(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-23
(45)【発行日】2025-01-07
(54)【発明の名称】作業方法及び泡状体製造装置
(51)【国際特許分類】
B23K 9/32 20060101AFI20241224BHJP
A62C 13/70 20060101ALN20241224BHJP
【FI】
B23K9/32 E
A62C13/70
(21)【出願番号】P 2020139461
(22)【出願日】2020-08-20
【審査請求日】2023-07-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 和哉
【審査官】杉田 隼一
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-256641(JP,A)
【文献】特開平11-170053(JP,A)
【文献】特開平07-155390(JP,A)
【文献】特表2016-533040(JP,A)
【文献】特開昭52-144196(JP,A)
【文献】特開2001-178839(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/32
A62C 13/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発火性物が発生する加工の作業方法であって、
界面活性剤を水に混合した溶液を収容するタンクと、前記収容した溶液の液水位より低い位置で、前記溶液に空気を供給する空気供給部と、前記液水位よりも高い位置で、前記タンク内の泡状体を吐出する吐出部とを備え、前記空気供給部は、ハンドル部の上下方向の動きに応じて外部から取り入れた空気を圧送する空気圧送機と、この空気圧送機から前記空気が供給され前記溶液中に配置された気泡発生部とを有した泡状体製造装置において、前記ハンドル部を上下方向に動かすことにより取り入れた空気によって、前記吐出部から吐出される泡状体を生成し、
前記生成した泡状体を、前記発火性物の飛散方向
に敷設して、前記加工を行なうことを特徴とする作業方法。
【請求項2】
泡状体を製造する泡状体製造装置であって、
界面活性剤を水に混合した溶液を収容するタンクと、
前記収容した溶液の液水位より低い位置
に設けられ多孔質体で構成された部材から、前記溶液に空気を供給する空気供給部と、
前記液水位よりも高い位置で、前記タンク内の泡状体を吐出する吐出部とを備え、
前記泡状体を細かくするための泡細分化部材が、前記吐出部の注入口に充填され、
前記空気供給部は、
ハンドル部の上下方向の動きに応じて外部から取り入れた空気を圧送する空気圧送機と、
この空気圧送機から前記空気が供給され前記溶液中に配置された気泡発生部とを有し、
前記ハンドル部を上下方向に動かすことにより取り入れた空気によって、
前記タンク内において前記泡状体を
生成し、
前記タンク内で生成された泡状体を、前記吐出部
の前記泡細分化
部材を通じて吐出することを特徴とする泡状体製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接や溶断等の発火性物が発生する加工の作業方法及びそれに用いる泡状体を製造する泡状体製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、
図5に示すように、建設現場においては、溶接作業等、火花や火の粉等の発火性物SP1が発生する作業が行われている。この作業で発生した発火性物SP1は、5m~10m飛散し、下の階に飛散することもある。そこで、この作業においては、火災が発生しないように、養生シートや養生装置を用いて、火花の養生が行なわれることがある(特許文献1参照)。特許文献1においては、火花受け部が傘状に開閉する養生装置が記載されている。この養生装置の火花受け部は、火花受け部用の支持部を中心にして棒状のリブが放射状に設けられて全体が凹状構造部となっている。そして、この凹状構造部に耐火シートが設けられ、火花受け部を支持する棒状本体部はその長さが摺接自在な複層構造により伸縮自在であって、棒状本体部の一端部側に吊持用のフック部が設けられ、火花受け部の傘状展開角度が角度調節手段により可変にされてなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の養生装置では、大きさが予め決められているため、広い範囲をカバーするためには、複数個を用いる必要があった。
