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特許7609032磁歪式トルクセンサ及び磁歪式トルクセンサの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-23
(45)【発行日】2025-01-07
(54)【発明の名称】磁歪式トルクセンサ及び磁歪式トルクセンサの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01L 3/10 20060101AFI20241224BHJP
【FI】
G01L3/10 301J
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021175244
(22)【出願日】2021-10-27
(65)【公開番号】P2023064846
(43)【公開日】2023-05-12
【審査請求日】2024-04-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】弁理士法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金 一銘
(72)【発明者】
【氏名】藤森 亮利
(72)【発明者】
【氏名】久保 吉徳
(72)【発明者】
【氏名】小野 潤司
(72)【発明者】
【氏名】福田 晃大
(72)【発明者】
【氏名】大寺 貴裕
【審査官】公文代 康祐
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-101502(JP,A)
【文献】特開平09-288020(JP,A)
【文献】特開平09-105686(JP,A)
【文献】米国特許第04909088(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01L 3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁歪効果を有する回転軸の周囲に取り付けられ、前記回転軸に付与されたトルクを検出する磁歪式トルクセンサであって、
前記回転軸を挿通させる筒部を有する支持部材と、
前記筒部の外周に配置され、複数のコイルが配線パターンによって形成されたフレキシブル基板と、
前記フレキシブル基板を前記筒部の外周面に向かって締め付ける締付部材と、
を備えた磁歪式トルクセンサ。
【請求項2】
前記締付部材は、加熱によって収縮する筒状の熱収縮チューブである、
請求項1に記載の磁歪式トルクセンサ。
【請求項3】
前記フレキシブル基板は、前記複数のコイルが長手方向に並んで形成された帯状部を有し、
前記帯状部における短手方向の両端部が前記締付部材に覆われている、
請求項1又は2に記載の磁歪式トルクセンサ。
【請求項4】
前記締付部材の内面にホットメルト接着剤が塗布されている、
請求項3に記載の磁歪式トルクセンサ。
【請求項5】
前記フレキシブル基板は、前記帯状部から短手方向に延出されて前記締付部材の外部に配置された突片部を有し、前記突片部に複数の端子部が設けられており、
前記複数の端子部にそれぞれ接続された複数の電線を有するケーブルを備えた、
請求項3又は4に記載の磁歪式トルクセンサ。
【請求項6】
前記支持部材には、前記ケーブルを支持するケーブル支持部が前記筒部から径方向外方に突出して設けられており、
前記ケーブル支持部に、前記突片部を固定する固定部が設けられている、
請求項5に記載の磁歪式トルクセンサ。
【請求項7】
前記支持部材の前記筒部との間に前記フレキシブル基板を収容する収容空間を形成するカバー部材と、前記支持部材及び前記カバー部材のそれぞれの少なくとも一部を覆うように成形されたモールド樹脂からなる封止部材とを備え、
前記カバー部材によって前記フレキシブル基板及び前記締付部材に前記モールド樹脂が接触しないように構成されている、
請求項1乃至6の何れか1項に記載の磁歪式トルクセンサ。
【請求項8】
請求項2に記載の磁歪式トルクセンサの製造方法であって、
前記支持部材の前記筒部の外周に前記フレキシブル基板を配置し、前記フレキシブル基板の外周に前記熱収縮チューブを配置する配置工程と、
