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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-23
(45)【発行日】2025-01-07
(54)【発明の名称】中ぐり装置
(51)【国際特許分類】
   B23B 47/24 20060101AFI20241224BHJP
   B23B 41/12 20060101ALI20241224BHJP
   B23B 49/00 20060101ALI20241224BHJP
【FI】
B23B47/24
B23B41/12
B23B49/00 C
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021107611
(22)【出願日】2021-06-29
(65)【公開番号】P2023005596
(43)【公開日】2023-01-18
【審査請求日】2024-02-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】尾関 徹
【審査官】増山 慎也
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-210505(JP,A)
【文献】特開2000-237908(JP,A)
【文献】特開2007-229826(JP,A)
【文献】特開2000-158219(JP,A)
【文献】特開2017-205825(JP,A)
【文献】特開2005-219151(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0025124(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 47/18、24
B23B 41/12
B23B 49/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面に刃を有する軸状の刃部、および、前記刃部よりも少なくとも軸方向先端側に位置する支持軸部を有する中ぐり工具と、
前記中ぐり工具を保持して回転駆動する主軸装置と、
前記中ぐり工具により加工する工作物を支持する工作物支持台と、
前記中ぐり工具を前記工作物支持台に対して前記中ぐり工具の軸方向に相対的に移動させる送り装置と、
前記工作物支持台よりも少なくとも前記主軸装置とは反対側に設けられ、前記中ぐり工具の前記支持軸部を挿入可能な貫通孔を有し、挿入された前記支持軸部の外周面を支持するサポート部材と、
前記送り装置の送り動作によって前記支持軸部が前記サポート部材に挿入されている時に、前記送り装置に生じる前記中ぐり工具の軸方向の荷重を取得し、取得した前記荷重が設定値を超える場合に前記送り装置の送り動作を停止する制御装置と、
を備え、
前記設定値は、前記支持軸部が前記サポート部材に対して軸方向に引っ掛かった状態において前記送り装置を駆動させた場合に前記送り装置に生じる荷重よりも小さい値であり、
前記制御装置は、複数個の前記工作物の加工サイクルを連続する場合に、それぞれの前記工作物を加工する前に前記中ぐり工具を前記サポート部材に挿入させる動作を実行し、
前記設定値は、前記支持軸部が前記サポート部材に対して軸方向に引っ掛かる状態が発生するときの前記工作物よりも1個以上前の前記工作物の加工サイクルにおいて、前記中ぐり工具を前記サポート部材に挿入する際に生じる荷重に設定されている、
中ぐり装置。
【請求項2】
前記中ぐり工具は、
前記刃部と、
前記刃部よりも軸方向先端側に位置し、前記支持軸部としての先端支持軸部と、
前記刃部よりも軸方向基端側に位置する基端支持軸部と、
を備え、
前記サポート部材は、
前記工作物支持台よりも前記主軸装置とは反対側に設けられ、前記中ぐり工具の前記先端支持軸部を挿入可能な貫通孔を有し、挿入された前記先端支持軸部の外周面を支持する第一サポート部材と、
前記工作物支持台よりも前記主軸装置側に設けられ、前記中ぐり工具の前記基端支持軸部を挿入可能な貫通孔を有し、挿入された前記基端支持軸部の外周面を支持する第二サポート部材と、
を備え、
前記制御装置は、前記先端支持軸部が前記第一サポート部材に挿入されている時、または、前記基端支持軸部が前記第二サポート部材に挿入されている時に、前記送り装置に生じる前記中ぐり工具の軸方向の荷重を取得し、取得した前記荷重が前記設定値を超える場合に前記送り装置の送り動作を停止する、請求項1に記載の中ぐり装置。
【請求項3】
前記中ぐり工具は、
前記刃部および前記支持軸部を備える工具本体部と、
前記主軸装置に装着される工具装着部と、
前記工具本体部を前記工具装着部に対して径方向にフローティング支持するフローティング機構と、
を備える、請求項1又は2に記載の中ぐり装置。
【請求項4】
前記サポート部材と前記支持軸部との径方向隙間は、前記フローティング機構における径方向の許容範囲よりも小さく設定されている、請求項に記載の中ぐり装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中ぐり装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、シリンダブロックには、カムシャフトを支持するための貫通孔やクランクシャフトのジャーナルを支持するための貫通孔が形成されている。特許文献1,2に記載されているように、中ぐり工具を用いてこれらの貫通孔を加工することが知られている。この種の中ぐり工具は、撓みやすい長尺形状であるため、撓みを抑制する必要がある。そこで、特許文献1には、撓みを抑制するために、サポート部材を用いて、中ぐり工具の先端部および基端部を回転可能に支持することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-205825号公報
