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  • 特許-構造体 図1
  • 特許-構造体 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-23
(45)【発行日】2025-01-07
(54)【発明の名称】構造体
(51)【国際特許分類】
   H02K 5/02 20060101AFI20241224BHJP
   H02K 9/19 20060101ALI20241224BHJP
   H02K 11/33 20160101ALI20241224BHJP
   H02K 7/116 20060101ALI20241224BHJP
   H02K 5/08 20060101ALI20241224BHJP
   H02K 3/30 20060101ALI20241224BHJP
【FI】
H02K5/02
H02K9/19 A
H02K11/33
H02K7/116
H02K5/08
H02K3/30
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020200814
(22)【出願日】2020-12-03
(65)【公開番号】P2022088786
(43)【公開日】2022-06-15
【審査請求日】2023-10-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】山本 晋也
(72)【発明者】
【氏名】西川 敦准
(72)【発明者】
【氏名】小坂 弥
(72)【発明者】
【氏名】原田 隆博
【審査官】島倉 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-070199(JP,A)
【文献】特開2010-268586(JP,A)
【文献】特開2001-288334(JP,A)
【文献】特開2016-018826(JP,A)
【文献】特開2013-091474(JP,A)
【文献】実開昭62-082457(JP,U)
【文献】特開2011-247215(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 5/02
H02K 9/19
H02K 11/33
H02K 7/116
H02K 5/08
H02K 3/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジング内に固定子及び回転子を有する構造体であって、
インバータハウジングにインバータ回路を収納したインバータ部と、
前記ハウジングの側面に設けられた冷却水路と、
を有し、
前記インバータ部の底面が前記冷却水路の壁面の一部を構成しており、
前記ハウジングは第1樹脂組成物からなり、
前記第1樹脂組成物は、フェノール樹脂組成物、熱可塑性エンジニアリングプラスチック成形材料、エポキシ樹脂組成物の群から選択される一又は複数からなり、
前記第1樹脂組成物の熱伝導率(レーザフラッシュ法)は0.2W/m・K以上であり、かつ、中央加振法により求められる損失係数ηのピークが20℃以上200℃以下の温度範囲に存在し、
前記第1樹脂組成物の貯蔵弾性率が10GPa以上であり、
前記インバータハウジングは、フェノール樹脂またはエポキシ樹脂からなる第3樹脂組成物からなり、
前記第3樹脂組成物の熱伝導率(レーザフラッシュ法)は0.2W/m・K以上であり、かつ、動的粘弾性測定(周波数10Hz 曲げモード)により求められる損失係数tanδのピークが100℃以上300℃以下の温度範囲に存在する、構造体。
【請求項2】
前記第1樹脂組成物に含まれる強化繊維の含有率が30~60質量%である、
請求項1に記載の構造体。
【請求項3】
前記固定子のスロットには第2樹脂組成物が充填されており、
前記第2樹脂組成物は、エポキシ樹脂組成物であり、
前記第2樹脂組成物の熱伝導率(レーザフラッシュ法)は0.2W/m・K以上であり、かつ、動的粘弾性測定(周波数10Hz 曲げモード)により求められる損失係数tanδのピークが100℃以上300℃以下の温度範囲に存在する、
請求項1または2に記載の構造体。
【請求項4】
前記第2樹脂組成物の貯蔵弾性率が1000MPa以上である、
請求項3に記載の構造体。
【請求項5】
前記第2樹脂組成物に含まれるフィラーの含有率が60~95質量%である、
請求項3または4に記載の構造体。
【請求項6】
前記第2樹脂組成物の煮沸吸水率が0.4%以下である、
請求項3から5までのいずれか1項に記載の構造体。
【請求項7】