また、養生シートでは、飛散した発火性物が、想定外の方向に跳ね返ることがある。このため、想定外の場所で発火する可能性があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決する作業方法は、発火性物が発生する加工の作業方法であって、前記発火性物の飛散方向に泡状体を敷設して、前記加工を行なう。
また、上記課題を解決する泡状体製造装置は、泡状体を製造する泡状体製造装置であって、界面活性剤を水に混合した溶液を収容するタンクと、前記収容した溶液の液水位より低い位置で、前記溶液に空気を供給する空気供給部と、前記液水位よりも高い位置で、前記タンク内の泡状体を吐出する吐出部とを備え、前記空気供給部から供給される空気によって、前記泡状体を、生成して前記吐出部から吐出する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、効率的に養生することにより、発火を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】実施形態における溶接作業の作業状態を説明する説明図。
【
図2】実施形態において用いる泡状体を製造する泡状体製造装置の説明図。
【
図3】実施形態における溶接作業の作業手順を説明する流れ図。
【
図4】変更例における溶接作業の作業状態を説明する説明図。
【
図5】従来技術における溶接作業の作業状態を説明する説明図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、
図1~
図3を用いて、作業方法及び泡状体製造装置を具体化した一実施形態を説明する。本実施形態では、火花や火の粉等、可燃物に付着すると発火の恐れがある発火性物が発生する加工作業としての溶接作業の作業方法について説明する。
【0009】
図1に示すように、本実施形態の溶接作業によって火花や火の粉(発火性物SP1)が落ちる床面(地面)に、泡状体fa1を敷き詰めるように置く。この場合、敷き詰めた泡状体fa1によって、10cm程度の高さ(厚み)の連続面を構成するようにする。
【0010】
そして、この泡状体fa1の上方で溶接作業を行なう。この溶接作業で発生した発火性物SP1は、敷き詰められた泡状体fa1に落ちると、泡状体fa1内では、十分な酸素がないため、発火性物SP1の燃焼が抑えられる。更に、泡状体fa1は水分を含んでいるため、泡状体fa1が水になって、発火性物SP1を冷やす。これにより、発火性物SP1が、減速し、飛び散らず、広がらない。なお、同じ箇所の泡状体fa1に発火性物SP1が落ち続けると、その箇所の泡状体fa1が消える。この場合においても、その周囲の泡状体fa1によって、発火性物SP1の燃焼や飛び散りを抑制することができる。
【0011】
次に、上述した溶接作業の具体的な作業手順について説明する。
図3に示すように、防炎用泡状体の敷設を行なう(ステップS1)。具体的には、
図2に示す泡状体製造装置20で製造されバケツ31に貯めた泡状体fa1を、柄杓32等を用いて、床面の上に敷き詰めるように置く。
【0012】
そして、上述したように溶接作業を実施する(ステップS2)。
その後、溶接作業を終了した場合、防炎用泡状体の吸引除去を行なう(ステップS3)。具体的には、掃除機で、残っている泡状体fa1を、吸引することにより除去する。この場合、掃除機は、泡状体fa1とともに、作業で発生したごみ等も一緒に、除去する。
なお、掃除機で吸引した後に残存した泡状体fa1は、時間(例えば24時間)が経過すると液体になり、この液体も、時間経過とともに乾燥する。
【0013】
(泡状体製造装置)
次に、上述した溶接作業において用いられる泡状体fa1を製造する泡状体製造装置の構成について説明する。
【0014】
図2に示す泡状体製造装置20は、タンク21、ノズル22、固定部材24、空気圧送機25、ホース26、供給管27及びエアストーン28を備える。
タンク21は、界面活性剤が混合された水(溶液)を収容する。タンク21として、例えば、容量が20リットルのプラスチック製のタンクを用いる。このタンク21は、例えば、1~2kg程度の重さを有する。
【0015】
タンク21は、2つの注入口21a,21bと取手21hとを備える。注入口21a,21bと取手21hは、タンク21の上部に離間して設けられている。
注入口21aは、タンク21の本体部に対して斜め(約45度)に設けられる。この注入口21aの外周には、ノズル22が嵌合している。更に、注入口21aには、泡状体fa1を細かくするための金属製のたわし23が充填されている。なお、注入口21a及びノズル22が、吐出部を構成する。
