(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-23
(45)【発行日】2025-01-07
(54)【発明の名称】ブリッジ回路
(51)【国際特許分類】
H02M 7/483 20070101AFI20241224BHJP
【FI】
H02M7/483
(21)【出願番号】P 2020168839
(22)【出願日】2020-10-06
【審査請求日】2023-09-13
(31)【優先権主張番号】P 2020043745
(32)【優先日】2020-03-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161562
【氏名又は名称】阪本 朗
(72)【発明者】
【氏名】山田 隆二
(72)【発明者】
【氏名】鳥羽 章夫
【審査官】安池 一貴
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2006/0050537(US,A1)
【文献】特表2018-500872(JP,A)
【文献】特開2019-201473(JP,A)
【文献】特開2014-017957(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0379287(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/483
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電圧部と,
前記直流電圧部の正極と負極の間に直列接続される2つのスイッチ群と,
2つの前記スイッチ群の間に接続される1または複数のコンデンサからなり,
2つの前記スイッチ群同士の接続点を入出力端子とするブリッジ回路であって,
2つの前記スイッチ群は,直列接続された互いに同数のスイッチからなり,
前記コンデンサの両端子は,前記入出力端子に対して対称となる前記スイッチ同士の接続点に各々接続され,
前記各々のスイッチ群を構成するスイッチのスイッチング動作は実質同時に行われ
,
前記1つまたは複数のコンデンサの静電容量は,ブリッジ回路の通常動作で通流する入出力端子からの電流に,スイッチング動作の周期の10%の時間を乗じた値に相当する電荷量の充放電に対する電圧変化が,当該コンデンサの両端電圧が印加されるスイッチの耐圧の10%以下となる値であることを特徴とするブリッジ回路。
【請求項2】
請求項1のブリッジ回路において,
前記コンデンサの両端子が接続されている接続点の内側にある前記スイッチと外側にある前記スイッチとのスイッチング動作のタイミングをずらすことによって,前記コンデンサの電圧を所定値に維持することを特徴とするブリッジ回路。
【請求項3】
請求項2のブリッジ回路において,
前記タイミングの差異は,スイッチング動作の周期の10%以下であることを特徴とするブリッジ回路。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載のブリッジ回路において,
各々の前記スイッチ群において,これを構成するスイッチに1または複数の耐圧の異なるものを含み,
かつ2つの前記スイッチ群において,前記耐圧の異なるスイッチは前記入出力端子について対称に配置されることを特徴とするブリッジ回路。
【請求項5】
直流電圧部と,
前記直流電圧部の正極と負極の間に直列接続される2つのスイッチ群と,
2つの前記スイッチ群の間に接続される1または複数のコンデンサからなり,
2つの前記スイッチ群同士の接続点を入出力端子とするブリッジ回路であって,
2つの前記スイッチ群は,直列接続された互いに同数のスイッチからなり,
前記コンデンサの両端子は,前記入出力端子に対して対称となる前記スイッチ同士の接続点に各々接続され,
前記各々のスイッチ群を構成するスイッチのスイッチング動作は実質同時に行われ
,
更にスイッチ制御部を備え,
前記スイッチ制御部は,
2つのスイッチ群それぞれにおいて,入出力端子について対称の位置にある2つのスイッチの組を相補的にオン,オフ状態とする相補信号生成部と,
各コンデンサの電圧の所定値からの差異に応じて,前記コンデンサの両端に接続される2組の前記スイッチの組のオン,オフのタイミングを補正する信号補正部とを有することを特徴とするブリッジ回路。
【請求項6】
直流電圧部と,
前記直流電圧部の正極と負極の間に直列接続される2つのスイッチ群と,
2つの前記スイッチ群の間に接続される1または複数のコンデンサからなり,
2つの前記スイッチ群同士の接続点を入出力端子とするブリッジ回路であって,
2つの前記スイッチ群は,直列接続された互いに同数のスイッチからなり,
前記コンデンサの両端子は,前記入出力端子に対して対称となる前記スイッチ同士の接続点に各々接続され,
前記各々のスイッチ群を構成するスイッチのスイッチング動作は実質同時に行われ
,
入出力端子には電気的な共振要素を有する電気機器が接続され,
入出力端子の電位を直流電圧部の正極から負極,あるいは負極から正極の電位に移行させる際に,階段状の電位変化を経て,かつ階段状の変化において一段階の持続時間を期間tとし,
期間tを,前記電気機器の端子に生じる振動を抑制する値とすることを特徴とするブリッジ回路。
【請求項7】
請求項5に記載のブリッジ回路において,前記スイッチ制御部は,
入出力端子の電位を直流電圧部の正極から負極,あるいは負極から正極の電位に移行させる際に,階段状の電位変化を経て,かつ階段状の変化において一段階の持続時間を期間tとし,