前記回転子に取り付けられた回転軸と連結するギアをギアハウジング内に収容したギア部を有し、
前記ギアハウジングは、フェノール樹脂またはエポキシ樹脂からなる第4樹脂組成物からなり、
前記第4樹脂組成物の熱伝導率(レーザフラッシュ法)は0.2W/m・K以上であり、かつ、動的粘弾性測定(周波数10Hz 曲げモード)により求められる損失係数tanδのピークが100℃以上300℃以下の温度範囲に存在する、
請求項1からまでのいずれか1項に記載の構造体。
【請求項8】
前記固定子のステータに、回転軸方向に延在する冷却水路をさらに有する、
請求項1からまでのいずれか1項に記載の構造体。
【請求項9】
前記ハウジングは、前記固定子の周囲を覆う筒状のハウジングケースと、前記ハウジングケースの開口を塞ぐように設けられた第1及び第2ハウジングカバーとを有し、
前記第1及び第2ハウジングカバーのそれぞれには、前記回転子の回転軸を回動自在に支持するベアリングを備える、
請求項1からまでのいずれか1項に記載の構造体。
【請求項10】
前記第2樹脂組成物は、前記固定子のステータの外部に対して回転軸方向に向けて延びて設けられており、前記第2樹脂組成物の軸方向の端部は、前記第1及び第2ハウジングカバーに当接している、
請求項3から6までのいずれか1項に従属する請求項に記載の構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造体に係り、例えば、ハウジング内に固定子及び回転子を有する構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
モータ等の構造体では、例えば自動車の電動化の拡大による、大出力化への対応が求められている。大出力化においては、冷却性能の向上が重要である。一般に、高い冷却性能が要求されるタイプのモータでは、回転子の回転による温度上昇に対して、ステータ全体を油冷で冷やす方式や水路を設けた冷却方式で対応している(例えば特許文献1参照)。
特許文献1に開示の技術では、ステータのティース部に集中巻きしたコイルを、ティース部間のスロットに収容した回転電機において、スロットの内部空間に軸方向に延びる複数のパイプを並列配置し、かつこれらパイプの隙間及びパイプと前記コイルとの隙間に樹脂材料を充填して、ステータ内周側に向けて開口するスロットを閉塞する樹脂層を形成し、パイプ内に冷媒を流している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許4496710号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、冷却方式として油を冷媒として用いる技術では、冷媒の交換時の環境性への影響や、熱伝導性の悪さによる冷却効率の低下が課題であって、別の技術が求められていた。また、水路を設けた冷却方式においても、従来技術では電磁鋼板外周付近の冷却等、熱源であるコイル周辺への直接冷却が実現できず、新たな技術が求められていた。また、モータ等の構造体では、例えば自動車の電動化の流れにおいて、放熱性能に優れ小型化や軽量化に対応できる技術が求められていた。
【0005】
本発明はこのような状況に鑑みなされたものであって、回転子を有する構造体において、熱効率に優れた樹脂製の構造体を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ハウジング内に固定子及び回転子を有する構造体であって、
前記ハウジングは第1樹脂組成物からなり、
前記第1樹脂組成物は、フェノール樹脂組成物、熱可塑性エンジニアリングプラスチック成形材料、エポキシ樹脂組成物の群から選択される一又は複数からなり、
前記第1樹脂組成物の熱伝導率(レーザフラッシュ法)は0.2W/m・K以上であり、かつ、中央加振法により求められる損失係数ηのピークが20℃以上200℃以下の温度範囲に存在する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、回転子を有する構造体において、熱効率に優れた樹脂製の構造体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】第1の実施形態に係る、モータユニットの回転軸方向の縦断面図である。
図2】第2の実施形態に係る、モータユニットの回転軸方向の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<<第1の実施形態>>
<概要>
本実施形態では、回転電機(電動機又、発電機または電動機/発電機の両用機)としてインバータータイプのモータに適用した例を説明する。図1はモータユニット1の回転軸方向の縦断面図を模式的に示している。
