(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-23
(45)【発行日】2025-01-07
(54)【発明の名称】電気流体力学ポンプ
(51)【国際特許分類】
H02K 44/02 20060101AFI20241224BHJP
【FI】
H02K44/02
(21)【出願番号】P 2021124272
(22)【出願日】2021-07-29
【審査請求日】2024-04-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000175272
【氏名又は名称】三浦工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100145713
【氏名又は名称】加藤 竜太
(72)【発明者】
【氏名】笹尾 智浩
【審査官】稲葉 礼子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2004/0244406(US,A1)
【文献】特開2007-196316(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0129357(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 44/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性を有する対象流体に電圧を印加することで前記対象流体に流れを生じさせる電気流体力学ポンプであって、
直列に配置され、それぞれ前記対象流体に電圧を印加する複数のポンプモジュールと、
隣接し合う前記ポンプモジュール同士を接続する接続部材と、
を備え、
それぞれの前記ポンプモジュールは、
絶縁材料で形成され、前記対象流体に電圧を印加する作用流路を画定する作用部と、
前記作用流路に電界を印加する一対の電極と、
絶縁材料で形成され、前記作用部を収容する筒状のケーシング部と、
前記ケーシング部の両端に一体に設けられ、前記接続部材に保持される一対の固定構造部と、
を有する、電気流体力学ポンプ。
【請求項2】
前記固定構造部は、絶縁材料で前記ケーシング部と一体に形成される、請求項1に記載の電気流体力学ポンプ。
【請求項3】
前記固定構造部及び前記接続部材は管継手を構成する、請求項1又は2に記載の電気流体力学ポンプ。
【請求項4】
前記固定構造部はヘルールであり、前記接続部材はクランプバンドである、請求項3に記載の電気流体力学ポンプ。
【請求項5】
前記複数のポンプモジュールは、前記作用流路の形状が異なるものを含む、請求項1から4のいずれかに記載の電気流体力学ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気流体力学ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
絶縁性を有する流体に電圧を印加することで流体に流れが生じる電気流体力学効果が知られている。この電気流体力学効果を利用して流体を吐出する電気流体力学ポンプが提案されている。電気流体力学ポンプは、インペラのような可動部材を必要としないため、小型化が可能である。
【0003】
電気流体力学ポンプにおいて、吐出量及び吐出圧を大きくするためには、電圧を高くすることが有効であるが、電圧を高くすると回路が高価になると共に、周囲の金属の影響を受けやすくなるという不都合が生じ得る。電圧を抑制しながら吐出量及び吐出圧を大きくする方法として、流路に沿って複数の電極対を多段に配設し、複数の電極対によって流体を順番に加圧するよう構成した電気流体力学ポンプが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
求められる仕様に応じて電極対の数及び配置を設計変更すると電気流体力学ポンプがコスト高となってしまう。このため、本発明は、容易に仕様を変更できる電気流体力学ポンプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る電気流体力学ポンプは、絶縁性を有する対象流体に電圧を印加することで前記対象流体に流れを生じさせる電気流体力学ポンプであって、直列に配置され、それぞれ前記対象流体に電圧を印加する複数のポンプモジュールと、隣接し合う前記ポンプモジュール同士を接続する接続部材と、を備え、それぞれの前記ポンプモジュールは、絶縁材料で形成され、前記対象流体に電圧を印加する作用流路を画定する作用部と、前記作用流路に電界を印加する一対の電極と、絶縁材料で形成され、前記作用部を収容する筒状のケーシング部と、前記ケーシング部の両端に一体に設けられ、前記接続部材に保持される一対の固定構造部と、を有する。