前記信号補正部から出力される補正値に基づいて前記期間tを補正する中間電圧発生期間付加部を有することを特徴とするブリッジ回路。
【請求項8】
請求項7に示すブリッジ回路において,前記スイッチ制御部は,
電圧指令値と所定周期のキャリア波の比較により各スイッチのオン,オフ信号を生成し,
前記中間電圧発生期間付加部は,前記キャリア波の半周期,1周期,あるいは数周期毎に,前記信号補正部から出力される補正値に基づいて補正された期間tに対応する量を,前記電圧指令値に加減算することを特徴とするブリッジ回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,フライングキャパシタ型電力変換器の特別な構成,および同変換器におけるスイッチのスイッチングの方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インバータなどに用いられる,直流電圧部の両極の間に直列接続された2つのスイッチを主要な構成要素とするブリッジ回路が知られている。ブリッジ回路に用いられる2つのスイッチの耐圧は,いずれも直流電圧部の電圧よりも高くする必要がある。さらに,スイッチング時にはサージ電圧が重畳するため,これも踏まえて耐圧はブリッジ回路の動作中にスイッチの両端に印加される電圧の最大値よりも高くする必要がある。例えば直流電圧部の定常電圧が400Vの場合にはスイッチの耐圧は概ね600V,同800Vの場合には概ね 1200Vが必要となる。単一のスイッチでは耐圧を満たせない場合,複数のスイッチを直列接続したスイッチ群を用いることができる。このような構成は,例えば特許文献1に示されている。
図14はその主要部の構成を示している。
【0003】
すなわち,直流電圧部の電圧Eに対し,正側(上アーム)のスイッチ群を構成するのがスイッチQ1とスイッチQ2,負側(下アーム)のスイッチ群を構成するのがスイッチQ3とスイッチQ4である。このようにして,単一のスイッチでは直流電圧部の電圧Eに対応できない場合,複数のスイッチの直列接続によって印加される電圧を分散することで対応が可能となる。ただし,複数のスイッチの電圧を常に均等に保つことは,スイッチの特性の個体差などがあるため難しく,これに対応するため,各スイッチに並列に電圧バランス回路SN1~SN4を接続することが一般的である。
【0004】
なお,図の例では,電圧バランス回路はスイッチングの瞬間の過渡的な電圧バランスのためのRC直列回路,およびそれ以外の場合の定常的な電圧バランスのための抵抗からなる。このように電圧バランス回路を設けた場合でも,スイッチングのタイミングの僅かなずれによって電圧バランスの維持が困難になり,最悪の場合には単一のスイッチに耐圧以上の電圧が印加され,スイッチの破壊に至る。これを回避するためには,スイッチングのタイミングのずれの最大値に対応して,電圧バランス回路に用いるコンデンサの静電容量を増加させたり,抵抗の消費電力を大きくしたりする必要があり,部品サイズと発生損失の増大による効率低下,コストアップ,装置サイズの肥大化等を招く。
【0005】
このような問題に対応した回路方式として,マルチレベル変換器がある。マルチレベル変換器は,一般にブリッジ回路の入出力端子に発生させる階段波状の電圧のレベルを増やすことによって,発生電圧の高調波を低減させることを主眼として用いられる。加えて,その多くの方式において,直列接続された複数のスイッチに付加的な回路を加えることによって,直流電圧部の電圧を分圧した電圧が各スイッチに印加されるようになり,単一のスイッチでは耐圧が不十分となる高電圧に対応する電力変換器を実現できる。
【0006】
マルチレベル変換器にはいくつか種類があり,その中の一つとしてフライングキャパシタ式マルチレベル回路(以下,FC回路)がある。FC回路の構成例を
図15に示す。電圧Eの直流電圧部の両端にスイッチQ1~Q4が直列接続される点は
図14の場合と同様であるが,各スイッチに電圧バランス回路を接続する代わりに,スイッチQ1とスイッチQ2(ブリッジ回路の上アーム),およびスイッチQ3とスイッチQ4(ブリッジ回路の下アーム)のそれぞれの接続点間にコンデンサFC1が接続されることが特徴である。コンデンサFC1の両端電圧は通常,平均的に直流電圧部の電圧Eの1/2,すなわちE/2に維持するように制御される。
【0007】
このことに加え,4つのスイッチQ1~Q4のスイッチングを適切に制御することによって,各スイッチに印加される定常的な電圧を概ねE/2とすることができる。また,スイッチQ2とスイッチQ3の接続点UがFC回路の入出力端子であり,直流電源の負極Nに対する入出力端子Uの電圧として,0,電源電圧Eに加え,E/2の3レベルを階段波状に発生することができる。FC回路は公知であり,上述のスイッチングの制御も含め,例えば特許文献2に開示されているため,ここでは詳細な説明は割愛する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2005-167535号公報
【文献】国際公開第2015/030152号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
マルチレベル変換器では,基本的には前述のように出力電圧の高調波を低減することを主眼とするため,中間電圧(