【0010】
インバータ型のモータユニット1(構造体)は、ハウジング20内に固定子13(ステータ)及びロータ12(回転子)を有する。ハウジング20は、第1樹脂組成物からなる。具体的には、第1樹脂組成物は、フェノール樹脂組成物、熱可塑性エンジニアリングプラスチック成形材料、エポキシ樹脂組成物の群から選択される一又は複数からなる。その熱伝導率は、レーザフラッシュ法により測定したときに、0.2W/m・K以上であり、かつ、中央加振法により求められる損失係数ηのピークが20℃以上200℃以下の温度範囲に存在する。
以下、モータユニット1の特徴を詳細に説明する。
【0011】
<モータユニット1の構造>
モータユニット1は、モータ10と、図示においてモータ10の上部に取り付けられたインバータ部50とを有し、それらは冷却路70により冷却される。冷却路70は、主にモータ10を冷却する第1冷却路71と、主にインバータ部50を冷却する第2冷却路72とを有している。
【0012】
<モータ10>
モータ10は、ハウジング20と、ハウジング20の内部に収容されたロータ12及び固定子13とを備える。固定子13の中心には出力軸としてシャフト11が取り付けられ、左右二つのベアリング14a、14bにより回転自在に支持されている。
【0013】
<ハウジング20>
ハウジング20は、第1ハウジングカバー21と、第2ハウジングカバー22と、第3ハウジングカバー23とを有する。
【0014】
第3ハウジングカバー23は、円筒形状を呈しハウジングケースであり、内部にロータ12及び固定子13を収容している。このとき、第3ハウジングカバー23)の内周面に固定子13が取り付けられている。
【0015】
第1ハウジングカバー21は、略円盤状に設けられ、第3ハウジングカバー23の軸方向で図示左側の端部開口を閉塞する。第1ハウジングカバー21の内部側の面(図示で右側の面)の中央には、一方のベアリング14aがシャフト11を回転自在に支持して取り付けられている。
【0016】
第2ハウジングカバー22は、略円盤状に設けられ、第3ハウジングカバー23の軸方向で図示右側の端部開口を閉塞する。また、第2ハウジングカバー22の中心には、シャフト11を突出可能とする円形の貫通孔24が設けられている。また、第2ハウジングカバー22の内部側の面(図示で左側の面)の中央には、他方のベアリング14bがシャフト11を回転自在に支持して取り付けられている。
【0017】
ベアリング14a、14bの材料は、例えば、高炭素クロム軸受鋼やステンレス鋼などであって、一般にはJIS規格等で規格化されている材料が用いられる。
【0018】
<シャフト11>
シャフト11は、円柱形状を呈しており、上述のように回転子3の中心に固定されている。シャフト11の一方(図示左側)の端部が、一方のベアリング14aに回動自在に支持されている。シャフト11の他方の端部が、他方のベアリング14bに回動自在に支持されている。シャフト11の材質は、例えば炭素鋼鋼材であって、一般にはJIS規定されている材料が用いられる。
【0019】
<ロータ12>
ロータ12は、内部に軸周方向に等間隔に配置された複数の永久磁石が配置されている。このとき、隣り合う永久磁石の磁極が互いに異なるように設置されている。
【0020】
<固定子13>
固定子13は、円筒型であって、ハウジング20(より具体的には第3ハウジングカバー23)の内周において、ロータ12の外周を取り囲むように配置され固定されている。固定子13の内周面とロータ12の外周面との間には微少な間隙(エアギャップ)が設けられている。
【0021】
固定子13は、薄板状の磁性体である電磁鋼板を複数積層してなる。固定子13にはロータ12側に向いた複数のティース部が配列されている。各ティース部の間にスロットと呼ばれる空間が設けられている。スロットには(例えば分布巻きされた)巻線34が収容され、かつ、巻線34とともに第2樹脂組成物が充填された高熱伝導樹脂封止部36が設けられている。ティース部は上述のロータ12の永久磁石と対応して設けられ、各巻線34を順次励磁していくことにより、これに対応した永久磁石との吸引、反発によりロータ12が回転する。
【0022】
高熱伝導樹脂封止部36は、固定子13の外部に対して回転軸方向に向けて延びて設けられている。高熱伝導樹脂封止部36の軸方向の両端部36a、36bは、それぞれ第1及び第2ハウジングカバー21、22に当接している。これによって、高熱伝導樹脂封止部36の熱、すなわち巻線34の熱を、確実に第1及び第2ハウジングカバー21、22に伝えることができる。
【0023】
