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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-23
(45)【発行日】2025-01-07
(54)【発明の名称】半導体モジュール
(51)【国際特許分類】
   H01L 23/29 20060101AFI20241224BHJP
   H01L 23/31 20060101ALI20241224BHJP
   H01L 23/28 20060101ALI20241224BHJP
   H01L 25/07 20060101ALN20241224BHJP
   H01L 25/18 20230101ALN20241224BHJP
【FI】
H01L23/30 R
H01L23/28 K
H01L25/04 C
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020172787
(22)【出願日】2020-10-13
(65)【公開番号】P2022064191
(43)【公開日】2022-04-25
【審査請求日】2023-09-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西村 知紘
【審査官】ゆずりは 広行
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-198227(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0033711(US,A1)
【文献】特開2014-116409(JP,A)
【文献】特開2014-150203(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 23/29
H01L 23/28
H01L 25/07
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の回路パターンを有する回路基板と、
前記回路基板に載置される半導体チップと、
前記半導体チップと前記回路パターンとを接続する配線部材と、
前記半導体チップおよび前記配線部材を封止する封止樹脂と
を備え、
前記封止樹脂は、
無機フィラーとエポキシ樹脂とを含み、前記半導体チップを覆う第1樹脂と、
前記第1樹脂の表面に設けられる、前記第1樹脂よりも弾性率が小さい第2樹脂と
を有し、
前記第2樹脂は、前記半導体チップおよび前記回路基板から離間しており、
前記第2樹脂は、降伏応力が前記第1樹脂よりも小さい
半導体モジュール。
【請求項2】
所定の回路パターンを有する回路基板と、
前記回路基板に載置される半導体チップと、
前記半導体チップと前記回路パターンとを接続する配線部材と、
前記半導体チップおよび前記配線部材を封止する封止樹脂と
を備え、
前記封止樹脂は、
無機フィラーとエポキシ樹脂とを含み、前記半導体チップを覆う第1樹脂と、
前記第1樹脂の表面に設けられる、前記第1樹脂よりも弾性率が小さい第2樹脂と
を有し、
前記第2樹脂は、前記半導体チップおよび前記回路基板から離間しており、
前記第2樹脂は、エポキシ樹脂を含み、
前記第2樹脂は、無機フィラーの含有率(wt%)が前記第1樹脂よりも小さい
半導体モジュール。
【請求項3】
所定の回路パターンを有する回路基板と、
前記回路基板に載置される半導体チップと、
前記半導体チップと前記回路パターンとを接続する配線部材と、
前記半導体チップおよび前記配線部材を封止する封止樹脂と、
側壁を有し、前記半導体チップを収容する空間を囲む樹脂ケースと
を備え、
前記封止樹脂は、
無機フィラーとエポキシ樹脂とを含み、前記半導体チップを覆う第1樹脂と、
前記第1樹脂の表面に設けられる、前記第1樹脂よりも弾性率が小さい第2樹脂と
を有し、
前記第2樹脂は、前記半導体チップおよび前記回路基板から離間しており、
前記封止樹脂は、前記樹脂ケースの内部に設けられ、
前記側壁と、前記封止樹脂との間に緩衝層を更に備え、
前記緩衝層は、前記第2樹脂よりも弾性率が小さく、前記第1樹脂と接している
半導体モジュール。
【請求項4】
所定の回路パターンを有する回路基板と、
前記回路基板に載置される半導体チップと、
前記半導体チップと前記回路パターンとを接続する配線部材と、
前記半導体チップおよび前記配線部材を封止する封止樹脂と
を備え、
前記封止樹脂は、
無機フィラーとエポキシ樹脂とを含み、前記半導体チップを覆う第1樹脂と、
前記第1樹脂の表面に設けられる、前記第1樹脂よりも弾性率が小さい第2樹脂と、