【文献】特開2014-104523号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
中ぐり工具を高精度に支持するために、サポート部材の内周面と中ぐり工具の外周面との径方向隙間は極めて小さな寸法に設定されている。そのため、切粉などの異物の付着やその他の外乱要因によって、中ぐり工具をサポート部材に挿入する際に、中ぐり工具がサポート部材に引っ掛かり、中ぐり工具を軸方向に移動させることができない状態となるおそれがある。
【0005】
このような状態になると、作業者は、ハンマなどにより中ぐり工具を叩きながら、中ぐり工具をサポート部材から引き抜く。そして、中ぐり工具およびサポート部材にキズがついていると、作業者は、キズ部分の修正加工を行い、機械の精度を確認する。従って、引っ掛かり状態が発生してしまうと、多大な修正作業工数を要する。
【0006】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、中ぐり工具がサポート部材に引っ掛かる状態となる前に検知することにより、作業工数を低減することができる中ぐり装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、
外周面に刃を有する軸状の刃部、および、前記刃部よりも少なくとも軸方向先端側に位置する支持軸部を有する中ぐり工具と、
前記中ぐり工具を保持して回転駆動する主軸装置と、
前記中ぐり工具により加工する工作物を支持する工作物支持台と、
前記中ぐり工具を前記工作物支持台に対して前記中ぐり工具の軸方向に相対的に移動させる送り装置と、
前記工作物支持台よりも少なくとも前記主軸装置とは反対側に設けられ、前記中ぐり工具の前記支持軸部を挿入可能な貫通孔を有し、挿入された前記支持軸部の外周面を支持するサポート部材と、
前記送り装置の送り動作によって前記支持軸部が前記サポート部材に挿入されている時に、前記送り装置に生じる前記中ぐり工具の軸方向の荷重を取得し、取得した前記荷重が設定値を超える場合に前記送り装置の送り動作を停止する制御装置と、
を備え、
前記設定値は、前記支持軸部が前記サポート部材に対して軸方向に引っ掛かった状態において前記送り装置を駆動させた場合に前記送り装置に生じる荷重よりも小さい値であり、
前記制御装置は、複数個の前記工作物の加工サイクルを連続する場合に、それぞれの前記工作物を加工する前に前記中ぐり工具を前記サポート部材に挿入させる動作を実行し、
前記設定値は、前記支持軸部が前記サポート部材に対して軸方向に引っ掛かる状態が発生するときの前記工作物よりも1個以上前の前記工作物の加工サイクルにおいて、前記中ぐり工具を前記サポート部材に挿入する際に生じる荷重に設定されている、
中ぐり装置にある。
【発明の効果】
【0008】
中ぐり工具をサポート部材に挿入する動作中において、中ぐり工具の支持軸部がサポート部材に引っ掛かる状態になってしまう前に、送り装置による中ぐり工具の軸方向の荷重が大きくなり始めることが分かった。そこで、上記の中ぐり装置によれば、制御装置は、送り装置の送り動作によって支持軸部がサポート部材に挿入されている時に、送り装置に生じる中ぐり工具の軸方向の荷重を取得することとした。そして、制御装置は、取得した荷重が設定値を超える場合に、送り装置の送り動作を停止する。
【0009】
送り装置に生じる軸方向の荷重が設定値となる状態を、中ぐり工具の支持軸部がサポート部材に引っ掛かるよりも前の状態とすることができる。従って、中ぐり工具の支持軸部がサポート部材に引っ掛かる状態になってしまう前に、送り装置の送り動作を停止することができる。
【0010】
そして、作業者は、送り装置の送り動作を停止した後に戻し動作を行うことで、中ぐり工具をサポート部材から引き抜くことができる。その後に、作業者は、中ぐり工具およびサポート部材の保守作業を行う。このときの保守作業は、中ぐり工具の支持軸部がサポート部材に引っ掛かった状態の修正作業に比べると、各段に容易な作業である。従って、作業工数を大幅に低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】中ぐり装置を示す図であって、加工サイクルのうち、中ぐり工具をサポート部材に挿入する前の加工準備状態を示す図である。
図2】中ぐり装置の一部構成の機能ブロック図である。
図3】中ぐり装置を示す図であって、加工サイクルのうち、中ぐり工具により加工する状態を示す図である。
図4】工作物の加工サイクル毎において、送り装置に生じる中ぐり工具の軸方向の荷重を示し、送り装置による加工前送り動作を停止するための設定値、および、中ぐり工具がサポート部材に引っ掛かった状態の荷重を示すグラフである。
図5】制御装置による加工サイクルの処理を示すフローチャートである。
図6】変形例における中ぐり装置の一部構成の機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(1.中ぐり装置1の構成)
中ぐり装置1の構成について図1を参照して説明する。中ぐり装置1は、中ぐり工具Tを回転させながら、中ぐり工具Tを工作物Wに対して中ぐり工具Tの軸方向に相対的に移動することにより、工作物Wの貫通孔Waの内周面の加工を行う。本形態においては、中ぐり工具Tが長尺であるため、中ぐり装置1は、中ぐり工具Tの中心軸を水平方向に一致させる横型中ぐり装置である場合を例にあげる。ただし、中ぐり工具Tの長さによっては、立型中ぐり装置を適用することもできる。
【0013】
