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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-23
(45)【発行日】2025-01-07
(54)【発明の名称】エンジン装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 41/38 20060101AFI20241224BHJP
【FI】
F02D41/38
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021160310
(22)【出願日】2021-09-30
(65)【公開番号】P2023050279
(43)【公開日】2023-04-11
【審査請求日】2024-02-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】弁理士法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安藤 宏和
(72)【発明者】
【氏名】金子 理人
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 大地
(72)【発明者】
【氏名】清水 聖有
(72)【発明者】
【氏名】竹内 智哉
【審査官】村山 美保
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-080630(JP,A)
【文献】特開2019-173605(JP,A)
【文献】特開2014-034972(JP,A)
【文献】特開2014-234730(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0090332(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 41/00
F02M 61/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポート噴射弁と筒内噴射弁とを有するエンジンと、
燃料タンクから燃料を前記ポート噴射弁が接続された低圧供給管に圧送する低圧ポンプと、前記低圧供給管から燃料を前記筒内噴射弁が接続された高圧供給管に圧送する高圧ポンプとを有する燃料供給装置と、
前記エンジンおよび前記燃料供給装置を制御する制御装置と、
を備えるエンジン装置であって、
前記制御装置は、
前記高圧供給管の燃圧が第1所定圧未満のときにアップする第1カウンタが第1閾値以上に至ったときには、前記高圧供給管の燃圧を前記第1所定圧以上の状態として前記筒内噴射弁から燃料噴射を行なって前記筒内噴射弁に堆積しているデポジットを除去する第1除去処理を行ない、
前記高圧供給管の燃圧が前記第1所定圧より高い第2所定圧未満かつ前記筒内噴射弁の先端温度が所定温度以上のときにアップする第2カウンタが第2閾値以上に至ったときには、前記高圧供給管の燃圧を前記第2所定圧以上の状態として前記筒内噴射弁から燃料噴射を行なって前記筒内噴射弁に堆積しているデポジットを除去する第2除去処理を行なう、
ことを特徴とするエンジン装置。
【請求項2】
請求項1記載のエンジン装置であって、
前記制御装置は、前記エンジンの冷却水温が所定水温以上かつ前記筒内噴射弁の先端温度が前記所定温度以上のときには、前記第1カウンタおよび前記第2カウンタをアップする、
エンジン装置。
【請求項3】
請求項1記載のエンジン装置であって、
前記第1カウンタは、前記エンジンの冷却水温が所定水温以上の状態で、前記高圧供給管の燃圧が前記第1所定圧未満で前記ポート噴射弁から燃料噴射が行なわれたときに第1アップ量だけアップし、前記高圧供給管の燃圧が前記第1所定圧以上で前記筒内噴射弁から燃料噴射が行なわれたときに第1ダウン量だけダウンし、
前記第2カウンタは、前記エンジンの冷却水温が前記所定水温以上の状態で、前記高圧供給管の燃圧が前記第2所定圧未満かつ前記筒内噴射弁の先端温度が前記所定温度以上で前記ポート噴射弁および/または前記筒内噴射弁から燃料噴射が行なわれたときに第2アップ量だけアップし、前記高圧供給管の燃圧が前記第2所定圧以上で前記筒内噴射弁から燃料噴射が行なわれたときに第2ダウン量だけダウンする、
エンジン装置。
【請求項4】
請求項3記載のエンジン装置であって、
前記第1アップ量および第2アップ量は、値1であり、
前記第1ダウン量は、前記高圧供給管の燃圧が前記第1所定圧以上の範囲で大きいほど大きくなり、
前記第2ダウン量は、前記高圧供給管の燃圧が前記第2所定圧以上の範囲で大きいほど大きくなる、
エンジン装置。
【請求項5】
請求項3または4記載のエンジン装置であって、
前記第1除去処理は、前記第1カウンタが値0に至ったときに終了し、
前記第2除去処理は、前記第2カウンタが値0に至ったときに終了する、
前記エンジン装置。
【請求項6】
請求項5記載のエンジン装置であって、
前記第1除去処理および前記第2除去処理は、前記エンジンに要求される動力が所定動力未満のときに実行され、前記エンジンに要求される動力が前記所定動力以上のときには中断する、
エンジン装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン装置に関し、詳しくは、ポート噴射弁と筒内噴射弁とを有するエンジンを備えるエンジン装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のエンジン装置としては、筒内噴射弁に堆積するデポジットの量を推定するためのカウンタ値を算出し、カウンタ値が閾値を超えた場合に筒内噴射弁のデポジット除去処理を実行するものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この装置では、燃料噴射量を基本燃料噴射量よりも増量させる増量要求が出された場合には、筒内噴射弁に供給される燃料の燃料圧力に対する増圧量を算出し、増圧量に応じて燃料圧力を増圧する。カウンタ値を燃料圧力に応じて算出することにより、より適正に筒内噴射弁のデポジットの除去処理を行なっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-178849号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
