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  • 特許-電池モジュール 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-23
(45)【発行日】2025-01-07
(54)【発明の名称】電池モジュール
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/658 20140101AFI20241224BHJP
   H01M 50/20 20210101ALI20241224BHJP
   H01M 10/613 20140101ALI20241224BHJP
   H01M 10/625 20140101ALI20241224BHJP
   H01M 10/647 20140101ALI20241224BHJP
   H01M 10/653 20140101ALI20241224BHJP
   H01M 10/6555 20140101ALI20241224BHJP
【FI】
H01M10/658
H01M50/20
H01M10/613
H01M10/625
H01M10/647
H01M10/653
H01M10/6555
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2020202779
(22)【出願日】2020-12-07
(65)【公開番号】P2022090396
(43)【公開日】2022-06-17
【審査請求日】2023-03-13
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(72)【発明者】
【氏名】安藤 翔
【審査官】新田 亮
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/010395(WO,A1)
【文献】特開2017-139099(JP,A)
【文献】特開2015-088236(JP,A)
【文献】特開2019-175718(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/658
H01M 50/20
H01M 10/613
H01M 10/625
H01M 10/647
H01M 10/653
H01M 10/6555
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の電池セルを、セパレータを介して積層した電池モジュールであって、
前記セパレータが、二つの冷却材と該二つの冷却材の間において前記電池セルの側面の中央部となるように配置された膨張抑制材とを備え、前記二つの冷却材が前記電池セルに接触しており、
前記冷却材が厚さ方向に直交する二つの側面を有する、板状またはフィルム状部材であり、一方の前記側面が前記電池セルに接触しており、前記冷却材の厚みが1mm以上である、
電池モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電池モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
近年の電池に対する高出力かつ小型化の要求に伴い、電池セルの高容量化が進められている一方、複数の電池セルを組み合わせた電池モジュールに対する安全性の確保が重要な課題になっている。特に、電池モジュールに含まれる電池セルの一つが熱暴走したときに、周囲の電池セルに熱連鎖していき、最終的に電池モジュールが破裂または発火することは、避けられるべきである。
【0003】
特許文献1は、電池セル間に配置され冷媒を備えるウィックが、電池セル側面に接触し、電池セル側面温度が冷媒の沸点を超えると、側面において冷媒が沸騰し、電池セルを冷却する電池パックを開示している。特許文献2は、繊維材料および繊維材料より高い断熱性を有する断熱材料を含む断熱シートと、断熱シートよりも高い形状安定性を有する成形部材であるセパレータを開示している。特許文献3は、少なくとも一部の隣り合う電池セルの間に配置された第1伝熱部材及び第1熱膨張材を含み、その材料が発泡性樹脂であることを開示している。特許文献4は、難燃断熱シートについて開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-161528号公報
【文献】国際公開2020-137062号公報
【文献】国際公開2019-151037号公報