前記熱収縮チューブを加熱して収縮させ、前記フレキシブル基板を前記筒部の外周面に向かって締め付ける締付工程と、
を有する磁歪式トルクセンサの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁歪式トルクセンサ及び磁歪式トルクセンサの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば自動車のエンジンの出力回転軸のトルクを検出するために、磁歪式のトルクセンサが用いられている。磁歪式のトルクセンサは、応力によって回転軸の透磁率が変化する磁歪効果を利用し、回転軸の周囲に配置した検出コイルのインダクタンスの変化に基づいて回転軸に付与されたトルクを検出するように構成されている。本出願人は、複数の検出コイルが形成されたフレキシブル基板を回転軸の周囲に配置し、複数の検出コイルのインダクタンスの変化に基づいて回転軸に付与されたトルクを検出する磁歪式トルクセンサを提案している(特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載の磁歪式トルクセンサは、回転軸の軸方向に対して+45度傾斜した第1直線部を有する複数の第1検出コイル、及び回転軸の軸方向に対して-45度傾斜した第2直線部を有する複数の第2検出コイルが形成されたフレキシブル基板と、このフレキシブル基板の周囲に同軸配置された中空円筒状の強磁性体からなる磁性体リングとを有している。フレキシブル基板は、磁性体リングの内周面に接着固定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-49124号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の磁歪式トルクセンサは、製造時において上記のように中空円筒状の磁性体リングの内周面にフレキシブル基板を接着固定するため、磁性体リングの内周面、又は磁性体リングの内周面に対向するフレキシブル基板の一方の面に塗布した接着剤が固まるまで待たなければならず、このことが生産性向上の妨げとなっていた。
【0006】
そこで、本発明は、複数のコイルが形成されたフレキシブル基板を中空円筒状の磁性体リングに接着固定して磁歪式トルクセンサを構成する場合に比較して、生産性を向上させることが可能な磁歪式トルクセンサ、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決することを目的として、磁歪効果を有する回転軸の周囲に取り付けられ、前記回転軸に付与されたトルクを検出する磁歪式トルクセンサであって、前記回転軸を挿通させる筒部を有する支持部材と、前記筒部の外周に配置され、複数のコイルが配線パターンによって形成されたフレキシブル基板と、前記フレキシブル基板を前記筒部の外周面に向かって締め付ける締付部材と、を備えた磁歪式トルクセンサを提供する。
【0008】
また、本発明は、上記課題を解決することを目的として、前記締付部材が加熱によって収縮する筒状の熱収縮チューブである上記の磁歪式トルクセンサの製造方法であって、前記支持部材の前記筒部の外周に前記フレキシブル基板を配置し、前記フレキシブル基板の外周に前記熱収縮チューブを配置する配置工程と、前記熱収縮チューブを加熱して収縮させ、前記フレキシブル基板を前記筒部の外周面に向かって締め付ける締付工程と、を有する磁歪式トルクセンサの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る磁歪式トルクセンサ及び磁歪式トルクセンサの製造方法によれば、複数のコイルが形成されたフレキシブル基板を中空円筒状の磁性体リングに接着固定して磁歪式トルクセンサを構成する場合に比較して、生産性を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施の形態に係る磁歪式トルクセンサを示す斜視図である。
図2図1のA-A線における磁歪式トルクセンサの断面図である。
図3】磁歪式トルクセンサの一部を拡大して示す断面図である。
図4】支持部材を示す斜視図である。
