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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-23
(45)【発行日】2025-01-07
(54)【発明の名称】調整範囲の記録方法及び施工方法
(51)【国際特許分類】
   E04F 13/08 20060101AFI20241224BHJP
【FI】
E04F13/08 101Z
E04F13/08 102Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020127743
(22)【出願日】2020-07-28
(65)【公開番号】P2022024910
(43)【公開日】2022-02-09
【審査請求日】2023-06-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福田 一夫
(72)【発明者】
【氏名】長友 利江
(72)【発明者】
【氏名】新岡 健司
(72)【発明者】
【氏名】岩田 寿美子
(72)【発明者】
【氏名】石井 伸明
(72)【発明者】
【氏名】小川 晴果
(72)【発明者】
【氏名】高橋 晃一郎
(72)【発明者】
【氏名】奥田 章子
(72)【発明者】
【氏名】水上 卓也
【審査官】五十幡 直子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-197692(JP,A)
【文献】特開2003-214829(JP,A)
【文献】特開2001-187861(JP,A)
【文献】特開平08-284427(JP,A)
【文献】特開2018-197998(JP,A)
【文献】特開2012-214789(JP,A)
【文献】特開2019-085439(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04F 13/08,13/14
E04G 23/02
G01B 11/00-11/30
G01T 1/00,7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下地の調整範囲を抽出するための材料が使用されたコンクリートの壁面を、撮影装置を用いて撮影する撮影ステップと、
前記壁面の立面図の画像を表示装置に表示する表示ステップと、
前記立面図の画像の上に前記撮影装置で撮影した前記壁面の画像を割り付ける割り付けステップと、
前記撮影装置で撮影した前記壁面の画像から前記材料が使用される領域を識別し、識別した前記領域に基づいて前記壁面の調整範囲を記録する記録ステップと
を行う調整範囲の記録方法であって、
前記調整範囲は、下地調整塗材が塗布された箇所と、下地調整塗材が塗布されることになる箇所とを含み、
前記記録ステップにおいて、前記下地と前記下地調整塗材との彩度の差に基づいて前記画像のデータの2値化処理を行うことによって、前記下地調整塗材の色を示す前記調整範囲を抽出することを特徴とする調整範囲の記録方法
【請求項2】
請求項1に記載の調整範囲の記録方法であって、
前記撮影装置は、360度カメラであることを特徴とする調整範囲の記録方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の調整範囲の記録方法であって、
前記記録ステップにおいて、前記立面図の画像の上に前記調整範囲の画像を割り付けた記録図を記録することを特徴とする調整範囲の記録方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載の調整範囲の記録方法であって、
前記記録ステップにおいて、前記調整範囲の面積を算出することを特徴とする調整範囲の記録方法。
【請求項5】
請求項4に記載の調整範囲の記録方法であって、
前記記録ステップにおいて、前記立面図における基準長さを設定し、前記基準長さと、前記立面図の画像に割り付けられた前記壁面の画像の縮尺率と、前記壁面の画像における前記調整範囲に相当する領域のピクセル数とに基づいて、前記調整範囲の面積を算出する
ことを特徴とする調整範囲の記録方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の調整範囲の記録方法であって、
前記材料は、有彩色の着色顔料を含有する有機系の下地調整塗材であって、
前記調整範囲は、下地調整塗材が塗布された箇所であって、
前記記録ステップにおいて、前記撮影装置で撮影した前記壁面の画像から前記下地調整塗材の塗布された領域を抽出することで前記調整範囲とする
ことを特徴とする調整範囲の記録方法。
【請求項7】
請求項1~5のいずれかに記載の調整範囲の記録方法であって、
前記材料は、前記壁面の調整すべき箇所を囲うように前記壁面に貼る有彩色のテープであって、
前記調整範囲は、下地調整塗材が塗布されることになる箇所であって、
前記記録ステップにおいて、前記撮影装置で撮影した前記壁面の画像から前記テープの領域を識別し、前記テープの領域に囲まれた領域を前記調整範囲とする
ことを特徴とする調整範囲の記録方法。
【請求項8】
下地の調整範囲を抽出する調整のための材料を使用してコンクリートの壁面の下地を調整する下地調整ステップと、
前記下地調整ステップの後、前記壁面にタイルを張るタイル張りステップと
を行い、
前記下地調整ステップにおいて、
撮影装置を用いて前記壁面を撮影する撮影ステップと、
前記壁面の立面図の画像を表示装置に表示する表示ステップと、
前記立面図の画像の上に前記撮影装置で撮影した前記壁面の画像を割り付ける割り付けステップと、
前記撮影装置で撮影した前記壁面の画像から前記材料が使用される領域を識別し、識別した前記領域に基づいて前記壁面の調整範囲を記録する記録ステップと
を行う施工方法であって、
前記調整範囲は、下地調整塗材が塗布された箇所と、下地調整塗材が塗布されることになる箇所とを含み、