無機フィラーとエポキシ樹脂とを含み、前記第2樹脂の表面に設けられる前記第2樹脂よりも弾性率が大きい第3樹脂
を有し、
前記第2樹脂は、前記半導体チップおよび前記回路基板から離間しており、
前記第3樹脂は、無機フィラーの含有率(wt%)が前記第1樹脂よりも小さい
半導体モジュール。
【請求項5】
前記第3樹脂の厚みは、1mm以上であり、
前記第2樹脂は、前記第3樹脂より厚い
請求項に記載の半導体モジュール。
【請求項6】
前記配線部材は、リードフレームであり、
前記第1樹脂は、前記リードフレームを覆い、
前記第2樹脂は、前記リードフレームから離間している
請求項1から5のいずれか一項に記載の半導体モジュール。
【請求項7】
前記第1樹脂は、前記第2樹脂よりも体積が大きい
請求項1から6のいずれか一項に記載の半導体モジュール。
【請求項8】
前記第1樹脂は、前記無機フィラーを50wt%以上含む
請求項1からのいずれか一項に記載の半導体モジュール。
【請求項9】
前記第2樹脂は、シリコーンゲルまたはシリコーンゴムを含む
請求項からのいずれか一項に記載の半導体モジュール。
【請求項10】
前記回路基板に直接的または間接的に接続される冷却器を更に備え、
前記第2樹脂は、前記冷却器とは反対側の前記第1樹脂の表面に設けられる
請求項に記載の半導体モジュール。
【請求項11】
前記第1樹脂は、前記第2樹脂より厚い
請求項または10に記載の半導体モジュール。
【請求項12】
前記第2樹脂の厚みは、1mm以上でかつ1cm以下である
請求項3、10または11のいずれか一項に記載の半導体モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、半導体チップを回路基板に搭載し、半導体チップと回路基板の回路パターンとを配線部材で接続した半導体モジュールが知られている。このような半導体モジュールでは、半導体チップを保護するために、封止樹脂が用いられている(例えば、特許文献1参照)。
特許文献1 特開2017-28159号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
半導体モジュールの信頼性を高めることが好ましい。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するために、本発明の一つの態様においては、半導体モジュールを提供する。半導体モジュールは、所定の回路パターンを有する回路基板を備えてよい。半導体モジュールは、回路基板に載置される半導体チップを備えてよい。半導体モジュールは、半導体チップと回路パターンとを接続する配線部材を備えてよい。半導体モジュールは、半導体チップおよび配線部材を封止する封止樹脂を備えてよい。封止樹脂は、無機フィラーとエポキシ樹脂とを含み、半導体チップを覆う第1樹脂を有してよい。封止樹脂は、第1樹脂の表面に設けられる、第1樹脂よりも弾性率が小さい第2樹脂を有してよい。第2樹脂は、半導体チップおよび回路基板から離間してよい。
【0005】
なお、上記の発明の概要は、本発明の必要な特徴の全てを列挙したものではない。また、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となりうる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】本発明の一つの実施形態に係る半導体モジュール100の一例を示す図である。
図2】上面視における半導体モジュール100の一例を示す図である。
図3】本発明の一つの実施形態に係る半導体モジュール200の一例を示す図である。
図4】上面視における半導体モジュール200の一例を示す図である。
図5】本発明の一つの実施形態に係る半導体モジュール300の一例を示す図である。
図6】上面視における半導体モジュール300の一例を示す図である。
図7】封止樹脂12の形成方法の一例を示す図である。
図8】半導体モジュール300の封止樹脂12の形成方法の一例を示す図である。
図9】内側樹脂硬化工程S203における半導体モジュール300の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、又、本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。また、1つの図面において、同一の機能、構成を有する要素については、代表して符合を付し、その他については符合を省略する場合がある。
【0008】
