(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-23
(45)【発行日】2025-01-07
(54)【発明の名称】電子部品及び電子部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01G 2/24 20060101AFI20241224BHJP
H01G 9/08 20060101ALI20241224BHJP
B23K 26/00 20140101ALI20241224BHJP
【FI】
H01G2/24
H01G9/08 F
B23K26/00 B
(21)【出願番号】P 2020113798
(22)【出願日】2020-07-01
【審査請求日】2023-06-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000228578
【氏名又は名称】日本ケミコン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【氏名又は名称】木内 光春
(74)【代理人】
【識別番号】100112564
【氏名又は名称】大熊 考一
(74)【代理人】
【識別番号】100163500
【氏名又は名称】片桐 貞典
(74)【代理人】
【識別番号】230115598
【氏名又は名称】木内 加奈子
(72)【発明者】
【氏名】船戸 智貴
【審査官】上谷 奈那
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-120087(JP,A)
【文献】特開2011-228470(JP,A)
【文献】特開平08-097068(JP,A)
【文献】特開平06-155920(JP,A)
【文献】特開昭60-224588(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 2/24
H01G 9/08
B23K 26/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製の外装ケースと、
前記外装ケースを覆う絶縁コーティング層と、
前記外装ケースの外表面に形成され、前記絶縁コーティング層で開口が覆われた溝部と、
前記溝部から分離した状態で、前記絶縁コーティング層の前記溝部側の面に付着する金属粒子と、
を備えること、
を特徴とする電子部品。
【請求項2】
前記溝部は、レーザ照射により形成されて成り、
前記金属粒子は、前記外装ケースから分離して前記絶縁コーティング層に付着していること、
を特徴とする請求項1記載の電子部品。
【請求項3】
前記溝部内部には、前記絶縁コーティング層で前記開口が塞がれることにより閉空間を有すること、
を特徴とする請求項1又は2記載の電子部品。
【請求項4】
前記金属粒子は、前記絶縁コーティング層の溝部を覆う領域のうち80%以上の面積に付着すること、
を特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の電子部品。
【請求項5】
前記金属粒子は平均粒径が10μm以下であること、
を特徴とする請求項1又は2記載の電子部品。
【請求項6】
前記絶縁コーティング層に付着する前記金属粒子は、前記溝部を覆われた空間に閉じ込められている全金属粒子の一部又は全部であること、
を特徴とする請求項1乃至5の何れかに記載の電子部品。
【請求項7】
コンデンサ、キャパシタ又は電池であること、
を特徴とする請求項1乃至6の何れかに記載の電子部品。
【請求項8】
外表面が絶縁コーティング層で覆われた金属製の外装ケースを有する電子部品の製造方法であって、
前記外装ケースの外表面に対して、前記絶縁コーティング層を透過するレーザ光を前記外装ケースの外表面に向けて照射し、表示を形作る溝部を形成するマーキング工程を含み、
前記マーキング工程では、前記溝部内に発生するスパッタ粒子を、前記溝部から分離させた状態で、前記絶縁コーティング層の前記溝部側の面に付着させること、
を特徴とする電子部品の製造方法。
【請求項9】
前記マーキング工程では、レーザ光の走査速度によって前記スパッタ粒子を舞い上がらせること、
を特徴とする請求項8記載の電子部品の製造方法。
【請求項10】
前記マーキング工程では、前記スパッタ粒子を前記絶縁コーティング層の溝部を覆う領域の80%以上の面積に付着させること、
を特徴とする請求項8又は9記載の電子部品の製造方法。
【請求項11】
