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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-23
(45)【発行日】2025-01-07
(54)【発明の名称】テーラードブランク溶接装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/21 20140101AFI20241224BHJP
   B23K 26/00 20140101ALI20241224BHJP
【FI】
B23K26/21 F
B23K26/00 M
B23K26/00 Q
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2021027094
(22)【出願日】2021-02-24
(65)【公開番号】P2022128720
(43)【公開日】2022-09-05
【審査請求日】2023-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(74)【代理人】
【氏名又は名称】田渕 経雄
(74)【代理人】
【氏名又は名称】田渕 智雄
(72)【発明者】
【氏名】山内 淳司
【審査官】杉田 隼一
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-249305(JP,A)
【文献】特開2016-198828(JP,A)
【文献】特開2015-074059(JP,A)
【文献】国際公開第2019/049947(WO,A1)
【文献】特開昭61-134808(JP,A)
【文献】特開2020-019071(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0269340(US,A1)
【文献】特開2019-126832(JP,A)
【文献】特開2003-94183(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/21
B23K 26/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1、第2のワーク材を突合せて突き合わされた所を溶接するロボットと、
前記ロボットの温度を測定する温度測定装置と、
前記ロボットの溶接軌跡を撮像してその画像を取得するカメラと、
前記ロボット、前記温度測定装置および前記カメラを制御する制御装置と、
を有し、
前記ロボットの温度変化が所定の閾値を超えた場合、前記制御装置は、前記カメラによる溶接軌跡画像の処理結果に基づいて、前記ロボットによる溶接狙い位置のズレ量を算出し、前記ロボットの溶接狙い位置を補正し、
前記制御装置へは、溶接狙い位置の前記ズレ量に基づいて補正値が自動入力され、
前記カメラは、撮像用ミラーを介して前記溶接軌跡を撮像する、テーラードブランク溶接装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テーラードブランク溶接装置に関する。
【背景技術】
【0002】
板厚や材質の異なるワーク材を突合せ突き合わされた所を線溶接しプレス用の素材(テーラードブランク)を製造するテーラードブランク溶接装置がある(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
ところで、テーラードブランクの溶接品質は、突き合わされたワーク材同士の境界線を正確にレーザ照射することで維持される。特に、ロボットによるテーラード溶接では、ティーチング作業によるコンマ数ミリの微調整により品質を制御している。
【0004】
しかし、一般的に、ロボットは金属で構成されている。そのため、図7に示すように、ロボット2は、季節変動による外気温変動やロボット稼働中のモータ発熱による線膨張により、ロボットアーム2aの長さが実線の状態D1から点線の状態D2に変化する。これは、設備上の理由から溶接中の加工機内の温度を恒温に保つことが困難であり、また、ロボット2を線膨張係数の小さい部材で製造することが困難だからである。そのため、ロボット2による溶接狙い位置が実線で示す当所ティーチングした位置T1から点線で示す位置T2にズレ、溶接の良品条件の裕度を超えてしまい、溶接品質が低下するおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2009-262193号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、従来に比べて溶接品質の低下を抑制できる、テーラードブランク溶接装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成する本発明はつぎの通りである。
(1) 第1、第2のワーク材を突合せて突き合わされた所を溶接するロボットと、