本明細書においては半導体チップの深さ方向と平行な方向における一方の側を「上」、他方の側を「下」と称する。基板、層またはその他の部材の2つの主面のうち、一方の面を上面、他方の面を下面と称する。「上」、「下」の方向は、重力方向または半導体モジュールの実装時における方向に限定されない。
【0009】
本明細書では、X軸、Y軸およびZ軸の直交座標軸を用いて技術的事項を説明する場合がある。直交座標軸は、構成要素の相対位置を特定するに過ぎず、特定の方向を限定するものではない。例えば、Z軸は地面に対する高さ方向を限定して示すものではない。なお、+Z軸方向と-Z軸方向とは互いに逆向きの方向である。正負を記載せず、Z軸方向と記載した場合、+Z軸および-Z軸に平行な方向を意味する。本明細書では、半導体チップの上面および下面に平行な直交軸をX軸およびY軸とする。また、半導体基板の上面および下面と垂直な軸をZ軸とする。本明細書では、Z軸の方向を深さ方向と称する場合がある。また、本明細書では、X軸およびY軸を含めて、半導体基板の上面および下面に平行な方向を、水平方向と称する場合がある。
【0010】
本明細書において「同一」または「等しい」のように称した場合、製造ばらつき等に起因する誤差を有する場合も含んでよい。当該誤差は、例えば10%以内である。
【0011】
図1は、本発明の一つの実施形態に係る半導体モジュール100の一例を示す図である。半導体モジュール100は、インバータ等の電力変換装置として機能してよい。半導体モジュール100は、1つ以上の回路基板20を備える。本明細書では、1つ以上の回路基板20が設けられる面における直交軸をX軸およびY軸とし、XY面と垂直な軸をZ軸とする。図1においては、YZ面における各部材の配置例を示している。回路基板20は、絶縁基板21のいずれか一方の面に所定の回路パターン26を設け、他方の面に放熱板22を設けたものである。回路パターン26および放熱板22は、銅板またはアルミ板、あるいはこれらの材料にめっきを施した板を、窒化ケイ素セラミックスや窒化アルミニウムセラミックス等の絶縁基板21に直接接合あるいはろう材層を介して接合することで、構成されてよい。なお、回路基板20は、銅板やアルミ板等の導電部材に、絶縁シートを貼り合わせたものであってもよい。すなわち、導電部材と絶縁部材とが一体となった板状部材であってよい。
【0012】
回路基板20には、1つ以上の半導体チップ40が載置される。図1の例では、1つの半導体チップ40が載置される。接合層30は、半導体チップ40を回路基板20の回路パターン26に接合する。接合層30は、はんだ等である。半導体チップ40等は、回路基板20の回路パターン26を囲む樹脂ケース10や樹脂ケース10に充填される封止樹脂12といった樹脂パッケージにより保護される。なお、樹脂ケース10を設けず、封止樹脂12によるトランスファーモールド等で半導体チップ40等を保護してもよい。
【0013】
半導体チップ40は、絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(IGBT)、FWD(Free Wheel Diode)等のダイオードおよびこれらを組み合わせたRC(Reverse Conducting)-IGBT、並びにMOSトランジスタ等を含んでよい。半導体チップ40は、動作状態に応じて発熱量が変化する。例えばRC-IGBTにおいて、IGBTがオンしている状態と、IGBTがオフしてFWDに電流が流れている状態とで、通電箇所が異なるため発熱量が変化する。このため、半導体チップ40は、スイッチング時に温度上昇および温度低下が発生する。
【0014】
本例の半導体チップ40は、上面および下面に電極(例えば、エミッタ電極とコレクタ電極)が形成された縦型のチップである。半導体チップ40は、下面に形成された電極により回路基板20の回路パターン26と接続され、上面に形成された電極により配線部材と接続される。なお、半導体チップ40は縦型のチップに限定されない。半導体チップ40は、回路パターン26と接続される電極を上面に有していてもよい。
【0015】
樹脂ケース10は、半導体チップ40を収容する空間94を囲むように設けられる。図1において、樹脂ケース10は、側壁18を有する。側壁18は、XY面において空間94を囲む。絶縁基板21は、側壁18の下方に設けられる。なお、空間94は、絶縁基板21の上方の領域でかつ樹脂ケース10に囲まれる領域であってよい。
【0016】