前記マーキング工程では、平均粒径が10μm以下の前記スパッタ粒子を生成すること、
を特徴とする請求項8乃至10の何れかに記載の電子部品の製造方法。
【請求項12】
前記電子部品は、コンデンサ、キャパシタ又は電池であること、
を特徴とする請求項8乃至
11の何れかに記載の電子部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表示が形成された外装ケースで覆われた電子部品及び当該電子部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品として、例えばコンデンサ、キャパシタ、電池、コイル、トランス等が普及している。この電子部品は、素子を収めた外装ケースを備えている。素子は、電子部品に求められる主たる機能を発現する構成要素である。例えば、素子は、コンデンサであれば、少なくとも陽極箔と陰極箔と電解質とを含んで成り、静電容量により電荷の蓄電及び放電を行う。外装ケースは、素子を外部環境から保護し、また外部環境を素子中の液体や素子から発生したガス等から保護する。
【0003】
外装ケースとして金属製が選択されることがある。但し、近年の回路は各種部品の密集度合いが高くなっており、金属製の外装ケースは、電子部品が実装された回路基板や他の部品に接触して回路のショートを引き起こす虞がある。また、金属製の外装ケースは、腐食や変色が生じてしまい、電子部品の見栄えが悪化する虞がある。そこで、通常、外装ケースの外表面は絶縁コーティング層で覆われている。
【0004】
このような外装ケースには、電子部品の製品情報を使用者に報知するために、電子部品の製品情報を表す表示が形成される。表示は、文字、数字、図形、模様等の記号により成り、電子部品がコンデンサであれば極性、定格電圧、静電容量、商標、製造番号などを示している。
【0005】
表示の形成方法として、不透明な絶縁コーティング層のみを記号の形状に合わせてレーザ光にて除去する方法がある(例えば特許文献1参照)。この方法では、外装ケースの地色と絶縁コーティング層の色との相違により、表示が視認可能となる。また、表示の形成方法として、絶縁コーティング層と共に外装ケースの外表面を記号の形状に合わせてレーザ光にて掘り込む方法がある(例えば特許文献2参照)。この方法では、外装ケースの外表面と彫り込み部分から反射してくる光量の相違により、表示が視認可能となる。
【0006】
【文献】特開昭55-110001号公報
【文献】特開2002-346633号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
表示の形成方法として、絶縁コーティング層のみを記号の形状に合わせて除去する方法を選択しても、絶縁コーティング層と共に外装ケースの外表面を記号の形状に合わせて掘り込む方法を選択しても、表示の箇所において外装ケースの外表面が外部に露出してしまうという問題がある。
【0008】
表示の箇所において外装ケースの外表面が外部に露出してしまうと、表示が消失することはないが、露出部分が腐食したり、変色したりして見栄えが悪化する。また、露出部分が腐食したり、変色したりすると、例えばカメラとOCR処理による電子部品の製品情報の機械的な読み取りができなくなる虞がある。そうすると、見栄えが悪化するだけでなく、電子部品の検査効率も低下してしまう。
【0009】
また、絶縁コーティング層と共に外装ケースの外表面を記号の形状に合わせて掘り込む方法の場合は更なる問題が生じ得る。即ち、レーザ光で外装ケースを切削することで生じたスパッタ粒子を清掃により取り除くことができないと、スパッタ粒子が実装回路へ脱落してショートを引き起こす虞がある。
【0010】
本発明は、上記のような問題点を解決するため、表示の腐食や変色を抑制するとともに、スパッタ粒子によるショートを阻止する電子部品及び電子部品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明に係る電子部品は、金属製の外装ケースと、前記外装ケースを覆う絶縁コーティング層と、前記外装ケースの外表面に形成され、前記絶縁コーティング層で開口が覆われた溝部と、前記絶縁コーティング層の前記溝部側の面に付着する金属粒子と、を備えること、を特徴とする。
【0012】
前記溝部は、レーザ照射により形成されて成り、前記金属粒子は、前記金属ケースから分離して前記絶縁コーティング層に付着しているようにしてもよい。
【0013】