前記記録ステップにおいて、前記下地と前記下地調整塗材との彩度の差に基づいて前記画像のデータの2値化処理を行うことによって、前記下地調整塗材の色を示す前記調整範囲を抽出することを特徴とする施工方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、調整範囲の記録方法及び施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば外壁タイル張り工事の際に、施工記録を作成し、保管することが行われている。また、施工記録として、下地となるコンクリートに下地調整塗材を塗布した調整範囲(補修範囲とも呼ばれる)を記録することが行われている。従来では、作業者が調整箇所を目視観察しながら手書きによるスケッチを行い、若しくは、作業者が調整箇所を写真撮影し、その後、スケッチや写真に基づいて調整箇所の位置や範囲の記録が行われていた。
【0003】
調整箇所の位置や範囲の記録に関連して、特許文献1には、外壁タイルの診断結果を記録する際に、作業者による診断結果情報(例えばチョークで記載した判別記号)が記録された壁面画像を撮影し、撮影した壁面画像を解析することによって、診断結果情報の位置を記録することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-134470号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1によれば、診断員が壁面における診断対象部の診断を行う際においては、診断員の作業負荷の低減を図ることが可能である。しかし、例えば診断に基づいて調整した調整範囲を記録する際には、依然として、作業者が調整箇所のスケッチや写真撮影をし、立面図上に調整箇所の位置や範囲を手作業で記録する必要があった。このため、調整範囲を記録する際の作業負荷の低減を図ることが要望されていた。
【0006】
本発明の幾つかの実施形態は、構造物の外壁の調整範囲を記録する際の作業負荷を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の幾つかの実施形態は、下地の調整範囲を抽出するための材料が使用されたコンクリートの壁面を、撮影装置を用いて撮影する撮影ステップと、前記壁面の立面図の画像を表示装置に表示する表示ステップと、前記立面図の画像の上に前記撮影装置で撮影した前記壁面の画像を割り付ける割り付けステップと、前記撮影装置で撮影した前記壁面の画像から前記材料が使用される領域を識別し、識別した前記領域に基づいて前記壁面の調整範囲を記録する記録ステップとを行う調整範囲の記録方法であって、前記調整範囲は、下地調整塗材が塗布された箇所と、下地調整塗材が塗布されることになる箇所とを含み、前記記録ステップにおいて、前記下地と前記下地調整塗材との彩度の差に基づいて前記画像のデータの2値化処理を行うことによって、前記下地調整塗材の色を示す前記調整範囲を抽出することを特徴とする調整範囲の記録方法である。
【0008】
本発明の他の特徴については、後述する明細書及び図面の記載により明らかにする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の幾つかの実施形態によれば、構造物の外壁の調整範囲を記録する際の作業負荷を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、第1実施形態の外壁タイル張りの施工方法のフロー図である。
図2図2は、第1実施形態の調整記録システム100のハードウェア構成の説明図である。
図3図3A及び図3Bは、第1実施形態の調整記録システム100を構成する撮影装置1の斜視図である。
図4図4は、第1実施形態の調整記録システム100を構成する調整記録装置10の機能ブロック図である。
図5図5は、第1実施形態の調整範囲の記録方法のフロー図である。
図6図6A及び図6Bは、壁面3を撮影する様子の説明図である。
図7図7は、表示装置13に表示された立面図の画像の説明図である。
図8図8は、S106の加工画像の割り付け処理のフロー図である。
図9図9は、立面図の画像上に重ね合わせた加工画像の大きさ及び位置を調整する様子の説明図である。
図10図10は、S107の調整範囲の記録処理のフロー図である。
図11図11Aは、第1実施形態の有機系下地調整塗材を下地に塗布した様子の説明図である。図11Bは、下地と同系色の有機系下地調整塗材を下地に塗布した様子の説明図である。図11Cは、図11Aの壁面を撮影した画像を2値化処理した説明図である。
図12図12は、立面図の画像上に調整範囲の画像を割り付けた様子の説明図である。
図13図13は、施工対象の全ての壁面3に対して調整範囲の画像を割り付けた様子の説明図であり、調整範囲の記録図の説明図である。
図14図14A及び図14Bは、第1実施形態の調整範囲の記録方法と比較例の調整範囲の記録方法との作業時間の比較を示す図である。
図15図15は、調整範囲の面積を算出する面積算出処理のフロー図である。
図16図16は、立面図上の基準長さLを設定する様子の説明図である。
図17図17は、調整範囲の記録図の別の例の説明図である。
図18図18は、第2実施形態の調整範囲の記録方法のフロー図である。
図19図19Aは、本実施形態の養生テープで調整範囲を囲った様子の説明図である。図19Bは、下地と同系色の養生テープで調整範囲を囲った様子の説明図である。図19Cは、図19Aの壁面を撮影した画像を2値化処理した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
後述する明細書及び図面の記載から、少なくとも以下の事項が明らかとなる。
【0012】
下地の調整のための材料が使用されたコンクリートの壁面を、撮影装置を用いて撮影する撮影ステップと、前記壁面の立面図の画像を表示装置に表示する表示ステップと、前記立面図の画像の上に前記撮影装置で撮影した前記壁面の画像を割り付ける割り付けステップと、前記撮影装置で撮影した前記壁面の画像から前記材料が使用される領域を識別し、識別した前記領域に基づいて前記壁面の調整範囲を記録する記録ステップとを行う調整範囲の記録方法が明らかとなる。このような調整範囲の記録方法によれば、構造物の外壁の調整範囲を記録する際の作業負荷を低減することができる。
【0013】