本例において、樹脂ケース10は、射出成形により形成可能な熱硬化型樹脂、または、UV成形により形成可能な紫外線硬化型樹脂、等の樹脂により成形される。当該樹脂は、例えばポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂、ポリアミド(PA)樹脂、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)樹脂およびアクリル樹脂等から選択される1又は複数の高分子材料を含んでよい。
【0017】
放熱板22は、絶縁基板21の下面の少なくとも一部または全体を覆っていてよい。冷却器16は、回路基板20に直接的または間接的に接続される。本例では、冷却器16は、放熱板22の下面の少なくとも一部または全体を覆っていてよい。接合層24は、放熱板22を冷却器16に接合する。接合層24は、はんだ等である。冷却器16は、内部に水等の冷媒を含む。冷却器16は、放熱板22等を介して、半導体チップ40を冷却する。
【0018】
半導体チップ40は、その上面がはんだ等の接合層(不図示)を介して配線部材と接続される。本例の配線部材は、リードフレーム50およびワイヤ27である。リードフレーム50は、銅またはアルミニウム等の金属材料で形成された部材である。リードフレーム50は、ニッケル等により表面の少なくとも一部がメッキされていてもよい。また、リードフレーム50は、樹脂等により表面の少なくとも一部がコーティングされていてもよい。リードフレーム50は、板状の部分を有してよい。板状とは、対向して配置された2つの主面の面積が、他の面の面積よりも大きい形状を指す。リードフレーム50は、少なくとも、半導体チップ40と接続する部分が板状であってよい。リードフレーム50は、1枚の金属板を折り曲げることで、形成されてよい。
【0019】
リードフレーム50は、半導体チップ40と、回路パターン26とを接続する。リードフレーム50には、主電流が流れてよい。ここで、主電流とは、半導体チップ40に流れる電流のうち、最大の電流である。本例のリードフレーム50は、チップ接続部52、架橋部54および回路パターン接続部56を有する。チップ接続部52は、半導体チップ40の上面に接合される部分である。回路パターン接続部56は、回路パターン26の上面に接続される部分である。チップ接続部52および回路パターン接続部56は、XY面とほぼ平行な板状の部分であってよい。なお、ほぼ平行とは、例えば角度が10度以下の状態を指す。
【0020】
架橋部54は、チップ接続部52および回路パターン接続部56を接続する。架橋部54は、回路パターン26等の導電部材から離れて配置されている。本例の架橋部54は、回路パターン26等の上方に配置されており、チップ接続部52から回路パターン接続部56まで、回路パターン26等を跨ぐように設けられている。
【0021】
ワイヤ27は、半導体チップ40と、回路パターン26とを接続する。ワイヤ27には、半導体チップ40のゲートを制御する電圧が印加されてよい。
【0022】
本例において、封止樹脂12は、樹脂ケース10の内部に設けられる。封止樹脂12は、半導体チップ40、並びに、配線部材としてのリードフレーム50およびワイヤ27を封止する。つまり封止樹脂12は、半導体チップ40および配線部材が露出しないように、半導体チップ40および配線部材の全体を覆っている。封止樹脂12により、半導体チップ40および配線部材を保護できる。なお、配線部材に接続する外部端子は、封止樹脂12から露出してよい。
【0023】
本例における封止樹脂12は、第1樹脂42と、第2樹脂44とを有する。第1樹脂42は、充填剤としての無機フィラーとエポキシ樹脂とを含む。また、第1樹脂42は、半導体チップ40および配線部材が露出しないように覆ってよい。ここで、第1樹脂42は、配線部材としての少なくとも一部、すなわちリードフレーム50またはワイヤ27のいずれかを覆っているとよい。第1樹脂42は、一例では、エポキシ樹脂、硬化剤および無機フィラーを主成分として含む。第1樹脂42は、その他に、硬化促進剤、離型剤、着色剤、難燃剤等の添加材を含んでもよい。
【0024】
第1樹脂42は、無機フィラーを50wt%以上含む。一例として、第1樹脂42は、無機フィラーを50wt%以上でかつ90wt%以下含む。無機フィラーは、ガラス転移温度Tgが高い。なお、ガラス転移温度Tgとは、ガラス転移が起きる温度である。このため、第1樹脂42が無機フィラーを所定以上含むことで、第1樹脂42全体のガラス転移温度Tgを高め、耐熱性を高めることができる。すなわち、半導体チップ40およびその周辺をガラス転移温度Tgが高い第1樹脂42で封止し、半導体モジュール100の絶縁特性と強度特性とを維持することができる。無機フィラーは、例えば、SiOを含むシリカフィラーであってよい。
【0025】