図5】支持部材にフレキシブル基板及びケーブルが組み合わされた状態を軸方向視で示す構成図である。
図6】フレキシブル基板の平面図である。
図7】フレキシブル基板の断面図である。
図8】(a)~(d)は、フレキシブル基板の第1乃至第4の配線層の配線パターンを示す平面図である。
図9】フレキシブル基板、ケーブル、発振器、及び電圧計によって構成される電気回路の構成例を模式的に示す回路図である。
図10】支持部材、フレキシブル基板、及び熱収縮チューブを示す斜視図である。
図11】配置工程が完了した状態を示す斜視図である。
図12】締付工程の完了状態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[実施の形態]
図1は、本発明の実施の形態に係る磁歪式トルクセンサを示す斜視図である。図2は、図1のA-A線における磁歪式トルクセンサの断面をトルクの検出対象の回転軸と共に示す断面図である。図3は、磁歪式トルクセンサの一部を拡大して示す断面図である。
【0012】
この磁歪式トルクセンサ1は、回転軸8の周囲に取り付けられ、回転軸8に付与されたトルクを検出するために用いられる。回転軸8は、例えば自動車のエンジン等の駆動源の駆動力を伝達するシャフトである。磁歪式トルクセンサ1によって得られたトルクの検出結果は、駆動源や自動変速機などの制御のために用いられる。
【0013】
磁歪式トルクセンサ1は、回転軸8を中心部に挿通させる内側円筒部21を有する支持部材2と、支持部材2の内側円筒部21の外周に配置された外側円筒部31を有するカバー部材3と、支持部材2及びカバー部材3のそれぞれの少なくとも一部を覆うように成形されたモールド樹脂からなる封止部材4と、支持部材2の内側円筒部21の外周に配置されたフレキシブル基板5と、フレキシブル基板5を支持部材2の内側円筒部21の外周面21bに向かって締め付ける締付部材としての熱収縮チューブ6と、フレキシブル基板5に接続される複数の電線を有するケーブル7とを備えている。支持部材2及びカバー部材3は、射出成形された樹脂部材であり、封止部材4と共に樹脂製のハウジング10を構成する。
【0014】
回転軸8は、磁歪効果を有する強磁性体であり、回転軸線Oを中心として回転してトルクを伝達する。ここで、磁歪とは、強磁性体に磁場を印加して磁化させると形状に歪(ひずみ)が現れる現象である。そして、この現象を逆に利用し、形状の歪によって発生する磁界を磁歪式トルクセンサ1で検出することで、回転軸8に付与されたトルクを検出することができる。回転軸8としては、例えばクロム鋼、クロムモリブデン鋼、又はニッケルクロムモリブデン鋼等のクロムを含有するクロム鋼からなる軸状体に浸炭焼入れ及び焼戻し処理を施し、さらにショットピーニングを施したものを好適に用いることができる。以下、回転軸8の回転軸線Oに平行な方向を軸方向という。
【0015】
図4は、支持部材2を示す斜視図である。図5は、支持部材2にフレキシブル基板5及びケーブル7が組み合わされた状態を軸方向視で示す構成図である。ケーブル7は、第1乃至第4の電線71~74と、第1乃至第4の電線71~74を一括して覆うシース75とを備えている。第1乃至第4の電線71~74は、良導電性の金属からなる芯線711,721,731,741が絶縁体からなる絶縁被覆712,722,732,742に被覆された絶縁電線である。
【0016】
支持部材2は、内側円筒部21と、内側円筒部21の軸方向の一方の端部の外周に設けられた環状の鍔部22と、内側円筒部21の軸方向の他方の端部の外周に設けられて鍔部22と軸方向に対向する底壁部23と、ケーブル7を支持するケーブル支持部24とを一体に有している。内側円筒部21は、内周面21aが回転軸8の外周面8aに対向し、外周面21bにフレキシブル基板5が接している。内側円筒部21は、本発明の「筒部」に相当する。鍔部22は、図3に示すように、軸方向に沿った断面の形状が台形状であり、その一部がフレキシブル基板5側とは反対側に突出する突起221となっている。突起221と内側円筒部21との間には、環状の凹部20が形成されている。
【0017】