【文献】特開2019-147357号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図3は従来のセパレータ20’を用いた電池モジュールにおける熱暴走の様子を説明する断面概要図である。(a)は熱暴走前、(b)は熱暴走後である。図3(a)に示すように、熱暴走前には、電池セル10と隣接する電池セル10間に配置されたセパレータ20’とのすべての側面は平行になるように積層されている。しかしながら、図3(b)に示すように、中央の電池セル10の熱暴走後には、中央の電池セル10の側面10aにおいて膨張が発生し、中央の電池セル10に接触して配置されたセパレータ20’は押しつぶされ、中央の電池セル10の側面10aと隣接する電池セル10の側面10bとの距離が近くなり、熱暴走した電池セル10から隣接電池セルへの熱伝搬の抑制が十分でなくなる虞がある。また、セパレータ20’による熱伝搬の抑制が十分でないことで、隣接する電池セル10の側面10bにおける膨張を発生させ、さらなる熱暴走を引き起こす虞がある。なお、異常発熱による、電池セル10の側面10aおよび側面10bにおける膨張は、側面の中央部で特に顕著である。
【0006】
そこで、本開示の目的は、上記実情を鑑み、電池モジュール内の電池セルが異常発熱を起こした際、隣接電池セルへの熱伝搬を抑制し、類焼を防止または遅延させる事ができる電池モジュールを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、上記課題を解決するための一つの手段として、複数の電池セルを、セパレータを介して積層した電池モジュールであって、セパレータが、二つの冷却材と該二つの冷却材の間に配置された膨張抑制材とを備え、二つの冷却材が電池セルに接触している、電池モジュールを提供する。
【発明の効果】
【0008】
本開示の電池モジュールによれば、電池モジュール内の電池セルが異常発熱を起こした際、隣接電池セルへの熱伝搬を抑制し、類焼を防止または遅延させる事ができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】一実施形態である電池モジュール100の斜視概要図である。
図2図1の電池モジュール100をI-I面で切断した、隣接する3つの電池セルの断面概要図である。(a)は熱暴走前、(b)は熱暴走後である。
図3】従来のセパレータを用いた電池モジュールにおける熱暴走の様子を説明する断面概要図である。(a)は熱暴走前、(b)は熱暴走後である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。ただし、以下に示す実施形態は、本発明の技術思想を具体化するための例示であって、本発明は以下の実施形態に特定されない。
【0011】
[電池モジュール]
電池モジュールは、電池セルを複数個使用し、直列接続や並列接続させ、容量や電圧を調整したものである。図1は、一実施形態である電池モジュール100の斜視概要図である。図1に示すように、電池モジュール100は、積層された複数の電池セル10と、隣接する電池セル同士の間に、それぞれ介在するセパレータ20と、積層された複数の電池セル10の両端部に配置されるエンドプレート40と、を備える。以下、電池セル10が積層される方向を厚さ方向ともいう。
また、図2は、図1の電池モジュール100をI-I面で切断した際の、隣接する3つの電池セルの断面概要図である。(a)は熱暴走前、(b)は熱暴走後である。図2(a)および図2(b)に示すように、隣接する電池セル同士の間に介在するセパレータ20は、2つの冷却材21と2つの冷却材21の間に配置された膨張抑制材22とから形成されている。
電池モジュール100は、電池ケースに格納されていてもよく、電池ケースの外壁によって密閉される内部空間に電池モジュール100が備えられてもよい。
【0012】
<電池セル>
図1には、隣接する電池セルの厚さ方向に直交する側面がすべて平行となるように、5つの角型の電池セル10が、並列接続で配置されている様子が示されている。電池セル10は、正極端子11及び負極端子12からなる1対の電極端子と二次電池本体13とを備えている公知の二次電池セルを使用することができ、例えば、リチウムイオン二次電池、ニッケル水素二次電池、ニッケルカドミウム二次電池等が挙げられる。電池セル10の形状は、複数の電池セル10で積層ができればよく、円筒型、角型、ラミネート型などが挙げられる。例えば、電池セル10の形状が角型電池であるときはバスバーを使用して、電池セル10の形状がラミネート型電池であるときはタブリード自体を超音波溶接させて、電池モジュール100が組まれる。電池モジュール100を構成する電池セル10は、複数個であればよく、その個数に制限はなく、配列は、隣接する電池セル同士の間に2つの冷却材21と2つの冷却材21の間に配置された膨張抑制材22とから形成されたセパレータ20が配置できればよく、直列接続でも並列接続でもまたその混合でもよく接続状態は制限されない。