一方、第1樹脂42に無機フィラーを所定以上含む場合、脆性的な挙動によって亀裂が生じる可能性が相対的に高まる。脆性破壊が生じる場合には、塑性変形をほとんど伴わない。第1樹脂42に亀裂が生じ、その亀裂が封止樹脂12の上端まで進展すると、半導体チップ40が外気に曝され半導体チップ40の保護が弱まる。その結果、耐圧不良や信頼性低下の原因となりうる。
【0026】
そこで、第2樹脂44が、第1樹脂42の表面に設けられる。第2樹脂44は、冷却器16とは反対側の第1樹脂42の表面に設けられる。第2樹脂44のガラス転移温度Tgは、第1樹脂42のガラス転移温度Tgよりも相対的に小さくてよい。なお、第1樹脂42および第2樹脂44は、層構造となるように設けてよい。
【0027】
第2樹脂44は、第1樹脂42よりも弾性率が小さくてよい。弾性率とは、弾性体に外力を加えて変形させるときの弾性範囲内での応力とひずみとの比率である。弾性率は、変形のしにくさを表す。弾性率として、ヤング率を用いてよい。第1樹脂42と第1樹脂42より相対的に柔らかい第2樹脂44とで空間94を満たすことで、第1樹脂42のみで空間94を満たすよりも、高温動作時等に発生する応力が緩和される。第1樹脂42より相対的に柔らかい第2樹脂44により、側壁18等との間で発生する応力が緩和されるためである。また、仮に第1樹脂42に亀裂が入った場合でも、機械的性質の異なる第2樹脂44では、線形的な亀裂進展を抑制することができる。すなわち、第2樹脂44を貫通して、半導体モジュール100の表面に亀裂が到達するのを抑制することができる。このため、半導体モジュール100の信頼性を向上することができる。
【0028】
第2樹脂44は、降伏応力が第1樹脂42よりも小さくてよい。これにより、第2樹脂44が、第1樹脂42よりも早く塑性変形する。したがって、第2樹脂44の方が、先に破断しやすく(壊れやすく)なる。これにより、第1樹脂42が降伏応力に達し塑性変形するのを抑制できる。したがって、半導体モジュール100の信頼性を向上することができる。
【0029】
本例では、第1樹脂42は半導体チップ40およびリードフレーム50を覆い、第2樹脂44は半導体チップ40、リードフレーム50および回路基板20から離間している。つまり、本例において、第2樹脂44は、半導体チップ40、リードフレーム50および回路基板20の上面、下面または側面のいずれとも接しない。本例の第2樹脂44は、絶縁基板21の上面、下面および側面のいずれとも接しない。本例の第2樹脂44は、放熱板22の上面、下面および側面のいずれとも接しない。本例の第2樹脂44は、回路パターン26のいずれの面とも接しない。絶縁基板21の側面は、外気と接していてよく、第2樹脂44とは異なる部材と接していてもよい。これにより、半導体チップ40、リードフレーム50、回路基板20といった通電部材を、耐熱性を有する第1樹脂42で保護することができる。また、第2樹脂44は、通電部材に接することがないので、相対的には耐熱性が必要とはならない。本例では、第1樹脂42がいわば本来の半導体パッケージとしての通電部材を保護する機能を果たし、第2樹脂44が第1樹脂42を保護する機能を果たす。
【0030】
このため、第1樹脂42は、第2樹脂44よりも総体積が大きくてよい。第1樹脂42は、第2樹脂44よりも総重量が大きくてもよい。また、断面視または側面視において、第1樹脂42は第2樹脂44より厚くてよい。一例として、図1における第1樹脂42の厚みT1は、1cm以上である。一例として、図1における第2樹脂44の厚みT2は、1mm以上でかつ1cm以下である。第2樹脂44による第1樹脂42の保護は、相対的に、第2樹脂44の体積や厚みが要求されないためである。これにより、第1樹脂42と第2樹脂44の比率の好適化およびコスト削減を図ることができる。
【0031】
本例では、第2樹脂44がエポキシ樹脂を含み、封止樹脂12が物性の異なるエポキシ樹脂の2層構造として構成される。ここで、第2樹脂44は、無機フィラーの含有率(wt%)が、第1樹脂42よりも小さくてよい。一例として、第2樹脂44は、無機フィラーが50wt%未満含まれてよい。第2樹脂44は、無機フィラーを含んでもよいし、含まなくてもよい。これにより、第2樹脂44のガラス転移温度Tgは、第1樹脂42のガラス転移温度Tgよりも相対的に小さくなる。なお、第1樹脂42と同様に、第2樹脂44も、エポキシ樹脂、硬化剤および無機フィラーを主成分として含んでよい。第2樹脂44は、その他に、硬化促進剤、離型剤、着色剤、難燃剤等の添加材を含んでもよい。
【0032】