図15の例ではE/2)を出力する期間が相応に存在する。FC回路では,当該期間中,コンデンサFC1は入出力電流Iによって充電または放電される。各スイッチは,通常は一定周期Tcで繰り返しスイッチングを行うところ,その中で連続的にE/2を出力する期間をtとし,出力電流Iが期間tの間一定であると見なすと,コンデンサFC1(静電容量Cf)の両端電圧Vcfの電圧変動幅ΔVcfは次の数式1で与えられる。
【0010】
(数式1)ΔVcf=(I×t)/Cf(ただし,t<Tc)
ΔVcfは,スイッチの耐圧の制約,および出力電圧の制御の観点から,所定値以内に納める必要がある。仮にその制約値をEの1/100,Eを3000V,Tcを1ms,期間tの最大値を300μs,Iの最大値を500Aとすると,数式1より必要な静電容量Cfは5mFとなる。コンデンサFC1には,最低で(E+ΔVcf)/2が印加されるため,マージンも含めるとこの例では1600V以上の耐圧が必要であり,このような高圧のコンデンサで5mFの静電容量を持つものは,体積,質量とも大きく,またコストも高い。
【0011】
そこで本発明の解決すべき課題は,FC回路において用いられるコンデンサの静電容量を小さくしつつ,各スイッチに印加される電圧を所定値に抑えることによって,高電圧へのFC回路の適用を好適に行うことである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を実現するため,本発明に係るブリッジ回路は,FC回路において,上下アームそれぞれにおいて,これに属するスイッチを実質同時にオン,オフすることを特徴とするブリッジ回路である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば,FC回路の上下アーム間に接続されるコンデンサの静電容量,ひいてはその体積を肥大化させることなく,小さな静電容量,体積のコンデンサにてFC回路の適用を図ることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】フライングキャパシタ回路,およびコンデンサの充放電経路の例
【
図3】フライングキャパシタ回路におけるコンデンサ電圧を制御するためのスイッチングの信号の生成方法を示す模式図
【
図4】フライングキャパシタ回路におけるスイッチ制御部(スイッチング信号の生成およびコンデンサ電圧の制御のブロック図)
【
図5】多段のフライングキャパシタ回路におけるコンデンサの充放電経路の例
【
図6】多段のフライングキャパシタ回路におけるスイッチ制御部(スイッチング信号の生成およびコンデンサ電圧の制御のブロック図)
【
図7】フライングキャパシタ回路を適用したマイクロサージ抑制の原理の説明図
【
図8】フライングキャパシタ回路において階段波を出力させる場合の,コンデンサ電圧を制御するためのスイッチング信号の生成方法を示す模式図(タイムチャート)
【
図9】階段波を出力させるフライングキャパシタ回路のコンデンサの充放電をバランスさせるスイッチ制御部
【
図10】多段のフライングキャパシタ回路において階段波を出力させる場合の,コンデンサ充放電経路の例,およびコンデンサ電圧制御のためのスイッチング信号の生成方法を示す模式図(タイムチャート)
【
図11】階段波を出力させる多段のフライングキャパシタ回路のコンデンサの充放電をバランスさせるスイッチ制御部
【
図12】フライングキャパシタ回路において階段波を出力させる場合の,コンデンサ電圧を制御するためのスイッチングの信号の生成方法を示す別の模式図(タイムチャート)
【
図13】フライングキャパシタ回路において階段波を出力させる場合の,コンデンサ電圧を制御するためのスイッチングの信号の生成方法を示すさらに別の模式図(タイムチャート)
【
図14】スイッチを直列接続して構成したブリッジ回路
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下,本発明の実施形態を説明する。
【0016】
FC回路は,通常はマルチレベル回路として用いることが想定されており,即ち前述のようにブリッジ回路の入出力端子の電圧を階段波状にすることで高調波が低減され,出力電流波形の改善に必要なリアクトルなどのフィルタ回路の小型化を図ることが出来る。ここで,FC回路において中間電圧の利用による入出力端子電圧の高調波の低減機能を持たせず,FC回路のもう一つの利点である,低圧のスイッチの直列接続によって高圧に対応するという機能のみに特化するように構成すれば,次に示すような大きなメリットを享受できる。
【0017】
第1の実施形態について説明する。
図1は,第1の実施形態におけるFC回路におけるコンデンサFC1の充電および放電が行われる場合の電流の経路を示した図である。なお、スイッチQ1~Q4について、以下の説明では「スイッチ」を省略し、単にQ1~Q4と記載する場合もある。スイッチQ1~Q4は,スイッチ制御部が生成するオン,オフ指令に従って動作する。入出力端子の電流の向きがブリッジ回路に流入する極性の場合を示しており,この場合には周知のように,Q2とQ4がオンでQ1とQ3がオフのとき(モードM2)にはコンデンサFC1は充電され,逆にQ2とQ4がオフでQ1とQ3がオンのとき(モードM1)にはコンデンサFC1は放電される。いずれのときにも入出力端子Uの電圧は,電源電圧の負極Nに対してE/2となる。前述の数式1は,この場合におけるコンデンサFC1の電圧変動を表したものである。一方,図示していないが,Q1とQ2がオンでQ3とQ4がオフのとき(モードP)には入出力端子Uの電圧はE,Q1とQ2がオフでQ3とQ4がオンのとき(モードN)には入出力端子Uの電圧は0,いずれのときにもコンデンサFCには電流は流れないため充放電はない。