【0013】
<セパレータ>
セパレータ20は、積層した複数の電池セル10間にそれぞれ配置され、隣接する電池セル同士の絶縁をする部材である。なお、絶縁材を電池セル10の表面に被覆することで隣接する電池セル同士を絶縁する機能をもたせてもよい。図2に示すように、セパレータ20は、2つの冷却材21と2つの冷却材21間に配置された膨張抑制材22とから形成されている。
【0014】
<冷却材>
冷却材21は、異常発熱した電池セル10を冷却する部材であり、板状、フィルム状であり、2つの冷却材21は、厚さ方向に直交する二つの側面を有する。隣接する電池セル10の対向面に接触するように冷却材21の一つの側面が配置され、冷却材21の逆の側面は、後述する膨張抑制材22に接触するように配置される。すなわち、2つの冷却材21が膨張抑制材22を狭着し、隣接する電池セル10の対向面間にセパレータ20として介在するように配置される。電池セル10の側面と冷却材21の側面とは厚さ方向に直交する面ですべて平行となるように配置される。
【0015】
冷却材21は、電池セル10の発熱を抑制する部材であり、その材料は、難燃性で冷却効果のある材料であればよいが、例えば、絶縁フィルム付きのアルミ、鉄、銅、ステンレス鋼等からなる金属板などが挙げられる。また、絶縁フィルムとしては、例えば、ポリテトラフルオロエチン(PTFE)が挙げられ、フッ素樹脂コーティング等によって、金属板を被覆する。なお、絶縁材で電池セル10の表面に被覆していれば冷却材21は絶縁機能を持たなくても良い。
【0016】
また、電池セル10の発熱は電池セル10全体で発生するため、冷却材21は、電池セル10全体を冷却することが好ましい。すなわち、冷却材21は、電池セル10全体を冷却することができればよく、冷却材21の側面形は電池セル10の側面形と異なっていてもよいが、冷却材21の側面形は、電池セル10の側面形とほぼ等しいことが好ましい。冷却材21の材料および冷却材の厚さにもよるが、例えば、1mm厚のアルミ板であれば、冷却材21の側面積は、電池セル10の側面積の70%~100%程度であってもよい。
【0017】
冷却材21の厚みは、冷却性能を担保する観点から、0.5mm以上が好ましい。また、車両搭載を踏まえ小型化する観点から、2mm以下が好ましい。
【0018】
<膨張抑制材>
膨張抑制材22は、板状、フィルム状であり、厚さ方向に直交する二つの側面を有する。膨張抑制材22の両側面は、隣接する電池セル10の対向面に接触するように配置された2つの冷却材21に狭着されるように配置される。膨張抑制材22は、異常発熱により電池セル10の膨張が顕著となる電池セル10の側面の中央部に配置されることが好ましい。
【0019】
膨張抑制材22は、電池セル10の発熱による膨張を抑制する部材であり、その材料は、難燃性の材料であればよく、例えば、フェノール樹脂、グラスウール、ロックウール、石膏、珪藻土、難燃繊維などが挙げられる。
【0020】
膨張抑制材22の両側面を狭着する2つの冷却材21同士の非接触部位を広く設けることで、非接触部位における空気層によって断熱効果が高まるので、膨張抑制材22の側面積は小さくすることが好ましい。また、膨張抑制材22は、隣接する電池セル10の異常発熱による中央部の膨張を一定量に抑える強度をもつことが好ましい。膨張抑制材22の側面積は、冷却材21の強度にもよるが、側面積の20%~50%程度であってもよい。
【0021】
膨張抑制材22の厚みは、膨張抑制を担保する観点から、0.5mm以上が好ましい。また、車両搭載を踏まえ小型化する観点から、2mm以下が好ましい。
電池セルの膨張は、熱暴走を起こした電池セルにおいて発生することに加えて、熱暴走を起こした電池セルからの受熱により、隣接した電池セルにおいても発生しうる。特に、電池セルが異常発熱した場合、電池セルの側面において中央部の膨張が顕著である。そこで、膨張抑制材22を2つの冷却材21間の側面の中央部に挟むことにより、電池セル10の膨張を一定量に抑える事ができる。また、電池セル10の膨張を一定量に抑えられることにより、膨張抑制材22の両側面に配置されている2つの冷却材21が互いに接触することを防ぐことができる。これにより、2つの冷却材21間に空気層が確保され、異常発熱した電池セルから隣接する電池セルへの熱伝搬を抑制することができる。