前記撮影装置は、360度カメラであることが望ましい。これにより、狭い足場においても、広い撮影範囲を確保することができる。
【0014】
前記記録ステップにおいて、前記立面図の画像の上に前記調整範囲の画像を割り付けた記録図を記録することが望ましい。これにより、構造物の外壁の調整範囲を記録する際の作業負荷を低減することができる。
【0015】
前記記録ステップにおいて、前記調整範囲の面積を算出することが望ましい。これにより、構造物の外壁の調整範囲を記録する際の作業負荷を低減することができる。
【0016】
前記記録ステップにおいて、前記立面図における基準長さを設定し、前記基準長さと、前記立面図の画像に割り付けられた前記壁面の画像の縮尺率と、前記壁面の画像における前記調整範囲に相当する領域のピクセル数とに基づいて、前記調整範囲の面積を算出することが望ましい。これにより、構造物の外壁の調整範囲を記録する際の作業負荷を低減することができる。
【0017】
前記材料は、有彩色の着色顔料を含有する有機系の下地調整塗材であって、前記記録ステップにおいて、前記撮影装置で撮影した前記壁面の画像から前記下地調整塗材の塗布された領域を抽出することで前記調整範囲とすることが望ましい。これにより、調整範囲の記録の精度を高めることができる。
【0018】
前記調整作業ステップにおいて、前記材料は、前記壁面の調整すべき箇所を囲うように前記壁面に貼る有彩色のテープであって、前記記録ステップにおいて、前記撮影装置で撮影した前記壁面の画像から前記テープの領域を識別し、前記テープの領域に囲まれた領域を前記調整範囲とすることが望ましい。これにより、調整範囲の記録の精度を高めることができる。
【0019】
下地の調整のための材料を使用してコンクリートの壁面の下地を調整する下地調整ステップと、前記下地調整ステップの後、前記壁面にタイルを張るタイル張りステップとを行い、前記下地調整ステップにおいて、撮影装置を用いて前記壁面を撮影する撮影ステップと、前記壁面の立面図の画像を表示装置に表示する表示ステップと、前記立面図の画像の上に前記撮影装置で撮影した前記壁面の画像を割り付ける割り付けステップと、前記撮影装置で撮影した前記壁面の画像から前記材料が使用される領域を識別し、識別した前記領域に基づいて前記壁面の調整範囲を記録する記録ステップとを行う施工方法が明らかとなる。このような施工方法によれば、構造物の外壁の調整範囲を記録する際の作業負荷を低減することができる。
【0020】
===第1実施形態===
<外壁タイル張りの施工方法>
図1は、第1実施形態の外壁タイル張りの施工方法のフロー図である。
【0021】
まず、下地となるコンクリートの壁面の確認が行われる(S001)。この確認作業において、下地の表面状態が確認され、下地の調整が必要な箇所(調整すべき領域)が特定されることになる。また、必要に応じて、下地の表面に対して、清掃などの前処理が行われる。
【0022】
次に、下地の調整すべき領域に下地の調整が行われる(S002)。以下の説明では、下地を調整する範囲のことを「調整範囲」と呼ぶことがある。なお、「調整範囲」には、下地調整塗材が塗布された箇所(特に第1実施形態参照)と、下地調整塗材が塗布されることになる箇所(特に第2実施形態参照)との両方が含まれる。なお、下地の調整は「補修」と呼ばれることがあり、「調整範囲」は「補修範囲」と呼ばれることもある。本実施形態では、下地の調整が行われる(S002)際に、調整範囲の記録が行われる。調整範囲の記録方法については、後述する。
【0023】
下地の調整後(S002)、コンクリート壁面にタイル張りが行われる(S003)。また、本実施形態では、タイル張り後、目地詰めが行われる(S004)。目地詰めでは、タイルとタイルの隙間に目地材を詰める作業が行われる。
【0024】
<調整範囲の記録方法>
・調整記録システム100
図2は、第1実施形態の調整記録システム100のハードウェア構成の説明図である。以下では、前述の調整範囲の記録(下地の調整:S002)において行われる各処理(後述する図5等の各種処理)を実現するために用いられる調整記録システム100について説明する。
【0025】
調整記録システム100は、撮影装置1と、調整記録装置10とを有する。
【0026】
撮影装置1は、コンクリートの壁面を撮影するための装置(カメラ)である。本実施形態の撮影装置1は、いわゆる360度カメラである。但し、撮影装置1は、360度カメラに限られるものではなく、例えば魚眼レンズ搭載カメラや、半天球カメラでも良い。
【0027】
調整範囲を記録する際には、狭い足場の上から作業者が壁面を撮影することがある(後述する図6A及び図6Bを参照)。このように狭い足場の上から作業者が壁面を撮影する場合、壁面と撮影装置1との間隔が狭くなる。本実施形態の360度カメラよりも狭い画角のカメラの場合、壁面に対して斜めから撮影することや、足場を横方向に移動しながら多数の撮影をする必要がある。しかし、本実施形態では、撮影装置1として360度カメラを使用することにより、狭い足場においても、広い撮影範囲を確保することができる。これにより、狭い足場においても、壁面に対して正面から撮影することが可能になる。したがって、本実施形態では、撮影装置1として360度カメラを使用することにより、容易に壁面を撮影することができ、構造物の外壁の調整範囲を記録する際の撮影作業における作業負荷を低減することができる。
【0028】
図3A及び図3Bは、第1実施形態の調整記録システム100を構成する撮影装置1の斜視図である。本実施形態の360度カメラ(撮影装置1)は、板状の筐体で構成されている。図3Aは、撮影装置1の筐体の一方の面(表面)を示しており、図3Bは、撮影装置1の筐体の他方の面(裏面)を示している。図3A及び図3Bに示すように、撮影装置1は、表面と裏面の両方に広角のレンズ2が設けられている。これにより、撮影装置1は、上下左右の全方位を一度に撮影できる。但し、撮影装置1は、図3A及び図3Bに示す以外のレンズ2の配置や構成で合っても良い。
【0029】