前記溝部内部には、前記絶縁コーティング層で前記開口が塞がれることにより閉空間を有するようにしてもよい。
【0014】
また、上記目的を達成するため、本発明に係る、この電子部品の製造方法は、外表面が絶縁コーティング層で覆われた金属製の外装ケースを有する電子部品の製造方法であって、前記外装ケースの外表面に対して、前記絶縁コーティング層を透過するレーザ光を前記外装ケースの外表面に向けて照射し、表示を形作る溝部を形成するマーキング工程を含み、前記マーキング工程では、前記溝部内に発生するスパッタ粒子を前記絶縁コーティング層の前記溝部側の面に付着させること、を特徴とする。
【0015】
前記マーキング工程では、レーザ光の走査速度によって前記スパッタ粒子を舞い上がらせるようにしてもよい。
【0016】
前記金属粒子や前記スパッタ粒子は、前記絶縁コーティング層の溝部を覆う領域のうち80%以上の面積に付着するようにしてもよい。
【0017】
前記金属粒子や前記スパッタ粒子は平均粒径が10μm以下であるようにしてもよい。
【0018】
前記絶縁コーティング層の前記閉空間側の面に付着する前記金属粒子は、前記閉空間に閉じ込められている全金属粒子の一部又は全部であるようにしてもよい。前記絶縁コーティング層の前記閉空間側の面に付着する前記スパッタ粒子は、前記閉空間に閉じ込められている全スパッタ粒子の一部又は全部であるようにしてもよい。
【0019】
前記電子部品は、コンデンサ、キャパシタ又は電池であるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、レーザ溝部が絶縁コーティング層で覆われているので、電子部品に形成した表示の腐食及び変色を防止できる。また、レーザ溝部を形成する際、絶縁コーティング層を膨張させる処理条件を採る必要無く、絶縁コーティング層が何らかの構造物に引っ掛かって破れ、内部のスパッタ粒子が実装回路に落ちてショートを引き起こす事態を回避できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本実施形態に係るコンデンサの側面図であり、一部破断させて内部構造を示している。
【
図2】本実施形態に係るコンデンサの外観斜視図である。
【
図3】外装ケースに形成された表示の断面図である。
【
図4】外装ケースに形成された表示に入る光の光路を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態に係るコンデンサ及び製造方法について詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものでない。
【0023】
図1に示すコンデンサ1は、電子部品の一例であり、リード形及び巻回形の電解コンデンサである。コンデンサ1は素子2を備えている。素子2は、電子部品に求められる主たる機能を発揮する構成要素である。コンデンサ1の場合、素子2は、静電容量により電荷の蓄電及び放電を行う。コンデンサ1の場合、素子2は、長尺の陽極箔、陰極箔及び電解質を備えている。陽極箔と陰極箔はセパレータを介して対向して積層し、巻回されている。電解質は陽極箔と陰極箔との間に挟まれている。少なくとも陽極箔の表面は拡面化され、更に誘電体酸化被膜が形成されている。
【0024】
このコンデンサ1は、素子2の他、外装ケース3、リード端子4及び封口体6を備えている。外装ケース3は、一端が開口した有底筒状であり、素子2を収容している。封口体6は、例えばゴム又はゴムと硬質基板との積層体であり、素子2が外装ケース3に収納された状態で外装ケース3に嵌め込まれ、外装ケース3の開口を封止している。この封口体6は、外装ケース3の周面が加締められることで、外装ケース3の開口位置に固定されている。リード端子4は、ステッチ接続、コールドウェルド接続、超音波溶接又はレーザ溶接などによって、素子2の陽極箔及び陰極箔に接続され、封口体6から引き出される。このリード端子4は、コンデンサ1が実装される回路との接点であり、コンデンサ1の実装時には、リフロー半田付け等によって回路基板に電気的に接続される。
【0025】
図2に示すように、コンデンサ1には、外部から視認可能な表示5が形成されている。例えば、表示5は、外装ケース3の底面31に形成されている。底面31は、封口体6で塞がれて更にリード端子4が突き出た端面とは反対の端面である。この表示5は、コンデンサ1の製品情報を報知する手段であり、文字、数字、図形、模様等の記号により成り、極性、定格電圧、静電容量、商標、製造番号などを示している。