また、各スロットには、後述する冷却路70(第1冷却路71)が設けられており、冷却路70を流れる冷媒により巻線34の発熱を効果的に放熱している。なお、本実施形態では冷媒として冷却水Wを用いる構成を例示する。
【0024】
高熱伝導樹脂封止部36の成形方法としては特に限定はしないが、インサート成形を用いることができる。このとき、分布巻き等した巻線34を配置したスロットに、第1冷却路71に対応する金型構造(入れ子構造)を配置してインサート成形することで、所望の構造を有する高熱伝導樹脂封止部36及び第1冷却路71を作ることができる。
【0025】
<インバータ部50>
インバータ部50は、モータ10の外周、より具体的には、第3ハウジングカバー23の図示上側の外周面に設けられている。
【0026】
インバータ部50は、インバータ回路51と、インバータカバー52とインバーターケース53とを有する。
【0027】
インバーターケース53は樹脂製で箱状に設けられており、底面にはインバータ回路51が取り付けられている。インバーターケース53の上側の開口はインバータカバー52により閉じられている。なお、インバーターケース53は、第3ハウジングカバー23から一体に延出して設けられてもよい。
【0028】
インバータ回路51は、例えば、上側からパワー半導体チップと、Cu回路と、Cuベースプレートとを有して積層され、パワー半導体チップは樹脂により封止されている。また、インバーターケース53の底面には開口が設けられ、その開口を塞ぐようにインバータ回路51が設けられている。このとき、放熱手段であるCuベースプレートの下面がその開口から露出しており、後述する冷却路70(第2冷却路72)の冷却水Wにより冷却される。
【0029】
<冷却路70>
冷却路70は、主に、モータ10を冷却する第1冷却路71と、主にインバータ部50を冷却する第2冷却路72を有する。
【0030】
<第1冷却路71>
第1冷却路71は、第2ハウジングカバー22からスロットの高熱伝導樹脂封止部36を経由し第1ハウジングカバー21まで連通して設けられている。
【0031】
具体的には、冷却路70は、第2ハウジングカバー22に設けられた導入部71aと、スロットの高熱伝導樹脂封止部36の循環部71bと、第1ハウジングカバー21に設けられた排出部71cとを有する。
【0032】
循環部71bは、第2ハウジングカバー22側でスロット毎に複数の経路に分岐し、各スロットにおいて軸方向(ここでは図示左方向)に延出し、第3ハウジングカバー23側で集約され排出部71cに繋がる。
【0033】
なお、循環部71bは、分岐せず一つの流路が各スロットを循環する構成でもよいし、各スロットにおいて複数流路として設けられてもよい。また、全てのスロットに流路を設けず、一つおきに流路が設けられてもよい。いずれにせよ、流路の断面積や流路抵抗等を考慮したうえで設計され、モータ10において発生する熱を適切に外部に排熱できればよい。
【0034】
この第1冷却路71は筒状の部品を導入することで設けることができる他、第1ハウジングカバー21、第2ハウジングカバー22や高熱伝導樹脂封止部36を成形するに樹脂材料により直接成形する方法によっても得ることができる。この場合、第1冷却路71の内壁は、ステータに充填された樹脂材料(すなわち第2樹脂組成物)の硬化物の一部として構成される。第1冷却路71が筒状の部品として設けられる場合、アルミニウムまたはアルミニウム合金のような高熱伝導性の非磁性金属や、高熱伝導性の無機材料を用いることができる。さらに、上述したスロットに充填される樹脂材料とは別に設けた樹脂製の筒状の部品が用いられてもよい。また、第1冷却路71が設けられる領域として、主に、スロットに第2樹脂組成物が充填されて形成された高熱伝導樹脂封止部36を想定するが、ヨーク部31やトゥース部に軸方向(電磁鋼板の積層方向)に延びる貫通孔を設け、その貫通孔を第1冷却路71としてもよい。
【0035】
第1冷却路71によると、巻線34周辺の空間(すなわちスロット)を樹脂材料に置き換えることで熱の移動を容易にすることができる。特に巻線34と固定子13が樹脂材料で密着充填されるため、さらに第1冷却路71の内壁10aがその樹脂材料で形成されていることから、それらの間での熱伝導が良好になる。これにより、固定子13の冷却性能を向上させることができ、銅損(巻線34自体の抵抗により消費される損失)を低減させ、モータ出力の向上、モータユニット1の小型化などが実現できる。
【0036】
<第2冷却路72>
第2冷却路72は、第3ハウジングカバー23に設けられており、導入部72aと、循環部72bと、排出部72cとを有する。導入部72aから導入された冷却水Wは、循環部72bを経由して排出部72cから排出される。