調整記録装置10は、例えばパーソナルコンピュータやサーバーなどのコンピューターによって構成される。調整記録装置10は、1台のコンピューターで構成されても良いし、複数台のコンピューターで構成されても良い。調整記録装置10(コンピューター)は、CPU11及び記憶装置12を有する。CPU11は、調整記録装置10の制御を司る演算処理装置である。記憶装置12は、RAM等の主記憶装置やハードディスクドライブやSSD(Solid State Drive)等の補助記憶装置である。記憶装置12は、プログラムやデータ等を記憶する。記憶装置12に記憶されているプログラムをCPU11が読み出して実行することにより、後述する各種処理が実行される。調整記録装置10は、表示装置13(例えばディスプレイ)や入力装置14(例えばキーボード、マウス)も備えている。また、調整記録装置10は、通信装置15を備えており、通信装置15を介して撮影装置1から画像データを取得可能である。
【0030】
図4は、第1実施形態の調整記録システム100を構成する調整記録装置10の機能ブロック図である。
【0031】
調整記録装置10は、制御部20と、データ記憶部30とを有する。
【0032】
制御部20は、調整記録装置10が行うべき各種処理の制御を行う。制御部20は、CPU11が記憶装置12に記憶されている制御プログラムを実行して各種制御を行うことによって実現される。制御部20は、画像取得部21と、画像加工部22と、割付処理部23と、調整記録部24とを有する。各機能については、後述する。
【0033】
データ記憶部30は、所定のデータを記憶するための記憶部である。データ記憶部30が記憶する各種データについては、後述する。
【0034】
・調整範囲の記録の手順
図5は、第1実施形態の調整範囲の記録方法のフロー図である。図中の各処理(第1実施形態では、S103~S107の各処理)は、調整記録装置10の記憶装置12に記憶されている調整記録プログラムをCPU11が読み出して実行することにより、実行される。
【0035】
本実施形態の調整範囲の記録方法では、まず、下地の調整すべき領域に下地調整塗材が塗布される(S101)。下地調整塗材の塗布後、作業者が撮影装置1を用いて壁面の撮影を行う(S102)。
【0036】
図6A及び図6Bは、壁面3を撮影する様子の説明図である。図6Aは、壁面3を撮影する様子を作業者の右から左方向に見たときの説明図であり、図6Bは、壁面3を撮影する様子を作業者の上から下方向に見たときの説明図である。
【0037】
図6A及び図6Bに示すように、作業者は、狭い足場の上から壁面3を撮影することになる。例えば足場内の高さ(寸法A)は約1700mmであり、足場内の幅(寸法B)は例えば600mmや900mmである。また、足場と壁面3との距離(寸法C)は500mm以下であり、撮影高さ(寸法D)は800~1500mmであり、壁面3と撮影装置1との距離(寸法E)は、足場内の幅(寸法B)及び足場と壁面3との距離(寸法C)の合計(寸法B+寸法C)以下、若しくは同程度になる。ここでは、作業者は、前述の通り撮影装置1として360度カメラを用いて壁面3を撮影し、1回の撮影で壁面3の少なくとも幅1800mm×高さ1800mmの範囲を撮影可能である。
【0038】
撮影される壁面3には、前述の下地調整塗材の塗布が塗布された調整範囲が含まれている。第1実施形態では、後述するように、このとき撮影された壁面3の画像データに基づいて調整範囲が記録されることになる。
【0039】
また、本実施形態では、作業者は、壁面3に沿って移動しながら連続して壁面3の撮影を複数回行う。なお、壁面3の撮影を複数回行うことには、壁面3に沿って移動しながら動画を撮影することも含まれる。また、作業者は、少なくとも一部の壁面3が重複するように、連続して壁面3の撮影を複数回行う。ここでは、作業者は、壁面3に沿って移動しながら動画を撮影する。動画データには、少なくとも一部の壁面3が重複するように撮影された複数の静止画(フレーム)が含まれている。但し、壁面3の連続撮影は動画撮影に限られず、複数回の静止画の撮影でも良い。撮影装置1によって撮影された壁面3の画像のデータ(画像データ)は、調整記録装置10に取り込まれることになる。
【0040】
前述の壁面3の撮影後(S102)、撮影装置1によって撮影された壁面3の画像データが調整記録装置10に取り込まれる(S103)。調整記録装置10の画像取得部21は、撮影装置1に保存されている画像データを原画像データとしてデータ記憶部30に保存する。原画像データには、複数の静止画が含まれている。また、原画像データに含まれる複数の静止画には、少なくとも一部の壁面3の画像が重複している。
【0041】
次に、調整記録装置10の画像加工部22は、原画像データに対して画像加工処理を施して、1枚の壁面3の画像データ(加工画像データ)を生成する(S104)。具体的には、画像加工部22は、原画像に含まれる複数の静止画のそれぞれに対して歪み補正処理(例えば広角補正フィルター)を施した後、歪み補正された複数の静止画の重複部分を利用して複数の静止画を1枚の画像に結合する結合処理(例えばモザイキング)を行う。これにより、横長の壁面3のパノラマ画像のデータ(加工画像データ)が生成される。以下の説明では、この壁面3のパノラマ画像(加工画像)を、単に「加工画像」と呼ぶことがある。なお、S104の処理では、歪み補正処理の後に結合処理を行うものに限られるものではない。例えば、歪み補正処理と結合処理との順序が逆でも良いし、歪み補正処理と結合処理とが同時に行われても良いし、他の処理(例えばトリミング処理など)が行われても良い。
【0042】
次に、調整記録装置10の割付処理部23は、データ記憶部30に予め記憶されている立面図データを読み出し、立面図の画像を表示装置13に表示する(S105)。図7は、表示装置13に表示された立面図の画像の説明図である。立面図には、壁面の図面の画像が含まれている。
【0043】
次に、割付処理部23は、立面図に加工画像を割り付けるための割付処理を行う(S106)。図8は、S106の加工画像の割り付け処理のフロー図である。加工画像の割付処理は、記憶装置12に記憶されている調整記録プログラムをCPU11が読み出して実行することにより、実行される。
【0044】