前記ロボットの温度を測定する温度測定装置と、
前記ロボットの溶接軌跡を撮像してその画像を取得するカメラと、
前記ロボット、前記温度測定装置および前記カメラを制御する制御装置と、
を有し、
前記ロボットの温度変化が所定の閾値を超えた場合、前記制御装置は、前記カメラによる溶接軌跡画像の処理結果に基づいて、前記ロボットによる溶接狙い位置のズレ量を算出し、前記ロボットの溶接狙い位置を補正する、テーラードブランク溶接装置。
(2) 前記制御装置へは、溶接狙い位置の前記ズレ量に基づいて補正値が自動入力される、(1)記載のテーラードブランク溶接装置。
【発明の効果】
【0008】
上記(1)のテーラードブランク溶接装置によれば、ロボットの温度変化が所定の閾値を超えた場合、制御装置が、カメラによる溶接軌跡画像の処理結果に基づいて、ロボットによる溶接狙い位置のズレ量を算出し、ロボットの溶接狙い位置を補正するため、季節変動による外気温変動やロボット稼働中の発熱による線膨張によりロボットが変形する場合であっても、溶接狙い位置のズレを補正できる。よって、溶接品質が低下することを抑制できる。
【0009】
上記(2)のテーラードブランク溶接装置によれば、制御装置へは、溶接狙い位置のズレ量に基づいて補正値が自動入力されるため、溶接狙い位置がズレる度にロボットのティーチングをやり直す作業が不要になり、テーラードブランクの生産性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明実施例のテーラードブランク溶接装置の模式構成図である。
図2】本発明実施例のテーラードブランク溶接装置で溶接される第1、第2のワーク材の部分平面図である。
図3】本発明実施例のテーラードブランク溶接装置における、ロボットのレーザ光とカメラの撮像方向との関係を示す側面図である。
図4】本発明実施例のテーラードブランク溶接装置の、カメラの撮像画像を示す図である。
図5】本発明実施例のテーラードブランク溶接装置の、溶接中のロボットの姿勢によって各ティーチングポイントでの線膨張によるズレ量が異なることを説明する図である。
図6】本発明実施例のテーラードブランク溶接装置における、制御装置の制御ルーチンを示すフローチャートである。
図7】従来のテーラードブランク装置の模式構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明実施例のテーラードブランク溶接装置(以下、単に溶接装置ともいう)10を、図面を参照して、説明する。
【0012】
溶接装置10は、図2に示すように、板厚や材質の異なるたとえば鋼板からなる第1、第2のワーク材101,102を突合せて突き合わされた所(突合せ部103)を線溶接して1枚のプレス用の素材(テーラードブランク)を製造する装置である。第1、第2のワーク材101,102で製造された素材は、特に限定されるものではないが、たとえば自動車の軽量化を目的に自動車のボデーに用いられる。
【0013】
溶接装置10は、図1に示すように、第1、第2のワーク材101,102の突合せ部103に沿って線状に第1、第2のワーク材101,102をレーザ溶接するロボット20と、ロボット20の温度を測定する温度測定装置30と、突合せ部103の溶接軌跡TRを撮像してその画像を取得するカメラ40と、ロボット20、温度測定装置30およびカメラ40を制御する制御装置50と、を有する。
【0014】
ロボット20は、予めティーチングが行われており、このティーチングによって突合せ部103に沿って第1、第2のワーク材101,102をレーザ溶接する。ロボット20は、基端部で基部21に連結されており先端部にレーザヘッド22が取付けられるロボットアーム23を有する。ロボットアーム23は第1、第2の関節23a,23bおよび上下アーム部23c、23dを有する多関節アームとなっている。ロボットアーム23には図示略のサーボモータが複数内蔵されており、該サーボモータによってロボットアーム23を駆動させることで、レーザヘッド22を三次元的に移動操作可能となっている。
【0015】
レーザヘッド22は、図3に示すように、図示略のレーザ発振器から出力されたレーザ光Lを、第1、第2のワーク材101,102の突合せ部103に照射する。レーザヘッド22は、レーザ光Lを平行光にするコリメートレンズ22aと、平行光を突合せ部103において焦点を結ぶように集光させる集光レンズ22bと、を有している。レーザヘッド22は、また、図示略のサーボモータによって回転駆動可能な図示略の反射鏡を有している。図示略のレーザ発振器から出力されたレーザ光Lは、両レンズ22a、22bを通り反射鏡によって反射され、突合せ部103に照射される。反射鏡をサーボモータによって回転駆動させることで、レーザ光Lを円軌道となるように回転移動させることができる。制御装置50がロボットアーム23とレーザヘッド22を制御することにより、レーザ光Lの照射位置を突合せ部103に沿って螺旋状に移動させることができる。