発明者らの解析により筒内噴射弁に堆積するデポジットは、筒内噴射弁の先端温度が低いと熱可塑性のデポジットが堆積しやすく、先端温度が高いと熱硬化性のデポジットが堆積しやすいことが解ってきた。また、熱可塑性のデポジットについては、筒内噴射弁に供給する高圧供給管の燃圧をある程度まで高くして筒内噴射弁から燃料噴射することにより除去できるが、熱硬化性のデポジットについては、燃圧を更に高くして筒内噴射弁から燃料噴射しなければ除去できないことも解ってきた。このため、上述の燃料圧力に応じて算出されるカウンタ値によるデポジット除去処理ではデポジットを除去できない場合が生じる。
【0005】
本発明のエンジン装置は、筒内噴射弁に堆積するデポジットをより適正に除去することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のエンジン装置は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
本発明のエンジン装置は、
ポート噴射弁と筒内噴射弁とを有するエンジンと、
燃料タンクから燃料を前記ポート噴射弁が接続された低圧供給管に圧送する低圧ポンプと、前記低圧供給管から燃料を前記筒内噴射弁が接続された高圧供給管に圧送する高圧ポンプとを有する燃料供給装置と、
前記エンジンおよび前記燃料供給装置を制御する制御装置と、
を備えるエンジン装置であって、
前記制御装置は、
前記高圧供給管の燃圧が第1所定圧未満のときにアップする第1カウンタが第1閾値以上に至ったときには、前記高圧供給管の燃圧を前記第1所定圧以上の状態として前記筒内噴射弁から燃料噴射を行なって前記筒内噴射弁に堆積しているデポジットを除去する第1除去処理を行ない、
前記高圧供給管の燃圧が前記第1所定圧より高い第2所定圧未満かつ前記筒内噴射弁の先端温度が所定温度以上のときにアップする第2カウンタが第2閾値以上に至ったときには、前記高圧供給管の燃圧を前記第2所定圧以上の状態として前記筒内噴射弁から燃料噴射を行なって前記筒内噴射弁に堆積しているデポジットを除去する第2除去処理を行なう、
ことを特徴とする。
【0008】
本発明のエンジン装置では、筒内噴射弁が接続された高圧供給管の燃圧が第1所定圧未満のときにアップする第1カウンタが第1閾値以上に至ったときには、高圧供給管の燃圧を第1所定圧以上の状態として筒内噴射弁から燃料噴射を行なって筒内噴射弁に堆積しているデポジットを除去する第1除去処理を行なう。高圧供給管の燃圧が第1所定圧未満のときにアップする第1カウンタは熱可塑性のデポジットの筒内噴射弁の堆積に応じたものとなるから、第1カウンタが第1閾値以上に至ったときに第1除去処理を行なうことにより、筒内噴射弁に堆積している熱可塑性のデポジットを良好に除去することができる。また、本発明のエンジン装置では、高圧供給管の燃圧が第1所定圧より高い第2所定圧未満かつ筒内噴射弁の先端温度が所定温度以上のときにアップする第2カウンタが第2閾値以上に至ったときには、高圧供給管の燃圧を第2所定圧以上の状態として筒内噴射弁から燃料噴射を行なって筒内噴射弁に堆積しているデポジットを除去する第2除去処理を行なう。高圧供給管の燃圧が第1所定圧より高い第2所定圧未満かつ筒内噴射弁の先端温度が所定温度以上のときにアップする第2カウンタは熱硬化性のデポジットの筒内噴射弁の堆積に応じたものとなるから、第2カウンタが第2閾値以上に至ったときに第2除去処理を行なうことにより、筒内噴射弁に堆積している熱硬化性のデポジットを良好に除去することができる。これらの結果、筒内噴射弁に堆積するデポジットをより適正に除去することができる。
【0009】
ここで、第1所定圧としては、筒内噴射弁に堆積した熱可塑性のデポジットを除去することができる最小の燃圧を用いることが好ましく、例えば10MPaや12MPa、14MPaなどを用いることができる。第1所定圧としては、筒内噴射弁に堆積した熱硬化性のデポジットを除去することができる最小の燃圧を用いることが好ましく、例えば18MPaや20MPa、22MPaなどを用いることができる。所定温度としては、筒内噴射弁に熱硬化性のデポジットが堆積する最低温度を用いるのが好ましく、例えば140℃や150℃,160℃などを用いることができる。
【0010】
本発明のエンジン装置において、前記制御装置は、前記エンジンの冷却水温が所定水温以上かつ前記筒内噴射弁の先端温度が前記所定温度以上のときには、前記第1カウンタおよび前記第2カウンタをアップするものとしてもよい。筒内噴射弁の先端温度は気筒によりバラツキが生じるため、エンジンの冷却水温が所定水温以上であることを条件とすることにより、第1カウンタや第2カウンタのアップを安全サイドとすることができる。
【0011】
本発明のエンジン装置において、前記第1カウンタは、前記エンジンの冷却水温が所定水温以上の状態で、前記高圧供給管の燃圧が前記第1所定圧未満で前記ポート噴射弁から燃料噴射が行なわれたときに第1アップ量だけアップし、前記高圧供給管の燃圧が前記第1所定圧以上で前記筒内噴射弁から燃料噴射が行なわれたときに第1ダウン量だけダウンし、前記第2カウンタは、前記エンジンの冷却水温が前記所定水温以上の状態で、前記高圧供給管の燃圧が前記第2所定圧未満かつ前記筒内噴射弁の先端温度が前記所定温度以上で前記ポート噴射弁または前記筒内噴射弁から燃料噴射が行なわれたときに第2アップ量だけアップし、前記高圧供給管の燃圧が前記第2所定圧以上で前記筒内噴射弁から燃料噴射が行なわれたときに第2ダウン量だけダウンするものとしてもよい。第1カウンタにより堆積がカウントされる熱可塑性のデポジットは高圧供給管の燃圧が第1所定圧以上で筒内噴射弁から燃料噴射が行なわれることにより徐々に除去されるから、第1カウンタのダウンを考慮することにより、第1カウンタは熱可塑性のデポジットの堆積量をより適正に示すものとなる。また、第2カウンタにより堆積がカウントされる熱硬化性のデポジットは高圧供給管の燃圧が第2所定圧以上で筒内噴射弁から燃料噴射が行なわれることにより徐々に除去されるから、第2カウンタのダウンを考慮することにより、第2カウンタは熱硬化性のデポジットの堆積量をより適正に示すものとなる。これらの結果、筒内噴射弁に堆積するデポジットをより適正に除去することができる。
【0012】
こうしたダウンを考慮した第1カウンタおよび第2カウンタにより除去処理を行なう態様の本発明のエンジン装置において、前記第1アップ量および第2アップ量は値1であり、前記第1ダウン量は前記高圧供給管の燃圧が前記第1所定圧以上の範囲で大きいほど大きくなり、前記第2ダウン量は、前記高圧供給管の燃圧が前記第2所定圧以上の範囲で大きいほど大きくなるものとしてもよい。これは高圧供給管の燃圧が大きいほどデポジットを除去する効果が大きいことに基づく。これにより、第1カウンタは熱可塑性のデポジットの堆積量をより適正に示すものとなり、第2カウンタは熱硬化性のデポジットの堆積量をより適正に示すものとなる。