加工画像の割付処理では、割付処理部23は、S104で作成した加工画像データを読み出し、加工画像を立面図の画像の上に重ね合わせて表示する(S201)。図9は、立面図の画像上に重ね合わせた加工画像の大きさ及び位置を調整する様子の説明図である。但し、S201の段階では、立面図に示される壁面の大きさ及び位置と、加工画像データにおける壁面3の大きさ及び位置が不一致な状態である。このため、図9に示すように、作業者は、調整記録装置10の入力装置14(例えばマウス)を操作して、表示装置13に表示された立面図上の壁面に対して加工画像を合わせるように、表示装置13に表示されている加工画像の大きさ及び位置を調整する(S202)。言い換えると、割付処理部23は、入力装置14の信号に応じて、加工画像の大きさ及び位置を調整する(S202)。これにより、立面図の画像上の所定の位置に加工画像が割り付けられる。
【0045】
次に、調整範囲の記録処理を行う(S107)。図10は、S107の調整範囲の記録処理のフロー図である。調整範囲の記録処理は、記憶装置12に記憶されている調整記録プログラムをCPU11が読み出して実行することにより、実行される。調整範囲の記録処理では、まず、割付処理部23が調整範囲の抽出処理を行う(S301)。
【0046】
S301の調整範囲の抽出処理では、前述の加工画像から下地の調整のための材料が使用される領域を識別している。本実施形態では、前述の加工画像から下地調整塗材の塗布された領域を抽出している。
【0047】
図11Aは、第1実施形態の有機系下地調整塗材を下地に塗布した様子の説明図である。図11Bは、下地と同系色の有機系下地調整塗材を下地に塗布した様子の説明図である。図11Cは、図11Aの壁面を撮影した画像を2値化処理した説明図である。
【0048】
第1実施形態では、下地調整塗材として、有機系下地調整塗材が用いられる。有機系下地調整塗材は、例えば変成シリコーン樹脂などの樹脂を主成分とする下地調整塗材である。但し、主成分を構成する樹脂は、変成シリコーン樹脂に限られるものではなく、他の樹脂(例えばウレタン樹脂)でも良い。本実施形態の下地調整塗材は、有彩色の着色顔料を含有している。
【0049】
図11Bに示すように、通常の有機系下地調整塗材は、下地となるコンクリートと同系色(灰色又は白色)になるように構成されている。下地となるコンクリートと下地調整塗材とを同系色(灰色)にする理由は、仮にタイルの目地から下地調整塗材が視認されても、下地調整塗材を目立ちにくくさせるためである。このため、通常の有機系下地調整塗材は、下地となるコンクリートと同系色(灰色)になるように、灰色の着色顔料を含有している。但し、下地となるコンクリートと下地調整塗材とを同系色(灰色)にすると、図11Bに示すように、下地(コンクリート)と下地調整塗材との色差が小さくなる。
【0050】
これに対し、第1実施形態の有機系下地調整塗材は、例えば赤色、青色、黄色などの有彩色の着色顔料を含有する。これにより、下地調整塗材を塗布すると、図11Aに示すように、下地と下地調整塗材との間の色差が大きくなる。なお、本実施形態の有機系下地調整塗材は、下地との色差を大きくするために、灰色の着色顔料を含有していない。本実施形態の有機系下地調整塗材が灰色の着色顔料を含有しないことによって、下地調整塗材の彩度を高めることができる。本実施形態では、下地と下地調整塗材との色差が大きくなるため、壁面を撮影した画像に対して2値化処理を施すことによって調整範囲を高精度に抽出可能になる(図11C参照)。
【0051】
ところで、下地の色に対して下地調整塗材の明度(又は輝度)を異ならせても(差を与えても)、下地と下地調整塗材との間の色差を大きくすることが可能である。但し、下地の色に対して下地調整塗材の明度のみが異なる場合、壁面に影(例えば足場の影)が形成されている状況下では、色差に基づいて下地と下地調整塗材とを判別することが難しくなるおそれがある。これに対し、第1実施形態では、下地と下地調整塗材との彩度の差(彩度差)が大きくなる。このため、第1実施形態では、壁面に影(例えば足場の影)が形成されている状況下においても、彩度差によって下地と下地調整塗材との判別が容易になる。そこで、第1実施形態では、下地となるコンクリートの無彩色(灰色)に対して彩度差を大きくさせるため、下地調整塗材に例えば赤色、青色、黄色などの有彩色の着色顔料を含有させている。
【0052】
調整範囲の抽出処理(S301)では、具体的には、割付処理部23は、加工画像において、下地となるコンクリートの色を示す領域と、下地調整塗材の色を示す領域とを分けるように加工画像データに対して2値化処理を行い、下地調整塗材の色を示す領域を抽出する。下地調整塗材の色を示す領域は、下地調整塗材の塗布された領域であり、すなわち、調整範囲に相当する。つまり、割付処理部23は、コンクリートの壁面3の画像から下地調整塗材の塗布された領域を抽出することによって、壁面3の調整範囲を抽出する。なお、割付処理部23は、S301の抽出処理を、S106の加工画像の割付処理の前に行っても良い。但し、本実施形態のように、S106の加工画像の割付処理の後にS301の抽出処理を行うことによって、立面図上に調整範囲を割り付ける作業が容易になる。
【0053】
本実施形態では、下地となるコンクリートは無彩色(灰色)であるのに対し、下地調整塗材は有彩色の着色顔料を含有するため、下地調整塗材の塗布された領域は、例えば赤色、青色、黄色などの有彩色となる。この結果、下地と下地調整塗材との間の色差が大きくなり(図11A参照)、特に彩度差が大きくなる。そこで、本実施形態の割付処理部23は、加工画像データの各ピクセルの彩度を算出し、各ピクセルの彩度と所定の彩度の閾値とを対比することによって、加工画像データの2値化処理を行う。例えば、図11Aの壁面を撮影した画像に対して2値化処理を行うことによって、図11Cに示す2値化画像を生成することができる。図11Cでは、閾値よりも彩度の高いピクセルが黒で示され、閾値よりも彩度の低いピクセルが白で示されている。図11Cに示すように、閾値よりも彩度の高い領域(黒いピクセルで構成された領域)が、下地調整塗材の色を示す領域であり、下地調整塗材の塗布された領域(調整範囲)を示している。なお、2値化処理において、閾値よりも彩度の高いピクセルを白で示し、閾値よりも彩度の低いピクセルを黒で示しても良い。このように、本実施形態では、下地調整塗材の色を示す領域(調整範囲)を高精度に抽出できる。