【0037】
循環部72bは、インバータ部50が取り付けられていない状態では、外部(図示では上方向)に開口している。インバータ部50が取り付けられることで、循環部72bの開口が塞がれる。このとき、インバータ部50の底面に設けられたインバータ回路51(より具体的には放熱手段であるCuベースプレート)が、循環部72bの内壁面の一部となる。これによって、循環部72bを流れる冷却水Wは直接インバータ回路51を冷却する。
【0038】
なお、第1冷却路71と第2冷却路72に流れる冷却水Wは共通でもよいし別でもよい。また、異なる冷媒(例えば冷却水と冷却油)が用いられてもよい。
【0039】
なお、冷却路70において、それらを構成する要素の接合部分等には適宜冷却水Wの漏れを防止する為に必要なパッキン、Oリング、シール材などが配置される。
【0040】
<ハウジング20の材料>
ハウジング20は第1樹脂組成物からなる。具体的には、第1樹脂組成物は、例えばフェノール樹脂組成物、熱可塑性エンジニアリングプラスチック成形材料、エポキシ樹脂組成物の群から選択される一又は複数からなる。なお、第1樹脂組成物には、硬化剤や無機充填剤等が適宜含有される。
【0041】
フェノール樹脂としては、例えばフェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ビスフェノールAノボラック樹脂等のノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂等が挙げられる。
【0042】
エポキシ樹脂としては、一分子中にエポキシ基を2個以上有するものであれば特に分子量や構造は限定されるものではない。
エポキシ樹脂としては、例えばフェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂;ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂;N,N-ジグリシジルアニリン、N,N-ジグリシジルトルイジン、ジアミノジフェニルメタン型グリシジルアミン、アミノフェノール型グリシジルアミンのような芳香族グリシジルアミン型エポキシ樹脂;ハイドロキノン型エポキシ樹脂;ビフェニル型エポキシ樹脂;スチルベン型エポキシ樹脂;トリフェノールメタン型エポキシ樹脂;トリフェノールプロパン型エポキシ樹脂;アルキル変性トリフェノールメタン型エポキシ樹脂;トリアジン核含有エポキシ樹脂;ジシクロペンタジエン変性フェノール型エポキシ樹脂;ナフトール型エポキシ樹脂;ナフタレン型エポキシ樹脂;ナフチレンエーテル型エポキシ樹脂;フェニレンおよび/またはビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂、フェニレンおよび/またはビフェニレン骨格を有するナフトールアラルキル型エポキシ樹脂等のアラルキル型エポキシ樹脂等のエポキシ樹脂、またはビニルシクロヘキセンジオキシド、ジシクロペンタジエンオキシド、アリサイクリックジエポキシ-アジペイド等の脂環式エポキシ等の脂肪族エポキシ樹脂が挙げられる。これらは単独でも2種以上混合して使用しても良い。
エポキシ樹脂を含む場合、芳香族環にグリシジルエーテル構造あるいはグリシジルアミン構造が結合した構造を含むものが、耐熱性、機械特性、および耐湿性の観点から好ましい。
【0043】
熱可塑性エンジニアリングプラスチックとしては、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、シンジオタクチックポリスチレン(SPS)またはポリアミド(PA)からなる群より選ばれる1種または2種以上が挙げられる。
【0044】
硬化剤は、熱硬化性樹脂に好ましい態様として含まれるエポキシ樹脂が選択される場合に、三次元架橋させるために用いられるものである。硬化剤としては、特に限定されないが、例えばフェノール樹脂を用いることができる。このようなフェノール樹脂系硬化剤は、一分子内にフェノール性水酸基を2個以上有するモノマー、オリゴマー、ポリマー全般であり、その分子量、分子構造を特に限定するものではない。
フェノール樹脂系硬化剤としては、例えば、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ナフトールノボラック樹脂等のノボラック型樹脂;トリフェノールメタン型フェノール樹脂等の多官能型フェノール樹脂;テルペン変性フェノール樹脂、ジシクロペンタジエン変性フェノール樹脂等の変性フェノール樹脂;フェニレン骨格及び/又はビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル樹脂、フェニレン及び/又はビフェニレン骨格を有するナフトールアラルキル樹脂等のアラルキル型樹脂;ビスフェノールA、ビスフェノールF等のビスフェノール化合物、ナフテン酸コバルト等のナフテン酸金属塩等が挙げられる。これらは、1種類を単独で用いても2種類以上を併用してもよい。