【0018】
このことから,理論上はモードM1とモードM2を用いなければ,すなわちQ1とQ2,およびQ3とQ4を常に同時にスイッチングすれば,コンデンサFC1の充放電は生じず,したがってコンデンサの電圧変動も生じない。ただし,現実的にはそのような同時スイッチングはスイッチや制御回路の特性バラツキによって達成できず,スイッチングのタイミングがずれる。しかし,そのずれは一般に短く,一般的なIGBTやMOS-FETであればそのずれはそれぞれ数マイクロ秒,1マイクロ秒にも満たない。数式1において,上記と同様にΔVcfを30V,Tcを1ms,Iを500Aとし,tを10μsとすれば,コンデンサFC1の静電容量Cfは167μFのみで足りることが導かれる。これは,上記の例で算定した5mFの1/30に過ぎず,コンデンサFC1の大幅な小型化が可能となる。このことに加えて,FC回路ではスイッチ以外の使用素子がコンデンサのみであるため,
図14に示したような損失を伴う抵抗要素があるものに対して高効率であり,かつ抵抗の発熱を処理するための放熱手段も必要ない。
【0019】
図2はFC回路の別の形態を示している。周知のように,FC回路はブリッジの上下アームを2以上のスイッチの直列回路でそれぞれ構成し,上下アームの接続点である入出力端子を中心に,上下アーム間の各スイッチの接続端子同士にコンデンサを接続することによって,理論上は何段でも構成出来る。一般に,段数すなわち片アームの直列スイッチの数が多いほど,より高い電圧に対応可能となる。本願発明はFC回路の段数によらず適用可能であり,片アームのスイッチを実質同時にスイッチングすることによって,スイッチや周辺回路のバラツキの影響をコンデンサの作用で緩和しつつ,各スイッチに印加される電圧がその耐圧を超えないように動作させることが出来る。
【0020】
以上より,FC回路において,上下アームそれぞれに属するスイッチのスイッチングを実質同時に行うことで,コンデンサの静電容量,ひいてはその体積とコストを大幅に低減することが可能となる。
【0021】
ここで,コンデンサの静電容量の規定も必要である。コンデンサの電圧変動は,そのままスイッチの両端に印加される電圧となり,また入出力端子に表れる電圧にも直接的に影響するため,所定値に制限しなければ,スイッチの耐圧および出力波形の制御の観点から問題が生じる。この電圧変動幅は,スイッチの耐圧の10%程度未満に抑えることが適当と考えられる。その理由は,スイッチング時のスイッチの両端電圧の跳ね上がりの最大値を,スイッチの耐圧に対して最大で10%程度のマージンを取って設定することが一般的であるため,これと同様の思想とすることが適当であると言えることである。一方,前述のようなスイッチングのタイミングのずれは,出力電圧の誤差となり,その比率はスイッチング周期に対するずれの比で決まるため,これを抑える設計を行うことが一般的である。出力電圧誤差の許容値は10%以下であることがほとんどであることから,本技術思想で想定するスイッチングのタイミングのずれとしても,最大でスイッチング周期の10%を想定しておけば安全と言える。以上から,数式1も踏まえ,コンデンサ(
図1ではFC1)の静電容量を次に示す値とすることが,本願発明の効果を得るための回路動作を安定的に実現するための指標であると言える。
【0022】
コンデンサの静電容量の値:FC回路の入出力端子の電流に,スイッチング動作の周期の10%を乗じた値に相当する電荷量の充放電に対する電圧変化が,当該コンデンサの両端電圧が印加されるスイッチの耐圧の10%以下となる値。
【0023】
次に,より具体的な実施形態について説明する。
【0024】
上記のように,スイッチングを実質同時に行い,実際に生じるタイミングの誤差の影響をコンデンサによって吸収すると,スイッチングの度に数式1にしたがって累積的に充放電されることによって,回路の動作中にコンデンサの電圧が大きく変動することになる。これを回避するためには,スイッチングのタイミングを制御することが有効であり,その場合にはそのタイミングの制御の幅を確保するため,スイッチングのタイミングを故意にずらす必要がある。この故意のずれ幅は,数式1で明らかなように,大きいほどコンデンサの電圧変動が大きくなる(あるいは電圧変動幅を所定値に納めるために必要なコンデンサの静電容量が大きくなる)ため,慎重に設定する必要がある。
【0025】
上記のように,スイッチングのタイミングの誤差は最大でも数マイクロ秒程度なので,故意のずれ幅は10マイクロ秒程度とすることが実用上は望ましい。なお,マルチレベル回路として動作させる場合には,入出力端子がE/2を出力する期間tは,スイッチングの周期の数分の一は必要であるため,高圧回路ではかなり短いスイッチング周期100μsを想定しても数10μsは必要となる。したがって,上記10μsのスイッチングのずれを規定すると,マルチレベル回路としての機能は発揮しておらず,本願発明の範ちゅうに属する。よって,この値(10μs)は,FC回路をマルチレベル回路として動作させず,高圧への適用の目的で用いる場合,好適であると言える。
【0026】
図3は,
図1の回路において,4つのスイッチQ1~Q4につき,スイッチングのタイミングをずらす際のスイッチング指令信号の生成方法の例を示している。通常の2レベルフルブリッジ回路では,上下アームのスイッチが同時にオンすることが無いようにスイッチが制御される。FC回路の場合にも基本的には同様で,Q2とQ3が同時にオンするとコンデンサFC1を短絡してしまうし,またQ1とQ4が同時にオンすると,概ねE/2で充電されているコンデンサFC1に電源電圧Eが印加されてしまうので,これらを回避する必要がある。そして,