【0007】
上述の電気流体力学ポンプにおいて、前記固定構造部は、絶縁材料で前記ケーシング部と一体に形成されてもよい。
【0008】
上述の電気流体力学ポンプにおいて、前記固定構造部及び前記接続部材は管継手を構成してもよい。
【0009】
上述の電気流体力学ポンプにおいて、前記固定構造部はヘルールであり、前記接続部材はクランプバンドであってもよい。
【0010】
上述の電気流体力学ポンプにおいて、複数のポンプモジュールは、前記作用流路の形状が異なるものを含んでもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、容易に仕様を変更できる電気流体力学ポンプを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施系形態に係る電気流体力学ポンプの構成を示す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明をする。
図1は、本発明の一実施系形態に係る電気流体力学ポンプ1の構成を示す模式的断面図である。
【0014】
図1の電気流体力学ポンプ1は、絶縁性を有する対象流体に電圧を印加することで対象流体に流れを生じさせるポンプである。電気流体力学ポンプ1は、直列に配置され、それぞれ対象流体に電圧を印加する複数のポンプモジュール10と、隣接し合うポンプモジュール10同士をそれぞれ接続する複数の接続部材20と、を備える。なお、図示する電気流体力学ポンプ1は、3つのポンプモジュール10を有するが、ポンプモジュール10の数は特に限定されない。
【0015】
ポンプモジュール10は、絶縁材料で形成され、対象流体に電圧を印加する作用流路111を画定する作用部11と、作用流路111に電界を印加する一対の電極(第1電極12及び第2電極13)と、絶縁材料で形成され、作用部11を収容する筒状のケーシング部14と、ケーシング部14の両端に一体に設けられ、接続部材20に保持される一対の固定構造部15と、を有する。
【0016】
各ポンプモジュール10のケーシング部14及び固定構造部15は、すべて同一の形状を有することが好ましいが、作用部11(特に作用流路111)及び電極12,13は、ポンプモジュール10ごとに異なる形状を有してもよい。つまり、電気流体力学ポンプ1は、作用流路111の形状が異なるポンプモジュール10を組み合わせて形成され得る。電気流体力学ポンプ1の特性は、ポンプモジュールの組み合わせによって異なるものとなる。したがって、比較的少数の異なる仕様のポンプモジュール10を用意し、その組み合わせを選択するだけで、多様な仕様の電気流体力学ポンプ1を実現することができる。
【0017】
図1の電気流体力学ポンプ1では、上流側から数えて第1のポンプモジュール10と第3のポンプモジュール10とはすべての構成要素が同一の形状を有する。しかし、第2のポンプモジュール10は、第1及び第3のポンプモジュール10のものと同じ形状を有する第1電極12、第2電極13、ケーシング部14及び固定構造部15を有するが、第1及び第3のポンプモジュール10のものとは異なる形状を有する作用部11(特に作用流路111)を有する。より詳しくは、第1及び第3のポンプモジュール10の作用流路111は径が一定の円筒状の流路であるが、第2のポンプモジュール10の作用流路111は、下流側に向かって径が一定の割合で減少する円錐台状の流路である。なお図示する例では、全てのポンプモジュール10の第1電極12及び第2電極13は、同じものであるが、第1電極12及び第2電極13のいずれか又は両方の形状が作用流路111に対応して異なっていてもよい。
【0018】