第2樹脂44は、エポキシ樹脂に替えて、または、エポキシ樹脂に加えて、シリコーンゲルまたはシリコーンゴムを含んで構成されてもよい。この場合、第2樹脂44は、降伏応力が第1樹脂42よりも小さくならなくてもよい。なお、シリコーンゲルまたはシリコーンゴムも、その他の添加材を含んでよい。
【0033】
図2は、上面視における半導体モジュール100の一例を示す図である。樹脂ケース10は、内側側壁17を有する。内側側壁17は、側壁18の一例である。内側側壁17は、半導体チップ40を収容する空間94を分割する。図2において、内側側壁17は、空間94を空間94-1、空間94-2および空間94-3に分割する。回路基板20は、空間94-1、空間94-2および空間94-3に、共通して設けられてもよい。回路基板20は、空間94-1、空間94-2および空間94-3に、それぞれ設けられてもよい。また、樹脂ケース10には、冷却装置等を固定するねじ等の締結部材が挿入される貫通孔84が設けられてよい。
【0034】
封止樹脂12は、ワイヤ27、半導体チップ40およびリードフレーム50が露出しないように、樹脂ケース10の空間94に充填されてよい。図2では、上面視において、封止樹脂12の第2樹脂44が露出している。なお、不図示の外部端子も、封止樹脂12から露出してよい。
【0035】
図3は、本発明の一つの実施形態に係る半導体モジュール200の一例を示す図である。図3の半導体モジュール200は、封止樹脂12が第3樹脂46を有する点で図1の半導体モジュール100と異なる。図3のそれ以外の構成は、図1と同一であってよい。第3樹脂46は、第2樹脂44の少なくとも一部の表面に設けられる。図2の例では、第3樹脂46は、第2樹脂44の上面の全面を覆っている。すなわち、図3では、封止樹脂12が、隣接する層の物性が異なるエポキシ樹脂の3層構造として構成される。第3樹脂46は、一例では、エポキシ樹脂、硬化剤および無機フィラーを主成分として含む。第3樹脂46は、その他に、硬化促進剤、離型剤、着色剤、難燃剤等の添加材を含んでもよい。
【0036】
第3樹脂46は、無機フィラーの含有率(wt%)が、第2樹脂44よりも大きくてよい。一例として、第3樹脂46は、無機フィラーが20wt%以上含まれてよい。したがって、第3樹脂46のガラス転移温度Tgは、第2樹脂44のガラス転移温度Tgより高くてよい。また、第3樹脂46は、無機フィラーの含有率(wt%)が、第1樹脂42よりも小さくてよい。これにより、脆性的な挙動によって亀裂が生じる可能性を相対的に抑えることができる。
【0037】
第3樹脂46は、第2樹脂44より弾性率が大きくてよい。また、封止樹脂12の表面は、第3樹脂46で覆われてよい。これにより、第2樹脂44より相対的に硬い第3樹脂46が露出されるので、第2樹脂44の表面を保護することができる。また、仮に第1樹脂42に亀裂が入った場合でも、機械的性質の異なる第2樹脂44および第3樹脂46が介在するため、線形的な亀裂進展を抑制することができる。すなわち、第2樹脂44、第3樹脂46を貫通して、封止樹脂12の表面に亀裂が到達するのを抑制することができる。このため、半導体モジュール200の信頼性を向上することができる。
【0038】
第3樹脂46は、降伏応力が第2樹脂44よりも大きくてよい。これにより、第2樹脂44が、第3樹脂46よりも早く塑性変形する。その結果、封止樹脂12の表面に露出する第3樹脂46が降伏応力に達し塑性変形するのを抑制できる。このため、封止樹脂12の表面の第3樹脂46から外気が進入することを回避できる。したがって、半導体モジュール200の信頼性を向上することができる。なお、第3樹脂46は、降伏応力が第1樹脂42より小さくてよい。
【0039】
第2樹脂44は、第3樹脂46よりも総体積が大きくてよい。第2樹脂44は、第3樹脂46よりも総重量が大きくてよい。また、第2樹脂44は、第3樹脂46より厚くてよい。一例として、図3において第2樹脂44の厚みT2は、1mm以上でかつ1cm以下である。一例として、図3において第3樹脂46の厚みT3は、1mm以上である。第3樹脂46の厚みT3が大きいと、第3樹脂46の重さにより、第2樹脂44が変形してしまう可能性がある。第2樹脂44を第3樹脂46より厚くすることにより、第2樹脂44の変形を抑えることができる。本例の第3樹脂46は、半導体チップ40、リードフレーム50および回路基板20から離間している。つまり本例の第3樹脂46は、半導体チップ40、リードフレーム50および回路基板20の上面、下面または側面のいずれとも接しない。本例の第3樹脂46は、絶縁基板21の上面、下面および側面のいずれとも接しない。本例の第3樹脂46は、放熱板22の上面、下面および側面のいずれとも接しない。本例の第3樹脂46は、回路パターン26のいずれの面とも接しない。