【0026】
図3は、表示5が形成された外装ケース3の外表面付近の断面図である。外装ケース3は金属製であり、例えばアルミニウム、アルミニウムやマンガンを含有するアルミニウム合金、又はステンレス製である。外装ケース3の外表面は、透明な絶縁コーティング層32で被覆されている。外装ケース3の外表面は絶縁コーティング層32を通じて視認可能である。絶縁コーティング層32は、外装ケース3が回路や回路上の他の部品の通電部分と接触してショートすることを阻止し、また外装ケース3が腐食したり変色したりしないように外部環境から保護している。
【0027】
この絶縁コーティング層32は、例えば樹脂製であり、ポリエチレンテレフタレート(PET)、エポキシ樹脂又はナイロン製等である。また、絶縁コーティング層32としては、後述するマーキング工程において用いられるレーザ光の各波長に対して透過率が80%以上のものが好ましい。透過率が80%未満の場合、レーザ光を絶縁コーティング層32が吸収し、発熱により絶縁コーティング層32が除去される傾向にある。
【0028】
表示5は、外装ケース3の外表面に形成される溝部51により形作られている。溝部51は、外装ケース3の外表面から掘り込まれた溝である。この溝部51は、溝部51に被さる絶縁コーティング層32によって開口が塞がれており、溝部51は、溝部51と絶縁コーティング層32とによって囲まれて閉空間となっている。
【0029】
絶縁コーティング層32で閉じられた溝部51には、多数の金属粒子52が閉じ込められている。金属粒子52は、溝部51の形成時に発生し、外装ケース3から分離した金属粒子である。金属粒子52の平均粒径は10μm以下である。溝部51内に閉じ込められた金属粒子52の全部又は一部は、絶縁コーティング層32の溝部51を覆っている領域に付着している。また、金属粒子52は、絶縁コーティング層32の溝部51側の面、即ち絶縁コーティング層32の溝部51と対面する内表面側に付着している。そして、金属粒子52は、絶縁コーティング層32が溝部51を覆う領域の80%以上の付着している。
【0030】
製造過程において、外装ケース3は、表示5を形成するマーキング工程前に、絶縁コーティング層32によって被覆される。マーキング工程では、絶縁コーティング層32を破ることなく、溝部51を形成し、溝部51の直上に絶縁コーティング層32を存続させておく。即ち、この溝部51は、マーキング工程において、絶縁コーティング層32を透過して外装ケース3の外表面に届くレーザ光を用いて加工される。
【0031】
レーザ光は、絶縁コーティング層32を破壊せず、外装ケース3の外表面を熱により、溶融及び昇華させて溝部51を形成するものであり、絶縁コーティング層32を透過し、外装ケース3の外表面で吸収される波長を有する。絶縁コーティング層32を破壊せずにレーザ光を透過させ、外装ケース3に溝部51を形成するため、例えばファイバーレーザ、YVO4レーザ、UVレーザ、YAGレーザ等を選択し、また出力、パルス幅、スキャンスピード、パルス周波数、スポットサイズ等のビームプロファイルを調整しておく。
【0032】
金属粒子52はマーキング工程で発生させ、絶縁コーティング層32で閉じられた溝部51の閉空間に閉じ込めておく。金属粒子52を閉じ込めるだけでなく、溝部51の形成の際には、レーザ光の走査速度を上げることで、金属粒子52の一部又は全部を、絶縁コーティング層32に届くように舞い上がらせ、絶縁コーティング層32に付着させる。
【0033】
この金属粒子52は、レーザ光の照射時、外装ケース3の外表面がレーザ光のエネルギーを受けて溶融したスパッタ粒子である。レーザ光の照射により切削した溝部51内には蒸気ガスも発生する。この蒸気ガスによって溶融金属が吹き飛ばされて外装ケース3から粒子状に分離し、冷え固まって金属粒子52として残る。
【0034】
尚、発生した金属粒子52の一部は、溝部51の内表面に残存してもよい。また、レーザ光の照射時、外装ケース3の外表面がレーザ光のエネルギーを受けて溶融した金属の一部が外装ケース3から離れずに延びて冷え固まり、バリとして溝部51の閉空間に残存していてもよい。バリは経時的に溝部51の内表面から分離することもある。
【0035】
このような表示5は、
図4に示すように、外装ケース3の外表面で反射して人間の網膜やカメラの撮像素子に入光する光量と、溝部51の内表面で反射して人間の網膜やカメラの撮像素子に入光する光量との相違により、外装ケース3の外表面と溝部51とに明暗が発生して浮かび上がる。