作用流路111が一定の断面積を有する場合、流路抵抗が小さく、かつ対象流体に均等に電圧を作用させられるので、比較的大きい吐出流量を得ることができる。一方、作用流路111の断面積が下流側に向かって減少する場合、作用流路111内で対象流体の圧力を増大して吐出圧力をより大きくすることができる。このような作用流路111の形状が異なるポンプモジュール10を組み合わせることによって、所望の吐出特定を有する電気流体力学ポンプ1が得られる。
【0019】
ポンプモジュール10における差圧を大きくする場合、作用流路111の入口の径(円相当径)の出口の径に対する比を5以上20以下とすることが好ましく、8以上15以下とすることがより好ましい。作用流路111の径の流路長さに対する比としては、例えば1以上10以下、好ましくは2以上8以下とすることができる。このような範囲内において、作用流路111の流路長さ当たりの径の減少率を大きくすることによって、ポンプモジュール10における差圧を効率よく大きくできる。
【0020】
作用部11は、ケーシング部14の内部を区分するよう配設され、ケーシング部14の上流側の空間と下流側の空間とを連通するよう、作用流路111が貫通して形成される。また、作用部11は、作用流路111の両側に、第1電極12及び第2電極13をそれぞれ保持する保持構造112,113を有することが好ましい。本実施形態において、保持構造112,113は、第1電極12及び第2電極13を受け入れ、さらに第1電極12及び第2電極13の外周部を押圧する環状の抑え部材114,115を受け入れる座ぐり状の凹部である。
【0021】
作用部11は、対象流体が作用流路111のみを通過可能とするよう、ケーシング部14との間に隙間を生じないよう配設されることが好ましい。このため、作用部11は、ケーシング部14と一体に、例えば削り出し等の方法で形成されえる。また、多様な形状の作用流路111の形成を容易にするために、作用部11は、独立して形成された後、例えば圧入等の方法でケーシング部14の内部に固定されてもよい。
【0022】
第1電極12と第2電極13との間には、作用流体がマイナスイオン化する場合は、第1電極12を負とする電圧が印加される。第1電極12及び第2電極13は、作用流路111の入口及び出口を覆い、対象流体が通過できる開口又は隙間を有する形状を有し、好ましくは対象流体との接触面積が大きいメッシュ状とされる。具体的には、第1電極12及び第2電極13は、金属金網、好ましくは比較的強度が大きいステンレス金網によって形成することができる。第1電極12と第2電極13とは並行かつ対象流体の流れ方向に略垂直に配置されることが好ましい。
【0023】
第1電極12及び第2電極13の開口率としては、15%以上80%以下が好ましく、20%以上65%以下がより好ましく、25%以上50%以下さらに好ましい。これによって、第1電極12による流路抵抗の増大を抑制しつつ、第1電極12と対象流体との接触面積を確保して、対象流体に差圧を付与することができる。また、第1電極12及び第2電極13は、対象流体を流れやすくするために、部分的に大きい開口又は隙間を有してもよい。具体例として、第1電極12は、メッシュ状の材料に開口を形成したものであってもよい。なお、第1電極12と第2電極13とは開口率等が異なってもよい。
【0024】
第1電極12及び第2電極13と接続部材20との流路方向の隔離距離としては、第1電極12及び第2電極13に印加される電圧にもよるが、例えば第1電極12と第2電極13との距離の2倍以上、具体的には10mm以上とされ得る。
【0025】
ケーシング部14は、流路方向前後に延び、金属を含み得る接続部材20と第1電極12及び第2電極13との距離を確保することにより、接続部材20の影響を受けずに第1電極12及び第2電極13により作用流路111内に理想的な電界を形成することを可能にする。このため、ケーシング部14は、作用流路111の前後に、作用流路111と比べて断面積が大きく流路抵抗が小さい流路を画定する。
【0026】
ケーシング部14は、第1電極12及び第2電極13を不図示の電源に接続するための配線部材が貫通する配線孔141を有する。配線孔141は、対象流体の漏出を防止するために、封止材等を用いて封止されてもよく、配線部材又は作用部11に封止構造を設けることによって対象流体の漏出が防止されてもよい。
【0027】
固定構造部15は、作用流路111内に形成される電界に影響を与えないよう、絶縁材料から形成されることが好ましい。また、固定構造部15は、ポンプモジュール10の長さをできるだけ小さくするために、ケーシング部14と一体に形成されることが好ましい。これにより、所望の特性を有する電気流体力学ポンプ1を、比較的小型に構成することができる。