また、本形態においては、工作物Wとしてエンジンブロックを例にあげ、工作物Wの加工部位としての貫通孔Waは、エンジンブロックのカムシャフトを支持するための貫通孔や、クランクシャフトのジャーナルを支持するための貫通孔などとする。ここで、エンジンブロックにおける当該貫通孔は、同軸に複数形成されており、中ぐり装置1は、工作物Wにおける複数の貫通孔Waの内周面を同時に加工することができる。なお、中ぐり装置1により加工される工作物Wは、エンジンブロックに限定されるものではなく、種々のものとすることができる。
【0014】
中ぐり装置1は、図1に示すように、中ぐり工具T、ベース2、主軸装置3、工作物支持台4、送り装置5、および、サポート部材6を備える。
【0015】
中ぐり工具Tは、軸方向に長尺形状を有し、工作物Wの貫通孔Waの内周面を加工する工具である。中ぐり工具Tは、工具本体部11、工具装着部12、フローティング機構13を備える。工具本体部11は、複数の刃21aを備える部位であって、中ぐり工具Tの軸方向先端側(自由端側)に位置する。工具本体部11が、中ぐり工具Tの軸方向の大部分を占める。
【0016】
工具本体部11は、刃部21と、先端支持軸部22と、基端支持軸部23とを備える。刃部21は、軸状に形成されている。本形態においては、刃部21は、工作物Wにおける両端の貫通孔Waの距離よりも僅かに長い長さを有する。刃部21は、外周面に工作物Wの貫通孔Waの内周面を加工するための刃21aを有する。刃部21は、例えば、軸方向に配列された複数の刃21aを有する。刃部21は、工作物Wの貫通孔Waの数に対応する数の刃21aを有する。そして、複数の刃21aのそれぞれが、工作物Wの複数の貫通孔Waのそれぞれを加工する。
【0017】
さらに、刃部21は、図示しないが、荒加工用の刃21a、仕上加工用の刃21a、面取り用の刃21aなどを有するようにしても良い。もちろん、刃部21は、荒加工用の刃21aのみを有するようにしても良いし、仕上加工用の刃21aのみを有するようにしても良いし、面取り用の刃21aのみを有するようにしても良い。
【0018】
先端支持軸部22は、刃部21よりも軸方向先端側に位置し、中ぐり工具Tの自由端の部位を構成する。つまり、先端支持軸部22は、刃部21よりも主軸装置3とは反対側に位置する。先端支持軸部22は、円筒外周面を有する。先端支持軸部22は、刃部21の外接円直径と同程度の外径を有する。先端支持軸部22は、刃部21の外接円直径と同一でも良いし、小さくても良いし、大きくても良い。さらに、先端支持軸部22には、軸方向に平行な方向に延在するキー溝22aが形成されている。キー溝22aは、先端側に行くに従って徐々に、溝幅(溝の周方向範囲)が広くなっている。
【0019】
基端支持軸部23は、刃部21よりも軸方向基端側に位置する。つまり、基端支持軸部23は、刃部21よりも主軸装置3側に位置する。基端支持軸部23は、円筒外周面を有し、先端支持軸部22と同軸上に位置する。基端支持軸部23は、刃部21の外接円直径よりも大きな外径を有し、かつ、先端支持軸部22の外径よりも大きな外径を有する。さらに、基端支持軸部23には、軸方向に平行な方向に延在するキー溝23aが形成されている。
【0020】
工具装着部12は、中ぐり工具Tにおいて、工具本体部11よりも軸方向基端側に位置し、主軸装置3に装着される部位である。詳細には、工具装着部12は、工具本体部11の基端支持軸部23よりも軸方向基端側(図1の右側)に位置する。工具装着部12は、例えば、主軸装置3に対して工具交換可能に構成されている。工具装着部12は、公知のホルダ形状を有する。さらに、工具装着部12は、工具交換アーム(図示せず)に係合可能な係合部(図示せず)を有する。
【0021】
フローティング機構13は、工具本体部11の基端支持軸部23と工具装着部12とを連結する。フローティング機構13は、工具装着部12の回転を工具本体部11に伝達すると共に、工具本体部11を工具装着部12に対して径方向にフローティング支持する。フローティング機構13は、工具本体部11の中心軸と工具装着部12の中心軸とを平行に維持した状態で、平行移動を可能とする。フローティング機構13は、例えば、径方向に数百μm程度の移動を許容する。なお、フローティング機構13は、公知のフローティングホルダなどを適用可能である。
【0022】
ベース2は、中ぐり装置1の基台であって、設置面上に設置される。ベース2の上面には、一対のガイドレール2aが設けられている。一対のガイドレール2aは、図1における左右方向に延在するように設けられている。
【0023】
主軸装置3は、中ぐり工具Tを保持して回転駆動する。主軸装置3は、中ぐり工具Tの基端側のみを保持することにより、中ぐり工具Tを片持ち支持する。主軸装置3は、主軸ハウジング31と、主軸32と、主軸モータ33とを備える。
【0024】
主軸ハウジング31は、ベース2のガイドレール2a上を移動可能に支持される。主軸32は、主軸ハウジング31に回転可能に支持されている。主軸32の先端には、中ぐり工具Tの工具装着部12が着脱可能に保持される。主軸モータ33は、主軸ハウジング31に設けられており、主軸32を回転駆動する。つまり、主軸モータ33は、主軸32に装着された中ぐり工具Tを回転駆動する。主軸モータ33は、主軸ハウジング31の外部に設けられるようにしても良いし、主軸ハウジング31の内部に設けられるようにしても良い。
【0025】
工作物支持台4は、中ぐり工具Tにより加工する工作物Wを支持する。工作物支持台4は、ベース2上において、主軸装置3に対向する位置に設けられる。工作物支持台4は、工作物Wの形状に応じた支持面を有する。工作物支持台4は、図示しない搬送装置により搬送された加工前の工作物Wを載置する。当該搬送装置は、加工後の工作物Wを工作物支持台4から搬出する。
【0026】