【0013】
ダウンを考慮した第1カウンタおよび第2カウンタにより除去処理を行なう態様の本発明のエンジン装置において、前記第1除去処理は前記第1カウンタが値0に至ったときに終了し、前記第2除去処理は前記第2カウンタが値0に至ったときに終了するものとしてもよい。これにより、より確実にデポジットを除去することができる。この場合、前記第1除去処理および前記第2除去処理は、前記エンジンに要求される動力が所定動力未満のときに実行され、前記エンジンに要求される動力が前記所定動力以上のときには中断するものとしてもよい。ここで、所定動力としては、車両に搭載されているときにはクリープトルクを出力する程度を考えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】エンジン装置10の構成の概略を示す構成図である。
図2】電子制御ユニット70の入出力信号の一例を示す説明図である。
図3】電子制御ユニット70により実行されるデポ除去処理の一例を示すフローチャートである。
図4】電子制御ユニット70により実行される第1カウンタ処理の一例を示すフローチャートであり、
図5】電子制御ユニット70により実行される第2カウンタ処理の一例を示すフローチャートである。
図6】第1カウンタCsのカウント処理条件の一覧を示す一覧表である。
図7】第1ダウン量設定用マップの一例を示す説明図である。
図8】第2カウンタCsのカウント処理条件の一覧を示す一覧表である。
図9】第2ダウン量設定用マップの一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本発明を実施するための形態を実施例を用いて説明する。
【実施例
【0016】
図1は、本発明の一実施例としてのエンジン装置10の構成の概略を示す構成図であり、図2は、電子制御ユニット70の入出力信号の一例を示す説明図である。実施例のエンジン装置10は、エンジン12からの動力を用いて走行する一般的な車両や、エンジン12に加えてモータを備える各種のハイブリッド車両に搭載され、図1図2に示すように、エンジン12と、過給機40と、燃料供給装置16と、電子制御ユニット70とを備える。
【0017】
エンジン12は、燃料タンク11から供給されるガソリンや軽油などの燃料を用いて動力を出力する内燃機関として構成されている。このエンジン12は、吸気ポートに燃料を噴射するポート噴射弁28と、燃焼室31内に燃料を噴射する筒内噴射弁29と、点火プラグ32とを有する。筒内噴射弁29は燃焼室31の頂部の略中央に配置されており、燃料をスプレー状に噴射する。点火プラグ32は、筒内噴射弁29からスプレー状に噴霧される燃料に点火できるように筒内噴射弁29の近傍に配置されている。エンジン12は、ポート噴射弁28と筒内噴射弁29とを有することにより、ポート噴射モードと筒内噴射モードと共用噴射モードとのうちの何れかで運転可能となっている。ポート噴射モードでは、エアクリーナ22により清浄された空気を吸気管23に吸入してインタークーラ25、スロットルバルブ26、サージタンク27の順に通過させ、吸気管23のサージタンク27よりも下流側の ポート噴射弁28から燃料を噴射し、空気と燃料とを混合する。この混合気を吸気バルブ30を介して燃焼室31に吸入し、点火プラグ32による電気火花によって爆発燃焼させる。そして、爆発燃焼によるエネルギにより押し下げられるピストン33の往復運動をクランクシャフト14の回転運動に変換する。筒内噴射モードでは、ポート噴射モードと同様に空気を燃焼室31に吸入し、吸気行程や圧縮行程あるいは膨張行程において筒内噴射弁29から1回または複数回に分けて燃料を噴射し、点火プラグ32による電気火花により爆発燃焼させてクランクシャフト14の回転運動を得る。特に膨張行程で燃料噴射する場合には筒内噴射弁29から噴射したスプレー状の燃料に点火できるように膨張行程での筒内噴射弁29の燃料噴射と点火プラグ32の点火とが同期して行なわれる。共用噴射モードでは、空気を燃焼室31に吸入する際にポート噴射弁28から燃料を噴射すると共に吸気行程や圧縮行程あるいは膨張行程において筒内噴射弁29から1回または複数回に分けて燃料を噴射し、点火プラグ32による電気火花により爆発燃焼させてクランクシャフト14の回転運動を得る。燃焼室31から排気バルブ34を介して排気管35に排出される排気は、一酸化炭素(CO)や炭化水素(HC)、窒素酸化物(NOx)の有害成分を浄化する触媒(三元触媒)を有する浄化装置37,38を介して外気に排出される。なお、クランクシャフト14には、エンジン12をクランキングする図示しないスタータと、エンジン12の動力により発電するオルタネータ48とが取り付けられている。オルタネータ48は、図示しないバッテリからエンジン冷却系38のファンモータ38dやウォーターポンプ38eなどに電力を供給する電力ラインに発電した電力を供給する。
【0018】
燃料供給装置16は、燃料タンク11と、フィードポンプ11pと、低圧供給管17と、高圧ポンプ18と、高圧供給管19と、を備える。燃料タンク11からの燃料はフィードポンプ11pにより圧送されて低圧供給管17を介してポート噴射弁28に供給されている。フィードポンプ11pは、図示しないバッテリからの電力の供給を受けて作動する電動ポンプとして構成されており、燃料タンク11に配置されている。なお、図示しないが、低圧供給管17にはフィードポンプ11p側からポート噴射弁28側の方向の燃料の流れを許容すると共に逆方向の燃料の流れを規制する逆止弁も取り付けられている。また、低圧供給管17からの燃料は高圧ポンプ18により圧送されて高圧供給管19を介して筒内噴射弁29に供給されている。高圧ポンプ18は、エンジン12からの動力(実施例では、吸気バルブ30を開閉するインテークカムシャフトの回転)により駆動されるポンプとして構成されている。高圧ポンプ18は、その吸入口に接続されて燃料を加圧する際に開閉する電磁バルブ18aと、その吐出口に接続されて燃料の逆流を規制すると共に高圧供給管19内の燃圧を保持するチェックバルブ18bと、エンジン12の回転(インテークカムシャフトの回転)により作動するプランジャ18cとを有し、エンジン12の運転中に電磁バルブ18aが開弁されたときに低圧供給管17の燃料を吸入し、電磁バルブ18aが閉弁されたときにプランジャ18cによって圧縮した燃料をチェックバルブ18bを介して高圧供給管19に断続的に送り込むことにより、高圧供給管19に供給する燃料を加圧する。なお、高圧ポンプ18の駆動時には、低圧供給管17内の燃圧や高圧供給管19内の燃圧(燃料の圧力)は、エンジン12の回転(インテークカムシャフトの回転)に応じて脈動する。