【0022】
膨張抑制材22は2つの冷却材21間の側面の中央部に挟まれていればよく、その側面形は特に限定されず、例えば、正方形、長方形、多角形、円形、楕円形等が挙げられるが、円形が好ましい。円形であれば、側面形のエッジ部に圧力がかかり難い。
膨張抑制材22は、2つの冷却材21間の側面の中央部に配置する方法としては、例えば、テープによる接着が挙げられる。積層された複数の電池セル10および複数のセパレータ20は、後述のエンドプレートに拘束され、複数の電池セル10間は一定の圧力が加わっており、さらに熱膨張が発生するとその拘束圧は上がるため、位置決めが出来る程度の固定であってもよい。
【0023】
<エンドプレート>
互いの側面が対向するように交互に積層された複数の電池セル10および複数のセパレータ20は、一対のエンドプレート40と締結具(不図示)とによって拘束される。
エンドプレート40は、公知のエンドプレートを制限なく用いることができ、例えば、アルミ、鉄、銅等からなる金属板が挙げられ、セパレータ20を介して電池セル10と隣り合うことで、電池セル10に対して絶縁される。なお、絶縁材をエンドプレート40の表面に被覆することで電池セル10と隣接させてもよい。
エンドプレート40による積層された複数の電池セル10および複数のセパレータ20は、公知の締結具で拘束することができる。
【実施例
【0024】
[評価用電池モジュール]
図1に示すような5個の電子セルからなる評価用電池モジュールを作製した。実施例1~実施例6及び比較例1は同様の電池セルを使用し、電池セルの側面のサイズは、148mm×90mmとした。実施例1~実施例6は電池セル間に電池セル間セパレータとして冷却材21と膨張抑制材22とを配置した。比較例1では冷却材21と膨張抑制材22とを使用せず、電池セル間のセパレータとして、その側面のサイズが電池セルの側面のサイズと縦横ともに同サイズである3mm厚のポリプロピレン(PP)樹脂を使用した。実施例1~実施例6では、冷却材はその側面のサイズが電池セルの側面のサイズと縦横ともに同サイズであるステンレス鋼(SUS)板とし、膨張抑制材はその側面のサイズが2cm×2cmであるフェノール樹脂とした。膨張抑制材は、冷却材の側面の中央部に配置し、実施例1~実施例6における冷却材21および膨張抑制材22の厚さは表1に示したとおりである。表1は、実施例1~実施例6および比較例1における電池セル間セパレータの各部材の厚さと後述する釘刺しによる熱連鎖試験の結果を示す。
【0025】
【表1】
【0026】
[釘刺しによる熱連鎖試験]
安全性試験のひとつで、内部短絡のシミュレーション試験として、電池に釘を貫通させ、内部短絡を疑似的に発生させ、電池が発火、破裂しないことを確認する釘刺し試験がある。実施例1~実施例6及び比較例1の評価用電池モジュールについて、中央の電池セルの釘刺しをトリガーとし、熱連鎖試験を実施した。
【0027】
釘刺しによる熱連鎖試験の条件は以下のとおりである。
<条件>
・釘:Φ6mm、先端角60°
・釘速度:2mm/sec
・開始SOC(State of Charge、充電状態):100%
【0028】
[結果]
表1には、比較例1の中央の電池セルの釘刺しから連鎖発煙までの時間を1としたときの実施例1~実施例6の中央の電池セルの釘刺しから連鎖発煙までの時間の比が示されている。表1が示すように、実施例1~実施例5では、中央の電池セルの釘刺しから連鎖発煙までの時間が、比較例1の1.9倍~5.7倍となっており、隣接電池セルへの熱伝搬が抑制され、連鎖発煙(類焼)が遅延している。さらに、実施例6では、熱連鎖による連鎖発煙が防止されている。つまり、本開示の電池モジュールによれば、電池モジュール内の電池セルが異常発熱を起こした際、隣接電池セルへの熱伝搬を抑制し、類焼を防止または遅延させる事ができる。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本開示の電池モジュールは、車搭載用等の大型電源から携帯端末用等の小型電源まで広く利用可能である。
【符号の説明】
【0030】
10 電池セル
10a、10b 側面
11 正極端子
12 負極端子
13 二次電池本体
20、20´ セパレータ
21 冷却材
22 膨張抑制材
40 エンドプレート
100 電池モジュール
図1
図2
図3