【0036】
図4は、外装ケース3に形成された表示に入る光の光路を示す模式図である。
図4に示すように、金属粒子52は、外装ケース3の外表面よりも歪な表面を有している。溝部51に向かう光の一部は、絶縁コーティング層32に付着した金属粒子52に当たり、外装ケース3の外表面よりも乱反射する。
【0037】
溝部51に向かう他の光は、絶縁コーティング層32に付着した金属粒子52間を通って溝部51の内表面に到達して反射する。溝部51の内表面で反射して、溝部51から出射しようとする光の一部は、絶縁コーティング層32に付着している金属粒子52によって遮られる。
【0038】
即ち、絶縁コーティング層32に付着する金属粒子52は、表示5を形作る溝部51から出射しようとする光を遮る遮光体となる。絶縁コーティング層32は、遮光体となる金属粒子52を溝部51の内表面から離間させる保持体となる。絶縁コーティング層32と金属粒子52とは、溝部51の内表面と距離を取って対向する遮光板となる。
【0039】
このように、金属粒子52により溝部51への入光量が低下し、また金属粒子52により溝部51からの反射光が遮られることにより、表示5から人間の網膜やカメラの撮像素子へ届く光量は、外装ケース3の外表面からの反射光よりも低光量になる。
【0040】
ここで、表示5の視認性及び識別性は、溝部51を深くしたり、綿密に荒らしたりすることによっても達成できる。溝部51が深くなれば、溝部51に当たる光が少なくなり、溝部51が表われることで乱反射が多くなるためである。しかし、溝部51を深く掘るには、レーザ光のエネルギー投射量を上げることになる。レーザ光のエネルギー投射量を上げると、溝部51の内部圧力が熱により上がり、絶縁コーティング層32を膨出させてしまう。
【0041】
膨出した絶縁コーティング層32は、コンデンサ1の実装過程等のタイミングで、外部構造物等に引っ掛かって破れてしまう虞がある。絶縁コーティング層32が破けると、内部の金属粒子52が溝部51から実装回路に落ち、実装回路のショートを引き起こす虞がある。
【0042】
一方、この表示5は、絶縁コーティング層32に付着する金属粒子52によって光量低下を達成する。そのため、溝部51を浅くて良く、レーザ光のエネルギー投射量を少なくできる。従って、絶縁コーティング層32を膨出させずに平坦に維持できる。
【0043】
尚、平均粒径が10μm以下の金属粒子52が発生するようにレーザ光の出力を下げ、レーザ光の走査速度を上げると、レーザによって溶融したレーザ照射部分に金属粒子52取り込まれず、また金属粒子52は容易に舞い上がり、絶縁コーティング層32に付着する。換言すれば、平均粒径が10μm以下の金属粒子52が発生するようにレーザ光の出力を下げ、レーザ光の走査速度を上げると、絶縁コーティング層32の膨張を抑制できる。
【0044】
金属粒子52を舞い上がらせるビームプロファイル例を示す。実施例1のコンデンサ1は、アルミ番手がA1100のアルミニウム製である外装ケース3を有する。絶縁コーティング層32は、ポリエチレンテレフタレートであり、樹脂厚が8μmである。レーザ光を照射する装置は、1064nmの波長のYVO4レーザ装置を用いた。レーザ光の走査速度は、金属粒子52が舞い上がるように2200mm/secとした。また、発生する金属粒子52の平均粒径が10μm以下になるように、溝部51の深さを10μmに定めてレーザ光の出力を調整した。
【0045】
この実施例1に対し、比較例1のコンデンサを作製した。外装ケース3の素材、絶縁コーティング層32の素材及び樹脂厚、及びレーザ光を照射する装置は同じである。但し、走査速度は、金属粒子52が舞い上がらないように、実施例1の走査速度の10分の1以下である200mm/secに落とした。表示を形作る溝の深さは、実施例1の5倍となる50μmとなるように、レーザ光の出力を調整した。
【0046】
図5の(a)は、比較例1の絶縁コーティング層32を剥がす前に撮影した写真であり、(b)は比較例1の絶縁コーティング層32を剥がした後に撮影した写真であり、(c)は実施例1の絶縁コーティング層32を剥がす前に撮影した写真であり、(d)は実施例1の絶縁コーティング層32を剥がした後に撮影した写真である。
【0047】