【0040】
図4は、上面視における半導体モジュール200の一例を示す図である。図4において、図2と同様に樹脂ケース10および封止樹脂12を示している。図2では、上面視において、封止樹脂12の第3樹脂46が露出している。なお、不図示の外部端子も、封止樹脂12から露出してよい。
【0041】
図5は、本発明の一つの実施形態に係る半導体モジュール300の一例を示す図である。図5の半導体モジュール300は、側壁18と封止樹脂12との間に緩衝層48を有する点で図3の半導体モジュール200と異なる。図5のそれ以外の構成は、図3と同一であってよい。
【0042】
緩衝層48は、上面視において第1樹脂42、第2樹脂44および第3樹脂46を囲んでよい。緩衝層48は、側壁18の空間94と対向する面を覆って設けられてよい。つまり、緩衝層48を設けることにより、第1樹脂42、第2樹脂44および第3樹脂46は側壁18に接しない。
【0043】
緩衝層48の弾性率は、第2樹脂44の弾性率より小さくてよい。つまり、緩衝層48の弾性率は、第1樹脂42、第2樹脂44および第3樹脂46のいずれの弾性率より小さくてよい。弾性率が第2樹脂44より小さい緩衝層48を設けることにより、半導体モジュール300が全体変形した際に、緩衝層48が変形に追随する。したがって、封止樹脂12が側壁18から剥離することを防ぐことができる。
【0044】
第1樹脂42、第2樹脂44および第3樹脂46が主成分としてエポキシ樹脂を含む場合、緩衝層48は、一例として、主成分としてシリコーンゲルを含む。主成分とは、当該樹脂における含有率(wt%)が最大の成分である。緩衝層48がシリコーンゲルを含むことにより、緩衝層48の弾性率を第2樹脂44の弾性率より小さくすることができる。
【0045】
Z軸方向において、緩衝層48の厚みT4は、第1樹脂42、第2樹脂44および第3樹脂46の合計の厚み(T1+T2+T3)と同一であってよい。また、緩衝層48は、ワイヤ27、半導体チップ40およびリードフレーム50と接しないことが好ましい。緩衝層48の幅Wは、5mm以下であってよい。緩衝層48の幅Wは、3mm以下であってよい。緩衝層48の幅Wは、1mm以下であってよい。緩衝層48の幅Wを小さくすることにより、緩衝層48がワイヤ27、半導体チップ40およびリードフレーム50を覆わない構成にすることができる。
【0046】
図6は、上面視における半導体モジュール300の一例を示す図である。図6において、図2と同様に樹脂ケース10および封止樹脂12を示している。図6では、上面視において、封止樹脂12の第3樹脂46および緩衝層48が露出している。なお、不図示の外部端子も、封止樹脂12から露出してよい。
【0047】
図6に示すように、緩衝層48は、上面視において第3樹脂6を囲んでいる。緩衝層48は、上面視において幅Wを有して、第3樹脂46を囲んでいる。また、緩衝層48は、内側側壁17を含め、側壁18に対向して設けられている。
【0048】
図7は、封止樹脂12の形成方法の一例を示す図である。封止樹脂12の形成方法は、第1樹脂導入工程S101、第1樹脂仮硬化工程S102、第2樹脂導入工程S103、第2樹脂仮硬化工程S104、第3樹脂導入工程S105、第3樹脂仮硬化工程S106および本硬化工程S107を備える。
【0049】
第1樹脂導入工程S101において、樹脂ケース10に第1樹脂42を導入する。第1樹脂導入工程S101において、ワイヤ27、半導体チップ40およびリードフレーム50を覆うように第1樹脂42を導入する。
【0050】
第1樹脂仮硬化工程S102において、第1樹脂42を仮硬化する。第1樹脂仮硬化工程S102において、第1樹脂42は完全には硬化しない。第1樹脂仮硬化工程S102の温度は、一例として、50℃~65℃である。第1樹脂仮硬化工程S102において、第1樹脂42からガスが発生する。
【0051】
第2樹脂導入工程S103において、樹脂ケース10に第2樹脂44を導入する。第2樹脂導入工程S103において、第1樹脂42の上方に第2樹脂44を導入する。第1樹脂42を仮硬化しているため、第2樹脂44を上方に設けることが可能である。
【0052】
第2樹脂仮硬化工程S104において、第2樹脂44を仮硬化する。第2樹脂仮硬化工程S104において、第1樹脂42および第2樹脂44は完全には硬化しない。第2樹脂仮硬化工程S104の温度は、一例として、50℃~65℃である。第2樹脂仮硬化工程S104において、第2樹脂44からガスが発生する。