図1に示したように,Q1とQ3,Q2とQ4がそれぞれ同時にオンする場合に,出力電流Iの極性に応じてコンデンサFC1が充電または放電される。
【0027】
したがって,Q1とQ4,およびQ2とQ3をそれぞれ同時にオンすることがないようにし,Q1とQ2,およびQ3とQ4をほぼ同時にオン,オフし,かつコンデンサFC1の電圧をほぼE/2に維持するように,Q1とQ3,あるいはQ2とQ4を短時間同時にオンすることで充電と放電を制御することが,Q1~Q4のスイッチングの要諦となる。これを好適に実現するには,
図3に示すように,キャリア波(三角波,鋸波等)比較のPWM方式を基本として,Q1とQ4,およびQ2とQ3のスイッチングをそれぞれ司るQ1,Q4信号波とQ2,Q3信号波を三角波と比較して得られる方形波信号によってQ1~Q4のオン,オフを決めればよい。さらに,両信号波の振幅に僅かな大小関係を設けることで,前述のコンデンサFC1を充放電するスイッチの状態を作り出し,当該大小関係を入れ替えることによって充電と放電を切り替えることができる。
【0028】
図3に示した波形を生成し,コンデンサFC1の充放電を行ってその電圧を所定値に維持する制御系の構成例を,
図4を用いて説明する。FC回路が出力すべき電圧指令値が,コンパレータによって三角波,鋸波等のキャリア波と比較され,さらにQ1とQ4,Q2とQ3のオン期間が重ならないようにデッドタイムが付されて,Q1~Q4に対するスイッチング指令信号が得られる。
【0029】
ここで,Q1とQ4,およびQ2とQ3はそれぞれ相補的にオン,オフするため,それぞれの組合せについて,コンパレータの出力に対して片側(Q4とQ3)にNOT要素を通過させる相補信号生成部がある。以上の説明によれば,Q1とQ2,Q3とQ4は,原理的にはそれぞれ同時にスイッチングされる,つまり同じスイッチング信号が与えられることになる。ここで,コンデンサFC1の電圧をほぼE/2に維持するように,Q1とQ3,あるいはQ2とQ4を短時間同時にオンすることで充電と放電を制御するための処置をさらに加える。これは,電圧指令値に対して,Q1,Q4信号波は同じ値とする一方,Q2,Q3信号波はコンデンサFC1の電圧Vcfに応じて補正するようにすればよい。
【0030】
この補正を行うのが信号補正部である。すなわち,Vcfの基準値,例えばE/2を設けておき,これに対するVcfの検出値の差分を取る。この差分を調節器,例えば比例調節器(P調節器)に入力して補正値を得る。この補正値によって,Vcfの基準値よりも検出値が小さければコンデンサFC1を充電,逆であれば放電する必要があり,かつあるスイッチの状態によって充電となるか放電となるかは,入出力端子の電流の向きに依存するため,これに応じて補正値の符号を反転させる必要がある。
【0031】
前述の通り,入出力端子の電流の向きがFC回路に流入する極性の場合に,Q2とQ4がオンでQ1とQ3がオフのとき(モードM2)にコンデンサFC1が充電されることから,コンデンサFC1に充電が必要な場合,つまりVcfの基準値-検出値が正の場合に,Q2,Q3信号波の補正値が正となることによってQ2,Q3信号波がQ1,Q4信号波よりも大きくなればよい(
図3参照)ので,
図4におけるP調節器の出力に対し,入出力端子の電流がFC回路に流入する方向で正となるように符号を付す乗算器を設ければよい。
【0032】
また,前述のように,スイッチングのタイミングのずれ幅が過大となると,コンデンサの電圧変動が想定外に大きくなる場合があるため,これを回避する方法として,補正値にリミッタを設けることが考えられる。以上の構成とすることで,電圧指令値に応じた電圧をFC回路の入出力端子に発生させつつ,スイッチングのタイミングを適切に制御してコンデンサFC1の電圧を所定値に維持するという動作が達成される。
【0033】
以上では,コンデンサFC1が1つ,すなわち,1アームにおける直列のスイッチが2つの場合の電圧制御とスイッチの操作について説明したが,この考え方を拡張すると,任意のコンデンサ数に対応可能である。このことを,第2の実施形態として、
図5,
図6を用いて次に説明する。
【0034】
まずは基本的なこととして,FC回路における動作の原則として,(1)上下アームにおける対称の位置にある2つのスイッチ(
図5では例えばQp4とQn1や,Qp2とQn3)は同時にオンしてはならない(動作中は必ず相補的,すなわち一方がオンならば他方はオフとなる)ということがある。これは,上述の
図3についての説明で述べたように,充電されたコンデンサを異電圧に接続(短絡)してしまうことを回避するためである。また,FC回路のもう一つの原則として,(2)コンデンサが充電,放電,あるいは充放電無しのいずれの状態となるかは,当該コンデンサの片端において接続されたスイッチの状態だけで決まり,その他のスイッチの状態に依存しない,ということがある。ただし,注意が必要なことは,入出力端子の電流の極性によって充電と放電が反転するということである。なお,原則の(1)で述べた2つのスイッチの相補的な動作によって,一方のスイッチの状態が決まれば他方も決まる,ということも原則の(2)の前提となっている。
【0035】
このことを
図5を用いて具体例を示して説明する。
