以下のほぼ全体にわたり、試験例1および試験例2と比べて十分に多い、多数の大きい動径方向分布p(r)が認められる。
【0105】
このように、距離rが相対的に小さい範囲、すなわち、実空間の空間周波数が相対的に大きい範囲は、試験例1から試験例3のいずれにおいても、駆動電圧Vの差異によって動径方向分布p(r)が変わりにくい。一方、距離rが相対的に大きい範囲、すなわち、実空間の空間周波数が相対的に高い範囲は、試験例2および試験例3において、駆動電圧Vの差異によって動径方向分布p(r)が大きく変わる。
【0106】
実空間の空間周波数が高い範囲は、グレースケール化後の画像のなかの細かい濃淡であり、例えば、物体の表面形状や物体の輪郭などを示す。一方、実空間の空間周波数が低い範囲は、グレースケール化後の画像のなかの粗い濃淡であり、例えば、物体の存否などを示す。上述したように、実空間における空間周波数の差異は、駆動電圧Vの差異による動径方向分布p(r)の差異として現れる。例えば、大きさが異なる多数の建築物の「街並み」やテストパターンなどのような細かい濃淡と、「空」を背景とした「樹木」のような粗い濃淡との差異は、駆動電圧Vの差異による動径方向分布p(r)の差異として現れる。
【0107】
結果として、例えば、所定の駆動電圧Vを印加された調光シート10が、物体の表面形状や輪郭などを視覚で認識させない程度の光学状態であるか否か、あるいは、物体の表面形状や輪郭などを視覚で認識させる程度の光学状態であるか否かは、動径方向分布p(r)の差異として現れるといえる。例えば、所定の駆動電圧Vを印加された調光シート10が、物体の存否などを視覚で認識させない程度の光学状態であるか否か、あるいは、物体の存否などを視覚で認識させる程度の光学状態であるか否かは、動径方向分布p(r)の差異として現れるといえる。
【0108】
言い換えれば、調光シート10の光学状態に対する経時的な評価に先駆けて、撮影対象13が被写体として適しているか否かは、標本抽出条件を満たす動径方向分布p(r)の総和に基づいて判断できるといえる。
【0109】
図12は、試験例1から試験例3の動径方向分布p(r)から得られる評価指標Qeの駆動電圧Vに対する依存性と、調光シート10が有するヘイズの駆動電圧Vに対する依存性とを示す。なお、
図12では、各駆動電圧Vにおいて算出された標本積算値SumVを基準値によって除算し、これにより、基準値によって規格化された評価指標Qeを示す。この際、駆動電圧Vが30Vであるときの標本積算値SumV、すなわち、調光シート10が最も高い光透過率を有しているときの標本積算値SumVを基準値として用いた。また、
図12では、調光シート10が有するヘイズは、100%を1として規格化された値を示す。
【0110】
図12が示すように、駆動電圧Vが0V以上10V以下の範囲において、調光シート10のヘイズは、100%付近から90%に向けて緩やかに低下する。また、駆動電圧Vが0V以上10V以下の範囲において、試験例1の評価指標Qeは、0.3付近から0.4付近に向けて緩やかに増加する。試験例2,3の各評価指標Qeは、0付近から0.1に向けて緩やかに増加する。
【0111】
一方、駆動電圧Vが10V以上20V以下の範囲では、調光シート10のヘイズは、90%から30%に向けて急激に低下する。駆動電圧Vが10V以上20V以下の範囲において、試験例2,3の各評価指標Qeもまた、0.1付近から0.7付近に向けて急激に増加する。他方、駆動電圧Vが10V以上13V以下の範囲において、試験例1の評価指標Qeは、0.3付近から1.0付近に向けて急激に増加し、駆動電圧Vが13V以上では、ほぼ1.0を維持する。すなわち、駆動電圧Vが13V以上の範囲において、試験例1の評価指標Qeは、調光シート10のヘイズに追従しない。
【0112】
なお、駆動電圧Vが20V以上30V以下の範囲において、調光シート10のヘイズは、30%から10%に向けて緩やかに低下する。また、試験例2,3の各評価指標Qeも、0.7から1.0に向けて緩やかに増加する。
【0113】
このように、駆動電圧Vが0V以上30V以下の全ての範囲において、試験例2,3の評価指標Qeは、調光シート10におけるヘイズの変化に追従して変化する。一方、試験例1の評価指標Qeは、調光シート10におけるヘイズの変化に追従しない。これにより、試験例2,3の評価指標Qeは、調光シート10の光学状態を表しているといえる。そして、試験例2,3の評価指標Qeが指標閾値Qmが設定されることによって、評価指標Qeの被写体として撮影対象13が適しているか否かが判定できるといえる。
【0114】
以上、上記実施形態によれば、以下に列挙する効果が得られる。