【0053】
第3樹脂導入工程S105において、樹脂ケース10に第3樹脂46を導入する。第3樹脂導入工程S105において、第2樹脂44の上方に空間94を満たすように第3樹脂46を導入する。第2樹脂44を仮硬化しているため、第3樹脂46を上方に設けることが可能である。
【0054】
第3樹脂仮硬化工程S106において、第3樹脂46を仮硬化する。第3樹脂仮硬化工程S106において、第1樹脂42、第2樹脂44および第3樹脂46は完全には硬化しない。第3樹脂仮硬化工程S106の温度は、一例として、50℃~65℃である。第3樹脂仮硬化工程S106において、第3樹脂46からガスが発生する。
【0055】
本硬化工程S107において、封止樹脂12を本硬化する。本硬化とは、仮硬化よりも高い温度で封止樹脂12を硬化することである。本硬化工程S107の温度は、一例として、185℃である。本硬化工程S107においても、封止樹脂12からガスが発生する。本硬化工程S107を実施することにより、封止樹脂12に完全に硬化することができる。
【0056】
なお、半導体モジュール100の封止樹脂12を形成する場合、第3樹脂導入工程S105および第3樹脂仮硬化工程S106は実施されなくてよい。この場合、第2樹脂導入工程S103において、空間94を満たすように第2樹脂44を導入する。
【0057】
図8は、半導体モジュール300の封止樹脂12の形成方法の一例を示す図である。半導体モジュール300の封止樹脂12の形成方法は、枠設置工程S201、内側樹脂導入工程S202、内側樹脂硬化工程S203、枠除去工程S204、緩衝層導入工程S205および緩衝層硬化工程S206を備える。
【0058】
枠設置工程S201において、樹脂ケース10に枠60(図9参照)を設置する。枠60は、第1樹脂42、第2樹脂44および第3樹脂46が導入される箇所を囲むように設けられる。枠60は、側壁18に接して設置されてもよいし、側壁18に接して設置されなくてもよい。
【0059】
内側樹脂導入工程S202および内側樹脂硬化工程S203において、第1樹脂42、第2樹脂44および第3樹脂46を導入し、硬化する。つまり、内側樹脂導入工程S202および内側樹脂硬化工程S203において、図7の第1樹脂導入工程S101、第1樹脂仮硬化工程S102、第2樹脂導入工程S103、第2樹脂仮硬化工程S104、第3樹脂導入工程S105、第3樹脂仮硬化工程S106および本硬化工程S107が実施されてよい。本例において、枠60の内側に第1樹脂42、第2樹脂44および第3樹脂46が導入される。
【0060】
枠除去工程S204において、枠60を除去する。枠60を除去することで、第1樹脂42、第2樹脂44および第3樹脂46と樹脂ケース10の間に隙間が生じる。
【0061】
緩衝層導入工程S205において、緩衝層48を導入する。本例において、第1樹脂42、第2樹脂44および第3樹脂46と樹脂ケース10の隙間に緩衝層48を導入する。
【0062】
緩衝層硬化工程S206において、緩衝層48を硬化する。緩衝層硬化工程S206の温度は、一例として、185℃である。
【0063】
図9は、内側樹脂硬化工程S203における半導体モジュール300の一例を示す図である。本例において、枠60は、側壁18に接して設置されていない。図9に示すように枠60の内側に、第1樹脂42、第2樹脂44および第3樹脂46が設けられる。枠除去工程S204において枠60を除去した後、緩衝層導入工程S205において、第1樹脂42、第2樹脂44および第3樹脂46と樹脂ケース10の間には、緩衝層48が導入される。
【0064】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【符号の説明】
【0065】
10・・樹脂ケース、12・・封止樹脂、16・・冷却器、17・・内側側壁、18・・側壁、20・・回路基板、21・・絶縁基板、22・・放熱板、24・・接合層、26・・回路パターン、27・・ワイヤ、30・・接合層、40・・半導体チップ、42・・第1樹脂、44・・第2樹脂、46・・第3樹脂、48・・緩衝層、50・・リードフレーム、52・・チップ接続部、54・・架橋部、56・・回路パターン接続部、60・・枠、84・・貫通孔、94・・空間、100・・半導体モジュール、200・・半導体モジュール、300・・半導体モジュール
図1
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図7
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