【0019】
エンジン12には、熱交換媒体(冷却水など)によりエンジン12を冷却するエンジン冷却系38が設けられている。エンジン冷却系38は、エンジン12の図示しないウォータージャケットとラジエータ38bとに熱交換媒体を循環させる循環流路38aを備える。ラジエータ38bには、ファンモータ38dにより駆動するファン38cが取り付けられており、内部の熱交換媒体(水など)を外気により冷却する。循環流路38aには、熱交換媒体を循環させるためのウォーターポンプ38eが取り付けられている。
【0020】
過給機40は、ターボチャージャとして構成されており、コンプレッサ41と、タービン42と、回転軸43と、ウェイストゲートバルブ44と、ブローオフバルブ45とを備える。コンプレッサ41は、吸気管23のインタークーラ25よりも上流側に配置されている。タービン42は、排気管35の浄化装置37よりも上流側に配置されている。回転軸43は、コンプレッサ41とタービン42とを連結する。ウェイストゲートバルブ44は、排気管35におけるタービン42よりも上流側と下流側とを連絡するバイパス管36に設けられており、電子制御ユニット70により制御される。ブローオフバルブ45は、吸気管23におけるコンプレッサ41よりも上流側と下流側とを連絡するバイパス管24に設けられており、電子制御ユニット70により制御される。
【0021】
この過給機40では、ウェイストゲートバルブ44の開度の調節により、バイパス管36を流通する排気量とタービン42を流通する排気量との分配比が調節され、タービン42の回転駆動力が調節され、コンプレッサ41による圧縮空気量が調節され、エンジン12の過給圧(吸気圧)が調節される。ここで、分配比は、詳細には、ウェイストゲートバルブ44の開度が小さいほど、バイパス管36を流通する排気量が少なくなると共にタービン42を流通する排気量が多くなるように調節される。なお、エンジン12は、ウェイストゲートバルブ44が全開のときには、過給機40を備えない自然吸気タイプのエンジンと同様に動作可能になっている。
【0022】
また、過給機40では、吸気管23におけるコンプレッサ41よりも下流側の圧力が上流側の圧力よりもある程度高いときに、ブローオフバルブ45を開弁させることにより、コンプレッサ41よりも下流側の余剰圧力を解放することができる。なお、ブローオフバルブ45は、電子制御ユニット70により制御されるバルブに代えて、吸気管23におけるコンプレッサ41よりも下流側の圧力が上流側の圧力よりもある程度高くなると開弁する逆止弁として構成されるものとしてもよい。
【0023】
電子制御ユニット70は、CPUを中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPUに加えて、処理プログラムを記憶するROMや、データを一時的に記憶するRAM、データを記憶保持する不揮発性のフラッシュメモリ、入出力ポート、通信ポートを備える。電子制御ユニット70には、各種センサからの信号が入力ポートを介して入力されている。
【0024】
電子制御ユニット70に入力される信号としては、例えば、燃料タンク11内の圧力を検出する内圧センサ11aからのタンク内圧Ptnkや、エンジン12のクランクシャフト14の回転位置を検出するクランクポジションセンサ14aからのクランク角θcr、エンジン12の冷却水の温度を検出する水温センサ38fからの冷却水温Tw、スロットルバルブ26の開度を検出するスロットルポジションセンサ26aからのスロットル開度THを挙げることができる。吸気バルブ30を開閉するインテークカムシャフトや排気バルブ34を開閉するエキゾーストカムシャフトの回転位置を検出する図示しないカムポジションセンサからのカムポジションθcaも挙げることができる。吸気管23のコンプレッサ41よりも上流側に取り付けられたエアフローメータ23aからの吸入空気量Qaや、吸気管23のコンプレッサ41よりも上流側に取り付けられた吸気温センサ23tからの吸気温Tin、吸気管23のコンプレッサ41よりも上流側に取り付けられた吸気圧センサ23bからの吸気圧(コンプレッサ前圧)Pin、吸気管23のコンプレッサ41とインタークーラ25との間に取り付けられた過給圧センサ23cからの過給圧Pcも挙げることができる。サージタンク27に取り付けられたサージ圧センサ27aからのサージ圧(スロットル後圧)Psや、サージタンク27に取り付けられた温度センサ27bからのサージ温度Tsも挙げることができる。ポート噴射弁28に供給する燃料の燃圧を検出する燃圧センサ28aからの低圧燃圧Pfpや筒内噴射弁29に供給する燃料の燃圧を検出する燃圧センサ29aからの高圧燃圧Pfdも挙げることができる。排気管35の浄化装置37よりも上流側に取り付けられたフロント空燃比センサ35aからのフロント空燃比AF1や、排気管35の浄化装置37の下流側に取り付けられたリヤ空燃比センサ35bからのリヤ空燃比AF2も挙げることができる。
【0025】
電子制御ユニット70からは、各種制御信号が出力ポートを介して出力されている。電子制御ユニット70から出力される信号としては、例えば、オルタネータ15への制御信号、スロットルバルブ26への制御信号や、ポート噴射弁28への制御信号、筒内噴射弁29への制御信号、点火プラグ32への制御信号を挙げることができる。エンジン冷却装置38のファンモータ38dやウォーターポンプ38eへの駆動信号や、インタークーラ冷却装置39のファンモータ39dや循環ポンプ39eへの駆動信号も挙げることができる。ウェイストゲートバルブ44への制御信号、ブローオフバルブ45への制御信号、電磁バルブ18aへの制御信号も挙げることができる。
【0026】
電子制御ユニット70は、エンジン12の回転数Neや負荷率(エンジン12の1サイクルあたりの行程容積に対する1サイクルで実際に吸入される空気の容積の割合)KLを演算している。回転数Neは、クランクポジションセンサ14aからのクランク角θcrに基づいて演算される。負荷率KLは、エアフローメータ23aからの吸入空気量Qaと回転数Neとに基づいて演算される。
【0027】
こうして構成された実施例のエンジン装置10では、電子制御ユニット70は、エンジン12の要求負荷率KL*に基づいて、スロットルバルブ26の開度を制御する吸入空気量制御や、筒内噴射弁28からの燃料噴射量を制御する燃料噴射制御、点火プラグ31の点火時期を制御する点火制御、ウェイストゲートバルブ44の開度を制御する過給制御、電磁バルブ18aの開閉による高圧供給管19の燃圧制御などが行なわれる。