【0045】
無機充填剤としては、固定用樹脂組成物の技術分野で一般的に用いられる無機充填剤(フィラーや強化繊維)を使用することができる。無機充填剤としては、例えば溶融破砕シリカ及び溶融球状シリカ等の溶融シリカ、結晶シリカ、アルミナ、カオリン、タルク、クレイ、マイカ、ロックウール、ウォラストナイト、ガラスパウダー、ガラスフレーク、ガラスビーズ、ガラスファイバー、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化アルミ、カーボンブラック、グラファイト、二酸化チタン、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、硫酸バリウム、セルロース、アラミド、木材、フェノール樹脂成形材料やエポキシ樹脂成形材料の硬化物を粉砕した粉砕粉等が挙げられる。この中でも、溶融破砕シリカ、溶融球状シリカ、結晶シリカ等のシリカが好ましく、溶融球状シリカがより好ましい。また、この中でも、炭酸カルシウムがコストの面で好ましい。無機充填剤としては、一種で使用しても良いし、または二種以上を併用してもよい。
【0046】
<ハウジング20の物性>
第1樹脂組成物について、レーザフラッシュ法により測定される熱伝導率は0.2W/m・K以上である。熱伝導率の下限は好ましくは0.25W/m・K以上であり、より好ましくは0.3W/m・K以上である。熱伝導率の上限は、良好な熱伝導率を実現する観点では特に限定はしないが、例えば現実的な値として2.0W/m・K以下とすることができる。例えば、フェノール樹脂組成部の熱伝導率は0.3~0.6W/m・Kであり、エポキシ樹脂では0.8W/m・Kである。
【0047】
第1樹脂組成物の損失係数ηのピークが20℃以上200℃以下の温度範囲に存在する。損失係数ηは中央加振法(機械インピーダンス法ともいう)により求められる。損失係数ηのピークの下限は、好ましくは30℃以上であり、より好ましくは50℃以上である。損失係数ηのピークの上限は、好ましくは175℃以下であり、より好ましくは150℃以下である。損失係数ηが上記範囲にあることで、ハウジング20は良好な振動特性を発揮する。
【0048】
第1樹脂組成物の貯蔵弾性率(ヤング率)が10GPa以上である。貯蔵弾性率の下限は、好ましくは15GPaであり、より好ましくは20GPaである。貯蔵弾性率の上限は、高いほど好ましいが、第1樹脂組成物に含まれる基材種及びその量によって定まるものであり、例えばカーボンファイバー等を含有することで50GPaを実現した材料もあり、それを用いることができる。
【0049】
第1樹脂組成物に含まれる強化繊維の含有率が30~60質量%である。強化繊維として、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維など、要求される性能に応じて組み合わせて用いられる。
【0050】
<高熱伝導樹脂封止部36の材料及び物性>
高熱伝導樹脂封止部36の材料である第2樹脂組成物は熱硬化性樹脂であって、例えば、エポキシ樹脂組成物を好適に用いることができる。エポキシ樹脂組成物として、第1樹脂組成物で例示した材料を用いることができる。第2樹脂組成物であるエポキシ樹脂組成物に含まれるフィラーの含有率が60~95質量%である。フィラーとして、例えばシリカやアルミナを用いることができる。
【0051】
第2樹脂組成物の熱伝導率(レーザフラッシュ法による)は0.2W/m・K以上である。
第2樹脂組成物の動的粘弾性測定により求められる損失係数tanδのピークが100℃以上300℃以下の温度範囲に存在する。なお、動的粘弾性測定は、測定装置「エー・アンド・デー社製 DDV-25GP」を用いて、周波数10Hz 曲げモードにより測定される。以下、動的粘弾性測定は同様に測定されるものである。
第2樹脂組成物の貯蔵弾性率が1000MPa以上である。
【0052】
<インバータカバー52、インバーターケース53の材料及び物性>
インバータハウジングであるインバータカバー52とインバーターケース53は、第3樹脂組成物からなる。具体的には、第3樹脂組成物は熱硬化性樹脂であって、例えばフェノール樹脂またはエポキシ樹脂からなる。
【0053】
第3樹脂組成物の熱伝導率(レーザフラッシュ法)は0.2W/m・K以上である。