ケーブル支持部24は、内側円筒部21の軸方向の他方の端部から径方向外方に突出して設けられている。ケーブル支持部24は、第1乃至第4の電線71~74のそれぞれを所定の間隔で区画して支持する第1乃至第3の壁部241~243と、シース75を保持するシース保持部244と、フレキシブル基板5の突片部500(後述)を支持する台座部245とを有している。台座部245には、突片部500を固定する固定部としての一対の突起245a,245bが設けられている。
【0018】
カバー部材3は、外側円筒部31と、外側円筒部31の軸方向の一方の端部の内周に設けられた環状の蓋部32と、支持部材2のケーブル支持部24との間にケーブル7を挟むケーブル挟持部33とを一体に有している。外側円筒部31における軸方向の他方の端部は、支持部材2の底壁部23に突き当てられている。外側円筒部31は、支持部材2の内側円筒部21との間に、フレキシブル基板5及び熱収縮チューブ6を収容する環状の収容空間100を形成している。蓋部32の内径側の端部には、支持部材2の鍔部22と軸方向に並ぶ突起321が設けられている。突起321は、鍔部22の突起221と内側円筒部21との間の凹部20に嵌合する。
【0019】
封止部材4は、カバー部材3の外側円筒部31、蓋部32、及びケーブル挟持部33、ならびに、支持部材2の内側円筒部21の軸方向両端部、底壁部23、ケーブル支持部24を覆い、収容空間100への水分等の侵入を防いでいる。封止部材4は、支持部材2及びカバー部材3が配置された金型内に溶融した液状のモールド樹脂を注入して形成されている。モールド樹脂は、カバー部材3の蓋部32における収容空間100側とは反対側の端面32aに向かい合う部位に設けられた複数の注入孔から注入される。
【0020】
図1に示すように、封止部材4には、モールド樹脂の三つの注入痕41~43が形成されている。注入痕41~43は、金型の注入孔に残存したモールド樹脂を除去した痕跡である。図3に示すように、支持部材2とカバー部材3との間には、僅かな隙間が形成されているが、この隙間が突起221,321の噛み合いによって断面Z字状のラビリンス形状に形成されているため、溶融したモールド樹脂が収容空間100に侵入してフレキシブル基板5及び熱収縮チューブ6に接触してしまうことが防止されている。すなわち、ハウジング10は、カバー部材3により、フレキシブル基板5及び熱収縮チューブ6にモールド樹脂が接触しないように構成されている。
【0021】
図6は、フレキシブル基板5の平面図である。図7は、フレキシブル基板5の断面図である。フレキシブル基板5は、長手方向(図6の左右方向)に延在する帯状部50と、長手方向に対して垂直な短手方向に沿って帯状部50から延出された突片部500とを有している。突片部500の先端部には、第1乃至第4の端子部501~504が設けられている。第1乃至第4の端子部501~504には、支持部材2のケーブル支持部24に支持された第1乃至第4の電線71~74のそれぞれの芯線711,721,731,741が半田付け又は溶接によって接続される。
【0022】
突片部500には、ケーブル支持部24における台座部245に設けられた一対の突起245a,245bが嵌合する嵌合孔500a,500bが形成されている。嵌合孔500a,500bは、突片部500を厚さ方向に貫通している。突片部500は、一対の突起245a,245bが嵌合孔500a,500bに嵌合することで、ケーブル支持部24に固定される。
【0023】
フレキシブル基板5は、第1乃至第4の配線層51~54を有する多層構造であり、支持部材2の内側円筒部21を外側から囲むように円筒状に湾曲して配置される。フレキシブル基板5は、湾曲の外側にあたる一方面5aから湾曲の内側にあたる他方面5bに向かって順に、カバーレイフィルム551、接着層561、第1の配線層51、第1のベースフィルム571、第2の配線層52、接着層562、カバーレイフィルム552、両面テープ58,カバーレイフィルム553、接着層563、第3の配線層53、第2のベースフィルム572、第4の配線層54、接着層564、及びカバーレイフィルム554が積層されている。
【0024】