送り装置5は、中ぐり工具Tを工作物支持台4に対して中ぐり工具Tの軸方向に相対的に移動させる装置である。本形態においては、送り装置5は、主軸装置3をベース2に対して中ぐり工具Tの軸方向に移動させることにより、中ぐり工具Tを工作物支持台4に対して移動させる。ただし、送り装置5は、工作物支持台4をベース2に対して中ぐり工具Tの軸方向に移動させる構成としても良い。この場合、工作物支持台4が、中ぐり工具Tに対して移動することになる。
【0027】
送り装置5には、例えば、ボールねじ機構やリニアモータ機構などが適用される。本形態においては、送り装置5は、ボールねじ機構を適用する。送り装置5は、ボールねじ41と、ボールねじナット42と、送りモータ43とを備える。ボールねじ41は、ガイドレール2aの延在方向に平行となるようにベース2に設けられ、かつ、回転可能にベース2に取り付けられた支持部材46に支持される。支持部材46にはボールねじ41を回転可能に支持する転がり軸受を内蔵している。ボールねじ41と送りモータ43の出力軸はカップリング47を介して回転連結される。
【0028】
ボールねじナット42は、主軸装置3の主軸ハウジング31に固定されている。ボールねじナット42は、ボールねじ41に螺合されており、ボールねじ41の回転に伴ってボールねじ41の軸方向に移動する。送りモータ43は、ボールねじ41を回転駆動する。
【0029】
サポート部材6は、ベース2上における工作物支持台4の近傍に設けられる。本形態においては、サポート部材6は、ベース2に移動不能に設けられている。ただし、工作物支持台4がベース2に対して移動する場合には、サポート部材6は、工作物支持台4と共にベース2に対して移動可能に設けられる。
【0030】
本形態においては、サポート部材6は、第一サポート部材51および第二サポート部材52を備える。第一サポート部材51は、工作物支持台4よりも主軸装置3とは反対側(図1の左側)に設けられる。第一サポート部材51は、中ぐり工具Tの先端支持軸部22を挿入可能な貫通孔を有し、挿入された先端支持軸部22の外周面を支持する。
【0031】
第一サポート部材51は、第一サポート本体61および第一スリーブ62を備える。第一サポート本体61は、ベース2上であって、工作物支持台4より主軸装置3とは反対側に固定されている。第一スリーブ62は、軸受により、第一サポート部材51に回転可能に支持されている。第一スリーブ62の中心軸は、主軸装置3の主軸32の中心軸に平行であって、ほぼ同軸である。
【0032】
第一スリーブ62は、中ぐり工具Tの先端支持軸部22を挿入可能な貫通孔を有し、挿入された先端支持軸部22の外周面を支持する。第一スリーブ62は、円筒内周面を有する。第一スリーブ62は、中ぐり工具Tの先端支持軸部22を挿入可能な内径を有する。第一スリーブ62の内径は、中ぐり工具Tの先端支持軸部22の外径よりも極めて僅かに大きく形成されている。
【0033】
第一スリーブ62の内周面と中ぐり工具Tの先端支持軸部22の外周面との径方向隙間は、フローティング機構13の径方向の許容範囲(径方向の最大移動距離)に対して小さい。例えば、第一スリーブ62の内周面と中ぐり工具Tの先端支持軸部22の外周面との径方向隙間は、数十μm程度である。
【0034】
また、第一スリーブ62は、内周面に軸方向に延在するキー62aを有する。キー62aは、先端支持軸部22のキー溝22aに係合する。先端支持軸部22のキー溝22aの先端側は溝幅(溝の周方向範囲)が広がっている。従って、キー62aがキー溝22aに容易に挿入される。なお、第一スリーブ62にキー溝を形成し、中ぐり工具Tの先端支持軸部22にキーを有するようにしても良い。
【0035】
第二サポート部材52は、第二サポート本体71、第二スリーブ72および係止部材73を備える。第二サポート本体71は、ベース2上であって、工作物支持台4より主軸装置3側(図1の右側)に固定されている。第二スリーブ72は、軸受により、第二サポート部材52に回転可能に支持されている。第二スリーブ72の中心軸は、主軸装置3の主軸32の中心軸に平行であって、ほぼ同軸である。また、第二スリーブ72の中心軸は、第一スリーブ62の中心軸と同軸上に位置する。
【0036】
第二スリーブ72は、中ぐり工具Tの基端支持軸部23を挿入可能な貫通孔を有し、挿入された基端支持軸部23の外周面を支持する。第二スリーブ72は、円筒内周面を有する。第二スリーブ72は、中ぐり工具Tの基端支持軸部23を挿入可能な内径を有する。第二スリーブ72の内径は、中ぐり工具Tの基端支持軸部23の外径よりも極めて僅かに大きく形成されている。
【0037】
第二スリーブ72の内周面と中ぐり工具Tの基端支持軸部23の外周面との径方向隙間は、フローティング機構13の径方向の許容範囲に対して小さい。例えば、第二スリーブ72の内周面と中ぐり工具Tの基端支持軸部23の外周面との径方向隙間は、数十μm程度である。
【0038】
また、第二スリーブ72は、内周面に軸方向に延在するキー72aを有する。キー72aは、基端支持軸部23のキー溝23aに係合する。なお、第二スリーブ72にキー溝を形成し、中ぐり工具Tの基端支持軸部23にキーを有するようにしても良い。
【0039】
係止部材73は、第二サポート本体71に、アクチュエータによって径方向に進退可能に設けられている。係止部材73が径方向内側に前進した状態において、係止部材73の先端が、第二スリーブ72に係合する。この状態において、係止部材73は、第二サポート本体71に対して第二スリーブ72を位置決めする。係止部材73が係合した状態では、第二スリーブ72は、回転不能となる。一方、係止部材73は、径方向に後退した状態において、第二スリーブ72との係合が解除される。この状態において、第二スリーブ72は、第二サポート本体71に対して回転可能な状態となる。