図5では,上アームのスイッチQp1はオンである。したがって,下アームの対称位置にあるQn4はオフとなる。次に,Qp2はオフとなっている。したがって同様に,Qn3はオンとなる。また,入出力端子Uについて,電流の極性はFC回路に流入する方向になっている。以上の状態においては,残りのスイッチQp3,Qp4,Qn1,Qn2の状態がどのような状態であろうと,コンデンサFC11は放電状態となる。すなわち,FC回路における電流の経路は,スイッチ,あるいはスイッチとコンデンサの直列回路となり,どこかで分流したり,電流が消滅したりすることはない。よって,Qp1がオン,Qp2がオフであれば,入出力端子から流入した電流は,コンデンサFC11を必ず通ってQp1を流れることになり,これはFC11の定常的な充電の極性によって,放電する極性となる。なお,例えば入出力端子における電流極性が同じでQp1がオフ,Qp2がオンであるならば,FC11を流れる電流の極性が反転するため充電となり,Qp1とQp2がいずれもオン,あるいはいずれもオフであれば,FC11は充放電がゼロとなる。同様の考え方で,他のコンデンサFC12,FC13の充放電状態もそれぞれに接続されるスイッチの状態によって決まる。
【0036】
以上のことから,コンデンサの充放電状態を決めるためには,電流の極性と,接続されるスイッチの状態だけを制御すればよいことが分かる。この考え方に基づいて制御系を構成すると
図6のようになる。なお,この図では,
図4の右側に示したNOT要素とデッドタイムのブロック,および補正値のリミッタについては,
図4の場合と同様であるため記載を省略している。上記説明にあるように,FC11の電圧を制御するためには,Qp2(Qn3)のスイッチングのタイミングが,Qp1(Qn4)のスイッチングのタイミングに対して早いか遅いかということ,および入出力端子の電流の極性の2要素のみで決めることが出来る。
【0037】
よって,
図4の場合と同様に,FC11の電圧Vcf1の基準値に対する検出値の誤差をP調節器に入力し,その値の符号を入出力端子の電流の極性によって決め,その値をQp1(Qn4)の電圧指令値に加算することによって,Qp2(Qn3)の電圧指令値を決めればよい。そして,Qp2(Qn3)の内側にあるスイッチQp3(Qn2)についても全く同様に,Qp2(Qn3)の電圧指令値に対して,FC12の電圧Vcf2と電流の極性に基づいて調整を行って電圧指令値を生成すればよい。コンデンサFC13についても同様である。このように,コンデンサが複数段になった場合でも,隣接するスイッチについて順番にスイッチングのタイミングを調整すればよいので,
図6に示すように,入出力端子に対して外側にあるスイッチのための電圧指令値に対して,一段ずつ,内側のスイッチのための電圧指令値をカスケード的に制御ブロックを追加していけば,コンデンサの電圧を所定値に制御するための制御系を構成することが可能である。
【0038】
次に,本発明の第3の実施形態について説明する。
図3を用いて説明したように,コンデンサFC1の電圧はある指令値(基準値)に平均的に一致するように制御することが出来る。つまり,
図3におけるVcf基準値として,直流電圧Eの1/2よりも高い値や低い値を設定することも可能であり,例えばVcf基準値をE/4とすれば,E/2とした場合に対してスイッチQ2,Q3に印加される電圧を低く抑えることが可能であり,このことによってQ2,Q3として耐圧の低いスイッチを用いることが可能となる。このとき,耐圧の関係は,Q1とQ4に対してQ2とQ3が低いということになる。一般に,スイッチの耐圧は連続的ではなく飛びが大きい,例えば1.7kVの上は3.3kVであることが一般的であるため,直流電圧が,1.7kV耐圧のスイッチではわずかに足りない値である場合,3.3kV耐圧のものを用いる必要があるため,耐圧の余裕が大き過ぎ,導通損失やコスト(いずれも一般に耐圧に対して単調増加)が増大するという問題がある。
【0039】
そこで,FC回路において,Q1とQ4に1.7kVの耐圧のスイッチ,Q2とQ3に不足分の電圧を補う低耐圧のスイッチ(例えば600V)を用いて,コンデンサFC1の電圧を600Vの耐圧にふさわしい電圧に制御すれば,スイッチの組合せとしての耐圧を最適にして,導通損失を抑えた変換回路を実現することが出来る。なお,コンデンサFC1としては所定の静電容量が必要となるため,コンデンサの耐圧が低いほどその体積は小さくなることから,
図1の回路においては,Q1とQ2(Q4とQ3)のうち,Q2(Q3)を低耐圧のスイッチ,Q1とQ4を高耐圧のスイッチとする方が,コンデンサFC1の寸法,およびコストを小さく抑えることが出来る。さらには,本願で開示しているように,FC回路をマルチレベル回路ではなく実質的に2レベル回路として用いることによって,電圧レベルの不均一も大きな問題にはならない。なお,この場合のブリッジ回路の制御は,
図4においてVcf基準値をE/2以外の所定の値に設定することによって同様に行うことが出来る。
【0040】
続いて,本発明のさらに別の実施形態となる第4の実施形態について説明する。一般に,インバータによって例えばモータを駆動する場合には,いわゆるマイクロサージの問題が発生することがある。すなわち,インバータとモータを接続するケーブルが長い場合には,その分布定数的な振る舞いが無視できず,またケーブルとモータとはインピーダンス整合しないことが一般的なので,インバータによって矩形波的な電圧がケーブルに印加されると,モータ端部では電圧の跳ね上がり(マイクロサージ)が発生する。このマイクロサージは,モータの絶縁体,特に巻線の被覆の絶縁体に対するストレスになるため,絶縁を劣化させ,劣化が進むと絶縁破壊に至ってモータを焼損するなどの問題を生じ得る。この問題は電圧が高いほど顕著になるため,スイッチを直列接続する必要があるような高電圧の変換器において特に問題となる。