(1)調光シート10を介して撮影された評価画像PEの調光シート10によるぼかし度合いが、評価画像PEの画像解析を用いて算出される。評価画像PEの撮影は、積分球のような専用光学機器ではなく、スマートフォンやタブレット端末などの汎用的な撮影機器によって実現されるから、調光シート10の光学状態を評価することに際して、その汎用性を高めることが可能となる。
【0115】
(2)調光シート10による評価指標Qeは、調光シート10のヘイズが大きいほど大きいという傾向を有して、調光シート10のヘイズ変化に同調して変わりやすい。そのため、評価指標Qeが適正範囲であることを条件として撮影対象13が適していると判断する上記構成であれば、調光シート10の光学状態を新たな評価指標Qeを用いて評価することが可能となる。
【0116】
(3)調光シート10を通した撮影対象13の撮影において、撮影対象13が置かれる外光状況は、撮影の機会に応じて様々に変わり得る。撮影対象13が置かれる外光状況は、照明機器の照明光や自然光などの外光における照度や照明角度を含む。この点、調光シート10が透明であるときの標本積算値SumVを基準値とする構成であれば、評価指標Qeの算出に及ぼす外光状況の影響が軽減される。その結果、新たな評価指標Qeを用いた評価の精度を高めることが可能となる。
【0117】
(4)調光シート10の設置場所から見られる光景を撮影対象13とすることが可能であるから、各種施設の外装や内装として、透明体11に取り付けられる調光シート10の装置時や監視時において、調光シート10の光学状態を評価することが可能となる。
【0118】
(5)評価画像PEのなかの短周期での繰り返しの鮮明さは、高い周波数帯域における周波数成分の大きさとして検出される。一方で、評価画像PEのなかの長周期での繰り返しの鮮明さは、低い周波数帯域における周波数成分の大きさとして検出される。この点、動径方向分布p(r)のなかの所定周波数帯域から評価指標Qeを算出する構成であれば、調光シート10の光学状態を評価指標Qeによって詳細に表すことが可能ともなる。
【0119】
(6)動径方向分布p(r)における標本積算値SumVから評価指標Qeが算出されるため、空間周波数成分が一次元方向に現れる評価画像PEであれ、空間周波数成分が二次元方向に現れる評価画像PEであれ、調光シート10が有する光学状態に準じた大きさの評価指標Qeを算出できる。すなわち、空間異方性に関わる制約が撮影対象13において軽減される。したがって、撮影対象13の適否判断が適用される場面を多方面に広げること、ひいては、調光システムの汎用性を高めることが可能となる。
【0120】
なお、上記実施形態は、以下のように変更して実施することもできる。
・評価指標Qeは、標本積算値SumVが基準値によって規格化された値に限らず、例えば、標本積算値SumVそのものであってもよい。なお、調光シート10が透明であるときの評価指標Qeを算出し、当該評価指標Qeを基準値として他の評価指標Qeを規格化する構成であれば、撮影時における照明の差異や撮影対象13の差異による誤差を評価指標Qeにおいて軽減することができる。そして、調光シート10によるぼかし度合いを高い精度で算出することが可能であるから、撮影対象の適否判断精度を高めることが可能ともなる。
【0121】
・指標算出装置20は、光学状態の評価に適していると判断した後、その適否判断に用いられた撮影対象13の判断後の評価画像PEから、別途、評価指標Qeを算出してもよい。そして、指標算出装置20は、適否判断後に算出される評価指標Qeが指標閾値Qm以上であることを条件として、調光シート10が正常であると判断してもよい。すなわち、指標算出装置20は、ステップS11からステップS14の処理を適否判断後に実行し、評価指標Qeが指標閾値Qm以上であることを条件として、調光シート10の光学状態が保たれていると判断してもよい。
【0122】
・さらに、指標算出装置20は、適否判断後に算出される評価指標Qeが指標閾値Qmに満たないことを条件として、評価指標Qeが指標閾値Qm以上になるように駆動電圧Vを補正してもよい。すなわち、指標算出装置20は、ステップS12からステップS18の処理を適否判断後に実行し、評価指標Qeが指標閾値Qmに満たないことを条件として、評価指標Qeが指標閾値Qm以上になるように駆動電圧Vを補正し、それによって、調光シート10の光学状態を保ってもよい。
【符号の説明】
【0123】
p(r)…動径方向分布
PE…評価画像
Qe…評価指標
10…調光シート
12…撮影部
13…撮影対象
20…指標算出装置
21…制御部
22…画像解析部
23A…評価指標算出プログラム
30…調光制御装置
31…制御部