図5に示すように、比較例1の絶縁コーティング層32の剥離前後における表示の明暗差よりも、実施例1の絶縁コーティング層32の剥離前後では、表示5の明暗差が大きいことがわかる。この事実は、実施例1において、絶縁コーティング層32の剥離により金属粒子52が無くなり、金属粒子52による識別性の恩恵が受けられなくなったことを示す。一方、比較例1においては、絶縁コーティング層32に対する金属粒子52の付着が無いか又は少ないので、もとより金属粒子52の恩恵はなく、識別性があまり変わらなかったことを示す。
【0048】
実施例1と比較例1の違いは、レーザ光の出力とレーザ光の走査速度である。レーザ光の走査速度を上げることによって、溝部51の形成時に発生する金属粒子52を舞い上がらせ、絶縁コーティング層32に付着させられることが確認された。また、レーザ出力を下げて金属粒子52を小径化することで、レーザ光の走査速度を実効的な範囲で上げるだけで、金属粒子52を容易に舞い上げることができることが確認された。
【0049】
以上のように、コンデンサ1は、金属製の外装ケース3を絶縁コーティング層32で覆いつつ、絶縁コーティング層32で開口が覆われた溝部51を外装ケース3の外表面に形成した。そして、このコンデンサ1は、絶縁コーティング層32の溝部51側の面に付着する金属粒子52を備えるようにした。
【0050】
例えば、このコンデンサ1は、金属製の外装ケース3を絶縁コーティング層32で覆いつつ、外装ケース3の外表面に設けられ、表示5を形作る溝部51を備えるようにした。溝部51は、絶縁コーティング層32で開口を塞がれて閉空間を有する。この閉空間には、絶縁コーティング層32の閉空間側の面に付着する金属粒子52を備えるようにした。
【0051】
これにより、絶縁コーティング層32に付着する金属粒子52と溝部51の内表面との間で光の反射を繰り返させ、光の吸収、散乱及び減衰により光量を減らすことができる。そのため、レーザ切削部51を浅くでき、レーザ光のエネルギー投射量を少なく出来るから、溝部51の内部圧力が上がらず、絶縁コーティング層32の膨出を抑制できる。従って、絶縁コーティング層32が外部構造物等に引っ掛かって破れる虞が低下し、金属粒子52の実装回路への脱落に伴うショートを阻止できる。
【0052】
そして、絶縁コーティング層32によって覆われて表示5が露出せず、表示5の腐食や変色が抑制され、良好な見栄えを維持できる。また、表示5が露出せず、表示5の腐食や変色が抑制され、機械的な読み取りが容易となり、コンデンサ1の検査効率が向上する。
【0053】
尚、溝部51内の閉空間とは、金属粒子52を閉じ込めておくことができればよく、金属粒子52が絶縁コーティング層32の外に排出されない程度の大きさの穴や割れが生じてもよい。
【0054】
また、このコンデンサ1の製造方法としては、外装ケース3の外表面に対して、絶縁コーティング層32を透過するレーザ光を外装ケース3の外表面に向けて照射し、表示5を形作る溝部51を形成するマーキング工程を含むようにした。このマーキング工程では、溝部51内に発生する金属粒子52を舞い上がらせて、絶縁コーティング層32の溝部51へ向く面に付着させるようにした。これにより、簡便に、金属粒子52の脱落によるショートの阻止と、表示5の腐食や変色の抑制が達成できる。
【0055】
また、マーキング工程では、レーザ光の走査速度によって金属粒子52を舞い上がらせるようにした。これにより、レーザ光によって表示5を形成する工程を増減させることなく簡便に、金属粒子52の脱落によるショートの阻止と、表示5の腐食や変色の抑制が達成できる。また、平均粒径が10μm以下の金属粒子52を発生させるようにした。これにより、レーザ光の走査速度を上げれば簡単に金属粒子52が舞い上がり、レーザ光によって表示5を形成する工程を増減させることなく更に簡便に、金属粒子52の脱落によるショートの阻止と、表示5の腐食や変色の抑制が達成できる。
【0056】
以上のように、電子部品の例としてコンデンサ1を説明したが、これに限られない。金属製の外装ケース3を有し、外装ケース3の外表面に設けられた溝部51で形作られる表示5を備える電子部品であれば、金属粒子52の脱落によるショートの阻止と、表示5の腐食や変色の抑制を簡便な方法で達成できる。このような電子部品としては、金属製の外装ケース3を有するものであれば、何れでも適用でき、コンデンサ1の他、キャパシタ、電池、コイル、トランス等が挙げられる。
【符号の説明】
【0057】
1 コンデンサ
2 素子
3 外装ケース
31 底面
32 絶縁コーティング層
4 リード端子
5 表示
51 溝部
52 スパッタ粒子
6 封口体