【0041】
この問題は,次に述べるようにFC回路において,階段状の出力電圧の出力期間を調整することによって好適に緩和することが出来る。ここでは,片側のスイッチ群が2つのスイッチを有する
図1の回路を例として説明する。FC回路の入出力端子の電位を,例えば直流電圧部の負極から正極の電位に移行させる場合,スイッチングのタイミングの僅かなずれの期間中,中間の電圧を発生させることが出来ることは前述の通りである。このとき,中間の電圧の発生期間tを,丁度モータの端子における振動の周期2Tの1/2,すなわちTとすることによって,モータ端子における振動波形が打ち消され,マイクロサージを抑制することが出来る。
【0042】
一般に,期間Tは数マイクロ秒程度であり,本願発明のように階段状の電圧を短時間のみ出力するという技術思想が好適に適合する。以上に述べたことを
図7を用いてより具体的に説明する。まず,インバータ入出力端子電圧としてそれぞれE/2の振幅を持つ階段波状の波形を発生させる。期間tはマイクロ秒単位の極短時間である。このとき,負荷(代表的にはモータ)の端子電圧(負荷端子電圧)は,階段波の最初のステップ(第1ステップ)から,負荷までのケーブルの長さと特性によって生じる遅延時間後に立ち上がる。
【0043】
この第1ステップによって,負荷端子電圧には,E/2よりも大きい振幅を有する振動波形(マイクロサージ)成分(第1ステップによる電圧)が発生する。この振動波形成分の周期が2Tとなっており,先に述べたようにインバータ入出力端子電圧の階段波の間隔はその1/2のTに設定されている。第1ステップから期間T後に次の階段波のステップ(第2ステップ)を発生させる。第2ステップによっても同様に,負荷端子電圧に第1ステップと同様の振動波形成分(第2ステップによる電圧)が発生する。実際の負荷端子電圧は,以上に述べた第1ステップによる電圧と第2ステップによる電圧の合成波形となるため,期間Tの時間差の作用によって両振動波形が相殺し,マイクロサージが抑制された振幅Eの電圧波形とすることが出来る。
【0044】
なお,上記では期間Tをマイクロサージの振動周期の1/2とすることを述べたが,これが多少ずれても,マイクロサージを抑制するという効果を得ることが出来,本技術思想の範ちゅうに含まれる。また,以上に述べた技術思想と類似の内容は,異なる回路方式について特許第5800133号公報に提示されている。しかし,同公報で示される回路はマルチレベル回路として動作させることを前提としたものであり,中間電圧発生のための追加のスイッチやコンデンサの電位の分割が必要となる。これに対して本実施形態では,マルチレベル回路として動作させず,中間電圧発生のための追加のスイッチやコンデンサの電位分割も必要なく,低い耐圧のスイッチを用いて高電圧の実質的に2レベルの回路を実現する趣旨であるため,数マイクロ秒の間,階段状の電圧を発生することによってマイクロサージを抑制するという目的を,小さな静電容量のコンデンサを用いて低コストで好適に実現することが可能であるという特徴を有する。
【0045】
ところで,例えば上述のようにマイクロサージ抑制を行うときなど,インバータ入出力端子電圧を故意に階段波状にする場合,既に説明した通り,これに伴ってコンデンサが頻繁に充放電されるため,コンデンサの電圧を所定値に維持するための方策が必要となる。次にこのことを説明する。
【0046】
図8は,
図1の回路構成について,インバータ入出両端子Uに階段波を発生させる場合の信号波の与え方と,その結果として表れるインバータ入力端子Uの電圧(U電位)を表したものである。
図3について説明した通り,入出力端子において電流Iが流入する方向である場合には,Q2とQ4が同時にオンする(モードM2)とコンデンサFC1は充電され,Q1とQ3が同時にオンする(モードM1)とコンデンサFC1は放電される。電流Iの極性が逆の場合,スイッチの状態に対する充放電についても逆になる。モードM1,M2のいずれの場合にもU電位はE/2である。このことから,U電位として階段波を発生させる,すなわちE/2を所定期間Tだけ出力させ,かつコンデンサFC1の電圧を所定値に維持するためには,2つのスイッチの状態M1,M2を交互に発生させて充放電をバランスさせることが有効である。
図8では,三角波キャリアの上りの下りにおいて,Q1,Q4信号波とQ2,Q3信号波の大小関係を入れ替えることによって,U端子がE/2を出力する際にM1とM2が交互に入れ替わるようにしている。このようにすれば,充放電のバランスを簡便に実現することが可能となる。
【0047】
図9は,
図1の回路構成について,上記のように充放電をバランスさせるための制御系の構成例を示したものである。
図4に示した構成に対して,信号補正部の構成は同様であるが,中間電圧発生期間付加部を新たに設けることで信号補正部の出力値である補正値を直接Q2,Q3信号波に加算しない点が異なっている。すなわち,
図9では,中間電圧発生期間付加部において,前述の中間電圧発生期間tを電圧変換によって電圧指令値に対する比率に変換した値に,信号補正部の出力する補正値を加算する。
【0048】