【0054】
なお、壁面3の画像に影(例えば足場の影)が映り込んだ場合においても、画像データにおける下地と下地調整塗材との間の彩度差は大きい状態で維持される。このため、仮に壁面3の画像に影(例えば足場の影)が映り込んでいても、割付処理部23が彩度差に基づいて加工画像データの2値化処理を行うことによって、下地調整塗材の色を示す領域(調整範囲)を高精度に抽出することができる。
【0055】
なお、S301の抽出処理の際に、AIを用いた画像識別処理を行っても良い。この場合、下地調整塗材を塗布した壁面の画像とその調整範囲とを対応付けた多数のデータを学習データとし、その学習データを用いた機械学習によって、下地調整塗材を塗布した壁面の画像を入力データとし、その調整範囲を出力データとする判定モデルを予め生成する。そして、割付処理部23は、S301の抽出処理の際に、前述の加工画像データを入力データとし、判定モデルに基づいて、加工画像データに対応する調整範囲を求めることになる。このように、割付処理部23は、S301の抽出処理の際に、2値化処理の代わりに、AIを用いた画像識別処理を施すことによって、調整範囲を抽出しても良い。
【0056】
次に、割付処理部23は、図12に示すように、抽出した調整範囲の画像を立面図の画像の上に重ね合わせることによって、立面図の画像上の所定の位置に調整範囲の画像を割り付ける(S302)。立面図上に重ね合わせる調整範囲の画像は、加工画像データ上の調整範囲の画像(2値化処理前のカラー画像)でも良いし、2値化処理後の画像(黒いピクセルで構成された画像)でも良いし、調整範囲を示す領域にハッチングを施した画像でも良い。なお、割付処理部23は、必要に応じて、S201~S202及びS301~S302の処理を繰り返し行う。ここでは、割付処理部23は、1階の壁面3に対してS201~S202及びS301~S302の処理を行った後、他の階の壁面3に対しても同様にS201~S202及びS301~S302の処理を繰り返し行う。これにより、図13に示すように、施工対象の全ての壁面3に対して調整範囲の画像が割り付けられる。
【0057】
最後に、調整記録装置10の調整記録部24は、調整範囲の記録図を生成する(S303)。ここでは、図13に示す図面データ(立面図に調整範囲の画像を割り付けた図面のデータ)を、調整範囲の記録図(補修範囲の記録図)としてデータ記憶部30に保存する。なお、有機系下地調整塗材では塗布面積の報告義務は無いが、調整記録部24は、調整範囲の記録として、次に説明するように調整範囲の面積を記録しても良い。
【0058】
図14A及び図14Bは、第1実施形態の調整範囲の記録方法と比較例の調整範囲の記録方法との作業時間の比較を示す図である。
【0059】
比較例では、作業者が調整箇所を目視観察しながら手書きによるスケッチを行い、さらに、作業者が調整箇所を写真撮影し、スケッチや写真に基づいて調整箇所の位置や範囲の記録が行う。これに対し、本実施形態では、360度カメラ(撮影装置1)を用いて調整箇所を写真撮影し、下地の調整のための材料(第1実施形態では、下地調整塗材)が使用される領域(第1実施形態では、下地調整塗材が塗布された領域)に基づいて壁面の調整範囲を記録する。これにより、比較例における手書きにかかった時間(ここでは、24時間)を削減することができ、また、記録作成にかかった時間(ここでは、46.5時間)も少なくすることができる。すなわち、構造物の外壁の調整範囲を記録する際の作業負荷を低減することができる。
【0060】
図15は、調整範囲の面積を算出する面積算出処理のフロー図である。図16は、立面図上の基準長さLを設定する様子の説明図である。面積算出処理は、記憶装置12に記憶されている調整記録プログラムをCPU11が読み出して実行することにより、実行される。
【0061】
面積算出部24Aは、図16に示すように立面図上における基準長さLを設定する(S401)。立面図には施工対象の各種寸法が予め設定されているので、作業者は、調整記録装置10の入力装置14(例えばマウス)を操作して、立面図に記載の寸法線に従って、基準となる長さ(基準長さ)を設定し、その基準長さに対応する寸法(実際の寸法)を設定する。ここでは、図16に示すように、壁面の水平方向に沿って基準長さLが設定され、その基準長さLに対応する実際の寸法(例えばL=16000mm)が設定される。なお、作業者が入力装置14を操作して基準長さLを設定する代わりに、面積算出部24Aが立面図の画像を解析することによって、基準長さLが設定されてもよい。
【0062】
次に、面積算出部24Aは、立面図に対する加工画像の縮尺率Rを特定する(S402)。具体的には、面積算出部24Aは、立面図に対する加工画像(S202の調整後の加工画像)の縮尺率Rを特定する。
【0063】
次に、面積算出部24Aは、加工画像上の調整範囲の大きさS1を特定する(S403)。例えば、面積算出部24Aは、加工画像上の調整範囲の大きさS1として、加工画像上の調整範囲の領域(加工画像上の下地調整塗材の塗布された領域;図11Cの「彩度の高い領域」)のピクセル数を特定する。
【0064】
次に、面積算出部24Aは、基準長さL、縮尺率R及び大きさS1に基づいて、調整範囲の実際の面積S2を算出する(S404)。具体的には、基準長さL及び縮尺率Rに基づいて加工画像上の1ピクセルに対応する面積(単位:m2又はmm2)が決まるため、面積算出部24Aは、加工画像上の調整範囲の領域のピクセル数(S1)に基づいて、調整範囲の領域の実際の面積S2(単位:m2又はmm2)を算出する。なお、通常、調整範囲は複数存在するため、面積算出部24Aは、それぞれの調整範囲に対して、S403及びS404の処理を繰り返し行う。
【0065】
図17は、調整範囲の記録図の別の例の説明図である。調整記録部24は、それぞれの調整範囲に対して識別番号を付与するとともに、それぞれの調整範囲の面積を対応付けて記録する。なお、調整記録部24は、加工画像上の調整範囲に対して例えばラベリング処理を施すことによって、それぞれの調整範囲に対して識別番号を付与することができる。調整記録部24は、調整範囲の記録として、図17に示すように調整範囲の面積を記録しても良い。