第1の配線層51及び第2の配線層52は、銅箔をエッチングして形成された配線パターンであり、第1のベースフィルム571の表(おもて)面571a及び裏面571bにそれぞれ形成されている。同様に、第3の配線層53及び第4の配線層54は、銅箔をエッチングして形成された配線パターンであり、第2のベースフィルム572の表面572a及び裏面572bにそれぞれ形成されている。カバーレイフィルム551,552,553,554は、接着層561,562,563,564によって第1乃至第4の配線層51~54に貼り付けられた保護フィルムである。第1及び第2のベースフィルム571,572、ならびにカバーレイフィルム551,552,553,554は、ポリイミド等の絶縁性樹脂からなる。両面テープ58は、例えばアクリルテープである。
【0025】
図8(a)は、第1のベースフィルム571の表面571aに形成された第1の配線層51の配線パターンを示す平面図である。図8(b)は、第1のベースフィルム571の表面571a側から見た第2の配線層52の配線パターンを示す平面図である。図8(c)は、第2のベースフィルム572の表面572aに形成された第3の配線層53の配線パターンを示す平面図である。図8(d)は、第2のベースフィルム572の表面572a側から見た第4の配線層54の配線パターンを示す平面図である。
【0026】
第1の配線層51には、帯状部50の長手方向に並ぶ第1乃至第9のコイル511~519が配線パターンによって形成されている。第1及び第9のコイル511,519は三角形状であり、第2乃至第8のコイル512~518は平行四辺形状である。第2の配線層52にも同様に、帯状部50の長手方向に並ぶ第1乃至第9のコイル521~529が配線パターンによって形成されている。第1及び第9のコイル521,529は三角形状であり、第2乃至第8のコイル522~528は平行四辺形状である。
【0027】
また、第3の配線層53には、帯状部50の長手方向に並ぶ第1乃至第9のコイル531~539が配線パターンによって形成されている。第1及び第9のコイル531,539は三角形状であり、第2乃至第8のコイル532~538は平行四辺形状である。第4の配線層54にも同様に、帯状部50の長手方向に並ぶ第1乃至第9のコイル541~549が配線パターンによって形成されている。第1及び第9のコイル541,549は三角形状であり、第2乃至第8のコイル542~548は平行四辺形状である。
【0028】
第1の配線層51の第1乃至第9のコイル511~519、及び第4の配線層54の第1乃至第9のコイル541~549は、帯状部50の短手方向に対して一方側に所定角度(+45°)傾斜した直線部511a~519a,541a~549aをそれぞれ有している。第2の配線層52の第1乃至第9のコイル521~529、及び第3の配線層53の第1乃至第9のコイル531~539は、帯状部50の短手方向に対して他方側に所定角度(-45°)傾斜した直線部521a~529a,531a~539aをそれぞれ有している。
【0029】
図9は、フレキシブル基板5、ケーブル7、発振器91、及び電圧計92によって構成される電気回路の構成例を模式的に示す回路図である。第1の配線層51の第1乃至第9のコイル511~519は、直接に接続されて第1の誘導負荷510を形成し、第2の配線層52の第1乃至第9のコイル521~529は、直接に接続されて第2の誘導負荷520を形成する。また、第3の配線層53の第1乃至第9のコイル531~539は、直接に接続されて第3の誘導負荷530を形成し、第4の配線層54の第1乃至第9のコイル541~549は、直接に接続されて第4の誘導負荷540を形成する。
【0030】
第1の誘導負荷510及び第3の誘導負荷530、ならびに第2の誘導負荷520及び第4の誘導負荷540は、第1の端子部501と第2の端子部502との間にそれぞれ直列に接続されている。第1の誘導負荷510と第3の誘導負荷530とを接続する接続線路591は第3の端子部503に接続され、第2の誘導負荷520と第4の誘導負荷540とを接続する接続線路592は第4の端子部504に接続されている。発振器91は、第1の端子部501と第2の端子部502との間に交流電圧を印加する。電圧計92は、第3の端子部503と第4の端子部504との間の電圧を測定する。
【0031】