【0028】
次に、実施例のエンジン装置10の動作、特に、筒内噴射弁29の先端付近に付着堆積するデポジットを除去する際の動作について説明する。図3は、電子制御ユニット70により実行されるデポ除去処理の一例を示すフローチャートである。図4は、電子制御ユニット70により実行される第1カウンタ処理の一例を示すフローチャートであり、図5は、電子制御ユニット70により実行される第2カウンタ処理の一例を示すフローチャートである。図3のデポ除去処理は、第1カウンタCSにより設定される第1除去フラグFcsや第2カウンタChにより設定される第2除去フラグFchに基づいて行なわれる。説明の容易のために、まず、第1カウンタ処理と第2カウンタ処理とについて説明し、その後にデポ除去処理について説明する。
【0029】
図4の第1カウンタ処理は、1サイクル(720クランク角)毎に繰り返し実行される。第1カウンタ処理が実行されると、電子制御ユニット70は、まず、温度センサ38fにより検出されるエンジン12の冷却水の温度(冷却水温)Twや燃圧センサ29aにより検出される高圧供給管19の燃圧Pfdなどの第1カウンタ処理に必要なデータを入力する(ステップS200)。
【0030】
データを入力すると第1カウンタCsのカウントアップ処理(ステップS210~S240)を実行する。第1カウンタCsのカウントアップ処理では、まず、冷却水温Twが閾値Tref1以上であるか否かを判定する(ステップS210)。閾値Tref1は、エンジン12がある程度暖機されている状態にあるか否かを判定する閾値であり、例えば50℃や60℃,70℃を用いることができる。第1カウンタ処理はエンジン12がある程度の暖機が完了しているときに行なわれるため、冷却水温Twが閾値Tref1未満でであると判定したときには、第1カウンタCsのカウントアップやカウントダウンの処理を行なうことなく本処理を終了する。
【0031】
ステップS210で冷却水温Twが閾値Tref1以上であると判定したときには、高圧側の燃圧Pfdが閾値Pref1未満であるか否かを判定する(ステップS220)。閾値Pref1は、筒内噴射弁29の先端付近に付着堆積した熱可塑性のデポジットを除去可能な下限燃圧を用いることができ、例えば11MPaや12MPa,13MPaなどを用いることができる。したがって、高圧側の燃圧Pfdが閾値Pref1以上であると判定したときには、筒内噴射弁29の先端近傍への熱可塑性のデポジットの付着堆積は生じないと考えられる。
【0032】
ステップS220で高圧側の燃圧Pfdが閾値Pref1未満であると判定したときには、ポート噴射弁28からの燃料噴射が100%であるか否か、即ち筒内噴射弁29からの燃料噴射がなかったか否かを判定する(ステップS230)。筒内噴射弁29から燃料噴射が行なわれると、筒内噴射弁29の先端近傍への熱可塑性のデポジットの付着堆積は生じないと考えられることを考慮するのである。
【0033】
ステップS230でポート噴射弁28からの燃料噴射が100%であると判定したときには、第1カウンタCsを値1だけカウントアップする(ステップS240)。なお、ステップS210で冷却水温Twが閾値Tref1未満であると判定したときやステップS220で高圧側の燃圧Pfdが閾値Pref1以上であると判定したとき、あるいは、ステップS230でポート噴射弁28からの燃料噴射が100%ではないと判定したときには、第1カウンタCsのカウントアップは行なわれない。実施例の第1カウンタCsのカウント処理条件の一覧を図6に示す。このカウントアップ処理では、冷却水温Twが閾値Tref以上であることを前提条件として、高圧側の燃圧Pfdが閾値Pref1未満である条件、ポート噴射弁28からの燃料噴射が100%である条件のいずれもが成立したときに、第1カウンタCsを値1だけカウントアップする。
【0034】
第1カウンタCsのカウントアップ処理を行なうと、続いて第1カウンタCsのカウントダウン処理(ステップS250~S290)を行なう。第1カウンタCsのカウントダウン処理では、まず、高圧側の燃圧Pfdが閾値Pref1以上であるか否かを判定する(ステップS250)。高圧側の燃圧Pfdが閾値Pref1未満では、筒内噴射弁29の先端近傍に付着堆積した熱可塑性のデポジットは除去できないと考えられることを考慮したものである。
【0035】
ステップS250で高圧側の燃圧Pfdが閾値Pref1以上であると判定したときには、ポート噴射弁28からの燃料噴射が100%以外であるか否か、即ち筒内噴射弁29からの燃料噴射が行なわれたか否かを判定する(ステップS260)。筒内噴射弁29から燃料噴射が行なわれることにより筒内噴射弁29の先端近傍に付着堆積した熱可塑性のデポジットを除去することができると考えられることを考慮するのである。
【0036】
ステップS260でポート噴射弁28からの燃料噴射が100%以外であると判定したときには、第1カウンタCsをカウントダウンする第1ダウン量ΔCsを高圧側の燃圧Pfdに基づいて導出する(ステップS270)。実施例では、高圧側の燃圧Pfdと第1ダウン量ΔCsとの関係を予め定めて第1ダウン量設定用マップとして記憶しておき、高圧側の燃圧Pfdが与えられるとマップから対応する第1ダウン量ΔCsを導出するものとした。図7に第1ダウン量設定用マップの一例を示す。図示するように、第1ダウン量ΔCsは、高圧側の燃圧Pfdが閾値Pref1のときに値2で、高圧側の燃圧Pfdが閾値Pref1以上の範囲で大きくなるほど大きくなるように設定されている。なお、第1ダウン量設定用マップが階段状になっているのは、第1ダウン量ΔCsを整数とするためである。
【0037】
第1ダウン量ΔCsを導出すると、第1カウンタCsから第1ダウン量ΔCsを減じて新たな第1カウンタCsを設定し(ステップS280)、設定した第1カウンタCsを下限値としての値0により下限ガードする(ステップS290)。これにより、第1カウンタCsは値0以上の値としてカウントダウンされる。なお、ステップS250で高圧側の燃圧Pfdが閾値Pref1未満であると判定されたときや、ステップS260でポート噴射弁28からの燃料噴射が100%以外ではない(100%である)と判定したときには、第1カウンタCsのカウントダウンは行なわれない。このカウントダウン処理では、高圧側の燃圧Pfdが閾値Pref1以上である条件、ポート噴射弁28からの燃料噴射が100%ではない条件(筒内噴射弁29から燃料噴射している条件)のいずれもが成立しているときに、第1カウンタCsを第1ダウン量ΔCsだけカウントダウンする。