【0066】
===第2実施形態===
<外壁タイル張りの施工方法>
図18は、第2実施形態の調整範囲の記録方法のフロー図である。
【0067】
第2実施形態では、図1に示す下地の調整(S002)について、第1実施形態とは異なる調整範囲の記録が行われる。なお、下地の調整(S002)以外については、図1に示す外壁タイル張りの手順と同様である。
【0068】
第2実施形態の調整範囲の記録では、まず、作業者は、調整範囲を囲むように養生テープを下地に貼りつける(S501)。
【0069】
図19Aは、本実施形態の養生テープで調整範囲を囲った様子の説明図である。図19Bは、下地と同系色の養生テープで調整範囲を囲った様子の説明図である。
【0070】
図19Bに示すように、透明な養生テープ(又は白色の養生テープ)の場合、養生テープは、下地となるコンクリートと同系色(灰色;無彩色)になる。但し、養生テープが下地となるコンクリートと同系色(灰色)な場合、図19Bに示すように、下地(コンクリート)と養生テープとの色差が小さくなる。
【0071】
これに対し、第2実施形態の養生テープは、例えば緑色や黄色などの有彩色のテープで構成されている。すなわち、第2実施形態の養生テープは、基材と粘着材から構成されており、基材は緑色や黄色などの有彩色の部材で構成されている。これにより、図19Aに示すように、下地と養生テープとの間の色差が大きくなる。第2実施形態では、下地と養生テープとの色差が大きいため、壁面を撮影した画像に対して2値化処理を施すことによって調整範囲を高精度に抽出可能になる(後述:図19C参照)。
【0072】
ところで、下地の色に対して養生テープの明度(又は輝度)を異ならせても(差を与えても)、下地と養生テープとの間の色差を大きくすることが可能である。但し、下地の色に対して養生テープの明度のみが異なる場合、壁面に影(例えば足場の影)が形成されている状況下では、色差に基づいて下地と養生テープとを判別することが難しくなるおそれがある。これに対し、第2実施形態では、下地と養生テープとの彩度の差(彩度差)が大きくなる。このため、第2実施形態では、壁面に影(例えば足場の影)が形成されている状況下においても、彩度差によって下地と養生テープとの判別が容易になる。そこで、第2実施形態では、下地となるコンクリートの無彩色(灰色)に対して彩度差を大きくさせるため、例えば緑色や黄色などの有彩色の養生テープが用いられている。
【0073】
調整範囲を養生テープで囲った後(S501)、作業者が撮影装置1(例えばカメラ)を用いて壁面の撮影を行う(S502)。このS502の撮影処理は、第1実施形態のS102と同様である(図5参照)。但し、第2実施形態の場合、撮影される壁面3には、前述の養生テープで囲われた調整範囲が含まれている。第2実施形態では、調整範囲に下地調整材が塗布される前に壁面3の撮影が行われ、このとき撮影された壁面3の画像データに基づいて調整範囲が記録されることになる。
【0074】
第2実施形態の調整記録システム100の構成は、第1実施形態と同様である(図2図4参照)。また、第2実施形態においても、第1実施形態と同様に、調整記録装置10は、記憶装置12に記憶されている調整記録プログラムをCPU11が読み出して実行することにより、図中の各処理(第2実施形態では、S503~S507の各処理)を実行する。また、第2実施形態においても、第1実施形態と同様に、S506の割付処理やS507の調整範囲の記録処理の際に、調整記録装置10は、図8図10に示す各処理を実行する。
【0075】
第2実施形態においても、第1実施形態と同様に、撮影装置1によって撮影された壁面3の画像データが調整記録装置10に取り込まれ(S503)、原画像データに対して画像加工処理を施して、1枚の壁面3の画像データ(加工画像データ)を生成し(S504)、データ記憶部30に予め記憶されている立面図データを読み出し、立面図の画像を表示装置13に表示する(S505)。また、第2実施形態においても、第1実施形態と同様に、立面図に加工画像を割り付けるための割付処理を行う(S506)。
【0076】
第2実施形態においても、割付処理部23は、調整範囲の記録処理を行うことになる(S507)。S507の調整範囲の記録処理では、第1実施形態のS301と同様に、割付処理部23が調整範囲の抽出処理を行う。第2実施形態の調整範囲の抽出処理では、加工画像から下地の調整のための材料が使用される領域を識別している。本実施形態では、前述の加工画像から養生テープの貼付された領域を識別している。そして、養生テープの貼付された領域に基づいて、壁面3の調整範囲として抽出している。
【0077】
第2実施形態では、割付処理部23は、加工画像データの示す画像において、下地となるコンクリートの色を示す領域と、養生テープの色を示す領域とを分けるように加工画像データに対して2値化処理を行い、養生テープの色を示す領域を抽出する。養生テープの色を示す領域は、養生テープの貼付された領域である。このため、養生テープの色を示す領域に囲まれた領域(養生テープの色を示す領域よりも内側の領域;図19Cの「彩度の高い領域」の内側の「彩度の低い領域」)は、調整範囲に相当する。そこで、割付処理部23は、コンクリートの壁面3の画像から養生テープの色を示す領域を識別し、養生テープの色を示す領域に囲まれた領域を、壁面3の調整範囲として抽出する。なお、第2実施形態においても、第1実施形態と同様に、割付処理部23は、抽出処理を、S506の加工画像の割付処理の前に行っても良い。
【0078】
第2実施形態では、下地となるコンクリートは無彩色(灰色)であるのに対し、養生テープは、例えば赤色、青色、黄色などの有彩色となる。この結果、下地と養生テープとの間の色差が大きくなり(図19A参照)、特に彩度差が大きくなる。そこで、第2実施形態の割付処理部23は、加工画像データの各ピクセルの彩度を算出し、各ピクセルの彩度と所定の彩度の閾値とを対比することによって、加工画像データの2値化処理を行う。例えば、図19Aの壁面を撮影した画像に対して2値化処理を行うことによって、図19Cに示す2値化画像を生成することができる。図19Cでは、閾値よりも彩度の高いピクセルが黒で示され、閾値よりも彩度の低いピクセルが白で示されている。図19Cに示すように、閾値よりも彩度の高い領域(黒いピクセルで構成された領域)は、養生テープの色を示す領域であり、その領域よりも内側の領域(白いピクセルで構成された領域)は調整範囲を示している。なお、2値化処理において、閾値よりも彩度の高いピクセルを白で示し、閾値よりも彩度の低いピクセルを黒で示しても良い。このように、第2実施形態では、調整範囲を高精度に抽出できる。