【0040】
ここで、係止部材73は、中ぐり工具Tの基端支持軸部23を第二サポート部材52に挿入する際、および、基端支持軸部23を第二サポート部材52から引き抜く際に、第二スリーブ72に係合させる。一方、係止部材73は、中ぐり工具Tにより工作物Wを加工する際に、第二スリーブ72との係合が解除される。
【0041】
(2.中ぐり装置1の駆動機構に関する構成)
中ぐり装置1の駆動機構に関する構成について図2を参照して説明する。中ぐり装置1は、制御装置7、主軸モータ33、主軸モータ駆動回路34、送りモータ43、送りモータ用検出器44、送りモータ駆動回路45を備える。
【0042】
制御装置7は、図2に示すように、主軸装置3および送り装置5を制御する。具体的には、制御装置7の加工制御部82は、中ぐり工具Tにより工作物Wを加工する際に、主軸装置3の主軸モータ33を制御する。また、制御装置7の挿入制御部81は、工作物Wの加工前において、中ぐり工具Tを工作物Wの貫通孔Waおよびサポート部材6に挿入する際に、送り装置5の送りモータ43を制御する。つまり、制御装置7の挿入制御部81は、送り装置5による加工前送り動作を制御する。さらに、制御装置7の後退制御部83は、工作物Wの加工後において、中ぐり工具Tを工作物Wの貫通孔Waおよびサポート部材6から引き抜く際に、送り装置5の送りモータ43を制御する。つまり、制御装置7の後退制御部83は、送り装置5による加工後戻し動作を制御する。
【0043】
さらに、制御装置7の判定部85が、後述する送りモータ駆動回路45から、中ぐり工具Tの支持軸部22,23がサポート部材51,52に挿入されている際に、送り装置5に生じる中ぐり工具Tの軸方向の荷重Rに相当する物理量(トルク、駆動電流など)を取得する。詳細には、制御装置7の判定部85は、送り装置5による加工前送り動作によって、先端支持軸部22が第一サポート部材51に挿入されている時(挿入制御時)、または、基端支持軸部23が第二サポート部材52に挿入されている時に(挿入制御時)、送り装置5に生じる中ぐり工具Tの軸方向の荷重Rに相当する物理量を取得する。
【0044】
ここで、送り装置5に生じる中ぐり工具Tの軸方向の荷重Rは、送りモータ43にかかるトルクに対応する。また、送りモータ43にかかるトルクは、送りモータ43の駆動電流に比例する。そこで、本形態においては、制御装置7の判定部85は、当該荷重Rに相当する物理量として、送りモータ43の駆動電流(電流計45hにより検出される駆動電流)を取得する。
【0045】
さらに、挿入制御部81が作動している場合に限り、制御装置7の判定部85は、取得した荷重Rに相当する物理量が設定値Rthを超えたか否かを判定する。制御装置7の判定後処理部86は、取得した荷重Rに相当する物理量が設定値Rthを超える場合に、送り装置5の加工前送り動作を停止する。制御装置7の判定後処理部86は、送り装置5の送り動作を停止した後に、停止後処理を実行する。また、設定値Rthは、制御装置7の閾値設定部84にて設定され記憶される。また、制御装置7は、工作物Wの搬入出を行う搬送装置(図示せず)の制御を行う。
【0046】
主軸モータ駆動回路34は、主軸モータ33を駆動するための駆動回路である。主軸モータ駆動回路34は、制御装置7の挿入制御部81、加工制御部82および後退制御部83が挿入制御、加工制御および後退制御を行う際に、制御装置7からの指令に基づいて駆動し、主軸モータ33を駆動する。
【0047】
送りモータ用検出器44は、例えば、エンコーダであって、送りモータ43の回転角度を検出する。送りモータ駆動回路45は、送りモータ43を駆動するための駆動回路である。送りモータ駆動回路45は、制御装置7の挿入制御部81、加工制御部82および後退制御部83が挿入制御、加工制御および後退制御を行う際に、制御装置7からの指令に基づいて駆動し、主軸モータ33を駆動する。
【0048】
詳細には、送りモータ駆動回路45の位置カウンタ45iが、送りモータ用検出器44により検出された送りモータ43の回転角度を取得し、回転角度の位置を表すカウント値を得る。そして、送りモータ駆動回路45の位置偏差生成部45aが、制御装置7から取得した位置指令値と、位置カウンタ45iの出力値との差である位置偏差を生成する。位置偏差は、制御装置7から取得した位置指令値と、送りモータ用検出器44により検出された送りモータ43の回転角度との差に相当する。
【0049】
送りモータ駆動回路45の位置制御処理部45bが、生成された位置偏差に位置ループゲインを乗算した出力値を生成する。また、位置速度変換部45gが、位置カウンタ45iの出力値を速度値に変換する。送りモータ駆動回路45の速度偏差生成部45cが、位置制御処理部45bの出力値、および、位置速度変換部45gによる出力値に基づいて、速度偏差を生成する。送りモータ駆動回路45の速度制御処理部45dが、生成された速度偏差に速度ループゲインを乗算した出力値を生成する。
【0050】
送りモータ駆動回路45の電流計45hは、送りモータ43の駆動電流を検出する。送りモータ駆動回路45の電流偏差生成部45eが、速度制御処理部45dの出力値、および、電流計45hにより検出された駆動電流に基づいて、電流偏差を生成する。送りモータ駆動回路45の電流制御処理部45fが、生成された電流偏差に電流ループゲインを乗算することにより、送りモータ43の駆動電流を供給する。
【0051】
(3.送り装置5に生じる荷重Rの検出方法の例)
上述したように、電流計45hは、送りモータ43の駆動電流を検出する。そして、送りモータ43の駆動電流は、送りモータ43にかかるトルクに比例する。さらに、送りモータ43のトルクは、送り装置5に生じる中ぐり工具Tの軸方向の荷重Rに相当する。つまり、電流計45hは、送り装置5に生じる中ぐり工具Tの軸方向の荷重Rに相当する物理量を検出する荷重検出器として機能する。