【0028】
固定構造部15は、接続部材20と共に、管継手、つまり配管を接続するための継手構造と同様の構造を構成することが好ましい。これにより、接続部材20等のポンプモジュール10を接続するための部材を安価且つ容易に入手することが可能となり、特別な知識がなくてもポンプモジュール10を接続できる。
【0029】
具体例として、固定構造部15は、例えばねじ、フランジ等であってもよいが、ISO2852に規定される形状を有するヘルールであることが好ましい。固定構造部15としてヘルールを用いることにより、ポンプモジュール10の容易且つ確実な接続が可能となる。また、固定構造部15としてヘルールを用いることにより、固定構造部15が小型であると共に、接続部材20の第1電極12及び第2電極13側への突出量を小さくできるため、ポンプモジュール10を小型化することができる。
【0030】
また、固定構造部15は、電気流体力学ポンプ1の両端において、電気流体力学ポンプ1を対象流体の流路に接続するためにも利用される。また、電気流体力学ポンプ1の固定構造部15と異なる継手を用いる流路に接続するために、一端に流路に用いられる継手を有し、他端に固定構造部15と同様の構造を有するアダプタ(不図示)を使用してもよい。このようなアダプタは、ケーシング部14の口径から流路の口径に変換するレデューサを有するものであってもよい。
【0031】
接続部材20は、対向して配置される2つの固定構造部15を保持することにより、隣接する2つのポンプモジュール10を接続する。接続部材20としては、固定構造部15に対応する部材が用いられる。また、接続部材20は、ポンプモジュール10間を堅固に接続するために、金属によって形成され得る。例として、固定構造部15がヘルールである場合、接続部材20としては、ISO2852に規定されるヘルール用クランプバンドが用いられる。ヘルール用クランプバンドは、流路方向の幅が小さいため、作用流路111内に形成される電界に影響を与えにくい。また、固定構造部15がネジであれば接続部材20としてソケット又はユニオンが、固定構造部15がフランジであれば接続部材20として複数組のボルトナットが用いられ得る。
【0032】
接続部材20により接続される2つのポンプモジュール10の固定構造部15の間には、ポンプモジュール10の隙間を封止するガスケット21が介設され得る。ガスケット21は、ポンプモジュール10の隙間を封止する。ガスケット21も、固定構造部15に対応する部材が用いられる。また、ガスケット21は、固定構造部15及び接続部材20の構成によっては省略され得る。
【0033】
電気流体力学ポンプ1は、複数のポンプモジュール10に個別に電圧を印加する駆動回路(不図示)を用いて駆動することができる。各ポンプモジュール10には、一定の電圧が印加(オンオフ制御)されてもよく、調整可能な電圧が印加(電圧制御)されてもよく、オンオフ比調整可能な高周波電圧が印加(デューティ制御)されてもよい。このように、ポンプモジュール10ごとに出力を調整することにより、電気流体力学ポンプ1は、所望の吐出流量及び吐出圧力を得ることができ、吐出条件にかかわらずエネルギー効率が高い運転が可能である。
【0034】
以上のように、電気流体力学ポンプ1は、複数のポンプモジュール10を組み合わせて構成されるので、ポンプモジュール10の選択により多様な仕様を比較的安価に実現でき、容易に仕様を変更することもできる。また、必要なポンプ出力が仕様変更となった場合でも、ポンプモジュール10の組み換えが容易であり、ポンプモジュール10の1つ又は複数を入れ替える、もしくは、ポンプモジュール10を1つ又は複数追加するだけでポンプ出力を適正出力へ変更可能である。
【0035】
以上、本発明の好ましい各実施形態につき説明したが、本発明は、上述の実施形態に制限されるものではなく、適宜変更が可能である。
【符号の説明】
【0036】
1 電気流体力学ポンプ
10 ポンプモジュール
11 作用部
111 作用流路
112,113 保持構造
114,115 抑え部材
12 第1電極
13 第2電極
14 ケーシング部
141 配線孔
15 固定構造部
20 接続部材
21 ガスケット