【0079】
なお、第2実施形態においても、壁面3の画像に影(例えば足場の影)が映り込んだ場合であっても、画像データにおける下地と養生テープとの間の彩度差は大きい状態で維持される。このため、仮に壁面3の画像に影(例えば足場の影)が映り込んでいても、割付処理部23が彩度差に基づいて加工画像データの2値化処理を行うことによって、養生テープの色を示す領域を精度よく判別でき、この結果、調整範囲を高精度に抽出することができる。
【0080】
ところで、壁面3に下地調整塗材を塗布した後、下地調整塗材の塗布された壁面3を撮影し、撮影された画像を解析して、下地となるコンクリートの色を示す領域と、下地調整塗材の色を示す領域とを分けるように加工画像データに対して2値化処理を行うことによって、調整範囲を抽出することも考えられる。但し、第2実施形態のように、セメント系下地調整塗材が用いられる場合、コンクリートと下地調整塗材との色差が小さいため、下地となるコンクリートの色を示す領域と、下地調整塗材の色を示す領域とを分けるように2値化処理を行うことが難しくなり、この結果、調整範囲を誤認識するおそれがある。これに対し、第2実施形態では、養生テープを有彩色で構成し、下地と養生テープとの色差(特に彩度差)を大きくさせることによって、養生テープの色を示す領域を精度よく識別できるため、調整範囲を高精度に抽出可能になる。
【0081】
第2実施形態においても、割付処理部23は、図12に示すように、抽出した調整範囲の画像を立面図の画像の上に重ね合わせることによって、立面図の画像上の所定の位置に調整範囲の画像を割り付ける。また、第2実施形態においても、割付処理部23は、必要に応じて、S201~S202及びS301~S302の処理を繰り返し行う。これにより、第2実施形態においても、図12に示すように、施工対象の全ての壁面3に対して調整範囲の画像が割り付けられる。
【0082】
第2実施形態においても、抽出処理の後、調整記録装置10の調整記録部24は、調整範囲の記録図を生成する。そして、下地の調整すべき領域に下地調整塗材が塗布される(S508)。
【0083】
本実施形態でも、第1実施形態と同様に、360度カメラ(撮影装置1)を用いて調整箇所を写真撮影し、下地の調整のための材料(第1実施形態では、下地調整塗材)が使用される領域(第2実施形態では、養生テープの貼付された領域)に基づいて壁面の調整範囲を記録する。これにより、前述の比較例における手書きにかかった時間を削減することができ、また、記録作成にかかった時間も少なくすることができる。すなわち、構造物の外壁の調整範囲を記録する際の作業負荷を低減することができる。
【0084】
また、第2実施形態においても、第1実施形態と同様に、調整記録部24は、調整範囲の記録として、調整範囲の面積を記録しても良い(図15図17参照)。なお、前述の第1実施形態では、面積算出部24Aは、加工画像上の調整範囲の大きさS1として、加工画像上の調整範囲の領域(加工画像上の下地調整塗材の塗布された領域;図2Cの「彩度の高い領域」)のピクセル数を特定していた(S403)。これに対し、第2実施形態では、面積算出部24Aは、S403の処理の際に、加工画像上の調整範囲の大きさS1として、加工画像上の調整範囲の領域(加工画像上の養生テープの領域に囲まれた領域;図19Cの「彩度の高い領域」の内側の「彩度の低い領域」)のピクセル数を特定すると良い。そして、第2実施形態においても、第1実施形態と同様に、面積算出部24Aは、S403の処理の際に、基準長さL、縮尺率R及び大きさS1に基づいて、調整範囲の実際の面積S2を算出すると良い。
【0085】
===小括===
上記の実施形態(第1~第2実施形態)では、下地の調整のための材料(例えば有機系下地調整塗材や養生テープなど)が使用されたコンクリートの壁面3を、撮影装置1(例えば360度カメラ)を用いて撮影する撮影ステップ(S102、S502)と、壁面3の立面図の画像を表示装置13に表示する表示ステップ(S105、S505)と、立面図の画像の上に撮影装置1で撮影した壁面3の画像を割り付ける割り付けステップ(S106、S506)と、撮影装置1で撮影した壁面の画像から材料が使用される領域(例えば、下地調整塗材が塗布された領域や養生テープの貼付された領域)を識別し、識別した領域に基づいて壁面3の調整範囲を記録する記録ステップ(S107、S507)とを行う。上記の実施形態では、構造物の外壁の調整範囲を記録する際において、手書きにかかった時間を削減することができる。また、構造物の外壁の調整範囲を記録する際において、記録作成にかかった時間も少なくすることができる。すなわち、構造物の外壁の調整範囲を記録する際の作業負荷を低減することができる。
【0086】
===その他===
前述の実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更・改良され得ると共に、本発明には、その等価物が含まれることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0087】
1 撮影装置、2 レンズ、3 壁面、
10 補修記録装置、11 CPU、12 記憶装置、
13 表示装置、14 入力装置、15 通信装置、
20 制御部、21 画像取得部、22 画像加工部、
23 割付処理部、24 補修記録部、24A 面積算出部、
30 データ記憶部、100 補修記録システム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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