【0052】
そして、電流計45hにより検出された駆動電流は、送り装置5に生じる中ぐり工具Tの軸方向の荷重Rに相当する物理量として、制御装置7の判定部85に入力される。つまり、制御装置7の判定部85は、荷重検出器として機能する電流計45hにより検出された送りモータ43の駆動電流を取得する。
【0053】
上記においては、送り装置5に生じる中ぐり工具Tの軸方向の荷重Rとして、電流計45hにより検出された送りモータ43の駆動電流を用いる場合を例にあげた。また、当該荷重Rとして、駆動電流に基づいて算出された送りモータ43にかかるトルクを用いることもできる。
【0054】
上記の他に、送り装置5に生じる荷重Rの検出方法は、以下とすることもできる。例えば、ボールねじ41と支持部材46と間に荷重検出器としてのロードセルを設けて、ボールねじ41を介してロードセルに生じる中ぐり工具Tの軸方向の荷重Rを直接検出するようにしても良い。
【0055】
(4.中ぐり装置1の基本動作)
中ぐり装置1の基本動作について、図1および図3を参照して説明する。中ぐり装置1は、加工前において、図1に示す状態から図3に示す状態に移行する。続いて、中ぐり装置1は、図3に示す状態において、工作物Wの加工を行う。続いて、中ぐり装置1は、加工後において、図3に示す状態から図1に示す状態に移行する。
【0056】
まず、制御装置7の挿入制御部81が送り装置5を制御して、主軸装置3および中ぐり工具Tの加工前送り動作が開始される。加工前送り動作が開始されることによって、中ぐり工具Tの先端支持軸部22が、第二サポート部材52の第二スリーブ72を通過する。さらに加工前送り動作が行われることによって、中ぐり工具Tの先端支持軸部22が、工作物Wの複数の貫通孔Waを通過する。このとき、中ぐり工具Tの工具本体部11が、第二スリーブ72を通過し、工作物Wの複数の貫通孔Waに挿入される。
【0057】
加工前送り動作がさらに行われることによって、中ぐり工具Tの先端支持軸部22が、第一サポート部材51の第一スリーブ62に挿入される。このとき、第一スリーブ62のキー62aが、先端支持軸部22のキー溝22aに挿入される。先端支持軸部22のキー溝22aの先端側の溝幅が広いため、第一スリーブ62のキー62aは、先端支持軸部22のキー溝22aに容易に挿入される。第一スリーブ62のキー62aが、先端支持軸部22のキー溝22aに挿入されることで、先端支持軸部22が第一スリーブ62に対して周方向に係合する。つまり、先端支持軸部22と第一スリーブ62とが一体的に回転可能な状態となる。
【0058】
また、中ぐり工具Tの先端支持軸部22が第一サポート部材51に挿入される時とほぼ同時に、中ぐり工具Tの基端支持軸部23が、第二サポート部材52の第二スリーブ72に挿入される。係止部材73によって第二スリーブ72が第二サポート本体71に係合している状態であるため、第二スリーブ72のキー72aと基端支持軸部23のキー溝23aとは周方向位置(位相)が一致している。従って、第二スリーブ72のキー72aが、基端支持軸部23のキー溝23aに挿入される。
【0059】
第二スリーブ72のキー72aが、基端支持軸部23のキー溝23aに挿入されることで、基端支持軸部23が第二スリーブ72に対して周方向に係合する。つまり、基端支持軸部23と第二スリーブ72とが一体的に回転可能な状態となる。
【0060】
ここで、先端支持軸部22と第一スリーブ62との径方向隙間、および、基端支持軸部23と第二スリーブ72との径方向隙間は、非常に小さい。そのため、中ぐり工具Tの工具本体部11の中心軸が、第一スリーブ62の中心軸および第二スリーブ72の中心軸にほぼ一致している状態でなければ、中ぐり工具Tが第一スリーブ62および第二スリーブ72に挿入できない。
【0061】
フローティング機構13が、工具本体部11を工具装着部12に対して径方向に移動させることができる。特に、フローティング機構13の径方向の許容範囲は、第一スリーブ62と先端支持軸部22との径方向隙間よりも大きく、かつ、第二スリーブ72と基端支持軸部23との径方向隙間よりも大きい。従って、フローティング機構13の動作によって、中ぐり工具Tの工具本体部11の中心軸を、第一スリーブ62の中心軸および第二スリーブ72の中心軸にほぼ一致する状態にできる。
【0062】
そうすると、図3に示すように、中ぐり工具Tの工具本体部11が、工作物Wの貫通孔Waに挿入された状態となる。つまり、中ぐり工具Tの工具本体部11の刃部21の複数の刃21aが、工作物Wの複数の貫通孔Waのそれぞれに対応する位置に位置する。この状態になると、制御装置7の挿入制御部81は、送り装置5による加工前送り動作を停止する。
【0063】
続いて、制御装置7の加工制御部82が主軸装置3を制御して、主軸装置3を回転駆動する。そうすると、主軸32が回転すると共に、中ぐり工具Tが回転する。同時に、制御装置7の加工制御部82は送り装置5を加工のために送り動作または戻し動作することによって、中ぐり工具Tを軸方向に移動する。このようにして、中ぐり工具Tの刃21aによって、工作物Wの貫通孔Waの内周面が加工される。
【0064】
加工が終了すると、制御装置7の後退制御部83は、主軸装置3の回転を停止し、送り装置5の加工後戻し動作を行う。そうすると、中ぐり工具Tが、工作物W、第一サポート部材51および第二サポート部材52から引き抜かれ、図1に示す状態となる。このようにして、当該工作物Wの加工サイクルが終了し、続いて、次の工作物Wの加工サイクルを行う。
【0065】
(5.設定値Rthの説明)