動的粘弾性測定により求められる損失係数tanδのピークが100℃以上300℃以下の温度範囲に存在する。
【0054】
<第1の実施形態の効果>
以上、本実施形態によると、モータ10のハウジング20(第1ハウジングカバー21、第2ハウジングカバー22、第3ハウジングカバー23)やインバータ部50の筐体(インバータカバー52やインバーターケース53)を樹脂製とすることで、他部材への密着性を改善でき、かつ軽量化を実現できる。また、樹脂製であることで、成形性・加工性が優れているため設計の自由度が大幅に高まるとともに、振動を吸収し、騒音を低下させることができる。
【0055】
また、冷却路70により、モータ10とインバータ部50とを冷却できる。すなわち、第1冷却路71では、巻線34の近傍での効果的な冷却により、ステータ外径部での強制冷却や空冷が不要となり、その結果、金属製ハウジングで必要とされた熱伝導性が不必要となり、一層の軽量化を実現できる。すなわち、樹脂ハウジングを適用することで、樹脂製モータを製作することができる。
【0056】
また、冷却路70を熱源である巻線34やインバータ回路51周辺に設置できる。第1冷却路71では、電磁気特性への影響を最小限に抑えるため、巻線34の内径側スロット部に軸方向に延びる構成で設置し、第1冷却路71を高熱伝導樹脂を用いて一括成形かつこの樹脂成形体の成形性・加工性を利用することで、一層のコンパクト化や軽量化、また設計の自由度向上を実現できる。
【0057】
<<第2の実施形態>>
図2を参照して本実施形態のモータユニット1Aを説明する。本実施形態のモータユニット1Aは、第1の実施形態のモータユニット1にギア部60を追加した構成となっている。以下では、異なる部分について説明し、同様の構成・機能等については説明を省略する。
【0058】
モータユニット1Aは、シャフト11の出力側、すなわち図示右側の領域に、ギア部60を有する。ギア部60は、第2ハウジングカバー22の右側に設けられたギアハウジング62と、シャフト11と連結する遊星ギア61と、遊星ギア61により減速された回転出力する減速機出力シャフト63とを有する。減速機出力シャフト63は、シャフト11と同軸にギアハウジング62に設けられている。なお、第2ハウジングカバー22が省かれて、ギアハウジング62がギア部60とともにモータ10の内部を密閉する構造とされてもよい。
【0059】
ギアハウジング62は、第4樹脂組成物からなり、具体的には、フェノール樹脂またはエポキシ樹脂からなる。第4樹脂組成物として、上述の第1樹脂組成物と同じ材料を用いることができる。
【0060】
本実施形態のモータユニット1Aによると、第1の実施形態と同様の効果が得られる。また、ギア部60の遊星ギア61とモータ10のハウジング20を樹脂組成物で構成して一体に有することで、モータユニット1Aの小型化・軽量化をより実現できる。なお、ギア部60は、上述のように遊星ギア61を用いて減速機出力シャフト63とシャフト11を同軸とする構成に限らず、連結ギアにより2軸とする構成であってもよい。
【0061】
<モータユニット1(構造体)の特徴・機能のまとめ>
第1及び第2の実施形態の特徴について纏めて説明する。
(1)モータユニット1は、ハウジング20内に固定子13及びロータ12を有する。ハウジング20は第1樹脂組成物からなり、第1樹脂組成物は、フェノール樹脂組成物、熱可塑性エンジニアリングプラスチック成形材料、エポキシ樹脂組成物の群から選択される一又は複数からなる。第1樹脂組成物の熱伝導率(レーザフラッシュ法)は0.2W/m・K以上であり、かつ、中央加振法により求められる損失係数ηのピークが20℃以上200℃以下の温度範囲に存在する。
(2)第1樹脂組成物の貯蔵弾性率(ヤング率)が10GPa以上である。
(3)第1樹脂組成物に含まれる強化繊維の含有率が30~60質量%である。
(4)固定子13のスロット35には第2樹脂組成物(すなわち高熱伝導樹脂封止部36)が充填されている。第2樹脂組成物は、エポキシ樹脂組成物であり、その熱伝導率(レーザフラッシュ法)は0.2W/m・K以上であり、かつ、動的粘弾性測定により求められる損失係数tanδのピークが100℃以上300℃以下の温度範囲に存在する。
(5)第2樹脂組成物の貯蔵弾性率が1000MPa以上である。
(6)第2樹脂組成物に含まれるフィラーの含有率が60~95質量%である。
(7)第2樹脂組成物の煮沸吸水率が0.4%以下である。