【0016】
図1に示すように、温度測定装置(温度計)30は、ロボットアーム23の温度を測定可能である。温度測定装置30は、ロボットアーム23の上アーム部23cおよび/または下アーム部23dの温度を測定する。温度測定装置30は、熱電対等の接触タイプであってもよく、赤外線照射温度計等の非接触タイプであってもよい。
【0017】
カメラ40は、突合せ部103のレーザ溶接がされている部分とその周囲を撮像可能である。このため、突合せ部103の溶接軌跡TRの少なくとも一部を撮像可能である。カメラ40は、予め設定されているティーチングポイント(撮像ポイント)を溶接するときに、該ティーチングポイントを含む領域を撮像する。このティーチングポイントは、突合せ部103の線上に複数設定されており、たとえば、図2において丸で囲った数字1~25の25ポイント設定されている。なお、このティーチングポイントの数、間隔は任意に設定可能である。
【0018】
図3に示すように、カメラ40は、レーザヘッド22に取付けられている。カメラ40は、突合せ部103の溶接軌跡TRを反射させる第1、第2の撮像用ミラー41,42を介して、突合せ部103の溶接軌跡TRを撮像する。カメラ40で撮像した画像の情報は、図1に示すように画像処理アンプ43を経由して制御装置50に送信される。
【0019】
制御装置(ロボット制御盤といってもよい)50は、予め行われるティーチングに基づいてロボット20の溶接狙い位置を制御する。また、制御装置50は、カメラ40による溶接軌跡TR画像の処理結果に基づいて、ロボット20の予めティーチングした溶接狙い位置Aからの実際の溶接位置のズレ量を算出し、算出結果に基づいて補正値が自動入力されてロボット20の溶接狙い位置を補正可能である。
【0020】
なお、カメラ40による溶接軌跡画像の処理結果に基づいてズレ量を算出(計測)する理由は、つぎの通りである。
図5は、ロボット20を用いて第1、第2のワーク材101,102とは異なる第1´、第2´のワーク材101´、102´の突合せ部をレーザ溶接する際の、(a)ロボット20、(b)複数のティーチングポイント1~11、(c)~(e)複数のティーチングポイント1~11のうちポイント1、4,9におけるロボット20の姿勢と線膨張によるズレ量を示すグラフ、を示している。
【0021】
図5の(c)~(e)から、ロボット20は溶接中に様々な姿勢をとっており、ロボット20の姿勢によって各ティーチングポイント1,4,9での線膨張によるズレ量が異なることがわかる。そのため、一律の同一補正では対応できず、実際に各ポイントでのズレ量を算出(計測)するのが有効である。それ故、カメラ40による溶接軌跡TR画像の処理結果に基づいてズレ量を算出(計測)している。
【0022】
図6は、制御装置50の制御ルーチンを示すフローチャートである。図6に示す制御ルーチンは、レーザ溶接(溶接加工)が実行されている間において所定時間間隔で行われる。
【0023】
まず、レーザ溶接開始後、ステップS1で温度測定装置30を用いてロボット20の温度を測定して、ステップS2に進む。ステップS2では、ロボット20の温度変化が所定の閾値を超えたか否かが判定される。ステップS2で温度変化が所定の閾値を超えていないと判定した場合には、溶接狙い位置のズレ補正を行うことなく、そのままエンドステップに進む。一方、ステップS2で温度変化が所定の閾値を超えたと判定した場合には、ステップS3に進む。
【0024】
ステップS3で、カメラ40を用いて溶接軌跡TRを撮像し、ステップS4に進んで、カメラ40で撮像した画像情報に基づいてズレ量を算出(計測)して取得する。そして、ステップS5で制御装置50へズレ量をなくす方向へ補正値を自動入力して、エンドステップに進む。
【0025】
つぎに、本発明実施例の作用、効果を説明する。
本発明実施例では、ロボット20の温度変化が所定の閾値を超えた場合、制御装置50が、カメラ40による溶接軌跡画像の処理結果に基づいて、ロボット20による溶接狙い位置のズレ量を算出し、ロボット20の溶接狙い位置を補正するため、季節変動による外気温変動やロボット20稼働中の発熱による線膨張によりロボット20が変形する場合であっても、溶接狙い位置のズレを補正でき、溶接品質が低下することを抑制できる。
【0026】
また、制御装置50へは、溶接狙い位置のズレ量に基づいて補正値が自動入力されるため、溶接狙い位置がズレる度にロボット20のティーチングをやり直す作業が不要になり、テーラードブランクの生産性を向上できる。
【符号の説明】
【0027】
10 テーラードブランク溶接装置
20 ロボット
22 レーザヘッド
23 ロボットアーム
30 温度測定装置
40 カメラ
43 画像処理アンプ
50 制御装置
101,102 第1、第2のワーク材
103 突合せ部
L レーザ光
TR 溶接軌跡
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7