【0038】
こうして第1カウンタCsのカウントアップ処理およびカウントダウン処理をおこなうと、第1除去フラグFcsの設定処理(ステップS300~S330)を行なう。第1除去フラグFcsの設定処理では、まず、第1カウンタCsが閾値Cref1以上であるか否かを判定する(ステップS300)。第1除去フラグFcsは、初期値として値0が設定されており、筒内噴射弁29の先端付近に付着堆積した熱可塑性のデポジットの除去を要請するときに値1が設定され、デポジットの除去が終了したときに値0が設定されるものである。閾値Cref1は、筒内噴射弁29の先端付近に付着堆積した熱可塑性のデポジットを除去する必要があるか否かを判定する閾値であり、エンジン12の特性によって実験などにより定めることができる。第1カウンタCsが閾値Cref1以上であると判定したときには、第1除去フラグFcsに値1を設定する(ステップS310)。
【0039】
続いて、第1カウンタCsが値0であるか否かを判定し(ステップS320)、第1カウンタCsが値0であると判定したときには、第1除去フラグFcsに値0を設定し(ステップS330)、本処理を終了する。第1カウンタCsが値1以上で閾値Cref1未満のときには、第1除去フラグFcsについてはその値を維持する。第1除去フラグFcsは、この図4の第1カウンタ処理によりカウントアップしたりカウントダウンしたりする第1カウンタCsが閾値Cref1以上に至ったときに値1が設定され、第1カウンタCsが値0のときに値0が設定される。
【0040】
図5の第2カウンタ処理は、1サイクル(720クランク角)毎に繰り返し実行される。第2カウンタ処理が実行されると、電子制御ユニット70は、まず、温度センサ38fにより検出される冷却水温Twや燃圧センサ29aにより検出される高圧側の燃圧Pfd、筒内噴射弁29の先端温度Testなどの第2カウンタ処理に必要なデータを入力する(ステップS400)。筒内噴射弁29の先端温度Testについては、吸入空気量Qaが多いほど且つ冷却水温Twが高いほど高くなる傾向に推定されることに基づいて、実施例では、吸入空気量Qaと冷却水温Twと先端温度Testとの関係を予め求めて先端温度設定用マップとして記憶しておき、吸入空気量Qaと冷却水温Twとが与えられるとマップから対応する先端温度Testを導出することにより推定しているから、これを入力するものとした。
【0041】
データを入力すると冷却水温Twが閾値Tref1以上であるか否かを判定する(ステップS410)。閾値Tref1については上述した。冷却水温Twが閾値Tref1未満でであると判定したときには、第1カウンタCsのカウントアップやカウントダウンの処理を行なうことなく本処理を終了する。
【0042】
ステップS410で冷却水温Twが閾値Tref1以上であると判定したときには、カウントアップ処理(ステップS420~S460)を実行する。第2カウンタChのカウントアップ処理では、まず、筒内噴射弁29の先端温度Testが閾値Tref2以上であるか否かを判定する(ステップS420)。閾値Tref2は、筒内噴射弁29の先端付近に熱硬化性のデポジットが付着堆積しやすい温度範囲の下限温度やその近傍の温度として定められるものであり、例えば140℃や150℃、160℃などを用いることができる。筒内噴射弁29の先端温度Testが閾値Tref2以上であると判定したときにはポート噴射弁28からの燃料噴射が100%であるか否かを判定し(ステップS430)、ポート噴射弁28からの燃料噴射が100%であると判定したときには、第2カウンタChを値1だけカウントアップする(ステップS460)。
【0043】
ステップS420で筒内噴射弁29の先端温度Testが閾値Tref2未満であると判定したときには、高圧側の燃圧Pfdが閾値Pref2未満であるか否かを判定する(ステップS440)。閾値Pref2は、筒内噴射弁29の先端付近に付着堆積した熱硬化性のデポジットを除去可能な下限燃圧を用いることができ、例えば18MPaや20MPa,22MPaなどを用いることができる。したがって、高圧側の燃圧Pfdが閾値Pref2以上であると判定したときには、筒内噴射弁29の先端近傍への熱硬化性のデポジットの付着堆積は生じないと考えられる。高圧側の燃圧Pfdが閾値Pref2未満であると判定したときには、ポート噴射弁28からの燃料噴射が100%であるか否か(筒内噴射弁29から燃料噴射しているか否か)を判定する(ステップS450)。この判定は、筒内噴射弁29から燃料噴射が行なわれているときには、熱硬化性のデポジットの筒内噴射弁29の先端付近への付着堆積は生じないと考えられることに基づいている。ポート噴射弁28からの燃料噴射が100%ではないと判定したときには、第2カウンタChを値1だけカウントアップする(ステップS460)。
【0044】
ステップS430でポート噴射弁28からの燃料噴射が100%ではないと判定されたとき、ステップS440で高圧側の燃圧Pfdが閾値Pref2以上であると判定されたとき、ステップS450でポート噴射弁29からの燃料噴射が100%であると判定したときには第2カウンタChのカウントアップは行なわれない。実施例の第2カウンタChのカウント処理条件の一覧を図8に示す。このカウントアップ処理では、冷却水温Twが閾値Tref以上であることを前提条件として、筒内噴射弁29の先端温度が閾値Tref2以上である条件、高圧側の燃圧Pfdが閾値Pref2未満である条件のいずれもが成立したときに、第2カウンタChを値1だけカウントアップする。
【0045】
第2カウンタChのカウントアップ処理を行なうと、続いて第2カウンタChのカウントダウン処理(ステップS470~S510)を行なう。第2カウンタChのカウントダウン処理では、まず、高圧側の燃圧Pfdが閾値Pref2以上であるか否かを判定する(ステップS470)。高圧側の燃圧Pfdが閾値Pref2未満では、筒内噴射弁29の先端近傍に付着堆積した熱硬化性のデポジットは除去できないと考えられることを考慮したものである。
【0046】
ステップS470で高圧側の燃圧Pfdが閾値Pref2以上であると判定したときには、ポート噴射弁28からの燃料噴射が100%以外であるか否か、即ち筒内噴射弁29からの燃料噴射が行なわれたか否かを判定する(ステップS480)。筒内噴射弁29から燃料噴射が行なわれることにより筒内噴射弁29の先端近傍に付着堆積した熱硬化性のデポジットを除去することができると考えられることを考慮するのである。
【0047】