回転軸8にトルクが付与されると、軸方向に対して+45度の方向の透磁率が減少(又は増加)し、軸方向に対して-45度方向の透磁率が増加(又は減少)する。よって、発振器91から交流電圧を印加した状態で回転軸8にトルクが付与されると、第1の誘導負荷510及び第4の誘導負荷540のインダクタンスが減少(又は増加)し、第2の誘導負荷520及び第3の誘導負荷530ではインダクタンスが増加(又は減少)する。その結果、電圧計92で測定される電圧が変化するので、この電圧の変化を基に回転軸8に付与されたトルクを検出することができる。
【0032】
なお、図8(a)~(d)では、第1乃至第4の配線層51~54の第1乃至第9のコイル511~519,521~529,531~539,541~549を直列に接続する部分の配線パターンや、接続線路591,592、及びこれらの回路要素と第1乃至第4の端子部501~504との間の配線パターンの図示を省略している。
【0033】
フレキシブル基板5は、加熱によって収縮する熱収縮チューブ6により、支持部材2の内側円筒部21の外周面21bに向かって締め付けられている。本実施の形態では、熱収縮チューブ6の内面6aにホットメルト接着剤61(図3参照)が塗布されている。ホットメルト接着剤61は、熱収縮チューブ6を収縮させる際の熱によって溶融してフレキシブル基板5の一方面5aと熱収縮チューブ6の内面6aとの間に介在し、フレキシブル基板5と熱収縮チューブ6とを接着する。フレキシブル基板5の他方面5bは、内側円筒部21の外周面21bに隙間なく密着している。熱収縮チューブ6は、例えばポリオレフィンやポリ塩化ビニル等の樹脂材料からなり、例えば150℃以上になると収縮する。
【0034】
また、熱収縮チューブ6の軸方向の幅は、フレキシブル基板5の帯状部50の短手方向の幅よりも広く、帯状部50における短手方向の両端部が熱収縮チューブ6に覆われている。また、熱収縮チューブ6の軸方向の両端部は、ホットメルト接着剤61によって支持部材2の内側円筒部21の外周面21bに接着されている。これにより、フレキシブル基板5の支持部材2に対する位置が固定されている。
【0035】
次に、磁歪式トルクセンサ1の製造方法について、図10~12を参照して説明する。磁歪式トルクセンサ1の製造方法は、支持部材2の内側円筒部21の外周にフレキシブル基板5を配置し、フレキシブル基板5の外周に熱収縮チューブ6を配置する配置工程と、熱収縮チューブ6を加熱して収縮させ、フレキシブル基板5を内側円筒部21の外周面21bに向かって締め付ける締付工程と、フレキシブル基板5が熱収縮チューブ6によって固定された支持部材2にカバー部材3及びケーブル7を組み付ける組付工程と、封止部材4をモールド成形するモールド成形工程とを有している。
【0036】
図10は、支持部材2と、支持部材2の内側円筒部21の外周に配置されたフレキシブル基板5とを、内面6aにホットメルト接着剤61が塗布された熱収縮チューブ6と共に示す斜視図である。図10では、加熱によって収縮する前の熱収縮チューブ6を支持部材2の内側円筒部21と軸方向に並べて配置した状態を示している。収縮前の熱収縮チューブ6の内径は、支持部材2の鍔部22の外径よりも大きく、支持部材2と熱収縮チューブ6との軸方向の相対移動により、熱収縮チューブ6が鍔部22の外周側を通過することが可能である。
【0037】
図11は、収縮前の熱収縮チューブ6がフレキシブル基板5の外周に配置され、配置工程が完了した状態を示す斜視図である。図12は、図11に示す状態から熱収縮チューブ6を加熱して収縮させ、フレキシブル基板5を締め付けた締付工程の完了状態を示す斜視図である。熱収縮チューブ6を加熱する方法は、特に限定されるものではないが、例えば熱風を吹きかけることや、赤外線を照射することにより、熱収縮チューブ6を加熱することができる。締付工程において加熱された熱収縮チューブ6の温度は、モールド成形工程における溶融樹脂の温度(例えば300℃)よりも低い温度である。
【0038】