この値に1/2を乗じ,キャリア半周期同期方形波に乗じることによって,期間tに補正値を加えた値の1/2に対応する振幅を有する,キャリア半周期に同期した方形波を生成する。この方形波を,Q1,Q4信号波,およびQ2,Q3信号波に,互いに極性を反転して加算することによって,
図8に示したように,2つの信号波にキャリア波の山谷において変化する逆極性の方形波が重畳される。補正値がゼロの場合,2つの信号波にはそれぞれt/2に対応する逆極性の方形波が重畳されているため,結果として出力される階段波の中間電圧の出力期間はt(=T)となり,
図7について説明した波形が出力される。補正値がゼロでない場合は,すなわちコンデンサの電圧が設定値に対して誤差を有している状態であり,補正値によってこの誤差が減少するように中間電圧の出力期間が変化する。この変化量がtに対して小さい値であれば,マイクロサージの抑制効果を維持しつつ,コンデンサの電圧を設定値に近い値に維持することが出来る。
【0049】
以上では,
図1に示す如く,コンデンサが1つの場合のフライングキャパシタ回路について述べたが,同様な考え方をコンデンサが複数個ある例えば
図5のような多段のフライングキャパシタ回路にも適用することが出来る。すなわち,ごく短い期間Tだけ中間的な電圧を保持する多段の階段波状の電圧を出力させ,複数のコンデンサ(
図5ではFC11,FC12,FC13)の電圧が所定値に維持されるよう,
図9と同様なフィードバック制御系を構成して中間的な電圧の出力期間を補正することで,多段のフライングキャパシタ回路においても,マイクロサージの抑制効果を維持しつつ,コンデンサの電圧を設定値に近い値に維持することが出来る。
【0050】
このことを表したのが,
図10および
図11である。
図10では,
図5に示した片側直列素子数4のフライングキャパシタ回路に,あるスイッチ状態における電流の経路を示した(a)と,各スイッチの動作指令値の生成方法とU電位およびコンデンサの充放電動作を示した(b)がある。(b)に示すように,片側4つのスイッチにそれぞれオン,オフ信号を与えるための信号波(例えばQp1,Qn4信号波)を,
図8に示した波形と同様に大小関係を入れ替えることによって,それぞれのスイッチに与えるオン,オフ信号に時間差を付けることが出来る。これによって,結果としてU電位に表れる波形は複数段の階段波状になる。
図10(a)に示す2つの電流経路は,
図10(b)のFC11~FC13の充放電波形のグラフに追記したタイミングにおけるものである。
【0051】
図11は,
図10に示した動作を実現するための制御ブロック図である。基本原理は
図9と同様である。異なるのは,スイッチの直列数に応じて出力信号波が増え,これに対応した多段中間電圧発生期間付加部と多段信号補正部を有することである。多段信号補正部は,コンデンサFC11,FC12,FC13のそれぞれについて,その電圧の指令値に対する誤差を求め,
図9と同様に補正値を生成して多段中間電圧発生期間付加部に与える。多段中間電圧発生期間付加部は,こちらも
図9と同様に,隣接するスイッチのスイッチングタイミングを期間tに補正値を加えた期間だけずらす。なお,
図10(b)に示したように,それぞれのスイッチへの信号波を,電圧指令の基準値に対して正負両側に均等配置させることで,U電位の電圧の平均値を電圧指令値の基準値に対応する値としている。これを実現するため,Qp2,Qn3信号波とQp3,Qn2信号波については,基準値に対してt/2相当分だけ正負にずらし,それらに対してさらに期間t相当分だけずらすべきQp1,Qn4信号波とQp4,Qn1信号波については,そのように構成されている。
【0052】
次に,
図12に示す如く,Q1,Q4信号波とQ2,Q3信号波の大小関係の入れ替えを,キャリアの半周期ではなく1周期で行うことも出来る。この場合には,モードM1とモードM2がそれぞれ2回連続で発生して繰り返すようになる。したがって,充電と放電の調整の周期が
図8の場合に対して2倍に伸びる一方で,充放電を司る入出力電流Iのスイッチングに起因するリプルが大きい場合には,この電流のリプルが通常はキャリア波1周期で繰り返すため,
図8の場合に対して充電と放電のバランスが改善される。なお,この場合の制御系は,
図9の場合に対して,中間電圧発生期間付加部における「キャリア半周期同期方形波」の信号を,「キャリア1周期同期方形波」に変更することによって実現される。
【0053】
図13は,上記に述べた動作をより具体的に示したものである。スイッチに与える信号波は三角波キャリア波の1周期で大小関係が入れ替わっている。電流Iはスイッチング周期に対応するリプルを有するため,その瞬時値で大きさが決まるコンデンサの充放電電流のアンバランスの原因となる。キャリア波の1周期毎に信号波の大小関係を入れ替えることによって,充電と放電それぞれが概ね同様の電流によって行われるようになり,上記アンバランスを緩和することが可能となる。なお,
図13では,最初の2周期では充電と放電の時間が等しい場合,続く2周期では前者が長く,最後の2周期では後者が長い場合を表している。
【0054】
上記の実施形態の説明で用いた図で各スイッチはMOSFETとダイオードで構成したスイッチとしているが、IGBT等の他のスイッチを用いても良い。
【0055】
また、スイッチング動作のタイミングをずらす際に、入出力端子を基準として内側のスイッチに対して外側のスイッチのスイッチ動作のタイミングをずらしても良い。
【符号の説明】
【0056】
Q1~Q4・・・スイッチ
SN1~SN4・・・電圧バランス回路
FC1・・・コンデンサ