【0016】
注入口21bには、固定部材24が着脱可能に取り付けられている。この固定部材24は、注入口21bのキャップ等で構成される。固定部材24を取り外すことにより、注入口21bを介して、タンク21の本体部の内部に、溶液を補充する。
【0017】
固定部材24は、ホース26が接続されている。このホース26は、空気圧送機25に接続されている。空気圧送機25は、例えば、自転車等に空気を入れるポンプを用いることができる。この空気圧送機25は、例えば、1~2kg程度の重さを有し、ハンドル部25hの上下方向の動きに応じて、外部から取り入れた空気をホース26に圧送する。
【0018】
更に、固定部材24には、ホース26と反対側に、供給管27の一端部が固定されている。供給管27の先端部(固定部材24とは反対の他端部)は、タンク21の底部の近傍に位置する。供給管27の先端部には、エアストーン28が設けられている。エアストーン28は、例えば、プラスチック製の多孔質体で構成され、液内において、供給管27からの空気を用いて気泡(バブル)を生成する。なお、本実施形態の空気供給部は、空気圧送機25、ホース26、供給管27及びエアストーン28で構成される。また、固定部材24を注入口21bから取り外すことにより、固定部材24に固定されている供給管27及びエアストーン28を、タンク21内から取り外すことができる。
【0019】
(泡状体の製法)
次に、上述した泡状体製造装置20を用いて、泡状体fa1を製造する方法について説明する。
【0020】
まず、
図2に示すように、泡状体fa1を発生させる溶液SW1を、タンク21内に注入する。具体的には、固定部材24を取り外すことにより、タンク21の注入口21bを開口する。そして、注入口21bから、界面活性剤及び水をタンク21内に注入する。
【0021】
ここで、タンク21内には、界面活性剤を約0.4重量%濃度に水で希釈した溶液SW1を収容する。本実施形態では、界面活性剤として、起泡材レオフォーム(登録商標)OL-10(ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製)を用いる。
【0022】
また、タンク21に収容される溶液SW1の液水位が、注入口21bの下端部よりも下方で、かつ気泡を溶液SW1に供給するエアストーン28よりも上方となる範囲で、追加する溶液SW1の量を調整する。
【0023】
そして、供給管27及びエアストーン28をタンク21内に挿入して、エアストーン28がタンク21の底部に位置するように、固定部材24を注入口21bに固定する。これにより、タンク21の溶液SW1の液水位よりも上方の空間(貯留空間)は、注入口21a及びノズル22を介してのみ開口される。
【0024】
その後、空気圧送機25からホース26、供給管27及びエアストーン28を介して、タンク21の溶液SW1内に、圧縮空気の気泡を供給する。この場合、この気泡が溶液SW1を通過し、空気と溶液SW1との混合体(比較的、気泡が大きい泡)が生成される。そして、この混合体は、気泡を有するため、溶液SW1の上方でタンク21の貯留空間に貯留される。
【0025】
更に、空気圧送機25から空気が圧送されると、タンク21内の圧力が上昇し、混合体が、貯留空間から、注入口21a及びノズル22を介して、外に吐出される。この場合、混合体は、注入口21aのたわし23を通過することにより、気泡が小さくなりきめが細かい泡状体fa1になる。なお、空気圧送機25からの空気の圧送が停止されると、タンク21内の圧力が生じないため、ノズル22からの泡状体fa1は吐出されず、停止される。
【0026】
そして、タンク21のノズル22から吐出された泡状体fa1を、バケツ31に貯蔵する。その後、泡状体fa1は、バケツ31から、床面の上等の必要箇所に、柄杓32を用いて敷き詰められる。
【0027】
(作用)
泡状体fa1を予め敷き詰めた領域の上において溶接作業を行なう。このため、溶接作業によって発生した発火性物SP1が、泡状体fa1に落ちると、泡状体fa1によって囲まれるため、酸素不足になることにより燃焼が抑えられる。更に、発火性物SP1は、泡状体fa1によって冷やされる。
【0028】
本実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)本実施形態では、泡状体fa1を予め面状に敷き詰めた領域の上において、溶接作業を行なう。これにより、溶接作業によって発生した火花や火の粉等の発火性物SP1は、泡状体fa1を通過することにより、燃焼が抑えられるとともに冷やされるため、想定外の箇所に飛散しても、火が燻ぶり難く、発火を抑制することができる。