カバー部材3は、モールド成形工程における溶融樹脂の熱からフレキシブル基板5及び熱収縮チューブ6を保護する機能を有している。外側円筒部31の径方向の厚みは、モールド成形工程における溶融樹脂の熱及び圧力を受けても収容空間100への溶融樹脂の流入を防ぐことができる寸法であり、例えば1.2mm以上2.7mm以下である。外側円筒部31の厚みが1.2mm未満だと、モールド成形工程に外側円筒部31が溶けて溶融樹脂が収容空間100に流入するおそれがあり、外側円筒部31の厚みが2.7mmを超えると、磁歪式トルクセンサ1が必要以上に大型化してしまうためである。
【0039】
締付工程の完了時には、フレキシブル基板5が熱収縮チューブ6によって締め付けられて支持部材2の内側円筒部21に固定されているので、ホットメルト接着剤61が固化する前であっても、直ちに組付工程及びモールド成形工程を行うことができる。
【0040】
(実施の形態の作用及び効果)
以上説明した実施の形態によれば、以下に述べる作用及び効果が得られる。
【0041】
第1乃至第4の配線層51~54の第1乃至第9のコイル511~519,521~529,531~539,541~549が配線パターンにより形成されたフレキシブル基板5が熱収縮チューブ6によって締め付けられて支持部材2の内側円筒部21に固定されるので、例えば接着剤のみによってフレキシブル基板5を内側円筒部21に固定する場合に比較して、速やかにフレキシブル基板5の固定を行うことができる。これにより、生産性を向上させることが可能となる。
【0042】
フレキシブル基板5が樹脂製の支持部材2の内側円筒部21に固定されるので、支持部材2との熱膨張率の違いに起因するフレキシブル基板5の剥離が発生しにくい。また、フレキシブル基板5が熱収縮チューブ6によって締め付けられて支持部材2の内側円筒部21に固定されるので、この締め付けによっても、フレキシブル基板5が内側円筒部21から剥がれにくい。
【0043】
フレキシブル基板5の帯状部50の短手方向の両端部が熱収縮チューブ6に覆われるので、フレキシブル基板5を気密に保持することができ、フレキシブル基板5が吸湿してしまうことを抑制できる。またさらに、熱収縮チューブ6の内側にホットメルト接着剤61が塗布されているので、より確実にフレキシブル基板5を気密に保持することができると共に、収容空間100内でフレキシブル基板5の位置がずれてしまうことを防ぐことができる。
【0044】
フレキシブル基板5が熱収縮チューブ6の外部に配置される突片部500を有し、この突片部500に第1乃至第4の端子部501~504が設けられているので、ケーブル7の第1乃至第4の電線71~74との接続を行いやすい。また、支持部材2のケーブル支持部24には、突片部500を固定するための突起245a,245bが設けられているので、より一層、第1乃至第4の電線71~74との接続を行いやすくなっている。
【0045】
支持部材2にカバー部材3が組合わされることにより、モールド成形工程においてフレキシブル基板5及び熱収縮チューブ6に溶融樹脂が接触しないので、フレキシブル基板5及び熱収縮チューブ6の熱による損傷を防ぐことができる。
【0046】
なお、熱収縮チューブ6は、透明又は半透明であることが望ましい、熱収縮チューブ6が透明又は半透明であれば、熱収縮チューブ6の外側からフレキシブル基板5の位置や姿勢を目視によって確認することができ、不良品を発見できるためである。
【0047】
(実施の形態のまとめ)
次に、以上説明した実施の形態から把握される技術思想について、実施の形態における符号等を援用して記載する。ただし、以下の記載における各符号は、特許請求の範囲における構成要素を実施の形態に具体的に示した部材等に限定するものではない。
【0048】
[1]磁歪効果を有する回転軸(8)の周囲に取り付けられ、前記回転軸(8)に付与されたトルクを検出する磁歪式トルクセンサ(1)であって、前記回転軸(8)を挿通させる筒部(内側円筒部21)を有する支持部材(2)と、前記筒部(21)の外周に配置され、複数のコイル(511~519,521~529,531~539,541~549)が配線パターンによって形成されたフレキシブル基板(5)と、前記フレキシブル基板(5)を前記筒部(21)の外周面(21b)に向かって締め付ける締付部材(熱収縮チューブ6)と、を備えた磁歪式トルクセンサ(1)。
【0049】