ステップS480でポート噴射弁28からの燃料噴射が100%以外であると判定したときには、第2カウンタChをカウントダウンする第2ダウン量ΔChを高圧側の燃圧Pfdに基づいて導出する(ステップS490)。実施例では、高圧側の燃圧Pfdと第2ダウン量ΔChとの関係を予め定めて第2ダウン量設定用マップとして記憶しておき、高圧側の燃圧Pfdが与えられるとマップから対応する第2ダウン量ΔChを導出するものとした。図9に第2ダウン量設定用マップの一例を示す。図示するように、第2ダウン量ΔChは、高圧側の燃圧Pfdが閾値Pref2のときに値6で、高圧側の燃圧Pfdが閾値Pref2以上の範囲で大きくなるほど大きくなるように設定されている。なお、第2ダウン量設定用マップが階段状になっているのは、第2ダウン量ΔChを整数とするためである。
【0048】
第2ダウン量ΔChを導出すると、第2カウンタChから第2ダウン量ΔChを減じて新たな第2カウンタChを設定し(ステップS500)、設定した第2カウンタChを下限値としての値0により下限ガードする(ステップS510)。これにより、第2カウンタChは値0以上の値としてカウントダウンされる。なお、ステップS470で高圧側の燃圧Pfdが閾値Pref2未満であると判定されたときや、ステップS480でポート噴射弁28からの燃料噴射が100%以外ではない(100%である)と判定したときには、第2カウンタChのカウントダウンは行なわれない。このカウントダウン処理では、高圧側の燃圧Pfdが閾値Pref2以上である条件、ポート噴射弁28からの燃料噴射が100%ではない条件(筒内噴射弁29から燃料噴射している条件)のすべてが成立しているときに、第2カウンタChを第2ダウン量ΔChだけカウントダウンする。
【0049】
こうして第2カウンタChのカウントアップ処理およびカウントダウン処理をおこなうと、第2除去フラグFchの設定処理(ステップS520~S550)を行なう。第2除去フラグFchの設定処理では、まず、第2カウンタChが閾値Cref2以上であるか否かを判定する(ステップS520)。第2除去フラグFchは、初期値として値0が設定されており、筒内噴射弁29の先端付近に付着堆積した熱硬化性のデポジットの除去を要請するときに値1が設定され、デポジットの除去が終了したときに値0が設定されるものである。閾値Cref2は、筒内噴射弁29の先端付近に付着堆積した熱硬化性のデポジットを除去する必要があるか否かを判定する閾値であり、エンジン12の特性によって実験などにより定めることができる。第2カウンタChが閾値Cref2以上であると判定したときには、第2除去フラグFchに値1を設定する(ステップS530)。
【0050】
続いて、第2カウンタChが値0であるか否かを判定し(ステップS540)、第2カウンタChが値0であると判定したときには、第2除去フラグFchに値0を設定し(ステップS550)、本処理を終了する。第2カウンタChが値1以上で閾値Cref2未満のときには、第2除去フラグFchについてはその値を維持する。第2除去フラグFchは、この図5の第2カウンタ処理によりカウントアップしたりカウントダウンしたりする第2カウンタChが閾値Cref2以上に至ったときに値1が設定され、第2カウンタChが値0のときに値0が設定される。
【0051】
次に図3のデポ除去処理について説明する。デポ除去処理が実行されると、電子制御ユニット70は、まず、第1除去フラグFcsと第2除去フラグFchとを入力する(ステップS100)。続いて、第1除去フラグFcsが値1であり且つ第2除去フラグFchが値0であるか否かを判定する(ステップS110)。第1除去フラグFcsは熱可塑性のデポジットの除去が必要なときに値1となるものであり、第2除去フラグFchは熱硬化性のデポジットの除去が必要なときに値1となるものであるから、ステップS110の判定は熱硬化性のデポジットの除去はまだ不要だが熱可塑性のデポジットの除去は必要であるか否かを判定するものとなる。
【0052】
ステップS110で第1除去フラグFcsが値1であり且つ第2除去フラグFchが値0であると判定したときには、デポジットの除去処理を行なってもよい条件が成立しているか否かを判定する(ステップS120)。この条件としては、車両が停止している条件や、エンジン12の暖気が完了している条件などを挙げることができる。
【0053】
ステップS120でデポジットの除去処理を行なってもよい条件が成立していると判定したときには、高圧側の燃圧Pfdが閾値Pref1となるように高圧ポンプ18を駆動し、筒内噴射弁29からの燃料噴射を100%として燃料噴射する(ステップS130)。こうした高圧側の燃圧Pfdを閾値Pref1として筒内噴射弁29から燃料噴射を行なうことにより、筒内噴射弁29の先端付近に付着堆積した熱可塑性のデポジットは除去される。なお、こうしたステップS130の除去処理(第1除去処理)は、第1カウンタCsが値0となり第1除去フラグFcsに値0が設定されるまで継続される。なお、第1除去処理を行なっている最中に運転者によりアクセルペダルが踏まれるなどしてデポジットの除去処理を行なってもよい条件が成立しなくなったときには、第1除去処理は中断されるが、その後デポジットの除去処理を行なってもよい条件が成立したときに再開される。
【0054】
次に、第2除去フラグFchが値1であるか否かを判定する(ステップS140)。第2除去フラグFchが値1であると判定したときには、デポジットの除去処理を行なってもよい条件が成立しているか否かを判定する(ステップS150)。この条件としては、第1除去処理の場合と同様である。デポジットの除去処理を行なってもよい条件が成立していると判定したときには、高圧側の燃圧Pfdが閾値Pref2となるように高圧ポンプ18を駆動し、筒内噴射弁29からの燃料噴射を100%として燃料噴射する(ステップS160)。こうした高圧側の燃圧Pfdを閾値Pref2として筒内噴射弁29から燃料噴射を行なうことにより、筒内噴射弁29の先端付近に付着堆積した熱硬化性のデポジットは除去される。このステップS160の除去処理(第2除去処理)では高圧側の燃圧Pfdを閾値Pref1より大きな閾値Pref2とするから、熱硬化性のデポジットの除去が行なわれるだけでなく、熱可塑性のデポジットの除去も行なわれる。第2除去処理は、第2カウンタChが値0となって第2除去フラグFchに値0が設定されるまで継続される。なお、第2除去処理を行なっている最中に運転者によりアクセルペダルが踏まれるなどしてデポジットの除去処理を行なってもよい条件が成立しなくなったときには、第2除去処理は中断されるが、その後デポジットの除去処理を行なってもよい条件が成立したときに再開される。
【0055】