(8)インバータハウジング(インバータカバー52、インバーターケース53)にインバータ回路51を収納したインバータ部50をさらに有する。インバータハウジング(インバータカバー52、インバーターケース53)は、フェノール樹脂またはエポキシ樹脂からなる第3樹脂組成物からなり、その熱伝導率(レーザフラッシュ法)は0.2W/m・K以上であり、かつ、動的粘弾性測定により求められる損失係数tanδのピークが100℃以上300℃以下の温度範囲に存在する。
(9)ロータ12に取り付けられたシャフト11と連結する連結ギア61をギアハウジング62内に収容したギア部60を更に有する。ギアハウジング62は、フェノール樹脂またはエポキシ樹脂からなる第4樹脂組成物からなり、その熱伝導率(レーザフラッシュ法)は0.2W/m・K以上であり、かつ、動的粘弾性測定により求められる損失係数tanδのピークが100℃以上300℃以下の温度範囲に存在する。
(10)固定子13(より具体的にはスロット)に、回転軸方向に延在する第1冷却路71をさらに有する。
(11)ハウジング20は、固定子13の周囲を覆う筒状の第3ハウジングカバー23と、第3ハウジングカバー23の開口を塞ぐように設けられた第1及び第2ハウジングカバー21、22とを有し、第1及び第2ハウジングカバー21、22のそれぞれには、ロータ12のシャフト11を回動自在に支持するベアリング14a、14bを備える。
(12)高熱伝導樹脂封止部36は、固定子13の外部に対して回転軸方向に向けて延びて設けられており、第2樹脂組成物の軸方向の端部36a、36bは、第1及び第2ハウジングカバー21、22に当接している。
【0062】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【実施例
【0063】
本発明の実施形態を実施例に基づき説明する。
実施例1~4の材料を用いて、実施形態の高熱伝導樹脂封止部36(第2樹脂組成物による構成)を作成した構造体(モータユニット)を評価した。
【0064】
表1は実施例1~4の物性値を示し、表2は第2樹脂組成物を調製するのに使用した原材料の配合比(質量%)を示す。原材料及び製品名等は次の通りである。
(A)フィラー
アルミナ(カットポイント55μm)
シリカ(球状シリカ)
(B)エポキシ樹脂1(ビフェニル型エポキシ樹脂/三菱ケミカル株式会社製、「YX4000」)
エポキシ樹脂2(ビスフェノールA型エポキシ樹脂/三菱ケミカル株式会社製、「jER1001」)
(C)硬化剤
フェノール樹脂1(明和化成株式会社製「MEH-7500」)
フェノール樹脂2(明和化成株式会社製「MEH-7851SS」)
フェノール樹脂3(フェノールノボラック樹脂/住友ベークライト株式会社製「PR-55617」)
フェノール樹脂4(フェノールノボラック樹脂/住友ベークライト株式会社製「PR-51714」)
(D)カップリング剤(フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン/東レ・ダウコーニング株式会社製「CF4083」)
(E)触媒(トリフェニルホスフィン(TPP))
(F)着色剤(カーボンブラック/三菱ケミカル株式会社製「カーボン#5」)
(G)離型材(カルバナワックス/日興リカ株式会社製「ニッコウカルバナ」)
【0065】
実施例1~4の何れの場合においても、良好な熱伝導性が確認でき、また、冷却路70(第1冷却路71)を形成する際に良好な成形を示した。これによって、高熱伝導樹脂封止部36の第1冷却路71により、巻線34の発熱を効果的に放熱することが確認できた。
【0066】
【表1】
【表2】
【0067】
なお、実施形態の第1、第3、第4樹脂組成物について、表3に示す物性値を有する樹脂組成物(ハウジング20、インバータハウジング(インバータカバー53、インバーターケース53)、ギアハウジング62)を作り、強度特性や熱伝導性を評価したところ、モータ10の構成要素として良好な結果が得られた。なお、第1樹脂組成物と第4樹脂組成物の原材料は同じである。
【0068】
【表3】
【符号の説明】
【0069】
1、1A モータユニット
10 モータ
11 シャフト
12 ロータ
13 固定子
14a、14b、64 ベアリング
20 ハウジング
21 第1ハウジングカバー
22 第2ハウジングカバー
23 第3ハウジングカバー
24 貫通孔
31 ヨーク部
33 スロット
34 巻線(コイル)
35 スロット部
36 高熱伝導樹脂封止部
50 インバータ部
51 インバータ回路
52 インバータカバー
53 インバーターケース
60 ギア部
61 遊星ギア
62 ギアハウジング
70 冷却路
71 第1冷却路
71a 導入部
71b 循環部
71c 排出部
72 第2冷却路
72a 導入部
72b 循環部
72c 排出部
W 冷却水
図1
図2