[2]前記締付部材(6)は、加熱によって収縮する筒状の熱収縮チューブ(6)である、上記[1]に記載の磁歪式トルクセンサ(1)。
【0050】
[3]前記フレキシブル基板(5)は、前記複数のコイル(511~519,521~529,531~539,541~549)が長手方向に並んで形成された帯状部(50)を有し、前記帯状部(50)における短手方向の両端部が前記締付部材(6)に覆われている、上記[1]又は[2]に記載の磁歪式トルクセンサ(1)。
【0051】
[4]前記締付部材(6)の内面(6a)にホットメルト接着剤(61)が塗布されている、上記[3]に記載の磁歪式トルクセンサ(1)。
【0052】
[5]前記フレキシブル基板(5)は、前記帯状部(50)から短手方向に延出されて前記締付部材(6)の外部に配置された突片部(500)を有し、前記突片部(500)に複数の端子部(501~504)が設けられており、前記複数の端子部(501~504)にそれぞれ接続された複数の電線(71~74)を有するケーブル(7)を備えた、上記[3]又は[4]に記載の磁歪式トルクセンサ(1)。
【0053】
[6]前記支持部材(2)には、前記ケーブル(7)を支持するケーブル支持部(24)が前記筒部(21)から径方向外方に突出して設けられており、前記ケーブル支持部(24)に、前記突片部(500)を固定する固定部(突起245a,245b)が設けられている、上記[5]に記載の磁歪式トルクセンサ(1)。
【0054】
[7]前記支持部材(2)の前記筒部(21)との間に前記フレキシブル基板(5)を収容する収容空間(10)を形成するカバー部材(3)と、前記支持部材(2)及び前記カバー部材(3)のそれぞれの少なくとも一部を覆うように成形されたモールド樹脂からなる封止部材(4)とを備え、前記カバー部材(3)によって前記フレキシブル基板(5)及び前記締付部材(6)に前記モールド樹脂が接触しないように構成されている、上記[1]乃至[6]に記載の磁歪式トルクセンサ(1)。
【0055】
[8]上記[2]に記載の磁歪式トルクセンサ(1)の製造方法であって、前記支持部材(2)の前記筒部(21)の外周に前記フレキシブル基板(5)を配置し、前記フレキシブル基板(5)の外周に前記熱収縮チューブ(6)を配置する配置工程と、前記熱収縮チューブ(6)を加熱して収縮させ、前記フレキシブル基板(5)を前記筒部(21)の外周面(21b)に向かって締め付ける締付工程と、を有する磁歪式トルクセンサ(1)の製造方法。
【0056】
(付記)
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上記に記載した実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【0057】
また、本発明は、適宜変形して実施することが可能である。例えば、上記の実施の形態では、磁歪式トルクセンサ1がカバー部材3及び封止部材7を有する場合について説明したが、磁歪式トルクセンサが設置される部位の環境によっては、カバー部材3及び封止部材7がなくてもよい。また、上記の実施の形態では、締付部材が熱収縮チューブ6である場合について説明したが、これに限らず、フレキシブル基板5を締め付けることが可能な部材であれば、例えば円筒状の弾性体を締付部材として用いてもよく、帯状の樹脂からなる基材の一方面に粘着層が形成された粘着テープを用いてもよい。
【符号の説明】
【0058】
1…磁歪式トルクセンサ 100…収容空間
2…支持部材 21…内側円筒部
21b…外周面 24…ケーブル支持部
3…カバー部材 31…外側円筒部
4…封止部材 5…フレキシブル基板
50…帯状部 500…突片部
501~504…第1乃至第4の端子部
511~519,521~529,531~539,541~549…コイル
6…熱収縮チューブ 61…ホットメルト接着剤
7…ケーブル 71~74…第1乃至第4の電線
8…回転軸
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図8
図9
図10
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図12