上述したように、制御装置7は、送り装置5に生じる中ぐり工具Tの軸方向の荷重Rが設定値Rthを超えたか否かを判定し、取得した荷重Rが設定値Rthを超える場合に送り装置5の送り動作を停止する。この設定値Rthについて、図4を参照して説明する。
【0066】
図4は、横軸を工作物Wの加工サイクル数とし、縦軸を送り装置5に生じる中ぐり工具Tの軸方向の荷重Rとする。図4における工作物Wの加工サイクル数は、便宜上N1~N11番目を示している。図4において、加工サイクル数がN1~N7番目では、先端支持軸部22が第一スリーブ62にスムーズに挿入され、かつ、基端支持軸部23が第二スリーブ72にスムーズに挿入される。従って、加工サイクル数がN1~N7番目では、送り装置5に生じる中ぐり工具Tの軸方向の荷重Rは、小さな値を示す。
【0067】
加工サイクル数がN8番目の時に、N1~N7番目の時よりも、荷重Rが増加する。加工サイクル数がN9番目の時には、N8番目の時よりも、荷重Rがさらに増加する。加工サイクル数がN10番目の時には、N9番目の時よりも、荷重Rがさらに増加する。
【0068】
N8~N10番目の時には、先端支持軸部22が第一スリーブ62に完全に挿入され、かつ、基端支持軸部23が第二スリーブ72に完全に挿入される。つまり、N8~N10番目の時には、加工前送り動作の途中において、先端支持軸部22が第一スリーブ62に引っ掛かって送り動作ができない状態とはならず、かつ、基端支持軸部23が第二スリーブ72に引っ掛かって送り動作ができない状態とはならない。
【0069】
加工サイクル数がN11番目の時には、N10番目の時よりも、荷重Rがさらに増加する。そして、加工サイクル数がN11番目は、加工前送り動作の途中に、先端支持軸部22が第一スリーブ62に引っ掛かって送り動作ができない状態、または、基端支持軸部23が第二スリーブ72に引っ掛かって送り動作ができない状態となっている。このときの荷重Rを、最大荷重Rmaxとする。
【0070】
ここで、設定値Rthは、引っ掛かった状態の荷重Rmaxよりも小さい値に設定されている。特に、設定値Rthは、引っ掛かった状態の荷重Rmaxよりも、正常時の荷重R(図4のN1~N7番目の荷重)に近い値に設定されている。
【0071】
さらには、設定値Rthは、引っ掛かる状態が発生するとき(図4のN11番目)の工作物Wよりも1個以上前の工作物Wの加工サイクルにおいて、中ぐり工具Tを第一スリーブ62および第二スリーブ72に挿入する際に生じる荷重Rに設定されている。本形態においては、図4の二点鎖線にて示すように、実験より得られた結果より、引っ掛かった時の工作物Wよりも3個前の工作物Wの加工サイクルにおける荷重Rが設定値Rthを超えるように、設定値Rthが設定されている。つまり、図4において、N8番目の工作物Wにおける荷重Rが設定値Rthを超える状態となる。
【0072】
(6.制御装置7による加工サイクルの処理)
制御装置7による加工サイクルの処理について、主として図5を参照して、適宜図1および図4を参照して説明する。中ぐり装置1が複数個の工作物Wの加工サイクルを連続する場合について説明する。また、中ぐり工具Tは、主軸装置3に装着された状態とする。
【0073】
制御装置7は、搬送装置(図示せず)を制御することによって、工作物Wを搬入する(工作物搬入工程ST1)。図1に示すように、搬入された工作物Wは、工作物支持台4の上に載置される。
【0074】
続いて、制御装置7の挿入制御部81は、送り装置5を制御して、主軸装置3および中ぐり工具Tの加工前送り動作を開始する(加工前送り動作開始工程ST2)。つまり、中ぐり工具Tを、工作物Wの貫通孔Wa、第一サポート部材51および第二サポート部材52に挿入させるための動作を開始する。
【0075】
制御装置7の判定部85は、加工前送り動作を開始すると、取得した荷重Rが設定値Rthを超えるか否かを判定する(荷重判定工程ST3)。加工前送り動作の時の荷重Rが設定値Rth以下であれば(ST3:No)、加工開始位置に到達するまで、加工前送り動作を継続する(加工開始位置判定工程ST4)。つまり、加工開始位置に到達していなければ(ST4:No)、再び、荷重判定工程ST3を実行する。一方、加工開始位置に到達すれば(ST4:Yes)、制御装置7の挿入制御部81は、加工前送り動作を終了する(加工前送り動作終了工程ST5)。
【0076】
続いて、制御装置7は、第二サポート部材52の係止部材73を径方向に後退させて、係止部材73と第二スリーブ72との係合状態を解除する(第二サポート部材アンロック工程ST6)。つまり、第二スリーブ72が第二サポート本体71に対して回転可能な状態となる。
【0077】
続いて、制御装置7の加工制御部82は、主軸装置3を制御することで中ぐり工具Tを回転させ、かつ、送り装置5を制御することで中ぐり工具Tを軸方向に移動させる。このようにして、制御装置7は、中ぐり工具Tにより工作物Wの貫通孔Waを加工する(加工工程ST7)。加工が終了すると、制御装置7の加工制御部82は、主軸装置3を制御して中ぐり工具Tの回転を停止し、かつ、送り装置5を制御して中ぐり工具Tの軸方向位置を停止する。
【0078】
そして、制御装置7は、加工を終了すると、第二サポート部材52の係止部材73を径方向内側に前進させて、係止部材73を第二スリーブ72に係合させる。(第二サポート部材ロック工程ST8)。つまり、第二スリーブ72が第二サポート本体71に対して回転不能な状態となる。
【0079】
続いて、制御装置7の後退制御部83は、送り装置5を制御して、主軸装置3および中ぐり工具Tの加工後戻し動作を行う(加工後戻し動作工程ST9)。つまり、中ぐり工具Tを、工作物Wの貫通孔Wa、第一サポート部材51および第二サポート部材52から引き抜き、図1に示す状態とする。続いて、制御装置7は、搬送装置(図示せず)を制御することによって、加工後の工作物Wを搬出する(工作物搬出工程ST10)。