図3のデポ除去処理では、第2除去フラグFchが値1のときには第1除去フラグFcsの値にかかわらず、第2除去処理が実行される。第1除去処理は、第2除去フラグFchが値0のときに第1除去フラグFcsが値1のときに実行される。
【0056】
以上説明した実施例のエンジン装置10では、筒内噴射弁29の先端付近に付着堆積する熱可塑性のデポジットの堆積量を反映する第1カウンタCsが閾値Cref1以上に至ったときに高圧供給管19の燃圧Pfdを閾値Pref1以上として筒内噴射弁29から燃料噴射することによって熱可塑性のデポジットの除去処理(第1除去処理)を実行する。また、筒内噴射弁29の先端付近に付着堆積する熱硬化性のデポジットの堆積量を反映する第2カウンタChが閾値Cref2以上に至ったときに高圧供給管19の燃圧Pfdを閾値Pref2以上として筒内噴射弁29から燃料噴射することによって熱硬化性のデポジットの除去処理(第2除去処理)を実行する。このように第1カウンタCsと第2カウンタChとを用いて熱可塑性のデポジットの除去処理と熱硬化性のデポジットの除去処理とを行なうことにより、筒内噴射弁29に堆積しているデポジットをより適正に除去することができる。
【0057】
実施例のエンジン装置10では、第1カウンタ処理においてカウントアップするときには値1だけカウントアップするものとしたが、値2ずつカウントアップするものとしたり、冷却水温Twや高圧側の燃圧Pfdに応じて変化する第1アップ量を用いてカウントアップするものとしてもよい。また、第2カウンタ処理においてカウントアップするときには値1だけカウントアップするものとしたが、値2ずつカウントアップするものとしたり、先端温度Testやポート噴射弁28からの燃料噴射率に応じて変化する第2アップ量を用いてカウントアップするものとしてもよい。
【0058】
実施例のエンジン装置10では、第1カウンタ処理においてカウントダウンするときには高圧側の燃圧Pfdが大きいほど大きくなる第1ダウン量ΔCsを用いてカウントダウンするものとしたが、一定値の第1ダウン量を用いてカウントダウンするものとしても構わない。第2カウンタ処理においてカウントダウンするときには高圧側の燃圧Pfdが大きいほど大きくなる第2ダウン量ΔChを用いてカウントダウンするものとしたが、一定値の第2ダウン量を用いてカウントダウンするものとしても構わない。
【0059】
実施例のエンジン装置10では、第1カウンタCsのカウントアップの条件として、冷却水温Twが閾値Tref1以上であることを前提条件としてポート噴射弁28からの燃料噴射が100%である条件が成立したことを用いたが、冷却水温Twが閾値Tref1以上であることを前提条件として筒内噴射弁29の先端温度Testが閾値Tref2以上である条件が成立したときも用いるものとしてもよい。冷却水温Twが閾値Tref1以上であることを前提条件として筒内噴射弁29の先端温度Testが閾値Tref2以上である条件が成立したときには第2カウンタChをカウントアップするから、安全サイドに沿って第1カウンタCsもカウントアップするのである。
【0060】
実施例のエンジン装置10では、エンジン12として、筒内噴射弁29が燃焼室31の頂部の略中央に配置されているものを用いたが、筒内噴射弁29が燃焼室31の側壁(サイド)に配置されているエンジンを用いるものとしても構わない。
【0061】
実施例のエンジン装置10では、過給機40は、吸気管23に配置されるコンプレッサ41と排気管35に配置されるタービン42とが回転軸43を介して連結されるターボチャージャとして構成されるものとした。しかし、これに代えて、エンジン12やモータにより駆動されるコンプレッサが吸気管23に配置されるスーパーチャージャとして構成されるものとしてもよい。また、過給機40を備えないものとしても構わない。
【0062】
実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係について説明する。実施例では、ポート噴射弁28が「ポート噴射弁」に相当し、筒内噴射弁29が「筒内噴射弁」に相当し、エンジン12が「エンジン」に相当し、燃料タンク11が「燃料タンク」に相当し、フィードポンプ11pが「低圧ポンプ」に相当し、高圧ポンプ18が「高圧ポンプ」に相当し、燃料供給装置16が「燃料供給装置」に相当し、電子制御ユニット70が「制御装置」に相当する。
【0063】
なお、実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係は、実施例が課題を解決するための手段の欄に記載した発明を実施するための形態を具体的に説明するための一例であることから、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。即ち、課題を解決するための手段の欄に記載した発明についての解釈はその欄の記載に基づいて行なわれるべきものであり、実施例は課題を解決するための手段の欄に記載した発明の具体的な一例に過ぎないものである。
【0064】
以上、本発明を実施するための形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明は、エンジン装置の製造産業などに利用可能である。
【符号の説明】
【0066】
10 エンジン装置、11 燃料タンク、11a 内圧センサ、11p フィードポンプ、12 エンジン、14 クランクシャフト、14a クランクポジションセンサ、16 燃料供給装置、17 低圧供給管、18 高圧ポンプ、18a 電磁バルブ、18b チェックバルブ、18c プランジャ、19 高圧供給管、22 エアクリーナ、23 吸気管、23a エアフローメータ、23b 吸気圧センサ、23c 過給圧センサ、24 バイパス管、25 インタークーラ、26 スロットルバルブ、26a スロットルポジションセンサ、27 サージタンク、27a サージ圧センサ、27b 温度センサ、28 筒内噴射弁、28a 燃圧センサ、29 吸気バルブ、30 燃焼室、31 点火プラグ、32 ピストン、34 排気バルブ、35 排気管、35a フロント空燃比センサ、35b リヤ空燃比センサ、36 バイパス管、37 浄化装置、38 エンジン冷却系、38a 循環流路、38b ラジエータ、38c ファン、38d ファンモータ、38e ウォーターポンプ、38f 温度センサ、40 過給機、41 コンプレッサ、42 タービン、43 回転軸、44 ウェイストゲートバルブ、45 ブローオフバルブ、70 電子制御ユニット。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9