【0029】
(2)本実施形態では、作業後に残存した泡状体fa1を掃除機で吸引することにより、迅速に泡状体fa1を除去することができる。また、泡状体fa1を放置しておいても液体に戻り、乾燥するので、後工程を効率化できる。
【0030】
(3)本実施形態では、界面活性剤を、約0.4重量%濃度に水で希釈した溶液SW1を用いて泡状体fa1を生成する。このため、水が蒸発することにより界面活性剤が地面等の表面に残存しても、少量であるため、足元が滑り難い。
(4)本実施形態では、泡状体製造装置20を用いて、泡状体fa1を生成する。これにより、簡易な構成で泡状体fa1を建設現場で製造することができる。この場合、空気と溶液との混合体を、タンク21の貯留空間に貯留して、最終的に泡状体fa1を生成する。ここでは、混合体を用いるため、泡状体fa1を生成する部材(たわし23)に、空気の導入路と溶液の導入路を個別に設ける必要がなく、簡易な構成で泡状体を生成することができる。また、泡状体製造装置20全体としても数kgの重さしかないため、軽量である。このため、足場等の狭い場所や高い場所がある建設現場でも、運搬が容易である。更に、固定部材24を、タンク21の注入口21bから取り外すことにより、空気圧送機25をタンク21と分離して持ち運ぶことができる。これにより、いっそう容易に持ち運ぶことができる。
【0031】
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・上記実施形態では、床面の上に、泡状体fa1を敷き詰める。この場合、更に、他の防炎手段(養生シートや養生装置)を併用してもよい。例えば、
図4に示すように、床面の上に、養生シート11を敷設した後、この養生シート11の上に、泡状体fa1を敷き詰めてもよい。この養生シート11は、防炎性がある不燃性材料で構成される。これにより、泡状体fa1を通過した発火性物SP1を養生シート11で受け止めることにより、発火性物SP1の発火を更に抑制することができる。また、複数の養生シートの一部を重ねて、広い範囲を養生する場合には、重なった部分に発火性物SP1が入り込んだとしても、燃焼が抑えられるとともに冷やされるため、火が燻ぶり難い。
更に、下の階に発火性物SP1が飛散するような作業場所においては、下の階に飛散する経路の途中に養生シートを配置し、この養生シートの上に泡状体fa1を敷いてもよい。
【0032】
・上記実施形態では、泡状体fa1を面状に敷き詰める。泡状体fa1は、発火性物の飛散方向に敷設すれば、隙間なく面状に敷き詰めた場合に限られない。例えば、
図4に示すように、中央部に泡状体fa1がなく、かつある程度の高さ(例えば10cm程度)の領域を環状やC形状に(土手状に)敷き詰めてもよい。更に、泡状体fa1を、床面の上や養生シートの上だけに配置する場合に限られず、例えば、壁等や作業対象物等の側面等にも付着させて配置させてもよい。
【0033】
・上記実施形態の泡状体製造装置20は、発火性物SP1が発生する加工の作業において、敷き詰めるために十分な泡状体を迅速に製造することができれば、上記構成に限られない。例えば、建設現場にコンプレッサがある場合には、空気圧送機25の代わりに、空気供給部として、コンプレッサを用いてもよい。この場合、固定部材24に対してホース26を着脱可能にする。そして、固定部材24にコンプレッサを接続してもよい。
また、タンク21は、上記実施形態の大きさに限られず、例えば、更に小さい物を用いてもよい。
【0034】
・上記実施形態では、溶接作業の作業方法について説明した。作業方法は、溶接作業に限られず、発火性物が発生する加工の作業であればよく、例えば、溶断作業等であってもよい。
【0035】
次に、上記実施形態及び別例から把握できる技術的思想について、以下に追記する。
(a)前記泡状体を養生シートの上に敷設することを特徴とする請求項1に記載の作業方法。
(b)前記泡状体を環状に敷設することを特徴とする請求項1又は前記(a)に記載の作業方法。
(c)前記加工の作業後に、吸引機を用いて、前記泡状体を除去することを特徴とする請求項1、前記(a)又は前記(b)に記載の作業方法。
【符号の説明】
【0036】
fa1…泡状体、SP1…発火性物、SW1…溶液、11…養生シート、20…泡状体製造装置、21…タンク、21a,21b…注入口、21h…取手、22…ノズル、23…たわし、24…固定部材、25…空気圧送機、25h…ハンドル部、26…ホース、27…供給管、28…エアストーン、31…バケツ、32…柄杓。