【0080】
続いて、制御装置7は、次の工作物Wが存在するか否かを判定し、次の工作物Wが存在する場合には(次工作物有無判定工程ST11:Yes)、工作物搬入工程ST1から繰り返す。一方、次の工作物Wが存在しない場合には(ST11:No)、制御装置7は、処理を終了する。
【0081】
ここで、荷重判定工程ST3において、加工前送り動作の時の荷重Rが設定値Rthを超えた場合には(ST3:Yes)、制御装置7の判定後処理部86は、加工前送り動作を停止する(送り動作停止工程ST12)。図4において、N8番目の工作物Wにおける加工前送り動作において、荷重Rが設定値Rthを超えているため、加工前送り動作が停止される。
【0082】
さらに、制御装置7の判定後処理部86は、加工前送り動作を停止した後に、停止後処理を行う(停止後処理工程ST13)。停止後処理は、例えば、管理者や作業者に対して荷重Rが設定値Rthを超えたことを通知すること、中ぐり装置1を構成する表示装置(図示せず)に当該情報を表示すること、管理装置(図示せず)に当該情報を表示すること、アラーム音を発することなどである。
【0083】
そして、制御装置7は、停止後処理を実行した後に、処理を終了する。ここで、制御装置7が停止後処理を実行した場合には、作業者は、中ぐり工具T、第一スリーブ62および第二スリーブ72の保守作業を実施する。例えば、切粉などの異物が介在している場合には、作業者は、切粉を除去する作業を行う。中ぐり工具Tの先端支持軸部22、基端支持軸部23、第一スリーブ62、第二スリーブ72の表面にキズが生じている場合などには、作業者は、対象物の修正作業を行う。作業者による作業が終了した後には、再び、図5の処理を行うことで、工作物Wの連続加工を行うことができる。
【0084】
(7.効果)
上述したように、中ぐり工具Tを第一サポート部材51および第二サポート部材52に挿入する動作中において、中ぐり工具Tの支持軸部22,23がサポート部材51,52のスリーブ62,72に引っ掛かる状態になってしまう前に、送り装置5による中ぐり工具Tの軸方向の荷重Rが大きくなり始めることが分かった。
【0085】
そこで、中ぐり装置1によれば、制御装置7は、送り装置5の加工前送り動作によって支持軸部22,23がサポート部材51,52に挿入されている時に、送り装置5に生じる中ぐり工具Tの軸方向の荷重を取得することとした。そして、制御装置7は、取得した荷重Rが設定値Rthを超える場合に、送り装置5による加工前送り動作を停止する。
【0086】
送り装置5に生じる軸方向の荷重Rが設定値Rthとなる状態を、中ぐり工具Tの支持軸部22,23がサポート部材51,52に引っ掛かるよりも前の状態とすることができる。従って、中ぐり工具Tの支持軸部22,23がサポート部材51,52に引っ掛かる状態になってしまう前に、送り装置5の送り動作を停止することができる。
【0087】
そして、作業者は、送り装置5による加工前送り動作を停止した後に戻し動作を行うことで、中ぐり工具Tをサポート部材51,52から引き抜くことができる。その後に、作業者は、中ぐり工具Tおよびサポート部材51,52の保守作業を行う。このときの保守作業は、中ぐり工具Tの支持軸部22,23がサポート部材51,52に引っ掛かった状態の修正作業に比べると、各段に容易な作業である。従って、作業工数を大幅に低減することができる。
【0088】
(8.変形例)
上述した実施形態では、挿入制御部81が作動している間に判定部85で比較判定を行った。挿入制御部81が作動している全範囲でなく、挿入直前から挿入中の範囲の間に判定部85で比較判定を行うようにしても良い。
【0089】
この場合の中ぐり装置1の構成について、図6を参照して説明する。図6に示す中ぐり装置1の構成は、図2に示す中ぐり装置1の構成に対して、送りモータ駆動回路45のみ相違する。
【0090】
送りモータ駆動回路45の設定部45jに、中ぐり工具Tを第一サポート部材51および第二サポート部材52に挿入する直前の位置から挿入完了位置までの主軸装置3の位置範囲を設定して記憶させる。続いて、比較部45kにて、位置カウンタ45iで得られる主軸装置3の現在位置と、設定部45jに記憶された位置範囲とを比較する。ゲート部45mは、位置カウンタ45iで得られる主軸装置3の現在位置が設定部45jに記憶された主軸装置3の位置範囲に位置する場合に、ゲートを開き、電流計45hの信号が判定部85に送られるようにする。
【0091】
そして、判定部85は、ゲート部45mから信号(荷重R)を取得した場合に、取得した荷重Rが設定値Rthを超えるか否かを判定する。つまり、判定部85は、加工前送り動作を開始してから、中ぐり工具Tが第一サポート部材51および第二サポート部材52に挿入する直前に至るまでの間、判定を行わない。
【0092】
ここで、送りモータ43におけるトルク(または駆動電流)は、主軸装置3の動きはじめ、すなわち、主軸装置3が停止した状態から移動し始めた直後が、非常に大きな値となる。主軸装置3の動きはじめは、送りモータ43の動きはじめに等しい。上記処理においては、主軸装置3の動きはじめを判定対象から除外しているため、確実に、中ぐり工具Tの支持軸部22,23がサポート部材51,52に引っ掛かる兆候を判定できる。
【符号の説明】
【0093】
1 中ぐり装置
3 主軸装置
4 工作物支持台
5 送り装置
6 サポート部材
7 制御装置
11 工具本体部
12 工具装着部
13 フローティング機構
21 刃部
21a 刃
22 先端支持軸部
23 基端支持軸部
51 第一サポート部材
52 第二サポート部材
R 荷重
Rth 設定値
T 中ぐり工具
W 工作物
Wa 貫通孔
図1
図2
図3
図4
図5
図6